(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子およびプリフォーム
(51)【国際特許分類】
C03C 3/068 20060101AFI20220819BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20220819BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
G02B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2017254029
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】萩野 道子
(72)【発明者】
【氏名】永岡 敦
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143739(JP,A)
【文献】特開2017-193460(JP,A)
【文献】特開2007-8761(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068125(WO,A1)
【文献】特開平2-30640(JP,A)
【文献】特開2017-88479(JP,A)
【文献】特開2005-179142(JP,A)
【文献】特開2004-175632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO
2成分を14.0%未満、
B
2O
3成分を0超~
20.0%、
La
2O
3成分を0超~30.0%、
BaO成分を24.0~60.0%、
Y
2O
3成分を2.0%以上
、
ZnO成分を4.00%以下
含有し、
Rn
2
O成分の含有量の和が2.0%以下であり(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)、
質量比(RO+K
2O)/(TiO
2+Nb
2O
5+WO
3+ZrO
2+ZnO+SiO
2+B
2O
3)が
0.60以上3.00以下であり
(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、
部分分散比(θ
C,
t)とアッベ数(νd)との間で、(0.005×νd+0.480)≦(θ
C,
t)≦(0.005×νd+0.540)の関係を満たす、光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、
SiO
2成分を6.9%以上、14.0%未満、
B
2O
3成分を1.8~15.2%、
La
2O
3成分を3.9~25.7%、
BaO成分を26.8~48.0%
含有する、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、
MgO成分 0~5.0%
CaO成分 0~15.0%
SrO成分 0~15.0%
K
2O成分 0~
1.0%
TiO
2成分 0~25.0%
Nb
2O
5成分 0~26.0%
WO
3成分 0~10.0%
ZrO
2成分 0~10.0
%
Gd
2O
3成分 0~25.0%
Y
2O
3成分
2.0~25.0%
Yb
2O
3成分 0~10.0%
Li
2O成分 0~
1.4%
Na
2O成分 0~
1.0%
Al
2O
3成分 0~15.0%
Ga
2O
3成分 0~10.0%
P
2O
5成分 0~10.0%
GeO
2成分 0~10.0%
Ta
2O
5成分 0~5.0%
Bi
2O
3成分 0~10.0%
TeO
2成分 0~10.0%
SnO
2成分 0~3.0%
Sb
2O
3成分 0~1.0%
であり、
上記各元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての含有量が0~10.0質量%である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、RO成分の含有量の和が
26.0%以上65.0%以下である請求項1から3のいずれかに記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)。
【請求項5】
質量和(RO+K
2O)が
26.0%以上65.0%以下である請求項1から4のいずれかに記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)。
【請求項6】
質量和(SiO
2+B
2O
3)が10.0%以上
28.0%以下である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量和TiO
2+Nb
2O
5+WO
3+ZrO
2が40.0%以下である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
質量%で、Ln
2O
3成分の含有量の和が3.0%以上50.0%以下である請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)。
【請求項9】
質量比(SiO
2+Al
2O
3+TiO
2+Nb
2O
5+ZrO
2)/B
2O
3が0.20以上である請求項
1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項
1から9のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項11】
請求項
1から9のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項12】
請求項
11に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子およびプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラ等の車載用光学機器や監視カメラに組み込まれる光学素子や、プロジェクタ、コピー機、レーザプリンタ及び放送用機材等のような多くの光学機器に組み込まれる光学素子では、その大小はあるが、色収差と呼ばれるにじみを含んでいる。
【0003】
色収差は、低分散レンズと高分散レンズを組み合わせることで補正されるが、可視光から赤外光を含む広帯域に色収差が残ることがある。ここで、部分分散比(θC,t)が大きいレンズを用いることで、可視光及び赤外光を含む広帯域における色収差を改善することができる。
【0004】
部分分散比(θC,t)は、下式(1)により示される。
θC,t=(nC-nt)/(nF-nC)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、長波長域の部分分散性を表す部分分散比(θ
C,
t)とアッベ数(νd)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θ
C,
t)を縦軸に、アッベ数(νd)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(
図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(νd)は36.3,部分分散比(θ
C,
t)は0.7168、NSL7のアッベ数(νd)は60.5、部分分散比(θ
C,
t)は0.8305である。)
【0006】
そして、部分分散比(θC,t)およびアッベ数(νd)のプロットがノーマルラインから縦軸方向にどの程度離れているかを示す指標が異常分散性(ΔθC,t)である。異常分散性(ΔθC,t)が大きいガラスからなる光学素子は、他のレンズによって生じていた色収差を補正することができる性質を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)とが特定の関係を満たす、異常分散性(ΔθC,t)が大きい光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、SiO2及びB2O3成分を含有するガラスにおいて、BaOを10.0~60.0%含有させることで部分分散比(θC,t)がより低い(すなわち異常分散性が大きい)光学ガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の(1)~(14)である。
(1)質量%で、
SiO2成分を14.0%未満、
B2O3成分を0超~30.0%、
La2O3成分を0超~35.0%、
BaO成分を10.0~60.0%
を含有し、
質量比(RO+K2O)/(TiO2+Nb2O5+WO3+ZrO2+ZnO+SiO2+B2O3)が3.00以下であり、
部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)との間で、(0.005×νd+0.480)≦(θC,t)≦(0.005×νd+0.550)の関係を満たす、光学ガラス。
(2)質量%で、
SiO2成分を6.9%以上14.0%未満、
B2O3成分を1.8~15.2%、
La2O3成分を3.9~25.7%、
BaO成分を26.8~48.0%、
を含有する、上記(1)に記載の光学ガラス。
(3)質量%で、
MgO成分 0~5.0%
CaO成分 0~15.0%
SrO成分 0~15.0%
K2O成分 0~10.0%
TiO2成分 0~25.0%
Nb2O5成分 0~26.0%
WO3成分 0~10.0%
ZrO2成分 0~10.0%
ZnO成分 0~10.0%
Gd2O3成分 0~25.0%
Y2O3成分 0~25.0%
Yb2O3成分 0~10.0%
Li2O成分 0~3.0%
Na2O成分 0~5.0%
Al2O3成分 0~15.0%
Ga2O3成分 0~10.0%
P2O5成分 0~10.0%
GeO2成分 0~10.0%
Ta2O5成分 0~5.0%
Bi2O3成分 0~10.0%
TeO2成分 0~10.0%
SnO2成分 0~3.0%
Sb2O3成分 0~1.0%
であり、
上記各元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての含有量が0~10.0質量%である上記(1)または(2)に記載の光学ガラス。
(4)質量%で、RO成分の含有量の和が14.0%以上65.0%以下である上記(1)~(3)のいずれかに記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)。
(5)質量和(RO+K2O)が14.0%以上65.0%以下である上記(1)から(4)のいずれかに記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)。
(6)質量和(SiO2+B2O3)が10.0%以上55.0%以下である上記(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
(7)質量和TiO2+Nb2O5+WO3+ZrO2が40.0%以下である上記(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
(8)質量%で、Ln2O3成分の含有量の和が3.0%以上50.0%以下である上記(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)。
(9)質量%で、Rn2O成分の含有量の和が10.0%以下である上記(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)。
(10)質量比(SiO2+Al2O3+TiO2+Nb2O5+ZrO2)/B2O3が0.20以上である上記(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
(11)上記(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
(12)上記(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
(13)上記(12)に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)とが特定の関係を満たす、異常分散性(ΔθC,t)が大きい光学ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】部分分散比(θ
C,
t)が縦軸でアッベ数(νd)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【
図2】実施例のガラスについての部分分散比(θ
C,
t)とアッベ数(νd)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光学ガラスについて説明する。
本発明の光学ガラスは質量%で、SiO2成分を14.0%未満、B2O3成分を0超~35.0%、La2O3成分を0超~35.0%、BaO成分を10.0~60.0%を含有し、質量比(RO+K2O)/(TiO2+Nb2O5+WO3+ZrO2+ZnO+SiO2+B2O3)が3.00以下であり、部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)との間で、(0.005×νd+0.480)≦(θC,t)≦(0.005×νd+0.550)の関係を満たす、光学ガラスである。
【0012】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量(%)は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%を意味するものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0013】
<必須成分、任意成分について>
SiO2成分は、ガラス形成酸化物として必須成分である。
特に、SiO2成分を0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を高める。また、化学的耐久性、特に耐水性を高め、熔融ガラスの粘度を高め、ガラスの着色を低減できる。また、ガラスの安定性を高めて量産に耐えるガラスを得易くできる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは6.9%以上とする。
他方で、SiO2成分の含有量を14.0%未満にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、ガラス転移点の上昇を抑えられ、且つ屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは14.0%未満、好ましくは13.9%以下、より好ましくは13.8%以下とする。
【0014】
B2O3成分は、ガラス形成酸化物として必須の成分である。特に、B2O3成分を0%超含有することで、部分分散比(θC,t)を高める。また、ガラスの失透を低減できる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、好ましくは0.6%以上、より好ましくは1.2%以上、さらに好ましくは1.8%以上とする。
他方で、B2O3成分の含有量を30.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、相対屈折率の温度係数を小さくでき、且つ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは15.2%以下とする。
【0015】
La2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる必須の成分である。従って、La2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは2.0%以上、より好ましくは3.0%以上、より好ましくは3.9%以上、さらに好ましくは8.8%以上とする。
他方で、La2O3成分の含有量を35.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで失透を低減でき、アッベ数の上昇を抑えられる。また、ガラス原料の熔解性を高められる。従って、La2O3成分の含有量は、好ましくは35.0%以下、より好ましくは30.0%以下、より好ましくは26.0%以下、さらに好ましくは25.7%以下とする。
【0016】
BaO成分は、10.0%以上含有する必須成分であり、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、その程度も大きい。また、ガラス原料の熔融性を高められ、ガラスの失透を低減でき、屈折率を高められ、相対屈折率の温度係数を小さくできる。BaO成分の含有量は好ましくは10.0%以上、より好ましくは24.0%以上、より好ましくは26.0%以上、さらに好ましくは26.8%以上とする。
他方で、BaO成分の含有量を60.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、化学的耐久性(耐水性)の低下、失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは55.0%以下、より好ましくは52.0%以下、さらに好ましくは48.0%以下とする。
【0017】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる任意成分である。
他方で、MgO成分の含有量を5.0%以下に、又は、CaO成分若しくはSrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えることができ、且つこれらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。
従って、MgO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下とする。
また、CaO成分及びSrO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下とする。
【0018】
Li2O成分、Na2O成分及びK2O成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を高める作用を備え、また、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くできる任意成分である。特に、K2O成分を0%超含有する場合、相対屈折率の温度係数を小さくできる。
他方で、Li2O成分、Na2O成分及びK2O成分の含有量を低減させることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの失透を低減できる。また、特にLi2O成分の含有量を低減させることで、ガラスの粘性が高められるため、ガラスの脈理を低減できる。
従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.8%未満、さらに好ましくは1.4%以下としてもよい。
また、Na2O成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
また、K2O成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0019】
TiO2成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低くでき、且つガラスの失透を低減できる任意成分である。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上としてもよい。
他方で、TiO2成分の含有量を25.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、TiO2成分の過剰な含有による失透を低減でき、ガラスの可視光(特に波長500nm以下)に対する透過率の低下を抑えられる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは22.0%以下、より好ましくは21.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下としてもよい。
【0020】
Nb2O5成分は0%超含有する場合にガラスの屈折率を高め、アッベ数を低くでき、且つガラスの液相温度を低くすることで耐失透性を高められる任意成分である。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.1%以上としてもよい。
他方で、Nb2O5成分の含有量を26.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、Nb2O5成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つ、ガラスの可視光(特に波長500nm以下)に対する透過率の低下を抑えられる。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは26.0%以下、より好ましくは24.0%以下、より好ましくは22.0%以下、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下としてもよい。
【0021】
WO3成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、他の高屈折率成分によるガラスの着色を低減しながら、屈折率を高め、アッベ数を低くでき、ガラス転移点を低くでき、且つ失透を低減できる任意成分である。従って、WO3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.7%以上としてもよい。
他方で、WO3成分の含有量を10.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、且つ材料コストを抑えられる。また、WO3成分によるガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、WO3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下としてもよい。
【0022】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を高める作用を高めつつ、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上としてもよい。
他方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、ZrO2成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5.0%以下としてもよい。
【0023】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、原料の熔解性を高め、熔解したガラスからの脱泡を促進し、また、ガラスの安定性を高められる任意成分である。また、ガラス転移点を低くでき、且つ化学的耐久性を改善できる成分でもある。
他方で、ZnO成分の含有量を10.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、熱による膨張を低減でき、屈折率の低下を抑えられ、且つ、過剰な粘性の低下による失透を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは9.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下としてもよい。
【0024】
Gd2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
他方で、Gd2O3成分は希土類の中でも原料価格が高く、その含有量が多いと生産コストが高くなる。また、Gd2O3成分の含有を低減させることで、ガラスのアッベ数の上昇を抑えられる。
従って、Gd2O3成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下としてもよい。
また、Gd2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%以上、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは6.0%以上としてもよい。
【0025】
Yb2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
他方で、Yb2O3成分は希土類の中でも原料価格が高く、その含有量が多いと生産コストが高くなる。また、Yb2O3成分の含有を低減させることで、ガラスのアッベ数の上昇を抑えられる。
従って、Yb2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは2.0%以下としてもよい。
また、Yb2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上としてもよい。
【0026】
Y2O3成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、ガラスの屈折率を高めながらも、他の希土類元素に比べてガラスの材料コストを抑えられる任意成分である。従って、Y2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは2.0%以上としてもよい。
他方で、Y2O3成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、ガラスのアッベ数の上昇を抑えられ、且つガラスの安定性を高められる。また、ガラス原料の熔解性の悪化を抑えられる。従って、Y2O3成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは21.0%以下、より好ましくは18.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは13.5%以下としてもよい。
【0027】
Al2O3成分及びGa2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの耐失透性を向上できる任意成分である。そのため、特にAl2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上としてもよい。
他方で、Al2O3成分の含有量を15.0%以下にし、又は、Ga2O3成分の含有量をそれぞれ10.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。
従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下としてもよい。
また、Ga2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0028】
P2O5成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、P2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよく、P2O5成分を含まなくてもよい。
【0029】
GeO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかしながら、GeO2成分は原料価格が高く、その含有量が多いと生産コストが高くなる。従って、GeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0030】
Ta2O5成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、Ta2O5成分の含有量を5.0%以下にすることで、光学ガラスの原料コストを低減でき、また、原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解に要するエネルギーが低減されるため、光学ガラスの製造コストも低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。特に材料コストを低減させる観点では、Ta2O5成分を含有しないことが好ましい。
【0031】
Bi2O3成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、屈折率を高め、アッベ数を低くでき、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、Bi2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。従って、Bi2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0032】
TeO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、TeO2成分は白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0033】
SnO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
他方で、SnO2成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO2成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下としてもよい。
【0034】
Sb2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
他方で、Sb2O3成分の含有量を1.0%以下にすることで、可視光領域の短波長領域における透過率の低下や、ガラスのソラリゼーション、内部品質の低下を抑えられる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下としてもよい。
【0035】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0036】
F成分は、0%超含有する場合に、部分分散比(θC,t)を低減させる作用を備え、また、ガラスのアッベ数を高め、ガラス転移点を低くし、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかし、F成分の含有量、すなわち上述した各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量が10.0%を超えると、F成分の揮発量が多くなるため、安定した光学恒数が得られ難くなり、均質なガラスが得られ難くなる。また、アッベ数が必要以上に上昇する。
従って、F成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下としてもよい。
【0037】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)、すなわち、MgO含有率(%)+CaO含有率(%)+SrO含有率(%)+BaO含有率(%)は14.0%以上が好ましい。これにより、ガラスの失透を低減でき、且つ、相対屈折率の温度係数を小さくできる。従って、RO成分の質量和は、好ましくは14.0%以上、より好ましくは17.0%以上、より好ましくは20.0%以上、より好ましくは23.0%以上、さらに好ましくは26.0%以上とする。
他方で、RO成分の質量和を65.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、また、ガラスの安定性を高められる。従って、RO成分の質量和は、好ましくは65.0%以下、より好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは50.0%以下とする。
【0038】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)と、K2O成分の含有量の和(質量和)、すなわち、MgO含有率(%)+CaO含有率(%)+SrO含有率(%)+BaO含有率(%)+K2O含有率(%)は14.0%以上が好ましい。
特に、質量和(RO+K2O)の質量和を14.0%以上にすることで、ガラスの失透を低減でき、且つ、相対屈折率の温度係数を小さくできる。従って、質量和(RO+K2O)は、好ましくは14.0%以上、より好ましくは17.0%以上、より好ましくは20.0%以上、より好ましくは23.0%以上、さらに好ましくは26.0%以上とする。
他方で、質量和(RO+K2O)を65.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、また、ガラスの安定性を高められる。従って、質量和(RO+K2O)は、好ましくは65.0%以下、より好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは50.0%以下とする。
【0039】
SiO2成分及びB2O3の合計量は、10.0%以上55.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を10.0%以上にすることで、部分分散比(θC,t)を高めることができ、また、安定なガラスを得易くできる。従って、質量和(SiO2+B2O3)は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは11.0%以上、より好ましくは13.0%以上、さらに好ましくは15.0%以上とする。
他方で、この合計量を55.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくできる。従って、質量和(SiO2+B2O3)は、好ましくは55.0%以下、より好ましくは40.0%以下、より好ましくは35.0%以下、より好ましくは28.0%以下、さらに好ましくは24.0%以下とする。
【0040】
TiO2成分、Nb2O5成分、WO3成分及びZrO2成分の合計量(質量和)は、40.0%以下が好ましい。これにより、相対屈折率の温度係数を小さくできる。従って、質量和TiO2+Nb2O5+WO3+ZrO2は、好ましくは40.0%以下、より好ましくは38.0%以下、より好ましくは36.0%以下、さらに好ましくは34.0%以下とする。
【0041】
TiO2成分、Nb2O5成分、WO3成分、ZrO2成分、ZnO成分、SiO2成分及びB2O3成分の合計含有量に対する、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)及びK2O成分の合計含有量の比率(質量比)は、0.60以上3.00以下が好ましい。
この比率を大きくすることで、相対屈折率の温度係数を小さくできる。従って、質量比(RO+K2O)/(TiO2+Nb2O5+WO3+ZrO2+ZnO+SiO2+B2O3)は、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.65以上、より好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.75以上とする。
他方で、この質量比は、安定なガラスを得る観点から、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.10以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.50以下としてもよい。
【0042】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)、すなわち、La2O3含有率(%)+Gd2O3含有率(%)+Y2O3含有率(%)+Yb2O3含有率(%)は、3.0%以上50.0%以下が好ましい。
特に、この和を3.0%以上にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数が高められるため、所望の屈折率及びアッベ数を有するガラスを得易くすることができる。従って、Ln2O3成分の質量和は、好ましくは3.0%以上、より好ましくは3.5%以上、さらに好ましくは3.9以上%とする。
他方で、この和を50.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの失透を低減できる。また、アッベ数の必要以上の上昇を抑えられる。従って、Ln2O3成分の質量和は、好ましくは50.0%以下、より好ましくは48.0%以下、より好ましくは45.0%以下、より好ましくは42.0%以下、さらに好ましくは39.0%以下とする。
【0043】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、すなわち、Li2O含有率(%)+Na2O含有率(%)+K2O含有率(%)は10.0%以下が好ましい。これにより、熔融ガラスの粘性の低下を抑えられ、ガラスの屈折率を低下し難くでき、且つガラスの失透を低減できる。従って、Rn2O成分の質量和は、好ましくは10.0%以下、よりに好ましくは7.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
【0044】
B2O3成分の含有量に対する、SiO2成分、Al2O3成分、TiO2成分、Nb2O5成分及びZrO2成分の合計含有量の比率(質量比)は、0.20以上が好ましい。
この比率を大きくすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性を高められる。従って、質量比(SiO2+BaO+Al2O3+TiO2+Nb2O5+ZrO2)/B2O3は、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.50以上、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは1.00以上とする。
他方で、この質量比は、安定なガラスを得る観点から、好ましくは32.0以下、より好ましくは30.0以下、さらに好ましくは28.0以下としてもよい。
【0045】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0046】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0048】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記各成分の原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を、各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で800~1400℃の温度範囲で2~10時間熔解させた後、攪拌し、十分に均質化し、適当な温度に下げてから金型等に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0050】
ここで、本発明の光学ガラスは、原料として硫酸塩を用いないことが好ましい。これにより、熔解後のガラス原料からの脱泡が促進されるため、光学ガラスへの気泡の残留を抑えられる。
【0051】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高アッベ数(低分散)を有する。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.70、より好ましくは1.73、さらに好ましくは1.75、さらに好ましくは1.77を下限とする。
この屈折率(nd)は、好ましくは2.00、より好ましくは1.90、さらに好ましくは1.88を上限としてもよい。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは27、より好ましくは28、さらに好ましくは29、さらに好ましくは29.8を下限とする。
このアッベ数(νd)は、好ましくは55、より好ましくは53、さらに好ましくは50、さらに好ましくは45、さらに好ましくは41を上限としてもよい。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズとして用いたときに光の波長による焦点のずれ(色収差)を小さくできる。そのため、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせて光学系を構成した場合に、その光学系の全体として収差を低減させて高い結像特性等を図ることができる。
このように、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に光学系を構成したときに、高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0052】
本発明の光学ガラスは、アッベ数(νd)に対して低い部分分散比(θC、t)を備えるため、大きい異常分散性(ΔθC,t)を備える。具体的には、部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)との間で、(0.005×νd+0.480)≦(θC,t)≦(0.005×νd+0.550)の関係を満たす。
部分分散比(θC,t)は、(0.005×νd+0.480)≦(θC,t)を満たすが、(0.005×νd+0.490)≦(θC,t)を満たすことが好ましく、(0.005×νd+0.500)≦(θC,t)を満たすことがより好ましい。
また、部分分散比(θC,t)は、(θC,t)≦(0.005×νd+0.550)を満たすが、(θC,t)≦(0.005×νd+0.545)を満たすことが好ましく、(θC,t)≦(0.005×νd+0.540)を満たすことがより好ましい。
ここで、含有量を高めた場合に、アッベ数(νd)に対して部分分散比(θC、t)を低減する作用を備える成分として、F、TiO2、Bi2O3、Y2O3が挙げられる。特に、BaOを高含有させることで、アッベ数(νd)に対して部分分散比(θC、t)を低減する効果が高いことを、本発明者は見出した。
これに対して、含有量を高めた場合に、アッベ数(νd)に対して部分分散比(θC、t)を高める作用を備える成分として、SiO2、B2O3、アルカリ金属酸化物(Rn2O)、ZrO2が挙げられる。
【0053】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0054】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームを用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォームの形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【0055】
本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0056】
本発明の実施例1~12および比較例1の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θC,t)等の結果を表1に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示であり、これらの実施例のみに発明の範囲が限定されるものではない。
【0057】
本発明の実施例1~12および比較例1のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で800~1400℃の温度範囲で2~10時間熔解させた後、攪拌し、十分に均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0058】
実施例1~12および比較例1のガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)及び部分分散比(θc,t)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。また、部分分散比(θC,t)は、上記c線に対する屈折率(nC)、赤外水銀のt線(1013.98nm)に対する屈折率(nt)、上記F線に対する屈折率(nF)の値を用いて、部分分散比(θC,t)=[(nC-nt)/(nF-nC)]の式から算出した。
【0059】
【0060】
表1および
図2に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.77以上であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(νd)が27以上53以下の範囲内、より詳細には29.8以上40.75以下の範囲内であった。
【0061】
また、実施例の光学ガラスは、安定なガラスを形成しており、ガラス作製時において失透が起こり難いものであった。
【0062】
また、実施例の光学ガラスは、部分分散比(θC,t)とアッベ数(νd)との間で、(0.005×νd+0.480)≦(θC,t)≦(0.005×νd+0.550)の関係を満たす、異常分散性(ΔθC,t)が大きい光学ガラスであることが明らかになった。一方で比較例の光学ガラスは、(0.0038×νd+0.5300)≦(θC,t)≦(0.0038×νd+0.5862)の関係を満たさない光学ガラスであり、異常分散性(ΔθC,t)が小さい光学ガラスであった。