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特許7126183散液デバイスならびにそれを用いた散液装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】散液デバイスならびにそれを用いた散液装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/15 20220101AFI20220819BHJP
   B01F 27/072 20220101ALI20220819BHJP
   B01F 27/96 20220101ALI20220819BHJP
   B01J 19/18 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B01F27/15
B01F27/072
B01F27/96
B01J19/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022016680
(22)【出願日】2022-02-04
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022009299
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2001/0010660(US,A1)
【文献】特開2002-119838(JP,A)
【文献】特開2000-308816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/00-27/96
B01J 19/00-19/32
B05B 9/00-9/08
B05B 15/00-15/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、
該回転軸に沿って平行に延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、
一端が該吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ該吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの筒状の吐出部分とを備え、
該吐出口の開口面における該吐出部分の軸心方向と水平方向との間の角度θが該水平方向を基準にして-90°≦θ≦20°である、散液デバイス。
【請求項2】
前記流液部材における前記吸液部分が、前記回転軸の軸方向と平行に延びる一直線状の管である、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項3】
複数の前記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の前記下端のすべてが前記回転軸に対して同じ高さとなるように設けられている、請求項1または2に記載の散液デバイス。
【請求項4】
複数の前記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の前記下端のうちの1つが、該下端の他の1つと比較して前記回転軸に対して異なる高さとなるように設けられている、請求項1または2に記載の散液デバイス。
【請求項5】
処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている請求項1から4のいずれかに記載の散液デバイスと、該散液デバイスが装着された回転軸とを備える、散液装置。
【請求項6】
処理液の循環方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載の散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程が、該散液デバイスを構成する吸液部分および吐出部分の筒状内部がいずれも該処理液で満たされている状態で行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0003】
他方、相間移動触媒やスラリー触媒を用いる2液相以上の反応系において、不斉合成反応などの反応を通じて様々な化合物を合成する技術が注目されている。こうした反応の多くでは、反応系を力強く撹拌することによって反応促進が行われる。
【0004】
2液相の反応は、例えばバイオディーゼル燃料の製造に採用されることがある。例えば、リパーゼのような酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応が挙げられる。こうした酵素接触法によるエステル交換反応では、酵素として、例えば、液体酵素やイオン交換樹脂などの担体に固定化された酵素(固定化酵素)が使用される。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物のグリセリン水に残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応では、油層と水層との二相系が用いられ、例えば反応物を高速で撹拌する等によりエマルジョンが形成される。ここで、反応物の高速撹拌には、撹拌機への相当なエネルギーの負荷が必要である。一方、工業製品としての生産性を高めるためには、反応物の撹拌等の操作に要するエネルギーを低減させることが所望されている。しかし、そうすると上記反応物を用いるエマルジョン形成能が低下し、エステル交換反応を効果的に行うことができないという矛盾を生じる。
【0006】
あるいは、上記酵素に代えてアルカリ触媒を用いる方法もある。この場合も2液相の反応系が採用され、反応には力強い撹拌が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、処理液の蒸留や混合、撹拌のような各種操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、
該回転軸に沿って延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、
一端が該吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ該吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの筒状の吐出部分とを備え、
該吐出口の開口面における該吐出部分の軸心方向と水平方向との間の角度θが該水平方向を基準にして-90°≦θ≦20°である、散液デバイスである。
【0010】
1つの実施形態では、上記流液部材における上記吸液部分は、上記回転軸の軸方向と略平行に延びる一直線状の管である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の散液デバイスは複数の上記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の上記下端のすべては上記回転軸に対して同じ位置に設けられている。
【0012】
1つの実施形態では、本発明の散液デバイスは複数の上記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の上記下端のうちの1つが、該下端の他の1つと比較して上記回転軸に対して異なる位置に設けられている。
【0013】
本発明はまた、処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている上記散液デバイスと、該散液デバイスが装着された回転軸とを備える、散液装置である。
【0014】
1つの実施形態では、上記処理液は複数の液相から構成されている。
【0015】
本発明はまた、処理液の循環方法であって、
上記散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスを構成する吸液部分および吐出部分がいずれも該処理液で満たされている、方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の散液デバイスによれば、掬い上げた反応液を液面より上方に移動させて散液する際、流液部材内が反応液で満たされることにより、回転軸にかける動力が小さい状態で反応液を効率良く混ぜ返すことができる。これにより、容器内に含まれる液体について水平方向の回転に基づく撹拌に加え、鉛直方向の移動および循環を当該小さい動力で促すことができる。本発明の散液デバイスは、本発明の散液デバイスは、散液装置の一部として組み込むことができ、これにより、処理液の蒸留や、混合、撹拌などに要する物理的操作のエネルギーを減じることができる。例えば、本発明の散液装置に、処理液として単相または複数の液相(油相と水相との2相など)で構成される反応液を収容させた場合、余分な動力を使用することなく反応液のエマルジョン化、および/または副生成物(例えばグリセリン)の水での抽出を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の散液デバイスの一例を示す概略図である。
図2図1に示す散液デバイスを構成する流液部材の一例を表す断面図である。
図3】本発明の散液デバイスを構成する流液部材の特徴を説明するための当該流液部材の断面図であって、(a)は2つ屈曲部を備える流液部材の一例を表す断面図であり、(b)は1つ屈曲部と湾曲した吐出部分とを備える流液部材の一例を表す断面図である。
図4】本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
図5】本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
図6図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
図7図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の他の例を示す概略図である。
図8図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の別の例を示す概略図である。
図9図4に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
図10図5に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0019】
(散液デバイス)
図1は、本発明の散液デバイスの一例を示す概略図である。
【0020】
図1に示す本発明の散液デバイス100は、回転軸121に装着可能な2つの筒状の流液部材120,120’を備える。さらに図1においては、回転軸121は鉛直方向に沿って配置されている。なお、図1では2つの流液部材が示されているが、本発明はこれに限定されず、少なくとも1つの筒状の流液部材を備えていればよい。
【0021】
流液部材120,120’は、筒状の吸液部分122,122’と、一端が当該吸液部分122,122’の上端と連通し、そして他端に吐出口125,125’を備える筒状の吐出部分123,123’とで構成されている。
【0022】
図2は、図1に示す流液部材120の縦方向の断面図である。一方、図1に示す散液部材120’は、流液部材120と同様であるため省略する。
【0023】
散液部材120を構成する吸液部分122には、下端が開口した吸液口124が設けられている。図2において、吸液部分122は、上端から下端の吸液口124に向かって外径および内径のいずれもが略一直線状に延びる管で構成されている。
【0024】
吸液部分122は筒状である限り、その断面形状は特に限定されない。吸液部分122を構成し得る断面形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。本発明の散液デバイスは、断面形状が互いに異なる複数の吸液部分で構成されていてもよい。本発明においては、後述する処理液内での移動の際の抵抗を減らすため、吸液部分122は円形または楕円形の断面形状を有することが好ましい。あるいは、吸液部分は、図2に示すものに代えて、回転軸121の軸周りに捻じって配置された管で構成されていてもよい。
【0025】
吸液部分122の大きさは特に限定されないが、例えば、吸液部分122が円形の断面形状を有する場合、その外径は、例えば5mm~50mmである。
【0026】
吸液口124の形状もまた特に限定されない。上記吸液部分122の断面形状と同じまたは異なる形状のいずれであってもよい。吸液口124の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、吸液口124は、吸液部分122の内部により多くの処理液を導入できるように、吸液部分122の軸に対して斜め方向から切断して開口面積を拡張したものであってもよい。
【0027】
吸液部分122の一直線の構造(長さ)は、図1に示す回転軸121と略平行となるものであり、後述する散液装置の処理槽110内に貯留される処理液116の深さに応じて設計されている。この一直線の構造を構成する吸液部分122の下端(吸液口124)から、吸液部分122と吐出部分123との接合部分のうち最も下方に位置する部分(散液部材120の屈曲部P)までの距離tは、特に限定されない。例えば、距離tは使用する処理槽110の容量に応じて当業者によって適宜調節され得る。
【0028】
吐出部分123は、一端が吸液部分122の上端と連通するとともに、当該吸液部分122に対して屈曲部Pにおいて傾斜して設けられている。また、吐出部分123の他端は、吐出部分123の筒内を通過した処理液を外部に排出するための吐出口125が設けられている。さらに図2に示す吐出部分123は筒状の形態を有する。
【0029】
本発明において、吸液部分122の軸方向に対する吐出部分123の傾斜角θは当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば10°~89°、好ましくは15°~45°である。傾斜角θが10°を下回ると、吸液部分122から吸い上げられた処理液が、吐出部分123と通って吐出口125から排出されるためには散液部材120をより高速で回転させることを必要とすることがある。傾斜角θが89°を上回ると、吐出部分123が処理液の液面を超えて内部に浸り、散液の機能を適切に発揮できないことがある。なお、吐出部分123の傾斜角θと、これに対応する図1に示す吐出部分123’の傾斜角は互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0030】
吐出部分123の吐出口125の形状もまた特に限定されない。上記吸液部分122の断面形状と同じまたは異なる形状のいずれであってもよい。吐出口125の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、本発明において吐出部分123は、吸液部分122と連通する側から吐出口125にかけて、内径が一定であってもよく、あるいは緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよい。
【0031】
吐出部分123の長さ(例えば、散液部材120の屈曲部Pから吐出口125までの最短距離)は特に限定されず、当業者によって任意の長さが設定され得る。
【0032】
図2に示す流液部材120において、吐出部分123は屈曲部Qにおいて屈曲し、吐出口125は例えば、流液部材120の回転半径外側を指向する。
【0033】
図2に示す実施形態では、吐出口125は、当該吐出口125の開口面126における吐出部分123の軸心方向Tが水平方向Hと略一致する、すなわち水平方向Hを基準として略0°となるような角度に指向しているが、本発明は必ずしもこの角度に限定されない。吐出口125の開口面126における吐出部分123の軸心方向Tは、水平方向Hを基準として所定の角度を指向するように設計されている(なお、この点については後述の図3を用いてより詳細に説明する)。
【0034】
再び図1を参照すると、吸液部分122,122’の吸液口124,124’は水平方向に略一直線となるように端部が揃えられている。このような形態の場合、散液デバイス100を構成する散液部材120,120’はいずれも、貯留された処理液の略同じ深さの部分から、吸液口124,124’を通じて当該処理液を吸液できる。
【0035】
本発明の散液デバイス100において、散液部材120,120’は例えば回転軸121に(例えば回転軸121の軸周りに)固定されている。なお、散液部材120,120’は回転軸121のできる限り近くに位置するように密集して設けられていることが好ましい。散液部材120,120’の全体が密集することにより、回転軸121に対する散液部材120,120’の水平断面はより小さくなる。その結果、回転軸121を介して散液部材120,120’が回転する際の処理液中の抵抗をできる限り低減することができる。
【0036】
図3は、本発明の散液デバイスを構成する流液部材の特徴を説明するための当該流液部材の断面図である。
【0037】
図3の(a)および(b)に示す流液部材120a,120aは、吸液口124a,124aから吐出口125a,125aの間に屈曲部Pを有し、当該屈曲部Pを境界にして、吸液部分122a,122a(すなわち、吸液口124a,124aから屈曲部Pまでで構成される筒状部分)と、吐出部分123a,123a(すなわち、屈曲部Pから吐出口125a,125aまでで構成される筒状部分)とから構成されている。
【0038】
一方、図3の(a)に示す吐出部分123aでは、その間に他のもう一つの屈曲部Qが設けられているのに対し、図3の(b)に示す吐出部分123aでは、そのような他の屈曲部の代わりに、屈曲部Pから頂部Rにかけて湾曲しながら上方に昇るように延び、かつ当該頂部Rから吐出口125aにかけて湾曲しながら下方に下るように延びる、湾曲した筒状部分で構成されている。
【0039】
ここで、図3の(a)に示す吐出部分123aおよび図3の(b)に示す吐出部分123aはいずれも、吐出口125a,125aの開口面126a,126aにおいて、吐出部分123a,123aの各軸心Aが指向する方向T(このTを「吐出口の開口面における吐出部分の軸心方向」ともいう)と水平方向Hとの間には任意の角度θが形成されている。
【0040】
この角度θについて、本明細書中では以下のように定義される。
【0041】
例えば、吐出口の開口面における吐出部分の軸心方向Tが水平方向に指向する場合(すなわち、当該開口面が水平面に対して垂直となるように配置されている場合)、当該吐出口の開口面における吐出部分の軸心方向Tと水平方向Hとは同一の方向を指向し、角度θは0°として表すことができる(例えば、上記図2に示す流液部材120である場合)。
【0042】
あるいは、図3の(a)に例示されるように、例えば、吐出口125aを構成する開口面126aにおける吐出部分123aの軸心方向Tは水平方向Hに対して所定の角度(θ)で上方に位置する場合、当該角度θは+の値(正の値)として表すことができる。
【0043】
他方、図3の(b)に例示されるように、例えば吐出口125aを構成する開口面126aにおける吐出部分123aの軸心方向Tは水平方向Hに対して所定の角度(θ)で下方に位置する場合、当該角度θは-の値(負の値)として表すことができる。
【0044】
本発明の散液デバイスを構成する流液部材が、例えば、図3の(b)に示すような湾曲した吐出部分123aを有する場合、吐出部分123aの軸心(中心軸)が指向する方向は、当該吐出部分123aにおける任意の軸断面に対応して変動する。これに対し、本発明では「吐出口の開口面」における吐出部分の軸心方向Tが着目される。
【0045】
本発明において、吐出部分123a,123aの吐出口125a,125aの開口面126a,126aにおける当該吐出部分123a,123aの軸心方向Tと水平方向Hとの間の角度θは水平方向Hを基準にして-90°~20°、好ましくは-90°~15°、より好ましくは-85°~10°となるように設計されている。角度θがこのような範囲内を満足することにより(流液部材が、例えば、図2図3の(a)、および図3の(b)のいずれの構造を有していたとしても)、本発明の散液デバイスは、処理装置の構成部品として組み込んだ際に、後述するような「サイフォン様」の処理液の移動を引き起こすことができる。
【0046】
図4は、本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
【0047】
図4に示す散液デバイス100bは、互いに異なる形状を有する散液部材120b,120’bを備える。ここで、図4に示す散液部材120bを構成する吐出部分123と、散液部材120’bを構成する吐出部分123’とは、図1に示すものと同様である。
【0048】
一方、図4に示す散液部材120bは、他方の散液部材120’bを構成する吸液部分122’よりも短い吸液部分122bを含み、これにより鉛直方向における吸液部分122bの吸液口124bと、吸液部分122’の吸液口124’との間には長さSに相当する差を生じている。この長さSは、使用される処理液の種類や量、後述する散液装置の処理槽の大きさ等によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば10mm~2000mm、好ましくは20mm~1000mmである。鉛直方向において吸液部分122bの吸液口124bと、吸液部分122’の吸液口124’との間にこのような範囲の長さの差があることにより、吸液部分122bの吸液口124bと吸液部分122’の吸液口124’とで吸液される処理液の種類や組成を異なるものにすることができる。一方、図4に示す散液部材120b,120’bでは、吐出口125,125’は鉛直方向において互いが略同じ高さとなるように配置されている。
【0049】
例えば、処理液として油相と水相とで構成される二相系反応液が使用される場合、使用する油相の量および水相の量を調節することにより、より上方に配置される吸液部分122bの吸液口124bは、油相の成分または油相の成分をより多く含む成分で構成される処理液を優先的に吸液することができる。他方、より下方に配置される吸液部分122’bの吸液口124’は、水相の成分または水相の成分をより多く含む成分で構成される処理液を優先的に吸液することができる。このことから吸液口124bで吸液された処理液と、吸液口124’で吸液された処理液とは、互いに含まれる成分の組成を異なるようにすることが可能であり、いずれも、回転軸121の回転を通じて吐出口125,125’から排出される。ここで、上記のように吐出口125,125’は鉛直方向において互いが略同じ高さにあるため、吸液された油相の成分および水相の成分をより複雑に混合および/または撹拌することが可能となる。
【0050】
図5は、本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
【0051】
図5に示す散液デバイス100cは、1つの散液部材120cから構成されている。
【0052】
図5に示す散液部材120cは、回転軸121の軸方向に沿って一直線状に延びる吸液部分122cを含み、その上端に2本の吐出部分123c,123’cがそれぞれ傾斜して設けられている。回転軸121の軸方向に対する吐出部分123c,123’cの傾斜角は同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
吸液部分の下端には1つの吸液口124cが設けられており、吸液口124cの形状は特に限定されない。吸液口124cの形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、本発明において吸液部分122cは、下端から上端にかけて、内径が一定であってもよく、緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよく、緩やかにまたは段階的に拡径するものであってもよい。また、図5において吸液部分122cの内径は、吐出部分123c,123’cの内径よりも大きく記載されているが、特にこの大きさに限定されない。吸液部分122cの内径は、吐出部分123c,123’cの内径よりも小さくてもよく、あるいは吸液部分122c、および吐出部分123c,123’cの各内径は互いに略同一であってもよい。
【0054】
図5に示す実施形態では、回転軸121の回転により1本の吸液部分122cが回転することにより、例えば図1に示す吸液部分122,122’を回転させる場合と比較して、回転する吸液部分122cの周囲で処理液の乱流が生じることが低減され得る。その結果、処理液は比較的静かに撹拌されながら、吸液部124cを通じて吸液され、吐出部分123c,123’cの吐出口125c,125’cから吐出される。これにより、吸液された処理液を静かな状態で混合および/または撹拌することが可能となる。
【0055】
本発明の散液デバイスを構成する上記散液部材および固定具はいずれも十分な強度を有し、かつ処理液に対して適切な耐久性を有する材料から構成されている。散液部材および固定具を構成し得る材料としては、必ずしも限定されないが、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。これらは、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0056】
(散液装置)
図6は、図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置の一例を示す概略図である。図6では、散液装置200が、処理液116として油相116aおよび水相116bで構成される二相系反応液が使用される反応装置として使用される場合を用いて説明する。
【0057】
本発明の散液装置200は、処理液を有用するための処理槽110と、処理槽110内に配置された図1に示す散液デバイス100と、散液デバイス100が装着された回転軸121とを備える。
【0058】
処理槽110は、処理液116を収容して撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底、丸底、円錐底または下方に向かって傾斜する底部109を有する。
【0059】
処理槽110の大きさ(容量)は、散液装置200の用途(例えば、これを用いて行われる反応や蒸留等の操作の種類)や、処理液の処理量などによって適宜設定されるため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~1,000,000リットルである。
【0060】
1つの実施形態では、処理槽110はまた、処理液供給口112および生成物等出口114を備える。処理液供給口112は、処理槽110内に処理液116を新たに供給するための入口である。処理液供給口112は、例えば処理槽110の上方(例えば、上蓋)に設けられている。あるいは、処理液供給口112は、処理槽110の側面部に設けられていてもよい。処理槽110に設けられる処理液供給口112の数は1個に限定されない。例えば、複数個の処理液供給口が処理槽110に設けられていてもよい。
【0061】
生成物等出口114は、処理槽110内で得られた生成物や濃縮物(本明細書では、これらをまとめて「生成物等」という)を処理槽110から取り出すための出口である。生成物等出口114は、生成物等に加えて反応残渣や廃液等も排出可能であり、当該排出は、例えば生成物等出口114の下流側に設けられたバルブ115の開閉によって調節され得る。生成物等出口114はまた、例えば処理槽110内の底部109の中央に連通して設けられている。
【0062】
処理槽110の上部は、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。さらに、処理槽110の上部には、処理槽110内の圧力を調節するための圧力調節口(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、圧力調節口は例えば図示しない減圧ポンプに接続されていてもよい。
【0063】
処理槽110に収容される処理液116は、例えば、水溶液、スラリーなどの液体である。散液装置400が例えば後述するエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造に使用されるような場合、処理液116は、例えば油相116aおよび水相116bの二相系で構成されており、油相116aおよび水相116bのそれぞれには出発材料などの反応物および溶媒などの媒体が含有されている。なお、処理槽110に収容される処理液116は、当該油相116aおよび水相116bの二相系に限定されない。処理液116は1つの液相で構成されるものであってもよく、複数の液相(例えば、二相、三層)で構成されるものであってもよい。
【0064】
処理槽110は、例えば上記散液部材と同様の材料で構成されている。必要に応じて散液部材と同様の表面処理が行われていてもよい。
【0065】
回転軸121は所定の剛性を有するシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、処理槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する処理槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0066】
回転軸121の一端は、処理槽110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。例えば、回転軸121の他端は、処理槽110の底部109に接続されておらず、処理槽110の底部109から一定の間隔を開けて配置されている。これにより、回転軸121が反応液116に接触する面積を低減できる。あるいは、回転軸の他端は処理槽の底部109に設けられた所定の軸受に収容されていてもよい。
【0067】
回転軸121は、例えば上記散液部材と同様の材料で構成されている。必要に応じて散液部材と同様の表面処理が行われていてもよい。
【0068】
図6に示す実施形態では、散液デバイス100は、回転軸121の軸周りに直接固定されている。
【0069】
図6に示す散液装置200によれば、モータ140により回転軸121を回転させることにより、散液デバイス100内の流液部材120,120’が吸液口124,124’から処理液116を吸液する(すなわち、取り込まれる)。吸液された処理液は、当該回転軸121の回転に伴う遠心力により、吸液部分122,122’および吐出部分123,123’内の流路を介して吐出口125,125’まで移動し、当該吐出口125,125’から処理槽110内に、具体的には処理槽110内の処理液116の液面128よりも上方に吐出される。これにより、処理液116は、処理槽110の内壁111や液面128への衝突とともに、処理槽110の底部109から上方への移動が可能となり、処理槽110の高さ方向での処理液116の混ぜ返し(例えば、鉛直方向における撹拌または循環)や内壁111への衝突後の流下を促すことができる。その結果、例えば、処理液として所定の反応液を使用した場合には、散液装置200内で行われる反応生成物の製造をより効果的に進行させることができる。
【0070】
本発明の散液装置200では、回転軸121の回転による散液デバイス100からの処理液116の吐出を効率良く行うために、処理槽110内で処理液116が所定量にて収容されていることが好ましい。具体的には、回転軸121の回転有無のいずれの場合においても、処理液116の液面128が、散液デバイス100を構成する吸液部分122,122’と吐出部分123,123’との接合部分、より詳細には、吸液部分122の下端(吸液口124)から、吸液部分122と吐出部分123との接合部分のうち最も下方に位置する部分(すなわち、散液部材120の屈曲部P)よりも上方に位置するように、処理槽110内に処理液116が収容されていることが好ましい。散液デバイス100と処理液116の液面128とがこのような関係を満たす場合、処理液116は吸液部分122,122’とともに吐出部分123,123’の下端方向の一部まで存在することになる。こうした関係において、回転軸121を介して散液デバイス100を回転させると、処理液116は散液デバイス100の回転に伴ってボルテックス(渦流)を形成し、吐出部分123,123’の内部の傾斜した流路を当該回転に基づく遠心力によって吐出口125,125’まで上昇することができる。そして、最終的に上昇した処理液116が吐出口125,125’から散液部材120,120’の外に効果的に吐出することができる。
【0071】
なお、上記において処理液116が吐出口125,125’から散液部材120,120’の外への吐出が効果的に行われるためには、散液デバイス100の回転に伴って上記ボルテックスが形成されている際も、処理液116の液面(ボルテックス面)が散液部材120の屈曲部Pよりも上方に位置しているが好ましい。なお、この処理液116の液面(ボルテックス面)と屈曲部Pとの関係は、処理液が「サイフォン様」の移動を開始するまで保持されていればよく、一旦「サイフォン様」の処理液の移動が生じた後は、処理液116の液面(ボルテックス面)と屈曲部Pとは必ずしもこのような関係を満たしていなくてもよい。
【0072】
図1および図6において散液デバイス100は2つの散液部材120,120’が回転軸121を介して対称的に配置される例について説明したが、本発明はこのような散液部材の数および配置に特に限定されない。本発明の散液デバイスは1つの散液部材のみで構成されていてもよく、複数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ)の散液部材で構成されていてもよい。複数の散液部材を用いる場合は、回転軸が円滑に回転できるようにするために、回転軸121を中心とする各散液部材の間の間隔(例えば円周方向の角度)は略一定に保持されていることが好ましい。
【0073】
図6に示す実施形態では、油相116aよりも水相116bが下方に配置されている場合について説明しているが、本発明の散液装置は、このような油相116aおよび水相116bの配置にのみ限定されない。例えば、水相にメタノールが添加されたような系では、油相と水相との配置が逆転し、水相よりも油相が下方に配置されることがある。本発明の散液装置は、このように配置された油相および水槽を含む二相系反応液についても使用できる。
【0074】
上述したように、散液デバイス100は、回転軸121の回転とそれに伴う流液部材120,120’にかかる遠心力により、例えば、図6に示すような処理槽110に収容された処理液116を、流液部材120,120’の吸液部124,124’から汲み取り、吸液部分122,122’および吐出部分123,123’を通じて処理槽110の下方から上方に向かって流動させることができる。その後、汲み取られた反応液は、吐出部分123,123’の吐出部125,125’から、液面128よりも上方に吐出される。
【0075】
ここで、一般にサイフォンの原理によれば、管内が液体で満たされた状態において、低位置に設けられた出口(本発明における吐出部に相当)から液体が排出されると、高位置に設けられた入口(本発明における吸液部に相当)から新たな液体が吸液され、入口に存在する液体がすべて移動してなくなるか、管内に気泡が配置キャビテーションを起こし始めるまで当該入口から出口への液体の移動は連続的に起こる。
【0076】
これに対し、本発明では、処理液が流液部材120,120’における吸液部124,124’から吸液部分122,122’および吐出部分123,123’を通じて吐出部125,125’に移動するにあたり、一旦吸液部分122,122’および吐出部分123,123’が反応液で満たされると、当該散液部材120,120’は、回転軸121が回転を継続する間、まるでサイフォンの原理で使用される管のように、吸液部124,124’での処理液の吸液から吸液部分122,122’および吐出部分123,123’を通り、吐出部125,125’での当該処理液の吐出までの処理液の移動を連続的に行うことができる。このような処理液の連続的な移動を本明細書では「サイフォン様」の処理液の移動という。
【0077】
本発明においては、一旦このサイフォン様の処理液の移動を生じると、その単位時間あたりに移動する処理液の液量(例えばmL/秒)は、回転軸121の回転が同じ場合におけるその連続的な移動を生じる前の液量(例えばmL/秒)よりも増加し、これにより、多量の処理液を効率良く混ぜ返すことができる。その結果、処理槽110内で処理液116の循環を小さい動力で連続的に行うことが可能となる。なお、処理液の移動が一旦サイフォン様になると、その後回転軸121の回転をサイフォン様が開始した際の回転数よりも低下させてもヒステリシスにより処理液の移動を継続させることができる。ただし、その際はサイフォン様の処理液の移動が開始される前より処理液が多量に出るため、回転軸121に要する動力は当然大きくなる。
【0078】
本発明の散液デバイス100では、流液部材120,120’を構成する吸液部124,124’、吸液部分122,122’および吐出部分123,123’、ならび吐出部125,125’の間で上記サイフォン様の処理液の移動を創出することが可能である。これにより、一旦サイフォン様の処理液の移動が開始されると、吸液部124,124’からの処理液の吸液と、吐出部125,125’からの処理液の吐出を実質的に連続して行うことができる。
【0079】
図7は、図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置の他の例を示す概略図である。
【0080】
本発明の散液装置300では、処理槽110の内壁111に、複数の邪魔板310が設けられている。邪魔板310は、例えば静置された処理液116の液面128の近傍に位置するように(すなわち、邪魔板310の上端が散液部材120の屈曲部Pと略同じ高さであるか、またはそれよりも僅かに下方に位置するように)設けられている。
【0081】
邪魔板310は、回転軸121を介して流液部材120,120’が回転し、それにより処理槽110内の処理液116が追随して一緒に回転運動することを防止する役割を果たす。言い換えれば、邪魔板310は、処理槽110内で処理液116が水平方向に回転する際の障壁となり、ボルテックスの形成を防止または低減できる。その結果、散液部材120,120’が回転する際であっても、処理液116の液面(ボルテックス面)は散液部材の屈曲部Pよりも上方に位置し、結果として散液部材120,120’の吐出部分123,123’に処理液116が充満され易くなり、吐出口125,125’からの処理液116の吐出が一層効果的になる。最終的に、吐出口125,125’から多くの処理液116を吐出することができ、かつ処理槽110内の処理液116を混合かつ撹拌する効率を高めることができる。
【0082】
処理槽110に設けられる邪魔板310の数は必ずしも限定されないが、例えば、処理槽110の内壁111に略等間隔で1つ~8つが設けられている。
【0083】
図8は、図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置の別の例を示す概略図である。
【0084】
図8に示す散液装置400では、処理槽110の外周に温度調整用のジャケット610が設けられている。図8において、ジャケット610は、例えば中空の材料で構成されており、図示しない管を通じて、ジャケット入口612から例えば水蒸気や水や熱媒油などの熱媒体を導入し、ジャケット出口614から排出することができる。ジャケット610内に導入された熱媒体は、処理槽110の外側から処理液116の加熱を行うことにより、処理槽110内の処理液116に対する温度制御を可能にする。
【0085】
なお、図8に示す実施形態では、熱媒体として処理槽110内を加熱するための加熱用熱媒体を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。当該加熱用熱媒体に代えて、例えば、液化窒素、水、ブライン、ガス冷媒(例えば、二酸化炭素、フロン)のような冷却用熱媒体がジャケット610に導入されてもよい。
【0086】
図9は、図4に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置の一例を示す概略図である。
【0087】
図9に示す散液装置500では、散液デバイス100bを構成する散液部材120b,120’bの吸液口124b,124’bが鉛直方向において異なる高さに位置している。
【0088】
このような構成において、処理液116を構成する油相116aおよび水相116bをそれぞれ図9に示すような位置(すなわち、例えば静置状態において、散液部材120bの吸液口124bが油相116a内に配置され、かつ散液部材120’bの吸液口124’bが水相116b内に配置されている位置)まで収容し、モータ140を通じて回転軸121を回転させると、(散液デバイス100bの回転により油相116aおよび水相116bの互いの一部が混合することがあるが)散液部材120bの吸液口124bは、油相116a中の成分をほとんどまたはそれを多く含む処理液116を吸液し、散液部材120’bの吸液口124’bは、水相116b中の成分をほとんどまたはそれを多く含む処理液116を吸液することができる。そして、吸液口124b,124’bからそれぞれ吸液された処理液116は、散液部材120b,120’bの吐出口125,125’から、例えば、それぞれ液面128上や処理槽110の内壁111に向けて吐出される。
【0089】
ここで、散液部材120b,120’bのある回転により吐出された処理液116は内壁111に当たると、薄膜状になって内壁111を流下する。その後、当該散液部材120b,120’bのさらなる回転により新たに吐出された処理液116もまた内壁111に当たると、薄膜状になって内壁111上を流下する。このように散液部材120b,120’bの回転を続けると、内壁111上には吸液口124b,124’bからそれぞれ吸液された互いに成分の組成の異なる処理液116が何重にも重なった薄膜状となって流下する。
【0090】
その結果、処理槽110内で処理液116を構成する油相116aおよび水相116bを構成する成分を効果的に混合または撹拌することができる。
【0091】
特に、回転軸121の回転を通じて、散液部材120b,120’bの内部(すなわち、吸液部分122b,122’および吐出部分123,123’の内部)のすべてが処理液116で満たされると、その後、上記「サイフォン様」の処理液の移動が起こり、処理槽110内で処理液116の循環を小さい動力で連続的に行うことが可能となる。
【0092】
図10は、図5に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
【0093】
図10に示す散液装置600では、散液デバイス100cを構成する散液部材120cの吸液口124cが撹拌槽110の底部109側に指向している。
【0094】
このような構成において、モータ140を通じて回転軸121を回転させると、散液デバイス100cの回転により油相116aおよび水相116bが混合した状態で散液部材120cの吸液口124cから吸液される。吸液口124cから吸液された処理液116は、吸液部分122c通りかつ当該吸液部分122cの上方で一方の吐出部分123cと他方の吐出部分123’cに分かれ、最終的に散液部材120cの吐出口125c,125’cから、例えば、それぞれ液面128上や処理槽110の内壁111に向けて吐出される。
【0095】
その結果、処理槽110内で処理液116を構成する油相116aおよび水相116bを構成する成分を効果的に混合または撹拌することができる。
【0096】
特に、回転軸121の回転を通じて、散液部材120cの内部(すなわち、吸液部分122cおよび吐出部分123c,123’cの内部)のすべてが処理液116で満たされると、その後、上記「サイフォン様」の処理液の移動が起こり、処理槽110内で処理液116の循環を小さい動力で連続的に行うことが可能となる。
【0097】
例えば本発明の散液装置が反応装置として使用される場合、当該装置は反応液(反応物)の撹拌が所望される種々の反応生成物の製造において有用である。特に、油相と水相とで構成されるような二相系(不均一反応系)や、多相(例えば2相)の化学物質から構成される反応系において、従来の撹拌機を用いる場合よりも効果的に反応生成物を得ることができる。例えば二相系の例としては、脂肪酸エステルを製造するためのエステル交換反応が挙げられる。
【0098】
本発明において、散液デバイスを構成する散液部材の吸液部分が鉛直方向に延びており、装着された回転軸よって吸液部分は比較的小さい回転半径で回転することができる。一方、吐出部分は所定の角度で傾斜しているため、内部の流路を通過して処理液は回転に伴う遠心力を利用して容易に外部に排出できる。その結果、本発明の散液デバイスは処理液内でより少ないエネルギーで回転できるとともに、効率良く処理液の排出、すなわち処理液の混合や撹拌、反応、抽出、蒸発などの各種操作を行うことができる。
【0099】
さらに本発明では、散液デバイスが上記「サイフォン様」の処理液の移動を誘発するに適した構造のため、これを用いた散液装置において、一旦サイフォン様の処理液の移動が開始されると回転軸121の回転を比較的抑えても(すなわち、回転に要する動力を小さくしても)、当該散液デバイスにより処理液の吸液と、吐出部からの処理液の吐出を実質的に連続して行うことができる。
【0100】
(反応生成物の製造方法)
次に、本発明の散液デバイスが組み込まれた散液装置を用いて所定の反応生成物を製造する方法について説明する。
【0101】
本発明の製造方法では、上記散液デバイスが組み込まれた散液装置内で処理液を循環させることにより撹拌が行われる。ここで、本明細書において、用語「循環による撹拌」とは、対象となる液体(例えば反応液)に対して、水平方向の回転を加えることによる撹拌と、上記散液装置を用いる場合のように、鉛直方向の当該液体の移動かつ循環を通じて当該液体全体の混ぜ返し(またはミキシング)との両方を包含していう。
【0102】
本発明に用いられる処理液は、無機または有機系の液体媒体を含有し、一般に撹拌機等による撹拌を通じて化学反応を進行させかつ制御され得るものである。例えば処理液は不均一系の反応液である。例えば、油相および水相から構成されている反応液は、上記循環による撹拌を通じて、反応液の乳化を向上かつ促進することができる点で有用である。
【0103】
処理液が不均一系の反応液である場合、当該処理液には、例えば原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコール、および水が含有されている。
【0104】
原料油脂は、例えばバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0105】
原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0106】
廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0107】
原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0108】
液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0109】
リパーゼは1,3-特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。リパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。
【0110】
上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは0.2質量部~30質量部である。液体酵素の使用量が0.1質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0111】
アルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1~8のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびn-ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0112】
上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは5質量部~100質量部、好ましくは10質量部~30質量部である。アルコールの使用量が5質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0113】
本発明に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。当該水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは2質量部~30質量部である。水の使用量が0.1質量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0114】
本発明の方法では、上記処理液に対して所定の電解質が添加されていてもよい。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0115】
上記原料油脂、触媒、およびアルコール、および水は、例えば図6に示す散液装置200の処理槽110に処理液供給口112を通じて同時または任意の順序で添加され、油相116aおよび水相116bで構成される処理液116が構成される。その後、回転軸121の回転を通じて散液デバイス100の流液部材120,120’を処理槽110内で回転させることにより、上述の通り、流液部材120,120’から処理液116が吸液され、吸液された処理液は吸液部分122,122’および吐出部分123,123’内の各流路を通じて上方に移動し、流液部材120,120’の吐出口125,125’から吐出される。このような処理液116の移動によって処理液116の撹拌が促され、反応生成物である脂肪酸エステルの生成が行われる。処理槽110内に付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃~80℃、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは25℃~50℃である。
【0116】
なお、散液装置200内の回転軸の回転は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)に設定されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、アルコール、および水の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。特に、上記の通り、散液装置200内の散液デバイス120,120’で一旦「サイフォン様」の処理液の移動が発生すると、回転軸の回転を低下されたとしてもヒステリシスにより当該「サイフォン様」の処理液の移動が保持される。その結果、回転軸の回転に要する動力を抑えることができる。しかし、サイフォン様の処理液の移動が開始した回転数より下げた場合は、サイフォン様の処理液の移動が無い状態よりも動力を抑えることができない。動力もヒステリシスになるためである。
【0117】
その他の特徴として、一旦、サイフォン様の処理液の移動が開示されると、液面の減少がある場合でも処理液の噴出が続き、反応を継続できる。これは、反応を継続しながら、処理槽110の底部に溜まった液を抜く場合(例えば反応生成物でありかつ反応阻害物質であるグリセリン水を、反応自体を継続しながら処理槽110から抜き出したい場合)などで効果を発揮し得る。
【0118】
さらに、散液装置200内に複数の散液デバイス(例えば120,120’)が配置されていることにより、それぞれの散液デバイスについて、上記サイフォン様の処理液の移動が開始すると、回転軸121の回転数を上げることにより処理液の循環量をさらに大きくすることができる。その結果、例えば散液装置200中の反応を促進できる。一方、こうした複数の散液デバイスを備える散液装置200では、上記サイフォン様の処理液の移動が開始した後に回転軸121の回転数を下げると、処理槽110内の処理液を一層緩やかに循環させることができる。これは、例えば処理槽110内で、壊れやすい固体や菌体を循環させる場合に有用である。
【0119】
反応の終了後、生成物および反応残渣は散液装置200の処理槽110から取り出され、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0120】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【符号の説明】
【0121】
100,100a,100b,100c 散液デバイス
109 底部
110 処理槽
111 内壁
112 処理液供給口
114 生成物等出口
115 バルブ
116 処理液
116a 油相
116b 水相
120,120’,120a,120a,120b,120’b,120c 流液部材
121 回転軸
122,122a,122a,122’,122b,122c 吸液部分
123,123’,123a,123a,123b,123c,123’c 吐出部分
124,124a,124a,124’,124b,124c 吸液口
125,125’,125a,125a,125b,125c,125’c 吐出口
126,126a,126a 開口面
128 液面
140 モータ
200,300,400,500,600 散液装置
310 邪魔板
610 ジャケット
612 ジャケット入口
614 ジャケット出口
軸心
軸心方向
H 水平方向
【要約】
【課題】 処理液の蒸留や混合、撹拌のような各種操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の散液デバイスは、回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える。流液部材は、回転軸に沿って延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、一端が吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの筒状の吐出部分とを備え、吐出口の開口面における吐出部分の軸心方向と水平方向との間の角度θは水平方向を基準にして-90°≦θ≦20°である。
【選択図】 図1
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図2
図3
図4
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図10