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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】差込式結合継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 37/086 20060101AFI20220819BHJP
   A62C 33/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
F16L37/086
A62C33/00 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019218540
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2020159550
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019052533
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593140299
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000215822
【氏名又は名称】帝国繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】笠原 正司
(72)【発明者】
【氏名】笠原 宏文
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014477(JP,A)
【文献】実公昭07-012011(JP,Y1)
【文献】特開2002-243080(JP,A)
【文献】特開2013-079659(JP,A)
【文献】米国特許第01587079(US,A)
【文献】特開平11-201357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 37/086
A62C 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向基端側に係止爪が係合可能な係止段部を備える先端筒部、前記係止段部の軸線方向基端側に延在する基端側外周部、及び、前記基端側外周部上において軸線方向にスライド可能に装着された押し輪を有する差し具と、前記先端筒部を受け入れ可能に構成された受け口、及び、前記受け口の内部に突出方向に付勢され、前記係止段部と係合することで結合状態を形成し、該結合状態において前記基端側外周部上の先端側の作動域に差し込まれる前記押し輪により退避して前記結合状態が解除されるように構成された前記係止爪を有する受け具と、を具備する差込式結合継手であって、
前記押し輪が前記基端側外周部上の基端側の非作動域に配置されたときに、前記押し輪の前記基端側外周部に対向する内面部は、軸線方向の第1の位置において前記基端側外周部に当接可能に構成されるとともに前記第1の位置において前記基端側外周部との間に第1の内外寸法差を備える第1の内面領域と、前記第1の位置とは異なる軸線方向の第2の位置において前記基端側外周部に当接可能に構成されるとともに前記第2の位置において前記基端側外周部との間に前記第1の内外寸法差よりも大きな第2の内外寸法差を備える第2の内面領域とを有し、
前記第2の内外寸法差を前記第1の内外寸法差と等しくした場合に比べて、前記基端側外周部上においてより大きな角度範囲で傾斜可能となるように前記押し輪を構成する、
差込式結合継手。
【請求項2】
前記第1の内面領域は、前記内面部における軸線方向の基端側の領域に配置され、
前記第2の内面領域は、前記内面部における軸線方向の先端側の領域に配置される、
請求項1に記載の差込式結合継手。
【請求項3】
前記第2の内面領域における前記第2の内外寸法差に対応する部位の第2の内寸法は、前記第1の内面領域における前記第1の内外寸法差に対応する部位の第1の内寸法よりも大きい、
請求項1又は2に記載の差込式結合継手。
【請求項4】
前記基端側外周部は、少なくとも前記係止爪に当接する作動域と前記非作動域との間の前記押し輪の軸線方向の移動可能な範囲において軸線方向に一定の外寸法を備える、
請求項3に記載の差込式結合継手。
【請求項5】
前記第1の内面領域は、軸線方向に一定の前記第1の内寸法を備える領域であり、
前記第2の内面領域は、軸線方向に一定の前記第2の内寸法を備える領域である、
請求項3又は4に記載の差込式結合継手。
【請求項6】
前記第1の内面領域は、軸線方向に一定の前記第1の内寸法を備える領域であり、
前記第2の内面領域は、前記第1の内面領域から軸線方向に離れるに従って前記第2の内寸法が漸増する領域である、
請求項3又は4に記載の差込式結合継手。
【請求項7】
前記第1の内面領域と前記第2の内面領域は軸線方向に相互に隣接して配置される、
請求項5又は6に記載の差込式結合継手。
【請求項8】
前記第2の内面領域における前記第2の内寸法と軸線方向の長さは、前記第1の内面領域における前記第1の内寸法と軸線方向の長さによって定まる最大傾斜角度を制限しない値に設定される、
請求項5~7のいずれか一項に記載の差込式結合継手。
【請求項9】
前記第2の内面領域は、前記押し輪の軸線方向の先端側縁部に到達する範囲を有し、
前記第1の内面領域の前記基端側外周部に当接可能な先端内縁と、前記第2の内面領域の前記先端側縁部に形成された先端内縁とを軸線方向に結ぶ傾斜線の軸線に対する限界傾斜角度は、前記最大傾斜角度以上である、
請求項8に記載の差込式結合継手。
【請求項10】
前記第1の内面領域の軸線方向の第1の長さは、前記第2の内面領域の軸線方向の第2の長さより小さい、
請求項5~9のいずれか一項に記載の差込式結合継手。
【請求項11】
前記第1の長さは前記第2の長さの半分以下である、
請求項10に記載の差込式結合継手。
【請求項12】
前記非作動域にある前記押し輪の先端部は、前記押し輪の前記基端側外周部に対する傾斜姿勢により前記受け具の前記受け口の先端内縁部に当接可能に構成される、
請求項1~11のいずれか一項に記載の差込式結合継手。
【請求項13】
前記先端内縁部は、前記受け口の先端側に配置された第1の内縁部と、該第1の内縁部の基端側に配置された第2の内縁部とを有し、
前記第2の内縁部の内寸法は、前記第1の内縁部の内寸法より小さく、
前記押し輪の前記先端部は、前記傾斜姿勢により、前記第2の内縁部の内寸法を越えて、前記第1の内縁部に当接可能若しくは近接可能に構成される、
請求項12に記載の差込式結合継手。
【請求項14】
前記押し輪は、軸線方向の基端側若しくは中間部において外周側へ張り出したフランジ状の鍔部と、該鍔部から軸線方向先端側へ延在する筒部と、を有し、
前記押し輪の前記鍔部の基端側の面には、半径方向斜め外側を向いた傾斜面が設けられる、
請求項1~13のいずれか一項に記載の差込式結合継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差込式結合継手に係り、特に、消防用継手として好適な継手の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から消防用結合継手として、消防ホースを連結するための消防ホース用結合継手、或いは、管槍などの器具を連結するための消防器具用結合継手として、各種の消防用結合継手が使用されている。このうちの差込式結合継手は、図8に示すように、相互に着脱可能に構成された差し具10と受け具20を有し、差し具10を、内部に係止爪24が出没自在に設置された受け具20の受け口内に挿入すると、差し具10の先端筒部11の基端にある係止段部11bが、板ばね25によって内側へ突出する方向に付勢された係止爪24に係合し、上記係止段部11bが抜け止めされることにより、互いに結合される(例えば、以下の特許文献1参照)。この結合状態においては、差し具10の外周に移動可能に装着された押し輪14を受け具20の側へ押し込むことにより、押し輪14の先端が係止爪24の曲面状の被動面24aに当接し、板ばね25に抗して係止爪24を受け具20の外周側に退避させるため、係止爪24と係止段部11bとの係合が外れることで、差し具10と受け具20の結合状態が解除されるようになっている。
【0003】
ところで、上記押し輪14は、フランジ状に外周側へ広がる鍔部14aと、この鍔部14aから受け具20の側へ延在する筒部14bとを備えている。鍔部14aは、作業を行う者が押し輪14を受け具20の側へ押し込む際に指を引掛けるための部分であり、筒部14bの先端は前述のように係止爪24を外周側へ押し込み退避させるための部分である。しかし、上記のような差込式結合継手を消防ホースの間の連結箇所などに用いる場合には、消防活動に際して、差込式結合継手が地面、床、階段等に接触したときに、鍔部14aが軸線方向の外力を受けることにより、押し輪14が誤作動し、差込式結合継手の差し具10と受け具20が外れてしまう場合があるという問題がある。
【0004】
そこで、従来においては、以下の特許文献2及び3に示すように、C字状部材(外れ防止具20、ロック部材20)を押し輪14(鍔部14a)と受け具20の間に装着したり、特許文献4及び5に示すように、受け具20の保護部材(バンド)27を、一部が押し輪14の鍔部14aと締め輪23との間に配置されるように構成することにより、押し輪14が受け具20の側へ移動することを妨げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-185079号公報
【文献】特開2000-329280号公報
【文献】特開2004-011860号公報
【文献】特開2017-213065号公報
【文献】特開2018-031464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2及び3のように、押し輪14の動作を妨げる部材を着脱する方法では、差込式結合継手の差し具と受け具の結合時及び解除時に上記部材を装着したり取り外したりする必要があるために煩雑であるとともに、緊急時には上記部材の装着が忘れられる場合もあり、また、上記部材をなくしてしまう場合もある。一方、特許文献4及び5のように、押し輪14の動作を妨げる形状の保護部材27を用いる方法では、結合状態を解除する際の操作が煩雑になるとともに、保護部材27の耐久性が低下したり、特殊形状の保護部材を製造することによって製造コストが増大したりするなどの問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、押し輪に外力が加わっても誤動作による結合状態の解除を防止できる差込式結合継手の構造、特に、差し具の新規な構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明の差込式結合継手用の差し具は、受け具に挿入された状態で受け具の係止爪により結合され、押し輪により前記係合爪が退避して結合状態が解除される差込式結合継手の差し具であって、軸線方向基端側に前記係止爪が係合可能な係止段部を備える先端筒部、前記係止段部の軸線方向基端側に延在する基端側外周部、及び、前記基端側外周部上において軸線方向にスライド可能に装着された前記押し輪を有し、前記押し輪が前記基端側外周部上の基端側の非作動域に配置されたときに、前記押し輪の前記基端側外周部に対向する内面部は、軸線方向の第1の位置において前記基端側外周部に当接可能に構成されるとともに前記第1の位置において前記基端側外周部との間に第1の内外寸法差(ΔR)を備える第1の内面領域と、前記第1の位置とは異なる軸線方向の第2の位置において前記基端側外周部に当接可能に構成されるとともに前記第2の位置において前記基端側外周部との間に前記第1の内外寸法差(ΔR)よりも大きな第2の内外寸法差(ΔR)を備える第2の内面領域とを有する。
【0009】
本発明によれば、差し具の外面上に配置された押し輪の内面部に、基端側外周部に当接可能に構成されるとともに基端側外周部との間の内外寸法差が相互に異なる第1の位置を備える第1の内面領域と第2の位置を備える第2の内面領域とを設けることにより、第2の内面領域の上記基端側外周部との間の第2の内外寸法差(ΔR)を、第1の内面領域の上記基端側外周部との間の第1の内外寸法差(ΔR)と等しくした場合に比べて、前記基端側外周部上においてより大きな角度範囲で傾斜可能となるように押し輪を構成することができる。これにより、押し輪に外力が加わった場合に、上記基端側外周部上で押し輪がより大きな傾斜角度となることにより、上記外力が押し輪の軸線方向の先端側への原動力とならず、差し具の基端側外周部に対する力のモーメントに変換される。このため、外力による押し輪の誤動作が生じにくくなることから、差込式結合継手の意図しない結合状態の解除を防止することができる。
【0010】
本発明において、前記第1の内面領域は、前記内面部における軸線方向の基端側に配置され、前記第2の内面領域は、前記内面部における軸線方向の先端側に配置されることが好ましい。これによれば、軸線方向の先端側に配置される第2の内面領域における第2の内外寸法差が軸線方向の基端側に配置される第1の内面領域における第1の内外寸法差よりも大きいことにより、押し輪の基端側よりも先端側を半径方向に大きく動作させることが可能になるので、押し輪の基端側の半径方向のガタを抑制して結合状態の解除時における操作性の悪化を抑制しつつ、押し輪の先端側の半径方向の可動域を増大させることにより、押し輪の傾斜角度をさらに大きくすることができるため、押し輪に加わった外力をモーメントに変換しやすくなり、押し輪が受け具に向けて前進することをさらに確実に防止できる。
【0011】
本発明において、前記第2の内面領域における前記第2の内外寸法差(ΔR)に対応する部位の第2の内寸法(Ri)が前記第1の内面領域における前記第1の内外寸法差(ΔR)に対応する部位の第1の内寸法(Ri)よりも大きいことが好ましい。これによれば、小さい第1の内寸法(Ri)を備える第1の内面領域を設けることにより、基端側外周部上の押し輪のガタを低減できるとともに、大きな第2の内寸法(Ri)によって上記外面との干渉をさらに低減できるため、押し輪の内面部の形状によって上記傾斜可能な角度範囲を効率的に増大できる。また、後述する最大傾斜角度αを大きくするために、大きな第2の内寸法を備える第2の内面領域を設けることにより、小さい第1の内寸法を備える軸線方向の範囲(例えば、長さ(L))を低下させることができる。さらに、この場合においては、上記第1の内外寸法差(ΔR)と第2の内外寸法差(ΔR)との大小関係を構成するために前記基端側外周部の外寸法を変化させる必要がなくなる。このため、前記基端側外周部は、少なくとも前記係止爪に当接する作動域と前記非作動域との間の前記押し輪の軸線方向の移動可能な範囲において軸線方向に一定の外寸法を備えることがさらに望ましい。これによれば、押し輪の移動可能範囲において上記基端側外周部の外寸法を軸線方向に一定に構成することにより、押し輪を平坦な外面上で動作させることができるので、押し輪の操作性をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明において、前記第1の内面領域は軸線方向に一定の前記第1の内寸法(Ri)を備える領域であり、前記第2の内面領域は軸線方向に一定の前記第2の内寸法(Ri)を備える領域であることが好ましい。前記第1の内面領域が軸線方向に一定の前記第1の内寸法(Ri)を備えることにより、押し輪の解除操作時のスライド動作の安定性を高めることができる。ここで、前記第1の内面領域と前記第2の内面領域は軸線方向に相互に隣接して配置されることが望ましい。これらの場合にはさらに、前記第2の内面領域における前記第2の内寸法(Ri)と軸線方向の長さ(L)は、前記第1の内面領域における前記第1の内寸法(Ri1)と軸線方向の長さ(L)によって定まる最大傾斜角度(α)を制限しない値に設定されることが望ましい。例えば、前記第2の内面部分が前記押し輪の軸線方向の先端側縁部に到達する範囲を有する場合には、前記第1の内面領域の前記基端側外周部に当接可能な先端内縁(すなわち、前記第2の内面領域との間の境界位置にある内縁)(P)と、前記第2の内面領域の前記先端側縁部に形成された先端内縁(P)とを軸線方向に結ぶ傾斜線の軸線に対する限界傾斜角度(β)は、前記最大傾斜角度(α)以上であることが望ましい。
【0013】
本発明において、前記第1の内面領域は軸線方向に一定の前記第1の内寸法(Ri)を備える領域であり、前記第2の内面領域は前記第1の内面領域から軸線方向に離れるに従って前記第2の内寸法(Ri)が漸増する領域であることが好ましい。前記第1の内面領域が軸線方向に一定の前記第1の内寸法(Ri)を備えることにより、押し輪の解除操作時のスライド動作の安定性を高めることができる。ここで、前記第1の内面領域と前記第2の内面領域は軸線方向に相互に隣接して配置されることが望ましい。これらの場合にはさらに、前記第2の内面領域における前記第2の内寸法(Ri)と軸線方向の長さ(L)は、前記第1の内面領域における前記第1の内寸法(Ri1)と軸線方向の長さ(L)によって定まる最大傾斜角度(α)を制限しない値に設定されることが望ましい。例えば、前記第2の内面部分が前記押し輪の軸線方向の先端側縁部に到達する範囲を有する場合には、前記第1の内面領域の前記基端側外周部に当接可能な先端内縁(すなわち、前記第2の内面領域との間の境界位置にある内縁、第1の内面領域の先端内縁P)と、前記第2の内面領域の前記先端側縁部に形成された先端内縁(P)とを軸線方向に結ぶ傾斜線の軸線に対する限界傾斜角度(β)は、前記最大傾斜角度(α)以上であることが望ましい。なお、第2の内寸法(Ri)は前記第1の内寸法(Ri)より大きければよいが、第1の内面領域と前記第2の内面領域との間に内寸法について非連続性(段差)があってもなくてもよい。
【0014】
上記各発明において、前記第1の内面領域の軸線方向の第1の長さ(L)は、前記第2の内面領域の軸線方向の第2の長さ(L)より小さいことが好ましい。特に、前記第1の長さ(L)は、前記長さ(L)の半分以下であることが望ましい。これによれば、基端側外周部との間に小さな第1の内外寸法差(ΔR)を備える第1の内面領域の長さ(L)を、基端側外周部との間に大きな第2の内外寸法差(ΔR)を備える第2の内面領域の長さ(L)より小さくすることができるので、押し輪の傾斜可能な角度範囲をさらに大きく設定することができる。
【0015】
上記各発明において、前記押し輪は、軸線方向の基端側若しくは中間部において外周側へ張り出したフランジ状の鍔部(15a)と、該鍔部(15a)から軸線方向先端側へ延在する筒部(15b)と、を有することが好ましい。これによれば、基端側若しくは中間部に鍔部を設けることにより、この鍔部により押し輪を容易に先端側へ押し込むことができるので操作性が向上するとともに、この鍔部から先端側へ延在する筒部を設けることにより、係止爪を確実に退避させることができる。
【0016】
次に、本発明の差込式結合継手は、上記のいずれかの差し具と、前記先端筒部を受け入れ可能に構成された受け口、及び、前記受け口の内部に突出方向に付勢され、前記係止段部と係合することで結合状態を形成し、該結合状態において前記基端側外周部上の先端側の作動域に差し込まれる前記押し輪により退避して前記結合状態が解除されるように構成された係止爪を有する受け具と、を具備する差込式結合継手である。
【0017】
この場合において、前記非作動域にある前記押し輪の先端部は、前記押し輪の前記基端側外周部に対する傾斜姿勢により前記受け具の前記受け口の先端内縁部に当接可能に構成されることが好ましい。これによれば、押し輪の先端部が係止爪の手前において受け口の先端内縁部に当接することで、それ以上の押し輪の傾斜が規制される。この受け口の内側への当接により、押し輪の係止爪への作用がより確実に回避されるとともに、外力を受けた押し輪の傾斜姿勢も固定されるため、押し輪の誤動作をさらに確実に防止できる。ここで、上記先端内縁部は、前記受け口の先端側に配置された第1の内縁部と、該第1の内縁部の基端側に配置された第2の内縁部とを有し、前記第2の内縁部の内寸法は、前記第1の内縁部の内寸法より小さく、前記押し輪の前記先端部は、前記傾斜姿勢により、前記第1の内縁部に当接可能に構成されることが望ましい。なお、押し輪が傾斜姿勢になるとき、前記先端部が第1の内縁部に当接しない場合であっても、押し輪の先端部が第2の内縁部の内寸法よりも外周側に配置され、第1の内縁部に近づくように構成されていれば、押し輪の先端部よりも軸線方向の先端側に内寸法のより小さい第2の内縁部が立ちはだかるので、押し輪が軸線方向先端側へ移動して上記先端部が第2の内縁部に当接すれば、押し輪のそれ以上のスライドを抑制できる。
【0018】
上記各発明において、前記押し輪の前記鍔部の基端側の面には、半径方向斜め外側を向いた傾斜面が設けられることが好ましい。この場合において、上記基端側の面には、前記傾斜面に対して凹状に形成された指掛部が設けられることが望ましい。このときには、前記指掛部は、軸線周りに等間隔に設けられることが好ましく、特に、等間隔で4か所設けられることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、非作動域にある押し輪の傾斜可能な角度範囲を増大することができるため、外力を受けても押し輪を作動域へ移動しにくくすることができるため、差込式結合継手の結合状態において、外力による押し輪の誤作動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る差込式結合継手の第1実施形態において、差し具と受け具が結合された状態を示す縦断面図である。
図2】同第1実施形態において、差し具と受け部の押し輪を中心とした接続部分の一部を拡大して示す拡大部分断面図である。
図3】同第1実施形態において、押し輪に外力Fが加わった時の様子を示す断面図である。
図4】同第1実施形態において、押し輪に外力Fが加わった時の差し具と受け部の押し輪を中心とした接続部分の一部を拡大して示す拡大部分断面図である。
図5】同第1実施形態において、押し輪に外力Fが加わった時の差し具と受け部の押し輪を中心とした接続部分の他の一部を拡大して示す拡大部分断面図である。
図6】同第1実施形態において、押し輪の標準姿勢における形状と傾斜姿勢との間の関係を説明するための説明図である。
図7】同第1実施形態において、基端側外周部を基準とした押し輪の傾斜姿勢における形状と作用との間の関係を説明するための説明図である。
図8】従来の消防用の差込式結合継手の構成を示す縦断面図である。
図9】本発明に係る差込式結合継手の第2実施形態において用いる押し輪の軸線方向の正面図である。
図10】同第2実施形態の押し輪の側面図(a)及び縦断面図(b)である。
図11】同第2実施形態において、差し具と受け具が結合された状態を示す縦断面図である。
図12】同第2実施形態において、差し具と受け部の押し輪を中心とした接続部分の一部を拡大して示す拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1及び図2を参照して、本発明に係る第1実施形態の差込式結合継手1について説明する。ここで、図1は消防用結合継手1の差し具10を受け具20の受け口20aに挿入し、係止爪24が係止段部11に完全に係止され、結合した状態を示す縦断面図である。また、図2は、差込式結合継手1の結合した状態における押し輪15及びその周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【0022】
この差込式結合継手1は、差し具10と受け具20を備える。差し具10は、差し口10aを備えた先端筒部11を有している。この先端筒部11は、所定の外寸法(図示例では外径、以下同様)を備えた筒状(図示例では円筒状)に構成され、軸線方向の先端外縁11pから基端外縁11qまで筒面状(図示例では円筒面状)の外周面11aを備える。また、先端筒部11の軸線方向基端には、軸線方向基端側(図示右側)に向いた係止段部11bが設けられ、この係止段部11bによって、それ以降の軸線方向基端側の外周部(以下、基端側外周部という。)12における差し具本体の外寸法は、上記先端筒部11の外寸法より小さくなっている。なお、先端筒部11の軸線方向の長さと、上記先端筒部11及び基端側外周部12の外寸法とは、JISのB9911-1968(消防用ホースの差込み式結合金具の寸法、以下同様)において、それぞれ規定されている。
【0023】
また、差し具10は、基本的には従来の構造と同等であるが、上記押し輪14の代わりに、構造の異なる押し輪15が装備される。ただし、押し輪15において、基端側に設けられたフランジ状の鍔部15aと、先端側に設けられた筒状の筒部15bとが備えられる点は従来と同様である。押し輪15の異なる構造については後述する。押し輪15は基端側外周部12上で軸線方向にスライド可能に配置される。また、止め輪13は、押し輪15の軸線方向の基端側の規制位置を定める。図示の状態では、押し輪15は、係止爪24に対して当接せず、作動しない非作動域に配置される。この押し輪15の非作動域は、上記基端側外周部12の外面12a上の軸線方向の基端側に設定される。
【0024】
一方、受け具20は、従来構造と同様の受け口20a、受け具本体22、締め輪23、係止爪24、板ばね25、爪座26、保護部材27、パッキン28を備える。受け口20aの奥側(軸線方向基端側、図示左側)には複数(図示例では3つ)の上記係止爪24が板ばね25によって受け口20の内周側に突出する向きにそれぞれ付勢されている。係止爪24のさらに軸線方向基端側には、係止爪24の被動面24aに向けて押し輪15の筒部15bの先端を通過可能に構成される受け口20aの内側外周部が形成されている。ここで、受け具20では、係止爪24の軸線方向先端側(図示右側)にある受け口20aの先端内縁部21は、図2に示すように、上記締め輪23の内縁23aと、上記爪座26の内縁26aとによって構成される。図示例の場合、軸線方向の先端側(外側、すなわち図示右側)の内縁23aよりも、軸線方向の基端側(内側、すなわち図示左側)の内縁26aの方が内寸法(図示例では内径)が小さくなっている。
【0025】
図8に示す従来例では、押し輪14の内面部が軸線方向に平坦であり、基端側外周部も軸線方向に平坦であるため、基端側外周部の外寸法(外径)と押し輪14の内寸法(内径)の内外寸法差も軸線方向に一定である。このとき、押し輪14の傾斜可能な角度範囲は、上記内外寸法差と、押し輪14の軸線方向の長さとの関係で定まる。このときの傾斜可能な角度範囲は、通常、極めて狭い。当該範囲を広くするためには、上記内外寸法差を大きくするか、或いは、上記長さを短くすればよい。しかし、このようにすると、全体のガタが大幅に増大するので、結合状態の解除時における押し輪14の操作性が著しく悪化する。
【0026】
これに対して、本実施形態の押し輪15では、上記鍔部15a及び上記筒部15bの内周側にある内面部15iは、その内寸法(軸線10xからの距離(内半径)若しくは、内直径)が軸線方向の位置によって変化している。これは、上記基端側外周部12の外面12aと内面部15iとの間の内外寸法差(外径と内径の差若しくは外直径と内直径の差)を軸線方向に変化させることにより、基端側外周部12上の非作動域における押し輪15の傾斜可能な角度範囲を増大させるためである。なお、図示例とは異なるものの、上記押し輪15の非作動域における基端側外周部12の外面12aの外寸法を軸線方向に変化させることによって、押し輪15の傾斜姿勢の範囲を増大させてもよい。
【0027】
本実施形態では、具体的には、押し輪15の内面部15iにおいて、差し具10の軸線方向の基端側(図示右側)に設けられた第1の内面領域15iの内寸法(内径)Riと、軸線方向の先端側(図示左側)に設けられた第2の内面領域15iの内寸法(内径)Riとを異なったものとしている。ここで、図示例では、内寸法Riは内寸法Riよりも大きい。これによって、第2の内面領域15iの外面12aに対する内外寸法差は、上述のように、第1の内面領域15iの外面12aに対する内外寸法差よりも大きくなっている。
【0028】
この図示例では、内面部15iは、第1の内面領域15iと第2の内面領域15iのみで構成される。また、第1の内面領域15iと第2の内面領域15iは相互に隣接して配置される。特に、第1の内面領域15iは、軸線方向の全体(長さL)にわたり、一定の内寸法Riを備える。同様に、第2の内面領域15iは、軸線方向の全体(長さL)にわたり、一定の内寸法Riを備える。さらに、図示例では、基端側外周部12の外面12aは、上記押し輪15の非作動域において、軸線方向に一定の外寸法(外径)Rを備え、軸線方向に平坦に構成される。なお、基端側外周部12は、図示例のように、押し輪15が上記係止爪24と当接しない非作動域から上記係止爪24の被動面24aに当接する作動域に至る軸線方向の範囲で、平坦に構成されることが好ましい。これによって、押し輪15を基端側外周部12上でスムーズにスライドさせることが可能になるので、結合状態を解除する際の押し輪15の操作性を高めることができる。
【0029】
図3は、結合状態の差込式結合継手1が地面、床面、階段などに接触したときに、押し輪15の鍔部15aの接触部が外力Fを受け、その結果、押し輪15が基端側外周部12の軸線10xに対して大きく傾斜した姿勢となった様子を示す。このとき、押し輪15は、基端側外周部12上で大きく傾斜することによって、それ以上受け口20aの内側へ向けて軸線方向にスライドできなくなる。これは、後述するように、鍔部15aに軸線方向に沿った外力Fを受けても、押し輪15が大きく傾斜することにより、外力Fが押し輪15に力のモーメントを与えるが、このモーメントは押し輪15を基端側外周部12に押し付けるものの、軸線方向の先端側へ移動させることがほとんどないためと考えられる。
【0030】
図4及び図5は、図3に示す状態における押し輪15の図示上側の断面部分及び図示下側の断面部分を拡大して示す拡大部分断面図である。本実施形態では、内寸法Riが内寸法Riよりも大きいために、基端側外周部12に対する第2の内面領域15iの内外寸法差ΔRは、第1の内面領域15iの内外寸法差ΔRより大きくなり、そのために、ΔRがΔRと同じ値である場合(従来構造)よりも、軸線10xに対する押し輪15の傾斜可能な角度範囲が増大する。このとき、押し輪15において、軸線方向の基端側の上記内外寸法差よりも先端側の上記内外寸法差が大きいことにより、基端側にある鍔部15aに対する操作性の悪化を抑制しつつ、先端側にある筒部15bの半径方向の移動量を増大させることができる。また、押し輪15の先端部が基端側外周部12や受け具20の受け口20aにおける上記先端内縁部21(内縁23a,26a)に当接する可能性を高めることができる。したがって、押し輪15の操作性と、外力Fによる押し輪15の誤動作の抑制とを両立することができる。
【0031】
図6は、押し輪15の基端側外周部12に対する姿勢関係を示す説明図である。上述のように、内寸法RiはRiよりも小さいので、基端側外周部12の外面12aと第1の内面領域15iとの内外寸法差ΔR=Ri-Rは、外面12aと第2の内面領域15iとの内外寸法差ΔR=Ri-Rよりも小さい。このとき、内外寸法差ΔRによって、基端側外周部12と押し輪15の間の傾斜角度は、図示の破線で示す基端側外周部12′(外面12a′)を見ればわかるようにαに規制される。すなわち、基端側外周部12と第1の内面領域15iとの間の半径方向と軸線方向の寸法関係(上記内外寸法差ΔRと長さL)により、押し輪15の傾斜角度は、内外寸法差ΔRによって最大傾斜角度α以内に規制される。このとき、押し輪15の傾斜方向に応じて、基端側外周部12の外面12aは、上記傾斜方向の一方側で、第1の内面領域15iの基端内縁Pと接触し、上記傾斜方向の他方側で、第1の内面領域15iの先端内縁Pに接触する。
【0032】
ただし、図示例のように、上記最大傾斜角度α、並びに、第2の内面領域15iの内外寸法差ΔR及び軸線方向の長さLの関係により、押し輪15の傾斜角度は、第1の内面領域15iの先端内縁P(第2の内面領域15iとの間の境界位置)と、第2の内面領域15iの先端内縁Pとを軸線方向に沿って結ぶ傾斜線Lo(図示点線で示す)の限界傾斜角度βによって制限される場合がある。図示例では、最大傾斜角度αが限界傾斜角度βよりも大きいので、押し輪15の傾斜角度の最大値はβとなる。なお、図示例とは異なり、最大傾斜角度αが限界傾斜角度βより小さい場合(α<β)には、押し輪15の傾斜角度の最大値はαとなる。したがって、第1の内面領域15iの内外寸法差ΔRをなるべく小さく抑制しつつ、押し輪15の傾斜可能な角度範囲を増大させるためには、α≦βとすることが好ましい。ここで、最大傾斜角度αと限界傾斜角度βについては、α=2.0~10.0度の範囲内であることが好ましく、β=2.5~10.5度の範囲内であることが好ましい。典型的には、α=2.5~4.5度の範囲内、β=3.0~5.0度の範囲内であることが望ましい。例えば、α=3.12度、β=3.25度とすることができる。もっとも、最大傾斜角度αが限界傾斜角度β以上である場合(α≧β)には、押し輪15の傾斜角度は限界傾斜角度βによって制限されるが、このときには、第1の内面領域15iの先端内縁Pと、第2の内面領域15iの先端内縁Pが同時に基端側外周部12の外面12aに当接するので、押し輪15の軸線方向の移動抵抗を高めることができる。
【0033】
また、押し輪15の軸線方向の先端外縁Pは、図6に示すように、押し輪15が傾斜するときに、基端側外周部12′(外面12a′)から離れることになる。したがって、上記先端側外縁P4が外面12a′から大きく離れる場合には、受け具20の受け口20aの先端内縁部21に当接するときがある。このように、先端外縁Pが受け口20aの先端内縁部21に当接すると、押し輪15の接触箇所が増加することによって、押し輪15の軸線方向の先端側への移動抵抗がさらに増大する。このとき、図示例とは異なるが、上記先端外縁Pが先端内縁部21のうちの締め輪23の内縁23aに当接するように押し輪15の形状を設定しておけば、爪座26の内縁26aの内寸法(内径)が締め輪23の内縁23aの内寸法(内径)よりも小さいため、仮に押し輪15が軸線方向の先端側へスライドしようとしても、上記内縁23aと内縁26aの間の段差に妨げられ、それ以上、スライドできないように構成できる。なお、押し輪15が傾斜姿勢になるとき、押し輪15の先端部である先端外縁Pが内縁26aに当接しなくても、先端内縁Pが内縁23aの内寸法よりも外周側に配置され、内縁26aに近づくように構成されていれば、先端内縁Pよりも先端側に内寸法の小さい内縁23aが立ちはだかるので、押し輪15のそれ以上のスライドを抑制できる。このときには、押し輪15が軸線方向先端側へ少し移動すれば、先端外縁Pは内縁23aに当接し、押し輪15のそれ以上の移動が規制されることとなる。
【0034】
第1の内面領域15iの軸線方向の長さLと、第2の内面領域15iの長さLとは、それぞれ適宜に設定することができる。ただし、押し輪15の操作性や作動域と非作動域の間の距離などによって押し輪15の全体の長さL=L+Lに制約があることが多い。このため、上記最大傾斜角度αや上記限界傾斜角度βとの関係により、LとLの間には以下の関係があることが好ましい。まず、L<Lであることが好ましい。これは、Lを相対的に小さくすることにより、上記内外寸法差ΔRが変わらなくても、上記最大傾斜角度αを大きくすることができるからである。
【0035】
また、上述のようにLを小さくすることによって最大傾斜角度αを大きく確保することは好ましいが、押し輪15の操作性を考慮すると、Lを或る程度確保する必要がある。特に、Lとしては、受け口20aの開口位置から締め輪23や爪座26の内側を通過して係止爪24の被動面24aに至るまでの軸線方向の距離に相当する長さは最低限必要であり、できれば、上記開口位置から係止段部11bまでの距離に相当する長さ以上であることが望まれる。このため、L≦L/2であることが望ましい。図示例では、L<L/3となっている。なお、結合状態の解除時における押し輪15の操作性を考慮すると、長さLと内外寸法差ΔRとの関係として、L≧ΔR×10であることが好ましく、L≧ΔR×30であることが望ましい。
【0036】
ちなみに、JIS B 9911では、止め輪13に対する当接位置から係止段部11bまでの距離は「4.6差し金具」のlの値で規定されており、押し輪15の形状については、「4.5押し輪」のdで鍔部15aの外径が規定され、同dで筒部15bの外径が規定されている。一方、同Dで押し輪15の内面部15iの内径は示され、同lとlで押し輪15の全体の軸線方向の長さLと鍔部15aの厚み(軸線方向の長さ)がそれぞれ示されているが、いずれも推奨寸法である。このため、内面部15iの内寸法に関する規制は存在しない。
【0037】
図7には、基端側外周部12(外面12a)を固定して示すとともに、傾斜姿勢にある押し輪15の上部断面と下部断面のそれぞれの姿勢と位置を示す。押し輪15の鍔部15aに加わる外力Fは、第1の内面領域15iの基端内縁Pを中心として、押し輪15を図示のように傾斜させる。これにより、上記基端内縁Pと、その反対側の軸線方向先端寄りの上記先端内縁P又は第2の内面領域15iの先端内縁Pとにそれぞれ力が加わるので、上記外力Fは押し輪15に力のモーメントMを与える。このため、基端側外周部12に対して押し輪15を軸線方向の先端側(図示左側)へ移動させる原動力は発生しないから、押し輪15の誤動作による結合状態の解除は防止される。
【0038】
上記の作用効果により、本実施形態では、軸線方向の外力Fを上記モーメントMに変換することにより、押し輪15の誤動作を防止する。したがって、外力Fを受ける作用点の位置を示す押し輪15の鍔部15aの外寸法(外径)が大きく形成され、締め輪23や保護部材27の外寸法(外径)に近くなるように設定されていても、上記モーメントMが大きくなるだけであり、押し輪15の誤動作の防止効果は低下しない。このため、本実施形態では、従来のように、鍔部15aの外寸法を締め輪23や保護部材27の外寸法よりも小さくして誤動作を回避するといった必要性がなくなるため、受け具20の外寸法のコンパクト化や、鍔部15aの外寸法の確保による操作性の向上を図ることができるという副次的な効果も得られる。例えば、上記保護部材27を省略することも可能である。
【0039】
なお、本発明に係る差込式結合継手及びその差し具は、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。上記第1実施形態では、押し輪15の内面部15iに異なる内寸法を備える部分を設けたが、結果的に、内面部15iの軸線方向に、第1の内外寸法差と第2の内外寸法が異なる部分が構成されるのであれば、例えば、押し輪15の非作動域にある基端側外周部12の外面12aに異なる外寸法を備える部分を設けるようにしてもよく、或いは、内面部15iに異なる内寸法を備える部分を設けると同時に、基端側外周部12に異なる外寸法を備える部分を設けてもよい。
【0040】
また、上記第1実施形態では、軸線方向基端側に第1の内面領域15iを配置し、軸線方向先端側に第2の内面領域15iを配置している。しかし、これとは逆に、第1の内面領域15iを軸線方向先端側に配置し、第2の内面領域15iを軸線方向基端側に配置してもよい。さらに、上記第1実施形態では、内面部15iを段差状に構成しているが、このような態様に限定されるものではなく、結果として押し輪の傾斜可能な角度範囲が増大すればよいので、例えば、内面部15iの軸線方向の輪郭を凸曲線状や凹曲面状、或いは凹凸曲面状に構成してもよい。
【0041】
次に、図9図12を参照して、本発明に係る第2実施形態の差込式結合継手2について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態の押し輪15の代わりに別の押し輪16を用いるが、他の構成は、上記第1実施形態の差込式結合継手1と同様に構成できるので、押し輪16以外の構成については説明を省略し、同一部分には同一符号を付す。
【0042】
本実施形態の押し輪16は、図9及び図10に示すように、第1実施形態の押し輪15と同様に、半径方向内側から外側へ延在する鍔部16aと、この鍔部16aの半径方向内側の部分(内周縁)から軸線16x方向に延在する筒部16bとを有する。鍔部16aの基端側の面、すなわち、筒部16bに対して軸線16x方向の反対側に向いた外面には、半径方向外側に斜めに向くように傾斜した傾斜面16aが形成されている。この傾斜面16aには、図10(b)に点線で示すようにカットされた形状(凹形状)の複数の指掛部16aが設けられている。指掛部16aは軸線16xと直交する平坦な指掛面を備える。図示例では、指掛部16aは、軸線周りの四カ所に等角度間隔で形成される。これらの4つの指掛部16aは、相互に軸線16xを挟んで対向する2組の指掛部16aの対を構成する。これにより、差込式結合継手2の結合状態の解除を行う操作者は、いずれかの対の指掛部16aに左右の親指を押し当てるようにして使用せざるを得ない状況となる。このため、軸線16xを挟んで相互に対向する両側の位置において指掛面に親指を掛けて押し輪16を押圧操作することになることから、安定かつ確実に解除操作を行うことができる。なお、鍔部16aの先端側の面は平坦面である。
【0043】
押し輪16の内面部16iは、上記鍔部16aの半径方向内側から上記筒部16bの半径方向内側までの軸線方向の範囲にわたって形成される。この内面部16iには、上記範囲において、筒状(図示例では円筒面状)の第1の内面領域16iと、この第1の内面領域16iの先端側(図10の右側)に隣接して配置される第2の内面領域16iとを有する。第1の内面領域16iは、第1実施形態と同様に軸線方向に一定の内寸法(内径)を備える。また、第2の内面領域16iは、第1の内面領域16iとほぼ同じ(僅かに大きい)内寸法を備える基端縁から、軸線方向の先端側へ向けて開くように(内寸法が漸次増大するように)、軸線16xに対して傾斜する面形状(図示例では円錐面形状)を備える。すなわち、本実施形態では、第2の内面領域16iの表面が軸線16xに沿って直線状の傾斜した輪郭を備えている。ただし、前述のように、第1の内面領域16i1及び第2の内面領域16iの上記輪郭を、或いは、第2の内面領域16iのみの上記輪郭を、直線状ではなく、凸曲面状や凹曲面状に構成してもよい。
【0044】
ここで、図示例では、筒部16bの厚みが軸線方向に変化することにより、第2の内面領域16iの傾斜が形成される。ここで、筒部16bの外周面は円筒面状であるため、上記内面部16iの面形状は筒部16bの厚みの変化のみによって形成される。また、この図示例では、第1実施形態と同様に、上記内面部16iにおいて、第1の内面領域16iと第2の内面領域16iが相互に隣接して配置される。ただし、第1の内面領域16iと第2の内面領域16iの間に、他の内面領域が存在したり、段差が設けられたりしても構わない。後者の段差が設けられる場合には、第2の内寸法Riの最小値は、第1の内寸法Riに対して、上記の段差の分だけ大きい値となる。
【0045】
また、前記内面部16iは、第1の内面領域16iの基端側(図10の左側)において、第1の内面領域16iの内寸法Riより大きな内寸法を備える収容溝(片凹溝)を構成する第3の内面領域16iをさらに有する。この第3の内面領域16iは、図11に示すように、基端側外周部12上に係合配置される止め輪13を収容可能に構成されるとともに、隣接する第1の内面領域16iとの境界において内寸法の差に起因して形成される段差部を形成する。そして、この段差部が止め輪13に当接することにより、基端側外周部12上における押し輪16の基端側の限界位置が設定され、差し具本体に対する押し輪16の基端側への抜け止めが実現される。
【0046】
なお、上記第3の内面領域16iを設けることなく、第1実施形態と同様に、第1の内面領域16iが内面部16iの基端縁まで延長形成されていてもよい。ただし、図示例のように、第3の内面領域16iを設けることにより、止め輪13の位置を変更することなく、鍔部16aに傾斜面16aを形成することができる。また、結合解除操作の容易性を担保するための上記筒部16bの軸線方向の長さを変更せずに、押し輪16の誤動作を防止できる。さらに、鍔部16aの基端側の面に傾斜面16aを設けることにより、当該傾斜面16aに外力Fが加えられたときに押し輪16が回動しやすくなることから、押し輪16の姿勢変化がさらに容易になるため、誤動作をさらに確実に低減することができる。
【0047】
また、押し輪16が差し具本体上の非作動域にある図11に示す構成では、第3の内面領域16iに止め輪13が当接し、若しくは、僅かな隙間を介して対向するように寸法付けられる。これにより、押し輪16が止め輪13を収容する位置にあるときに、第3の内面領域16iが止め輪13に当接することにより、押し輪16が基端側外周部12上で傾斜しないように、或いは、第3の内面領域16iが止め輪13から軸線方向に離間したときよりも傾斜角度が小さくなるように構成され得る。これにより、押し輪16が止め輪13を収容する位置にある上記結合解除操作の初期において押し輪16の姿勢が崩れにくいため、押し輪16が外力を受けていないときの姿勢が保持されることから、上記結合解除操作がさらに容易化される。ただし、図示例では、押し輪16の傾斜姿勢には支障のないように、止め輪13と第3の内面領域16iとの間には十分な隙間が存在する。
【0048】
ここで、第1の内面領域16iの軸線16x方向の長さ(基端内縁Pと先端内縁Pとの間)をL、内寸法(図示例では内径)をRi、第2の内面領域16iの軸線16x方向の長さ(上記先端内縁Pと先端内縁Pとの間)をL、内寸法(図示例では内径)をRiとする。このとき、第2の内面領域16iの内寸法Riは、第1の内面領域16iと隣接する基端縁で内寸法Riとほとんど同じ(僅かに大きい)であるが、ここから先端縁に向けて徐々に増大し、当該先端縁において最大値となる。長さL及びL、並びに、内寸法Ri及びRi(或いは、内外寸法差ΔR及びΔR)の関係は、第1実施形態において説明した内容と同様であるので、説明を省略する。また、基端内縁P、先端内縁P、先端内縁P及び先端外縁Pについても、第1実施形態と全く同様であるので、説明を省略する。このとき、本実施形態において、押し輪16の内面部16iは、第1実施形態における第1の内面領域の先端内縁Pと、第2の内面領域の先端内縁Pとを軸線方向に沿って結んだ形状の上記輪郭を有するものと考えればよい。ただし、この実施形態が第1実施形態と異なる点として、L=Lとなっている点が挙げられる。これにより、押し輪16の姿勢変化の容易性と、結合解除操作の安定性とを両立することができる。この構成は、第1実施形態においても同様に採用することができる。
【0049】
前述のように、第3の内面領域16iに止め輪13が当接し若しくは近接している場合(止め輪13と第3の内面領域16iとの間隔が小さい場合)には、図12に示すように、基端側外周部12上の非作動域の範囲内において、図示点線の位置から、図示実線に示すように、押し輪16が僅かに軸線方向の先端側へ移動すると、第3の内面領域16iと止め輪13の係合による押し輪16の姿勢の規制作用が解除されるため、押し輪16は基端側外周部12に対して図示二点鎖線で示すように傾斜可能な状態となる。このような状態は、図11に示す規制状態(図12には点線で示す。)において、第1実施形態において説明したものと同様の外力Fが鍔部16aに作用することで、押し輪16が図12に実線で示す状態に移行し、引き続いて矢印で示すように回動し、傾斜姿勢(図12には二点鎖線で示す。)とされる。なお、図12に二点鎖線で示す傾斜姿勢の傾斜の向きは、図3及び図4で示す傾斜姿勢とは上下逆である例を示すものである。ただし、図示例のように、図11に示す状態における止め輪13と第3の内面領域16iとの間隔が十分に確保されている場合には、わざわざ図12に示す実線の位置まで押し輪16が移動しなくても、図12の点線で示す位置において、そのまま傾斜姿勢に移行することができる。
【0050】
この第2実施形態では、先の第1実施形態の押し輪15に比べて、L、L、Ri,Riが実質的に同じ場合であっても、筒部16bの厚みが第1実施形態のように急激に変化せず、漸次変化するように構成されるので、押し輪16の剛性を高めることができる。また、押し輪16の姿勢が傾斜した状態で、基端側外周部12に第2の内面領域16iが軸線方向の全体にわたって接触するなど、押し輪16の内面部16iの基端側外周部12との接触範囲を増大させることが可能になるので、その傾斜姿勢における押し輪16の軸線方向へのスライド移動のさらなる抑制を図ることができる。なお、いずれの実施形態でも、第1の長さLと第2の長さLに関し、L<Lであれば、押し輪の傾斜姿勢によるロック状態になりやすくなるが、ここから図示例のL=Lに近づくほど、解除操作時における押し輪の操作安定性が向上する。なお、図示例では、前述のように、軸線周りの或る方位にある第2の内面領域16iの軸線方向の全体が基端側外周部12の表面12aに接触可能に構成されているが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。
【0051】
第2実施形態では、前述のように、押し輪16の鍔部16aの基端側の面が半径方向斜め外側を向いた傾斜面16aであることにより、この傾斜面16aに外力Fが加えられたときに、当該外力Fが押し輪16の回動を生じさせ易くなる。このため、より確実に押し輪16を基端側外周部12上で傾斜姿勢とすることができるので、押し輪16による係止爪24の誤動作をより確実に防止できる。なお、このような傾斜面16aの構成は、第1実施形態の押し輪15において採用してもよい。また、これと同様に、上記各実施形態における種々の構成は、他の構造との間に矛盾や支障を生じない限り、相互に別の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,2…結合継手、10…差し具、10a…差し口、11…先端筒部、11a…外周面、11b…係止段部、11p…先端外縁、11q…基端外縁、12…基端側外周部、12a…外面、Ro…外寸法、13…止め輪、14,15,16…押し輪、15a,16a…鍔部、16a…傾斜面、16a…指掛部、15b,16b…筒部、P…先端外縁、15i,16i…内面部、15i,16i…第1の内面領域、P…基端内縁、P…先端内縁、Ri…内寸法、ΔR…内外寸法差、L…軸線方向の長さ、15i,16i…第2の内面領域、16i…第3の内面領域(片凹溝)、P…先端内縁、Ri…内寸法、ΔR…内外寸法差、L…軸線方向の長さ、20…受け具、20a…受け口、21…先端内縁部、22…受け具本体、23…締め輪、23a…内縁、24…係止爪、25…板ばね、26…爪座、26a…内縁、27…保護部材、28…パッキン
図1
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図12