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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】ビニル系モノマーの重合抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/62 20060101AFI20220819BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20220819BHJP
   C07C 51/50 20060101ALI20220819BHJP
   C07C 57/075 20060101ALI20220819BHJP
   C07B 63/04 20060101ALN20220819BHJP
【FI】
C07C67/62
C07C69/54 Z
C07C51/50
C07C57/075
C07B63/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018007513
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019127436
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 諒
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-517029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
C08F 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制する方法であって、
前記含窒素複素環を有する化合物は、イミダゾリン環を有する化合物であり、
ビニル系モノマーの重合防止剤と含窒素複素環を有する化合物との添加割合(重量比)は、1:1~100:1である、方法
【請求項2】
前記重合防止剤は、フェノール系重合防止剤、フェノチアジン系重合防止剤、フェニレンジアミン系重合防止剤、ヒドロキシルアミン系重合防止剤、及びテトラメチルピペリジン系重合防止剤からなる群から選択される、請求項1記載の重合抑制方法。
【請求項3】
前記重合防止剤は、トパノール、メトキノン、フェノチアジン、ハイドロキノン、クレゾール、フェノール、4-tert-ブチルカテコール、2-オキシジフェニルアミン、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、メチレンブルー、N,N'-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N'-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-1,4-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、及び1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の重合抑制方法。
【請求項4】
前記ビニル系モノマーは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、スチレン、メチルビニルケトン、アクリロニトリル、カルボン酸ビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン、ブロモプレン、1-クロロブタジエン、塩化ビニル、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、及び、ジシクロペンタジエンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の重合抑制方法。
【請求項5】
ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーを製造する方法であって、
前記含窒素複素環を有する化合物は、イミダゾリン環を有する化合物であり、
ビニル系モノマーの重合防止剤と含窒素複素環を有する化合物との添加割合(重量比)は、1:1~100:1である、方法
【請求項6】
ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制するための組成物であって、
前記含窒素複素環を有する化合物は、イミダゾリン環を有する化合物であり、
ビニル系モノマーの重合防止剤と含窒素複素環を有する化合物との割合(重量比)は、1:1~100:1である、組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビニル系モノマーの重合抑制方法、それに用いる重合抑制用組成物、及びそれを用いたビニル系モノマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタアクリル酸及びアクリル酸等のビニル系モノマーは、高温下や光にさらされると重合しやすい性質を有する。このような性質から、ビニル系モノマーの製造、精製、貯蔵及び流通工程において、ビニル系モノマーが意図せずに重合してしまうと、ビニル系モノマーの収率が低下するという問題や、重合物が装置等に付着して、装置の閉塞や伝熱性能の低下等を引き起こし、その結果、製造効率が低下するという問題が生じる場合がある。また、ビニル系モノマーを原料とするプラスチック及び繊維等の製造、精製、貯蔵及び流通工程においても、同様の問題が生じる場合がある。
【0003】
そのため、例えば、ハイドロキノン(HQ)、メトキノン(MQ)、及びフェノチアジン等のビニル系モノマーの重合防止剤を、単独又は組み合わせて使用することによって、重合を防止することが提案されている(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-155021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ビニル系モノマーの重合抑制効果が向上した、ビニル系モノマーの重合を抑制する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制する方法に関する。
【0007】
本開示は、一態様において、ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーを製造する方法に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制するための組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一又は複数の実施形態において、重合抑制効果が向上した、ビニル系モノマーの重合抑制方法及びビニル系モノマーの重合抑制用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、ビニル系モノマーの分散剤として使用されているアルキルイミダゾリン等の含窒素複素環を有する化合物を単独で使用した場合には重合抑制効果をほとんど示さないのに対し、ビニル系モノマーの重合防止剤として使用されるトパノール又はメトキノン等と併用することによって、それらの重合防止剤を単独で使用した場合と比較して、ビニル系モノマーの重合物の生成量を大幅に減少させることができる、という知見に基づく。
本開示は、アルキルイミダゾリン等の含窒素複素環を有する化合物を、トパノール又はメトキノン等の重合防止剤と併用することによって、これらの重合防止剤によるビニル系モノマーの重合抑制効果を大幅に向上できるという知見に基づく。
【0011】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの重合を抑制することができる。このため、本開示によれば、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの製造、精製、貯蔵及び流通工程において、ビニル系モノマーの重合又はビニル系モノマーの重合物の生成を抑制することができる。また、本開示によれば、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーを原料とする製品の製造、精製、貯蔵及び流通工程において、意図しない、ビニル系モノマーの重合又はビニル系モノマーの重合物の生成を抑制することができる。
【0012】
本開示において「ビニル系モノマー」としては、一又は複数の実施形態において、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、スチレン、メチルビニルケトン、アクリロニトリル、カルボン酸ビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン、ブロモプレン、1-クロロブタジエン、塩化ビニル、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、及びジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0013】
本開示において「ビニル系モノマーの重合防止剤」としては、上記のビニル系モノマーの重合防止剤として使用されている化合物が挙げられる。ビニル系モノマーの重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、フェノール系重合防止剤、フェノチアジン系重合防止剤、フェニレンジアミン系重合防止剤、ヒドロキシルアミン系重合防止剤、及びテトラメチルピペリジン系重合防止剤等が挙げられる。
フェノール系重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、トパノール(2-(tert-ブチル)-4,6-ジメチルフェノール)、メトキノン(MQ、4-メトキシフェノール)、ハイドロキノン(HQ、1,4-ベンゼンジオール)、クレゾール(メチルフェノール)、フェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、及び2-オキシジフェニルアミン等が挙げられる。
フェノチアジン系重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、フェノチアジン(PZ、2,3:5,6-ジベンゾ-1,4-チアジン)、及びメチレンブルー(3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジニウムクロリド)等が挙げられる。
フェニレンジアミン系重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、N,N’-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン(PDA)、又はN,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-1,4-フェニレンジアミン等が挙げられる。
ヒドロキシルアミン系重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)又はN,N-ジメチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
テトラメチルピペリジン系重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4-Hydroxy-TEMPO、HTEMPO)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、又は1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TEMPOL-H)等が挙げられる。
その他のビニル系モノマーの重合防止剤としては、一又は複数の実施形態において、ジフェニルアミン、又は4-アミノジフェニルアミン等が挙げられる。
【0014】
[重合抑制方法]
本開示は、一態様において、ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制する方法(本開示の重合抑制方法)に関する。
【0015】
含窒素複素環を有する化合物としては、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環を有する化合物等が挙げられる。イミダゾリン環を有する化合物としては、一又は複数の実施形態において、アルキルイミダゾリン類等が挙げられる。アルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、イミダゾリン環の2位の炭素の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、1位の窒素の置換基がヒドロキシアルキルであるイミダゾリン化合物、イミダゾリン環の2位の炭素の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、1位の窒素の置換基が水素原子であるイミダゾリン化合物、又はイミダゾリン環の2位の炭素の置換基が飽和アルキル基又は不飽和アルキル基であり、1位の窒素の置換基がポリアミノポリアルキレン基であるイミダゾリン化合物等が挙げられる。
【0016】
その他のアルキルイミダゾリン類としては、一又は複数の実施形態において、式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
【化1】
上記式(I)において、R1は、H、水酸基、炭素数1-9のヒドロキシアルキル基、又は炭素数1-9のカルボキシアルキル基を示し、R2は、炭素数1-30の飽和又は不飽和のアルキル基、炭素数2-30のアルキレン基、炭素数6-30のアリール基、炭素数7-30のアルキルアリール基、炭素数7-30のアリールアルキル基、炭素数1-30のアミノアルキル基、又は炭素数6-30のアミノアリール基を示す。
【0018】
含窒素複素環を有する化合物としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの分散剤として使用可能な含窒素複素環を有する分散剤が使用できる。
【0019】
ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることとしては、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの反応系に、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物が存在していることが挙げられる。
【0020】
本開示の重合抑制方法において「ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させること」としては、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーが存在する系内に、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を存在させることが挙げられる。本開示の重合抑制方法は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーが存在する系内に、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を供給することを含む。供給は、一又は複数の実施形態において、混合、添加、又は噴霧等により行うことができる。ビニル系モノマーが存在する系としては、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーを含有する溶液、ビニル系モノマーを含有する混合物、又はビニル系モノマーを含有する雰囲気(蒸気等)等が挙げられる。
【0021】
本開示の重合抑制方法は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーを含有する溶液又は混合物に、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を添加することを含んでいてもよい。ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物は、一又は複数の実施形態において、同時に添加してもよいし、異なるタイミングで添加してもよい。ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物は、一又は複数の実施形態において、連続的又は断続的に添加してもよい。
【0022】
ビニル系モノマーの重合防止剤の添加量は、ビニル系モノマーの種類及びその重量、又は温度条件等に基づき適宜決定できる。ビニル系モノマーの重合防止剤の添加量は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの重量に基づき、1~1000ppmである。
【0023】
含窒素複素環を有する化合物の添加量は、重合防止剤の種類、ビニル系モノマーの種類及び重量、又は温度条件等に基づき適宜決定できる。含窒素複素環を有する化合物の添加量は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの重量に基づき、0.1~500ppmである。
【0024】
ビニル系モノマーの重合防止剤と含窒素複素環を有する化合物との添加割合(重量比)は、一又は複数の実施形態において、1:1~100:1であり、好ましくは1:1~10:1である。
【0025】
本開示の重合抑制方法は、ビニル系モノマーの製造、精製、貯蔵及び流通工程、並びにビニル系モノマーを原料とする製品の製造、精製、貯蔵及び流通工程において使用することができる。
【0026】
[ビニル系モノマーの製造方法]
よって、本開示は、その他の態様として、ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーを製造する方法(本開示の製造方法)に関する。
【0027】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーを酸化する工程を含んでいてもよい。酸化工程は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物が共存した状態で、ビニル系モノマーを酸化することを含む。
【0028】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーを含有する混合物から、ビニル系モノマーを単離することを含む精製工程を含んでいてもよい。精製工程は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物が共存した状態で、ビニル系モノマーを含有する混合物を加熱下に蒸留することを含む。
【0029】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、単離して精製したビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を添加することを含んでいてもよい。
【0030】
本開示の製造方法における重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物の種類及び添加量は、本開示の重合抑制方法と同様である。
【0031】
[重合抑制用組成物]
本開示は、その他の態様として、ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを含む重合抑制用組成物に関する。本開示の重合抑制用組成物は、一又は複数の実施形態において、有効成分として、ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを含有する。
【0032】
本開示の重合抑制用組成物は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの製造、精製、貯蔵及び流通工程、並びにビニル系モノマーを原料とする製品の製造、精製、貯蔵及び流通工程において使用することができる。本開示の重合抑制用組成物は、一又は複数の実施形態において、ビニル系モノマーの製造及び精製工程、並びにビニル系モノマーを原料とする製品の製造及び精製工程における汚れ防止の用途として使用することができる。
【0033】
[ビニル系モノマーの製造プロセスにおける汚れ防止方法]
よって、本開示は、その他の態様として、ビニル系モノマーの製造プロセスにおけるプロセス流体に、ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物を存在させることを含む。
【0034】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制する方法。
〔2〕 前記重合防止剤は、フェノール系重合防止剤、フェノチアジン系重合防止剤、フェニレンジアミン系重合防止剤、ヒドロキシルアミン系重合防止剤、及びテトラメチルピペリジン系重合防止剤からなる群から選択される、〔1〕記載の重合抑制方法。
〔3〕 前記重合防止剤は、トパノール、メトキノン、フェノチアジン、ハイドロキノン、クレゾール、フェノール、4-tert-ブチルカテコール、2-オキシジフェニルアミン、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、メチレンブルー、N,N’-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-1,4-フェニレンジアミン、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、及び1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンからなる群から選択される、〔1〕又は〔2〕に記載の重合抑制方法。
〔4〕 前記含窒素複素環を有する化合物は、イミダゾリン環を有する化合物である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の重合抑制方法。
〔5〕 前記ビニル系モノマーは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、アクリル酸エステル、スチレン、メチルビニルケトン、アクリロニトリル、カルボン酸ビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン、ブロモプレン、1-クロロブタジエン、塩化ビニル、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、及び、ジシクロペンタジエンからなる群から選択される、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の重合抑制方法。
〔6〕 ビニル系モノマーに、ビニル系モノマーの重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物を共存させることを含む、ビニル系モノマーを製造する方法。
〔7〕 ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを含む、ビニル系モノマーの重合を抑制するための組成物。
【0035】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例
【0036】
(実施例1)
[モノマー:メタクリル酸メチル(MMA)]
市販品(東京化成工業株式会社, Methyl Methacrylate (安定剤:6-tert-ブチル-2,4-キシレノール))を減圧蒸留することにより、安定剤を除去したものをモノマーとして用いた。
[重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物]
重合防止剤としてトパノール(東京化成工業株式会社製)を使用し、含窒素複素環を有する化合物としてアルキルイミダゾリン(トール油ヒドロキシエチルイミダゾリン、花王株式会社製、製品名:KAOAMIN TO65)を使用し、これらは、安定剤除去後のMMAであらかじめ適当な濃度に希釈して使用した。
[MMAに対する重合防止効果確認試験]
温度コントローラーつき熱電対、冷却管及びガス吹き込み用ガラスチューブを備えた100mL三つ首フラスコに、安定剤除去後のMMA(100g)、トパノール(9ppm)及びアルキルイミダゾリン(1ppm)を添加してMMA試験液を得た。
次に、酸素濃度100ppmである酸素と窒素との混合ガスを200ml/分の速度でMMA試験液中に30分間注入(ガスパージング)した。このガスパージングは試験が終了するまで継続した。
つづいて40℃のオイルバスに、前記ガスパージング後の試験液入り三つ首フラスコを浸漬させ、マグネティックスターラー及び撹拌子で溶液を撹拌しながら、試験液の温度が30分で90℃に到達するように加熱した。三つ首フラスコに取り付けた冷却管には温度20℃に保った冷却水を常時循環させ、気体となったMMAを還流させた。
MMA試験液が90℃に到達してから90分経過後に、冷却管上部からテフロン(登録商標)チューブを挿入し、余分な酸素が混入しないように注意しながら、三つ首フラスコ中のMMA試験液からサンプルを約0.5ml採取した。
【0037】
[ポリマー(p-MMA)濃度の測定]
採取したサンプル(MMAポリマーを含むMMA試験液)は、液体クロマトグラフィー(ELSD検出器)にてそのポリマー強度面積を測定した。予め標準MMAポリマー溶液により作成した濃度とポリマー強度面積との検量線を用いて、採取したMMA試験液におけるポリマー濃度(ppm)を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
トパノールの濃度を7ppm及びアルキルイミダゾリンを3ppmとした以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
トパノールの濃度を5ppm及びアルキルイミダゾリンの濃度を5ppmとした以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例4)
アルキルイミダゾリンに代えて2-メチル-2―イミダゾリン(東京化成工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
アルキルイミダゾリンに代えてアミノアルキルイミダゾリン(1-アミノエチル-2-C17アルキレン-2-イミダゾリン)を使用した以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
表1に示すようにアルキルイミダゾリン単独とし、MMA試験液が90℃に到達してから60分後にサンプルを採取した以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
(比較例2及び3)
表1に示すようにトパノール単独とした以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
(ブランク)
MMA試験液に代えて、安定剤除去後のMMA(100g)を使用し、サンプルを60分後に採取した以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、アルキルイミダゾリンは、単独では生成されるp-MMA濃度には大きな変化は見られなかった。これに対し、ビニル系モノマーの重合防止剤であるトパノールと併用することによって、該重合防止剤を単独で使用した場合と比較して、生成されるp-MMA濃度が激減した。2-メチル-2-イミダゾリン又はアミノアルキルイミダゾリンの併用においてもアルキルイミダゾリンの時の同様の結果が得られた。
つまり、ビニル系モノマーの重合防止剤と、含窒素複素環を有する化合物とを併用することにより、メタクリル酸メチルの重合を効果的に抑制できるといえる。
【0047】
(実施例6)
トパノールに代えてメトキノン(4-メトキシフェノール、東京化成工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0048】
(比較例4)
メトキノン単独で試験を行った以外は、実施例6と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、ビニル系モノマーの重合防止剤であるメトキノンとアルキルイミダゾリンとを併用することによって、メトキノン単独の場合と比較して、生成されるp-MMA濃度が激減した。
【0051】
(実施例7)
トパノールに代えてフェノチアジン(東京化成工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様に重合防止試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表3に示す。
(実施例8)
トパノールに代えてHTEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、東京化成工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様に重合防止試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0052】
(比較例5及び6)
フェノチアジン単独又はHTEMPO単独で試験を行った以外は、実施例7又は8と同様に行った。その結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、ビニル系モノマーの重合防止剤であるフェノチアジン又はHTEMPOとアルキルイミダゾリンとを併用することによって、重合防止剤単独の場合と比較して、生成されるp-MMA濃度が激減した。
【0055】
(実施例9)
[モノマー:メタクリル酸(MAA)]
市販品(東京化成工業株式会社,メタクリル酸(安定剤:4-メトキシフェノール))を減圧蒸留することにより、安定剤を除去したものをモノマーとして用いた。
[重合防止剤及び含窒素複素環を有する化合物]
重合防止剤としてフェノチアジン(東京化成工業株式会社製)を使用し、含窒素複素環を有する化合物としてアルキルイミダゾリン(トール油ヒドロキシエチルイミダゾリン、花王株式会社製、製品名:KAOAMIN TO65)を使用し、これらは、安定剤除去後のMAAであらかじめ適当な濃度に希釈して使用した。
[メタクリル酸(MAA)に対する重合防止効果確認試験]
温度コントローラーつき熱電対、冷却管及びガス吹き込み用ガラスチューブを備えた100mL三つ首フラスコに、安定剤除去後のMAA(100g)、フェノチアジン(9ppm)及びアルキルイミダゾリン(1ppm)を添加し、MAA試験液を得た。
次に、酸素濃度100ppmである酸素と窒素の混合ガスを200ml/分の速度でMAA試験液中に30分間注入(ガスパージング)した。このガスパージングは試験が終了するまで継続した。
つづいて110℃のオイルバスに、前記ガスパージング後の試験液入り三つ首フラスコを浸漬させ、マグネティックスターラー及び撹拌子で溶液を撹拌しながら、試験液の温度が30分で110℃に到達するように加熱した。三つ首フラスコに取り付けた冷却管には温度20℃に保った冷却水を常時循環させ、気体となったMAAを還流させた。
MAA試験液が110℃に到達してから90分経過後に、冷却管上部からテフロン(登録商標)チューブを挿入し、余分な酸素が混入しないように注意しながら、三つ首フラスコ中のMMA試験液からサンプルを約0.5ml採取した。
[ポリマー(p-MAA)濃度の測定]
採取したサンプル(MAAポリマーを含むMAA試験液)は、液体クロマトグラフィー(ELSD検出器)にてそのポリマー強度面積を測定した。予め標準MMAポリマー溶液により作成した濃度とポリマー強度面積との検量線を用いて、採取したMAA試験液におけるポリマー濃度(ppm)をMMAポリマー濃度換算で求めた。その結果を下記表4に示す。
【0056】
(比較例7)
フェノチアジン10ppmを使用した以外は、実施例9と同様に重合防止効果確認試験及びポリマー濃度の測定を行った。その結果を表4に示す。
【表4】
【0057】
表4に示すように、ビニル系モノマーの重合防止剤であるフェノチアジン又はHTEMPOとアルキルイミダゾリンとを併用することによって、重合防止剤単独の場合と比較して、生成されるp-MAA濃度が激減した。つまり、アルキルイミダゾリンはMAAの重合防止においても、ビニル系モノマーの重合防止剤であるフェノチアジンとの併用により、メタクリル酸の重合を効果的に抑制できた。