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  • 特許-走行台車 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】走行台車
(51)【国際特許分類】
   B61B 13/04 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
B61B13/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018116006
(22)【出願日】2018-06-19
(65)【公開番号】P2019217879
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314011910
【氏名又は名称】株式会社サーフ・エンジニアリング
(72)【発明者】
【氏名】岡野 良成
(72)【発明者】
【氏名】根本 秀幸
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-038223(JP,A)
【文献】実開昭49-003207(JP,U)
【文献】特開2014-131905(JP,A)
【文献】特開平05-213241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/00
B62D 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行対象を走行するための走行台車であって、
前記走行対象を取り囲むように配置されるフレーム部材と、
前記走行対象上を転動可能で前記走行対象を把持する複数の転動部材と、
前記フレーム部材と前記複数の転動部材の少なくとも一つとを連結する弾性部材と、
前記フレーム部材に連結される一端部を有するアーム部材と、
前記アーム部材の他端部に揺動可能に連結されるスイング部材と、
前記アーム部材と前記フレーム部材とを連結し、前記アーム部材を前記フレーム部材に対し接離する接離部材と、を備え、
前記複数の転動部材の少なくとも一つは、前記スイング部材に装着されることを特徴とする走行台車。
【請求項2】
前記スイング部材の仮想中心線が、前記転動部材の走行方向に対し傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の走行台車。
【請求項3】
前記スイング部材の揺動中心は、前記転動部材の回転軸心と前記フレーム部材との間に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行対象の外面を走行できる走行台車に関し、特に、橋脚、高架橋等の建造物の外面を点検・保守するための装置が装着され橋脚等の外面を走行できる走行台車に関する。
【背景技術】
【0002】
地面から地上より高い位置に立設される橋脚や高架橋等の建造物の老朽化が進んでいることから、昨今、建造物の点検が義務化された。しかし、建造物の表面に生じた浮き、剥離、クラック等は、人手による目視で確認されているのが実情である。
【0003】
本出願人は、建造物の点検・保守を行うために使用可能な手段として、特許文献1に開示される走行台車を提案した。当該走行台車は、アクセスすることが難しい環境に設置される建造物等の走行対象や、走行対象の湾曲する湾曲部位や鉛直方向に延びる鉛直部位を容易かつ確実に走行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5712426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した橋脚や高架橋等の建造物は、経年劣化によりその外面に浮き、剥離、クラック等が生じ、その外面寸法の変化が生じている場合がある。また、異なる寸法の多種の建造物に対し、特許文献1に開示される走行台車は走行できるものの、走行対象の寸法に応じて調整する必要がある。
【0006】
特許文献1に開示される走行台車は、現状の使用条件化においては対応できるが、経年劣化による走行対象の寸法変化といった予期することが難しい場合には、走行対象が設置されている現場において、建造物の形状や寸法に応じて走行台車の調整を行う必要がある。従って、走行台車を実際に走行させ、検査作業等を行う時間を確保することが困難となる場合が将来的に予測される。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。すなわち、走行対象の寸法や形状が予期せずに異なる場合であっても、走行対象に容易に設置でき、検査作業を確実に行うことができる走行台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の第1の態様は、走行対象を走行するための走行台車であって、前記走行対象を取り囲むように配置されるフレーム部材と、前記走行対象上を転動可能で前記走行対象を把持する複数の転動部材と、前記フレーム部材と前記複数の転動部材の少なくとも一つとを連結する弾性部材と、前記フレーム部材に連結される一端部を有するアーム部材と、前記アーム部材の他端部に揺動可能に連結されるスイング部材と、を備え、前記複数の転動部材の少なくとも一つは、前記スイング部材に装着される。
【0009】
また、本発明の走行台車の第2の態様によれば、前記第1の態様であって、前記スイング部材の仮想中心線が、前記転動部材の走行方向に対し傾斜している。
【0010】
本発明の走行台車の第3の態様によれば、前記第1又は第2の態様であって、前記スイング部材の揺動中心は、前記転動部材の回転軸心と前記フレーム部材との間に位置している。
【0011】
本発明の走行台車の第4の態様によれば、前記第1乃至第3の態様のいずれかであって、前記アーム部材と前記フレーム部材とを連結し、前記アーム部材を前記フレーム部材に対し接離する接離部材と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる走行台車の、走行対象を把持する複数の転動部材の少なくとも一つが、揺動可能なスイング部材に装着されている構成により、走行対象の外面の寸法の変化に応じて転動部材が走行対象を適確に把持でき、走行台車は、走行対象を確実に走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、実施形態に係る走行台車の平面図であり、(b)は、実施形態に係る走行台車の正面図である。
図2】(a)は、図1に示される走行台車の要部の側面図であり、(b)は、図1に示される走行台車の要部の底面図であり、(c)は、図1に示される走行台車の要部の正面図であり、(d)は、図2(a)の線II-IIに沿った断面図である。
図3】(a)~(d)は、図1の線III-IIIに沿った走行台車の模式図であり、走行台車を設置する工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る走行台車を適用した実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図において、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。また、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔実施形態〕
図1(a)は、実施形態に係る走行台車1の平面図であり、図1(b)は、実施形態に係る走行台車1の正面図であり、図2(a)は、図1に示される走行台車1の要部の側面図であり、図2(b)は、図1に示される走行台車1の要部の底面図であり、図2(c)は、図1に示される走行台車1の要部の正面図であり、図2(d)は、図2(a)の線II-IIに沿った一部断面図である。
【0016】
図1(a)、(b)に示されるように、走行台車1は、走行対象である断面I字形状の橋脚Bの外面101を取り囲むように設置されている。走行台車1は、平面視で略矩形状であるフレーム部材3と、フレーム部材3に装着され、橋脚Bの外面101上を転動できる第1の転動部材である複数の第1の車輪5と、第1の車輪5を駆動する駆動手段である電動モータ15と、を備える。フレーム部材3は、互いに平行に延在する2つの長手フレーム3aと、長手フレーム3aの端部を連結し、互いに平行に延在する2つの短手フレーム3bとを有する。なお、詳細は割愛するが、長手フレーム3a、短手フレーム3bは、その長手方向の寸法を調整できるように継手等の連結部材を有する。さらに、2つの第2の車輪17が、橋脚Bの長手フレーム3aの中点を通る中心線O2から等距離に配置される。
【0017】
また、本実施形態では、走行台車1は、複数の第1の車輪5と協働する第2の転動部材である第2の車輪17を備える。2つの第2の車輪17は、橋脚Bの短手フレーム3bの中点を通る中心線O1から等距離に配置される。なお、本実施形態では、各長手フレーム3a及び各短手フレーム3bに2組の第1及び第2の車輪5、17を設ける構成であるが、車輪が装着される位置、数は適宜変更できることは言うまでもない。
【0018】
本実施形態の第1の車輪5及び第2の車輪17は、それぞれ同一寸法、同一構成であるので、一の第1の車輪7及び第2の車輪17について説明する。第1及び第2の車輪5、17には、空気入りのスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムから成るタイヤを利用することができる。また、本実施形態では、第1の車輪5は2つのタイヤ5a、5bにより構成され、タイヤ5a、5bは同一寸法、及び同一形状であり、電動モータ15の回転軸27に同軸に装着され、電動モータ15の駆動力より回転する。なお、本実施形態の第2の車輪17は、駆動手段に連結されず回転自在に支持されている。また、本実施形態では、第1の車輪5の回転軸27(図2(a)参照。)と、第2の車輪17の回転軸とは、互いに直交する方向に延在する。
【0019】
走行台車1は、各電動モータ15を制御するための制御部81を備える。制御部81は、走行台車1の各構成要素である電動モータ15に電気的に連結され、電動モータ15の制御を司る。制御部81は、既知のCPU(Central Processing Unit)、所定のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種設定値を格納するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等を備えると共に、CPUがROM等に記憶されている制御プログラムを実行することで後述するように、走行台車1の走行や、走行台車1に装着される不図示の撮像カメラの制御といった種々の処理を実行する。従って、制御部81は、不図示の入力手段から入力される操作者の指令に基づき、所定タイミングで走行台車1を作動させる。
【0020】
第1の車輪5を有する転動組立体51について図2(a)~(d)を参照しつつ説明する。転動組立体51は、フレーム部材3に固定される基部53と、昇降可能なアーム部材9と、基部53及びアーム部材9を連結しアーム部材9が基部53に対し接離可能な接離部材13と、アーム部材9に対し揺動可能に連結されるスイング部材11と、フレーム部材3及び転動部材5を連結するダンパを構成する弾性部材であるコイルばね7と、を備える。なお、図1の上方に位置する長手フレーム3aに設けられる2つの転動組立体51は、中心線O2に関し左右対称な構成である。また、図1の上方に位置する長手フレーム3aに設けられる2つの転動組立体51と、図1の下方に位置する長手フレーム3aに設けられる2つの転動組立体51とは、中心線O1に関し、上下対称な構成である。従って、4つの転動組立体51の各構成部材は、方向性が異なるのみで、構造及び寸法は同一である。
【0021】
本実施形態の接離部材13は、パンダグラフジャッキであり、基部53及びアーム部材9を連結する4本のアーム13a~13dと、アーム13a、13bを枢動可能に連結する不図示のナット及び支持筒と、ナット及び支持筒の間に架け渡され、ナットに螺合する操作軸57と、を有する。また、アーム13b、13dの一端部は、アーム部材9に対し揺動可能にピン結合されており、アーム13a、13cの一端部は、基部53に対し揺動可能にピン結合されている。さらに、アーム13a、13bの他端部は、互いに枢動可能にピン結合され、アーム13c、13dの他端部は、互いに枢動可能にピン結合されている。上記構成の接離部材13は、操作軸57に連結されるハンドル59(図3参照。)を回転させることにより、基部53に対しアーム部材9が接離する方向に移動される。
【0022】
さらに、基部53は、水平方向(図2(a)における左右方向)に突出する棒状の4つの支持部材55を有する。アーム部材9は、図2(a)の紙面を直交する方向に延びるフランジ部61を有する。フランジ部61は、支持部材55が貫通する開口61aを有し、アーム部材9が基部53に対し離接する方向に移動する際に、支持部材55がアーム部材9の移動方向を規制する。
【0023】
アーム部材9の底部には、ダンパを構成するコイルばね7の一端部71が連結され、コイルばね7の他端部73は、スイング部材11の、回転軸27が回転可能に軸支される部位の近傍に連結されている。ばね7の一端部71及び他端部73は、回転可能に支持されている。また、スイング部材11は、支持軸63を介しアーム部材9に対し揺動可能に連結されている。従って、スイング部材11は、支持軸63を中心に揺動する。
【0024】
さらに、アーム部材9、スイング部材11の位置関係について図2(a)、図3(a)~(d)を主として参照しつつ説明する。図3(a)~(d)は、図1の線III-IIIに沿った走行台車1の模式図であり、走行台車1を設置する工程を説明するための図である。図3は、図面の明瞭化のため、図中の走行台車1の説明に必要な構成要素のみを示している。
【0025】
図3(a)に示されるように、作業者がハンドル59を矢印C方向に回転することにより、接離部材13が矢印E方向に伸長し、タイヤ5a、5bが装着されるフランジ部61が、外面101へ近づく方向に移動する。
【0026】
次に図3(b)に示されるように、接離部材13が矢印E方向に延びると、タイヤ5a、5bが、外面101に接する。図3(b)に示される状態の走行台車1が、図2(a)の示される走行台車1に対応し、この状態では、コイルはね7a、7bに外面101からの負荷が掛かっていない。また、回転軸27の軸中心が、コイルばね7の一端部71の軸中心を通る仮想水平線H(図2(a)参照。)よりわずかに上方に配置される構成である。また、支持軸63の回転中心と回転軸27の回転中心を通る仮想中心線Qと、鉛直線Xとの間の角度は、傾斜角度Rと規定する。なお、コイルばね7の一端部71は回動可能にフランジ部61に装着され、コイルばね7の他端部73は回動可能に、スイング部材11に連結されている。
【0027】
図3(c)に示されるように、接離部材13が矢印E方向にさらに延びると、タイヤ5a、5bが、外面101に接した状態で、スイング部材11が、矢印G方向に揺動すると共にコイルはね7a、7bに外面101からの荷重が掛かる。
【0028】
次の図3(d)は、走行台車1が駆動される際の初期状態を示す。すなわち、図3(c)に示される状態から、接離部材13が矢印E方向にさらに延びている。この初期状態では、タイヤ5bの回転軸27´の軸中心(図2(a)参照。)が、コイルばね7の一端部71の軸中心を通る仮想水平線H上に位置する状態である。このように初期状態を設定することにより、支持部材55、基部53等に負荷される荷重を均一化することができ、走行台車1の走行動作をより安定化させることができる。また、支持軸63の中心(スイング部材11の揺動中心)と回転軸27´の回転中心とを通る仮想中心線Q´と、回転軸27´を通る鉛直線X´との間の角度は、傾斜角度R´と規定する。
【0029】
ここで、転動部材5に駆動力Dが付与されると、スイング部材11の仮想中心線Q´が鉛直方向に対して所定の傾斜角度R´を有するので、コイルばね7による押圧力に加え、スイング部材11を介し転動部材5の外面101に対する押圧力が付与され(いわゆる、アンチスクワット効果)、コイルばね7(又はダンパ)の荷重特性等に関し設計の自由度を高めることができる。さらに、揺動可能な片持ち状のスイング部材11を備えるので、寸法や形状に予期せぬ変化を有する外面101に対し走行台車1が橋脚Bに確実に載置され走行することができる。
【0030】
実施形態の橋脚Bは、外形がI字状であるが、本発明の走行台車が走行できる走行対象はこの形状に限定されない。例えば、外形が多角形状、楕円形状等の種々の形状の橋脚に本発明の走行台車が利用できることは言うまでもない。また、橋脚のような中実の走行対象のみならず、中空の部材等にも利用できる。さらに、本発明の走行台車は、H形鋼、I形鋼等の種々の形鋼にも利用できる。本実施形態の橋脚Bは、図2(a)、図3では、鉛直方向に延びる外面101を有する構造であるが、鉛直方向に対し傾斜する外面、湾曲する外面等、種々の外面上を、本発明の走行台車は走行できる。
【0031】
実施形態の第1の転動部材は、2つのタイヤを備える構成としているが、単一又は3つ以上のタイヤを用いることも可能である。また、第2の転動部材は、単一のタイヤを備える構成としているが、複数のタイヤを用いる構成とすることも可能である。
【0032】
また、本実施形態では、中心線O2方向に対向配置される長手フレーム3aのそれぞれに2つずつ転動組立体51を配置し、橋脚Bを挟持する構成であるが、短手フレーム3bのそれぞれに転動組立体を設け、長手フレーム3aには、第2の転動部材に対応する回転自在の転動部材を配置する構成とすることも可能である。さらに、本実施形態では、2つの転動組立体51が、各長手フレーム3aに設けられているが、一方の長手フレーム3aに単一又は複数の転動組立体51を設けられる構成とすることも可能である。
【0033】
上述の実施形態では、第1及び第2の転動部材は、空気等の気体が内部に収容されるタイヤを用い、転動部材が対象物に対し面接触することで、転動部材が橋脚の外面を滑らずに走行できる。しかし、走行台車の利用態様によっては、滑りが問題にならない場合もある。そのような場合には、面接触では無く線接触する柔軟性の低い材料から形成される転動部材を使用することが可能である。
【0034】
実施形態の走行台車のフレーム部材は、平面視において四角形状に限定されず、多角形状、円形状、楕円形状等、種々の形状に変更できることは言うまでもない。
【0035】
実施形態では、第1及び第2の転動部材が、それぞれ、長手フレーム3aと短手フレーム3bに2つずつ配置される構成であるが、本発明は、この構成に限定されず、転動部材の数や位置は適宜変更できる。
【符号の説明】
【0036】
1 走行台車
3 フレーム部材
5 第1の車輪
7、7a、7b コイルばね
9 アーム部材
11 スイング部材
13 接離部材
13a、13b、13c、13d アーム
15 電動モータ
17 第2の車輪
27 回転軸
51 転動組立体
53 基部
55 支持部材
57 操作軸
59 ハンドル
61 フランジ部
61a 開口
63 支持軸
81 制御部
101 外面
B 橋脚
D 駆動力
H 仮想水平線
O1、O2 中心線
Q 仮想中心線
R、R´ 傾斜角度
X、X´ 鉛直線
V 走行方向
図1
図2
図3