(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】抗TNFα抗体およびそれらの機能的断片
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220819BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220819BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20220819BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220819BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220819BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220819BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220819BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220819BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220819BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220819BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/24
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P1/04
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2019500014
(86)(22)【出願日】2017-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2017056246
(87)【国際公開番号】W WO2017158097
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-02-20
(32)【優先日】2016-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518330316
【氏名又は名称】ティロッツ ファーマ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 15,4310 Rheinfelden Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】グンデ,テア
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フラー,エステル マリア
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503177(JP,A)
【文献】特表2013-536175(JP,A)
【文献】国際公開第2015/144852(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/065987(WO,A1)
【文献】WIEKOWSKI, Maria et al.,INFLIXIMAB (REMICADE),HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES,WILEY-VCH,2007年,PAGE(S):885 - 904,http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/9783527619740.ch34/pdf
【文献】KUPPER, Hartmut et al.,ADALIMUMAB (HUMIRA),HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES,WILEY-VCH,2007年,PAGE(S):697 - 732,http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/9783527619740.ch27/pdf
【文献】MELMED, Gil Y. et al.,CERTOLIZUMAB PEGOL,NATURE REVIEWS DRUG DISCOVERY,英国,NATURE PUBLISHING GROUP,2008年08月,VOL:7, NR:8,PAGE(S):641 - 642,http://dx.doi.org/10.1038/nrd2654
【文献】MAZUMDAR, Sohini et al.,GOLIMUMAB,MABS,米国,LANDES BIOSCIENCE,2009年09月,VOL:1, NR:5,PAGE(S):422 - 431
【文献】CDP 571: ANTI-TNF MONOCLONAL ANTIBODY, BAY 103356, BAY W 3356, HUMICADE,DRUGS IN R AND D,NZ,ADIS INTERNATIONAL LTD,2003年,VOL:4, NR:3,PAGE(S):174 - 178,http://dx.doi.org/10.2165/00126839-200304030-00006
【文献】SALDANHA, Jose W. ,MOLECULAR ENGINEERING I: HUMANIZATION,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES,WILEY-VCH,2007年,PAGE(S):119 - 144
【文献】GERSHONI, Jonathan M. et al.,EPITOPE MAPPING - THE FIRST STEP IN DEVELOPING EPITOPE-BASED VACCINES,BIODRUGS,NZ,ADIS INTERNATIONAL LTD,2007年,VOL:21, NR:3,PAGE(S):145 - 156,http://dx.doi.org/10.2165/00063030-200721030-00002
【文献】RUDIKOFF, Stuart et al.,SINGLE AMINO ACID SUBSTITUTION ALTERING ANTIGEN-BINDING SPECIFICITY,PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES,米国,NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES,1982年03月,VOL:79, NR:6,PAGE(S):1979 - 1983,http://dx.doi.org/10.1073/pnas.79.6.1979
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 16/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合することができる抗体またはその機能的断片であって、(i)配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するV
Lドメインと、(ii)配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するV
Hドメインと、を含む、抗体または機能的断片。
【請求項2】
(i)100pM未満の解離定数(K
D)でヒトTNFαに結合し、
(ii)Macaca mulatta(アカゲザル)TNFαおよびMacaca fascicularis(カニクイザル)TNFαと交差反応性であり、
(iii)L929アッセイによって測定された場合、インフリキシマブよりも高いTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有し、
(iv)示差走査型蛍光測定法によって測定された、可変ドメインの融解温度が少なくとも70℃である、可変ドメインを含み、かつ/または
(v)少なくとも2の化学量論比(抗体:TNFα
Trimer)でヒトTNFα
Trimerに結合することができる、請求項1に記載の抗体または機能的断片。
【請求項3】
ヒトTNFαに70pM未満のK
Dで結合する、請求項1または2に記載の抗体または機能的断片。
【請求項4】
一本鎖可変断片(scFv)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の機能的断片。
【請求項5】
前記scFvは、配列番号25、配列番号26、および配列番号27からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の機能的断片。
【請求項6】
免疫グロブリンG(IgG)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
(i)配列番号31~33を有する、それぞれのヒトVκ1コンセンサス配列とは異なる前記抗体または機能的断片の前記可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域I~III中のアミノ酸の数と、(ii)配列番号34~37から選択される、最も類似したヒトλ生殖系列配列とは異なる前記抗体または前記機能的断片の前記可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域IV中のアミノ酸の数との合計が、7未満である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片。
【請求項8】
前記(i)のアミノ酸の数と前記(ii)のアミノ酸の数との合計が4未満である、請求項
7に記載の抗体または機能的断片。
【請求項9】
前記抗体または機能的断片の前記可変軽鎖ドメインの前記フレームワーク領域I~IIIは、それぞれ配列番号31~33を有する前記ヒトVκ1コンセンサス配列からなり、および前記フレームワーク領域IVは、配列番号34~37から選択される前記λ生殖系列配列からなる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の前記抗体または機能的断片をコードする核酸。
【請求項11】
請求項
10に記載の核酸を含むベクターまたはプラスミド。
【請求項12】
請求項
10に記載の核酸、または請求項
11に記載のベクターもしくはプラスミドを含む細胞。
【請求項13】
前記抗体または機能的断片をコードする前記核酸を発現させ得る条件下で、請求項
12に記載の細胞を培地で培養することと、前記抗体または機能的断片を前記細胞または前記培地から回収することと、を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片を調製する方法。
【請求項14】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の前記抗体または機能的断片、ならびに任意により薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
炎症性障害またはTNFα関連障害を治療する方法における使用のための請求項1~
9のいずれか一項に定義されている抗体または機能的断片。
【請求項16】
前記炎症性障害が胃腸管の炎症性障害である、請求項
15に記載の使用のための抗体または機能的断片。
【請求項17】
前記胃腸管の前記炎症性障害が炎症性腸疾患である、請求項
16に記載の使用のための抗体または機能的断片。
【請求項18】
前記胃腸管の前記炎症性障害がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項
16または
17に記載の使用のための抗体または機能的断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合することができる抗体分子およびそれらの機能的断片、それらの製造プロセス、およびそれらの治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
TNFαは、免疫系の細胞によって放出され、免疫系の細胞と相互作用するホモ三量体の炎症促進性サイトカインである。TNFαは、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、および多発性硬化症などの慢性疾患など、複数のヒト疾患においてアップレギュレーションされることもわかっている。
【0003】
TNFαに対する抗体は、エンドトキシンショックの予防および治療のために提唱されている(Beutlerら、Science,234,470-474,1985)。Bodmerら(Critical Care Medicine,21,S441-S446,1993)およびWherryら(Critical Care Medicine,21,S436-S440,1993)は、敗血症性ショックの治療における抗TNFα抗体の治療可能性を議論している。敗血症性ショックの治療における抗TNFα抗体の使用は、Kirschenbaumら(Critical Care Medicine、26,1625-1626,1998)によっても議論されている。コラーゲン誘発性関節炎は、抗TNFαモノクローナル抗体(Williamsら、(PNAS-USA,89,9784-9788,1992))を用いて、効果的に治療することができる。
【0004】
慢性関節リウマチおよびクローン病の治療における抗TNFα抗体の使用は、Feldmanら(Transplantation Proceedings,30,4126-4127,1998)、Adoriniら(Trends in Immunology Today,18,209-211,1997)、およびFeldmanら(Advances in Immunology,64,283~350,1997)において議論されている。このような治療において以前に使用されたTNFαに対する抗体は、一般に、キメラ抗体であり、例えば、米国特許第5,919,452号に記載されているものなどである。
【0005】
TNFαに対するモノクローナル抗体は、先行技術において記載されている。Meagerら(Hybridoma,6,305-311,1987)は、組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体を記載している。Fendlyら(Hybridoma,6,359-370,1987)は、TNF上の中和エピトープを規定する際の組換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体の使用について記載している。さらに、国際特許出願92/11383号には、TNFαに特異的なCDRグラフト化抗体を含む組換え抗体が開示されている。Rankinら(British J.Rheumatology,34,334-342,1995)は、慢性関節リウマチの治療におけるこのようなCDRグラフト化抗体の使用について記載している。米国特許第5,919,452号は、TNFαの存在に関連する病状の治療における抗TNFαキメラ抗体およびそれらの使用を開示する。さらなる抗TNFα抗体は、Stephensら(Immunology,85,668-674,1995)、独国特許246 570(A2)号、独国特許297 145(A2)号、米国特許第8,673,310号、米国特許第2014/0193400号、欧州特許第2 390 267(B1)号、米国特許第8,293,235号、米国特許第8,697,074号、国際特許出願2009/155723(A2)号、および国際特許出願2006/131013(A2)号に開示されている。
【0006】
先行技術の組換え抗TNFα抗体分子は、一般に、超可変領域またはCDRが由来する抗体と比較して、TNFαに対して低い親和性を有する。現在市販されているTNFαの阻害剤はすべて、ボーラス注射として週に1回またはそれ以上の間隔で静脈内または皮下に投与され、結果として開始濃度が高くなり、次の注射まで確実に減少する。
【0007】
現在承認されている抗TNFα生物療法剤としては、(i)インフリキシマブ、キメラIgG抗ヒトモノクローナル抗体(レミケード(登録商標);Wiekowski Mら:「インフリキシマブ(レミケード)」、Handbook of Therapeutic Antibodies,WILEY-VCH,Weinheim,2007-01-01、p.885-904)、(ii)エタネルセプト、TNFR2二量体融合タンパク質、IgG1 Fc(Enbrel(登録商標))、(iii)アダリムマブ、完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)(Humira(登録商標);Kupper Hら:「アダリムマブ(Humira)」、Handbook of Therapeutic Antibodies,WILEY-VCH;Weinheim、2007-01-01,p.697-732)、(iv)セルトリズマブ、PEG化されたFab断片(Cimzia(登録商標);Melmed GYら:「Certolizumab pegol」,Nature Reviews;Drug Discovery,Nature Publishing Group,GB、第7巻、第8号、2008-08-01、p.641-642)、(v)ゴリムマブ、ヒトIgG1Kモノクローナル抗体(Simponi(登録商標);Mazumdar Sら;「ゴリムマブ」、mAbs、Landes Bioscience,US、第1巻、第5号,2009-09-01,p.422-431)が挙げられる。しかし、様々なバイオシミラーが開発中であり、Remsimaとして知られているインフリキシマブ模倣物は既に欧州で承認されている。
【0008】
インフリキシマブは、TNFαに対して比較的低い親和性(KD>0.2nM;Weirら、2006,Therapy 3:535)を有し、かつL929アッセイにおいて限定された中和効力を有する。さらに、インフリキシマブは、カニクイザルまたはアカゲザル由来のTNFαとの交差反応性を実質的に示さない。しかし、抗TNFα抗体については、サル由来のTNFαとの交差反応性が非常に望ましく、これにより、霊長類を用いた動物試験が可能になるためであり、多くの面でヒトの状況を反映する。
【0009】
エタネルセプトは、二価分子であるが、1つのエタネルセプト分子当たり1つの三量体の比率でTNFαに結合し、大きい抗原-生物学的治療複合体の形成を妨げる(Wallis,2008,Lancet Infect Dis 8:601)。これが単球におけるLPS誘発サイトカイン分泌を阻害することはない(Kirchnerら,2004,Cytokine,28:67)。
【0010】
アダリムマブの効力は、インフリキシマブの効力に類似している。アダリムマブのもう一つの欠点は、例えば、熱アンフォールディング試験で決定されるように、安定性が乏しいことである。こうした試験におけるアダリムマブの融解温度(Tm)は67.5℃であると測定された。しかし、抗体のTm値が低いほど、一般的な安定性は低い。低Tmでは、例えば経口投与のための抗体の医薬用途への適合性が低下する。
【0011】
セルトリズマブの効力は、インフリキシマブの効力よりわずかに高いが、それでも満足できるものではない。セルトリズマブは、MLRにおいてT細胞の増殖を阻害することはない(Vosら、2011,Gastroenterology,140:221)。
【0012】
欧州明細書第2623515(A1)号は、ヒト化抗TNFα抗体およびそれらの抗原結合断片(Fab)を開示している。開示された実施例から明らかになるように、得られたヒト化Fab断片の効力は、L929中和アッセイにおいてインフリキシマブの効力に匹敵する(表2および5参照)。交差反応性について試験した唯一の抗TNFαIgG抗体は、アカゲザルTNF-αに弱く結合するのみである([0069];
図3参照)。カニクイザルTNFαとの交差反応性は試験しなかった。さらに、ヒトTNFβとの弱い結合が存在する(
図3参照)。したがって、欧州特許第2623515(A1)号は、インフリキシマブの効力よりも高いL929細胞におけるTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有し、アカゲザルTNFαおよびカニクイザルTNFαと交差反応性である抗TNFα抗体またはそれらの機能的断片を開示していない。
【0013】
国際出願第2012/007880(A2)号は、1つ以上の標的(例えば、TNFα)、リンカー、および1つ以上のポリマー分子に結合する、1つ以上の単一抗原結合ドメインを含む融合タンパク質の形態にある修飾単一ドメイン抗原結合分子(SDAB)について開示している。示された唯一の具体例は、SDAB-01と呼ばれ、柔軟なリンカーと連結させたTNFαに結合する2つの抗原結合ドメイン、および部位特異的PEG化を支持するC末端システインを含む(
図3参照)。国際出願第2012/007880(A2)号では、L929細胞を用いた中和アッセイにおいて、インフリキシマブなどの既知のTNFα抗体に対するSDAB-01の効力を比較することができないか、またはTNFα-TNFRI/II相互作用およびTNFβに対するTNFαの結合選択性をブロックする有効性などの他のSDAB-01特異的パラメータを評価することができない。ヒトTNFαが過剰発現する多発性関節炎トランスジェニックマウスモデル(54頁、実施例8を参照されたい)において、SDAB-01およびインフリキシマブを用いた治療を比較するアッセイにおいて、そのうちの2つが関節炎のさらなる発現を予防するのに同様に有効であると考えられる(例えば、
図17および
図18)。しかし、SDAB-01の分子量がインフリキシマブの分子量の半分未満であるために、この実施例での用量は誤解を招くことになる。したがって、国際公開第2012/007880(A2)号では、インフリキシマブの効力よりも高い、L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有する抗TNFα抗体については開示していない。
【0014】
国際出願第2015/144852(A1)号では、「scFv1」と命名された抗TNF-αscFvの特性を調べている。このscFvは、PK-15細胞アッセイにおいて、インフリキシマブのTNFα中和能に匹敵するTNFα中和能を示した([0236]参照)。さらに、scFvは、アカゲザルおよびカニクイザル由来のTNF-αに対してある程度の交差反応性を有すると考えられる(実施例8を参照されたい)。国際出願第2015/144852(A1)号には親和性データは報告されていない。しかし、中程度の親和性のみ有することがわかっている一本鎖抗体断片DLX105(ESBA105としても公知である)(K
D=157pM(Urechら、2010 Ann Rheum Dis 69:443を参照されたい)は、scFv1よりもTNFαへのより良好な結合を示す(国際出願第2015/144852(A1)号の
図1参照)。したがって、国際公開第2015/144852(A1)号では、ヒトTNFαに対して高い親和性を有する抗TNF-α抗体(K
D<100pM)については開示していない。
【0015】
国際公開第2015/065987(A1)号には、抗TNF-α抗体、抗IL-6抗体、および両方の抗原に結合する二重特異性抗体が記載されている。ある種の抗TNFα抗体は、カニクイザル由来のTNFαとある程度の交差反応性を示した(
図17)。しかし、抗TNFα抗体は、L929中和アッセイにおいてインフリキシマブよりも有意に低い効力を呈した([0152]
図5)。したがって、国際公開第2015/065987(A1)号では、インフリキシマブの効力よりも高い、L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有する抗TNFα抗体については開示していない。
【0016】
Drugs in R&D(第4巻、第3号、2003年、174-178頁)では、高親和性を有するモノクローナル抗TNFα抗体であるヒト化抗体「Humicade」(CDP571;BAY103356)を開示している。しかし、L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害するHumicadeの効力は制限されていると考えられる(例えば、米国特許出願公開第2003/0199679(A1)号[0189]参照)。したがって、参考文献は、インフリキシマブの効力よりも高い、L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有する抗TNF-α抗体については開示していない。
【0017】
Saldanha J Wら、「Molecular Engineering I:Humanization」(Handbook of Therapeutic Antibodies,第6章,2007年1月1日,WILEY-VCH,Weinheim,119-144頁)には、CDRグラフト化、リサーフェシング/ベニヤリング(Veneering)、SDR転送、除染技術などのモノクローナル抗体のヒト化に対する異なる戦略が開示されている。
【0018】
炎症性腸疾患などの慢性炎症性疾患を治療するための改善された抗体分子が必要とされている。抗体分子は、(i)ヒトTNFαに対する高親和性(すなわち、KD<100pM)、(ii)L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害する高い効力、(iii)カニクイザルおよびアカゲザル由来のTNFαに対する実質的な親和性(例えば、KD<1nM)、および(iv)熱アンフォールディング実験で決定される可変ドメインの高融解温度(例えば、Tm>70℃)、を少なくとも有するものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本出願の発明者らは、特定の抗TNFα抗体およびそれらの機能的断片が、ヒトTNFαに対する高親和性(KD<100pM)、インフリキシマブの効力よりも高い、L929細胞においてTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力、カニクイザル(Macaca fascicularis)および/またはアカゲザル(Macaca mulatta)などの動物由来のTNFαに対する実質的な親和性(KD<1nM)などの好ましい特性の組み合わせを呈することを見出した。さらに、抗体およびそれらの機能的断片は、可変ドメインの熱アンフォールディングアッセイで決定されるように、TNFβに有意に結合せず、有意な安定性を呈するという点でTNFαに特異的であった。
【0020】
本発明は、抗体分子およびそれらの機能的断片を提供する。
【0021】
従って、本発明は、下記(1)~(47)に記載の項目に定義された主題に関する:
(1)ヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)に結合することができる抗体またはその機能的断片であって、(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号2に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号3に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと、(ii)配列番号4に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号5に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインと、を含む、抗体またはその機能的断片、
(2)項目(1)の抗体または機能的断片であって、(i)配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと、(ii)配列番号10に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインと、を含む、抗体または機能的断片、
(3)抗体または機能的断片が、配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインを含む、項目(1)または(2)に記載の抗体または機能的断片、
(4)配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号22および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、VLドメインを含む、項目(1)~(3)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(5)ヒトTNFαに特異的に結合する、項目(1)~(4)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(6)抗体または機能的断片がTNFβに有意に結合しない、項目(1)~(5)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(7)
(i)100pM未満の解離定数(KD)でヒトTNFαに結合し、
(ii)Macaca mulattaTNFαおよびMacaca fascicularisTNFαと交差反応性であり、
(iii)L929アッセイによって測定された場合、インフリキシマブよりも高い効力を有し、かつ/または
(iv)少なくとも2の化学量論比(抗体:TNFαTrimer)でヒトTNFαTrimerに結合することができる、項目(1)~(6)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(8)ヒトTNFαに75pM未満のKDで結合する、項目(1)~(7)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(9)Macaca mulatta由来のTNFαに1nM未満のKDで結合する、項目(1)~(8)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(10)Macaca fascicularis由来のTNFαに1nM未満のKDで結合する、項目(1)~(9)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(11)L929アッセイで決定されたインフリキシマブの効力(相対効力)に対して、TNFα誘導アポトーシスを阻害する抗体または機能的断片の効力が5より高く、相対効力は、L929アッセイにおいてインフリキシマブのIC50値(ng/mL)とL929アッセイにおけるscFvフォーマットの抗体のIC50値(ng/mL)との比である、項目(1)~(10)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(12)示差走査型蛍光測定法によって決定されたscFvフォーマットの抗体の可変ドメインの融解温度が少なくとも65℃である、項目(1)~(11)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(13)示差走査型蛍光測定法によって決定されたscFvフォーマットの抗体の可変ドメインの融解温度が少なくとも70℃である、項目(1)~(12)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(14)示差走査型蛍光測定法によって測定される融解温度が少なくとも75℃である、項目(1)~(13)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(15)5回連続凍結-融解サイクル後のモノマー含量の損失が0.2%未満である、項目(1)~(14)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(16)4℃で4週間保存後のモノマー含量の損失が1%未満である、項目(1)~(15)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(17)阻害ELISAで測定した場合に、インフリキシマブの効力に対するヒトTNFαとTNFレセプターI(TNFRI)との間の相互作用をブロックする抗体または機能的断片の効力(相対効力)が、少なくとも1.3であり、相対効力は、インフリキシマブのIC50値(ng/mL)とscFvフォーマットにおける抗体のIC50値(ng/mL)との比である、項目(1)~(16)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(18)阻害ELISAで測定した場合に、インフリキシマブの効力に対するヒトTNFαとTNFレセプターII(TNFRII)との間の相互作用をブロックする抗体または機能的断片の効力(相対効力)が、少なくとも1.3であり、相対効力は、インフリキシマブのIC50値(ng/mL)とscFvフォーマットにおける抗体のIC50値(ng/mL)との比である、項目(1)~(17)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(19)混合リンパ球反応における末梢血単核細胞の細胞増殖を阻害することができる、項目(1)~(18)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(20)CD14+単球からのインターロイキン-1βのLPS誘発性分泌を阻害することができる、項目(1)~(19)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(21)インターロイキン-1βのLPS誘発性分泌を阻害するためのIC50値が1nM未満である、項目(20)に記載の抗体または機能的断片、
(22)モル基準で、インターロイキン-1βのLPS誘発性分泌を阻害するためのIC50値が、アダリムマブのIC50値より低い、項目(21)に記載の抗体または機能的断片、
(23)CD14+単球からのTNFαのLPS誘発性分泌を阻害することができる、項目(1)~(22)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(24)TNFαのLPS誘発性分泌を阻害するためのIC50値が1nM未満である、項目(23)に記載の抗体または機能的断片、
(25)モル基準で、TNFαのLPS誘発性分泌を阻害するためのIC50値が、アダリムマブのIC50値より低い、項目(24)に記載の抗体または機能的断片、
(26)免疫グロブリンG(IgG)である、項目(1)~(25)のいずれか一項に記載の抗体、
(27)一本鎖可変断片(scFv)である、項目(1)~(25)のいずれか一項に記載の機能的断片、
(28)scFvが、配列番号25、配列番号26、および配列番号27からなる群から選択され、好ましくは配列番号25および配列番号26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、項目(27)に記載の機能的断片、
(29)ダイアボディである、項目(1)~(25)のいずれか一項に記載の機能的断片、
(30)配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列番号22、配列番号23および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLドメインと、を含み、好ましくは、機能的断片は、配列番号22および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるVLを含む抗体として、ヒトTNFα上で本質的に同じエピトープに結合する抗体またはその機能的断片であって、特に、上記の項目1~29で言及された特徴のうちの1つ以上を呈する、抗体または機能的断片、
(31)(i)配列番号31~33を有する、それぞれのヒトVκ1コンセンサス配列とは異なる抗体または機能的断片の可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域I~III中のアミノ酸の数(表10参照)と、(ii)配列番号34~37から選択される、最も類似したヒトλ生殖系列配列とは異なる抗体または機能的断片の可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域IV中のアミノ酸の数(表11参照)との合計が、7未満、好ましくは4未満である、項目(1)~(30)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(32)抗体または機能的断片の可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域I~IIIは、それぞれ配列番号31~33とのヒトVκ1コンセンサス配列からなり、およびフレームワーク領域IVは、配列番号34~37から選択されるλ生殖系列配列からなる、項目(1)~(32)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、
(33)項目(1)~(32)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片をコードする核酸、
(34)項目(33)の核酸を含むベクターまたはプラスミド、
(35)項目(34)の核酸、または項目(33)のベクターもしくはプラスミドを含む細胞、
(36)抗体または機能的断片をコードする核酸を発現させ得る条件下で、項目(35)の細胞を培地で培養することと、抗体または機能的断片を細胞または培地から回収することと、を含む、項目(1)~(32)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片を調製する方法、
(37)項目(1)~(32)のいずれか一項に記載の抗体または機能的断片、ならびに任意により薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む医薬組成物、
(38)炎症性疾患またはTNFα関連障害を治療する方法に用いるための項目(1)~(32)のいずれか一項に定義されている抗体または機能的断片、
(39)炎症性障害またはTNFα関連障害が、以下の「治療対象障害」のセクションに列挙される疾患および障害のリストから選択される、項目(38)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(40)炎症性疾患が胃腸管の炎症性疾患である、項目(38)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(41)胃腸管の炎症性障害が炎症性腸疾患である、項目(40)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(42)胃腸管の炎症性障害がクローン病である、項目(40)または(41)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(43)クローン病が、回腸、結腸、回腸結腸、および/または単離上部クローン病(胃、十二指腸、および/または空腸)からなる群から選択され、非狭窄性/非浸透性、狭窄性、浸透性および肛門周囲疾患の挙動などを含み、上記のいずれかの局在化および疾患の挙動の任意の組合せが可能になる、項目(42)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(44)胃腸管の炎症性障害が潰瘍性大腸炎である、項目(40)または(41)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(45)潰瘍性大腸炎が、潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側結腸炎、全大腸型潰瘍性大腸炎、および嚢炎からなる群から選択される、項目(44)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(46)胃腸管の炎症性障害が顕微鏡的大腸炎である、項目(40)または(41)に記載の使用するための抗体または機能的断片、
(47)方法が、抗体または機能的断片を対象に経口投与することを含む、項目(38)~(46)のいずれか一項に記載の使用するための抗体または機能的断片。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】scFvの精製ヒト化scFv調製物のSE-HPLCクロマトグラムを示す図である。scFvモノマーは8.4~9.5分の保持時間で溶出するが、緩衝液成分は>10分で溶出する。カラムのデッドボリュームからそれぞれのscFvモノマーまでのすべてのピークは、凝集体/オリゴマーとして統合され、相対ピーク面積の計算に使用された。
【
図3】3つのscFv構築物のDSF測定からの熱アンフォールディング曲線を示す図である。各構築物について、重複している測定値が示されている。得られたTm値は、遷移の中間点を得るためにデータをボルツマン方程式に適合させることによって決定されている。
【
図4】保存中の3つのscFv構築物のモノマー含量の時間経過を示す図である。SE-HPLCで測定したモノマー含量は、4週間にわたる保存温度4℃、-20℃および<-65℃でプロットした。
【
図5】3つのscFv分子に関するSE-HPLCクロマトグラムのオーバーレイを示す図である。各scFvについて、d0と、4℃で4週間保存した後の試料(10mg/mL)とを示す。さらに、5サイクルの凍結融解後の試料のクロマトグラムを示す。挿入パネルには、各分子についてy軸の約15倍ズームを示し、オリゴマー含量の微小な変化を視覚化している。
【
図6】保存中のヒト化scFvのモノマー含量の時間経過を示す図である。10mg/mL試料について、SE-HPLCによって測定したモノマー含量を、37℃の保存温度で4週間にわたってプロットした。
【
図7】3つのscFvのL929アッセイにおけるヒトTNFαを中和する効力を示す図である。各実験について、scFvおよび参照抗体インフリキシマブの用量反応曲線を示す。scFvおよびインフリキシマブの最高濃度、ならびに陰性対照は、増殖の100%および0%に設定した。
【
図8】L929アッセイにおける非ヒト霊長類およびヒトTNFαを中和する2つのscFvの効力を示す図である。ヒト、カニクイザル、およびアカゲザルのTNFαの中和に関する用量反応曲線を示す。最高scFv濃度および陰性対照は、100%および0%の増殖に設定した。
【
図9】TNFα-TNFRI相互作用をブロックする2つのscFvの効力を示す図である。用量反応曲線が示されている。最高scFv濃度および陰性対照は、TNFαのTNFRIへの結合の0%および100%に設定した。
【
図10】TNFα-TNFRII相互作用をブロックする2つのscFvの効力を示す図である。用量反応曲線が示されている。最高scFv濃度および陰性対照は、TNFαのTNFIIへの結合の0%および100%に設定した。
【
図11】scFvの標的特異性を示す図である。ビオチン化TNFαとTNFαおよびTNFβによるscFvとの相互作用を阻害する可能性を競合ELISAによって分析した。TNFαおよびTNFβの用量依存的効果が示されている。
【
図12】SE-HPLC(実施例4)によって決定された17-22-B03-scFv:TNFα複合体の形成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ヒトTNFαに結合することができる抗体またはその機能的断片に関する。
【0024】
本出願の文脈において、用語「抗体」は、IgG、IgM、IgE、IgA、またはIgDクラス(または任意のサブクラス)に属する、そのすべての従来公知の抗体およびそれらの機能的断片を含むタンパク質として定義される「免疫グロブリン」(Ig)の同義語として用いられる。本発明の文脈において、抗体/免疫グロブリンの「機能的断片」は、抗原結合断片、または上述の項目(1)~(30)で言及されているこうした親抗体の1つ以上の特性を本質的に維持する親抗体の他の誘導体として定義される。抗体/免疫グロブリンの「抗原結合断片」は、抗原結合領域を保持する断片(例えば、IgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には抗体の1つ以上の超可変領域(すなわち、CDR-1、-2および/または-3領域)に見出される。本発明の「抗原結合断片」は、F(ab’)2断片およびFab断片のドメインを含む。本発明の「機能的断片」には、scFv、dsFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびFc融合タンパク質を含む。F(ab’)2またはFabは、CH1ドメインとCLドメインとの間で生じる分子間ジスルフィド相互作用を最小限にするか、または完全に除去するように設計され得る。本発明の抗体または機能的断片は、二重または多機能構築物の一部であってもよい。
【0025】
本発明における好ましい機能的断片は、scFvおよびダイアボディである。
【0026】
scFvは、可変軽鎖(「VL」)ドメインおよび可変重鎖(「VH」)ドメインがペプチド架橋によって連結されている一本鎖Fv断片である。
【0027】
ダイアボディとは、2つの断片からなる二量体であり、それぞれがリンカーなどを介して一緒に連結された可変領域を有し(以下、ダイアボディ形成断片と称する)、典型的には2つのVLおよび2つのVHを含む。ダイアボディ形成断片には、VLおよびVH、VLおよびVL、VHおよびVHなど、好ましくはVHおよびVLからなる断片が含まれる。ダイアボディ形成断片において、可変領域を連結するリンカーは、特に限定されないが、好ましくは、同じ断片中の可変領域間の非共有結合を回避するために十分に短い。そのようなリンカーの長さは、当業者によって適切に決定され得るが、典型的には2~14個のアミノ酸、好ましくは3~9個のアミノ酸、特に4~6個のアミノ酸である。この場合、同じ断片上にコードされたVLおよびVHは、同じ鎖上のVLとVHとの間の非共有結合を回避するように、かつ一本鎖可変領域断片の形成を回避するように、十分に短いリンカーを介して連結され、これにより別の断片を有する二量体が形成され得るようになる。二量体は、共有結合または非共有結合のいずれか、またはその両方を介して、ダイアボディ形成断片間に形成され得る。
【0028】
さらに、ダイアボディ形成断片は、リンカーなどを介して連結されて、一本鎖ダイアボディ(sc(Fv)2)を形成することができる。ダイアボディ形成断片を約15~20個のアミノ酸の長いリンカーを用いて連結することにより、同じ鎖上に存在するダイアボディ形成断片間に非共有結合が形成されて、二量体を形成することができる。ダイアボディを調製するのと同じ原理に基づいて、三量体または四量体などの重合抗体もまた、3つ以上のダイアボディ形成断片を連結することによって調製することができる。
【0029】
好ましくは、本発明の抗体または機能的断片は、TNFαに特異的に結合する。本明細書で使用される場合、抗体または機能的断片が、ヒトTNFαと1つ以上の参照分子との間を識別することができる場合、抗体またはその機能的断片は、ヒトTNFαを「特異的に認識している」または「特異的に結合している」。好ましくは、参照分子の各々への結合についてのIC50値は、特に実施例2の2.1.4項に記載されるように、TNFαへの結合についてのIC50値よりも少なくとも1,000倍高い。最も一般的な形態(および定義された参照が記載されていない場合)において、「特異的結合」とは、例えば、当技術分野で公知の特異性アッセイ法により測定される場合、ヒトTNFαと非関連生体分子とを区別する抗体または機能的断片の能力を指す。このような方法は、ウェスタンブロットおよびELISA試験を含むが、これに限定されない。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。典型的には、結合特異性の決定は、単一の参照生体分子ではなく、ミルクパウダー、BSA、トランスフェリンなどの約3~5個の非関連生体分子のセットを使用することによって行われる。一実施形態では、特異的結合は、ヒトTNFαとヒトTNFβとを識別する抗体または断片の能力を指す。
【0030】
本発明の抗体または本発明の機能的断片は、VLドメインおよびVHドメインを含む。VLドメインは、CDR1領域(CDRL1)、CDR2領域(CDRL2)、CDR3領域(CDRL3)、およびフレームワーク領域を含む。VHドメインは、CDR1領域(CDRH1)、CDR2領域(CDRH2)、CDR3領域(CDRH3)、およびフレームワーク領域を含む。
【0031】
用語「CDR」は、主に抗原結合に寄与する抗体の可変ドメイン内の6つの超可変領域のうちの1つを指す。6つのCDRの最も一般的に使用される定義の1つは、Kabat E.A.ら(1991年)のSequences of proteins of immunological interest.NIH Publication 91-3242)によって提供された。本明細書で使用される場合、KabatのCDRの定義は、軽鎖可変ドメインのCDR1、CDR2およびCDR3(CDRL1、CDRL2、CDRL3、またはL1、L2、L3)、ならびに重鎖可変ドメインCDR2およびCDR3(CDRH2、CDRH3、またはH2、H3)のみ適用される。しかし、本明細書で使用される場合、重鎖可変ドメインのCDR1(CDRH1またはH1)は、以下の残基(Kabat番号付け)によって定義される:位置26で開始し、位置36より前に終わる。
【0032】
VLドメインのCDR1領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。好ましくは、VLドメインのCDR1領域は、配列番号7、配列番号16、配列番号17、および配列番号19からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。最も好ましくは、VLドメインのCDR1領域は、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる。
【0033】
VLドメインのCDR2領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。好ましくは、VLドメインのCDR2領域は、配列番号8、配列番号13、および配列番号20からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。最も好ましくは、VLドメインのCDR2領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる。
【0034】
VLドメインのCDR3領域は、配列番号3に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。好ましくは、VLドメインのCDR3領域は、配列番号28に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。特定の実施形態では、VLドメインのCDR3領域は、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる。
【0035】
VHドメインのCDR1領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。好ましくは、VLドメインのCDR1領域は、配列番号10および配列番号18からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。最も好ましくは、VHドメインのCDR1領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる。
【0036】
VHドメインのCDR2領域は、配列番号5に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。好ましくは、VHドメインのCDR2領域は、配列番号11、配列番号12、配列番号14、および配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる。最も好ましくは、VHドメインのCDR2領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる。
【0037】
VHドメインのCDR3領域は、配列番号6に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列からなる。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の抗体または本発明の機能的断片は、(i)配列番号1に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号2に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号3に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと、(ii)配列番号4に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号5に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号6に示されるアミノ酸配列によるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインと、を含む。
【0039】
特定の実施形態では、本発明の抗体または本発明の機能的断片は、(i)配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと、(ii)配列番号10に示されるアミノ酸配列を有するCDR1領域、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有するCDR2領域、および配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインと、を含む。
【0040】
より好ましい実施形態では、本発明の抗体または本発明の機能的断片は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメインを含む。別のより好ましい実施形態では、抗体または機能的断片は、配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。さらにより好ましい実施形態では、抗体または機能的断片は、配列番号22および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。最も好ましくは、本発明の抗体または本発明の機能的断片は、(i)配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメイン、および(ii)配列番号22、配列番号23、または配列番号24に示されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む。
【0041】
特に好ましい実施形態では、機能的断片は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメイン、および配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含む一本鎖抗体(scFv)である。VHドメインおよびVLドメインは、好ましくは、ペプチドリンカーによって連結される。ペプチドリンカー(以下、「リンカーA」と称する)は、典型的には約10~約30個のアミノ酸、より好ましくは約15~約25個のアミノ酸の長さを有する。リンカーAは、典型的にはGlyおよびSer残基を含むが、他のアミノ酸も可能である。好ましい実施形態では、リンカーは、配列GGGGS(配列番号30)の複数の繰り返し、例えば、配列番号30に示されるアミノ酸配列の2~6、または3~5、または4つの連続する繰り返しを含む。最も好ましくは、リンカーAは、配列番号29に示されるアミノ酸配列からなる。scFvは、以下の構造を有し得る(N末端が左、C末端が右である):
VL-LinkerA-VH、または
VH-LinkerA-VL
【0042】
最も好ましくは、機能的断片は、配列番号25、配列番号26、および配列番号27からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる一本鎖抗体(scFv)である。
【0043】
別の特に好ましい実施形態では、機能的断片は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を有するVHドメイン、および配列番号22、配列番号23、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するVLドメインを含むダイアボディである。VHドメインおよびVLドメインは、ペプチドリンカーによって連結される。ペプチドリンカー(以下、「リンカーB」と称する)は、好ましくは約2~約10個のアミノ酸、より好ましくは約5個のアミノ酸の長さを有する。リンカーBは、典型的にはGlyおよびSer残基を含むが、他のアミノ酸も可能である。最も好ましくは、リンカーBは、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなる。
【0044】
ダイアボディは、好ましくは単一特異的ダイアボディであり、すなわち、1つのエピトープのみに向けられる。ダイアボディは、好ましくはホモ二量体である。ダイアボディは、互いに共有結合していない2つのポリペプチド鎖の二量体であってもよい。各モノマーは、以下の構造を有するポリペプチド鎖であってもよい:
VL-LinkerB-VH;または
VH-LinkerB-VL
【0045】
さらに、ダイアボディ形成断片は、リンカーAなどを介して連結されて、一本鎖ダイアボディ(sc(Fv)2)を形成することができる。ダイアボディ形成断片を約15~20個のアミノ酸の長いリンカーを用いて連結することにより、同じ鎖上に存在するダイアボディ形成断片間に非共有結合が形成されて、二量体を形成することができる。一本鎖ダイアボディの配置の例としては、以下のものが挙げられる。
VH-linkerB-VL-linkerA-VH-linkerB-VL
VL-linkerB-VH-linkerA-VL-linkerB-VH
好ましくは、本発明のダイアボディは以下の構造を有する:
VL-linkerB-VH-linkerA-VL-linkerB-VH
【0046】
ダイアボディを調製するのと同じ原理に基づいて、三量体または四量体などの重合抗体もまた、3つ以上のダイアボディ形成断片を連結することによって調製することができる。
【0047】
別の特定の実施形態では、本発明の抗体は免疫グロブリン、好ましくは免疫グロブリンG(IgG)である。本発明のIgGのサブクラスは、これに限定されないが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられる。好ましくは、本発明のIgGはサブクラス1である。すなわちIgG1分子である。
親和性
【0048】
本発明の抗体または機能的断片は、ヒトTNFαに対して高い親和性を有する。用語「KD」は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。典型的には、本発明の抗体または機能的断片は、例えば、BIACORE装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して測定した場合、約2×10-10M未満、好ましくは1.5×10-10M未満、好ましくは1×10-10M未満、最も好ましくは7×10-11M未満、またはさらにそれ以下の解離平衡定数(KD)でヒトTNFαに結合する。特に、KDの決定は、実施例2の2.1.1項に記載されているように実施する。
カニクイザルまたはアカゲザル由来のTNFαに対する交差反応性
【0049】
特定の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、カニクイザル(Macaca fascicularis)および/またはアカゲザル(Macaca mulatta)などの動物由来のTNFαに対する実質的な親和性を有する。毒性研究などの抗ヒトTNFα抗体の前臨床試験が好ましくはこのような動物で行われるので、これは有利である。したがって、本発明の抗体または機能的断片は、好ましくは、カニクイザルおよび/またはアカゲザルなどの動物由来のTNFαと交差反応性である。親和性の測定は、実施例2の2.1.1項に記載されているように実施する。
【0050】
一実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、Macaca fascicularis由来のTNFαと交差反応性である。本発明の抗体または機能的断片は、好ましくは、10倍未満、特に5倍未満、さらにより具体的には2倍未満、さらには1.5倍未満ヒトTNFαに対する親和性とは異なる、Macaca fascicularisTNFαに対する親和性を有する。典型的には、本発明の抗体または機能的断片は、Macaca fascicularis由来のTNFαと、解離平衡定数(K
D)で結合し、(i)Macaca fascicularis由来のTNFαへの結合のK
Dと(ii)ヒトTNFαへの結合のK
Dとの比R
M.fascicularisが10未満である。
【数1】
【0051】
RM.fascicularisは、好ましくは5未満、特に2未満、さらにより好ましくは1.5未満である。
【0052】
別の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、Macaca mulatta由来のTNFαと交差反応性である。本発明の抗体または機能的断片は、好ましくは、20倍未満、より具体的には10倍未満、さらにより具体的には5倍未満ヒトTNFαとの親和性とは異なる、Macaca mulatta TNFαに対する親和性を有する。典型的には、本発明の抗体または機能的断片は、Macaca mulatta由来のTNFαと、解離平衡定数(K
D)で結合し、(i)Macaca mulatta由来のTNFαへの結合のK
Dと(ii)ヒトTNFαへの結合のK
Dとの比R
M.mulattaが20未満である。
【数2】
R
M.mulattaは、好ましくは20未満、特に10未満、さらにより好ましくは5未満である。
【0053】
さらに別の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、Macaca fascicularis由来のTNFαおよびMacaca mulatta由来のTNFαと交差反応性である。本発明の抗体または機能的断片は、好ましくは、10倍未満、特に5倍未満、さらにより具体的には2倍未満、または1.5倍未満、ヒトTNFαに対する親和性とは異なる、Macaca fascicularisTNFαに対する親和性を有し、好ましくは、ヒトTNFαとは20倍未満、より具体的には10倍未満、さらにより具体的には5倍未満異なる、Macaca mulattaTNFαに対する親和性を有する。抗体または機能的断片の比RM.fascicularisは、好ましくは10未満、特に5未満、さらにより具体的には2未満であり、さらにより具体的には1.5未満、抗体または機能的断片の比RM.mulattaは、好ましくは20未満、具体的には10未満、さらにより具体的には5未満である。
L929細胞のTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力
【0054】
本発明の抗体または機能的断片は、L929細胞のTNFα誘導アポトーシスを阻害する高い効力を有する。特定の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、既知の抗体インフリキシマブよりも高いL929細胞のTNFα誘導アポトーシスを阻害する効力を有する。
【0055】
インフリキシマブに対する効力は、本出願の実施例2の2.1.2項に記載されるL929アッセイにおいて決定することができる。本発明の抗体または機能的断片の相対効力は、1.5より高く、好ましくは2より高く、より好ましくは3より高く、より好ましくは5より高く、より好ましくは7.5より高く、またはさらに10より高く、相対効力は、(i)L929アッセイにおけるインフリキシマブのIC50値と、(ii)L929アッセイにおける本発明の抗体または機能的断片のIC50値に対するIC50値との比であり、IC50は、L929細胞のTNF誘導アポトーシスの最大阻害の50%を達成するために必要なそれぞれの分子の濃度(ng/mL)を示す。
【0056】
別の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片の相対効力は、1.5より高く、好ましくは2より高く、より好ましくは3より高く、より好ましくは5より高く、より好ましくは7.5より高く、またはさらに10より高く、相対効力は、(i)L929アッセイにおけるインフリキシマブのIC90値対(ii)L929アッセイにおける本発明の抗体または機能的断片のIC90値の比であり、IC90値は、L929細胞のTNF誘導アポトーシスの最大阻害である90%を達成するために必要なそれぞれの分子の濃度(ng/mL)を示す。
LPS誘発サイトカイン分泌の阻害
【0057】
本発明の抗体または機能的断片は、単球からのLPS誘発サイトカイン分泌を阻害することができる。単球からのLPS誘発サイトカイン分泌は、実施例7に記載のとおり決定することができる。
【0058】
一実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、CD14+単球からのインターロイキン-1βのLPS誘発分泌を阻害することができる。インターロイキン-1βのLPS誘発分泌を阻害するためのIC50値は、好ましくは1nM未満および/または100pg/mL未満であってもよい。モル基準および/または体積当たりの重量基準において、インターロイキン-1βのLPS誘発分泌を阻害するためのIC50値は、好ましくはアダリムマブのIC50値よりも低くてもよい。
【0059】
別の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、CD14+単球からのTNFαのLPS誘発分泌を阻害することができる。TNFαのLPS誘発分泌を阻害するためのIC50値は、好ましくは1nM未満および/または150pg/mL未満であってもよい。モル基準および/または体積当たりの重量基準において、TNFαのLPS誘発分泌を阻害するためのIC50値は、好ましくはアダリムマブのIC50値よりも低くてもよい。
細胞増殖の阻害
【0060】
本発明の抗体または機能的断片は、典型的には、混合リンパ球反応における末梢血単核細胞の細胞増殖を阻害することができる。細胞増殖の阻害は、実施例6に記載のとおり決定することができる。実施例6に従って決定された抗体または機能的断片、例えば本発明のscFvまたはダイアボディの刺激指数は、5未満、または4.5未満であってもよい。特定の実施形態では、抗体の刺激指数、例えば本発明のIgGの刺激指数は、4未満または3未満である。
TNFαとTNFレセプターとの間の相互作用の阻害
【0061】
典型的には、本発明の抗体または機能的断片は、ヒトTNFαとTNFレセプターI(TNFRI)との間の相互作用を阻害することができる。ヒトTNFαとTNFRIとの間の相互作用の阻害は、以下の実施例2の2.1.3項に記載している阻害ELISAにおいて決定することができる。
【0062】
インフリキシマブの効力に対する、ヒトTNFαとTNFRIとの間の相互作用を阻害する本発明の抗体または機能的断片の効力(相対効力)は、阻害ELISAにおいて測定された場合、好ましくは少なくとも1.3であり、相対効力は、インフリキシマブのIC50値(ng/mL)と、抗体またはその機能的断片のIC50値(ng/mL)との比である。
【0063】
典型的には、本発明の抗体または機能的断片は、ヒトTNFαとTNFレセプターII(TNFRII)との間の相互作用を阻害することができる。ヒトTNFαとTNFRIIとの間の相互作用の阻害は、以下の実施例2の2.1.3項に記載している阻害ELISAにおいて決定することができる。
【0064】
インフリキシマブの効力に対する、ヒトTNFαとTNFRIIとの間の相互作用を阻害する本発明の抗体または機能的断片の効力(相対効力)は、阻害ELISAにおいて測定された場合、好ましくは少なくとも1.3であり、相対効力は、インフリキシマブのIC50値(ng/mL)と、抗体またはその機能的断片のIC50値(ng/mL)との比である。
化学量論比および架橋
【0065】
本発明の抗体または機能的断片は、典型的には、少なくとも2の化学量論比(抗体:TNFαTrimer)でヒトTNFαTrimerに結合することができる。化学量論比(抗体:TNFαTrimer)は、好ましくは2超であり、または少なくとも2.5、または少なくとも3である。一実施形態では、化学量論比(抗体:TNFαTrimer)は、約3である。化学量論比(抗体:TNFαTrimer)は、以下の実施例4に記載するように決定することができる。
【0066】
別の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、ヒトTNFαと複合体を形成することができ、複合体は少なくとも2分子のTNFαおよび少なくとも3分子の抗体または機能的断片を含む。この実施形態による機能的断片は、例えばダイアボディなど、TNFαのための少なくとも2つの別個の結合部位を含む。複合体の形成は、以下の実施例5に記載するように決定することができる。
【0067】
一実施形態では、抗体はIgGであり、TNFαと少なくとも600kDaの複合体を形成することができる。別の実施形態では、機能的断片はダイアボディであり、TNFαと少なくとも300kDaの複合体を形成することができる。
標的選択性
【0068】
特定の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は、高い標的選択性を有する、すなわちTNFαとTNFβとを区別することができる。好ましくは、実施例2の2.1.4項に記載の競合ELISAで測定した場合、TNFβのIC50値は、TNFαのIC50値よりも少なくとも1,000倍高い。より好ましくは、実施例2の2.1.4項に記載の競合ELISAで測定した場合、TNFβのIC50値は、TNFαのIC50値よりも少なくとも5,000倍、最も好ましくは少なくとも10,000倍高い。
発現収率およびリフォールディング収率
【0069】
他の実施形態では、本発明の抗体または機能的断片、好ましくはscFvまたはダイアボディは、細菌などの微生物、または他の細胞において高収率で組換えにより発現され得る。好ましくは、実施例2に記載したように決定した大腸菌における発現収率は、少なくとも0.25g/Lである。これは特に、scFvなどの機能的断片に適用される。
【0070】
実施例2に記載されるとおり決定されたリフォールディング収率は、少なくとも5mg/L、より好ましくは少なくとも10mg/L、より好ましくは少なくとも15mg/L、最も好ましくは少なくとも20mg/Lである。これは特に、scFvなどの機能的断片に適用される。
安定性
【0071】
典型的には、本発明の抗体または機能的断片、好ましくはscFvまたはダイアボディは高い安定性を有する。安定性は、異なる方法論によって評価することができる。実施例2の2.2.4項に記載されている示差走査型蛍光測定(DSF)によって決定された、本発明の抗体または機能的断片の可変ドメインの「融解温度」Tmは、好ましくは少なくとも65℃、より好ましくは少なくとも68℃、より好ましくは少なくとも70℃、最も好ましくは少なくとも74℃である。本明細書で使用される場合、「可変ドメインの融解温度」とは、配列VL-LinkerA-VHからなるscFvの融解温度を意味し、リンカーAのアミノ酸配列は配列番号29に示されるアミノ酸配列からなる。例えば、IgGの可変ドメインの融解温度は、上で定義した対応するscFvの融解温度として定義される。
【0072】
実施例2の2.2.5項に記載の分析用サイズ排除クロマトグラフィで測定した場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含量の損失(10g/Lの濃度で、初期モノマー含量>95%)は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満である。実施例2の2.2.5項に記載の分析用サイズ排除クロマトグラフィで測定した場合、-20℃で4週間保存した後のモノマー含量の損失(10g/Lの濃度で、初期モノマー含量>95%)は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満である。実施例2の2.2.5項に記載の分析用サイズ排除クロマトグラフィで測定した場合、-65℃で4週間保存した後のモノマー含量の損失(10g/Lの濃度で、初期モノマー含量>95%)は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満である。
【0073】
実施例2に記載のとおりに測定した場合、5回連続凍結-融解サイクル後のモノマー損失は、5%未満、より好ましくは1%未満、より好ましくは0.5%未満、最も好ましくは0.2%未満、例えば0.1%または0.0%である。
抗体および機能的断片
【0074】
本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載の抗体の機能的断片に関する。機能的断片には、F(ab’)2断片、Fab断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディおよびテトラボディが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、機能的断片は、一本鎖抗体(scFv)またはダイアボディである。より好ましくは、scFvまたはダイアボディの非CDR配列は、ヒト配列である。
【0075】
好ましくは、ヒトにおける免疫原性の可能性を最小限にするために、選択されたアクセプター足場は、ヒトコンセンサス配列またはヒト生殖系列配列に由来するフレームワーク領域から構成される。特に、可変軽鎖ドメインのフレームワーク領域I~IIIは、配列番号31~33によるヒトVκ1コンセンサス配列と、配列番号34~37から選択されるλ生殖系列ベースの配列のフレームワーク領域IVとからなる。ヒトコンセンサスまたはヒト生殖系列残基ではない残基が免疫反応を引き起こす可能性があるので、各可変ドメイン(VHまたはVL)におけるこうした残基の数は、できるだけ少なく、好ましくは7未満、より好ましくは4未満、最も好ましくは0であるものとする。
【0076】
好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。本明細書で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。用語「モノクローナル抗体」は、それが産生される方法ではなく、任意の真核生物、原核生物またはファージクローンなどの単一のクローンに由来する抗体を指す。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージ提示技術、またはこれらの組み合わせの使用など、当技術分野で公知の多種多様な技術を用いて調製することができる(Harlow and Lane,「Antibodies, A Laboratory Manual」CSH Press 1988年、Cold Spring Harbor N.Y.)。
【0077】
ヒトにおける抗TNFα抗体のインビボでの使用に関する実施形態を含む他の実施形態では、キメラ抗体、霊長類化抗体、ヒト化抗体、またはヒトの抗体を使用することができる。好ましい実施形態では、抗体はヒト抗体またはヒト化抗体、より好ましくはモノクローナルヒト抗体またはモノクローナルヒト化抗体である。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「キメラ」抗体は、非ヒト免疫グロブリン(例えば、ラットまたはマウス抗体)由来の可変配列、およびヒト免疫グロブリン定常領域(典型的にはヒト免疫グロブリン鋳型から選択される)を有する抗体を指す。キメラ抗体を産生するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、Morrison,1985年、Science 229(4719):1202-7;Oiら、1986年、BioTechniques 4:214-221;Gilliesら、1985年,J.Immunol.Methods125:191-202;米国特許第5,807,715号、同第4,816,567号、および同4,816397号を参照されたい。これらは、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0079】
当業者は、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそれらの断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗体の他の標的結合サブ配列)などを作製することによって、非ヒト(例えばマウス)抗体をよりヒト様にするために、異なる組換え方法論が利用可能であり、これらは、このような非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む。一般に、得られる組換え抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的にすべてを含み、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのすべてまたは実質的にすべてに対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリン配列、特にヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のすべてまたは実質的にすべてに対応する。CDRグラフト化抗体は、ヒト免疫グロブリン分子から所望の抗原およびフレームワーク(FR)領域に結合する非ヒト種において最初に生成された抗体由来の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を有する抗体分子である(欧州特許第239400号、PCT公開国際出願91/09967、米国特許第5,225,539号、同5,530,101号、および同5,585,089号)。多くの場合、「ヒト化」と呼ばれるプロセスにおいて、ヒトフレームワーク領域内のフレームワーク残基は、抗原結合を変更、好ましくは改善するために、CDRドナー抗体由来の対応する残基でさらに置換される。これらのフレームワーク置換は、例えば、抗原結合に重要なフレームワーク残基を同定するためのCDRとフレームワーク残基との相互作用のモデル化、および特定の位置での異常なフレームワーク残基を同定するための配列の比較などによる、当該分野で周知の方法によって同定される。例えば、Riechmannら,1988年,Nature 332:323-7,およびQueenら,米国特許第5,530,101号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、および同第6,180,370号(これらの各々は、その全体が参照により組み込まれる)を参照されたい。抗体は、例えば、ベニヤリングまたはリサーフェシング(欧州特許第592106号、同第519596号、Padlan,1991年,Mol,Immunol,28:489-498;Studnickaら、1994年、Prot,Eng.7:805-814;Roguskaら、1994年、Proc.Natl.Acad.Sci.91:969-973、および鎖シャッフリング米国特許第5,565,332号)など、様々な追加技術を用いてより多くのヒトに行うことができる。これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。CDRグラフト化またはヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的には選択されたヒト免疫グロブリン鋳型の少なくとも一部分を含むことができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、Queenら、米国5,530,101号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、および同第6,180,370号(これらの各々は、その全体が参照により組み込まれる)に記載されているように調製される。
【0081】
いくつかの実施形態では、抗TNFα抗体は、ヒト抗体である。完全「ヒト」抗TNFα抗体は、ヒト患者の治療的処置に望ましい可能性がある。本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、およびヒト免疫グロブリンライブラリーから単離された抗体、または1つ以上のヒト免疫グロブリンについてトランスジェニック動物から単離された抗体を含み、これらは内因性免疫グロブリンを発現しない。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いて上記のファージディスプレイ法を含む、当技術分野で公知の様々な方法によって作製することができる。米国特許第4,444,887号および同第4,716,111号、ならびにPCT公報国際出願第98/46645号、国際出願第98/50433号、国際出願第98/24893号、国際出願第98/16654号、国際出願第96/34096号、国際出願第96/33735号、および国際出願第91/10741号に記載されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。ヒト抗体はまた、機能的内因性免疫グロブリンを発現することはできないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて産生することができる。例えば、PCT公開国際出願第98/24893号、国際出願第92/01047号、国際出願第96/34096号、国際出願第96/33735号、米国特許第5,413,923号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、同第5,569,825号、同第5,661,016号、同第5,545,806号、同第5,814,318号、同第5,885,793号、同第5,916,771号、および同第5,939,598号を参照されたい。これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択(guided selection)」と呼ばれる技術を用いて生成することができる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を誘導する(Jespersら,1988年,Biotechnology12:899-903)。
【0082】
いくつかの実施形態では、抗TNFα抗体は、霊長類化抗体である。用語「霊長類化抗体」は、サルの可変領域およびヒト定常領域を含む抗体を指す。霊長類化抗体を産生するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第5,658,570号、同第5,681,722号、および同第5,693,780号を参照されたい。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0083】
いくつかの実施形態では、抗TNFα抗体は、誘導体化抗体である。例えば、これらに限定されないが、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解性切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への連結などによって修飾された誘導体化抗体(抗体コンジュゲートの考察については以下を参照のこと)。これらに限定されないが、ツニカマイシンの特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化、代謝合成などを含む既知の技術によって、多数の化学修飾のいずれかを実施することができる。さらに、誘導体は、1つ以上の非古典的アミノ酸を含むことができる。
【0084】
さらに他の態様では、抗TNFα抗体は、例えば米国特許第2007/0280931号に記載されているように、その超可変領域の1つ以上に挿入された1つ以上のアミノ酸を有する。
抗体コンジュゲート
【0085】
いくつかの実施形態では、抗TNFα抗体は、例えば、任意のタイプの分子の抗体への共有結合による結合により修飾された抗体コンジュゲートである。これにより、共有結合による結合が、TNFαへの結合を妨害しないようになる。エフェクター部分を抗体にコンジュゲート結合させる技術は、当技術分野において周知である(例えば、Hellstromら、Controlled Drag Delivery,第2版,623-53頁(Robinsonら、編、1987年)、Thorpeら、1982年、Immunol.Rev.62:119-58、およびDubowchikら、1999年、Pharmacology and Therapeutics 83:67-123を参照されたい)。
【0086】
1つの例において、抗体またはその断片は、共有結合(例えば、ペプチド結合)を介して、任意によりN末端またはC末端で、別のタンパク質のアミノ酸配列(またはその一部;好ましくはタンパク質の少なくとも10、20または50個のアミノ酸部分)に融合される。好ましくは、抗体またはその断片は、抗体の定常ドメインのN末端で他のタンパク質に連結される。このような融合物を作製するために、例えば国際出願第86/01533号および欧州特許第0392745号に記載されているように、組換えDNA手順を使用することができる。別の例において、エフェクター分子はインビボで半減期を増加させることができる。このタイプの好適なエフェクター分子の例には、ポリマー、アルブミン、アルブミン結合タンパク質、または国際出願第2005/117984号に記載されているようなアルブミン結合化合物が含まれる。
【0087】
いくつかの実施形態では、抗TNFα抗体をポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に結合させることができる。例えば、抗体が抗体断片である場合、PEG部分は、抗体断片に位置する任意の利用可能なアミノ酸側鎖または末端アミノ酸官能基、例えば任意の遊離アミノ基、イミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基を介して結合され得る。このようなアミノ酸は、抗体断片中に自然に発生し得るか、または組換えDNA法を用いて断片中に設計され得る。例えば米国特許第5,219,996号を参照されたい。複数の部位を用いて、2つ以上のPEG分子を結合させることができる。好ましくは、PEG部分は、抗体断片中に位置する少なくとも1つのシステイン残基のチオール基を介して共有結合により連結される。チオール基が結合点として使用される場合、適切に活性化されたエフェクター部分、例えば、マレイミドおよびシステイン誘導体などのチオール選択的誘導体を使用することができる。
【0088】
別の例では、抗TNFα抗体コンジュゲートは、例えば欧州特許第0948544号に開示された方法に従ってPEG化された、すなわちそれに共有結合により結合されたPEG(ポリ(エチレングリコール))を有する修飾Fab’断片である。また、Poly(ethyleneglycol)Chemistry,Biotechnical and Biomedical Applications(J.Milton Harris(編),Plenum Press,New York,1992);Poly(ethyleneglycol) Chemistry and Biological Applications(J.Milton Harris and S.Zalipsky(編)American Chemical Society,Washington D.C,1997);およびBioconjugation Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences(M.Aslam and A.Dent,(編),Grove Publishers,New York,1998);およびChapman,2002,Advanced DrugDelivery Reviews 54:531-545を参照されたい。
医薬組成物および治療
【0089】
疾患の治療は、あらゆる臨床段階または症状、疾患の症状もしくは兆候の発症、進展、もしくは憎悪、もしくは悪化の遅延、および/または疾患の重篤度の予防および/もしくは軽減において、疾患の任意の形態を有すると既に診断された患者の治療を包含する。
【0090】
抗TNFα抗体またはその機能的断片が投与される「対象」または「患者」は、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)などの哺乳動物、または霊長類(例えば、サルもしくはヒト)であってもよい。ある態様では、ヒトは小児患者である。他の態様では、ヒトは成人患者である。
抗TNFα抗体、および任意により1つ以上の追加の治療剤、例えば以下に記載の第2の治療剤を含む組成物が本明細書に記載される。組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む無菌の医薬組成物の一部として供給される。この組成物は、(患者に投与する所望の方法に応じて)任意の好適な形態であり得る。
【0091】
抗TNFα抗体および機能的断片は、経口、経皮、皮下、鼻腔内、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、局部(topically)または局所(locally)などの様々な経路によって患者に投与することができる。任意の所定の場合の投与のための最も好適な経路は、特定の抗体、対象、および疾患の性質および重症度、ならびに対象の身体的状態に依存する。典型的には、抗TNFα抗体またはその機能的断片は静脈内投与される。
【0092】
特に好ましい実施形態では、本発明の抗体または機能的断片は経口投与される。投与が経口経路によるものである場合、機能的断片は、好ましくは一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディ、またはIgGである。
典型的な実施形態では、抗TNFα抗体または機能的断片は、0.5mg/kg体重~20mg/kg体重の静脈内投与を可能にするのに十分な濃度で医薬組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物および方法における使用に好適な抗体または断片の濃度としては、これらに限定されないが、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、または、例えば1mg/kg~10mg/kg、5mg/kg~15mg/kg、もしくは10mg/kg~18mg/kgなどの前述のいずれかの間の範囲の濃度が挙げられる。
【0093】
抗TNFα抗体または機能的断片の有効用量は、単回(例えば、ボーラス)投与、複数回投与または連続投与につき約0.001~約750mg/kgの範囲であってもよく、または単回(例えば、ボーラス)投与、複数回投与または連続投与につき0.01~5000μg/mLの血清濃度を達成するような範囲であってもよいか、または処置される状態、投与経路、ならびに対象の年齢、体重、および状態に応じて、その中の任意の有効な範囲または値の範囲であってもよい。特定の実施形態では、各用量は、約0.5mg/kg体重~約50mg/kg体重または約3mg/kg体重~約30mg/kg体重の範囲であり得る。抗体は、水溶液として配合してもよい。
【0094】
医薬組成物は、用量当たり所定量の抗TNFα抗体または機能的断片を含有する単位用量形態で便利なように提示することができる。こうした単位は、0.5mg~5g、例えば、これらに限定されないが、1mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、750mg、1000mg、または上記の値の任意の2つの間の任意の範囲、例えば、10mg~1000mg、20mg~50mg、または30mg~300mgを含んでもよい。薬学的に許容される担体は、例えば、処置される状態または投与経路に応じて、多種多様な形態をとることができる。
【0095】
抗TNFα抗体またはその機能的断片の有効用量、総用量数および処置期間の決定は、十分に当業者の能力の範囲内であり、また標準用量漸増研究を用いて決定することができる。
【0096】
本明細書に記載の方法に好適な抗TNFα抗体および機能的断片の治療用配合物は、所望の純度を有する抗体を、当該技術分野で典型的に使用される任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤、すなわち、緩衝剤、安定化剤、防腐剤、等張剤、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤、および他の雑多な添加物など(本明細書では、それらのすべてを「担体」と称する)と混合することによって、凍結乾燥配合物または水溶液として保存するために調製することができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版(Osol(編),1980年)を参照されたい。このような添加剤は、使用される用量および濃度でレシピエントに対して無毒でなければならない。
【0097】
緩衝剤は、生理学的条件に近い範囲のpHを維持するのに役立つ。これらは、約2mM~約50mMの範囲の濃度で存在することができる。適切な緩衝剤には、有機酸および無機酸の両方およびそれらの塩、例えば、クエン酸緩衝液(例えば、クエン酸一ナトリウム-クエン酸二ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸一ナトリウム混合物など)、コハク酸緩衝液(例えば、コハク酸-コハク酸一ナトリウム混合物、コハク酸-水酸化ナトリウム混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウム混合物など)、酒石酸緩衝液(例えば、酒石酸-酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸-酒石酸カリウム混合物、酒石酸-水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウム混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウム混合物、フマル酸一ナトリウム-フマル酸二ナトリウム混合物など)、グルコン酸緩衝液(例えば、グルコン酸-グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸塩緩衝液(例えば、シュウ酸-シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸緩衝液(例えば、乳酸-乳酸ナトリウム混合物、乳酸-水酸化ナトリウム混合物、乳酸-乳酸カリウム混合物など)、および酢酸緩衝液(例えば、酢酸-酢酸ナトリウム混合物、酢酸-水酸化ナトリウム混合物など)が挙げられる。さらに、リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、およびトリスなどのトリメチルアミン塩を使用することができる。
【0098】
防腐剤は、微生物増殖を遅らせるために添加することができ、0.2%~1%(重量/体積)の範囲の量で添加することができる。好適な防腐剤としては、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、ベンザルコニウムハロゲン化物(例えば塩化物、臭化物およびヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、およびメチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールなどが挙げられる。安定剤としても公知であることのある等張剤は、液体組成物の等張性を確実にするために添加することができ、多価糖アルコール、好ましくはグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどの3価以上の糖アルコールが挙げられる。安定化剤は、増量剤から、治療薬を可溶化する添加剤、または変性もしくは容器壁への付着を防ぐのに役立つ添加剤まで、さまざまな機能となり得る賦形剤の幅広いカテゴリーを指す。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上記に列挙)、アルギニン、リジン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン、などのアミノ酸、ラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロールなどの有機糖または糖アルコール(イノシトールなどのシクリトール);ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロールおよび硫酸チオ硫酸ナトリウムなどの硫黄含有還元剤;低分子量ポリペプチド(例えば、10残基以下のペプチド);ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドン、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースなどの単糖類、ラクトース、マルトース、スクロースなどの二糖類、ラフィノースなどの三糖類;およびデキストランなどの多糖類などの親水性ポリマーであってもよい。安定化剤は、活性タンパク質1重量部当たり0.1~10,000重量の範囲で存在してもよい。
【0099】
非イオン性界面活性剤(surfactant)または界面活性剤(detergent)(「湿潤剤」としても知られている)を添加して、治療剤の可溶化を助けるとともに、撹拌誘発凝集から治療用タンパク質を保護することができ、これにより、タンパク質の変性を引き起こすことなく、応力が加えられた剪断表面に配合物が曝され得る。好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、プルロニックポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80など)が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/mL~約1.0mg/mLの範囲、または約0.07mg/mL~約0.2mg/mLの範囲で存在することができる。
【0100】
追加の雑多な賦形剤としては、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、プロテアーゼ阻害剤、および共溶媒が挙げられる。
【0101】
本明細書の配合物はまた、抗TNFα抗体またはその機能的断片に加えて、第2の治療剤を含んでもよい。好適な第2の治療薬の例を以下に示す。
【0102】
投薬スケジュールは、疾患のタイプ、疾患の重症度、および抗TNFα抗体または機能的断片に対する患者の感受性などの臨床因子の数に応じて、毎日1回から毎月1回まで変化し得る。特定の実施形態では、抗TNFα抗体またはその機能的断片は、毎日1回、週に2回、週に3回、隔日、5日ごと、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、4週間ごともしくは月1回、例えば4日ごとから月1回、10日ごとから2週間ごと、もしくは週に2~3回など、上記の値の任意の2つの間の任意の範囲内で投与される。
【0103】
投与される抗TNFα抗体または機能的断片の投与量は、特定の抗体、対象、ならびに疾患の性質および重症度、対象の体調、治療レジメン(例えば、第2の治療剤が使用されるか否か)、および選択された投与経路によって異なり、適切な投薬量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0104】
当業者であれば、抗TNFα抗体またはその機能的断片の個々の投薬量の最適な量および間隔は、治療される状態の性質および程度、投与形態、投与経路、および投与部位、ならびに治療される特定の対象の年齢および状態によって決定され、医師が、使用する適切な用量を最終的に決定することは認識するであろう。この投薬は、適切な回数繰り返すことができる。副作用が発現する場合、投薬の量および/または頻度は、正常な臨床診療に従って、変更または減少させることができる。
治療対象障害
【0105】
本発明は、本明細書で定義される抗体または機能的断片を対象に投与することを含む、対象におけるヒトTNFα関連疾患を治療または予防する方法に関する。用語「TNF関連障害」または「TNF関連疾患」は、TNFαの関与を必要とする症状または疾患状態の任意の障害、発症、進行または持続性を指す。例示的なTNF関連障害には、これに限定されるものではないが、一般的には炎症の慢性および/または自己免疫状態、一般的には免疫媒介性の炎症性障害、炎症性CNS疾患、眼、関節、肌、粘膜、中枢神経系、消化管、尿路、または肺に影響を及ぼす炎症性疾患、一般的なブドウ膜炎の状態、網膜炎、HLA-B27+ブドウ膜炎、ベーチェット病、ドライアイ症候群、緑内障、シェーグレン症候群、真性糖尿病(糖尿病性神経障害を含む)、インスリン抵抗性、一般的な関節炎の状態、リウマチ性関節炎、変形性関節症、反応性関節炎およびライター症候群、若年性関節炎、強直性脊椎炎、多発性硬化症、ギランバレー症候群、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、慢性腎臓病、膀胱炎、乾癬(乾癬性関節炎を含む)、化膿性汗腺炎、皮下脂肪組織炎、壊疽性膿皮症、SAPHO症候群(滑膜炎、座瘡、膿疱症、骨粗鬆症および骨炎)、座瘡、Sweet症候群、天疱瘡、クローン病(腸外症状を含む)、潰瘍性大腸炎、喘息気管支、過敏性肺炎、一般的なアレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、ウェゲナー肉芽腫症、川崎病候群、巨細胞性動脈炎、チャーグ-ストラウス血管炎、結節性多発動脈炎、火傷、移植片対宿主病、宿主対移植片反応、臓器移植または骨髄移植後の拒絶エピソード、一般的に血管炎の全身および局所状態、全身性及び皮膚性エリテマトーデス、多発性筋炎および皮膚筋炎、強皮症、子癇前症、急性および慢性膵炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、眼の手術後(例えば、白内障(眼球レンズ置換)または緑内障手術)などの手術後の炎症、関節手術(関節鏡視下手術を含む)、関節関連構造(例えば、靭帯)での手術、口腔および/または歯科手術、低侵襲性心血管手順(例えば、PTCA、アテレクトミー、ステント配置)、腹腔鏡下および/または内視鏡内腹腔内および婦人科的処置、内視鏡泌尿器科処置(例えば、前立腺手術、尿管鏡検査、膀胱鏡検査、間質性膀胱炎)、または、一般に術中の炎症(予防)、水疱性皮膚炎、好中球性皮膚炎、毒性表皮壊死症、膿疱性皮膚炎、脳マラリア、溶血性尿毒症症候群、同種移植片拒絶反応、中耳炎、ヘビ咬傷、結節性紅斑、骨髄異形成症候群、原発性硬化性胆管炎、血清陰性脊椎関節症、自己免疫性溶血性貧血、口腔顔面肉芽腫症、pyostomatitis vegetans、アフタ性口内炎、地図状舌、移動性口内炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ベル麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病、ならびに一般的に神経変性状態が挙げられる。
【0106】
癌関連骨破壊、癌関連炎症、癌関連疼痛、癌関連悪液質、骨転移、急性および慢性痛みのほか、TNFαの中枢作用または末梢作用に起因するかどうか、およびそれらが炎症に分類されるかどうかにかかわらず、侵害受容性または神経障害性の痛み、坐骨神経痛、腰痛、手根管症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、痛風、ヘルペス後神経痛、線維筋痛、局所疼痛状態、転移性腫瘍に起因する慢性疼痛症候群、月経不順。
【0107】
治療される特定の障害としては、一般に関節炎の状態、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、反応性関節炎、若年性関節炎、乾癬を含む乾癬性関節炎、クローン病などの炎症性腸疾患、直腸炎などの潰瘍性大腸炎、S状結腸炎、左側大腸炎、広範な大腸炎および膵炎、未確定大腸炎、コラーゲンおよびリンパ球性大腸炎などの顕微鏡的大腸炎、結合組織疾患における大腸炎、転流性大腸炎、憩室疾患の大腸炎、好酸球性大腸炎、および嚢胞性炎が挙げられる。
【0108】
最も好ましくは、本発明の抗体または機能的断片は、炎症性腸疾患、特にクローン病、潰瘍性大腸炎、または顕微鏡的大腸炎を治療するために使用される。クローン病は、非狭窄性/非浸透性、狭窄性、浸透性および肛門周囲疾患の挙動などを含む、回腸、結腸、回腸結腸、または単離上部クローン病(胃、十二指腸、および/または空腸)であってもよく、上記のいずれかの局在化および疾患の挙動の任意の組合せが可能である。潰瘍性大腸炎は、潰瘍性直腸炎、直腸S状結腸炎、左側結腸炎、汎潰瘍性大腸炎、および嚢炎であり得る。
併用療法および他の態様
【0109】
好ましくは、抗TNFα抗体またはその機能的断片で治療されている患者は、別の従来の薬剤でも治療される。例えば、炎症性腸疾患患者、特に中等度から重度の疾患を有する場合には、典型的には、メサラジンもしくはその誘導体、またはプロドラッグ、ブデソニド、またはプレドニゾロンなどのコルチコステロイド(経口または静脈内)、免疫抑制剤、例えばアザチオプリン/6-メルカプトプリン(6-MP)もしくはメトトレキセート、シクロスポリンもしくはタクロリムスにより治療される。患者に同時投与することができる他の薬剤としては、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、セトリツマブペゴールなどの生物配合物が挙げられる。患者に同時投与することができるさらなる薬剤としては、安定し、かつより長期の寛解を維持するために、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリン/6-MPまたはメトトレキセートまたは経口シクロスポリン)が挙げられる。本発明のさらに別の態様は、炎症を減少させるための上記で定義した抗TNFα抗体または機能的断片の使用である。
【0110】
本発明のさらに別の態様は、炎症状態に罹患している患者の炎症を減少させる際に使用するための、上記に定義した抗TNFα抗体または機能的断片である。
【0111】
本発明のさらなる態様は、炎症状態を治療する方法であって、それを必要とする患者に、上記に定義した抗TNFα抗体または機能的断片の有効量を投与することを含む方法である。炎症状態は、好ましくは上記の状態のうちの1つである。
【表1】
実施例
実施例1:ヒトTNFαに対するウサギ抗体の作製
1.結果
1.1免疫化
【0112】
ウサギは、精製組換えヒトTNFαにより免疫化した(Peprotech,Cat.No.300-01A)。免疫化過程の間に、抗原に対するポリクローナル血清抗体の検出可能な結合を依然として作り出した各ウサギの血清に対する最大希釈(力価)を決定することにより、抗原に対する体液性免疫応答の強さを定性的に評価した。固定化組換えヒトTNFαに対する血清抗体力価は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA、2.2.1参照)を用いて評価した。3匹すべてのウサギは、血清の10×106倍希釈で依然として非常に高い力価を示し、ELISAにて陽性シグナルとなった(バックグラウンド対照として使用された未処置非関連動物由来の血清で得られたシグナルより、少なくとも3倍高かった)。さらに、異なるウサギ血清がTNFαの生物学的活性を阻害する能力を、マウスL929細胞を用いたアッセイ(2.2.3参照)により評価した。3つの血清すべてが、マウスL929線維芽細胞のTNFα誘導アポトーシスを阻害した。ウサギ#3は、1:155,000の血清希釈で50%阻害(IC50)に達し、最も強い中和活性を示した。ウサギ#3と比較して、ウサギ#2およびウサギ#1は約3および21倍低い活性を示し、それぞれ1:55,500および1:7,210の血清希釈で50%阻害に達した。
【0113】
3匹すべての動物の脾臓から単離したリンパ球を、その後のヒット同定手順のために選択した。動物は、L929アッセイにおいて、TNFαの生物学的活性を阻害する効力に基づいて優先させた。したがって、培養されたヒット数はウサギ#3由来で最も多く、最も少ないヒット数はウサギ#1由来であった。
1.2ヒットの同定
1.2.1ヒットの選別
【0114】
ヒット同定手順の前に、高親和性TNFα結合性B細胞(2.1参照)を特異的に検出して単離することができるフローサイトメトリーに基づく選別手順が開発された。
【0115】
全3匹のウサギ由来の合計33×106個のリンパ球(単離された総リンパ球の1.5%に相当)を、2回の独立した選別キャンペーンで特徴付けを行った。TNFα特異的抗体(IgG)を発現する、全3452個のB細胞のうち、分析した33×106個の細胞の中から単離した。3匹のウサギに関して、クローン化されたリンパ球の数は異なった。これは、L929アッセイにおいて、血清が強いTNFα阻害を示したウサギからより多くの細胞が単離されたためであった。単離されたB細胞のうち、792個のクローンはウサギ#1由来であり、1144個のクローンはウサギ#2由来であり、1408個のクローンはウサギ#3由来であった。108個のクローンについては、それぞれのウサギ起源は不明である。これは、それらは全3匹のウサギの残存リンパ球の混合物に由来し、バイアルから少量のリンパ球を最適に回収できるためである。
1.2.2ヒットのスクリーニング
【0116】
スクリーニング段階の間に得られた結果は、抗体分泌細胞(ASC)の培養上清からの非精製抗体を用いて行われたアッセイに基づいている。これは、高スループット培養の規模では、個々のウサギ抗体を精製することができないためである。このような上清は、結合親和性を除いて絶対値(例えば、TNFαの生物学的活性の阻害について)とならないように、多数の抗体を互いに対してランク付けするために使用された。ASC上清は、組換えヒトTNFαとの結合について高スループットELISAでスクリーニングした。TNFα結合上清は、ELISA、結合反応動力学により、カニクイザルTNFαへの結合について、またL929アッセイにおけるヒトTNFαの生物学的活性を中和するそれらの可能性について、さらに特徴付けられた。結合反応動力学を除いて、高スループットスクリーニングの報告値は、単点測定(用量応答なし)に基づく「はい」または「いいえ」の回答として解釈されるべきである。カニクイザルTNFαおよびマウスTNFαに対する親和性は、抗体重鎖および軽鎖可変ドメインの増幅およびシーケンシングのために選択された102個の全クローンについて分析した。
1.2.2.1ヒトTNFαへの結合
【0117】
一次スクリーニングの目的は、ヒトTNFαに特異的な抗体を産生するASCクローンを同定することである。この目的のために、ヒトTNFαに対する抗体の存在について、ELISAにより3452個のASCクローンの細胞培養上清を分析した(2.2.1参照)。使用されるELISA法では、組換えヒトTNFαに結合したIgGサブタイプの抗体の「量」を評価するが、抗体の親和性または濃度に関する情報を与えるものではない。このアッセイにおいて、894個のASCクローンの上清は、明らかにバックグラウンドを上回るシグナルを産生した。スクリーニングにおけるヒット率は、ウサギ#1とウサギ#2については類似しており、ウサギ#1で同定された792個のうち153個(19.3%)であり、ウサギ#2で同定された1144個のうち225個(19.7%)であった。ウサギ#3は、34.4%という著しく高いヒット率を示し、1408個のうちの484個のヒットが同定された。この一次スクリーニングで同定された894個の全ヒットを、SPR(二次スクリーニング)による結合反応動力学の測定に供した。
1.2.2.2TNFα結合反応動力学
【0118】
二次スクリーニングの目的は、表面プラズモン共鳴(SPR、2.2.2参照)による一次スクリーニングからの各ヒットに対する標的結合の質に関する定量的情報を得ることである。一次スクリーニング中に使用されるELISAとは対照的に、この方法では、時間に応じて標的結合の反応動力学を評価する。これは、その標的からの抗体の会合(ka)および解離(kd)である速度定数を決定できる。kd/ka比は、抗体のその標的に対する親和性を反映する平衡解離定数(KD)を提供する。一次スクリーニングで同定された894個のヒットのうち、839個のモノクローナルウサギ抗体について、ヒトTNFαに対する結合親和性を決定することができた。残りの55個の抗体については、ASC上清中の抗体濃度がそれぞれの設定においてSPR装置の検出限界未満であったため、親和性を測定することができなかった。測定することができた839個の抗TNFα抗体は、1.36×10-13M未満から1.14×10-8M未満の範囲の解離定数(KD)を示した。分析された全抗体の69%は、0.5nM未満のKDを有した。
【0119】
ウサギ#2および#3から同定されたスクリーニングヒットの中央値KDは、2.21×10-10Mおよび2.09×10-10Mであり、双方が類似しており、ウサギ#1では中央値KDが4.65×10-8Mであり、約2倍高い値を示した。中和スクリーニングヒットのみを考慮すると、親和性分布は、中央値KD(中央値KDは1.4×10-10M~1.27×10-10M)の低い値を有する3匹の動物すべてにおいて類似していた。ウサギ#1、#2および#3のスクリーニングヒットの5%について、0.041nM、0.029nM、および0.026nM未満の親和性をそれぞれ測定した。上清の2%の場合、親和性は低ピコモル濃度範囲(6.2pM、7.9pM、および11pM未満)でさえあった。二次スクリーニングによる高親和性抗体の優れた収率は、ヒト化およびリフォーマットのための最も適切な抗体を選択するための広範な基礎となる。
1.2.2.3効力
【0120】
効力の評価のために、細胞ベースのアッセイ(L929アッセイ)が開発されている(2.2.3参照)。894個の選択された抗体のうち506個(56.6%)は、L929アッセイにおいて、TNFα誘導アポトーシスを50%以上阻害した。力価分析中に得られた結果と一致して、最も高い中和ヒット率は、ウサギ#3のヒット率62.8%であり、次いでウサギ#2では、ヒット率56.4%であり、最も低いヒット率のウサギ#1では39.9%であった。これらの中和抗体の親和性は、1.36×10-13から1.19×10-9Mの範囲であった。
1.2.2.4種交差反応性(カニクイザル)
【0121】
カニクイザルTNFαに対する種交差反応性について、一次スクリーニングで同定された894個のヒットすべてを、ELISA(2.2.1参照)によって分析した。この追加のスクリーニングの目的は、カニクイザルTNFαと交差反応することが知られているASCクローンの選択を可能にすることであった。使用されるELISA法は、組換えカニクイザルTNFαに結合したIgGサブタイプの抗体の「量」を評価するが、抗体の親和性または濃度に関する情報を与えるものではない。414個のASCクローンの上清(46%)は、明瞭なシグナルを生成した(光学密度(OD)≧1)。カニクイザルTNFαと交差反応するヒット率は、ウサギ#1とウサギ#3については類似しており、ウサギ#1では、同定された153個のうち81個(52.9%)であり、ウサギ#3では、同定された484個のうち236個(48.8%)であった。ウサギ#2は、37.8%であり、わずかに低いヒット率を示し、225個のうち82個のヒットが同定された。
1.2.2.5RT-PCRのためのクローンの選択
【0122】
ウサギ抗体のヒット確認、遺伝子配列解析、およびその後のヒト化のための前提条件として、ウサギ抗体可変ドメインをコードする遺伝情報を検索する必要がある。これは、相補的DNA(cDNA)へのそれぞれのメッセンジャーRNAの逆転写(RT)、続いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による二本鎖DNAの増幅によって行われた。RT-PCRに供するASCクローンの選択は、主に親和性および中和活性に基づくものだった。さらなる基準として、カニクイザルTNFαに対する交差反応性が考慮された。合計で102個のASCクローンをRT-PCRによる遺伝子クローニングのために選択した。第1に、L929アッセイにおいて、TNFαの生物学的活性を50%以上阻害し、カニクイザルTNFαとの有意な結合を示した80pM未満のKDを有する93個の最もランキングの高いASC(親和性に関して)を選択した。さらに、TNFα活性を50%以上中和したが、カニクイザルTNFαに結合しなかった20pM未満のKDを有する9個の最もランキングの高いASCクローンもすべて選択された。合計で、12個、13個、および66個のASCクローンは、それぞれウサギ#1、#2、および#3からうまく増幅され、配列決定された。
1.2.2.6所望の特性を有する関連クローンの同定
【0123】
単離されたASCクローンのパネルの遺伝的多様性を特徴付けるために、相補性決定領域(CDR)の配列を抽出し、多重配列アラインメントに供し、これにより系統樹における配列クラスタ化を可能にした。
【0124】
この分析は、ヒト化およびリフォーマット実験に繰り越されるクローン配列の多様なセットの選択を可能にする一方で、ウサギの共通の親B細胞クローンを共有すると思われるクローン配列の相同クラスタも同定する。これらの配列クラスタの特質は、CDRにおける高配列相同性および薬力学的特性の一貫したパターンである。表2および表3には、8個のクローンのクラスタについて、これらの機能を両方ともまとめている。この配列クラスタの機能的保存にもかかわらず、表3のコンセンサス配列は、CDRのある種の可変性が許容され、依然として所望の薬力学的プロフィールをもたらすことを明らかにする。
【表2】
【表3】
*「X」と命名されたアミノ酸は、付随する配列表に定義されている意味を有する。
1.2.2.7カニクイザルTNFαに対する交差反応性(SPRによる)
【0125】
TNFαを強力に中和した高親和性ヒットの数が多いので、ヒットを確認するためのASCクローンの選択を容易にするために、RT-PCRに供したすべてのモノクローナルウサギ抗体について種交差反応性を評価した。カニクイザルTNFαに対する親和性を、上記と同様にSPR測定によって決定した(2.2.2も参照)。カニクイザルTNFαについて93個の試験抗体の親和性は、9.6×10-12から2.1×10-9Mの範囲であった。93個の交差反応性抗体のうちの38個は、類似の親和性でヒトおよびカニクイザルTNFαに結合した(KDの差は2倍未満)。さらに、ヒトとカニクイザルとの間の親和性の差は、93個の交差反応性抗体のうちの79個について20倍未満であり、そのうちの62個については10倍未満であり、これにより、カニクイザルにおける前臨床発現にふさわしくなる。
2.方法
2.1選別アッセイ
【0126】
ウサギのリンパ組織から抗原特異的B細胞を単離するためのフローサイトメトリーを利用した選別手順は、Lalorら(Eur J Immunol.1992;22.3001-2011)によって概要が記載されているとおりに実施した。
2.2スクリーニングアッセイ
2.2.1TNFα結合ELISA(ヒトおよびカニクイザルTNFα)
【0127】
組換えヒトTNFα(Peprotech,Cat.No.300-01)を96穴マイクロタイターELISAプレート上にコーティングした。ASC培養上清中におけるウサギ抗体の固定化TNFαへの結合は、二次HRP標識抗ウサギIgGにより検出された(JacksonImmuno Research,Cat.No.111-035-046)。TMB物質(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、KPL,Cat.No.53-00-00)を添加し、H2SO4を添加することにより呈色反応を停止させた。プレートを、マイクロタイタープレートリーダー(Infinity reader M200 Pro,Tecan)を用いて450nmの波長で読み取った。
【0128】
スクリーニングキャンペーン中のアッセイ性能を、市販の陽性対照抗TNFαウサギポリクローナル抗体(AbD Serotec、Cat.No.9295-0174)によってモニターした。この目的のために、各スクリーニングプレート上で100ng/mLおよび250ng/mLの二通りで陽性対照抗体を試験した。各プレートについて、陽性対照の応答の堅牢性および精度をモニターした。最終アッセイ条件では、シグナル対バックグラウンドの比は250ng/mLの陽性対照で30~40であり、陽性対照の変動係数(CV)は10%未満であった。250ng/mL陽性対照に対して100%以上の光学密度を有するシグナルを、一次スクリーニングヒットとみなした。
【0129】
血清力価測定のために、上記と同じELISA設定を使用した。血清希釈液は、免疫血清の結合シグナルが未処置の非関連動物のシグナルと比較して少なくとも3倍高い場合、陽性とみなされた。
【0130】
カニクイザルに対する種交差反応性は、上記と同様のELISAを用いて測定した。組換えカニクイザルTNFα(Sino Biological,Cat.No.90018-CNAE)を96穴マイクロタイターELISAプレート上にコーティングした。ASC培養上清中のウサギ抗体の固定化カニクイザルTNFαへの結合は、上記のHRP標識二次抗体によって検出された。ウサギ#2由来の免疫血清は、1:80,000および1:320,000の希釈で陽性対照として使用した。各プレートについて、陽性対照の応答の堅牢性および精度をモニターした。最終アッセイ条件では、シグナル対バックグラウンド比は、1:80,000の希釈で陽性対照については20~30であり、陽性対照のCVは10%未満であった。
【0131】
2.2.2SPRによるTNFαへの結合反応動力学(ヒトおよびカニクイザル)
ヒトTNFαに対する抗体の結合親和性を、MASS-1 SPR装置(Sierra Sensors)を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。この装置の性能は、標準的な参照溶液を用いて、およびインフリキシマブ-TNFα相互作用などの参照抗体-抗原の相互作用の分析によっても適切とされた。
【0132】
親和性スクリーニングのために、ウサギIgGのFc領域に特異的な抗体(Bethyl Laboratories,Cat.No.A120-111A)を、標準的なアミンカップリング手順を用いてセンサーチップ(SPR-2アフィニティーセンサー、高容量アミン、Sierra Sensors)上に固定化した。ASC上清中のウサギモノクローナル抗体を、固定化抗ウサギIgG抗体によって捕捉した。モノクローナル抗体の捕捉後、ヒトTNFα(Peprotech,Cat.No.300-01)をフローセルに3分間90nMの濃度で注入し、センサーチップ上に捕捉されたIgGからのタンパク質の解離を5分間進行させた。各注入サイクルの後、10mMのグリシン-HClを2回注入して、表面を再生した。見かけ解離(kd)および会合(ka)速度定数、ならびに見かけ解離平衡定数(KD)は、1対1のラングミュア結合モデルにより、MASS-1分析ソフトウェア(Analyzer,Sierra Sensors)を用いて算出し、フィッティングの質は、相対的なカイ二乗(アナライトの外挿された最大結合レベルに正規化されたカイ二乗)に基づいてモニターした。これは曲線フィッティングの質の尺度である。ヒットのほとんどでは、相対的カイ二乗値は15%以下であった。リガンド結合の応答単位(RU)が抗体捕捉のためのRUの少なくとも2%であった場合、結果は有効であるとみなされた。RU抗体捕捉のためのRUの2%未満であるリガンド結合のRUを有する試料は、捕捉抗体へのTNFαの特異的結合を示さないと考えられた。
【0133】
カニクイザルTNFαに対する種交差反応性(Sino Biological,No.90018-CNAE)は、同じアッセイ設定およびTNFα濃度を用いて測定し、同じ品質基準を適用した。相対的なカイ二乗は、分析されたASC上清の大部分の15%未満であった。
【0134】
2.2.3L929線維芽細胞におけるTNFα誘導アポトーシス
ASC培養上清由来のウサギIgGが組換えヒトTNFαの生物学的活性を中和する能力は、マウスL929線維芽細胞を用いて評価した(ATCC/LGC Standards,Cat.No.CCL-1)。L929細胞は、1μg/mLのアクチノマイシンDを添加することによりTNFα誘導アポトーシスに対して感作させた。細胞を、50%ASC培養上清および100pM(5.2ng/mL)のヒトTNFαの存在下で、96ウェル平底マイクロタイタープレートにおいて24時間培養させた(Peprotech,Cat.No.300-01)。ヒットスクリーニングのためには、ASC上清の存在下で、精製された抗体と比較して、より高濃度のTNFαを使用しなければならない。細胞の生存を、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、モノナトリウム塩)細胞増殖試薬(Sigma Aldrich,Cat.No.96992)を用いた比色アッセイによって決定した。WST-8は、細胞デヒドロゲナーゼによって橙黄色のホルマザン生成物に還元される。生成されたホルマザンの量は、生存細胞の数に直接正比例する。データは、Softmaxデータ解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いた4パラメータロジスティック曲線フィットを用いて分析し、TNFα誘導アポトーシスを50%中和するのに必要なインフリキシマブ濃度(IC50)は、36.2ng/mLの濃度で算出した。したがって、このアッセイの推定下限検出限界は30~40ng/mLである。TNFαをブロックする可能性は、モノクローナル抗体の濃度に依存するだけでなく、標的に対する抗体の親和性にも依存するので、この値は、検出限界のおおよその推定に過ぎない。しかし、ほとんどのASC上清中のIgG濃度が濃度40ng/mL以上であるため、アッセイの感度はASC上清のスクリーニングには十分である。TNFα誘導アポトーシスの50%中和をもたらす上清を陽性とみなした。
【0135】
スクリーニングキャンペーン中の堅牢なアッセイ性能を確実にするために、各スクリーニングプレート上で115ng/mL(0.8nM)および58ng/mL(0.4nM)の二通りで陽性対照抗体インフリキシマブを試験した。陽性対照に対する阻害率および応答の精度を各スクリーニングプレートについてモニターした。各プレートの受容基準は以下のように設定した:陽性対照抗体により、115ng/mLの濃度で、少なくとも60%の阻害、変動係数(CV)20%未満。
実施例2:scFvのヒト化および生成
1.結果
1.1ヒト化のためのヒットの確認およびヒットの選択
親ウサギの軽鎖および重鎖可変ドメインの73個のユニークセットを、ヒットスクリーニングの間に回収し、配列アライメントによって分析した。スクリーニングアッセイの結果、および個々のウサギIgGクローンの配列相同性に基づいて、ヒット確認のために30個の候補が選択された。29個のモノクローナル抗体を製造し、ヒト化およびリード候補生成のために親和性および効力に関して最も優れたクローンが選択された。クローンの選択基準は、i)L929アッセイにおけるヒトTNFαの中和、ii)ヒトTNFαに対する高親和性、iii)カニクイザルおよびアカゲザルTNFαに対する交差反応性、およびiv)配列多様性であった。1つのクローン(17-22-B03)がヒト化のために選択されており、これはL929アッセイにおいてヒトTNFαを中和する効力の点で最も優れたIgGの1つである。結合強度に関して、ヒト化およびscFvフォーマットへのリフォーマットの結果としてある種の親和性の損失が予想される必要があるため、高い親和性が望ましい。
【0136】
IgGクローンNo.17-22-B03のデータを表4にまとめる。
【表4】
1.2ヒト化scFv断片の生成および選択
【0137】
相補性決定領域(CDR)をコードする配列は、国際出願第2014/206561号に記載のとおり、CDR-ループグラフト化によりインシリコでヒト可変ドメイン足場配列に移入された。さらに、免疫グロブリンドメインおよびCDR位置に構造的に関連する位置でドナー配列から追加のアミノ酸を移入させた1個のウサギクローンに対して、2番目の構築物を作製した。それぞれのヒト化一本鎖抗体Fv(scFv)をコードするための人工遺伝子(細菌発現のために最適化されたコドンを使用することにより)が合成された(対応する可変軽鎖および重鎖から)。次いで、ポリペプチドを産生させ、続いてヒット確認の間に記載したのと同様のアッセイを用いて特徴付けを行った。
1.2.1ヒト化scFv(API)のヒト化および製造
【0138】
選択されたクローンのヒト化は、ウサギCDRの、国際出願2014/206561に記載されているようなVκ1/VH3型のscFvアクセプターフレームワークへの移入を含んでいた。
図1に模式的に示されるこのプロセスでは、6つのCDR領域のアミノ酸配列がドナー配列(ウサギmAb)上で同定され、アクセプター足場配列にグラフト化され、「CDRグラフト化片」と呼ばれる構築物が得られた。
【0139】
さらに、位置L15、L22、L48、L57、L74、L87、L88、L90、L92、L95、L97、L99、およびH24、H25、H56、H82、H84、H89、H108(AHo番号付け)上のウサギドナーからのさらなるアミノ酸修飾を含む第2のグラフト化片を設計した。これらのグラフト化片は潜在的にCDRの位置づけに影響を及ぼし、したがって抗原結合に影響を及ぼすことが記載されていた(Borrasら、2010年,JBC 285:9054-9066)。これらのヒト化構築物は、「構造(STR)グラフト化片」と呼ばれる。これら2つの初期構築物の特徴付けデータを比較することで、STR構築物の有意な利点が明らかになる場合には、CDRグラフト化VLをSTRグラフト化VHと組み合わせたさらなる変異体が設計された。この組み合わせは、STRグラフト化片の活性を保持するために多くの場合十分であることが証明されており(Borrasら、JBC.2010年,285:9054-9066)、ヒトアクセプター足場の非ヒト改変が少なくなることで、安定性を損なう危険性、および免疫原性の可能性が軽減されるため、一般的に好ましい。
【0140】
前項で説明したインシリコ構築物設計が完了すると、対応する遺伝子を合成し、細菌発現ベクターを構築させた。発現構築物の配列はDNAレベルで確認され、構築物は一般的な発現および精製プロトコルに従って製造された。
【0141】
タンパク質の異種発現は、不溶性封入体として大腸菌(E.coli)中で行った。発現培養物に指数関数的に増殖する出発培養物を播種した。培養は、市販のリッチ培地を用いて、オービタルシェーカーの振とうフラスコ中で行った。細胞は、定義されたOD600の2まで増殖させ、1mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)で一晩発現させることにより誘導した。発酵の終わりに、細胞を遠心によって採取し、超音波処理によって均質化した。この時点で、異なる構築物の発現レベルを、細胞溶解物のSDS-PAGE分析によって決定した。封入体は、細胞破片および他の宿主細胞不純物を除去するためのいくつかの洗浄ステップを含む遠心プロトコルによって、均質化した細胞ペレットから単離した。精製された封入体を変性緩衝液(100mMトリス/HCl pH8.0,6M Gdn-HCl、2mM EDTA)に可溶化し、scFvを、ミリグラム量の自然に折り畳まれた単量体scFvを生成するスケーリング可能なリフォールディングプロトコルによりリフォールディングさせた。scFvを精製するために標準化されたプロトコルを用いたが、これには以下のステップが含まれた。リフォールディング後の生成物を、Capto Lアガロース(GE Healthcare)を用いたアフィニティークロマトグラフィによって捕捉し、精製scFvを得た。最初の試験で親和性および効力の基準を満たすリード候補を、HiLoad Superdex75カラム(GE Healthcare)を使用する研磨サイズ排除クロマトグラフィによってさらに精製した。精製プロトコルに続いて、タンパク質を緩衝食塩水中で配合し、以下に記載するように、種々の生物物理学的、タンパク質相互作用、および生物学的方法によって特徴付けを行った。異なる構築物の生産性を、バッチの精製タンパク質の最終収量を求め、この値を1リットルのリフォールディング容量に正規化することによって比較した。
1.2.2ヒト化scFvの生物物理的特徴
【0142】
安定性および生産性に関するscFvの生物物理学的特性を表5にまとめた。scFv構築物の生産性および安定性は、後の項で論じられるように異なる報告点によって特徴付けられた。
【0143】
以下に説明するように、特定の基準についてscFvを調査した。
【0144】
生産性基準は、選択されたscFvエンティティが、後のリード分子の開発を支援するのに十分な量で発現、リフォールディング、および精製され得ることを保証するものとする。定義された基準は、SDS-PAGEによって評価した場合の発酵ブロス1リットル当たりのscFvの発現収率、およびUV分光分析による精製タンパク質の量の測定によって評価し、1リットルのリフォールディング溶液に戻して計算した場合の、一般的なラボスケールプロセスで達成された精製収率であった。
【0145】
安定性の基準は、分子の製造プロセス中の凝集傾向、ならびに保存およびさらなる取り扱い中のそれらの構造的完全性を評価することを意図していた。精製プロセス(2.2.3)中の分子のコロイド安定性は、SE-HPLCによって決定されたモノマー含量により評価することができる。その後の安定性試験では、モノマー含量は、1および10mg/mLで4週間の期間にわたり試験し、4℃、-20℃、および-65℃で保存した。さらに、タンパク質のコロイド安定性を、5回の凍結および融解サイクル後に試験した。追加の安定性指標パラメータとして、示差走査熱量計(DSF)(2.2.4)により熱アンフォールディングの中間点を決定し、リード候補のコンフォメーション安定性に関する読み出しを提供した。
【表5】
1.2.2.1生産性の評価
【0146】
リード候補scFv分子を、バッチモードでの振とうフラスコ発酵により発現させ、一般的なラボスケール法で精製して、さらなる特徴付けのためのタンパク質試料を得た。このプロセスの間に、いくつかの重要な性能パラメータをモニターして候補分子を比較し、潜在的に発現が困難であり得る構築物を同定した。
【0147】
発現力価は、遠心による細胞採取後の粗大腸菌溶解物のレベルで決定した。収穫の間、細胞のわずかな損失が予想されるが、生産性のより慎重な推定に有利な表現収率を計算するために、この因子は無視されるように選択された。溶解物クーマシ中のscFv生成物を定量化するために、染色された還元SDS-PAGE(2.2.1)を、試料中の宿主細胞タンパク質からの生成物を識別することができる方法の高い特異性のために選択させた。
【0148】
生産性を評価する第2の基準は、リフォールディング溶液1リットル当たりで計算されたscFvの精製収率である。このパラメータは、タンパク質リフォールディングステップを含む、予想される製造プロセスにおける潜在的なボトルネックに対処する。同等の製造プロセスにおいてリフォールディング手順の効率が有限であることが判明していることから、規定されたリフォールディング量に対して正規化された生産性に対して、異なる構築物の性能を比較するように決定されている。収率の計算のために、各バッチの最終タンパク質試料をUV吸光度(2.2.2)によって定量化し、それぞれの精製の実際のリフォールディング容量で割った(表6)。
【表6】
1.2.2.2安定性評価
【0149】
scFv構築物のコンフォメーション安定性、単分散性、および構造的完全性の評価は、開発性に関して、異なる分子をランク付けするための必須要素である。異なる構築物を有意に比較するための前提条件は、同様の品質の精製分子を調製することである。SE-HPLCによって決定される「モノマー純度」基準は、異なる試験物質が適合する品質を保証することを意図している。SE-HPLC分析に加えて、タンパク質純度および同一性を決定するためにSDS-PAGEを実施して、試験対象の調製物の同等の品質を確認した。
【0150】
3つのscFvのSE-HPLC結果は、すべての調製物が少なくとも99%のモノマー含量に精製され得ることを明らかにしている(
図2)。
【0151】
リード候補の熱アンフォールディング挙動を示差走査型蛍光測定法(DSF)によって試験し、それらの予想されるコンフォメーション安定性に関する分子のランク付けを可能にした。蛍光生データの正規化されたプロットを
図3に示しており、これは各試料の重複している測定値を示している。協働的アンフォールディング挙動が観察された。3つの分子17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12は、それぞれ77.5℃、76.2℃および74.9℃のTmを示した。
【0152】
安定性評価の第2の研究では、異なる温度で4週間の期間にわたって分子の単分散性をモニターした。安定性試験の結果および得られたモノマー含量を
図4に示す。3つすべての分子(17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12)は、最低95%モノマーを超えるモノマー含量で開始し、それぞれの開始値に対して、濃度10mg/mLにおいて、モノマーの損失は、5%未満であった。-20℃および<-65℃での凍結状態では、試料は時間の経過と共に示したのは、最小の差のみであった。最も厳しい条件(4℃)では、分子7-22-B03-sc08は4週間でモノマーの損失はわずかに0.5%であった。さらに、ストレス安定性試験を温度37℃およびscFv濃度10mg/mLで最長4週間実施した。この条件では、異なる構築物の凝集の傾向がより厳しく識別されることが期待される。
図6に要約した結果のデータから、17-22-B03-sc02および17-22-B03-sc08については、28日後に28%のモノマーが損失したことが明らかになった。scFvは双方とも、ストレス条件下で良好なモノマー安定性を示した。4℃での安定性試験のクロマトグラムを
図5に示しており、4℃での0日目および28日目の試料を示す。このクロマトグラムオーバーレイでは、凍結/融解安定性の結果も示す。研究のこの部分では、試料の凍結、融解を全部で5サイクル繰り返しした。分析的SE-HPLCによるモノマー含量の、結果として得られた定量化では、2つの試料における変化は明らかにならなかった(表5)。
【0153】
2つのscFvについてSDS-PAGE分析を行って、UV吸光度による定量化のための裏付けデータを生成し、試料調製物の純度を確認し、これによって含量定量化の特性とした。この分析の別の態様において、SDS-PAGE結果により、安定性試験中、タンパク質の変性がないことを明らかにした(4℃、10mg/mLの濃度で28日間。-65℃で保存した第0日の試料と比較)。これは開発性の観点から重要な特徴である。
【0154】
この評価の範囲内で実施された様々な研究は、タンパク質安定性の明確な機構的態様に対処することに注意することが重要である。タンパク質の熱アンフォールディング温度を決定することで、高温での保存時のSE-HPLCによる単分散性の測定を補足する結果となるであろう。どちらの方法も潜在的な製品貯蔵寿命および安定性の推定となるように設計されているが、取り組まれたメカニズムは根本的に異なっている。熱アンフォールディングによって割り当てられた転移(Tm)の中間点は、タンパク質ドメインの安定性についての定性的尺度である(ΔGを熱力学的に決定することはできない)。高安定性タンパク質ドメイン(高Tm)は、周囲温度で自発的にアンフォールドされる可能性は少なく、かつ折りたたまれていないドメインの相互作用によって引き起こされる不可逆的な凝集/沈殿を受けにくい。高ドメイン安定性は、アミノ酸残基が高密度にパッケージングされていることを示し、これは、プロテアーゼ切断に対する耐性とも相関する。他方で、SE-HPLC評価では、単量体画分並びに可溶性オリゴマー/凝集体の含量を定量的に決定する。このような可溶性オリゴマーは、多くの場合、可逆的であり、かつ正確に折りたたまれたタンパク質間の静電的相互作用または疎水性相互作用によって引き起こされる会合は比較的緩い。特に、「境界線」安定性を有するタンパク質に関して、熱アンフォールディングによって評価されるTmとSE-HPLCによって評価されるオリゴマー/凝集体形成の傾向との間にはいくらかの相関がある。抗体可変ドメインは、一定のTm閾値である約60℃を超えると、周囲温度での部分的ドメインの巻き戻しにより、凝集/沈降およびタンパク質分解に対する耐性が一般に十分に安定している。しかしながら、表面残留物の疎水的相互作用および/または静電的相互作用によって引き起こされるオリゴマー化は、依然として起こり得る。重要なことに、高温(例えば、37℃)での加速(ストレス)安定性試験では、オリゴマーの形成および沈殿の様々なメカニズムが同時に起こり得る。
1.2.3ヒト化scFvのインビトロ結合および活性の特徴付け
【0155】
以下では、ヒト化scFvを、その標的結合特性および効力についてインビトロで特徴付けを行った。L929線維芽細胞のヒトTNFαへの結合反応動力学(ka、kd、およびKD)ならびにTNFα誘導アポトーシスを中和するための効力を分析した。さらに、カニクイザル(Macaca fascicularis)およびアカゲザル(Macaca mulatta)TNFα誘導アポトーシスを阻害するための効力、ならびにELISAによるヒトTNFαとTNFRI/TNFRIIとの相互作用、およびTNFβに対するTNFαへの結合の標的選択性を阻害する効力を決定した。
【0156】
以下の結果を理解するためには、ウサギCDRのヒト可変ドメイン足場への移動、ならびにフルサイズIgGからscFv断片へのフォーマットの変化が、薬理学的特性に影響を与え得ることに留意することが重要である。例えば、ある種の親和性の喪失は、通常、ヒト化に関連する。さらに、IgGと比較してscFvのサイズが小さいので、立体障害により相互作用パートナーを妨害するscFvの能力が大幅に低下する。最後に重要なことに、ホモ三量体TNFαへの二価結合様式のために、親IgGの親和性が非常に高く報告されている可能性があることに留意されたい(SPRアーチファクト)。その結果、二価の親ウサギIgGと一価のヒト化scFvとの親和性を比較した場合に、報告された「親和性の喪失」が過大に評価される可能性がある。
1.2.3.1親和性
【0157】
ヒトTNFαに対するヒト化scFvの親和性をSPR測定によって決定した(2.1.1も参照のこと)。親和性は、それぞれのscFvの2倍連続希釈を用いて決定した。scFvはウサギモノクローナル抗体由来であった。2つのscFv変異体が生成され、「CDR」(CDR)および「構造グラフト化片」(STR)と命名された。軽鎖および重鎖におけるフレームワーク置換の相対的寄与を評価し、ヒトフレームワークに導入されたウサギアミノ酸残基の数をおそらく減少させるように、ドメインシャフリング実験を行った。したがって、クローン17-22-B03について、CDRグラフト化軽鎖および構造グラフト化重鎖を含むscFv構築物(CDR/STR)を作製した。
【0158】
最上位ランキングのscFv 17-22-B03-sc02(STR)、17-22-B03-sc08(CDR/STR)、および17-22-B03-sc12(CDR(C90S)/STR)は、それぞれ5.2×10-11、6.1x10-11、および4.8×10-11Mの親和性で結合した。3つの「構造グラフト化片」間の親和性に変動はほとんどなかった(表7を参照されたい)。
1.2.3.2効力
【0159】
ヒトTNFαを中和するヒト化scFvの能力を、L929アッセイ(2.1.2参照)を用いて分析した。TNFα誘導アポトーシスを中和する効力(IC
50およびIC
90)を、17-22-B03由来scFvについて分析し、異なるアッセイプレートのIC
50値およびIC
90値を直接比較できるようにする参照抗体インフリキシマブの効力と比較した。相対IC
50およびIC
90値を、インフリキシマブおよびscFvの質量単位(ng/mL)で計算した。効力分析は、異なるロットの抗体断片で異なる日に数回実施した。
図7は、2つのscFvの各々について、1つの実験からの代表的な用量反応曲線を示す。繰り返し測定値の平均値を表7に示す(標準偏差は表の説明に要約されている)。
【0160】
ヒト化scFvはTNFα誘導アポトーシスを阻害し、インフリキシマブよりも低いIC50およびIC90値を示した(表7参照)。SPR結果と一致して、ドメインシャッフル変異体17-22-B03-sc08(CDR/STR)は、構造グラフト化片17-22-B03-sc02(STR)と比較して等しい効力を呈した。scFv 17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12は、優れたTNFα中和活性を示し、IC50値は、インフリキシマブよりもそれぞれ23.7倍、26.0倍、および13.4倍良好であった。17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12のIC90値は、それぞれインフリキシマブよりも29.4倍、26.6倍、および11.7倍良好であった。親ウサギモノクローナル抗体について観察されたように、抗体の親和性と効力との間に明確な相関はなかった(相関は示されなかった)。さらに、中和アッセイの結果は、TNFαシグナル伝達を効率的に阻害するために、ある閾値の親和性が達成される必要があることを示唆している。例えば、scFv 16-14-D08-sc01(CDR)、16-15-C09-sc01(CDR)、16-24-H07-sc01(CDR)、および17-20-G01-sc01(CDR)は、1nMを超える親和性でTNFαに結合している場合にはすべて、TNFαを中和する可能性が低いことを示している(図示せず)。
1.2.3.3種交差反応性(カニクイザルおよびアカゲザルTNFα)
【0161】
最上位のscFvの種交差反応性は、1)L929アッセイにおいてカニクイザルおよびアカゲザルTNFαを中和する効力、および2)SPRによるカニクイザルおよびアカゲザルTNFαに対する親和性の2つの方法によって決定した。異なる種由来のTNFαを中和する効力は、カニクイザルおよびアカゲザルTNFαをそれぞれ用いて、ヒトTNFαについて上記したのと同様に、L929アッセイによって決定した(2.1.2参照)。両方の種由来のTNFαは、L929アポトーシスを誘導する非常に類似している効力を示した(データは示していない)。したがって、種交差反応性試験には、同じ濃度のヒトおよびサルTNFαを使用した。さらに、カニクイザルおよびアカゲザルTNFαに対する結合反応動力学(SPRによる)を、ヒトTNFα(2.1.1も参照)と同様のアッセイを用いて決定した。
【0162】
クローン17-22-B03由来のすべてのscFvは、カニクイザルおよびアカゲザルTNFαに対する交差反応性を示した(表7参照)。17-22-B03-sc02の場合、これらの親和性は類似しており、すなわち、カニクイザルおよびアカゲザルでそれぞれ5.0×10
-11および1.5×10
-10Mであった。ヒトとアカゲザルのTNFαとの親和性の差は、約3倍であり、カニクイザルTNFαに対する親和性は、ヒトTNFαに匹敵するものであった(表7および
図8を参照されたい)。要約すると、クローン17-22-B03由来のscFvは、カニクイザルおよびアカゲザルTNFαに対する種交差反応性を示した。
1.2.3.4ヒトTNFα-TNFRI/II相互作用のブロック
【0163】
L929アッセイに加えて、ヒトTNFαとTNFRI/IIとの間の相互作用を阻害する各ヒト化scFvの効力をELISA(2.1.3参照)によって評価した。L929アッセイと同様に、各プレート上の個々のIC50値は、各プレートに沿って採取した参照分子インフリキシマブのIC50に対して較正し、相対IC50およびIC90値は、インフリキシマブおよびscFvの質量単位(ng/mL)に換算した。
【0164】
中和アッセイは、効力アッセイで使用される標的濃度よりも高い平衡結合定数(KD)で標的を結合する場合(KD>標的濃度)のみ、標的ブロック抗体の効力を識別することができる。L929アッセイでは、5pMのTNFα濃度を使用し、TNFRI/II阻害ELISAでは、960pMのTNFα濃度を使用した。したがって、理論的には、L929アッセイは、KD>5pMでscFv間の効力を区別することができるが、阻害ELISAは、KD>960pMでscFv間の効力のみを区別することができる。分析したすべてのscFvが960pM未満のKDを示したので、異なる親和性(しかし類似の作用機序)を有するscFv間の効力は、L929アッセイにおいてのみ区別することができる。
【0165】
17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12は、インフリキシマブと比較した場合に、それぞれ、1.5倍、2.3倍、および1.5倍高い、TNFα-TNFRI相互作用をブロックする効力を示したが、L929アッセイにおいて、インフリキシマブと比較した場合の効力は、有意に高かった(23.7倍、26.0倍および13.4倍)。TNFα-TNFRII相互作用の阻害は、TNFα-TNFRIブロックと同様の範囲であった。親ウサギIgG(表4参照)の相対IC
50値をヒト化scFvの相対IC
50値(表7)と比較すると、scFvの効力は親IgGと比較して一般にわずかに高いが、親和性は一般に親ウサギIgGと同じ範囲である。抗体およびscFvの効力は、質量単位で比較されているため、各濃度での価数(TNFα結合部位)は、二価のIgGでは5倍を超えているものと比較して、一価のscFvについては約2.9倍高い。非常に高い結合親和性のscFvでは、結合活性の欠如が活性にとってもはや重要ではないため、結果として、TNFαおよびTNFRI/II相互作用のより強力なブロックをもたらす。対照的に、低親和性の一価のドメインを有する場合には、反対のことが公開されている(Coppietersら、Arthritis&Rheumatism,2006;54:1856-1866)。上記の理由から、阻害ELISAの結果は、異なる抗体間の効力のランク付けには使用されず、主に、TNFRI対TNFRIIとの相互作用をブロックする抗体の可能性を比較するために使用された。調査したscFvは、同等の効力で両方のTNFαレセプター間の相互作用をブロックした(表9、
図9および
図10)。
1.2.3.5標的特異性(TNFαとTNFβとの結合に対する選択性)
【0166】
TNFβに対するTNFαの3つのscFv(17-22-B03-sc02、17-22-B03-sc08、および17-22-B03-sc12)の特異性は、TNFαと比較した場合の、各scFvへのTNFαの結合を最大限50%阻害するTNFβの相対効力を評価することによって確認され、競合ELISAで測定した(2.1.4も参照のこと)。組換えヒトTNFβの品質は、1)SDS-pageおよびHPLC分析による純度について、および2)タンパク質の製造者によるマウスL929細胞毒性アッセイにおける生物学的活性について分析されている。
図11に示すように、ビオチン化TNFαを有するscFvの各々の間の相互作用は、60~260ng/mLの範囲のIC
50値で非標識TNFαによってブロックされたが、TNFβは、試験対象のTNFβの最高濃度(1250μg/mL)であっても、いずれの有意な効果も示さなかった。したがって、分析されたscFvはすべて、TNFαに特異的に結合するが、その最も近い同族体であるTNFβには結合しない。TNFβは、試験対象濃度では、scFvへ結合するTNFαの任意の有意な阻害を示さなかった。したがって、TNFα結合を最大限50%阻害するのに必要なTNFβ濃度は、アッセイで使用されるTNFβの最高濃度(1250μg/mL)よりも有意に高くなければならない。scFvへのTNFα結合を最大限50%阻害するのに必要なTNFαおよびTNFβの濃度を比較すると、TNFβに対するTNFαへの結合の選択性は、試験対象のすべての断片について約5000~20,000倍、有意に高い(表7も参照のこと)。したがって、scFvのいずれかの標的以外の結合は非常に起こりにくいと考えられる。
【0167】
上記の実験の結果を表7~9にまとめる。
【表7】
【表8】
【表9】
2.方法
2.1リード特性解析
2.1.1SPRによる結合反応動力学および種交差反応性
【0168】
ヒトTNFαに対するscFvの結合親和性は、MASS-1 SPR装置(Sierra Sensors)を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。SPRアッセイの性能は、参照抗体抗原相互作用(セルトリズマブペゴル-TNFα相互作用など)の分析によって適切とされた。ペグ化されたFab断片のセルトリズマブは、scFvの親和性と類似しているその一価結合様式により、参照として選択された。scFvの親和性測定と同じアッセイ設定を用いて、TNFαに対するセルトリズマブの親和性として、9.94×10-11Mの値に決定した。この値は、公表されたKD値9.02±1.43x10-11M(BLAセルトリズマブ;±BLA番号:125160;提出日:2007年4月30日)と上手く一致する。
【0169】
scFvの親和性測定のために、ヒトTNFα(Peprotech,Cat.No.300-01)は、センサーチップ(SPR-2 Affinity Sensor,Amine,Sierra Sensors)上に、50~100RUの固定化レベルに達するようにアミンカップリングにより固定化した(SPR分析中に得られた固定化レベルは40~120RUであった)。第1のステップにおいて、scFvの親和性スクリーニングは、scFv濃度(90nM)を1つのみ用いて行った。第2のステップでは、最良に実施しているscFvについて、6つのアナライト試料を異なる濃度でMASS-1システムの8つの平行チャネルの各々に同時に注入することによって、単一注入サイクルからの単一注入サイクル反応動力学(Single Injection Cycle Kinetics:SiCK)を測定した。アフィニティースクリーニングのために、ヒト化scFvを90nMの濃度でフローセルに3分間注入し、解離を12分間モニターした。その後、より正確な親和性を決定するために、45~1.4nMの範囲のscFvの2倍連続希釈物をフローセルに3分間注入し、センサーチップ上に固定化したTNFαからのタンパク質の解離を12分間進行させた。見かけ解離(kd)および会合(ka)速度定数、ならびに見かけ解離平衡定数(KD)は、1対1のラングミュア結合モデルにより、MASS-1分析ソフトウェア(Analyzer,Sierra Sensors)を用いて算出し、フィッティングの質は、曲線フィッティングの質の尺度であるカイ二乗に基づいてモニターした。カイ二乗の値が小さいほど、1対1のラングミュア結合モデルへのフィッティングが正確になる。親和性スクリーニングについては、分析した濃度のカイ二乗が10未満であれば、結果は有効とみなされた。いくつかのscFv濃度を分析した場合、試験を行ったすべての濃度の平均カイ二乗が10未満であれば、結果は有効とみなされた。試験対象のすべてのscFvにおいて、合格基準が満たされていた。
【0170】
カニクイザル(Sino Biological,No.90018-CNAE)およびアカゲザル(R&D Systems,Cat.No.1070-RM-025/CF)TNFα(Peprotech,Cat.315-01A)に対する種交差反応性は、ヒトTNFαについて上記したのと同じアッセイ設定を使用し、かつ同じ品質測定値を適用して測定した。カニクイザルおよびアカゲザルTNFαについては、それぞれ、50~180RU、および90~250RUの範囲の固定化レベルが達成された。scFvを、2倍連続希釈を用いて、45~1.4nMの範囲の濃度で分析した。試験対象のすべてのscFvについて、平均カイ二乗値は10未満であった。
2.1.2L929線維芽細胞におけるTNF誘導アポトーシス(scFvによるヒト、非ヒト霊長類およびTNFαの中和)
【0171】
scFvが組換えヒトTNFαの生物学的活性を中和する能力は、マウスL929線維芽細胞を用いて評価した(ATCC/LGC Standards,Cat.No.CCL-1)。L929細胞は、1μg/mLのアクチノマイシンDを添加することによって、TNF誘導アポトーシスに対して感作させた。抗TNFα参照抗体またはscFv(3000~0.05ng/mL)および5pM組換えヒトTNFαの3倍連続希釈物(Peprotech、Cat.No.300-01)を室温で1時間プレインキュベートした。使用されたTNFα濃度(5pM)は、最大値以下のL929アポトーシス(EC
90)を誘導する。アゴニスト/阻害剤混合物の添加後、細胞を24時間インキュベートした。細胞の生存を、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、モノナトリウム塩)細胞増殖試薬(Sigma Aldrich,Cat.No.96992)を用いた比色アッセイによって決定した。WST-8は、細胞デヒドロゲナーゼによって橙黄色のホルマザン生成物に還元される。生成されたホルマザンの量は、生存細胞の数に直接正比例する。データは、Softmaxデータ解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いた4パラメータロジスティック曲線フィットを用いてデータを分析し、TNFα誘導アポトーシスを50%および90%中和するのに必要な参照抗体およびscFvの濃度(IC
50およびIC
90)を算出した(
図7も参照されたい)。IC
50およびIC
90値を、異なる日、または異なるアッセイプレート上で実施された実験間で直接比較できるようにするために、IC
50値およびIC
90値を参照抗体インフリキシマブに対して較正した。応答の精度を制御するために、用量-応答曲線を二通り分析した。各測定点について、標準偏差およびCVを計算した(CV<20%)。
【0172】
カニクイザル(Sino Biological,No.90018-CNAE)およびアカゲザル(R&D Systems,Cat.No.1070-RM-025/CF)に対する種交差反応性は、ヒトTNFαについて上記したのと同じアッセイ設定を使用し、かつ同じ品質測定値を適用して測定した。ヒト対応物と同様に、最大以下のL929アポトーシス(EC90)を誘導するTNFα濃度を種交差反応性試験に使用した。両方の種由来のTNFαは、ヒトTNFαと非常に類似している効力を示し、L929マウス線維芽細胞アポトーシスを誘導した。その結果、試験対象の両方の種について、同じ濃度のTNFα(5pM)を使用した。種交差反応性試験の間、重複測定点のほとんどのCVは、10%未満であった。
2.1.3TNFα阻害ELISA
リガンド結合に対するscFvの阻害効果を、TNFαとTNFRIおよびTNFRIIとの間の相互作用を単独で再現する生化学的方法であるELISAを用いて評価した。
【0173】
第1の阻害ELISAのために、ヒトIgGのFc領域に融合したTNFRIの細胞外ドメイン(R&D Systems,Cat.No.372-RI)を、濃度0.5μg/mLで96ウェルMaxisorp ELISA上にコーティングした。第2の阻害ELISAのために、ヒトIgGのFc領域に融合したTNFRIIの細胞外ドメイン(R&D Systems,Cat.No.726-R2)を、濃度2μg/mLでコーティングした。すべての後続のステップは、両方のアッセイで同一とした。TNFRIおよびTNFRIIに対するTNFαの結合を検出するために、TNFαを使用前にビオチン化した。ビオチン化ヒトTNFα(960pM、50ng/mL)を、3倍連続希釈ヒト化抗TNFαscFvおよびインフリキシマブ(10,000ng/mL~0.2ng/mL)とともに室温で1時間インキュベートした。TNFα/抗体断片混合物をTNFレセプター固定化プレートに移し、ビオチン結合ストレプトアビジン-HRP(SDT Reagents,Cat.No.SP40C)で、室温にて20分間インキュベートした後、ブロックされていないTNFαの固定化TNFαレセプターへの結合を検出した。3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を添加することで、TNFRIおよびTNFRIIへのTNFαの結合に比例する比色読み出しとなった。競合ELISAでの使用前に、ビオチン化TNFαの生物学的活性がL929アッセイで確認された。ビオチン化TNFαのEC50は、非標識TNFαのEC50と類似していた(データ示さず)。上記のL929アッセイと同様に、Softmaxデータ解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いた4パラメータロジスティック曲線フィッティングを用いてデータを分析し、かつTNFαおよびTNFRの相互作用を50%および90%阻害する(IC50およびIC90)のに必要なscFvの濃度を計算した。IC50およびIC90値を、異なる日、または異なるアッセイプレート上で実施された実験間で直接比較できるようにするために、IC50値およびIC90値を参照抗体インフリキシマブに対して較正した。
【0174】
応答の精度を制御するために、用量-応答曲線を二通り分析した。各測定点について、標準偏差およびCVを計算した(CV<25%)。
2.1.4標的の特異性
【0175】
抗TNFαscFvの特異性を確認するために、最も相同であるファミリーメンバーのTNFβに対する結合を評価した。非標識TNF(Peprotech,Cat.300-01B)およびTNFα(Peprotech,Cat.300-01)によるビオチン化TNFαのscFvとの相互作用を阻害する可能性は、競合ELISAによって分析した。この目的のために、scFvを96ウェルMaxisorp ELISAプレート上に1μg/mLの濃度でコーティングした。5倍連続希釈された未標識TNFα(50μg/mL~0.00013μg/mL)またはTNFβ(1250μg/mL~0.00013μg/mL)の存在下での、ビオチン化TNFα(75ng/mL)のコーティングされたscFvへの結合は、上記のとおり、ビオチン結合ストレプトアビジン-HRP(SDT Reagents,Cat.SP40C)を用いて検出された。TNFαデータを用いた用量反応曲線については、Softmaxデータ解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いた4パラメータロジスティック曲線フィッティングを用いて分析し、ビオチン化TNFαとコーティングされたscFvとの相互作用を50%ブロックする(IC
50)のに必要な非標識TNFの濃度を算出した。TNF-βは、ビオチン化TNFαとscFvとの間の相互作用のいかなる有意な阻害も示さなかった(
図11も参照のこと)。各scFvへのTNFαの結合を阻害するTNFαと比較した場合に、TNFβの相対的な可能性を定量化するために、TNFαに対するTNFβによる相互作用を阻害するIC
50を計算した。βTNFαのIC
50よりも約5,000~20,000倍高い濃度でTNFβを使用した場合、有意な阻害は観察されなかったので、TNFβに対するTNFαへの結合の選択性は、5,000~20,000倍より有意に高くなると判断された。応答の精度を制御するために、用量-応答曲線を二通り分析した。各測定点について、標準偏差およびCVを計算した(試験対象のTNFα/β濃度のうちの1つを除くすべてはCV<25%)。すべてのscFvがこの基準を満たした。
2.2CMC分析
2.2.1還元SDS-PAGE
【0176】
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、定性的特徴付けのため、およびタンパク質の純度を制御するために使用される分析技術である。米国薬局方(USP)(USP第1056章)によれば、分析用ゲル電気泳動は、薬物物質中のタンパク質の均質性を同定するため、および評価するための適切かつ慣例的な方法である。
【0177】
この方法は、発酵後の発現収率を得るために大腸菌溶解物由来のscFv生成物の量を定量化するために使用される。この方法の別の応用は、理論値に対し、分子量に基づいて試験物質の同一性を検証することである。支持的目的のために、この方法は、プロセス関連不純物(宿主細胞タンパク質)および生成物関連不純物(分解産物または付加物)に関する試験試料の純度を定量化するために使用される。
【0178】
SDS-PAGE分析は、Bio-Rad Laboratories Inc.から入手した市販のプレキャストゲルシステム「Mini Protean」を用いて行った。ヒト化scFvは、「Any kD」分割ゲル(#456-9036)で分析した。両方の場合において、製造者が推奨するトリス/グリシン緩衝系を使用した。タンパク質バンドの検出のために、SimplyBlueTM染色溶液(Life Technologies Corp.,#LC6060)によるクーマシ染色、またはPierce Silver Stain Kit(Thermo Fisher Scientific Inc.,#24612)による銀染色のいずれかを用いた。染色手順については、それぞれの供給者のプロトコルに従った。
【0179】
染色されたタンパク質ゲルの記録および分析は、ドキュメンテーションシステムChemiDoc XRSシステム(Bio-Rad Laboratories Inc.,#170-8265)およびソフトウェアImage Lab,バージョン4.0.1(Bio-Rad Laboratories Inc.,#170-9690)を用いて実施した。
溶解物試料の力価測定
【0180】
SDS-PAGEでは、宿主細胞タンパク質の混合物内における目的のタンパク質の特異的検出が可能になる。方法の線形範囲における参照標準希釈系列(予め決定された)は、すべてのゲルに含めた。参照濃度の標準濃度に対するバンド強度の線形回帰(デンシトメトリーで測定)を用いて標準曲線を計算し、次に試料中のscFv含量を外挿した。
【0181】
未知の生成物濃度の溶解物試料を、異なる希釈物(少なくとも1:10の希釈緩衝液)に加えて、この方法の線形範囲内に少なくとも1つのscFv濃度を有するようにした。生成物量は、scFvの測定バンド強度に基づいて計算し、濃度は、試料調製物の希釈係数を用いて決定した。値は、標準曲線の線形範囲内にあったすべての試料について平均化した。
【0182】
溶解物試料の定量化のための方法の適合性の追加の試験として、既知量の参照標準で溶解物試料をスパイクすることによって、阻害/増強試験を実施した。希釈緩衝液中の1:10の試料希釈におけるスパイク回収の計算では、95.4%の値となった。これは、希釈緩衝液中の参照標準で観察されたのと同じレベルの精度である。したがって、細胞溶解物中で有意なマトリックス干渉は観察されず、この方法は、細胞溶解物中のscFv含量の定量化に好適であると考えられた。
タンパク質の純度および含量
【0183】
含量を決定するための方法の適合性およびそれによって試験試料の純度を示すために、参照scFvの検出下限(LOD)を、0.02μgの公称負荷で視覚的に(タンパク質バンドを同定することによって)決定した。各レーンの強度ヒストグラムの評価は、この負荷で約2の信号対雑音比を示す。さらに、定量化のための線形範囲は、主バンドを濃度計で分析することによって決定した。
【0184】
線形回帰によるデータのフィッティングは、0.9998の決定係数(R2)をもたらし、したがってフィッティングの良好な品質を示す。フィッティングの全体的な品質に加えて、個々のデータの各点の相対誤差を、選択された範囲内の方法の適合性を証明するために求めた。この方法の良好な精度を示すすべてのデータ点について、相対誤差は10%未満である。
2.2.2280nmでのUV吸光度
【0185】
280nmでの方法UV吸光度は、USP第1057章に概説されている全タンパク質アッセイである。タンパク質溶液は、芳香族アミノ酸が存在するために、280nmの波長でUV光を吸収する。UV吸光度は、タンパク質中のチロシンおよびトリプトファン残基の含量の関数であり、タンパク質濃度に比例する。未知のタンパク質溶液の吸光度は、ビールの法則A=ε*l*cを適用することによって分光法に関するUSP第851章に従って、求めることができる。式中、吸光度(A)は、モル吸光率(ε)、吸収経路の長さ、および物質の濃度の積に等しい。scFvのモル吸光率は、ソフトウェアVector NTI(登録商標)(Life Technologies Corporation)を用いて計算した。
【0186】
UV吸光度の測定は、Nanoquantプレート(Tecan Group Ltd.)を備えたInfinityリーダーM200 Proを用いて実施した。タンパク質試料の吸光度を280nmおよび310nmで測定し、後者の波長は280nmシグナルから差し引かれた参照シグナルとして役立った。試料マトリックスの潜在的な干渉を説明するために、各測定についてブランク減算を実施した。得られたタンパク質試料の最終吸光度シグナルを使用して、ランベルト-ビールの法則を用いて、タンパク質濃度を計算した。
【0187】
すべての測定は、0~4ODの測定範囲で機器仕様によって提示された範囲内で実施され、再現性<1%および均一性<3%が製造業者によって指定されている。
2.2.3SE-HPLC(サイズ排除高圧液体クロマトグラフィ)
【0188】
SE-HPLCは、USP第621章に概説されている固体固定相および液体移動相を利用した分離技術である。この方法は、疎水性固定相および水性移動相を利用して、分子のサイズおよび形状に基づいて分子を分離する。分子の分離は、特定のカラムの空隙容量(V0)と全透過容量(VT)との間で起こる。SE-HPLCによる測定は、自動試料注入および280nmの検出波長に設定されたUV検出器を備えたChromaster HPLCシステム(Hitachi High-Technologies Corporation)で行った。この装置は、結果として生じるクロマトグラムの分析もサポートするソフトウェアEZChrom Elite(Agilent Technologies,バージョン3.3.2 SP2)によって制御される。タンパク質試料を遠心によって清澄化し、注入前にオートサンプラー中で6℃の温度に保った。scFv試料の分析のために、カラムShodex KW402.5-4F(Showa Denko Inc.,#F6989201)を、標準化された緩衝生理食塩水移動相(50mM酢酸ナトリウム、pH6.0、250mM塩化ナトリウム)とともに、推奨流速0.35mL/分で用いた。注入1回当たりの標的試料負荷は5μgであった。試料は、280nmの波長でUV検出器によって検出され、データは、適切なソフトウェアスイートによって記録された。得られたクロマトグラムをV0~VTの範囲で分析し、それによって溶出時間>10分のマトリックス関連ピークを除外した。
【0189】
この方法の中間的精度を保証するために、参照標準を各HPLC配列の始めと終わりに日常的に測定した。このシステム適合性試験に使用した参照標準は、バッチとして製造したscFvであり、各測定時点で使用するために等分した。
2.2.4DSF(示差走査型蛍光測定法)
【0190】
方法DSFは、温度依存性タンパク質のアンフォールディングを測定するための公定書に収載されていない方法である。DSFによる熱アンフォールディング温度の測定は、MX Proソフトウェアパッケージ(Agilent Technologies)で制御され、492/610nmに設定された励起/発光フィルターを備えたMX3005P qPCR装置(Agilent Technologies)を用いて行った。反応は、Thermo fast96白色PCRプレート(Abgene;#AB-0600/W)に設定した。タンパク質アンフォールディングの検出のために、色素SYPROオレンジ(Molecular Probes;#S6650)の市販の原液を最終希釈1:1,000で使用した。タンパク質試料を、アンフォールディング測定のために、標準化緩衝食塩水中、最終濃度50μg/mLに希釈した。熱アンフォールディングは、25℃で開始して、持続時間30秒で1℃ごとに最高96℃まで上昇させる温度プログラムによって実施した。温度プログラム中、各試料の蛍光発光を記録した。記録された生データは、Microsoft Excelテンプレートのパッケージ(Niesen,Nature Protocols2007,第2巻、第9号)で処理され、評価され、蛍光データは、プログラムGraphPad Prism(GraphPad Software,Inc.)を用いて、ボルツマン方程式でフィッティングさせて、遷移の中間点(Tm)を得た。
【0191】
アンフォールディングの中間点の信頼性の高い堅牢な測定値とするために、少なくとも重複測定が行われた。データ品質に関しては、良好適合度(R2)>0.9900および0.5%未満のTmの95%信頼区間を有する測定のみが考慮された。
【0192】
中間精度の評価のために、参照標準(特徴付けられた既知のscFv)をすべての測定に含めて、異なる日のアッセイ性能の比較を可能にした。
2.2.5安定性研究
【0193】
これらの分子の開発可能性のための読み出しとして異なるscFv構築物の安定性を評価するために、短期安定性試験プロトコルを設計した。タンパク質構築物は、単純な緩衝食塩水配合物(上記参照)中で、1および10mg/mLの標的濃度まで濃縮した。モノマー含量をSE-HPLCで測定して、純度が>95%の成功基準を超えていることを確認した。続いて、タンパク質試料を<-65℃、-20℃、4℃および37℃で4週間保存し、アリコートを様々な時点で分析した。主な読み出しは、SE-HPLCによる分析であり、これにより可溶性高分子量のオリゴマーおよび凝集体の定量化が可能になる。支持的な測定として、タンパク質含量が280nmでのUV吸光度によって決定され、これは、保存期間中に実質的な量のタンパク質が沈殿によって失われたかどうかを示す。保存スクリューキャップについては、アリコート当たり30~1500μgの充填量のチューブを使用した(Sarstedt,Cat.No.72.692.005)。さらに、純度は、分解または共有結合多量体化に関する構築物の安定性を示すSDS-PAGEによって決定される。
実施例3:ヒト化ダイアボディおよびIgGの作製
【0194】
可変ドメインをVLA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VHA配置に配置することにより、一本鎖ダイアボディ構築物を設計する。これらの構築物において、VLAおよびVHAおよびVLBおよびVHBドメインは、共同してTNFαの結合部位を形成する。可変ドメインを連結するペプチドリンカーL1~L3は、グリシン/セリンリピートから構築する。2つの短いリンカーL1およびL3は、単一のG4S(配列番号30)リピートから構成され、長いリンカーL2は、配列(G4S)4(配列番号29)から構成される)。ヒト化可変ドメインをコードするヌクレオチド配列(実施例2;1.2.1.)をde novo合成し、pET26b(+)骨格(Novagen)に基づく大腸菌発現用の適合ベクターにクローニングする。発現および精製は、実施例2;1.2.1.のscFvについて記載したように行う。
【0195】
ヒト化IgGは、可変ドメインである、リーダー配列を含む一過性異種発現のための好適な哺乳類発現ベクター、およびそれぞれの定常ドメイン、例えばpFUSE-rIgGベクター(Invivogen)をクローニングすることによって構築した。機能的IgGの一過性発現は、CHO S細胞において、FreeStyle(商標)MAXシステムを用いて、重鎖および軽鎖をコードするベクターの同時トランスフェクションによって行われる。数日間培養後、精製のために抗体分泌細胞の上清を回収する。続いて、分泌されたIgGをプロテインAセファロース(GE Healthcare)によってアフニティー精製する。溶出画分をSDS-PAGE、280nmでのUV吸光度、およびSE-HPLCで分析する。
【0196】
抗体分子の親和性は、実施例2の2.1.1に記載されるBiacore機器を用いて決定する。
【0197】
抗体分子の効力を、L929アッセイで決定する(この方法は実施例2の2.1.2に記載されている)。
実施例4:TNFα結合の化学量論的測定の決定
【0198】
TNFαに対する17-22-B03の結合化学量論比をSE-HPLCを用いて測定した。17-22-B03-scFvおよびTNFαを、2つの異なるモル比、すなわちモル比1:1および4.5:1でインキュベートした。TNFαは溶液中において三量体として存在するため、示されたモル比はTNFαtrimerを指す。したがって、4.5:1の比では、17-22-B03-scFvは過剰であり、1つのTNFαtrimerと3つのscFvとの複合体を生じるすべてのTNFαtrimer結合位置を占有する必要がある。しかしながら、等モル条件下では、3つの理論上のTNFα結合部位のすべてを飽和させるのに十分なscFvは存在しない。したがって、3未満のscFv結合を有する複雑な変異体も予想される。TNFαおよび17-22-B03-scFvを室温で2時間インキュベートして、複合体形成を可能にした。次いで、試料を4℃で10分間遠心分離した。10μLの各試料をSE-HPLCで分析した。SE-HPLC分析は、0.35mL/分の流速で、溶出液として50mMリン酸緩衝液、pH6.5、300mMのNaClを用いて行った。溶出したタンパク質のピークは、280nmの波長で検出された。見かけの分子量を決定するためにGE Healthcare(LMW、HMW)のGel filtration Calibration Kitを用いてカラムを較正した。
【0199】
図12の下のパネルは、TNFα
trimer単独およびscFv単独のプロファイルとオーバーレイされている、等モル量のscFvおよびTNFαを有する溶出プロファイルを示す。溶液中でのTNFαの三量体化のために、各三量体上に存在するscFvには理論上最大3つの等価な結合部位が存在しており、したがってscFv分子は限定されている。これらの条件下で、3つの複合種(3:1、2:1、1:1)がすべて同定された。
図12の上部パネルは、過剰量のscFvを含む複合体の溶出プロファイルを示す。結合していないscFvの余剰分は、予想される保持時間で溶出した。TNFαピークは複合体形成のために定量的に消費され、完全に消失した。この複合体のピークはより短い保持時間に向かってシフトし、等モルの設定の最大分子量を有するピークの保持時間と十分に相関した。この理由から、scFvが過剰に利用可能である場合、TNFα上の利用可能な結合部位のすべてがscFvによって占有され、したがって結合化学量論比は3:1(scFv:TNFα)であると結論付けられた。
【0200】
これらの定性的観察に加えて、見かけの結合化学量論比も、SE-HPLCによって決定された17-22-B03-scFv:TNFα複合体の見かけのMWに基づいて計算した。保持時間に基づいて、見かけのMWは149.2kDaと計算された。以下の式(1)によれば、見かけの結合化学量論比は、3.6と計算された。これは、TNFα
trimer上のscFvに利用可能な3つの等価な結合部位の理論的な数、および3:1の結合化学量論比が決定された上記の観察結果と十分に相関している。
【数3】
MW(複合体、見かけ):149.2kDa
MW(TNFα理論):52.2kDa
MW(scFv理論):26.5kDa
実施例5:TNFα:抗体複合体の形成(TNFαの架橋)
【0201】
2つのTNFα分子に同時に結合する17-22-B03-ダイアボディの能力を、10mM HEPES、150mM NaCl、および0.05%Tweenを含むHEPES緩衝液中で、Biacore T200機器により試験する。ビオチン化TNFα(Acro Biosystems)を、Biotin CAPture キット(GE Healthcare)を製造者の指示に従って使用して、ビオチン化ssDNAオリゴを介して捕捉する。0.25μg/mLのビオチン化TNFαを10μL/分の流速で3分間注入して、約200~300RU(共鳴単位)の捕捉レベルに到達させる。ダイアボディおよび対照としての抗体17-22-B03-scFvを、90nMの濃度にて30μL/分の流速で2分間、TNFα固定化表面に注入した。抗体断片の会合後、TNFα(Peprotech)を、90nMにて、30μL/分の流速で5分間注入する。抗体およびTNFα濃度は、結合の飽和に近くなるように選択する。測定は25℃で行う。二価の17-22-B03-ダイアボディは、2つのTNFα分子に同時に結合することができるが、予想通り、一価の17-22-B03-scFvは1つのTNFα分子にのみ結合する。
【0202】
さらに、TNFα-抗体複合体の形成を、SE-HPLCを用いて異なる比率のTNFαおよび17-22-B03抗体フォーマットで評価できる。結合部位に関して、17-22-B03-IgG(150kDa)および17-22-B03-scDb(約52kDa)は、TNFαとともに異なるモル比(1:3、1:1、3:1)でインキュベートする。したがって、IgGおよびscDbは2つの結合部位を有し、TNFαは3つの結合部位を有する。抗体-TNFα混合物は、37℃で少なくとも30分間インキュベートし、室温で10分間冷却し、2~8℃で一晩保存した。約5~10μLのタンパク質混合物を、約1mg/mLの濃度で、TOSHO TSKgel UP-SW3000カラムに注入する。分析は、0.3mL/分の流速で、溶出液として150mMリン酸緩衝液、pH6.8、100mMのNaClを用いて行う。溶出したタンパク質のピークは、214nmの波長で検出される。このカラムは、複合体のおおよその分子量を決定するために、予めBEH450 SECタンパク質標準混合(Waters)を用いて較正する。600kDa以上の複合体は、2つ以上のTNFαおよび3つ以上のIgG分子からなる複合体の形成を示す。300kDa以上の複合体は、2つ以上のTNFαおよび3つ以上のscDb分子からなる複合体の形成を示す。
実施例6:細胞増殖の阻害
【0203】
末梢血単核細胞(PBMC)の増殖を阻害する17-22-B03およびアダリムマブの異なる抗体フォーマットの能力は、混合リンパ球反応(MLR)において試験する。2名の健康なドナーからのPBMCを96ウェルプレート中、37℃/5%CO2で48時間、1:1の比で培養する(RPMI1640)。活性化後、細胞は、37℃/5%CO2でさらに5日間、六通りで、抗TNFα抗体またはIgG対照抗体(すべて最終濃度10μg/mLで)を用いて処理する。インキュベーション終了前の24時間で、BrdU(20μL/ウェル)を各ウェルに添加し、市販の細胞増殖ELISA(Roche Diagnostics)を用いてBrdUの取り込みを測定することによって、増殖を判定する。刺激指数は、抗体処理細胞とマイトマイシンC(25ng/mL)処理細胞との間のBrdUの取り込みの比を計算することによって決定する。17-22-B03の試験対象のすべての抗体フォーマットが、アダリムマブに匹敵して、T細胞増殖を有意に阻害することが期待されている。
実施例7:LPS誘発サイトカイン分泌の阻害
【0204】
RPMI1640中のCD14
+単球を96ウェルプレートに播種し、加湿インキュベーター内で37℃/5%CO
2で16時間インキュベートする。次いで、2~2000ng/mLの範囲の最終抗体濃度を用いて、細胞を抗TNFα抗体またはIgG対照抗体で1時間2回処理する。単球を細胞培養培地で3回洗浄し、続いてLPS(100ng/mL)と共に37℃/5%CO
2で4時間インキュベートする。細胞培養上清中のIL-1βおよびTNFα濃度は、市販のELISAキット(R&D Systems)を用いて測定する。4パラメータロジスティック曲線フィッティングを用いて、IC
50を決定する。
【表10】
【表11】
【配列表】