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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/342 20060101AFI20220819BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20220819BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
D06M13/342
D06M13/165
D06M13/224
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022003492
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2021111888
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本郷 勇治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千尋
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-033796(JP,B1)
【文献】特開2002-294567(JP,A)
【文献】特許第6883901(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/250550(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101956321(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104674547(CN,A)
【文献】特開2020-015999(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109371688(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(A)、イオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用処理剤であって、
前記平滑剤(A)が、下記の分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を含有し、
前記イオン界面活性剤(B)が、下記のカルボン酸化合物(B1)を含有し、
前記ノニオン界面活性剤(C)が、下記のアルコール誘導体(C2)から選ばれる少なくとも1つを含有し、
合成繊維用処理剤の不揮発分に対して前記エステル化合物(A1)を15質量%以上含有し、かつ、ジ亜リン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの含有量が0~0.15質量%の範囲であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
分岐エステル化合物(A1-1):分子中に分岐の鎖状構造を有するエステル化合物。
カルボン酸化合物(B1):分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つ。
アルコール誘導体(C2):炭素数8~15の1価の分岐構造を有する脂肪族アルコール1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~50モルの割合で付加させた化合物。
【請求項2】
前記処理剤の不揮発分に対して、前記カルボン酸化合物(B1)を0.01~4質量%含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記分岐エステル化合物(A1-1)が、分岐の鎖状構造を有する炭素数3~10の3~6価の脂肪族アルコールと炭素数8~20の1価脂肪酸との完全エステル化合物を含むものである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記の脂肪酸誘導体(C1)から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
脂肪酸誘導体(C1):炭素数8~20の1価脂肪酸と、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを構成単位とする質量平均分子量が200~1000の(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物
【請求項5】
前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記のアミド誘導体(C3)を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
アミド誘導体(C3):炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~10モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【請求項6】
前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記のアミン誘導体(C4)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
アミン誘導体(C4):炭素数8~20の第1級の脂肪族アミン1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【請求項7】
前記平滑剤(A)、前記イオン界面活性剤(B)及び前記ノニオン界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記平滑剤(A)を15~70質量部、前記イオン界面活性剤(B)を0.01~15質量部、及び前記ノニオン界面活性剤(C)を20~80質量部の割合で含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤及び合成繊維に関する。詳しくは、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性やタール洗浄性を発揮し、後加工の工程における良好な染色性やゴム接着性を有する合成繊維用処理剤及び、かかる合成繊維用処理剤が付着した合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維の紡糸工程や加工工程においては、高速化が進み、これに伴って毛羽や糸切れが起こりやすくなっている。そのため、これらを抑制する合成繊維用処理剤として、多価アルコールにポリオキシアルキレン基を付加したポリエーテルを含有するもの(例えば、特許文献1、2)や、特異的な構造を持つ有機亜鉛化合物を含有するもの(例えば、特許文献3)等が提案されている。しかし、これら従来の合成繊維用処理剤には、繊維間への合成繊維用処理剤の浸透性が不足し、紡糸時や加工時に毛羽や断糸を十分に抑制することができないという問題があった。
また、合成繊維用処理剤は、高温のゴデットローラーの熱に晒されるため、長時間操業することによってゴデットローラー上でのタールにもなり得てしまい、糸がタールの上を通過することで糸品質を低下させ、さらには断糸を引き起こし、生産性の低下をも起こす原因となるほか、蓄積したタールを洗浄するためには、生産を一時停止しなければならず、タールの洗浄に掛かる時間の分だけ生産性の低下を引き起こすという問題もあった。
一方、得られた合成繊維は産業資材としても多く利用されており、中でも、タイヤ類、ベルト類、ホース類等のゴム製品の補強材として汎用されている。これらのゴム製品は、合成繊維製の撚糸を接着剤で処理した補強用コードで補強されており、この補強用コードは、ゴム製品の耐久性を向上するため、ゴムに対する充分な接着性を有することが要求される。この要求を満たすために合成繊維用処理剤が使用され、多価アルコール及び/又は多価カルボン酸にポリオキシアルキレン基を付加した化合物を含有するもの(例えば、特許文献4)等が提案されている。しかし、これら従来の合成繊維用処理剤を付着した合成繊維を、接着剤で処理した補強用コードは、ゴム接着性が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-306869号公報
【文献】特開2000-273766号公報
【文献】特開2013-007141号公報
【文献】特開2004-019088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、紡糸工程で発生するタールの洗浄を容易にし、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、かつ、良好な染色性や補強用コードとした際に良好なゴム接着性が得られる合成繊維用処理剤と、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、紡糸工程において発生するタールの洗浄性を向上させて、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、さらに、良好な染色性やゴム接着性等の後加工性の両立を図るためには、特定の化学構造を有するカルボン酸化合物が大きく関与していることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.平滑剤(A)、イオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用処理剤であって、
前記平滑剤(A)が、下記の分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を含有し、
前記イオン界面活性剤(B)が、下記のカルボン酸化合物(B1)を含有し、
合成繊維用処理剤の不揮発分に対して前記エステル化合物(A1)を15質量%以上含有し、かつ、ジ亜リン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの含有量が0~0.15質量%の範囲であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
分岐エステル化合物(A1-1):分子中に分岐の鎖状構造を有するエステル化合物。
カルボン酸化合物(B1):分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つ。
2.前記処理剤の不揮発分に対して、前記カルボン酸化合物(B1)を0.01~4質量%含有する1.に記載の合成繊維用処理剤。
3.前記分岐エステル化合物(A1-1)が、分岐の鎖状構造を有する炭素数3~10の3~6価の脂肪族アルコールと炭素数8~20の1価脂肪酸との完全エステル化合物を含むものである1.又は2.に記載の合成繊維用処理剤。
4.前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記の脂肪酸誘導体(C1)、及び下記のアルコール誘導体(C2)から選ばれる少なくとも1つを含有する1.~3.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
脂肪酸誘導体(C1):炭素数8~20の1価脂肪酸と、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを構成単位とする質量平均分子量が200~1000の(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物。
アルコール誘導体(C2):炭素数8~15の1価の脂肪族アルコール1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~50モルの割合で付加させた化合物。
5.前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記のアミド誘導体(C3)を含有する1.~4.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
アミド誘導体(C3):炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~10モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つ。
6.前記ノニオン界面活性剤(C)が、更に下記のアミン誘導体(C4)を含有する1.~5.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
アミン誘導体(C4):炭素数8~20の第1級の脂肪族アミン1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つ。
7.前記平滑剤(A)、前記イオン界面活性剤(B)及び前記ノニオン界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記平滑剤(A)を15~70質量部、前記イオン界面活性剤(B)を0.01~15質量部、及び前記ノニオン界面活性剤(C)を20~80質量部の割合で含有する1.~6.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
8.1.~7.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の効果】
【0007】
本発明の合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、近年高速化が進んだ合成繊維の紡糸工程や加工工程などの製糸工程において、良好な工程通過性を発揮する。特に、合成繊維糸条の毛羽を低減することにより、良好な工程通過性を発揮し、優れた紡糸性を得ることができる。
また、紡糸工程で発生するタールの洗浄を容易にし、さらにはローラーとの摩擦の抵抗を小さくできる。
加えて、本発明の合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、後加工工程において良好な染色性とゴム接着性を発揮することができる。かかる効能は、特にシートベルト用途やタイヤコード用途等における後加工工程において有効である。詳しくは、シートベルト等で染色を必要とする場合に染色性を向上させ、タイヤ等のゴム製品に使用する補強用コードとした場合にゴム接着性を向上させるという効果を発揮し、例えば、産業用ベルトの1つである動力を伝達する伝動ベルトであるVベルトなどに適した、補強用コードを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、分子中に分岐の鎖状構造を有するエステル化合物である分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を含有する平滑剤(A)、分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を含有するイオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)を含有し、かつ、ジ亜リン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの含有量が0~0.15質量%の範囲である合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<平滑剤(A)>
本発明の合成繊維用処理剤は、平滑剤(A)を必須成分として含有するものであり、この平滑剤(A)は、分子中に分岐の鎖状構造を有するエステル化合物である分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を必須成分として、本発明の合成繊維用処理剤の不揮発分に対して15質量%以上含有するものであり、25質量%以上含有することが好ましく、35質量%以上含有することがより好ましく、分岐エステル化合物(A1-1)としては、本発明の合成繊維用処理剤の不揮発分に対して15質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましく、30質量%以上含有することがさらに好ましい。
本発明における合成繊維用処理剤の不揮発分は、合成繊維用処理剤1gをシャーレ(外径5cm、高さ15mm、厚み0.6mm)に秤量したものを105℃で2時間熱処理した残分を意味する。
上記分岐エステル化合物(A1-1)としては、ナタネ油、トリメチロールプロパントリオレアート、グリセリントリオレアート、パーム油、ヤシ油、ゴマ油、ペンタエリスリトールテトラオクタート等の分子中に分岐の鎖状構造を有する、多価アルコール由来の完全エステル化合物、トリメチロールプロパンジオレアート、トリメチロールプロパンモノオレアート等の分子中に分岐の鎖状構造を有する、多価アルコール由来の部分エステル化合物、イソトリデシルステアラート、イソトリデシルオレアート、イソオクチルパルミタート等のモノエステル、ジ(イソステアリル)アジパート、ジ(イソオクチル)セバカート等のジエステル、ジ(イソステアリル)チオジプロピオナート、ジ(イソセチル)チオジプロピオナート等の分岐含硫黄エステルなどの分子中に分岐の鎖状構造を有する1価アルコール由来のエステル化合物等が挙げられる。モノエステルでは、その化学構造における総炭素数が24~32のものが好ましい。総炭素数が24以上だと紡糸工程における発煙を抑制でき、また総炭素数が32以下だと平滑性と安定性が両立できる。多価エステルでは、その化学構造における総炭素数が24~70のものが好ましい。総炭素数が24以上だと紡糸工程における発煙が抑制でき、総炭素数が70以下だと平滑性と安定性が両立できる。
中でも、分岐エステル化合物(A1-1)が、分岐の鎖状構造を有する炭素数3~10の3~6価の脂肪族アルコールと炭素数8~20の1価脂肪酸との完全エステル化合物を
含むものであることが好ましい。
さらに、分岐エステル化合物(A1-1)は、分岐の鎖状構造を有する炭素数3~6の3又は4価の脂肪族アルコールと炭素数8~20の1価脂肪酸との完全エステル化合物が好ましく、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールとの完全エステル化合物等が挙げられる。
【0010】
分岐エステル化合物(A1-1)以外のエステル化合物(A1)としては、ドデシルオレアート、ドデシルパルミタート等のモノエステル、ジオクチルアジパート、ジオクチルセバカート等のジエステルなどの直鎖構造を有する1価アルコール由来のエステル化合物や、ブタンジオールジオレアート等の直鎖構造を有する2価アルコール由来の完全エステル化合物などが挙げられる。
なお、本発明におけるエステル化合物(A1)は、(ポリ)オキシアルキレン基を化学構造中に含むエステル化合物を含まない。
本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)以外にも、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤を併用することができる。その具体例としては、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、鉱物油等が挙げられる。希釈剤として汎用される低粘度炭化水素(<2mm/s、40℃)は、公知の平滑剤には含まれない。
【0011】
<イオン界面活性剤(B)>
本発明の合成繊維用処理剤は、分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を含有するイオン界面活性剤(B)を、必須成分として含有するものである。中でも、カルボン酸化合物(B1)が、分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、分子中に炭素数10~20のアシル基を有するものがより好ましく、分子中に炭素数12~18のアシル基を有するものがさらに好ましい。特に好ましくは、分子中に炭素数8~18のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体である。
具体的には、例えば、N-メチルグリシン、N-ベンジル-N-メチルグリシン、N,N-ジメチルグリシン、N-メチル-N-エチルグリシン、N-メチル-N-ココイルグリシン、N-メチル-N-ラウロイルグリシン、N-メチル-N-デカノイルグリシン、N-メチル-N-オレオイルグリシン、N-メチル-N-ココイルアラニン、N-メチル-N-ラウロイルアラニン、N-メチル-N-ミリストレイルアラニンが挙げられ、中でも好ましくは、N-メチル-N-ココイルグリシン、N-メチル-N-ラウロイルグリシン、N-メチル-N-デカノイルグリシン、N-メチル-N-オレオイルグリシン、N-メチル-N-ココイルアラニン、N-メチル-N-ラウロイルアラニンが挙げられる。
(B1)は未中和のものであっても良く、中和した塩でも良い。未中和物を合成繊維用処理剤中で中和しても良く、中和処理してから合成繊維用処理剤に供しても良い。対イオンとしては、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミンやトリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。なかでもアルカリ金属塩もしくはアルカノールアミン塩であることが好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、上記分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、0.01~4質量%含有することが好ましく、0.05~3質量%含有することがより好ましく、0.1~2質量%含有することがさらに好ましい。
【0012】
本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)以外にも、合成繊維用処理剤に採用されている公知のイオン界面活性剤を併用することができる。その具体例としては、イオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(2)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)から選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(4)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(5)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(6)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ドデセニルコハク酸塩等の脂肪酸塩、(7)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩、(8)ラウリルリン酸エステル塩、イソセチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルのリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤は未中和のものであっても良く、中和した塩でもよい。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0013】
<ノニオン界面活性剤(C)>
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(C)を必須成分として含有するものである。本発明における、(ポリ)オキシアルキレン基を化学構造中に含むエステル化合物は、ノニオン界面活性剤(C)に含まれる。中でも、炭素数8~20の1価脂肪酸と、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを構成単位とする質量平均分子量が200~1000の(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物である脂肪酸誘導体(C1)及び、炭素数8~15の1価の脂肪族アルコール1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~50モルの割合で付加させた化合物であるアルコール誘導体(C2)から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(C)として、さらに、炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~10モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つであるアミド誘導体(C3)を含有することが好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(C)として、さらに、炭素数8~20の第1級の脂肪族アミン1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つであるアミン誘導体(C4)を含有することが好ましい。
なお、本発明におけるノニオン界面活性剤(C)は、公知のノニオン界面活性剤のうち、本発明におけるエステル化合物(A1)に該当するものは含まない。
【0014】
<脂肪酸誘導体(C1)>
本発明における脂肪酸誘導体(C1)は、炭素数8~20の1価脂肪酸と、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを構成単位とする質量平均分子量が200~1000の(ポリ)アルキレングリコールとのエステル化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物である。
上記脂肪酸誘導体(C1)における、炭素数8~20の1価脂肪酸の中でも、炭素数10~20の1価脂肪酸が好ましく、炭素数12~18の1価脂肪酸がより好ましい。1価脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよく、具体的には、例えば、カプリル酸(炭素数:8)、カプリン酸(炭素数:10)、ラウリン酸(炭素数:12)、ミリスチン酸(炭素数:14)、ミリストレイン酸(炭素数:14)、パルミチン酸(炭素数:16)、パルミトレイン酸(炭素数:16)、ステアリン酸(炭素数:18)、オレイン酸(炭素数:18)、リノール酸(炭素数:18)、リノレン酸(炭素数:18)、アラキジン酸(炭素数:20)等が挙げられる。
上記脂肪酸誘導体(C1)における、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを構成単位とする(ポリ)アルキレングリコールは、エチレンオキサイドを構成単位としたポリエチレングリコールが好ましく、質量平均分子量が400~800が好ましい。
本発明における脂肪酸誘導体(C1)としては、具体的に、ラウリン酸1モルに対しEO5モル付加したもの、ラウリン酸1モルに対しEO10モル付加したもの、パルミチン酸1モルに対しEO5モル付加したもの、パルミチン酸1モルに対しEO10モル付加したもの、ステアリン酸1モルに対しEO5モル付加したもの、イソステアリン酸1モルに対しEO10モル付加したもの、オレイン酸1モルに対しEO10モル付加したもの、オレイン酸1モルに対しPO5モルとEO5モルを付加したもの、ポリエチレングリコール
(平均分子量200)1モルに対してオレイン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量400)1モルに対してオレイン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量200)1モルに対してヤシ油脂肪酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してオレイン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量400)1モルに対してラウリン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してパーム油脂肪酸1.5モルでエステル化したものが挙げられる。中でも、オレイン酸1モルに対しEO10モル付加したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してオレイン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量400)1モルに対してラウリン酸2モルでエステル化したもの、ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してパーム油脂肪酸1.5モルでエステル化したものが好ましい。
本発明では、化合物名の末端にEOおよびPOと記載したものは、それぞれエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加物を意味し、後に続く数字はその平均付加モル数を示す。
本発明における質量平均分子量と平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで標準物質をポリエチレングリコールとした時の質量平均分子量を示す。
【0015】
<アルコール誘導体(C2)>
本発明におけるアルコール誘導体(C2)は、炭素数8~15の1価の脂肪族アルコール1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~50モルの割合で付加させた化合物である。
上記アルコール誘導体(C2)における、炭素数8~15の1価の脂肪族アルコールの中でも炭素数9~14の1価の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数10~13の1価の脂肪族アルコールがより好ましい。脂肪族アルコールは、直鎖構造であっても、分岐構造であっても良いが、合成繊維用処理剤の安定性の観点から分岐構造を持つものが好ましい。また、脂肪族アルコールは飽和アルコールであっても、不飽和アルコールであっても良いが、飽和アルコールであることが好ましい。脂肪族アルコールは、例えば、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール、イソウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、イソテトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、イソペンタデシルアルコールが挙げられる。アルコール誘導体(C2)は、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、ブチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム付加物、エチレンオキサイドとブチレンオキサイドのブロック付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック付加物等が挙げられる。中でも、化学構造中にオキシプロピレン基が含まれるアルコール誘導体が好ましい。
本発明におけるアルコール誘導体(C2)としては、具体的に、2-エチルヘキサノール1モルに対してEO4モルとPO8モルをランダムに付加したもの、オクチルアルコール1モルに対してEO5モルとPO5モルをランダムに付加したもの、デシルアルコール1モルに対してPO5モルを付加したものにEO5モルを付加したもの、イソドデシルアルコールにEO5モルを付加したもの、イソトリデシルアルコールにEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの、イソトリデシルアルコール1モルに対しPO10モルを付加させたものにEO10モルを付加したもの、テトラデシルアルコールにEO10モルを付加したもの等が挙げられる。中でも、イソドデシルアルコール1モルに対してEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの、イソトリデシルアルコール1モルに対しPO10モルを付加させたものにEO10モルを付加したもの、2-エチルヘキサノール1モルに対してEO4モルとPO8モルをランダムに付加したものが好ましい。
【0016】
<アミド誘導体(C3)>
本発明におけるアミド誘導体(C3)は、炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物、及び炭素数8~20の1価脂肪酸とジエタノールアミンとのアミド化合物1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~10モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つである。
上記アミド誘導体(C3)における、炭素数8~20の1価脂肪酸の中でも、炭素数10~20の1価脂肪酸が好ましく、炭素数12~18の1価脂肪酸がより好ましい。1価脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよく、脂肪酸誘導体(C1)で使用されるものと同様のものが挙げられる。炭素数2~4のアルキレンオキサイドの中では、エチレンオキサイドが好ましく、その付加数は2~8モルが好ましい。
本発明におけるアミド誘導体(C3)に含まれる化合物としては、具体的に、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、パーム核油脂肪酸ジエタノールアミド、ナタネ脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド1モルにEO3モル付加したもの、オレイン酸ジエタノールアミド1モルにEO3モル付加したもの、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド1モルにEO5モル付加したものが挙げられる。
【0017】
<アミン誘導体(C4)>
本発明におけるアミン誘導体(C4)は、炭素数8~20の第1級の脂肪族アミン1モル当たり炭素数2~4のアルキレンオキサイドを合計1~20モルの割合で付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つである。
上記アミン誘導体(C4)における、炭素数8~20の第1級の脂肪族アミンの中でも、炭素数10~18の第1級の脂肪族アミンが好ましく、炭素数12~18の第1級の脂肪族アミンがより好ましい。第1級の脂肪族アミンは、そのアルキル部分が飽和構造であっても、不飽和構造であってもよい。オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ミリストレイルアミン、パルミチルアミン、パルミトレイルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンが挙げられ、それらの混合物であるヤシアミン等も挙げられる。炭素数2~4のアルキレンオキサイドの中では、エチレンオキサイドが好ましい。アミン誘導体は炭化水素基を1つ有する1級アミンに炭素数2~4以下のアルキレンオキサイドを付加させて形成した(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する2級アミン化合物若しくは2つ有する3級アミン化合物であってもよい。
本発明におけるアミン誘導体(C4)に含まれる化合物としては、具体的に、ラウリルアミン1モルにEO3モル付加したもの、ミリスチルアミン1モルにEO5モル付加したもの、パルミチルアミン1モルにEO8モル付加したもの、ステアリルアミン1モルにEO10モル付加したもの、オレイルアミン1モルにEO15モル付加したもの、ステアリルアミンとパルミチルアミンの混合物1モルにEO10モル付加したもの、ヤシアミン1モルにEO5モル付加したものが挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記脂肪酸誘導体(C1)、アルコール誘導体(C2)、アミド誘導体(C3)、アミン誘導体(C4)以外にも、合成繊維用処理剤に採用されている公知のノニオン界面活性剤を併用することができる。その具体例としては、(C1)~(C4)と重複しない範囲での脂肪酸誘導体、アルコール誘導体、アミド誘導体、アミン誘導体や、カルボン酸と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、芳香族アルコールにアルキレンオキサイドを付加させた化合物、アルコキシポリアルキレングリコールと脂肪酸とのエステル、多価アルコールと脂肪酸との直鎖構造の部分エステル化合物、ソルビタン等の炭素数3~6の環状構造を有する多価アルコールと脂肪酸との部分エステル化合物などが挙げられ、例えば、硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物、ノニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンメチルエーテルオレアート、グリセリンモノオレアート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ソルビタンモノステアラート、ソルビタントリステアラート等を併用することができる。
【0018】
本発明の合成繊維用処理剤は、平滑剤、イオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤を含んでいて、ジ亜リン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの含有量が合成繊維用処理剤の不揮発分に対して0~0.15質量%の範囲のものである。その上限値は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましい。
塩を形成する対イオンにはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、鉄、アミン化合物等が挙げられる。
ジ亜リン酸及びその塩は、合成繊維用処理剤の製造に用いられる触媒や着色防止剤として混入する可能性があるが、これらは公知の精製方法により、合成繊維用処理剤から除去されることが好ましい。ジ亜リン酸及びその塩は、タール洗浄性を悪化させ、さらには製造される合成繊維の毛羽数の増大に繋がる物質であるが、本発明の合成繊維用処理剤は、ジ亜リン酸及びその塩の含有量が0.15質量%以下の範囲であれば、本発明の効果を特別に妨げるものではない。
【0019】
<配合比率>
本発明の合成繊維用処理剤は、必須成分である平滑剤(A)、イオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、平滑剤(A)を15~70質量部、好ましくは25~70質量部、より好ましくは35~65質量部、イオン界面活性剤(B)を0.01~15質量部、好ましくは0.1~12質量部、より好ましくは0.5~10質量部、ノニオン界面活性剤(C)を20~80質量部、好ましくは25~75質量部、より好ましくは30~70質量部の割合で含有することが好ましい。
【0020】
<その他の成分>
本発明の合成繊維用処理剤は、他の成分、例えば、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができる。他の成分の併用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することができる。
【0021】
<合成繊維>
本発明の合成繊維は、本発明の合成繊維用処理剤が付着している合成繊維である。本発明の合成繊維用処理剤を付着させる合成繊維としては、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。本発明の合成繊維用処理剤を付着させた合成繊維は、延伸糸若しくは半延伸糸として得ることができる。中でも、本発明の合成繊維用処理剤は、延伸糸の製造に適している。
本発明の合成繊維用処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に付着させる割合は、特に制限はないが、本発明の合成繊維用処理剤を合成繊維に対し0.1~3質量%の割合となる
よう付着させることが好ましい。
また、本発明の合成繊維用処理剤を付着させる工程は、紡糸工程、延伸工程、紡糸と延伸とを同時に行う工程が挙げられる。また、本発明の合成繊維用処理剤を付着させる方法は、公知の方法を適宜採用することができるが、例えば、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤を合成繊維に付着させる際の処理剤の形態としては、例えば、希釈剤を使用した、有機溶媒溶液、水性液、ニート等として付与してもよい。この時に使用される希釈剤としては、例えば、水、低粘度炭化水素(<2mm/s、40℃)、有機溶剤(アセトン、クロロホルム、メタノール、イソプロピルアルコール等)や、これらの混合物が挙げられるが、水もしくは低粘度炭化水素が経済性や付着性の観点から好ましい。
【実施例
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0023】
<合成繊維用処理剤の調製>
・実施例1
平滑剤(A)として、分岐エステル化合物(A1-1)であるナタネ油(A1-1-1)40%及びジ(イソステアリル)チオジプロピオナート(A1-1-3)4%、イオン界面活性剤(B)として、カルボン酸化合物(B1)であるN-メチル-N-ラウロイルグリシン/ナトリウム塩(B1-2)1%、その他のイオン界面活性剤である2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(炭素数:11~14)(B2-1)1%、ノニオン界面活性剤(C)として、脂肪酸誘導体(C1)であるオレイン酸1モルに対しEO10モル付加したもの(C1-1)10%、アルコール誘導体(C2)であるイソドデシルアルコール1モルに対してEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの(C2-1)10%、アミド誘導体(C3)であるオレイン酸ジエタノールアミド1モルにEO3モル付加したもの(C3-1)3%、アミン誘導体(C4)であるオレイルアミンとステアリルアミンとパルミチルアミンの混合物アミン1モルにEO10モル付加したもの(C4-1)2%、その他のノニオン界面活性剤である硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(C5-1)10%、ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物(C5-5)10%、ソルビタンモノオレアート(C5-7)8%、その他の成分として、ポリエーテル変性シリコーン(X-1)0.3%、エチレングリコール(X-3)0.7%の割合で均一混合して、実施例1の処理剤を調製した。
【0024】
・実施例16
平滑剤(A)として、分岐エステル化合物(A1-1)であるトリメチロールプロパントリオレアート(A1-1-2)25%、イオン界面活性剤(B)として、カルボン酸化合物(B1)であるN-メチル-N-ラウロイルグリシン/ナトリウム塩(B1-2)1.4%、その他のイオン界面活性剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩(B2-2)1%及びオレイルアルコール-エチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル(B2-5)0.6%、ノニオン界面活性剤(C)として、脂肪酸誘導体(C1)であるポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してパーム油脂肪酸1.5モルでエステル化したもの(C1-4)10%、アルコール誘導体(C2)であるイソドデシルアルコール1モルに対してEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの(C2-1)10%及びイソトリデシルアルコール1モルに対しPO10モルを付加させたものにEO10モルを付加したもの(C2-2)20%、アミド誘導体(C3)であるオレイン酸ジエタノールアミド(C3-3)1%、アミン誘導体(C4)であるオレイルアミンとステアリルアミンとパルミチルアミンの混合物1モルにEO10モル付加したもの(C4-1)1%、その他のノニオン界面活性剤である硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(C5-2)14.99%及びソルビタンモノオレアート(C5-7)15%、ジ亜リン酸(市販試薬、50質量%水溶液)を純分として0.01%の割合で均一混合して、実施例16の処理剤を調製した。
【0025】
・実施例2~15、17~33及び比較例1~8
実施例2~15、17~33及び比較例1~8の合成繊維用処理剤は、下記表1、2に示した配合で、上記実施例1、16の調製方法と同様にして調製した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1、2中の比率(%)は、合成繊維用処理剤全体を100質量%とした場合の、各成分の配合割合を質量比率(%)で表した数値である。
表1、2中の各記号は、下記成分を表す。
<平滑剤(A)>
・分岐エステル化合物(A1-1)
A1-1-1:ナタネ油
A1-1-2:トリメチロールプロパントリオレアート
A1-1-3:ジ(イソステアリル)チオジプロピオナート
A1-1-4:ジ(イソセチル)チオジプロピオナート
A1-1-5:ジ(イソステアリル)アジパート
A1-1-6:イソトリデシルステアラート
A1-1-7:イソトリデシルオレアート
A1-1-8:イソオクチルパルミタート
A1-1-9:トリメチロールプロパンジオレアート
・その他のエステル化合物(A1-2)
A1-2-1:ドデシルオレアート
A1-2-2:ドデシルパルミタート
A1-2-3:ブタンジオールジオレアート
・その他の平滑剤
A2-1:鉱物油(30mm/s、40℃)
<イオン界面活性剤(B)>
・カルボン酸化合物(B1)
B1-1:N-メチル-N-ココイルグリシン/ナトリウム塩
B1-2:N-メチル-N-ラウロイルグリシン/ナトリウム塩
B1-3:N-メチル-N-ラウロイルグリシン
B1-4:N-メチル-N-デカノイルグリシン/ナトリウム塩
B1-5:N-メチル-N-オレオイルグリシン/カリウム塩
B1-6:N-メチル-N-ココイルアラニン/カリウム塩
・その他のイオン界面活性剤
B2-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム塩(炭素数:11~14)
B2-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩
B2-3:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
B2-4:オレイン酸カリウム塩
B2-5:オレイルアルコール-エチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル
B2-6:イソセチルリン酸エステル
B2-7:オレイルリン酸エステル
B2-8:リノレン酸
【0029】
<ノニオン界面活性剤(C)>
・脂肪酸誘導体(C1)
C1-1:オレイン酸1モルに対しEO10モル付加したもの
C1-2:ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してオレイン酸2モルでエステル化したもの
C1-3:ポリエチレングリコール(平均分子量400)1モルに対してラウリン酸2モルでエステル化したもの
C1-4:ポリエチレングリコール(平均分子量600)1モルに対してパーム油脂肪酸1.5モルでエステル化したもの
・アルコール誘導体(C2)
C2-1:イソドデシルアルコール1モルに対してEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの
C2-2:イソトリデシルアルコール1モルに対しPO10モルを付加させたものにEO10モルを付加したもの
C2-3:2-エチルヘキサノール1モルに対してEO4モルとPO8モルをランダムに付加したもの
C2-4:オレイルアルコール1モルに対してEO10モルを付加したもの
C2-5:ブチルアルコール1モルに対してEO10モルとPO10モルをランダムに付加したもの
・アミド誘導体(C3)
C3-1:オレイン酸ジエタノールアミド1モルにEO3モル付加したもの
C3-2:ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド1モルにEO5モル付加したもの
C3-3:オレイン酸ジエタノールアミド
・アミン誘導体(C4)
C4-1:オレイルアミンとステアリルアミンとパルミチルアミンの混合物1モルにEO10モル付加したもの
C4-2:ヤシアミン1モルにEO5モル付加したもの
・その他のノニオン界面活性剤
C5-1:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
C5-2:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
C5-3:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量:5000)
C5-4:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したもの
C5-5:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
C5-6:ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加したもの
C5-7:ソルビタンモノオレアート
C5-8:ソルビタントリオレアート
C5-9:ポリオキシエチレン(9モル)メチルエーテルオレアート
<その他の成分>
X-1:ポリエーテル変性シリコーン
X-2:1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸
X-3:エチレングリコール
X-4:ジエチレングリコール
X-5:ポリエチレングリコール(平均分子量:300)
X-6:グリセリン
X-7:クエン酸トリエタノールアミン塩
X-8:オレイルイミダゾリン
【0030】
<合成繊維用処理剤の合成繊維への付着とゴム接着評価試験>
上記「合成繊維用処理剤の調製」で調製した合成繊維用処理剤を希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした(実施例1~21、実施例26~33、比較例1~8では希釈剤を有機溶剤とし、実施例22~25は希釈剤を水とした)。この溶液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付着量が1.0質量%となるように、1670デシテックス、288フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に付着させて合成繊維を製造した。
作製した合成繊維2本を用いて、下撚り40回/10cm、上撚り40回/10cmの撚数で撚り、撚糸コードとした。この撚糸コードを、第1接着剤として、エポキシ化合物(デナコールEX512:ナガセケムテックス社製)と、ブロックドイソシアネート(エラストロンBN-27:第一工業製薬社製)とが固形分比で5:5となるように配合された接着剤に浸漬した後、245℃で熱処理した。更に、第2接着剤として、レゾルシン(レソルシノール:キシダ化学社製)と、ホルマリン(ホルムアルデヒド液37%:キシダ化学社製)と、ラテックス(Nipol2518FS:日本ゼオン社製)とが固形分比で
1.5:0.5:8となるように配合された溶液(RFL溶液)に撚糸コードを浸漬した後、245℃で熱処理した。
以上の手順により作製した接着剤で処理した補強用コードを、JIS-L1017(化学繊維タイヤコード試験方法)に記載のTテスト(A法)に準拠して接着力を測定し、下記の基準で評価した。結果を下記表3、4にまとめて示す。
[接着性の評価基準]
◎◎:接着力が16.0kg以上である場合
◎〇:接着力が15.7kg以上、16.0kg未満である場合
〇〇:接着力が15.4kg以上、15.7kg未満である場合
〇:接着力が15.0kg以上、15.4kg未満である場合
×:接着力が15.0kg未満である場合
【0031】
<染色性評価試験>
ポリエチレンテレフタラートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、上記「合成繊維用処理剤の調製」で調製した合成繊維用処理剤を希釈剤にて均一に希釈した20%の希釈溶液を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた(実施例1~21、実施例26~33、比較例1~8では希釈剤を低粘度鉱物油とし、実施例22~25は希釈剤を水とした)。合成繊維用処理剤の付着量が0.6質量%(水と低粘度鉱物油を含まない)となるように給油した。その後、ガイドで集束させて、245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.5倍となるように延伸し、1670デシテックス144フィラメントの延伸糸を得た。この紡糸工程において得られた繊維360本を経糸とし、緯糸として560デシテックス-96フィラメントのポリエステル糸を用いて緯糸密度21本/インチで51mm幅のシートベルト用生機を用い、精錬することなしに以下の染液(水1Lに対してDianix Red S-4G 3.4g、Dianix Yellow S-6G 3.3g、Dianix S-2G 3.3gを添加した溶液)に浸漬させ、連続して220℃の発色槽で2分間の処理を行うことにより染色を行った。この時のシートベルト2000m当たりの染色欠点数から以下の基準により染色性を評価した。結果を表3、4にまとめて示す。
[染色性の評価基準]
◎:染色欠点数0~3
○:染色欠点数4~10
×:染色欠点数11以上
【0032】
<タール洗浄性評価試験>
上記「合成繊維用処理剤の合成繊維への付着とゴム接着評価試験」において、合成繊維用処理剤の付着量が不揮発分として1.0質量%となるように処理剤を付与した繊維を初期張力1.5kg、糸速度0.5m/分で、表面温度250℃の梨地クロムピンに接触させて12時間走行させることで、梨地クロムピンにタールを付着させた。ついで、梨地クロムピンに付着したタールを5%NaOHとなるよう調製したグリセリン溶液を含浸させた綿棒を用いて180℃で擦り、タールが消えるまでの回数を測定した。タール洗浄性は次の基準で評価した。結果を表3、4にまとめて示す。
[タール洗浄性の評価基準]
◎:50回未満
○:50回以上200回未満
×:200回以上
【0033】
<毛羽評価試験>
上記「染色性評価試験」において、処理剤の付着量が不揮発分として0.6質量%となるように合成繊維用処理剤を付与した繊維であって、300m/minで走行させた繊維
に対して、初期張力2kgで表面温度150℃の梨地クロムピンを接触させた。毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製)にて、クロムピン擦過後の走行糸の10分間当たりの毛羽数を測定し、以下の基準で評価した。結果を表3、4にまとめて示す。
[毛羽の評価基準]
◎◎(特に優れる):測定された毛羽数が2個未満
◎〇(優れる):測定された毛羽数が2個以上4個未満
〇〇(良好):測定された毛羽数が4個以上6個未満
〇(可):測定された毛羽数が6個以上8個未満
×(不良):測定された毛羽数が8個以上
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
表3、4の結果より、本発明の合成繊維用処理剤(実施例1~33)は、分子中に分岐の鎖状構造を有する分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を含有する平滑剤(A)、分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を含有するイオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)を含有し、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して前記エステル化合物(A1)を15質量%以上含有することにより、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性やタール洗浄性に優れ、かつ、良好な染色性やゴム接着性が得られることが明らかとなった。
また、ジ亜リン酸を0.01質量%、0.02質量%、0.08質量%含有する実施例16、17、28は、ゴム接着性、染色性、タール洗浄性及び耐毛羽性において、ジ亜リン酸を含有しない点以外は同じ組成の実施例3、21と比較しても、同様に優れた効果を発揮することが確認された。
さらに、ジ亜リン酸を0.14質量%含有する実施例30は、ジ亜リン酸を含有しない点以外は同じ組成の実施例10と比較すると、同様に優れた染色性やゴム接着性が得られることが、タール洗浄性及び耐毛羽性は良好であり実用に問題ないことも確認された。
これに対して、本発明の組成とは相違する合成繊維用処理剤(比較例1~8)、詳しくは、ノニオン界面活性剤(C)を含有しない比較例1、平滑剤(A)を含有しない比較例2はもとより、分岐エステル化合物(A1-1)を含有しない比較例5、エステル化合物(A1)を含有しない比較例4に加え、本発明の分岐エステル化合物(A1-1)を含有するものの含有量が本発明より少ない比較例3や、本発明の分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を含有しない比較例6は、ゴム接着性、染色性、タール洗浄性及び耐毛羽性に劣ることが、明らかとなった。
特に、比較例6は、本発明の合成繊維用処理剤の具体例である実施例3と、本発明の分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つであるカルボン酸化合物(B1)を含有しない以外の組成が概ね等しいが、ゴム接着性、タール洗浄性、耐毛羽性の点で大きく劣ることが確認された。
また、ジ亜リン酸を0.35質量%含有する比較例7は、ジ亜リン酸を含有しない点以外は同じ組成の実施例3と比較すると、ゴム接着性、染色性、タール洗浄性及び耐毛羽性が劣り、特に、タール洗浄性及び耐毛羽性において、実用場面での使用が困難なものであることが明らかとなった。ジ亜リン酸を0.50質量%含有する比較例8も同様に、タール洗浄性及び耐毛羽性において、実用場面での使用が困難なものであることが明らかとなった。
ジ亜リン酸及びその塩は、合成繊維用処理剤の製造に用いられる触媒や着色防止剤として混入する可能性があり、タール洗浄性を悪化させ、さらには製造される合成繊維の毛羽数の増大に繋がる物質であるが、ジ亜リン酸及びその塩の含有量が0.15質量%以下の範囲であれば、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性やタール洗浄性に優れ、かつ、良好な染色性やゴム接着性が得られるという本発明の効果を妨げないことが、上記評価結果より明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、合成繊維糸条の毛羽を低減することにより、良好な工程通過性を発揮し、優れた紡糸性を得ることができ、紡糸工程で発生するタールの洗浄を容易にし、さらにはローラーとの摩擦の抵抗を小さくできるものである。
加えて、本発明の合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、後加工工程において良好な染色性とゴム接着性を発揮することができるため、特にシートベルト用途やタイヤコード用途等における後加工工程において非常に有用である。
【要約】
【課題】本発明は、紡糸工程で発生するタールの洗浄を容易にし、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、かつ、良好な染色性や補強用コードとした際にゴム接着性が得られる合成繊維用処理剤と、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することを課題としている。
【解決手段】平滑剤(A)、イオン界面活性剤(B)及びノニオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記平滑剤(A)が、下記の分岐エステル化合物(A1-1)を含むエステル化合物(A1)を含有し、前記イオン界面活性剤(B)が、下記のカルボン酸化合物(B1)を含有し、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して前記エステル化合物(A1)を15質量%以上含有し、かつ、ジ亜リン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1つの含有量が0~0.15質量%の範囲であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
分岐エステル化合物(A1-1):分子中に分岐の鎖状構造を有するエステル化合物。
カルボン酸化合物(B1):分子中に炭素数8~20のアシル基を有するN-メチルグリシン誘導体及びN-メチルアラニン誘導体から選ばれる少なくとも1つ。
【選択図】なし