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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】洋上作業設備およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
B63B35/44 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020506597
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010235
(87)【国際公開番号】W WO2019177010
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2018046848
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599027312
【氏名又は名称】株式会社 吉田組
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395022018
【氏名又は名称】日本海洋掘削株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】枝光 桂資
(72)【発明者】
【氏名】吉田 成樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 訓
(72)【発明者】
【氏名】川上 正人
(72)【発明者】
【氏名】安田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】北小路 結花
(72)【発明者】
【氏名】山口 高典
(72)【発明者】
【氏名】前田 啓彰
(72)【発明者】
【氏名】久保 健一
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩三
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0093392(KR,A)
【文献】特開2004-001750(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0048345(KR,A)
【文献】国際公開第2010/085970(WO,A1)
【文献】特表2009-511347(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0186653(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0107257(KR,A)
【文献】国際公開第2012/144952(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104554625(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106347595(CN,A)
【文献】“R-550D”,中国,TSC Group,2017年10月27日,http://www.t-s-c.com/products-services/rig-integrated-solutions/jack-up-rig-solutions-1/case-studies-1/
【文献】“R-550D Jack-up Drilling Rig”,米国,ZENTECH INCORPORATED,2014年04月29日,zentech-usa.com/wp-content/uploads/2014/09/Zentech-Jackup-Rig-Design-R-550D.pdf
【文献】河内紀雄,“カンチレバー型ジャッキアップバージ第六白竜の構想について”,石油技術協会誌,日本,石油技術協会,1978年,43巻 5号,p.308-316,DOI: 10.3720/japt.43.308,ISSN 1881-4131(online),0370-9868(print)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/44,
E02B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3本以上の脚柱と、 浮体構造物として構成され、前記脚柱に対して昇降可能に支持されたデッキと、前記デッキに搭載されたクレーンと、を有し、前記デッキは、前記脚柱が配置されるメインデッキ部を有する洋上作業設備であって、
前記脚と前記メインデッキ部とを有し、掘削設備および前記掘削設備を搭載するためのカンチレバーが撤去されたジャッキアップ式掘削リグと、
前記メインデッキ部から張り出して前記メインデッキ部に付加された張り出し部と、
を有し、
前記デッキは、前記脚柱が配置されるメインデッキ部と、前記張り出し部と、を有し、
前記クレーンは前記張り出し部に搭載され、かつ、
前記張り出し部は、前記カンチレバーの支持構造を利用して、前記張り出し部の上面が前記メインデッキ部の上面と同一平面上にあるように前記メインデッキ部に付加されている洋上作業設備。
【請求項2】
前記デッキは、浮体構造体として構成された第2張り出し部をさらに有する請求項1に記載の洋上作業設備。
【請求項3】
前記第2張り出し部は、前記メインデッキ部の幅員を超えない形状で前記メインデッキ部から張り出して形成されている請求項2に記載の洋上作業設備。
【請求項4】
前記第2張り出し部は、前記メインデッキ部と組み合わせた形状が、船首側から船尾側へ向かう方向に幅が広がる船形となるような形状で前記メインデッキ部から張り出して形成されている請求項2または3に記載の洋上作業設備。
【請求項5】
前記デッキは、天壁、底壁、外周壁および隔壁を有し、前記天壁、前記底壁および前記外周壁によって前記デッキに内部空間が形成され、前記隔壁によって前記内部空間が複数の区画に分けられる請求項1から4のいずれか一項に記載の洋上作業設備。
【請求項6】
前記天壁の上方に配置された第2天壁と、前記第2天壁を前記天壁と間隔をあけて支持する第2外周壁および第2隔壁とをさらに有する請求項5に記載の洋上作業設備。
【請求項7】
洋上作業設備の製造方法であって、
3本以上の脚柱、前記脚柱が配置され、前記脚柱に対して昇降可能に支持されたメインデッキ部、前記メインデッキ部に支持構造を介して支持されたカンチレバーおよび前記カンチレバーに配置された掘削設備を有するジャッキアップ式掘削リグを用意すること、
前記ジャッキアップ式掘削リグから、前記カンチレバーおよび前記掘削設備を撤去すること、
前記メインデッキ部から張り出して形成された張り出し部を、前記支持構造を利用して前記メインデッキ部に付加すること、および
前記張り出し部にクレーンを搭載することを含む、洋上作業設備の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風力発電設備等の洋上設備の建設に用いることのできる洋上作業設備およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然エネルギー有効活用の観点から、洋上風力発電が注目されている。
【0003】
洋上風力発電設備の建設には、自己昇降式作業台船(SEP)といった洋上作業設備が用いられることが多い。自己昇降式作業台船は、通常、複数の脚柱と、これら脚柱に昇降自在に支持されたデッキとを有する(特許文献1、特許文献2)。デッキには作業用のクレーンが搭載され、このクレーンを用いて洋上風力発電設備の組み立てが行われる。また、デッキは、洋上風力発電設備の各種部品の荷役スペースなどとして利用することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2015-37925号公報
特許文献2:特開2016-215937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、洋上風力発電設備として、例えば6MW以上の大出力の洋上風力発電設備が開発されており、それに伴って、洋上風力発電設備のサイズ自体が大型化するとともに、着床式に加えて浮体式設備が開発・実用化される流れとなっている。前述したとおり、洋上作業設備のデッキは、作業用のクレーンが搭載され、また各種部品の荷役スペースなどとしても利用される。よって、大型の洋上風力発電設備を施工するためには、より大型のデッキを有する洋上作業設備が必要となる。また、浮体式風力設備を施工するためには、水深が90mを越える海域でも安定して作業できる洋上作業設備が必要となる。
【0006】
水深が90mを越える海域での洋上施工には、既存の自己昇降式作業台船で使用できるものがないため、通常は大型浮体式クレーンを使用するが、波による影響を受けやすく、作業待機期間が発生するなど作業効率低下が生じやすい。一方、大型のデッキを有する洋上作業設備は、港湾から洋上設備の建設現場である海域までの曳航速度の低下を招く。曳航速度の低下は、洋上設備の工期の長期化の原因となる。
【0007】
そこで本発明は、深海域でも安定した作業が可能であり、かつ、作業効率を向上させ得る洋上作業設備およびその製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の洋上作業設備は、
3本以上の脚柱と、
浮体構造物として構成され、前記脚柱に対して昇降可能に支持されたデッキと、
前記デッキに搭載されたクレーンと、
を有し、
前記デッキは、前記脚柱が配置されるメインデッキ部と、前記メインデッキ部から張り出して形成された張り出し部と、を有する洋上作業設備であって、
前記洋上作業設備は、前記メインデッキ部および前記脚柱を有する既存のジャッキアップ式掘削リグに前記張り出し部および前記クレーンを付加することによって構成され、
前記張り出し部は、前記既存のジャッキアップ式掘削リグに搭載されている船上掘削設備のためのカンチレバーの支持構造を利用して、前記メインデッキ部に付加され、
前記クレーンは前記張り出し部に搭載されている。
【0009】
本発明の洋上作業設備の製造方法は、
3本以上の脚柱、前記脚柱が配置され、前記脚柱に対して昇降可能に支持されたメインデッキ部、前記メインデッキ部に支持構造を介して支持されたカンチレバーおよび前記カンチレバーに配置された掘削設備を有するジャッキアップ式掘削リグを用意すること、
前記ジャッキアップ式掘削リグから、前記カンチレバーおよび前記掘削設備を撤去すること、
前記メインデッキ部から張り出して形成された張り出し部を、前記支持構造を利用して前記メインデッキ部に付加すること、および
前記張り出し部にクレーンを搭載する設置することを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、深海域であっても安定かつ効率的に作業可能な洋上作業設備を提供することができる。また、本発明の洋上作業設備の製造方法によれば、上記洋上作業設備を短期間かつ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による洋上作業設備の概略側面図である。
図2図1に示す洋上作業設備の概略平面図である。
図2A図2に示す洋上作業設備において、デッキの内部構造を示す図である。
図3】脚柱で囲まれる領域内にクレーンを配置した場合のクレーンの作業範囲を説明する図である。
図4】デッキを複層構造とした本発明の他の形態による洋上作業設備の概略側面図である。
図5図1に示す洋上作業設備の利用形態の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1図3を参照すると、脚柱10と、脚柱10に支持されたデッキ20と、デッキ20に搭載されたクレーン30とを有する、本発明の一実施形態による洋上作業設備1が示されている。この洋上作業設備1は、例えば洋上風力発電設備などの洋上設備の建設に用いることができる。デッキ20は浮体構造体として構成されており、洋上作業設備1を用いた洋上設備の建設に際し、洋上作業設備1は、タグボートなどの曳航用船舶によって洋上設備の建設現場である海域まで曳航される。
【0013】
脚柱10は、この洋上作業設備1による洋上での作業中に、デッキ20を海面よりも上方で支持するものである。したがって、脚柱10は、下端部を海底に着底させた状態で、デッキ20を海面よりも上方で支持できる長さを有している。洋上作業設備1は、デッキ20を安定して支持するために3本以上の脚柱10を有している。脚柱10の構造は、脚柱10が上記の機能を果たすことができる限り任意であってよく、例えば、洋上作業設備1の一種である自己昇降式作業台船あるいはジャッキアップ式掘削リグに用いられる脚柱の構造など、公知の構造を採用することができる。脚柱10の長さは特に限定されないが、例えば、90mを超える海域での施工時でも脚柱10を着底させて波による影響を受けず安定して施工を行うことができる長さを有することが好ましい。また、脚柱10の断面形状も、特に限定されず、円形や多角形など任意の形状であってよい。
【0014】
デッキ20は、昇降機構(不図示)によって脚柱10に対して昇降自在に支持される。昇降機構としては、ラックアンドピニオン機構など任意の機構を用いることができる。洋上作業設備1の曳航時には、この昇降機構を動作させ、脚柱10が着底しないように脚柱10をデッキ20に対して上昇させる。デッキ20は浮体構造体として構成されているので、脚柱10を上昇させることによって洋上作業設備1が海面上に浮かび、この状態で洋上作業設備1を曳航することができる。
【0015】
デッキ20は、天壁20a、底壁20bおよび外周壁20cを有し、これによってデッキ20は閉じた内部空間が形成された浮体構造体として構成されている。図2Aに示すように、デッキ20の内部空間は、強度部材である少なくとも1つの隔壁20dによって複数の区画に分けられ、これによって、デッキ20の上面を作業スペースおよび建設する洋上設備の部品搭載用スペースとして利用するのに十分な機械的強度を確保している。
【0016】
図2に示すように、デッキ20は、メインデッキ部21、第1張り出し部22および第2張り出し部23を有している。図示した形態では、デッキ20は2つの第1張り出し部22および2つの第2張り出し部23を有しているが、第1張り出し部22の数および第2張り出し部23の数は任意であってよい。これらメインデッキ部21、第1張り出し部22および第2張り出し部23のうち、メインデッキ部21は上方から見て最も大きな面積を有する部分であり、脚柱10は、メインデッキ部21の外縁部に配置されている。よって、メインデッキ部21の上面の大部分を、作業スペースおよび建設する洋上設備の部品搭載用スペースとして利用することができる。洋上設備が洋上風力発電設備である場合、デッキ20は、例えば、洋上風力発電設備1基分の部品を搭載できるスペースを有することが好ましい。メインデッキ部21の平面形状は任意であってよい。
【0017】
第1張り出し部22は、上から見て、隣り合う2本の脚柱10を結ぶ辺に対してメインデッキ部21から凸状に張り出した形状とすることができる。また、第1張り出し部22の上面は、メインデッキ部21の上面と同一平面上にあるように構成することが好ましい。これにより、デッキ20の上面の作業スペースおよび部品搭載用スペースを実質的に拡大することができる。
【0018】
第1張り出し部22にはクレーン30が搭載される。クレーン30は固定式であってもよいし、クローラ式であってもよい。ただし、作業は第1張り出し部22上で移動を伴わずに行うことが多いため、実質的には固定式のクレーン30で十分である。また、固定式のクレーン30は、クローラ式のクレーンと比べて、デッキ20上での占有面積も少なく、デッキ20上により大きいスペースを確保できるという点からも有利である。
【0019】
第1張り出し部22にクレーン30を搭載することで、クレーン30は、デッキ20を支持するすべての脚柱10(本形態では3本の脚柱10)で囲まれる領域の外側に位置することになる。
【0020】
このように、クレーン30を第1張り出し部22に搭載し、脚柱20で囲まれる領域の外側に位置させることで、図2に示すように、クレーン30の作業範囲θ1(クレーン30の旋回中心Oを中心とした回転範囲)を、180°を超える範囲まで拡大することができる。これに対し、図3に示すようにメインデッキ部21上にクレーン30を搭載した場合、通常、脚柱10はメインデッキ部21の隅部に配置されることから、クレーン30は、2本の脚柱10に挟まれた領域に位置することになる。そのため、クレーン30の作業範囲θ2は、180°未満となる。クレーン30の作業範囲が拡大することによって、クレーン30による作業の自由度を向上させることができる。
【0021】
なお、デッキ20全体が浮体構造体として構成されていれば、第1張り出し部22自身は浮体構造体として構成されていてもよいし浮体構造体として構成されていなくてもよい。第1張り出し部22が浮体構造体として構成される場合、第1張り出し部22は、メインデッキ21と同様、第1張り出し部22に内部空間を形成する天壁、底壁および外周壁を有することができる。第1張り出し部22は、必要に応じてさらに隔壁を有していてもよい。
【0022】
第2張り出し部22は、第1張り出し部22とは異なる位置にて、メインデッキ部21の幅員を超えない形状でメインデッキ21から張り出して形成されている。第2張り出し部22も第1張り出し部21と同様、上から見て、隣り合う2本の脚柱10を結ぶ辺に対してメインデッキ部21から凸状に張り出した形状とすることができる。また、第2張り出し部22は、浮体構造体として構成されている。したがって、第2張り出し部22は、メインデッキ部21と同様、第2張り出し部23に内部空間を形成する天壁、底壁および外周壁を有することができる。第2張り出し部23は、必要に応じて隔壁をさらに有していてもよい。
【0023】
メインデッキ部21に第2張り出し部23を付加することによって、デッキ20上のスペースが拡大され、それと同時に、洋上作業設備1の曳航中の安定性を向上させることができる。また、第2張り出し部23がメインデッキ部21の幅員を超えない形状であるので、曳航時に抵抗が大きくなることが抑制される。これにより、曳航速度の低下が抑制されるなど洋上作業設備1を効率よく曳航することができる。曳航時の抵抗をより抑制するためには、洋上作業設備1が図2Aに示す白抜き矢印方向に曳航されるように構成されるとき、第2張り出し部23を、メインデッキ部21と第2張り出し部23とを組み合わせた形状が、船首側から船尾側へ向かって幅が広がる船形となるような形状とすることが好ましい。
【0024】
以上、デッキ20が単層構造である場合について説明したが、デッキ20は複層構造であってもよい。図4に、複層のデッキを有する洋上作業設備の概略側面図を示す。なお、図4に示す洋上作業設備についての以下の説明おいて、これまで説明した洋上作業設備と同様の構成については図1等と同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0025】
図4に示す洋上作業設備1では、デッキ20は、天壁20aの上方に天壁20aと間隔をあけて配置された第2天壁120aと、第2天壁120aを天壁20aと間隔をあけて支持する第2外周壁120cおよび第2隔壁(不図示)とを有し、これによってデッキ20は2層構造とされる。これら天壁20a、第2天壁120a、第2外周壁120cおよび第2隔壁によって、天壁20aの上方に配置された構造は、複数の区画に分けられた内部空間が形成された浮体構造体として構成される。よって、天壁20a上に第2天壁120a、第2外周壁120cおよび第2隔壁といった構造物を付加しても、デッキ20は、洋上作業設備を曳航できるようにするのに必要な浮力が確保される。
【0026】
第2天壁120aおよび第2外周壁120cは、メインデッキ部21(図2参照)、第1張り出し部22(図2参照)および第2張り出し部(図2参照)のうち少なくともメインデッキ部21に対応する位置に配置することができる。すなわち、デッキ20全体が2層構造とされる必要はない。ただし、デッキ20の上面を有効に利用できるようにするためには、メインデッキ部21、第1張り出し部22および第2張り出し部23のすべての領域が2層構造となるように第2天板120aおよび第2外周壁120cを配置することが好ましい。
【0027】
このようにデッキ20を2層構造とすることで、デッキ20の機械的強度を向上させることができ、デッキ20上により重量物を搭載することができるようになる。その結果、洋上設備建設の施工ヤードから建設現場である海域までの部品の運搬に際して、より多くの、あるいはより重量のある部品の運搬に洋上作業設備を利用することができる。ここではデッキ20を2層構造とした場合について説明したが、デッキ20を3層以上で構成することもできる。
【0028】
次に、本形態の洋上作業設備1を用いた洋上設備の建設方法について、洋上設備が洋上風力発電設備である場合を例に挙げて説明する。
【0029】
まず、建設用の施工ヤードから建設現場である海域まで、洋上風力発電設備の風車部材など各種部品および洋上作業設備1を移動させる。洋上作業設備1の移動は、脚部10をデッキ20に対して上昇させ、デッキ20が海面上に浮かんた状態で洋上作業設備1を曳航用船舶で曳航することによって行う。この際、デッキ20上に、洋上風力発電設備の部品を搭載する。デッキ20が、洋上風力発電設備1基分の部品を搭載できるスペースを有し、かつ機械的強度を有していれば、洋上風力発電設備の部品の移動には、部品運搬用の船舶は必要ない。
【0030】
洋上風力発電設備の部品および洋上作業設備1の移動が完了したら、洋上作業設備1の脚柱10をデッキ20に対して降下させ、脚柱10を海底に着底させる。このとき、図1に示すように、デッキ20が海面から離れて上方に位置するまで脚柱10を降下させる。これにより、海象条件の影響を受けずに洋上風力発電設備を建設することができる。
【0031】
脚柱10を海底に着底させた後、デッキ20上の部品をクレーン30で吊り下げ、クレーン30による洋上風力発電設備の組み立てを行う。クレーン30は第1張り出し部22に搭載されており、クレーン30の作業範囲がより拡大されるので、スムーズな組み立てが可能である。
【0032】
洋上風力発電設備の組み立て後、再び脚柱10をデッキ20に対して上昇させ、曳航用船舶によって洋上作業設備1を施工ヤードに帰還させる。
【0033】
複数の洋上作業設備1を接続して、洋上設備の部品の荷役や組み立てのための、洋上設備建設用施工ヤードとして利用することもできる。図5に、複数の洋上作業設備1を利用した施工ヤードの平面図を示す。
【0034】
図5に示す施工ヤードは、デッキ20上で洋上設備の部品の荷役や組み立て行うことができるように、3基の洋上作業設備1を接続したものである。クレーン30が第1張り出し部22に搭載されているので、より広いデッキスペースを確保できる。また、クレーン30が互い違いに位置するように洋上作業設備1を配置することで、同時に複数のクレーン30を動作させた場合であっても互いに干渉することが抑制される。
【0035】
施工ヤードは、プロジェクトごとに設置することができる。洋上作業設備1を施工ヤードとして利用することで、ヤード作業が終了したら、そのまま洋上作業設備1を洋上設備の建設海域に移動させ、洋上設備の建設を行うことができる。施工ヤードは、恒久設備として使用することもできる。このように、洋上作業設備1を施工ヤードとして利用することにより、洋上設備用の港湾設備の代用となり、施工ヤードを低コストでかつ短期に設置することができる。
【0036】
以上、本発明について代表的な実施形態を例に挙げて説明した。本発明による洋上作業設備1は、メインデッキ部21および脚柱10を有する、自己昇降式作業台船あるいはジャッキアップ式掘削リグといった既存の洋上作業設備に対し、第1張り出し部21およびクレーン30を付加し、また必要に応じてさらに第2張り出し部23を付加することによって構成することができる。「既存の洋上作業設備」とは、その洋上作業設備の目的とする機能を有するように既に組み立てられて存在している洋上作業設備の意味であり、本形態による洋上作業設備1は、そのような洋上作業設備を改造して構成することができる。
【0037】
一般に、自己昇降式作業台船およびジャッキアップ式掘削リグ等の従来の洋上作業設備は、自己昇降式の脚柱、および脚柱に対して昇降可能に支持されたプラットフォーム(上述した本形態の洋上作業設備1におけるメインデッキ部21に相当する)を有する。
【0038】
そこで、既存の洋上作業設備を利用(改造)して本発明による洋上作業設備を構成することで、既存の洋上作業設備の構造の脚柱およびプラットフォームを利用してそれぞれ脚柱10およびメインデッキ部21を構成することができる。それにより、より簡便にかつ短い工期で洋上作業設備を得ることができ、結果的に、洋上作業設備の大幅なコストダウンが達成される。特に、既存のジャッキアップ式掘削リグを利用して洋上作業設備1を構成することにより、水深が90mを超える海域での洋上施工時に脚柱を着底させることにより波による影響を受けず安定して施工を行うことのできる洋上作業設備をより簡便にかつ短い工期で得ることができる。
【0039】
また、ジャッキアップ式掘削リグは、洋上で着底した状態で石油や天然ガスの掘削作業を行えるよう、船上掘削設備を有している。船上掘削設備は、プラットフォーム上に設置されたカンチレバーに搭載されている。ただし、カンチレバーは駆動機構によってプラットフォーム上を移動し、プラットフォームから乗り出した位置で掘削作業をする。そのような、駆動機構および船上掘削設備も含めたカンチレバー全体の荷重を支持するため、プラットフォームは、必要な強度を有する隔壁等の強度部材を支持構造として内部に持っている。
【0040】
本形態はこの点に着目し、第1張り出し部22を構成するに際して、既存のジャッキアップ式掘削リグが有しているカンチレバーの支持構造を利用している。すなわち、第1張り出し部22は、カンチレバーの支持構造によって支持されて、メインデッキ部21から張り出している。ここで、「カンチレバーの支持構造」とは、上述した、駆動機構および船上掘削設備も含めたカンチレバー全体の荷重を支持するためにプラットフォームが有している支持構造であり、具体的には、カンチレバー全体を支持するのに必要な強度を有する強度部材、例えば隔壁である。このように、ジャッキアップ式掘削リグに元々存在している支持構造を利用することで、例えば洋上風力発電設備のナセルなどの重量構造物を楊重可能なクレーン30を搭載するのに十分な機械的強度を有する第1張り出し部22を、新たに強度部材を追加することなく、元々存在している強度部材に合わせてより簡単に追加することができる。結果的に、洋上作業設備の大幅なコストダウンが達成される。
【0041】
なお、上述のようにジャッキアップ式掘削リグのカンチレバーの支持構造を利用して第1張り出し部22を構成する場合、ジャッキアップ式掘削リグのカンチレバーおよび船上掘削設備が撤去されて、カンチレバーの支持構造上に第1張り出し部22が構成され、その上にクレーン30が搭載される。したがって、洋上作業設備1は、もはや掘削リグとしては機能しない。
【0042】
また、デッキ20の機械的強度を向上させるためにデッキ20を複層構造とする場合、既存の天壁をより高い機械的強度を有する天壁と交換することが一般的に考えられる。しかし、通常、天壁の下面には電気配線や給排水管などさまざまな構造物が取り付けられている。したがって、天壁を交換する場合はこれらの構造物も一緒に交換する必要がある。そこで、図4に示したように、天壁20aをそのまま残してその上方に第2天壁120aを配置するようにしたことで、既存の電気配線および給排水管などを活用することができ、その結果、洋上作業設備1の建造工期を短縮するとともに、建造コストの上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 洋上作業設備
10 脚柱
20 デッキ
20a 天壁
20b 底壁
20c 外周壁
20d 隔壁
21 メインデッキ部
22 第1張り出し部
23 第2張り出し部
30 クレーン
120a 第2天壁
120c 第2外周壁
図1
図2
図2A
図3
図4
図5