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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】板材の搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 7/02 20060101AFI20220819BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20220819BHJP
   B65H 9/12 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
B65H7/02
B65H5/06 H
B65H9/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018145199
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020019634
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 茂
(72)【発明者】
【氏名】池▲崎▼ 徹
(72)【発明者】
【氏名】新保 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 格
(72)【発明者】
【氏名】保木本 達也
(72)【発明者】
【氏名】須田 清次
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-161400(JP,A)
【文献】特開2009-208151(JP,A)
【文献】特開2013-066933(JP,A)
【文献】特開2000-263118(JP,A)
【文献】特開2017-094340(JP,A)
【文献】特開平10-010813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/06
B65H 7/00- 7/20
B65H 9/12
B65H 20/02
B65H 23/00-23/16
B65H 43/00-43/08
B21B 37/00-37/78
B21B 39/14
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象の板材を挟む上ピンチロール及び下ピンチロールと、
前記上ピンチロールの端部を保持する上ピンチロールチョックと、
前記下ピンチロールの端部を保持する下ピンチロールチョックと、
前記上ピンチロールチョック及び前記下ピンチロールチョックの両方を保持するハウジングと、
前記板材の搬送方向および前記搬送方向の逆方向に前記ハウジングを可動にする可動機構と、
前記搬送方向および前記搬送方向の逆方向への前記ハウジングの移動を規制する規制部と、
前記ハウジングと前記規制部との間に作用する力を検出する力測定装置と、を備える板材の搬送装置。
【請求項2】
前記可動機構は、前記板材から離れた回転軸線まわりに回転可能にするよう前記ハウジングを保持する、請求項1記載の板材の搬送装置。
【請求項3】
前記回転軸線は、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールに平行であり、前記板材との間に前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールのいずれか一方を挟むように位置している、請求項2記載の板材の搬送装置。
【請求項4】
前記規制部は、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの入側から前記ハウジングに対向する入側対向部と、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの出側から前記ハウジングに対向する出側対向部とを有し、
前記力測定装置は、前記入側対向部と前記ハウジングとの間に作用する力を検出する入側センサと、前記出側対向部と前記ハウジングとの間に作用する力を検出する出側センサとを有する、請求項1~3のいずれか一項記載の板材の搬送装置。
【請求項5】
前記ピンチロール及び前記下ピンチロールを駆動する駆動装置と、
少なくとも前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの一方の軸方向両端部それぞれに圧下装置と、
少なくとも前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの他方の軸方向両端部それぞれに荷重測定装置と、
前記ピンチロール及び前記下ピンチロールにおいて挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合は、該板材と前記ピンチロール及び前記下ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向に前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、逆に、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、該板材と前記ピンチロール及び前記下ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向に前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、する制御装置と、を更に備える請求項1~4のいずれか一項記載の板材の搬送装置。
【請求項6】
前記ピンチロール及び前記下ピンチロールを駆動する駆動装置と、
少なくとも前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの一方の軸方向両端部それぞれに圧下装置と、
少なくとも前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの他方の軸方向両端部それぞれに荷重測定装置と、
前記ピンチロール及び前記下ピンチロールにおいて挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、該板幅中心位置現在値と該板幅中心位置目標値との差を板位置誤差として演算し、現在時刻の該板位置誤差に加えて、現在時刻以前の該板位置誤差の履歴を考慮して板位置誤差制御量を演算し、該板位置誤差制御量に比例する値として荷重作用点位置オフセット量を演算し、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合は、該板幅中心位置現在値から該荷重作用点位置オフセット量を減算して、板材と前記上ピンチロール及び前記下ピンチロール間に作用する荷重分布の荷重作用点位置の目標値を演算し、該荷重作用点位置目標値に基づき、前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するように前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、逆に、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、該板幅中心位置現在値に該荷重作用点位置オフセット量を加算して、板材と前記上ピンチロール及び前記下ピンチロール間に作用する荷重分布の荷重作用点位置の目標値を演算し、該荷重作用点位置目標値に基づき、前記上ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するように前記ピンチロール及び前記下ピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、する制御装置と、を更に備える請求項1~4のいずれか一項記載の板材の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、板材の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板材の製造ラインにおいては、板材の面外変形を防止しながら板材を円滑に搬送すべく、上下一対のピンチロールで板材を挟圧し、板材に張力を付与しつつ搬送する装置が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-108208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような板材を搬送する装置においては、板材の搬送時において、板材の板幅中心位置が搬送ラインの中心からずれる(蛇行する)場合がある。最悪の場合、板材の一部が該ピンチロール胴部から咬み出し板材が損傷する事象が発生し得る。
【0005】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、ピンチロールを用いた板材の搬送において、ピンチロールおよび板材の間に作用する搬送方向の力を高い信頼性で取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る板材の搬送装置は、搬送対象の板材を挟む上下一対のピンチロールと、ピンチロールを保持するハウジングと、板材の搬送方向および搬送方向の逆方向にハウジングを可動にする可動機構と、搬送方向および搬送方向の逆方向へのハウジングの移動を規制する規制部と、ハウジングと規制部との間に作用する力を検出する力測定装置と、を備える。
【0007】
可動機構は、板材から離れた回転軸線まわりに回転可能にするようハウジングを保持してもよい。回転軸線は、ピンチロールに平行であり、板材との間にいずれか一方のピンチロールを挟むように位置していてもよい。規制部は、ピンチロールの入側からハウジングに対向する入側対向部と、ピンチロールの出側からハウジングに対向する出側対向部とを有し、力測定装置は、入側対向部とハウジングとの間に作用する力を検出する入側センサと、出側対向部とハウジングとの間に作用する力を検出する出側センサとを有してもよい。
【0008】
ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに荷重測定装置と、ピンチロールにおいて挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合は、該板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、逆に、ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、該板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、該板幅中心位置現在値を基準として該板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、する制御装置と、を更に備えていてもよい。
【0009】
ピンチロールを駆動する駆動装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに圧下装置と、少なくとも上下どちらか一方のピンチロールの軸方向両端部それぞれに荷重測定装置と、ピンチロールにおいて挟圧されている板材の板幅中心位置現在値を検出し、該板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とし、該板幅中心位置現在値と該板幅中心位置目標値との差を板位置誤差として演算し、現在時刻の該板位置誤差に加えて、現在時刻以前の該板位置誤差の履歴を考慮して板位置誤差制御量を演算し、該板位置誤差制御量に比例する値として荷重作用点位置オフセット量を演算し、ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合は、該板幅中心位置現在値から該荷重作用点位置オフセット量を減算して、板材とピンチロール間に作用する荷重分布の荷重作用点位置の目標値を演算し、該荷重作用点位置目標値に基づき、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するようにピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、逆に、ピンチロールが該板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、該板幅中心位置現在値に該荷重作用点位置オフセット量を加算して、板材とピンチロール間に作用する荷重分布の荷重作用点位置の目標値を演算し、該荷重作用点位置目標値に基づき、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するようにピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を制御、する制御装置と、を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ピンチロールを用いた板材の搬送において、ピンチロールおよび板材の間に作用する搬送方向の力を高い信頼性で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る板材搬送装置の概略構成を示す図である。
図2】ピンチロールハウジングの側面図である。
図3】本開示に係る板材搬送装置の制御方法の概略を示すフローチャートである。
図4】ピンチロールと板材の位置関係を示す図。
図5】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている条件下で、板材が作業側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図6】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている条件下で、板材が駆動側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図7】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない条件下で、板材が作業側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図8】ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない条件下で、板材が駆動側に寄っている場合の板材~ピンチロール間荷重分布と荷重作用点位置の目標値を示す図である。
図9】作業側および駆動側荷重測定値とピンチロール位置との関係を示す図である。
図10】制御装置のハードウェア構成を例示する図である。
図11】制御装置による制御手順を例示するフローチャートである。
図12】入側張力が出側張力より大きい場合のピンチロール近傍において板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示す図である。
図13】入側張力が出側張力より大きくピンチロールが板材の作業側を駆動側より強く挟圧している場合の板材に負荷される搬送方向力の左右差とモーメントを示す図である。
図14】入側張力が出側張力より小さい場合のピンチロール近傍において板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示す図である。
図15】入側張力が出側張力より小さくピンチロールが板材の作業側を駆動側より強く挟圧している場合の板材に負荷される搬送方向力の左右差とモーメントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施態様について図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素または同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
最初に、図1を参照して、本開示に係る板材の搬送装置100の概要を説明する。搬送装置100は、板材2の製造・処理ラインにおいて、上下一対のピンチロール1a、1bで板材2を挟持しながら所定の搬送方向に板材2を搬送する装置である。板材の搬送装置100は、ピンチロール1a、1bと、圧下装置3a、3bと、荷重測定装置4a、4bを、備えている。またピンチロール1a、1bはスピンドル7a、7b、ピニオンスタンド8を介して電動機6によって駆動される構成となっている。さらに図1の搬送装置100では、本開示の実施態様の一例として板材の作業側の板端位置を測定する板端位置測定装置5を備えている。
【0014】
ピンチロール1a、1bは、板材2を上下から所定の圧力で挟持し、所定の搬送方向に板材2を搬送する回転体である。上側のピンチロール1aにおける軸方向の一端側(作業側)はチョックを介して圧下装置3aに接続されており、軸方向の他端側(駆動側)はチョックを介して圧下装置3bに接続されている。下側のピンチロール1bにおける作業側はチョックを介して荷重測定装置4aに接続されており、駆動側はチョックを介して荷重測定装置4bに接続されている。
【0015】
圧下装置3a、3bは、ピンチロール1aの作業側および駆動側(軸方向両端部)それぞれにおいてピンチロール1aを圧下する。圧下装置3aは、ピンチロール1aの作業側を、設定されたピンチロール圧下位置で圧下する。圧下装置3bは、ピンチロール1aの駆動側を、設定されたピンチロール圧下位置で圧下する。
【0016】
荷重測定装置4a、4bは、ピンチロール1bの作業側および駆動側それぞれにおける荷重を測定する。荷重測定装置4aは、ピンチロール1bの作業側における荷重を測定する。荷重測定装置4bは、ピンチロール1bの駆動側における荷重を測定する。
【0017】
板材の板端位置測定装置5は、ピンチロール1a、1bによって搬送されている板材2の、板端位置を連続的に(常時)測定する。板端位置測定装置5は、例えば搬送装置100近傍の所定の位置に固定して配置されており、検出した板端位置と既知である板材2の板幅とから、搬送されている板材2の板幅中心位置を導出する。あるいは、板端位置測定装置5は、板材2の板幅が既知でない場合には、板材2の板材幅方向における両端位置を測定することにより板材2の板幅中心位置を導出してもよい。なお、板端位置測定装置5による位置測定方法は限定されるものではなく、例えば、フォトマイクロセンサ、エリアセンサ、光電センサ、近接センサ、ファイバセンサ、またはレーザセンサ等の既知のセンサを用いることができる。
【0018】
搬送装置100は、ピンチロール1a、1bを保持するための構成として、二つのピンチロールハウジング16,16と、二つのフレーム18,18とを更に備えている。図2に示すように、二つのピンチロールハウジング16は、ピンチロール1a,1bの両端部をそれぞれ包囲する。ピンチロール1a,1bの一端側(以下、「作業側」という。)において、ピンチロールハウジング16の上部には圧下装置3aが設けられ、ピンチロールハウジング16の下部には荷重測定装置4aが設けられている。ピンチロール1a,1bの他端側(以下、「駆動側」という。)において、ピンチロールハウジング16の上部には圧下装置3bが設けられ、ピンチロールハウジング16の下部には荷重測定装置4bが設けられている。上側のピンチロール1aの作業側端部はピンチロールチョック15aを介して圧下装置3aに接続されており、駆動側端部はピンチロールチョック15aを介して圧下装置3bに接続されている。下側のピンチロール1bにおける作業側はピンチロールチョック15bを介して荷重測定装置4aに接続されており、駆動側はピンチロールチョック15bを介して荷重測定装置4bに接続されている。
【0019】
二つのフレーム18,18は、二つのピンチロールハウジング16,16をそれぞれ保持する。フレーム18は、板材2の搬送方向11および搬送方向11の逆方向にピンチロールハウジング16を可動にする可動機構33と、搬送方向11および搬送方向11の逆方向へのピンチロールハウジング16の移動を規制する規制部37と、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力を検出する力測定装置17と、を備える。可動機構33は、ベース34とピボット19とを有する。ベース34は、ピンチロールハウジング16を支持する。ピボット19は、板材2から離れた回転軸線38まわりに回転可能となるようにピンチロールハウジング16をベース34に接続する。回転軸線38は、ピンチロール1a,1bに平行であり、ピンチロール1bよりも下方に位置している。すなわち回転軸線38は、板材2との間にピンチロール1bを挟むように位置している。ピンチロールハウジング16が回転軸線38まわりに回転可能であることにより、ピンチロールハウジング16のうち少なくともピンチロール1a,1bが配置される部分は、板材2の搬送方向11および搬送方向11の逆方向に可動となる。なお、可動機構33の構成は、板材2の搬送方向11および搬送方向11の逆方向にピンチロールハウジング16を可動にする限り適宜変更可能である。例えば可動機構33は、ピボット19に代えて、搬送方向11および搬送方向11の逆方向にピンチロールハウジング16全体を並進可能にする台車を有していてもよい。
【0020】
規制部37は、入側対向部35および出側対向部36を有する。入側対向部35は、ベース34上に設けられ、入側からピンチロールハウジング16に対向する。出側対向部36は、ベース34上に設けられ、出側からピンチロールハウジング16に対向する。なお、規制部37の構成は、搬送方向11および搬送方向11の逆方向へのピンチロールハウジング16の移動を規制する限り適宜変更可能である。例えば規制部37は、作業側または駆動側からピンチロールハウジング16を保持するように構成されていてもよい。
【0021】
力測定装置17は、入側対向部35とピンチロールハウジング16との間に作用する力を検出する入側センサ17aと、出側対向部36とピンチロールハウジング16との間に作用する力を検出する出側センサ17bとを有する。入側センサ17aおよび出側センサ17bは、板材2のパスライン近傍に配置されている。このような構成とすることにより、板材2からピンチロール1a,1bに作用する搬送方向の力を力測定装置17によって測定し、作業側の入側センサ17aおよび出側センサ17bにより測定された力と、駆動側の入側センサ17aおよび出側センサ17bにより測定された力とを合計することで板材2からピンチロール1a,1bに作用する搬送方向の力を検出できる。なお、力測定装置176の構成は、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力を検出できる限り適宜変更可能である。例えば、規制部37が作業側または駆動側からピンチロールハウジング16を保持するように構成される場合に、力測定装置17は、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用するせん断力または曲げモーメントを測定するように構成されていてもよい。
【0022】
次に、図3を参照して、本開示の搬送装置の制御方法の実施態様について詳細に説明する。まず板幅中心位置現在値を検出する。図1のように板端位置を連続的に測定できる装置5が搬送装置近傍に配備されている場合、この測定値と既知の板幅から板幅中心位置現在値を算出する。例えば、図1に示すようにラインセンターを原点としピンチロール軸に沿って作業側を正とする座標zを定義して位置を示すものとし、作業側に配備された板端位置測定装置5で測定された作業側板端位置をzとし、既知の板幅をbとするとき、駆動側の板端位置はz-bで推定されるから板幅中心位置現在値zはこれらの平均値として次式で計算される。
【数1】

なお板幅の値が不確定な場合は駆動側にも板端位置測定装置を配し、駆動側板端位置zを実測して、作業側板端位置zと駆動側板端位置zの平均値として板幅中心位置現在値zを算出する。板幅中心位置現在値は厳密にはピンチロール直下の板幅中心位置であることが好ましいが、板端位置測定装置5が搬送装置に十分近ければ上記計算値zを板幅中心位置現在値とみなしてよい。さらに正確さを期する場合、搬送装置の入側と出側双方に板端位置測定装置を配備し、それぞれの実測値から計算される板幅中心位置zの平均をとって板幅中心位置現在値とすることが好ましい。本開示では以上のように実測値から演算によって板幅中心位置現在値を得ることを“板幅中心位置現在値を検出”と表現している。
【0023】
図3のフローチャートに戻り本開示に係る搬送装置の制御方法の説明を続ける。板材2の板幅中心位置現在値を検出した後、板材からピンチロールに作用する搬送方向の力を搬送装置内において測定し、この搬送方向力測定値に基づき、ピンチロールが板材に駆動力を与えているか、あるいは与えていないか、を判定し、その判定結果に基づき圧下レベリング操作を実施する。具体的には、上述した力測定装置17の検出結果に基づいて、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えているかどうかを判定する。
【0024】
さらに図3のフローチャートにおいて、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていると判定された場合、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として、ピンチロールの作業側と駆動側のうち、板幅中心位置目標値側の荷重が相対的に大きくなる方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。この圧下位置操作について図4を用いて説明する。図4ではピンチロールの胴長中心となるラインセンター9に対して板幅中心位置現在値10は作業側に寄っている。ここでは説明を簡単にするため、このときの板幅中心位置目標値はラインセンター9に一致しているものとするが、目標値はその他の位置であっても差支えない。この場合、板材2を駆動側に戻すことが制御目標となるが、その時、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値10を基準として板幅中心位置目標値(ラインセンター9)側、すなわち駆動側の荷重が、作業側の荷重に比べて、相対的に大きくなる方向に圧下装置を操作する。具体的には作業側の圧下位置をロールギャップ開の方向、駆動側の圧下位置をロールギャップ閉の方向に操作する。このように作業側と駆動側で逆方向に同じ大きさだけ圧下位置操作を実施することを本開示では圧下レベリング操作と称するが、上記の圧下レベリング操作により、ピンチロール~板材間の荷重合計は変化することなく荷重分布が変化し、図4における板材2はピンチロール回転に伴い駆動側に戻る。
【0025】
一方、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていないと判定された場合、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として、ピンチロールの作業側と駆動側のうち、板幅中心位置目標値側の荷重が相対的に小さくなる方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。図4の例では、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値10を基準として板幅中心位置目標値(ラインセンター9)側すなわち駆動側の荷重が、作業側の荷重に比べて、相対的に小さくなる方向に圧下装置を操作する。すなわち作業側ロールギャップ閉、駆動側ロールギャップ開の方向に圧下レベリング操作をすることで図4における板材2はピンチロール回転に伴い駆動側に戻る。なお、ピンチロールが板材に駆動力を与えていない場合とは、ピンチロールが板材に搬送方向の制動力を与えている場合と、無負荷状態すなわちアイドル状態でピンチロールが回転している場合の双方の場合を指している。
【0026】
次に図3のフローチャートにおいてS1、S2で示されている圧下レベリング操作の詳細について、さらに具体的な実施態様を示して説明する。
【0027】
板材2の板幅をb、図5に示すようにラインセンター9を原点としピンチロール軸に沿って作業側を正とする座標zを定義して、板幅中心位置現在値10の座標をz、板幅中心位置目標値の座標をzとする。図5の例では説明を簡単にするためz=0、すなわち板幅中心位置目標値はラインセンター9に一致しているものとする。このとき荷重作用点位置目標値zp_refを、例えば以下の式(2)により導出する。
【数2】

ここで、δは制御パラメータである。式(2)は板幅中心位置現在値zと板幅中心位置目標値zとの差で板位置誤差を算出し、これに制御パラメータδを掛けたものを板幅中心位置現在値zに加算して荷重作用点位置zp_refを演算している。なお荷重作用点位置とは作業側荷重測定装置による荷重測定値Pと駆動側荷重測定装置による荷重測定値Pの二つの力を、荷重およびモーメントバランスのとれる一つの集中荷重Pに置き換えた場合の荷重作用点の位置を示すものである。そして荷重P,Pは板材からピンチロールに作用する荷重の反力であるから、当該荷重作用点位置は、板材とピンチロール間に作用する荷重分布を、荷重およびモーメントバランスの観点から集中荷重に置き換えた場合の荷重作用点位置とも一致する。
【0028】
まずピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合、すなわち図3のS1の圧下レベリング操作の具体例について詳細に説明する。この場合、式(2)の制御パラメータδを負の値に設定する。例えば、δ=-0.5とすると、z=0を考慮して、式(2)よりzp_ref=0.5zが得られる。このようにすると、図5のようにz>0すなわち板幅中心位置現在値10がラインセンター9より作業側にある場合は、荷重作用点位置目標値は板幅中心位置現在値10よりも駆動側に位置することになり、このことによって板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布20は、図5に示したように、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重、すなわち駆動側の荷重が、作業側に比べて相対的に大きくなる。
【0029】
上記した荷重作用点位置と板材~ピンチロール間の荷重分布の関係を定量的に示しておく。板材~ピンチロール間の荷重分布を直線分布で近似し、任意の位置の単位幅あたりの荷重pを次式で表現する。なお以後、単位幅あたりの荷重を線荷重と呼称する。
【数3】

ここで、ζは板幅中心を原点とし作業側を正とする板幅方向座標、pは板幅中心位置の線荷重、pdfは作業側板端の線荷重と駆動側板端の線荷重の差異である。式(3)の荷重分布による板幅中心まわりのモーメントMを計算すると次のようになる。
【数4】

したがって、板材~ピンチロール間の荷重分布を力およびモーメントに関して等価な集中荷重で置き換えたときの力の作用点の板幅中心からの距離ζは次式で計算される。
【数5】

式(5)より、荷重作用点位置が板幅中心より駆動側にある場合、すなわちζ<0の場合、pdf<0となり、駆動側の板材~ピンチロール間荷重が作業側の板材~ピンチロール間荷重よりも大きくなることが理解できる。
【0030】
さて以上のように荷重作用点位置目標値zp_refが求められた後、圧下レベリング操作までの具体的手順の例について説明を続ける。まず、作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refを導出する。具体的には、式(2)で与えられた荷重作用点位置目標値zp_refに基づいて、ピンチロール荷重の左右差(作業側―駆動側)、すなわち差荷重の目標値Pdf_refを、ピンチロールのモーメントバランスから導かれる次式で計算する。
【数6】

W_ref,PD_refは、式(6)で計算されるPdf_refとトータル荷重の目標値P_ref=PW_ref+PD_refとから以下の式(7)および式(8)で計算される。
【数7】

【数8】
【0031】
次に、作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refと、荷重測定装置4a、4bにより測定される作業側および駆動側それぞれにおける荷重現在値と、に基づき、作業側および駆動側それぞれにおけるピンチロール圧下位置制御量の目標値を導出する。板材2の板厚、板幅、弾性定数を考慮した搬送装置の剛性を片側分でK、荷重測定装置4a、4bで測定された荷重の現在値をP,Pとすると、ピンチロールの圧下位置修正量の作業側目標値ΔgW_refおよび駆動側目標値ΔgD_refは以下の式(9)および式(10)で与えられる。
【数9】

【数10】
【0032】
ここでΔgW_ref,ΔgD_refは上下ピンチロール間隙を大きくする方向を正として定義している。これらの圧下位置修正量の目標値ΔgW_ref,ΔgD_refにスケールファクターαを掛けてピンチロール圧下位置制御量Δg,Δgを以下の式(11)および式(12)で演算する。
【数11】

【数12】

式(11)に基づいて導出した作業側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき作業側の圧下装置3aを制御すると共に、式(12)に基づいて導出した駆動側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき駆動側の圧下装置3bを操作して、作業側および駆動側それぞれのピンチロール圧下位置を制御する。このようにして圧下位置制御を行うことにより、制御の1サイクルが完結し、以後この一連の操作を繰り返すことで圧下レベリング操作による良好な蛇行制御が実現できる。
【0033】
なお上記の具体例では、圧下位置制御は作業側および駆動側で同じ方向の同時圧下成分が含まれることもあるが、この成分は作業側荷重と駆動側荷重の合計となるピンチロール荷重を制御することになる。一方、本開示の制御方法にとって本質的に重要なのは作業側と駆動側で逆方向となる圧下レベリング成分であり、この成分は作業側荷重と駆動側荷重の差異となる差荷重を制御する。そこで、同時圧下成分による荷重制御は他の制御機能に委ね、板の蛇行制御に関しては圧下レベリング操作に特化する方法も有効である。具体的には式(6)で計算される差荷重目標値Pdf_refと差荷重現在値Pdfとの差で差荷重制御量ΔPdfを算出し、これを達成するための圧下レベリング制御量目標値Δgdf_refを板材の板厚、板幅、弾性定数、そして搬送装置の変形特性を考慮して求め、これにスケールファクターを考慮して圧下レベリング制御量Δgdfを求める。
【0034】
次に図6を参照して、板幅中心位置現在値10がラインセンター9より駆動側にある場合の図3のS1の手続きについて説明する。この場合も荷重作用点位置は式(2)で計算する。δ=-0.5、z=0を考慮すると、荷重作用点の位置は、図5の場合と同様にzp_ref=0.5zとなる。しかしながら、図6の場合、z<0であるから荷重作用点位置は板幅中心位置現在値10よりも作業側に位置することになる。したがって、図6の場合、図5とは逆に、作業側の板材~ピンチロール間荷重を駆動側の板材~ピンチロール間荷重に比べて大きくすることになる。
【0035】
次に、図7を参照して、図3のS2の圧下レベリング操作の具体例について説明する。S2の手続きはピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていないと判定された場合に実行する。この場合の手続きも、1点を除いて前記したS1の手続きと同じである。唯一異なる点は、式(2)の制御パラメータδを正の値に設定することである。例えば、式(2)においてδ=0.5、z=0とするとzp_ref=1.5zが得られる。これにより、図7に示すようにz>0すなわち板幅中心位置現在値10がラインセンター9より作業側にある場合は、荷重作用点位置目標値は板幅中心位置現在値10よりもさらに作業側に位置することになり、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布20は、図7に示したように、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重、すなわち駆動側の板材~ピンチロール間荷重が、作業側の板材~ピンチロール間荷重に比べて相対的に小さくなる。上記のようにして荷重作用点位置目標値が得られた後の手続きはS1の手続きと全く同じである。
【0036】
次に図8を参照して、板幅中心位置現在値10がラインセンター9より駆動側にある場合の図3のS2の手続きについて説明する。この場合も荷重作用点位置は式(2)で計算する。図7の実施例と同様にδ=0.5、z=0とするとzp_ref=1.5zが得られる。しかしながら、図8の場合、z<0であるから荷重作用点位置は板幅中心位置現在値10よりも駆動側に位置することになる。したがって、図8の場合、図7とは逆に、作業側の板材~ピンチロール間荷重を駆動側の板材~ピンチロール間荷重に比べて小さくすることになる。
【0037】
本開示の搬送装置の制御方法の一態様では、板材とピンチロール間に作用する荷重分布の荷重作用点位置の目標値を算出する際、板幅中心位置現在値と板幅中心位置目標値との差を板位置誤差として演算し、現在時刻の板位置誤差に加えて、現在時刻以前の板位置誤差の履歴を考慮して、板位置誤差制御量を演算し、この板位置誤差制御量に基づいて荷重作用点位置の目標値を演算し、該荷重作用点位置目標値に基づき、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、該ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するようにピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。このように板位置誤差の履歴を利用するのは、制御のパフォーマンスを向上させるためであり、板位置誤差が小さくなりつつあるのか、あるいは大きくなりつつあるのか、または定常的に有意な板位置誤差を生じているか等、板位置誤差の過去の傾向を考慮して最適な制御を実施することが可能となる。この実施態様の具体例について以下に詳細に説明する。
【0038】
板幅中心位置現在値を検出した後、板幅中心位置目標値との差をとって板位置誤差を演算し、現在時刻の板位置誤差に加えて、現在時刻以前の板位置誤差の履歴を考慮して、板位置誤差制御量を演算する。具体例をあげると、板幅中心位置が板幅中心位置目標値に近づいているか、あるいは遠ざかっているかをその速度情報とともに定量化するには、板位置誤差の履歴の時間に関する微分演算を行って考慮する。また板幅中心位置が板幅中心位置目標値に対して定常的な偏差を有しており、これを修正したい場合は板位置誤差の履歴の時間に関する積分演算を行って考慮する。この場合、板位置誤差制御量ΔzC_mを次式で演算して求める。
【数13】

ここでΔzは現在時刻の板位置誤差(Δz=z-z)、ΔzC_int(Tint)はΔzの積分値、Tintは積分時間、ΔzC_dif(Tdif)はΔzの微分値、Tdifは微分時間、αintは積分ゲイン、αdifは微分ゲインである。式(13)で計算される板位置誤差制御量ΔzC_mは、板位置誤差が大きくなりつつある場合、微分値が正の値となるので板位置誤差現在値に該微分値が加算され誤差を大きく評価する。また正値の定常的板位置誤差がある場合は積分値が正の値となるので板位置誤差現在値に該積分値が加算され誤差を大きく評価する。このような性質を有する板位置誤差制御量ΔzC_mに基づいて荷重作用点位置を決めることで、誤差の履歴を考慮した適正な制御が可能となる。そして、ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合、式(2)においてδ<0としたのと同様の考え方に基づき、例えば、板位置誤差制御量ΔzC_mに正値の制御パラメータを掛けて板位置誤差制御量ΔzC_mに比例する荷重作用点位置オフセット量を演算し、これを板幅中心位置現在値から減算して荷重作用点位置目標値を求める。逆に、ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、式(2)においてδ>0としたのと同様の考え方に基づき、板位置誤差制御量ΔzC_mに正値の制御パラメータを掛けて板位置誤差制御量ΔzC_mに比例する荷重作用点位置オフセット量を演算して、これを板幅中心位置現在値に加算して荷重作用点位置目標値を演算する。荷重作用点位置目標値が求められた後は、これまでの実施態様と同様に、荷重作用点位置目標値に基づき、ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を演算し、該ピンチロールの作業側および駆動側の荷重目標値を実現するようにピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。
【0039】
本開示の搬送装置の制御方法の一態様では、ピンチロールの軸方向両端部それぞれに配備された荷重測定装置により測定される作業側および駆動側の荷重測定値から、板材の板幅中心位置現在値を検出し、この板幅中心位置現在値に基づき圧下レベリング操作を実施する。以下、図9を参照して、荷重測定値より板幅中心位置現在値を算出する方法の一例を具体的に説明する。図9では板材からピンチロールに作用する荷重Pを板材の板幅中心に作用する集中荷重で表現している。板材の板幅中心はラインセンター9よりzの位置にあり、ピンチロールの軸方向両端部のうち作業側の荷重測定装置で測定される荷重測定値をP、駆動側の荷重測定装置で測定される荷重測定値をPとする。作業側荷重測定装置と駆動側荷重測定装置の距離をaとするとき、これらの荷重の間にはピンチロールのモーメントの平衡条件より次の関係式が成立する。
【数14】

式(14)をzについて解くと板幅中心位置現在値zが次式で得られる。
【数15】

式(15)によれば作業側および駆動側の荷重測定値より板材の板幅中心位置を求めることができる。ただし、式(15)は板材~ピンチロール間荷重分布が板幅方向に左右対称となっていることを前提とした計算式であり、左右非対称となっている場合は、その非対称性が荷重測定値の左右差P-Pにおよぼす影響を除外した上で板幅中心位置zを計算しなければならない。例えば、板材~ピンチロール間荷重分布が直線分布であり、作業側の線荷重と駆動側の線荷重との差異すなわち荷重分布左右差がpdfとなっている場合、この荷重分布左右差がP-Pにおよぼす影響は、板幅をbとするとき、pdf・b/(6a)で与えられるから式(15)の代わりに次式を用いて板幅中心位置zを計算する。
【数16】
【0040】
ここで荷重分布左右差pdfについては、例えば、初期設定の圧下位置では零を仮定し、その後の圧下レベリング操作Δgdfに対しては、ピンチロールと板材の弾性変形を考慮して計算される板材~ピンチロール間荷重分布左右差の変化量Δpdfを、例えば次式によって計算し、これを時系列的に積算することによって求めることができる。
【数17】

ここで、mは板材を単位厚さだけピンチロール圧下したときの線荷重増分を表す板材の弾性定数であり、Dは、第二種平行剛性と呼ばれ、荷重分布左右差が単位量だけ変化したときにピンチロールを含めた搬送装置の弾性変形により生ずる板厚左右差を表わすパラメータであり、何れも設備仕様および板材の寸法と弾性係数が与えられれば公知の方法により予め計算できるものである。
【0041】
[制御装置の例示]
図1に示すように、搬送装置100は、上述した制御方法を自動実行するための制御装置200をさらに備えていてもよい。制御装置200は、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、張力情報取得部211と、回転制御部212と、駆動状態判定部213と、荷重作用点目標位置設定部214と、圧下位置制御部216と、位置情報取得部217とを有する。
【0042】
張力情報取得部211は、板材2の搬送状態に関する情報の一例として、ピンチロール1a,1bの入側および出側における板材2の張力の差異に関する情報を取得する。
【0043】
回転制御部212は、板材2の搬送状態に応じてピンチロール1a,1bの回転トルクを調節するように電動機6(駆動装置)を制御する。ピンチロール1a,1bの回転トルクは、電動機6がピンチロール1a,1bに付与する回転トルクである。例えば回転制御部212は、張力情報取得部211が取得した入出側張力差の情報を、予め設定された目標値に近づけるようにピンチロール1a,1bの回転トルクの目標値を設定し、当該目標値にピンチロール1a,1bの回転トルクを近づけるように電動機6を制御する。
【0044】
位置情報取得部217は、板端位置測定装置5から板材2の縁の位置(上記板端位置)の検出結果を取得し、当該検出結果に基づいて板幅中心現在位置を導出する。例えば、位置情報取得部217は、上記式(1)により板幅中心現在位置を算出する。
【0045】
駆動状態判定部213は、力測定装置17の検出結果に基づいて、ピンチロール1a,1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えているか与えていないかを判定する。
【0046】
荷重作用点目標位置設定部214および圧下位置制御部216は、ピンチロール1a,1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていると判定された場合、板材2とピンチロール1a,1b間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心現在位置10を基準として、ピンチロール1a,1bの作業側と駆動側のうち、板幅中心目標位置10A(例えばラインセンター9)側の荷重が相対的に大きくなる方向にピンチロール1a,1bの作業側および駆動側の圧下装置3a,3bを操作する。一方、ピンチロール1a、1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていないと判定された場合、板材-ピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心現在位置10を基準として、ピンチロール1a,1bの作業側と駆動側のうち、板幅中心目標位置10A側の荷重が相対的に小さくなる方向にピンチロール1a,1bの作業側および駆動側の圧下装置3a,3bを操作する。
【0047】
荷重作用点目標位置設定部214は、圧下装置3a,3bによって制御される荷重作用点位置の目標位置(以下、「荷重作用点目標位置」という。)を設定する。荷重作用点位置は、ピンチロール1a,1bから板材2に作用する分布荷重と、荷重およびモーメントバランスの観点から等価な集中荷重の作用点位置である。荷重作用点目標位置設定部214は、ピンチロール1a,1bが板材2に駆動力を与えている場合には、板幅中心目標位置10Aに対する板幅中心現在位置10の誤差の大きさに応じたオフセット量にて板幅中心現在位置10から板幅中心目標位置10A側にオフセットした位置を荷重作用点目標位置とし、ピンチロール1a,1bが板材2に駆動力を与えていない場合には、上記オフセット量にて板幅中心現在位置10から板幅中心目標位置10Aの逆側にオフセットした位置を荷重作用点目標位置とする。例えば荷重作用点目標位置設定部214は、上記式(2)を用い、ピンチロール1a,1bが板材2に上記駆動力を与えている場合には式(2)の制御パラメータδを負の値に設定し、ピンチロール1a,1bが板材2に上記駆動力を与えていない場合には、式(2)の制御パラメータδを正の値に設定して荷重作用点目標位置を算出する。
【0048】
なお、荷重作用点目標位置設定部214は、板幅中心現在位置10と板幅中心目標位置10Aとの差を板位置誤差として演算し、現在時刻の板位置誤差に加えて、現在時刻以前の板位置誤差の履歴を考慮して、板位置誤差制御量を演算し、この板位置誤差制御量に基づいて荷重作用点目標位置を演算してもよい。例えば荷重作用点目標位置設定部214は、上記式(13)で板位置誤差制御量ΔzC_mを計算する。そして、荷重作用点目標位置設定部214は、ピンチロール1a,1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えている場合、式(2)においてδ<0としたのと同様の考え方に基づき、例えば、板位置誤差制御量ΔzC_mに正値の制御パラメータを掛けて板位置誤差制御量ΔzC_mに比例するオフセット量を演算し、これを板幅中心現在位置10から減算して荷重作用点目標位置を求める。逆に、荷重作用点目標位置設定部214は、ピンチロール1a,1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えていない場合は、式(2)においてδ>0としたのと同様の考え方に基づき、板位置誤差制御量ΔzC_mに正値の制御パラメータを掛けて板位置誤差制御量ΔzC_mに比例するオフセット量を演算して、これを板幅中心現在位置10に加算して荷重作用点目標位置を演算する。
【0049】
圧下位置制御部216は、荷重作用点位置を荷重作用点目標位置に近づけるように圧下装置3a,3bを制御する。例えば圧下位置制御部216は、まず作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refを上記式(6)~(8)に基づいて導出する。次に、圧下位置制御部216は、作業側および駆動側それぞれにおける荷重目標値PW_ref,PD_refと、荷重測定装置4a、4bにより測定される作業側および駆動側それぞれにおける荷重現在値と、に基づき、作業側および駆動側それぞれにおけるピンチロール圧下位置制御量の目標値を導出する。例えば圧下位置制御部216は、上記式(9)~(12)を用いてピンチロール圧下位置制御量Δg,Δgを演算する。圧下位置制御部216は、作業側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき作業側の圧下装置3aを制御すると共に、駆動側ピンチロール圧下位置制御量の目標値Δgに基づき駆動側の圧下装置3bを操作して、作業側および駆動側それぞれのピンチロール圧下位置を制御する。
【0050】
制御装置200の構成を以上に例示したが、この構成はあくまで一例であり、適宜変更可能である。例えば位置情報取得部217は、ピンチロール1a,1bの軸方向両端部それぞれに配備された荷重測定装置4a,4bにより測定される作業側および駆動側の荷重測定値から、板幅中心現在位置10を検出してもよい。例えば位置情報取得部217は、上記式(14)および(15)を用いて板幅中心現在位置10の座標zを求めてもよい。板材-ピンチロール間の荷重分布が左右非対称となっている場合は、上記式(16)を用いて座標zを計算してもよい。
【0051】
図10は、制御装置200のハードウェア構成を例示する模式図である。図10に示すように、制御装置200は回路220を含む。回路220は、少なくとも一つのプロセッサ221と、メモリ222と、ストレージ223と、入出力ポート224とを含む。ストレージ223は、コンピュータによって読み取り可能な不揮発型の記憶媒体(例えばハードディスクまたはフラッシュメモリ)である。ストレージ223は、制御装置200の各機能モジュールを構成するためのプログラムを記憶している。メモリ222は、ストレージ223からロードしたプログラムおよびプロセッサ221による演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ221は、メモリ222と協働して上記プログラムを実行することで、制御装置200の各機能モジュールを構成する。入出力ポート224は、プロセッサ221からの指令に応じて、回転駆動装置31、荷重測定装置4a,4b、板端位置測定装置5、および圧下装置3a,3bとの間で電気信号の入出力を行う。
【0052】
[制御装置による制御手順の例示]
続いて、板材の搬送装置の制御方法の一例として、制御装置200が実行する制御手順を例示する。図11に示すように、制御装置200は、まずステップS11,S12を実行する。ステップS11では、位置情報取得部217が、板材2の幅方向中心の板幅中心現在位置10を検出する。ステップS12では、力測定装置17の検出結果に基づいて、ピンチロール1a,1bが板材2に搬送方向に向かう駆動力を与えているか与えていないかを駆動状態判定部213が確認する。
【0053】
ステップS12において、ピンチロール1a,1bが板材2に駆動力を与えていると判定した場合、制御装置200はステップS13を実行する。ステップS13では、荷重作用点目標位置設定部214が、板幅中心目標位置10Aに対する板幅中心現在位置10の誤差の大きさに応じたオフセット量にて板幅中心現在位置10から板幅中心目標位置10A側にオフセットした位置を荷重作用点目標位置とする。
【0054】
ステップS12において、ピンチロール1a,1bが板材2に駆動力を与えていないと判定した場合、制御装置200はステップS14を実行する。ステップS14では、荷重作用点目標位置設定部214が、板幅中心目標位置10Aに対する板幅中心現在位置10の誤差の大きさに応じたオフセット量にて板幅中心現在位置10から板幅中心目標位置10Aの逆側にオフセットした位置を荷重作用点目標位置とする。
【0055】
次に、制御装置200はステップS15,S16,S17を実行する。ステップS15では、圧下位置制御部216が、ステップS13またはステップS14において設定された荷重作用点目標位置に応じて、荷重測定装置4a,4bで測定される荷重の目標値を導出する。ステップS16では、圧下位置制御部216が、ステップS15において導出された荷重目標値に応じて、圧下装置3a,3bの圧下位置修正量の目標値を導出する。ステップS17では、ステップS16において導出された圧下位置修正量の目標値に応じて、圧下位置制御部216が圧下装置3a,3bを制御する。以上で1サイクルの荷重制御手順が完了する。以後、制御装置200は、この一連の操作を所定の制御周期で繰り返す。これにより、圧下レベリング操作による良好な蛇行制御が継続的に実行される。
【0056】
[本実施形態の作用効果]
従来、板材の製造・処理ラインにおいては、板材に張力を与えつつ面外変形を防止して板材を円滑に搬送するため、上下一対のピンチロールで板材を挟圧し搬送する装置が用いられる。このような装置においては、板材の板幅中心が該板材製造・処理ラインの中心から外れ、最悪の場合、板材の一部が該ピンチロール胴部から咬み出し板材が損傷する事象が発生し得る。当該事象を回避するために、例えば特許文献1には、ピンチロールのプロフィルとベンディング力の制御に加えて、作業側および駆動側の荷重を測定して、荷重の大きい側の圧下位置を相対的に締め込む方向の圧下レベリング制御を実施する装置が開示されている。この圧下レベリング制御の考え方は圧延機の蛇行制御の考え方と同じで、板材が蛇行した側の荷重が大きくなるので、これを検知して荷重が大きくなった側の圧下位置を相対的に締め込む方向に圧下レベリング制御を実施するものである。ここで具体例として、板材が作業側に寄った場合を考える。圧延の場合、作業側を締め込む圧下レベリング操作によって、作業側の圧下率そして伸び率が大きくなり、その結果、作業側の後進率が大きくなって入側板材が余り、上流側の板材は駆動側に傾くことになる。このように傾斜した板材を圧延することによって板材は駆動側に戻ることになる。ピンチロールによる搬送装置の場合、板材は圧延のように塑性変形することはないが、ピンチロール圧下により板材は弾性的に搬送方向に伸びるので、定性的には圧延と同様の蛇行制御効果が期待できると考えられてきた。
【0057】
本発明者らは、以上のような考え方に基づき、特許文献1に開示されたものと同様の搬送装置と圧下レベリング制御方法を用いて実験を実施した。その結果、良好に蛇行制御できた条件もあったものの、圧下レベリング制御によって逆に蛇行が激しくなった場合も見られた。そこでピンチロールの蛇行特性と実験条件の関係を詳細に調査した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0058】
(A)ピンチロール入側において板材に負荷されている張力と出側において板材に負荷されている張力とが等しい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が抑制され、安定した通板が実現できた。
【0059】
(B)ピンチロールの入側張力が出側張力より大きい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が発散傾向となり、板位置を安定させることができなかった。逆に、板材が蛇行した側の圧下位置を開放する方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が抑制され、安定した通板が実現できた。
【0060】
(C)ピンチロールの出側張力が入側張力より大きい場合は、板材が蛇行した側の圧下位置を締め込む方向の圧下レベリング操作によって板材の蛇行が抑制され、安定した通板が実現できた。
【0061】
上記したように、入側張力が出側張力より大きい場合は、従来技術の圧下レベリング制御、すなわち板材が蛇行した側の圧下位置を相対的に締め込む圧下レベリング制御が機能しないばかりか、逆に蛇行を助長することが明らかとなった。そしてこの場合、従来技術とは逆方向、すなわち板材が蛇行した側の圧下位置を相対的に開放する圧下レベリング制御が有効であることが明らかとなった。
【0062】
この実験結果が普遍的なものかどうかを検討するため、上記現象のメカニズムについて考察した。
【0063】
従来は、板材の弾性伸びが、ピンチロールの圧下レベリング操作による蛇行制御の基本メカニズムと考えられてきた。しかしながら、このメカニズムだけでは上記した入・出側張力バランス変化による蛇行特性の反転現象を説明することはできない。そこで本発明者らは、この現象のメカニズムについて鋭意検討した結果、次のような思考過程を経て新たなピンチロール蛇行メカニズムを想到するに至った。
【0064】
従来の板材の弾性伸びによる蛇行メカニズムでは、ピンチロールから板材に作用するピンチ力、すなわち板厚方向の圧下力のみを考慮してきたが、この考え方だけでは入・出側張力バランスによる蛇行特性の反転現象を説明することはできない。そこで、入・出側張力バランスが、ピンチロールから板材に作用する力におよぼす影響について考察した。図12にはピンチロール近傍で板材に負荷される搬送方向の力を模式的に示している。図12では入側張力が出側張力より大きい場合を示しているが、この場合、板材に作用する搬送方向力の平衡条件によって、ピンチロールから板材に23a、23bの矢印で示したような搬送方向に向かう駆動力が作用していなければならない。言い換えると、ピンチロールから板材に駆動力23a、23bが作用しているので入側張力が出側張力より大きくなるのである。
【0065】
図13には図12を上から見た平面図を示しており、この例では板材~ピンチロール間荷重分布20は作業側が大きくなっていると想定している。この場合、ピンチロールは板材の作業側を駆動側より強く挟圧しているので、ピンチロールから板材に作用する駆動力は作業側駆動力23a-1が駆動側駆動力23b-2よりも大きくなると考えられる。その結果、ピンチロールから板材に対してモーメント25が作用し、板材の進行速度は作業側が駆動側より僅かに速くなり、板材は図13に示したように傾くことになる。このように入側上流で作業側に傾いた板材がピンチロールによって搬送方向に送られることによって板材は作業側に蛇行することになる。すなわち圧下レベリング操作によって、圧下を強くし荷重が大きくなる側に蛇行することを説明することができる。なお、ピンチロールから板材に作用する駆動力は、実際には、板材とピンチロールの接触領域にわたって分布する力であるが、ここでは説明を簡単にするため、作業側と駆動側の矢印で代表させて示した。
【0066】
図14には、図12とは逆に、出側張力が入側張力より大きい場合の板材に負荷される搬送方向の力を示している。この場合、板材に作用する搬送方向力の平衡条件によって、ピンチロールから板材に24a、24bの矢印で示したような搬送方向とは逆方向の制動力が作用していなければならない。言い換えれば、ピンチロールから板材に制動力24a、24bが作用しているので出側張力が入側張力より大きくなるのである。
【0067】
図15には図14を上から平面図を示しており、この例では板材~ピンチロール間荷重分布20は作業側が大きくなっていると仮定している。この場合、ピンチロールは板材の作業側を駆動側より強く挟圧しているので、ピンチロールから板材に作用する制動力は作業側制動力24a-1が駆動側制動力24b-2よりも大きくなると考えられる。その結果、ピンチロールから板材に対してモーメント25が作用し、板材の進行速度は作業側が駆動側より僅かに遅くなり、板材は図15に示したように傾くことになる。このように入側上流で駆動側に傾いた板材がピンチロールによって搬送方向に送られることによって板材は駆動側に蛇行することになる。すなわち圧下レベリング操作によって、圧下を強くし荷重が大きくなる側と反対側に蛇行することになる。この蛇行特性は板材の弾性伸びを考慮したメカニズムと定性的には同じである。
【0068】
以上の考察によって、ピンチロールから板材に作用する搬送方向力が駆動力であるか制動力であるかを把握することが蛇行制御にとって決定的に重要であることが判明した。さらに圧下レベリング操作による駆動力または制動力の左右バランスの変化を考慮することで上記実験事実の(B)、(C)を説明することができ、これらの現象が普遍的なものであることが確認できた。
【0069】
さらに圧下レベリング操作は、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布の左右バランスを変化させる手段として有効となるものであること、そして板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布の変化を介して、ピンチロールから板材に作用する駆動力または制動力の左右バランスを変化させることができ、これによって板材がピンチロールに進入する際の平面図上の傾きを変化させることができ、板材の蛇行制御が可能となることが判明した。
【0070】
上記のような発見と考察を経て本発明はなされたものであり、ピンチロールで板材を狭圧し搬送する板材の搬送装置を用い、板幅中心位置現在値を板幅中心位置目標値に近づけることを目標とする制御を、あらゆる状況に対応して良好に実施できる技術を開示している。特に、ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えているかどうかを判定するステップが必須であり、駆動力を与えていると判定された場合は、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に大きくする方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作、逆に、ピンチロールが板材に搬送方向に向かう駆動力を与えていないと判定された場合は、板材とピンチロール間に作用する荷重の板幅方向分布に関して、板幅中心位置現在値を基準として板幅中心位置目標値側の荷重を他方に比べて相対的に小さくする方向にピンチロールの作業側および駆動側の圧下装置を操作する。
【0071】
このような制御を実施することによって、あらゆる状態に対応した搬送装置の蛇行制御が実現できる。この蛇行制御を実現するためには、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力を高い信頼性で取得することが望ましい。以上に説明した搬送装置100は、板材2を挟む上下一対のピンチロール1a,1bと、ピンチロール1a,1bを保持するピンチロールハウジング16と、板材2の搬送方向および搬送方向の逆方向にピンチロールハウジング16を可動にする可動機構33と、搬送方向および搬送方向の逆方向へのピンチロールハウジング16の移動を規制する規制部37と、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力を検出する力測定装置17と、を備える。
【0072】
ピンチロールハウジング16は、ピンチロール1a,1bを保持しているので、搬送方向および搬送方向の逆方向にピンチロールハウジング16を可動にすることは、搬送方向および搬送方向の逆方向にピンチロール1a,1bを可動にすることに他ならない。また、搬送方向および搬送方向の逆方向へのピンチロールハウジング16の移動を規制することは、搬送方向および搬送方向の逆方向へのピンチロール11a,11bの移動を規制することに他ならない。このため、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力は、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力に密接に相関する。したがって、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力を検出する構成によれば、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力を高い信頼性で検出することができる。
【0073】
ここで、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力を検出し得る他の構成として、ピンチロールチョック15a,15bとピンチロールハウジング16との間に作用する力を検出する構成が挙げられるが、この場合は、ピンチロール1a,1bごとに力測定装置が必要となる。これに対し、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する力を検出する構成は、ピンチロール1a,1bに作用する力をまとめて検出することを可能にし、装置構成の簡素化に寄与する。
【0074】
可動機構33は、板材2から離れた回転軸線38まわりに回転可能にするようハウジングを保持してもよい。この場合、装置構成の更なる簡素化が可能である。
【0075】
回転軸線38は、上下一対のピンチロール1a,1bに平行であり、板材2との間にいずれか一方のピンチロール1a,1bを挟むように位置していてもよい。この場合、回転軸線38の回転に伴うピンチロール1a,1bの移動方向が、板材2の搬送方向に沿うので、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力をより高い信頼性で検出することができる。
【0076】
規制部37は、上下一対のピンチロール1a,1bの入側からピンチロールハウジング16に対向する入側対向部35と、上下一対のピンチロール1a,1bの出側からピンチロールハウジング16に対向する出側対向部36とを有し、力測定装置17は、入側対向部35とピンチロールハウジング16との間に作用する力を検出する入側センサ17aと、出側対向部36とピンチロールハウジング16との間に作用する力を検出する出側センサ17bとを有してもよい。この場合、ピンチロールハウジング16と規制部37との間に作用する搬送方向の力がより直接的に検出されるので、ピンチロール1a,1bおよび板材2の間に作用する搬送方向の力をより高い信頼性で検出することができる。
【0077】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1a、1b…ピンチロール、2…板材、3a、3b…圧下装置、4a、4b…荷重測定装置、5…板材の板端位置測定装置、6…電動機、7a、7b…スピンドル、8…ピニオンスタンド、9…ラインセンター、10…板幅中心位置現在値、11…板材の搬送方向、12…入側張力測定装置、13…出側張力測定装置、14a、14b…テンションロール、15a、15b…ピンチロールチョック(軸受箱)、16…ピンチロールハウジング、17a、17b、17c、17d…搬送方向力測定装置、18…フレーム、19…ピボット、20…板材~ピンチロール間荷重分布、21…入側張力、22…出側張力、23a、23b、23a-1、23a-2…ピンチロールから板材に作用する駆動力、24a、24b、24a-1、24a-2…ピンチロールから板材に作用する制動力、25…ピンチロールから板材に作用するモーメント、100…板材搬送装置、200…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15