(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】工具経路を生成するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20220819BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B23Q15/00 301J
G05B19/4093 A
(21)【出願番号】P 2018036408
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】中本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真由
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 和雅
(72)【発明者】
【氏名】武井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 真二
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-068901(JP,A)
【文献】特開2017-123088(JP,A)
【文献】特開平06-212880(JP,A)
【文献】特開平10-086039(JP,A)
【文献】特開平04-138504(JP,A)
【文献】特開2016-170636(JP,A)
【文献】特開2017-146957(JP,A)
【文献】国際公開第98/041357(WO,A1)
【文献】特開2013-248677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC加工における工具経路を生成するための方法であって、
当該方法が、
既に生成された工具経路を有する複数の既知の加工物の情報に基づいて、機械学習を行う工程と、
前記機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対する新たな工具経路を生成する工程と、
を備え、
前記複数の既知の加工物及び前記対象加工物の各々が、複数の加工面を有し、
前記機械学習を行う工程が、
前記複数の既知の加工物の各々について、形状データを得ることと、
前記複数の既知の加工物の各々について、前記複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、
前記複数の既知の加工物の各々について、複数の工具経路パターンの中から、前記複数の加工面の各々に対して選択された工具経路パターンを得ることと、
前記複数の既知の加工物の前記幾何情報及び前記工具経路パターンを用いて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである、機械学習を行うことと、
を含み、
前記新たな工具経路を生成する工程が、
前記対象加工物の形状データを得ることと、
前記対象加工物の前記複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、
前記対象加工物の前記幾何情報を用いて、前記機械学習の結果に基づいて、
前記加工面を加工する工具経路パターンの確信度を、前記複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて算出することと、
最も高い確信度の工具経路パターンを前記複数の加工面の各々について選択することと、
表示部に選択された工具経路パターンを前記複数の加工面の各々について表示することと、
前記選択された工具経路パターンの確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調することと、
を含む、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記複数の工具経路パターンは、少なくとも、等高線経路、走査線経路、及び、面沿い経路を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の既知の加工物の前記形状データ及び前記対象加工物の前記形状データは、3次元直交座標系であるXYZ軸座標系で定義されており、
前記幾何情報は、加工面のタイプ、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するX軸方向の最大長さの比率、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するY軸方向の最大長さの比率、各加工面のZ軸方向の最大長さに対する複数の加工面全体のZ軸方向の最大長さの比率、各加工面の表面積に対する複数の加工面全体の表面積の比率、加工面の長半径、加工面の短半径、加工面重心での法線ベクトルのZ成分、加工面の最大曲率、及び、加工面の最小曲率、の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記機械学習には、ニューラルネットワークが用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NC加工における工具経路を生成するための装置であって、
当該装置が、
プロセッサと、
表示部と、
を備え、
前記プロセッサが、
既に生成された工具経路を有する複数の既知の加工物の情報に基づいて、機械学習を行うことと、
前記機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対する新たな工具経路を生成することと、
を実行するように構成されており、
前記複数の既知の加工物及び前記対象加工物の各々が、複数の加工面を有し、
前記機械学習を行うことが、
前記複数の既知の加工物の各々について、形状データを得ることと、
前記複数の既知の加工物の各々について、前記複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、
前記複数の既知の加工物の各々について、複数の工具経路パターンの中から、前記複数の加工面の各々に対して選択された工具経路パターンを得ることと、
前記複数の既知の加工物の前記幾何情報及び前記工具経路パターンを用いて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである、機械学習を行うことと、
を含み、
前記新たな工具経路を生成することが、
前記対象加工物の形状データを得ることと、
前記対象加工物の前記複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、
前記対象加工物の前記幾何情報を用いて、前記機械学習の結果に基づいて、前記対象加工物の前記複数の加工面の各々について工具経路パターンを生成することと、
を含み、
前記複数の工具経路パターンの各々には、視覚的に識別できる所定の特徴が割り当てられており、
前記プロセッサが、前記複数の工具経路パターンを前記所定の特徴として認識し
、前記対象加工物の前記複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて確信度を算出し、最も高い確信度の工具経路パターンを加工面の各々について選択し、
前記表示部が、
選択された工具経路パターンを加工面の各々について表示し、前記選択された工具経路パターンの確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調して示すことを特徴とする、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、工具経路を生成するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NC(Numerical Control)加工を支援するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1は、NCデータを用いた金型の設計を支援するための方法及び装置を開示している。特許文献1では、既存の金型のNCデータを用いて金型を設計する際に、既存の金型のCAMデータと、設計対象の金型のCAMデータとが比較されて、加工部位毎に、既存の金型のデータを用いることが可能か否かが判定される。既存の金型のデータを用いることが可能な加工部位の数と、加工部位の総数との比率が、流用率として算出される。流用率の算出には、ニューラルネットワークが用いられている。
【0003】
特許文献2には、NC工作機械におけるツールパスデータの生成を支援するための装置が開示されている。特許文献2では、製品の3次元形状に関する特徴データ、素材データ、各加工工程のデータ、各加工工程後の形状に関するデータ、及び、使用可能な工具のデータに基づいて、ツールパスデータが自動的に生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-160303号公報
【文献】特開2002-189510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NC加工における工具経路は、オペレータの経験及びノウハウに基づいて、CAMソフトウェアに様々なデータを入力することによって生成される場合がある。しかしながら、オペレータが未熟である場合、特に加工物が複雑な形状を有するときには、望ましい工具経路を生成することが困難である。
【0006】
本発明は、複数の事例に基づいて新たな工具経路を生成することができる方法及び装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、NC加工における工具経路を生成するための方法であって、当該方法が、既に生成された工具経路を有する複数の既知の加工物の情報に基づいて、機械学習を行う工程と、機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対する新たな工具経路を生成する工程と、を備え、複数の既知の加工物及び対象加工物の各々が、複数の加工面を有し、機械学習を行う工程が、複数の既知の加工物の各々について、形状データを得ることと、複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、複数の既知の加工物の各々について、複数の工具経路パターンの中から、複数の加工面の各々に対して選択された工具経路パターンを得ることと、複数の既知の加工物の幾何情報及び工具経路パターンを用いて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである、機械学習を行うことと、を含み、新たな工具経路を生成する工程が、対象加工物の形状データを得ることと、対象加工物の複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、対象加工物の幾何情報を用いて、機械学習の結果に基づいて、加工面を加工する工具経路パターンの確信度を、複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて算出することと、最も高い確信度の工具経路パターンを複数の加工面の各々について選択することと、表示部に選択された工具経路パターンを複数の加工面の各々について表示することと、選択された工具経路パターンの確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調することと、を含む、方法である。
【0008】
本開示の一態様に係る方法では、複数の既知の加工物の幾何情報及び工具経路パターンに基づいて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである機械学習が行われ、この機械学習の結果に基づいて、対象加工物の複数の加工面の各々について工具経路パターンが自動で生成される。したがって、複数の事例に基づいて新たな工具経路を生成することができる。
【0009】
複数の工具経路パターンは、少なくとも、等高線経路、走査線経路、及び、面沿い経路を含んでもよい。
【0010】
複数の既知の加工物の形状データ及び対象加工物の形状データは、3次元直交座標系であるXYZ軸座標系で定義されてもよく、幾何情報は、加工面のタイプ、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するX軸方向の最大長さの比率、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するY軸方向の最大長さの比率、各加工面のZ軸方向の最大長さに対する複数の加工面全体のZ軸方向の最大長さの比率、各加工面の表面積に対する複数の加工面全体の表面積の比率、加工面の長半径、加工面の短半径、加工面重心での法線ベクトルのZ成分、加工面の最大曲率、及び、加工面の最小曲率、の少なくとも1つを含んでもよい。
【0011】
機械学習には、ニューラルネットワークが用いられてもよい。
【0012】
本開示の他の態様は、NC加工における工具経路を生成するための装置であって、当該装置が、プロセッサと、表示部と、を備え、プロセッサが、既に生成された工具経路を有する複数の既知の加工物の情報に基づいて、機械学習を行うことと、機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対する新たな工具経路を生成することと、を実行するように構成されており、複数の既知の加工物及び対象加工物の各々が、複数の加工面を有し、機械学習を行うことが、複数の既知の加工物の各々について、形状データを得ることと、複数の既知の加工物の各々について、複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、複数の既知の加工物の各々について、複数の工具経路パターンの中から、複数の加工面の各々に対して選択された工具経路パターンを得ることと、複数の既知の加工物の幾何情報及び工具経路パターンを用いて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである、機械学習を行うことと、を含み、新たな工具経路を生成することが、対象加工物の形状データを得ることと、対象加工物の複数の加工面の各々の幾何情報を得ることと、対象加工物の幾何情報を用いて、機械学習の結果に基づいて、対象加工物の複数の加工面の各々について工具経路パターンを生成することと、を含み、複数の工具経路パターンの各々には、視覚的に識別できる所定の特徴が割り当てられており、プロセッサが、複数の工具経路パターンを所定の特徴として認識し、対象加工物の複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて確信度を算出し、最も高い確信度の工具経路パターンを加工面の各々について選択し、表示部が、選択された工具経路パターンを加工面の各々について表示し、選択された工具経路パターンの確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調して示す、装置である。このような装置は、上記の方法と同様な効果を奏することができる。また、このような装置では、加工面の各々が、生成された工具経路パターンに対応する所定の特徴と共に表示部上に示されるため、オペレータは、加工面にどの工具経路パターンが選択されたかを容易に認識することができる。
【0013】
プロセッサが、対象加工物の複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて、確信度を算出するように構成されていてもよく、表示部が、確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調してもよい。この場合、オペレータが、低い確信度を有する加工面の工具経路パターンを必要に応じて変更することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、複数の事例に基づいて新たな工具経路を生成することができる方法及び装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】いくつかの工具経路パターンを示す概略図である。
【
図7】
図1の装置で実行される機械学習を示すフローチャートである。
【
図8】
図1の装置で実行される対象加工物に対する新たな工具経路の生成を示すフローチャートである。
【
図10】過去の工程設計事例の加工物であり、かつ、新たな工具経路を生成する対象加工物として用いた加工物の、過去の工程設計事例における工具経路を示す斜視図である。
【
図11】本開示の方法によって対象加工物に対して生成された工具経路を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るNC加工における工具経路を生成するための方法及び装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本開示の方法及び装置を示す概略図である。本開示の方法は、CAD(Computer Aided Design)システム50、CAM(Computer Aided Manufacture)システム60、工具経路を生成するための装置10、及び、工作機械70を含むシステム100内で実施される。システム100は、その他の構成要素を含んでもよい。
【0018】
CADシステム50では、加工物のCADデータが作成される。加工物の例としては、例えば、金型が含まれる。CADデータで表される加工物は、工具によって加工された後の目標形状を有する。CADシステム50では、装置10が機械学習を行う際に教師データとなる「既知の加工物」(以下では、教師データとも称され得る)のCADデータと、機械学習の結果に基づいて新たな工具経路が作成される「対象加工物」のCADデータと、が作成される。なお、「既知の加工物(教師データ)」は、実際に過去に作製された加工物であってもよく、又は、電子データとしてのみ作成され、熟練オペレータによって工具経路が設定された加工物であってもよい。
【0019】
CADデータは、加工物に含まれる頂点、辺、及び、面などの形状データを含んでいる。CADデータは、例えば、3次元直交座標系であるXYZ軸座標系で定義されることができる。CADデータは、その他の座標系で定義されてもよい。加工物は、キャラクタラインによって囲まれた(又は分割された)複数の加工面を含んでいる。CADデータは、複数の加工面の各々について、様々な幾何情報(例えば、加工面のタイプ、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するX軸方向の最大長さの比率、各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するY軸方向の最大長さの比率、各加工面のZ軸方向の最大長さに対する複数の加工面全体のZ軸方向の最大長さの比率、各加工面の表面積に対する複数の加工面全体の表面積の比率、加工面の長半径、加工面の短半径、加工面重心での法線ベクトルのZ成分、加工面の最大曲率、及び、加工面の最小曲率 等)を含んでいる。CADデータは、その他の幾何情報を含んでもよい。
【0020】
既知の加工物のCADデータは、CAMシステム60に入力される。CAMシステム60では、オペレータ(特に、熟練オペレータ)Pが、既知の加工物の複数の加工面の各々に対して、複数の工具経路パターンの中から、例えば、過去の実際の加工でその加工面に対して用いられた工具経路パターン、又は、その加工面の加工に適していると考えられる工具経路パターンを選択する。複数の加工面について選択された複数の工具経路パターンを組み合わせることによって、1つの加工物の工具経路が生成される。
【0021】
図2は、いくつかの工具経路パターンを示す概略図である。複数の工具経路パターンは、様々な工具経路パターンを含むことができる。例えば、
図2の左側の図は、等高線経路を示している。等高線経路では、工具Tが、加工面を等高線動作で加工する。
図2の中央の図は、走査線経路を示している。走査線経路では、工具Tが、加工面を倣いながら領域を埋めるように加工面を加工する。
図2の右側の図は、面沿い経路を示している。面沿い経路では、工具Tは、加工面の境界線に沿った動作で加工面を加工する。複数の工具経路パターンは、上記の3つの工具経路パターン以外の工具経路パターン(例えば、工具が高さ方向に螺旋状に移動しながら加工面を加工するスパイラル加工等)を含んでもよい。
【0022】
加工面にどの工具経路パターンが選択されたかを視覚的に識別できるようにするために、複数の工具経路パターンの各々には、所定の色が割り当てられている。
図2に示されるように、例えば、本実施形態では、等高線経路が選択された加工面には「赤」が割り当てられ、走査線経路が選択された加工面には「緑」が割り当てられ、面沿い経路が選択された加工面には「青」が割り当てられる。CAMシステム60の表示部は、加工面の各々を、選択された工具経路パターンに対応する所定の色で示す。これによって、オペレータPは、加工面にどの工具経路パターンが選択されたかを容易に認識することができる。なお、加工面にどの工具経路パターンが選択されたかを視覚的に識別できるようにするためには、複数の工具経路パターンの各々に、視覚的に識別できる所定の特徴(例えば、色、模様、及び/又は、文字など)が割り当てられることができる。
【0023】
図3~
図6は、教師データの例を示す斜視図である。教師データは、CADシステム50で作成された形状データと、CADシステム50で算出された幾何情報と、CAMシステム60で選択された工具経路パターンと、を含んでいる。工具経路パターンは、その工具経路パターンに割り当てられた色として、教師データに含まれている。
【0024】
図1を再び参照して、教師データは、装置10に入力される。上記のように、装置10に入力される教師データは、生成された工具経路を既に有している。
【0025】
装置10は、記憶装置1と、プロセッサ2と、表示部3と、を備えており、これらの構成要素は、バス(不図示)等を介して互いに接続されている。装置10は、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)、及び/又は、入力装置(例えば、マウス、キーボード、及び/又、タッチパネル等)など、他の構成要素を備えることができる。装置10は、例えば、コンピュータ、サーバー、又は、タブレット等であることができる。
【0026】
記憶装置1は、1つ又は複数のハードディスクドライブ等であり得る。記憶装置1は、入力された教師データを記憶する。
【0027】
プロセッサ2は、例えば、CPU(Central Processing unit)等であり得る。プロセッサ2は、例えば、1つのCPUによって構成されてもよく、又は、複数のCPUによって構成されてもよい。プロセッサ2は、以下に示される複数の処理を実行するように構成されており、各処理を実行するためのプログラムは、例えば、記憶装置1に記憶されることができる。プロセッサ2は、記憶装置1に記憶された複数の教師データの情報に基づいて機械学習を行うように構成されている(詳しくは後述)。機械学習には、例えば、ニューラルネットワークを用いることができる。
【0028】
また、プロセッサ2は、CADシステム50で作成された対象加工物のCADデータを用いて、上記の機械学習の結果に基づいて、対象加工物に対する新たな工具経路を生成するように構成されている(詳しくは後述)。また、プロセッサ2は、対象加工物の複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて、確信度を算出するように構成されている。
【0029】
表示部3は、液晶ディスプレイ及び/又はタッチパネル等であり得る。表示部3は、CAMシステム60の表示部と同様に、加工面の各々を、生成された工具経路パターンに対応する、視覚的に識別できる所定の特徴(例えば、色、模様、及び/又は、文字など)と共に示す。
【0030】
上記のCADシステム50、CAMシステム60、及び、装置10は、別々の装置として構成されてもよいし、同じ装置に組み込まれてもよい(例えば、CADソフトウェア及びCAMソフトウェアが、装置10に組み込まれてもよい)。
【0031】
装置10で生成された新たな工具経路は、NCデータに変換されて、工作機械70に入力されることができる。
【0032】
次に、装置10で実行される動作について説明する。
【0033】
まず、装置10で実行される機械学習について説明する。
図7は、
図1の装置で実行される機械学習を示すフローチャートである。
【0034】
プロセッサ2は、記憶装置1から、複数の教師データの各々について、情報を取得する(ステップS100)。取得する情報には、各教師データの形状データ、複数の加工面の各々の幾何情報、複数の加工面の各々に対して選択された工具経路(色)が含まれる。続いて、プロセッサ2は、複数の教師データの幾何情報及び工具経路パターン(色)を用いて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターン(色)である、機械学習を行う(ステップS102)。以上により、一連の動作が終了する。なお、以上のステップは、所望の収束結果が得られるまで繰り返されてもよい。
【0035】
次に、装置10で実行される対象加工物に対する新たな工具経路の生成について説明する。
図8は、
図1の装置で実行される対象加工物に対する新たな工具経路の生成を示すフローチャートである。
【0036】
プロセッサ2は、CADシステム50で作成された対象加工物のCADデータを取得する(ステップS200)。取得されるCADデータには、対象加工物の形状データ及び複数の加工面の各々の幾何情報が含まれる。
【0037】
続いて、プロセッサ2は、対象加工物の幾何情報を用いて、上記の機械学習の結果に基づいて、対象加工物の複数の加工面の各々について工具経路パターンを生成する(ステップS202)。
【0038】
具体的には、ステップS202において、プロセッサ2は、複数の工具経路パターンの各々について、ある加工面がどの程度の確率(又は、確信度とも称され得る)で、その工具経路パターンによって加工されるか、を計算する。具体的には、プロセッサ2は、複数の色の各々について、ある加工面にどの程度の確信度でその色が選択されるか、を計算する。例えば、本実施形態では、プロセッサ2は、ある加工面について、赤が選択される確信度と、緑が選択される確信度と、青が選択される確信度と、のそれぞれを計算し、そして、最も高い確信度を有する色(つまり、工具経路パターン)を、その加工面に選択する。プロセッサ2は、選択された複数の工具経路パターンを組み合わせて対象加工物の工具経路を生成し、生成された工具経路を表示部3に送信する。
【0039】
続いて、表示部3は、生成された対象加工物の工具経路を表示する(ステップS204)。具体的には、表示部3は、対象加工物の複数の加工面の各々を、選択された色で表示する。この際、表示部3は、選択された色(工具経路パターン)を確信度に応じて表示する。具体的には、ある加工面に対して選択された工具経路パターンの確信度が、所定の閾値よりも低い場合には、表示部3は、その加工面を強調する(例えば、淡い色又は濃い色で表示する)。例えば、ある加工面に対して赤が選択されたが、その確信度が所定の閾値よりも低い場合には、その加工面を淡い赤で表示する。これによって、オペレータPは、その加工面の確信度が低いことを容易に認識することができる。
【0040】
続いて、プロセッサ2は、オペレータPから、変更が必要か否かの入力を受け付ける(ステップS206)。具体的には、オペレータPは、ある加工面(例えば、ステップS204において確信度が低いと表示された加工面)の工具経路パターン(色)が不適切であると判断した場合には、オペレータPは、入力装置を介して変更命令を入力することによって、対応する加工面の工具経路パターン(色)を変更することができる。
【0041】
ステップS206において変更が必要であることを示す入力があった場合には、プロセッサ2は、オペレータPから入力される変更命令に基づいて、対応する加工面の工具経路パターン(色)を変更し(ステップS208)、再びステップS204に戻る。
【0042】
ステップS206において変更が必要ではないことを示す入力があった場合には、プロセッサ2は、生成された対象加工物の工具経路を記憶装置1に保存して(ステップS210)、一連の動作を終了する。次回に行われる機械学習では、記憶装置1に保存された新たな工具経路が、教師データの1つとして用いられてもよい。また、生成された新たな工具経路は、NCデータに変換された後に、工作機械70における加工で実際に使用されてもよく、オペレータPは、実際の加工の結果に基づいて、装置10で生成された工具経路を変更してもよい。加工の結果に基づいて変更された工具経路は、記憶装置1に保存されて、次回に行われる機械学習で教師データの1つとして用いられてもよい。
【0043】
以上のような本実施形態に係る方法及び装置10では、複数の既知の加工物の幾何情報及び工具経路パターンに基づいて、入力が加工面の幾何情報であり、出力が加工面の工具経路パターンである機械学習が行われ、この機械学習の結果に基づいて、対象加工物の複数の加工面の各々について工具経路パターンが自動で生成される。したがって、複数の事例に基づいて新たな工具経路を生成することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る装置10では、加工面の各々が、生成された工具経路パターンに対応する所定の色と共に表示部3上に示されるため、オペレータPは、加工面にどの工具経路パターンが選択されたかを容易に認識することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る装置10では、プロセッサ2が、対象加工物の複数の加工面の各々について生成された工具経路パターンについて、確信度を算出するように構成されており、表示部3が、確信度が所定の閾値よりも低い場合には、対応する加工面を強調する。したがって、オペレータが、低い確信度を有する加工面の工具経路パターンを必要に応じて変更することができる。
【0046】
NC加工における工具経路を生成するための方法及び装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。また、当業者であれば、上記の方法は、上記の順番で実施される必要はなく、矛盾が生じない限り、他の順番で実施可能であることを理解するだろう。
【0047】
例えば、上記の実施形態では、機械学習にニューラルネットワークが用いられている。しかしながら、他の実施形態では、機械学習に他の方法(例えば、決定木法等)が用いられてもよい。
【実施例】
【0048】
本実施例では、機械学習にニューラルネットワークを用い、多層パーセプトロン(MLP)及びバックプロバゲーション(BP)を用いた。
図9に示されるネットワーク構造を使用した。ネットワークに用いた条件を以下の表1に示す。加工物の形状データを作成するのに使用されたCADソフトウェアは、Siemens社のNXであり、システム開発ではNXのAPI(Application Programming Interface)を使用してプログラム言語にC#を用いた。教師データとして、
図3~
図6に示された4モデルを含む、過去の工程設計事例の20モデルを用いた。これらの20モデルの工具経路は、熟練オペレータによって施された。
【0049】
【0050】
入力として用いた幾何情報は、以下の通りである。
(1)Surface type:CADシステム内で与えられる加工面のタイプ
(2)Ratio (x/z):各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するX軸方向の最大長さの比率
(3)Ratio (y/z):各加工面におけるZ軸方向の最大長さに対するY軸方向の最大長さの比率
(4)Ratio (Z/z):各加工面のZ軸方向の最大長さに対する複数の加工面全体のZ軸方向の最大長さの比率
(5)Ratio (area):各加工面の表面積に対する複数の加工面全体の表面積の比率
(6)Radius (large):加工面の長半径(平面又はパラメトリック曲面を除く)
(7)Radius (short):加工面の短半径(トーラス又は円錐のみ)
(8)Inclination angle:加工面重心での法線ベクトルのZ成分
(9)Curvature (max):加工面の最大曲率
(10)Curvature (min):加工面の最小曲率
【0051】
図10は、過去の工程設計事例の加工物であり、かつ、新たな工具経路を生成する対象加工物として用いた加工物の、過去の工程設計事例における工具経路を示す斜視図であり、
図11は、本開示の方法によって対象加工物に対して生成された工具経路を示す斜視図である。
図10及び
図11は、同じ形状を示しており、当該形状を対象加工物として用いた。なお、
図10に示される過去の工程設計事例の情報は、教師データとして用いられていないことに留意されたい。
【0052】
図10及び
図11の比較からわかるように、本システムは、過去の工程設計事例のデータの工具経路と略同様な工具経路を生成した。具体的な結果を以下の表2に示す。
【0053】
【0054】
表2に示されるように、多くの加工面において、本システムによる結果と過去の工程設計事例のデータとが一致した(対応する41つの加工面において双方が赤であり、対応する58つの加工面において双方が緑であり、対応する87つの加工面において双方が青である)。2つの加工面においてのみ、本システムによる結果と過去の工程設計事例のデータとが異なった。この事例では、正解率はおよそ98.9%であった。
【0055】
教師データとして用いた上記の過去の工程設計事例の20モデルに対して、同様の評価を行った。その結果、20モデルの全ての加工面に対する正解率は、およそ91.1%であった。以上のことから、本システムは、複数の事例に基づいて、熟練オペレータのノウハウ及び経験を考慮した工具経路を生成可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0056】
1 記憶装置
2 プロセッサ
3 表示部
10 装置
50 CADシステム
60 CAMシステム
70 工作機械
100 システム