(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】ラスト、ラストの製造方法、シューズアッパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A43D 3/02 20060101AFI20220818BHJP
A43D 1/02 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
A43D3/02
A43D1/02
(21)【出願番号】P 2020084990
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2019229047
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】別所 亜友
(72)【発明者】
【氏名】谷口 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】高島 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】小塚 祐也
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第209106400(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0033750(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0237964(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0317610(US,A1)
【文献】中国実用新案第207444401(CN,U)
【文献】米国特許第01565057(US,A)
【文献】国際公開第2017/078168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43D 1/02-3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズアッパーを成形するためのラストであって、
前記ラストは、少なくとも外周部分につき複数のブロックの集合体を備え、
前記複数のブロックの集合体には、同一形状の
任意配置可能な複数のブロックが含まれ、
前記複数のブロックの各々は結合及び
、単体のブロック、または、複数のブロックが連結した固まりに分解可能である、ラスト。
【請求項2】
前記ラストは内部が中空である、請求項1に記載のラスト。
【請求項3】
前記ラストは、芯材としてあらかじめ形成された中心部と、前記中心部の前記外周部分に形成された前記複数のブロックの集合体よりなる周辺部と、を備える、請求項1または2に記載のラスト。
【請求項4】
前記ラストの前記外周部分に位置する前記複数のブロックの各々は、少なくとも外周面が前記ラストの他の部分に位置するブロックに比べて伝熱性の高い材料から形成されている、請求項1~3のいずれかに記載のラスト。
【請求項5】
前記複数のブロックは、複数の異なる形状を有しており、
前記複数のブロックの各々は、各々が有している形状を外部から識別するための識別部を有する、請求項1~4のいずれかに記載のラスト。
【請求項6】
前記複数のブロックは、複数種類の異なる大きさを有しており、
相対的に大きなブロックは内側に、相対的に小さなブロックは外側に配置されている、請求項1~5のいずれかに記載のラスト。
【請求項7】
前記複数のブロックの各々は、内部が中空である、請求項1~6のいずれかに記載のラスト。
【請求項8】
前記外周部分における前記複数のブロックの集合体の少なくとも一部が、シート状または板状のカバー部により外方から覆われている、請求項1~7のいずれかに記載のラスト。
【請求項9】
前記シューズアッパーの下部を成形するための板状のベース部の上方に、前記複数のブロックの集合体が備えられた、請求項1~8のいずれかに記載のラスト。
【請求項10】
シューズアッパーを成形するためのラストの製造方法であって、
前記ラストは、同一形状の
任意配置可能な複数のブロックが含まれるように、
単体のブロック、または、複数のブロックが連結した固まりを結合させて集合体とすることにより形成される
ものであって、
前記集合体は、前記単体のブロック、または、前記複数のブロックが連結した固まりに分解可能である、ラストの製造方法。
【請求項11】
ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、前記ユーザの足型データからブロック結合データを生成するデータ生成工程と、前記ブロック結合データに基づき前記複数のブロックの各々を結合させるラスト形成工程と、を備える、請求項10に記載のラストの製造方法。
【請求項12】
前記ブロック結合データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成される、請求項11に記載のラストの製造方法。
【請求項13】
前記ユーザの足型データは、ユーザの足を撮影した画像データから生成される、請求項12に記載のラストの製造方法。
【請求項14】
使用後の前記ラストを
単体のブロック、または、複数のブロックが連結した固まりに分解する分解工程をさらに含む、請求項10~13のいずれかに記載のラストの製造方法。
【請求項15】
シューズアッパーの製造方法であって、
熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパーを、請求項1~9のいずれかに記載のラストにかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパーを前記ラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を備える、シューズアッパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズアッパーを成形するためのラスト、また、当該ラストの製造方法とシューズアッパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの足に合わせたオーダーメイドのシューズを作製する際、ラストはユーザ専用のものであるので、ラストを用いてシューズアッパーを成形し、シューズを作製した後には、将来のために保管しておく場合を除いて、そのラストは不要となる。
【0003】
米国特許出願公開第2018/0014609号明細書には、可搬型のハウジング内で履物を製造することが開示されている。米国特許出願公開第2016/0206049号明細書には、形状記憶ポリマーにより再成形できるラストプリフォームが開示されている。中国特許第109732913号明細書には、3Dプリントによりラストを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0014609号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0206049号明細書
【文献】中国特許第109732913号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記各文献には、不要となったラストをリユースすることについて具体的及び明示的な開示はない。
【0006】
そこで、本発明は、リユース可能なラスト、ラストの製造方法、シューズアッパーの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シューズアッパーを成形するためのラストであって、前記ラストは、少なくとも外周部分につき複数のブロックの集合体を備え、前記複数のブロックの各々は結合及び分離可能である、ラストである。
【0008】
また本発明は、シューズアッパーを成形するためのラストの製造方法であって、前記ラストは、複数のブロックを結合させて集合体とすることにより形成される、ラストの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の一実施形態に係るラストに関し、足型データを得るためにユーザの足を撮影している様子を示す。
【
図1B】前記ラストの概略的な構成を示す斜視図である。
【
図1C】前記ラストを分解した複数のブロックのうち一部を示す。
【
図2A】前記ラストの概略的な構成を示す平面側の斜視図である。
【
図2B】前記ラストの概略的な構成を示す底面側の斜視図である。
【
図3A】ブロックの構成の一例を示す斜視図である。
【
図3B】ブロックの構成の一例を示す縦断面図である。
【
図3C】他の形状であるブロックの例をいくつか示した斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るものとして、内部に中空部分を設けたラストの概略的な構成を示す、底面側の斜視図である。なお、見やすくするため、底面部分を濃く着色し、中空部分の内面を薄く着色している。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るものとして、中心部と周辺部とを設けたラストの概略的な構成を示す縦断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るものとして、中心部と周辺部とを設けたラストであって、前後で分割したものの概略的な構成を示す縦断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るラストとして、大きなブロックと小さなブロックとを組み合わせたものを部分的に示す側面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るラストとして、複数のブロックの集合体に対してカバー部を設ける要領を示す斜視図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係るラストとして、ベース部と複数のブロックの集合体との組み合わせの概略的な構成を示す側面図である。
【
図10】成形前アッパーを前記ラスト(ただし、形状は略示)にかぶせ、加熱箱の内部でスチーム加熱されている状態を示す側面図である。
【
図11】前足部分(実線で示す)と人体における足の骨格(二点鎖線で示す)との関係を示す、側方から見た場合の図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係るラストを示す斜視図である。
【
図13A】
図12のラストを構成する、環状とされた複数のビーズの集合体を示す斜視図である。
【
図13C】前記ビーズの他の形態の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明につき、実施形態を図面とともに例示する。以下の説明における「内外方向」とは、シューズ着用者の足に向かう方向が「内方」であり、シューズの外部に向かう方向が「外方」である。また、以下で成形前後のシューズアッパー2について説明する際には、区別のために成形前アッパー2Aや成形後アッパー2Bとも表示することがある。
【0011】
本実施形態のラスト(靴型)1は、主に、大量生産品のシューズ用のラストではなく、ユーザの足Fに合わせたオーダーメイドのラスト1である。ただし本発明は、大量生産品のシューズ用のラストへの適用を完全に否定するものではなく、適用も可能である。このラスト1は、シューズを扱う店舗で製造することもできるし、後述のようにブロック結合データや足型データを通信手段により送受信することにより、店舗から離れた工場で製造することもできる。本実施形態のラスト1は、
図2A、
図2Bに示すように、少なくとも外周部分(シューズアッパー2の成形時に当該シューズアッパー2に触れる部分)につき、複数のブロック11…11の集合体を備える。本実施形態では、ラスト1において、複数のブロック11…11の集合体よりなる本体部12が形成されている。複数のブロック11…11の集合体は、人の手やロボットハンドによって、複数のブロック11…11が結合されることで形成される。なお、シューズアッパー2は例えば布製であり、本実施形態では、熱収縮性を有する繊維シートよりなる布が用いられている。
【0012】
本実施形態のブロック11は、
図1Cや
図3Aに示すように立方体形状であって、複数のブロック11…11の各々が同一形状とされている。ブロック11の材質は特に限定されず、金属、磁性体、樹脂、セラミック、木材、紙材等の種々の材質とできる。ブロック11は中実であってもよいが、複数のブロック11…11が集合してなるラスト1を軽量化するとの観点で、例えば、
図3Bに示すように内部を中空とすることができる。材質が同じである場合、中実に比べて中空である方がブロック11単体の重量を低減できる。ブロック11は本実施形態のような立方体形状に限定されず、直方体形状(
図7参照)、四角錐台形状、楔形状(断面三角形の形状)、また、
図3Cに示すような湾曲面を有する形状とすることができる。この湾曲面を有する形状を有するブロック11は、ラスト1における最外部に配置し、本体部12の外周面を滑らかに仕上げるのに適している。こうすることで、ラスト1の表面に湾曲面を形成できる。なお、一つのブロック11の上方に他のブロック11を積載していけるように、積載に際して両ブロック11,11が当接する面は、例えば平面等、積載に支障のない面であることが望ましい。ちなみに、複数のブロック11…11の配置は、隙間なく並べていくことに限られず、隙間を保ちつつ複数のブロック11…11を配置してもよい。この隙間は、ラスト1の最外部に設けてもよい。
【0013】
複数のブロック11…11の各々は結合及び分離可能とされている。結合手段は種々の手段を用いることができ、例えば、凹凸嵌合手段や磁石を用いることができる。また、
図12及び
図13Aに示すように、複数のブロック11…11としての複数のビーズ11a…11aを環状とする結合手段としてワイヤー113を用いることができる。
図3Aに示した例では、立方体形状の各面に凹凸嵌合手段111を設けている(他図では図示省略)。凹凸嵌合手段111としては、例えば図示のように、立方体形状の表面から突出した凸部111aと、立方体形状の表面に設けた貫通穴等の凹部111bの組み合わせとできる。隣り合うブロック11,11のうち一方の凸部111aが他方の凹部111bに嵌合することで、両ブロック11,11を結合させられる。また図示はしないが、磁石を用いる場合、隣り合うブロック11,11で対向する位置に設けられる磁石の極性は、磁石同士が吸着するように逆にしておく必要がある。または、一方側のブロック11に磁石を設け、他方側のブロック11にこの磁石が吸着する磁性体(鋼材)を設けておく必要がある。
【0014】
複数のブロック11…11の各々は、少なくとも外周面が伝熱性の高い材料から形成されることができる。例えば、外周面を金属(アルミ合金等)が露出した面とできる。この場合、金属素材の表面が外周面に露出していてもよいし、めっきやコーティングにより、外周面に金属層を形成してもよい。このようにすることで、特に熱収縮性を有するシューズアッパー2を成形する場合、ラスト1の本体部12に、後述のようにカバー部15を設けた場合を除き、シューズアッパー2に直接触れる部分である、外周面が伝熱性の高い材料から形成されていることで、シューズアッパー2に熱を伝えやすい。
【0015】
また、複数のブロック11…11は、複数の異なる形状を有していてもよい。この場合、複数のブロック11…11は、例えば
図7に示すように、複数種類の異なる大きさを有している。これらのうち、相対的に大きなブロックは本実施形態では、長い直方体形状のブロック11L1、短い直方体形状のブロック11L2、立方体形状のブロック11L3の3種類が用いられている。なお、種類の数は特に限定されず、2種類以上(相対的に大きなブロックと相対的に小さなブロックが各々1種類以上)であればよい。組み合わされる個々のブロック11の形状も特に限定されない。図示のように、相対的に大きなブロック11L1~11L3は内側に、相対的に小さなブロック11Sは本体部12の外側に配置することができる。こうすることで、大きなブロック11L1~11L3により内側で大まかな成形をした上で、小さなブロック11Sにより外側で細かい成形が可能である。よって、例えば全部小さなブロック11Sで成形を行う場合に比べ、効率的な成形が可能である。また、小さなブロック11Sを外側に配置することで、大きなブロック11L1~11L3に比べ、ラスト1に微細な造形を施すことができる。
【0016】
複数のブロック11…11が複数の異なる形状を有している場合の他の例として、ユーザによって形状の差が表れやすい足の前足部分に対応する部分に相対的に小さなブロック11Sを配置し、それ以外の部分に相対的に大きなブロック11L1~11L3を配置することができる。また、ラスト1においてシューズアッパー2の履き口と一致する部分の周辺に、相対的に小さなブロック11Sを配置し、それ以外の部分に相対的に大きなブロック11L1~11L3を配置してもよい。これらの例において、前記したような相対的に大きなブロック11L1~11L3は内側に、相対的に小さなブロック11Sは本体部12の外側に配置することと組み合わせてもよい。
【0017】
ここで前記「前足部分」とは、人体の足の骨格にて、
図11において囲まれた部分、つまり、指骨の基節骨B1(小指については中節骨B2)から距骨B3及び踵骨B4のうち前部までの範囲であって、着用時にシューズアッパー2において着用者の骨格のうち前記範囲が一致する部分を指す。この前足部分FPは、着用感や着用時における着用者の運動能力に与える影響が大きい重要な部分である。従って、前足部分FPの形状を相対的に小さなブロック11Sを配置して形成することで、前記影響に対応した大きな効果を得ることができる。また、前記「履き口」とは、シューズにおいて着用者の足が通される開口部のことである。この履き口も、着用者の着用感に与える影響が大きい重要な部分である。従って、履き口部分の形状を相対的に小さなブロック11Sを配置して形成することで、前記影響に対応した大きな効果を得ることができる。
【0018】
また、複数のブロック11…11が複数の異なる形状を有している場合、各ブロック11は、
図3に示すように、各々が有している形状を外部から識別するための識別部112を有することができる。各ブロック11が識別部112を有することで、ブロック11の形状(大きさも含む)ごとの仕分けや、同じ形状のブロック11を結合させることが容易となる。また、識別部112により、例えばブロック11において積載をなす面がどちらを向いているか等、ブロック11の姿勢を認識することができる。識別部112は、例えばICチップや2次元コードが挙げられる。更に、画像認識(人の目視による認識、または機械認識)可能な色彩、表面の模様、部分的な形状変化(凹凸、切欠、貫通穴等)であってもよい。
【0019】
以上のように構成されたラスト1では、シューズアッパー2の成形後、集合体を分解して単体のブロック11の状態に戻すことができる。その後、再度複数のブロック11…11の集合体を組むことができる。このため、ラスト1のリユースが可能である。なお、分解の際、ブロック11の単体まで分解することは必須ではなく、複数のブロック11…11が連結した固まりの状態までの分解であってもよい。
【0020】
また、ラスト1は中実であってもよいが、
図4または
図5に示すように、内部が中空であることが望ましい。中空とする場合、ラスト1における空洞状の内部空間1aを囲むように、複数のブロック11…11の集合体よりなる本体部12が形成される。
図4または
図5に示した例では、内部空間1aが底面側に開口しているが、これに限られず、内部空間1aの全周が複数のブロック11…11に囲まれたことにより、閉鎖されていてもよい。中空であっても、本体部12の厚みを設定することで強度を確保できるため、機能上問題はない。ラスト1を中空とすると、ラスト1の中心にブロック11を配置させなくてもよいので、ラストが備えるブロック11の数量を内部の容積分減少させられる。このため、材料を節約できる。また、ラスト1の形成に要する時間(成形時間)を短縮できる。また、ラスト1の軽量化をはかることができるので、ラスト1を取り扱いやすい。このように種々のメリットがある。
【0021】
また、ラスト1は、
図5に示すように中心部13と周辺部14とを備えることもできる。中心部13は、ラスト1の芯材としてあらかじめ形成された部分である。中心部13は中実であっても中空であってもよい。
図5に示すように中空とした場合は、ラスト1の軽量化をはかることができる。周辺部14は、中心部13の外周部分に形成された部分である。周辺部14は複数のブロック11…11の集合体よりなる。つまり、この構成は、前記構成における内部空間1aに中心部13が位置したものである。このようにラスト1を構成することで、前記構成と同じく、ラスト1が備える複数のブロック11…11の数量を内部の容積分減少させられるため、ラスト1の形成に要する時間(成形時間)を短縮できる。また、中実でラスト1全体が均一に形成された構成に比べ、ブロック11の使用量を減らすことができる。また、工場でシューズを製造する場合、芯材である中心部13を用いることで、工場内で長期に保管しておく部分が、ラスト1よりも一回り小さな中心部13だけになる。このため、ラスト1全体を保管することに比べ、所定スペース当たりで保管数を増加させることができ、保管スペースを節約できる。また、大きさの異なるラスト1でも、中心部13の形状(大きさ)は統一できるので、大きさ別に保管する必要がなくなる。つまり、シューズ着用者の体格を問わず、共通する体積を有する部分を中心部13とすることで、シューズ着用者に関係なく中心部13の形状(大きさ)を統一できる。
【0022】
なお、中心部13は
図5に示したように固定的な形状であってもよいし、例えばシューツリー(日本では「シューキーパー」と呼ばれることもある)のように、ねじ等を有することにより前後方向(長手方向)の寸法が調整可能なよう構成されていてもよい。具体的には、
図6に示すように中心部13を、シューズ着用時の前後方向基準で前方に設けられた前部13aと、後方に設けられた後部13bとに分離して構成できる。そしてこれらを、前記前後方向に伸長及び短縮して所望の長さで固定可能なように、ねじやバネ等を備えた軸部材13cを前部13aと後部13bとに挟まれた部分に設ける構成とすることができる。これにより、ラスト1における本体部12が前足部12aと後足部12bとに分離される。前足部12aと後足部12bとの間の部分(中足部)は、図示のように軸部材13cだけが存在していて、ブロック11の設けられない空間となっていてもよいし、軸部材13cの伸長状態または短縮状態を固定した後に複数のブロック11…11を設けてもよい。
【0023】
ラスト1が中心部13を備える場合、周辺部14は、中心部13に比べて伝熱性の高い材料で形成されることができる。例えば、周辺部14を構成する複数のブロック11…11を金属製(アルミ合金製等)とし、中心部13を耐熱性樹脂(例えば200℃以上の耐熱性を有する樹脂)とできる。このように構成することで、加熱によるシューズアッパー2の成形時(
図10参照)に、ラスト1の周辺部14も加熱されることにより、ラスト1の側からもシューズアッパー2を加熱できる(つまり、成形前アッパー2Aは内外両方から加熱されることとなる)。よって、外部からのみ加熱する場合に比べて加熱時間を短縮でき、効率よく(短時間で)シューズアッパー2を成形することができる。
【0024】
また、外周部分における複数のブロック11…11の集合体の少なくとも一部が、シート状または板状のカバー部15により外方から覆われていてもよい。カバー部15の材質は特に限定されず、例えばブロック11と同一の材質とできる。カバー部15は、例えば
図8に示すように湾曲面を有する形状とできる。このようなカバー部15を本体部12に取り付けることにより、複数のブロック11…11の集合体が有するブロック11由来の段差を埋めることができる。つまり、カバー部15によって、ラスト1の外周形状を整えることができる。このため、シューズアッパー2を所望の形状に成形できる。カバー部15は、単一のまとまった部分であってもよいし、複数が組み合わされて一体とされていてもよい。
【0025】
また、
図9に示すように、ラスト1が板状のベース部16を備え、ベース部16の上方に、複数のブロック11…11の集合体が備えられていてもよい。このベース部16は、シューズアッパー2の下部を成形するために機能する。ベース部16を用いることで、ラスト1の底面側に複数のブロック11…11の集合体が露出している形態に比べ、シューズアッパー2の下部が一定形状に成形される。よって、シューズアッパー2の下部をソールの形状(具体的にはソール上面の形状)に合わせて所望の形状に成形できる。また、ソールの形状に合わせてシューズアッパー2の下部を形成するためには、ラスト1の下部(下面)の形状は自ずと定まる。このため、ラスト1の下部を複数のブロック11…11を並べて形成するよりも、例えば1枚にまとまったベース部16を用いた方が、ラスト1を効率的に形成できる。
【0026】
図9は、ベース部16を備えたラスト1の構成をごく単純化して図示したものであり、ベース部16の形態は図示した形態に限定されない。ミッドソール上面の形状に沿わせるようにシューズアッパー2を成形するため、プレート形状は、平板状であるよりも、比較的複雑な形状となることが通常である。このためベース部16は、例えば、上面にブロック11を一体で備えるため、表面に凹凸があってもよい。また、ベース部16の底面に関しては、平面であることよりも、凹凸を有する面や湾曲面とであることが通常である。
【0027】
次に、ラスト1の製造方法について説明する。ラスト1は、複数のブロック11…11を結合させて集合体とすることにより形成される。これにより、例えば樹脂材料でラストを形成する場合と比較して、成形型を用いずに容易にラスト1を形成することができる。
【0028】
ラスト1を形成する前段階として、ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、取得したユーザの足型データからブロック結合データを生成するデータ生成工程とが実施される。そして、生成されたブロック結合データに基づき複数のブロック11…11の各々を結合させるラスト形成工程が実施される。これらの工程を経ることにより、ユーザの足Fに合わせた、オーダーメイドのラスト1を形成できる。
【0029】
前記ブロック結合データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成される。このようにブロック結合データを作成することで、シューズアッパー2のユーザごとのきめ細かなカスタマイズが可能となる。ブロック結合データには、ブロック11をどのように積層していくかの情報が含まれる。また、形状(大きさも含む)の異なる複数のブロック11…11を用いる場合、ブロック結合データには、どの形状(大きさ)のブロック11をラスト1のどの部分に配置するかの情報が含まれる。
【0030】
ラスト形成工程は、人の手やロボットハンドによって、複数のブロック11…11が結合されることで行われる。特にロボットハンドによって行われる場合、各ブロック11が識別部112をセンサやカメラが読み取ることで、ロボットハンドの制御を行う制御部が、取り扱うブロック11がどのような形状(大きさ)を有しているか、また、ブロック11の姿勢を認識する。また、
図8に示すようにカバー部15を設ける場合、このラスト形成工程で、複数のブロック11…11の集合体の少なくとも一部を覆うようにカバー部15が取り付けられる。また、
図9に示すようにベース部16を設ける場合、このラスト形成工程で、ベース部16の上方に、複数のブロック11…11の集合体を形成していく。
【0031】
前記ユーザの足型データは、例えば、
図1Aに示すようにユーザの足Fを撮影して得られた画像データから生成された、ユーザの足Fの各部の採寸データである。このため、例えばデジタルカメラやスマートフォンP(
図1A参照)を用いて、容易に足型データを生成できる。例えばスマートフォンPの場合、あらかじめインストールされているソフトウェアにより、画像データを基に足型データを生成できる。また、撮影された画像データと、シューズメーカーが有するサーバ内のデータの両方を用いて演算することにより足型データを作成することもできる。
【0032】
なお、前記画像データは、例えばユーザの自宅やユーザが訪問した店舗(販売店舗)で撮影できる。この場合、画像データをシューズメーカーのサーバに送信し、シューズメーカーの工場で足型データを生成し、引き続いてこの工場でラスト1及びシューズを製造することができる。また、前記画像データを店舗で撮影し、この店舗でそのままラスト1及びシューズを製造することもできる。もちろん、ラスト1とシューズを別個の場所で製造することもできる。また、店舗は固定的な店舗に限られず、自動車やトレーラを用いた移動店舗であってもよい。
【0033】
ラスト1がシューズアッパー2の成形に用いられて不要になった後、分解工程が実施される。分解工程では、使用後のラスト1を構成していた複数のブロック11…11の集合体を個々のブロック11に分解するか(
図1C参照)、または、前記集合体よりもブロック11の数量の少ない、小単位の集合体に分解する。分解工程は、人の手で行うこともできるし、ロボットアームで行うこともできる。また、複数のブロック11…11の集合体に対して打撃を行ったり、各ブロック11が磁石を有する場合に消磁を行ったりすることにより、ブロック11の結合状態を解除できる装置を利用することもできる。このように分解工程を実施することで、分解された複数のブロック11…11または前記小単位の集合体を再利用して新しいラスト1を製造できる。よって、使用後のラスト1を、他のユーザ用のラスト1としてリユースできる。
【0034】
次に、前記ラスト1を用いたシューズアッパー2の製造方法について簡単に説明する。例えば、熱収縮糸を含む繊維シートからなるシューズアッパー2の材料(成形前アッパー2A)を用意する。そして、この成形前アッパー2Aを、前記ラスト1にかぶせる第1成形工程と、
図10に示すように、加熱により成形前アッパー2Aをラスト1の形状に沿わせて成形後アッパー2Bとする第2成形工程を実施する。第2成形工程において用いられる加熱手段はスチーム加熱である。
図10に略示したように、例えば成形前アッパー2Aが加熱箱31の内部に収納され、加熱箱31の内面から放出される高温の蒸気32により加熱がなされる。このスチーム加熱により、成形前アッパー2Aの全体を均一に加熱することができる。このため、成形前アッパー2Aをラスト1に合わせて均一に変形させ、成形後アッパー2Bとすることができる。なお第2成形工程では、スチーム加熱のほか熱風加熱、温水加熱等を用いることもできる。また、成形前アッパー2Aに対する加熱を全体ではなく部分的に行うこともできる。
【0035】
第2成形工程の後、ソール取付工程が実施される。このソール取付工程では、成形後アッパー2Bが別に作製されたソールに、例えば接着により取り付けられる。なお、接着以外に、熱融着等によって第2成形工程と同時にソール取付工程を実施することもできる。この場合、ラスト1の中心部13を伝熱性の高い材料(例えば、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属)で形成しておけば、熱溶着を効率的に行うことができる。なお、シュータンの形成、履き口の加工、シューレース(靴紐)を通すためのハトメの取り付け、装飾部材やタグの取り付け、ロゴのプリント、インソール(中敷)の取り付けを前記各工程中、または全工程終了後に適宜行うことができる。
【0036】
ここで、本発明の実施形態に係る構成と奏する作用につきまとめる。本実施形態は、シューズアッパー2を成形するためのラスト1であって、前記ラスト1は、少なくとも外周部分につき複数のブロック11…11の集合体を備え、前記複数のブロック11…11の各々は結合及び分離可能である、ラスト1である。
【0037】
この構成によれば、シューズアッパー2の成形後は、集合体を分解して単体のブロック11の状態に戻すことができることから、リユースが可能である。
【0038】
また、前記ラスト1は内部が中空であるものとできる。
【0039】
この構成によれば、ラスト1が備える複数のブロック11…11の数量を内部の容積分減少させられるため、ラスト1の成形時間を短縮できる。
【0040】
また、前記ラスト1は、芯材としてあらかじめ形成された中心部13と、前記中心部13の前記外周部分に形成された前記複数のブロック11…11の集合体よりなる周辺部14と、を備えるものとできる。
【0041】
この構成によれば、ラスト1が備える複数のブロック11…11の数量を減少させられるため、ラスト1の成形時間を短縮できる。
【0042】
また、前記複数のブロック11…11の各々は、少なくとも外周面が伝熱性の高い材料から形成されているものとできる。
【0043】
この構成によれば、特に熱収縮性を有するシューズアッパー2を成形する場合、シューズアッパー2に熱を伝えやすい。
【0044】
また、前記複数のブロック11…11は、複数の異なる形状を有しており、前記複数のブロック11…11の各々は、各々が有している形状を外部から識別するための識別部112を有するものとできる。
【0045】
この構成によれば、ブロック11の形状ごとの仕分けや、同じ形状のブロック11を結合させることが容易である。
【0046】
また、前記複数のブロック11…11は、複数種類の異なる大きさを有しており、相対的に大きなブロック11L1~11L3は内側に、相対的に小さなブロック11Sは外側に配置されているものとできる。
【0047】
この構成によれば、大きなブロック11L1~11L3により内側で大まかな成形をした上で、小さなブロック11Sにより外側で細かい成形が可能である。
【0048】
また、前記複数のブロック11…11の各々は、内部が中空であるものとできる。
【0049】
この構成によれば、ラスト1を軽量化できる。
【0050】
また、前記外周部分における前記複数のブロック11…11の集合体の少なくとも一部が、シート状または板状のカバー部15により外方から覆われているものとできる。
【0051】
この構成によれば、ラスト1の外周形状をカバー部15によって整えることができる。
【0052】
また、前記シューズアッパー2の下部を成形するための板状のベース部16の上方に、前記複数のブロック11…11の集合体が備えられたものとできる。
【0053】
この構成によれば、ベース部16を用いることで、シューズアッパー2の下部が一定形状に成形される。
【0054】
また、本実施形態は、シューズアッパー2を成形するためのラスト1の製造方法であって、前記ラスト1は、複数のブロック11…11を結合させて集合体とすることにより形成される、ラスト1の製造方法である。
【0055】
この構成によれば、成形型を用いずに容易にラスト1を形成することができる。
【0056】
また、前記ラスト1の製造方法は、ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、前記ユーザの足型データからブロック結合データを生成するデータ生成工程と、前記ブロック結合データに基づき前記複数のブロック11…11の各々を結合させるラスト形成工程と、を備えるものとできる。
【0057】
この構成によれば、ユーザの足に合わせたラスト1を形成できる。
【0058】
また、前記ブロック結合データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成されるものとできる。
【0059】
この構成によれば、シューズアッパー2のユーザごとのカスタマイズが可能となる。
【0060】
また、前記ユーザの足型データは、ユーザの足Fを撮影した画像データから生成されるものとできる。
【0061】
この構成によれば、例えばデジタルカメラやスマートフォンPを用いて、容易に足型データを生成できる。
【0062】
また、使用後の前記ラスト1を複数のブロック11…11に分解する分解工程をさらに含むものとできる。
【0063】
この構成によれば、使用後のラスト1を、他のユーザ用のラスト1としてリユースできる。
【0064】
また、本実施形態は、シューズアッパー2の製造方法であって、熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパーを、前記ラスト1にかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパーを前記ラスト1の形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を備える、シューズアッパー2の製造方法である。
【0065】
この構成によれば、リユース可能なラスト1によりシューズアッパー2の製造が可能となる。
【0066】
以上、本発明につき実施形態を取り上げて説明してきたが、この説明はあくまでも例示に過ぎない。本発明に係るラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法は、前記実施形態に限定されない。このため、本発明に係るラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。前記変更には、例えば、前記実施形態を構成する複数の要素の一部入れ替えや一部省略、また、別々の例に属する要素を適宜組み合わせることが含まれる。また、ラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法に関して技術常識に属する事項を組み合わせることも含まれる。
【0067】
例えば、各ブロック11を、
図13Bに示すように貫通穴114を有する円柱状のビーズ11aとしたり、
図13Cに示すように貫通穴114を有する球状のビーズ11bとしたりすることもできる。例えば円柱状のビーズ11aは、複数が貫通穴114を通されたワイヤー113でまとめられて、
図13Aに示すように環状体17とされる。ワイヤー113は、例えば針金のように、形状を保持できる索状体であってもよいし、糸のような柔軟な索状体であってもよい。
【0068】
図12に示すように、ラスト1の各部に合わせた形状とされた複数の環状体17…17が組み合わされてラスト1が形成される。
図12の例では、後部が一定形状とされ、前部に環状体17を外周に巻き付けることのできる土台部18を用いている。このような土台部18と各ブロック11(ここでは各ビーズ11a)とを組み合わせることにより、ラスト1の特定の部位につき、ユーザの足Fの形状に対応したラスト1を形成しやすい。また、図示しないが、後部(ユーザの足Fの踵に相当する部分)に環状体17を巻き付けてもよく、また、ラスト1全体に環状体17を巻き付けてもよい。
【0069】
また、ラスト1は、全体でユーザの足Fの形状と同一の形状に形成されてもよいが、デザインや機能上の理由により、特定の部位については、所望の寸法分、ユーザの足Fの形状に対して異なる形状としてもよい。
【0070】
また、シューズアッパー2の製造方法は、前記実施形態のように、熱収縮糸を含む繊維シートの加熱収縮による方法に限定されるものではなく、例えば、ラスト1の周囲にて生地を編み込むことや、3Dプリンタを用いて材料を積層するなど、種々の方法を採用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 ラスト
11 ブロック
11L1 相対的に大きなブロック
11L2 相対的に大きなブロック
11L3 相対的に大きなブロック
11S 相対的に小さなブロック
111 結合手段、凹凸嵌合手段
112 識別部
12 本体部
13 中心部
14 周辺部
15 カバー部
16 ベース部
1a 内部空間
2 シューズアッパー
2A 成形前アッパー
2B 成形後アッパー
31 加熱箱
32 蒸気
F ユーザの足
P スマートフォン