(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】超伝導線材接合構造及びこれを用いた装置
(51)【国際特許分類】
H01B 12/02 20060101AFI20220819BHJP
C22C 11/00 20060101ALI20220819BHJP
C22C 11/06 20060101ALI20220819BHJP
C22C 11/08 20060101ALI20220819BHJP
C22C 12/00 20060101ALI20220819BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20220819BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20220819BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20220819BHJP
H01L 39/12 20060101ALI20220819BHJP
H01R 4/68 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
H01B12/02 ZAA
C22C11/00
C22C11/06
C22C11/08
C22C12/00
C22C13/00
C22C13/02
C22C28/00 B
H01L39/12 A
H01R4/68
(21)【出願番号】P 2018006887
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2017023659
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 凌
(72)【発明者】
【氏名】岩田 啓嗣
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-283660(JP,A)
【文献】特公昭62-060836(JP,B2)
【文献】特開平04-272670(JP,A)
【文献】米国特許第03449818(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/02
C22C 11/00
C22C 11/06
C22C 11/08
C22C 12/00
C22C 13/00
C22C 13/02
C22C 28/00
H01L 39/12
H01R 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超伝導材料よりなる超伝導線材の端部と、第2の超伝導材料よりなる超伝導線材 の端部とを接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造 であって、
前記第3の超伝導材料は、
Pb
42
Sn
18
Bi
40
(単位はモル%)であることを特徴とする超伝導線材接合構造。
【請求項2】
前記第1の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であり、
前記第2の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導線材接合構造。
【請求項3】
前記合金系材料は、NbTi、Nb
3Sn、MgB
2からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする請求項2に記載の超伝導線材接合構造。
【請求項4】
前記銅酸化物高温超伝導体材料は、Bi
2Sr
2CaCu
2O
8、Bi
2Sr
2Ca
2 Cu
3O
10、YBa
2Cu
3O
7、REBa
2Cu
3O
7(REは希土類元素を表し、 La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウ ム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチ ウム)からなる群から選ばれる)からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする請求項2に記載の超伝導線材接合構造。
【請求項5】
前記超伝導線材接合構造は、3本以上の超伝導線材の端部を接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造であって、前記超伝導接合部が前記3本以上の超伝導線材における分岐構造をなすことを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の超伝導線材接合構造。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の超伝導線材接合構造を用いた装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上記課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
[1]第1の超伝導材料よりなる超伝導線材の端部と、第2の超伝導材料よりなる超伝導線材の端部とを接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造であって、前記第3の超伝導材料は、Pb
42
Sn
18
Bi
40
(単位はモル%)であることを特徴とする超伝導線材接合構造。
[2]前記第1の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であり、前記第2の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[1]に記載の超伝導線材接合構造。
[3]前記合金系材料は、NbTi、Nb3Sn、MgB2からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[2]に記載の超伝導線材接合構造。
[4]前記銅酸化物高温超伝導体材料は、Bi2Sr2CaCu2O8、Bi2Sr2Ca2 Cu3O10、YBa2Cu3O7、REBa2Cu3O7(REは希土類元素を表し、La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)からなる群から選ばれる)からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[2]に記載の超伝導線材接合構造。
[5]前記超伝導線材接合構造は、3本以上の超伝導線材の端部を接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造であって、前記超伝導接合部が前記3本以上の超伝導線材における分岐構造をなすことを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造を用いた装置。
【背景技術】
【0002】
医療用のMRI(核磁気共鳴画像法)では、超伝導線材材料としてNbTi(ニオブチタン)が使用されており、生成磁場が0.5テスラから3.0テスラ程度である。NbTiの転移温度は約10Kであり、液体ヘリウムの沸点温度である4.2Kの状態で約12T(テスラ)の臨界磁場をもつ。
【0003】
しかし、核磁気共鳴装置において、例えば20テスラ程度の高磁場を生成する場合は、超伝導線材材料としてNbTiとNb3Sn、銅酸化物高温超伝導体(イットリウム系超伝導体、ビスマス系超伝導体)、二ホウ化マグネシウムなどの高い臨界磁場をもつ超伝導体材料を組み合わせて使用されている。この場合、超伝導線材接合構造においては、複数の超伝導材料よりなる超伝導線材同士を接合させる場合に、低融点の超伝導材料を介在させるのが一般的である(特許文献1参照)。この接合構造用の超伝導材料には、例えば鉛-スズ合金が使用されている。
【0004】
しかしながら、上記構成の従来の超伝導線材接合構造においては、従来用いられてきた鉛-スズ合金では、接合部分に生じる合金の組成ムラが原因で発熱が生じ、超伝導線材にゼロ抵抗で流せる電流の最大値(臨界電流密度)が低下してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-173718号公報(特許第4171253号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決したもので、常伝導材料を介在させることなく、複数の超伝導材料よりなる超伝導線材同士を接合させる超伝導線材接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
[1]第1の超伝導材料よりなる超伝導線材の端部と、第2の超伝導材料よりなる超伝導線材の端部とを接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造であって、前記第3の超伝導材料は、鉛-スズ合金に低融点金属を添加してなることを特徴とする超伝導線材接合構造。
[2]前記第1の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であり、前記第2の超伝導材料は、合金系材料、銅酸化物高温超伝導体材料、及び鉄系超伝導物質からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[1]に記載の超伝導線材接合構造。
[3]前記合金系材料は、NbTi、Nb3Sn、MgB2からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[2]に記載の超伝導線材接合構造。
[4]前記銅酸化物高温超伝導体材料は、Bi2Sr2CaCu2O8、Bi2Sr2Ca2Cu3O10、YBa2Cu3O7、REBa2Cu3O7(REは希土類元素を表し、La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)からなる群から選ばれる)からなる群から選ばれる超伝導材料であることを特徴とする[2]に記載の超伝導線材接合構造。
[5]前記第3の超伝導材料において、鉛とスズの組成割合は、モル比で、鉛1%から99%:スズ99%から1%の割合であり、前記低融点金属の添加量は鉛スズ合金に対してモル比で1%以上99%以下の割合で添加されたことを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造。
鉛とスズの組成割合は、モル比で、好ましくは鉛10%から90%:スズ90%から10%の割合、更に好ましくは鉛60%から80%:スズ40%から20%の割合であるとよい。
前記低融点金属の添加量は、鉛スズ合金に対して、モル比で、好ましくは10%以上90%以下の割合、更に好ましくは20%以上70%以下の割合であるとよい。
[6]前記低融点金属は、ビスマス、アンチモン、ガリウム、インジウム、もしくはこれらの元素の二種以上を組み合わせた合金から選ばれる低融点金属であることを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造。
[7][1]に記載の超伝導線材接合構造は、3本以上の超伝導線材の端部を接合する第3の超伝導材料よりなる超伝導接合部を備える超伝導線材接合構造であって、前記超伝導接合部が前記3本以上の超伝導線材における分岐構造をなすことを特徴とする[1]から[6]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造。
[8][1]から[7]のいずれかに記載の超伝導線材接合構造を用いた装置。
【0008】
鉛とスズの組成割合は、低融点金属を含まない場合は、Pb70Sn30の領域とSn100領域に分かれる。Pb70Sn30の領域は、液体ヘリウム温度において超伝導領域となる。Sn100領域は、液体ヘリウム温度において非超伝導領域となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の超伝導線材接合構造によれば、鉛-スズ合金に少量のビスマスを添加することで接合部の組成ムラを大幅に抑制した。また、添加したビスマスは磁束のピン留め中心として働き、合金の上部臨界磁場・不可逆磁場ともに大きく向上した。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例を示す超伝導線材接合構造の構成図で、要部構成図を示している。
【
図2】本発明の一実施例を示す超伝導線材接合構造のミクロ組織を説明する図で、液体ヘリウム温度における超伝導領域(白い部分)と非超伝導状態(黒い部分)の分布状態を説明している図である。
【
図3】鉛-スズ合金へのビスマス添加量を様々に変えた場合の臨界電流値を見積もるための電流-電圧特性を示している。
【
図4】鉛-スズ合金へのビスマス添加量を40モル%とした場合の、様々な印加磁場における臨界電流値を見積もるための電流-電圧特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す超伝導線材接合構造の構成図である。
図1に示す実施例では、第1の超伝導材料よりなる超伝導線材としてNbTi線材、第2の超伝導材料よりなる超伝導線材としてBi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10(以下、Bi2223と表記する)線材を接合した。第3の超伝導材料は、鉛-スズ合金にビスマスを添加してなる鉛-スズ-ビスマス合金を用いた。
【0012】
このように構成された超伝導線材接合構造の製造工程は以下の如くである。即ち、溶融させた鉛-スズ-ビスマス合金に、銀や銅を安定化剤とした複数の超伝導線材を挿入して、溶融状態の温度で所定時間保持したのち冷却することで超伝導接合を作製する。線材を溶融した合金に浸漬させる際、安定化剤である銀や銅は自然と溶け出し、超伝導線材と合金が強固に接合する。
ここで、溶融状態の温度は180℃以上1000℃以下がよく、好ましくは230℃以上800℃以下がよく、更に好ましくは320℃以上500℃以下がよい。また、溶融状態を保持する時間は、1分以上100時間がよく、好ましくは5分以上10時間がよく、更に好ましくは10分以上1時間がよい。
【0013】
図2は、本発明の一実施例を示す超伝導線材接合構造のミクロ組織を説明する図で、液体ヘリウム温度における超伝導領域(白い部分)と非超伝導状態(黒い部分)の分布状態を説明している図である。
図2(A)はPb
42Sn
18Bi
40、
図2(B)はPb
36Sn
64を示している。
図2(B)に示すように、鉛-スズ合金は、ミクロ組織がPb
70Sn
30の領域とSn
100の領域に分かれている。
液体ヘリウム温度において、Pb
70Sn
30の領域が超伝導領域(白い部分)、Sn
100の領域が非超伝導状態(黒い部分)である。電流がこの黒い領域を通る際に熱が発生し、白い領域の臨界電流密度が小さくなる。
【0014】
鉛-スズ-ビスマス合金では、添加したビスマスの作用によって、Pb70Sn30の領域とSn100の領域に分かれることなく、合金のミクロ組織にムラが少なくなっている。そこで、超伝導相のみの電流経路が得られる鉛-スズ-ビスマス合金での接合が臨界電流密度に関して優位である。
【0015】
図3は、鉛-スズ合金へのビスマス添加量を様々に変えた場合の臨界電流値を見積もるための電流-電圧特性を示している。鉛-スズ合金へのビスマス添加量を様々に変えた場合、全ての添加量で鉛-スズ合金の臨界電流値を上回った。
【0016】
図4は、鉛-スズ合金へのビスマス添加量を40モル%とした場合の、様々な印加磁場における臨界電流値を見積もるための電流-電圧特性を示している。
図3の測定値で、最も臨界電流値が大きかったビスマス添加40%合金では、ゼロ磁場下もしくは1000Oe磁場下で200A以上(測定限界)、2000Oe磁場下でも125A以上、5000Oe磁場下でも50A程度と非常に大きな電流をゼロ抵抗で流すことができた。
【0017】
本発明のビスマス添加鉛-スズ合金において、添加物はビスマスに限定されない。例えば、鉛やスズと同様に低融点金属であるアンチモンやガリウム、インジウム、もしくはこのいずれかの組み合わせからなる合金などでも代替可能である。
【0018】
なお、実施例では低温超伝導体であるNbTi線材と、高温超伝導体であるBi2223線材の接合を示したが、超伝導線材の種類はこれに限らない。例えば、金属系超伝導線材(NbTi線材の他、Nb3SnやMgB2線材など)同士の接合、第一世代および第二世代高温超伝導線材(Bi2223線材の他、Bi2Sr2CaCu2O8(Bi2212)線材やYBa2Cu3O7(Y123)線材、鉄系超伝導線材など)同士の接合など、同種・異種の任意の組み合わせおよび3本または4本、もしくはそれ以上の組み合わせの接合も同様の方法で実施可能である。3本以上の超伝導線材を接合する場合には、超伝導線材の分岐構造を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の超伝導線材接合構造を用いることで、高温超伝導マグネットを永久電流モードで使用することが可能になるなどの様々な応用が見込まれる。