(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/062 20060101AFI20220819BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20220819BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C03C3/062
C03C3/097
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2017192732
(22)【出願日】2017-10-02
【審査請求日】2020-04-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 菜那
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154963(JP,A)
【文献】特開2017-105703(JP,A)
【文献】特開2016-088758(JP,A)
【文献】特開2007-106611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO
2成分
20.0~
43.0%
Nb
2O
5成分10.0~
38.0%
Na
2O成分0超~20.0%
Rn
2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)
の含有量の和(質量和)が
20.79%以上、
質量和(ZrO
2+Li
2O)を5.0~
10.34%
(但し、ZrO
2
成分を0%超含有する)
質量比(BaO/MgO+CaO+SrO+BaO)を0.90以下
含有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν
d)との間で、
(-0.00162×ν
d+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×ν
d+0.657)の関係を満たし、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10
-6~-5.0×10
-6(℃
-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量比(Li
2O/Li
2O+Na
2O+K
2O)が1.00以下であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
屈折率(n
d)及びアッベ数(ν
d)が、(-0.01×ν
d+2.01)≦n
d≦(-0.01×ν
d+2.12)の関係を満たす請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν
d)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν
d)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(
図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν
d)は36.3、部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν
d)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
近年、光学設計におけるニーズにより、部分分散比(θg,F)の小さい光学材料として30以上45以下のアッベ数(νd)を有するガラスが用いられることが多い。
【0007】
また、近年では車載カメラ等の車載用光学機器に組み込まれる光学素子や、プロジェクタ、コピー機、レーザプリンタ及び放送用機材等のような多くの熱を発生する光学機器に組み込まれる光学素子では、より高温の環境での使用が増えている。このような高温の環境では、光学系を構成する光学素子の使用時の温度が大きく変動し易く、その温度が100℃以上に達する場合も多い。このとき、温度変動による光学系の結像特性等への悪影響が無視できないほど大きくなるため、温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系を構成することが求められている。
【0008】
温度変動による結像特性等への影響が生じ難い光学系を構成するにあたっては、温度が上昇したときに屈折率が低くなり、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスから構成される光学素子と、温度が高くなったときに屈折率が高くなり、相対屈折率の温度係数がプラスとなるガラスから構成される光学素子を併用することが、温度変化による結像特性等への影響を補正できる点で好ましい。
【0009】
一方で、部分分散比(θg,F)の小さい光学材料において、様々な優れた光学的性質を得るために含有される成分(例えば、Nb2O5成分、La2O3成分など)や、アルカリ金属の含有量が少ないことにより、相対屈折率の温度係数が大きくなる傾向がある。このような光学ガラスとしては、特許文献1~2に示されるガラス組成物が知られている。
さらに、近年使用される車載用レンズや交換レンズなど、様々な環境下で使用されることが多いため、部分分散比(θg,F)が小さく、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-245140号公報
【文献】昭和58-125637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1で開示されたガラスは、部分分散比を大きくするBaO成分の含有量が多く、部分分散比を小さくするNb2O5成分の含有量が少ないため、部分分散比が大きくなってしまい、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でない。また、可視光における透過率が悪化するため、十分な光学特性を得ているものとはいえない。また、特許文献2で開示されたガラスは、La2O3成分の含有量が多いが、Nb2O5の含有量が少ない為部分分散比が大きくなってしまい、アルカリ金属の含有量が少なく相対屈折率の温度係数が小さいとはいえない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)の小さく、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO2成分及びNb2O5成分を含有するガラスにおいて、Na2O成分を含有させることにより、所望の範囲内の高い屈折率やアッベ数(高い分散)と、低い部分分散比を有し、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)質量%で、
SiO2成分 15.0~45.0%
Nb2O5成分 10.0~40.0%
Na2O成分 0超~20.0%
質量和(ZrO2+Li2O)を5.0~20.0%、
質量比(BaO/MgO+CaO+SrO+BaO)を0.90以下
含有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たし、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+6.0×10-6~-5.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【0015】
(2)質量比(Li2O/Li2O+Na2O+K2O)が1.00以下であることを特徴とする(1)記載の光学ガラス。
【0016】
(3)屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(-0.01×νd+2.01)≦nd≦(-0.01×νd+2.12)の関係を満たす(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0017】
(4)(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0018】
(5)(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0019】
(6)(5)に記載の光学素子を備える光学機器。
【0020】
本発明によれば、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、低い部分分散比を有し、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(ν
d)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【
図2】本願の実施例についての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν
d)の関係を示す図である。
【
図3】本願の実施例についての屈折率(n
d)とアッベ数(ν
d)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成の質量%で、SiO2成分を15.0~45.0%、Nb2O5成分を10.0~40.0%、Na2O成分を0超~20.0%を含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たし、相対屈折率の温度係数が小さいことを特徴とする。
SiO2成分、Nb2O5成分を所定量含有し、Na2Oを含有する光学ガラスにおいて、所望の範囲内の高い屈折率やアッベ数(高い分散)と、低い部分分散比を有するガラスを得ることができ、特に、Na2Oを0超~20.0%含有することにより、部分分散比(θg,F)を小さく保ったまま、相対屈折率の温度係数を低減させることができる。
そのため、所望の高い屈折率(nd)及び低いアッベ数(νd)を有しながら、部分分散比(θg,F)が小さく、光学系の色収差の低減に有用であり、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスを得ることができる。
【0023】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0024】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0025】
<必須成分、任意成分について>
SiO2成分は、安定なガラス形成を促し、液相温度を下げることができるため、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する必須成分である。
特に、SiO2成分の含有量を15.0%以上にすることで、部分分散比を大幅に高めることなく、耐失透性に優れたガラスを得られる。また、失透や着色を低減できる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは18.0%以上、より好ましくは20.0%以上、さらに好ましくは25.0%以上を下限とする。
他方で、SiO2成分の含有量を45.0%以下にすることで、屈折率が低下し難くなることで所望の高屈折率を得易くでき、且つ、部分分散比の上昇を抑えられる。また、これによりガラス原料の熔解性の低下を抑えられる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは45.0%以下、より好ましくは43.0%以下、さらに好ましくは41.5%以下、最も好ましくは40.0%以下を上限とする。
SiO2成分は、原料としてSiO2、K2SiF6、Na2SiF6等を用いることができる。
【0026】
Nb2O5成分は、屈折率を高め、且つアッベ数及び部分分散比を低くでき、且つ耐失透性を高められる必須成分である。
特に、Nb2O5成分の含有量を10.0%以上にすることで、目的の光学恒数まで屈折率を高くして本発明の範囲の成分内で調整することで異常分散性を小さくすることができる。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは12.0%以上、さらに好ましくは15.0%以上を下限とする。
他方で、Nb2O5成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減できる。また、ガラス製造時における熔解温度の上昇を抑制し、且つNb2O5成分の過剰な含有による失透を低減できる。さらに、ガラスの化学的耐久性の悪化も改善させることができる。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは38.0%以下、さらに好ましくは35.0%以下を上限とする。
Nb2O5成分は、原料としてNb2O5等を用いることができる。
【0027】
TiO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数を低くし、且つ耐失透性を高める任意成分である。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは2.5%とする。
一方で、20.0%を超えて含有する場合には、部分分散比が大きくなる成分である。 従って、TiO2成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、内部透過率を高められる。また、これにより部分分散比が上昇し難くなるため、ノーマルラインに近い所望の低い部分分散比を得易くできる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%未満を上限とする。
TiO2成分は、原料としてTiO2等を用いることができる。
【0028】
K2O成分は、熱膨張係数を大きくし、相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。
従って、K2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%超、さらに好ましくは0.5%超を下限とする。
他方で、K2O成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比の上昇を抑えられ、失透を低減できる。従って、K2O成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限とする。
K2O成分は、原料としてK2CO3、KNO3、KF、KHF2、K2SiF6等を用いることができる。
【0029】
B2O3成分は、0%超含有する場合に、安定なガラス形成を促し、また液相温度を下げることができるため、耐失透性を高められ、且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5超%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%超を下限としてもよい。
他方で、B2O3成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ部分分散比の上昇を抑えられる。さらにガラスの化学的耐久性の悪化を改善させることができる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは14.0%以下、さらに好ましくは12.0%以下を上限とする。
B2O3成分は、原料としてH3BO3、Na2B4O7、Na2B4O7・10H2O、BPO4等を用いることができる。
【0030】
Li2O成分は、0%超含有する場合に、部分分散比を低くでき、透過率を改善し、液相温度を下げることができ、且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%超を下限としてもよい。
他方で、Li2O成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。
従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%未満とする。
Li2O成分は、原料としてLi2CO3、LiNO3、LiF等を用いることができる。
【0031】
Na2O成分は、0%超含有する場合に、部分分散比を低くでき、熱膨張係数を大きくし、且つ相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超を下限としてもよい。
他方で、Na2O成分の含有量を20.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。
従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは19.0%以下、さらに好ましくは18.0%未満とする。
Na2O成分は、原料としてNa2CO3、NaNO3、NaF、Na2SiF6等を用いることができる。
【0032】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、0超含有する場合に、相対屈折率の温度係数を小さくすることができる任意成分である。従って、Rn2O成分の和は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%超、さらに好ましくは5.0%超を下限とする。
他方で、Rn2O成分の含有量の和を30.0%以下とすることで、ガラス中の粘性を固くして、成形性を改善することができる。従って、好ましくは30.0%以下、より好ましくは28.0%以下、さらに好ましくは26.0%以下を上限とする。
【0033】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高め、部分分散比を低くし、且つ耐失透性を高めることができる任意成分である。また、失透や着色を低減できる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、より好ましくは3.0%超を下限としてもよい。
他方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、失透を低減でき、且つ、より均質なガラスを得易くできる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、より好ましくは8.5%以下を上限とする。
ZrO2成分は、原料としてZrO2、ZrF4等を用いることができる。
【0034】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔解温度を低くできる任意成分である。
他方で、MgO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑制しつつ、失透を低減できる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満を下限とする。
MgO成分は、原料としてMgO、MgCO3、MgF2等を用いることができる。
【0035】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの材料コストを低減しつつ、アッベ数を低くでき、失透を低減でき、且つ、ガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%超、さらに好ましくは0.5%超を下限とする。
他方で、CaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇、部分分散比の上昇を抑えられ、且つ失透を低減できる。従って、CaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは6.0%未満を上限とする
CaO成分は、原料としてCaCO3、CaF2等を用いることができる。
【0036】
SrO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
特に、SrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、SrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは6.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満を上限とするする。
SrO成分は、原料としてSr(NO3)2、SrF2等を用いることができる。
【0037】
BaO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、耐失透性を高められ、熱膨張係数を大きくし、相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%超、さらに好ましくは0.5%超を下限とする。
特に、BaO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇、部分分散比の上昇を抑えられ、且つ失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%未満、より好ましくは8.5%未満、さらに好ましくは8.0%未満を上限とする。
BaO成分は、原料としてBaCO3、Ba(NO3)2等を用いることができる。
【0038】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、安価であり且つ耐失透性を向上させることができ、かつガラス転移点を下げられる任意成分である。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%超、さらに好ましくは0.5%超としてもよい。
他方で、ZnO成分の含有量を10.0%以下にすることで、失透や着色を低減することができる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.5%未満を上限とする。
【0039】
La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分は、少なくともいずれかを0%超含有することで、屈折率を高め、且つ部分分散比を小さくできる任意成分である。
特に、La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、失透を低減でき、且つ材料コストを低減できる。従って、La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは7.0%未満を上限とする。
La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分は、原料としてLa2O3、La(NO3)3・XH2O(Xは任意の整数)、Y2O3、YF3、Gd2O3、GdF3、Yb2O3等を用いることができる。
【0040】
Ta2O5成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を下げ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Ta2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa2O5成分の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる。また、これによりTa2O5成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満を上限とする。特にガラスの材料コストを低減させる観点では、Ta2O5成分を含有しなくてもよい。
Ta2O5成分は、原料としてTa2O5等を用いることができる。
【0041】
WO3成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高めてアッベ数を低くし、耐失透性を高め、且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。
他方で、WO3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くでき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高められる。従って、WO3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満を上限とする。
WO3成分は、原料としてWO3等を用いることができる。
【0042】
P2O5成分は、0%超含有する場合に、ガラスの安定性を高められる任意成分である。
一方で、P2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、P2O5成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
P2O5成分は、原料としてAl(PO3)3、Ca(PO3)2、Ba(PO3)2、BPO4、H3PO4等を用いることができる。
【0043】
GeO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つ失透を低減できる任意成分である。
他方で、GeO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、高価なGeO2成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減できる。従って、GeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
GeO2成分は、原料としてGeO2等を用いることができる。
【0044】
Al2O3成分及びGa2O3成分は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、Al2O3成分及びGa2O3成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、Al2O3成分やGa2O3成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、Al2O3成分及びGa2O3成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Al2O3成分及びGa2O3成分は、原料としてAl2O3、Al(OH)3、AlF3、Ga2O3、Ga(OH)3等を用いることができる。
【0045】
Bi2O3成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高めてアッベ数を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。
他方で、Bi2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、部分分散比を上昇し難くでき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。従って、Bi2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
Bi2O3成分は、原料としてBi2O3等を用いることができる。
【0046】
TeO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、部分分散比を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。
他方で、TeO2成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。また、高価なTeO2成分の使用を低減することで、より材料コストの安いガラスを得られる。従って、TeO2成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
TeO2成分は、原料としてTeO2等を用いることができる。
【0047】
SnO2成分は、0%超含有する場合に、熔解したガラスを清澄(脱泡)でき、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
一方で、SnO2成分の含有量を1.0%以下にすることで、溶融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、SnO2成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、溶解設備の長寿命化を図ることができる。従って、SnO2成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
SnO2成分は、原料としてSnO、SnO2、SnF2、SnF4等を用いることができる。
【0048】
Sb2O3成分は、0%超含有する場合にガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。Sb2O3成分は、ガラス全質量に対する含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb2O3成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb2O3成分の含有率は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下を上限とする。
Sb2O3成分は、原料としてSb2O3、Sb2O5、Na2H2Sb2O7・5H2O等を用いることができる。
【0049】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0050】
ZrO2とLi2Oの質量和は5.0%以上が好ましい。これにより、部分分散比の小さいガラスを得ることができる。従って、質量和(ZrO2+Li2O)は、5.0%以上、より好ましくは7.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上を下限とする。
一方で、質量和(ZrO2+Li2O)は20.0%以下が好ましい。これにより、過剰な含有による失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑えることができる。従って、好ましくは20.0%以下、より好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下とする。
【0051】
ZrO2とNb2O5の質量和は18.0%以上が好ましい。これにより、部分分散比の小さく、透過率の良いガラスを得ることができる。従って、質量和ZrO2+Nb2O5は、好ましくは、18.0%以上、より好ましくは19.0%以上、さらに好ましくは21.1%以上を下限とする。
一方で、質量和ZrO2+Nb2O5は、45.0%以下が好ましい。これにより、過剰な含有による失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑えることができる。従って、好ましくは45.0%以下、より好ましくは44.0%以下、より好ましくは43.0%以下、さらに好ましくは42.0%以下とする。
【0052】
MgO、CaO、SrO、BaOの質量和に対するBaOの比は0超である場合に、所望の屈折率および分散を得ることができる。従って、質量比BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0超、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.09以上とする。
一方で、質量比BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)は、0.90以下が好ましい。これにより、部分分散比が小さく、比重の軽いガラスを得ることができる。
従って好ましくは0.90以下、より好ましくは0.85以下、さらに好ましくは0.80以下とする。
【0053】
Li2O、Na2OおよびK2Oの質量和に対するLi2Oの比は0.01以上が好ましい。これにより部分分散比の小さいガラスを得ることができる。従って、質量比Li2O/(Li2O+Na2O+K2O)は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上とする。
一方でLi2O、Na2OおよびK2Oの質量和に対するLi2Oの比は1.00以下が好ましい。これにより、粘性が低くなりすぎず、成形しやすいガラスが得られる。従って好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下、更に好ましくは0.70以下とする。
【0054】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の合計(質量和)は、0%超を超える場合、所望の屈折率や分散を調整することができる。従って、RO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.5%超を下限とする。
一方で、RO成分の含有量の合計は、15.0%未満が好ましい。これにより、RO成分の過剰な含有による、ガラスの屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、RO成分の質量和は、好ましくは15.0%未満、より好ましくは14.0%以下、さらに好ましくは13.0%以下を上限とする。
【0055】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の合計(質量和)は、10.0%未満が好ましい。これにより、Ln2O3成分の過剰な含有による、ガラスの屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、Ln2O3成分の質量和は、好ましくは10.0%未満、より好ましくは8.5%以下、さらに好ましくは7.0%以下を上限とする。
【0056】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0057】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0058】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0059】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0060】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000~1400℃の温度範囲で3~5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、900~1200℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0061】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高い屈折率と所定の範囲のアッベ数を有する。
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.67以上、さらに好ましくは1.68以上を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.80以下、より好ましくは1.79以下、より好ましくは1.78以下を上限とする。
本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは25.0、より好ましくは27.0、さらに好ましくは29.0を下限とする。他方で、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは40.0、より好ましくは39.0、さらに好ましくは38.0を上限とする。
このような屈折率及びアッベ数を有する本発明の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0062】
ここで、本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、(-0.01×νd+2.01)≦nd≦(-0.01×νd+2.12)の関係を満たすことが好ましい。本発明で特定される組成のガラスでは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)がこの関係を満たすものであっても、安定なガラスを得られる。
従って、本発明の光学ガラスでは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が、nd≧(-0.01×νd+2.01)の関係を満たすことが好ましく、nd≧(-0.01×νd+2.03)の関係を満たすことがより好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(νd)が、nd≦(-0.01×νd+2.12)の関係を満たすことが好ましく、nd≦(-0.01×νd+2.11)の関係を満たすことがより好ましい。
【0063】
本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(νd)との間で、(-0.00162×νd+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たすことが好ましい。
従って、本発明の光学ガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)が、θg,F≧(-0.00162×νd+0.620)の関係を満たすことが好ましく、θg,F≧(-0.00162×νd+0.630)の関係を満たすことがより好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)が、θg,F≦(-0.00162×νd+0.657)の関係を満たすことが好ましく、θg,F≦(-0.00162×νd+0.650 )の関係を満たすことがより好ましい。
これにより、低い部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子を、光学系の色収差の低減に役立てられる。
【0064】
なお、特にアッベ数(νd)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)はノーマルラインよりも高い値にあり、横軸にアッベ数(νd)、縦軸に部分分散比(θg,F)を取ったときの、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)の関係は、ノーマルラインよりも傾きの大きな曲線で表される。上述の部分分散比(θg,F)及びアッベ数(νd)の関係式では、ノーマルラインよりも傾きの大きな直線を使ってこれらの関係を規定することで、一般的なガラスよりも部分分散比(θg,F)の小さなガラスを得られることを表している。
【0065】
なお本発明の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が低い値をとる。
より具体的には、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは+6.0×10-6℃-1、より好ましくは+5.5×10-6℃-1、さらに好ましくは+5.0×10-6℃-1を上限値とし、この上限値又はそれよりも低い(マイナス側)の値をとりうる。
他方で、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは-2.0×10-6℃-1、より好ましくは-1.0×10-6℃-1、さらに好ましくは-0.5×10-6℃-1を下限値とし、この下限値又はそれよりも高い(プラス側)の値をとりうる。
このうち、1.65以上の屈折率(nd)を有し、かつ20以上35以下のアッベ数(νd)を有するガラスとして、相対屈折率の温度係数の低いガラスは多く存在しておらず、温度変化による結像のずれ等の補正の選択肢を広げられ、その補正をより容易にできる。したがって、このような範囲の相対屈折率の温度係数にすることで、温度変化による結像のずれ等の補正に寄与することができる。
本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、光学ガラスと同一温度の空気中における屈折率(589.29nm)の温度係数のことであり、40℃から60℃に温度を変化させた際の、1℃当たりの変化量(℃-1)で表される。
【0066】
本発明の光学ガラスは、100~300℃における平均線熱膨張係数αが75(10-7℃-1)以上であることが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの100~300℃における平均線熱膨張係数αは、好ましくは75(10-7℃-1)以上、より好ましくは80(10-7℃-1)以上、より好ましくは85(10-7℃-1)以上を下限とする。
一般的に、平均線熱膨張係数αが大きいとガラスを加工する際に割れが生じやすくなるため、平均線熱膨張係数αの値は小さいほうが望ましい。一方で、相対屈折率の温度係数が低く、かつ平均線熱膨張係数αの値が大きい硝材と組み合わせて接合する観点においては、当該硝材と平均線熱膨張係数αの値が同一又は近似であることが望ましい。
このうち、1.65以上の屈折率(nd)を有し、かつ25以上40以下のアッベ数(νd)を有するガラスでは、平均線熱膨張係数αが大きい硝材が少なく、低屈折率低分散硝材と組み合わせて使用する場合に、本発明のように平均線熱膨張係数αが大きい値を有する方が有用である。
【0067】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製できる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりできる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0068】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0069】
本発明の実施例(No.1~No.13)及び比較例の組成、並びに、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、平均線熱膨張係数(100-300℃)、ガラスの相対屈折率の温度係数(dn/dT)を表1~表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0070】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石製坩堝(ガラスの溶融性によっては白金坩堝、アルミナ坩堝を用いても構わない)に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で0.5~5時間熔解した後、白金坩堝に移して攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000~1200℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0071】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。
【0072】
実施例及び比較例のガラスの相対屈折率の温度係数(dn/dT)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS18-2008「光学ガラスの屈折率の温度係数の測定方法」に記載された方法のうち干渉法により、波長589.29nmの光についての、40~60℃における相対屈折率の温度係数の値を測定した。
【0073】
また、実施例及び比較例のガラスの平均線熱膨張係数(100-300℃)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線より求めた。
【0074】
【0075】
【0076】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.65以上、より詳細には1.67以上であるとともに、この屈折率(nd)は1.80以下であり、所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(νd)が25以上、より詳細には29以上であるとともに、このアッベ数(νd)は40以下であり、所望の範囲内であった。
【0077】
これらの表のとおり、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(ν
d)が、(-0.00162×ν
d+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×ν
d+0.657)の関係を満たしており、より詳細には(-0.00162×νd+0.650)≦(θg,F)≦(-0.00162×ν
d+0.630)の関係を満たしていた。すなわち、本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν
d)の関係は、
図2に示されるようになった。
一方で、比較例の光学ガラスは、(-0.00162×ν
d+0.620)≦(θg,F)≦(-0.00162×ν
d+0.657)の関係を満たしていなかった。
【0078】
加えて、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n
d)及びアッベ数(ν
d)が、(-0.01×ν
d+2.01)≦n
d≦(-0.01×ν
d+2.12)の関係を満たしており、より詳細には(-0.01×ν
d+2.03)≦n
d≦(-0.01×ν
d+2.11)の関係を満たしていた。すなわち、本願の実施例のガラスについての屈折率(n
d)及びアッベ数(ν
d)の関係は、
図3に示されるようになった。
【0079】
表に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも相対屈折率の温度係数が+6.0×10-6~-0.5×10-6(℃-1)の範囲内にあり、所望の範囲内であった。
【0080】
加えて、本発明の光学ガラスは、100~300℃における平均線熱膨張係数αが80(10-7℃-1)以上であった。
【0081】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、ガラスブロックを形成し、このガラスブロックに対して研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。その結果、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0082】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。