(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用外装材および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/129 20210101AFI20220819BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220819BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20220819BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20220819BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20220819BHJP
【FI】
H01M50/129
B32B15/08 E
H01M50/105
H01M50/119
H01M50/121
(21)【出願番号】P 2018155961
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】ホウ ウェイ
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-228478(JP,A)
【文献】特開2018-62101(JP,A)
【文献】特開2002-271001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/145
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱融着性樹脂層と、これら両層間に配
置された金属箔層と、を含む蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層と前記耐熱性樹脂層とが外側接着剤層を介して接着され、前記金属箔層と
前記熱融着性樹脂層とが内側接着剤層を介して接着され、
前記外側接着剤層および前記内側接着剤層のうち少なくともいずれか一方の接着剤層が
、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化樹脂接着剤で形成され
、
前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部
が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有して
おり、
前記2種類の光重合開始剤のうち、1つの光重合開始剤の光吸収波長のピーク値が20
0nm以上300nm未満の範囲にあり、他の1の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値
が300nm以上~400nm以下の範囲にあることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記2種類の光重合開始剤のうちの1つの光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中での
含有率が0.2質量%~3質量%である請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項3】
前記2種類の光重合開始剤のうちの他の1の光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中で
の含有率が9質量%~20質量%である請求項2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記光硬化樹脂接着剤は、2種類以上の主剤を含有し、
前記2種類の光重合開始剤のうち、1つの光重合開始剤(X)と他の1の光重合開始剤
(Y)は、
第1型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
第2型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がカチオン系重合開始剤
第3型…(X)がカチオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
上記第1~3型の3つのタイプの組み合わせのうちのいずれか1つの組み合わせになっ
ている請求項1~
3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の外装材の成形体からなる蓄電デバイス用外装ケー
ス。
【請求項6】
蓄電デバイス本体部と、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の外装材及び/又は請求項
5に記載の外装ケースか
らなる外装部材と、を備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装部材で外装されていることを特徴とする蓄電デバ
イス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートフォン、タブレット等の携帯機器に使用される電池やコンデンサ、ハイブリッド自動車、電気自動車、風力発電、太陽光発電、夜間電気の蓄電用に使用される電池やコンデンサ等の蓄電デバイス用の外装材および蓄電デバイスに関する。
【0002】
なお、本願の特許請求の範囲および本明細書において、「光」の語は、可視光、紫外光のみならず、X線をも含む意味で用いるものとする。
【0003】
また、本願の特許請求の範囲および本明細書において、「光重合開始剤」の語は、光照射によってラジカル、カチオン、アニオンのいずれかを発生する化合物を意味する。
【0004】
また、本願の特許請求の範囲および本明細書において、「リン酸含有(メタ)アクリレート」の語は、「リン酸含有アクリレート又は/及びリン酸含有メタアクリレート」を意味するものである。
【背景技術】
【0005】
リチウムイオン2次電池は、例えばノートパソコン、ビデオカメラ、携帯電話、電気自動車等の電源として広く用いられている。このリチウムイオン2次電池としては、電池本体部(正極、負極及び電解質を含む本体部)の周囲をケースで包囲した構成のものが用いられている。このケース用材料(外装材)としては、耐熱性樹脂フィルムからなる外層、アルミニウム箔層、熱可塑性樹脂フィルムからなる内層がこの順に接着一体化された構成のものが公知である。
【0006】
例えば、樹脂フィルムからなる内層、第1接着剤層、金属層、第2接着剤層、及び樹脂フィルムからなる外層を備えた積層型包装材料であって、前記第1接着剤層および第2接着剤層の少なくとも一方が、側鎖に活性水素基を有する樹脂、多官能イソシアネート類、および多官能アミン化合物を必須成分とする接着剤組成物からなる包装材が知られている(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、接着剤として所望の接着力を得るためには50℃で7日間のヒートエージングを行う必要があり、このために生産性が悪いという問題があったし、ヒートエージングを行うための大型の設備を要するという問題もあった。更に、溶剤を使用するので、乾燥が不十分であると、溶剤が残留しやすく、十分な接着力が得られ難い。
【0008】
そこで、このような生産性等の問題を解決するものとして、UV硬化樹脂接着剤を使用することで硬化時間を大幅に短縮し、且つヒートエージング工程を設けなくて済む技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、上記後者のUV硬化樹脂接着剤を使用する技術では、均一な接着剤層を形成するべく溶剤に溶解させて塗工を行っており、従って接着剤の塗工後に溶媒を揮発させるための乾燥工程を要するものとなっていた。更に、接着剤の塗布面に樹脂フィルムを貼り付ける際にロール等による圧力が負荷されることで接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しが生じやすいという問題もあった。
【0011】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、生産性に優れ、接着剤のはみ出しが無く、かつ十分な高温ラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装材及び蓄電デバイス用外装ケースを提供することを目的とする。また、このような外装材または/および外装ケースで外装されてなる蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0013】
[1]外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としての熱融着性樹脂層と、これら両層間に配置された金属箔層と、を含む蓄電デバイス用外装材であって、
前記金属箔層と前記耐熱性樹脂層とが外側接着剤層を介して接着され、前記金属箔層と前記熱融着性樹脂層とが内側接着剤層を介して接着され、
前記外側接着剤層および前記内側接着剤層のうち少なくともいずれか一方の接着剤層が、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化樹脂接着剤で形成され、
前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有していることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【0014】
[2]前記2種類の光重合開始剤のうちの1つの光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中での含有率が0.2質量%~3質量%である前項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0015】
[3]前記2種類の光重合開始剤のうちの他の1の光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中での含有率が9質量%~20質量%である前項2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0016】
[4]前記2種類の光重合開始剤のうち、1つの光重合開始剤の光吸収波長のピーク値が200nm以上300nm未満の範囲にあり、他の1の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値が300nm以上~400nm以下の範囲にある前項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0017】
[5]前記光硬化樹脂接着剤は、2種類以上の主剤を含有し、
前記2種類の光重合開始剤のうち、1つの光重合開始剤(X)と他の1の光重合開始剤(Y)は、
第1型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
第2型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がカチオン系重合開始剤
第3型…(X)がカチオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
上記第1~3型の3つのタイプの組み合わせのうちのいずれか1つの組み合わせになっている前項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0018】
[6]前項1~5のいずれか1項に記載の外装材の成形体からなる蓄電デバイス用外装ケース。
【0019】
[7]蓄電デバイス本体部と、
前項1~5のいずれか1項に記載の外装材及び/又は請求項6に記載の外装ケースからなる外装部材と、を備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装部材で外装されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【0020】
[8]金属箔の一方の面に、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、
前記金属箔の前記塗布側から光を照射する工程と、
前記光照射後の前記塗布面に樹脂フィルムを重ね合わせて積層体を得る工程と、
前記積層体に対して前記樹脂フィルム側から光を照射する工程と、を含み、
前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有していることを特徴とする蓄電デバイス用外装材の製造方法。
【0021】
[9]金属箔の一方の面に、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布する第1塗布工程と、
前記金属箔の前記塗布側から光を照射する工程と、
前記光照射後の前記塗布面に第1樹脂フィルムを重ね合わせて第1積層体を得る工程と、
前記第1積層体に対して前記第1樹脂フィルム側から光を照射する工程と、を含み、
前記光照射後の第1積層体の金属箔の他方の面に、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、
前記第1積層体の塗布側から光を照射する工程と、
前記光照射後の第1積層体の前記塗布面に第2樹脂フィルムを重ね合わせて第2積層体を得る工程と、
前記第2積層体に対して前記第2樹脂フィルム側から光を照射する工程と、を含み、
前記第1塗布工程での前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有しており、
前記第2塗布工程での前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有していることを特徴とする蓄電デバイス用外装材の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
[1]の発明では、外側接着剤層および内側接着剤層のうち少なくともいずれか一方の接着剤層が、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化樹脂接着剤で形成され、前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有した構成であり、接着剤を段階的に光硬化させることにより光硬化樹脂接着剤層が形成されることから、その段階により接着剤の粘度を変えることができるため、例えば既に第1の光照射がなされた接着剤(層)に外側層又は内側層を貼り合わせる(重ね合わせる)際の接着剤のはみ出しが無く、また貼り合わせ後には十分なラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装材を提供できる。また、無溶剤で塗工可能であり、残留溶剤による接着性能の低下もない。
【0023】
[2]の発明では、前記2種類の光重合開始剤のうちの1つの光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中での含有率が0.2質量%~3質量%の範囲であり、このような低量の含有率の光重合開始剤に、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域の一部又は全部を含む光を最初に照射することで一部の主剤が重合して適度な粘度(ゲル体)になり、樹脂フィルムを貼り付ける際のロール等による圧力が負荷されても接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなると共に均一な厚さの接着剤層が形成される。
【0024】
[3]の発明では、他の1の光重合開始剤の前記光硬化樹脂接着剤中での含有率が9質量%~20質量%の範囲であるので、次の光照射で十分に光硬化させることができて、十分な接着強度を確保できる。
【0025】
[4]の発明では、200nm~400nmは紫外光領域であり、このため可視光による硬化反応(光重合反応)を生じないので、一方の波長範囲の光でゲル化させて、他方の波長範囲の光で十分な硬化を行うことが容易にできて、接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなると共に十分な接着強度を確保できる。
【0026】
[5]の発明では、異なる重合系の組み合わせ(例えばカチオン系の重合開始剤と主剤/ラジカル系の重合開始剤と主剤)で構成されているから、一方の重合開始剤(例えばラジカル系)に対してその重合系の主剤(例えばラジカル系)のみが反応するので、一方の重合開始剤の光吸収波長を含む光(であって且つ他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域の光)を最初に照射することで一部の主剤が重合して適度な粘度(ゲル体)になり、樹脂フィルムを貼り付ける際のロール等による圧力が負荷されても接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなると共に均一な厚さの接着剤層が形成される。他方の重合開始剤(例えばカチオン系)に対する光照射によりその重合系の主剤(例えばカチオン系)が反応するので、それぞれの主剤を別々に重合させることができ、その配合比により各工程で接着剤を所望の硬度にすることができる。
【0027】
[6]の発明では、生産性に優れ、接着剤のはみ出しが無く、十分なラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装ケースを提供できる。
【0028】
[7]の発明では、生産性に優れ、接着剤のはみ出しが無く、十分なラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装材で外装された蓄電デバイスを提供できる。
【0029】
[8]の発明では、少なくとも一方の接着剤層(内側接着剤層又は外側接着剤層)を光照射により形成できて、エージング工程を要しないので、生産性を向上できる。更に、樹脂フィルムを重ね合わせる前に光硬化性樹脂組成物の予備硬化を行うことで適度な粘度(ゲル体)になるので、樹脂フィルムを重ね合わせる際のロール等による圧力が負荷されても接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがない。更に、このように光硬化を2段階に分けて行うことで硬化ひずみも緩和され、その結果、接着強度も向上する。即ち、生産性に優れ、接着剤のはみ出しが無く、十分な高温ラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装材を製造できる。
【0030】
[9]の発明では、光照射により内側接着剤層及び外側接着剤層を形成できるので、生産性をより一層向上できると共に、接着剤のはみ出しが無く、十分な高温ラミネート強度の得られる蓄電デバイス用外装材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る蓄電デバイス用外装材の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る蓄電デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【
図3】
図2の蓄電デバイスを構成する外装材(平面状のもの)、蓄電デバイス本体部及び外装ケース(立体形状に成形された成形体)をヒートシールする前の分離した状態で示す斜視図である。
【
図4】2種類の光重合開始剤の光吸収スペクトルと、第1回目の照射光の波長、第2回目の照射光の波長との相互関係の一例を示す図である。
【
図6】上記相互関係のさらに他の例を示す図である。
【
図7】上記相互関係のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る蓄電デバイス用外装材1の一実施形態を
図1に示す。この外装材1は、リチウムイオン2次電池等の電池用外装材として用いられるものである。前記外装材1は、成形を施されることなくそのまま外装材1として使用されてもよいし(
図3参照)、例えば、深絞り成形、張り出し成形等の成形に供されて成形ケース10として使用されてもよい(
図3参照)。
【0033】
前記蓄電デバイス用外装材1は、金属箔層4の一方の面(上面)に外側接着剤層(第1接着剤層)5を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されると共に、前記金属箔層4の他方の面(下面)に内側接着剤層(第2接着剤層)6を介して熱融着性樹脂層(内側層)3が積層一体化された構成である(
図1参照)。
【0034】
本発明において、前記外側層2は、耐熱性樹脂層で形成されている。前記耐熱性樹脂層2を構成する耐熱性樹脂としては、外装材1をヒートシールする際のヒートシール温度で溶融しない耐熱性樹脂を用いる。前記耐熱性樹脂としては、熱融着性樹脂層3を構成する熱融着性樹脂の融点より10℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いるのが好ましく、熱融着性樹脂の融点より20℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0035】
前記耐熱性樹脂層(外側層)2は、外装材1として良好な成形性を確保する役割を主に担う部材である、即ち成形時のアルミニウム箔のネッキングによる破断を防止する役割を主に担うものである。
【0036】
前記耐熱性樹脂層(外側層)2としては、特に限定されるものではないが、例えば、延伸ナイロンフィルム等の延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリエステルフィルム等が挙げられる。中でも、前記耐熱性樹脂層2としては、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムであって、いずれも熱水収縮率が1.5%~12%であるものを用いるのが特に好ましい。また、前記耐熱性樹脂層2としては、同時2軸延伸法により延伸された耐熱性樹脂2軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。前記ナイロンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロン、6,6ナイロン、MXDナイロン等が挙げられる。なお、前記耐熱性樹脂フィルム層2は、単層(単一の延伸フィルム)で形成されていても良いし、或いは、例えば延伸ポリエステルフィルム/延伸ポリアミドフィルムからなる複層(延伸PETフィルム/延伸ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていても良い。
【0037】
前記耐熱性樹脂層2の厚さは、10μm~25μmであるのが好ましい。上記好適下限値以上に設定することで外装材として十分な強度を確保できると共に、上記好適上限値以下に設定することで張り出し成形時や絞り成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。
【0038】
本発明において、前記金属箔層4は、外装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記金属箔層4としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、銅箔、鉄箔等が挙げられ、アルミニウム箔が一般的に用いられる。前記金属箔層4の厚さは、10μm~80μmであるのが好ましい。10μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、80μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。中でも、前記金属箔層4の厚さは、10μm~40μmであるのが特に好ましい。
【0039】
前記金属箔層4は、少なくとも内側の面(内側接着剤層6側の面)に、化成処理が施されているのが好ましい。このような化成処理が施されていることで内容物(電池の電解液等)による金属箔表面の腐食を十分に防止できる。例えば次のような処理をすることによって金属箔に化成処理を施す。即ち、例えば、脱脂処理を行った金属箔の表面に、
1)リン酸と、
クロム酸と、
フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
2)リン酸と、
アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、
クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
3)リン酸と、
アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂及びフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、
クロム酸及びクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、
フッ化物の金属塩及びフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
上記1)~3)のうちのいずれかの水溶液を塗工した後、乾燥することにより、化成処理を施す。
【0040】
前記化成皮膜は、クロム付着量(片面当たり)として0.1mg/m2~50mg/m2が好ましく、特に2mg/m2~20mg/m2が好ましい。
【0041】
前記熱融着性樹脂層(内側層)3は、リチウムイオン二次電池等で用いられる腐食性の強い電解液等に対しても優れた耐薬品性を具備させるとともに、外装材にヒートシール性を付与する役割を担うものである。
【0042】
前記熱融着性樹脂層3を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレンアクリル酸エチル(EEA)、エチレンアクリル酸メチル(EAA)、エチレンメタクリル酸メチル樹脂(EMMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。
【0043】
前記熱融着性樹脂層3の厚さは、10μm~100μmに設定されるのが好ましい。10μm以上とすることで十分なヒートシール強度を確保できるとともに、100μm以下に設定することで薄膜化、軽量化に資する。中でも、前記熱融着性樹脂層3の厚さは、10μm~80μmに設定されるのがより好ましい。前記熱融着性樹脂層3は、熱融着性樹脂未延伸フィルム層で形成されているのが好ましく、前記熱融着性樹脂層3は、単層であっても良いし、複層であっても良い。
【0044】
本発明では、前記外側接着剤層5および前記内側接着剤層6のうち少なくともいずれか一方の接着剤層が、光硬化樹脂接着剤(光硬化性樹脂組成物の硬化膜)で形成される。前記光硬化樹脂接着剤としては、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤と、を含有する光硬化樹脂接着剤が用いられる。前記2種類の光重合開始剤のうち、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有している。
【0045】
前記主剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリレート樹脂、ビニルエーテル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。前記アクリレート樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂及びポリエステルアクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。硬化前の前記主剤の粘度(25℃)は、500cP~10000cPであるのが好ましい。前記粘度(25℃)は、JIS Z8803-2011に準拠して英弘精機株式会社製デジタル粘度計DV-Eで測定される粘度である。前記光硬化樹脂接着剤中の主剤の含有率は70質量%~90質量%であるのが好ましく、この場合には接着強度をさらに向上させることができる。
【0046】
前記2種類の光重合開始剤(一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有している関係にある2種類の光重合開始剤)としては、一方の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値と、他方の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値との差の絶対値は、50nm以上あるのが好ましく、100nm以上あるのがより好ましい。
【0047】
前記2種類の光重合開始剤(一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有している関係にある2種類の光重合開始剤)としては、1つの光重合開始剤の光吸収波長のピーク値が200nm以上300nm未満の範囲にあり、他の1の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値が300nm以上~400nm以下の範囲にあるものを用いるのが好ましい。この場合には、200nm~400nmは紫外光領域であり、このため可視光による硬化反応(光重合反応)を生じないので、一方の波長範囲の光でゲル化させて、他方の波長範囲の光で十分な硬化を行うことが容易にできて、接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなると共に十分な接着強度を確保できる。このとき、一方の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値と、他方の光重合開始剤の光吸収波長のピーク値との差の絶対値は、50nm~150nmであるのが好ましい。
【0048】
前記光重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラジカル系重合開始剤、カチオン系重合開始剤、アニオン系重合開始剤等が挙げられる。前記ラジカル系重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインアルキルエーテル(ベンゾエチルエーテル、ベンゾブチルエーテル等)、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0049】
前記カチオン系重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、オニウム塩等が挙げられる。前記オニウム塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ブロモニウム塩、ジアゾニウム塩、クロロニウム塩等が挙げられる。
【0050】
前記スルホニウム塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4’-ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ビス〔ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4’-ビス〔ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロホスフェート、7-〔ジ(p-トルイル)スルホニオ〕-2-イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート、7-〔ジ(p-トルイル)スルホニオ〕-2-イソプロピルチオキサントンテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-フェニルカルボニル-4’-ジフェニルスルホニオ-ジフェニルスルフィド-ヘキサフルオロホスフェート、4-(p-ter-ブチルフェニルカルボニル)-4’-ジフェニルスルホニオ-ジフェニルスルフィド-ヘキサフルオロアンチモネート、4-(p-ter-ブチルフェニルカルボニル)-4’-ジ(p-トルイル)スルホニオ-ジフェニルスルフィド-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムブロミド等が挙げられる。前記ヨードニウム塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4-ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0051】
前記アニオン系重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトフェノンo-ベンゾイルオキシム、シクロヘキシルカルバミン酸1,2-ビス(4-メトキシフェニル)-2-オキソエチル、ニフェジピン、シクロヘキシルカルバミン酸2-ニトロベンジル、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等が挙げられる。
【0052】
前記光硬化樹脂接着剤は、前記主剤および前記光重合開始剤に加えて、さらに、シランカップリング剤、酸無水物およびリン酸含有(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有するのが好ましい。この場合には、金属箔4と樹脂フィルム2、3との接合力(接着強度)を向上させることができる。
【0053】
前記シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、前記シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン等の炭素-炭素二重結合を有するシランカップリング剤を用いるのが好ましく、この場合には特にラジカル重合反応を利用する接着剤との結合を強化させることができる(接着剤層5、6の接着強度を向上できる)。
【0054】
前記酸無水物としては、特に限定されるものではないが、例えば、無水マレイン酸、メチル無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水ハイミック酸、無水メチルハイミック酸等が挙げられる。中でも、前記酸無水物としては、無水マレイン酸等の炭素-炭素二重結合を有する酸無水物を用いるのが好ましく、このような二重結合を有する酸無水物によりラジカル重合反応をより促進させることができる。
【0055】
前記リン酸含有(メタ)アクリレート(モノマー)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等のモノマーが挙げられる。
【0056】
前記外側接着剤層5および前記内側接着剤層6の厚さ(乾燥後の厚さ)は、1μm~6μmに設定されるのが好ましい。
【0057】
本発明の蓄電デバイス用外装材1を成形(深絞り成形、張り出し成形等)することにより、蓄電デバイス用外装ケース10を得ることができる(
図3参照)。なお、本発明の外装材1は、成形に供されずにそのまま使用することもできる(
図3参照)。
【0058】
本発明の外装材1を用いて構成された蓄電デバイス30の一実施形態を
図2に示す。この蓄電デバイス30は、リチウムイオン2次電池である。本実施形態では、
図2、3に示すように、外装材1を成形して得られたケース10と、成形に供されなかった平面状の外装材1とにより、外装部材15が構成されている。しかして、本発明の外装材1を成形して得られた成形ケース10の収容凹部内に、略直方体形状の蓄電デバイス本体部(電気化学素子等)31が収容され、該蓄電デバイス本体部31の上に、本発明の外装材1が成形されることなくその内側層3側を内方(下側)にして配置され、該平面状外装材1の内側層3の周縁部と、前記外装ケース10のフランジ部(封止用周縁部)29の内側層3とがヒートシールによりシール接合されて封止されることによって、本発明の蓄電デバイス30が構成されている(
図2、3参照)。なお、前記外装ケース10の収容凹部の内側の表面は、内側層(熱融着性樹脂層)3になっており、収容凹部の外面が外側層(耐熱性樹脂層)2になっている(
図3参照)。
【0059】
図2において、39は、前記外装材1の周縁部と、前記外装ケース10のフランジ部(封止用周縁部)29とが接合(融着)されたヒートシール部である。なお、前記蓄電デバイス30において、蓄電デバイス本体部31に接続されたタブリードの先端部が、外装部材15の外部に導出されているが、図示は省略している。
【0060】
前記蓄電デバイス本体部31としては、特に限定されるものではないが、例えば、電池本体部、キャパシタ本体部、コンデンサ本体部等が挙げられる。
【0061】
前記ヒートシール部39の幅は、0.5mm以上に設定するのが好ましい。0.5mm以上とすることで封止を確実に行うことができる。中でも、前記ヒートシール部39の幅は、3mm~15mmに設定するのが好ましい。
【0062】
上記実施形態では、外装部材15が、外装材1を成形して得られた外装ケース10と、平面状の外装材1と、からなる構成であったが(
図2、3参照)、特にこのような組み合わせに限定されるものではなく、例えば、外装部材15が、一対の外装材1からなる構成であってもよいし、或いは、一対の外装ケース10からなる構成であってもよい。
【0063】
次に、本発明に係る、蓄電デバイス用外装材1の製造方法の好適例について説明する。まず、金属箔4の一方の面に、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤(但し、この2種類の光重合開始剤は、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有した構成である)と、を含有する前記光硬化性樹脂組成物を塗布する。次いで、前記金属箔4に対してその組成物塗布側から光を照射する。この時、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯における「他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない」波長の光を照射するのが好ましい。次に、前記光照射後の前記組成物塗布面に耐熱性樹脂フィルム2を重ね合わせて第1積層体を得る。次いで、前記第1積層体に対して前記耐熱性樹脂フィルム2側から光を照射して、前記光硬化性樹脂組成物を十分に硬化させて外側接着剤層5を形成する。この時、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部の波長の光を包含する光を照射するのが好ましい。
【0064】
次に、前記光照射後の第1積層体の金属箔の他方の面に、主剤と、少なくとも2種類の光重合開始剤(但し、この2種類の光重合開始剤は、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部又は全部が、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない波長領域を有した構成である)と、を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布した後、前記第1積層体に対してその組成物塗布側から光を照射する。この時、一方の光重合開始剤の光吸収波長帯における「他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない」波長の光を照射するのが好ましい。次に、前記光照射後の前記組成物塗布面に熱融着性樹脂フィルム3を重ね合わせて第2積層体を得る。次いで、前記第2積層体に対して前記熱融着性樹脂フィルム3側から光を照射して、前記光硬化性樹脂組成物を十分に硬化させて内側接着剤層6を形成する。この時、他方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部の波長の光を包含する光を照射するのが好ましい。
【0065】
前記光としては、特に限定されるものではないが、例えば、紫外光、可視光、X線等が挙げられる。
【0066】
上記実施形態に係る製造方法では、先に耐熱性樹脂フィルム2を積層した後に、熱融着性樹脂フィルム3を積層する順序を採用しているが、この順序を逆にしてもよい。即ち、先に熱融着性樹脂フィルム3を積層した後に、耐熱性樹脂フィルム2を積層するようにしてもよい。
【0067】
上記製造方法において、前記2種類の光重合開始剤のうちの1つの光重合開始剤の前記光硬化性樹脂組成物中での含有率は0.2質量%~3質量%の範囲であるのが好ましい。このような範囲にあることで、低量の含有率の光重合開始剤の光吸収波長帯における「他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない」波長の光を最初に照射することで一部の主剤が重合して適度な粘度(ゲル体)になり、次の工程で樹脂フィルムを貼り付ける際のロール等による圧力が負荷されても接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなる。
【0068】
また、前記2種類の光重合開始剤のうちの他の1の光重合開始剤の前記光硬化性樹脂組成物中での含有率は9質量%~20質量%の範囲であるのが好ましい。このような範囲にあることで、次の工程での光照射(他の1の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部の波長の光を含む光の照射)により十分に光硬化させることができて、十分な接着強度を確保できる。
【0069】
また、前記光硬化性樹脂組成物は、重合系の異なる(例えば一方がラジカル重合系で、他方がカチオン重合系)2種類以上の主剤を含有し、前記2種類の光重合開始剤のうち、1つの光重合開始剤(X)と他の1の光重合開始剤(Y)は、
第1型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
第2型…(X)がアニオン系重合開始剤/(Y)がカチオン系重合開始剤
第3型…(X)がカチオン系重合開始剤/(Y)がラジカル系重合開始剤
上記第1~3型の3つのタイプの組み合わせのうちのいずれか1つの組み合わせになっている構成であるのが好ましい。この場合には、一方の重合開始剤(例えばラジカル系)に対してその重合系の主剤(例えばラジカル系)のみが重合するので、一方の重合開始剤の光吸収波長帯における「他方の光重合開始剤の光吸収波長帯と重ならない」波長の光を最初に照射することで一部の主剤が重合して適度な粘度(ゲル体)になり、樹脂フィルムを貼り付ける際のロール等による圧力が負荷されても接着剤(光硬化樹脂接着剤)のはみ出しがないものとなると共に均一な厚さの接着剤層が形成される。他方の重合開始剤(例えばカチオン系)に対する光照射(他方の光重合開始剤の光吸収波長帯の一部の波長の光を含む光の照射)によりその重合系の主剤(例えばカチオン系)が重合するので、十分に光硬化させることができて、十分な接着強度を確保できる。
【0070】
本発明における、前記2種類の光重合開始剤の光吸収スペクトルと、第1回目の照射光の波長、第2回目の照射光の波長との相互関係の例を
図4~
図7に示す。
図4~6の例では、光重合開始剤Aは、光吸収波長帯の一部(低波長側)において、他方の光重合開始剤Bの光吸収波長帯と「重ならない波長領域」を有している。そして、第1回目の照射光として、前記「重ならない波長領域」における一部の波長帯の光を照射する。また、第2回目の照射光として、光重合開始剤Bの光吸収スペクトルのピーク波長に近い波長の光を照射する。
【0071】
また、
図7の例では、光重合開始剤A、Bは、いずれも2つの光吸収ピークを有しており、光重合開始剤Bは、光吸収波長帯の一部(高波長側)において、他方の光重合開始剤Aの光吸収波長帯と「重ならない波長領域」を有している。そして、第1回目の照射光として、前記「重ならない波長領域」における一部の波長帯の光を照射する。また、第2回目の照射光として、光重合開始剤Bの光吸収スペクトルの2つのピーク波長のうち低波長側のピーク波長に近い波長(且つ光重合開始剤Bの光吸収波長帯から低波長側に逸脱した波長)の光を照射する(
図7参照)。
【0072】
上記
図4~
図7において、第2回目の照射光を「第1回目の照射光」とし、第1回目の照射光を「第2回目の照射光」としてもよく、上記同様の効果が得られる。なお、上記
図4~
図7に示した例は、その対応関係の一例を示したものに過ぎず、特にこのような関係性のものに限定されるものではない。
【0073】
なお、上記製造方法は、好適例を示したものに過ぎず、本発明の蓄電デバイス用外装材1は、上記製造方法で製造されたものに特に限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0075】
[使用した重合開始剤]
イソプロピルチオキサントン…ラジカル系光重合開始剤、光吸収波長帯:320nm~460nm
トリアリールスルホニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート…カチオン系光重合開始剤、光吸収波長帯:350nm~420nm
ベンゾフェノン…ラジカル系光重合開始剤、光吸収波長帯:250nm~360nm
フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム…ラジカル系光重合開始剤、光吸収波長帯:350nm~500nm
ベンゾインイソプロピルエーテル…ラジカル系光重合開始剤、光吸収波長帯:250nm~360nm
<実施例1>
厚さ35μmのアルミニウム箔(JIS H4160に規定されるA8079のアルミニウム箔)4の両面に、リン酸、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、180℃で乾燥を行って、化成皮膜を形成した。この化成皮膜のクロム付着量は片面当たり10mg/m2であった。
【0076】
次に、前記化成処理済みアルミニウム箔4の一方の面に、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、イソプロピルチオキサントン0.5質量部、ベンゾフェノン7.5質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物(外側接着剤)を乾燥後の質量が4g/m2になるように塗布し、この塗布面に、波長405nmの光を積算光量が300mJ/cm2となるように照射(1回目の光照射)して光硬化性樹脂組成物の予備硬化を行った。次に、前記予備硬化後の前記塗布面に厚さが15μmの2軸延伸ポリアミドフィルム2を貼り合わせた。次いで、貼合後の積層体にポリアミドフィルム2側から波長254nmの光を積算光量が300mJ/cm2となるように照射(2回目の光照射)して光硬化性樹脂組成物を十分に硬化させて第1積層体を得た。
【0077】
次に、前記第1積層体におけるアルミニウム箔4の他方の面に、酸変性ポリオレフィン接着剤(熱硬化型内側接着剤)を塗布し、乾燥を行った後、該塗布面に厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム3を貼り合わせて第2積層体を得た後、この第2積層体を40℃環境下に9日間静置して加熱エージング処理を行って熱硬化型内側接着剤を硬化させて内側接着剤層6を形成せしめて、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0078】
<実施例2>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、イソプロピルチオキサントン2.0質量部、ベンゾフェノン6.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0079】
<実施例3>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、イソプロピルチオキサントン0.1質量部、ベンゾフェノン7.9質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0080】
<実施例4>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、イソプロピルチオキサントン3.5質量部、ベンゾフェノン4.5質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0081】
<実施例5>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂80.0質量部、ビニルエーテル樹脂10.0質量部、トリアリールスルホニウムテトラキス-(ペンタフルオロフェニル)ボレート6.0質量部、ベンゾフェノン2.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用い、1回目の光照射は、波長254nmの光を積算光量が300mJ/cm
2となるように照射するものとし、2回目の光照射は、波長365nmの光を積算光量が300mJ/cm
2となるように照射するものとした以外は、実施例1と同様にして、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0082】
<実施例6>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、ベンゾフェノン6.0質量部、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム2.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用い、1回目の光照射は、波長500nmの光を積算光量が300mJ/cm
2となるように照射するものとし、2回目の光照射は、波長254nmの光を積算光量が300mJ/cm
2となるように照射するものとした以外は、実施例1と同様にして、
図1に示す構成の蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0083】
<比較例1>
外側接着剤として、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、ベンゾフェノン6.0質量部、ベンゾインイソプロピルエーテル2.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物を用いた以外は、実施例5と同様にして、蓄電デバイス用外装材を得た。
【0084】
<比較例2>
実施例1と同様にして化成処理済みアルミニウム箔を得た。次に、前記化成処理済みアルミニウム箔4の一方の面に、アクリロイル基を2つ有するウレタンアクリレート樹脂90.0質量部、ベンゾフェノン8.0質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性モノマー)1.5質量部、シランカップリング剤0.5質量部を含有する光硬化性樹脂組成物(外側接着剤)を乾燥後の質量が4g/m2になるように塗布した後、この塗布面に(光照射を行うことなく)厚さが15μmの2軸延伸ポリアミドフィルム2を貼り合わせた。次いで、貼合後の積層体にポリアミドフィルム2側から波長254nmの光を積算光量が350mJ/cm2となるように照射して光硬化性樹脂組成物を十分に硬化させて第1積層体を得た。
【0085】
次に、前記第1積層体におけるアルミニウム箔4の他方の面に、酸変性ポリオレフィン接着剤(熱硬化型内側接着剤)を塗布し、乾燥を行った後、該塗布面に厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム3を貼り合わせて第2積層体を得た後、この第2積層体を40℃環境下に9日間静置して加熱エージング処理を行って熱硬化型内側接着剤を硬化させて内側接着剤層6を形成せしめて、蓄電デバイス用外装材を得た。
【0086】
【0087】
【0088】
上記のようにして得られた各蓄電デバイス用外装材について、下記測定法、評価法に基づいて評価を行った。
【0089】
<ラミネート強度評価法>
得られた外装材から幅15mm×長さ150mmの試験体を切り出し、この試験体の長さ方向の一端から10mm内方に入った位置までの領域においてアルミニウム箔4と耐熱性樹脂層2の間で剥離せしめた。
【0090】
JIS K6854-3(1999年)に準拠し、島津製作所製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用して,一方のチャックでアルミニウム箔を含む積層体を挟着固定し、他方のチャックで前記剥離した耐熱性樹脂層を挟着固定し、この状態で引張速度100mm/分でT型剥離させた時の剥離強度を測定し、この測定値が安定したところの値を「ラミネート強度(N/15mm幅)」とした。測定結果を下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…ラミネート強度が「1.5N/15mm幅」以上であった(合格)
「○」…ラミネート強度が「1.0N/15mm幅」以上「1.5N/15mm幅」未満であった(合格)
「×」…ラミネート強度が「1.0N/15mm幅」未満であった(不合格)。
【0091】
<塗工性評価法>
光硬化性樹脂組成物の塗工性を評価した。具体的には、光硬化性樹脂組成物の塗膜の均一性を調べ、塗膜厚さのバラツキを測定し、下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「◎」…塗膜に無塗布箇所がなく、塗膜の均一性に優れ、塗膜厚さのバラツキが±20%以下であった
「○」…塗膜に無塗布箇所がなく、塗膜の均一性が良好であり、塗膜厚さのバラツキが±20%を超えて±30%以下であった
「×」…塗膜に無塗布箇所がある、又は塗膜厚さのバラツキが±30%を超えていた。
【0092】
<はみ出し防止性評価法>
得られた蓄電デバイス用外装材において、光硬化性樹脂組成物の硬化物が外装材の縁部から外に出ているか否かを調べて、下記判定基準に基づいて評価した。
(判定基準)
「○」…樹脂組成物の硬化物の外装材縁部から外方へのはみ出しは認められなかった(外観良好であった)。
「×」…樹脂組成物の硬化物の外装材縁部から外方へのはみ出しが認められた(外観不良であった)。
【0093】
表から明らかなように、本発明の実施例1~6の蓄電デバイス用外装材は、外側接着剤の乾燥工程が無くて生産性に優れると共に、ラミネート強度が十分に得られ、塗工性も良好であった。
【0094】
これに対し、本発明の特許請求の範囲の規定範囲を逸脱した比較例1、2では、少なくともいずれかの評価が「×」(劣っている)の評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る蓄電デバイス用外装材は、具体例として、例えば、
・リチウム2次電池(リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等)等の蓄電デバイス
・リチウムイオンキャパシタ
・電気2重層コンデンサ
等の各種蓄電デバイスの外装材として用いられる。また、本発明に係る蓄電デバイスは、上記例示した蓄電デバイスの他、全固体電池も含む。
【符号の説明】
【0096】
1…蓄電デバイス用外装材
2…耐熱性樹脂層(外側層)
3…熱融着性樹脂層(内側層)
4…金属箔層
5…外側接着剤層
6…内側接着剤層
10…外装ケース(成形ケース)
15…外装部材
30…蓄電デバイス
31…蓄電デバイス本体部