(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】防湿皮膜形成用シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220819BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220819BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220819BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220819BHJP
C08J 7/052 20200101ALI20220819BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
B32B27/30 B
B32B27/30 A
B32B27/32 C
C08J7/04 Z CEZ
C08J7/052 CER
H05K3/28 C
H05K3/28 G
(21)【出願番号】P 2018009600
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】奥田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 弘文
(72)【発明者】
【氏名】平山 大介
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186433(JP,A)
【文献】特開2015-193724(JP,A)
【文献】特開2015-159214(JP,A)
【文献】特開2016-020402(JP,A)
【文献】特開2014-136746(JP,A)
【文献】特開2000-349101(JP,A)
【文献】特開2018-192714(JP,A)
【文献】DVA-200シリーズによる動的粘弾性測定データ報告,アイティー計測制御株式会社,2015年10月10日,2011-5,http://www.itkdva.jp/pdf/DataSheet.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 3/28
C08J 7/04-7/06
C09J 1/00-5/10
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シートの表面に積層された防湿コート層とを備え、
該防湿コート層を被処理品に転写して該被処理品の表面に防湿皮膜を形成すべく用いられ、
前記防湿コート層は、
ビニル芳香族ブロックとオレフィンブロックとを有するブロックコポリマーを含み且つ熱接着性を有する樹脂組成物により構成され、
前記基材シート
は、1Hzの測定周波数で測定されたときに、85℃~100℃の範囲の何れかの温度で0.01GPa以上0.1GPa以下の貯蔵弾性率を示す樹脂シートであ
って、ポリメチルメタクリレート系樹脂シート又はポリオレフィン系樹脂シートである、防湿皮膜形成用シート。
【請求項2】
前記表面に1.5mm以上の段差を有する前記被処理品に前記防湿皮膜を形成すべく用いられる請求項1
に記載の防湿皮膜形成用シート。
【請求項3】
前記被処理品がプリント回路板である請求項1
又は2に記載の防湿皮膜形成用シート。
【請求項4】
前記基材シートの前記表面には、前記防湿コート層が積層されている領域と前記防湿コート層が積層されていない領域とが備えられている請求項1乃至
3の何れか1項に記載の防湿皮膜形成用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理品の表面に防湿皮膜を形成するための防湿皮膜形成用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板にチップ部品などの電子部品を搭載したプリント回路板が各種の電子機器に用いられている。
電子機器に対する小型化の要求を満足させるべく前記プリント回路板には、高密度実装が求められている。
そのため、プリント配線板は、配線ピッチが狭ピッチなものとなっている。
このような狭ピッチのプリント配線板を用いたプリント回路板では、はんだブリッジなどによるショートが生じるおそれがある。
このようなショートは、はんだブリッジを原因とする場合だけでなく水分によっても生じ得る。
例えば、電子機器内に入り込んだ水蒸気によってプリント回路板の表面に結露が生じたりすると、水滴が極めて小さなものであっても回路ショートの原因となる。
【0003】
このような水分による回路ショートの対策として、樹脂組成物でプリント回路板をオーバーコートして防湿処理を施すことが行われている。
従来の防湿処理は、樹脂組成物でプリント回路板の表面に防湿皮膜を形成するような方法で実施されている。
なお、プリント回路板だけでなく、樹脂組成物で被処理品の表面に防湿皮膜を形成させた防湿処理製品は、各種の用途において用いられている。
防湿処理製品での防湿皮膜の形成には、下記特許文献1、2に記載されているように液状のコート剤が用いられており、防湿皮膜は、被処理品の被処理面に前記コート剤を塗布してウェット塗膜を形成させた後に、塗膜を乾燥させて防湿皮膜を形成させるような方法によって作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-089061号公報
【文献】特開2013-234256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリント回路板の電子部品が搭載されている面を被処理面とする場合、液状のコート剤で防湿皮膜を形成しようとすると厚みが比較的均一な防湿皮膜を形成することが難しい。
具体的には、複数本のリードフレームが一定間隔で並んでいるような表面実装部品(SMD)が搭載されているプリント回路板に液状のコート剤で防湿皮膜を形成しようとした場合、リードフレームの上部では薄い塗膜しか形成されず、リードフレーム間に液溜りが出来易くなる。
また、リードフレームのエッジ部などにおいては、特に薄い塗膜しか形成されないおそれがある。
さらに、DIP(Dual Inline Package)のようなスルホール挿入型の電子部品(THD)を搭載したプリント回路板のはんだ面では、リードの先端部が突出した状態になっており、このようなはんだ面を被処理面とするとリード先端部の塗膜厚みが他に比べて薄くなり易い。
【0006】
上記のようなことから、防湿処理を施す被処理品がプリント回路板であるような場合には、従来の方法では防湿皮膜を一定以上の厚みとすることが難しく、部分的に防湿皮膜の厚みが薄くなってしまったり、場合によっては防湿皮膜に途切れを生じさせてしまったりするおそれがある。
なお、上記のような問題は、防湿処理を施す被処理品がプリント回路板である場合に限って生じるものではない。
即ち、部分的に厚みの薄い防湿皮膜が形成されると、防湿性能が十分に発揮されないおそれがあるため、部分的に厚みの薄い防湿皮膜の形成を抑制することは、特定の分野に限らず広く一般に要望されている事項である。
【0007】
そして、本発明は上記のような要望を満足させることを課題としており、防湿性能に優れた防湿皮膜を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、基材シートと、該基材シートの表面に積層された防湿コート層とを備え、該防湿コート層を被処理品に転写して該被処理品の表面に防湿皮膜を形成すべく用いられ、前記防湿コート層は、熱接着性を有する樹脂組成物により構成され、前記基材シートが、85℃~100℃の範囲の何れかの温度で0.01GPa以上0.1GPa以下の貯蔵弾性率を示す樹脂シートである、防湿皮膜形成用シートを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば予め形成された防湿コート層を被処理品に転写するため、液状のコーティング剤を用いる場合に比べて厚みが極端に薄い部分が形成され難くなる。
しかも、本発明の防湿皮膜形成用シートは、適度に加熱することで良好な軟化状態となる樹脂シートに防湿コート層が積層されているため、仮に被処理品の表面に凹凸が形成されていたとしても該表面に対して優れた追従性を発揮させ得る。
従って、本発明によれば、被処理品に対して防湿性能に優れた防湿皮膜を形成させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】防湿皮膜を形成させる被処理品であるプリント回路板の(a)平面図、及び、(b)側面図。
【
図3】プリント回路板に防湿皮膜を形成するための装置に係る概略図。
【
図4】
図3に示した装置でプリント回路板に防湿皮膜を形成する方法(区分工程)を示した概略図。
【
図5】
図3に示した装置でプリント回路板に防湿皮膜を形成する方法を示した概略図。
【
図6】
図3に示した装置でプリント回路板に防湿皮膜を形成する方法(加圧工程)を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
以下においては、被処理品がプリント回路板である場合を例にして本発明の実施の形態について説明する。
即ち、以下においては本発明の防湿皮膜形成用シートを使ってプリント回路板の表面に防湿皮膜を形成させる場合を例示する。
【0012】
図1に示すように本実施形態の防湿皮膜形成用シートFは、基材シートF1と、該基材シートF1の表面に積層された防湿コート層F2とを備えている。
本実施形態の防湿皮膜形成用シートFは、該防湿コート層F2が被処理品であるプリント回路板に転写され、防湿処理が施されるべき該プリント回路板の表面(以下「被処理面」)に防湿コート層F2で防湿皮膜を形成すべく用いられる。
本実施形態での前記防湿コート層F2は、基材シートF1の両面には備えられておらず、片面にのみ備えられている。
また、前記防湿コート層F2は、基材シートF1の全面を覆うようには備えられていない。
即ち、防湿コート層F2が形成されている領域の面積は、基材シートF1の面積よりも小さい。
したがって、前記基材シートF1の一方の表面には、前記防湿コート層F2が積層されている領域(以下、「積層領域F11」ともいう)と前記防湿コート層F2が積層されていない領域(以下、「非積層領域F12」ともいう)とが備えられている。
本実施形態の前記積層領域F11は、基材シートF1の中央部に設けられている。
前記非積層領域F12は、基材シートF1の外周縁に沿って設けられ、前記積層領域F11を包囲するように設けられている。
【0013】
前記積層領域F11の平面視における形状は、被処理面に形成すべき防湿皮膜の形状に対応している。
即ち、本実施形態における防湿皮膜形成用シートFは、形成すべき防湿皮膜の形状に対応したパターニングが施された防湿コート層F2を備えている。
【0014】
前記防湿皮膜形成用シートFの基材シートF1は、樹脂シートである。
該樹脂シートは、適度なコシを有することが好ましく、5μm以上の厚みを有することが好ましい。
樹脂シートの厚みは、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。
樹脂シートは、過度な厚みを有していないことが好ましい。
樹脂シートの厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。
【0015】
前記樹脂シートの厚みは、マイクロメータなどを用いて測定することができ、無作為に選択した10箇所以上において測定した値の算術平均値として求めることができる。
【0016】
前記樹脂シートは、常温(例えば、23℃)における貯蔵弾性率が0.5GPa以上であることが好ましい。
前記樹脂シートの常温(例えば、23℃)における貯蔵弾性率は、1GPa以上であることがより好ましい。
前記樹脂シートの常温(例えば、23℃)における貯蔵弾性率は、10GPa以下であることが好ましく、5GPa以下であることがより好ましい。
【0017】
前記防湿コート層F2は、後段において詳述するように熱接着性を有する樹脂組成物により構成されている。
従って、前記樹脂シートは、熱接着によって防湿コート層F2をプリント回路板に転写する際に適度な軟化状態となることが好ましい。
具体的には、前記樹脂シートは、85℃~100℃の範囲の何れかの温度で0.01GPa以上0.1GPa以下の貯蔵弾性率を示すことが好ましい。
前記樹脂シートは、上記の温度範囲の内の何れかの温度で0.02GPa以上0.05GPa以下の貯蔵弾性率を示すことがより好ましい。
前記樹脂シートは、上記のような貯蔵弾性率を示す温度範囲が85℃~100℃の範囲の中で5℃以上存在することが好ましく、10℃以上存在することがより好ましい。
前記樹脂シートは、85℃~100℃の範囲の全域において上記のような貯蔵弾性率を示すことが特に好ましい。
【0018】
本実施形態における貯蔵弾性率とは、長さ20mm、幅10mmで、厚みが0.1mm程度の短冊状試料を作製し、該試料を用いて以下のような条件で測定される値を意味する。
(貯蔵弾性率測定条件)
・装置:
動的粘弾性測定装置(例えば、日立ハイテクサイエンス社製「DMA7100」)
・測定モード:引張り
・測定周波数:1Hz
・測定温度範囲:常温~150℃
・昇温速度:5℃/min
【0019】
上記のような樹脂シートとしては、不織布のような繊維シートであってもよいが、表面が平滑なフィルムが好ましい。
前記樹脂シートを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂;GPPS(スチレン単独重合体)、HIPS(スチレン-ブタジエン共重合体)などのスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリイミド樹脂などが挙げられる。
前記樹脂シートを構成する樹脂は、例えば、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーであってもよい。
前記樹脂シートは、単層構造でなく積層構造を有していてもよい。
前記のような貯蔵弾性率を発揮させる上において、前記樹脂シートを構成する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂かアクリル系樹脂かの何れかから選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
前記樹脂シートは、防湿コート層F2の転写性を良好にすべく防湿コート層F2を形成させる側の表面に離型処理が施されていてもよい。
また、樹脂シートは、防湿コート層F2の保持性を良好にすべく前記表面に粗化処理が施されていてもよい。
さらに、樹脂シートは、離型処理と粗化処理との両方が施されていてもよい。
【0021】
前記防湿コート層F2を構成する樹脂組成物は、前記の温度範囲(85~100℃)において熱接着性を発揮するもので、前記の温度範囲において基材シートF1に用いられる樹脂シートよりも低弾性であることが好ましい。
【0022】
前記防湿コート層F2は、前記樹脂組成物を含む液状のコーティング剤を調製し、該コーティング剤を前記基材シートF1に塗布してウェット状態の塗膜を形成した後に、該塗膜を乾燥させることによって形成させることができる。
【0023】
前記防湿コート層F2を構成するための前記樹脂組成物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニル芳香族ブロックとオレフィンブロックとを有するブロックコポリマーを含むものなどが好適である。
前記樹脂組成物には、硫黄系のガスに対するガスバリア性を防湿皮膜に発揮させるべく、スチレン系オリゴマーをさらに含有させてもよい。
【0024】
前記ブロックコポリマーのビニル芳香族ブロックとなる構成単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどのビニル芳香族化合物が挙げられる。
これらの構成単位は、1種単独で前記ビニル芳香族ブロックを構成しても、または2種以上でビニル芳香族ブロックを構成してもよい。
前記ブロックコポリマーは、上記例示以外のビニル芳香族化合物によってビニル芳香族ブロックを構成させてもよく、上記例示のビニル芳香族化合物と上記例示以外のビニル芳香族化合物とでビニル芳香族ブロックが構成されていてもよい。
【0025】
前記オレフィンブロックとなる構成単位としては、例えば、イソプレン、ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。
【0026】
前記ブロックコポリマーの具体的な例としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)等のA-B-A型ブロックコポリマー;スチレン-ブタジエン(SB)、スチレン-イソプレン(SI)、スチレン-エチレン-ブチレン(SEB)、スチレン-エチレン-プロピレン(SEP)、スチレン-イソブチレン(SIB)等のA-B型ブロックコポリマー;スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶(SEBC)等のA-B-C型のスチレン-オレフィン結晶系ブロックコポリマー等が挙げられる。
また、これらの水素添加品なども前記ブロックコポリマーとして用いられ得る。
【0027】
前記ブロックコポリマーとしては、例えば、上記構成単位が100を超える数量で重合されており、質量平均分子量の値が数万~数十万程度となるものを採用することができる。
【0028】
前記スチレン系オリゴマーの構成単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンが挙げられる。
前記スチレン系オリゴマーは、例えば、これらの内のいずれか一つで構成されているもの、これらの内の複数で構成されているもの、上記例示の構成単位と共重合可能なビニル化合物をさらに構成単位として含むものなどとすることができる。
このスチレン系オリゴマーは、通常、上記構成単位が100以下の数量で重合されており、質量平均分子量の値が1万以下(数百~数千)程度となるものを採用することができる。
【0029】
このスチレン系オリゴマーとしては、α-メチルスチレンの単独重合体、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましい。
【0030】
前記樹脂組成物における前記スチレン系オリゴマーの含有量は、ガスバリア性に優れた防湿皮膜の形成に有利であることから、前記ブロックコポリマーの含有量を100質量部とした場合に、50質量部以上200質量部以下であることが好ましい。
【0031】
前記樹脂組成物には、各種の添加剤をさらに含有させてもよく、該添加剤としては、例えば、防湿被膜の接着力を向上させるためのタッキファイヤなどの粘着性付与剤や防湿被膜の柔軟性を制御するためのオイルなどが挙げられる。
前記粘着性付与剤としては、一般に利用されているテルペン系の成分を利用することができる。
また、その他の前記添加剤として、例えば、難燃剤、耐候剤、防錆剤、充填剤、改質剤、顔料などを樹脂組成物にさらに含有させてもよい。
【0032】
前記樹脂組成物とともに塗膜を形成させるための前記溶媒としては、トルエンなどの有機溶媒を採用することも可能ではあるが、水系溶媒を用いることが好ましい。
この水系溶媒としては、水のみであっても水に溶解可能なアルコールなどの有機溶媒を少量(例えば、10質量%以下の割合で)含むものであってもよい。
なお、このような水系溶媒を用いる際には、ブロックコポリマーやスチレン系オリゴマー、あるいは、これらの混合物によって形成される微小な粒子を被覆して保護コロイド化させる保護コロイド成分をさらに含有させてコーティング剤を水性エマルジョンの形態とすることが好ましい。
【0033】
前記保護コロイド成分としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体;(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩;スチレン-無水マレイン酸共重合体塩、マレイン化ポリブタジエン塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩などが挙げられる。
これらの保護コロイド成分は1種単独で、または2種以上を混合して用いることもできる。
これらの中でも、保護コロイド成分として、(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩及び/又はポリビニルアルコールを用いるのが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を用いることが特に好ましい。
【0034】
前記(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を構成する単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルとしてアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステルが挙げられる。
前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、モノメチルイタコン酸などが挙げられる。
また、前記(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体としては、前記単量体の他に、スチレンなどがさらに共重合されているものであってもよい。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩の具体例としては、例えば、アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、メタクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、スチレン-アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、およびスチレン-メタクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0036】
前記(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の質量平均分子量は、3000~50000であることが好ましい。
また、前記(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体の酸価は50~300mg-KOH/gであることが好ましい。
前記(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸系共重合体は、カルボン酸のアルカリ金属塩またはアミン塩、又はアンモニウム塩などで水溶化され得る。
【0037】
保護コロイド成分として用いられるポリビニルアルコールとしては、例えば、重合度300~2600でケン化度が70~92モル%の範囲のものが挙げられる(質量平均分子量としては1500~130000の範囲となる)。
ポリビニルアルコールは、カルボキシル基、スルホン酸基、アセトアセチル基、及び、カチオン基の内の1以上の官能基を有するように変性されたものであってもよい。
【0038】
前記コーティング剤として水性エマルジョンを作製する場合には、例えば、前記ブロックコポリマー100質量部に対して、水系溶媒を150質量部以上1000質量部以下の割合で含有させることができる。
また、前記保護コロイド成分は、前記ブロックコポリマー100質量部に対して、3質量部以上30質量部以下の割合で含有させ得る。
【0039】
前記コーティング剤の調製には、ホモジナイザー等の攪拌装置を用いることができる。
コーティング剤で基材シート上に塗膜を形成させるには、該塗膜を全面に施す場合は、スプレーコート、ナイフコート、リバースコート、刷毛塗りなどの一般的な塗工方法を採用することができる。
前記塗膜を部分的なものとする場合(塗膜時点でパターンを形成する場合)は、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの塗工方法を採用することができる。
該塗工方法で形成された塗膜を乾燥して防湿皮膜を形成させる方法としては、一般的な加熱乾燥炉を用いることができる。
【0040】
前記防湿コート層F2の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、1μm以上250μm以下とされる。
前記防湿コート層F2の厚みは、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
前記防湿コート層F2の厚みは、基材シートF1と同様にマイクロメータなどによって求めることができる。
【0041】
次いで、このような防湿皮膜形成用シートFを用いる方法について
図2-
図6を参照しつつ説明する。
前記のように本実施形態の防湿皮膜形成用シートFは、防湿皮膜を有するプリント回路板(以下、「防湿皮膜付きプリント回路板」ともいう)の形成に用いられる。
即ち、本実施形態の防湿皮膜形成用シートFは、防湿皮膜付きプリント回路板のような防湿処理製品の製造に利用される。
【0042】
本実施形態での防湿処理製品の製造方法は、熱可塑性及び熱接着性を有する前記樹脂組成物で被処理品の表面に防湿皮膜を形成して防湿処理製品を作製する防湿処理製品の製造方法である。
また、本実施形態での防湿処理製品の製造方法は、前記防湿皮膜を形成する被処理面に凹凸を有する被処理品を用い、前記樹脂組成物で形成された防湿コート層F2が熱可塑性を有する基材シートF1に積層された積層構造を有する防湿皮膜形成用シートFを用意する工程、及び、前記防湿皮膜形成用シートFで空間を区分けし、該防湿皮膜形成用シートFを介して隣り合う第1空間部と第2空間部とを形成する区分工程を実施し、前記防湿皮膜形成用シートFを加熱して軟化させる加熱工程を前記区分工程の前又は前記区分工程の後に実施し、前記区分工程と前記加熱工程との後には、前記第1空間部の気圧を前記第2空間部よりも低圧にして前記防湿皮膜形成用シートFに対して前記第2空間部から前記第1空間部に向けて圧力を加える加圧工程を更に実施し、前記区分工程では、第1空間部側の表面が前記防湿コート層F2となるように前記防湿皮膜形成用シートFを配置し、且つ、前記被処理面が前記防湿コート層F2と対向するように前記被処理品を前記第1空間部に配置し、前記加圧工程では、前記加熱工程によって軟化された前記防湿皮膜形成用シートFを前記圧力を利用して前記被処理面に接着させ、該防湿皮膜形成用シートFを構成する前記防湿コート層F2を被処理面に転写することによって前記防湿皮膜を形成する、防湿処理製品の製造方法である。
【0043】
図に示すように本実施形態で被処理品として用いるプリント回路板1は、チップ抵抗やチップコンデンサなどの電子部品が搭載された部品面1aと、該部品面1aの反対面であって電子部品が搭載されておらず、はんだ付けのみが行われているはんだ面1bとを有する。
プリント回路板1は、エッチングされた金属箔で形成された配線を有するプリント配線板10と、該プリント配線板10の両表面に施されたソルダーレジスト層11と、ソルダーレジスト層11が設けられていないランドなどにはんだ付けされた電子部品(表面実装部品SMD、及び、スルホール挿入型部品THD)とを備えている。
【0044】
本実施形態のプリント回路板1は、電子機器のコネクタに挿入されるべく平面視における輪郭線の一部が外向きに突出するように形成されたコネクタ部1cを有している。
本実施形態のプリント回路板1は、電子機器の筐体などに螺子止めし得るように平面視における4隅に貫通孔H1~H4を有している。
【0045】
本実施形態においては、前記部品面1a及びはんだ面1bの両方に防湿皮膜を形成して防湿皮膜付きプリント回路板を作製する。
即ち、本実施形態においては、前記部品面1a及びはんだ面1bが防湿処理の施される被処理面となっている。
前記部品面1aには、表面実装部品SMDとスルホール挿入型部品THDとが混載されている。
スルホール挿入型部品THDは、プリント配線板10を厚み方向に貫通するように設けられたスルホールTHにリードRを挿通させて部品面側に配されている。
【0046】
スルホール挿入型部品THDは、前記リードRの先端部Raをはんだ面1bに突出させており、はんだ面1bに設けられたランド(図示せず)に対してはんだ付けされている。
そのため、プリント回路板1の第1の被処理面(以下「第1被処理面」ともいう)である部品面1aには、表面実装部品SMDやスルホール挿入型部品THDの部品高さに応じた凹凸が形成されているとともにプリント回路板1の第2の被処理面(以下「第2被処理面」ともいう)であるはんだ面1bにもリードRの突出高さなどに応じた凹凸が形成されている。
第1被処理面での凹凸に比べて第2被処理面での凹凸の方がプリント配線板10の表面からの突出高さが低いものの該第2被処理面での凹凸の突出高さは、後述する防湿皮膜の厚みに比べて大きい。
【0047】
本実施形態においては、防湿皮膜を形成するための樹脂組成物で予め防湿コート層F2を基材シート上に形成した後で、当該防湿コート層F2を第1被処理面(部品面1a)や第2被処理面(はんだ面1b)に接着させるようにして防湿皮膜が形成される。
そのため、液状のコーティング剤を用いる場合に比べて防湿皮膜に一定以上の厚みを付与させ易いものの単に防湿コート層F2を被処理面に接着させるだけでは被処理面の凹凸に十分良好な追従性を示さないおそれがある。
本実施形態においては、防湿コート層F2を熱接着によって被処理面に転写する際に基材シートが適度な弾性率となるため、凹凸を有する被処理面に対して良好な追従性を発揮する。
また、本実施形態においては、防湿コート層F2をより良好な状態で被処理面に熱接着させるべく特定の装置が用いられる。
【0048】
本実施形態で防湿皮膜付きプリント回路板の製造に利用され得る前記装置並びにその使用方法の一例を
図3~
図6を参照しつつ説明する。
図に示す装置100は、垂直方向において対向するように対になって配された2つの型を有している。
具体的には、装置100は、下型110と、該下型の上方に配された上型120とを有している。
前記下型110は、扁平な矩形箱形状を有しており、上方に向けて開口した有底筒形形状を有している。
具体的には、前記下型110は、底壁111と、該底壁111の外周縁部から上方に延びる筒状の側壁112とを有している。
そして、前記上型120は、前記下型110と逆の形状を有している。
即ち、前記上型120は、扁平な矩形箱形状を有しており、下方に向けて開口し、天井壁121と、該天井壁121の外周縁部から下方に延びる筒状の側壁122とを有している。
【0049】
前記下型110と前記上型120とは、相対的な上下方向への移動が可能となっている。
具体的には、装置100では、前記下型110が固定された状態で配されており、前記上型120が上下に移動可能な状態で備えられている。
なお、前記下型110には、前記底壁111よりも一回り小さな板状のステージ114と、下型内で前記ステージ114を上下動させるためのシリンダー115とを備えている。
該ステージ114は、板面が略水平となるように配されており、前記シリンダー115は、垂直方向に延在するように配されている。
そして、前記シリンダー115は、上端部においてステージ114を下面側から支持するように配されている。
なお、前記ステージ114は、プリント回路板1の最大厚みに該当する距離よりも移動距離が大きくなるように前記シリンダー115によって支持されており、上方に移動した際に上面が下型110の側壁112(以下「下型側壁112」ともいう)の上端よりも上方となり、下方に移動した際に上面が下型側壁112の上端よりも下方となるように前記シリンダー115によって支持されている。
【0050】
前記下型110と前記上型120とは、平面視において側壁112,122の先端(下型110の側壁112の上端、及び、上型120の側壁122の下端)によって画定される形状が共通している。
さらに、前記装置100は、前記下型110と前記上型120と互いに接近させて下型側壁112の上端と上型120の側壁122(以下「上型側壁122」ともいう)の下端とを全周に亘って当接させ得るように構成されている。
即ち、前記装置100は、下型110と上型120とを合わせた閉型状態において型の内部に密閉空間を形成し得るように構成されている。
【0051】
前記装置100の前記下型110には、前記密閉空間への給気と排気とを行うための給排気口113(以下「下型給排気口113」ともいう)が形成されており、前記上型120にも下型110と同様の給排気口123(以下「上型給排気口123」ともいう)が形成されている。
【0052】
前記装置は、下型側壁112の上端部と上型側壁122の下端部との間にフィルムを挟み込めるようになっており、該フィルムで前記密閉空間を下型側の第1空間部A1と上型側の第2空間部A2とに区分けし得るように構成されている。
そして、前記第2空間部A2となる上型120の内部には、前記フィルムを上面側から加熱するための加熱装置が配されており、本実施形態では該加熱装置として複数の輻射加熱式ヒーター124が配されている。
【0053】
前記装置100においては、前記輻射加熱式ヒーター124は、熱の輻射方向が下向きとなるように前記天井壁121の下面側に配されている。
【0054】
このような装置100を使って防湿皮膜付きプリント回路板を製造する際には、例えば、下記の(a)~(e)のような工程が実施され得る。
(a)素材準備工程
(b)区分工程
(c)加熱工程
(d)加圧工程
(e)剥離工程
各工程の具体的な内容については、以下において詳細に説明する。
【0055】
(a)素材準備工程
当該素材準備工程では、被処理品となる前記プリント回路板1と、該プリント回路板1の部品面1aに形成する防湿皮膜に対応した防湿コート層F2を有する防湿皮膜形成用シートFと、前記プリント回路板1のはんだ面1bに形成する防湿皮膜に対応した防湿コート層F2を有する防湿皮膜形成用シートFとをそれぞれ準備する。
前記防湿コート層F2は、熱可塑性及び熱接着性を示す樹脂組成物を用いて形成する。
当該素材準備工程では、加熱時に特定の弾性率となる基材シートF1に前記防湿コート層F2が積層された防湿皮膜形成用シートFを用意する。
本実施形態では、前記のように前記防湿皮膜の形成箇所に対応したパターンが防湿コート層F2に形成されている防湿皮膜形成用シートFを用意する。
そして、後段において詳述するが、本実施形態の前記区分工程では、上記のようにパターン形成された前記防湿コート層F2と前記被処理面との位置合わせを実施する。
【0056】
本実施形態においては、プリント回路板1の前記コネクタ部1cや、螺子止用の貫通孔H1,H2,H3,H4の形成箇所には防湿皮膜を形成する必要性がないことから、例えば、一旦、基材シートF1の全面に防湿コート層を形成した後に、防湿皮膜の形成が必要な領域の形状に応じて刃が折り曲げられてなるトムソン刃で防湿コート層に切込み入れ、当該切込みの内側を残して外側部分を基材シートF1から剥離して前記防湿コート層にパターンを形成してもよい。
また、該防湿コート層には、前記のようにスクリーン印刷などの方法によってパターンを形成させてもよい。
【0057】
(b)区分工程
当該区分工程では、前記下型110と前記上型120との間に前記防湿皮膜形成用シートFを挟み込み、これらを閉じた際に内部に形成される密閉空間を前記防湿皮膜形成用シートFで区分けする。
即ち、区分工程では、
図4に示すように、該防湿皮膜形成用シートFを介して隣り合う第1空間部A1と第2空間部A2とを型内に形成する。
【0058】
本実施形態の区分工程では、第1空間部側の表面が前記防湿コート層F2となるように前記防湿皮膜形成用シートFを配置し、且つ、前記部品面1aが前記防湿コート層F2と対向するように前記プリント回路板1を前記第1空間部A1に配置する。
【0059】
より詳しくは、本実施形態の前記区分工程では、まず、上型120を上方に位置させて下型110との間に十分な距離を確保し、プリント回路板1を下型内に収容させる。
前記プリント回路板1は、前記ステージ114の上に載置して下型内に収容させる。
前記プリント回路板1は、部品面1aが上側となるように前記ステージ114の上に載置する。
このとき前記ステージ114は、水平方向に下型110を見た際に下型側壁112の上端よりも上側にプリント回路板1がはみ出ることが無いように位置を低げた状態にする。
その後、下型110の上部開口を塞ぐように防湿皮膜形成用シートFをセットする。
このとき防湿コート層F2が下側となるように防湿皮膜形成用シートFをセットして防湿コート層F2と前記部品面1aとを対向させる。
さらに、このとき部品面1aにおいて防湿皮膜の形成が必要となる領域と防湿コート層F2の形成された領域とが一致するように防湿皮膜形成用シートFを下型110に対して位置合わせする。
この位置合わせがされた状態で上型120を下降させ、上型120と下型110との間に防湿皮膜形成用シートFを挟み込む。
【0060】
本実施形態の区分工程では、必要であれば、上型側壁122の下端部が接する位置にスペーサーを配置し、上型と防湿皮膜形成用シートFとが直接的に接触しないようにしてもよい。
前記区分工程では、同様に下型側壁112の上端部と防湿皮膜形成用シートFとの間にもスペーサーを配置してもよい。
このようにスペーサーを用いる場合、該スペーサーとしては、薄いゴム板やPTFE板などのような弾性変形性を有する材質のものが好適である。
スペーサーは、側壁112,122の形状に対応するように矩形枠状に加工されたものを用いることができる。
前記区分工程は、2枚の矩形枠状のスペーサーの間に予め防湿皮膜形成用シートFを挟み込んで積層体を構成させておき、当該積層体を下型110と上型120との間に挟み込むようにして実施してもよい。
【0061】
(c)加熱工程
該加熱工程では、防湿皮膜形成用シートFを加熱して軟化させる。
具体的には、下型110と上型120との間に挟み込まれた防湿皮膜形成用シートFを前記輻射加熱式ヒーター124によって加熱する。
防湿皮膜形成用シートFの加熱温度は、通常、基材シートF1の貯蔵弾性率が0.01GPa~0.1GPaとなるような温度とされることが好ましい。
また、例えば、防湿皮膜形成用シートFに最も多く含まれている樹脂が非晶性樹脂で、該非晶性樹脂のガラス転移温度(JIS K7121-1987:DSC法での中間点ガラス転移温度)をTg(℃)とした場合、前記加熱温度は0.9×Tg(℃)~1.5×Tg(℃)の範囲内とされることが好ましく、1.0×Tg(℃)~1.4×Tg(℃)の範囲内とされることがより好ましい。
さらに、防湿皮膜形成用シートFに最も多く含まれている樹脂が結晶性樹脂で、該結晶性樹脂の融点(JIS K7121-1987:DSC法での融解ピーク温度)をTm(℃)とした場合、前記加熱温度は0.9×Tm(℃)~1.2×Tm(℃)の範囲内とされることが好ましい。
このような加熱工程での軟化の挙動を比較的マイルドなものにする上において、前記基材シートF1は、2種類以上の樹脂を含んでいてもよい。
【0062】
該加熱工程では、下型給排気口113を通じて第1空間部の空気を排出するとともに上型給排気口123を通じて第2空間部A2の空気を排出して第1空間部A1及び第2空間部A2の両方を減圧状態にして防湿皮膜形成用シートFを加熱することが好ましい。
このことにより防湿コート層F2に残留溶媒などの揮発性成分が含まれているような場合において、当該加熱工程で防湿コート層F2から揮発性成分をより確実に除去することができる。
加熱工程での第1空間部A1と第2空間部A2との気圧は、例えば、0.5kPa以下とすることができる。
第1空間部A1と第2空間部A2との気圧は、0.3kPa以下であることが好ましく、0.2kPa以下であることがより好ましい。
【0063】
本実施形態では、加熱工程を区分工程後に実施しているが、要すれば、加熱工程を区分工程前に実施してもよい。
即ち、前記区分工程は、予め十分に加熱された防湿皮膜形成用シートFを下型110と上型120との間に挟み込む形で実施してもよい。
【0064】
(d)加圧工程
当該加圧工程は、前記区分工程及び前記加熱工程の後に実施する。
該加圧工程では、前記第1空間部A1の気圧を前記第2空間部A2の気圧よりも低圧にして前記防湿皮膜形成用シートFに対して前記第2空間部A2から前記第1空間部A1に向けた圧力を加える。
該加圧工程では、前記加熱工程によって軟化された前記防湿皮膜形成用シートFを前記圧力を利用してプリント回路板1の部品面1aに接着させ、該防湿皮膜形成用シートFを構成する前記防湿コート層F2によって部品面上に防湿皮膜を形成する。
即ち、加圧工程では、防湿コート層F2が部品面1aに熱接着される。
このとき、軟化された防湿皮膜形成用シートFには、第2空間部側から比較的均等に圧力が加えられることになるため、局所的に強い圧力が加わって防湿皮膜の厚みが極端に薄い箇所が出来てしまうことが抑制される。
【0065】
厚みが薄くても防湿皮膜が形成されていれば水滴の接触による回路ショートの防止を図ることができるが、水蒸気やその他のガスに対するガスバリア性を勘案すると防湿皮膜には極端に厚みが薄い箇所が形成されていないことが好ましい。
本実施形態においては、前記のように防湿皮膜の一部の厚みが極端に薄くなることをが抑制されるため水滴の接触による回路ショートがより確実に防止可能であるばかりでなく、水蒸気の侵入による防湿皮膜とプリント回路板との間での結露やイオンマイグレーションなどのトラブルをも回避し得る。
【0066】
前記のような効果をより確実に発揮させるべく、例えば、防湿コート層F2に伸長が加わり易く、防湿皮膜の厚みが薄くなりやすい部分を予め肉厚に形成しておいてもよい。
例えば、電子部品の周縁部などにおいては、加圧工程で防湿コート層F2が伸長され易いため、該周縁部における防湿コート層F2の厚みを電子部品の中央部などに比べて厚くした防湿皮膜形成用シートFを前記素材準備工程で作製しておいてもよい。
【0067】
前記加圧工程は、
図6に示すように、例えば、前記第1空間部A1の減圧状態を維持しつつ前記第2空間部A2の減圧状態を解除し、上型給排気口123を通じて第2空間部A2に改めて空気を供給することによって実施することができる。
前記加圧工程では、前記第1空間部を大気圧未満の減圧状態にし、且つ、第2空間部A2に過剰に空気を供給して前記第2空間部を大気圧を超える加圧状態にすることが好ましい。
このことによって部品面1aに対して防湿コート層F2をより強固に接着させることができ、しかも、転写後の防湿皮膜と部品面1aとの間に隙間が形成されてしまうことをより確実に防ぐことができる。
このときの第2空間部A2の気圧は、1.1気圧以上の加圧状態とすることが好ましく、1.2気圧以上の加圧状態とすることがより好ましく、1.5気圧以上の加圧状態とすることがさらに好ましい。
第2空間部A2の気圧は、通常、5気圧以下とされる。
【0068】
前記第1空間部A1と前記第2空間部A2との間に圧力差を生じさせる前には、
図5に示すように前記シリンダー115を駆動してステージ114を上方に移動させ、部品面1aを防湿皮膜形成用シートFに当接させることが好ましい。
即ち、前記加圧工程の前には、事前に部品面1aを防湿皮膜形成用シートFに接触させる当接工程を実施することが好ましい。
該当接工程は、部品面1aで防湿皮膜形成用シートFを第1空間部側から押圧し、防湿皮膜形成用シートFを第2空間部A2に向けて膨化させることが好ましい。
このことによって部品面1aに対して防湿コート層F2をより強固に接着させることができ、防湿皮膜と部品面1aとの間に隙間が形成されてしまうことをより確実に防ぐことができる。
【0069】
このとき、防湿コート層F2とともに加熱された前記基材シートF1が適度な貯蔵弾性率を示す状態となることで凹凸を有する部品面1aに対して防湿コート層F2が良好な追従性を発揮する。
また、前記基材シートF1が適度な貯蔵弾性率を示す状態となることで当該基材シートF1に破れなどの不具合が生じるおそれも抑制される。
このようなことから、本実施形態の防湿皮膜形成用シートFは、その効果をより顕著に発揮させる上において前記表面に1.5mm以上の段差を有する前記被処理品に前記防湿皮膜を形成すべく用いられることが好ましい。
被処理品の表面の段差は、2mm以上であることがより好ましい。
但し、防湿コート層F2の追従性にも限界はあるため前記段差は10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることが特に好ましい。
【0070】
(e)剥離工程
該剥離工程では、基材シートF1と防湿コート層F2との間で防湿皮膜形成用シートFを界面剥離し、防湿コート層F2のみをプリント回路板1の部品面1aに残存させる。
このことによりに防湿コート層F2で出来た防湿皮膜が部品面1aの上に備えられる。
前記加圧工程と当該剥離工程との間には、前記防湿皮膜形成用シートFを冷却する冷却工程を実施してもよい。
該冷却工程では、防湿皮膜形成用シートFを常温に近い温度(例えば、50℃以下)にまで冷却することが好ましい。
【0071】
前記はんだ面1bにおける防湿皮膜の形成方法は、これまで説明した部品面1aでの方法と実質的に同じであるためここでは説明を繰り返さない。
なお、部品面1aの防湿皮膜とはんだ面1bの防湿皮膜とは、材質や厚みなどが共通している必要はなく、互いに異なっていてもよい。
また、要すれば、部品面1aとはんだ面1bとの何れか一方においては、従来どおり液状のコーティング剤を使って防湿皮膜を形成させてもよい。
【0072】
本実施形態においては、被処理品としてプリント回路板を例示しているが本発明は、防湿皮膜を形成させる被処理品をプリント回路板に限定するものではない。
さらに、本発明は、上記例示に何等限定されることなく、各種の変更を適宜加えることができるものである。
【実施例】
【0073】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、表面に凹凸を有する被処理品としてLEGO社製のブロックパーツを用意した。
より詳しくは、64mm×64mmの大きさを有し、直径4.9mmで突出高さ1.8mmの円柱状の突起が片面に64個(タテ8個×ヨコ8個)配列されたベースプレートを被処理品として用意した。
【0074】
次いで、基材シートとして、下記の2通りのものを用意した。
(基材シート1)
アクリル系(ポリメチルメタクリレート系)樹脂フィルム、厚み50μm、貯蔵弾性率1.5GPa(at40℃)、0.024GPa(at99.7℃)
(基材シート2)
ポリオレフィン系樹脂フィルム、厚み100μm、貯蔵弾性率3.0GPa(at40℃)、0.028GPa(at86.7℃)
【0075】
「基材シート1」の片面に50μm厚みの防湿コート層を形成させた防湿皮膜形成用シート(以下「試験体1(50)」ともいう)と、「基材シート2」の片面に100μm厚みの防湿コート層を形成させた防湿皮膜形成用シート(以下「試験体1(100)」ともいう)とを作製した。
また、「基材シート2」の片面に50μm厚みの防湿コート層を形成させた防湿皮膜形成用シート(以下「試験体2(50)」ともいう)と、「基材シート2」の片面に100μm厚みの防湿コート層を形成させた防湿皮膜形成用シート(以下「試験体1(100)」ともいう)とを作製した。
【0076】
「試験体1(50)」及び「試験体1(100)」を、それぞれ130℃、140℃、150℃の3通りの温度で加熱し、
図3~
図6に示したような方法で防湿コート層を前記被処理品(ベースプレート)の表面に熱接着させた後に「基材シート1」のみを剥離し、被処理品の表面に防湿皮膜を形成させた。
得られた防湿処理製品は、いずれの温度条件でも、且つ、防湿コート層の厚みにも関係なく、防湿皮膜がベースプレートの円柱状の突起の付け根などに対しても良好な付き回り性を示していた。
【0077】
「試験体2(50)」及び「試験体2(100)」を、それぞれ80℃の温度で加熱し、「試験体1(50)」及び「試験体1(100)」と同様にして被処理品(ベースプレート)の表面に熱接着させて防湿処理製品を作製した。
結果、「試験体1(50)」及び「試験体1(100)」と同様に防湿皮膜が良好な付き回り性を示していた。
「試験体2(50)」及び「試験体2(100)」については、加熱温度を90℃、100℃で同様の評価を実施したところ防湿皮膜とベースプレートとがより良好な密着状態となることが分かった。
【0078】
上記のような結果に対し、汎用のPETフィルム、PEフィルム、PPフィルムを基材シートとした場合、温度条件を変更するなどしても、防湿皮膜とベースプレートとの間にエアが巻き込まれていたり、基材シートに破れが生じるなどして「試験体1(50)」、「試験体1(100)」、「試験体2(50)」及び「試験体2(100)」のような良好な結果が得られなかった。
以上のことからも、本発明によれば被処理品に対して防湿性能に優れた防湿皮膜を形成させ得る防湿皮膜形成用シートが提供されることがわかる。
【符号の説明】
【0079】
1:プリント回路板、A1:第1空間部、A2:第2空間部、F:防湿皮膜形成用シートF1:基材シート、F2:防湿コート層