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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】無鉛快削りん青銅棒線材
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20220819BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20220819BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220819BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20220819BHJP
【FI】
C22C9/02
C22C9/04
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630J
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/08 J
C22F1/08 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018181788
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050913
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】591196773
【氏名又は名称】株式会社藤井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 良政
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 了
(72)【発明者】
【氏名】大塚 達哉
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭央
(72)【発明者】
【氏名】松木 祥人
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199699(JP,A)
【文献】特開2001-226725(JP,A)
【文献】特開2017-150044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
C22F 1/00
C22F 1/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズを3.50~5.80質量%、亜鉛を2.35~5.50質量%、硫黄を0.05~0.70質量%、及びリンを0.06~0.50質量%含有し、残分が銅と不可避的不純物であることを特徴とする無鉛快削りん青銅棒線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い強度を有するとともに、切削性に優れる無鉛快削りん青銅棒線材に関する。
【背景技術】
【0002】
りん青銅は、銅(Cu)-スズ(Sn)-リン(P)系の合金で、Snの含有量により、種々の特性が生まれる。りん青銅は、強靱であり、耐食性、耐摩耗性、及び半田付け性に優れ、広範囲の用途に適している。
【0003】
また、この快削りん青銅は、りん青銅に鉛(Pb)を添加することにより、りん青銅の切削性を改善した合金であり、小ねじ、軸受、ブッシュ、ボルト、ナット、及びボールペン部品等などに用いられる。
【0004】
ここで、日本工業規格のJIS H 3270には、鉛を添加して切削性を向上させた快削りん青銅として、C5341が挙げられている。このC5341の化学成分は、Pb:0.80質量%~1.50質量%、Sn:3.50質量%~5.80質量%、P:0.03~0.35質量%、Cu+Sn+Pb+P:99.50質量%以上となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本工業規格,JIS H 3270,快削りん青銅,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、鉛は人体や環境に影響を及ぼすとされていることから、使用が制限されつつあり、鉛を含有せずに切削性を向上させた材料の要求が高まっている。
【0007】
また、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州連合による指令(RoHS指令)においては、Pbが1000質量ppmを超えて含まれた電子・電気機器は、欧州連合で上市することができないとされているが、現状、銅合金は、適切な代替手段がないため、4質量%まで適用が免除されている。
【0008】
しかし、近い将来、上述の適用免除が撤廃される可能性もあるため、Pbの含有量が1000質量ppm(0.1質量%)を超えない代替材であって、切削性に優れた線材の開発が切望されている。
【0009】
また、冷間加工の仕上げをした製品は、加工硬化で強度を調整することが可能であるが、C5341は、鉛を起因とする割れが発生することがあり、加工限界が早いため、りん青銅よりも強度が劣るという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、高い強度を有するとともに、切削性に優れた無鉛快削りん青銅棒線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る無鉛快削りん青銅棒線材は、スズを3.50~5.80質量%、亜鉛(Zn)を2.35~5.50質量%、硫黄(S)を0.05~0.70質量%、及びリンを0.06~0.50質量%含有し、残分が銅と不可避的不純物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い強度を有するとともに、切削性に優れた無鉛快削りん青銅棒線材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態における無鉛快削りん青銅棒線材について説明する。
【0014】
本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材は、亜鉛とスズと硫黄とリンとを所定量含有し、残分が銅と不可避的不純物である線材である。
【0015】
本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、切削性の低下を防止しつつ、強度を確保するとの観点から、亜鉛を2.35~5.50質量%含むことが必要である。2.35質量%未満であると材料強度が低下し、5.50質量%よりも多い場合は、切削性が低下する場合がある。なお、亜鉛の含有量は2.40~5.00質量%が好ましく、2.45~4.50質量%が特に好ましい。
【0016】
このように、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、上述のC5341に、所定量の亜鉛を含有させることにより、高い強度を実現することができるとともに、切削性の向上を図ることができる。
【0017】
また、上述のC5341における鉛の代わりに、所定量の硫黄を含有させることにより、切削性の向上を図ることができる。硫黄は、銅、鉄(Fe)等と反応して硫化物を形成する。そして、この硫化物により、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材は、切削の際に切り屑が寸断された短い切粉となるため、切削に用いる刃物に巻き付いたりするといったことが起こりにくくなり、結果として、切削性を向上させることができる。
【0018】
本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、硫黄を0.05~0.70質量%含むことが必要である。硫黄が0.05質量%未満であると、上述の切削性の効果が十分に得られない場合がある。一方で、0.70質量%を超えると、割れが生じて、冷間加工が困難になる場合がある。
【0019】
即ち、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、硫黄を0.05~0.70質量%含有しているため、分散した硫化物が、切削加工時においてチップブレーカとして作用し、結果として、冷間加工性を低下させることなく、切削性を改善することができる。
【0020】
また、上述のC5341と同等以上の強度を確保するとの観点から、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、スズをC5341と同じ量(即ち、3.50~5.80質量%)含む構成としている。
【0021】
そして、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、所定量のスズを含有させることにより、スズと亜鉛との相乗効果により、無鉛快削りん青銅棒線材の強度を向上させることができる。
【0022】
また、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材においては、リンを0.06~0.50質量%含むことが必要である。これは、リンの含有量が0.06質量%未満であると、溶解時の脱酸効果が不十分になる場合があり、リンの含有量が0.50質量%を超えると、冷間加工性が低下するためである。なお、リンの含有量は、0.35質量%以下であると、より安定した冷間加工性が得られるため、好ましい。
【0023】
本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材における不純物として含まれる元素としては、鉄、銀、炭素、ジルコニウム、マンガン、ビスマス、インジウム、セレン、アルミニウム、酸素、ホウ素、タングステン、アンチモン、シリコン、及び鉛などが挙げられる。なお、これらの含有量は、いずれも、0.05質量%未満であることが好ましく、検出限界未満であることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態の無鉛快削りん青銅棒線材の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、冷間加工を行うことが好ましい。
【0025】
この冷間加工としては、例えば、冷間圧延加工、冷間鍛造加工、冷間伸線加工などが挙げられる。また、冷間加工の回数は、特に制限されないが、無鉛快削りん青銅棒線材において均一な組成を得るとの観点から、4回以上が好ましい。なお、冷間加工の後には、焼き鈍しを行うことが好ましい。
【実施例
【0026】
以下、本発明の無鉛快削りん青銅棒線材について、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0027】
(試験片の作製)
まず、スズの配合量、亜鉛の配合量、硫黄の配合量、リンの配合量を適宜変化させ、残りを銅及び不可避的不純物として配合し、溶解温度を1200℃として、金型鋳造方法によりインゴットを作製した後、実施例1~2、及び比較例1の試料を作製し、成分を分析した。また、実施例1~2、及び比較例1と同様にして、比較例2(C5341)の試料を作製した。以上の結果を表1に示す。
【0028】
次に、上記各インゴットについて、加工率20~30%程度の冷間圧延加工と650℃前後の焼き鈍しを繰り返し、4回目の冷間圧延加工を行った後、実施例1~2および比較例1となる試験片を得た。
【0029】
<切削性試験>
実施例1~2および比較例1~2の各試験片において、ワシノ機械株式会社製の汎用旋盤LPT-35Cを用い、回転数450rpm、送りピッチ0.75mm、切り込み深さ0.5mmで面削した。
【0030】
そして、面削の際に発生した切削屑10個の質量を株式会社島津製作所製の電子天秤AUX120で計測した。以上の結果を表1に示す。
【0031】
<硬度試験>
実施例1~2および比較例1~2の各試験片において、株式会社アカシ(現株式会社ミツトヨ)製 ARK24129を用いて、直径1/16in(1.588mm)の鋼球を用い、まず予備荷重10kgfをかけ、次いで90kgfを追加し、合計100kgfの試験荷重がかかるようにした。そして、約30秒後、予備荷重(10kgf)の状態に戻した。このようにして前後2回の予備荷重の状態におけるくぼみの深さの差(ダイヤルゲージのh目盛、但し、1目盛は0.002mm)から130-500hによってロックウェル硬さ(HRB)を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0032】
<冷間加工性評価>
上述の切削性試験において使用した各試験片において、冷間圧延加工時の割れの発生を、下記評価基準に従って、目視にて評価した。以上の結果を表1に示す。
【0033】
割れが発生しなかった:○
割れが発生した:×
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、実施例1~2、及び比較例1においては、亜鉛を2.35質量%以上含有するため、比較例2に比し、いずれも高い強度を有するが、亜鉛の含有量が5.50質量%以下である実施例1~2は、亜鉛の含有量が5.50質量%よりも多い比較例1に比し、切削屑10個の質量が小さいため、実施例1~2の無鉛快削りん青銅棒線材の切削屑は細かく分断されており、優れた切削性を有することが分かる。
【0036】
また、同様に、実施例1~2は、比較例2(C5341)に比し、切削屑10個の質量が小さいため、優れた切削性を有することが分かる。
【0037】
即ち、実施例1~2の無鉛快削りん青銅棒線材は、高い強度を有するとともに、切削性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上に説明したように、本発明は、高い強度と優れた切削性が要求される無鉛快削りん青銅棒線材について、特に有用である。