(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】アモルファス金属又は一部がアモルファス金属から形成される鋳造部品を製造するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/12 20060101AFI20220818BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20220818BHJP
B22D 17/30 20060101ALI20220818BHJP
B22D 27/02 20060101ALI20220818BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20220818BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20220818BHJP
B22D 17/14 20060101ALI20220818BHJP
B22D 27/11 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
B22D17/12
B22D17/00 B
B22D17/30 Z
B22D27/02 B
B22D17/20 G
B22D17/20 F
B22D17/22 D
B22D17/14
B22D27/02 C
B22D27/11
(21)【出願番号】P 2021521556
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2019066761
(87)【国際公開番号】W WO2020002291
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】102018115815.7
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521000507
【氏名又は名称】アモルファス メタル ソリューションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】AMORPHOUS METAL SOLUTIONS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ボクトラー,ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】グロス,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ヘクラー,シモン
(72)【発明者】
【氏名】クボール,アレクサンダー
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-068101(JP,A)
【文献】特開2000-254765(JP,A)
【文献】特開2010-227961(JP,A)
【文献】特開2014-039936(JP,A)
【文献】特開平08-109419(JP,A)
【文献】特開2000-061614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0271689(US,A1)
【文献】特開2006-341289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00-17/32
B22D 23/00
B22D 27/00-27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス金属又は一部がアモルファス金属から形成される鋳造部品(36)を製造するための装置(1;1a;1b;1c;1d;1e)であって、
前記鋳造部品(36)を形成する鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を導入するための少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)を備えた鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)と、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)の溶融装置と、を含む、装置において、
前記溶融装置は、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を溶融させるために設けられている少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13c;13d;13e)を有し、
該少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13c;13d;13e)は、少なくとも1つのアーク(30;30a,39)を形成するための手段を有し、
前記少なくとも1つのアーク(30;30a,39)を形成するための手段と、溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)の鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)内に圧入する少なくとも1つのプランジャー(20;20a;20c;20d;20e)とが、1の気密なハウジング(2;2a;2c;2d)内の、
前記少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)が位置する側に設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアーク(30;30a,39)を形成するための手段は、相互に距離を置いて配置された少なくとも2つの電極(32;32a,38;32c)を含み、該2つの電極の間に、前記少なくとも1つのアーク(30;30a,39)を形成することができる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの電極(32;32a,38;32c)のうちの一方は、少なくとも部分的に、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)によって形成されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13d;13e)は、前記鋳型(3;3a;3b;3d;3e)に設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13d;13e)は、前記鋳造材料(15;15a;15b;15d;15e)を収容するための、凹部(14e)及び/又はベース(14;14a;14d)を有し、該凹部(14e)及び/又はベース(14;14a;14d)が、少なくとも部分的に、前記少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16d;16e)の周囲に配置されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの溶融領域(13;13c)は、前記プランジャー(20;20c)の前記鋳造材料(15;15c)を押し出す端面(25;25c)と、内部に該プランジャー(20;20c)を案内するように支承している、円筒状のスリーブ(19;19c)を備えるガイド手段の内壁(26;26c)と、によって画定されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのプランジャー(20;20a;20c;20d;20e)は、内部に該プランジャー(20;20a;20c;20d;20e)を案内するように支承しているガイド手段に対して相対的に移動可能であり、かつ、該プランジャー(20;20a;20c;20d;20e)を元の位置に復帰させる復元手段(22:22a;22c;22d;22e)の復元力の作用方向に対向する方向に移動可能である、請求項1から6のいずれか1項
に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13d;13e)は、前記ガイド手段を収容するためのリング状の溝(18;18a;18d)を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)は、温度変更が可能である、請求項1から8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記装置(1;1a;1b;1c;1d;1e)は、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)に導入する際に起動させることができる、溶融された鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)に吸引するための吸引装置及び/又は脱気装置(43)を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
一部がアモルファス金属又はアモルファス金属から形成される鋳造部品(36)を製造するための方法において、
鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を溶融領域(13;13a;13b;40,13c;13d;13e)に導入し、該溶融領域(13;13a;13b;40,13c;13d;13e)において、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)をアーク(30;30a;39)及び/又は電子ビームによって、前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)の溶融温度を上回る温度に加熱するステップと、
溶融された前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を、プランジャー(20;20a;20c;20d;20e)を介して、鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)の
少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)から鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)に圧入するステップと、
前記鋳造部品(36)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)から取り出すステップと、
を有し、
前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を、前記溶融領域(13;13a;13b;40,13c;13d;13e)に導入するステップ、前記溶融した該鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を前記鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)に圧入するステップ、および前記鋳造部品(36)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)から取り出すステップにおいて、
前記アーク(30;30a,39)を形成するための手段と、溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を、前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)の鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)内に圧入するプランジャー(20;20a;20c;20d;20e)とを、1の気密なハウジング(2;2a;2c;2d)内の、
前記少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)が位置する側に配置
することを特徴とする方法。
【請求項12】
前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を、該鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)の溶融温度を上回る1,300℃までの温度に加熱する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記鋳型(3;3a;3b;3d;3e)は、前記少なくとも1つの溶融領域(13;13a;13b;40,13d;13e)と、溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15d;15e)を該鋳型(3;3a;3b;3d;3e)に充填するための少なくとも1つの注入開口部(16;16a;16b,41;16d;16e)と、を有し、
前記鋳造材料(15;15a;15b;15d;15e)を、少なくとも1つの前記溶融領域(13;13a;13b;40,13d;13e)に配置し、該鋳造材料(15;15a;15b;15d;15e)によって、前記注入開口部(16;16a;16b,41;16d;16e)を、少なくとも部分的に覆う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を圧入する前に、前記鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)を脱気する、請求項11から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)の前記鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)に導入するために、前記プランジャー(20;20a;20c;20d;20e)の、該プランジャーを案内するガイド手段(19;19a;19c;19d;19e)に対する相対的な移動を、該プランジャー(20;20a;20c;20d;20e)を元の位置に復帰させる復元手段(22;22a;22c;22d;22e)の復元力の作用方向に対向する方向に行うことにより、溶融した前記鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)を、前記注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)を介して、前記鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)の前記鋳型キャビティ(17;17a;17c;17d;17e)に圧入して、前記鋳造部品(36)を形成する、請求項11から14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス金属又は一部がアモルファス金属から形成される鋳造部品を製造するための装置に関し、この装置は、鋳造部品を形成する鋳造材料を導入するための少なくとも1つの注入開口部を備えた鋳型と、鋳造材料の溶融装置とを含む。更に、本発明は、鋳造部品を製造するための方法並びにアモルファス金属又は一部がアモルファス金属から成る鋳造部品に関する。
【0002】
アモルファス金属は、結晶凝固しない金属材料のことである。アモルファス金属は、金属ガラスとも称され、そのアモルファス構造又は一部がアモルファス構造からなるため、機械的特性が優れている。
【0003】
従来技術には、アモルファス金属から成る鋳造部品を製造するための装置並びに方法が開示されている。これに関して、鋳造材料は、坩堝において誘導加熱され、ダイカスト法において、プランジャーを用いて注入開口部を介してダイカスト金型に圧入される。
【0004】
欠点としては、溶融坩堝を使用することによって、不純物が溶融物に混入する可能性があり、この不純物が、凝固の際に結晶化に影響を及ぼす可能性がある。これによって、有利な機械的特性が失われる。更に、鋳造材料の誘導加熱によって、いわゆるコールドクルーシブル法では、鋳造材料の溶融温度を上回る約50℃から60℃までの低い過熱しか達成できない。アモルファス凝固を保証するためには、鋳造材料は、好ましくは、その溶融温度を大幅に上回る温度、特に75℃から1,300℃の温度まで加熱しなければならない。
【0005】
本発明が基礎とする課題は、鋳造材料の非常に高温の過熱並びに簡単な加工性を実現する、アモルファス金属又は一部がアモルファス金属から形成される鋳造部品を製造するための装置を提供することにある。
【0006】
本発明によれば、前記課題は、溶融装置が、前記鋳造材料を溶融させるために設けられた少なくとも1つの領域を有することによって解決される。
【0007】
本装置の溶融領域において、鋳造材料を溶融させることができ、また1,300℃まで過熱することができる。このために必要とされるエネルギーは、例えばペレット状で存在してもよい鋳造材料に特に適切に導入することができる。装置の周囲領域又は隣接する構成部材には、有利には、熱的な負荷は加えられない。更には、鋳型に導入する直前に鋳造材料を溶融させることができる。溶融物の温度が大幅に低下する可能性がある炉からの移送は必要ない。本発明による装置により実現される高温の過熱によって、製造される鋳造部品をアモルファス又は一部をアモルファスで、特に大部分をアモルファスで凝固できることが更に保証される。
【0008】
好適には、溶融装置は、少なくとも1つの溶融領域に少なくとも1つのアークを形成するための手段を有しており、この手段は、特に、相互に距離を置いて配置された少なくとも2つの電極を含んでおり、それらの電極の間に、少なくとも1つのアークを形成することができる。アークを、電極から、溶融すべき、特にペレットとして存在する鋳造材料へと延ばすことができ、及び/又は鋳造材料の表面にわたり誘導することができる。有利には、溶融に必要とされるエネルギーが、ターゲットとしてのペレットに注入され、周囲領域には、熱的な負荷は加えられない。それぞれにおいて鋳造材料が溶融されるものとする複数の領域が設けられている場合には、複数の電極を設けることができ、それらの電極から、それぞれ少なくとも1つのアークが、溶融すべき鋳造材料へと延びる。単一の、好ましくはペレット状の鋳造材料を溶融させるために、複数のアークが形成されることも考えられる。鋳造材料の非常に高温の過熱及びより高速な溶融が実現される。
【0009】
更に、鋳造材料がレーザ及び/又は電子ビームによって溶融されることも考えられる。
【0010】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つの電極のうちの一つが、少なくとも部分的に鋳造材料によって形成されている。有利には、鋳造材料は、個別の電気的な接触接続を行う必要はない。これによって、製造プロセスをより容易に取り扱うことができる。
【0011】
本発明の他の実施形態では、少なくとも1つの溶融領域が鋳型に設けられている。これに関して、溶融領域は、好ましくは流体が流れるように、鋳型の注入開口部と接続されている。好ましくはアーク、レーザビーム及び/又は電子ビームが鋳造材料の溶融に利用されることによって、エネルギーの注入が局所的に鋳造材料に限定されている。鋳型の熱的な損傷は排除されている。有利には、鋳造材料を溶融し、遅延なく、注入開口部を介して型に導入することができる。離れて位置する溶融領域から鋳型までの移送経路を省略することができる。
【0012】
複数の溶融領域が設けられている場合には、例えば、単一の鋳型を用いて、複数の鋳造部品を同時に製造することができる。
【0013】
また、複数の注入開口部を介して単一の鋳型キャビティに充填するために、複数の溶融領域が設けられることも考えられる。有利には、より大きい鋳造部品を製造することができる。
【0014】
好適には、少なくとも1つの溶融領域が、鋳造材料を収容するための、特に凹部及び/又はベースを含んでおり、また好ましくは、少なくとも部分的に、少なくとも1つの注入開口部の周囲に配置されている。鋳造材料を、ベース上に置くか、又は凹部を設けて溶融させることができる。また、載置ベースを有する凹部が設けられることも考えられる。
【0015】
流体が流れるように注入開口部がベース及び/又は凹部と接続されていることによって、溶融された鋳造材料を直接的に、その注入開口部を介して、鋳型のキャビティ内に導入することができる。
【0016】
鋳造材料は、例えば、ペレットとして注入開口部の上に置くことができ、それによって注入開口部が覆われる。溶融して、アモルファス又は一部がアモルファスの状態で凝固した金属合金の高い粘性及び/又は高い表面張力に起因して、ペレットは、溶融された状態での形状をとどめ、またプランジャーを用いて圧入されるまで注入開口部を覆う。
【0017】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの溶融領域が、溶融された鋳造材料を鋳型のキャビティ内に導入するために設けられている、特に円柱状のプランジャーの端面と、その内部にプランジャーが案内されるように支承されているガイド手段の内壁と、によって画定されており、この場合、ガイド手段はとりわけ円筒状のスリーブを含む。内壁及びプランジャーの端面は坩堝を形成し、この坩堝において、鋳型に導入される直前に鋳造材料を溶融させることができる。重力の作用方向に抗い(「下方から」)鋳型を充填することが有利に実現される。プランジャーの移動が制御される場合には、型を充填する速度又は速度プロファイルを設定することができる。このために、特にプランジャー及びスリーブを鋳型の注入開口部の方向に同時に移動させるための制御装置を設けることができる。
【0018】
溶融された鋳造材料が、鋳型への導入前に極めて短時間しか、形成された坩堝に滞留しないことによって、汚染が有利に排除されている。
【0019】
本発明の他の実施形態では、溶融された鋳造材料を鋳型のキャビティに導入するために設けられている、少なくとも1つの特に円柱状のプランジャーは、その内部においてプランジャーが案内されるように支承されているガイド手段に対して相対的に移動可能であり、特に、復元手段の復元力の作用方向に抗って移動可能である。復元手段は、例えば、ばねを含むことができる。例えばスリーブとして形成されているガイド手段の壁部の一部は、溶融した鋳造材料と接触するプランジャーの底面を超えて突出している。これによって、スリーブが鋳型に接続した際に、スリーブの内壁と、プランジャーの端面と、注入開口部を有する鋳型の一部とによって画定される空間が形成される。ガイド手段に対してプランジャーが相対的に移動することによって、空間が縮小され、その空間内に配置された、溶融された鋳造材料が型に圧入される。鋳造材料の導入が終了すると、プランジャー及びスリーブは一緒に、開始位置に向かって、鋳型から離れる方向に案内される。この際、復元力によって、プランジャーはその出発位置へと移動される。出発位置では、空間が最大の容積を有しており、また新たな鋳造工程を実施することができる。
【0020】
本発明の一の実施形態では、少なくとも1の溶融領域が、ガイド手段を収容するための、好ましくはリング状の溝を有している。リング状の溝は、特に、鋳型に設けられている。これによって、鋳造材料が鋳型に導入される前に鋳造材料を収容する空間を形成するために、ガイド手段を、注入開口部を有する鋳型の一部に密に接続させることができる。これによって、圧入時には、鋳造材料が鋳型にのみ導入される。
【0021】
好適には、鋳型の温度は変更可能である。好ましくは、温度は、調整装置によって調整可能である。鋳型は、例えば、空冷式、水冷式および/または油冷式であってよい。更に、鋳型の温度は、プロセスを連続的に実施する際に一定に維持することができる。これによって、プロセスの安定性が改善される。
【0022】
本発明の他の実施形態では、装置は、好ましくは鋳造材料を型に導入する際に起動させることができる、溶融された鋳造材料を鋳型に吸引するための吸引装置及び/又は脱気装置を備えている。これによって、プランジャーの圧力の他に、溶融された鋳造材料を鋳型に吸引する吸引力を加えることができる。このことは、特に、溶融された高粘性の合金を鋳型に注ぐ際に有利である。更には、脱気によって、すなわち、例えばアルゴン等のパージガスであってよいフォーミングガスの吸引によって、気泡が鋳造部品に形成される可能性を排除することができる。有利には、非常に優れた鋳造部品品質が実現される。
【0023】
好適には、鋳型が少なくとも2つの部品から成り、また好ましくは、特に伝熱材料から、好ましくは銅又は銅合金から形成されている。アモルファス又は一部がアモルファスで凝固した金属合金の不所望な結晶化を回避するために、高い冷却率が必要とされる。銅又は銅合金から成る鋳型が特に適している。鋳型が少なくとも2つの部品から形成されている場合、鋳型を開閉することができ、また特に永久鋳型として何度も使用することができる。
【0024】
本発明のさらに他の実施形態では、装置が、少なくとも鋳型と少なくとも1つの溶融領域とが設けられている、特に気密なハウジングを有している。有利には、ハウジングを真空にすることができ、及び/又は保護ガス、例えばアルゴン又は別の希ガスで充填することができ、その結果、酸素はもはやハウジング内には存在しなくなる。これによって、溶融時にも、材料の鋳型への導入時にも、鋳造材料の酸化は生じない。有利には、より高い品質の鋳造部品を製造することができる。
【0025】
本発明の一実施形態では、固体の鋳造材料を少なくとも1つの溶融領域に導入するように設計された供給装置が設けられている。この供給装置は、例えば、鋳造プロセスが終了する度に新たなペレットを溶融領域にもたらすペレットマガジンであってよい。有利には、本発明による製造方法の自動化が実現される。
【0026】
好適には、鋳造材料、溶融された鋳造材料及び/又は鋳型の温度を特定するための手段、とりわけ高温計が設けられている。有利には、いつでも温度を監視することができ、特に、鋳造材料の溶融温度を上回る75℃以上1,300℃以下、好ましくは800℃以下の過熱温度を監視することができる。
【0027】
以下では、複数の実施例と、それらの実施例に関する添付の図面とに基づいて、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】本発明による装置の他の実施形態の概略図を示す。
【
図4】本発明による装置の他の実施形態の概略図を示す。
【
図5】本発明による装置の特別な実施形態の概略図を示す。
【
図6】本発明による装置の他の特別な実施形態の詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1aから
図1eにおいて概略的に断面図で図示した装置(1)は、ハウジング(2)を有し、このハウジング(2)内には、銅製の2つの部品から成る水冷式の鋳型(3)が設けられている。鋳型(3)の2つの部品(4、5)はそれぞれ、ロッド(6,7)によって、ハウジング外に取り付けられている、それらのロッド(6,7)を移動させるためのモータ(8,9)にそれぞれ接続されている。ロッド(6,7)の移動によって、鋳型(3)を、両向き矢印(10,11)の方向において、鋳造部品を取り出すために開放することができ、また別の鋳造部品を製造するために閉鎖することができる。
【0030】
鋳型(3)の上面(12)には、溶融領域(13)が設けられており、この溶融領域(13)は、鋳型(3)の2つの部品(4,5)によって形成されているベース(14)を有しており、このベース(14)には鋳造材料ペレット(15)が載置される。鋳型キャビティ(17)に鋳造材料を充填するために用いることができる注入開口部(16)は、ペレット(15)によって完全に覆われている。ベース(14)の周囲には、溝(18)が配置されており、この溝(18)は、円筒状のスリーブ(19)を収容するために設けられている。スリーブ(19)は、円柱状のプランジャー(20)を案内するために設けられており、プランジャー(20)を取り囲んでいる。プランジャー(20)及びスリーブ(19)は、モータ(24)によって、両向き矢印(21)の方向に一緒に移動可能であり、またプランジャー(20)は、スリーブ(19)に対して相対的に、その軸線方向において、ばね(22)の復元力でもって、又は復元力に抗って摺動可能に配置されている。1,300℃、好ましくは800℃まで過熱することができる、溶融した鋳造材料(15)を導入するために、プランジャー(20)及びスリーブ(19)は、スリーブ(19)の下側部分(23)が溝(18)に係合するまで、鋳型(3)の方向に移動される。鋳型(3)の方向へのプランジャー(20)の更なる移動は、ばね(22)の復元力に抗って行われる。プランジャー(20)の端面(25)並びにスリーブの内壁(26)及び鋳型(3)の上面(12)によって形成される、
図1cに図示した空間(27)は、これによって縮小され、その結果、溶融した鋳造材料(15)は、鋳型キャビティ(17)内に垂直方向へ圧入される。
【0031】
更に、この装置は、溶融中のペレット(15)の温度を検出するパイロメータ(28)と、ペレットマガジンとして形成されている供給装置(29)と、を備えている。これによって、鋳造部品が製造される度に、新たなペレット(15)を溶融領域(13)のベース(14)上に自動的に配置することができる。
【0032】
鋳造材料ペレット(15)の加熱は、
図1bに図示した、先端(31)を備えたタングステン電極(32)とペレット(15)との間に形成されるアーク(30)によって行われる。これに関して、ハウジング(2)、鋳型(3)及びペレット(15)は、導電的に相互に接続されており、タングステン電極(32)の対向電極を形成する。タングステン電極(32)は、ハウジング(2)内で移動可能に配置されており、またモータ(33)を用いて、両向き矢印(34)の方向において、溶融領域(13)に向かって移動することができ、溶融後には、溶融領域(13)から離れる方向に移動することができる。
【0033】
更に、
図1には図示していない、溶融領域(13)において鋳造材料ペレット(15)を加熱するよう設計されたレーザビーム及び/又は電子ビームの形成装置が設けられていることも考えられる。
【0034】
更に、図示していない、ハウジング(2)を真空にすることができる真空ポンプと、同様に図示していない、アルゴンのような保護ガスを導入するための手段とが設けられている。付加的に、ハウジング(2)の内部には、チタンプレートとして形成されており、また鋳造材料(15)の溶融前に加熱される、いわゆるゲッタ(35)が配置されている。チタンと酸素との非常に高い親和性、並びにチタンへの酸素の非常に高い可溶性に起因して、残留酸素が、保護ガスが存在するハウジング雰囲気から除去される。このことは、付加的な雰囲気浄化をもたらす。
【0035】
鋳造部品(36)は、
図1aから
図1eに概略的に図示したロック(37)を介して取り出すことができる。これによって、各鋳造工程前に、ハウジング(2)全体を改めて真空にする必要はなくなる。
【0036】
鋳造部品(36)の製造は、以下のステップを、特に以下に列挙する順序で含む:
-
図1aに図示した出発位置から、溶融させる鋳造材料ペレット(15)の上方の、
図1bに図示した最終位置へと、タングステン電極(32)を移動させるステップ、
- ハウジング(2)を真空化し、保護ガス、好ましくはアルゴンを導入するステップ、
- 好ましくはチタンから形成されたゲッタ(35)を、600℃よりも高い温度に加熱するステップ、
- タングステン電極(32)の先端(31)と、ペレット(15)との間に、ペレット(15)を溶融させ、ペレット(15)の溶融温度を上回る75℃から1,300℃までの温度にペレットを過熱させるためのアーク(30)を形成するステップ、
- アークをオフにして、タングステン電極(32)を移動させて、
図1aに図示した出発位置まで戻すステップ、
- プランジャー(20)及びスリーブ(19)を、スリーブ(19)の下側部分(23)が溝(18)に係合するまで、溶融領域(13)の方向に移動させ、
図1cに図示した、溶融したペレット(15)を包囲する空間(27)を、プランジャー(20)と注入開口部(16)との間に形成するステップ、
- 空間(27)を縮小するために、ばね(22)のばね力に抗って、スリーブ(19)に対してプランジャー(20)を相対的に移動させ、それによって、溶融した鋳造材料(15)を、注入開口部(16)を介して鋳型(3)の鋳型キャビティ(17)に圧入し、鋳造部品(36)を形成するステップ(この移動は、
図1cに図示した初期の充填位置から、
図1dに図示した、鋳型キャビティ(17)に鋳造材料(15)が充填される最終位置への移動である。)、
- プランジャー(20)及びスリーブ(19)を、溶融領域(13)の上方の、
図1aに図示した出発位置に戻すように移動させるステップ、
- 鋳型(3)の2つの部品(4,5)を、
図1eに図示した鋳造部品取り出し位置に移動させて、相互に離し、矢印(38)の方向においてロック(37)を介して取り出すステップ、
- 鋳型(3)を閉じ、新たなペレット(15)をペレットマガジン(29)から溶融領域(13)に供給するステップ。
【0037】
鋳造材料の圧入を開始するために起動させることができる、
図1aから
図1eには図示されていない吸引装置が負圧をもたらす付加的な方法ステップも考えられ、この付加的なステップによって、鋳型(3)が脱気され、溶融した鋳造材料(15)が付加的に鋳型(3)内に吸い込まれる。
【0038】
更に、鋳造材料(15)が、レーザビーム及び/又は電子ビームによって溶融されることも考えられる。
【0039】
次に
図2を参照する。この
図2において、同一又は同様に作用する部分には、
図1aから
図1eと同じ参照番号が付されており、またそれらの参照番号には、それぞれ文字aが付されている。
【0040】
図2に図示した装置(1a)は、2つのアーク(30a、39)を形成することによって、鋳造材料ペレット(15a)を溶融するように設計されている2つの電極(32a、38)が設けられている点で、
図1aから
図1eにおける装置とは異なっている。有利なことは、より高速な過熱、より高温の過熱、並びに大きい鋳造材料ペレット(15a)の処理が実現される。
【0041】
次に
図3を参照する。この
図3において、同一又は同様に作用する部分には、
図1aから
図1e及び
図2と同じ参照番号が付されており、またそれらの参照番号には、それぞれ文字bが付されている。
【0042】
図3において平面図で図示した、本発明による装置(1b)の鋳型(3b)は、2つの溶融領域(13b、40)にベースが設けられており、それらのベースの上には、破線で示された2つの注入開口部(16b、41)を覆う2つのペレット(15b)が置かれている点で、
図1及び
図2に図示した装置とは異なっている。各溶融領域(13b、40)における溶融には、それぞれ少なくとも1つのアークと、
図3には図示していない、スリーブを備えたプランジャーが必要であると解される。2つのペレット(15b)は、2つのプランジャー及びスリーブの同期した動きによって溶融され、溶融した鋳造材料ペレット(15b)が鋳型(3b)へ圧入される。
【0043】
この場合、単一の鋳型キャビティを充填するか、又は同時に複数の鋳型キャビティを充填することができる。これによって、本発明による装置により、単一の鋳型を用いて、非常に大きい1つの鋳造部品を製造することができるか、又は複数の鋳造部品を同時に製造することができる。
【0044】
次に
図4を参照する。この
図4において、同一又は同様に作用する部分には、
図1aから
図1e、
図2及び
図3と同じ参照番号が付されており、またそれらの参照番号には、それぞれ文字cが付されている。
【0045】
図4に図示した装置(1c)は、鋳造材料(15c)を鋳型(3c)の下面(42)からこの鋳型(3c)に導入するためのプランジャー(20c)並びにスリーブ(19c)が設けられている点で、
図1に図示した装置とは異なっている。有利には、とくに層状の充填を行うことができる。
図4においては、見やすくするためにペレットのための供給装置もパイロメータも図示していない。
【0046】
ペレット(15c)が置かれる坩堝状の溶融領域(13c)は、プランジャー(20c)の端面(25c)並びにスリーブ(19c)の内壁(26c)によって形成されている。プランジャー(20c)及びペレット(15c)は、タングステン電極(32c)の対向電極を形成し、タングステン電極(32c)とペレット(15c)との間に、ペレット(15c)を溶融させるための、
図4には図示していないアークを形成することができる。
【0047】
次に
図5を参照する。この
図5において、同一又は同様に作用する部分には、
図1aから
図1e、
図2、
図3及び
図4と同じ参照番号が付されており、またそれらの参照番号には、それぞれ文字dが付されている。
【0048】
図5に図示した装置(1d)は、吸引チャネル(44)を介して流体が流れるように鋳型チャネル(45)と接続されている吸引装置(43)が設けられている点で、
図1から
図4に図示した装置とは異なっている。吸引装置(43)は、作動可能であり、また溶融された鋳造材料(15d)を鋳型(3d)に圧入する際に用いるプランジャー(20d)の移動時に、とりわけプランジャー(20d)とは反対側から、溶融した鋳造材料を付加的に鋳型(3d)内に吸引する。有利にも、この付加的な吸引力によって、より良好な鋳型充填を行うことができる。
【0049】
吸引装置(43)は、ハウジング(2d)外に配置されてもよいと解される。更に、吸引チャネル(44)から鋳型チャネル(45)への移行領域は、複数の部品から成る鋳型の開放を更に実現するように形成されていると解される。
【0050】
次に
図6を参照する。この
図6において、同一又は同様に作用する部分には、
図1aから
図1e、
図2、
図3、
図4及び
図5と同じ参照番号が付されており、またそれらの参照番号には、それぞれ文字eが付されている。
【0051】
図6に図示した、2つの部品から成る鋳型(3e)は、鋳型キャビティ(17e)の水平方向の充填が実現される点で、
図1から
図5に図示した鋳型(3;3a;3b;3c;3d)とは異なっている。溶融領域(13e)は、鋳型(3e)の一方の部品(5e)における凹部(14e)を含み、この凹部(14e)には、
図6aに図示した、溶融した鋳造材料ペレット(15e)が存在する。
【0052】
スリーブ(19e)は、下側のスリーブ部分(23e)に開口部(46)を有しており、この開口部(46)を介して、溶融した鋳造材料(15e)を、鋳型(3e)の鋳型キャビティ(17e)に導入することができる。更に、プランジャー(20e)の端面(25e)が斜めに形成されている。この面に対する垂線は、注入開口部(16e)の方向に向けられている。鋳型キャビティ(17e)を充填するためにプランジャー(20e)が移動する際に、有利には、溶融した鋳造材料ペレット(15e)が、注入開口部(16e)を介して鋳型キャビティ(17e)に案内されることが保証される。これに関して、更には、スリーブ(19e)の外面及び鋳型(3e)の外面並びにスリーブ(19e)の端面及び鋳型(3e)の上面は、
図6bに図示したシール面を形成する。
図6bに図示したプランジャー位置は、
図1cに図示したプランジャー位置に対応する。
【0053】
電極と、単一の特にペレット状の鋳造材料(15;15a;15b;15c;15d;15e)との間に、複数のアーク(30;30a,39)が形成されることも考えられる。
【0054】
更に、鋳型(3;3a;3b;3c;3d;3e)に、異なる大きさの複数の注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)が設けられることも考えられる。これに関して、プランジャー(20;20a;20b;20c;20d;20e)の大きさは、注入開口部(16;16a;16b,41;16c;16d;16e)の大きさ及び/又は鋳造部品ペレット(15;15a;15b;15c;15d;15e)の大きさに適合されている場合には有利である。これに関して、装置(1;1a;1b;1c;1d;1e)には、例えば相互に異なる直径を有する、異なる大きさのプランジャー(20;20a;20c;20d;20e)を設けることができる。