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特許7125979異所性骨化の治療又は予防のための医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】異所性骨化の治療又は予防のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220818BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220818BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220818BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20220818BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20220818BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20220818BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P21/00
A61P35/00
A61P25/00
C07K16/40
C12N9/12
C12Q1/6827 Z
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020505007
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008319
(87)【国際公開番号】W WO2019172165
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018039066
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 岳信
(72)【発明者】
【氏名】塚本 翔
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 桂吾
(72)【発明者】
【氏名】辻 真之介
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121908(WO,A1)
【文献】CARVALHO, D.et al.,Preclinical efficacy of ALK2 inhibitors in ACVR1 mutant DIPG.,Neuro-Oncology,2016年11月07日,18(suppl_6),vi154,PDTB-20
【文献】HOEMAN,C.et al.,R206H ACVR1 significantly accelerates diffuse intrinsic pontine glioma pathogenesis.,Neuro-Oncology,2016年11月07日,18(suppl_6),vi213,TMOD-30
【文献】COCKLE,J.V.et al.,Cell migration in paediatric glioma; characterisation and potential therapeutic targeting.,British Journal of Cancer,2015年,112,p.693-703
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異所性骨化を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、
前記方法が、(a)患者のアクチビン様キナーゼ2(ALK2)の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;(c)患者のALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がないことを確認する工程;及び(d)選別された患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含み、
前記患者が異所性骨化の原因であるALK2蛋白質の活性化型変異を有し、かつ前記ALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンであり、並びに、
前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片である、
ことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記ALK2がG328V変異を有していない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記工程(c)がさらに、患者のALK2がG328V変異を有していないことを確認する工程を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記工程(c)がさらに、ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異を有する患者を除外する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記工程(c)がさらに、ALK2のG328V変異を有する患者を除外する工程を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の21番目~123番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドに特異的に結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の38番目のグルタミン酸、39番目のグリシン、59番目のイソロイシン、60番目のアスパラギン、61番目のアスパラギン酸、62番目のグリシン、63番目のフェニルアラニン、64番目のヒスチジン、65番目のバリン、66番目のチロシン、102番目のアスパラギン、104番目のトレオニン、106番目のグルタミン、及び107番目のロイシンの各残基を含むエピトープ、又は、
(ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の38番目のグルタミン酸、39番目のグリシン、40番目のロイシン、59番目のイソロイシン、60番目のアスパラギン、61番目のアスパラギン酸、62番目のグリシン、63番目のフェニルアラニン、64番目のヒスチジン、65番目のバリン、66番目のチロシン、及び104番目のトレオニンの各残基を含むエピトープ、
に結合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、請求項7に記載の抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片とALK2への結合に対し競合する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、又はF(ab’)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖配列が、CDRH1、CDRH2、CDRH3を有する可変領域を含み、前記CDRH1、CDRH2、及びCDRH3はそれぞれ、
配列番号5、配列番号6、及び配列番号7;
配列番号11、配列番号12、及び配列番号13;
配列番号18、配列番号19、及び配列番号20;又は
配列番号24、配列番号25、及び配列番号26;
に示されるアミノ酸配列からなり、並びに、
軽鎖配列が、CDRL1、CDRL2、CDRL3を有する可変領域を含み、前記CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ、
配列番号8、配列番号9、及び配列番号10;
配列番号8、配列番号17、及び配列番号10;
配列番号14、配列番号15、及び配列番号16;
配列番号21、配列番号22、及び配列番号23;又は
配列番号27、配列番号28、及び配列番号29;
に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖可変領域配列が、
a1)配列番号31で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a2)配列番号33で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a3)配列番号34で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a4)配列番号36で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a5)配列番号38で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a6)配列番号39で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a7)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
a8)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
a9)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
であり、並びに、
軽鎖可変領域配列が、
b1)配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b2)配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b3)配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b4)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
b5)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
b6)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
である、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記抗ALK2抗体が、配列番号31で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号33で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号34で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号36で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号38で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、或いは、配列番号39で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つである、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ALK2の活性化型変異が、R206H変異である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記異所性骨化が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
脳腫瘍を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、 前記方法が、(a)患者のALK2の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;(c)患者のALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がないことを確認する工程;及び(d)選別された患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含み、
前記患者が脳腫瘍の原因であるALK2タンパク質の活性化型変異を有し、並びに、
前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片である、
ことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項17】
前記患者のALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ALK2の活性化型変異が、R206H、R258G、G328E、G328W、及びG356Dから選択される少なくとも一つである、請求項16又は17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、請求項6~12のいずれか1項に定義される抗ALK2抗体又はその抗原結合断片である、請求項16~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記脳腫瘍が、びまん性橋膠腫(DIPG)である、請求項16~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
ALK2と結合する性質、ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクを予測する方法であって、(a)患者由来の生物学的試料におけるALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクが低いと判定する工程を含む、前記方法。
【請求項22】
ALK2と結合する性質、ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性を予測する方法であって、(a)患者由来の生物学的試料におけるALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性があると判定する工程を含む、前記方法。
【請求項23】
ALK2と結合する性質、ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者を選別する方法であって、(a)患者由来の生物学的試料におけるALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者として選別する工程を含む、前記方法。
【請求項24】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与が、請求項1~20のいずれか一項に記載の医薬組成物の投与である、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記工程(b)がさらに、ALK2の活性化型変異がG328V変異ではないことを確認する工程を含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つである、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ALK2の活性化型変異が、R206H、R258G、G328E、G328W、及びG356Dから選択される少なくとも一つである、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記患者が、異所性骨化又は脳腫瘍に罹患している、請求項21~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が、異所性骨化に罹患している、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記患者が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)又はびまん性橋膠腫(DIPG)に罹患している、請求項21~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)に罹患している、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALK2の活性化型変異を有し、ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がない患者に対し、ALK2結合性及びクロスリンク能を有する抗ALK2抗体を投与することを特徴とする異所性骨化及び/又は脳腫瘍の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia ossificans progressiva(FOP))は、骨格筋や腱、靭帯など、通常は骨組織が形成されない軟組織において、異所性に軟骨組織や骨組織が形成される遺伝性疾患である(非特許文献1-3)。本疾患では、異所性骨化が顔面を含む全身で起こり、異所性骨組織と既存の骨組織が癒合して関節の可動域が著しく低下したり、身体の変形が生じたりする(非特許文献1-3)。
【0003】
FOPにおける異所性骨化は、成長に伴って慢性的に進行する他に、筋損傷やウイルス感染等により生じるフレアアップと呼ばれる症状を伴って進行する急性の異所性骨化が知られている(非特許文献1)。フレアアップは炎症反応や長期間に渡る痛みを主症状とする膨脹であり、筋損傷を生じるような打撲や転倒・筋肉注射などで誘導される他に、原因が明確でない突発的な例も知られている。FOPではフレアアップ後に異所性骨組織が形成されることから、生検や手術などの侵襲的医療行為は禁忌とされており、異所性骨組織を外科的に除去することはできない。また、FOPで形成される異所性骨組織は、正常な軟骨細胞や骨芽細胞によって形成され、正常な骨組織と同様に代謝されているため、薬物等を用いて内科的に異所性骨組織だけを除去することもできない。
【0004】
FOPの異所性骨化を抑制するような根本的な治療法は確立されておらず、痛み等に対する対処療法が行われているのみである。従って、FOPで形成された異所性骨組織を除去することは極めて困難で、異所性骨化が始まる前に予防的な効果の期待できる薬物の開発が期待されている。
【0005】
FOPの責任遺伝子として、骨格筋組織を含む軟組織において異所性骨形成を誘導する骨形成蛋白質(Bone morphogenetic protein(BMP))の受容体の一種をコードするActivin Like Kinase 2(ALK2;アクチビン様キナーゼ2)遺伝子が同定された(非特許文献4)。ALK2は、Activin A type I Receptor 1(ACVR1)と呼ばれる遺伝子と同一である。家族性、及び孤発性FOP症例から、アミノ酸置換を伴ったALK2が見出されている(非特許文献4)。
【0006】
ヒト及びマウスALK2は、509アミノ酸からなるシグナルペプチドを持つ1回膜貫通型タンパク質で、BMPと結合する膜貫通型のセリン・スレオニン・キナーゼ受容体として機能する(非特許文献1-3)。N末端側の細胞外領域でBMPを結合し、細胞内のセリン・スレオニン・キナーゼによって下流の細胞内情報伝達系を活性化する。
【0007】
BMPの受容体は、それらの構造と機能から、ALK2を含むI型受容体と、II型受容体の2種類に分類される(非特許文献1-3)。II型受容体は、BMPを結合しなくてもキナーゼ活性を示す構成的活性型酵素である。一方、ALK2を含むI型受容体は、BMPと結合しない状態では不活性型の酵素で、BMPとの結合依存的にキナーゼ活性を示す。これは、BMPとの結合により、II型受容体のキナーゼがI型受容体の細胞内ドメインを基質としてリン酸化し、立体構造を変化させてI型受容体を活性化するためと考えられている(非特許文献1-3)。
【0008】
I型受容体の細胞内領域の特定アミノ酸を置換すると、II型受容体非依存的に活性化された構成的活性型受容体となることが知られている(非特許文献1-3)。このI型受容体の構成的活性型変異体を過剰発現すると、BMP刺激を加えなくても細胞内情報伝達系が活性化される。従って、I型受容体が、細胞外から細胞内へBMPの情報を伝達する責任分子であると考えられる。
【0009】
家族性及び典型的孤発性FOP症例から同定されたALK2の変異は、Arg206がHisに置換したR206H変異体であった(非特許文献4)。これまでにFOP症例から同定された遺伝子変異は、全てALK2の細胞内領域のアミノ酸変異を起こすことが判明している。これらのFOP症例の変異の多くは、ALK2の細胞内領域のATP結合領域近傍に集中している(非特許文献5)。
【0010】
FOPで同定されたALK2変異体を培養細胞に過剰発現させると、BMP刺激を加えなくともBMPの細胞内情報伝達系が活性化される(非特許文献6)。そこで、FOPの治療薬として、ALK2の細胞外領域に作用してシグナル伝達を阻害することにより、ALK2の野生型や新規の変異体を含めた細胞内領域のさまざまな変異体に対しても抑制作用が期待できる抗ALK2抗体が開発されている(特許文献1)。
【0011】
また、びまん性橋膠腫(DIPG)は、脳内の橋に集中してみられるびまん性(浸潤性)星細胞腫であり、小児脳幹腫瘍の約75~80%を占めると言われており、脳幹が呼吸などの必須機能を制御しているために長期生存率は10%に満たない希少疾患である。DIPG症例からも、FOP症例と同じALK2の変異が同定されている(非特許文献7)。したがって、抗ALK2抗体によってDIPGなどの脳腫瘍を治療できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第WO2016/121908号
【非特許文献】
【0013】
【文献】T.Katagiri,J.Oral Biosci.,52,33-41(2010)
【文献】T.Katagiri,J.Oral Biosci.,54,119-123(2012)
【文献】T.Katagiri and S.Tsukamoto,Biol.Chem.,394,703-714(2013)
【文献】E.M.Shore et al.,Nat.Genet.,38,525-527(2006)
【文献】A.Chaikuad et al.,J.Biol.Chem.,287,36990-36998(2012)
【文献】T.Fukuda et al.,J.Biol.Chem.,284,7149-7156(2009)
【文献】K.R.Taylor et al.,Nat Genet.,46,457-461(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、異所性骨化及び/又は脳腫瘍の効果的な治療及び/又は予防方法、並びに、該方法に使用するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、FOPの治療薬として抗ALK2抗体の評価を行った結果、FOPモデルマウスに抗ALK2抗体を投与した場合には、異所性骨化が促進されることを見出した。本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意、検討を行ったところ、抗ALK2抗体は、R206H変異を有するマウスALK2の細胞内シグナル伝達を促進するものの、R206H変異を有するヒトALK2を用いた場合には逆に細胞内シグナル伝達を抑制することを今回見出した。そこで、ヒトALK2及びマウスALK2の細胞内と細胞外をそれぞれ置換したところ、細胞内領域がR206H変異を有するマウスALK2であると、抗ALK2抗体が細胞内シグナル伝達を促進することが判明した。ヒトALK2及びマウスALK2の細胞内領域のアミノ酸配列を比較したところ、182番目のアミノ酸残基(ヒトではアスパラギン酸(D)、マウスではグルタミン酸(E))、及び330番目のアミノ酸残基(ヒトではプロリン(P)、マウスではセリン(S))が異なるのみであった。そこで、R206H変異を有するヒトALK2の182番目のアスパラギン酸(D)、及び330番目のプロリン(P)をそれぞれマウスのアミノ酸残基であるグルタミン酸(E)及びセリン(S)に置換した変異体を作製し、抗ALK2抗体の作用を検討した。その結果、R206H変異を有するヒトALK2の330番目のプロリン(P)がセリン(S)に置換されている場合には、抗ALK2抗体が細胞内シグナル伝達を促進することが明らかとなった。330番目のプロリン(P)をアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)又はアラニン(A)に置換しても同様の結果が得られることを見いだした。さらに、R206H変異を持たないヒトALK2の328番目のグリシン(G)がバリン(V)に置換されている場合にも、抗ALK2抗体によりALK2を介するBMPシグナル伝達が亢進することが判明した。その結果、本発明者らは、ALK2の活性化型変異を有する患者のうち、ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がない患者及び/又はG328V変異がない患者に対してのみ抗ALK2抗体を投与することにより、効果的に異所性骨化及び/又は脳腫瘍を治療及び/又は予防できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0016】
(1)異所性骨化を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、前記患者が異所性骨化の原因であるアクチビン様キナーゼ2(ALK2)蛋白質の活性化型変異を有し、かつ前記ALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンであり、並びに、前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片であることを特徴とする、前記医薬組成物。
【0017】
(2)前記ALK2がG328V変異を有していない、前記(1)に記載の医薬組成物。
【0018】
(3)前記方法が、(a)患者のALK2の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;(c)患者のALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がないことを確認する工程;及び(d)選別された患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含む、前記(1)に記載の医薬組成物。
【0019】
(4)前記工程(c)がさらに、患者のALK2がG328V変異を有していないことを確認する工程を含む、前記(3)に記載の医薬組成物。
【0020】
(5)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与対象となる患者の選別が、(a)異所性骨化の患者におけるALK2の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;及び(c)ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異を有する患者を除外する工程を含む、前記(3)に記載の医薬組成物。
【0021】
(6)前記工程(c)がさらに、ALK2のG328V変異を有する患者を除外する工程を含む、前記(5)に記載の医薬組成物。
【0022】
(7)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、配列番号1に示されるアミノ酸配列の21番目~123番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドに特異的に結合する、前記(1)~(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0023】
(8)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、
(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の38番目のグルタミン酸、39番目のグリシン、59番目のイソロイシン、60番目のアスパラギン、61番目のアスパラギン酸、62番目のグリシン、63番目のフェニルアラニン、64番目のヒスチジン、65番目のバリン、66番目のチロシン、102番目のアスパラギン、104番目のトレオニン、106番目のグルタミン、107番目のロイシンの各残基を含むエピトープ、又は、
(ii)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の38番目のグルタミン酸、39番目のグリシン、40番目のロイシン、59番目のイソロイシン、60番目のアスパラギン、61番目のアスパラギン酸、62番目のグリシン、63番目のフェニルアラニン、64番目のヒスチジン、65番目のバリン、66番目のチロシン、及び104番目のトレオニンの各残基を含むエピトープ、
に結合する、前記(1)~(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0024】
(9)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、前記(8)に記載の抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片とALK2への結合に対し競合する、前記(1)~(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0025】
(10)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、又はF(ab’)である、前記(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0026】
(11)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖配列が、CDRH1、CDRH2、CDRH3を有する可変領域を含み、前記CDRH1、CDRH2、及びCDRH3はそれぞれ、
配列番号5、配列番号6、及び配列番号7;
配列番号11、配列番号12、及び配列番号13;
配列番号18、配列番号19、及び配列番号20;又は
配列番号24、配列番号25、及び配列番号26;
に示されるアミノ酸配列からなり、並びに、
軽鎖配列が、CDRL1、CDRL2、CDRL3を有する可変領域を含み、前記CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ、
配列番号8、配列番号9、及び配列番号10;
配列番号8、配列番号17、及び配列番号10;
配列番号14、配列番号15、及び配列番号16;
配列番号21、配列番号22、及び配列番号23;又は
配列番号27、配列番号28、及び配列番号29;
に示されるアミノ酸配列からなる、前記(1)~(10)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0027】
(12)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖可変領域配列が、
a1)配列番号31で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a2)配列番号33で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a3)配列番号34で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a4)配列番号36で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a5)配列番号38で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a6)配列番号39で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a7)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
a8)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
a9)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
であり、並びに、
軽鎖可変領域配列が、
b1)配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b2)配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b3)配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b4)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
b5)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
b6)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
である、前記(1)~(11)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0028】
(13)前記抗ALK2抗体が、配列番号31で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号33で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号34で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号36で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、配列番号38で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体、或いは、配列番号39で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体である、前記(12)に記載の医薬組成物。
【0029】
(14)前記ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つである、前記(1)~(13)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0030】
(15)前記ALK2の活性化型変異が、R206H変異である、前記(1)~(13)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0031】
(16)前記異所性骨化が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である、前記(1)~(15)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0032】
(17)脳腫瘍を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、前記患者が脳腫瘍の原因であるアクチビン様キナーゼ2(ALK2)タンパク質の活性化型変異を有し、並びに、前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片であることを特徴とする、前記医薬組成物。
【0033】
(18)前記患者のALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンである、前記(17)に記載の医薬組成物。
【0034】
(19)前記ALK2の活性化型変異が、R206H、R258G、G328E、G328W、及びG356Dから選択される少なくとも一つである、前記(17)又は(18)に記載の医薬組成物。
【0035】
(20)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片が、前記(7)~(13)のいずれかに定義される抗ALK2抗体又はその抗原結合断片である、前記(17)~(19)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0036】
(21)前記脳腫瘍が、びまん性橋膠腫(DIPG)である、前記(17)~(20)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0037】
(22)抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクを予測する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクが低いと判定する工程を含む、前記方法。
【0038】
(23)抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性を予測する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性があると判定する工程を含む、前記方法。
【0039】
(24)抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者を選別する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者として選別する工程を含む、前記方法。
【0040】
(25)抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による疾患の治療及び/又は予防方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含む、前記方法。
【0041】
(26)前記(22)~(24)のいずれかに記載の方法の工程(b)を行うことをさらに含む、前記(25)に記載の方法。
【0042】
(27)前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与が、前記(1)~(21)のいずれかに記載の医薬組成物の投与である、前記(22)~(26)のいずれかに記載の方法。
【0043】
(28)前記工程(b)がさらに、ALK2の活性化型変異がG328V変異ではないことを確認する工程を含む、前記(22)~(27)のいずれかに記載の方法。
【0044】
(29)前記ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つである、前記(22)~(27)のいずれかに記載の方法。
【0045】
(30)前記ALK2の活性化型変異が、R206H、R258G、G328E、G328W、及びG356Dから選択される少なくとも一つである、前記(22)~(27)のいずれかに記載の方法。
【0046】
(31)前記患者が罹患している疾患が、異所性骨化又は脳腫瘍である、前記(25)~(30)のいずれかに記載の方法。
【0047】
(32)前記患者が罹患している疾患が、異所性骨化である、前記(31)に記載の方法。
【0048】
(33)前記患者が罹患している疾患が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)又はびまん性橋膠腫(DIPG)である、前記(25)~(31)のいずれかに記載の方法。
【0049】
(34)前記患者が罹患している疾患が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である、前記(33)に記載の方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-039066号の開示内容を包含する。
【0050】
本発明により、特定の患者に対する、異所性骨化及び/又は脳腫瘍の効率的な治療及び/又は予防方法、並びに、該方法に使用するための医薬組成物を提供する。また、本発明により、抗ALK2抗体の投与による副作用の発現リスクを予測する方法、抗ALK2抗体の投与による治療及び/又は予防応答性を予測する方法、並びに、抗ALK2抗体の投与による治療及び/又は予防の対象を選別する方法を提供する。さらにまた、本発明により、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による、ALK2の活性化型変異に起因する疾患(例えば、異所性骨化、脳腫瘍など)の治療及び/又は予防方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA)がマウスR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化し(図1A)、一方、ヒトR206H ALK2を発現するHEK293細胞ではBMPシグナル伝達を活性化しない(図1B)ことをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。縦軸は、未処理対照(すなわち、前記抗ALK2抗体を含まない対照)に対する相対ルシフェラーゼ活性(Relative luc activity)を表し、一方、横軸は抗体濃度を表す。対照ALK2は、マウス野生型ALK2(Mouse WT ALK2)及びヒト野生型ALK2(Human WT ALK2)であり、対照抗体(Ctrl)は、IgG1である。
図2】F(ab’)(27D-H2L2_F(ab’))が抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA)と同様にマウスR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてのみBMPシグナル伝達を活性化し(図2A)、Fab(27D-H2L2_Fab)はマウス及びヒトR206H ALK2のいずれを発現するHEK293細胞においてもBMPシグナル伝達を活性化しない(それぞれ図2A図2B)ことをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。縦軸は、未処理対照(すなわち、前記F(ab’)を含まない対照)に対する相対ルシフェラーゼ活性(Relative luc activity)を表し、一方、横軸は抗体濃度を表す。また、対照抗体(Ctrl)は、IgG1である。
図3】A2-27D、27D-H2L2_LALA及び27D-H2L2_F(ab’)がALK2のクロスリンク形成(複合体形成)を誘導することをNanoluc Binary Technologyによって示したグラフである。これに対し、27D-H2L2_Fabは、ALK2のクロスリンク形成(複合体形成)を誘導しなかった。縦軸はルシフェラーゼ活性を表し、一方、横軸は抗体濃度を表す。
図4】ヒト、サル、イヌ、ラット及びマウスのALK2タンパク質の配列比較において、182番目のアミノ酸残基(ヒト「D」、マウス「E」)及び330番目のアミノ酸残基(ヒト「P」、マウス「S」)がヒトとマウスで保存されていないことを示した配列アラインメントである。
図5】抗ALK2抗体(A2-27D)がアミノ酸番号330番目のプロリンをセリンに置換したヒトR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化することをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。なお、アミノ酸番号330番目のセリンをプロリンに置換したマウスR206H ALK2を発現するHEK293細胞ではBMPシグナル伝達の活性化が抑制されることが示された(データは示さず)。さらにまた、抗ALK2抗体がマウスR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化し、ヒトWT ALK2や、アミノ酸番号182番目のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換したヒトALK2などの図示した他のヒトALK2変異体を発現するHEK293細胞ではBMPシグナル伝達を活性化しないか、又は抑制(もしくは、阻害)することをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示した。
図6】抗ALK2抗体(A2-27D)が、アミノ酸番号330番目のプロリン(P)をセリン(S)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アラニン(A)に置換したヒトR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化し、バリン(V)に置換したヒトR206H ALK2に対してBMPシグナル伝達を活性化しないことをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。さらにまた、上記置換を有するがR206H変異を含まないヒトWT ALK2に対して、抗ALK2抗体はBMPシグナル伝達を活性化しなかった。併せて、図に示した変異を有するマウスALK2に対するBMPシグナル伝達の活性化の有無についても示した。対照(Control)は、ラットIgG2である。
図7】4種類の抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA,15A-H4L6_IgG2,A2-11E,A2-25C)がマウスR206H ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化し(図7A)、ヒトR206H ALK2変異体を発現するHEK293細胞ではBMPシグナル伝達を活性化しない(図7B)ことをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。縦軸は、未処理対照(すなわち、前記抗ALK2抗体を含まない対照)に対する相対ルシフェラーゼ活性(Relative luc activity)を表し、一方、横軸は抗体濃度を表す。
図8】抗ALK2抗体(A2-27D)がヒトG328V及びQ207D ALK2を発現するHEK293細胞においてBMPシグナル伝達を活性化し、その他のヒトALK2変異体(R206H,L196P,PF197-8L(「delP197_F198insL」とも称する。),R202I,Q207E,R258G,R258S,G325A,G328E,G328R,G328W,G356D,R375P)を発現するHEK293細胞ではBMPシグナル伝達を活性化しないことをBMP特異的ルシフェラーゼレポーターによって示したグラフである。活性は、実施例5と同様に測定された。図中、縦軸は未処理対照に対するルシフェラーゼ活性を表し、横軸はA2-27Dの濃度を表す。また、G328V(1/3)及びQ207D(1/20)については、G328V変異体が他の変異体の1/3量(例えば、他の変異体が37.5ng/穴のとき12.5ng/穴である)、Q207D変異体が他の変異体の1/20量(例えば、他の変異体が37.5ng/穴のとき1.875ng/穴である)となるようにアッセイに使用された。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
1.定義
本明細書中において、「遺伝子」という語には、DNAのみならずmRNA、cDNA及びcRNAも含まれるものとする。
本明細書中において、「ポリヌクレオチド」という語は核酸と同じ意味で用いており、例えばDNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーなども含まれている。
本明細書中において、「ポリペプチド」と「蛋白質」は区別せずに用いている。
本明細書中において、「RNA画分」とは、RNAを含んでいる画分をいう。
本明細書中において、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
本明細書中において、「ALK2」は、ALK2蛋白質と同じ意味で用いており、野生型及び変異体(「変異型」ともいう。)を含む。
【0054】
本明細書中における「抗体の抗原結合断片」とは、「抗体の機能性断片」とも呼ばれ、抗原との結合性を有する抗体の部分断片を意味しており、F(ab’)、ダイアボディ(diabody)、線状抗体もしくは一本鎖抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を含む。但し、抗ALK2抗体と同様に、ALK2との結合能(もしくは、ALK2と結合する性質)を有し、かつALK2に対するクロスリンク能(もしくは、ALK2をクロスリンクする性質)を有している限りこれらの分子に限定されない。また、好ましくは、上記抗体の抗原結合断片はさらに、抗ALK2抗体と同様に、BMPシグナル伝達抑制能(もしくは、BMPシグナル伝達を抑制(「阻害」ともいう。)する性質)を有する。さらにまた、これらの抗原結合断片には、抗体蛋白質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0055】
本明細書における、「エピトープ」とは、抗体の「抗原結合部位」とも呼ばれ、一般に抗原の少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、又は少なくとも10アミノ酸からなる、抗体が結合する抗原部位を指し、本明細書では特定の抗ALK2抗体が結合するALK2の部分ペプチド又は部分立体構造を意味する。前記のALK2の部分ペプチドであるエピトープは、例えば免疫アッセイ法等の当業者によく知られている方法によって決定することができるが、例えば以下の方法によって行うことが出来る。ALK2の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリゴペプチド合成技術を用いることが出来る。例えば、ALK2のC末端或いはN末端から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組み換え技術を用いて作製した後、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定した後に、さらに短いペプチドを合成してそれらのペプチドとの反応性を検討することによって、エピトープを決定することができる。又、特定のALK2抗体が結合するALK2の部分立体構造であるエピトープは、X線結晶構造解析によって前記の抗体と隣接するALK2のアミノ酸残基を特定することによって決定することができる。第一の抗ALK2抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に第二の抗ALK2抗体が結合すれば、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。また、第一の抗ALK2抗体のALK2に対する結合に対して第二の抗ALK2抗体が競合する(すなわち、第二の抗体が第一の抗体とALK2の結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。さらに、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープに結合し、かつ第一の抗体がALK2を介するBMPシグナル伝達の阻害活性等の活性を有する場合、第二の抗体も同様な活性を有することが期待できる。
【0056】
抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所の相補性決定領域(CDR:Complementarity Determining Region)があることが知られている。相補性決定領域は、超可変領域(hypervariable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、それぞれ3ヶ所に分離している。本明細書中においては、抗体の相補性決定領域について、重鎖の相補性決定領域を重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽鎖の相補性決定領域を軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。
【0057】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、約50~70℃(例えば68℃)でハイブリダイズすること、又は、DNAを固定したフィルターを用いて約0.7~1.0MのNaCl存在下、約50~70℃(例えば68℃)でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150 mM NaCl、15 mM クエン酸ナトリウムからなる。また、必要に応じて、当該溶液に約0.1~0.5%SDSを含有させてもよい。)を用い、約50~70℃(例えば68℃)で洗浄することにより同定することができる条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0058】
本明細書において、「1もしくは数個」なる記載がある場合の「数個」とは、2~10個を示している。好ましくは、10個以下、より好ましくは、5もしくは6個以下、さらにより好ましくは、2もしくは3個である。
【0059】
本発明において「クロスリンク能」とは、1つの抗体又は抗原結合断片が2分子のALK2蛋白質のそれぞれの細胞外領域に結合して架橋(すなわち、クロスリンク)する能力をいう。通常、BMPリガンド存在下でALK2は複合体を形成し、下流のSMAD1/5/8を活性化するが、抗ALK2抗体により2分子のALK2のクロスリンクが誘導され、リガンド非存在下においても複合体様の形成が生じる可能性がある。本発明者は、変異型ヒトALK2蛋白質の330番目のアミノ酸残基がプロリンであるときに、及び場合により変異型ヒトALK2蛋白質にG328V変異がないときに、ALK2と結合する抗ALK2抗体がBMPシグナル伝達を抑制(もしくは、阻害)すること、これに対し、該330番目のプロリンがセリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニンなどの別のアミノ酸残基であるときにはBMPシグナル伝達が促進(もしくは、活性化)されることを今回見出した。この知見に基づいて、変異型ヒトALK2蛋白質の330番目のアミノ酸残基がプロリンである、及び場合により変異型ヒトALK2蛋白質にG328V変異がない、患者を特定して抗ALK2抗体によって効果的な治療を施すことが可能になる。
【0060】
BMPシグナル伝達の促進とは、ALK2受容体分子を介して下流の細胞内情報伝達系を活性化することをいう。
【0061】
本発明において「患者」とは、疾患に罹患しているヒトのみならず、疾患に罹患している疑いのあるヒトであってもよい。
【0062】
本発明において用いられる「生物学的試料」としては、ALK2の変異の有無を検出しうるものであれば、特に制限はないが、例えば血液サンプル又は腫瘍サンプルである。これらの試料から得られるタンパク質抽出物や核酸抽出物(例えばmRNA抽出物、mRNA抽出物から調製されたcDNA調製物やcRNA調製物等)であってもよい。
【0063】
2.ALK2
ALK2遺伝子は、骨格筋組織を含む軟組織において異所性骨形成を誘導するBMPの受容体の一種をコードするFOPの責任遺伝子である。家族性、及び孤発性FOP症例からは、アミノ酸置換を伴った変異型ALK2が見出されている。ヒトALK2の活性化型変異としては、配列番号1のアミノ酸配列中、L196P(196番目のロイシンがプロリンに置換された変異)、delP197_F198insL(「PF197-8L」とも称する)(197番目のプロリン及び198番目のフェニルアラニンが欠失し、ロイシンが挿入された変異)、R202I(202番目のアルギニンがイソロイシンに置換された変異)、R206H(206番目のアルギニンがヒスチジンに置換された変異)、Q207E(207番目のグルタミンがグルタミン酸に置換された変異)、R258S(258番目のアルギニンがセリンに置換された変異)、R258G(258番目のアルギニンがグリシンに置換された変異)、G325A(325番目のグリシンがアラニンに置換された変異)、G328E(328番目のグリシンがグルタミン酸に置換された変異)、G328R(328番目のグリシンがアルギニンに置換された変異)、G328W(328番目のグリシンがトリプトファンに置換された変異)、G356D(356番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異)、R375P(375番目のアルギニンがプロリンに置換された変異)等が知られている。
【0064】
また、DIPG症例からもアミノ酸置換を伴った変異型ALK2が見出されている。ヒトALK2の活性化型変異としては、配列番号1のアミノ酸配列中、R206H、R258G、G328E、G328V(328番目のグリシンがバリンに置換された変異)、G328W、G356D等が知られている。
【0065】
本発明において用いられるALK2は、in vitroにて合成する、或いは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、ALK2 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、或いは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってALK2を発現させることにより、該蛋白質を得ることが出来る。
【0066】
本発明で用いるALK2はヒトやマウスを含む哺乳動物由来のALK2であり、例えばヒトALK2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号NM-001105を参照することにより入手可能であり、アミノ酸配列は配列番号1、ヌクレオチド配列は配列番号2として本明細書中にも開示されている。マウスALK2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号NP-001103674を参照することにより入手可能であり、アミノ酸配列は配列番号3、ヌクレオチド配列は配列番号4として本明細書中にも開示されている。さらにまた、サル、ラット及びイヌのALK2のアミノ酸配列は、それぞれGenBankアクセッション番号NM-001260761(配列番号40)、NP_077812(配列番号42)、XM_549615.5(配列番号41)を参照することにより入手可能である。なお、ALK2は、ACVR1(Activin A type I Receptor 1)又はACTR1(Activin Receptor Type 1)と呼ばれることがあり、これらは全て同じ分子を示している。
【0067】
ALK2のcDNAは、例えば、ALK2のcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、ALK2のcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki,R.K.,et al.,Science,(1988)239,487-49)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0068】
3.ALK2変異の検出
本発明において「変異を検出する」とは、原則として、ゲノムDNA上の変異を検出することを意味するが、当該ゲノムDNA上の変異が転写産物における塩基の変化や翻訳産物におけるアミノ酸の変化に反映される場合には、これら転写産物や翻訳産物における当該変化を検出すること(即ち、間接的な検出)をも含む意味である。
【0069】
本発明の方法の好ましい態様は、患者のALK2遺伝子領域の塩基配列を直接決定することにより、変異を検出する方法である。本発明において「ALK2遺伝子領域」とはALK2遺伝子を含むゲノムDNA上の一定領域を意味する。該領域には、ALK2遺伝子の発現制御領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域)やALK2遺伝子の3’末端非翻訳領域なども含まれる。これら領域における変異は、例えば、ALK2遺伝子の転写活性に影響を与えうる。
【0070】
この方法においては、先ず患者由来の生物学的試料からDNA試料を調製する。DNA試料としては、例えばゲノムDNA試料、及びRNAからの逆転写によって調製されるcDNA試料が挙げられる。
【0071】
生物学的試料からゲノムDNA又はRNAを抽出する方法としては特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができ、例えば、ゲノムDNAを抽出する方法としては、SDSフェノール法(尿素を含む溶液又はエタノール中に保存した組織を、タンパク質分解酵素(proteinase K)、界面活性剤(SDS)、及びフェノールで該組織のタンパク質を変性させ、エタノールで該組織からDNAを沈殿させ抽出する方法)、Clean Columns(登録商標、NexTec社製)、AquaPure(登録商標、Bio-Rad社製)、ZR Plant/Seed DNA Kit(Zymo Research社製)、AquaGenomicSolution(登録商標、Mo Bi Tec社製)、prepGEM(登録商標、ZyGEM社製)、BuccalQuick(登録商標、TrimGen社製)を用いるDNA抽出方法などが挙げられる。また、RNAを抽出する方法としては、例えば、フェノールとカオトロピック塩とを用いた抽出方法(より具体的には、トリゾール(Invitrogen社製)、アイソジェン(和光純薬社製)等の市販キットを用いた抽出方法)や、その他市販キット(RNAPrepトータルRNA抽出キット(Beckman Coulter社製)、RNeasy Mini(QIAGEN社製)、RNA Extraction Kit(Pharmacia Biotech社製)等)を用いた方法が挙げられる。さらに、抽出したRNAからcDNAを調製するのに用いられる逆転写酵素としては特に制限されることなく、例えば、RAV(Rous associated virus)やAMV(Avian myeloblastosis virus)等のレトロウィルス由来の逆転写酵素や、MMLV(Moloney murine leukemia virus)等のマウスのレトロウィルス由来の逆転写酵素が挙げられる。
【0072】
この態様においては、次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを単離し、単離したDNAの塩基配列を決定する。該DNAの単離は、例えば、ALK2遺伝子領域の変異を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ゲノムDNA、或いはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。単離したDNAの塩基配列の決定は、例えばマキサムギルバート法やサンガー法などの当業者に公知の方法、次世代シークエンサーによる方法などによって行うことができる。
【0073】
決定したDNAもしくはcDNAの塩基配列を対照(例えば、健常人の生物学的試料由来の対応するDNAもしくはcDNAの塩基配列)と比較することにより、患者のALK2遺伝子領域の変異の有無を判別することができる。
【0074】
ALK2遺伝子領域の変異を検出するための方法は、DNAやcDNAの塩基配列を直接決定する方法以外に、変異の検出が可能な種々の方法によって行うことができる。
【0075】
例えば、本発明における変異の検出は、以下のような方法によっても行うことができる。まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異を含む塩基配列に相補的な塩基配列を有し、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。そして、前記DNA試料に、前記オリゴヌクレオチドプローブをストリンジェントな条件でハイブリダイズさせ、さらに前記オリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズした前記DNA試料を鋳型として、ALK2遺伝子領域の前記変異を含む塩基配列を増幅する。そして、前記増幅に伴うオリゴヌクレオチドプローブの分解により、前記レポーター蛍光色素が発する蛍光(シグナル)を検出し、次いで検出した前記蛍光を対照と比較する。このような方法としては、例えばダブルダイプローブ法、TaqMan(登録商標)プローブ法などが挙げられる。
【0076】
さらに別の方法においては、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、DNA二重鎖間に挿入されると蛍光を発するインターカレーターを含む反応系において、前記DNA試料を鋳型として、ALK2遺伝子領域の前記変異を含む塩基配列を増幅する。そして、前記反応系の温度を変化させ、前記インターカレーターが発する蛍光の強度の変動を検出し、検出した前記温度の変化に伴う前記蛍光の強度の変動を対照と比較する。このような方法としては、例えばHRM(high resolution melting、高分解融解曲線解析)法が挙げられる。
【0077】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する。このような方法としては、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0078】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。このような方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造変異)法などが挙げられる。
【0079】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを、DNA変性剤の濃度が次第に高まるゲル上で分離する。次いで、分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)法などが挙げられる。
【0080】
さらに別の方法としては、生物学的試料から調製したALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNA、及び、該DNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが固定された基板、を用いる方法がある。このような方法としては、例えば、DNAアレイ法等が挙げられる。
【0081】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。また、「ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、該DNAを鋳型とし、該プライマーを用いて、ddNTPプライマー伸長反応を行う。次いで、プライマー伸長反応産物を質量分析機にかけ、質量測定を行う。次いで、質量測定の結果から遺伝子型を決定する。次いで、決定した遺伝子型を対照と比較する。このような方法としては、例えば、MALDI-TOF/MS法などが挙げられる。
【0082】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、5’-「ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基及びその5’側の塩基配列と相補的な塩基配列」-「ALK2遺伝子領域の変異部位の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列とハイブリダイズしない塩基配列」-3’(フラップ)からなるオリゴヌクレオチドプローブを調製する。また、「ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基及びその3’側の塩基配列と相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプローブ」を調製する。次いで、調製したDNAに、上記2種類のオリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせる。次いで、ハイブリダイズしたDNAを一本鎖DNA切断酵素で切断し、フラップを遊離させる。一本鎖DNA切断酵素としては、特に制限はなく、例えばcleavaseが挙げられる。本方法においては、次いで、フラップと相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドプローブであって、レポーター蛍光及びクエンチャー蛍光が標識されたオリゴヌクレオチドプローブをフラップにハイブリダイズさせる。次いで、発生する蛍光の強度を測定する。次いで、測定した蛍光の強度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、Invader法などが挙げられる。
【0083】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。そして、増幅したDNAを一本鎖に解離させ、解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する。そして、測定した蛍光の強度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、Pyrosequencing法などが挙げられる。
【0084】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。次いで、「ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、増幅したDNAを鋳型とし、調製したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う。そして、蛍光の偏光度を測定する。次いで、測定した蛍光の偏光度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、AcycloPrime法などが挙げられる。
【0085】
さらに別の方法においては、まず、生物学的試料からDNAもしくはcDNA試料を調製する。次いで、ALK2遺伝子領域の変異部位を含むDNAを増幅する。次いで、「ALK2遺伝子領域の変異部位の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、増幅したDNAを鋳型とし、調製したプライマーを用いて、一塩基伸長反応を行う。次いで、一塩基伸長反応に使われた塩基種を判定する。次いで、判定された塩基種を対照と比較する。このような方法として、例えば、SNuPE法などが挙げられる。
【0086】
なお、生物学的試料から調製される試料はタンパク質であってもよい。このような場合、変異を検出するには、該変異によりアミノ酸の変化が生じた部位に特異的に結合する分子(例えば、抗体)を用いる方法等を利用することができる。
【0087】
4.異所性骨化及び/又は脳腫瘍の検出
ALK2を介したBMPシグナル伝達により、異所性骨化及び/又は脳腫瘍が惹起される。
【0088】
「異所性骨化」とは、本来骨がない部位に骨ができることを意味する。「異所性骨化」としては、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、進行性骨異形成(POH)等を挙げることができるが、活性化型変異を有するALK2を介したBMPシグナル伝達により惹起される異所性骨化であれば、これらに限定されない。
【0089】
「脳腫瘍」とは、頭蓋内組織に発生する腫瘍のことを意味する。「脳腫瘍」としては、びまん性橋膠腫(DIPG)、脳幹グリオーマ、膠芽腫、多形性膠芽腫(GBM)、非膠芽腫脳腫瘍、髄膜腫、中枢神経系リンパ腫、神経膠腫、星細胞腫、未分化星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、上衣腫等を挙げることができるが、活性化型変異を有するALK2を介したBMPシグナル伝達により惹起される脳腫瘍であれば、これらに限定されない。
【0090】
ALK2は、BMPを結合する膜貫通型のセリン・スレオニン・キナーゼ受容体であり、N末端側の細胞外領域でBMPを結合し、細胞内のセリン・スレオニン・キナーゼによって下流の細胞内情報伝達系を活性化する。骨形成蛋白質(BMP)は、形成転換増殖因子β(TGF-β)スーパーファミリーに属する多機能成長因子であり、約20のBMPファミリーメンバーが同定されている。BMPは骨格筋組織を含む軟組織において異所性骨形成を誘導することが確認されていることから、異常な骨形成を促進する疾患に関与していると考えられている。BMP-2やBMP-4は、ALK2に比べてALK3に親和性が高いと考えられている。ALK3は、ALK2に比べてユビキタスに発現していることから、さまざまな部位で異所性骨化を誘導する実験ではBMP-2やBMP-4が一般的によく用いられていると考えられる。一方、BMP-7は比較的ALK2に対する親和性が高く、またBMP-9は一般的にALK1に親和性が高いとが考えられているが、ALK2に対しても比較的高い親和性をもっていることが分かっている。FOPではALK2を介した異所性骨化が起こっていることから、BMP-7及びBMP-9によるALK2を介したシグナルの活性化による異所性骨誘導に対する薬効を検証することで、FOPに対する治療及び/又は予防効果の有無を確認することができると考えられる。
【0091】
筋芽細胞(C2C12細胞)をBMP存在下で培養すると、BMPに特異的な細胞内シグナル伝達機構により成熟筋細胞への分化が抑制され、代わりに骨芽細胞への分化が誘導される。したがって、C2C12細胞を用いたBMPによる骨芽細胞への分化誘導モデルにより、ALK2を介したBMPシグナル伝達を解析することができる。
【0092】
5.抗ALK2抗体の製造
本発明において用いられるALK2に対する抗体は、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature(1975)256,p.495-497、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibodies,p.365-367,Plenum Press,N.Y.(1980))に従って得ることができる。すなわち、ALK2に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることができる。取得された抗体はALK2に対する結合性及びクロスリンク能を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
【0093】
なお、本明細書中、抗体を特徴付けるCDR/FRに割り当てられるアミノ酸位置は、KABATナンバリング(KABAT et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))に従って割り付けられる。
【0094】
本発明に用いられる抗体には、上記ALK2に対するモノクローナル抗体に加え、同様に治療/予防効果を有する、例えばポリクローナル抗体や、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト抗体なども含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0095】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域(Fc)が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851-6855(1984)参照)。
【0096】
ヒト化抗体としては、CDRのみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986)321,p.522-525参照)、CDR移植法によって、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第WO90/07861号)を挙げることができる。
【0097】
本発明において利用可能な抗ALK2抗体の例としては、以下のものに限定されないが、例えば以下の重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列を含む抗ALK2抗体を挙げることができる。
【0098】
前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖配列が、CDRH1、CDRH2、CDRH3を有する可変領域を含み、前記CDRH1、CDRH2、及びCDRH3はそれぞれ、
配列番号5、配列番号6、及び配列番号7;
配列番号11、配列番号12、及び配列番号13;
配列番号18、配列番号19、及び配列番号20;又は
配列番号24、配列番号25、及び配列番号26;
に示されるアミノ酸配列からなり、並びに、
軽鎖配列が、CDRL1、CDRL2、CDRL3を有する可変領域を含み、前記CDRL1、CDRL2、及びCDRL3はそれぞれ、
配列番号8、配列番号9、及び配列番号10;
配列番号8、配列番号17、及び配列番号10;
配列番号14、配列番号15、及び配列番号16;
配列番号21、配列番号22、及び配列番号23;又は
配列番号27、配列番号28、及び配列番号29;
に示されるアミノ酸配列からなる、抗ALK2抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記抗ALK2抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体。
【0099】
或いは、前記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の重鎖可変領域配列が、
a1)配列番号31で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a2)配列番号33で示されるアミノ酸配列の20番目~142番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a3)配列番号34で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a4)配列番号36で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a5)配列番号38で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a6)配列番号39で示されるアミノ酸配列の20番目~140番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
a7)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
a8)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
a9)前記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
であり、並びに、
軽鎖可変領域配列が、
b1)前記配列番号32で示されるアミノ酸配列の21番目~133番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b2)前記配列番号35で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b3)前記配列番号37で示されるアミノ酸配列の21番目~129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
b4)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;
b5)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は
b6)前記b1)からb3)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列;
である、抗ALK2抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記抗ALK2抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体。
【0100】
さらに具体的に本発明において利用可能な抗ALK2抗体の例としては、本発明者らによるWO2016/121908に開示される抗ALK2抗体を挙げることができる。
【0101】
ラット抗ALK2抗体の例としては、WO2016/121908の実施例1に記載のA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dを挙げることができる。
ヒトキメラ化抗ALK2抗体の例としては、WO2016/121908の実施例5に記載のcA2-15A、cA2-27Dを挙げることができる。
【0102】
A2-15A抗体由来のヒト化抗体としては、A2-15Aの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-15A抗体の重鎖可変領域は、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSHYYMA)、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SITNSGGSINYRDSVKG)、及び配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(EGGENYGGYPPFAY)を含む。また、A2-15A抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(RANQGVSLSRYNLMH)、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(RSSNLAS)、及び配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(QQSRESPFT)を含む。さらにまた、前記ALK2への結合に対して前記A2-15A抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を含む。
【0103】
A2-27D抗体由来のヒト化抗体としては、A2-27Dの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-27D抗体の重鎖可変領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GSTFSNYGMK)、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SISRSSTYIYYADTVKG)、及び配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(AISTPFYWYFDF)を含む。また、A2-27D抗体の軽鎖可変領域は、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(LASSSVSYMT)、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(GTSNLAS)、及び配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(LHLTSYPPYT)を含む。さらにまた、前記ALK2への結合に対して前記A2-27D抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を含む。
【0104】
A2-11E抗体由来のヒト化抗体としては、A2-11Eの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-11E抗体の重鎖可変領域は、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSNYYMY)、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SINTDGGSTYYPDSVKG)、及び配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(STPNIPLAY)を含む。また、A2-11E抗体の軽鎖可変領域は、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(KASQNIYKYLN)、配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(YSNSLQT)、及び配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(FQYSSGPT)を含む。さらにまた、前記ALK2への結合に対して前記A2-11E抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を含む。
【0105】
A2-25C抗体由来のヒト化抗体としては、A2-25Cの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-25C抗体の重鎖可変領域は、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSYYAMS)、配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SISRGGDNTYYRDTVKG)、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(LNYNNYFDY)を含む。また、A2-25C抗体の軽鎖可変領域は、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(QASQDIGNWLS)、配列番号28に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(GATSLAD)、及び配列番号29に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(LQAYSAPFT)を含む。さらにまた、前記ALK2への結合に対して前記A2-25C抗体と競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を含む。
【0106】
また、さらに各CDR中の1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したCDR改変ヒト化抗体も、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能を有する限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。CDRL2におけるアミノ酸置換例としては、配列番号30に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-15A-L4)において、1個のアミノ酸を置換したCDRL2を挙げることができる。好ましくは、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(RSSNLAQ)である。
【0107】
A2-15A抗体由来のヒト化抗体の実例としては、配列番号31に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-15A-H4)の20~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号32に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-15A-L6)の21~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、又は配列番号33に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-15A-H4 IgG2)の20~142番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号32に示されるアミノ酸配列の21~133番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記A2-15A抗体のいずれかと競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を挙げることができる。
【0108】
好適な組合せとしては、配列番号31に示されるアミノ酸配列の20~472番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号32に示されるアミノ酸配列の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、又は配列番号33に示されるアミノ酸配列の20~468番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号32に示されるアミノ酸配列の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記抗体のいずれかと競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を挙げることができる。
【0109】
A2-27D抗体由来のヒト化抗体の実例としては、配列番号34に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-H2)の20~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号35に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-L2)の21~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、配列番号36に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-H3)の20~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号37に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-L4)の21~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、配列番号38に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-H2-LALA)の20~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号35に示されるアミノ酸配列の21~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、又は配列番号39に示されるアミノ酸配列(ヒト化hA2-27D-H3-LALA)の20~140番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号37に示されるアミノ酸配列の21~129番目のアミノ酸残基からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記抗体のいずれかと競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を挙げることができる。
【0110】
好適な組合せとしては、配列番号34に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号35に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、配列番号36に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号37に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、配列番号38に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号35に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、又は配列番号39に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号37に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、或いは、前記ALK2への結合に対して前記抗体のいずれかと競合する、かつ前記ALK2をクロスリンクする性質及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を有する抗体を挙げることができる。
【0111】
本発明に用いられる抗体としては、さらに、ヒト抗体を挙げることができる。抗ALK2ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗ALK2ヒト抗体は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133-143,;Kuroiwa,Y.et.al.,Nucl.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-73(Kitagawa,Y.,Matsuda,T.and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999.;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722-727等を参照。)によって取得することができる。
【0112】
このようなヒト抗体産生マウスは、具体的には、内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに例えばヒト人工染色体(Human Artificial Chromosome,HAC)ベクターやマウス人工染色体(Mouse Artificial Chromosome,MAC)ベクターなどのベクターを介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物及びトランスジェニック動物の作製、及びこれらの動物同士を掛け合わせることにより作り出すことができる。
【0113】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0114】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology&Visual Science.(2002)43(7),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,Ophthalmology(2002)109(3),p.427-431等参照。)も知られている。
【0115】
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いることができる。抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる(WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388、Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0116】
本発明において利用可能な抗ALK2抗体としては、WO2016/121908に開示される抗ALK2抗体と同じエピトープを有する抗体も含まれる。例えば、A2-11E抗体、A2-15A抗体、A2-25C抗体及び/又はA2-27D抗体と同じエピトープを有する抗体が挙げられる。
【0117】
抗体が抗原の部分高次構造に結合又は認識している場合、かかる抗体のエピトープは、X線構造解析を用いて、当該抗体に隣接する抗原上のアミノ酸残基を特定することにより決定することができる。例えば、抗体又はその断片及び抗原又はその断片を結合させて結晶化し、構造解析を行うことにより、抗体と相互作用距離を有する抗原上のアミノ酸残基を特定することができる。相互作用距離は8オングストローム(Å)以下であり、好適には6オングストローム以下であり、より好適には4オングストローム以下である。そのような抗体との相互作用距離を有するアミノ酸残基は1つ又はそれ以上で抗体のエピトープ(抗原結合部位)を構成し得る。かかるアミノ酸残基が2つ以上の場合、各アミノ酸は一次配列上で互いに隣接していなくてもよい。
【0118】
上記ALK2蛋白質のエピトープに結合する抗体又はその抗原結合断片の例は、以下のとおりである。
【0119】
抗ALK2抗体又はその抗原結合断片が、ヒトALK2のアミノ酸配列(配列番号1)中の21番目~123番目のアミノ酸残基からなるポリペプチドに特異的に結合することができる。
【0120】
A2-27D抗体は、ヒトALK2上の部分高次構造を認識する。ヒトALK2のアミノ酸配列(配列番号1)中、A2-27D抗体と相互作用距離を有するアミノ酸残基、すなわちエピトープは、38番目のグルタミン酸(Glu),39番目のグリシン(Gly),59番目のイソロイシン(Ile),60番目のアスパラギン(Asn),61番目のアスパラギン酸(Asp),62番目のグリシン(Gly),63番目のフェニルアラニン(Phe),64番目のヒスチジン(His),65番目のバリン(Val),66番目のチロシン(Tyr),102番目のアスパラギン(Asn),104番目のトレオニン(Thr),106番目のグルタミン(Gln),107番目のロイシン(Leu)の各残基から構成される。かかるエピトープに結合するか、又は、かかるアミノ酸残基と相互作用距離を有する抗体、その抗原結合断片又はその修飾体も、本発明に用いられる抗体に包含される。
【0121】
A2-25C抗体は、ヒトALK2上の部分高次構造を認識する。ヒトALK2のアミノ酸配列(配列番号1)中、A2-25C抗体と相互作用距離を有するアミノ酸残基、すなわちエピトープは、38番目のグルタミン酸(Glu),39番目のグリシン(Gly),40番目のロイシン(Leu),59番目のイソロイシン(Ile),60番目のアスパラギン(Asn),61番目のアスパラギン酸(Asp),62番目のグリシン(Gly),63番目のフェニルアラニン(Phe),64番目のヒスチジン(His),65番目のバリン(Val),66番目のチロシン(Tyr),104番目のトレオニン(Thr)の各残基から構成される。かかるエピトープに結合するか、又は、かかるアミノ酸残基と相互作用距離を有する抗体、その抗原結合断片又はその修飾体も、本発明に用いられる抗体に包含される。
【0122】
或いは、抗ALK2抗体又はその抗原結合断片が、上記の抗ALK2抗体又はその抗原結合断片(例えば、A2-27D抗体、A2-25C抗体など)とALK2への結合に対し競合する抗体又はその抗原結合断片であってもよい。
【0123】
上記の抗体は、WO2016/121908の実施例2、実施例6、実施例9又は実施例10に示された方法等によって抗原に対する結合性を評価し、好適な抗体を選抜することができる。抗体の解離定数(K)は、例えば1×10-6~1×10-12M、又はそれ以下であるが、目的の治療又は予防効果が得られる限り、この範囲に限定されない。抗体と抗原(ALK2)との解離定数は表面プラズモン共鳴(SPR)を検出原理とするビアコアT200(GE Healthcare Bioscience社)を使用して測定することができる。例えば、リガンドとして固相化した抗原に対し、適当な濃度に設定した抗体をアナライトと反応させ、その結合及び解離を測定することにより、結合速度定数ka1、解離速度定数kd1及び解離定数(K;K=kd1/ka1)を得ることができる。ALK2に対する結合性評価は、ビアコアT200の使用に限定されず、表面プラズモン共鳴(SPR)を検出原理とする機器、結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay)を検出原理とするKinExA(Sapidyne Instruments社)、バイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry)を検出原理とするBLItzシステム(Pall社)或いはELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法等によっても可能である。
【0124】
上記の抗体は、例えば、後述の実施例4に示された方法等によって抗原に対するクロスリンク能を評価し、好適な抗体を選抜することができる。すなわち、NanoLuc Binary Technology:NanoBiT(Promega社)を用いて、ALK2とLgBiT又はSmBiTとの融合体をin vitro細胞内で発現させ、抗体によるALK2タンパク質の相互作用を、LgBiT及びSmBiTの構造的相補性による発光により検出することが可能である。
【0125】
抗体の性質を比較する際の別の指標の一例としては、抗体の安定性を挙げることができる。示差走査カロリメトリー(DSC)は、蛋白の相対的構造安定性の良い指標となる熱変性中点(Tm)を素早く、また正確に測定することができる方法である。DSCを用いてTm値を測定し、その値を比較することによって、熱安定性の違いを比較することができる。抗体の保存安定性は、抗体の熱安定性とある程度の相関を示すことが知られており(Lori Burton,et.al.,Pharmaceutical Development and Technology(2007)12,p.265-273)、熱安定性を指標に、好適な抗体を選抜することができる。抗体を選抜するための他の指標としては、適切な宿主細胞における収量が高いこと、及び水溶液中での凝集性が低いことを挙げることができる。例えば収量の最も高い抗体が最も高い熱安定性を示すとは限らないので、以上に述べた指標に基づいて総合的に判断して、ヒトへの投与に最も適した抗体を選抜する必要がある。
【0126】
また、抗体の重鎖及び軽鎖の全長配列を適切なリンカーを用いて連結し、一本鎖イムノグロブリン(single chain immunoglobulin)を取得する方法も知られている(Lee,H-S,et.al.,Molecular Immunology(1999)36,p.61-71;Shirrmann,T.et.al.,mAbs(2010),2,(1)p.1-4)。このような一本鎖イムノグロブリンは二量体化することによって、本来は四量体である抗体と類似した構造と活性を保持することが可能である。また、本発明に用いられる抗体は、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さない抗体であっても良い。このような抗体は、単一ドメイン抗体(single domain antibody:sdAb)又はナノボディ(nanobody)又はラクダ科抗体(重鎖抗体)と呼ばれており、実際にラクダ又はラマで観察され、抗原結合能が保持されていることが報告されている(Muyldemans S.et.al.,Protein Eng.(1994)7(9),1129-35,Hamers-Casterman C.et.al.,Nature(1993)363(6428)446-8)。上記の抗体は、本発明における抗体の抗原結合断片の一種と解釈することも可能である。
【0127】
また、本発明に用いられる抗体は、結合している糖鎖修飾を調節することによって、抗体依存性細胞障害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、WO99/54342、WO2000/61739、WO2002/31140等が知られているが、これらに限定されるものではない。
【0128】
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0129】
抗体遺伝子の具体例としては、WO2016/121908に記載された抗体の重鎖配列をコードする遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)、軽鎖配列をコードする遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)、或いは、それら遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)を組み合わせたものを挙げることができる。
【0130】
宿主細胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)と軽鎖配列遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)は、同一の発現ベクターに挿入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能である。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)を挙げることができる。また、原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌を挙げることができる。これらの細胞に目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。以上の培養法においては抗体の配列によって収量が異なる場合があり、同等な結合性を持つ抗体の中から収量を指標に医薬としての生産が容易なものを選別することが可能である。
【0131】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしては、ALK2に対するクロスリンク能を有するものであればよく、例えばIgG(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(IgA1,IgA2)、IgD或いはIgE等を挙げることができるが、好ましくはIgG又はIgM、さらに好ましくはIgG1、IgG2又はIgG4を挙げることができる。
【0132】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしてIgG1を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、エフェクター機能を調整することが可能である(WO88/07089、WO94/28027、WO94/29351参照)。IgG1の変異体としては、IgG1 LALA(IgG1-L234A,L235A)、IgG1 LAGA(IgG1-L235A,G237A)等が挙げられ、好ましくはIgG1 LALAである。
【0133】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしてIgG4を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、IgG4特有の分割が抑制され、半減期を延長することが可能である(Molecular Immunology,30,1 105-108(1993)参照)。IgG4の変異体としては、IgG4 pro(IgG4-S241P)等が挙げられる。
【0134】
また本発明に用いられる抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の抗原結合断片又はその修飾物であってもよい。抗体をパパイン、ペプシン等の蛋白質分解酵素で処理するか、或いは抗体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し適当な培養細胞において発現させることによって、該抗体の断片を得ることができる。このような抗体断片のうちで、抗体全長分子の持つ機能の全て又は一部を保持している断片を抗体の抗原結合断片と呼ぶことができる。抗体の機能としては、一般的には抗原結合性、抗原の活性を阻害する活性、抗原の活性を増強する活性、抗体依存性細胞障害活性、補体依存性細胞障害活性、及び補体依存性細胞性細胞障害活性を挙げることができる。本発明における抗体の抗原結合断片が保持する機能は、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能である。ALK2に対する結合性とは、抗体又は抗原結合断片がALK2分子に(好ましくは、特異的に)結合する性質であり、好ましくはALK2の活性を阻害する、より好ましくはALK2を介したBMPシグナル伝達を抑制する、最も好ましくは異所性骨化及び/又は脳腫瘍を抑制、軽減もしくは退縮する活性である。
【0135】
例えば、抗体の断片としては、F(ab’)などを挙げることができる。
本発明に用いられる抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFvとの結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックスーターン‐へリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
【0136】
本発明に用いられる抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗ALK2抗体の混合物である、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体としては、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、該培養物から精製された抗体を用いることが出来る(WO2004/061104参照)。
【0137】
本発明に用いられる抗体は、上記の抗体の重鎖及び/又は軽鎖と比較して80%~99%との同一性を有する抗体であってもよい。ここで「同一性」なる用語は、当分野で使用される一般的な定義を有するものとする。同一性の%は、2つのアミノ酸配列をアミノ酸の一致度が最大となるように整列(アラインメント)させたとき総アミノ酸数(ギャップを含む。)あたりの同一アミノ酸数のパーセンテージを指す。上記の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列と高い同一性を示す配列を組み合わせることによって、上記の各抗体と同等の抗原結合能、BMPシグナル伝達の抑制作用及びクロスリンク能を有する抗体を選択することが可能である。このような同一性は、一般的には80%以上もしくは85%以上の同一性であり、好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上もしくは94%以上の同一性であり、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上もしくは98%以上の同一性であり、最も好ましくは99%以上の同一性である。また、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の各種作用を有する抗体を選択することが可能である。置換、欠失及び/又は付加されるアミノ酸残基数は、一般的には10アミノ酸残基以下であり、好ましくは5~6アミノ酸残基以下であり、より好ましくは2~3アミノ酸残基以下であり、最も好ましくは1アミノ酸残基である。
【0138】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リジンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。
【0139】
さらにまた、抗体の作製時に、抗体の重鎖又は軽鎖のN末端のグルタミン又はグルタミン酸残基がピログルタミル化修飾されることが知られており、本発明に用いられる抗体はそのような修飾を有していてもよい(WO2013/147153)。
【0140】
しかし、これらの重鎖配列の欠失、或いは、重鎖又は軽鎖配列の修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用など)には影響を及ぼさない。
【0141】
従って、本発明に用いられる抗体には当該欠失又は修飾を受けた抗体も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)、重鎖又は軽鎖のN末端アミノ酸残基がピログルタミル化された抗体、等を挙げることができる。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に用いられる抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に用いられる抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であっても良いし、いずれか二種を組み合わせたものであっても良い。各欠失体の量比は本発明に用いられる抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0142】
二種類のアミノ酸配列間の同一性は、Blast algorithm version 2.2.2(Altschul,Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman(1997),「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs」,Nucleic Acids Res.25:3389-3402)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast algorithmは、インターネットでwww.ncbi.nlm.nih.gov/blastにアクセスすることによっても使用することができる。なお、上記のBlast algorithmによってIdentity(又はIdentities)及びPositivity(又はPositivities)の2種類のパーセンテージの値が計算される。前者は同一性を求めるべき二種類のアミノ酸配列の間でアミノ酸残基が一致した場合の値であり、後者は化学構造の類似したアミノ酸残基も考慮した数値である。本明細書においては、アミノ酸残基が一致している場合のIdentity(同一性)の値を持って同一性の値とする。
【0143】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0144】
本発明に用いられる抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができる(Nature Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)。
【0145】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばカラムクロマトグラフィー、フィルター濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
【0146】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【0147】
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0148】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムを挙げることができる。
【0149】
例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(GEヘルスケア)等を挙げることができる。
【0150】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0151】
本発明における抗ALK2抗体のALK2との結合親和性を示すK値は、好ましくは10-6M以下、例えば10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、10-12M以下などである。
【0152】
6.異所性骨化及び/又は脳腫瘍の治療方法及び該方法に使用するための医薬組成物
本発明は、患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中のALK2の活性化型変異の有無を検出し、ALK2の活性化型変異を有し、330番目のアミノ酸残基(ヒトALK2配列の場合プロリン残基)に変異がない患者に対し、抗ALK2抗体を投与することを含む、ALK2の活性化型変異に起因する疾患の治療及び/又は予防方法を提供する。ALK2の活性化型変異に起因する疾患としては、例えば、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、進行性骨異形成(POH)、外傷性の異所性骨化、人工関節置換術後の異所性骨化、びまん性橋膠腫(DIPG)、脊椎関節炎(SpA)、強直性脊椎炎(AS)、貧血、薄毛等を挙げることができ、好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、進行性骨異形成(POH)、外傷性の異所性骨化、又は人工関節置換術後の異所性骨化であり、より好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)であるが、ALK2の活性化型変異に起因する疾患であれば、これらに限定されない。FOPの患者には手足の指の癒合又は変形、頚椎の癒合又は変形なども見られ、難聴も認められるが、これらもALK2の活性化型変異に起因する疾患に含まれる。
【0153】
本発明はまた、異所性骨化を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、前記患者が異所性骨化の原因であるALK2蛋白質の活性化型変異を有し、かつ前記ALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンであり、並びに、前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片であることを特徴とする、前記医薬組成物を提供する。
【0154】
実施形態において、上記方法が、(a)患者のALK2の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;(c)患者のALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がないことを確認する工程;及び(d)選別された患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含む。
【0155】
別の実施形態において、上記工程(c)がさらに、患者のALK2がG328V変異を有していないことを確認する工程を含む。
【0156】
さらに別の実施形態において、上記抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与対象となる患者の選別が、(a)異所性骨化の患者におけるALK2の活性化型変異の有無を検出する工程;(b)ALK2の活性化型変異を有する患者を選別する工程;及び(c)ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異を有する患者を除外する工程を含む。
【0157】
別の実施形態において、上記工程(c)がさらに、ALK2のG328V変異を有する患者を除外する工程を含む。
【0158】
本発明における「異所性骨化」としては、例えば、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、等を挙げることができ、好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である。
【0159】
全てのFOPの患者ではALK2に活性化型変異が認められており、これまでに10種類以上の変異の種類が報告されている。それら変異は全てALK2蛋白質の細胞内領域に存在するアミノ酸変異(ミスセンス変異)であることが分かっており、細胞外領域のアミノ酸配列には変化がない。したがって、ALK2の細胞外領域に結合する抗ALK2抗体を用いることにより、変異の種類に寄らず、FOPに対する治療及び/又は予防効果が得られる。
【0160】
FOPの治療とは、FOPの症状の治癒、症状の改善、症状の軽減、又は症状の進行の抑制を意味する。
【0161】
FOPの予防とは、フレアアップ又は異所性骨化が発症することを回避又は抑制することを意味する。
【0162】
或いは、本発明は、患者由来の生物学的試料を用い、該生物学的試料中のALK2の活性化型変異の有無を検出し、G328V変異以外のALK2の活性化型変異を有する患者に対し、抗ALK2抗体を投与することを含む、脳腫瘍の治療及び/又は予防方法を提供する。
【0163】
本発明はさらに、脳腫瘍を有する患者の治療及び/又は予防方法に使用するための医薬組成物であって、前記患者が脳腫瘍の原因であるALK2蛋白質の活性化型変異を有し、並びに、前記組成物の有効成分が、前記ALK2と結合する性質、前記ALK2をクロスリンクする性質、及びBMPシグナル伝達を抑制する性質を含む抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片であることを特徴とする、前記医薬組成物を提供する。
【0164】
本発明における「脳腫瘍」としては、例えば、びまん性橋膠腫(DIPG)、脳幹グリオーマ、膠芽腫、多形性膠芽腫(GBM)、非膠芽腫脳腫瘍、髄膜腫、中枢神経系リンパ腫、神経膠腫、星細胞腫、未分化星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、上衣腫等を挙げることができ、好ましくはびまん性橋膠腫(DIPG)である。
【0165】
DIPGの患者でもALK2に活性化型変異が認められている。ヒトALK2の変異型としては、R206H、R258G、G328E、G328V、G328W、及びG356Dが知られており、G328V変異以外はFOPの患者で認められている変異と共通している。G328V変異が存在する場合を除き、抗ALK2抗体はALK2阻害活性を示すことから、本発明に用いられる抗ALK2抗体は、G328V変異以外のALK2活性化型変異を有する患者おいて、DIPGに対する治療及び/又は予防効果を有する。
【0166】
In vitroでの抗ALK2抗体によるALK2の生物活性(BMPシグナル阻害活性)は、例えば、BMP応答配列を挿入したレポータープラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイ、SMAD1/5/8のリン酸化、BMP標的遺伝子の発現解析、又はBMPリガンドによる刺激によって骨芽細胞への分化を誘導させたマウス筋芽細胞C2C12におけるアルカリフォスファターゼ活性を測定することで確認できる。
【0167】
In vivoでの実験動物を利用した抗ALK2抗体の異所性骨化に対する治療又は予防効果は、例えば、マウスの筋肉にBMPリガンド含有ペレットを移植した異所性骨化誘導モデル、又は変異ALK2を導入したFOPモデルマウスに対して抗ALK2抗体を皮下又は静脈投与し、異所性骨の形成を解析することで確認することができる。或いは、脳腫瘍に対する治療又は予防効果は、例えば、免疫不全マウスに患者由来の腫瘍細胞を脳又は皮下等に移植したモデルに対して抗ALK2抗体を皮下又は静脈投与し、腫瘍の増殖やマウスの生存日数を解析することで確認することができる。
【0168】
本発明の方法において、治療又は予防の対象となる患者は、ALK2の活性化型変異を有する患者であって、ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がない患者(330番目のアミノ酸残基がプロリンである患者)、又はG328V変異がない患者(328番目のアミノ酸残基がバリンに置換されていない患者)であり、好ましくは、ALK2の330番目のアミノ酸残基の変異を有しておらず、且つG328V変異以外のALK2の活性化型変異を有する患者である。ALK2の活性化型変異としては、L196P、delP197_F198insL(「PF-197-8L」とも称する)、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、R375P等が挙げられるが、ALK2を活性化させる変異である限り、これらに限定されない。
【0169】
本発明において用いられる抗ALK2抗体は、異所性骨化の治療又は予防に対しては該抗体単独で、或いは少なくとも一つの他の異所性骨化治療剤と併用して投与することができ、脳腫瘍の治療又は予防に対しては該抗体単独で、或いは少なくとも一つの他の脳腫瘍治療剤、放射線治療、免疫療法、又は化学療法などと併用して投与することができる。
【0170】
抗ALK2抗体と併用して投与できる他の異所性骨化治療剤としては、抗炎症剤、ステロイド剤、ビスフォスフォネート、筋弛緩剤、レチノイン酸受容体(RAR)γアゴニスト等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0171】
抗炎症剤としては、アスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ、アザチオプリン、ペニシラミン、メトトレキセート、スルファサラジン、レフルノミド、インフリキシマブ、エタネルセプト等を挙げることができ、好ましくはインドメタシン、イブプロフェン、ピロキシカム、又はセレコキシブである。
【0172】
ステロイド剤としては、プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン等を挙げることができ、好ましくはプレドニゾロンである。
【0173】
ビスフォスフォネートとしては、アレンドロネート、シマドロネート、クロドロネート、エチドロネート、イバンドロネート、インカドロネート、ミノドロネート、ネリドロネート、オルパドロネート、パミドロネート、ピリドロネート、リセドロネート、チルドロネート、ゾレドロネート等を挙げることができ、好ましくはパミドロネート、又はゾレドロネートである。
【0174】
筋弛緩剤としては、シクロベンザプリン、メタキサロン、バクロフェン等を挙げることができ、好ましくはバクロフェンである。
【0175】
レチノイン酸受容体γアゴニストとしては、Palovarotene等を挙げることができる。
【0176】
抗ALK2抗体と併用して投与できる他の脳腫瘍治療剤としては、例えば、テモゾロミド、ベバシズマブ、カルムスチン、ロムスチン、塩酸プロカルバジン、ビンクリスチン等を挙げることができる。
【0177】
異所性骨化又は脳腫瘍の状態やどの程度の治療及び/又は予防を目指すかによって、2、3或いはそれ以上の他の治療剤を投与することもできるし、それらの他の治療剤は同じ製剤の中に封入することによって同時に投与することができる。他の治療剤と抗ALK2抗体は同じ製剤の中に封入することによって同時に投与することもできる。また、抗ALK2抗体と他の治療剤を別々の製剤に封入して同時に投与することもできる。さらに、他の薬剤と抗ALK2抗体を相前後して別々に投与することもできる。すなわち、他の治療剤を投与した後に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を投与するか、或いは抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を投与した後に他の治療剤を投与しても良い。遺伝子治療において投与する場合には、蛋白質性の異所性骨化又は脳腫瘍治療剤の遺伝子と抗ALK2抗体の遺伝子は、別々の或いは同じプロモーター領域の下流に挿入することができ、別々の或いは、同じベクターに導入することができる。
【0178】
抗ALK2抗体、或いはそのフラグメントに対し異所性骨化又は脳腫瘍治療剤を結合させることにより、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates:principles and progress」,Advanced Drug Delivery Reviews,(2001)53,171-216記載の標的型薬物複合体を製造することができる。この目的には、抗体分子のほか、ALK2との結合能(もしくは、認識性)及びALK2に対するクロスリンク能を完全消失していない限り、いずれの抗体フラグメントも適用可能であるが、例えば、F(ab’)等のフラグメントを例として挙げることができる。抗ALK2抗体又は該抗体のフラグメントとFOP治療剤との結合様式は、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates:principles and progress」,Advanced Drug Delivery Reviews,(2001)53,171-216、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press,California(1996)、Putnam and J.Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123等に記載される種々の形態があり得る。すなわち、抗ALK2抗体と異所性骨化又は脳腫瘍治療剤が化学的に直接或いはオリゴペプチド等のスペーサーを介在して結合される様式や、適当な薬物担体を介在して結合される様式を挙げることができる。薬物担体の例としては、リポソーム、ナノ粒子、ナノミセル、水溶性高分子等のドラッグデリバリーシステム(例えばX.Yu et al.,J Nanomater.2016;2016:doi:10.1155/2016/1087250、J. Wang et al.,Drug Delivery,25:1,1319-1327,DOI:10.1080/10717544.2018.1477857)を挙げることができる。これら薬物担体が介在される様式としては、より具体的には、異所性骨化又は脳腫瘍治療剤がリポソームに包含され、該リポソームと抗体とが結合した様式、及び、異所性骨化又は脳腫瘍治療剤が水溶性高分子(分子量1000~10万程度の化合物)に化学的に直接或いはオリゴペプチド等のスペーサーを介在させて結合され、該水溶性高分子に抗体が結合した様式、を例として挙げることができる。抗体(又は該フラグメント)と異所性骨化又は脳腫瘍治療剤、リポソーム及び水溶性高分子等の薬物担体との結合は、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press,California(1996)、Putnam and J.Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。異所性骨化又は脳腫瘍治療剤のリポソームへの包含は、D.D.Lasic「Liposomes:From Physics to Applications」,Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam(1993)等に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。異所性骨化又は脳腫瘍治療剤の水溶性高分子への結合は、D.Putnam and J Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123記載の方法等の当業者周知の方法により、実施することができる。抗体(又はそのフラグメント)と蛋白質性の異所性骨化又は脳腫瘍治療剤(例えば抗体又はそのフラグメント)との複合体は、上記の方法のほか、遺伝子工学的に、当業者周知の方法により作製することができる。
【0179】
本発明に用いられる抗ALK2抗体の投与量は、ヒト型抗ALK2抗体を患者に対して投与する際には、例えば約0.1~100mg/kg体重を1~180日間に1回又は複数回投与すればよい。しかし、投与量や投与回数は、一般に、患者の性別、体重、年齢、症状、重篤度、副作用などを考慮して決定されるべきものであるので、上記の用量や用法には限定されないものとする。
【0180】
本発明に用いられる抗ALK2抗体は、非限定的に、例えば点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などを挙げることができる。投与経路は、経口経路又は非経口経路であり、非経口経路には、非限定的に、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、直腸内、経粘膜内、皮内、腹腔内、脳室内などの経路が挙げられる。
【0181】
7.患者について治療及び/又は予防適格であるかの判定
本発明における上記抗ALK2抗体及び該抗体を含む医薬組成物を投与することによってALK2蛋白質の変異(例えば、ALK2の活性化型変異)を有する患者を有効に治療及び/又は予防するために、以下の方法を実施することができる。
【0182】
第1の方法は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクを予測する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクが低いと判定する工程を含む、前記方法である。
【0183】
第2の方法は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性を予測する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性があると判定する工程を含む、前記方法である。
【0184】
第3の方法は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者を選別する方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者として選別する工程を含む、前記方法である。
【0185】
第4の方法は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による疾患の治療及び/又は予防方法であって、(a)患者のALK2の活性化型変異及び330番目のアミノ酸残基の変異の有無を検出する工程;及び(b)ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与する工程を含む、前記方法である。
【0186】
第4の方法では、第1~第3のいずれかに記載の方法の工程(b)、すなわち、
(第1の方法の工程(b))
ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による副作用の発現リスクが低いと判定する工程、
(第2の方法の工程(b))
ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防応答性があると判定する工程、
(第3の方法の工程(b))
ALK2の活性化型変異を有し、かつ330番目のアミノ酸残基に変異がない患者を抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防の対象患者として選別する工程、
の少なくとも1つを行うことをさらに含むことができる。これによって、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の投与による治療及び/又は予防に適格な患者であるか、患者に副作用を与えないか、などを判定したのち、適格と認められた患者に対し、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を投与し治療効果を引き出すことができるという、いわゆるオーダーメード治療を患者に対し実施することができる。
【0187】
本明細書中で使用される「判定」という用語は、決定すること、評価すること、あるいは判定支援することを包含する。
【0188】
上記第1の方法から第4の方法において、上記抗ALK2抗体又はその抗原結合断片の投与が、好ましくは上記6.で記載し説明した医薬組成物の投与である。
【0189】
上記第1の方法から第4の方法において、上記工程(b)がさらに、ALK2の活性化型変異がG328V変異ではないことを確認する工程を含むことができる。
【0190】
さらに、上記第1の方法から第4の方法において、上記ALK2の活性化型変異が、好ましくはL196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つ、或いは、R206H、R258G、G328E、G328W、及びG356Dから選択される少なくとも一つである。
【0191】
さらにまた、上記第1の方法から第4の方法において、上記患者が、疾患が特定されていない被験者、或いはALK2の活性化型変異に起因する疾患を有すると疑われる被験者であり、並びに、治療すべき上記疾患が、例えばALK2の活性化型変異に起因する疾患、好ましくは異所性骨化又は脳腫瘍であり、より好ましくは異所性骨化である。これら疾患の具体例は上記6.に記載されている。さらに好ましい疾患は、限定することを意図しないが、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)又はびまん性橋膠腫(DIPG)であり、より好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である。
【実施例
【0192】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊)に記載の方法により行うか、又は、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って使用した。
【0193】
<実施例1>
抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA)のBMPシグナル伝達活性化作用のルシフェラーゼレポーターアッセイによる評価
【0194】
実験に用いた抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA)はWO2016/121908の実施例12に記載の方法により作製した。
【0195】
作製した抗ALK2抗体を介したBMP細胞内シグナル伝達の活性化作用は、BMP特異的なルシフェラーゼレポーターを用いて解析した。HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼアッセイ用96穴白色プレート(CORNING社製)に播種し、10%FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。翌日、ヒト又はマウスALK2の野生型及びR206H変異型発現プラスミドをそれぞれpGL4.26/Id1WT4F-luc(Genes Cells,7,949(2002))とともに、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて導入した。3時間後、培地を新鮮なOPTI-MEM I(LifeTechnologies社製)に交換した後に、段階希釈した抗体を添加し、さらに一晩培養した。翌日、One-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いてルシフェラーゼ活性をプレートリーダーSpectraMaxM4(Molecular Devices社製)で測定した。
【0196】
結果を図1に記載する。27D-H2L2_LALAはマウスのR206H変異型ALK2を発現させたHEK293細胞においてのみ、BMP特異的ルシフェラーゼ活性を濃度依存的に上昇させることが確認された(図1Aの下図)。一方で、ヒトのR206H変異型ALK2(図1Bの下図)又はヒト・マウスの野生型ALK2(図1Aの上図、図1Bの上図)の発現細胞ではBMPレポーターの活性上昇は認められなかった。
【0197】
<実施例2>
抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA)のFab(27D-H2L2_Fab)及びF(ab')(27D-H2L2_F(ab’))の調製
2)-1
27D-H2L2_LALAのFab化
27D-H2L2_LALAをPapain from Papaya latex (SIGMA-ALDRICH)により限定的に切断し、HiLoad 26/600 Superdex 200 pg(GE Healthcare)でFc断片等を除去した後、HiTrap MabSelect SuRe,1 mL(GE Healthcare)で未反応の27D-H2L2_LALAを分離し、Fabを回収した。
【0198】
2)-2
27D-H2L2_LALAのF(ab')
27D-H2L2_LALAをEndoproteinase Glu-C(SIGMA-ALDRICH)により限定的に切断し、HiTrap MabSelect SuRe,10 mL(GE Healthcare)で未反応の27D-H2L2_LALAを分離した後、Bio-Scale CHT Type I、5 mL(BIO-RAD)を用いてF(ab')を回収した。
【0199】
<実施例3>
抗ALK2抗体のFab(27D-H2L2_Fab)及びF(ab')(27D-H2L2_F(ab’))におけるBMPシグナル伝達活性化作用のルシフェラーゼレポーターアッセイによる評価
実施例2にて作製した27D-H2L2_Fab及び27D-H2L2_F(ab’)を介したBMP細胞内シグナル伝達の活性化作用は、BMP特異的なルシフェラーゼレポーターを用いて解析した。比較対照として、全長の抗ALK2抗体である27D-H2L2_LALAを用いた。ルシフェラーゼレポーターアッセイは、実施例1と同様の方法にて行った。
【0200】
結果を図2に記載する。27D-H2L2_F(ab’)は27D-H2L2_LALAと同様にマウスのR206H変異型ALK2を発現させたHEK293細胞においてのみ、BMP特異的ルシフェラーゼ活性を濃度依存的に上昇させることが確認された。一方で、27D-H2L2_Fabではいずれの条件においてもBMPレポーターの活性上昇は認められなかった。
【0201】
<実施例4>
抗ALK2抗体によるALK2分子のクロスリンク活性のin vitro評価
実施例1、3で確認された27D-H2L2_LALA及び27D-H2L2_F(ab’)によるBMP特異的ルシフェラーゼレポーターの活性化作用が、ALK2分子のクロスリンクによる可能性を検証する目的で、NanoBiTアッセイ(Promega社製)を行った。pBit1.1-C[TK/LgBiT]とpBit2.1-C[TK/SmBiT]Vector(Promega社製)に全長ヒトALK2を挿入した発現ベクターを構築した。C2C12細胞を、5×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼアッセイ用96穴白色プレート(Greiner社製)に播種し、15%FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。翌日、2種類のALK2発現プラスミドをLipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて導入した。2.5時間後、培地を新鮮なOPTI-MEM I(LifeTechnologies社製)に交換した後に、さらに一晩培養した。翌日、段階希釈した抗体をNano-Glo Live Cell Assay System(Promega社製)基質と共に添加し、15分間培養したのちにルシフェラーゼ活性をプレートリーダーGENios(TECAN社製)で測定した。
【0202】
結果を図3に示す。A2-27D、27D-H2L2_LALA及び27D-H2L2_F(ab’)は抗体の濃度依存的にALK2のクロスリンク形成(又は、ALK2の複合体形成)を促進したが、27D-H2L2_FabはALK2のクロスリンク形成(又は、ALK2の複合体形成)を誘導しないことが確認された。
【0203】
<実施例5>
抗ALK2抗体によるBMP特異的ルシフェラーゼレポーターの活性化作用に対する182及び330番目のアミノ酸置換が与える影響の検証
5)-1
ヒト・カニクイザル・イヌ・ラット・マウスの全長ALK2のアミノ酸配列のアラインメント
配列アラインメントの結果を図4に示す。ヒト、カニクイザル、イヌ、ラット及びマウスのALK2細胞内領域のアミノ酸を比較すると、182番と330番のアミノ酸残基が異なっていた。
【0204】
5)-2
抗ALK2抗体によるBMP特異的ルシフェラーゼレポーターの活性化作用に対する182及び330番目のアミノ酸置換が与える影響の検証
ヒトとマウスのALK2の細胞内領域で異なるD182E及びP330Sの役割を解析するために、それぞれヒトALK2の野生型及びR206H変異体に、D182E又はP330S変異を導入したpcDEF3を用いた発現ベクターを構築した。HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼレポーターアッセイ用96穴白色プレート(Greiner社製)に播種し、10%FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。翌日、ALK2発現ベクターとpGL4.26/Id1WT4F-luc(Genes Cells,7,949(2002))、phRL SV40(Promega社製)を、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて導入した。2.5時間後、培地を段階希釈した抗体A2-27Dを含む新鮮なOPTI-MEM I(LifeTechnologies社製)に交換し、さらに1晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、Firefly、及びRenillaのルシフェラーゼ活性をプレートリーダーGENios(TECAN社製)で測定した。
【0205】
結果を図5に示す。マウスのR206H変異型ALK2と同様に、P330S変異を導入したR206H変異型ヒトALK2のみ、A2-27Dの濃度依存的に活性が上昇することが確認された。
【0206】
<実施例6>
抗ALK2抗体によるBMP特異的ルシフェラーゼレポーターの活性化作用に対する330番目のアミノ酸置換が与える影響の検証
ヒトALK2のP330の役割を解析するために、ヒトALK2の野生型及びR206H変異体に、それぞれP330D,P330E、P330A、P330V変異を導入したpcDEF3を用いた発現ベクターを構築した。また、マウスALK2のS330の役割を解析するために、マウスALK2の野生型及びR206H変異体に、それぞれS330P変異を導入した発現ベクターを構築した。実施例5と同様の方法で、これらの発現ベクターをHEK293A細胞に導入し、A2-27Dを含む培地で一晩培養したのち、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0207】
結果を図6に示す。マウスのR206H変異体は、S330P変異を導入するとA2-27Dによって活性が抑制された(すなわち、アンタゴニスト活性)が、S330(330番目のアミノ酸残基がセリンである)のときにはA2-27Dによって活性が促進された(すなわち、アゴニスト活性)。一方、ヒトのR206H変異体は、P330S、P330D,P330E、P330A変異を導入するとA2-27Dによって活性が促進された(すなわち、アゴニスト活性)が、P330V変異では活性が抑制されることが明かとなった。
【0208】
<実施例7>
4種類の抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA、15A-H4L6_IgG2、A2-11E、A2-25C)のBMPシグナル伝達活性化作用のルシフェラーゼレポーターアッセイによる評価
実験に用いた抗ALK2抗体(27D-H2L2_LALA、15A-H4L6_IgG2、A2-11E、A2-25C)はWO2016/121908の実施例12、11及び1に記載の方法により作製した。
【0209】
作製した抗ALK2抗体を介したBMP細胞内シグナル伝達の活性化作用は、実施例1と同様の方法によりBMP特異的なルシフェラーゼレポーターを用いて解析した。
【0210】
結果を図7に示した。15A-H4L6_IgG2、A2-11E、A2-25Cは27D-H2L2_LALAと同様にマウスのR206H変異型ALK2を発現させたHEK293細胞においてのみ、BMP特異的ルシフェラーゼ活性を濃度依存的に上昇させることが確認された。一方で、ヒトのR206H変異型ALK2発現細胞ではBMPレポーターの活性上昇は認められなかった。
【0211】
<実施例8>
R206H変異以外の様々な変異型ALK2に対する抗ALK2抗体によるBMP特異的ルシフェラーゼレポーターの活性化作用の検証
FOP及びDIPGで見出された14種類のヒトALK2変異体(L196P,P197F198del_insL(PF197-8Lとも称する),R202I,R206H,Q207E,R258G,R258S,G325A,G328E,G328R,G328V,G328W,G356D,R375P)と、構成的活性型変異体Q207D変異を導入したpcDEF3を用いた発現ベクターを構築した。これらを実施例5、6と同様にHEK293細胞に過剰発現させて、段階希釈したA2-27Dを含む培地で一晩培養したのち、ルシフェラーゼ活性を測定した。このとき、G328V変異体は他の変異体の1/3量(例えば、他の変異体が37.5ng/穴のとき12.5ng/穴である)、Q207D変異体は1/20量(例えば、他の変異体が37.5ng/穴のとき1.875ng/穴である)となるようにアッセイに使用された。
【0212】
結果を図8に示す。ヒトALK2変異体の中で、DIPGのみに見出されているG328Vと、構成的活性型Q207Dは、A2-27Dの濃度依存的に活性が促進され、他のヒトALK2変異体はA2-27Dの濃度依存的に抑制されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0213】
本発明により、ALK2の活性化型変異を有し、ALK2の330番目のアミノ酸残基に変異がない患者であって、好ましくはG328V変異がない患者に対し、ALK2との結合能及びALK2に対するクロスリンク能を有する抗ALK2抗体を投与することによって、異所性骨化及び/又は脳腫瘍を効果的に治療及び/又は予防できることが明らかとなった。また、本発明により、抗ALK2抗体の投与による副作用の発現リスクを予測できること、抗ALK2抗体の投与による治療及び/又は予防応答性を予測できること、並びに、抗ALK2抗体の投与による治療及び/又は予防の対象を選別できることが明らかとなった。
【配列表フリーテキスト】
【0214】
配列番号17:Glnは置換アミノ酸残基である。
配列番号30:ヒト化hA2-15A-L4のアミノ酸配列。
配列番号31:ヒト化hA2-15A-H4のアミノ酸配列。
配列番号32:ヒト化hA2-15A-L6のアミノ酸配列。
配列番号33:ヒト化hA2-15A-H4_IgG2タイプのアミノ酸配列。
配列番号34:ヒト化hA2-27D-H2のアミノ酸配列。
配列番号35:ヒト化hA2-27D-L2のアミノ酸配列。
配列番号36:ヒト化hA2-27D-H3のアミノ酸配列。
配列番号37:ヒト化hA2-27D-L4のアミノ酸配列。
配列番号38:ヒト化hA2-27D-H2_LALAのアミノ酸配列。
配列番号39:ヒト化hA2-27D-H3_LALAのアミノ酸配列。
【0215】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
0007125979000001.app