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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】X線撮影装置
(51)【国際特許分類】
   H05G 1/26 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
H05G1/26 T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017234114
(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公開番号】P2019102348
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】進藤 将太郎
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-027697(JP,A)
【文献】特開平08-213188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00-2/00
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、前記高周波電圧を高周波高電圧に昇圧する高電圧変圧器と、前記高周波高電圧を整流し直流高電圧を生成する高電圧整流器と、前記直流高電圧が印加されることによりX線を照射するX線管装置と、前記X線管装置に印加される管電圧を検出する管電圧検出部と、前記管電圧検出部の検出結果に基づいて前記インバータを制御するインバータ制御部と、を備えるX線撮影装置であって、
前記インバータの制御信号のパルス幅が、予め定められた正常範囲の外である場合に、前記管電圧検出部が故障していると判断する故障検知部を備え、
前記故障検知部は、前記インバータの制御信号のパルス幅の正常範囲がX線照射条件毎に定められたテーブルから、設定されたX線照射条件に基づいてパルス幅の正常範囲を読み出し、読み出した正常範囲を計測されたパルス幅と比較することを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、前記高周波電圧を高周波高電圧に昇圧する高電圧変圧器と、前記高周波高電圧を整流し直流高電圧を生成する高電圧整流器と、前記直流高電圧が印加されることによりX線を照射するX線管装置と、前記X線管装置に印加される管電圧を検出する管電圧検出部と、前記管電圧検出部の検出結果に基づいて前記インバータを制御するインバータ制御部と、を備えるX線撮影装置であって、
記コンバータへの入力電力が、予め定められた正常範囲の外である場合に、前記管電圧検出部が故障していると判断する故障検知部を備え、
前記故障検知部は、前記コンバータへの入力電力の正常範囲がX線照射条件毎に定められたテーブルから、設定されたX線照射条件に基づいて入力電力の正常範囲を読み出し、読み出した正常範囲を計測された入力電力と比較することを特徴とするX線撮影装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線撮影装置であって
前記テーブルに記憶されるX線照射条件は前記X線管装置の暖機運転に用いられるX線照射条件であることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項4】
交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、前記高周波電圧を高周波高電圧に昇圧する高電圧変圧器と、前記高周波高電圧を整流し直流高電圧を生成する高電圧整流器と、前記直流高電圧が印加されることによりX線を照射するX線管装置と、前記X線管装置に印加される管電圧を検出する管電圧検出部と、前記管電圧検出部の検出結果に基づいて前記インバータを制御するインバータ制御部と、を備えるX線撮影装置であって、
前記インバータの制御信号のパルス幅もしくは出力電流の実効値または前記コンバータへの入力電力が、予め定められた正常範囲の外である場合に、前記管電圧検出部が故障していると判断する故障検知部を備え、
前記故障検知部の動作を開始させるトリガを生成する判定トリガ生成部をさらに備えることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載のX線撮影装置であって、
前記判定トリガ生成部は、X線照射が開始されてから所定の時間が経過した後、前記トリガを生成することを特徴とするX線撮影装置。
【請求項6】
請求項4に記載のX線撮影装置であって、
前記判定トリガ生成部は、前記管電圧検出部によって検出される管電圧の時間変化率が所定の値以下となった後、前記トリガを生成することを特徴とするX線撮影装置。
【請求項7】
請求項4に記載のX線撮影装置であって、
前記判定トリガ生成部は、X線撮影装置で放電が発生してから所定の時間が経過した後、前記トリガを生成することを特徴とするX線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線撮影を行なうX線撮影装置に係り、特に高電圧発生装置の管電圧検出部の故障を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置は、被検体にX線を照射することにより取得した透過X線量に基づいて被検体のX線画像を作成・表示する装置である。特に、被検体の周囲からX線を照射して取得した様々な角度からの透過X線量に基づいて、被検体の断面画像を再構成・表示する装置はX線CT(Computed Tomography)装置と呼ばれ、画像診断の多くの場面で利用されている。
【0003】
X線撮影装置は、X線を照射するX線管装置と、X線管装置に印加される高電圧を発生する高電圧発生装置とを備えている。医療用のX線撮影装置では、X線管装置に印加される電圧は120kV程度であり、各部の経年劣化や何らかの不具合等により、X線撮影装置内、特にX線管装置や高電圧発生装置内で放電が発生する。X線撮影装置で放電が発生すると、X線撮影が中断され画像診断に支障をきたすことになるので、放電に対する早急な対策が望まれる。適切な放電対策をするためには放電発生箇所の特定が必要となる。
【0004】
特許文献1には、X線管装置の管電圧と管電流の経時変化に基づき、X線管装置と高電圧発生装置とのどちらで放電が発生しているかを特定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5063609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、管電圧の検出に用いられる管電圧検出部が故障した場合について配慮がなされていない。管電圧検出部は複数の抵抗が直列に接続された分圧回路であり、放電等の影響でいずれかの抵抗の値が変化してしまうと、管電圧を正確に検出することができず、放電発生箇所の特定のみならず、管電圧の正確なフィードバック制御ができなくなる。その結果、X線撮影で得られる画像に悪影響を与え、X線撮影の中断もしくは再撮影となり、被検体に無効被ばくを与えてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、高電圧発生装置の管電圧検出部の故障を検知することが可能となるX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、X線撮影装置に備えられるインバータの制御信号のパルス幅もしくは出力電流の実効値またはコンバータへの入力電力が、予め定められた正常範囲にあるか否かに基づいて管電圧検出部の故障を検知することを特徴とする。
【0009】
より具体的には、交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、前記高周波電圧を高周波高電圧に昇圧する高電圧変圧器と、前記高周波高電圧を整流し直流高電圧を生成する高電圧整流器と、前記直流高電圧が印加されることによりX線を照射するX線管装置と、前記X線管装置に印加される管電圧を検出する管電圧検出部と、前記管電圧検出部の検出結果に基づいて前記インバータを制御するインバータ制御部と、を備えるX線撮影装置であって、前記インバータの制御信号のパルス幅もしくは出力電流の実効値または前記コンバータへの入力電力が、予め定められた正常範囲の外である場合に、前記管電圧検出部が故障していると判断する故障検知部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高電圧発生装置の管電圧検出部の故障を検知することが可能となるX線撮影装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】X線撮影装置の一例であるX線CT装置1の全体構成を示す図である。
図2】高電圧発生装置111の構成を示す図である。
図3】管電圧検出部205の例を示す図である。
図4】第一実施形態のX線制御装置110の構成を示す図である。
図5】X線照射条件とパルス幅の正常範囲との対応を示すテーブルである。
図6】管電圧検出部205が正常な場合と故障した場合のパルス幅を示す図である。
図7】第一実施形態の処理の流れを示す図である。
図8】第二実施形態の高電圧発生装置111の構成を示す図である。
図9】第二実施形態のX線制御装置110の構成を示す図である。
図10】X線照射条件と出力電流実効値の正常範囲との対応を示すテーブルである。
図11】第三実施形態の高電圧発生装置111の構成を示す図である。
図12】第三実施形態のX線制御装置110の構成を示す図である。
図13】X線照射条件と入力電力の正常範囲との対応を示すテーブルである。
図14】第四実施形態のX線制御装置110の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一実施形態]
以下、添付図面に従って本発明に係るX線撮影装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0013】
図1はX線撮影装置の一例であるX線CT装置の全体構成を示すブロック図である。なお、X線撮影装置はX線CT装置に限らず、X線透視撮影装置等であっても良い。図1に示すようにX線CT装置1は、スキャンガントリ部100と操作ユニット120を備える。
スキャンガントリ部100は、X線管装置101と、回転円盤102と、コリメータ103と、X線検出器106と、データ収集装置107と、寝台装置105と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線制御装置110と、高電圧発生装置111を備えている。X線管装置101は寝台装置105上に載置された被検体10にX線を照射する装置である。コリメータ103はX線の照射範囲を制限する装置である。回転円盤102は、寝台装置105上に載置された被検体10が入る開口部104を備えるとともに、X線管装置101とX線検出器106を搭載し、X線管装置101とX線検出器106を被検体10の周囲で回転させる。
【0014】
X線検出器106は、X線管装置101と対向配置され、被検体10を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置である。X線検出器106の検出素子は、回転円盤102の回転方向に1次元に配列される場合と、回転円盤102の回転方向と回転軸方向との2次元に配列される場合がある。データ収集装置107は、X線検出器106で検出されたX線量をデジタルデータとして収集する装置である。ガントリ制御装置108は回転円盤102の回転及び傾斜を制御する装置である。
【0015】
寝台制御装置109は、寝台装置105の上下前後左右動を制御する装置である。高電圧発生装置111はX線管装置101に印加される高電圧を発生する装置である。X線制御装置110は、高電圧発生装置111の出力を制御するとともに、後述する管電圧検出部の故障を検知する装置である。高電圧発生装置111とX線制御装置110については、後で詳細に説明する。
【0016】
操作ユニット120は、入力装置121と、画像処理装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124を備えている。入力装置121は、被検体10の氏名、検査日時、撮影条件等を入力するための装置であり、具体的にはキーボードやポインティングデバイス、タッチパネル等である。画像処理装置122は、データ収集装置107から送出される計測データを演算処理してCT画像の再構成を行う装置である。表示装置125は、画像処理装置122で作成されたCT画像等を表示する装置であり、具体的には液晶ディスプレイ等である。記憶装置123は、データ収集装置107で収集されたデータ及び画像処理装置122で作成されたCT画像の画像データ等を記憶する装置であり、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)等である。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線制御装置110を制御する装置である。
【0017】
入力装置121から入力された撮影条件に基づき、X線管装置101に印加される管電圧や管電流を高電圧発生装置111が発生することにより、撮影条件に応じたX線がX線管装置101から被検体10に照射される。X線検出器106は、X線管装置101から照射され被検体10を透過したX線を多数のX線検出素子で検出し、透過X線の分布を計測する。回転円盤102はガントリ制御装置108により制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特に回転速度等に基づいて回転する。寝台装置105は寝台制御装置109によって制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特にらせんピッチ等に基づいて動作する。
【0018】
X線管装置101からのX線照射とX線検出器106によるX線計測が回転円盤102の回転とともに繰り返されることにより、様々な角度からの投影データが取得される。投影データは、各角度を表すビュー(View)と、X線検出器106の検出素子番号であるチャネル(ch)番号及び列番号と対応付けられる。取得された様々な角度からの投影データは画像処理装置122に送信される。画像処理装置122は送信された様々な角度からの投影データを逆投影処理することによりCT画像を再構成する。再構成して得られたCT画像は表示装置125に表示される。
【0019】
なお、X線CT装置1は、図示されないネットワークを介して、院内のサーバや院外のサーバに接続されていても良く、各サーバから必要なデータを適時読み込んでも良い。
【0020】
図2を用いて高電圧発生装置111について説明する。高電圧発生装置111は、コンバータ201とインバータ202と高電圧変圧器203と高電圧整流器204と管電圧検出部205を備えている。
【0021】
コンバータ201は、商用の交流電源200に接続されており、交流電源200の交流電圧を直流電圧に変換する装置である。
【0022】
インバータ202は、コンバータ201に接続されており、コンバータ201から出力される直流電圧を、交流電源200の交流電圧よりも周波数の高い交流電圧である高周波電圧に変換する装置である。インバータ202は複数のスイッチを有しており、これらのスイッチのON/OFFを所定のタイミングで周期的に切り替えて、直流電圧を順方向に出力したり逆方向に出力したりすることを繰り返すことにより、直流電圧を高周波電圧に変換する。コンバータ201とインバータ202は、入力装置121から入力された撮影条件、特に管電圧や管電流等に応じて、X線制御装置110により制御される。
【0023】
高電圧変圧器203は、インバータ202に接続されており、インバータ202から出力される高周波電圧を昇圧して高周波高電圧を出力する。昇圧比率は、高電圧変圧器203の1次巻線と2次巻線との巻数比によって定められる。高電圧整流器204は、高電圧変圧器203に接続されており、高電圧変圧器203で昇圧された高周波高電圧を整流する。なお高電圧整流器204には、整流された電圧波形の脈動を平滑化する平滑化コンデンサが含まれていても良い。
【0024】
管電圧検出部205はX線管装置101に印加される電圧である管電圧を検出する回路であり、X線管装置101と並列に接続される。検出された管電圧の値はX線制御装置110に入力される。X線制御装置110は検出された管電圧の値と操作ユニット120で設定された管電圧の値とを比較し、比較結果に基づいてインバータ202のスイッチをONにする期間であるパルス幅を制御する。パルス幅の制御に関しては後述する。
【0025】
図3に管電圧検出部205の例を示す。図3(a)はX線管装置101が片側接地型の場合の回路の例であり、In1とIn2 が入力端子、Outが出力端子、R1が分圧抵抗、R2が検出抵抗である。分圧抵抗R1と検出抵抗R2は分圧回路を構成する抵抗であり、直列に接続される。両抵抗の接続点には出力端子Outが、接続点とは反対側には入力端子In1、In2が設けられ、入力端子In2は接地電位である。入力端子In1、In2は高電圧整流器204及びX線管装置101に接続され、出力端子OutはX線制御装置110に接続される。分圧抵抗R1は検出抵抗R2に比べて十分に大きい抵抗値、例えばR2=1Ωに対しR1=100MΩといった抵抗値を有する。このような回路構成により、X線管装置101に印加される電圧である管電圧Vtは、分圧抵抗R1と検出抵抗R2に分圧され、検出抵抗R2に印加される電圧はVt/(1+108)となる。すなわち、管電圧Vtが80kV~140kVといった高電圧であっても、検出抵抗R2には約0.8mV ~1.4mVの低電圧が印加されるに過ぎず、出力端子Outでの電圧を計測することにより管電圧Vtの値を容易に知ることができる。
【0026】
図3(b)はX線管装置101が中性点接地型の場合の回路の例であり、In1とIn2 が入力端子、Out1とOut2が出力端子、R11とR21が分圧抵抗、R12とR22が検出抵抗である。分圧抵抗R11と検出抵抗R12、並びに分圧抵抗R21と検出抵抗R22は分圧回路を構成する抵抗であり、直列に接続される。分圧抵抗R11と検出抵抗R12の接続点には出力端子Out1が、分圧抵抗R21と検出抵抗R22の接続点には出力端子Out2が設けられ、検出抵抗R12と検出抵抗R22の接続点は接地電位である。また分圧抵抗R11には入力端子In1が、分圧抵抗R21には入力端子In2が設けられる。入力端子In1、In2は高電圧整流器204及びX線管装置101に接続され、出力端子Out1、Out2はX線制御装置110に接続される。分圧抵抗R11、R21は検出抵抗R12、R22に比べて十分に大きい抵抗値、例えばR12=R22=1Ωに対しR11=R21=100MΩといった抵抗値を有する。このような回路構成により、X線管装置101に印加される電圧である管電圧Vtは、接地電位を境に入力端子In1側と入力端子In2側とに分圧され、入力端子In1の電圧がVt/2であれば入力端子In2の電圧は-Vt/2である。入力端子In1側の電圧Vt/2は分圧抵抗R11と検出抵抗R12に分圧され、入力端子In2側の電圧-Vt/2は分圧抵抗R21と検出抵抗R22に分圧され、検出抵抗R12、R22に印加される電圧はそれぞれ(Vt/2)/(1+108)、-(Vt/2)/(1+108)となる。すなわち、管電圧Vtが高電圧であっても、検出抵抗R12、R22には低電圧が印加されるに過ぎず、出力端子Out1、Out2での電圧を計測することにより管電圧Vtの値を容易に知ることができる。
【0027】
図4を用いてX線制御装置110について説明する。X線制御装置110は、専用のハードウェアで構成されても良いし、演算処理装置上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明ではソフトウェアで構成された場合について説明する。X線制御装置110は、インバータ制御部400と故障検知部410とを備える。
【0028】
インバータ制御部400は、インバータ202を制御するための信号を生成するものであり、目標管電圧取得部401とパルス幅調整部402とを有する。目標管電圧取得部401は、操作ユニット120で設定された管電圧の値を目標管電圧として取得し、パルス幅調整部402に送信する。
【0029】
パルス幅調整部402は、管電圧検出部205で検出された管電圧である検出管電圧と目標管電圧とを比較し、比較結果に応じてインバータ202のスイッチをONにする期間であるパルス幅を調整する。すなわち、検出管電圧が目標管電圧よりも低ければパルス幅を拡げ、検出管電圧が目標管電圧よりも高ければパルス幅を狭める。パルス幅調整部402によって調整されたパルス幅に従ってインバータ202のスイッチは動作し、パルス幅の調整が繰り返されることにより、検出管電圧は目標管電圧に一致するようになる。このとき、パルス幅も所定の範囲におさまり、その範囲は目標管電圧に応じて異なる。
【0030】
故障検知部410は、管電圧検出部205が故障しているか否かを判断するものであり、正常範囲取得部411とパルス幅比較部412とを有する。正常範囲取得部411はパルス幅の正常範囲を取得する。
【0031】
パルス幅の正常範囲はX線照射条件に応じて予め定められ、例えば図5に示すようなテーブルとして、記憶装置123に記憶される。図5のテーブルにはX線照射条件毎にパルス幅の正常範囲が定められており、例えばX線照射条件X2に対してパルス幅の正常範囲WL2~WU2が対応する。すなわち目標管電圧等のX線照射条件が設定されると、正常範囲取得部411は図5のテーブルからパルス幅の正常範囲を読み出す。X線照射条件毎のパルス幅の正常範囲は、管電圧検出部205が正常な状態なときに取得される各X線照射条件における正常なパルス幅を基準にして、管電圧の許容範囲に応じて設定される。
【0032】
パルス幅比較部412は、パルス幅調整部402で調整されたパルス幅が正常範囲内にあるか否かを判定し、調整されたパルス幅が正常範囲の外であれば管電圧検出部205が故障していると判断する。
【0033】
図6を用いて、管電圧検出部205が故障したときのインバータの制御信号のパルス幅の変化について説明する。図6は管電圧検出部205が正常または故障した場合の管電圧波形とパルス幅である。図6(a)は管電圧波形であり、実線は管電圧検出部205が正常な場合、点線は故障した場合である。図6(b)~図6(d)はインバータの制御信号である。
【0034】
管電圧検出部205が正常な場合、すなわち分圧抵抗(図4(a)のR1)と検出抵抗(図4(a)のR2)の抵抗値が初期値のままである場合、管電圧は目標管電圧となるように制御される。このときのインバータの制御信号は図6(c)のようになり、パルス幅はW0である。
【0035】
管電圧検出部205が故障し、分圧抵抗の抵抗値が初期値よりも大きくなった、あるいは検出抵抗の抵抗値が初期値よりも小さくなった場合、検出管電圧が実際の管電圧よりも小さくなるので、管電圧は目標管電圧よりも大きな値になるように制御される。このときのインバータの制御信号は図6(b)のようになり、パルス幅はW1であり、正常時のパルス幅W0よりも広い。
【0036】
管電圧検出部205が故障し、分圧抵抗の抵抗値が初期値よりも小さくなった場合、あるいは検出抵抗の抵抗値が初期値よりも大きくなった場合、検出管電圧が実際の管電圧よりも大きくなるので、管電圧は目標管電圧よりも小さな値になるように制御される。このときのインバータの制御信号は図6(d)のようになり、パルス幅はW2であり、正常時のパルス幅W0よりも狭い。
【0037】
つまり、インバータの制御信号のパルス幅が広すぎたり、狭すぎたりした場合、管電圧検出部205が故障していると判断できるので、パルス幅比較部412はパルス幅調整部402で調整されたパルス幅を正常範囲と比較し、比較結果に基づいて管電圧検出部205の故障を判断する。また管電圧が目標管電圧に制御されずにX線撮影がなされると、取得される画像は操作者が求める画像とは異なるものとなり、被検体に無効被ばくを与えかねない。そこで、パルス幅比較部412は管電圧検出部205が故障していると判断したときに、パルス幅調整部402に対しパルス幅をゼロにするような指示、すなわちX線撮影の中断を指示しても良い。
【0038】
図7を用いて、以上の構成部を備えるX線制御装置110が実行する処理の流れを説明する。
【0039】
(S701)
X線制御装置110は操作ユニット120にて設定されたX線照射条件を受信する。X線照射条件はインバータ制御部400の目標管電圧取得部401及び故障検知部410の正常範囲取得部411へ送信される。
【0040】
(S702)
正常範囲取得部411はパルス幅の正常範囲を取得する。具体的にはS701にて取得されたX線照射条件が図5に示したようなテーブルと照合されることにより、X線照射条件に応じたパルス幅の正常範囲が読み出される。
【0041】
(S703)
X線制御装置110はX線照射を開始させる。具体的にはインバータ制御部400がX線照射条件に従って、インバータ202を動作させる。
【0042】
(S704)
パルス幅比較部412はパルス幅を計測する。具体的にはパルス幅調整部402にて調整されたパルス幅をパルス幅比較部412が受信する。
【0043】
(S705)
パルス幅比較部412はパルス幅が正常範囲内か否かを判定する。具体的にはS702にて取得された正常範囲とS704で計測されたパルス幅とが比較される。正常範囲内であればS706へ処理が進み、正常範囲内でなければS707へ進む。
【0044】
(S706)
インバータ制御部400は所定のX線照射時間を経過したか否かを判定する。X線照射時間はS701にて受信したX線照射条件に含まれる。所定のX線照射時間を経過すれば処理は終了となり、そうでなければS704へ処理が戻る。
【0045】
(S707)
パルス幅比較部412は管電圧検出部205が故障していると判断する。パルス幅比較部412は直ちにX線撮影を中断させるようにパルス幅調整部402に指示を出しても良いし、故障検知を表示装置125へ表示させて操作者に提示するようにしても良い。パルス幅調整部402がX線撮影の中断の指示を受けると、X線制御装置110が備えるインバータ制御部400がインバータ202の動作を停止させる。X線撮影を中断させるにはX線制御装置110がコンバータ201の動作を停止させても良い。
【0046】
以上説明した処理の流れにより、高電圧発生装置111の管電圧検出部205の故障を検知することが可能となる。また故障検知にともなってX線撮影を中断させることにより、被検体に無効被ばくを与えないようにすることができる。また故障検知を表示して操作者に提示することにより、故障に対し迅速に対応させることが可能となる。
【0047】
また図7に示した処理の流れは、X線撮影毎に実行しても良いし、所定のタイミングで実行しても良い。例えば、一日の初めに所定の条件でX線照射を繰り返し、X線管装置101の暖機運転を行う場合があるので、そのタイミングで図7の処理の流れを実行しても良い。この際、暖機運転に用いられるX線照射条件のみについて図5に示したテーブルを準備するようにしても良い。テーブル化するX線照射条件を絞ることにより、記憶装置123の記憶容量を節約することができる。
【0048】
[第二実施形態]
第一実施形態では、インバータの制御信号のパルス幅が正常範囲内にあるかどうかに基づいて管電圧検出部205の故障を検知することについて説明した。管電圧検出部205の故障はパルス幅以外のパラメータ、例えばインバータの出力電流のモニタリングでも検知可能である。そこで本実施形態では、インバータの出力電流のモニタリングに基づく故障検知について説明する。
【0049】
図8を用いて本実施形態の高電圧発生装置111について説明する。本実施形態と第一実施形態の違いは、出力電流検出部801が追加された点であり、その他の構成は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。出力電流検出部801はインバータ202の出力電流を検出する装置であり、具体的にはカレントトランス等である。出力電流検出部801はX線制御装置110に接続され、インバータ202の出力電流を出力する。
【0050】
図9を用いて本実施形態のX線制御装置110について説明する。本実施形態と第一実施形態の違いは、故障検知部910であり、その他の構成は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。故障検知部910は管電圧検出部205が故障しているか否かを判断するものであり、正常範囲取得部911と出力電流比較部912とを有する。
【0051】
正常範囲取得部911はインバータ202の出力電流実効値の正常範囲を取得する。出力電流実効値の正常範囲はX線照射条件に応じて予め定められ、例えば図10に示すようなテーブルとして、記憶装置123に記憶される。図10のテーブルにはX線照射条件毎に出力電流実効値の正常範囲が定められており、例えばX線照射条件X2に対して出力電流実効値の正常範囲IL2~IU2が対応する。すなわち目標管電圧等のX線照射条件が設定されると、正常範囲取得部911は図10のテーブルから出力電流実効値の正常範囲を読み出す。
【0052】
出力電流比較部912は、出力電流検出部801で検出された出力電流を実効値に変換した後、出力電流実効値が正常範囲内にあるか否かを判定し、出力電流実効値が正常範囲の外であれば管電圧検出部205が故障していると判断する。
【0053】
以上説明した構成により、インバータ202の出力電流のモニタリングに基づいて高電圧発生装置111の管電圧検出部205の故障を検知することが可能となる。また故障検知にともなうX線撮影の中断指示や、故障検知の操作者への提示は第一実施形態と同様である。
【0054】
[第三実施形態]
第一実施形態と第二実施形態では、インバータの制御信号のパルス幅もしくは出力電流の実効値が正常範囲内にあるかどうかに基づいて管電圧検出部205の故障を検知することについて説明した。管電圧検出部205の故障はインバータ以外に係るパラメータ、例えばコンバータへの入力電力のモニタリングでも検知可能である。そこで本実施形態では、コンバータへの入力電力のモニタリングに基づく故障検知について説明する。
【0055】
図11を用いて本実施形態の高電圧発生装置111について説明する。本実施形態と第一実施形態の違いは、入力電力検出部1101が追加された点であり、その他の構成は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。入力電力検出部1101はコンバータ201への入力電力を検出する装置であり、具体的にはカレントトランスと電圧計とを組み合わせた装置等である。入力電力検出部1101はX線制御装置110に接続され、コンバータ201への入力電力を出力する。
【0056】
図12を用いて本実施形態のX線制御装置110について説明する。本実施形態と第一実施形態の違いは、故障検知部1210であり、その他の構成は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。故障検知部1210は管電圧検出部205が故障しているか否かを判断するものであり、正常範囲取得部1211と入力電力比較部1212とを有する。
【0057】
正常範囲取得部1211はコンバータ201への入力電力の正常範囲を取得する。入力電力の正常範囲はX線照射条件に応じて予め定められ、例えば図13に示すようなテーブルとして、記憶装置123に記憶される。図13のテーブルにはX線照射条件毎に入力電力の正常範囲が定められており、例えばX線照射条件X2に対して入力電力の正常範囲PL2~PU2が対応する。すなわち目標管電圧等のX線照射条件が設定されると、正常範囲取得部1211は図13のテーブルから入力電力の正常範囲を読み出す。
【0058】
入力電力比較部1212は、入力電力検出部1101で検出された入力電力が正常範囲内にあるか否かを判定し、入力電力が正常範囲の外であれば管電圧検出部205が故障していると判断する。
【0059】
以上説明した構成により、コンバータ201への入力電力のモニタリングに基づいて高電圧発生装置111の管電圧検出部205の故障を検知することが可能となる。また故障検知にともなうX線撮影の中断指示や、故障検知の操作者への提示は第一実施形態と同様である。
【0060】
[第四実施形態]
第一実施形態では、インバータの制御信号のパルス幅が正常範囲内にあるかどうかに基づいて管電圧検出部205の故障を検知することについて説明した。ところで、インバータ202が動作を開始してから管電圧が定常状態になるまでには有限な時間、例えば数msが必要であり、その間、インバータの制御信号のパルス幅は目標管電圧と検出管電圧との差異に応じて変化する。つまり、管電圧が定常状態になるまではパルス幅が一定ではなく、パルス幅が正常範囲内にあるかどうかを判定するには好ましくない。また、X線管装置101や高電圧発生装置111内で放電が生じている最中、もしくは放電が生じた直後もパルス幅が正常範囲内にあるかどうかを判定するには好ましくない。そこで本実施形態では、適切なタイミングで故障検知を判断することについて説明する。
【0061】
図14を用いて本実施形態のX線制御装置110について説明する。本実施形態と第一実施形態の違いは、判定トリガ生成部1401が追加された点であり、その他の構成は第一実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0062】
判定トリガ生成部1401は故障検知の判断に適切なタイミングでトリガを生成し、そのトリガをパルス幅比較部412へ送信するものである。トリガが生成されるタイミングとしては、管電圧が定常状態になった後や、X線管装置101や高電圧発生装置111内で放電が生じてからX線管装置101や高電圧発生装置111が正常動作に復帰した後が挙げられる。
【0063】
管電圧が定常状態になったか否かの判定は、例えばX線照射を開始してから所定の時間が経過したか否かにより行われる。所定の時間には、管電圧が定常状態になるまでの時間が設定される。管電圧が定常状態になるまでの時間はX線照射条件毎に異なるので、X線照射条件毎に所定の時間を設定しておいても良いし、全X線照射条件の中で定常状態になるまでの時間が最も長い時間が設定されても良い。
【0064】
また、管電圧が定常状態になったか否かの判定は、管電圧の時間変化率が所定の値以下になったか否かにより行われても良い。すなわち所定のサンプリング周期で管電圧をモニタリングし、サンプリング間の管電圧の偏差が予め定めた閾値以下となったときに、管電圧が定常状態になったと判定しても良い。
【0065】
X線管装置101や高電圧発生装置111が放電から正常動作に復帰したか否かの判定は、例えば放電を検知してから所定の時間が経過したか否かにより行われる。所定の時間には、放電直後にインバータ202を停止させる期間であるアーキングリカバリ期間が設定される。アーキングリカバリ期間は数十ms程度である。
【0066】
パルス幅比較部412は判定トリガ生成部1401からのトリガを受信してから、パルス幅が正常範囲内にあるか否かの判定を開始する。
【0067】
このような構成とすることにより、管電圧が定常状態になった後や、X線管装置101や高電圧発生装置111が放電から正常動作に復帰した後等のタイミングでパルス幅比較部412での判定が開始される。その結果、パルス幅が正常範囲内にあるか否かの判定精度を向上させることができる。また故障検知にともなうX線撮影の中断指示や、故障検知の操作者への提示は第一実施形態と同様である。
【0068】
なお、本発明のX線撮影装置は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。例えば第四実施形態の判定トリガ生成部1401を第二実施形態や第三実施形態に追加しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1 X線CT装置、10 被検体、100 スキャンガントリ部、101 X線管装置、102 回転円盤、103 コリメータ、104 開口部、105 寝台装置、106 X線検出器、107 データ収集装置、108 ガントリ制御装置、109 寝台制御装置、 110 X線制御装置、111高電圧発生装置、120 操作ユニット、121 入力装置、122 画像処理装置、123 記憶装置、124 システム制御装置、125 表示装置、201 コンバータ、202 インバータ、203 高電圧変圧器、204 高電圧整流器、205 管電圧検出部、400 インバータ制御部、401 目標管電圧取得部、402 パルス幅調整部、410 故障検知部、411 正常範囲取得部、412 パルス幅比較部、801 出力電流検出部、910 故障検知部、911 正常範囲取得部、912 出力電流比較部、1101 入力電力検出部、1210 故障検知部、1211 正常範囲取得部、1212 入力電力比較部、1401 判定トリガ生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14