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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】熱成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/16 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
B29C51/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022080261
(22)【出願日】2022-05-16
【審査請求日】2022-05-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 和司
(72)【発明者】
【氏名】小熊 靖
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 教史
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-523382(JP,A)
【文献】特開2002-103434(JP,A)
【文献】特許第6966134(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射加熱装置と、前記輻射加熱装置に樹脂フィルムを挟んで対向する基台と、を備え、前記輻射加熱装置により前記樹脂フィルムを所定の温度まで輻射加熱するための加熱工程と、輻射加熱された前記樹脂フィルムを前記基台に載置された繊維成形体に接着する接着工程と、を行うための熱成形装置において、
前記接着工程において、前記繊維成形体と前記樹脂フィルムとの間を真空吸引し、前記樹脂フィルムを前記繊維成形体に密着させるための減圧手段を備えること、
前記輻射加熱装置は、前記加熱工程において前記樹脂フィルムの輻射加熱を行う第1加熱位置と、前記接着工程において前記樹脂フィルムの輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、前記樹脂フィルムに対する距離が可変であること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記第2加熱位置は、前記第1加熱位置よりも、前記輻射加熱装置と前記樹脂フィルムとの距離が近いこと、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱成形装置において、
前記輻射加熱装置の出力を、所定の時間内に前記樹脂フィルムが前記所定の温度に達するために必要な加熱温度に制御するとともに、前記輻射加熱装置を前記第1加熱位置に位置させることで前記加熱工程を行い、前記加熱工程の完了後に、前記減圧手段による前記真空吸引を行うとともに、前記輻射加熱装置を前記加熱温度のまま前記第2加熱位置に移動させることで前記接着工程を行う制御プログラムを備えること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記第2加熱位置は、前記第1加熱位置よりも、前記輻射加熱装置と前記樹脂フィルムとの距離が遠いこと、
を特徴とする熱成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射加熱装置と、輻射加熱装置に樹脂フィルムを挟んで対向する基台と、を備え、輻射加熱装置により樹脂フィルムを成形可能な所定の温度まで輻射加熱するための加熱工程と、輻射加熱された樹脂フィルムを、基台に載置された繊維成形体に接着する接着工程と、を行うための熱成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品用の包装用容器として、従来プラスチック製の容器が用いられているが、プラスチック製の容器は、廃棄された場合に自然分解されないため、環境汚染の原因になると考えられている。そのような中、廃棄されたとしても自然分解されるパルプモールド等の繊維成形体が、環境汚染を抑えることが出来るとして期待されており、食品用の包装用容器として用いられるケースが増えている。
【0003】
繊維成形体を食品用の包装容器として用いる場合、そのまま食品を充填すると、食品に含まれる水分や油分が繊維成形体に浸透して、漏れが生じるおそれがある。このため、繊維成形体の食品と接触する面に熱可塑性を有する樹脂フィルムを接着し、繊維成形体に耐水性や耐油性を与える処理が行われることが一般的である。例えば、特許文献1には、樹脂フィルムが接着された紙製容器が開示されている。
【0004】
繊維成形体への樹脂フィルムの接着は、例えば、図5に示すような、樹脂フィルム4を加熱するための輻射加熱装置6と、パルプモールド10(繊維成形体の一例)を載置するための下型5と、を備える熱成形装置100を用いて行う。
【0005】
熱成形装置100は、輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度まで輻射加熱し、輻射加熱されて軟化した樹脂フィルム4を下型5に載置されたパルプモールド10に接着するための装置である。なお、輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度まで輻射加熱する工程を加熱工程といい、輻射加熱されて軟化した樹脂フィルム4を下型5に載置されたパルプモールド10に接着する工程を接着工程という。
【0006】
樹脂フィルム4は、例えば、素材をポリプロピレン(PP)とする熱可塑性のフィルムである。厚みは、例えば80μmとする。樹脂フィルム4の融点は、例えば167℃であり、加熱工程では、成形可能な所定の温度である160℃(温度C21(図6(d)参照))まで加熱される。樹脂フィルム4の、パルプモールド10に対向する面には、パルプモールド10との接着性を向上させるために、ヒートシール剤などによる接着層(不図示)が設けられている。
【0007】
下型5は、型枠51と、台座53と、基台52と、からなる。型枠51は、架台512と、架台512に立設される周壁511とを有している。架台512は、上下方向VTに貫通する通気口512aを有しており、この通気口512aには、真空ポンプ7が接続されている。真空ポンプ7は、通気口512aを介して、型枠51内を真空吸引可能である。
【0008】
架台512の上方には、周壁511に囲まれて、基台52を搭載するための台座53が固定されている。台座53は、台座53を上下方向VTに貫通する複数の連通路531を有している。台座53の上下方向VTの上側の端面には、周壁511に囲まれて、パルプモールド10を載置するための基台52が搭載されている。
【0009】
基台52は、輻射加熱装置6側(上下方向VTの上側)の端面に、パルプモールド10の形状に合わせた載置面521が穿設されている。さらに、基台52は、載置面521に開口する複数の真空通気口522を備える。真空ポンプ7によって型枠51内が真空吸引されると、連通路531および真空通気口522を介して、載置面521側を真空吸引することが出来る。図5に示す状態で、載置面521側を真空吸引することで、樹脂フィルム4を、パルプモールド10の内面104に隙間なく接着することが可能となる。パルプモールド10は通気性を有するため、載置面521にパルプモールド10が載置されていたとしても、載置面521側の加圧および真空吸引が妨げられることがない。
【0010】
輻射加熱装置6は、下型5に、樹脂フィルム4を挟んで対向して位置している。図1に示す輻射加熱装置6の位置が、加熱工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行うための加熱位置である。当該加熱位置における輻射加熱装置6の基台52に対する距離D11は、輻射加熱装置6の出力や、樹脂フィルム4の素材、加熱工程や接着工程にかける目標時間等に基づき定められる。
【0011】
以上のような構成を有する熱成形装置100を用いて行う加熱工程と接着工程について、図6を用いて説明する。図6(a)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置6についての出力のタイムチャートである。図6(b)は、接着工程および加熱工程における真空ポンプ7の排気速度についてのタイムチャートである。図6(c)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置6の位置(輻射加熱装置6の基台52に対する距離)についてのタイムチャートである。図6(d)は、接着工程および加熱工程における樹脂フィルム4の温度変化を様子を表すグラフである。
【0012】
図6(a)に示すように、時点t1から輻射加熱装置6の出力を開始し、加熱工程が開始される。輻射加熱装置6の出力は、加熱工程、接着工程を通して、温度C11で一定である。なお、温度C11の値は、輻射加熱装置6の性能や、加熱対象の樹脂フィルム4の素材等により任意に設定されるものであるが、ここでは、輻射加熱装置6の温度を600℃とする。また、輻射加熱装置6の基台52に対する距離は、図6(c)に示すように、加熱工程、接着工程を通して、距離D11で一定である。
【0013】
樹脂フィルム4の温度は、図6(d)に示すように、輻射加熱装置6による加熱が開始される時点t1から、時間経過に比例して上昇していく。そして、樹脂フィルム4の温度は、時点t2で成形可能な温度C21(160℃)に達し、加熱工程が完了する。加熱工程に要する時間(時点t1から時点t2までの時間)は、輻射加熱装置6の出力、輻射加熱装置6の基台52に対する距離、樹脂フィルム4の素材等に左右されるが、例えば約8秒である。
【0014】
熱成形装置100は、加熱工程が完了すると、接着工程を行う。具体的には、図6(b)に示すように、時点t2から真空ポンプ7による真空吸引が、真空ポンプ7の能力に応じた最大排気速度S11で行われる。この真空吸引を行うことで、樹脂フィルム4は、パルプモールド10の形状に沿って賦形されるとともに、パルプモールド10に接着される。接着工程に要する時間(時点t2から時点t6までの時間)は、輻射加熱装置6の出力、輻射加熱装置6の基台52に対する距離、樹脂フィルム4の厚みや素材等に左右されるが、例えば約15秒である。
【0015】
そして、樹脂フィルム4が接着されたパルプモールド10は、例えば、樹脂フィルム4が水平方向HZに沿って送られることで、次工程に搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2001-233317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
樹脂フィルム4は、真空ポンプ7の真空吸引により賦形される際、パルプモールド10に接触することで、パルプモールド10によって冷やされるため、図6(d)に示すように、樹脂フィルム4の温度が温度C21から温度C23まで低下している。樹脂フィルム4の温度が低下してしまうと、十分に接着されないおそれがある。
【0018】
そこで、樹脂フィルム4の温度が再び温度C21となるよう、図6(a)に示すように、時点t2以降も、輻射加熱装置6による加熱を続ける。そして、樹脂フィルム4の温度が再び温度C21となった時点t5意向も、さらに加熱を続け、樹脂フィルム4をパルプモールドに定着させる。なお、時点t2から時点t5の間、図6(b)に示すように、真空吸引は継続して行われており、加熱中に樹脂フィルム4がパルプモールド10に密着した状態を保つようにしている。
【0019】
樹脂フィルム4は、賦形されることで、輻射加熱装置6との距離が、賦形される前と比べて離れてしまう。このため、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に与える熱量が低下し、図6(d)に示すように、樹脂フィルム4の温度を再び温度C21とするまでに(時点t2から時点t5までに)、加熱工程に要する時間(時点t1から時点t2までの時間)と同程度の時間を要してしまっている。このことは、接着工程に要する時間(時点t2から時点t6までの時間)が長くなる要因となっており、(接着工程に要する時間は、加熱工程に要する時間の約2倍)、製造効率の低下を招いている。
【0020】
また、樹脂フィルム4の、真空吸引による賦形は瞬間的に行われるものであるが、樹脂フィルム4の温度は、賦形されていく過程で、パルプモールド10に接触した箇所から急激に低下していく。樹脂フィルム4の温度がパルプモールド10に接触した箇所から急激に低下していくと、樹脂フィルム4のパルプモールド10に接触した箇所とパルプモールド10に接触していない箇所との間に急激な温度差が生じる。この温度差により、賦形を行う過程で樹脂フィルム4が破断するなど、接着に適した溶融状態ではなくなり、安定した樹脂フィルム4の賦形および接着を行うことが出来ないおそれがある。
【0021】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、製造効率の向上を図ることが可能であるとともに、繊維成形体に対する樹脂フィルムの接着を安定して行うことが可能な熱成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の熱成形装置は、次のような構成を有している。
【0023】
(1)輻射加熱装置と、前記輻射加熱装置に樹脂フィルムを挟んで対向する基台と、を備え、前記輻射加熱装置により前記樹脂フィルムを所定の温度まで輻射加熱するための加熱工程と、輻射加熱された前記樹脂フィルムを、前記基台に載置された繊維成形体に接着する接着工程と、を行うための熱成形装置において、前記接着工程において、前記繊維成形体と前記樹脂フィルムとの間を真空吸引し、前記樹脂フィルムを前記繊維成形体に密着させるための減圧手段を備えること、前記輻射加熱装置は、前記加熱工程において前記樹脂フィルムの輻射加熱を行う第1加熱位置と、前記接着工程において前記樹脂フィルムの輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、前記樹脂フィルムに対する距離が可変であること、を特徴とする。
【0024】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、前記第2加熱位置は、前記第1加熱位置よりも、前記輻射加熱装置と前記基台との距離が近いこと、を特徴とする。
【0025】
(3)(1)または(2)に記載の熱成形装置において、前記輻射加熱装置の出力を、所定の時間内に前記樹脂フィルムが前記所定の温度に達するために必要な加熱温度に制御するとともに、前記輻射加熱装置を前記第1加熱位置に位置させることで前記加熱工程を行い、前記加熱工程の完了後に、前記減圧手段による前記真空吸引を行うとともに、前記輻射加熱装置を前記加熱温度のまま前記第2加熱位置に移動させることで前記接着工程を行う制御プログラムを備えること、を特徴とする。
【0026】
(1)または(2)または(3)に記載の熱成形装置によれば、輻射加熱装置は、樹脂フィルムを成形可能な所定の温度まで加熱するための加熱工程において、樹脂フィルムの輻射加熱を行う第1加熱位置と、樹脂フィルムを繊維成形体に接着するための接着工程において、樹脂フィルムの輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、樹脂フィルムに対する距離が可変である。よって、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置と樹脂フィルムとの距離が近いものとすることで、樹脂フィルムを繊維成形体に接着する際に、輻射加熱装置が樹脂フィルムに対して与える熱量を増加させることができる。
【0027】
樹脂フィルムを繊維成形体に接着する際に、輻射加熱装置が樹脂フィルムに対して与える熱量を増加させることができれば、繊維成形体に接触することで冷めてしまった樹脂フィルムを、再び成形可能な温度に達するまで輻射加熱するために必要な時間を、従来よりも短くすることができる。これにより、製造効率の向上を図ることができる。
【0028】
また、樹脂フィルムを繊維成形体に接着する際に、輻射加熱装置が樹脂フィルムに対して与える熱量を増加させることができれば、樹脂フィルムの、繊維成形体に接触することによる温度低下を抑えることができる。これにより、樹脂フィルムの繊維成形体に接触した箇所と繊維成形体に接触していない箇所との間に生じる温度差を緩和することができ、繊維成形体に対する樹脂フィルムの接着を安定して行うことが可能である。
【0029】
(4)(1)に記載の熱成形装置において、前記第2加熱位置は、前記第1加熱位置よりも、前記輻射加熱装置と前記樹脂フィルムとの距離が遠いこと、を特徴とする。
【0030】
接着工程において輻射加熱装置が樹脂フィルムを輻射加熱する際、繊維成形体が、その材質によっては過剰に熱せられて、安定した樹脂フィルムの賦形および接着を妨げるばかりか、発煙や発火等のおそれがある。(4)に記載の熱成形装置によれば、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置と樹脂フィルムとの距離が遠いため、接着工程において輻射加熱装置が繊維成形体に対して与える熱量を低下させることができる。これにより、繊維成形体が過剰に熱せられることを防ぐことが可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の熱成形装置によれば、製造効率の向上を図ることが可能であるとともに、繊維成形体に対する樹脂フィルムの接着を安定して行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態に係る熱成形装置の構成を示すとともに、熱成形装置が加熱工程にある状態を表す図である。
図2】本実施形態に係る熱成形装置が接着工程にある状態を表す図である。
図3】輻射加熱装置の放熱部側から見た平面図である。
図4】(a)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置の出力についてのタイムチャートである。(b)は、接着工程および加熱工程における真空ポンプの排気速度についてのタイムチャートである。(c)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置の位置についてのタイムチャートである。(d)は、接着工程および加熱工程における樹脂フィルムの温度変化を様子を表すグラフである。
図5】従来技術に係る熱成形装置の構成を示す図である。
図6】(a)は、従来技術に係る接着工程および加熱工程における輻射加熱装置の出力についてのタイムチャートである。(b)は、従来技術に係る接着工程および加熱工程における真空ポンプの排気速度についてのタイムチャートである。(c)は、従来技術に係る接着工程および加熱工程における輻射加熱装置の位置についてのタイムチャートである。(d)は、従来技術に係る接着工程および加熱工程における樹脂フィルムの温度変化を様子を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る熱成形装置ついて、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る熱成形装置1の構成を示すとともに、熱成形装置1が加熱工程にある状態を表す図である。図2は、本実施形態に係る熱成形装置1が接着工程にある状態を表す図である。図3は、輻射加熱装置6の放熱部6a側から見た平面図である。
【0034】
<熱成形装置の構成について>
第1の実施形態に係る熱成形装置1は、図1に示すように、下型5と、輻射加熱装置6と、からなり、輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度まで輻射加熱し、輻射加熱されて軟化した樹脂フィルム4を下型5に載置されたパルプモールド10(繊維成形体の一例)に接着するための装置である。なお、輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度まで輻射加熱する工程を加熱工程といい、輻射加熱されて軟化した樹脂フィルム4を下型5に載置されたパルプモールド10に接着する工程を接着工程という。
【0035】
パルプモールド10は、パルプ材を原料として、厚み0.5~3mm程度に成形された、例えば食品用の包装容器である。パルプモールド10の形状は、特に限定されないが、例えば、平面視(図1中の上方から見た状態)で長円状の底部101と、底部101の周縁から立ち上がる周壁部102と、周壁部102の上端からパルプモールド10の外方に張り出すフランジ部103と、を有するものである。また、パルプモールド10の輻射加熱装置6側(図1において上側)の内面104は、パルプモールド10に充填される食品と接触する面である。なお、パルプ材としては、木材パルプ(バージン材に限る)や、葦、サトウキビ、竹等を使用する非木材パルプ(バージン材に限る)が用いられる。ただし、パルプモールド10が食品用途でなければ、パルプ材として、上記の他に、再生材の木材パルプおよび非木材パルプや、、新聞、雑誌、又はダンボール等の古紙を使用する古紙パルプを用いても良い。パルプモールド10は、上記したようなパルプ材を用いた繊維の集合体であるため、通気性を有しており、樹脂フィルム4を接着する前においては、図1中の上面側と下面側との間を空気が通ることが出来る。
【0036】
樹脂フィルム4は、素材をポリプロピレン(PP)とする熱可塑性のフィルムである。ただし、材質はポリプロピレン(PP)に限定されず、食品衛生上の基準(例えば食品衛生法に定められた基準)に合致するものであれば良い。例えば、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどを用いることができる。
【0037】
樹脂フィルム4の、パルプモールド10に対向する面は、パルプモールド10の内面104に接着される接着面である。接着面には、パルプモールド10との接着性を向上させるために接着層(不図示)が設けられている。この接着層は、ヒートシール剤などの熱接着性樹脂の塗布や、熱接着性樹脂を押し出しコートするなどして設けられている。
【0038】
樹脂フィルム4の厚みは、製造コストを抑える目的から100μm未満であることが望ましく、本実施形態においては、例えば80μmのものを用いている。なお、図面においては、樹脂フィルム4の厚みがパルプモールド10の厚みの半分程度であるように示しているが、これは図面を見やすくするためであり、実際の厚みとは異なる。また、樹脂フィルム4の融点は、特に限定されないが、例えば167℃であり、加熱工程では、所定の成形可能な温度まで加熱される。成形可能な温度とは、例えば、本実施形態においては160℃(温度C21(図4(d)参照))である。
【0039】
また、樹脂フィルム4は、熱成形装置1によって賦形される前に、パルプモールド10の平面視(図1中の上方から見た状態)における外形に沿って予め切断されている。具体的には、図1に示すように、パルプモールド10のフランジ部103に対してのみ接着された状態で、フランジ部103の外周に沿って予め切断されている。なお、樹脂フィルム4のフランジ部103のみへの接着および切断は、事前工程として熱成形装置1とは別の装置によって行うものとしても良いし、熱成形装置1がトムソン刃等の切断装置を備えるものとして、熱成形装置1で、樹脂フィルム4を、フランジ部103に対してのみ接着し、切断装置によって、フランジ部103の外周に沿って切断するものとしても良い。
【0040】
以上のような樹脂フィルム4は、熱成形装置1内において、輻射加熱装置6によって約160℃まで加熱された後、図2に示すように、パルプモールド10の内面104に沿って賦形されるとともに、内面104に接着される。パルプモールド10は、樹脂フィルム4が接着されることで、耐水性や耐油性、耐熱性を具備する。
【0041】
下型5は、型枠51と、台座53と、基台52と、からなる。型枠51は、ステンレス等の金属製の部材からなっており、架台512と、架台512に立設される周壁511とを有している。架台512は、上下方向VTに貫通する通気口512aを有しており、この通気口512aには、真空ポンプ7(減圧手段の一例)が接続されている。真空ポンプ7は、通気口512aを介して、型枠51内を真空吸引可能である。
【0042】
架台512の上方には、周壁511に囲まれて、基台52を搭載するための台座53が固定されている。台座53は、台座53を上下方向VTに貫通する複数の連通路531を有している。台座53の上下方向VTの上側の端面には、周壁511に囲まれて、パルプモールド10を載置するための基台52が搭載されている。
【0043】
基台52は、輻射加熱装置6側(上下方向VTの上側)の端面に、パルプモールド10の形状に合わせた載置面521が穿設されている。さらに、基台52は、載置面521に開口する複数の真空通気口522を備える。真空ポンプ7によって型枠51内が真空吸引されると、連通路531および真空通気口522を介して、載置面521側を真空吸引することが出来る。パルプモールド10は通気性を有するため、載置面521にパルプモールド10が載置されていたとしても、載置面521側の加圧および真空吸引が妨げられることがない。よって、図1に示す状態で、載置面521側を真空吸引することで、パルプモールド10と樹脂フィルム4との間が真空吸引され、樹脂フィルム4を、パルプモールド10の内面104に隙間なく接着することが可能となる。
【0044】
下型5の通気口512aには、並列する第1配管11Aと第2配管11Bとにより、真空ポンプ7が接続されている。
【0045】
第1配管11A上には、第1開閉弁8が配設されている。第1開閉弁8を開弁すれば第1配管11Aは開放され、真空ポンプ7は、第1配管11Aによって、真空吸引を行うことができる。一方、第1開閉弁8を閉弁すれば第1配管11Aは遮断される。
【0046】
第2配管11B上には、真空ポンプ7側から順に、第2開閉弁9、流量調整弁13が配設されている。第2開閉弁9を開弁すれば第2配管11Bは開放され、真空ポンプ7は、第2配管11Bによって、真空吸引を行うことができる。一方で、第2開閉弁9を閉弁すれば第2配管11Bは遮断される。また、流量調整弁13は、弁開度が調整可能であり、弁開度を調整することで、第2配管11Bにより、真空吸引を行う際の排気速度を調整することが可能である。
【0047】
真空ポンプ7は、熱成形装置1の動作中は常に動作しており、第1開閉弁8を開弁し、第2開閉弁9を閉弁すれば、第1配管11Aによって、真空ポンプ7の能力に応じた最大排気速度S11(図4(b)参照)で真空吸引を行うことができる。一方で、第1開閉弁8を閉弁し、第2開閉弁9を開弁すれば、第2配管11Bによって、流量調整弁13の弁開度に応じた排気速度(例えば、後述の所定の排気速度S12(図4(b)参照))で真空吸引を行うことができる。
【0048】
輻射加熱装置6は、下型5に、樹脂フィルム4を挟んで対向して位置している。輻射加熱装置6は、下型5側の端面が、放熱部6aであり、この放熱部6aは、図3に示すように、複数のヒータ要素61により形成されている。具体的には、輻射加熱装置6は、X方向に6個のヒータ要素61(平面視八角形)が隣接して配置されたヒータ要素61の列が、Y方向に5列隣接して並ぶ態様で、合計30個のヒータ要素61を有する。これら30個のヒータ要素61によって、放熱部6aが構成されている。なお、なお、図3中のX方向とは、図1および図2における水平方向HZと平行な方向である。また、ヒータ要素61の個数は、上記に限定されるものでなく、あくまで一例である。
【0049】
また、輻射加熱装置6には、図4に示すように、輻射加熱装置6の中央領域に位置する4つのヒータ要素61に囲まれるようにして、温度センサ62が設けられている。温度センサ62は、例えば放射温度計である。この温度センサ62は、樹脂フィルム4の輻射加熱装置6に対向する面の温度を計測することができる。これにより、熱成形装置1は、加熱工程および接着工程における樹脂フィルム4の温度を検知することができる。
【0050】
輻射加熱装置6は、昇降手段12(例えば、エアシリンダ等)により上下方向VTに沿って上下動可能となっており、第1加熱位置と第2加熱位置との間を移動可能となっている。図1に示す輻射加熱装置6の位置が、加熱工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行うための第1加熱位置である。図2に示す輻射加熱装置6の位置が、接着工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行うための第2加熱位置である。そして、第2加熱位置における輻射加熱装置6の基台52に対する距離D12は、距離第1加熱位置における輻射加熱装置6の基台52に対するD11よりも小さく設定されている。このように、輻射加熱装置6が第1加熱位置と第2加熱位置との間を移動可能であることで、輻射加熱装置6の樹脂フィルム4に対する距離が可変となっている。なお、第1加熱位置における輻射加熱装置6の基台52に対する距離D11と、第2加熱位置における輻射加熱装置6の基台52に対する距離D12は、輻射加熱装置6の出力や、樹脂フィルム4の素材、加熱工程や接着工程にかける目標時間等に基づき定められる。
【0051】
<加熱工程および接着工程について>
以上のような構成を有する熱成形装置1を用いて行う加熱工程と接着工程について、図4を用いて説明する。図4(a)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置6についての出力のタイムチャートである。図4(b)は、接着工程および加熱工程における真空ポンプ7の排気速度についてのタイムチャートである。図4(c)は、接着工程および加熱工程における輻射加熱装置6の位置(輻射加熱装置6の基台52に対する距離)についてのタイムチャートである。図4(d)は、接着工程および加熱工程における樹脂フィルム4の温度変化を様子を表すグラフである。
【0052】
加熱工程および接着工程を始める前に、樹脂フィルム4を、パルプモールド10のフランジ部103に対してのみ樹脂フィルム4を接着した状態とし、当該樹脂フィルム4をパルプモールド10の平面視における外形に沿って切断する。そして、図1に示すように、パルプモールド10を基台52の載置面521に載置しておく。なお、パルプモールド10を載置面521に載置する作業は、作業者が手作業によって行うこととしても良いし、自動搬送装置等により行うこととしても良い。
【0053】
また、加熱工程および接着工程を始める前に、第1開閉弁8および第2開閉弁9を閉弁し、第1配管11Aおよび第2配管11Bを遮断した状態で、真空ポンプ7を動作させておく。さらに、第2開閉弁9を開弁したときに所定の排気速度S12(図4(b)参照)が得られるように、流量調整弁13の弁開度を調整しておく。なお、所定の排気速度S12の詳細については後述する。
【0054】
まず、加熱工程について説明する。図4(a)に示すように、時点t1から輻射加熱装置6の出力を開始し、加熱工程が開始される。輻射加熱装置6の出力は、加熱工程、接着工程を通して、温度C11で一定である。なお、温度C11の値は、輻射加熱装置6の性能や、加熱対象の樹脂フィルム4の素材等により任意に設定されるものであって、特に限定されないが、本実施形態においては、輻射加熱装置6の最大出力である600℃としている。また、輻射加熱装置6の基台52に対する距離は、図4(c)に示すように、距離D11となっている。これは、輻射加熱装置6が第1加熱位置に位置した状態であることを意味する。
【0055】
真空ポンプ7による真空吸引は、図4(b)に示すように、時点t1から、所定の排気速度S12により真空吸引を開始する。この真空吸引は、第1開閉弁8は閉弁した状態のまま、第2開閉弁9を開弁し、第2配管11Bを開放することで行われる。
【0056】
樹脂フィルム4をパルプモールド10のフランジ部103に接着した状態であるため、パルプモールド10と樹脂フィルム4の間に空気が閉じ込められている。したがって、そのまま輻射加熱装置6により加熱を行うと、パルプモールド10と樹脂フィルム4の間に閉じ込められた空気が膨張し、樹脂フィルム4が輻射加熱装置6側(図1中の上方)に膨れてしまう。すると、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が狭まり、樹脂フィルム4が過剰に加熱され、穴が開いてしまうといった不良が発生するおそれがある。そこで、上記の通り、所定の排気速度S12により真空吸引を行うことで、樹脂フィルム4が輻射加熱装置6側に膨れてしまうことを防止し、樹脂フィルム4が過剰に加熱されることを防止している。
【0057】
所定の排気速度S12は、輻射加熱装置6の出力や、パルプモールド10の容積等に左右されるものであるが、樹脂フィルム4が輻射加熱装置6側に膨れてしまわない速度を、実験により予め求めておく。そして、実験により求められた所定の排気速度S12に応じて、流量調整弁13の弁開度が調整されるのである。なお、所定の排気速度S12で真空吸引を行うことにより、可能な限り樹脂フィルム4が水平に保たれていることが望ましい。これは、樹脂フィルム4全体を均一に加熱するためである。しかし、必ずしも水平に保たれる必要はなく、樹脂フィルム4が輻射加熱装置6側に膨れてしまわなければ良い。例えば、所定の排気速度S12で真空吸引が行われることによって、樹脂フィルム4が、賦形が行われない程度に、パルプモールド10側に凹状に変形していても良い。また、所定の排気速度S12による真空吸引は、加熱工程が開始されると同時に時点t1から行うこととしているが、必ずしも同時でなくとも良い。例えば、加熱を開始してからパルプモールド10と樹脂フィルム4の間に閉じ込められた空気が膨張し始めるタイミングを予め実験により確認しておき、そのタイミングに合わせて所定の排気速度S12による真空吸引を行うこととしても良い。
【0058】
図4の説明に戻ると、樹脂フィルム4の温度は、図4(d)に示すように、輻射加熱装置6による加熱が開始される時点t1から、時間経過に比例して上昇していく。そして、樹脂フィルム4の温度は、時点t2で成形可能な温度C21(160℃)に達し、加熱工程が完了する。加熱工程に要する時間(時点t1から時点t2までの時間)は、輻射加熱装置6の出力、輻射加熱装置6の基台52に対する距離、樹脂フィルム4の素材等に左右されるが、本実施形態においては、約8秒である。
【0059】
次に、接着工程について説明する。加熱工程が完了すると、図4(b)に示すように、真空ポンプ7による真空吸引が、最大排気速度S11で行われる。この真空吸引は、第2開閉弁9は閉弁することで第2配管11Bを遮断し、同時に第1開閉弁8を開弁し、第1配管11Aを開放することで行われる。最大排気速度S11による真空吸引を行うことで、樹脂フィルム4は、図2に示すように、パルプモールド10の形状に沿って賦形される。
【0060】
また、時点t2において、輻射加熱装置6の基台52に対する距離は、図4(c)に示すように、距離D12へ移行される。これは、輻射加熱装置6が第2加熱位置に位置した状態であることを意味する。この際、輻射加熱装置6の出力は図4(a)に示すように、一定状態である。
【0061】
樹脂フィルム4の温度は、賦形され、パルプモールド10に接触することで、パルプモールド10によって冷やされるため、図4(d)に示すように、温度C22まで低下する。しかし、輻射加熱装置6が第2加熱位置において、樹脂フィルム4を加熱し続けているため、時点t3で樹脂フィルム4温度が温度C21に回復する。
【0062】
第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が近いため、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に対して与える熱量を増加させることができる。よって、パルプモールド10に接触することで冷めてしまった樹脂フィルム4を、再び温度C21に達するまで輻射加熱するために必要な時間(時点t2から時点t3までの時間)が、従来必要であった時間(図6(d)における時点t2から時点t5までの時間)よりも短い。具体的には、従来必要であった時間に比べ20~60%程度短くなっている。
【0063】
また、樹脂フィルム4をパルプモールド10に接着する際に、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に対して与える熱量を増加させることができる。よって、樹脂フィルム4の、パルプモールド10に接触することによる温度低下量(温度C21から温度C22への低下量)を抑えることができる。具体的には、従来の温度低下量(図6(d)における温度C21から温度C22への低下量)に比べ、低下量が20~60%程度となった。これにより、樹脂フィルム4のパルプモールド10に接触した箇所と繊維成形体に接触していない箇所との間に生じる温度差を緩和することができ、パルプモールド10に対する樹脂フィルム4の接着を安定して行うことが可能となる。
【0064】
図4の説明に戻ると、接着工程が開始された後、時点t4まで、輻射加熱装置6による加熱および真空ポンプ7による真空吸引が継続される。これは、樹脂フィルム4を、パルプモールド10に対して、より確実に密着および接着するためである。
【0065】
時点t4で、輻射加熱装置6は、図4(a)に示すように、出力を停止する。同時に、輻射加熱装置6は、図4(c)に示すように、第1加熱位置に戻る。なお、必ずしも第1加熱位置に戻る必要はなく、第1加熱位置よりも基台52から離れる位置まで移動することとしても良い。さらに、時点t4で、第1開閉弁8を閉弁し、第1配管11Aを遮断することで、図4(b)に示すように、真空吸引が停止される。以上で、接着工程が完了する。接着工程に要する時間(時点t2から時点t4までの時間)は、輻射加熱装置6の出力、輻射加熱装置6の基台52に対する距離、樹脂フィルム4の厚みや素材、パルプモールド10の密度(透気度)等に左右されるが、本実施形態においては、約6~10秒である。
【0066】
上述した通り、パルプモールド10に接触することで冷めてしまった樹脂フィルム4を、再び温度C21に達するまで輻射加熱するために必要な時間(時点t2から時点t3までの時間)が、従来必要であった時間(図6(d)における時点t2から時点t5までの時間)よりも短いため、接着工程に要する時間(時点t2から時点t4)が、従来の接着工程に要する時間(図6における時点t2から時点t6までの時間)よりも20~60%程度短くなっており、製造効率の向上が図られている。
【0067】
接着工程が完了した後は、樹脂フィルム4が接着されたパルプモールド10を、基台52から取り除く。この、樹脂フィルム4が接着されたパルプモールド10を取り除く作業は、作業者が手作業によって行うこととしても良いし、自動搬送装置等により行うこととしても良い。
【0068】
以上説明した加熱工程および接着工程は、熱成形装置1に接続される制御装置(不図示)に記憶される制御プログラムにより、自動的に行われるものである。
【0069】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る熱成形装置について、第1の実施形態に係る熱成形装置1と異なる点のみ説明する。
【0070】
第2の実施形態に係る熱成形装置は、図1に示す第1の実施形態に係る熱成形装置1と同様の構成を有するが、輻射加熱装置6の第2加熱位置が、図1に示す第1の実施形態に係る熱成形装置1の第2加熱位置と異なっており、第2の実施形態に係る熱成形装置の第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と基台52との距離が遠く設定されている。つまり、輻射加熱装置6は、加熱工程から接着工程に移る段階で樹脂フィルム4から遠ざかる。
【0071】
接着工程において輻射加熱装置6が樹脂フィルム4を輻射加熱する際、パルプモールド10が、その材質によっては過剰に熱せられて焦げるおそれがある。そこで、接着工程において、輻射加熱装置6を樹脂フィルム4から遠ざけることで、輻射加熱装置6がパルプモールド10に対して与える熱量を低下させる。これにより、パルプモールド10が過剰に熱せられることを防ぐことが可能である。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る熱成形装置1によれば、
(1)輻射加熱装置6と、輻射加熱装置6に樹脂フィルム4を挟んで対向する基台52と、を備え、輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度C21まで輻射加熱するための加熱工程と、輻射加熱された樹脂フィルム4を、基台52に載置された繊維成形体(パルプモールド10)に接着する接着工程と、を行うための熱成形装置1において、接着工程において、繊維成形体(パルプモールド10)と樹脂フィルム4との間を真空吸引し、樹脂フィルム4を繊維成形体(パルプモールド10)に密着させるための減圧手段(真空ポンプ7)を備えること、輻射加熱装置6は、加熱工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第1加熱位置と、接着工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、樹脂フィルム4に対する距離が可変であること、を特徴とする。
【0073】
(2)(1)に記載の熱成形装置1において、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が近いこと、を特徴とする。
【0074】
(3)(1)または(2)に記載の熱成形装置1において、輻射加熱装置6の出力を、所定の時間内(時点t1から時点t2)に樹脂フィルム4が所定の温度C21に達するために必要な加熱温度(温度C11)に制御するとともに、輻射加熱装置6を第1加熱位置に位置させることで加熱工程を行い、加熱工程の完了後に、減圧手段(真空ポンプ7)による真空吸引を行うとともに、輻射加熱装置6を加熱温度(温度C11)のまま第2加熱位置に移動させることで接着工程を行う制御プログラムを備えること、を特徴とする。
【0075】
(1)または(2)または(3)に記載の熱成形装置1によれば、輻射加熱装置6は、樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度C21まで加熱するための加熱工程において、樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第1加熱位置と、樹脂フィルム4を繊維成形体(パルプモールド10)に接着するための接着工程において、樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、樹脂フィルム4に対する距離が可変である。よって、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が近いものとすることで、樹脂フィルム4を繊維成形体(パルプモールド10)に接着する際に、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に対して与える熱量を増加させることができる。
【0076】
樹脂フィルム4を繊維成形体(パルプモールド10)に接着する際に、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に対して与える熱量を増加させることができれば、繊維成形体(パルプモールド10)に接触することで冷めてしまった樹脂フィルム4を、再び成形可能な温度C21に達するまで輻射加熱するために必要な時間(時点t2から時点t3)を、従来よりも短くすることができる。これにより、製造効率の向上を図ることができる。
【0077】
また、樹脂フィルム4を繊維成形体(パルプモールド10)に接着する際に、輻射加熱装置6が樹脂フィルム4に対して与える熱量を増加させることができれば、樹脂フィルム4の、繊維成形体(パルプモールド10)に接触することによる温度低下(温度C21から温度C22までの低下)を抑えることができる。これにより、樹脂フィルム4の繊維成形体(パルプモールド10)に接触した箇所と繊維成形体(パルプモールド10)に接触していない箇所との間に生じる温度差を緩和することができ、繊維成形体(パルプモールド10)に対する樹脂フィルム4の接着を安定して行うことが可能である。
【0078】
(4)(1)に記載の熱成形装置1において、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が遠いこと、を特徴とする。
【0079】
接着工程において輻射加熱装置6が樹脂フィルム4を輻射加熱する際、繊維成形体(パルプモールド10)が、その材質によっては過剰に熱せられて、安定した樹脂フィルム4の賦形および接着を妨げるばかりか、発煙や発火等のおそれがある。(4)に記載の熱成形装置1によれば、第2加熱位置は、第1加熱位置よりも、輻射加熱装置6と樹脂フィルム4との距離が遠いため、接着工程において輻射加熱装置6が繊維成形体(パルプモールド10)に対して与える熱量を低下させることができる。これにより、繊維成形体(パルプモールド10)が過剰に熱せられることを防ぐことが可能である。
【0080】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、熱成形装置1は、基台52に1つのパルプモールド10を載置し、樹脂フィルム4の接着を行うものとしているが、複数個のパルプモールドに対して同時に樹脂フィルムの接着を行うものとしても良い。さらに、熱成形装置1は、下型5の上方に輻射加熱装置6が位置するものとしているが、上下位置は逆転されたものであっても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 熱成形装置
4 樹脂フィルム
6 輻射加熱装置(繊維成形体の一例)
7 真空ポンプ(減圧手段の一例)
10 パルプモールド
52 基台
【要約】
【課題】
製造効率の向上を図ることが可能であるとともに、繊維成形体に対する樹脂フィルムの接着を安定して行うことが可能な熱成形装置を提供すること。
【解決手段】
輻射加熱装置6により樹脂フィルム4を成形可能な所定の温度C21まで輻射加熱するための加熱工程と、輻射加熱された樹脂フィルム4を、基台52に載置されたパルプモールド10に接着する接着工程と、を行うための熱成形装置1において、接着工程において、パルプモールド10と樹脂フィルム4との間を真空吸引し、樹脂フィルム4をパルプモールド10に密着させるための真空ポンプ7を備えること、輻射加熱装置6は、加熱工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第1加熱位置と、接着工程において樹脂フィルム4の輻射加熱を行う第2加熱位置と、の間で、樹脂フィルム4に対する距離が可変であること。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6