(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】フェライト粉末、樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20220819BHJP
H01F 1/113 20060101ALI20220819BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C01G49/00 C
H01F1/113
G11B5/706
(21)【出願番号】P 2019509434
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013991
(87)【国際公開番号】W WO2018182021
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2017073209
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 一隆
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆男
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-048618(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136701(WO,A1)
【文献】米国特許第04765920(US,A)
【文献】特開昭55-074107(JP,A)
【文献】特開2002-025816(JP,A)
【文献】特開2003-104790(JP,A)
【文献】特開平05-258932(JP,A)
【文献】特開昭62-001149(JP,A)
【文献】特開昭50-121200(JP,A)
【文献】特開昭56-006411(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
H01F 1/113
G11B 5/706
G11B 5/714
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のフェライト粒子を含むフェライト粉末であって、
前記フェライト粒子は、平均粒径が1nm以上2000nm以下の単結晶体で、かつ、多面体状の形状を備え、
前記フェライト粒子の平均球状率は、1.02以上1.43以下であり、
前記フェライト粒子は、Srを2.0質量%以上10.0質量%以下含有し、Feを55.0質量%以上70.0質量%以下含有するフェライト粉末。
平均球状率は、次のようにして求める。
走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、倍率20万倍でフェライト粒子を撮影する。そして、撮影したSEM画像から、フェライト粒子について、外接円直径、内接円直径を求め、その比(外接円直径/内接円直径)を球状率として求める。平均球状率は、フェライト粉末から無作為に抽出した100個のフェライト粒子について求めた球状率の平均値である。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト粉末を含有する樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂組成物で構成された部位を有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粉末、樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の製造には、一般に、磁性粉末を分散させた分散液が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、従来においては、分散液中における磁性粉末の分散性を優れたものとすることが困難であった。また、分散液中における磁性粉末の分散性を向上させようとすると、磁性粉末の磁気特性の低下(特に、保磁力の低下)の問題を生じていた。
また、磁性粉末が分散してなる磁性インクにおいても、同様の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2013-211316号公報
【文献】日本国特開2016-139451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、粒径が小さく、保磁力が高く、かつ、樹脂や溶媒に対する分散性に優れるフェライト粉末を提供すること、該フェライト粉末を含有する樹脂組成物を提供すること、また、該樹脂組成物を用いて製造された部位を有する成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
<1>
複数個のフェライト粒子を含むフェライト粉末であって、
前記フェライト粒子は、平均粒径が1nm以上2000nm以下の単結晶体で、かつ、多面体状の形状を備え、
前記フェライト粒子の平均球状率は、1.02以上1.43以下であり、
前記フェライト粒子は、Srを2.0質量%以上10.0質量%以下含有し、Feを55.0質量%以上70.0質量%以下含有するフェライト粉末。
平均球状率は、次のようにして求める。
走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、倍率20万倍でフェライト粒子を撮影する。そして、撮影したSEM画像から、フェライト粒子について、外接円直径、内接円直径を求め、その比(外接円直径/内接円直径)を球状率として求める。平均球状率は、フェライト粉末から無作為に抽出した100個のフェライト粒子について求めた球状率の平均値である。
<2>
<1>に記載のフェライト粉末を含有する樹脂組成物。
<3>
<2>に記載の樹脂組成物で構成された部位を有する成形体。
本発明は、上記<1>~<3>に係る発明であるが、以下、それ以外の事項(例えば、下記[1]~[3])についても記載している。
【0006】
[1]
複数個のフェライト粒子を含むフェライト粉末であって、
前記フェライト粒子は、平均粒径が1nm以上2000nm以下の単結晶体で、かつ、多面体状の形状を備え、
前記フェライト粒子は、Srを2.0質量%以上10.0質量%以下含有し、Feを55.0質量%以上70.0質量%以下含有するフェライト粉末。
[2]
[1]に記載のフェライト粉末を含有する樹脂組成物。
[3]
[2]に記載の樹脂組成物で構成された部位を有する成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粒径が小さく、保磁力が高く、かつ、樹脂や溶媒に対する分散性に優れるフェライト粉末を提供すること、該フェライト粉末を含有する樹脂組成物を提供すること、また、該樹脂組成物を用いて製造された部位を有する成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例4に係るフェライト粒子のEDX分析結果、特に、Feの分析結果を示す図である。
【
図2】実施例4に係るフェライト粒子のEDX分析結果、特に、Srの分析結果を示す図である。
【
図3】実施例4に係るフェライト粒子のEDX分析結果、特に、実施例4に係るフェライト粒子について、FeとSrの分析結果を重ね合わせた図である。
【
図4】実施例4に係るフェライト粒子のTEM像(倍率40万倍)の画像である。
【
図5】実施例4に係るフェライト粒子の電子線回折パターンの画像である。
【
図6】実施例4に係るフェライト粉末のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
《フェライト粉末》
まず、本発明のフェライト粉末について説明する。
【0010】
本発明に係るフェライト粉末は、複数個のフェライト粒子を含むフェライト粉末である。そして、前記フェライト粒子は、平均粒径が1nm以上2000nm以下の単結晶体で、かつ、多面体状の形状を備え、Srを2.0質量%以上10.0質量%以下含有し、Feを55.0質量%以上70.0質量%以下含有する。
【0011】
このような構成により、粒径が小さく、保磁力および電気抵抗が高く、かつ、樹脂や溶媒に対する分散性に優れるフェライト粉末を提供することができる。また、このような構成のフェライト粉末は、金属探知機により好適に探知することができる。したがって、金属探知機での検査に適用される可能性のある成形体(金属探知機で検知することを目的として使用される可能性のある成形体)や磁性インクに好適に適用することができる。また、ナノサイズであることを活かした、高密度磁気記録媒体や薄膜等の作製にも好適に適用することができる。
【0012】
これに対し、上記のような条件を満足しない場合には、上記のような優れた効果を得ることができない。
【0013】
例えば、フェライト粒子の平均粒径が前記下限値未満であると、フェライト粒子の凝集を生じやすくなり、フェライト粉末の樹脂や溶媒に対する分散性が著しく低下する。
また、フェライト粒子の平均粒径が前記上限値を超えると、フェライト粉末の樹脂や溶媒に対する分散性が低下し、樹脂組成物や当該樹脂組成物を用いて製造される成形体中における不本意な組成のばらつきを生じやすくなる。また、フェライト粒子が分散した分散液(例えば、磁性インク等)として用いる際に、フェライト粒子が沈殿しやすく長期保存が難しくなる。また、フェライト粒子の平均粒径が前記上限値を超えると、フェライト粉末を用いて製造される成形体において、フェライト粒子の存在によって成形体の表面に不本意な凹凸が生じることがある。特に、電子機器への配線、ケーブル等に用いられるフレキシブルプリント配線基板に適用される場合に、その表面に形成される金属配線が上記凹凸によって損傷するおそれがある。
【0014】
また、本発明に係るフェライト粒子は、その形態が単結晶体である。フェライト粒子が多結晶体であると、例えば、磁気記録媒体として使用する場合において、着磁により磁気モーメントをそろえる際に局所的に保磁力の弱いところと強いところができてしまう可能性があり、データの保存性の面で問題を生じる可能性がある。また、例えば、交流磁場により生成された磁壁が粒界面を通過するときに結晶粒界で磁壁が足止めされるため周波数特性が劣る可能性がある。
【0015】
また、フェライト粒子が多面体状の粒子形状(多面体形状)を有していないと(例えば、六角板状の場合等)、粒子の異方性が強く、有機溶媒や樹脂溶液への分散性が劣る可能性がある。
多面体形状とは、10面体以上であれば特に限定されないが、10面体以上100面体以下が好ましく、12面体以上72面体以下がより好ましく、14面体以上24面体以下がさらに好ましい。
フェライト粒子の形状は、例えば、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(日立ハイテクノロジー社製)を用いて観察することができる。
【0016】
また、フェライト粒子中におけるSrの含有率が前記下限値未満であると、Feの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのFe2O3が含まれることとなり、保磁力が低下する。また、フェライト粒子を単結晶体とすることが困難になる。
【0017】
また、フェライト粒子中におけるSrの含有率が前記上限値を超えると、Srの量が過剰となり、粒子中に比較的多くのSrOが含まれることとなったり、Srフェライト以外のSr-Fe酸化物が過剰に含まれることとなり、各種磁気特性が低下する。
【0018】
また、フェライト粒子中におけるFeの含有率が前記下限値未満であると、Srフェライト以外のSr-Fe酸化物が過剰に含まれることとなり、各種磁気特性が低下する。
【0019】
また、フェライト粒子中におけるFeの含有率が前記上限値を超えると、フェライト粉末(フェライト粒子)が製造工程において酸化されやすくなり、各種磁気特性が低下する。
【0020】
なお、本発明において、フェライト粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影したSEM画像から求められる水平フェレ径であり、フェライト粒子の平均粒径は、100個以上のフェライト粒子について求められる粒径(水平フェレ径)の平均値のことを言う。
【0021】
走査型電子顕微鏡としては、例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のSU-8020等を用いることができる。また、SEM画像の撮影時の倍率は10~20万倍とすることができる。また、SEM画像の画像解析には、例えば、メディアサイバネティクス(MEDIA CYBERNETICS)社製のImage-Pro PLUS等の画像解析ソフトを用いることができる。
【0022】
また、フェライト粒子を構成する金属元素の含有量は、以下のようにして測定することができる。
【0023】
すなわち、フェライト粉末:0.2gを秤量し、純水:60mlに1Nの塩酸:20mlおよび1Nの硝酸:20mlを加えた混合物を加熱し、フェライト粉末(フェライト粒子)を完全溶解させた水溶液を準備し、ICP分析装置(例えば、島津製作所社製、ICPS-1000IV)を用いた測定を行うことにより、金属元素の含有量を求めることができる。
【0024】
フェライト粒子の平均粒径は、1nm以上2000nm以下であればよいが、1nm以上800nm以下であるのが好ましく、1nm以上300nm以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0025】
本発明のフェライト粉末を構成する前記フェライト粒子は、多面体状の粒子形状を有していればよいが、前記フェライト粒子の球状率(平均球状率)は、1.02以上1.43以下であるのが好ましく、1.05以上1.42以下であるのがより好ましく、1.11以上1.33以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
多面体形状のフェライト粒子は溶射焼成時に原料中に含まれるSr成分が高温の状態で揮発する際にフラックスとして働くことにより、生じると考えられる。そのため、Srを含有しない原料を用いて同様の操作を行っても多面体形状のフェライト粒子は生成しないか、生成してもごくわずかである。また、焼成温度が低い場合はSrがフラックスとして機能しにくいため、多面体形状になりにくい。
【0027】
球状率は、次のようにして求めることができる。
まず、走査型電子顕微鏡(FE-SEM(例えば、日立ハイテクノロジー社製、SU-8020等))を用いて、倍率20万倍でフェライト粒子を撮影する。そして、撮影したSEM画像から、フェライト粒子について、外接円直径、内接円直径を求め、その比(外接円直径/内接円直径)を球状率として求める。2つの直径が同一である場合、すなわち、真球である場合、この比が1となる。平均球状率は、例えば、フェライト粉末から無作為に抽出した100個のフェライト粒子について求めた球状率の平均値を採用することができる。
【0028】
フェライト粒子中におけるSrの含有率は、2.0質量%以上10.0質量%以下であればよいが、2.5質量%以上9.5質量%以下であるのが好ましく、4.0質量%以上9.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0029】
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。また、低印加電圧から高印加電圧の広い範囲にわたって、特に高い電気抵抗を安定して得ることができる。したがって、例えば、当該フェライト粉末をフレキシブルプリント配線基板に適用した場合等に、電流リークの発生をより効果的に抑制して耐久性を向上させることができる。
【0030】
フェライト粒子中におけるFeの含有率は、55.0質量%以上70.0質量%以下であればよいが、57.0質量%以上69.0質量%以下であるのが好ましく、58.0質量%以上68.0質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0031】
フェライト粒子は、Fe、Sr、O以外の成分(元素)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、Mn、Mg、Ti、Si、Cl、Ca、Al等が挙げられる。
【0032】
ただし、上記のようなフェライト粒子中に含まれるFe、Sr、O以外の成分(元素)の含有率は、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.5質量%以下であるのがより好ましく、0.8質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
特に、Srがフェライト粒子の表面に偏在しているのが好ましい。
これにより、例えば、後に詳述するような表面処理剤(特に、シランカップリング剤)によるフェライト粒子に対する表面処理をより好適に行うことができ、フェライト粒子の凝集をより効果的に防止することができ、フェライト粒子や当該フェライト粒子を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるフェライト粒子の分散性をより向上させることができる。また、母粒子としてのフェライト粒子の各部位に対しより均一に表面処理剤による表面処理を施すことができる。このような効果は、Srが、酸化物(例えば、SrO)の状態でフェライト粒子の表面に偏在している場合に、より顕著に発揮される。
【0034】
また、Srが酸化物(例えば、SrO)の状態でフェライト粒子の表面に偏在している場合、フェライト粉末(フェライト粒子)の電気抵抗やフェライト粉末(フェライト粒子)を含む成形体の電気抵抗をより高くすることができる。
【0035】
フェライト粒子中における構成元素の分布は、フェライト粒子を走査透過電子顕微鏡によって観察した像(STEM像)に対し、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行うことにより、フェライト粒子の外表面から内部に向かって掃引された電子線の移動距離に対する、構成元素の強度として求めることができる。分析には、例えば、EDAX Octane T Ultra W(AMETEK社製)を用いることができる。
【0036】
フェライト粒子は、表面処理が施されていてもよい。
粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸、フッ素系化合物、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。
【0037】
特に、フェライト粒子にシランカップリング剤による表面処理が施されていると、フェライト粒子の凝集をより効果的に防止することができ、フェライト粉末や当該フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをより向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるフェライト粉末の分散性をより向上させることができる。また、フェライト粒子にシランカップリング剤による表面処理が施されていると、フェライト粉末(フェライト粒子)の電気抵抗をさらに高くすることができる。また、シランカップリング剤と前述したフェライト粒子との親和性との関係から、母粒子としてのフェライト粒子の各部位に対しより均一にシランカップリング剤による表面処理を施すことができる。
【0038】
シランカップリング剤としては、例えば、シリル基および炭化水素基を有するシラン化合物を用いることができるが、シランカップリング剤は、特に、前記アルキル基として炭素数が8以上10以下のアルキル基を有しているのが好ましい。
【0039】
これにより、フェライト粒子の凝集をさらに効果的に防止することができ、フェライト粉末や当該フェライト粉末を含む樹脂組成物の流動性、取り扱いのし易さをさらに向上させることができる。また、樹脂組成物中、成形体中におけるフェライト粉末の分散性をさらに向上させることができる。また、シランカップリング剤と前述したフェライト粒子との親和性との関係から、母粒子としてのフェライト粒子の各部位に対しさらに均一にシランカップリング剤による表面処理を施すことができる。炭素数が8以上10以下のアルキル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、デシルトリメチキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
また、フェライト粒子にカルボン酸による表面処理が施されていると、エポキシ樹脂との親和性をより向上させることができ、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物中におけるフェライト粒子の分散安定性をより向上させたり、エポキシ樹脂の硬化物を含む成形体中におけるフェライト粒子の不本意な組成のばらつきをより効果的に抑制し、当該成形体の機械的強度等をより向上させることができる。
【0041】
リン酸系化合物としては、例えば、ラウリルリン酸エステル、ラウリル-2リン酸エステル、ステアレス-2リン酸、2-(パーフルオロヘキシル)エチルホスホン酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
【0042】
カルボン酸としては、例えば、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物(脂肪酸)を用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis-9-オクタデセン酸等を挙げることができる。
【0043】
フッ素系化合物としては、例えば、上述したようなシランカップリング剤、リン酸系化合物、カルボン酸が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物(フッ素系シラン化合物、フッ素系リン酸化合物、フッ素置換脂肪酸)等が挙げられる。
【0044】
本発明のフェライト粉末は、前述した構成を有することにより、適度な飽和磁化を得ることができる。
【0045】
具体的には、10K・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定による本発明のフェライト粉末の飽和磁化は、15Am2/kg以上80Am2/kg以下であるのが好ましく、20Am2/kg以上70Am2/kg以下であるのがより好ましく、25Am2/kg以上65Am2/kg以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
このような条件を満足するフェライト粉末は、例えば、磁心材料として用いられる磁性金属粉末に添加することで好適に用いられる。また、成形体の製造時において磁場を印加して成形体の所望の部位にフェライト粒子を偏在させたり、製造された成形体に磁場を印加して磁力により吸着することを、好適に行うことができる。特に、磁性金属粉末に添加する際は成形後の飽和磁束密度が下がりにくい。
【0047】
これに対し、飽和磁化が前記下限値未満であると、磁場の印加により、成形体の所望の部位へのフェライト粒子の偏在や、製造された成形体の吸着を好適に行うことが困難になる可能性がある。また、前述したような構成では、飽和磁化が前記上限値を超えることは困難である。
【0048】
10K・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定による本発明に係るフェライト粉末の残留磁化は、2.0Am2/kg以上35Am2/kg以下であるのが好ましく、3.0Am2/kg以上30Am2/kg以下であるのがより好ましく、5.0Am2/kg以上25Am2/kg以下であるのがより好ましい。
【0049】
これにより、樹脂や溶媒に対するフェライト粉末の分散性をより向上させつつ、エネルギー積(=残留磁化×保磁力)を大きくすることができる。これに対し、残留磁化が前記下限値未満であると、磁気記録媒体を作製した際に保磁力が同程度であってもエネルギー積が小さくなるため外部磁場により記録状態が変化する可能性がある。また、残留磁化が前記上限値を超えると、樹脂や溶媒に対するフェライト粉末の分散性が低下する可能性がある。
【0050】
10K・1000/4πA/mの磁場をかけたときのVSM測定によるフェライト粉末の保磁力は、30kA/m以上400kA/m以下であるのが好ましく、50kA/m以上350kA/m以下であるのがより好ましく、80kA/m以上300kA/m以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、例えば、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ等)としての性質をより向上させることができる。これに対し、保磁力が前記下限値未満であると、磁気記録媒体として使用したときに記録をうまく読み取れない可能性がある。また、保磁力が前記上限値を超えることは本発明に記載の元素の組み合わせではない。
【0052】
なお、飽和磁化、残留磁化および保磁力は、例えば、以下のようにして求めることができる。すなわち、まず、内径5mm、高さ2mmのセルに対象となるフェライト粉末(フェライト粒子)を詰めて振動試料型磁気測定装置にセットする。次に、印加磁場を加え、10K・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製する。このカーブのデータより飽和磁化、残留磁化および保磁力を求めることができる。振動試料型磁気測定装置としては、例えば、VSM-C7-10A(東英工業社製)等を用いることができる。
【0053】
本発明のフェライト粉末は、前述した構成を有することにより、十分に高い粉体抵抗(電気抵抗)を得ることができる。これにより、金属粉と混合して成型して使用する際に渦電流損を低くすることが可能となり、より高周波での動作でも使用できる可能性がある。また、例えば、当該フェライト粉末をプリント配線基板に適用する場合に、電流リークの発生を防ぐとともに耐久性を確保することができる。
【0054】
フェライト粉末の電気抵抗は、例えば、電界強度を5000V/cm(高さ1.3mmの場合は650V)とした場合における体積抵抗率で評価することができる。
【0055】
電界強度を5000V/cmとした場合における本発明のフェライト粉末の体積抵抗率は、1×107Ω・cm以上であるのが好ましく、1×108Ω・cm以上であるのがより好ましく、1×109Ω・cm以上であるのがさらに好ましい。
【0056】
フェライト粉末の電気抵抗率は、例えば、以下のようにして求めることができる。すなわち、断面積が1.77cm2のフッ素樹脂製のシリンダーに高さ1.3mmとなるように試料(フェライト粉末)を充填した後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せ、この状態で、ケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器を用いて、上記電極に測定電圧を5秒ごとに50V刻みで50Vから1000Vまで階段状に印加し、各ステップの5秒後の電流値を測定し、得られた電流値と印加電圧から体積抵抗率を算出することができる。
【0057】
本発明のフェライト粉末の構成粒子(フェライト粒子)のBET比表面積は、9.0m2/g以上28m2/g以下であるのが好ましく、10m2/g以上20m2/g以下であるのがより好ましく、11m2/g以上14m2/g以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
これにより、溶媒や樹脂溶液で沈降しにくく、より長期間にわたり分散安定性に優れた分散液を得ることができる。これに対し、BET比表面積が前記下限値未満であると、フェライト粒子を含む分散液中において、フェライト粒子が沈降しやすくなり、長期間の保存が難しくなる可能性がある。
【0059】
BET比表面積は、比表面積測定装置(例えば、型式:Macsorb HM model-1208(マウンテック社製))を用いた測定により求めることができる。
【0060】
なお、本発明のフェライト粉末は、上記のような条件を満足する複数個のフェライト粒子を含んでいればよく、さらに、他の粒子(上記のような条件を満足しない粒子)を含んでいてもよい。このような場合、フェライト粉末中に占める前記他の粒子の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0061】
《フェライト粉末の製造方法》
次に、本発明に係るフェライト粉末の製造方法について説明する。
本発明のフェライト粉末は、いかなる方法で製造してもよいが、例えば、以下に述べるような方法により、好適に製造することができる。
【0062】
すなわち、本発明のフェライト粉末は、例えば、FeおよびSrを含むフェライト原料を大気中で溶射してフェライト化し、続いて急冷凝固した後に、粒径が所定範囲内の粒子(フェライト粒子)を選択的に回収することにより、好適に製造することができる。
【0063】
これにより、前述したような形状、粒径および結晶構造の条件を満足するフェライト粒子を効率よく製造することができる。また、製造過程において、酸やアルカリを用いる湿式の製造方法とは異なり、最終的に得られるフェライト粉末に、酸やアルカリが由来の不純物等が残存することを効果的に防止することができ、フェライト粉末やフェライト粉末を用いて製造される樹脂組成物、成形体の耐久性、信頼性をより向上させることができる。また、酸やアルカリを用いる湿式の製造方法では、製造過程における液体のpH調整を厳密に行う必要があり、微妙な条件の変化によって製造される粒子の特性に大きな差を生じやすいが、上記のような方法では、条件設定が容易であり、安定した特性のフェライト粒子を好適に製造することができる。
【0064】
上記フェライト原料を調製する方法は、特に限定されず、従来公知の方法が採用することができ、例えば、乾式による方法を用いてもよく、湿式による方法を用いてもよい。
【0065】
フェライト原料(造粒物)の調製方法の一例としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、まず、Fe原料およびSr原料を所望のフェライト組成となるように適量秤量した後、水を加えて粉砕しスラリーを作製する。その後、作製したスラリーをスプレードライヤーで造粒し、必要に応じて、粉砕、分級して所定粒径の造粒物を調製する。
分級方法としては、例えば、風力分級、メッシュ濾過法、沈降法、各種篩を使った分級等が挙げられる。
【0066】
造粒物の平均粒径は、特に限定されないが、0.5μm以上30μm以下であるのが好ましい。
上記平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(LA-950、株式会社堀場製作所)によって、体積基準の粒度分布の累積が50%となる粒子径D50を測定することにより得ることができる。
【0067】
これにより、溶射時において、粒径が比較的小さい単結晶粒子の形成をより好適に進行させることができ、前述したような条件を満足するフェライト粉末をより効率よく製造することができる。また、最終的に得られるフェライト粒子の細孔容積、平均細孔径、BET比表面積等をより好適に調整することができる。また、後の工程での分級等の処理を省略または簡略化することができ、フェライト粉末の生産性をさらに向上させることができる。また、後の工程での分級により除去する粒子の割合をより少なくすることができ、フェライト粉末の収率をさらに向上させることができる。
【0068】
前記スラリーの粘度は、0.3ポアズ(P)以上5ポアズ以下であるのが好ましく、0.5ポアズ以上4ポアズ以下であるのがより好ましい。なお、10P=1Pa・sである。
【0069】
これにより、スラリーの取り扱いのしやすさをより向上させることができ、スラリーの噴霧、乾燥をより好適に行うことができる。その結果、所望の大きさ、形状の造粒物をより優れた生産性で製造することができる。
【0070】
なお、本明細書中において、粘度とは、B型粘度計(例えば、リオン株式会社製、ビスコテスター等)を用いて25℃において測定される値をいう。
【0071】
また、フェライト原料(造粒物)の調製方法の他の例としては、例えば、組成が調製されたフェライト原料を混合し、乾式粉砕を行い、各原材料を粉砕分散させ、その混合物をグラニュレーターで造粒し、分級して所定粒径の造粒物を調製する方法が挙げられる。
【0072】
上記のようにして調製された造粒物を大気中で溶射してフェライト化する。溶射には、燃焼ガスと酸素との混合気体を用いることができる。
【0073】
前記混合ガスにおける燃焼ガスと酸素との混合比は、容量比で、1:3.5以上1:6.0以下であるのが好ましい。前記混合ガス中における酸素の割合が前記下限値未満であると、溶融が不十分となることがある。また、前記混合ガス中における酸素の割合が前記上限値を超えると、フェライト化が困難となる。
【0074】
例えば、燃焼ガス10Nm3/時間に対して酸素35Nm3/時間以上60Nm3/時間以下の割合で用いることができる。
【0075】
上記溶射に用いられる燃焼ガスとしては、例えば、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等を用いることができ、特にプロパンガスを好適に用いることができる。
【0076】
また、例えば、造粒物を可燃性ガス燃焼中に搬送するために、造粒物搬送ガスを用いてもよい。造粒物搬送ガスとしては、例えば、窒素、酸素、空気等を用いることができる。
【0077】
搬送される造粒物の流速は、20m/秒以上60m/秒以下であるのが好ましい。
また、前記溶射は、温度1000℃以上3500℃以下で行うのが好ましく、温度1500℃以上3500℃以下で行うのがより好ましい。
【0078】
上記のような条件を満足することにより、粒径が比較的小さい単結晶粒子の形成をより好適に進行させることができ、前述したような条件を満足するフェライト粉末をより効率よく製造することができる。また、最終的に得られるフェライト粉末を構成するフェライト粒子の細孔容積、平均細孔径、BET比表面積等をより好適に調整することができる。また、後の工程での分級等の処理を省略または簡略化することができ、フェライト粉末の生産性をさらに向上させることができる。また、後の工程での分級により除去する粒子の割合をより少なくすることができ、フェライト粉末の収率をさらに向上させることができる。
【0079】
続いて、溶射による本焼成で形成されたフェライト粒子を大気中で空気給気による気流に乗せて搬送することによって急冷凝固した後に、所定の粒径範囲のフェライト粒子を捕集し回収する。
【0080】
前記捕集は、急冷凝固したフェライト粒子を空気給気による気流に乗せて搬送し、粒径が大きい粒子は気流搬送の途中で落下する一方、それ以外の粒子は下流まで気流搬送されることを利用し、前記範囲の平均粒径のフェライト粒子を気流の下流側に設けたフィルターによって捕集する方法により行うことができる。
【0081】
前記気流搬送時の流速を20m/秒以上60m/秒以下とすることにより、粒径が大きい粒子を特に高い選択性で落下させることができ、所定の粒径範囲のフェライト粒子をより効率よく回収することができる。流速が小さすぎると、粒径が比較的小さい粒子までも気流搬送の途中で落下してしまうため、気流の下流で回収されるフェライト粒子の平均粒径が小さくなりすぎるか、あるいは、気流の下流で回収されるフェライト粒子の絶対量が少なくなり、生産性が低下する。一方、流速が大きすぎると、粒径が比較的大きい粒子までも下流まで搬送されるため、気流の下流で回収されるフェライト粒子の平均粒径が大きくなりすぎる。
【0082】
その後、回収したフェライト粒子について、必要に応じて分級を行ってもよい。
これにより、前述したような好ましい条件を満足するフェライト粒子をより好適に得ることができる。
分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いることができる。なお、サイクロン等で、粒径の大きい粒子を除去することも可能である。
【0083】
また、本焼成処理の後に、フェライト粒子に表面処理を施してもよい。これにより、例えば、表面層を有するフェライト粒子を好適に形成することができる。
【0084】
表面処理剤の使用量は、母粒子としてのフェライト粒子のBET比表面積にもよるが、フェライト粒子(母粒子)100質量部に対して、0.05質量部以上8質量部以下であるのが好ましい。
【0085】
《フェライト粉末の用途》
本発明に係るフェライト粉末の用途は、特に限定されないが、例えば、磁気記録媒体用テープ用、フレキシブルプリント配線基板用、電磁波シールド材用、顔料、発電部材(例えば、磁心材料等)用、フィラー(特に、磁性フィラー)、金属探知機に適用される物品用(例えば、食品、医薬品等の製造現場で用いられる物品であって、異物としての混入が防止されるべき物品用等)、圧粉磁芯の添加剤等が挙げられる。また、本発明のフェライト粉末は、布(例えば、織布、不織布等)や、繊維の内部や表面に含有させて用いられてもよい。
【0086】
《樹脂組成物》
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、本発明のフェライト粉末を含有する。
このような本発明の樹脂組成物は、後に詳述する成形体の製造に好適に用いることができる。より具体的には、飽和磁化、保磁力および電気抵抗が高い成形体の製造に好適に用いることができる。また、樹脂組成物中においてフェライト粉末を良好に分散させることができ、フェライト粒子の凝集や不本意な組成のばらつきを効果的に防止することができるため、不本意な組成のばらつき等が効果的に防止された成形体の製造に好適に用いることができる。
【0088】
本発明の樹脂組成物において、フェライト粉末は、いかなる形態で含まれていてもよいが、樹脂材料中に分散して存在しているのが好ましい。
【0089】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがより向上し、後に詳述する成形体の成形をより好適に行うことができる。また、成形体の各部位におけるフェライト粒子の含有率の不本意なばらつきの発生を効果的に防止することができる。
【0090】
樹脂組成物中におけるフェライト粉末の含有率は、特に限定されないが、5.0質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以上88質量%以下であるのがより好ましい。
【0091】
これにより、成形体の成形性をより向上させることができ、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、成形体の磁気特性、電気絶縁性等をより向上させることができる。
【0092】
樹脂組成物中に含まれる樹脂材料としては、例えば、各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等を用いることができる。
【0093】
より具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、エチレン-プロピレン共重合体、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;変性ポリオレフィン;ポリスチレン;ブタジエン-スチレン共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA);ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66);ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート(PC);アイオノマー;ポリビニルアルコール(PVA);エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等のポリエステル;ポリエーテル;ポリアセタール(POM);ポリフェニレンオキシド;変性ポリフェニレンオキシド;ポリエーテルケトン(PEK);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリエーテルイミド;ポリサルフォン;ポリエーテルサルフォン;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、天然ゴム等のゴム材料;スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル;シリコーン樹脂;ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
中でも、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、フッ素系樹脂、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂よりなる群から選択される1種または2種以上を含むのが好ましい。
【0095】
これにより、樹脂組成物中におけるフェライト粉末の分散安定性がより向上し、成形体の成形性をより向上させることができる。また、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができる。
【0096】
特に、フェライト粒子が、シランカップリング剤による表面処理が施されている場合に、各種樹脂との密着性が向上するので、樹脂組成物中におけるフェライト粉末の分散安定性をさらに向上させ、成形体の成形性をさらに向上させることができる。
【0097】
また、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、樹脂組成物を用いて製造される成形体中に含まれる樹脂材料とは、異なる組成であってもよい。例えば、樹脂組成物中に含まれる樹脂材料は、最終的な成形体中に含まれる樹脂材料の前駆体(例えば、モノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、プレポリマー等)であってもよい。
【0098】
樹脂組成物中における樹脂材料の含有率は、特に限定されないが、8.0質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上90質量%以下であるのがより好ましい。
【0099】
これにより、成形体の成形性をより向上させることができ、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、フェライト粉末の含有率を十分に高くすることができ、成形体の磁気特性、電気絶縁性等をより向上させることができる。
【0100】
これに対し、樹脂組成物中における樹脂材料の含有率が前記下限値未満であると、成形体の成形性が低下するとともに、成形体の靭性、強度、信頼性等が低下する可能性がある。
【0101】
また、樹脂組成物中における樹脂材料の含有率が前記上限値を超えると、フェライト粉末の含有率が相対的に低下し、フェライト粉末の組成等によっては、成形体の磁気特性、電気絶縁性等を十分に向上させることが困難になる可能性がある。
【0102】
本発明の樹脂組成物は、本発明のフェライト粉末および樹脂材料を含んでいればよく、さらにこれら以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
【0103】
このような成分(その他の成分)としては、例えば、顔料、染料等の各種着色剤;各種蛍光材料;各種蓄光材料;各種燐光材料;溶剤;赤外線吸収材料;紫外線吸収剤;分散剤;界面活性剤;重合開始剤;重合促進剤;架橋剤;重合禁止剤;増感剤;可塑剤;スリップ剤(レベリング剤);浸透促進剤;湿潤剤(保湿剤);帯電防止剤;定着剤;防腐剤;防黴剤;酸化防止剤;キレート剤;pH調整剤;増粘剤;アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維、炭素繊維、石膏繊維、金属繊維、金属粒子、黒鉛、タルク、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゾノトライト、ハイドロタルサイト、ゼオライト等のフィラー;凝集防止剤;消泡剤;発泡剤等が挙げられる。
【0104】
本発明の樹脂組成物は、いかなる形態であってもよく、樹脂組成物の形態としては、例えば、粉末、ペレット、分散液、スラリー、ゲル等が挙げられるが、ペレットが好ましい。
【0105】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがより向上し、樹脂組成物を用いた成形体の製造をより好適に行うことができる。また、樹脂組成物の保存安定性をより向上させることができ、保存時等における樹脂組成物の構成成分の劣化等をより効果的に防止することができる。
【0106】
樹脂組成物がペレットである場合、その体積平均粒径は、1mm以上10mm以下であるのが好ましく、2mm以上7mm以下であるのがより好ましい。
【0107】
これにより、樹脂組成物の取扱いのし易さがさらに向上し、樹脂組成物を用いた成形体の製造をさらに好適に行うことができる。
【0108】
本発明の樹脂組成物は、例えば、本発明のフェライト粉末と樹脂材料とを混合することにより、製造することができる。フェライト粉末と樹脂材料との混合は、例えば、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、ニーダー、バンバリーミキサー、オーブンロール等の攪拌混練機、単軸押出機、二軸押出機等の混合装置(混練装置)を用いることにより好適に行うことができる。
【0109】
また、必要に応じて、混合の際に、例えば、前述したようなその他の成分をさらに用いてもよい。
また、混合の処理は、例えば、複数の工程に分けて行ってもよい。
【0110】
《成形体》
次に、本発明の成形体について説明する。
【0111】
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物で構成された部位を有する。
【0112】
これにより、飽和磁化、保磁力および電気抵抗が高い成形体を得ることができる。また、不本意な組成のばらつき等が効果的に防止された成形体を得ることができる。また、本発明のフェライト粉末を含むことにより、成形体の強度、耐久性等をより向上させることができ、例えば、引張や曲げ等の外力が加わった場合、特に、大きな外力が加わった場合や繰り返し外力が加わった場合等でも、切断等により成形体の一部が脱離することがより効果的に防止される。
【0113】
本発明の成形体は、その少なくとも一部にフェライト粉末を含んでいればよく、例えば、フェライト粉末を含まない領域を有していてもよい。
【0114】
より具体的には、例えば、本発明のフェライト粉末を含む領域(本発明の樹脂組成物を用いて形成された領域)としての第1の領域と、本発明のフェライト粉末を含まない領域(例えば、本発明の樹脂組成物以外の材料で構成された領域)としての第2の領域とを有していてもよい。
【0115】
特に、成形体は、少なくとも、その表面付近に本発明のフェライト粉末を含んでいるのが好ましい。
【0116】
より具体的には、成形体は、その表面から厚さ方向に1.0mm以内の領域に本発明のフェライト粉末を含んでいるのが好ましく、その表面から厚さ方向に0.5mm以内の領域に本発明のフェライト粉末を含んでいるのがより好ましい。
【0117】
これにより、成形体において、フェライト粉末が有する特性(例えば、磁気特性、電気特性等)をより効果的に発揮することができる。
【0118】
なお、このような成形体は、例えば、成形体の成形時(樹脂材料が軟化または溶融した状態)において、成形体の表面となるべき方向から磁場を与えることにより、好適に製造することができる。特に、厚みが比較的大きい成形体である場合、成形体の表面付近に、前述したフェライトを偏在させることができ、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0119】
本発明の成形体中における本発明のフェライト粉末の含有率は、成形体の用途等により異なるが、2.0質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、2.5質量%以上18質量%以下であるのがより好ましい。
【0120】
これにより、成形体の靭性、強度、信頼性等をより向上させることができるとともに、成形体の磁気特性、電気絶縁性等をより向上させることができる。
【0121】
なお、成形体が、本発明のフェライト粉末を含む部位に加え、本発明のフェライト粉末を含まない部位を有する場合には、本発明のフェライト粉末を含む部位において、前述したような含有率についての条件を満足するのが好ましい。
【0122】
成形体の製造方法としては、各種成形方法を用いることができ、例えば、射出成形法(インサート成形法、多色成形法、サンドイッチ成形法、インジェクション成形法等)、圧縮成形法、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法、各種塗布法、光造形法、三次元積層造形法等が挙げられる。
【0123】
また、樹脂組成物が硬化性樹脂を含む場合、当該硬化性樹脂の硬化反応を行う。硬化反応は、硬化性樹脂の種類等により異なるが、加熱や紫外線等のエネルギー線の照射等により行うことができる。
また、成形体の製造時には、複数種の樹脂組成物(例えば、複数種の本発明の樹脂組成物)を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
また、成形体が、本発明のフェライト粉末を含まない組成物を用いて形成された基部と、当該基部上に設けられ、本発明のフェライト粉末を含む組成物を用いて形成された表面層とを有する場合、上記のような方法や鋳造、鍛造、粉末射出成型法(PIM(Powder Injection Molding))等の方法により製造された基部上に、ディッピング、刷毛塗り等の塗装法、インクジェット法等の各種印刷法等を用いて表面層を形成して製造してもよい。
【0125】
また、成形体の成形時に着磁してもよい。これにより、成形体の表面付近の領域に好適にフェライト粉末を偏在させることができる。
【0126】
また、成形体は、上記のような成形方法により得られた成形体に対し、例えば、研削、研磨等の後処理を施すことにより製造してもよい。
【0127】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0128】
例えば、前述した実施形態では、樹脂組成物において、フェライト粉末が樹脂材料中に分散して存在している場合について中心的に説明したが、樹脂組成物において、例えば、フェライト粉末は、液体中に沈降しており、必要に応じて撹拌等により分散させて、使用してもよい。また、例えば、本発明の樹脂組成物は、揮発性の液体中に、フェライト粉末と、樹脂粒子とが分散した分散体であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、フェライト粉末と樹脂粉末とが単に混合された構成であってもよい。
【0129】
また、本発明のフェライト粉末は、いかなる方法で製造されてもよく、その製造方法は、前述したような方法に限定されない。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の説明で、特に温度条件を示していない処理、測定については、室温(25℃)で行った。
【0131】
《1》フェライト粒子の製造
(実施例1)
まず、酸化鉄(Fe2O3)および炭酸ストロンチウム(SrCO3)をモル比でFe2O3/SrCO3=5.75の割合で計量し、混合し、そこに、水を加えて粉砕し固形分50質量%のスラリーを作製した。次に、作製されたスラリーをスプレードライヤーで造粒し、ジャイロシフター、及びターボクラシファイアにて分級して平均粒径15μmの造粒物を作製した。
【0132】
次に、プロパンを10Nm3/時間、酸素を35Nm3/時間で供給して、造粒物の搬送速度:約40m/秒、温度:2000℃という条件で溶射を行うことによりフェライト化し、続いて、空気給気による気流に乗せて搬送することによって大気中で急冷した。このとき、造粒物を連続的に流動させながら溶射したため、溶射及び急冷後の粒子は互いに結着することなく独立していた。
【0133】
続いて、冷却された粒子を気流の下流側に設けたフィルターによって捕集した。このとき、粒径が大きい粒子は、気流の途中で落下しサイクロンに捕集されたため、フィルターによって捕集されなかった。
【0134】
次に、捕集された粒子について、ジャイロシフター、及びターボクラシファイアによる分級によって粒径が2000nmを超える粗粉を除去し、フェライト粉末を得た。すなわち、得られたフェライト粉末を構成するフェライト粒子の最大粒径は、2000nm以下であった。
【0135】
(実施例2、3)
酸化鉄および炭酸ストロンチウムの混合比率をそれぞれ下記表1に記載の通りに変更した以外は、前記実施例1と同様にしてフェライト粉末を製造した。
【0136】
(実施例4)
溶射の際に、添加剤(燃焼助剤)としてカーボンブラックを溶射原料全体中における含有率が0.5質量%となるように添加した以外は、前記実施例3と同様にしてフェライト粉末を製造した。
【0137】
なお、前記各実施例では、造粒物の粒径は、いずれも、0.5μm以上30μm以下の範囲内の値であり、スラリーの粘度(B型粘度計(リオン株式会社製ビスコテスター)を用いて25℃において測定された値)は、いずれも、0.5ポアズ以上4ポアズ以下の範囲内の値であり、前記混合ガスにおける燃焼ガスと酸素との混合比は、いずれも、燃焼ガス10Nm3/時間に対して酸素35Nm3/時間以上60Nm3/時間以下の割合であり、搬送される造粒物の流速は、いずれも、20m/秒以上60m/秒以下の範囲内の値であり、溶射時の温度は、いずれも、2000℃であった。
【0138】
(比較例1、2)
酸化鉄および炭酸ストロンチウムの使用量をそれぞれ下記表1に記載の通りに変更した以外は、前記実施例1と同様にしてフェライト粉末を製造した。
【0139】
(比較例3)
まず、酸化鉄(Fe2O3)および炭酸ストロンチウムをモル比で、Fe2O3/SrCO3=5.75の割合で計量し、ヘンシェルミキサーで混合し、原料混合物を作製した。
【0140】
次に、得られた造粒物を匣鉢に収容し、電気炉で1100℃、4時間、大気雰囲気下で焼成してフェライト化することにより、匣鉢の形状に即した塊となった焼成物を得た。得られた焼成物を乳鉢で磨砕することによって粉砕し、フェライト粉末を製造した。
【0141】
前記各実施例および各比較例のフェライト粉末の構成を表1にまとめて示す。なお、前記各実施例および各比較例のフェライト粉末(フェライト粒子)についての化学分析(元素分析)、表面偏在元素の分析、結晶形態、粒子形状の観察、平均粒径、BET比表面積の測定は、以下のようにして行った。
【0142】
(化学分析)
フェライト粉末における金属成分の含有量は、次のようにして測定した。まず、フェライト粉末0.2gを秤量し、純水60mLに1Nの塩酸20mLおよび1Nの硝酸20mLを加えた混合物を加熱し、フェライト粉末を完全溶解させた水溶液を調製した。得られた水溶液をICP分析装置(島津製作所社製、ICPS-1000IV)にセットし、フェライト粉末における金属成分の含有量を測定した。なお、表1中の化学分析の欄での「<0.01」という記載は、測定誤差であるか、または、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物として存在することを意味している。
【0143】
(表面偏在元素)
フェライト粒子を走査透過電子顕微鏡(HD-2700 Cs-corrected STEM(日立ハイテクノロジー社製))によって観察した像(STEM像)に対し、エネルギー分散型X線分析(EDX)を行った。分析には、EDAX Octane T Ultra W(AMETEK社製)を用いた。その結果、前記各実施例では、フェライト粒子の表面にSrが偏在していることが確認された。
図1~
図3に、実施例4に係るフェライト粒子のEDX分析結果を示す。より具体的には、
図1は、実施例4に係るフェライト粒子のFeの分析結果であり、
図2は、実施例4に係るフェライト粒子のSrの分析結果であり、
図3は、実施例4に係るフェライト粒子について、FeとSrの分析結果を重ね合わせた図である。これらの図からも明らかなように、粒子内部にもSrは存在するものの、粒子表面付近にもSrが存在していること(表面に偏在していること)は明らかである。また、他の実施例に係るフェライト粒子についても、
図1~
図3と同様の結果が得られた。
【0144】
(粒子形状)
フェライト粒子の形状は、透過型電子顕微鏡HF-2100 Cold-FE-TEM(日立ハイテクノロジー社製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。
図4に、実施例4に係るフェライト粒子のTEM像(倍率40万倍)の画像を示す。なお、前記各実施例では、いずれも、フェライト粒子の平均球状率が1.11以上1.33以下の範囲内の値であった。
【0145】
(結晶形態)
フェライト粒子の結晶形態は、走査透過電子顕微鏡HD-2700 Cs-corrected STEM(日立ハイテクノロジー社製)を用いて観察した。加速電圧は200kVとした。
図5に実施例4に係るフェライト粒子の電子線回折パターンの画像を示す。
【0146】
(平均粒径)
前記各実施例および比較例1、2のフェライト粒子については、水平フェレ径を平均粒径とした。また、比較例3のフェライト粒子については、体積平均粒径を平均粒径とした。
【0147】
水平フェレ径は以下のようにして求めた。すなわち、フェライト粒子について、走査型電子顕微鏡FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、SU-8020)を用いて倍率10万倍で撮影した。このとき、フェライト粒子を100粒子以上カウント可能な視野において撮影した。撮影したSEM画像をスキャナーで読み込み、画像解析ソフト(Image-Pro PLUS、メディアサイバネティクス(MEDIA CYBERNETICS)社)を用いて画像解析を行った。得られた各粒子の画像についてマニュアル測定によって各粒子の水平フェレ径を測定した。
図6に、実施例4に係るフェライト粉末のSEM画像を示す。
【0148】
体積平均粒径は以下のようにして求めた。すなわち、フェライト粉末10gを、分散媒としての水80mLとともにビーカーにいれ、分散剤としてのヘキサメタリン酸ナトリウムを2~3滴添加した。次いで、得られた溶液に対して、超音波ホモジナイザー(エスエムテー社製、UH-150)によって、出力レベル4で20秒間発振させることにより、溶液中にフェライト粉末を分散させた。次に、ビーカー表面に生じた泡を取り除いた後、固液分離し、フェライト粉末を回収した。回収したフェライト粉末について、マイクロトラック粒度分析計(日機装社製、Model9320-X100)を用いて体積平均粒径を測定した。
【0149】
(BET比表面積)
BET比表面積の測定は、比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb HM model-1208)を用いて行った。まず、得られたフェライト粉末約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気して真空度が-0.1MPa以下であることを確認した後に、200℃で2時間加熱することにより、フェライト粒子の表面に付着している水分を除去した。続いて、水分が除去されたフェライト粉末(フェライト粒子)を当該装置専用の標準サンプルセルに約0.5~4g入れ、精密天秤で正確に秤量した。続いて、秤量したフェライト粉末を当該装置の測定ポートにセットして測定した。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10~30℃、相対湿度20~80%(結露なし)であった。
【0150】
【0151】
《2》フェライト粒子の評価
(飽和磁化、残留磁化および保磁力)
まず、内径5mm、高さ2mmのセルにフェライト粉を詰めて振動試料型磁気測定装置(東英工業社製 VSM-C7-10A)にセットした。次に、印加磁場を加え、10K・1000/4π・A/mまで掃引し、次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製した。その後、このカーブのデータより飽和磁化、残留磁化および保磁力を求めた。
【0152】
(粉体抵抗(体積抵抗率))
まず、断面積が1.77cm2のフッ素樹脂製のシリンダーに高さ1.3mmとなるように試料(フェライト粉末)を充填した後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せた状態とした。続いて、ケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器を用いて、上記電極に測定電圧を5秒ごとに50V刻みで50Vから1000Vまで階段状に印加し、各ステップの5秒後の電流値を測定し、得られた電流値と印加電圧から体積抵抗率を算出した。
【0153】
《3》樹脂組成物の製造
前記各実施例および各比較例のフェライト粉末を用いて、以下のようにして樹脂組成物を調製した。
【0154】
すなわち、フェライト粉末20質量部と、エポキシ系樹脂を樹脂固形分換算で20質量部と、トルエン60質量部とを混合し、ホモジナイザーを用いてフェライト粉末を分散させることにより、樹脂組成物を製造した。
【0155】
《4》成形体の製造
上記のようにして得られた各実施例および各比較例に係る樹脂組成物を用い、ベーカー式アプリケーター(テスター産業社製、SA-201)によって、基材としてのPETフィルム上に塗膜を形成した。塗膜の厚さは1mil(25.4μm)とし、塗膜の幅は10cmとした。その後、溶媒を乾燥させ樹脂を硬化させることにより、成形体としての樹脂フィルムを得た。
【0156】
《5》樹脂組成物・成形体の評価
前記各実施例および各比較例に係る樹脂組成物および成形体について、以下のような評価を行った。
【0157】
(光の透過性による塗膜の均一性評価)
前記各実施例および各比較例に係る樹脂組成物について、目視による観察で、フェライト粉末が塗工出来たかどうか、下記基準に従い評価した。
A:得られた塗膜(PETフィルム含む)に背面から光を当てて光が透過しない。(均一に塗工出来ている)
B:得られた塗膜(PETフィルム含む)に背面から光を当てて部分的に明るいところがある。(厚さにむらが生じる)
C:得られた塗膜(PETフィルム含む)に背面から光を当てて透過する。
【0158】
(得られた塗膜を用いた金属探知機による評価)
前記各実施例および各比較例に係る塗膜(PETフィルム含む)を、20mm×20mmに切り抜き、得られた各サンプルについて、ベルトコンベア式の金属探知機(システムスクエア社製、META-HAWKII)を通過させ、前記サンプルを検出することができる感度(鉄球感度(F値)、SUS球感度(S値))を求めた。
【0159】
上記のフェライト粒子の評価、塗膜の評価の結果を、表2にまとめて示す。
【0160】
【0161】
表2から明らかなように、本発明では、優れた結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のフェライト粉末は、複数個のフェライト粒子を含み、前記フェライト粒子は、平均粒径が1nm以上2000nm以下の単結晶体で、かつ、多面体状の形状を備え、前記フェライト粒子は、Srを2.0質量%以上10.0質量%以下含有し、Feを55.0質量%以上70.0質量%以下含有する。そのため、粒径が小さく、保磁力が高く、かつ、樹脂や溶媒に対する分散性に優れるフェライト粉末を提供することができる。したがって、本発明のフェライト粉末は、産業上の利用可能性を有する。
【0163】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年3月31日出願の日本特許出願(特願2017-073209)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。