(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-17
(45)【発行日】2022-08-25
(54)【発明の名称】セラミック板及びその製造方法、板ばね、セッター、並びにセラミック焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/587 20060101AFI20220818BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20220818BHJP
F16F 1/18 20060101ALI20220818BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20220818BHJP
【FI】
C04B35/587
C04B35/64
F16F1/18 Z
F27D3/12 S
(21)【出願番号】P 2022540695
(86)(22)【出願日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2021032285
(87)【国際公開番号】W WO2022054684
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020151970
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】東 里樹
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-90372(JP,A)
【文献】特開平8-247666(JP,A)
【文献】特開平6-293553(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031236(WO,A1)
【文献】特開平1-201081(JP,A)
【文献】特開昭61-088033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
F16F 1/00-6/00
F27D 3/00-5/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面と
、アーチ状に湾曲している4つの側面と、を有し、
前記第1主面を上向きにして水平面に載置したときに前記水平面からの前記第2主面の最大高さとして測定される反り量Wが1mm以上である、セラミック板。
【請求項2】
厚みが2mm以下であり、前記第1主面と前記第2主面の曲率半径が100~1000mmである、請求項1に記載のセラミック板。
【請求項3】
前記第1主面と前記第2主面の面積の平均値に対する反り量Wの比が1×10
-5/mm以上である、請求項1又は2に記載のセラミック板。
【請求項4】
窒化ケイ素焼結体で構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック板で構成される板ばね。
【請求項6】
凸状又は凹状の湾曲面を有するセッターとセラミックグリーンシートとを、前記セラミックグリーンシートの主面が前記湾曲面に沿うように重ね合わせて加熱し、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を得る工程を有
し、
前記セラミック板は、凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面と、アーチ状に湾曲している4つの側面と、を有し、
前記反り量は前記第1主面を上向きにして水平面に載置したときに前記水平面からの前記第2主面の最大高さとして測定される、セラミック板の製造方法。
【請求項7】
凸状又は凹状の湾曲面を有し、
前記湾曲面が凹状である場合、前記湾曲面の4隅にある頂部が前記湾曲面の最も上方に位置するとともに、前記湾曲面の輪郭をなす4つの側縁が下方に向かって凸形状となるように曲がっており、
前記湾曲面が凸状である場合、前記湾曲面の4隅にある頂部が前記湾曲面の最も下方に位置するとともに、前記湾曲面の輪郭をなす4つの側縁が上方に向かって凸形状となるように曲がっており、
前記湾曲面におけるセラミックグリーンシートが載置される部分の高低差が1mm以上である、セッター。
【請求項8】
前記湾曲面の前記部分を覆うように載置された前記セラミックグリーンシートを加熱し、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を形成する、請求項7に記載のセッター。
【請求項9】
複数のセラミックグリーンシートを含む積層体を加熱して脱脂する脱脂工程と、
脱脂された前記積層体を焼成してセラミック板を得る焼成工程と、を有し、
前記脱脂工程及び前記焼成工程の一方又は双方において、前記積層体
はセラミック板の弾性変形によって生じる復元力によって保持され
、
前記セラミック板は、凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面と、を有し、反り量Wが1mm以上である、セラミック焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記脱脂工程及び前記焼成工程の一方又は双方において、前記セラミック板は、前記積層体の上方に設けられた固定部材と前記積層体との間に弾性変形した状態で配置され、前記積層体の収縮に伴って前記セラミック板の前記反り量Wが大きくなる、請求項9に記載のセラミック焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック板及びその製造方法、板ばね、セッター、並びにセラミック焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電鉄、産業用機器、及び発電関係等の分野には、大電流を制御するパワーモジュールが用いられている。パワーモジュールに搭載される回路基板は、絶縁性のセラミック板を有する。セラミック板は、例えば、セラミック粉末、焼結助剤、有機質バインダ及び分散剤等を混合した後にシート状に押出成形する工程と、打抜加工してセラミックグリーンシートを形成する工程と、セラミックグリーンシートを焼成する工程を順次行って製造される。焼成する際には、生産性向上のため、セッターの上に、複数のセラミックグリーンシートを含む積層体を載置し、加熱することによって複数のセラミック板を同時に生産することが試みられている。
【0003】
ところで、セラミックグリーンシートはバインダ及び分散剤等を含有することから、加熱に伴ってこれらの成分が内部から蒸発して収縮する。特許文献1では、このような収縮過程で生じる歪の影響を、セラミックグリーンシートに分割溝を予め設けることによって低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックグリーンシートに含まれる成分が揮発して収縮すると、揮発及び収縮に伴って積層されている複数のセラミックグリーンシートの位置が互いにずれて、品質に影響を及ぼすことが懸念される。そこで、本開示は、優れた耐熱性を有し、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制できる板ばね、並びに、当該板ばねとして好適に用いられるセラミック板及びその製造方法を提供する。また、本開示では、そのようなセラミック板を簡便に製造できるセッターを提供する。また、本開示では、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制することによって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造すること可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一つの側面において、凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面とを有し、反り量Wが1mm以上である、セラミック板を提供する。このようなセラミック板は、セラミック製であることから耐熱性に優れる。また、凸状の第1主面と凹状の第2主面を有するとともに、大きい反り量Wを有することから、弾性変形によって生じる復元力を利用する板ばねとして好適に用いることができる。ただし、その用途は板ばねに限定されない。本開示におけるセラミック板の反り量Wは、セラミック板を、第1主面側を上向きにして、測定台上に載置したときの測定台からの第2主面の最大高さとして測定される。
【0007】
上記セラミック板の厚みは2mm以下であり、第1主面と第2主面の曲率半径が100~1000mmであってよい。これによって、板ばねとして用いたときに、変形による破損を抑制しつつたわみを十分に大きくすることができる。
【0008】
第1主面と第2主面の面積の平均値に対する反り量Wの比は1×10-5/mm以上であってよい。これによって、主面の単位面積当たりのたわみを大きくすることができるため、板ばねとして一層好適に用いることができる。
【0009】
上記セラミック板は、窒化ケイ素焼結体で構成されてよい。窒化ケイ素焼結体は、耐熱性と高い強度を兼ね備えるうえに、ばねとして用いたときにたわみを大きくすることができる。このため、板ばねとして、大きい復元力(反発力)と大きいたわみを必要とする用途に特に好適に用いることができる。
【0010】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかのセラミック板で構成される板ばねを提供する。このような板ばねは、耐熱性に優れるため、セラミックグリーンシートの加熱温度においても、ばねとしての機能を十分に発揮することができる。したがって、このような板ばねを用いて積層体を保持することによって、積層体に含まれる複数のグリーンシートの位置が互いにずれることを抑制できる。
【0011】
本開示は、一つの側面において、凸状又は凹状の湾曲面を有するセッターと、セラミックグリーンシートとを、セラミックグリーンシートの主面が上記湾曲面に沿うように重ね合わせて加熱し、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を得る工程を有する、セラミック板の製造方法を提供する。
【0012】
上記製造方法では、凸状又は凹状の湾曲面を有するセッターを用いることによって、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を得ている。このように、簡便な製造方法で、復元力を利用する板ばねとして好適に用いられるセラミック板を得ることができる。したがって、上述のセラミック板の製造方法は、板ばねの製造方法ということもできる。ただし、上述の製造方法で得られるセラミック板の用途は板ばねに限定されない。
【0013】
本開示は、一つの側面において、凸状又は凹状の湾曲面を有し、当該湾曲面におけるセラミックグリーンシートが載置される部分の高低差が1mm以上である、セッターを提供する。このようなセッターを用いることによって、例えば板ばねとして好適に用いられるセラミック板を簡便に製造することができる。上記セッターは、湾曲面の上記部分を覆うように載置されたセラミックグリーンシートを加熱し、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を形成してよい。
【0014】
本開示は、一つの側面において、複数のセラミックグリーンシートを含む積層体を加熱して脱脂する脱脂工程と、脱脂された積層体を焼成してセラミック板を得る焼成工程と、を有し、脱脂工程及び焼成工程の一方又は双方において、上記積層体は、上述のいずれかのセラミック板の弾性変形によって生じる復元力によって保持される、セラミック焼結体の製造方法を提供する。
【0015】
積層体を加熱してセラミック焼結体を製造する場合、積層された複数のセラミックグリーンシートの位置が互いにずれると、露出した表面と露出していない表面とで加熱状態が変わるため、一表面における色及び性状等の品質がばらつく要因となる。また、複数のセラミックグリーンシートの位置が互いにずれると反り発生の要因となる場合もある。しかしながら、上記製造方法では、セラミック板の弾性変形によって生じる復元力によって積層体が保持される。このため、積層された複数のセラミックグリーンシートの位置が互いにずれることを抑制できる。したがって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造することができる。
【0016】
上記製造方法の脱脂工程及び焼成工程の一方又は双方において、セラミック板は、積層体の上方に設けられた固定部材と積層体との間に弾性変形した状態で配置され、積層体の収縮に伴ってセラミック板の反り量Wが大きくなってよい。これによって、積層体を安定的に保持し、積層された複数のセラミックグリーンシートの位置が互いにずれることを十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
優れた耐熱性を有し、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制できる板ばね、並びに、当該板ばねとして好適に用いられるセラミック板及びその製造方法を提供することができる。また、そのようなセラミック板を簡便に製造できるセッターを提供することができる。また、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制することによって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造すること可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るセラミック板の斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るセラミック板の側面図である。
【
図3】
図3は、別の実施形態に係るセラミック板の斜視図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るセッターの斜視図である。
【
図6】
図6は、別の実施形態に係るセッターの斜視図である。
【
図8】
図8は、セラミック板の製造方法に用いる積層体の例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、セラミック板の製造方法に用いる積層体の別の例を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、本実施形態のセラミック焼結体の製造方法で用いる積層体及び保持体の一例を示す側面図である。
【
図11】
図11は、脱脂工程後の積層体及び保持体の一例を示す側面図である。
【
図12】
図12は、参考例1のたわみ量の測定結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、参考例2のたわみ量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、説明に使用される上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0020】
図1は、一実施形態に係るセラミック板の斜視図である。セラミック板100は、アーチ状に反っており、凸状に湾曲している第1主面100Aと、第1主面100Aの反対側に凹状に湾曲している第2主面100Bとを有する。セラミック板100の4つの側面のうち、対向配置される一対の側面11は長方形であるのに対し、対向配置される別の一対の側面13はアーチ状に湾曲している。
【0021】
図2は、
図1のセラミック板100の側面図である。セラミック板100は、水平な平面を有する測定台150上に載置されている。セラミック板100はアーチ状に反っている。このため、セラミック板100の第2主面100Bのうち、一対の側面11側の辺12のみが測定台150と接触し、第2主面100Bの他の部分と測定台150との間には隙間が生じている。セラミック板100の反り量Wは、セラミック板100を、第1主面100A側を上向きにして、測定台150上に載置したときの測定台150からの第2主面100Bの最大高さとして測定される。反り量Wは、セラミック板100に外力が与えられておらず、弾性変形していない状態での値である。反り量Wは1mm以上であるため、第2主面100Bと測定台150とが平行になるまでのたわみを十分に大きくすることができる。したがって、復元力を利用する板ばねとして好適に用いることができる。セラミック板100の反り量Zは、凸状に湾曲している第1主面100Aの高低差の最大値である。反り量Zも1mm以上であってよい。
【0022】
図2のような側面視において、第1主面100A及び第2主面100Bの曲率半径は100~1000mmであってよく、150~800mmであってよく、200~500mmであってよい。これによって、破損を抑制しつつ、たわみを十分に大きくすることができる。このため、板ばねとしての機能を十分に発揮することができる。第1主面100Aと第2主面100Bの曲率半径は同一であってよく、異なっていてもよい。また、第1主面100Aにおける曲率半径は一様でなくてよく、位置によって異なっていてもよい。この場合も、各位置における曲率半径が上述の範囲にあればよい。第2主面100Bにおける曲率半径も一様でなくてよく、位置によって異なっていてもよい。この場合も、各位置における曲率半径が上述の範囲にあればよい。
【0023】
第2主面100Bと測定台150とが平行になるまでの変形量を一層大きくする観点から、反り量W(反り量Z)は、1.2mm以上であってよく、1.4mm以上であってもよい。一方、変形量を大きくし過ぎるとセラミック板100が破損し易くなる傾向にある。このため、セラミック板100の耐久性を十分に高くする観点から、反り量W(反り量Z)は、5mm以下であってよく、4mm以下であってよく、3mm以下であってもよい。反り量Wに対する反り量Zの比は、0.9~1.1であってよく、0.95~1.05であってもよい。
【0024】
セラミック板100の厚み(第1主面100Aと第2主面100Bとの距離)は、たわみを十分に大きくする観点から、2mm以下であってよく、1.5mm以下であってよく、1mm以下であってよい。セラミック板100の厚みは、板ばねとしたときの復元力を十分に大きくする観点から、0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。セラミック板100の厚みの一例は、0.1~2mmであってよい。
【0025】
セラミック板100の厚みに対する反り量Wの比は、第2主面100Bと測定台150とが平行になるまでのたわみを十分に大きくする観点から、1以上であってよく、2以上であってもよい。セラミック板100の厚みに対する反り量Wの比は、板ばねとしての耐久性を十分に高くする観点から、15以下であってよく、10以下であってもよい。セラミック板100の厚みに対する反り量Wの比の一例は、1~15であってよい。
【0026】
第1主面100A及び第2主面100Bの面積は、100~10000mm2であってよく、500~5000mm2であってもよい。第1主面100Aと第2主面100Bの面積は同じであってよく、異なっていてもよい。第1主面100A及び第2主面100Bの面積の平均値に対する反り量Wの比は、板ばねとしての有用性を十分に高める観点から、1×10-5/mm以上であってよく、5×10-5/mm以上であってよく、1×10-4/mm以上であってもよい。第1主面100A及び第2主面100Bの面積の平均値に対する反り量Wの比は、同様の観点から、2×10-2/mm以下であってよく、1×10-2/mm以下であってよく、5×10-3/mm以下であってもよい。
【0027】
セラミック板100は、窒化物焼結体、炭化物焼結体、又は酸化物焼結体で構成されていてよい。セラミック板100を板ばねとして用いる場合、窒化ケイ素焼結体で構成されていてよい。窒化ケイ素焼結体で構成される板ばねは、たわみを十分に大きくすることができる。また、窒化ケイ素焼結体は高い抗折強度を有するため、耐久性にも優れる。
【0028】
セラミック板100の抗折強度は、耐久性向上の観点から、500MPa以上であってよく、600MPa以上であってもよい。セラミック板100の抗折強度は、例えば、1000MPa以下であってよく、900MPaであってよい。セラミック板100の抗折強度の一例は500~1000MPaである。本開示における抗折強度は、3点曲げ抗折強度であり、JIS R 1601:2008に準拠して市販の抗折強度計(島津製作所製、装置名:AG-2000)を用いて測定される。
【0029】
セラミック板100は、セラミック製であるため、耐熱性に優れる。このため、セラミック板100で構成される板ばねは、種々の環境下において好適に用いることができる。例えば、高温環境下において、弾性変形による復元力が必要となる用途に好適である。
【0030】
図3は、別の実施形態に係るセラミック板の斜視図である。セラミック板102は、4つの側面24がいずれもアーチ状となるように反っており、凸状に湾曲している第1主面102Aと、第1主面102Aの反対側に凹状に湾曲している第2主面102Bとを有する。第1主面102Aの中心部は端部よりも上方に突出している。第2主面102Bの中心部は端部よりも窪んでいる。4つの側面24のアーチ形状は互いに同じであってよく、異なっていてもよい。
【0031】
セラミック板102を、
図2と同様に、第1主面102A側を上向きにして、測定台150上に載置すると、セラミック板102の第2主面102Bのうち、4つの頂部20のみが測定台150と接触する。第2主面102Bの他の部分と測定台150との間には隙間が生じる。セラミック板102の反り量Wも、
図2と同様に、第1主面102A側を上向きにして、測定台150上に載置したときの測定台150からの第2主面102Bの最大高さとして測定される。セラミック板102の反り量Zも、凸状に湾曲している第1主面102Aの高低差の最大値として測定される。
【0032】
セラミック板102の反り量W、反り量Z、厚み、及び厚みに対する反り量Wの比等の数値範囲、並びに材質は、セラミック板100と同じであってよい。第1主面102A及び第2主面102Bの曲率半径及び面積等の数値範囲も、第1主面100A及び第2主面100Bと同じであってよい。セラミック板102も、板ばねとして種々の環境下において好適に用いることができる。
【0033】
図4は、一実施形態に係るセッターの斜視図である。セッター50は、略蒲鉾形状を呈している。すなわち、セッター50は、一方面がアーチ状に膨らんだ形状を有しており、凸状に湾曲している湾曲面50Aと、湾曲面50Aの反対側に平面50Bを有する。湾曲面50Aにおいて対向する一対の側縁54は曲線状であり、対向する他方の一対の側縁52は直線状に伸びている。セッター50の湾曲面50Aの少なくとも一部を覆うようにセラミックグリーンシートが載置される。湾曲面50Aにセラミックグリーンシートを載置すると、セラミックグリーンシートは湾曲面50Aに沿って湾曲する。湾曲したセラミックグリーンシートを加熱することによって、
図1に示すとおり、アーチ状に反り、凸状に湾曲している第1主面100Aと、第1主面100Aの反対側に凹状に湾曲している第2主面100Bとを有し、反り量W(反り量Z)が1mm以上であるセラミック板100を形成することができる。
【0034】
図5のような側面視において、セッター50の湾曲面50Aの曲率半径は100~1000mmであってよく、150~800mmであってよく、200~500mmであってよい。これによって、板ばねとして好適なセラミック板を簡便に製造することができる。湾曲面50Aの中央部における頂部と湾曲面の下端にある側縁52との高低差H1は、十分にたわむ板ばね(セラミック板100)を製造する観点から、1mm以上であってよく、1.2mm以上であってよく、1.4mm以上であってもよい。弾性変形の繰り返しに対する耐久性に優れるセラミック板を製造する観点から、高低差H1は、5mm以下であってよく、4mm以下であってよく、3mm以下であってもよい。
【0035】
図6は、別の実施形態に係るセッターの斜視図である。セッター60は、凹状に湾曲している湾曲面60Aと、湾曲面60Aの反対側に平面60Bを有する。湾曲面60Aの輪郭をなす4つの側縁64はいずれも曲線状であり、下方に向かって凸形状となるように曲がっている。湾曲面60Aの中心部における窪み部61は、湾曲面60Aにおいて、平面60Bに最も近接する部位である。湾曲面60Aは、当該中心部から湾曲面60Aの側縁64に向かうにつれて、平面60Bから離れるように湾曲している。湾曲面60Aの4隅にある頂部65は、湾曲面60Aにおいて平面60Bから最も離れている部位である。
【0036】
セッター60の湾曲面60Aの少なくとも一部を覆うようにセラミックグリーンシートが載置される。湾曲面60Aにセラミックグリーンシートを載置すると、セラミックグリーンシートは湾曲面60Aに沿って湾曲する。湾曲したセラミックグリーンシートを加熱することによって、
図3に示すような、凸状に湾曲している第1主面102Aと、第1主面102Aの反対側に凹状に湾曲している第2主面102Bとを有し、4つの側面がアーチ形状を有するセラミック板102を製造することができる。
【0037】
図7のような側面視において、セッター60の湾曲面60Aの曲率半径は100~1000mmであってよく、150~800mmであってよく、200~500mmであってよい。これによって、板ばねとして好適なセラミック板を簡便に製造することができる。湾曲面60Aの中心部における窪み部61と湾曲面の頂部65との高低差H2は、十分にたわむ板ばね(セラミック板100)を製造する観点から、1mm以上であってよく、1.2mm以上であってよく、1.4mm以上であってもよい。弾性変形の繰り返しに対する耐久性を向上する観点から、高低差H2は、5mm以下であってよく、4mm以下であってよく、3mm以下であってもよい。
【0038】
セラミック板100(102)の製造方法は、凸状の湾曲面50A(凹状の湾曲面60A)を有するセッター50(60)と、セラミックグリーンシートとを、セラミックグリーンシートの主面が湾曲面50A(60A)に沿うように重ね合わせて加熱し、反り量W(反り量Z)が1mm以上であるセラミック板100(102)を得る工程を有する。上記製造方法では、凸状又は凹状の湾曲面を有するセッター50又はセッター60を用いることによって、反り量W(反り量Z)が1mm以上であるセラミック板を得ることができる。このように、簡便な製造方法で、復元力を利用する板ばねとして好適に用いられるセラミック板を得ることができる。なお、セラミック板の用途は板ばねに限定されるものではない。
【0039】
セラミック板の製造に用いるセッターは、
図4,
図5,
図6,
図7のような形状に限定されず、セラミック板の形状に応じて適宜変更してよい。例えば、変形例では、
図4のセッター50に変えて、凹状に湾曲している湾曲面を有するセッターを用いてよい。この場合の湾曲面の曲線状の一対の側縁54は、
図4とは逆に下方に突出するように曲がってよい。また、別の変形例では、
図6のセッター60に変えて、凸状に湾曲している湾曲面を有するセッターを用いてよい。この場合の湾曲面の曲線状の4つの側縁64は、
図6とは逆に上方に突出するように曲がってよい。このようなセッターを用いて製造されるセラミック板は、十分な反り量を有する。このため、以下に述べるセラミック焼結体の製造方法に用いられる板ばねとして好適である。
【0040】
図8は、セラミック板の製造方法に用いるセッターと、セラミックグリーンシートが積層された積層体の例を示す斜視図である。
図8の積層体200は、最下部に
図4に示すセッター50が配置され、セッター50の湾曲面50Aの上に、3枚のセラミックグリーンシート110が積層されている。その上に、セッター70が配置され、セッター70の一方面(上面)上に、3枚のセラミックグリーンシート110が積層されている。その上に、セッター80が配置されている。
【0041】
セッター50の湾曲面50Aの上に配置される3枚のセラミックグリーンシート110には湾曲面50Aの湾曲形状が転写される。セッター70の他方面(下面)は、凸状の湾曲面50Aと相補的な凹状の湾曲面となる。したがって、セッター70とセッター50で挟まれる3枚のセラミックグリーンシート110には、湾曲面50Aとセッター70の下面の湾曲形状が十分に転写される。これによって、セラミックグリーンシート110の一方の主面は凸状に湾曲し、他方の主面は凹状に湾曲する。
【0042】
セッター70の上面は、セッター50の湾曲面50Aと同様に凸状に湾曲している。セッター80の下面は、凸状のセッター70の上面と相補的な凹状の湾曲面となっている。このため、セッター70の上面上に載置される3枚のセラミックグリーンシート110には、セッター70の上面の湾曲形状と、セッター80の下面の湾曲形状が十分に転写される。これによって、セラミックグリーンシート110の一方の主面は凸状に湾曲し、他方の主面は凹状に湾曲する。このような積層体200を加熱することによって、複数のセラミックグリーンシート110を同時に脱脂して焼成し、
図1に示すセラミック板100を大量生産することができる。
【0043】
積層体200は、複数のセラミックグリーンシート110を上下から一対のセッター50,80で挟んでいる。一対のセッター50,80のセラミックグリーンシート110と接する主面は、それぞれ凸状及び凹状に湾曲するとともに互いに相補的な形状を有することから、複数のセラミック板100の反り量W及び反り量Zのばらつきを十分に低減することができる。また、一対のセッター50,80の間に、セラミックグリーンシート110で挟まれるセッター70を用いている。セッター70のセラミックグリーンシート110との接触面は、セッター50,80の湾曲面と同じように湾曲している。このようなセッター70を用いることによって、セラミックグリーンシート110の積層数を増やすことができる。これによって、多数のセラミック板100を同時に製造することができる。ただし、セッター70を用いずに積層体を構成してもよい。また、一対のセッター50,80の間の任意の位置に、複数のセッター70を個別に配置してもよい。
【0044】
図9は、セラミック板の製造方法に用いるセッターと、セラミックグリーンシートが積層された積層体の別の例を示す斜視図である。
図9の積層体210は、最下部にセッター82を配置し、セッター82の湾曲面の上に、3枚のセラミックグリーンシート111が積層されている。その上に、セッター72が配置され、セッター72の一方面(上面)上に、3枚のセラミックグリーンシート111が積層されている。その上に、
図6のセッター60が、平面60Bが上方を向くようにして配置されている。
【0045】
セッター82の湾曲面の上に配置されるセラミックグリーンシート111には当該湾曲面の湾曲形状が転写される。セッター82の湾曲面は、凹状のセッター60の湾曲面60Aと相補的な凸状の湾曲面となっている。セッター72の他方面(下面)は、セッター60の湾曲面60Aと同一形状の湾曲面となっている。したがって、セッター72とセッター82で挟まれるセラミックグリーンシート111は、セッター82の上面の湾曲形状と、セッター72の下面の湾曲形状が十分に転写される。これによって、セラミックグリーンシート111の一方の主面は凸状に湾曲し、他方の主面は凹状に湾曲する。
【0046】
セッター72の上面は、凹状のセッター60の湾曲面60Aと相補的な凸状の湾曲面となっている。このため、セッター72の上面上に載置されるセラミックグリーンシート110にも、セッター72の上面の湾曲形状と、セッター60の湾曲面60Aの湾曲形状が十分に転写される。このため、セッター72の上面とセッター60の湾曲面60Aで挟まれるセラミックグリーンシート110の一方の主面は凸状に湾曲し、他方の主面は凹状に湾曲する。このような積層体210を加熱することによって、複数のセラミックグリーンシート111を同時に脱脂して焼成し、
図3に示すセラミック板102を大量生産することができる。
【0047】
積層体210は、複数のセラミックグリーンシート111を上下から一対のセッター60,82で挟んでいる。一対のセッター60,82のセラミックグリーンシート111と接する主面は、それぞれ凸状及び凹状に湾曲するとともに互いに相補的な形状を有することから、複数のセラミック板102の反り量W及び反り量Zのばらつきを十分に低減することができる。また、一対のセッター60,82の間に、セラミックグリーンシート111で挟まれるようにセッター72が配置されている。セッター72のセラミックグリーンシート111との接触面は、セッター60,82の湾曲面と同じように湾曲している。このようなセッター72を用いることによって、セラミックグリーンシート111の積層数を増やすことができる。これによって、多数のセラミック板102を同時に製造することができる。ただし、セッター72を用いずに積層体を構成してもよい。また、一対のセッター60,82の間の任意の位置に、複数のセッター72を個別に配置してもよい。
【0048】
セッター50,60,70,72,80,82は、セラミック製であってよい。例えば、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、グラファイト、及び窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成されるものが挙げられる。これらのうち、窒化ホウ素製のセッターは、耐熱性と良好な切削性を兼ね備えるため、好適に用いられる。なお、焼成時にセッターとセラミック板との接着を抑制する観点から、セッターの材質は、セラミック板の材質とは異なるものであってよい。
【0049】
セッター50,60,70,72,80,82は、耐熱性の観点から、窒化ホウ素(BN)製であってよい。窒化ホウ素製のセッターは、以下の手順で製造することができる。まず、原料として、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて成形体を作製する。必要に応じて、成形前に六方晶窒化ホウ素粉末に焼結助剤を配合してもよい。焼結助剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の酸化物、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム等の希土類酸化物、及び、スピネル等の複合酸化物が挙げられる。成形は、一軸加圧成形とCIP成形を行ってよい。一軸加圧成形は3~20MPaで行ってよい。CIP成形は、50~300MPaで行ってよい。
【0050】
得られた成形体の焼成を行って窒化ホウ素製のセッターを得る。焼成は、非酸化性雰囲気下、昇温速度を150℃/hr以下、最高温度を1800~2200℃、この温度範囲における保持時間を5時間以上の条件で行ってよい。非酸化性雰囲気としては、例えば窒素、アンモニア等の窒化性ガス雰囲気が挙げられる。窒化ホウ素製のセッターの密度は1600kg/m3以上であってよい。なお、セッターの製造方法は上述の方法に限定されない。例えば、ホットプレス法によって製造してもよい。また、焼成の前に脱脂を行ってもよい。脱脂は、成形体を空気中又は窒素等の非酸化雰囲気中で300~700℃に加熱して行ってよい。加熱時間は、例えば1~10時間であってよい。
【0051】
一実施形態に係るセラミック焼結体の製造方法では、反り量Wが1mm以上であるセラミック板を用いる。当該製造方法は、複数のセラミックグリーンシートを積層して積層体を得る積層工程と、当該積層体を加熱して脱脂する脱脂工程と、脱脂された積層体を焼成してセラミック板を得る焼成工程と、を有する。詳細を以下に説明する。
【0052】
セラミックグリーンシートを、例えば以下の手順で作製する。セラミック粉末、焼結助剤、バインダ及び分散剤を含む原料スラリーを調製する。セラミックとしては、特に制限されず、例えば、窒化物、酸化物及び炭化物等が挙げられる。具体的には、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。バインダは有機成分を含むものが挙げられる。バインダは、アクリル系共重合物であってよい。分散剤は、不飽和脂肪酸であってよい。
【0053】
原料スラリーをドクターブレード法、カレンダー法、又は押し出し法等によって離型フィルム上に所定の厚みで塗布する。その後、塗布された原料スラリーを乾燥させて離型フィルムから剥がすことによって、セラミックグリーンシートが得られる。セラミックグリーンシートは、例えば切断等によって所望の形状に加工してよい。複数のセラミックグリーンシートの材質及び形状は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0054】
セラミック焼結体の製造方法で用いるセッターは、例えば市販のものを購入してもよいし、公知の方法で製造してもよい。セッターは、例えば、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、グラファイト、及び窒化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成されるものが挙げられる。これらのうち、窒化ホウ素製のセッターは、耐熱性と良好な切削性を兼ね備えるため、好適に用いられる。なお、焼成後のセッターと本製造方法で製造されるセラミック焼結体との接着を抑制する観点から、セッターの材質は、セラミック焼結体の材質とは異なるものであってよい。
【0055】
このようにして準備したセッターの上に、複数のセラミックグリーンシートを重ねて積層体を得る。複数のセラミックグリーンシートの主面同士が互いに接触するように積層し、その上に別のセッターを載せて積層体を作製してよい。すなわち、積層された複数のセラミックグリーンシートを、積層方向に対向するように配置される一対のセッターで挟み、積層体を作製してよい。作製した積層体における一対のセッターよりも外側に反り量が1.5mm以上のセラミック板を配置し、積層方向に沿って積層体を押圧して保持体を作製する。
【0056】
図10は、本実施形態のセラミック焼結体の製造方法で用いる積層体及び保持体の一例を示す側面図である。
図10の保持体350は、積層体300と、積層体300の上方に設けられ、積層体300を固定する固定部材37と、固定部材37と積層体300の間にセラミック板100aと、を備える。積層体300は、支持体400の上に載置されており、支持体400側から、セッター92、複数のセラミックグリーンシート41、セッター94、複数のセラミックグリーンシート41、及びセッター96が、この順に積層されている。これらのセッター及びセラミックグリーンシートは、いずれも平板形状を有している。セラミック板100aは、外力が与えられていない状態では、
図2にセラミック板100として示すように反り量Wのアーチ状を呈する。
【0057】
図10の保持体350では、セッター96の上面に対向するように配置されているセラミック板100aは、固定部材37によって積層体300に向かって押圧されている。このため、反り量が小さくなるように弾性変形し、平板形状になっている。セラミック板100aの下側にあるセッター96は、セラミック板100aの板ばねとしての復元力によって、下方に付勢されている。このようにして、保持体350は、積層体300を支持体400とセラミック板100aとによって積層方向に挟んで拘束している。
【0058】
脱脂工程では、この積層体300を備える保持体350を脱脂炉に収容し、例えば300℃~700℃に加熱する。これによって、セラミックグリーンシート41に含まれるバインダ及び分散剤が揮散し、セラミックグリーンシート41が収縮する。
【0059】
図11は、セラミックグリーンシート41を脱脂して得られるセラミックグリーンシート42、積層体301及び保持体351を示す側面図である。セラミックグリーンシート42は、脱脂前のセラミックグリーンシート41よりも、収縮によって厚みが薄くなっている。このため、脱脂後の積層体301におけるセッター96の位置は、脱脂前の積層体300におけるセッター96よりも支持体400に近づいている。このとき、支持体400と固定部材37の位置関係は脱脂前後で不変であるため、セッター96と固定部材37との間隔が大きくなる。これにともなって、弾性変形していたセラミック板100aは復元し、反り量W1が大きくなる。すなわち、反り量W1は加熱時間の経過に伴って大きくなる。セラミック板100bの反り量W1は、外力が与えられていない時のセラミック板100の反り量Wよりも小さい。このため、セラミック板100bは、積層体300を板ばねとしての復元力で拘束し続けることができる。
【0060】
保持体351は、板ばねとして機能するセラミック板100(100b)を備えることから、脱脂工程の間、セラミックグリーンシート42が収縮しても、弾性変形していたセラミック板100の復元力が作用することによって積層体301を継続して拘束することができる。このため、セラミックグリーンシート41,42の位置がずれて、焼き具合がばらついたり、反りが発生したりすることを抑制できる。したがって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造することができる。
【0061】
保持体350(351)で用いられるセラミック板100の枚数は一枚に限定されず、複数枚を上下方向に重ねて用いてもよい。これによって板ばねとしての復元力を大きくして、積層体300,301をより強固に拘束することができる。また、セラミック板100の配置は、セッター96と固定部材37の間に限定されず、セッター92と支持体400との間であってもよいし、一対のセラミックグリーンシート41(42)の間であってもよい。複数のセラミック板100を、互いに異なる位置に配置してもよい。セラミック板100の代わりにセラミック板102を用いてもよい。また、板ばねとして機能するものであれば、これらとは異なる形状を有するセラミック板を用いてもよい。
【0062】
積層体300,301を構成するセッター92,94,96及びセラミックグリーンシート41(42)の枚数に特に制限はない。複数のセラミックグリーンシート41(42)の材質及び厚みは、互いに同一であってよいし、異なっていてもよい。セラミックグリーンシート41(42)の主面には、焼成の際に隣り合うセラミックグリーンシート同士が接着することを抑制するため、離型剤が塗布されていてもよい。また、セッター92,94,96のセラミックグリーンシート41(42)の主面との対向面にも、離型剤が塗布されていてもよい。離型剤の含有成分としては、窒化ホウ素等のセラミック粉末、黒鉛粉末、及びバインダ等が挙げられる。
【0063】
焼成工程では、脱脂されたセラミックグリーンシート42を焼成炉に収容して、1600℃~2000℃に加熱する。これによって、セラミックグリーンシートが焼成され、セラミック板が得られる。脱脂で用いる脱脂炉と焼成で用いる焼成炉は同一炉であってもよいし、異なる炉であってもよい。また、加熱の温度、時間及び雰囲気は、セラミックグリーンシートの組成に応じて適宜調整してよい。
【0064】
焼成工程では、
図11の保持体351を焼成炉に収容してセラミックグリーンシート42を焼成してもよいし、保持体351を解体し、別のセッターでセラミックグリーンシート42を保持して焼成してもよい。焼成工程においても、粒成長の進行、並びに残存するバインダ及び分散剤の揮発等の要因によって、セラミックグリーンシート42がさらに収縮する場合がある。このため、脱脂工程と同様に、セラミック板100の復元力によって積層体301を付勢し、拘束することによって、セラミックグリーンシート42の位置ずれを抑制することができる。
【0065】
変形例では、セラミック板100を備える保持体を、焼成工程のみで用いてもよい。この場合も、脱脂後の複数のセラミックグリーンシート同士の位置がずれることを抑制することができる。これによって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造することができる。
【0066】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、セラミック板の厚みは一様ではなく、異なっていてもよい。この場合、セラミック板の平均厚みは、最も厚みの大きい部分と、最も厚みが小さい部分の平均値として求めることができる。この平均厚みが、上述の厚みの数値範囲内にあってよい。
【0067】
セラミック板は、板ばねとは異なる用途に用いてもよい。例えば、セラミック板はフィルタの部材として用いてもよい。この場合、例えば、2つのセラミック板100(102)を、第1主面100A(102A)と第2主面100B(102B)が対向するように並べて2つのセラミック板の間に湾曲した流路を形成し、当該流路を流通するガス中に含まれる液体分又は固形分を取り除いてもよい。なお、流路を流通する媒体はガスに限定されず、ミスト又は液体であってもよい。フィルタは、3つ以上のセラミック板100(102)を、主面同士が互いに対向するように並べて構成されてもよい。フィルタにおける流路は、平らな主面を有するセラミック板とセラミック板100(102)とを並べて形成してもよい。
【実施例】
【0068】
実施例及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の具体例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
<セラミック板の作製>
窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として、酸化マグネシウム粉末、及び酸化イットリウム粉末を準備した。これらを、Si
3N
4:Y
2O
3:MgO=94.0:3.0:3.0(質量比)で配合して原料粉末を得た。この原料粉末を、一軸加圧成形し、複数枚のセラミックグリーンシートを作製した。作製したセラミックグリーンシートと、窒化ホウ素製のセッターとを重ねて、
図8に示すような積層体を得た。3枚のセッターの湾曲面の曲率半径は、いずれも290mmであった。これを、カーボンヒータを備える電気炉中に配置し、空気中、500℃で5時間加熱して脱脂した後、窒素ガスの雰囲気下、1800℃で12時間焼成して、窒化ケイ素焼結体で構成されるセラミック板を得た。
【0070】
<セラミック板の形状評価>
このセラミック板は、
図1及び
図2に示すようにアーチ状に反っており、凸状に湾曲している第1主面と、当該第1主面の反対側に凹状に湾曲している第2主面とを有していた。第1主面及び第2主面の長手方向に沿って測定される縦方向の長さ(弧の長さ)はともに68mmであった。第1主面及び第2主面の短手方向に沿って測定される横方向の長さ(幅)は、ともに35.4mmであった。第1主面及び第2主面の面積は、ともに68×35.4=2407.2mm
2であった。第1主面及び第2主面に直交する方向に沿って測定される厚さ(第1主面と第2主面との最短距離)は、0.635mmであった。
【0071】
得られたセラミック板を、
図2に示すように、水平な平面を有する測定台の上におき、反り量Wを測定した。測定には、株式会社キーエンス製のワンショット3D形状測定機(商品名:VR-3050)を用いた。3枚のセラミック板の反り量Wの測定結果は、表1に示すとおりであった。反り量Wは、
図2に示されるとおり、測定台からの凹状に湾曲している第2主面の最大高さである。また、同じ測定器を用いて測定した、3枚のセラミック板の反り量Zは表1に示すとおりであった。反り量Zは、
図2に示されるとおり、凸状に湾曲している第1主面の高低差の最大値である。
【0072】
【0073】
表1に示すとおり、3枚のセラミック板の反り量Wはほぼ同じであった。また、反り量Wと反り量Zも大きく変わらなかった。第1主面と第2主面の曲率半径は、セッターの湾曲面の曲率半径と同じであった。表1には、主面の面積、厚み、主面の面積に対する反り量Wの比、及び、厚みに対する反り量Wの比を示した。
【0074】
実施例1-1,1-2,1-3のセラミック板を3枚重ね合わせて、
図10の保持体350と同様の保持体を作製した。
図10では、セラミック板100aが1枚しか示されていないが、この実施例では、3枚のセラミック板を、第1主面及び第2主面の向きが揃うように重ね合わせて用いた。セラミックグリーンシートは、上述の「セラミック板の作製」と同様にして60枚作製した。セッターは、いずれも窒化ホウ素製の市販のものを用いた。下側のセッター(第1セッター)の上に30枚のセラミックグリーンシート、セッター(第2セッター)及び30枚のセラミックグリーンシート及びセッター(第3セッター)の順に積層して積層体を得た。上側のセッター(第3セッター)の上に3枚のセラミック板を配置した。3枚のセラミック板の上側に配置した固定部材で下方に押圧して積層体を拘束し、
図10に示されるような保持体を作製した。積層体は、3枚のセラミック板の弾性変形に伴う復元力によって下方に付勢されていた。
【0075】
このような積層体を備える保持体を、脱脂炉に収容し、空気中、500℃で5時間加熱して脱脂工程を行った。脱脂工程において、複数のセラミックグリーンシート同士の位置がずれることはなかった。その後、保持体からセラミックグリーンシートを取り出し、別の窒化ホウ素製のセッターの上に載置して焼成工程を行った。焼成工程は、窒素雰囲気下、焼成炉中で脱脂されたセラミックグリーンシートを1800℃で12時間加熱した。得られた窒化ケイ素焼結体は、十分に品質のばらつきが低減されていた。
【0076】
(参考例1)
実施例1と同様の手順でセラミックグリーンシートを作製した。平板形状のセッターの上にセラミックグリーンシートを載置し、実施例1と同じ加熱条件で脱脂工程と焼成工程を行って、窒化ケイ素焼結体で構成される平板形状のセラミック板を得た。セラミック板のサイズは、縦×横×厚さ=68mm×35.4mm×0.635mmであった。
【0077】
上述のセラミック板をn個作製し、たわみ量を以下の手順で測定した。たわみ量は、株式会社今田製作所製の引張圧縮試験機(型式:SDT-503NB-50R1T)を用い、支点間距離30mmにて3点曲げ試験を行って測定した。
図12に、n個のセラミック板の測定結果を並べて示す。
【0078】
(参考例2)
セラミック板の厚さを変更したこと以外は、参考例1と同様にして窒化ケイ素焼結体で構成される平板形状のセラミック板を得た。セラミック板のサイズは、縦×横×厚さ=68mm×35.4mm×0.32mmであった。セラミック板をn個用意して、参考例1と同じ手順でたわみ量を測定した。測定結果は
図13に示すとおりであった。
図12及び
図13の結果から、セラミック板の厚みを変えることで、たわみ量を調整できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示によれば、優れた耐熱性を有し、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制できる板ばね、並びに、当該板ばねとして好適に用いられるセラミック板及びその製造方法を提供することができる。また、そのようなセラミック板を簡便に製造できるセッターを提供することができる。また、積層された複数のセラミックグリーンシートの互いの位置がずれることを抑制することによって、高い品質を有するセラミック焼結体を安定的に製造すること可能な製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
11,13,24…側面、20,65…頂部、37…固定部材、41,42,110…セラミックグリーンシート、50,60,70,72,80,82,92,94,96…セッター、50A,60A…湾曲面、50B,60B…平面、52,54…側縁、61…窪み部、64…側縁、400…支持体、100,100a,100b,102…セラミック板、100A,102A…第1主面、100B,102B…第2主面、150…測定台、200,210,300,301…積層体、350,351…保持体。