IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 林化成株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人奈良女子大学の特許一覧 ▶ 長崎県公立大学法人の特許一覧 ▶ 国立大学法人徳島大学の特許一覧

特許7126172肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料
<>
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図1
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図2
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図3
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図4
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図5
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図6
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図7
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図8
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図9
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図10
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図11
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図12
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図13
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図14
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図15
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図16
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図17
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図18
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図19
  • 特許-肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/168 20160101AFI20220819BHJP
   A23K 50/50 20160101ALI20220819BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A23K20/168
A23K50/50
A01K67/027
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019547013
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2018037197
(87)【国際公開番号】W WO2019070024
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2017194603
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504105737
【氏名又は名称】林化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505195384
【氏名又は名称】国立大学法人奈良国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】505225197
【氏名又は名称】長崎県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】市村 真祐子
(72)【発明者】
【氏名】大曲 勝久
(72)【発明者】
【氏名】常山 幸一
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-080830(JP,A)
【文献】大曲勝久ほか,非アルコール性脂肪肝炎発症モデルラットの肝組織所見に及ぼす食餌性コレステロールの影響,長崎県立大学看護栄養学部紀要,日本,2016年03月,14巻,23-30,http://reposit.sun.ac.jp/dspace/bitstream/10561/1174/1/v14p23_Omagari.pdf,http://hdl.handle.net/10561/1174
【文献】堤一彦,リポ蛋白リパーゼと動脈硬化,動脈硬化,1998年,26(3),129-132
【文献】吉松美佳,非アルコール性脂肪肝炎におけるMacrophage receptor with acollagenous structure(MARCO)の発現とエンドトキシンの関与,熊本大学大学院学位論文,2005年,1-27
【文献】堤一彦,リポ蛋白リパーゼと動脈硬化,動脈硬化,1998年,26(3),129-132
【文献】吉松美佳,非アルコール性脂肪肝炎におけるMacrophage receptor with acollagenous structure(MARCO)の発現とエンドトキシンの関与,熊本大学大学院学位論文,2005年,1-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
A01K 67/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリン、コール酸又はその塩、及びコレステロールを含有し、コール酸又はその塩の含有量が、0.1質量%以上0.5質量%未満であることを特徴とする、肝の線維化を示す非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウス作製用飼料。
【請求項2】
コリンを含む標準飼料を含有することを特徴とする請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
脂質エネルギー比率が30%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の飼料。
【請求項4】
マウスに請求項1~3のいずれかに記載の飼料を与えて飼育する工程を含むことを特徴とする、肝の線維化を示す非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウスの作製方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により作製された肝の線維化を示す非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝の線維化を伴い得るNAFLDモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)は、飲酒歴がない患者の、ウィルス性肝炎などの原因が明らかなものを除外した脂肪沈着を伴う肝疾患の総称であり、病理組織学的に大滴性の肝脂肪変性を基本として、肝細胞障害(風船様の変化)や肝線維化がみられる非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)と、病態の進行がみられない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)に大別される。NAFLD患者の多くは、肥満や糖尿病、高インスリン血症、脂質異常症などを合併しており、食生活の欧米化や運動不足、肥満人口の増加に伴いわが国でもNAFLDやNASH患者が増加してきている。
【0003】
これまでに、KK-A2型糖尿病モデルマウスを用いたNASHモデル動物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-186484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、遺伝子改変技術を使用しないで作製され、よりヒトに近く、利便性が高いNAFLDモデル動物作成技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の発明に関する。
[1]コール酸又はその塩、及びコレステロールを含有することを特徴とする非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウス作製用飼料。
[2]標準飼料を含有することを特徴とする前記[1]記載の飼料。
[3]脂質エネルギー比率が30%以上であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の飼料。
[4]マウスに前記[1]~[3]のいずれかに記載の飼料を与えて飼育する工程を含むことを特徴とする非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウスの作製方法。
[5]前記[4]に記載の方法により作製された非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の飼料を用いることにより、NAFLDモデルマウスを作製することができる。本発明のNAFLDモデルマウスは、遺伝子改変技術を使用しないで食餌投与のみで作製され、よりヒトに近く、利便性が高いNAFLDモデル動物である点において、特に優れている。また、本発明のNAFLDモデルマウスは、NASH病態又はNAFL病態を示し、より好ましくはさらに肝の線維化を示し得る点でも優れている。肝の線維化は比較的短時間(例えば9週間)で発症し得る。また、本発明のNAFLDモデルマウスの好ましい利点として、例えば、体重又は体重当たりの内臓脂肪の重さの増加幅が大きい点、インスリン抵抗性を呈する点が挙げられる。本発明のNAFLDモデルマウスは、NAFLDの病態又はメカニズムの解明、NAFLDに対する新規予防又は治療薬の開発、特にかかる予防又は治療薬のスクリーニング等に有用である。
さらには、本発明の飼料は、メチオニン及びコリン無添加飼料(MCD)のような栄養素を欠乏させていない飼料でなくてもよい点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の血清コレステロール値の結果を示す。
図2図2は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値の結果を示す。
図3図3は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の肝臓トリグリセリド値の結果を示す。
図4図4は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の肝組織学的所見の結果を示す。
図5図5は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群のprocollagen type I, alpha 1(Col1a1) mRNA発現の結果を示す。
図6図6は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群のtransforming growth factor(Tgf)-β1mRNA発現の結果を示す。
図7図7は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の総摂取エネルギー量の結果を示す。
図8図8は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の終体重の結果を示す。
図9図9は、9週齢時から9週間飼料を摂取させた後の、各群の肝臓重量/体重比の結果を示す。
図10図10は、9週齢時から11週間飼料を摂取させた場合の各群の体重の推移を示す。
図11図11は、5週齢時から15週間飼料を摂取させた場合の各群の体重の推移を示す。
図12図12は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群の血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値の結果を示す。
図13図13は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群の肝組織学的所見の結果を示す。
図14図14は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群のprocollagen type I, alpha 1(Col1a1) mRNA発現の結果を示す。
図15図15は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群のtransforming growth factor(Tgf)-β1mRNA発現の結果を示す。
図16図16は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群の肝臓重量/体重比の結果を示す。
図17図17は、6週齢時から3又は6ヶ月間飼料を摂取させた後の、各群の体重の推移を示す。
図18図18は、5又は9週齢時から16又は24週間飼料を摂取させた後の、各群の肝組織学的所見の結果を示す。
図19図19は、5又は9週齢時から16又は24週間飼料を摂取させた後の、各群のprocollagen type I, alpha 1(Col1a1) mRNA発現の結果を示す。
図20図20は、5又は9週齢時から16又は24週間飼料を摂取させた後の、各群のtransforming growth factor(Tgf)-β1mRNA発現の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.飼料
本発明のNAFLDモデルマウス作製用飼料は、コール酸又はその塩、及びコレステロールを含有することを特徴とする。
【0010】
〔飼料含有成分〕
コール酸又はその塩
コール酸は、代表的な胆汁酸である。コール酸はコレステロールの代謝によって肝臓で作られ、胆嚢に送られ、十二指腸に分泌されて、その一部が微生物によって代謝され、デオキシコール酸等の二次胆汁酸となる。コール酸は、通常アミノ酸と縮合して抱合胆汁酸となって存在している。アミノ酸として、グリシン又はタウリン等が挙げられる。コール酸は、コール酸とグリシンとの抱合胆汁酸であるグリココール酸、又はコール酸とタウリンとの抱合胆汁酸であるタウロコール酸であってもよい。
コール酸の塩は、コール酸の薬学的に許容される塩であることが好ましく、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等の強塩基との塩、アンモニア等の弱塩基との塩等が挙げられる。コール酸又はその塩は、公知の化学合成法により製造することもでき、また市販品を購入して入手することもできる。これらは全て、本発明で使用されるコール酸の範疇に属する。
【0011】
飼料中のコール酸又はその塩の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常0.01~2質量%であり、好ましくは0.1~1質量%であり、より好ましくは0.5質量%未満(例えば0.1~0.45質量%)であり、特に好ましくは0.2~0.4質量%である。
飼料中のコール酸又はその塩の含有量が少ないことが好ましい(例えば、0質量%超2質量%未満)。コール酸量が少ないほど、より優れたNAFLDモデルマウスが得られる。具体的には、例えば、飼料中のコール酸又はその塩の含有量が少ない(例えば0.5質量%未満又は0.4質量%未満)ほど、飼料を摂取したマウスは、体重又は副睾丸脂肪等の内臓脂肪の重さ/体重が増加し、又はインスリン抵抗性を示す。飼料中のコール酸又はその塩の含有量は、具体的には、例えば0.001質量%以上0.5質量%未満又は0.1質量%以上0.4質量%未満が好ましい。尚、飼料中のコール酸又はその塩の含有量が多い(例えば、0.5質量%超、中でも、0.5質量%超1質量%)ほど肝障害(肝線維化等)を誘導しやすい場合もある。
【0012】
コレステロール
コレステロールは、公知の化学合成、微生物培養、酵素反応等により製造することもでき、また市販品を購入して入手することもできる。市販品としては、例えば、クローダジャパン株式会社製のCOLESTEROL NF(商品名)、日本精化株式会社製のコレステロールJSQI(商品名、日本薬局方コレステロール)、日本水産株式会社製のニッスイマリンコレステロール(商品名)等が挙げられる。飼料中のコレステロール含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常0.01~5質量%であり、好ましくは0.1~3質量%であり、特に好ましくは1~1.5質量%である。飼料中のコレステロール含有量は高い(例えば、1質量%以上)ことが好ましい。飼料中のコレステロール含有量が高いほど、より優れたNAFLDモデルマウスが得られる。具体的には、例えば、飼料中のコレステロール含有量が高いほど、飼料を摂取したマウスは、高い血中ALT値を示し、又は高度の肝線維化を示す。飼料中のコレステロール含有量は、具体的には、例えば0.01~2.5質量%が好ましい。
【0013】
標準飼料
標準飼料は、マウスの飼育に使用され得るものであればどのようなものでもよいが、通常、一般成分(例えば、水分、粗タンパク質、粗脂質、粗灰分、粗繊維、可溶性無窒素物又はこれらの2種以上(好ましくは全部))、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンK3、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンB6、イノシトール、ビオチン、パントテン酸、ナイアシン、コリン、葉酸、又はこれらの2種以上(好ましくは全部)の組合せ等)、ミネラル類(カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、又はこれらの2種以上(好ましくは全部)の組合せ等)、アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、ステオニン、トリプトファン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、又はこれらの2種以上(好ましくは全部)の組合せ等)を含有する。
標準飼料として、オリエンタル酵母工業株式会社製のMF、MNF、CMF、CR-LPF、若しくはCRF-1等、又は日本クレア株式会社製のCE-2等が挙げられるが、中でもMFが好ましい。
標準飼料は、当技術分野で通常用いられている実験動物用飼料と言い換えることができる。
【0014】
飼料中の標準飼料含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常50~95質量%であり、好ましくは55~90質量%であり、特に好ましくは60~85質量%である。
【0015】
脂質エネルギー比率
脂質エネルギー比率は、次の式で求めることができる。
脂質エネルギー比率(%)={脂質量(グラム)×9キロカロリー/総エネルギー(キロカロリー)}×100
飼料の脂質エネルギー比率は高い(例えば、30%以上)ことが好ましい。飼料の脂質エネルギー比率が高いほど、より優れたNAFLDモデルマウスが得られる。具体的には、例えば、飼料の脂質エネルギー比率は高いほど、飼料を摂取したマウスは、体重が増加し、又は高度の肝線維化を示す。飼料の脂質エネルギー比率は具体的には、例えば30~50%が好ましい。それ以上であってもよいが、より大きな効果を得ることが困難である。
飼料の脂質エネルギー比率を増やすために、例えば、ヤシ油、パーム油、大豆油、綿実油、落花生油、米油等の植物油若しくはその油かす;ショートニング;マーガリン;硬化油;又は、動物性油等の油脂を飼料に含めてもよい。油脂は、その構成脂肪酸として、トランス脂肪酸、又は飽和脂肪酸を含有する油脂であることが好ましい。例えば、市販されている油脂を購入することで、油脂を入手できる。これらの油脂を含む飼料をマウスに与えることにより、優れたNAFLDモデルマウスが得られ得る。具体的には、これらの油脂を含む飼料をマウスに与えることにより、例えば、高度な線維化を示す又は体重若しくは体重当たりの内臓脂肪の重さが増加しているNAFLDモデルマウスが短期間で得られる。
飼料中の油脂含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常15~65質量%であり、好ましくは20~60質量%であり、特に好ましくは25~50質量%である。
【0016】
また、本発明の飼料は、必要に応じて、一般飼料、精製飼料、滅菌飼料、特殊配合飼料等の上記標準飼料以外の実験動物用飼料;保存剤、抗酸化剤、安定化剤、酸化防止剤溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤等の飼料の分野において通常用いられる任意の公知の添加剤;及び/又は薬理学的に許容される添加剤を必要に応じて用いることもできる。これらを、目的とする飼料形態に応じて、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらは、市販品を使用することができる。
【0017】
保存剤としては、特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等が挙げられる。安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、カゼイン、カゼインナトリウム塩等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えばt-ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、及びα-トコフェロール、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0018】
飼料は固形状、液体、乳化剤、ペースト、ゲル、粉末、錠剤、顆粒、ペレット、カプセル、シロップ、懸濁液又はスティック状に加工されていてもよい。固体状である場合は、略円柱状であってもよい。これらは公知方法で製造されてよい。
【0019】
本発明の飼料は、肝臓中のトリグリセリド蓄積作用、血中のALT値を増加させる作用等を有する。また、飼料中にコレステロール等脂質を少量含むことで、飼料を摂取したマウスの体重を増加させることができる。
本発明の飼料は、これを摂取したマウスにNAFLDの病態(特に、肝線維化)を引き起こすことができる。
【0020】
〔飼料の製造方法〕
本発明の飼料は、上記含有成分を、適量添加し、公知又は自体公知の方法に従って、混練、撹拌及び/又は混合することにより製造することができる。
【0021】
2.NAFLDモデル動物の作製方法
本発明は、マウスに本発明の飼料を与えて飼育する工程を含むことを特徴とする非アルコ-ル性脂肪肝疾患モデルマウスの作製方法を提供する。
【0022】
マウス
マウスは、遺伝子改変マウスでないことが好ましい。マウスの種類としては、例えば、A/J、C57BL/6J、TSNO(Tsumura-Suzuki non-obese)、 TSOD(Tsumura-Suzuki obese diabetes)C57BL/6N、C3H/HeN、C3H/HeJ、BALB/c、FVB/N、129+Ter/Sv、NOD/Shi、NC、FGS/Nga、CBA/JN、DBA/1、DBA/2、NC/Nga、AKR/J等の近交系又はICR、ddY等のクローズドコロニーが挙げられ、中でもA/J、又はTSNOが好ましい。
例えば、C57BL/6Jは標準モデルとして、A/Jはアジア人モデル又は痩せ型モデルとして、TSNOは強線維化モデルとして好適である。A/Jに関して、より詳細には、アジア人は肥満型でなくてもNAFLDになると報告されているため、肥満抵抗性を示すA/Jは、アジア人モデル又は痩せ型モデルとして好適である。TSNOに関して、より詳細には、食餌のみで誘導できる肝線維化モデルとして好適であることが後述の試験例4によって裏付けられている。
【0023】
摂餌量
通常、飼料をマウスケージ内又はケージのかぶせ蓋(網状)に、常法に従って、適量乗せることで、マウスは飼料を自由摂取する。1日当たりのマウスの摂餌量は、通常約3~5グラムであるが、これに限定されず、マウス個体が飼育条件下で実際に食べることができる量であってよい。
【0024】
飼料を与える期間
飼料を与え始める時期は、離乳後であれば特に限定されないが、例えば4週齢以上であることが好ましく、5~10週齢であることがより好ましい。飼料を与える期間は、例えば6週間以上であることが好ましく、9週間以上であることがより好ましく、10週間以上であることがより好ましく、11週間以上であることがより好ましい。飼料を与える期間が長いほど(例えば9週間以上)、より優れたNAFLDモデルマウスが得られる。具体的には、例えば、飼料を与える期間が長いほど、飼料を摂取したマウスは高度の肝線維化を示す。飼料を与える期間は、好ましくは6~52週間であり、より好ましくは10~26週間又は26~52週間である。飼料を与える期間は、コール酸量が少ないほど長期間であることが好ましい。飼料を与える期間は、コレステロールが少ないほど長期間であることが好ましい。飼料を与える期間は、脂質エネルギー比率が低いほど長期間であることが好ましい。
マウスの飼育環境は、温度20~25℃、湿度50~60%、12時間は明期、12時間は暗期サイクルに設定された室内であることが好ましい。
【0025】
3.NAFLDモデル動物
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、病理組織学的に大滴性の肝脂肪変性を基本として、肝細胞障害(風船様変化)や肝線維化がみられる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と、病態の進行がみられない非アルコール性脂肪肝(NAFL)に大別される。
本発明のNAFLDモデルマウスは、遺伝子改変技術を使用しないで作製され、よりヒトに近く、利便性が高いNAFLDモデル動物である点において、特に優れている。
マウスは、他の実験動物(例えば、ラットなど)と比較し、異なる性質を有する。例えば、マウスは胆嚢を有する点でヒトに近い。また、マウスは、例えば個体の大きさが小さく、餌の量が少なくてすむ、取り扱いやすい等の点から利便性が高い。
本発明のNAFLDモデルマウスがNAFLD病態を示すことは、例えば、公知又は自体公知の生化学的測定手法により、血中トリグリセリド値、肝臓トリグリセリド値、血中コレステロール値、血中グルコース値、血中ALT値、血中インスリン値、又は血中レプチン値等を測定し、ヒトのNAFLD病態と同じような挙動を示すか否かで簡単に確認することができる。同じような挙動とは、例えば、無疾患群(本発明の飼料を投与していない群)の血中トリグリセリド値、肝臓トリグリセリド値、血中コレステロール値、肝臓コレステロール値、血中グルコース値、血中ALT値、血中インスリン値、インスリン抵抗性指標、又は血中レプチン値等と比較したこれら値の傾向(減少、又は増加)が同じであること等という。
例えば、血中インスリン値、血中グルコース値、血中コレステロール値、血中ALT値及び肝臓トリグリセリド値のいずれか1以上について、本発明の飼料を投与していない群と比較して有意に増加している場合、本発明の飼料を投与した群は、NAFLDモデルマウスとして有用である。
また、例えば、体重又は体重当たりの内臓脂肪の重さの増加幅について、本発明の飼料を投与していない群と比較して有意に少なくない場合、本発明の飼料を投与した群は、NAFLDモデルマウスとして有用であり、本発明の飼料を投与していない群と比較して大きい場合、本発明の飼料を投与した群は、NAFLDモデルマウスとしてより優れている。
本発明のNAFLDモデルマウスがNASH病態を示すことは、例えば、ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin and eosin,HE)染色、又はアザン(Azan)染色等により肝組織を染色し、「NASH Clinical Research Network Scoring System」の診断基準に従い病理観察することにより確認することができる。具体的には、肝組織を病理観察して、下記表1に示すNAFLD activity score(NAS)の合計点数8点中、0~2点はNASHではない、3~4点は判定保留、5点以上はNASHと判断することができる。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明のNAFLDモデルマウスは、より好ましくはNASH病態の1つとしての肝の線維化を示し得る。中でもマウスとしてTSNOマウスを採用することは、肝の線維化が示され得る点で好ましい。肝の線維化の評価は、例えば、肝組織を病理観察して、下記表2に示す判断基準に従って行い得る。
【0028】
【表2】
【0029】
本発明のNAFLDモデルマウスがNAFL病態を示すことは、例えば、組織診断で脂肪肝を認め、かつ肝細胞障害(風船様変性)や線維化を認めないことにより確認することができる。
【0030】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0032】
1.試験例1
(1)動物モデル及び実験デザイン
8週齢雄性C57BL/6Jマウス(B6マウス)15匹及び8週齢雄性A/Jマウス15匹(いずれも日本SLC、静岡)を購入し、初めの1週間は標準飼料(MF;オリエンタル酵母、東京)を摂取させ飼育環境に順化させた。B6マウス及びA/Jマウスは順化後の9週齢時から、標準飼料であるMFを摂取させたNormal群(N群)、MFに粉末パーム油28.75質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩0.5質量%を添加した高脂肪飼料を摂取させた低コレステロール群(LC群)、MFにパーム油27.5質量%、コレステロール2.5質量%及びコール酸ナトリウム塩0.5質量%を添加した高脂肪飼料を摂取させた高コレステロール群(HC群)の3群各4~6匹ずつに分け、18週齢まで飼育した。飼料はオリエンタル酵母に作製を依頼し、購入した。それぞれの飼料組成及びエネルギーは下記表3に示す。食餌及び水は自由摂取とし、飼育期間中、体重測定を1週間に2回、摂食量測定を2日に1回行った。
すべての動物は、温度24℃、湿度55%、7~19時は明期、19~7時は暗期サイクルに設定された室内で飼育した。なお、本動物実験は「奈良女子大学動物実験に関する指針」ならびに「実験動物の飼育及び保管等に関する基準(昭和55年3月総理府告示第6号)」に則して実施した。
【0033】
【表3】
【0034】
(2)動物処理
B6マウス及びA/Jマウスは18週齢時の屠殺前に8時間絶食させたのち、ソムノペンチル(商品名、共立製薬株式会社、一般名はペントバルビタールナトリウム)麻酔下で開腹処置を行い、シリンジを用いて腹部大静脈又は心臓から採血した。直ちに肝臓を摘出し、0.9%(w/v)食塩水で洗浄後重量を測定した。肝臓の一部を切除し、10%(w/v)中性ホルマリン液で固定した。また、肝臓の一部(0.5g)を凍結保存して、後述するように脂質の抽出を行った。
【0035】
(3)血清・肝臓生化学的測定
卓上遠心機(テーブルトップマイクロ冷却遠心機3500、久保田商事、東京)で4℃、3000rpmで10~15分間、上記採取した血液を遠心分離し、上清(血清)を凍結保存した。血清中の、総コレステロール、ALTを測定した。各項目の吸光度の測定にはライフサイエンス用紫外可視分光光度計 V-630BIO(日本分光株式会社 JASCO Corporation、東京)を使用した。各項目の測定原理及び方法を以下に示す。
【0036】
〔血清中の総コレステロール〕
コレステロールオキシターゼ・DAOS法を用いた測定キットであるコレステロールE-テストワコー(和光純薬工業)を使用し、説明書通りの方法で血清中の総コレステロールの測定を行った。
測定は1検体につき2回行い、その平均値を測定した。
【0037】
〔血清中のALT〕
(POP・TOOS)法を用いた測定キットであるトランスアミナーゼC-IIテストワコー(和光純薬工業)を使用して、説明書通りの方法で血清ALT濃度の測定を行った。
測定は1検体につき2回行い、その平均値を測定値とした。
【0038】
〔肝臓トリグリセリド〕
凍結保存した肝臓0.5gを用いて肝臓脂質を抽出し、TG濃度を測定した。抽出はFolchらの方法により行った。
肝組織0.5gをホモジナイズし、メタノール・クロロホルム混合液(容量比1:2)約50mLでメスフラスコに洗いながら移し入れ、40℃で30分間振盪反応後、室温に戻してからメタノール・クロロホルム混合液を加えて50mLとした。濾過後、蒸留水約9mLを加えて静かに混合し水層は捨てた。
【0039】
<測定方法>
室温に戻した後、サンプルを試験管に取り、ヘキサンで希釈したサンプルからさらにサンプルを試験管に取り窒素乾固後、イソプロパノール100μLを加えてよく混合した。これを測定に用いた。測定にはトリグリセリドE-テストワコー(和光純薬工業)を用いた。
【0040】
(4)病理組織学検討
病理組織学的所見は群分けを伏せて行うブラインドにより、すべて病理医が評価した。
【0041】
〔ヘマトキシリン・エオジン(hematoxylin and eosin,HE)染色〕
肝組織が包理されたパラフィンブロックをミクロソームで4μmの厚さに薄切りし、脱パラフィン処理し水洗した後、マイヤーのヘマトキシリン液にて5分間染色した。水洗後、エオジン液にて2~3分染色し、アルコールで分別した後、脱水・透徹・封入した。
【0042】
〔アザン(Azan)染色〕
肝臓組織が包理されたパラフィンブロックをミクロトームで4μmの厚さに薄切し、脱パラフィン処理し水洗した後、10%(w/v)重クロム酸カリウム水溶液と10%(w/v)トリクロール酢酸水溶液を等量混合した媒染剤に10~20分浸した。再び水洗した後、アゾカルミンG液に室温で30分以上浸した。蒸留水で水洗し、アニリン・アルコールで数秒間分別し、酢酸・アルコールで分別を停止し、水洗後、鏡検して染色状態を確認した。その後、5%(w/v)リンタングステン酸水溶液に1時間~1晩浸した。水洗後、アニリン青・オレンジG混合液に30~60分浸し、100質量%アルコールで分別脱水し、3槽以上のキシロールで透徹、封入した。
【0043】
〔肝病変の評価〕
群分けを伏せて行うブラインドにより、すべて病理医が評価した。診断基準はKleinerらが提唱した「NASH Clinical Research Network Scoring System」の診断基準に従った。これはsteatosis(脂肪沈着)、lobular inflammation(小葉内炎症)、hepatocites ballooning(肝細胞の風船様変化)を上記表1に示す分類に従ってスコア化し、NASHの程度を評価する方法である。さらに、脂肪沈着、小葉内炎症、肝細胞の風船様変化の3カテゴリーを合わせてNAFLD activity score(NAS)とし、合計点数8点中、0~2点はNASHではない、3~4点は判定保留、5点以上はNASHと判断した。また、fibrosis(線維化)の評価も行った。
【0044】
(5)肝線維化マーカー(Col1a1、Tgf-β1)
凍結保存していた肝臓組織からRNAiso Plus(タカラバイオ,滋賀)を用いて説明書通りの方法で、総RNAを抽出した。総RNAとReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡、大阪)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを作成し、Real-time PCRに用いた。PCRはLightCycler Nano(ロシュ・ダイアグノスティックス、東京、日本)あるいはSTEP One real-time PCR system (Applied Biosystems,Carlsbad,CA,USA)を使用し、PCRの反応液の調製には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡)を用いた。プライマーの合成はFASMAC(神奈川)に依頼し、購入した。PCR反応は説明書通りの標準的なプログラムで実施した。各目的遺伝子(Col1a1、Tgf-β1)の発現量の相対比はβ-actin遺伝子を内部標準として、比較Ct法で解析した。
【0045】
(6)統計処理
各項目の分析結果は、平均値±標準誤差(SE)で示し、統計解析にはSPSS statistics 21(日本アイ・ビー・エム株式会社)を用いた。6群間の有意差の検定には一元配置分散分析およびScheffe法(多重比較)、クロス集計はFisherの直接確率の有意性検定にて行った。すべての検定で有意確率P<0.05を統計学的に有意差があると判断した。
【0046】
〔実験結果〕
B6マウスのうちNormal食を摂取した群をB6N群、コレステロール1.25質量%添加高脂肪飼料を摂取した群をB6LC群、コレステロール2.5質量%添加高脂肪飼料を摂取した群をB6HC群と表記する。同様にA/JマウスもA/JN群、A/JLC群、A/JHC群と表記する。
【0047】
(1)血清・肝臓生化学検査値
図1は血清コレステロール値を、図2は血清ALT値を、図3は肝臓TG値を示す。
本発明の飼料の摂取により、肝臓中のトリグリセリド量が有意に増加した(図3)。また、本発明の飼料の摂取により、B6マウス及びA/Jマウスの血清コレステロール値およびALT値が有意に増加した(図1及び2)。
【0048】
〔肝組織学的所見(肝病変の評価)〕
結果を下記表4及び図4に示す。表4内の数値は個体数を示す。
【0049】
【表4】
【0050】
B6LC群、B6HC群、A/JLC群、及びA/JHC群の肝組織所見で、NAFLD activity scoreが5点以上の個体が認められ(表4及び図4)、NASHと診断される個体が得られた。B6マウスと比較してA/Jマウスの方がNAFLD activity scoreが高いマウスが多く、A/JマウスはNASH易発性を有する、又はA/Jマウスは本実験で用いた飼料成分に対する感受性が高いことが確認された。
【0051】
〔肝線維化〕
肝線維化所見がみられることはその予後の悪化の報告があることから注意すべき病変である。本実験において、ステージ2である中等度の線維化病変が確認された(図4)。線維化はB6及びA/Jマウスの双方において、コレステロール濃度依存的に悪化を示した。また、B6マウスと比較してA/Jマウスの方が高度な線維化病変を示した。A/Jマウスにおいて肝臓におけるコレステロール蓄積はB6マウスに比べて高いレベルであり、これがA/Jマウスにおける高度な肝線維化に関与している可能性が考えられる。
【0052】
〔肝線維化マーカー〕
肝線維化マーカーである各mRNA(Col1a1、Tgf-β1)の発現量はB6マウス及びA/JマウスのLC群及びHC群において、各Normal群と比較して有意に増加し又は増加傾向を示した(図5及び6)。
【0053】
以上をまとめると、NASH又は肝線維化を高度に誘導する点で、飼料中のコレステロール含量を増やし、又はA/Jマウスを用いることが好ましい。
【0054】
〔身体所見〕
全ての群の総摂取エネルギー量は同等で(図7)、各系統内においてNormal群とコレステロール負荷群(LC,HC)の体重に有意な差はみられなかったが(図8)、B6マウス及びA/JマウスのLC群及びHC群において体重当たりの肝臓重量の有意な増加が確認された(図9)。
【0055】
2.試験例2
(1)実験方法
8週齢雄性C57BL/6Jマウス22匹(日本SLC)を購入し、初めの1週間は標準飼料(MF;オリエンタル酵母)を摂取させ飼育環境に順化させた。順化後の9週齢時から、標準飼料であるMFを摂取させた普通食群、MFに粉末パーム油(商品名粉末油脂P-80;ナガセサンバイオ製)25質量%、コレステロール(商品名コレステロール;和光純薬工業製)1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩(商品名コール酸ナトリウム;和光純薬工業製)0.2質量%を添加した飼料を摂取させたコール酸0.2%添加食群、MFに粉末パーム油25質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸塩0.4質量%を添加したコール酸0.4%添加食群の3群各3~11匹ずつに分け、20週齢まで飼育した。食餌及び水は自由摂取とし、飼育期間中、体重測定を1週間に1回行った。
すべての動物は、温度24℃、湿度55%、7~19時は明期、19~7時は暗期サイクルに設定された室内で飼育した。なお、本動物実験は「奈良女子大学動物実験に関する指針」ならびに「実験動物の飼育及び保管等に関する基準(昭和55年3月総理府告示第6号)」に則して実施した。
【0056】
(2)実験結果
同週齢群間で有意差がなかったことから、マウスに与える飼料のコール酸の含有量がいずれであっても体重減少が見られず、NAFLDモデルマウスが得られることが確認された(図10)。
さらに、マウスに与える飼料のコール酸の含有量が少ないほど、体重が増加したマウス、すなわち優れたNAFLDモデルマウスが得られることが確認された(図10)。
【0057】
3.試験例3
(1)実験方法
4週齢雄性C57BL/6Jマウス22匹(日本SLC)を購入し、初めの1週間は標準飼料(MF;オリエンタル酵母)を摂取させ飼育環境に順化させた。順化後の5週齢時から、標準飼料であるMFを摂取させた普通食群、MFに粉末パーム油(商品名粉末油脂P-80;ナガセサンバイオ製)25質量%、コレステロール(商品名コレステロール;和光純薬工業製)1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩(商品名コール酸ナトリウム;和光純薬工業製)0.1質量%を添加した飼料を摂取させたコール酸0.1%添加食群、MFに粉末パーム油25質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸塩0.4質量%を添加したコール酸0.4%添加食群の3群各3~11匹ずつに分け、20週齢まで飼育した。食餌及び水は自由摂取とし、飼育期間中、体重測定を1週間に1回行った。
すべての動物は、温度24℃、湿度55%、7~19時は明期、19~7時は暗期サイクルに設定された室内で飼育した。なお、本動物実験は「奈良女子大学動物実験に関する指針」ならびに「実験動物の飼育及び保管等に関する基準(昭和55年3月総理府告示第6号)」に則して実施した。
【0058】
(2)実験結果
同週齢群間で有意差がなかったことから、マウスに与える飼料のコール酸の含有量がいずれであっても体重減少が見られず、NAFLDモデルマウスが得られることが確認された(図11)。
さらに、コール酸添加量が異なる飼料を5週齢時から15週間摂取させると、すなわち、試験例2と比較して飼料投与開始時期を早めると、又は飼料投与期間を長くすると、より体重が増加したマウス、すなわちより優れたNAFLDモデルマウスが得られることが確認された(図11)。
【0059】
4.試験例4
(1)実験方法
6週齢雄性Tsumura-Suzuki non-obese(TSNO)マウス24匹及びTsumura-Suzuki obese diabetes(TSOD)マウス12匹(いずれも動物繁殖研究所)を入手し、標準飼料(MF;オリエンタル酵母)を摂取させた普通食(NM)群、MFに粉末パーム油28.75質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩0.5質量%を添加した飼料を摂取させた高脂肪・コレステロール食(HFC)群に分けた。飼料摂取開始後、3ヶ月及び6ヶ月時に屠殺した。各群6匹ずつとし、食餌及び水は自由摂取とした。本実験は動物繁殖研究所に委託し、飼料はオリエンタル酵母に作成を依頼した。本試験を実施するに当たり、各法令および指針の遵守はもとより、一般財団法人動物繁殖研究所の実験動物福祉規程および標準操作手順書に従い、動物福祉の精神に則り実施した。
二酸化炭素吸入麻酔下で開腹処置を行い、シリンジを用いて腹部大静脈から採血した。直ちに肝臓を摘出し、0.9%(w/v)食塩水で洗浄後重量を測定した。肝臓の一部を切除し、10%(w/v)中性ホルマリン液で固定した。
試験例1に記載の血清・肝臓生化学的測定、病理組織学検討、及び肝線維化マーカーの欄に記載の方法にて、血清中のALT、肝組織学的所見、肝線維化マーカー(Col1a1、Tgf-β1)を分析した。各目的遺伝子(Col1a1、Tgf-β1)の発現量の相対比はglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(Gapdh)遺伝子を内部標準として、比較Ct法で解析した。また、体重測定を2又は4週間に1回行った。
各項目の分析結果は、平均値±標準誤差(SE)で示した。群間の有意差の検定は統計解析ソフトGraphPad Prism 7.02を用いて、一元配置分散分析およびBonferroni法(多重比較)にて行い、有意確率P<0.05を統計学的に有意差があると判断した。
【0060】
(2)実験結果
TSNOマウスにおけるNM群及びHFC群の3ヶ月時屠殺群、並びにTSODマウスにおけるHFC群の3ヶ月時屠殺群をそれぞれNM-TSNO-3m、HFC-TSNO-3m、HFC-TSOD-3mと表記し、TSNOマウスにおけるNM群及びHFC群の6ヶ月時屠殺群、並びにTSODマウスにおけるHFC群の6ヶ月時屠殺群をそれぞれNM-TSNO-6m、HFC-TSNO-6m、HFC-TSOD-6mと表記する。
【0061】
〔血清・肝臓生化学検査値〕
図12は血清ALT値の結果を示す。
図12から明らかなように、本発明の飼料の3ヶ月間又は6ヶ月間の摂取により、TSNO及びTSODマウスの血清ALT値が有意に増加した。
【0062】
〔肝組織学的所見(肝病変・肝線維化の評価)〕
図13は肝組織学的所見の結果を示す。
図13から明らかなように、本発明の飼料の3ヶ月間又は6ヶ月間の摂取による、TSNOマウスのNASH発症、さらには線維化病変が確認された。
具体的には、HFC群では軽度の脂肪変性、炎症及び風船様肝細胞がみられNASHを発症していた。また、HFC-TSNO-3m群ではステージ1~2程度、HFC-TSNO-6m群ではステージ2~3程度の線維化病変がみられた。
その一方で、TSODマウスではNASH発症及び線維化病変がみられたものの、HFC-TSOD-3m群ではステージ0~1程度、HFC-TSNO-6m群ではステージ1~2程度の線維化病変であった。
以上をまとめると、肝線維化を高度に誘導する点で、TSODマウスよりTSNOマウスを用いることが好ましい。
食事誘導肝線維化モデル動物としては、本モデルは線維化の程度はかなり強く、進行したNAFLDを発症する優れたモデル動物であると言える。
【0063】
〔肝線維化マーカー〕
図14及び15は肝線維化マーカーの結果を示す。
図14及び15から明らかなように、本発明の飼料摂取によるTSNOマウスの肝線維化マーカーの有意な増加が確認された。
具体的には、肝臓における各mRNA(Col1a1、Tgf-β1)の発現量はTSNOマウスのHFC群において、各NM群と比較して有意に増加した。
【0064】
〔身体所見〕
図16は肝臓重量/体重比の結果を、図17は体重の推移をそれぞれ示す。
図16から明らかなように、本発明の飼料摂取によるTSNO及びTSODマウスの肝臓重量/体重比の有意な増加が確認された。
さらに具体的には、HFC-TSNO群では、同週齢NM-TSNO及びHFC-TSOD群に比較して、肝臓重量/体重比が高値を示した。
尚、体重はNM-TSNO-3m及びHFC-TSNO-3m間に有意な差はみられなかった(図17)。
【0065】
5.試験例5
(1)実験方法
4及び8週齢雄性C57BL/6Jマウス26匹(日本SLC)を購入し、初めの1週間は標準飼料(MF;オリエンタル酵母)を摂取させ飼育環境に順化させた。順化後の5及び9週齢時から、標準飼料であるMFを摂取させた普通食群、MFに粉末パーム油(商品名粉末油脂P-80;ナガセサンバイオ製)25質量%、コレステロール(商品名コレステロール;和光純薬工業製)1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩(商品名コール酸ナトリウム;和光純薬工業製)0.1質量%を添加した飼料を摂取させたコール酸0.1%添加食群、MFに粉末パーム油25質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩0.2質量%を添加したコール酸0.2%添加食群、MFに粉末パーム油25質量%、コレステロール1.25質量%及びコール酸ナトリウム塩0.4質量%を添加したコール酸0.4%添加食群の4群各3~5匹ずつに分け、16又は24週間飼育した。食餌及び水は自由摂取とし、飼育期間中、体重測定を1週間に1回行った。
すべての動物は、温度24℃、湿度55%、7~19時は明期、19~7時は暗期サイクルに設定された室内で飼育した。なお、本動物実験は「奈良女子大学動物実験に関する指針」ならびに「実験動物の飼育及び保管等に関する基準(昭和55年3月総理府告示第6号)」に則して実施した。
【0066】
屠殺前に8時間絶食させたのち、イソフルラン吸入麻酔下で開腹処置を行い、シリンジを用いて心臓から採血した。直ちに肝臓、睾丸周囲脂肪を摘出し、0.9%(w/v)食塩水で洗浄後重量を測定した。肝臓の一部を切除し、10%(w/v)中性ホルマリン液で固定した。
【0067】
〔血清グルコース値〕
ムタロターゼ・GOD法を用いた測定キットであるグルコースCII-テストワコー(和光純薬工業)を使用し、説明書通りの方法で血清中のグルコースの測定を行った。
測定は1検体につき2回行い、その平均値を測定した。
〔血清インスリン値〕
ELISA法を用いた測定キットであるマウスインスリン測定キット(森永生科学研究所)を使用し、説明書通りの方法で血清中のインスリンの測定を行った。
測定は1検体につき2回行い、その平均値を測定した。
〔インスリン抵抗性指標〕
インスリン抵抗性指標は血清インスリン濃度および血清グルコース濃度を用い、次式により求めた。なお、本実験では国際単位の代わりに血清インスリン濃度(ng/mL)を用いて算出し、インスリン抵抗性の相対的な強弱を比較することで検討を行った。
インスリン抵抗性指標 = 血清インスリン値 (ng/mL) × 血清グルコース値 (mg/dL) ÷ 405
【0068】
〔血清中のALT、肝臓トリグリセリド、肝組織学的所見、肝線維化マーカー(Col1a1、Tgf-β1)〕
試験例1に記載の血清・肝臓生化学的測定、病理組織学検討、及び肝線維化マーカーの欄に記載の方法にて、血清中のALT、肝臓トリグリセリド、肝組織学的所見、肝線維化マーカー(Col1a1、Tgf-β1)を分析した。各目的遺伝子(Col1a1、Tgf-β1)の発現量の相対比はGapdh遺伝子を内部標準として、比較Ct法で解析した。
【0069】
各項目の分析結果は、平均値±標準誤差(SE)で示した。同週齢3群間及び2群間の有意差の検定には一元配置分散分析及びBonferroni法、並びに対応のないt検定を用い、有意確率P<0.05を統計学的に有意差があると判断した。
【0070】
(2)実験結果
〔血清・肝臓生化学検査値〕
表5は血清ALT値、血清グルコース値、血清インスリン値及びインスリン抵抗指標の結果を示す。
【0071】
【表5】
【0072】
表5から明らかなように、本発明の飼料摂取により、C57BL/6Jマウスの血清ALT値が有意に増加した。
特に、コール酸0.4%添加食群では、コール酸0.2%添加食群に比較して、血清ALT値が高値を示した。
その一方で、コール酸0.2%添加食群では、コール酸0.4%添加食群に比較して、インスリン抵抗性指標が高値傾向を示した。インスリン抵抗性はヒトにおけるNASH病態で高頻度にみられることから、インスリン抵抗性指標が普通食摂取群より高値を示すことがより望ましく、コール酸添加濃度は0.4%より0.2%の方がより優れたNAFLDモデル動物を作製できるといえる。
【0073】
〔肝組織学的所見(肝病変・肝線維化の評価)〕
図18は肝組織学的所見の結果を示す。
図18から明らかなように、本発明の飼料摂取によるC57BL/6Jマウスの肝線維化が確認された。
特に、コール酸0.4%添加食群において、脂肪変性及び高度な炎症がみられた。また、線維化は中心静脈周囲に極軽度にみられた。コール酸0.2%及び0.1%添加食群において、軽度~中等度の脂肪変性及び炎症がみられ、NASHの特徴的な所見がみられた。線維化は中心静脈周囲及び肝細胞周囲に軽度な病変(ステージ1)がみられた。
【0074】
〔肝線維化マーカー〕
図19及び20は肝線維化マーカーの結果を示す。
図19及び20から明らかなように、本発明の飼料摂取によるC57BL/6Jマウスの肝線維化マーカーの有意な増加又は増加傾向が確認された。
【0075】
〔身体所見〕
下記表6は体重及び睾丸周囲脂肪重量/体重比の結果を示す。
表6から明らかなように、特に、コール酸添加濃度が0.1又は0.2質量%である飼料摂取群において、同週齢普通食群に比較して、体重及び睾丸周囲脂肪重量/体重比の増加が確認された。すなわち、コール酸添加濃度が0.4質量%未満(例えば0.1又は0.2質量%)である飼料を摂取させることにより、より優れたNAFLDモデルマウスが得られることが確認された。
【0076】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のモデル動物、その作製方法、及びそれを作製するための飼料は、NAFLDの病態又はメカニズムの解明、NAFLDに対する新規予防又は治療薬の開発等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20