(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した改良型沸騰床リアクター
(51)【国際特許分類】
C10G 47/30 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
C10G47/30
(21)【出願番号】P 2018515014
(86)(22)【出願日】2016-09-12
(86)【国際出願番号】 US2016051318
(87)【国際公開番号】W WO2017053117
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-09-05
(32)【優先日】2015-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518068774
【氏名又は名称】ハイドロカーボン テクノロジー アンド イノベーション、エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Hydrocarbon Technology & Innovation,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】マウンテンランド、デイビッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン、ブレット エム.
(72)【発明者】
【氏名】ルーター、マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】スミス、リー
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527452(JP,A)
【文献】特表2007-535604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるために、1またはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化システムを改良する方法であって、
不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを初期操作し、初期リアクター酷度およびプラスチック二次加工製品の初期生産速度を含む初期条件で、重油を水素化する工程であって、前記初期リアクター酷度が前記沸騰床リアクターの初期操作温度と、重油の初期
部分転化と、および重油の初期処理量とを含む、前記重油を水素化する工程と、
その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程と、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも、リアクター酷度が高く、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で、前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作し、重油を水素化する工程であって、前記より高いリアクター酷度が、
前記重油の処理量を増加させ、および前記沸騰床リアクターの前記操作温度を上昇させるが、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも前記重油の
部分転化が維持され、または増加すること、
前記重油の
部分転化を増加させ、および前記沸騰床リアクターの前記操作温度を上昇させるが、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも前記重油の処理量が維持され、または増加すること、または
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも、前記重油の
部分転化を増加させ、および前記重油の処理量を増加させ、および前記沸騰床リアクターの前記操作温度を上昇させること、によって特徴づけられる、前記重油を水素化する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記重油は、重質原油、油砂瀝青、精製プロセスで残った残油、少なくとも343℃(650°F)の公称沸点を有する大気塔底部、少なくとも524℃(975°F)の公称沸点を有する真空塔底部、熱分離器の残油、残油ピッチ、溶媒抽出後の残油、または減圧残油のうちの少なくとも1つを有する、方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、前記増加した重油の処理量が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記重油の初期処理量よりも少なくとも2.5%高い、方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記増加した重油の処理量が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記重油の初期処理量よりも少なくとも5%高い、方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の方法において、前記増加した重油の処理量が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記重油の初期処理量よりも少なくとも10%高い、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法において、前記増加した重油の
部分転化が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少なくとも2.5%高い、方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、前記増加した重油の
部分転化が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少なくとも5%高い、方法。
【請求項8】
請求項6記載の方法において、前記増加した重油の
部分転化が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少なくとも10%高い、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法において、前記上昇した操作温度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記初期操作温度よりも少なくとも2.5℃高い、方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、前記上昇した操作温度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記初期操作温度よりも少なくとも5℃高い、方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法において、前記上昇した操作温度が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記初期操作温度よりも少なくとも7.5℃高い、方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において、前記リアクター酷度が高く、かつプラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作すると、装置汚染率が前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合の前記装置汚染率と同等またはそれ未満となる、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作した場合の前記装置汚染率が、
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少ない、洗浄のための熱交換器運転停止の頻度;
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少ない、洗浄のための大気および/または真空蒸留塔運転停止の頻度;
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少ない、フィルターおよびろ過器の交換または洗浄の頻度;
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも少ない、予備熱交換器への切り替えの頻度;
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合と比較した、1またはそれ以上の熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択された装置における表面温度の低下率の抑制;
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合と比較した、煙管金属温度の上昇率の抑制;または
-前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合と比較した、熱交換器の計算された抵抗汚染因子の上昇率の抑制
のうちの少なくとも1つをもたらす、方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法において、前記リアクター酷度が高く、かつ前記プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作すると、沈降物生成率が前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合と同等またはそれ未満となり、前記沈降物生成率が
-大気塔底部生成物中の沈降物の測定;
-真空塔底部生成物中の沈降物の測定;
-熱低圧分離器の生成物中の沈降物の測定;または
-カッターストックの追加前または追加後の燃料油生成物の沈降物の測定
のうちの少なくとも1つに基づく、方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項の記載の方法において、前記リアクター酷度が高く、かつ前記プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作すると、生成物沈降物濃度が前記初期条件で操作した場合と同等またはそれ未満となり、前記生成物沈降物濃度が、
-大気塔底部生成物中の沈降物の測定;
-真空塔底部生成物中の沈降物の測定;
-熱低圧分離器の生成物中の沈降物の測定;または
-1またはそれ以上のカッターストックの追加前または追加後の燃料油生成物の沈降物の測定
のうちの少なくとも1つに基づく、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法において、前記分散金属硫化物触媒粒子が、1μm未満の大きさである、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法において、前記分散金属硫化物触媒粒子が、触媒前駆体から前記重油内でその場で形成される、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記その場の分散金属硫化物触媒粒子を形成する工程が、前記触媒前駆体と希釈剤炭化水素とを混合し、希釈前駆体混合物を形成する工程と、前記希釈前駆体混合物と前記重油とを混合し、調製重油を形成する工程と、前記調製重油を加熱し、前記触媒前駆体を分解して前記分散金属硫化物触媒粒子をその場で形成する工程とを有する、方法。
【請求項19】
重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるために、1またはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化システムを改良する方法であって、
不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを初期操作し、初期リアクター酷度、プラスチック二次加工製品の初期生産速度、および初期汚染速度、および/または沈降物生成を含む初期条件で重油を水素化する工程であって、前記初期リアクター酷度が前記沸騰床リアクターの初期操作温度と、重油の初期
部分転化と、および重油の初期処理量とを含む、重油を水素化する工程と、
その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程と、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で、汚染率および/または沈降物生成率を上昇させずに、前記重油の初期処理量よりも少なくとも2.5%高い重油の処理量および前記初期操作温度よりも少なくとも2.5℃高い操作温度によって特徴づけられるより高いリアクター酷度で、前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作し、重油を水素化する工程と
を有する方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記改良した沸騰床リアクターを操作する工程が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合の前記重油の初期転化と比較して前記重油の
部分転化が維持され、または増加する工程を含む、方法。
【請求項21】
重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるために、1またはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化システムを改良する方法であって、
不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを初期操作し、初期リアクター酷度、プラスチック二次加工製品の初期生産速度、および初期汚染速度、および/または沈降物生成を含む初期条件で重油を水素化する工程であって、前記初期リアクター酷度が前記沸騰床リアクターの初期操作温度と、重油の初期
部分転化と、および重油の初期処理量とを含む、前記重油を水素化する工程と、
その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程と、
前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作した場合よりも、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で、汚染率および/または沈降物生成率を上昇させずに、前記重油の初期
部分転化よりも少なくとも2.5%高い重油の
部分転化および前記初期操作温度よりも少なくとも2.5℃高い操作温度によって特徴づけられるより高いリアクター酷度で、前記二元触媒システムを用いて前記改良した沸騰床リアクターを操作し、重油を水素化する工程と
を有する方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、前記改良した沸騰床リアクターを操作する工程が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合の前記重油の初期処理量と比較して前記重油の処理量が維持され、または増加する、方法。
【請求項23】
設計どおりに操作した場合に従来の沸騰床システムと比較した、重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した1またはそれ以上の沸騰床リアクターを含む沸騰床水素化システムによる、重油の強化された水素化方法であって、
不均一触媒を使用して重油を水素化するように設計され、かつ設計どおりに操作した場合にベースラインのリアクター酷度およびベースラインのプラスチック二次加工製品の生産速度を含むベースライン条件で安定して操作できる沸騰床リアクターを提供する工程であって、前記ベースラインのリアクター酷度が前記沸騰床リアクターのベースラインの操作温度と、ベースラインの重油の
部分転化と、およびベースラインの重油の処理量とを含む、前記沸騰床リアクターを提供する工程と、
分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを重油および水素と共に前記リアクターに導入することによって、前記沸騰床リアクターによる重油の水素化を強化する工程と、
前記ベースライン条件での前記沸騰床リアクターの安定した操作と比較して、リアクター酷度が高く、かつプラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で、前記二元触媒システムを用いて前記強化した沸騰床リアクターを操作し、重油を水素化する工程であって、前記より高いリアクター酷度が、
前記ベースライン条件で前記沸騰床リアクターの安定した操作と比較して同等かまたは高い重油の
部分転化を用いて、重油の処理量を増加させ、および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させること、
前記ベースライン条件で前記沸騰床リアクターの安定した操作と比較して同等かまたは高い重油の処理量を用いて、重油の
部分転化を増加させ、および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させること、または
前記ベースライン条件で前記沸騰床リアクターの安定した操作と比較して、重油の
部分転化を増加させ、重油の処理量を増加させ、および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させること、によって特徴づけられる、前記重油を水素化する工程と
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二元触媒システムを利用し、リアクター酷度が上昇した状態で操作する、沸騰床水素化法およびシステムなどの重油水素化法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
低質の重油原料をさらに効率的に利用し、そこから燃料価を抽出するという絶え間なく増大する需要がある。低質の原料は、通常は524℃(975°F)で沸騰する比較的高品質の炭化水素を含むものとして特徴付けられる。硫黄、窒素、および/または金属も比較的高濃度で含む。これらの低質原料に由来する高沸点分画は、典型的には高分子量(より高い密度および粘度が示されることが多い)および/または低水素/炭素比を有し、これはアスファルテンおよび残留炭素を含む望ましくない成分が高濃度で存在することに関連する。アスファルテンおよび残留炭素は処理が困難であり、コークスの形成に寄与するため、従来の触媒の汚染と装置の水素化を引き起こすことが多い。さらに、残留炭素は石炭乾留法の供給材料として使用する場合など、高沸点分画の下流処理を制限する。
【0003】
さらに高濃度のアスファルテン、残留炭素、硫黄、窒素、および金属を含む低質重油原料には、重質原油、油砂瀝青、および従来の製油所プロセスで残る残油を含む。残油は、大気塔底部(atmospheric tower bottom)および真空塔底部(vacuum tower bottom)を指す可能性がある。大気塔底部は少なくとも343℃(650°F)の沸点を有する可能性があるが、カットポイントは精製所によって異なり、380℃(716°F)の高さになる可能性もあることは理解される。真空塔底部(「残油ピッチ」または「減圧残油」としても知られる)は少なくとも524℃(975°F)の沸点を有する可能性があるが、カットポイントは精製所で異なり、538℃(1000°F)または565℃(1050°F)の高さになる可能性もあることは理解される。
【0004】
比較のため、Alberta軽質原油は、減圧残油容積で約9%を含むが、Lloydminster重油は減圧残油容積で約41%を含み、Cold Lake瀝青は減圧残油容積で約50%を含み、Athabasca瀝青は減圧残油容積で約51%を含む。さらに比較として、北海地域産のDansk Blendなどの比較的軽質の原油は減圧残油を約15%しか含まないが、Uralなどのより低質の欧州産原油は30%以上の減圧残油を含み、Arab Mediumなどの原油はさらに高く、約40%の減圧残油を含む。これらの例は、低質原油を使用する場合、減圧残油を転化できることが重要であることを強調している。
【0005】
重油を有用な最終生成物に転化する工程には、前記重油の沸点を低下させる、水素:炭素比を増加させる、金属、硫黄、窒素、およびコークス前駆体などの不純物を除去するなど、広範な処理が伴う。従来の不均一触媒を使用し、大気塔底部を改良する水素化分解プロセスの例には、固定層水素化、沸騰床水素化、および移動床水素化を含む。真空塔底部を改良する非触媒系改良プロセスには、ディレイドコーキング、フレキシコーキング、ビスブレーキング、および溶媒抽出などの熱分解を含む。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2005/241991号明細書
(特許文献2) 米国特許出願公開第2014/027344号明細書
(特許文献3) 米国特許出願公開第2012/152805号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるため、沸騰床水素化システムを改良する方法が本明細書で開示される。開示された方法により形成した、改良型沸騰床水素化システムも開示される。開示された方法およびシステムには、固体担持触媒および十分分散した(例えば均一な)触媒粒子から成る二元触媒システムの利用が関係する。前記二元触媒システムでは、沸騰床リアクターが前記固体担持触媒のみを使用した同じリアクターと比較し、より高い酷度で操作をすることができる。
【0007】
一部の実施形態では、重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるため、沸騰床水素化システムを改良する方法が、(1)(i)初期のリアクター酷度および(ii)プラスチック二次加工製品の初期生産速度を含む初期条件において、水素化重油への不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを操作する工程;(2)その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程;および(3)最初に前記沸騰床リアクターを操作した時よりも(iii)リアクターの酷度が高く、(iv)プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で前記改良型沸騰床リアクターを操作する工程を有する。
【0008】
一部の実施形態では、より酷度の高い操作に、重油の処理量を増加、および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させるが、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合と前記重油の転化が維持される、またはそれよりも転化が増加する場合を含む。他の実施形態では、より酷度の高い操作に、重油の転化を増加、および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させるが、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合と前記重油の処理量が維持される、またはそれよりも処理量が増加する場合を含む。さらに他の実施形態では、酷度の高い操作に、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合よりも、重油の転化を増加、重油の処理量を増加および前記沸騰床リアクターの操作温度を上昇させる場合を含む。
【0009】
一部の実施形態では、重油の処理量増加が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合よりも少なくとも2.5%、5%、10%、または20%高い。一部の実施形態では、重油の転化増加が、前記初期条件で前記沸騰床リアクターを操作する場合よりも少なくとも2.5%、5%、7.5%、10%、または15%高い。一部の実施形態では、前記温度上昇が前記初期条件で操作する場合よりも少なくとも2.5℃、5℃、7.5℃、または10℃高い。ただし、特殊なケースでは、プラスチック二次加工製品の望みの生産速度上昇を達成するために必要な正確な温度上昇は、処理される原料のタイプによって決まり、上記の温度とは幾分異なる可能性がある。これは、異なるタイプの原料に内在する反応性の違いのためである。
【0010】
一部の実施形態では、前記分散金属硫化物触媒粒子はサイズ1μm未満、またはサイズ約500nm未満、またはサイズ約250nm未満またはサイズ約100nm未満、またはサイズ約50nm未満、またはサイズ約25未満、またはサイズ約10nm未満、またはサイズ約5nm未満である。
【0011】
一部の実施形態では、前記分散金属硫化物触媒粒子が触媒前駆体から前記重油内でそのまま形成される。例として、制限するものではないが、前記分散金属硫化物触媒粒子は、前記触媒前駆体の熱的分解および活性金属硫化物触媒粒子の形成前に、触媒前駆体を前記重油全体に混合することで形成可能である。さらなる例として、方法には触媒前駆体と希釈剤炭化水素を混合し、希釈前駆体混合物を形成する工程、前記希釈前駆体混合物と前記重油を混合し、調製重油を形成する工程、および前記調製重油を加熱し、前記触媒前駆体を分解し、前記分散金属硫化物触媒粒子をそのまま形成する工程を含む。
【0012】
一部の実施形態では、重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるため、沸騰床水素化システムを改良する方法が、(1)(i)初期の処理量、(ii)操作温度、(iv)プラスチック二次加工製品の初期生産速度、および(iv)初期の汚染および/または沈降物生成率を含む初期条件において、水素化重油に不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを操作する工程;(2)その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程;および(3)初期条件で操作した時よりも高い処理量、高い操作温度、プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態、および汚染および/または沈降物生成率が同等または低い状態で前記改良型沸騰床リアクターを操作する工程を有する。
【0013】
一部の実施形態では、重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるため、沸騰床水素化システムを改良する方法が、(1)(i)初期の転化、(ii)初期の操作温度、(iii)プラスチック二次加工製品の初期生産速度、および(iv)初期の汚染および/または沈降物生成率を含む、初期条件において水素化重油に不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを操作する工程;(2)その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程;および(3)初期条件で操作した時よりも高い転化量、高い操作温度、プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態、および汚染および/または沈降物生成率が同等または低い状態で重油を水素化する前記改良型沸騰床リアクターを操作する工程を有する。
【0014】
本発明のこれらの利点および特徴は、以下の説明および添付の請求項からさらに十分に明らかとなり、または以下に示されるとおり、本発明の実施により習得される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の上記および他の利点および特徴をさらに明確にするため、本発明のより詳細な説明が、添付の図に図示される、その特定の実施形態を参照することで与えられる。これらの図は本発明の典型的な実施形態のみを示しているため、その範囲を制限するものとは考えられないことは理解される。本発明は、以下の添付の図を使用することで、さらに特異的に、詳細に説明される。
【
図1】
図1は、アスファルテンの仮定上の分子構造を示す。
【
図2】
図2Aおよび2Bは、典型的な沸騰床リアクターを概略的に図示する。
図2Cは、複数の沸騰床リアクターを有する典型的な沸騰床水素化システムを概略的に図示する。
図2Dは、複数の沸騰床リアクターおよび2つのリアクター間の中間分離器を有する典型的な沸騰床水素化システムを概略的に図示する。
【
図3】
図3Aは、より高い酷度およびラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。
図3Bは、より高い転化およびプラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。
図3Cは、より高い処理量、より高い酷度、プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。
図3Dは、より高い転化および処理量、またプラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。
【
図4】
図4は、二元触媒システムを用いた典型的な沸騰床水素化システムを概略的に図示する。
【
図5】
図5は、不均一触媒を単独で、または不均一触媒および分散金属硫化物触媒粒子を含む二元触媒システムを利用するように構成された、パイロットスケールの沸騰床水素化システムを概略的に図示する。
【
図6】
図6は、実施例9~13に従い、Ural減圧残油(VR)を様々な濃度の分散金属硫化物を用いて水素化した場合のベースライン値と比較した、残油転化(Residue Conversion)の関数として、真空塔底部(VTB)内の相対的IP-375沈降物を図解した散布図および折れ線グラフである。
【
図7】
図7は、実施例14~16に従い、Arab Medium減圧残油(VR)を様々な濃度の分散金属硫化物を用いて水素化した場合のリアクター温度の関数として、残油転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【
図8】
図8は、実施例14~16に従い、Arab Medium減圧残油(VR)を様々な濃度の分散金属硫化物を用いて水素化した場合の残油転化の関数として、O-6底部のIP-375沈降物を図解した散布図および折れ線グラフである。
【
図9】
図9は、実施例14~16に従い、Arab Medium減圧残油(VR)を様々な濃度の分散金属硫化物を用いて水素化した場合の残油転化の関数として、アスファルテン転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【
図10】
図10は、実施例14~16に従い、Arab Medium減圧残油(VR)を様々な濃度の分散金属硫化物を用いて水素化した場合の残油転化の関数として、微小残留炭素(MCR)転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.緒言および定義
本発明は、沸騰床水素化システムを改良し、重油からのプラスチック二次加工製品生産速度を上昇させる方法、および前記開示された方法により形成した改良型沸騰床水素化システムに関する。前記方法およびシステムには、(1)二元触媒システムを用いる工程および(2)リアクターの酷度が高い条件で沸騰床リアクターを操作し、プラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させる工程を含む。
【0017】
例として、重油からのプラスチック二次加工製品の生産速度を上昇させるため、沸騰床水素化システムを改良する方法が、(1)(i)初期のリアクター酷度および(ii)プラスチック二次加工製品の初期生産速度を含む、初期条件において水素化重油への不均一触媒を用いて沸騰床リアクターを操作する工程;(2)その後、前記沸騰床リアクターを改良し、分散金属硫化物触媒粒子および不均一触媒から成る二元触媒システムを用いて操作する工程;および(3)最初に前記沸騰床リアクターを操作した時よりも(iii)リアクターの酷度が高く、(iv)プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で前記改良型沸騰床リアクターを操作する工程を有する。
【0018】
「重油原料」の用語は、重質原、油砂瀝青、すなわち、精製プロセスで残ったバレルおよび残油の底部(例、ビスブレーカの底部)および他の低質原料を指し、かなりの量の高沸点炭化水素分画を含み、および/または不均一触媒を非活性化することができる大量のアスファルテンを含み、および/またはコークス前駆体および沈降物を形成させることができる。重油原料の例には、これに限定されるものではないが、Lloydminster重油、Cold Lake瀝青、Athabasca瀝青、大気塔底部、真空塔底部、残油、残油ピッチ、減圧残油(例えば、Ural VR、Arab Medium VR、Athabasca VR、Cold Lake VR、Maya VR、およびChichimene VR)、溶媒の脱歴により得られた脱歴液、脱歴の副生成物として得られたアスファルテン液、および原油を処理後に残る不揮発性液体分画、液化石炭、油頁岩、または蒸留のコールタール原料、ホット分離、溶媒抽出などを含む。さらなる例として、大気塔底部(ATB)は少なくとも343℃(650°F)の公称沸点を有する可能性があるが、カットポイントは精製所によって異なり、380℃(716°F)の高さになる可能性があることは理解される。真空塔底部は少なくとも524℃(975°F)の公称沸点を有する可能性があるが、カットポイントは精製所によって異なり、538℃(1000°F)または565℃(1050°F)の高さにもなる可能性があることは理解される。
【0019】
「アスファルテン」の用語は、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、およびへプタンなどのパラフィン系溶媒に典型的に不溶性の重油原料の材料を指す。アスファルテンは、硫黄、窒素、酸素、および金属などのヘテロ原子により支えられた縮合環化合物のシートを含むことができる。アスファルテンには、80~1200のいずれかの炭素原子を有する、広範な複雑な化合物を広く含み、多く見られる分子量は溶液法による決定で1200~16,900の範囲である。原油には、アスファルテン分画に金属が約80~90%含まれ、このアスファルテン分画と非金属ヘテロ原子の濃度が高いことから、原油中の他の炭化水素よりもアスファルテン分子の親水性が高く、疎水性が低くなる。A.G. BridgeらがChevronで開発した仮定上のアスファルテン分子構造を
図1に示す。一般に、アスファルテンは典型的には不溶性物質の方法の結果に基づき定義され、アスファルテンについては1つ以上の定義を使用することができる。具体的には、一般に使用されるアスファルテンの定義がへプタン不溶性物質-トルエン不溶性物質である(すなわち、アスファルテンはトルエンに溶解性で、トルエンに不溶性の沈降物および残油はアスファルテンとして計数されない)。このように定義されたアスファルテンは「C
7アスファルテン」と呼ばれる。ただし、ペンタン不溶性物質-トルエン不溶性物質で測定される別の定義も同等の妥当性で使用することができ、一般的に「C
5アスファルテン」と呼ばれる。本発明の例では、前記C
7アスファルテンの定義が使用されるが、前記C
5アスファルテンの定義も容易に代用することができる。
【0020】
重油の「品質」は、(i)沸点、(ii)硫黄濃度、(iii)窒素濃度、(iv)金属濃度、(v)分子量、(vi)水素:炭素比、(vii)アスファルテン含有量、および(viii)沈降物の形成傾向の少なくとも1つの特徴により測定されるが、これに限定されるものではない。
【0021】
「低質重油」および/または「低質原料」は、(i)高沸点、(ii)高硫黄濃度、(iii)高窒素濃度、(iv)高金属濃度、(v)高分子量(高密度および高粘度で示されることが多い)、(vi)低水素:炭素比、(vii)高アスファルテン含有量、および(viii)沈降物の形成傾向が高いことから選択される、初期重油原料と比較し、少なくとも1つの低質の特徴を有するが、これに限定されるものではない。
【0022】
「適時原料(opportunity feedstock)」の用語は、低質重油と低質重油原料の混合物を指し、初期の重油原料と比較して少なくとも1つの低質の特徴を有する。
【0023】
「水素化分解」および「水素化転化」の用語は、その主な目的が重油原料の沸点範囲を低下させ、前記原料のかなりの割合が元の原料よりも沸点範囲が低い生成物に転化されるプロセスを指す。水素化分解または水素化転化は、一般に大きな炭化水素分子から、炭素原子数が少なく、水素:炭素比が高いより小さな分子フラグメントへのフラグメンテーションが関係する。水素化分解が起こるメカニズムは、典型的には熱フラグメンテーション時の炭化水素フリーラジカルの形成が関与した後、フリーラジカルの末端または一部が水素でキャップされる。水素化分解時に炭化水素フリーラジカルと反応する水素原子またはラジカルは、活性触媒部位で形成する可能性がある。
【0024】
「水素処理」の用語は、その主な目的が硫黄、窒素、酸素、ハライド、および微量金属などの不純物を前記原料および飽和オレフィンから除去し、および/またはそれ自体を反応させるよりも水素と反応させることで、炭化水素フリーラジカルを安定化させる操作を指す。その主な目的は、前記原料の沸点範囲を変化させないことである。水素処理は固定床リアクターを用いて実施されることが最も多いが、他の水素化リアクターも水素処理に利用され、その例は沸騰床水素処理器である。
【0025】
もちろん、「水素化分解」または「水素化転化」にも原料からの硫黄および窒素の除去、および「水素処理」と関係することが多いオレフィンの飽和などの反応が関与することもある。「水素化」および「水素化転化」の用語は、広く「水素化分解」および「水素処理」のプロセスを指し、これにより範囲の反対端、および前記範囲に入るすべてを定義する。
【0026】
「水素化分解リアクター」の用語は、水素存在下での原料の水素化分解(すなわち、沸点範囲の減少)および水素化分解触媒が主な目的である容器を指す。水素化分解リアクターは、大きな炭化水素分子を小さな分子にフラグメンテーションするため、炭化水素フリーラジカルを形成するように、重油原料および水素を導入することができる吸入ポート、改良された原料または材料を抜き出すことができる排出ポート、および十分な熱エネルギーを有することで特徴付けらる。水素化分解リアクターの例には、これに限定されるものではないが、スラリー相リアクター(すなわち、二相の気体-液体系)、沸騰床リアクター(すなわち、三相の気体-液体-固体系)、固定床リアクター(すなわち、典型的には、重油へ同時に、ただし可能性としては向流的に流れる水素により、固体不均一触媒の固定床を下に浸透するまたは上に流れる液体供給を含む三相系)を含む。
【0027】
「水素化分解温度」の用語は、重油原料を大幅に水素分解する必要がある最低温度を指す。一般に、水素化分解温度は好ましくは約399℃(750°F)~約460℃(860°F)の範囲、さらに好ましくは約418℃(785°F)~約443℃(830°F)の範囲、および最も好ましくは約421℃(790°F)~約440℃(825°F)の範囲になる。
【0028】
「気体-液体スラリー相水素化分解リアクター」の用語は、前記液相内で気泡の「スラリー」を形成する連続液相および気体分散相を含む水素化リアクターを指す。前記液相は、典型的には低濃度の分散金属硫化物触媒粒子を含み、前記気相は典型的には水素ガス、硫化水素、および蒸発した低沸点炭化水素生成物を有する。前記液相は、選択的に、水素ドナー溶媒を含むことができる。「気体-液体-固体の3相スラリー水素化分解リアクター」の用語は、固体触媒を液体および気体と共に利用する場合に使用される。前記気体には水素、硫化水素、および蒸発した低沸点炭化水素生成物を含んでもよい。「スラリー相リアクター」の用語は、両タイプのリアクター(例えば、分散金属硫化物触媒粒子を用いるリアクター、ミクロンサイズまたはそれよりも大きな粒子触媒を用いるリアクター、およびそのいずれも含むリアクター)を広く指す。
【0029】
「固体不均一触媒」、「不均一触媒」、および「担持触媒」の用語は、典型的には沸騰床および固定床水素化システムで使用される触媒を指し、主に水素化分解、水素化転化、水素化金属化、および/または水素処理を含む。不均一触媒は、典型的には、(i)表面積が大きく、相互接続チャネルまたは細孔を有する触媒支持層、および(ii)前記チャネルまたは細孔内にコバルト、ニッケル、タングステン、およびモリブデンの硫化物などの細かい活性触媒粒子を有する。支持層の細孔は、典型的には前記均一触媒の機械的整合性を維持し、前記リアクター中の過剰な微粒子の分解および形成を予防する。均一触媒は円柱状ペレットまたは球状固体として生成する可能性がある。
【0030】
「分散金属硫化物触媒粒子」および「分散触媒」の用語は、粒子サイズ1μm未満、例えば、直径約500nm未満、または直径約250nm未満、または直径約100nm未満、または直径約50nm未満、または直径約25未満、または直径約10nm未満、または直径約5nm未満を有する触媒粒子を指す。「分散金属硫化物触媒粒子」の用語は、分子または分子的に分散した触媒化合物を含んでもよい。
【0031】
「分子的に分散した触媒」の用語は、炭化水素原料または適切な希釈液に他の触媒化合物または分子を基本的に「溶解」または他の触媒化合物または分子から解離した触媒化合物を指す。これには、数種類の触媒分子を一緒に含む非常に小さな触媒粒子(例えば、15分子以下)を含むことができる。
【0032】
「残留触媒粒子」の用語は、1つの容器から別の容器に(例えば、水素化リアクターから別のおよび/または他の水素化リアクターに)移す場合に改良した材料内に残る触媒粒子を指す。
【0033】
「調整原料」の用語は、触媒前駆体を十分結合および混合し、前記触媒前駆体の分解および前記活性触媒の形成時に、前記触媒が原料内にそのまま形成された分散金属硫化物触媒粒子を有するようにする炭化水素原料を指す。
【0034】
「改良する」、「改良している」、および「改良した」の用語は、水素化を受けている、または受けた原料、または得られた材料または生成物を説明するために使用される場合、前記原料の分子量の1回もしくはそれ以上の減少、前記原料の沸点の低下、アスファルテン濃度の低下、炭化水素フリーラジカル濃度の低下、および/または硫黄、窒素、酸素、ハライド、および金属などの不純物量の減少を指す。
【0035】
「酷度」の用語は、一般に、水素化中に重油に導入されるエネルギー量を指し、前記温度曝露期間とともに、前記水素化リアクターの操作温度と関連することが多い(すなわち、温度が高いほど酷度が高いことと関連し、温度が低いほど酷度が低いことと関連する)。酷度が高いと、一般には、望みの生成物および望ましくない転化生成物をいずれも含む、前記水素化リアクターにより生成した転化生成物の量が増加する。望ましい転化生成物には、分子量、沸点、および比重が低下した炭化水素を含み、ナフサ、ディーゼル、ジェット燃料、灯油、ワックス、燃料油などの最終産物を含む可能性がある。他の望ましい転化生成物には、従来の精製および/または蒸留プロセスによりさらに処理することができる高沸点炭化水素を含む。望ましくない転化生成物には、水素化装置に沈着し、リアクター、分離器、フィルター、パイプ、塔、および前記不均一触媒の内部成分など、汚染を引き起こすコークス、沈降物、金属、および他の固体材料を含む。望ましくない転化生成物は、大気塔底部(「ATB」)または真空塔底部(「VTB」)など、蒸留後に残る未転化残油も指す可能性がある。望ましくない転化生成物を最小限にすることで、装置の汚染および前記装置を洗浄するために必要な運転停止が少なくなる。それにもかかわらず、下流の分離装置を正しく機能させ、および/またはそうでなければ装置に沈着およびこれを汚染するが、残った残油によって輸送することができる、コークス、沈降物、金属、および他の固体材料を含む液体輸送培地を提供するため、望ましい量の転化されていない残油がある。
【0036】
温度に加え、「酷度」は「転化」および「処理量」の一方または両方と関連する可能性がある。酷度の上昇が転化の増加、および/または処理量の増減と関連するか否かは、重油原料の質、および/または全体の水素化システムの物質収支に依存することがある。例えば、供給材料をより大量に転化し、および/またはより大量の材料を下流装置に提供することが望ましい場合、酷度の上昇は主に処理量の増加と関与し、必ずしも分画の転化量増加とは関連しない。これには、残油分画(ATBおよび/またはVTB)が燃料油として販売される場合を含む可能性があり、転化量が増加し、処理量が増加しないと、この生成物の量は減少するかもしれない。改良された材料と残油分画の比が上昇することが望ましい場合、主に転化量を増加し、必ずしも処理量は増加させないことが望ましいこともある。水素化リアクターに導入された重油の質が変動する場合、転化量および処理量の一方または両方を選択的に増加または減少させ、改良された材料と残油分画の望ましい比、および/または生成される最終生成物の望ましい絶対量を維持することが望ましいこともある。
【0037】
「転化」および「部分転化」の用語は、パーセンテージであらわされることが多い、低沸点および/または低分子量材料に有利に転化される重油の割合を指す。前記転化は、定義されたカットポイント未満の沸点を有する生成物に転化される、最初の残油含有量の割合(すなわち、定義された残渣のカットポイント以上の沸点を有する成分)として表現される。残渣のカットポイントの定義は変動する可能性があり、公称値として524℃(975°F)、538℃(1000°F)、565℃(1050°F)などを含む可能性がある。前記定義されたカットポイント以上の沸点を有する成分濃度を決定するため、給油および生成物流の蒸留解析により測定することができる。部分転化は(F-P)/Fで表現され、Fは合わせた給油流中の残油の量、Pは合わせた生成物流の量であり、給油および生成残油含有量は、いずれも同じカットポイントの定義に基づいている。残油の量は定義されたカットポイント以上の沸点を有する成分の質量に基づいて定義されることが最も多いが、容積またはモルの定義も使用することができる。
【0038】
「処理量」の用語は、時間の関数として水素化リアクターに導入される供給材料の量を指す。望ましいおよび望ましくない製品の合計量を含む、前記水素化リアクターから除去される転化生成物の総量とも関連する。処理量はバレル/日などの容積の用語、またはメートルトン/時などの重量の用語で表現することができる。一般的な使用では、処理量は、前記重油原料自体のみの重量または容積の供給量として定義される。前記定義は、通常は、水素化転化ユニットへの全給油に含まれることがある希釈液または他の成分の量を含まないが、これらの他の成分を含む定義も使用することができる。
【0039】
「沈降物」の用語は、沈降する可能性がある液体流に含まれる固体を指す。沈降物には、転化後の冷却で沈降する無機物、コークス、または不溶性アスファルテンを含むことができる。石油製品の沈降物は、ISO 10307およびASTM D4870の一部として発表された残留燃料油中の総沈降物のIP-375熱ろ過試験法により、一般に測定される。他の試験はIP-390沈降試験およびShell熱ろ過試験などである。沈降物は、処理および取り扱い時に固体が形成する傾向を有するオイルの成分と関連する。これらの固体形成成分は、生成物の質の低下および汚染に関連する操作性の問題など、水素化転化プロセスに複数の望ましくない作用を有する。沈降物の厳密な定義は沈降試験の固体測定に基づくが、より大まかに使用される用語は前記オイル自体の固体形成成分を指すことも多いことに注意する必要がある。
【0040】
「汚染」の用語は、処理に干渉する望ましくない相(汚染物(foulant))の形成を指す。前記汚染物は、通常、前記処理装置内に沈着および集積する炭素質材料または固体である。汚染により、装置の運転停止による生産損失、装置の性能低下、熱交換器またはヒーターの汚染物沈着の絶縁効果によるエネルギー消費の増加、装置洗浄による維持費の増加、精留塔の効率低下、および不均一触媒の反応性低下に至る可能性がある。
【0041】
II.沸騰床水素化リアクターおよびシステム
図2A~2Dは、本発明に従い、改良して二元触媒システムを使用することができ、重油などの炭化水素原料を水素化するために使用される、沸騰床水素化リアクターおよびシステムの制限されない例を概略的に示す。前記例の沸騰床水素化リアクターおよびシステムには、中間分離、完全水素処理、および/または完全水素化分解を含む可能性があることは理解される。
【0042】
図2Aは、C-E Lummusにより開発されたLC-Fining水素化分解システムに使用される、沸騰床水素化リアクター10を概略的に示す。沸騰床リアクター10には、原料14および加圧水素ガス16が導入される底部付近の吸入ポート12、および水素化された材料20が排出される上部の排出ポート18を含む。
【0043】
15リアクター10には、さらに、沸騰床リアクター10から(気泡25として概略的に示される)液体炭化水素およびガスの上方への動きにより重力に対して拡大または流動状態で維持される、不均一触媒24を有する拡大触媒ゾーン22を含む。拡大触媒ゾーン22の下端は分配グリッドプレート26で定義され、これは拡大触媒ゾーン22を、沸騰床リアクター10の下端と分配グリッドプレート26との間に位置する不均一触媒フリーゾーン28から分離する。分配グリッドプレート26は、前記リアクターに均一に水素ガスと炭化水素を分配し、不均一触媒24が下部の不均一触媒フリーゾーン28に重力で落ちることがないように構成される。前記拡大触媒ゾーン22の上端は、不均一触媒24が特定レベルの拡大または分離に達する際、下方向の重力が均等に起始する、または上方に動く原料およびガスが沸騰床リアクターから上方に上がる力を超える高さである。拡大触媒ゾーン22の上は上方不均一触媒フリーゾーン30である。
【0044】
炭化水素および沸騰床リアクター10内の他の材料は、沸騰床リアクター10下部の沸騰ポンプ34に接続した沸騰床リアクター10中心に位置する再利用チャネル32により、連続的に上方不均一触媒フリーゾーン30から下方不均一触媒フリーゾーン28に再循環する。再利用チャネル32の上部には、漏斗状再利用カップ36があり、ここを通って、原料は上方不均一触媒フリーゾーン30から引き抜かれる。再利用チャネル32から下に引き抜かれた材料は下方触媒フリーゾーン28に入り、分配グリッドプレート26を上に通過し、拡大触媒ゾーン22に入り、ここで、材料は吸入ポート12から沸騰床リアクター10に入る新たに追加された原料14および水素ガス16と混合される。前記沸騰床リアクター10から上方に連続的に循環する混合材料は、拡大触媒ゾーン22内で拡大または流動状態で不均一触媒24を有利に維持し、チャネリングを最小限とし、反応率をコントロールして、発熱水素化反応により放出される熱を安全なレベルに維持する。
【0045】
新たに追加された不均一触媒24は、触媒吸入チューブ38から、沸騰床リアクター10上部から直接拡大触媒ゾーン22に入る、拡大触媒ゾーン22などの沸騰床リアクター10に導入する。使用済みの不均一触媒24は、拡大触媒ゾーン22下端から分配グリッドプレート26および沸騰床リアクター10下部を経て拡大触媒ゾーン22下端を通る触媒回収チューブ40を通過し、拡大触媒ゾーン22から引き抜かれる。触媒回収チューブ40は、ランダムに分布した不均一触媒24が主に「使用済み」触媒として沸騰床リアクター10から引き抜かれるよう、完全に使用された触媒、部分的に使用されたが活性な触媒、および新たに追加された触媒を区別することはできないことは理解される。
【0046】
沸騰床リアクター10から引き抜かれた改良された材料20は、分離器42に導入することができる(例えば、熱分離器、中間圧力差分離器、または蒸留塔)。前記分離器42は、非揮発性分画48から1若しくはそれ以上の揮発性分画46を分離する。
【0047】
図2Bは、Hydrocarbon Research Incorporatedによって開発され、現在AxensによってライセンスされているH-Oil水素化分解システムで使用される沸騰床リアクター110を概略的に示す。沸騰床リアクター110には、原料114および加圧水素ガス116が導入される吸入ポート112、および改良された材料120が排出される排出ポート118を含む。不均一触媒124を有する拡大触媒ゾーン122には、リアクター110底部と分配グリッドプレート126との間で拡大触媒ゾーン122と下方触媒フリーゾーン128を分離する分配グリッドプレート126、および拡大触媒ゾーン122と上方触媒フリーゾーン130との間のおおよその境界を規定する上端129が結合する。点線の境界線131は、拡大または流動状態ではない場合の不均一触媒124の近似線を概略的に図示する。
【0048】
材料は、リアクター110の外に配置された沸騰ポンプ134に接続した再利用チャネル132により、リアクター110内で連続的に再循環する。材料は、上方触媒フリーゾーン130から漏斗状再利用カップを経て引き抜かれる。再利用カップ136はらせん形であり、水素の泡125と再利用材料132との分離を助け、沸騰ポンプ134の空洞化を防ぐ。再利用材料132は下方触媒フリーゾーン128に入り、ここで新たに追加された原料116および水素ガス118と混合され、前記混合物は分配グリッドプレート126を通過し、拡大触媒ゾーン122に入る。新たに追加された触媒124は触媒吸入チューブ136から拡大触媒ゾーン122に導入され、使用済み触媒124は触媒放出チューブ140を経て拡大触媒ゾーン122から引き抜かれる。
【0049】
前記H-Oil沸騰床リアクター110と前記LC-Fining沸騰床リアクター10との主な違いは、沸騰ポンプの位置である。H-Oilリアクター110の沸騰ポンプ134は、前記反応チャンバーの外にある。再循環原料は、リアクター110底部にある再循環ポート141から導入される。前記再循環ポート141には分配器143が含まれ、下方触媒フリーゾーン128から材料の均一な分配を助ける。改良された材料120は、非揮発性分画148から1若しくはそれ以上の揮発性分画146を分離する分離器142に送られることが示されている。
【0050】
図2Cは、複数の沸騰床リアクターを有する沸騰床水素化システム200を概略的に図示する。水素化システム200(その例はLC-Fining水素化ユニット)は、原料214を改良する3つの沸騰床リアクター210を連続して含んでもよい。原料214は水素ガス216とともに最初の沸騰床リアクター210aに導入され、そのいずれも前記リアクターに入る前にそれぞれのヒーターを通る。最初の沸騰床リアクター210aの改良された材料220aは、追加の水素ガス216とともに第2の沸騰床リアクター210bに導入される。第2の沸騰床リアクター210bの改良された材料220bは、追加の水素ガス216とともに第3の沸騰床リアクター210cに導入される。
【0051】
1若しくはそれ以上の中間分離器は、下部の沸騰分画およびガスを液体炭化水素および残留分散金属硫化物触媒粒子を含む非揮発性分画から除去するため、選択的に第1および第2のリアクター210a、210bの間、および/または第2および第3のリアクター210b、210cの間に挿入できることは理解する必要がある。有用な燃料生成物であるが、アスファルテンの溶媒としては乏しい、ヘキサンおよびへプタンなどの低級アルカンを除去することが望ましい可能性がある。複数のリアクター間の揮発性材料を除去すると、有用な生成物の産生が増え、下流リアクターに供給される炭化水素液体分画中のアスファルテンの溶解性が上昇する。いずれも全体の水素化システムの効率を上昇させる。
【0052】
第3の沸騰床リアクター210cの改良された材料220cは高温の分離器242aに送られ、これが揮発性分画と非揮発性分画を分ける。揮発性分画246aは熱交換器250を通過し、これが水素ガス216を予熱してから最初の沸騰床リアクター210aに導入される。やや冷却した揮発性分画246aは中間温度の分離器242bに送られ、これは残りの揮発性分画246bを、熱交換器250による冷却の結果形成した液体分画248bから分離する。残りの揮発性分画246bは、さらにガス分画252cと脱気した液体分画248cに分離するため、下流の低温分離器246cに送られる。
【0053】
高温分離器242aの液体分画248aは、得られた液体分画248bとともに中間温度の分離器242bから低圧分離器242dに送られ、ここで水素が豊富なガス252dを脱気した液体分画248dから分離し、低温分離器242cの脱気した液体分画248cと混合し、生成物に分画される。低温分離器242cのガス分画252cは、排気、パージガス、水素ガス216に精製される。水素ガス216は圧縮され、構成水素ガス216aと混合され、熱交換器250を通過し、原料216とともに第1の沸騰床リアクター210aに導入されるか、第2および第3の沸騰床リアクター210bおよび210bに直接導入される。
【0054】
図2Dは、
図2Cに図示されるシステムと同様、複数の沸騰床リアクターを有するが、第2および第3のリアクター210b、210cの間に挿入された中間分離器221を示す沸騰床水素化システム200を概略的に図示する(ただし、中間分離器221は第1および第2のリアクター210a、210bの間に挿入されてもよい)。図示される通り、第2段階のリアクター210bからの流出物は中間分離器221に入り、これは高圧、高温の分離器とすることができる。分離器221からの液体分画をライン216からの再利用水素の一部と混合し、これは次に第3段階のリアクター210cに入る。中間分離器221からの蒸気分画は第3段階のリアクター210cを迂回し、第3段階のリアクター210cからの流出物と混合し、高圧、高温の分離器242aに入る。
【0055】
これにより、より軽く、より飽和した成分が最初の2つのリアクター段階で形成され、第3段階のリアクター210cを迂回する。この利益は、(1)前記第3段階リアクターの蒸気負荷減少による、残りの重油成分を変換する前記第3段階リアクターの利用容積の増加、および(2)「抗溶媒」成分(飽和剤)濃度の低下により、第3段階リアクター210cのアスファルテンを不安定化する可能性があることである。
【0056】
好適な実施形態では、前記水素化システムが構成および操作され、水素化よりも酷度が低い単なる水素化ではなく、水素化分解反応を促す。水素化分解には、大きな炭化水素分子の分子量および/または芳香族化合物の開環など、炭素-炭素分子結合の開裂が関与する。一方、水素処理は主に不飽和炭化水素の水素化が関与し、炭素-炭素分子結合の開裂は最小限またはない。単なる水素化ではなく、水素化分解反応を促すためには、水素化反応は好ましくは約750°F(399℃)~約860°F(460℃)の範囲、好ましくは約780°F(416℃)~約830°F(443℃)の範囲の温度で操作され、好ましくは約1000psig(6.9MPa)~約3000psig(20.7MPa)の範囲、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)~約2500psig(17.2MPa)の範囲の圧力で操作され、約0.05hr-1~約0.45hr-1の範囲、より好ましくは約0.15hr-1~約0.35hr-1の範囲の宇宙速度(例えば、1時間当たり給油容積とリアクター容積の比として定義される液空間速度、またはLHSV)で操作される。水素化分解と水素処理との差も残油転化として表現することができる(ここで、水素化分解では高沸点炭化水素から低沸点炭化水素への変換が起こるが、水素処理では起こらない)。本明細書で開示される水素化システムでは、約40%~約90%の範囲、好ましくは約55%~約80%の範囲で樹脂の転化を起こすことができる。原料が異なると処理の難しさも異なるため、好適な転化の範囲は典型的には原料のタイプに依存する。典型的には、改良前に沸騰床リアクターを操作し、本明細書で開示されたとおり二元触媒システムを利用する場合と比較し、転化は少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%多くなる。
【0057】
III.沸騰床水素化リアクターの改良
図3A、3B、3C、および3Dは、沸騰床リアクターを改良して二元触媒システムを利用し、リアクターの酷度が上昇し、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作する典型的方法を図示したフローチャートである。
【0058】
図3Aは、方法をより具体的に図示し、その方法は(1)最初に不均一触媒を使用して沸騰床リアクターを操作し、初期条件で重油を水素化する工程、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床リアクターに加え、二元触媒システムを有する改良型リアクターを形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用い、前記初期条件で操作した場合よりもリアクターの酷度が上昇し、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作する工程を有する。
【0059】
一部の実施形態に従い、前記沸騰床リアクターを初期条件で最初に操作した際に利用した均一触媒は、沸騰床リアクターに典型的に使用される市販の触媒である。効率を最大限にするため、前記初期リアクターの条件は、沈降物の形成と付着物が許容レベル内に維持されるリアクターの酷度で有利になる。そのため、二元触媒システムを使用するため、沸騰床リアクターを改良せずにリアクター酷度を上昇させると、過剰な沈降物が形成し、望ましくない装置の汚染が起こる可能性があり、そうでない場合は、パイプ、塔、ヒーター、不均一触媒、および/または分離装置の水素化リアクターおよび関連装置のより頻繁な運転停止と洗浄が必要となる。
【0060】
装置の汚染およびより頻繁な運転停止と管理の必要性を増加させることなく、リアクター酷度を上昇させ、プラスチック二次加工製品の生産を増加するため、前記沸騰床リアクターを改良し、均一触媒および分散金属硫化物触媒粒子を有する二元触媒システムを使用する。酷度を上昇させて改良された沸騰床リアクターを操作する工程には、前記初期条件で操作する場合よりも転化が増加し、および/または処理量が増加した操作を含んでもよい。いずれも、典型的には上昇した温度での改良型リアクターの操作を含む。
【0061】
一部の実施形態では、リアクターの酷度が上昇した改良型リアクターの操作に、前記初期条件で操作した場合よりも公称値で少なくとも約2.5℃、または少なくとも約5℃、少なくとも約7.5℃、または少なくとも約10℃、または少なくとも約15℃、前記改良型沸騰床リアクターの操作温度が上昇した場合を含む。
【0062】
図3Bは、より高い転化およびプラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。これは、
図3Aに図示された方法の実施形態である。
図3Bは、方法をより具体的に図示し、その方法は(1)最初に不均一触媒を使用して沸騰床リアクターを操作し、初期条件で重油を水素化する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床リアクターに加え、二元触媒システムを有する改良型リアクターを形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用い、前記初期条件で操作した場合よりも転化が多く、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作する工程とを有する。
【0063】
一部の実施形態では、転化が増加した改良型リアクターの操作に、前記初期条件で操作した場合よりも少なくとも約2.5%、または少なくとも約5%、少なくとも約7.5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%前記改良型沸騰床リアクターの転化が多い場合を含む。
【0064】
図3Cは、より高い処理量、より高い酷度、プラスチック二次加工製品の生産速度が高い状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。これは、
図3Aに図示された方法の実施形態である。
図3Cは、方法をより具体的に図示し、その方法は(1)最初に不均一触媒を使用して沸騰床リアクターを操作し、初期条件で重油を水素化する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床リアクターに加え、二元触媒システムを有する改良型リアクターを形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用い、前記初期条件で操作した場合よりも処理量が多く、酷度が高く、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作する工程とを有する。
【0065】
一部の実施形態では、処理量が増加した改良型リアクターの操作に、前記初期条件で操作した場合よりも少なくとも約2.5%、または少なくとも約5%、少なくとも約10%、または少なくとも約15%、または少なくとも約20%(例えば、24%)前記改良型沸騰床リアクターの処理量が多い場合を含む。
【0066】
図3Dは、より高い転化および処理量、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作するため、沸騰床リアクターを改良する典型的な方法を図示したフローチャートである。これは、
図3Aに図示された方法の実施形態である。
図3Dは、方法をより具体的に図示し、その方法は(1)最初に不均一触媒を使用して沸騰床リアクターを操作し、初期条件で重油を水素化する工程と、(2)分散金属硫化物触媒粒子を前記沸騰床リアクターに加え、二元触媒システムを有する改良型リアクターを形成する工程と、(3)前記二元触媒システムを用い、前記初期条件で操作した場合よりも転化が多く、処理量が多く、プラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作する工程とを有する。
【0067】
一部の実施形態では、転化および処理量が多い改良型リアクターの操作に、前記初期条件で操作した場合よりも少なくとも約2.5%、または少なくとも約5%、少なくとも約7.5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%前記改良型沸騰床リアクターの転化が多い場合、また、少なくとも約2.5%、または少なくとも約5%、少なくとも約7.5%、または少なくとも約10%、または少なくとも約15%、または少なくとも約20%処理量が多い場合を含む。
【0068】
前記分散金属硫化物触媒粒子は別に作成することができ、前記二元触媒システムを形成する際に前記沸騰床リアクターに追加することができる。代わりにまたは加えて、前記分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部は前記沸騰床リアクター内でそのまま生成することができる。
【0069】
一部の実施形態では、前記分散金属硫化物触媒粒子は前記重油原料全体内で有利にそのまま形成される。これは、最初に触媒前駆体と重油原料全体とを混合し、調整原料を形成し、したがって、前記調整原料を加熱し、前記触媒前駆体を分解することで達成可能であり、触媒金属を硫黄と反応させる、および/または前記重油に追加し、前記分散金属硫化物触媒粒子を形成することができる。
【0070】
前記触媒前駆体は油溶性とすることができ、約100℃(212°F)~約350℃(662°F)の範囲、または約150℃(302°F)~約300℃(572°F)、または約175℃(347°F)~約250℃(482°F)の範囲の分解温度を有する。実施例の触媒前駆体には、有機金属複合体または化合物、より具体的には遷移金属および有機酸の油溶性化合物または複合体を含み、適切な混合条件で重油原料と混合した場合に、実質的な分解を避けるために十分高い分解温度または範囲を有する。前記触媒前駆体と炭化水素油希釈液とを混合する場合、前記触媒前駆体の十分な分解が発生する温度以下の温度で希釈を維持することは好都合である。当業者は、本開示に従い、混合温度プロファイルを選択し、前記分散金属硫化物触媒粒子が形成する前に実質的に分解せずに特定の前駆体組成物を密接に混合することができる。
【0071】
実施例の触媒前駆体には、これに限定されるものではないが、2-エチルヘキサン酸モリブデン、オクト酸モリブデン、ナフタン酸モリブデン、ナフタン酸バナジウム、オクト酸バナジウム、モリブデンヘキサカルボニル、バナジウムヘキサカルボニル、および鉄ペンタカルボニルを含む。その他の触媒前駆体には、複数のカチオン性モリブデン原子および少なくとも8炭素原子の複数のカルボン酸陰イオンを有し、(a)芳香族、(b)脂環式、または(c)分岐、不飽和および脂肪族の少なくとも1つであるモリブデン塩を含む。実施例として、各カルボン酸陰イオンは8~17炭素原子または11~15炭素原子を有してもよい。前述の分類の少なくとも1つに当てはまるカルボン酸陰イオンの実施例には、3-シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル-2-カルボン酸、4-ヘプチル安息香酸、5-フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸)、およびその組み合わせから成る群から選択されるカルボン酸由来のカルボン酸陰イオンを含む。
【0072】
他の実施形態では、油溶性、熱安定モリブデン触媒前駆体化合物の作成に使用するカルボン酸陰イオンは、3-シクロペンチルプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸、ビフェニル-2-カルボン酸、4-ヘプチル安息香酸、5-フェニル吉草酸、ゲラン酸(3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン酸)、10-ウンデセン酸、ドデカン酸およびその組み合わせから成る群から選択されるカルボン酸に由来する。前述のカルボン酸プロセスに由来するカルボン酸陰イオンを用いて作成されたモリブデン触媒前駆体は、熱安定性を改善することが発見された。
【0073】
熱安定性が高い触媒前駆体は、最初の分解温度が210℃以上、約225℃以上、約230℃以上、約240℃以上、約275℃、または約290℃以上である可能性がある。そのような触媒前駆体は、ピーク分解温度が250℃以上、または約260℃以上、または約270℃以上、または約280℃以上、または約290℃以上、または約330℃以上である可能性がある。
【0074】
当業者は、本開示に従い、混合温度プロファイルを選択し、前記分散金属硫化物触媒粒子が形成する前に実質的に分解せずに特定の前駆体組成物を密接に混合することができる。
【0075】
前記触媒前駆体組成物を前記重油原料と直接混合することは本発明の範囲内であるが、そのような場合、前記前駆体組成物の実質的分解が起こる前に、前記原料内の前記前駆体混合物を完全に混合するために十分な時間、前記成分を混合するため、注意を払う必要がある。例えば、その開示が参照により組み込まれるCyrらの米国特許番号5,578,197では、得られた混合物を反応容器で加熱し、前記触媒化合物を形成し、水素化分解を行う前に、ヘキサン酸2-エチルモリブデンを瀝青真空塔残油と24時間混合する方法について説明している(col.10、ライン4~43参照)。試験環境で24時間混合することは完全に許容できるが、そのような長時間の混合では、特定の産業的操作が非常に高額となる可能性がある。加熱前に前記重油内の触媒前駆体を完全に混合し、前記活性触媒を形成するため、前記調整原料の加熱前に異なる混合装置により一連の混合段階を行う。これには、1若しくはそれ以上の低剪断直列ミキサー、続いて1若しくはそれ以上の高剪断ミキサー、続いてサージ容器およびポンプ周辺システム、続いて水素化リアクターに導入する前に給油流を加圧するために使用される1若しくはそれ以上の多段階高圧ポンプを含む。
【0076】
一部の実施形態では、前記重油内でそのまま前記分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部を形成するため、前記調整原料が前記水素化リアクターに入る前に加熱装置を用いて前記調整原料が予熱される。他の実施形態では、前記重油内でそのまま前記分散金属硫化物触媒粒子の少なくとも一部を形成するため、前記調整原料が前記水素化リアクターで加熱またはさらに加熱される。
【0077】
一部の実施形態では、前記分散金属硫化物触媒粒子を多段階プロセスで形成することができる。例えば、油溶性触媒前駆体組成物は炭化水素と予混合し、希釈前駆体混合物を形成することができる。適切な炭化水素希釈剤の例には、これに限定されるものではないが、真空ガスオイル(典型的には公称沸点範囲360~524℃(680-975°F)を有する)、デカントオイルまたはサイクルオイル(典型的には公称沸点範囲360°~550℃(680~1022°F)を有する)、およびガスオイル(典型的には公称沸点範囲200°~360℃(392-680°F)を有する)、前記重油原料の一部、および約200℃以上の公称沸点を有する他の炭化水素を含む。
【0078】
前記希釈前駆体混合物を作成するために使用される触媒前駆体と炭化水素油との比は、約1:500~約1:1の範囲、または約1:150~約1:2の範囲、または約1:100~約1:5の範囲(例えば、1:100、1:50、1:30、または1:10)とすることができる。
【0079】
前記希釈前駆体混合物中の触媒金属の量(例えば、モリブデン)は、好ましくは、前記希釈前駆体混合物の重量で約100ppm~約7000ppmの範囲であり、より好ましくは、前記希釈前駆体混合物の重量で約300ppm~約4000ppmの範囲である。
【0080】
前記触媒前駆体は、大部分の前記触媒前駆体組成物が分解する温度未満で、有利に前記炭化水素希釈剤と混合される。前記混合は、約25℃(77°F)~約250℃(482°F)の範囲、または約50℃(122°F)~約200℃(392°F)、または約75℃(167°F)~約150℃(302°F)の範囲の温度で行い、前記希釈前駆体混合物を形成してもよい。前記希釈前駆体混合物が形成する温度は、前記分解温度および/または粘度など、前記炭化水素希釈剤を利用した、および/またはこれに特徴的な前記触媒前駆体の他の特徴に依存してもよい。
【0081】
前記触媒前駆体は、好ましくは、約0.1秒~約5分の範囲、または約0.5秒~約3分の範囲、または約1秒~約1分の範囲の時間、前記炭化水素油希釈剤と混合される。実際の混合時間は、少なくとも一部は前記温度(すなわち、前記液体の粘度に影響する)および混合強度に依存する。混合強度は、少なくとも一部は、段階数、例えば直列静的ミキサーに依存する。
【0082】
前記触媒前駆体と炭化水素希釈剤を予混合し、後に前記重油原料と混合される希釈前駆体混合物を形成することで、特に大規模な産業用操作に必要な比較的短時間で、前記触媒前駆体を十分、密接に混合する上で大きく役立つ。希釈前駆体混合物の形成により、(1)より極性の高い触媒前駆体とより疎水性の重油原料との溶解性の差を減少または排除する、(2)前記触媒前駆体と重油原料とのレオロジーの差を減少または排除する、および/または(3)前記重油原料内でより容易に分散する炭化水素希釈液で溶質を形成する触媒前駆体分子を分割することで、全体の混合時間が短縮する。
【0083】
次に、前記希釈前駆体混合物は前記重油原料と合わせ、前記触媒前駆体を前記原料中に分散し、前記活性金属硫化物触媒粒子が熱分解および形成する前に、前記触媒前駆体が前記重油内で十分混合した調整原料が形成するのに十分な時間および方法で混合する。前記重油原料内で前記触媒前駆体を十分に混合するため、前記希釈前駆体混合物および重油原料は、約0.1秒~約5分の範囲、または約0.5秒~約3分の範囲、または約1秒~約3分の範囲の時間、有利に混合される。混合プロセスの勢いおよび/または剪断エネルギーを上昇することで、一般に、完全に混合するために必要な時間が短縮する。
【0084】
前記触媒前駆体および/または希釈前駆体混合物を重油と完全に混合するために使用可能な混合装置の例には、これに限定されるものではないが、容器内でプロペラまたはタービンの羽根車により起こる混合など高剪断混合;複数の静的直列ミキサー;複数の静的直列ミキサーと直列高剪断ミキサーの組み合わせ;複数の静的直列ミキサーと直列高剪断ミキサーの組み合わせ、およびそれに続くサージ管;上記の組み合わせとそれに続く1若しくはそれ以上の多段階遠心ポンプ;および1若しくはそれ以上の多段階遠心ポンプを含む。一部の実施形態によれば、ポンププロセス自体の一部として、その中で前記触媒前駆体組成物と重油原料が攪拌および混合される、複数のチャンバーを有する高エネルギーポンプを用い、バッチ式の混合よりも連続混合を行うことができる。前述の混合装置を、前記触媒前駆体が前記炭化水素希釈剤と混合され、前記触媒前駆体混合物を形成する、上述の予混合プロセスに使用してもよい。
【0085】
室温で固体または非常に粘性の重油原料の場合、そのような原料は、油溶性触媒前駆体を減量組成物に良好に混合できるように軟化し、十分粘性の低い原料を作成するため、有利に加熱してもよい。一般に、前記重油原料の粘度を低下させることで、前記原料内の油溶性前駆体組成物の十分で密接な混合を行うために必要な時間が短縮する。
【0086】
前記重油原料および触媒前駆体および/または希釈前駆体混合物は、約25℃(77°F)~約350℃(662°F)の範囲、または約50℃(122°F)~約300℃(572°F)、または約75℃(167°F)~約250℃(482°F)の範囲の温度で有利に混合され、調整材料を生じる。
【0087】
最初に希釈前駆体混合物を形成せずに前記触媒前駆体を直接前記重油原料と混合する場合、前記触媒前駆体組成物の大部分が分解する温度未満で、前記触媒前駆体と重油原料を混合することは好都合と考えられる。ただし、前記触媒前駆体を炭化水素希釈剤と予混合し、希釈前駆体混合物を形成し、その後前記重油原料と混合する場合、前記重油原料が前記触媒前駆体の分解温度またはそれ以上になることは許容されると考えられる。これは、前記炭化水素希釈剤が個々の触媒前駆体分子を遮蔽し、これらが凝集してより大きな粒子を形成しないようにし、一時的に前記触媒前駆体分子を混合中の重油からの発熱から断熱し、分解して金属を遊離する前に、前記重油原料中に十分迅速に前記触媒前駆体分子の分散を促すためである。さらに、前記原料のさらなる加熱は、前記重油中の硫黄を生じる分子から硫化水素を遊離し、前記金属硫化物触媒粒子を形成するために必要と考えられる。このように、前記触媒前駆体の段階的希釈により、前記重油原料内で高度の分散が可能となり、前記原料が前記触媒前駆体の分解温度を超える温度の場合でも、高度に分散金属硫化物触媒粒子が形成する。
【0088】
前記触媒前駆体が前記重油中に十分混合し、調整原料が得られた後、本組成物を加熱し、前記触媒前駆体を分解してそこから触媒金属を遊離し、その中の硫黄と反応させ、および/または前記重油に追加し、前記活性金属硫化物触媒粒子を形成する。前記触媒前駆体の金属は、最初に金属酸化物を形成し、これが前記重油中の硫黄と反応し、最終活性触媒を形成する金属硫化物化合物を生じてもよい。前記重油原料に十分または過剰な硫黄が含まれる場合、そこから硫黄が遊離するのに十分な温度まで前記重油原料を加熱することで、前記最終活性化触媒がそのまま形成してもよい。場合によっては、前記前駆体組成物が分解する温度と同じ温度で硫黄が遊離してもよい。他の場合、さらに高温まで加熱することが必要になることもある。
【0089】
前記触媒前駆体が前記重油中で完全に混合される場合、少なくとも前記遊離金属イオンの大部分が他の金属イオンから十分保護または遮蔽され、硫黄と反応すると同時に分子的に分散した触媒が形成し、前記金属硫化物化合物を形成できるようにする。状況によっては、軽度の凝集が生じ、コロイドサイズの触媒粒子が生じることもある。ただし、前記触媒前駆体の熱分解前に前記原料に前記触媒前駆体を十分混合するように注意することで、コロイド粒子ではなく、個々の触媒分子が生じると考えられる。十分に混合できずに、簡単に混和すると、前記触媒前駆体と前記原料は、ミクロンサイズ以上の大きな凝集金属臭化物化合物を形成する。
【0090】
分散金属硫化物触媒粒子を形成するため、前記調整原料を約275℃(527°F)~約450℃(842°F)の範囲、または約310℃(590°F)~約430℃(806°F)、または約330℃(626°F)~約410℃(770°F)の範囲の温度に加熱する。
【0091】
分散金属硫化物触媒粒子により提供される触媒金属の初期濃度は、前記重油原料で約1ppm~約500ppmの範囲、または約5ppm~約300ppmの範囲、または約10ppm~約100ppmの範囲とすることができる。前記触媒は、残油分画から揮発性分画が除去されるにつれ、濃縮されてもよい。
【0092】
前記重油原料に大量のアスファルテン分子が含まれる場合、前記分散金属硫化物触媒粒子は選択的に前記アスファルテン分子と結合、または近接してもよい。アスファルテン分子は重油内に含まれる他の炭化水素よりも親水性が高く、疎水性が低いため、金属硫化物触媒粒子に対する親和性が高い可能性がある。前記金属硫化物触媒粒子は非常に親水性である傾向があるため、個々の粒子または分子は前記重油原料内のより親水性の構造または分子に移動する傾向がある。
【0093】
極性の高い金属硫化物触媒粒子はアスファルテン分子と結合する、または結合することができるが、前記活性触媒粒子が分解および形成する前に前記重油内で触媒前駆体組成物を前述のとおり密接または十分に混合しなければならないのは、極性の高い触媒化合物と疎水性重油との不適合のためである。金属触媒化合物は極性が高いため、直接追加した場合、重油内に効果的に分散することはできない。実際の問題として、より小さな活性触媒粒子が形成すると触媒粒子数が多くなり、前記重油中でより均一に分散した触媒部位を提供する。
【0094】
IV.改良型沸騰床リアクター
図4は、開示された方法およびシステムで使用することができる、改良型沸騰床水素化システムの例400を概略的に図示する。沸騰床水素化システム400には、改良型沸騰床リアクター430および熱分離器404(または蒸留塔などの他の分離器)を含む。改良型沸騰床リアクター430を作成するため、触媒前駆体402は1若しくはそれ以上のミキサー406において炭化水素希釈剤404と最初に予混合し、触媒前駆体混合物409を形成する。触媒前駆体混合物409を原料408に追加し、1若しくはそれ以上のミキサー410内で前記原料と混合し、調整原料411を形成する。調整原料は周囲にポンプ414を有するサージ管に供給し、前記調整原料内の前記触媒前駆体をさらに混合および分散させる。
【0095】
サージ管412の調製原料は、1若しくはそれ以上のポンプ416で加圧し、プレヒーター418を通過し、加圧水素ガス420と一緒に、沸騰床リアクター430の下部またはその付近にある吸入ポート436を経て沸騰床リアクター430に供給される。沸騰床リアクター430の重油材料426には、触媒粒子424として概略的に図示された分散金属硫化物触媒粒子を含む。
【0096】
重油原料408は望みの化石燃料原料および/またはその分画を有し、これに限定されるものではないが、1若しくはそれ以上の重質原油、油砂瀝青、原油のバレル分画底部、大気塔底部、真空塔底部、コールタール、液化石炭、および他の残油分画を含んでもよい。一部の実施形態では、重油原料408がかなりの割合の高沸点炭化水素(すなわち、公称値で343℃(650°F)以上、より具体的には、公称値で524℃(975°F)以上)、および/またはアスファルテンを含むことができる。アスファルテンは複雑な炭化水素分子であり、水素と炭素を比較的低い割合で含み、これはパラフィン側鎖を有する相当数の縮合芳香・ナフテン環の結果である(
図1参照)。前記縮合芳香・ナフテン環から成るシートは硫黄または窒素などのヘテロ原子および/またはポリメチレン架橋、チオ―エステル結合、およびバナジウムおよびニッケル複合体により保持される。前記アスファルテン分画も原油または残りの減圧残油よりも硫黄および窒素含有量が高く、高濃度の炭素形成化合物も含む(すなわち、コークス前駆体および沈降物を形成する)。
【0097】
沸騰床リアクター430は、さらに、不均一触媒444を有する拡大触媒ゾーン442を含む。下方不均一触媒フリーゾーン448は拡大触媒ゾーン442の下に位置し、上方不均一触媒フリーゾーン450は拡大触媒ゾーン442の上に位置する。分散金属硫化物触媒粒子424は、拡大触媒ゾーン442、不均一触媒フリーゾーン448、450、452を含む沸騰床リアクター430内で材料426中に分散することで、前記二元触媒システムを含むように改良される前に、前記沸騰床リアクターで触媒フリーゾーンを構成する要素内で改良反応を促すために利用できる。
【0098】
単なる水素処理反応ではなく、水素化分解反応を促すためには、水素処理リアクターは好ましくは約750°F(399℃)~約860°F(460℃)の範囲、より好ましくは約780°F(416℃)~約830°F(443℃)の範囲の温度で操作され、好ましくは約1000psig(6.9MPa)~約3000psig(20.7MPa)の範囲、より好ましくは約1500psig(10.3MPa)~約2500psig(17.2MPa)の範囲の圧力で操作され、約0.05hr-1~約0.45hr-1の範囲、より好ましくは約0.15hr-1~約0.35hr-1の範囲の宇宙速度(LHSV)で操作される。水素化分解と水素処理との差も残油転化として表現することができる(ここで、水素化分解では高沸点炭化水素から低沸点炭化水素への変換が起こるが、水素処理では起こらない)。本明細書で開示される水素化システムでは、約40%~約90%の範囲、好ましくは約55%~約80%の範囲で樹脂の転化を起こすことができる。原料が異なると処理の難しさも異なるため、好適な転化の範囲は典型的には原料のタイプに依存する。典型的には、改良前に沸騰床リアクターを操作し、本明細書で開示されたとおり二元触媒システムを利用する場合と比較し、転化は少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%多くなる。
【0099】
沸騰床リアクター430中の材料426は、沸騰ポンプに接続した再利用チャネル452によって上方不均一触媒フリーゾーン450から下方不均一触媒フリーゾーン448に連続的に再循環する。再利用チャネル452の上部には、漏斗状再利用カップ456があり、ここを通って、材料426は上方不均一触媒フリーゾーン450から引き抜かれる。再利用材料426は新たに調整した原料411および水素ガス420と混合される。
【0100】
新たに追加された触媒444は触媒吸入チューブ458から沸騰床リアクター430に導入され、使用済み不均一触媒444は触媒回収チューブ460を経て引き抜かれる。前記触媒回収チューブ460は完全に使用された触媒、部分的に使用されたが活性な触媒、および新たに追加された触媒を区別することはできないが、分散金属硫化物触媒粒子424があると、拡大触媒ゾーン442、再利用チャネル452、および下方および上方不均一触媒フリーゾーン448、450内に触媒活性が追加される。不均一触媒444の外で炭化水素に水素が追加されると、沈降物およびコークス前駆体の形成が最小限となり、これは前記不均一触媒の不活性化が原因であることが多い。
【0101】
沸騰床リアクター430は、さらに上部またはその付近に排出ポート438を含み、そこから転化した材料440が引き抜かれる。転化した材料440は熱分離器または蒸留塔404に導入される。熱分離器または蒸留塔404は1若しくはそれ以上の揮発性分画405を分離し、熱分離器404の上部から、残油分画407より引き抜かれ、これは熱分離器または蒸留塔404の下部から引き抜かれる。残油分画407は残留金属硫化物触媒粒子を含み、触媒粒子424として概略的に図示される。望ましい場合、残油分画407の少なくとも一部は、供給材料の一部を形成し、追加の金属硫化物触媒粒子を供給するため、沸騰床リアクター430に戻して再利用することができる。代わりに、残油分画407は、別の沸騰床リアクターなど、下流の処理装置を用いてさらに処理することができる。その場合、分離器404は中間分離器とすることができる。
【0102】
一部の実施形態では、前記改良型沸騰床リアクターを高いリアクター酷度およびプラスチック二次加工製品の生産速度が上昇した状態で操作すると、装置汚染率は沸騰床リアクターを初期条件で操作した場合と同等またはそれよりも低くなる。
【0103】
例えば、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の装置汚染率は、洗浄のための熱交換器運転停止の頻度となり、これは前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した際と同等またはそれ未満となる。
【0104】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の装置汚染率は、洗浄のための大気および/または真空蒸留塔運転停止の頻度となり、これは前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した際と同等またはそれ未満である。
【0105】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の汚染率は、フィルターの交換または洗浄の頻度となり、これは前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した際と同等またはそれ未満である。
【0106】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の汚染率は、スイッチが熱交換器を使わない頻度となり、これは前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した際と同等またはそれ未満である。
【0107】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の汚染率は、前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した場合よりも、1若しくはそれ以上の熱交換器、分離器、または蒸留塔から選択される装置の表面温度が低下する確率が低下してもよい。
【0108】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の汚染率は、前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した場合よりも、煙管金属温度が上昇する確率が低下してもよい。
【0109】
加えて、または代わりに、前記二元触媒システムを用い、前記改良型沸騰床リアクターを操作する場合の汚染率は、前記沸騰床リアクターを最初に操作した場合よりも、熱交換器の汚染抵抗因子の計算値が上昇する確率が低下してもよい。
【0110】
一部の実施形態では、前記改良型沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを用いて操作すると、沈降物生成率は前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した場合と同等またはそれよりも低くなる。一部の実施形態では、沈降物生成率は(1)大気塔底部の生成物、(2)真空塔底部の生成物、(3)熱低圧分離器の生成物、または(4)カッターストック追加前後の燃料油生成物の1若しくはそれ以上で沈降物の測定に基づくことができる。
【0111】
一部の実施形態では、前記改良型沸騰床リアクターを前記二元触媒システムを用いて操作すると、生成物の沈降物濃度は前記沸騰床リアクターを初期条件で操作した場合と同等またはそれよりも低くなる。一部の実施形態では、前記生成物沈降物濃度は(1)大気残留生成物切断部および/または大気塔底部生成物、(2)真空残留生成物切断部および/または真空塔底部生成物、(3)大気塔に供給される材料、(4)熱低圧分離器の生成物、または(5)1若しくはそれ以上のカッターストック追加前後の燃料油生成物の1若しくはそれ以上で沈降物の測定に基づくことができる。
【0112】
V.実験研究および結果
以下の試験研究は、重油を水素化する際、不均一触媒および分散金属硫化物触媒粒子から成る二元触媒システムを使用するため、沸騰床リアクターを改良する効果および利点を証明している。この試験に使用される試験的生産工場は、
図5のとおり設計された。
図5に概略的に図示するとおり、連続して接続された沸騰床リアクター512、512’を有する試験的生産工場500を使用し、重油原料を処理する際に不均一触媒自体を使用する場合と、不均一触媒と分散金属硫化物触媒粒子(すなわち、二硫化モリブデン触媒粒子)から成る二元触媒システムとの違いを判定した。
【0113】
以下の試験研究については、重真空ガス油を炭化水素希釈剤として使用した。前記前駆体混合物は、一定量の触媒前駆体と一定量の炭化水素希釈剤を混合し、触媒前駆体混合物を形成し、次に一定量の前記触媒前駆体混合物と一定量の重油原料を混合し、前記調整原料中の分散触媒の目標負荷を達成することで調整される。具体的な図解として、前記調整原料中の目標負荷を分散金属硫化物触媒30ppmとした1試験研究では(前記負荷は金属濃度に基づき表現される)、前記触媒前駆体混合物は、金属濃度3000ppmとして調整された。
【0114】
実際の試験の原料および操作条件は、以下により具体的に特定される。前記不均一触媒は沸騰リアクターでは一般的に使用される市販の触媒であった。分散金属硫化物触媒が使用されていない比較試験研究では、前記炭化水素希釈剤(重真空ガス油)を希釈前駆体混合物を使用した際と同じ割合で前記重油原料に追加した。これにより、前記バックグラウンド組成物が、前記二元触媒システムを使用した試験と不均一(沸騰床)触媒のみを使用した試験で同じであることが確保され、それによって試験結果を直接比較することができる。
【0115】
試験的生産工場500は、より具体的には、炭化水素希釈剤および触媒前駆体(例えば、2-エチルヘキサン酸モリブデン)から成る前駆体混合物と重油原料(集合的に501と示される)を混合し、調整原料を形成する、高剪断混合容器502を含んでいた。適切な混合は、最初に触媒前駆体と炭化水素希釈剤を予混合し、前駆体混合物を形成することで達成可能である。
【0116】
前記調整原料は、サージ管および周辺ポンプと同様、ポンプ504によっても前記混合管502に再循環される。高精度の容積移送式ポンプ506は、前記再循環ループから前記調整原料を引き抜き、前記リアクター圧力に加圧する。水素ガス508は前記加圧原料に供給され、得られた混合物は最初の沸騰床リアクター512に導入される前にプレヒーター510を通過する。前記プレヒーター510は、前記調整原料内の前記触媒前駆体の少なくとも一部を分解させ、前記原料内でそのまま活性触媒粒子を形成することができる。
【0117】
各沸騰床リアクター512、512’は公称内容積を約3000mlとし、前記不均一触媒を前記リアクター内に留めるメッシュワイヤーカード514を含むことができる。各リアクターには再利用ラインおよび再利用ポンプ513、513’も装備し、これは前記リアクター内で必要な流速を提供し、前記不均一触媒床を拡大する。すべて特定のリアクター温度で維持される、リアクターおよびそれぞれの再利用ラインを合わせた容積は、前記システムの熱反応容積と考えられ、液空間速度(LHSV)の計算に基づいて使用することができる。これらの実施例については、「LHSV」は、1時間あたりで前記リアクターに供給される減圧残油原料の容積を熱反応容積で割ったものと定義される。
【0118】
各リアクター内の触媒の確立した高さは、下方の破線516によって概略的に図示され、使用中の拡大触媒床は上方の破線518によって概略的に図示される。再循環ポンプ513を使用し、リアクター512の上部から底部に処理された材料を再循環し、材料の着実な上昇の流れおよび触媒床の拡大を維持する。
【0119】
第1リアクター512の改良された材料は、追加の水素520とともに第2のリアクター512’に移され、さらに水素化される。第2再循環ポンプ513’を使用し、第2リアクター512’の上部から底部に処理された材料を再循環し、材料の着実な上昇の流れおよび触媒床の拡大を維持する。
【0120】
第2リアクター512’のさらに改良された材料は熱分離器522に導入され、低沸点炭化水素生成物の蒸気およびガス524を、非転化重油から成る液体分画526から分離する。前記炭化水素生成物の蒸気およびガス524を冷却し、冷分離器528に導入し、ここでガス530とプラスチック二次加工炭化水素製品に分離され、分離器頭上部532として回収される。熱分離器522の液体分画526は分離器底部534として回収され、これは分析に使用することができる。
【0121】
実施例1~4
実施例1~4は前述の試験的生産工場で実施され、二元触媒システムを利用した改良型沸騰床リアクターが、沈降物の形成を維持または減少しつつ、同等の供給量(処理量)で実質的に高い転化率で操作する能力を試験した。転化増加には、残油転化、C
7アスファルテン転化、および微小残留炭素(MCR)転化が多いことなどが挙げられた。本研究に利用された重油原料は、Ural減圧残油(VR)であった。上述のとおり、調整原料は一定量の触媒前駆体混合物と一定量の重油原料を混合し、必要量の分散触媒を含む最終調整原料とすることで調整した。その例外は分散触媒を使用していない試験であり、この場合は重真空ガス油が同じ割合で触媒前駆体混合物に置換された。前記調整原料は
図5の試験的生産工場に供給され、特定のパラメーターを用いて操作した。関連プロセスの条件および結果は、表1に示す。
【0122】
【0123】
実施例1および2では、不均一触媒を利用し、改良して本発明の二元触媒システムを利用する前に沸騰床リアクターをシミュレートした。実施例3および4では、実施例1および2の同じ不均一触媒から成る二元触媒システム、および分散硫化モリブデン触媒粒子を利用した。前記原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、前記分散触媒により提供されるモリブデン金属(Mo)の百万分率(ppm)濃度として測定した。実施例1および2の原料には分散触媒は含まれず(0ppm Mo)、実施例3の原料には30ppm Moの濃度で分散触媒が含まれ、実施例4の原料にはより高い50ppm Moの濃度で分散触媒が含まれた。
【0124】
実施例1はベースラインの試験であり、Ural VRは789°F(421℃)の温度および残油転化率60.0%で水素化された。実施例2では、前記温度が801°F(427℃)に上昇し、(1000°F+、%に基づく)残油転化は67.7%に増加した。これにより、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.78%から1.22%に、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.67%から0.98%に、C7アスファルテンの転化は40.6%から43.0%に、MCRの転化は49.3%から51.9%に大幅に増加した。このことは、実施例1および2でそれ自体で使用される不均一触媒は、沈降物形成を大きく増加させずに、温度上昇および転化の増加に耐えることはできないことを示している。
【0125】
(30ppm Moを提供する)分散触媒を含む二元触媒システムを利用した実施例3では、リアクター温度は801°F(427℃)に上昇し、残油転化は67.0%に増加した。供給量は0.24から0.25にわずかに増加した(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)。高温、残油転化および供給量が多い場合でも、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.78%から0.76%にわずかに減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.67%から0.61%にさらに大きく減少した。残油転化が多いことに加え、前記C7アスファルテンの転化は40.6%から46.9%に増加し、MCRの転化は49.3%から55.2%に増加した。
【0126】
実施例3の二元触媒システムも、43.0%から46.9%へのさらなるC7アスファルテン転化の増加、および51.9%から55.2%へのMCR転化の増加など、実施例2でそれ自体で使用される不均一触媒を大差で明らかに上回っていたが、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)は1.22%から0.76%に、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.98%から0.61%に大きく減少した。
【0127】
(50ppm Moを提供する)分散触媒を含む前記二元触媒システムを利用した実施例4では、リアクター温度は801°F(427℃)、転化は65.9%、供給量は0.25であった(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)。実施例1と比較し、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.78%から0.54%に大幅に減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.67%から0.45%に大きく減少した。さらに、前記C7アスファルテンの転化は40.6%から46.9%に増加し、MCRの転化は49.3%から54.8%に増加した。これは、実施例4の二元触媒システムも、43.0%から46.9%へのさらなるC7アスファルテン転化の増加、および51.9%から54.8%へのMCR転化の増加など、実施例2でそれ自体で使用される不均一触媒をさらに大差で明らかに上回っていたが、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)は1.22%から0.54%に、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.98%から0.45%に減少した。
【0128】
不均一触媒のみを使用した沸騰床リアクターと比較し、操作温度、残油転化、C7アスファルテン転化、およびMCR転化は上昇し、供給量(処理量)は同等であるが、実質的に沈降物生成が減少するなど、実施例3および4は、改良型沸騰水素化リアクターの二元触媒システムがリアクター酷度を上昇させることができることを明らかに証明した。
【0129】
実施例5~8
実施例5~8は前述の試験的生産工場で実施され、二元触媒システムを利用した改良型沸騰床リアクターが、沈降物の形成を維持または減少しつつ、同等の供給量(処理量)で実質的に高い転化率で操作する能力を試験した。転化増加には、残油転化、C7アスファルテン転化、および微小残留炭素(MCR)転化が多いことなどが挙げられた。本研究に利用された重油原料は、Arab Medium減圧残油(VR)であった。関連プロセスの条件および結果は、表2に示す。
【0130】
【0131】
実施例5および6の沈降物データは、概念的に、沈降物生成について誤った方向性の傾向を示していることに注意する(すなわち、同じ不均一触媒を使用し、分散触媒は使用していないが、残油転化率が高いと沈降物が少ない)。それにもかかわらず、実施例6~8を比較した結果は二元触媒システムを用いた場合に明らかに改善を示した。
【0132】
実施例5および6では、不均一触媒を利用し、改良して本発明の二元触媒システムを利用する前に沸騰床リアクターをシミュレートした。実施例7および8では、実施例5および6の同じ不均一触媒から成る二元触媒システム、および分散硫化モリブデン触媒粒子を利用した。前記原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、前記分散触媒により提供されるモリブデン金属(Mo)の百万分率(ppm)濃度として測定した。実施例5および6の原料には分散触媒は含まれず(0ppm Mo)、実施例7の原料には分散触媒が含まれ(30ppm Mo)、実施例8の原料には分散触媒が含まれた(50ppm Mo)。
【0133】
実施例5はベースラインの試験であり、Arab Medium VRは803°F(428℃)の温度および残油転化率73.2%で水素化された。実施例6では、前記温度が815°F(435℃)に上昇し、(1000°F+、%に基づく)残油転化は81.4%に増加した。生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は1.40%から0.91%に減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は1.05%から0.61%に減少し、C7アスファルテンの転化は55.8%から65.9%に増加し、MCRの転化は47.2%から55.2%に増加した。実施例7および8の二元触媒システムを比較する目的で、実施例5および6を使用することができる。ただし、最も直接的な比較は実施例6の結果に対するものであり、実施例7および8と基本的に同じ残油転化で行われた。
【0134】
(30ppm Moを提供する)分散触媒粒子を利用した実施例7では、リアクター温度は実施例5の803°F(428℃)から815°F(435℃)に上昇し、残油転化は実施例5の73.2%から79.9%に上昇した。供給量は0.25で維持された(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)。高温、転化および供給量が多い場合でも、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は1.40%から0.68%にわずかに減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は1.05%から0.49%に減少した。残油転化が多いことに加え、前記C7アスファルテンの転化は55.8%から72.9%に増加し、MCRの転化は47.2%から57.7%に増加した。
【0135】
実施例7の二元触媒システムも、65.9%から72.9%へのさらなるC7アスファルテン転化の増加、および55.2%から57.7%へのMCR転化の増加など、実施例6でそれ自体で使用される不均一触媒を大差で明らかに上回っていたが、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.91%から0.68%に、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.61%から0.49%に大きく減少した。
【0136】
(50ppm Moを提供する)分散触媒を利用した実施例8では、リアクター温度は815°F(435℃)、転化率は80.8%、供給量は0.25であった(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)。実施例5と比較し、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は1.40%から0.43%に大幅に減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は1.05%から0.31%に大きく減少した。さらに、前記C7アスファルテンの転化は55.8%から76.0%に増加し、MCRの転化は47.2%から61.8%に増加した。
【0137】
実施例8の二元触媒システムも、65.9%から76.0%へのさらなるC7アスファルテン転化の増加、および55.2%から61.8%へのMCR転化の増加など、実施例6でそれ自体で使用される不均一触媒を明らかに上回っていたが、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.91%から0.43%に、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.61%から0.31%に実質的に減少した。
【0138】
不均一触媒のみを使用した沸騰床リアクターと比較し、操作温度、残油転化、C7アスファルテン転化、およびMCR転化は上昇し、供給量(処理量)は同等であるが、実質的に沈降物生成が減少するなど、実施例7および8は、改良型沸騰床水素化リアクターの二元触媒システムがリアクター酷度を上昇させることができることを明らかに証明した。
【0139】
実施例9~13
実施例9~13は、二元触媒システムを利用した改良型沸騰床リアクターが、沈降物の形成を維持または減少しつつ、同等の供給量(処理量)で実質的に高い転化率で操作する能力を示した商業的な結果である。転化増加には、残油転化、C7アスファルテン転化、および微小残留炭素(MCR)転化が多いことなどが挙げられた。本研究に利用された重油原料は、Ural減圧残油(VR)であった。本試験のデータは、顧客の秘密保持のため、絶対的結果ではなく、相対的結果を示している。関連プロセスの条件および結果は、表1に示す。
【0140】
【0141】
実施例9では、改良して本発明の二元触媒システムを利用する改良前に、沸騰床リアクターで不均一触媒を利用した。実施例10~13では、実施例9の同じ不均一触媒から成る二元触媒システム、および分散硫化モリブデン触媒粒子を利用した。前記原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、前記分散触媒により提供されるモリブデン金属(Mo)の百万分率(ppm)濃度として測定した。実施例9の原料には分散触媒は含まれず(0ppm Mo)、実施例10~13の原料には分散触媒が含まれた(32ppm Mo)。
【0142】
実施例9は、Ural VRが基本温度(Tbase)、基本供給量(LHSVbase)、基本残油転化(Convbase)、基本沈降物形成(Sedbase)、基本C7転化(C7 base)、および基本MCR転化(MCRbase)で水素化されるベースライン試験であった。
【0143】
実施例10では、温度(Tbase)および供給量(LHSVbase)が実施例9と同じであった。分散触媒を含めると、基本残油転化と比較して残油転化がわずかに減少し(Convbase -1.3%)、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)が0.12%減少し(Sedbase -0.12%)、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)が0.02%減少し(Sedbase -0.02%)、C7アスファルテンの転化が18%増加し(C7 base+18%)、MCRの転化に変化はなかった(MCRbase)。これは、前記沸騰床リアクターを、それ自体で使用される不均一触媒(実施例9)ではなく、前記二元触媒システム(実施例10)を含むように単純に改良することで、C7アスファルテンの転化は実質的に増加するが、沈降物の形成は減少することを示している。残油転化はわずかに減少したとしても、はるかに重要な統計量がC7アスファルテンの転化増加であり、これはコークスの形成および装置汚染に最も関係する構成成分であるためである。
【0144】
実施例11では、温度(Tbase)が実施例9と比較して4℃上昇し(Tbase+4℃)、供給量(LHSVbase)は同じであった。これにより、残油転化が2.7%増加し(Convbase +2.7%)、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)が0.09%減少し(Sedbase -0.09%)、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)が0.05%減少し(Sedbase -0.05%)、C7アスファルテンの転化が25%増加し(C7 base+25%)、MCRの転化は2%増加した(MCRbase+2%)。これは、前記沸騰床リアクターを、それ自体で使用される不均一触媒ではなく、前記二元触媒システムを含むように改良することで、C7アスファルテンの転化は実質的に増加し、MCRの転化は増加するが、沈降物の形成は減少することを示している。残油転化はわずかに増加したが、はるかに重要な統計量は、C7アスファルテンの転化が大幅に大きく増加したことである。
【0145】
実施例12では、温度(Tbase)が実施例9と比較して6℃上昇し(Tbase+6℃)、供給量(LHSVbase)は同じであった。これにより、残油転化は6.3%と大幅に高くなり(Convbase+6.3%)、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)が0.06%減少し(Sedbase -0.06%)、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)が0.05%減少し(Sedbase -0.05%)、C7アスファルテンの転化が25%増加し(C7 base+25%)、MCRの転化は3%増加した(MCRbase+3%)。これは、前記沸騰床リアクターを、それ自体で使用される不均一触媒ではなく、前記二元触媒システムを含むように改良することで、残油の転化、C7アスファルテンの転化は実質的に増加し、MCRの転化は増加するが、沈降物の形成は減少することを示している。
【0146】
実施例13では、温度(Tbase)が実施例9と比較して9℃上昇し(Tbase+9℃)、供給量(LHSVbase)は同じであった。これにより、残油転化は10.4%とかなり高くなり(Convbase+10.4%)、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)が0.07%減少し(Sedbase -0.07%)、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)が0.07%減少し(Sedbase -0.07%)、C7アスファルテンの転化が18%増加し(C7 base+18%)、MCRの転化は+4%増加した(MCRbase+4%)。これは、前記沸騰床リアクターを、それ自体で使用される不均一触媒ではなく、前記二元触媒システムを含むように改良することで、残油の転化、C7アスファルテンの転化、MCRの転化は実質的に増加するが、沈降物の形成は減少することを示している。
【0147】
不均一触媒のみを使用した沸騰床リアクターと比較し、操作温度、残油転化、C7アスファルテン転化、およびMCR転化は上昇し、供給量(処理量)は同等であるが、実質的に沈降物生成が減少するなど、実施例10~13は、改良型沸騰水素化リアクターの二元触媒システムがリアクター酷度を上昇させることができることを明らかに証明した。
【0148】
図3に示されたデータに加え、
図6は、実施例9~13に従い、様々な触媒を用いて減圧残油(VR)を水素化した場合のベースライン値と比較した、残油転化(Residue Conversion)の関数として、真空塔底部(VTB)内のIP-375沈降物を図解した散布図および折れ線グラフである。
図9は、二元触媒システムを用いた改良型沸騰床リアクターと比較し、従来の沸騰床リアクターを用いて生成した真空塔底部(VTB)の沈降物の量を目視比較している。
【0149】
実施例14~16
実施例14~16は前述の試験的生産工場で実施され、二元触媒システムを利用した改良型沸騰床リアクターが、沈降物の形成を維持または減少しつつ、同等の残油転化で実質的に高い供給量(処理量)で操作する能力を試験した。本研究に利用された重油原料は、Arab Medium減圧残油(VR)であった。関連プロセスの条件および結果は、表4に示す。
【0150】
【0151】
実施例14および15では、不均一触媒を利用し、改良して本発明の二元触媒システムを利用する前に沸騰床リアクターをシミュレートした。実施例16では、実施例14および15の同じ不均一触媒から成る二元触媒システム、および分散硫化モリブデン触媒粒子を利用した。前記原料中の分散硫化モリブデン触媒粒子の濃度は、前記分散触媒により提供されるモリブデン金属(Mo)の百万分率(ppm)濃度として測定した。実施例14および15の原料には分散触媒は含まれず(0ppm Mo)、実施例16の原料には分散触媒が含まれた(30ppm Mo)。
【0152】
実施例14はベースラインの試験であり、Arab Medium VRは788°F(420℃)の温度および残油転化率62%で水素化された。実施例15では、前記温度は800°F(427℃)に上昇し、残油転化は62%で維持し、供給量(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)は0.33に増加した。これにより、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.37%から0.57%に大幅に増加し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.30%から0.44%に増加し、C7アスファルテンの転化は58.0%から48.0%に大幅に減少し、MCRの転化は58.5%から53.5%に減少した。このことは、実施例14および15でそれ自体で使用される不均一触媒は、沈降物形成を大きく増加させずに温度および供給量の増加に耐えることはできないことを示している。
【0153】
(30ppm Moを提供する)分散触媒粒子を利用した実施例16では、リアクター温度は803°F(428℃)に上昇し、残油転化は62%で維持され、供給量は0.24から0.3に増加した(LHSV、供給容積/リアクター容積/時間)。高温および供給量が多い場合でも、生成物IP-375の沈降物(分離器底部のwt.%として)は0.37%から0.10%に大幅に減少し、生成物IP-375の沈降物(供給オイルのwt.%として)は0.30%から0.08%に大幅に減少した。さらに、前記C7アスファルテンの転化は58.0%から59.5%に上昇し、MCRの転化は58.5%から57.0%に減少した。
【0154】
実施例16の二元触媒システムは、生成物IP-375沈降物(分離器底部のwt.%として)の0.57%から0.10%への大幅な低下、生成物IP-375沈降物(供給オイルのwt.%として)の0.44%から0.08%への大幅な低下、C7アスファルテン転化の48.0%から59.5%への大幅な増加、およびMCR転化の53.5%から57.0%への増加など、実施例15の不均一触媒を大差で明らかに上回っていた。
【0155】
表3に示されるデータに加え、
図7は、Arab Medium減圧残油(VR)を様々な濃度の分散触媒を用いて水素化し、実施例14~16に従う条件で操作した場合のリアクター温度の関数として、残油の転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【0156】
図8は、Arab Medium VRを実施例14~13に従い、様々な触媒を用いて水素化した場合の残油転化の関数として、O-6底部のIP-375沈降物を図解した散布図および折れ線グラフである。
【0157】
図9は、Arab Medium VRを様々な濃度の分散触媒を用いて条件を操作し、実施例14~16に従う条件で操作した場合の残油転化の関数として、アスファルテンの転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【0158】
図10は、Arab Medium VRを様々な濃度の分散触媒を用いて条件を水素化し、実施例14~16に従う条件で操作した場合の残油転化の関数として、微小残留炭素(MCR)転化を図解した散布図および折れ線グラフである。
【0159】
本発明は、その精神または重要な特徴から離れることなく、他の特定の形態で実施することができる。説明された実施形態は、あらゆる点で説明的および制限的と考えられる。したがって、本発明の範囲は、前述の説明よりも添付の請求項によって示される。前記請求項の意味および等価性の範囲に入るすべての変更がその範囲に含まれる。