(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】酸化グラフェン接合金属箔薄フィルム集電体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20220819BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20220819BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20220819BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01G11/06
H01G11/68
(21)【出願番号】P 2019506509
(86)(22)【出願日】2017-02-21
(86)【国際出願番号】 US2017018707
(87)【国際公開番号】W WO2018031064
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2019-11-27
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0086881(US,A1)
【文献】特開2014-007147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0319870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01G 11/06
H01G 11/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーまたはスーパーキャパシタ内の酸化グラフェン接合金属箔集電体において、
(a)1μm~30μmの厚さおよび2つの対向した平行な主表面を有する自立した、支持無しの薄金属箔と、
(b)結合剤または接着剤を使用せずに前記金属箔の前記2つの対向した主表面の少なくとも1つに化学接合した酸化グラフェンシートの薄フィルムとを含み、前記少なくとも1つの主表面が不動態化金属酸化物の層を含有せず、酸化グラフェンの前記薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、0.1重量%~10重量%の酸素含有量、0.335~0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3~2.2g/cm
3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記主表面に平行に配向され、前記薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率、および/または1,500S/cmより大きい電気導電率を示すことを特徴とする酸化グラフェン接合金属箔集電体。
【請求項2】
請求項1に記載の集電体において、前記2つの対向した主表面の各々が結合剤または接着剤を使用せずに酸化グラフェンシートの薄フィルムと化学接合しており、酸化グラフェンの前記薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、0.1重量%~10重量%の酸素含有量、0.335~0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3~2.2g/cm
3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記主表面に平行に配向され、前記薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率および1,500S/cmより大きい電気導電率を示すことを特徴とする集電体。
【請求項3】
請求項1に記載の集電体において、前記薄金属箔が4~10μmの厚さを有することを特徴とする集電体。
【請求項4】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンシートの前記薄フィルムが20nm~2μmの厚さを有することを特徴とする集電体。
【請求項5】
請求項1に記載の集電体において、前記金属箔が、Cu、Ti、Ni、ステンレス鋼、および化学的にエッチングされたAl箔から選択され、前記化学的にエッチングされたAl箔の表面が、前記酸化グラフェンシートに接合される前にその上に不動態化Al
2O
3が形成されないことを特徴とする集電体。
【請求項6】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンシートの前記薄フィルムが、1重量%~5重量%の酸素含有量を有することを特徴とする集電体。
【請求項7】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間間隔、および3,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項8】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、0.337nm未満のグラフェン間間隔、および5,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項9】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、および8,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項10】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、および10,000S/cmより大きい電気導電率を有することを特徴とする集電体。
【請求項11】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする集電体。
【請求項12】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする集電体。
【請求項13】
請求項1に記載の集電体を製造する方法において、酸化グラフェンシートの前記薄フィルムが、配向制御応力の影響のもとで酸化グラフェンゲルを前記少なくとも主表面上に堆積させる工程と、次に、80℃~1,500℃の熱処理温度で前記酸化グラフェンゲルを熱処理する工程とによって得られることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記熱処理温度が80℃~500℃であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記熱処理温度が80℃~200℃であることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、化学接合したグラフェン分子または互いに平行である化学的同化したグラフェン面を含有することを特徴とする集電体。
【請求項17】
請求項13に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、元の最大黒鉛結晶粒径を有する黒鉛材料から得られ、および酸化グラフェンの前記薄フィルムが、前記元の最大結晶粒径より大きい結晶粒径を有することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、a軸結晶方向の初期長さL
a、b軸方向の初期幅L
b、およびc軸方向の厚さL
cを有する黒鉛微結晶から構成される天然黒鉛または人工黒鉛の粒子から製造され、および酸化グラフェンの前記薄フィルムが、前記黒鉛微結晶の前記初期L
aおよびL
bより大きいグラフェンドメインまたは結晶長さもしくは幅を有することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、sp
2およびsp
3電子配置の組合せを有するグラフェン面を含有することを特徴とする集電体。
【請求項20】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、5cm以上の長さおよび1cm以上の幅を有する連続長のフィルムであることを特徴とする集電体。
【請求項21】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、単独で測定されるとき、1.8g/cm
3より大きい物理的密度、および/または40MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項22】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、単独で測定されるとき、1.9g/cm
3より大きい物理的密度、および/または60MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項23】
請求項1に記載の集電体において、酸化グラフェンの前記薄フィルムが、単独で測定されるとき、2.0g/cm
3より大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする集電体。
【請求項24】
アノード集電体および/またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有することを特徴とする再充電可能リチウムバッテリーまたはリチウムイオンバッテリー。
【請求項25】
アノード集電体またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有する再充電可能リチウムバッテリーにおいて、リチウム-硫黄セル、リチウム-セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウム-空気セル、リチウム-グラフェンセル、またはリチウム-炭素セルであることを特徴とする再充電可能リチウムバッテリー。
【請求項26】
アノード集電体またはカソード集電体として請求項1に記載の集電体を含有するキャパシタにおいて、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ-バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルであることを特徴とするキャパシタ。
【請求項27】
バッテリーまたはスーパーキャパシタのための薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を製造するための方法において、前記方法が、(a)酸化グラフェン分子を流動媒体中に溶解させた酸化グラフェンゲルを調製する工程において前記酸化グラフェン分子が20重量%超の酸素含有量を含有する工程と、(b)前記酸化グラフェンゲルの層を金属箔の2つの主表面の少なくとも1つの上に分配および堆積させて、その上に堆積させた湿潤酸化グラフェンゲルの層を形成する工程において前記分配および堆積手順が前記酸化グラフェンゲルの剪断誘起薄化を包含する工程と、(c)前記流動媒体を酸化グラフェンゲルの堆積させた湿潤層から部分的にまたは完全に除去して、X線回折によって測定された0.4nm~1.2nmの面間間隔d
002を有し且つ20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェンの乾燥フィルムを形成する工程と、(d)面間間隔d
002が0.335nm~0.5nmの値に減少すると共に前記酸素含有量が10重量%未満に減少する程度に酸化グラフェンの前記乾燥フィルムを80℃~2,500℃の熱処理温度で熱処理して前記薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を形成する工程とを含み、および酸化グラフェンの前記薄フィルムが、10nm~10μmの厚さ、1.3~2.2g/cm
3の物理的密度を有し、および全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記少なくとも1つの主表面に平行に配向されることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、工程(b)が、前記酸化グラフェンゲルの層を前記金属箔の前記2つの主表面の各々の上に分配および堆積させて、前記2つの主表面の各々の上に堆積させた湿潤酸化グラフェンゲルの層を形成する工程を包含し、前記金属箔が1μm~30μmの厚さを有することを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、前記金属箔が、Cu、Ti、Ni、ステンレス鋼、および化学的にエッチングされたAl箔から選択され、前記化学的にエッチングされたAl箔の表面が、前記酸化グラフェンに接合される前にその上に不動態化Al
2O
3が形成されないことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、工程(c)が、0.4nm~0.7nmの面間間隔d
002および20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェン層を形成する工程を包含し、工程(d)が、面間間隔d
002が0.3354nm~0.36nmの値に減少すると共に前記酸素含有量が2重量%未満に減少する程度に前記酸化グラフェン層を熱処理する工程を包含することを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、前記剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に2,000センチポアズ超の粘度を有し、および前記粘度が、剪断誘起薄化の間または後に2,000センチポアズ未満に低減されることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、前記剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に500センチポアズ~500,000センチポアズの粘度を有することを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、前記剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に5,000センチポアズ以上の粘度を有し、および前記粘度が、剪断誘起薄化の間または後に2,000センチポアズ未満に低減されることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが5.0未満のpH値を有することを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが3.0未満のpH値を有することを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項27に記載の方法において、剪断誘起薄化が、コーティング、キャスティング、印刷、エア・アシスト噴霧、超音波噴霧、または押出から選択される手順によって行われることを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法において、前記工程(d)が、前記酸化グラフェン層を圧縮応力下で熱処理する工程を包含することを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、均質な溶液でありまた光学的に透明、半透明、または褐色である酸化グラフェンゲルを得るために十分な時間の間粉末または繊維形態の黒鉛材料を酸化性液体中に浸漬して、初期に光学的に不透明であり且つ黒ずんだ懸濁液を反応温度の反応器内に形成することによって調製され、前記酸化グラフェンゲルが、5以下のpH値を有する酸性媒体中に溶解させた酸化グラフェン分子から構成され、および前記酸化グラフェン分子が、20重量%以上の酸素含有量を有することを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、黒鉛材料を酸化剤中に浸漬して初期に光学的に不透明であり且つ黒ずんだ懸濁液を形成する工程と、均質且つ光学的に透明、半透明、または褐色の溶液が形成されるまで酸化反応を進行させる工程とによって調製され、前記黒鉛材料が、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項40】
ロールツーロール方法である請求項27に記載の方法において、前記工程(b)および(c)が、前記金属箔のシートをローラーから堆積領域に供給する工程と、酸化グラフェンゲルの層を前記金属箔の前記少なくとも1つの主表面上に堆積させて酸化グラフェンゲルの湿潤層をその上に形成する工程と、酸化グラフェンゲルの前記湿潤層を乾燥させて、前記主表面上に堆積させた乾燥させた酸化グラフェン層を形成する工程と、乾燥させた酸化グラフェン層を堆積させた金属箔をコレクターローラー上に集める工程とを包含することを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項27に記載の方法において、前記熱処理温度が80℃~500℃の熱還元レジームの温度を含み、および
前記薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体が、5%未満の酸素含有量、0.4nm未満のグラフェン間間隔、および/または少なくとも100W/mKの熱伝導率を有することを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項27に記載の方法において、前記熱処理温度が500℃~1,000℃の範囲の温度を含み、および酸化グラフェンの前記薄フィルムが、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または3,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項27に記載の方法において、前記熱処理温度が1,000℃~1,500℃の範囲の温度を含み、および前記酸化グラフェンフィルムが、0.01%未満の酸素含有量、0.337nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有することを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが40%以上の黒鉛化度および/または0.7未満のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示すことを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが、化学接合したグラフェン分子または互いに平行である化学的同化したグラフェン面を含有することを特徴とする方法。
【請求項48】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、元の最大黒鉛結晶粒径を有する黒鉛材料から得られ、および酸化グラフェン前記薄フィルムが、前記元の最大黒鉛結晶粒径より大きい結晶粒径を有することを特徴とする方法。
【請求項49】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンゲルが、液状媒体に溶解させた酸化グラフェン分子から構成された均質な溶液を得るために十分な時間の間反応温度において反応器内の酸化性液状媒体に粉末または繊維形態の黒鉛材料を浸漬することによって得られ、前記均質な溶液が光学的に透明、半透明、または褐色であり、および前記酸化グラフェン分子が、20重量%以上の酸素含有量を有し且つゲル状態にある間43,000g/モル未満の分子量を有することを特徴とする方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法において、前記酸化グラフェン分子が、ゲル状態にある間4,000g/モル未満の分子量を有することを特徴とする方法。
【請求項51】
請求項49に記載の方法において、前記酸化グラフェン分子が、ゲル状態にある間200g/モル~4,000g/モルの間の分子量を有することを特徴とする方法。
【請求項52】
請求項27に記載の方法において、熱処理の前記工程が、酸化グラフェン分子の化学連結、同化、または化学接合、および/または再黒鉛化または黒鉛構造物の再組織化を引き起こすことを特徴とする方法。
【請求項53】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが、3,000S/cmより大きい電気導電率、600W/mKより大きい熱伝導率、1.8g/cm
3より大きい物理的密度、および/または40MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする方法。
【請求項54】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが、5,000S/cmより大きい電気導電率、1,000W/mKより大きい熱伝導率、1.9g/cm
3より大きい物理的密度、および/または60MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする方法。
【請求項55】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが、15,000S/cmより大きい電気導電率、1,500W/mKより大きい熱伝導率、2.0g/cm
3より大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有することを特徴とする方法。
【請求項56】
請求項27に記載の方法において、前記金属箔が4~10μmの厚さを有することを特徴とする方法。
【請求項57】
請求項27に記載の方法において、前記酸化グラフェンフィルムが20nm~2μmの厚さを有することを特徴とする方法。
【請求項58】
バッテリーまたはスーパーキャパシタのための薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を製造するための方法において、方法が、(a)酸化グラフェン分子を流動媒体中に溶解させた酸化グラフェンゲル浴を調製する工程において前記酸化グラフェン分子が20重量%超の酸素含有量を含有し且つ前記酸化グラフェンゲルが5.0未満のpH値を有する工程と、(b)金属箔のシートを前記浴中に供給すると共に金属箔の前記シートを前記浴から外に移動させ、前記金属箔の2つの主表面の各々の上への酸化グラフェンゲルの湿潤層の堆積を可能にする工程と、(c)前記流動媒体を酸化グラフェンゲルの前記堆積させた湿潤層から部分的にまたは完全に除去して、X線回折によって測定された0.4nm~1.2nmの面間間隔d
002を有する酸化グラフェンの乾燥フィルムを形成する工程と、(d)面間間隔d
002が0.335nm~0.5nmの値に減少すると共に前記酸素含有量が10重量%未満に減少する程度に酸化グラフェンの前記乾燥フィルムを80℃~2,500℃の熱処理温度で熱処理して前記薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を形成する工程とを含み、および酸化グラフェンの前記薄フィルムが、10nm~10μmの厚さ、1.3~2.2g/cm
3の物理的密度を有し、および全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記少なくとも1つの主表面に平行に配向されることを特徴とする方法。
【請求項59】
請求項58に記載の方法において、前記金属箔がアルミニウム箔を含有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月8日に出願された米国特許出願第15/231486号明細書および第15/231498号明細書(その内容を参照によって本願明細書に組み入れる)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、リチウムバッテリーまたはスーパーキャパシタのための集電体を提供する。集電体は、酸化グラフェンゲルから製造された薄い酸化グラフェンフィルムに接合された金属箔である。この酸化グラフェン接合薄金属箔は、電解質相溶性、非反応性、防食性、低い接触抵抗、熱伝導性および電気導電性、極薄、および軽量であり、バッテリーまたはキャパシタがより高い出力電圧、より高いエネルギー密度、高レート能力、およびもっと長いサイクル寿命を与えることを可能にする。
【0003】
この特許出願は、リチウムセル(例えばリチウムイオンセル、リチウム-金属セル、またはリチウムイオンキャパシタ)、スーパーキャパシタ、非リチウムバッテリー(例えば亜鉛-空気セル、ニッケル金属水素化物バッテリー、ナトリウムイオンセル、およびマグネシウムイオンセル)、およびその他の電気化学エネルギー蓄積セルのアノード電極(アノード活物質層)またはカソード電極(カソード活物質層)と共に作用する集電体を目的としている。この出願は、アノード活物質層またはカソード活物質層自体を目的としていない。
【0004】
リチウム-金属セルには、従来のリチウム-金属再充電可能セル(例えばアノードとしてリチウム箔およびカソード活物質としてMnO2粒子を使用する)、リチウム-空気セル(Li-Air)、リチウム-硫黄セル(Li-S)、および先端リチウム-グラフェンセル(カソード活物質としてグラフェンシートを使用する、Li-グラフェン)、リチウム-炭素ナノチューブセル(カソードとしてCNTを使用する、Li-CNT)、およびリチウム-ナノ炭素セル(カソードとしてナノ炭素繊維または他のナノ炭素材料を使用する、Li-C)が含まれる。アノードおよび/またはカソード活物質層は若干のリチウムを含有することができるか、またはセルの組立前または直後にプレリチウム化され得る。
【0005】
再充電可能リチウムイオン(Liイオン)、リチウム金属、リチウム-硫黄、およびLi金属-空気バッテリーは、電気車(EV)、ハイブリッド電気車(HEV)、および携帯用電子デバイス、例えばラップトップコンピュータおよび携帯電話のための有望な電源であると考えられる。金属元素としてのリチウムは、アノード活物質として任意の他の金属または金属をインターカレートした化合物(4,200mAh/gの比容量を有する、Li4.4Siを除く)と比較して最も高いリチウム貯蔵容量(3,861mAh/g)を有する。したがって、一般的には、Li金属バッテリー(リチウム金属アノードを有する)は、従来のリチウムイオンバッテリー(黒鉛アノードを有する)よりもかなり高いエネルギー密度を有する。
【0006】
伝統的に、再充電可能リチウム金属バッテリーは、リチウム金属アノードと結合される、カソード活物質として例えばTiS2、MoS2、MnO2、CoO2、およびV2O5などの比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物を使用して製造された。バッテリーが放電されるとき、リチウムイオンはリチウム金属アノードからカソードに電解質を通して移動され、カソードはリチウム化された。残念なことに、充電および放電が繰り返される時に、リチウム金属は、内部短絡、熱暴走、および爆発を最終的にもたらす樹枝状結晶をアノードに形成した。この問題に関連した一連の事故の結果として、これらのタイプの二次バッテリーの製造は1990年代初頭に中止され、リチウムイオンバッテリーに取って代わられた。今でも、サイクル安定性および安全性の問題は依然として、EV、HEV、およびマイクロ電子デバイス用途のためのLi金属バッテリー(例えばリチウム-硫黄およびリチウム-遷移金属酸化物セル)のさらなる商品化を妨げる主要因となっている。
【0007】
先行のリチウム金属二次バッテリーの安全性についての前述の問題に刺激されて、リチウムイオン二次バッテリーの開発に至っているが、そこで高純度リチウム金属シートまたはフィルムはアノード活物質として炭質材料(例えば天然黒鉛粒子)によって置き代えられた。炭質材料は(例えばグラフェン面間のリチウムイオンまたは原子のインターカレーションによって)リチウムを吸収し、リチウムイオンバッテリー運転の再充電および放電段階それぞれの間にリチウムイオンを脱着する。炭質材料は第一に、リチウムをインターカレートし得る黒鉛を含んでもよく、得られた黒鉛層間化合物はLixC6として表されてもよく、そこでxは典型的に1未満である(黒鉛の比容量は<372mAh/gである)。
【0008】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリーは電気駆動車のための有望なエネルギー蓄積デバイスであるが、最新技術のLiイオンバッテリーは、コスト、安全性、および性能目標(例えば高い比エネルギー、高いエネルギー密度、良いサイクル安定性、および長いサイクル寿命)をまだ満たしていない。Liイオンセルは典型的に、炭素負極(アノード)に対して高い電位でLi+を脱/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物またはホスフェートを使用する。リチウム遷移金属酸化物またはホスフェート系カソード活物質の比容量は典型的に、140~170mAh/gの範囲である。結果として、黒鉛アノードおよびリチウム遷移金属酸化物またはホスフェート系カソードを特徴とする市販のLiイオンセルの比エネルギー(質量エネルギー密度)は典型的に、120~220Wh/kg、最も典型的に150~200Wh/kgの範囲である。エネルギー密度(体積エネルギー密度)の相当する典型的な範囲は300~400Wh/Lである。これらの比エネルギー値は、バッテリー式の電気車が広く受け入れられるために必要とされる比エネルギー値の2分の1~3分の1である。
【0009】
典型的なバッテリーセルは、アノード集電体、アノード電極(典型的にアノード活物質と、導電性充填剤と、結合剤樹脂構成成分とを含有するアノード活物質層とも称される)、電解質/セパレーター、カソード電極(典型的にカソード活物質と、導電性充填剤と、結合剤樹脂とを含有するカソード活物質層とも称される)、カソード集電体、外部配線に接続される金属タブ、およびタブ以外の全ての他の構成成分の周りに巻き付けるケーシングから構成される。これらの構成成分の重量の合計および体積の合計は、それぞれ、全セル重量および全セル体積である。セルによって蓄積される全エネルギー量は、カソード活物質の量、およびアノード活物質の相当する量によって左右される。その場合には、セルの比エネルギーおよびエネルギー密度は、それぞれ全セル重量およびセル体積によって蓄積される全エネルギー量として定義される。これは、セルの比エネルギーおよびエネルギー密度を最大にする1つの方法が、他のバッテリー設計の問題点の制約条件下で、活物質の量を最大にすることおよび全ての他の構成成分(非活物質)の量を最小にすることであることを意味する。
【0010】
換言すれば、バッテリーセル内のアノード側およびカソード側の集電体は非活物質であり、それらは、バッテリーの質量および体積エネルギー密度を増加させるために(重量および体積において)低減されなければならない。集電体、典型的にアルミニウム箔(カソード側)および銅箔(アノード側)は、リチウムイオンバッテリーの約15~20重量%およびコストで10~15%を占める。したがって、より薄めの、より軽い箔が好ましい。しかしながら、最新技術の集電体に関連したいくつかの主要な問題がある:
(1)簡単に折り目がついたり裂けたりするために、より薄めの箔は、いっそう費用がかかり作業するのがいっそう難しくなる傾向がある。
(2)技術的制約のために、6μmより薄い金属箔(例えばCu)または12μmより薄い金属箔(例えばAl、Ni、ステンレス鋼箔)を大量に製造することは、不可能ではないにしても難しい。
(3)集電体は、電極の動作電位窓についてセル構成成分に対して電気化学的に安定していなければならない。実施において、主に電解質による集電体の継続的な腐食は、バッテリーの内部抵抗の漸増に至ることがあり、皮相容量の持続的低下をもたらすことがある。
(4)金属集電体の酸化は、リチウムバッテリーの熱暴走に著しく寄与し得る強い発熱反応である。
【0011】
したがって、集電体は、バッテリーのコスト、重量、安全性、および性能のために極めて重要である。金属の代わりに、グラフェンまたはグラフェンでコートされた固体金属またはプラスチックは、以下に記載された参考文献に要約されるように、有望な集電体材料として考えられている:
1.Li Wang,Xiangming He,Jianjun Li,Jian Gao,Mou Fang,Guangyu Tian,Jianlong Wang,Shoushan Fan,“Graphene-coated plastic film as current collector for lithium/sulfur batteries”,J.Power Source,239(2013)623-627。
2.S.J.Richard Prabakar,Yun-Hwa Hwang,Eun Gyoung Bae,Dong Kyu Lee,Myoungho Pyo,“Graphene oxide as a corrosion inhibitor for the aluminum current collector in lithium ion batteries”,Carbon,52(2013)128-136。
3.Yang Li,et al.Chinese Patent Pub.No.CN 104600320 A(2015,05,06)。
4.Zhaoping Liu,et al(Ningbo Institute of Materials and Energy,China),WO 2012/151880 A1(Nov.15,2012)。
5.Gwon,H.;Kim,H-S;Lee,KE;Seo,D-H;Park,YC;Lee,Y-S;Ahn,BT;Kang,K“Flexible energy storage devices based on graphene paper”,Energy and Environmental Science.4(2011)1277-1283。
6.Ramesh C.Bhardwaj and Richard M.Mank,“Graphene current collectors in batteries for portable electronic devices”,US 20130095389 A1,Apr 18,2013。
【0012】
最近では、グラフェン集電体は3つの異なった形態になる:グラフェンでコートされた基材[参考文献1-4]、自立グラフェン紙[参考文献5]、および遷移金属(Ni、Cu)触媒による化学蒸着(CVD)と、その後の、金属エッチングとによって製造される単層グラフェンフィルム[参考文献6]。
【0013】
グラフェンでコートされた基材の作製において、酸化グラフェン(GO)または還元酸化グラフェン(RGO)の小さな分離シートまたはプレートリットを固体基材(例えばプラスチックフィルムまたはAl箔)上に噴霧堆積させる。グラフェン層において、構成要素は、結合剤樹脂、例えばPVDF[参考文献1、3および4]によって典型的に接合される分離されたグラフェンシート/プレートリット(典型的に長さ/幅0.5~5μmおよび厚さ0.34~30nm)である。単独グラフェンシート/プレートリットは(その0.5~5μmの範囲内で)比較的高い電気導電率を有することができるが、得られたグラフェン-結合剤樹脂複合層は、電気導電率が比較的低い(典型的に<100S/cmおよびより典型的に<10S/cm)。さらに、結合剤樹脂を使用する別の目的は、グラフェン-結合剤複合層を基材(例えばCu箔)に接合することであり、これは、Cu箔とグラフェン-結合剤複合層との間に結合剤樹脂(接着剤)層があることを意味する。残念なことに、この結合剤樹脂層は電気絶縁性であり、結果として生じる有害作用は、これまでの研究者によって全く見落とされていると思われる。
【0014】
Prabakarら[参考文献2]は離散酸化グラフェンシートでコートされたアルミニウム箔を形成する際に結合剤樹脂を使用していないと思われるが、この酸化グラフェンでコートされたAl箔はそれ自体の問題を有する。酸化アルミニウム(Al2O3)がアルミニウム箔の表面上にすぐに形成され、アセトンまたはアルコールによる清浄化は酸化アルミニウムまたはアルミナのこの不動態化層を除去することができないことは本技術分野に公知である。この酸化アルミニウム層は、電気および熱絶縁性であるだけでなく、実際には特定のタイプの電解質に耐性がない。例えば、最も一般的に使用されるリチウムイオンバッテリーの電解質は、有機溶媒に溶解させたLiPF6である。この電解質中の微量のH2Oは、酸化アルミニウム層をすぐに分解してAl箔を腐食すると共に電解質を消費し続けるHF(高度に腐食性の酸)の形成を伴う一連の化学反応を引き起こすことができる。容量の減少は典型的に、200~300充電-放電サイクルの後に極めて明白になる。
【0015】
自立グラフェン紙は典型的に、水中で懸濁されたGOまたはRGOシート/プレートリットの真空補助濾過によって作製される。自立紙において、構成要素は、一緒にゆるく重なり合う分離されたグラフェンシート/プレートリットである。また、単独グラフェンシート/プレートリットは(0.5~5μmの範囲内で)比較的高い電気導電率を有することができるが、得られたグラフェン紙は、非常に低い電気導電率、例えば8,000S/mまたは80S/cmを有し[参考文献5]、それはCu箔の導電率(8×105S/cm)よりも4桁低い。
【0016】
触媒CVD法は、500~800℃の温度の真空室中に炭化水素ガスを導入することを必要とする。これらの厳しい条件下で、炭化水素ガスは、遷移金属基材(NiまたはCu)によって触媒される分解反応によって分解される。次に、強酸を使用してCu/Ni基材を化学エッチングするが、それは環境に優しい手順ではない。プロセス全体は緩慢で、長たらしく、エネルギー集約的であり、得られたグラフェンは典型的に単一層グラフェンまたは数層グラフェンである(下にあるCu/Ni層が触媒としてのその有効性を失うので、最大5層まで)。
【0017】
Bhardwajら[参考文献6]は、複数のCVD-グラフェンフィルムを1μmまたは数μmの厚さに積み重ねることを提案した。しかしながら、これは、一緒に積み重ねられる数百または数千のフィルムを必要とする(各々のフィルムは典型的に厚さ0.34nm~2nmである)。Bhardwajらは、「グラフェンは製造コストを低減し、および/またはバッテリーセルのエネルギー密度を増加させる場合がある」と主張するが、それらの請求の範囲を支持する実験データは提供されなかった。この請求の範囲とは反対に、CVDグラフェンは、費用がかかることで広く知られた方法であり、CVDグラフェンフィルムの単一層でさえも、同じ面積が与えられたとすると(例えば同じ5cm×5cm)CuまたはAl箔のシートよりもかなり費用がかかるであろう。Bhardwajらによって提案されるような数百または数千の単層または数層グラフェンフィルムの積層体は、Cu箔集電体よりも数百倍または数千倍費用がかかることを意味する。このコストは、法外に高い。さらに、積層体内の数百のCVDグラフェンフィルム間の高い接触抵抗およびCVDグラフェンの比較的低い導電率は、高い全内部抵抗をもたらし、より薄めのフィルム(10μmのCu箔に対して1μmのグラフェン積層体)を使用してセルの全重量および体積を低減する潜在的利益を全く無駄にする。データを全く含まないBhardwajらの特許出願[参考文献6]は概念論文以外の何者でもないと考えられる。
【0018】
上記の考察は、グラフェン強化またはグラフェン系集電体の全ての3つの形態はバッテリーまたはスーパーキャパシタにおいて使用するための性能および要求価格を満たさないことを明らかに示している。集電体として使用するための異なったタイプの材料が非常に必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタ内の酸化グラフェン接合金属箔(薄フィルム)集電体を提供する。集電体は、(a)1μm~30μmの厚さおよび2つの対向した略平行な主表面を有する自立した、支持無しの薄金属箔と、(b)結合剤または接着剤を使用せずに2つの対向した主表面の少なくとも1つに化学接合した酸化グラフェンシートの薄フィルムとを含み、そこで少なくとも1つの主表面が不動態化金属酸化物の層を含有せず(例えばAl箔のこの主表面上にアルミナ層がない)、および酸化グラフェンの薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、0.1重量%~10重量%の酸素含有量、0.335~0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3~2.2g/cm3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ主表面に平行に配向され、薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率、および/または1,500S/cmより大きい電気導電率を示す。薄フィルムGO層自体において結合剤樹脂または接着剤は使用されず、薄フィルムGO層と金属箔層との間に結合剤樹脂/接着剤または不動態化金属酸化物層はない。
【0020】
薄金属箔(例えばCu箔、Al箔、ステンレス鋼箔、Ni箔、およびTi箔)は、フィルムの厚さ、したがって電極活物質から集められるかまたはそれに移される電子が移動しなければならない経路の長さを低減するために自立フィルム(例えば、別の金属プレート片上に支持されない)でなければならない。薄金属箔は好ましくは4~10μmの厚さを有する。好ましくは、酸化グラフェンの薄フィルムは20nm~2μm(さらに好ましくは<1μm)の厚さを有する。
【0021】
好ましくは、両方の主表面が各々、結合剤または接着剤を使用せずに酸化グラフェンシートの薄フィルムと化学接合しており、そこで酸化グラフェンの前記薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、0.1重量%~10重量%の酸素含有量、0.335~0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3~2.2g/cm3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記主表面に平行に配向され、前記薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率および1,500S/cmより大きい電気導電率を示す。
【0022】
薄金属箔は好ましくは、Cu、Ti、Ni、ステンレス鋼、および化学的にエッチングされたAl箔から選択される。化学的にエッチングされたAl箔の表面が、酸化グラフェン分子に接合される前に不動態化Al2O3フィルムをその上に形成していないように化学エッチングがAl箔上で行われる。
【0023】
酸化グラフェンゲル(5.0以下、好ましくはおよび典型的に<3.0、最も典型的に<2.0のpH値を有する酸性媒体中に強く酸化されたグラフェン分子を含有するGOゲル)は、Al箔表面上の不動態化Al2O3相を除去することができることを我々は驚くべきことに観察した。GOゲル中のこれらのGO分子は、典型的に>20重量%、より典型的に>30重量%、および最も典型的に>40重量%の酸素含有量を有する。対照的に、液状媒体(例えば水または有機溶媒)中の、しかしGOゲル状態ではない離散グラフェンまたは酸化グラフェンシートの簡単な懸濁液は、このエッチング能力を有さない。強く酸化されたGOシートでさえも、ゲル状態から回収および乾燥させて次に液状媒体中に再分散される場合、このエッチング能力を失うことがあり得る。GOシートは、わずかにだけ還元されて還元酸化グラフェン(RGO)になっても、このエッチング力も失うことがあり得るであろう。これらの観察は本当に予想外である。
【0024】
特定の実施形態において、酸化グラフェンシートの薄フィルムは、1重量%~5重量%の酸素含有量を有する。特定の他の実施形態において、本発明の集電体内の酸化グラフェンの薄フィルムは、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間間隔、および3,000S/cm以上の電気導電率を有する。好ましくは、本発明の集電体において、酸化グラフェンの薄フィルムは、0.1%未満の酸素含有量、0.337nm未満のグラフェン間間隔、および5,000S/cm以上の電気導電率を有する。さらに好ましくは、酸化グラフェンの薄フィルムは、0.05%以下の酸素含有量、0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、および8,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0025】
特定の実施形態において、酸化グラフェンの薄フィルムは、0.336nm未満のグラフェン間間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、および10,000S/cmより大きい電気導電率を有する。本発明の集電体のいくつかにおいて、酸化グラフェンの薄フィルムは、0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す。好ましくはおよび典型的に、酸化グラフェンの薄フィルムは、80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。
【0026】
また、本発明は、本発明の集電体を製造する方法を提供する。この方法において、酸化グラフェンシートの薄フィルムは、主表面の面方向に沿ってGO分子またはシートを整列する配向制御応力のもとで酸化グラフェンゲルを金属箔の主表面または2つの主表面上に堆積させる工程と、次に、堆積させた酸化グラフェンゲルを80℃~1,500℃の熱処理温度で熱処理する工程とによって得られる。好ましくは、熱処理温度は80℃~500℃である。さらに好ましくは、熱処理温度は80℃~200℃である。
【0027】
予想外に、80℃~200℃しかない熱処理温度は、よく整列されている高度に配向GOシートの縁間同化(化学接合、シート状分子の伸長、または(GOゲルからの)強く酸化されたGO分子の「重合または鎖成長」を促進することができることを我々は観察した。このように、特定の実施形態において、酸化グラフェンの薄フィルムは、化学接合したグラフェン分子または互いに平行である化学的同化したグラフェン面を含有する。
【0028】
いくつかの実施形態において、酸化グラフェンゲルが、(最大長さを有するGOシートをもたらす)元の最大黒鉛結晶粒径を有する黒鉛材料から得られ、酸化グラフェンの薄フィルムは、この元の最大結晶粒径または最大GO長さより大きい結晶粒径を有する。これは、ゲル状態からの高度に配向された、強く酸化されたGOシートまたは分子は、縁間同化または化学接合してより長いまたはより幅が広いグラフェンシートまたは分子を形成することができるという考えを反映する。
【0029】
また、本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタのための薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を製造するための方法を提供する。方法は、(a)酸化グラフェン分子を流動媒体中に溶解させた酸化グラフェンゲルを調製する工程において酸化グラフェン分子が20重量%超の酸素含有量を含有する工程と、(b)酸化グラフェンゲルの層を金属箔の2つの主表面の少なくとも1つの上に分配および堆積させて、その上に堆積させた湿潤酸化グラフェンゲルの層を形成する工程において分配および堆積手順が酸化グラフェンゲルの剪断誘起薄化を包含する工程と、(c)流動媒体を酸化グラフェンゲルの堆積させた湿潤層から部分的にまたは完全に除去して、X線回折によって測定された時に0.4nm~1.2nmの面間間隔d002を有し且つ20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェンの乾燥フィルムを形成する工程と、(d)面間間隔d002が0.335nm~0.5nmの値に減少すると共に酸素含有量が10重量%未満に減少する程度に酸化グラフェンの乾燥フィルムを80℃~2,500℃の熱処理温度で熱処理して薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を形成する工程とを含み、および酸化グラフェンの薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、1.3~2.2g/cm3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ少なくとも1つの主表面に平行に配向される。
【0030】
特定の実施形態において、工程(b)は、酸化グラフェンゲルの層を金属箔の2つの主表面の各々の上に分配および堆積させて、2つの主表面の各々の上に堆積させた湿潤酸化グラフェンゲルの層を形成する工程を包含し、そこで金属箔が1μm~30μmの厚さを有する。金属箔はCu、Ti、Ni、ステンレス鋼、および化学的にエッチングされたAl箔から選択されてもよく、そこで化学的にエッチングされたAl箔の表面は、前記酸化グラフェンに接合される前にその上に不動態化Al2O3が形成されない。
【0031】
特定の実施形態において、工程(c)は、0.4nm~0.7nmの面間間隔d002および20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェン層を形成する工程を包含し、工程(d)は、面間間隔d002が0.3354nm~0.36nmの値に減少すると共に酸素含有量が2重量%未満に減少する程度に酸化グラフェン層を熱処理する工程を包含する。
【0032】
特定の実施形態において、酸化グラフェンゲルは、剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に2,000センチポアズ超の粘度を有し、粘度は、剪断誘起薄化の間または後に2,000センチポアズ未満に低減される。好ましくは、酸化グラフェンゲルは、剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に500センチポアズ~500,000センチポアズの粘度を有する。いくつかの好ましい実施形態において、酸化グラフェンゲルは、剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に5,000センチポアズ以上の粘度を有し、粘度は、剪断誘起薄化の間または後に2,000センチポアズ未満に低減される。典型的に、酸化グラフェンゲルは、剪断速度が20℃で増加する時に少なくとも10倍減少する粘度を有する。酸化グラフェンゲルは5.0未満、好ましくは<3.0、より好ましくは<2.0のpH値を有する。剪断誘起薄化は、コーティング、キャスティング、印刷(例えばインクジェット印刷、スクリーン印刷等)、エア・アシスト噴霧、超音波噴霧、または押出から選択される手順によって行われてもよい。好ましくは、工程(d)は、前記酸化グラフェン層を圧縮応力下で熱処理する工程を包含する。
【0033】
酸化グラフェンゲルは、均質な溶液でありまた光学的に透明、半透明、または褐色である酸化グラフェンゲルを得るために十分な時間の間粉末または繊維形態の黒鉛材料を酸化性液体中に浸漬して、初期に光学的に不透明であり且つ黒ずんだ懸濁液を反応温度の反応器内に形成することによって調製されてもよく、そこで酸化グラフェンゲルは、5以下のpH値を有する酸性媒体中に溶解させた酸化グラフェン分子から構成され、酸化グラフェン分子は、20重量%以上の酸素含有量を有する。黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、またはそれらの組合せから選択されてもよい。
【0034】
この方法は、ロールツーロール方法であることができ、そこで工程(b)および(c)は、前記金属箔のシートをローラーから堆積領域に供給する工程と、酸化グラフェンゲルの層を金属箔の少なくとも1つの主表面上に堆積させて、酸化グラフェンゲルの湿潤層をその上に形成する工程と、酸化グラフェンゲルの湿潤層を乾燥させて、主表面上に堆積させた乾燥させた酸化グラフェン層を形成する工程と、乾燥させた酸化グラフェン層を堆積させた金属箔をコレクターローラー上に集める工程とを包含する。
【0035】
特定の実施形態において、熱処理温度が80℃~500℃の熱還元レジームの温度を含み、および酸化グラフェンのフィルムが、5%未満の酸素含有量、0.4nm未満のグラフェン間間隔、および/または少なくとも100W/mKの熱伝導率を有する。特定の実施形態において、熱処理温度が500℃~1,000℃の範囲の温度を含み、および単位グラフェン材料が、1%未満の酸素含有量、0.345nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,300W/mKの熱伝導率、および/または3,000S/cm以上の電気導電率を有する。特定の実施形態において、熱処理温度が1,000℃~1,500℃の範囲の温度を含み、および酸化グラフェンフィルムが、0.01%未満の酸素含有量、0.337nm未満のグラフェン間間隔、少なくとも1,500W/mKの熱伝導率、および/または5,000S/cm以上の電気導電率を有する。
【0036】
特定の実施形態において、酸化グラフェンフィルムが0.337nm未満のグラフェン間間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を示す。特定の実施形態において、酸化グラフェンフィルムが40%以上の黒鉛化度および/または0.7未満のモザイクスプレッド値を示す。特定の実施形態において、酸化グラフェンフィルムが80%以上の黒鉛化度および/または0.4以下のモザイクスプレッド値を示す。
【0037】
典型的に、酸化グラフェンフィルムは、化学接合したグラフェン分子または互いに平行である化学的同化したグラフェン面を含有する。
【0038】
特定の実施形態において、酸化グラフェンゲルは、X線回折または電子回折方法によって測定された好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料から得られ、および前記酸化グラフェンフィルムは、前記X線回折または電子回折方法によって測定された好ましい結晶配向を有する。
【0039】
酸化グラフェンゲルは、液状媒体に溶解させた酸化グラフェン分子から構成された均質な溶液を得るために十分な時間の間反応温度において反応器内の酸化性液状媒体に粉末または繊維形態の黒鉛材料を浸漬することによって得られてもよく、そこで均質な溶液が光学的に透明、半透明、または褐色であり、および前記酸化グラフェン分子は、20重量%以上の酸素含有量を有し且つゲル状態にある間43,000g/モル未満の分子量を有する。いくつかのGOゲルにおいて、酸化グラフェン分子は、ゲル状態にある間4,000g/モル未満の分子量を有する。いくつかの他のGOゲルにおいて、酸化グラフェン分子は、ゲル状態にある間200g/モル~4,000g/モルの間の分子量を有する。
【0040】
本発明の方法において、熱処理の工程は、酸化グラフェン分子の化学連結、同化、または化学接合、および/または再黒鉛化または黒鉛構造物の再組織化を引き起こす。
【0041】
この方法は典型的に、3,000S/cmより大きい電気導電率、600W/mKより大きい熱伝導率、1.8g/cm3より大きい物理的密度、および/または40MPaより大きい引張強さを有する酸化グラフェンフィルムをもたらす。より典型的に、酸化グラフェンフィルムは、5,000S/cmより大きい電気導電率、1,000W/mKより大きい熱伝導率、1.9g/cm3より大きい物理的密度、および/または60MPaより大きい引張強さを有する。多くの場合、酸化グラフェンフィルムは、15,000S/cmより大きい電気導電率、1,500W/mKより大きい熱伝導率、2.0g/cm3より大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有する。
【0042】
また、バッテリーまたはスーパーキャパシタのための薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を製造するための方法もまた提供され、方法は、(a)酸化グラフェン分子を流動媒体中に溶解させた酸化グラフェンゲル浴を調製する工程において酸化グラフェン分子が20重量%超の酸素含有量を含有し且つ酸化グラフェンゲルが5.0未満のpH値を有する工程と、(b)金属箔のシートをGOゲル浴中に供給すると共に金属箔のシートを浴から外に移動させ(主表面の近くに剪断応力を生じる)、金属箔の2つの主表面の各々の上への酸化グラフェンゲルの湿潤層の堆積を可能にする工程と、(c)流動媒体を酸化グラフェンゲルの堆積させた湿潤層から部分的にまたは完全に除去して、X線回折によって測定された時に0.4nm~1.2nmの面間間隔d002を有し且つ20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェンの乾燥フィルムを形成する工程と、(d)面間間隔d002が0.335nm~0.5nmの値に減少すると共に酸素含有量が10重量%未満に減少する程度に酸化グラフェンの乾燥フィルムを80℃~2,500℃の熱処理温度で熱処理して薄フィルム酸化グラフェン接合金属箔集電体を形成する工程とを含み、および酸化グラフェンの薄フィルムが10nm~10μmの厚さ、1.3~2.2g/cm3の物理的密度を有し、および全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ前記少なくとも1つの主表面に平行に配向される。GOゲル自体がAl箔表面上の不動態化アルミナ層を除去することができ、またこの方法が不動態化アルミナ層の再形成を防ぐので、この方法はGOでコートされたアルミニウム箔の製造のために特に適している。
【0043】
特定の実施形態において、酸化グラフェンゲルは、a軸結晶方向の初期長さLa、b軸方向の初期幅Lb、およびc軸方向の厚さLcを有する黒鉛微結晶から構成される天然黒鉛または人工黒鉛の粒子から製造され、および酸化グラフェンの薄フィルムは、黒鉛微結晶の初期LaおよびLbより大きいグラフェンドメインまたは結晶長さまたは幅を有する。
【0044】
典型的に、酸化グラフェンの薄フィルムは、sp2およびsp3電子配置の組合せを有するグラフェン面を含有する。好ましくは、酸化グラフェンの薄フィルムは、5cm以上(好ましくは10cm以上およびさらに好ましくは20cm以上)の長さおよび1cm以上(好ましくは10cm以上)の幅を有する連続長のフィルムである。ここに発明された酸化グラフェンの連続長の薄フィルムの長さおよび幅に実用制限はない。
【0045】
特定の実施形態において、酸化グラフェンの薄フィルムは、単独で測定されるとき、1.8g/cm3より大きい物理的密度、および/または40MPaより大きい引張強さを有し、好ましくは1.9g/cm3より大きい物理的密度、および/または60MPaより大きい引張強さを有し、およびより好ましくは2.0g/cm3より大きい物理的密度、および/または80MPaより大きい引張強さを有する。
【0046】
また、本発明は、アノード集電体および/またはカソード集電体として本発明の集電体を含有する再充電可能リチウムバッテリーまたはリチウムイオンバッテリーを提供する。再充電可能リチウムバッテリーは、リチウム-硫黄セル、リチウム-セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウム-空気セル、リチウム-グラフェンセル、またはリチウム-炭素セルであってもよい。
【0047】
また、本発明は、アノード集電体またはカソード集電体として本発明の集電体を含有するキャパシタを提供し、そのキャパシタは、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ-バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】
図1(A)は、酸化グラフェンゲル21、および配向GO35の未乾燥フィルム、ならびに金属箔表面に接合したGOの薄フィルム37を製造するための方法と共に、剥離黒鉛製品(可撓性黒鉛箔および可撓性黒鉛複合物)および熱分解黒鉛(下部分)を製造する様々な先行技術の方法を説明するフローチャートである。
【
図1B】
図1(B)は、単塊状黒鉛またはグラフェン(NGP)フレーク/プレートリットの紙、マット、および膜を製造するための従来の方法を説明する略図である。全ての方法は、黒鉛材料(例えば天然黒鉛粒子)のインターカレーションおよび/または酸化処理から開始する。
【
図1C】
図1(C)は、結合剤樹脂層(または不動態化酸化アルミニウム層)がグラフェン層とCu箔(またはAl箔)などの金属箔との間に存在している、先行技術のグラフェンでコートされた金属箔集電体を図示する略図である。
【
図1D】
図1(D)は、結合剤樹脂層または不動態化酸化アルミニウム層が酸化グラフェンフィルムとCu箔またはAl箔との間に存在していない、好ましいグラフェン接合金属箔集電体を図示する略図である。
【
図2A】
図2(A)は、黒鉛層間化合物(GIC)または黒鉛酸化物粉末の熱剥離後の黒鉛ワーム試料のSEM画像である。
【
図2B】
図2(B)は、可撓性黒鉛箔表面に平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークを示すと共にまた、多くの欠陥、よじれたまたは折れたフレークを示す、可撓性黒鉛箔の横断面のSEM画像である。
【
図3A】
図3(A)は、GOゲル由来モノリシックグラフェンのSEM画像であり、そこで黒鉛粒子中の複数のグラフェン面(30nm~2μmの元の長さ/幅を有する)は、酸化、剥離、再配向されており、幅または長さ数百センチメートルに及び得る連続長のグラフェンシートまたは層にシームレスに同化されている。
【
図3B】
図3(B)は、製紙プロセス(例えば真空補助濾過)を使用して離散グラフェンシート/プレートリットから作製される従来のグラフェン紙/フィルムの横断面のSEM画像である。画像は、折れるかまたは割り込まれている(統合されていない)多くの離散グラフェンシートを示し、配向がフィルム/紙表面に平行でなく、多くの欠陥または不完全部を有する。
【
図3C】
図3(C)は、互いに平行であり且つグラフェン面方向に化学連結されると共にまた厚さ方向またはc軸結晶方向に接合される複数のグラフェン面から構成される統合GO実体の形成プロセスを図示する略図である。
【
図3D】
図3(D)は、1つの妥当な化学接合機構(2つのGO分子だけが例として示される;多数のGO分子を一緒に化学連結して大きなグラフェンドメインを形成することができる)。
【
図4A】
図4(A)は、黒鉛化のための最終熱処理温度の関数としてプロットされたGOゲル由来グラフェン層、GOプレートリット紙、およびFG箔の熱伝導率の値である。
【
図4B】
図4(B)は、GOゲル由来グラフェン層、ポリイミド由来熱分解黒鉛(PG)、およびCVD炭素由来PGの熱伝導率の値であり、全てが最終黒鉛化または再黒鉛化温度の関数としてプロットされる。
【
図4C】
図4(C)は、最終黒鉛化または再黒鉛化温度の関数としてプロットされる、GOゲル由来グラフェン層、GOプレートリット紙、およびFG箔の電気導電率の値である。
【
図5A】
図5(A)は、GOフィルム(乾燥させたGOゲル)のX線回折曲線である。
【
図5B】
図5(B)は、150℃で熱還元された(部分的に還元された)GOフィルムのX線回折曲線である。
【
図5C】
図5(C)は、高度還元および再黒鉛化GOフィルムのX線回折曲線である。
【
図5D】
図5(D)は、高強度(004)ピークを示す高度再黒鉛化および再結晶化GO結晶のX線回折曲線である。
【
図5E】
図5(E)は、3,000℃ものHTTを使用するポリイミド由来HOPGのX線回折曲線である。
【
図6A】
図6(A)は、X線回折によって測定されたグラフェン面間間隔である。
【
図6B】
図6(B)は、GOゲル由来GO薄フィルム中の酸素含有量である。
【
図6C】
図6(C)は、グラフェン間間隔と酸素含有量との間の相関関係である。
【
図6D】
図6(D)は、GOゲル由来GO薄フィルムおよび可撓性黒鉛(FG)箔の熱伝導率であり、全て最終熱処理温度の関数としてプロットされた。
【
図7A】
図7(A)は、広範な熱処理温度についてのGOゲル由来のGOの薄フィルム、離散GOプレートリットの紙(GOゲル状態に由来しない)、および可撓性黒鉛箔の引張強さである。
【
図7B】
図7(B)は、熱処理温度の関数としてプロットされたGO薄フィルムの耐引掻性である。
【
図8A】
図8(A)は、(剪断速度に比例する)粘度計のスピンドル速度の関数としてプロットされるグラフェンゲルの粘度値(両線形スケール(linear-linear scale))である。
【
図8B】
図8(B)は、対数線形スケールの粘度値である。
【
図8C】
図8(C)は、両対数スケールの粘度値である。
【
図9A】
図9(A)は、充電/放電サイクル数の関数としての3つのLi-Sセルそれぞれの放電容量値である。アノード集電体およびカソード集電体としてGO接合Cu箔およびGO接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル;アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル);Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【
図9B】
図9(B)は、3つのセルのラゴーンプロットである。アノード集電体およびカソード集電体としてGO接合Cu箔およびGO接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル、アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル)、Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【
図10】
図10は、3つのマグネシウム金属セルのセル容量値である。アノード集電体およびカソード集電体としてGO接合Cu箔およびGO接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル、アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル)、Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、バッテリーまたはスーパーキャパシタ内の(例えば
図1(D)において図解的に示されるような)酸化グラフェン接合金属箔薄フィルム集電体を提供する。集電体は、(a)1μm~30μmの厚さおよび2つの対向した略平行な主表面を有する自立した、支持無しの薄金属箔(
図1(D)の214)と、(b)結合剤または接着剤を使用せずに2つの対向した主表面の少なくとも1つに化学接合した酸化グラフェンの薄フィルム212とを含む。
図1(D)は単に、金属箔214の1つの主表面が酸化グラフェンの薄フィルム212に接合されているのを示す。しかしながら、好ましくは、反対側の主表面はまた、酸化グラフェンの薄フィルムに接合されている(
図1(D)に示されない)。外部回路に電気的に接続するための電極端子として、金属タブ218は典型的に、金属箔214に溶接またははんだ付けされる。
【0050】
図1(D)に図示されるように、本発明の好ましい実施形態は、酸化グラフェン接合金属箔集電体であり、そこで結合剤樹脂層または不動態化酸化アルミニウム層が酸化グラフェンフィルムとCu箔またはAl箔との間に存在していない。対照的に、
図1(C)に図解的に示されるように、先行技術のグラフェンでコートされた金属箔集電体は典型的におよび必ず、グラフェン層(グラフェン-樹脂複合物)と金属箔(例えばCu箔)との間に結合剤樹脂層を必要とする。先行技術のグラフェンでコートされたAl箔[Prabakarら;参考文献2]の場合、不動態化酸化アルミニウム(アルミナ)層は、グラフェン層とAl金属箔との間に自然に存在している。これは、アルミニウム箔が、製造および室内の空気に暴露時に不動態化酸化アルミニウム層をAl箔の表面上に常に形成するという公知の事実による。アセトンまたはアルコールによる簡単な清浄化は、このアルミナ層を除去することができない。後の段落で説明されるように、結合剤樹脂または酸化アルミニウムの層の存在は、わずか1nmの薄さでも、グラフェン層と金属箔との間の接触抵抗を増加させることに非常に大きな効果を有する。我々によるこの驚くべき発見は全ての先行技術の研究者によって全く見落とされており、したがって、先行技術のグラフェンでコートされた金属箔は、リチウムバッテリーまたはスーパーキャパシタ集電体の性能および要求価格を満たしていない。
【0051】
酸化グラフェンシートをCu、Ni、またはTi箔の主表面と直接に接触させる非常に著しい且つ予想外の利点は、外部樹脂結合剤または接着剤を使用せずに(したがって、接触抵抗は劇的に増加しない)、本発明の加工条件下で酸化グラフェン分子はこれらの金属箔に十分に接合され得るという概念である。これらの加工条件には、酸化グラフェンシートを金属箔表面上に十分に整列する工程と、次に、2層構造物を80℃~1,500℃の範囲(より典型的におよび望ましくは80℃~500℃、および最も典型的におよび望ましくは80℃~200℃の範囲)の温度で熱処理する工程とが含まれる。任意選択により、好ましくはないが、熱処理温度は3,000℃もの高温であり得る。
【0052】
これらの加工条件には、アルミニウム箔をベースとした集電体の場合、酸化グラフェンでコートされて接合される前に不動態化酸化アルミニウム層を化学エッチングして除去する工程と、その後に、上述の同等の温度条件下で熱処理する工程とが含まれる。あるいは、酸化グラフェンはGOゲル状態で調製されてもよく、それは高い酸素含有量を有し、高い量の-OHおよび-COOH基を示し、5.0未満のpH値(好ましくは<3.0およびさらにより好ましくは<2.0)を有することを特徴とする。Al箔をGOゲルの浴中に浸漬させておいてもよく、そこで酸性環境が不動態化Al2O3層を自然に除去する。Al箔が浴から現れるとき、GO分子またはシートが清浄な、エッチングされたAl箔表面に自然に付着し、開放空気へのAl箔表面の暴露を有効に防ぐ(したがって、不動態化Al2O3層がなく、Al箔表面とGO層との間に付加的な接触抵抗がない)。この方法はこれまで決して開示または提案されていない。
【0053】
本発明のGO層の化学接合力およびGOゲルの化学エッチング力の他に、本発明の酸化グラフェン接合金属箔内の得られた酸化グラフェンの薄フィルムは、10nm~10μmの厚さ、0.1重量%~10重量%の酸素含有量、0.335~0.50nmのグラフェン面間間隔、1.3~2.2g/cm3の物理的密度を有し、全ての酸化グラフェンシートが互いに略平行に且つ主表面に平行に配向され、薄金属箔なしに単独で測定される時に500W/mKより大きい熱伝導率、および/または1,500S/cmより大きい電気導電率を示す。酸化グラフェンのこの薄フィルムは、化学的に不活性であり、下にある金属箔の腐食に対して非常に有効な保護層を提供する。
【0054】
ここで、
図1(C)に図示されるような3層構造物の全抵抗(接触抵抗を含む)の大きさをさらに詳しく検討する。グラフェン層202(層1)内の電子はこの層内で動き回り、結合剤樹脂または不動態化アルミナ層206(層2)を横断し、次いで金属箔層204(層3)内で端子のタブ208に向かって移動しなければならない。簡潔にするために、グラフェン層の厚さ、結合剤/不動態化層の厚さ、および金属箔層の厚さにわたって移動する電子に対する全抵抗だけを考慮する。グラフェンまたは金属箔の両方の面内の方向の電子の移動は迅速であり、および低い抵抗であり、したがって、この抵抗は、身近な計算では無視される。
【0055】
導体のシート/フィルムの厚さ方向の抵抗は、R=(1/σ)(t/A)によって与えられ、式中、A=導体の横断面(長さ×幅)、t=導体の厚さ、σ=導電率=1/ρ、およびρ=抵抗率、材料定数である。結合剤または不動態化金属酸化物層を含有するグラフェンでコートされた集電体は、グラフェンフィルム、界面結合剤樹脂層(または不動態化アルミナ層)、および金属箔層が直列に電気接続された3層構造物(
図1(C))と見なされてもよい。
【0056】
全抵抗は、3層の抵抗値の合計である:R=R
1+R
2+R
3=ρ
1(t
1/A
1)+ρ
2(t
2/A
2)+ρ
3(t
3/A
3)=(1/σ
1)(t
1/A
1)+(1/σ
2)(t
2/A
2)+(1/σ
3)(t
3/A
3)、式中、ρ=抵抗率、σ=導電率、t=厚さ、およびA=層の面積、ならびに、大体、A
1=A
2=A
3である。走査電子顕微鏡検査は、結合剤樹脂または不動態化アルミナ層が典型的に厚さ5~100nmであることを示す。最も一般的に使用される結合剤樹脂(PVDF)の抵抗率およびアルミナ(Al
2O
3)の抵抗率は典型的に、10
13~10
15ohm-cmの範囲である。A
1=A
2=A
3=1cm
2と考えると、グラフェン層の厚さ方向の抵抗率ρ
1=0.1ohm-cm、結合剤またはアルミナ層の抵抗率ρ
2=1×10
14ohm-cmおよび金属箔層の抵抗率はρ
3=1.7×10
-6ohm-cm(Cu箔)、またはρ
3=2.7×10
-6ohm-cm(Al箔)である。また、CuまたはAl箔の厚さ=6μm、グラフェン層の厚さ=1μm、および結合剤樹脂層の厚さがわずか0.5nmである(実際にはそれは5nm~100nmである)最適条件を考える。その場合には、3層構造物の全抵抗は5×10
6ohmであり、全導電率は1.4×10
-10S/cmしかない(以下の表1の1番目のデータの行を参照)。結合剤樹脂層が厚さ10nmであると考える場合、3層構造物の全抵抗は1×10
8ohmであり、全導電率は7.0×10
-12S/cmしかない(以下の表1の4番目のデータの行を参照)。高い内部抵抗は低出力電圧および高量の発生した内部熱を意味するので、このような3層複合構造物は、バッテリーまたはスーパーキャパシタのための良い集電体ではない。同様な結果は、Ni、Ti、およびステンレス鋼箔をベースとした集電体について観察された(表1のデータの7~10行)。
【0057】
対照的に、結合剤樹脂またはアルミナ層がない場合(t
2=0)、本発明の集電体の場合のように、酸化グラフェン接合Cu箔の全抵抗は、(1μmの結合剤樹脂層を含有する3層構造物の1.0×10
+7ohmに対して)1.0×10
-5ohmの値を有する。以下の表2を参照のこと。これは、12桁の差を表わす(12倍ではない)!導電率は、相当する3層構造物の7.0×10
-11S/cmとは対照的に、当該の2層構造物については7.0×10
+1S/cmである。また、差は12桁である。さらに、本発明の酸化グラフェン接合金属箔集電体を特徴とするリチウムバッテリーおよびスーパーキャパシタは、先行技術のグラフェン系集電体と比較した時に容量の減少または腐食問題を伴わずにより高い電圧出力、より高いエネルギー密度、より高い出力密度、より安定な充電-放電(chare-discharge)サイクル応答を常に示し、より長持ちすることを我々は発見した。
【0058】
本発明のグラフェンによって可能にされる集電体は酸化グラフェンゲルから製造されるので、グラフェン、酸化グラフェン(GO)、先行技術のGO懸濁液、および当該GOゲルという用語がここで導入されて考察される。
【0059】
バルク天然フレーク黒鉛は、各々の粒子が複数の結晶粒(結晶粒が黒鉛単結晶または微結晶である)から構成され、結晶粒界(非晶質または欠陥領域)は、隣接する黒鉛単結晶の境界を定める3次元黒鉛材料である。各々の結晶粒は、互いに平行に配向される複数のグラフェン面から構成される。黒鉛微結晶内のグラフェン面は、2次元の、六方格子を占める炭素原子から構成される。所与の結晶粒または単結晶において、グラフェン面は、(グラフェン面または基礎面に垂直な)c方向の結晶方位のファンデルワールス力によって積み重ねられて接合される。1つの結晶粒の全てのグラフェン面は互いに平行であるが、典型的に1つの結晶粒のグラフェン面と隣接した結晶粒のグラフェン面は配向が異なっている。換言すれば、黒鉛粒子の様々な結晶粒の配向は典型的に、結晶粒ごとに異なる。
【0060】
黒鉛単結晶(微結晶)それ自体は異方性であり、基礎面(a軸またはb軸結晶方向)の方向に沿って測定された性質はc軸結晶方向(厚さ方向)に沿って測定された性質とは劇的に異なっている。例えば、黒鉛単結晶の熱伝導率は、基礎面(a軸およびb軸結晶方向)において約1,920W/mKまで(理論値)または1,800W/mKまで(実験値)であり得るが、c軸結晶方向に沿う熱伝導率は10W/mK未満(典型的に5W/mK未満)である。さらに、黒鉛粒子の複数の結晶粒または微結晶は典型的に全て、異なった方向に配向される。したがって、異なった配向の複数の結晶粒から構成される天然黒鉛粒子は、これらの2つの極値の間の平均の性質を示す(すなわち5W/mK~1,800W/mKの間であるが、典型的に<100W/mK)。
【0061】
十分に大きな寸法を有し且つ全てのグラフェン面が1つの所望の方向に沿って互いに本質的に平行であるバルク黒鉛物体を製造することが多くの用途において非常に望ましい。例えば、全てのグラフェン面のc軸方向が互いに略平行であり且つ特定の用途のために十分に大きな長さおよび/または幅(例えば小さなセル内の集電体として用いるために>10cm2および大きなセル内の集電体として用いるために>200cm2)および所期の用途のための(例えば金属箔表面上に接合された薄い層として)所望の厚さ(例えば10nm~10μm)を有する1つの大きなサイズの黒鉛実体(例えば複数のグラフェン面の十分に統合された層)を有することが非常に望ましい。これまでのところ、このタイプの大きなサイズの統合されたグラフェン-金属箔実体を既存の天然または合成黒鉛粒子から製造することは可能でなかった。
【0062】
面間ファンデルワールス力に打ち勝つことができるならば、黒鉛微結晶の構成グラフェン面(典型的に幅/長さ30nm~2μm)は剥離されて黒鉛微結晶から抽出または単離され、炭素原子の単独グラフェンシートを得ることができる。六方晶炭素原子の単離された、単独グラフェンシートは一般的に単一層グラフェンと称される。0.3354nmのグラフェン面間間隔で厚さ方向にファンデルワールス力によって接合した複数のグラフェン面の積層体は一般的に複数層グラフェンと称される。複数層グラフェンプレートリットは、300層までのグラフェン面(厚さ<100nm)を有するが、より典型的には30までのグラフェン面(厚さ<10nm)、さらにより典型的に20までのグラフェン面(厚さ<7nm)、および最も典型的に10までのグラフェン面を有する(科学界において一般的に数層グラフェンと称される)。単一層グラフェンおよび複数層グラフェンシートは一括して「ナノグラフェンプレートリット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンシート/プレートリットまたはNGPは、0次元フラーレン、1次元CNT、および3次元黒鉛からはっきり区別される新規なクラスの炭素ナノ材料(2次元ナノ炭素)である。
【0063】
我々の研究グループは、早くも2002年にグラフェン材料および関連製造プロセスの開発を始めた:(1)B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”,米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、2002年10月21日に提出された出願;(2)B.Z.Jang,et al.“Process for Producing Nano-scaled Graphene Plates”,米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004);および(3)B.Z.Jang,A.Zhamu,and J.Guo,“Process for Producing Nano-scaled Platelets and Nanocomposites”,米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)。
【0064】
図1(A)(プロセスフローチャート)および
図1(B)(略図)において図示されるように、NGPは典型的に、天然黒鉛粒子を強酸および/または酸化剤でインターカレートして黒鉛層間化合物(GIC)または黒鉛酸化物(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の格子空間における化学種または官能基の存在は、グラフェン間間隔(d
002、X線回折によって測定される)を増加させるのに役立ち、それによってほかの場合ならグラフェン面をc軸方向に沿って保持するファンデルワールス力をかなり低減する。GICまたはGOは非常にしばしば、天然黒鉛粉末(
図1(A)の20および
図1(B)の100)を硫酸、硝酸(酸化剤)、および別の酸化剤(例えば過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウム)の混合物中に浸漬することによって製造される。得られたGIC(22または102)は実際には或るタイプの黒鉛酸化物(GO)粒子である。次に、このGICを繰り返して水中で洗浄およびすすぎ洗いして過剰な酸を除去して、黒鉛酸化物懸濁液または分散体をもたらし、それは、水中に分散された離散したおよび目視で識別できる黒鉛酸化物粒子を含有する。このすすぎ工程の後に続く2つの加工経路がある:
【0065】
経路1は、水を懸濁液から除去して、本質的に、乾燥させたGICまたは乾燥させた黒鉛酸化物粒子の塊である、「膨張性黒鉛」を得る工程を必要とする。膨張性黒鉛を典型的に800~1,050℃の範囲の温度に約30秒~2分間の間暴露したとき、GICは30~300倍急速な膨張をして「黒鉛ワーム」(24または104)を形成するが、それらはそれぞれ、相互接続されたままである剥離した、しかしほとんど分離していない黒鉛フレークの集まりである。黒鉛ワームのSEM画像が
図2(A)に示される。
【0066】
1つのあり得る後続の工程において、これらの黒鉛ワーム(剥離黒鉛または「相互接続された/分離されていない黒鉛フレークの網目構造」)を再圧縮して、0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを典型的に有する可撓性黒鉛シートまたは箔(26または106)を得ることができる。代わりに、100nmよりも厚い主に黒鉛フレークまたはプレートリット(したがって、定義によってナノ材料ではない)を含有するいわゆる「膨張黒鉛フレーク」(108)を製造する目的のために低強度エアーミルまたは剪断機を使用して黒鉛ワームを単に破断することを選択してもよい。
【0067】
剥離黒鉛ワーム、膨張黒鉛フレークの他、黒鉛ワームの再圧縮塊(可撓性黒鉛シートまたは可撓性黒鉛箔と一般的に称される)は全て、1次元ナノ炭素材料(CNTまたはCNF)または2次元ナノ炭素材料(グラフェンシートまたはプレートリット、NGP)のどちらとも根本的に異なり明らかに区別できる3次元黒鉛材料である。可撓性黒鉛(FG)箔はヒートスプレッダ材料として使用され得るが、典型的に500W/mK未満(より典型的に<300W/mK)の最大面内熱伝導率および1,500S/cm以下の面内電気導電率を示す。これらの低い導電率の値は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れた黒鉛フレーク、黒鉛フレーク間の割り込みまたは間隙、および平行でないフレーク(例えば
図2(B)のSEM画像)の直接の結果である。多くのフレークは、非常に大きな角度で互いに対して傾斜している(例えば20~40度の方位差)。
【0068】
別のあり得る後続工程において、剥離黒鉛を高強度機械的剪断に供して(例えばウルトラソニケーター、高剪断ミキサー、高強度エアジェットミル、または高エネルギーボールミルを使用して)、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書に開示されるように、分離された単一層および複数層グラフェンシート(一括してNGPと呼ばれる、33または112)を形成する。単一層グラフェンはわずか0.34nmであり得るが、他方、複数層グラフェンは100nmまでの厚さを有することができるが、より典型的には20nm未満である。
【0069】
経路2は、単独酸化グラフェンシートを黒鉛酸化物粒子から分離/単離する目的のために黒鉛酸化物懸濁液を超音波処理することを必要とする。これは、グラフェン面間分離が天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された黒鉛酸化物の0.6~1.1nmに増加しており、隣接する面を一緒に保持するファンデルワールス力を著しく弱めるという考えに基づいている。超音波出力は、グラフェン面シートをさらに分離して、分離された、単離された、または離散酸化グラフェン(GO)シートを形成するために十分であり得る。次に、これらの酸化グラフェンシートを化学的にまたは熱還元して、0.001重量%~10重量%、より典型的に0.01重量%~5重量%、および最も典型的に2重量%未満の酸素含有量を典型的に有する「還元酸化グラフェン」(RGO)を得ることができる。
【0070】
本出願の請求の範囲を定義する目的のために、NGPには、単一層および複数層純粋グラフェン、酸化グラフェン、または還元酸化グラフェンの離散シート/プレートリットが含まれる。純粋グラフェンは本質的に0%の酸素を有する。酸化グラフェン(RGOを含める)は、0.01重量%~50重量%の酸素を有することができる。RGOは、0.01~10重量%、より典型的に0.01~5重量%、および最も典型的に0.01~2重量%の酸素含有量を有する。
【0071】
後で詳細に説明される、酸化グラフェンゲル(GOゲル)中のGO分子は典型的に、液体をGOゲルから除去した直後、しかし後続の熱処理の前に、20~47重量%の酸素(より典型的には30~47%)を含有する。GOゲルは、酸性液体(例えば、5.0未満、より典型的に<3.0、しばしば<2.0のpH値を有する高酸性水溶液)に溶解される(単に分散されるだけではない)高親水性芳香族分子(例えば-OH、-COOH、および>Oなどの酸素含有基を、分子面上にまたは縁に担持する酸化グラフェン分子)の均質な溶液を意味する。GOゲルそれ自体は、充実シートまたはプレートリットの形態の明らかに識別できるまたは離散グラフェンまたはGO粒子を含有しない。これらのGO分子および分散液状媒体は同等の屈折率を有し、(GO分子の比率が過度に高くない場合)得られたゲルを光学的に透明または半透明にするか、または明褐色を示す。
【0072】
対照的に、黒鉛粒子または離散グラフェンまたは酸化グラフェンシート/プレートリットと酸および/または水との単純な混合物は、(液状媒体中に懸濁された固体粒子0.1%未満しか有さない場合でも)光学的に暗く全く不透明色に見える。これらの粒子またはグラフェンまたはGOシート/プレートリットは、流動媒体中に単に分散され(溶解されない)、それらはGOゲル状態を形成しない。
【0073】
GOゲル中のこれらのGO分子は高反応性であり、「リビング巨大分子」であると考えられてもよい。それと対照して、グラフェン、GO、およびRGOの先行技術の充実シート/プレートリットは、本質的に「死」種である。適切な剪断または圧縮応力を使用して(例えばキャスティングまたはモールディングによって)GOゲルを金属箔表面上である形状に形成し、乾燥させ(液体成分が部分的にまたは完全に除去される)、特定の条件下で熱処理して、金属箔表面に化学接合した高度に配向されたグラフェンシートのフィルムを得ることができる。熱処理は、これらの活性またはライブGO分子を化学連結して巨大分子量の化学接合したグラフェン分子の2次元または3次元網目構造を形成し、GOの酸素含有量を10重量%未満(熱処理温度<200℃)、より典型的に<5%、さらにより典型的に<2%(熱処理温度<500℃)、および最も典型的に<<1%(1,500℃までの熱処理温度)に劇的に低減するのに役立つ。
【0074】
GOゲルそれ自体は明らかに識別できる/離散グラフェンシート/プレートリットまたはNGP(「死」GOシート/プレートリットを含める)を含有しないが、離散グラフェンシート/プレートリット、膨張黒鉛フレーク、およびその他のタイプの固体充填剤をGOゲル中に意図的に添加して混合物ゲルを形成することができる。この混合物ゲルを乾燥させ、同じ熱処理に供して、ライブGO分子を高度に配向されたおよび化学的同化したGOシートのフィルムに変換してもよい。この酸化グラフェンゲル由来グラフェン材料は、充填剤相(例えば離散NGP、CNTおよび炭素繊維)で強化される。
【0075】
固体NGP(純粋グラフェン、GO、およびGROの離散シート/プレートリットなど)は、フィルム、膜、または紙シート(34または114)に充填されるとき、典型的に高い電気導電率を示さない。一般的には、離散グラフェン、GO、またはRGOのプレートリットから製造される紙状構造物またはマット(例えば真空補助濾過プロセスによって作製されるそれらの紙シート)は、多くの欠陥、皺が寄ったまたは折れたグラフェンシート、プレートリット間の割り込みまたは間隙、および平行でないプレートリット(例えば
図3(B)のSEM画像)を示し、比較的低い電気導電率および低い構造強度をもたらす。
【0076】
図1(A)の下側部分は典型的な、熱分解黒鉛フィルムをポリマーから製造するための方法を図示する。方法は、2~10時間の間10~15Kg/cm
2の典型的な圧力下で400~1,000℃の炭化温度でポリマーフィルム46(例えばポリイミド)を炭化させることから開始して、炭化材料48を得て、それをその後に、1~24時間の間100~300Kg/cm
2の超高圧下で2,500~3,200℃での黒鉛化処理を行ない、黒鉛フィルム50を形成する。このような超高温でこのような超高圧を維持することは技術的に極めて難しい。これは困難な、緩慢な、長たらしい、エネルギー集約的であり、極端に費用がかかる方法である。さらに、特定のポリマー(例えばポリアクリロニトリル)の炭化は、毒性種の放出を伴う。さらに、30μmより薄い前駆体ポリイミドフィルムを製造するのに支障があるため、15μmより薄いポリイミド由来熱分解フィルムを大量に製造することは可能でなかった。これは、集電体を厚さ1~10μmにする要件を満たさない。
【0077】
特殊なタイプのグラフェン薄フィルム(<2nm)がNiまたはCu表面上での炭化水素ガス(例えばC2H4)の触媒CVDによって作製される。NiまたはCuが触媒である場合、800~1,000℃で炭化水素ガス分子の分解によって得られた炭素原子はNiまたはCu箔表面上に堆積させて、多結晶性である単一層または数層グラフェンのシートを形成する。これらのグラフェン薄フィルムは、光学的に透明且つ電気導電性であり、例えば(酸化インジウムスズまたはITOガラスに取って代わる)タッチスクリーンまたは(ケイ素、Siに取って代わる)半導体などの用途において使用することが意図される。しかしながら、これらの極薄多結晶質のグラフェンフィルムは十分に伝導性でなく(結晶粒があまりに多いまたは結晶粒界があまりに多く、全ての結晶粒が異なった方向に配向されている)および集電体として用いるために十分に厚くない(最も好ましくは1μm~10μm)。さらに、NiまたはCu触媒によるCVD法は、それを超えると下にあるNiまたはCu触媒がもはや触媒効果を全く与えることができない5~10超のグラフェン面(典型的に<2~4nm、より典型的に<2nm)の堆積に適していない。1μm(1,000nm)~10μm(10,000nm)は言うまでもなく、5または10nmよりも厚いCVDグラフェン層が可能であることを示す実験的証拠はなかった。
【0078】
また、本発明は、酸化グラフェン接合金属箔集電体を製造するための方法を提供し、方法は、(a)酸化グラフェン分子を流動媒体中に分散および溶解させた酸化グラフェンゲルを調製する工程において酸化グラフェン分子が20重量%超の酸素含有量(典型的に30重量%超およびより典型的に30重量%~47重量%の間)を含有する工程と、(b)酸化グラフェンゲルの層を支持金属箔の主表面上に分配および堆積させて、その上に堆積させた酸化グラフェンゲルを形成する工程において、分配および堆積手順が、(後続の熱処理の間にGO分子同化および統合を促す、十分に充填されたおよび所望の方向に十分に整列された酸化グラフェン分子をもたらす)酸化グラフェンゲルの剪断誘起薄化を包含する工程と、(c)堆積させた酸化グラフェンゲル層から流動媒体を部分的にまたは完全に除去して、X線回折によって測定された時に0.4nm~1.2nmの面間間隔d002を有し且つ20重量%以上の酸素含有量を有する乾燥酸化グラフェン層を形成する工程と、(d)酸化グラフェンフィルム層の面間間隔d002が0.3354nm~0.5nmの値に減少すると共に酸素含有量が10重量%未満に減少する程度に酸化グラフェン層を80~1,500℃の熱処理温度で熱処理する工程とを含む。
【0079】
より好ましい実施形態において、工程(c)は、0.4nm~0.7nmの面間間隔d002および20重量%以上の酸素含有量を有する酸化グラフェン層を形成する工程を包含し、工程(d)は、面間間隔d002が0.3354nm~0.36nmの値に減少すると共に酸素含有量が2重量%未満に減少する程度に酸化グラフェン層を熱処理する工程を包含する。
【0080】
酸化グラフェンゲルを温度において熱処理することにより得られた酸化グラフェンの薄フィルムは、化学接合したグラフェン分子を含有する。これらの平面芳香族分子またはグラフェン面(六方晶構造炭素原子)は互いに平行である。これらの面の横方向寸法(長さまたは幅)は非常に大きく、出発黒鉛粒子の最大微結晶寸法(または最大構成グラフェン面寸法)よりも典型的に数倍またはさらに数桁大きい。全ての構成グラフェン面を有する多くの「巨大酸化グラフェンドメイン」から構成される薄フィルムは、互いに本質的に平行であり、下にある金属箔に化学接合したGO分子の薄い層を有する。これは、これまで発見されたり、開発されたり、おそらく存在することが示唆されていない独自で新規なクラスの材料である。
【0081】
酸化グラフェンゲルは、大きな凝集力(自己接合、自己重合、および自己架橋能力)および接着力(多種多様な固体表面に化学接合することができる)を驚くべきことに有する非常に独特且つ新規なクラスの材料である。これらの特性は、先行技術に教示も示唆もされていない。GOゲルは、反応器内の酸化性液状媒体(例えば硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物)に出発黒鉛材料の粉末またはフィラメントを浸漬することによって得られる。出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、またはそれらの組合せから選択されてもよい。
【0082】
出発黒鉛粉末またはフィラメントが酸化性液状媒体中に混合されるとき、得られたスラリー(不均質懸濁液)は初期に全く黒ずんで不透明に見える。黒鉛の酸化が、制御されたpH条件下で十分な時間の間反応温度で進むとき、反応塊は最終的に、(特定可能な固体粒子を含有する初期に不均質な懸濁液とは対照的に)識別できるかまたは可視的に特定可能な分散された固体粒子を有さない均質な溶液になり得る。溶液は、光学半透明または透明または褐色であり得るが、それはまた、ポリマーゲルのように見え且つ挙動する。この重酸化誘導酸化グラフェンゲルは、液状媒体に溶解させた酸化グラフェン分子から構成される。酸化グラフェン分子は、任意の後続の熱処理の前に、20重量%以上(典型的に30~50重量%)の酸素含有量を有し、それらの分子量は、ゲル状態にある間典型的に43,000g/モル未満(しばしば4,000g/モル未満であるが、典型的に200g/モル超)である。酸化グラフェンゲルは典型的に5.0以下(より典型的に<3.0および最も典型的に<2.0)のpH値を有する酸性媒体に溶解させた酸化グラフェン分子から構成される。
【0083】
酸化グラフェンゲルは、剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に500センチポアズ(cP)~500,000cPの典型的な粘度を有する。粘度は、剪断誘起薄化手順の前に20℃で測定された時により典型的には2,000cPより大きく、300,000cPより小さい。好ましくは、単位グラフェン材料の前駆体としてGOゲルの粘度は、2,000~50,000cPの範囲である。好ましくは、GOゲルは、剪断誘起薄化の間または後に粘度が2,000cP未満(またはさらに1,000cP未満)に低減される剪断応力場に供される。実施形態において、酸化グラフェンゲルは、剪断誘起薄化の前に20℃で測定された時に5,000cPより大きい粘度を有するが、剪断誘起薄化の間または後に5,000cP未満(好ましくはおよび典型的に2,000cP未満またはさらに1,000cP未満)に低減される。実施例として
図8(A)、8(B)、および8(C)に示された、20℃で測定された粘度データは明らかに、超高粘度の値(例えば、300,000cP)でさえも十分に高い剪断速度で1,000~2,000cPに低減することができることを示す。これは、2桁超の低減であり、非常に予想外の測定値である。両対数スケールでプロットされる時にデータの直線は、剪断薄化流体の流れ特性を示す。
【0084】
工程(b)において、GOゲルを好ましくは剪断応力のもとである形状に形成する。このような剪断手順の一例は、コーティング機を使用するGOゲル(ゲル状流体)の薄いフィルムのキャスティングまたはコーティングである。この手順は、固体基材上にコートされるワニス、ペイント、コーティング、またはインクの層に似ている。フィルムが造形される時かまたはローラー/ブレード/ワイパーと支持基材との間に相対運動が加えられる時にローラー、「ドクターブレード」、またはワイパーは剪断応力を生じる。きわめて予想外にそして重要なことに、このような剪断作用によって、GOゲルの有効粘度を低減し、平面酸化グラフェン(GO)分子を例えば、剪断方向に沿って十分に整列させることができる。さらに驚くべきことに、GOゲル中の液体成分をその後に除去して少なくとも部分的に乾燥させる十分に充填されたGO塊を形成する時にこのような分子整列状態または好ましい配向は破損されない。乾燥させたGO質量は、面内の方向と平面に垂直方向との間の高い複屈折係数を有する。このような手順の別の例は、剪断応力のもとでGO塊を型キャビティまたはシェーピングダイ/用具中に注入またはダイキャストすることである。次に、型キャビティ内の剪断されたGO塊の液体成分を部分的にまたは完全に除去して、十分に充填されたおよび十分に整列された「ライブ」GO分子を含有する部分的にまたは完全に乾燥させたGO塊を得る。
【0085】
次に、この乾燥させたGO塊を適切にプログラムされた熱処理に供する。80℃~500℃の温度範囲について、GO塊は第一に金属箔表面との化学反応を受け、GO分子間の特定の化学的同化を持続し、酸素含有量を典型的に30~50%(乾燥させたとき)から5~6%に熱的に低減する。この処理は、グラフェン間間隔を約0.6~1.0nm(乾燥させたとき)から約0.4nmに低減し、および面内熱伝導率を約100W/mKから500W/mKに、および電気導電率を800S/cmから>2,000S/cmに増加させるという結果をもたらす。このような低い温度範囲でさえも、或る化学接合が生じる。GO分子は十分に整列されたままであるが、GO間間隔は比較的大きいままである(0.4nm以上)。多くのO含有官能基は存在し続ける。
【0086】
500℃~1,500℃の熱処理温度範囲については、隣接したGO分子間に広範な化合、重合、および架橋が起こる。酸素含有量は典型的に<2.0%(より典型的には<1.0%)に低減され、グラフェン間の間隔を約0.345nmに低減するという結果をもたらす。黒鉛化を開始するために2,500℃もの温度を典型的に必要とする従来の黒鉛化可能な材料(炭化ポリイミドフィルムなど)と著しい対照をなして、若干の初期黒鉛化がこのような低温において既に始まっていることをこれは意味する。これは、本発明のグラフェンフィルム接合金属箔およびその製造プロセスの別の異なった特徴である。これらの化学連結反応は、グラフェン薄フィルムの面内熱伝導率を1,400~1,500W/mKに、および/または面内電気導電率を>5,000S/cmに増加させるという結果をもたらす。
【0087】
X線回折パターンは、CuKcv放射線を備えたX線回折計を使用して得られた。回折ピークのシフトおよび広幅化は、ケイ素粉末標準を使用して較正された。黒鉛化度、gは、メーリング(Mering)の式d002=0.3354g+0.344(1-g)(式中、d002は、nm単位の黒鉛またはグラフェン結晶の中間層間隔である)を使用して、X線パターンから計算された。この式は、d002が約0.3440nm以下である時にだけ有効である。0.3440nmよりも高いd002を有する酸化グラフェンフィルムまたは軽く酸化された黒鉛結晶材料は、スペーサーとして作用してグラフェン間の間隔を増加させる酸素含有官能基(例えば、グラフェン分子平面の表面上の-OH、>O、および-COOHなど)の存在を反映する。
【0088】
本発明の単位グラフェン材料および従来の黒鉛結晶の秩序化度を特性決定するために使用できる別の構造指数は、(002)または(004)反射のロッキング曲線(X線回折強度)の半値全幅によって表わされる、「モザイクスプレッド」である。この秩序化度は、黒鉛またはグラフェン結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々の単位グラフェン材料の大部分は、0.2~0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する(2,000℃以上の熱処理温度を使用する)。しかしながら、いくつかの値は、最も高い熱処理温度(HTT)が1,000~1,500℃の間である場合0.4~0.7の範囲、HTTが500~1,000℃の間である場合0.7~1.0の範囲である。
【0089】
GOのための熱処理温度条件は、金属箔上にコートされる酸化グラフェンの薄フィルムが比較的細孔を含有せず、少なくとも1.5g/cm3の物理的密度または20%より低い多孔度レベルを有するようなものである。より典型的な加工条件下で、薄フィルムは、少なくとも1.7g/cm3の物理的密度または10%より低い多孔度レベルを有する。多くの場合、フィルムは、1.8g/cm3より大きい物理的密度または5%未満の多孔度レベルを有する。(特に、1,500℃より低い最大処理温度で作製されたそれらのフィルムについて)フィルム内の化学接合したグラフェン面は典型的に、sp2およびsp3電子配置の組合せを含有する。
【0090】
金属箔上に接合した酸化グラフェンの酸化グラフェン(GO)ゲル由来薄フィルムは、(別々にまたは組合せで)以下の特性を有する:
(1)所望の剪断応力場条件下で形成され、その後に、適切な熱処理が行われる場合、酸化グラフェンの薄フィルムは統合されたグラフェン相である。フィルムは、互いに平行に本質的に配向される幅の広い/長い化学接合したグラフェン面を有する。換言すれば、全ての結晶粒のc軸結晶方向および全てのそれらの構成グラフェン面は本質的に同じ方向に向いている。この結論は、SEM、TEM、制限視野回折(TEMを使用)、X線回折、原子間力顕微鏡検査(AFM)、ラマン分光学、およびFTIRの組合せを使用して詳細な調査後に出された。
【0091】
(2)剥離黒鉛ワームの紙状シート(すなわち、可撓性黒鉛箔)、膨張黒鉛フレークのマット(厚さ100nm)、およびグラフェンまたはGOプレートリットの紙または膜は、複数の離散黒鉛フレークまたはグラフェン、GO、またはRGOの離散プレートリットの簡単な、接合されていない集合体/積層体である。対照的に、GOゲルからの酸化グラフェンの本発明の薄フィルムは、離散フレークまたはプレートリットを含有しない十分に統合された、単一グラフェン実体またはモノリスである。
【0092】
(3)先行技術の方法において、黒鉛粒子の元の構造を構成する離散グラフェンシート(厚さ<<100nm)または膨張黒鉛フレーク(>100nm)は、膨張、剥離、および分離処理によって得ることができる。これらの離散シート/フレークを薄フィルムに単に混合および再圧縮することによって、これらのシート/フレークを望むらくは1つの方向に沿って配向することを試みることができる。しかしながら、これらの従来の方法を使用して、得られたフィルムの構成フレークまたはシート(集合体、紙、膜、またはマット)は、裸眼または低倍率光学顕微鏡(100倍~1000倍)を使用しても容易に識別することができるかまたははっきりと観察することができる離散フレーク/シート/プレートリットのままである。
【0093】
対照的に、GOの本発明の薄フィルムの作製は、元のグラフェン面の事実上1つ1つが酸化されて互いに単離され、高反応性官能基(例えば-OH、>O、および-COOH)を縁にそして同様に、主に、グラフェン面上に有する単独分子になる程度に、元の黒鉛粒子を強く酸化する工程を含む。(炭素原子の他にOおよびHなどの原子を含有する)これらの単独炭化水素分子を反応媒体(例えば水と酸との混合物)中に溶解して、本明細書においてGOゲルと称される、ゲル状塊を形成する。次に、このゲルを典型的に剪断応力場条件下で平滑な基材表面にキャストするかまたは型キャビティ内に射出し、次に、液体成分を除去して、乾燥させたGO層を形成する。加熱されるとき、これらの高反応性分子は、主に横方向(長さまたは幅方向)にグラフェン面に沿って(縁から縁的に)および、いくつかの場合、グラフェン面間でも互いに反応して化学的に接合する。
【0094】
図3(D)に示されるのは、2個だけの整列GO分子が例として示される妥当な化学連結機構であるが、非常に多数のGO分子が一緒に化学連結して単位グラフェン層を形成することができる。さらに、化学連結はまた、縁から縁までだけでなく、面から面まで生じ得る。分子が化学的同化され、連結され、単一実体またはモノリスに統合されるようにこれらの連結および同化反応が進む。分子がそれら自体の元の本質を完全に失い、それらはもう離散シート/プレートリット/フレークではない。1つの巨大な分子または本質的に無限大の分子量を有する相互接続巨大分子の単に網目構造であるただ1つの単一層状構造物(単位グラフェン実体)がある。全ての構成グラフェン面は横方向寸法(長さおよび幅)において非常に大きく、剪断応力条件下で(特に、厚さ<20μmの薄フィルムに)製造されて高めの温度(例えば>1,000℃以上)で熱処理される場合、これらのグラフェン面は本質的に互いに平行である。
【0095】
SEM、TEM、制限視野回折、X線回折、AFM、ラマン分光学、およびFTIRの組合せを使用する綿密な研究は、グラフェンモノリスはいくつかの非常に大きいグラフェン面(典型的に>>100μm、より典型的に>>1mm、および最も典型的に>>1cmの長さ/幅を有する)から構成されることを示す。これらの巨大グラフェン面は、しばしばファンデルワールス力(従来の黒鉛微結晶におけるように)だけでなく、共有結合によっても厚さ方向(c軸結晶方向)に沿って積層および接合される。理論によって限定されるべきでないが、ラマンおよびFTIR分光法研究は、黒鉛中に従来のsp2だけでなくsp2(支配的)およびsp3(弱いが存在している)電子配置の共存を示すと思われる。
【0096】
(4)この統合されたグラフェン実体は、樹脂結合剤または接着剤を使用して離散フレーク/プレートリットを一緒に接着または接合することによって製造されない。代わりに、外部から添加される結合剤分子またはポリマーを全く使用せずにGOゲル中のGO分子を互いの共有結合の接合または形成によって同化して、統合されたグラフェン実体にする。
【0097】
(5)このモノリシックグラフェン実体は典型的に、全ての結晶粒のc軸結晶軸が互いに本質的に平行である。この実体は、GOゲルから得られ、それは更には、複数の黒鉛微結晶を有する天然黒鉛または人工黒鉛粒子から得られる。化学的に酸化される前に、これらの出発黒鉛微結晶は、初期長さ(a軸結晶方向のLa)、初期幅(b軸方向のLb)、および厚さ(c軸方向のLc)を有する。強く酸化したとき、これらの初期に離散した黒鉛粒子は、かなりの濃度の縁担持または表面担持官能基(例えば-OH、-COOH等々)を有する高級芳香族酸化グラフェン分子に化学的に変化される。GOゲル中のこれらの芳香族GO分子は、黒鉛粒子またはフレークの一部であるそれらの元の本性を失っている。液体成分をGOゲルから除去する時に、得られたGO分子は、本質的非晶質構造体を形成する。熱処理時に、これらのGO分子は、高度に秩序化されている単体またはモノリシックグラフェン実体に化学的同化および連結される。
【0098】
酸化グラフェンの得られた薄フィルムは典型的に、元の微結晶のLaおよびLbよりも著しく大きい長さまたは幅を有する。この薄フィルムの長さ/幅は典型的に、元の微結晶のLaおよびLbよりも大きい。このグラフェン実体中の単独結晶粒でも、元の微結晶のLaおよびLbよりも著しく大きい長さまたは幅を有する。
【0099】
(6)これらの独特の化学組成(酸素含有量を含む)、モルフォロジー、結晶構造(グラフェン間の間隔を含む)、および構造特徴(例えば、わずかな欠陥、良い化学接合、およびグラフェンシート間の間隙がないこと、ならびにグラフェン面の割り込みがないこと)のために、酸化グラフェンの酸化グラフェンゲル由来モノリシックフィルムは、著しい熱伝導率、電気導電率、機械的強度、および耐引掻き性の独特の組合せを有する。また、このフィルムは、結合剤または接着剤を使用せずに下にある金属箔によく接合される。
【0100】
前述の特徴はさらに、以下のように詳細に記述および説明される:
図1(B)に示されるように、黒鉛粒子(例えば100)は典型的に、複数の黒鉛微結晶または結晶粒から構成される。
【0101】
平行なグラフェン層を保持する弱いファンデルワールス力のために、グラフェン層間の間隔がかなり広がってc軸方向の顕著な膨張をもたらし、したがって、炭素層の層状特性が実質的に保持される膨張黒鉛構造体を形成するように天然黒鉛を処理することができる。一般的には、天然黒鉛のフレーク(例えば
図1(B)の100)を酸溶液中にインターカレートして黒鉛層間化合物(GIC、102)を製造する。GICを洗浄し、乾燥させ、そして次に、短時間の間高温に暴露することによって剥離する。これは、フレークを黒鉛のc軸方向においてそれらの元の寸法の80~300倍まで膨張または剥離させる。剥離黒鉛フレークは外観が細長く、したがって、一般的にワーム104と称される。非常に膨張した黒鉛フレークのこれらのワームを、結合剤を使用せずに、大抵の用途のために約0.04~2.0g/cm
3の典型的な密度を有する膨張黒鉛、例えばウェブ、紙、ストリップ、テープ、箔、マット等(典型的に「可撓性黒鉛」106と称される)の凝集または統合シートに形成することができる。
【0102】
図1(A)の上左部分は、可撓性黒鉛箔および樹脂含浸可撓性黒鉛複合物を製造するために使用される先行技術の方法を説明するフローチャートを示す。この方法は典型的に、黒鉛粒子20(例えば、天然黒鉛または合成黒鉛)をインターカラント(典型的に強酸または酸混合物)でインターカレートして黒鉛層間化合物22(GIC)を得ることから開始する。水中で洗浄して過剰な酸を除去した後、GICが「膨張性黒鉛」になる。次に、GICまたは膨張性黒鉛を短時間の間(典型的に15秒~2分)高温環境(例えば、800~1,050℃の範囲の温度に予め設定された管状炉内で)に暴露する。この熱処理は黒鉛をそのc軸方向において30~数百倍膨張させてワーム状虫食い形構造体24(黒鉛ワーム)を達成し、それは、大きな細孔がこれらの相互接続フレークの間に挟まれた剥離された、しかし分離されていない黒鉛フレークを含有する。黒鉛ワームの例が
図2(A)に示される。
【0103】
先行技術の一方法において、カレンダリングまたはロール加圧加工技術を使用することによって剥離黒鉛(または黒鉛ワームの塊)を再圧縮して可撓性黒鉛箔(
図1(A)の26または
図1(B)の106)を得るが、それらは典型的に100μmよりもずっと厚い。可撓性黒鉛箔の横断面のSEM画像が
図2(B)に示され、それは、可撓性黒鉛箔表面に平行ではない配向を有する多くの黒鉛フレークを示し、多くの欠陥および不完全部分がある。
【0104】
一般に黒鉛フレークのこれらの誤配向および欠陥の存在のために、市販の可撓性黒鉛箔は通常、約1,500S/cmの面内電気導電率、15~30S/cmの面貫通(厚さ方向またはZ方向)電気導電率、140~300W/mKの面内熱伝導率、および約10~30W/mKの面貫通熱伝導率を有する。また、これらの欠陥および誤配向は、低い機械的強度の原因である(例えば欠陥は、亀裂が優先的に開始される潜在的応力集中部位である)。これらの性質は、多くの熱管理用途には不十分であり、本発明は、これらの問題に対処するために実施される。
【0105】
別の先行技術の方法において、剥離黒鉛ワーム24を樹脂で含浸し、そして次に圧縮および硬化して可撓性黒鉛複合物28を形成してもよく、それは通常、同様に低い強度である。さらに、樹脂含浸したとき、黒鉛ワームの電気および熱伝導率は2桁低下され得る。
【0106】
代わりに、高強度エアジェットミル、高強度ボールミル、または超音波デバイスを使用して剥離黒鉛を高強度機械的剪断/分離処理に供して、分離されたナノグラフェンプレートリット33(NGP)を製造してもよく、全てのグラフェンプレートリットは100nmよりも薄く、主に10nmよりも薄く、そして、多くの場合、単一層グラフェンである(
図1(B)において112としても示される)。NGPは、グラフェンシートまたは複数のグラフェンシートから構成され、各々のシートは炭素原子の2次元の、六方晶構造体である。
【0107】
さらに代わりに、低強度剪断によって、黒鉛ワームは、厚さ>100nmを有するいわゆる膨張黒鉛フレーク(
図1(B)の108)に分離される傾向がある。紙製造またはマット製造法を使用してこれらのフレークを黒鉛紙またはマット106に形成することができる。この膨張黒鉛紙またはマット106は、欠陥、割り込み、およびこれらの離散フレーク間の誤配向を有する離散フレークのごく単純な集合体または積層体である。
【0108】
製紙プロセスを使用して複数のNGP(
図1(A)の33、単一層および/または数層グラフェンの離散シート/プレートリットを含む)の塊をグラフェン紙に製造してもよい(
図1(A)の34または
図1(B)の114)。
図3(B)は、製紙プロセスを使用して離散グラフェンシートから作製されるグラフェン紙/フィルムの横断面のSEM画像を示す。画像は、折れるかまたは割り込まれている(統合されていない)多くの離散グラフェンシートが存在し、プレートリット配向の大部分がフィルム/紙表面に平行ではなく、多くの欠陥または不完全部の存在を示す。これらのNGP集合体は、細密に充填される時でも、比較的低い電気導電率を示す。
【0109】
金属箔上に接合された酸化グラフェンの薄フィルムの前駆体は酸化グラフェンゲル21(
図1(A))である。このGOゲルは、粉末または繊維形態の黒鉛材料20を反応器内の強酸化性液体に浸漬して懸濁液またはスラリーを形成することによって得られ、それは初期に光学的に不透明であり且つ黒ずんでいる。この光学不透明度は、酸化反応の開始時に、離散黒鉛フレークそして、もっと後の段階で、離散酸化グラフェンフレークが分散し、および/または可視波長を吸収し、不透明且つ概して黒ずんだ流体塊をもたらすという事実を反映する。黒鉛粉末と酸化剤との間の反応を十分な時間の間十分に高い反応温度で進行させる場合、この不透明な懸濁液は褐色の、典型的に半透明または透明な溶液に変化させられ、それは今、識別できる離散黒鉛フレークまたは黒鉛酸化物プレートリットを含有しない「酸化グラフェンゲル」と呼ばれる均質な流体である(
図1(A)の21)。剪断応力場のもとで分配および堆積する場合、GOゲルは粘度低下および分子配向を得て「配向GO」35を形成し、それは熱処理されて、金属箔に接合されたモノリシック薄フィルム実体37になることができる。
【0110】
また、この酸化グラフェンゲルは典型的に光学的に透明または半透明および視覚的に均質であり、その中に分散された黒鉛、グラフェン、または酸化グラフェンの識別できる離散フレーク/プレートリットがない。GOゲルにおいて、GO分子は、酸性液状媒体中に均一に分散されている。対照的に、流体(例えば水、有機酸または溶媒)中の離散グラフェンシート、酸化グラフェンシート、および膨張黒鉛フレークの従来の懸濁液は黒ずんでいるか、黒色または濃褐色に見え、単独グラフェンまたは酸化グラフェンシートまたは膨張黒鉛フレークが裸眼または低倍率光学顕微鏡(100倍~1,000倍)でも識別できるかまたは認識可能である。
【0111】
酸化グラフェンゲルの液状媒体に溶解させた酸化グラフェン分子は、鎖中に典型的に1,000未満、より典型的に500未満、多くは100未満のベンゼン環の平均数を有する芳香族鎖である。分子の大部分は、原子間力顕微鏡検査、高解像度TEM、および分子量測定の組合せによって5または6超のベンゼン環(主に>10のベンゼン環)を有する。我々の元素分析に基づいて、これらのベンゼン環タイプの芳香族分子は強く酸化され、-COOHおよび-OHなどの高濃度の官能基を含有し、したがって、水などの極性溶媒中に「可溶性」(分散性なだけではない)である。ゲル状態のこれらの酸化グラフェンポリマーの推定分子量は典型的に200g/モル~43,000g/モルの間、より典型的に400g/モル~21,500g/モルの間、および最も典型的に400g/モル~4,000g/モルの間である。GOゲルの典型的な粘度値は
図8(A)~
図8(C)に示される。
【0112】
これらの可溶性分子はポリマーのように挙動し、驚くべきことに、(後続の熱処理または再黒鉛化処理の間に)互いに反応して化学的に接続されて、良い構造統合性および高い熱伝導率のグラフェン層を形成することができる。従来の離散グラフェンシート、酸化グラフェンシート、または黒鉛フレークは、自己反応または凝集接合能力を全く有さない。また非常に驚くべきことに、後続の熱処理または再黒鉛化処理の間、GOゲル中のこれらの可溶性分子は、金属箔表面を化学接合することができる。
【0113】
また、具体的にそして最も重要なことに、GOゲル状態中に存在しているこれらの酸化グラフェン分子は、十分に長い時間の間十分に高温でゲルを乾燥させて熱処理される時に互いに化学接合、連結、または同化して非常に長く且つ幅の広いグラフェン層に統合され得る(例えば
図3(A))。識別できる単独グラフェンプレートリットまたはシートはない。それらは、互いに完全に連結されて化学的に統合される化学的活性またはライブGO分子に化学的に変換されて、グラフェン面方向に層状単体を形成し、これらの単体は、厚さ方向(またはZ方向)に沿って互いに化学接合していると思われる。X線回折検査は、d間隔(グラフェン面間の距離)が約0.3354nm(0.01重量%の酸素を有する)から0.40nm(約5.0~10%の酸素を有する)に戻ったことを裏づけた。これらのグラフェン層間に間隙は全くないと思われ、したがって、これらの層は、1つの大きな単体に本質的に同化されている。
図3(A)は、このような巨大な単体の例を表わす。このようなグラフェン実体の形成プロセスが
図3(C)にさらに図解される。
【0114】
酸化グラフェンゲルを形成する目的で強く酸化される出発黒鉛材料は、天然黒鉛、人工黒鉛、メソフェーズ炭素、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビード、軟質炭素、硬質炭素、コークス、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、またはそれらの組合せから選択され得る。黒鉛材料は好ましくは、20μm未満、より好ましくは10μm未満、さらに好ましくは5μm未満、最も好ましくは1μm未満の寸法を有する粉末または短いフィラメントの形態である。
【0115】
実施例として9.7μmの平均粒度を有する人工黒鉛を使用して、典型的な手順は、典型的に少なくとも3日間、好ましくは5日間、およびより好ましくは7日間以上、黒鉛粒子を典型的に0~60℃の温度の(3:1:0.05の重量比の)硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの酸化剤混合物中に分散させる工程を必要とする。ゲル中の得られた酸化グラフェン分子の平均分子量は、処理時間が3日間である場合約20,000~40,000g/モル、5日間である場合<10,000g/モル、および7日間よりも長い場合<4,000g/モルである。必要とされるゲル形成時間は元の黒鉛材料の粒度に依存しており、より小さな粒度はより短い時間を必要とする。臨界ゲル形成時間に達していない場合、黒鉛粉末および酸化剤の懸濁液(酸化剤液体中に分散された黒鉛粒子)は全く不透明且つ不均質に見えることを指摘することは非常に重要であり、離散黒鉛粒子またはフレークが液状媒体中に懸濁されたままである(しかし溶解していない)ことを意味する。この臨界時間を超えるとすぐ、懸濁液全体が光学半透明または透明になり(十分に低いGO含有量の場合)、褐色になるが、それは強く酸化された黒鉛がその元の黒鉛本性を完全に失うことを意味し、得られた酸化グラフェン分子を、酸化剤液体中に完全に溶解させ、均質な溶液を形成する(もう単に懸濁液またはスラリーではない)。
【0116】
必要とされるゲル形成時間より短い処理時間の後、懸濁液またはスラリーをすすぎ洗いして乾燥させる場合、黒鉛酸化物粉末または黒鉛層間化合物(GIC)粉末を単に回収し、それをその後剥離および分離して、離散ナノグラフェンプレートリット(NGP)を製造することができることがさらに指摘されなければならない。十分な量の強酸化剤および十分な時間の酸化時間がなければ、黒鉛または黒鉛酸化物粒子はGOゲル状態に変換されない。
【0117】
酸化グラフェンゲルが元の黒鉛結晶粒径(例えば平均結晶粒径、Dg)を有する黒鉛材料から得られる場合、得られた酸化グラフェンの薄フィルムは、この元の結晶粒径よりかなり大きい結晶粒径を有するグラフェン構造物である。フィルムは、出発黒鉛材料の任意の特定の粒子に対応付けられると確認できる結晶粒を全く有さない。元の粒子は、化学連結および同化されるかまたは分子量が本質的に無限大であるグラフェン鎖の網目構造に統合される黒鉛酸化物分子に変換される時にそれらの本性をすでに全く失っている。
【0118】
さらに、酸化グラフェンゲルが、X線回折または電子回折方法によって測定された好ましい結晶配向を示さない複数の黒鉛微結晶を有する黒鉛材料(例えば天然黒鉛の粉末)から得られる場合でも、金属箔上に接合された得られた薄フィルムは、同じX線回折または電子回折方法によって測定されたとき、非常に高度の好ましい結晶配向を典型的に示す。これは、元のまたは出発黒鉛材料の粒子を構成する六方晶炭素原子の構成グラフェン面が化学的に改質され、変換され、再整列され、再配向され、連結または架橋され、同化および統合され、再黒鉛化され、そしてさらに再結晶化されていることを示すさらにもう1つの証拠である。
【0119】
また、本発明は、アノード集電体および/またはカソード集電体として本発明の酸化グラフェン薄フィルム接合金属箔を含有する再充電可能バッテリーを提供する。これは、例えば、いくつか例を挙げると亜鉛-空気セル、ニッケル金属水素化物セル、ナトリウムイオンセル、ナトリウム金属セル、マグネシウムイオンセル、またはマグネシウム金属セルなどの任意の再充電可能バッテリーであることができる。この発明されたバッテリーは、アノード集電体またはカソード集電体として単位グラフェン層を含有する再充電可能リチウムバッテリーであることができ、そのリチウムバッテリーは、リチウム-硫黄セル、リチウム-セレンセル、リチウム硫黄/セレンセル、リチウムイオンセル、リチウム-空気セル、リチウム-グラフェンセル、またはリチウム-炭素セルであることができる。本発明の別の実施形態は、アノード集電体またはカソード集電体として本発明の集電体を含有するキャパシタであり、そのキャパシタは、対称ウルトラキャパシタ、非対称ウルトラキャパシタセル、ハイブリッドスーパーキャパシタ-バッテリーセル、またはリチウムイオンキャパシタセルである。
【0120】
例として、本発明は、アノード側の集電体、アノードとしてのリチウムフィルムまたは箔、多孔性セパレーター/電解質層、カソード活物質(例えばリチウムを含まないV2O5およびMnO2)を含有するカソード、および集電体から構成される再充電可能リチウム-金属セルを提供する。アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のグラフェン系集電体であり得る。
【0121】
本発明の別の例は、アノード側の集電体、黒鉛またはチタン酸リチウムアノード、液体またはゲル電解質で浸漬された多孔性セパレーター、カソード活物質(例えば高い比表面積を有する活性炭)を含有するカソード、および集電体から構成されるリチウムイオンキャパシタ(またはハイブリッドスーパーキャパシタ)である。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のグラフェン系集電体であり得る。
【0122】
本発明のさらに別の例は別のリチウムイオンキャパシタまたはハイブリッドスーパーキャパシタであり、それは、アノード側の集電体、黒鉛アノード(およびアノードの一部としてリチウム箔のシート)、液体電解質で浸漬された多孔性セパレーター、カソード活物質(例えば高い比表面積を有する活性炭)を含有するカソード、および集電体から構成される。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のグラフェン系集電体であり得る。
【0123】
本発明のさらに別の例は、アノード側の集電体、多孔性ナノ構造アノード(例えば、戻ってくるリチウムイオンがセルの再充電の間に上に堆積することができ、表面安定化リチウム粉末粒子が混合されるか、またはナノ構造物に付着されるリチウム箔のシートを有する高表面積を有するグラフェンシートを含む)、液体電解質で浸漬された多孔性セパレーター、グラフェン系カソード活物質(例えば、セルの放電の間にリチウムイオンを捉える高い比表面積を有するグラフェン、酸化グラフェン、またはフッ化グラフェンシート)を含有するカソード、およびカソード集電体から構成されるリチウム-グラフェンセルである。また、アノード集電体およびカソード集電体のどちらかまたは両方とも、本発明のグラフェン系集電体であり得る。
【実施例】
【0124】
実施例1:離散グラフェンシート(NGP)および膨張黒鉛フレークの調製
12μmの平均直径を有する細断した黒鉛繊維および天然黒鉛粒子を出発原料として別々に使用し、それを(化学インターカレートおよび酸化剤として)濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物中に浸漬して黒鉛層間化合物(GIC)を調製した。最初に出発原料を24時間の間80℃で真空炉内で乾燥させた。次いで、(4:1:0.05の重量比の)濃硫酸、発煙硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物を、適切な冷却および撹拌下で、繊維セグメントを含有する三首フラスコにゆっくりと添加した。16時間の反応後に、酸処理黒鉛繊維または天然黒鉛粒子を濾過し、溶液のpHレベルが6に達するまで脱イオン水で十分に洗浄した。一晩100℃で乾燥させた後、得られた黒鉛層間化合物(GIC)を管状炉内で45秒間1050℃の熱衝撃に供して、剥離黒鉛(または黒鉛ワーム)を形成した。
【0125】
5グラムの得られた剥離黒鉛(黒鉛ワーム)を65:35の比のアルコールおよび蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と12時間の間混合して、懸濁液を得た。次に、混合物または懸濁液を200Wの出力で様々な時間の間超音波照射に供した。2時間の音波処理の後、EG粒子を薄いNGPに有効に破砕した。次に、懸濁液を濾過して80℃で乾燥させて、残留溶媒を取り除いた。調製しただけのNGPは約9.7nmの平均厚さを有する。
【0126】
別の5グラムの得られた剥離黒鉛(EG)を低強度エアジェットミル粉砕に供して、黒鉛ワームを破断し、膨張黒鉛フレーク(139nmの平均厚さを有する)を形成した。膨張黒鉛フレークおよびグラフェンシートの両方の試料を結合剤樹脂(PVDF)と混合し、次に、Cu箔およびAl箔の主表面上にコートして、膨張黒鉛被覆集電体および酸化グラフェンでコートされた集電体を形成した。さらに、Al箔のシートをアセトンで清浄にして、次にGOおよびRGOシートの両方で噴霧コートした。得られた集電体をリチウムバッテリーおよびスーパーキャパシタの両方において評価した。
【0127】
実施例2:メソカーボンマイクロビード(MCMB)からのグラフェンの調製
メソカーボンマイクロビード(MCMB)は、China Steel Chemical Co.から供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度ならびに約16μmのメジアン粒度を有する。MCMB(10グラム)を72時間にわたって酸溶液(4:1:0.05の比の硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウム)でインターカレートした。反応の終了時に、混合物を脱イオン水中に流し込み、濾過した。インターカレートされたMCMBをHClの5%溶液中で繰り返して洗浄して硫酸イオンの大部分を除去した。次に、ろ液のpHが中性になるまで試料を脱イオン水で繰り返して洗浄した。スラリーを24時間の間60℃の真空炉内で乾燥および貯蔵した。乾燥させた粉末試料を石英管内に置き、45秒間の間所望の温度、1,080℃に予備設定された水平管状炉内に挿入して、グラフェン材料を得た。TEMおよび原子間力顕微鏡検査は、NGPの大部分が単一層グラフェンであったことを示す。これらのグラフェンシートを自立グラフェン紙に製造するかまたは薄金属箔上に(樹脂結合剤と共に)堆積させた。Al箔の場合、グラフェンでコートされたAl箔の試料(結合剤なし)もまた作製した。
【0128】
実施例3:純粋グラフェンシート/プレートリットの調製
典型的な手順において、約20μm以下のサイズに微粉砕された5グラムの黒鉛フレークを1,000mLの脱イオン水(DuPont製のZonyl(登録商標)FSO、分散助剤0.1重量%を含有する)中に分散させて懸濁液を得た。85Wの超音波エネルギーレベル(BransonS450ウルトラソニケーター)を15分~2時間にわたってグラフェンシートの剥離、分離、および粉砕のために使用した。
【0129】
実施例4:酸化グラフェン(GO)ゲルの調製
酸化グラフェンは、黒鉛フレークを4:1:0.05の比の硫酸、硝酸ナトリウム、および過マンガン酸カリウムからなる酸化剤液体で30℃で酸化することによって調製された。天然黒鉛フレーク(14μmの粒度)が酸化剤混合物液体中に浸漬および分散されるとき、懸濁液またはスラリーは光学的に不透明にみえ、且つ暗くみえた。懸濁液は、反応の最初の52時間の間不透明なままである。しかしながら、懸濁液は、反応時間が52時間を超える時に徐々に光学半透明になり(少し濁る)、そして懸濁液の色は黒色から暗褐色に変化する。96時間後に、懸濁液は突然明るい褐色を有する光学的に透明な溶液になる。溶液は色が非常に均一且つ透明に見え、分散された離散物体が全く存在しないことを示す。全溶液は、典型的なポリマーゲルに非常に似た、ゲルのように挙動する。
【0130】
驚くべきことに、このゲルを金属箔表面(Cu、Al、Ni、Ti、またはステンレス鋼)上にキャストすると共に液状媒体をキャストフィルムから除去することによって、光学的に透明な酸化グラフェンの薄フィルムが得られる。この薄フィルムは、規則性ポリマーフィルムのように見え、そのような手触りがし、そしてそのように挙動する。しかしながら、典型的に1~3時間の間(80℃~1,500℃の)温度で熱処理したとき、このGOフィルムは、大きなサイズのグラフェンドメインを含むモノリシック薄フィルム実体に変化させられる。このGOフィルムは、下にある金属箔によく接合される。
【0131】
熱処理の前のGOフィルム(ガラス表面上にコートされたGOゲル、液状媒体が除去された)、1時間の間150℃で熱還元されたGOフィルム、および高度還元および再黒鉛化GOフィルム(単位グラフェン層)のX線回折曲線が
図5(A)、
図5(B)、および
図5(C)それぞれに示される。乾燥させたGOフィルム(
図5(A))の約2θ=12°のピークは、約0.7nmのグラフェン間の間隔(d
002)に相当する。150℃での或る熱処理によって、GOフィルムは、22°を中心とするハンプの形成を示し(
図5(B))、化学連結および秩序化プロセスの開始を示す、グラフェン間の間隔を減少させるプロセスをそれが開始したことを示す。3時間にわたる1,250℃の熱処理温度によってd
002間隔は、黒鉛単結晶の0.3354nmに近い、約0.34に減少した。
【0132】
3時間にわたる1,500℃の熱処理温度によって、d
002間隔は、黒鉛単結晶のd
002間隔に等しい、約0.3354nmに減少する。さらに、高強度を有する第2の回折ピークは、(004)面からのX線回折に相当する2θ=55°に出現する(
図5(D))。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、またはI(004)/I(002)比は、グラフェン面の結晶完成度および好ましい配向の良い表示である。2,800℃よりも低い温度で熱処理された全ての黒鉛材料について(004)ピークは存在していないかまたは比較的弱いかどちらかであり、I(004)/I(002)比<0.1である。3,000~3,250℃で熱処理された黒鉛材料(例えば、高度配向熱分解黒鉛、HOPG)のI(004)/I(002)比は、0.2~0.5の範囲である。一実施例は、2時間の間3,000℃のHTTを使用するポリイミド由来PGについて
図5(E)に示され、それは約0.41のI(004)/I(002)比を示す。対照的に、4時間の間1,500℃のHTTを使用して作製された金属箔上に接合されたGOの薄フィルムは、0.78のI(004)/I(002)比および0.21のモザイクスプレッド値を示し、特別な程度の好ましい配向を有するほぼ完全なグラフェン単結晶を示す。GOゲルから作製される薄いGO層(<1μm)と下にある金属箔(Cu、Ni、Ti、および鋼)との間の相乗効果がある。
【0133】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線の(002)反射の半値全幅から得られる。秩序化度のためのこの指標は、黒鉛またはグラフェン結晶サイズ(または結晶粒径)、粒界およびその他の欠陥の量、および好ましい結晶粒配向度を特性決定する。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特性とする。我々の単位グラフェン材料の大部分は、0.2~0.4のこの範囲のモザイクスプレッド値を有する(1,500℃以上の熱処理温度を使用する)。
【0134】
調査される数十の全ての可撓性黒鉛試料のI(004)/I(002)比は全て<<0.05であり、多くの場合事実上存在していないことを指摘しておいてもよいだろう。全てのグラフェン紙/膜試料のI(004)/I(002)比は、2時間の3,000℃での熱処理の後でも<0.1である。Cu触媒によるCVDによって作製される極薄フィルム(厚さ<2nm)を黒鉛化しようとすることによって、フィルムの破断に至り、その代わりに黒鉛粒子の形成をもたらす。本発明のGOフィルム接合金属箔は、一切の熱分解黒鉛(PG)、可撓性黒鉛(FG)の他、自立しているかまたは金属箔上にコートされる従来のグラフェン/GO/RGOシート/プレートリット(NGP)の紙/フィルム/膜とは根本的に異なっている新規なおよびはっきり区別できるクラスの材料であるという既定の事実である考えをこれらの観察はさらに裏づけ、確認した。
【0135】
広い温度範囲にわたって様々な温度で熱処理することによって得られたGOゲル由来GOフィルムのグラフェン間間隔値は、
図6(A)にまとめられる。GOゲル由来GOフィルムの相当する酸素含有量値は
図6(B)に示される。グラフェン間間隔と酸素含有量との間の相関関係を示すために、
図6(A)および
図6(B)のデータは、
図6(C)において再びプロットされる。
図6(A)~
図6(C)の綿密な精査は、4つのそれぞれの酸素含有量の範囲およびグラフェン間間隔の範囲をもたらす4つのHTT範囲(80~200℃;200~500℃;500~1,250℃;および1,250~1,500℃)があることを示す。同じ最終熱処理温度範囲の関数として同じくプロットされる、GOゲル由来GOフィルムおよび相当する可撓性黒鉛(FG)箔の熱伝導率を
図6(D)にまとめる。
【0136】
500℃しかない熱処理温度はGOの平均グラフェン間間隔を0.4nm未満にするのに十分であり、天然黒鉛の平均グラフェン間間隔または黒鉛単結晶の平均グラフェン間間隔にますます近づいていることを指摘しておくべきである。この方法の長所は、このGOゲル法によって、本来異なった黒鉛粒子またはグラフェンシートからの平面酸化グラフェン分子を再組織化、再配向、および化学的同化して、全てのグラフェン面がいま横方向寸法においてより大きく(元のグラフェン面の長さおよび幅よりも著しく大きい)且つ互いに本質的に平行であるグラフェンモノリスを形成できたということである。これは、すでに>420W/mK(500℃のHTTを使用する)および>950W/mk(700℃のHTTを使用する)の熱伝導率を生じており、それは相当する可撓性黒鉛箔の値(200W/mK)よりも2倍~4倍超大きい。これらの平面GO分子は、(GOゲルを形成するために黒鉛酸化の手順において使用される)出発天然黒鉛粒子の元の構造を構成するグラフェン面に由来する。元の天然黒鉛粒子は、集合体または「黒鉛圧粉体」に不規則に充填されるとき、それらの構成グラフェン面が不規則に配向されており、比較的低い熱伝導率を示し、本質的にゼロ強度を有する(構造統合性を有さない)。対照的に、(付加的な強化なしでも)単位グラフェン層の強度は典型的にすでに40~140Mpaの範囲である。
【0137】
800℃しかないHTTを使用して、得られた単位グラフェン層は、同じ熱処理温度を使用して可撓性黒鉛箔の観察された244W/mKと対照的に、1,148W/mKの熱伝導率を示す。実際のところ、HTTがどんなに高くても(例えば2,800℃もあっても)、可撓性黒鉛箔は600W/mKよりも低い熱伝導率しか示さない。2,800℃のHTTにおいて、本発明の単位グラフェン層は、金属箔がこのような高温で溶融されても1,807W/mKの熱伝導率を与える(
図4(A)および
図6(D))。
【0138】
グラフェン層の格子画像化の走査電子顕微鏡検査(SEM)、透過型電子顕微鏡検査(TEM)写真、ならびに制限視野電子回折(SAD)、明視野(BF)、および暗視野(DF)画像もまた実施して、単位グラフェン材料の構造を特性決定した。フィルムの断面図の測定のために、試料をポリマー母材中に埋めて、ウルトラミクロトームを使用して薄切りにし、Arプラズマでエッチングした。
【0139】
図2(A)、
図3(A)、および
図3(B)の綿密な精査および比較は、モノリシックGO薄フィルム内のグラフェン層は、互いに平行に実質的に配向されることを示す。しかしこれは可撓性黒鉛箔および酸化グラフェン紙については当てはまらない。GO薄フィルム実体内の2つの特定可能な層の間の傾斜角は主に5度未満である。対照的に、非常に多くの折れた黒鉛フレーク、キンク、および可撓性黒鉛内の誤配向があるので、2つの黒鉛フレークの間の角度の多くは10度より大きく、45度もあるものもある(
図2(B))。全然悪くはないが、NGP紙内のグラフェンプレートリット間の誤配向(
図3(B))もまた高く、プレートリット間に多くの間隙がある。単位グラフェン実体は本質的に間隙を含まない。
【0140】
図4(A)は、RGO、およびFG箔それぞれの真空補助濾過によって作製されたGOゲル由来GOフィルム、GOプレートリット紙の熱伝導率の値を示し、全て最終HTTの関数としてプロットされる。これらのデータは、所定の熱処理温度において達成可能な熱伝導率を用いてGO薄フィルムの優位を明らかに実証した。純粋グラフェンまたは酸化グラフェンシート/プレートリットからの紙または膜の調製に関する全ての先行技術の研究は、明らかに異なった加工経路に従い、離散グラフェン/GO/RGOプレートリットの簡単な集合体または積層体をもたらす。これらの簡単な集合体または積層体は、多くの折れた黒鉛フレーク、キンク、間隙、および誤配向を示し、不十分な熱伝導率、低い電気導電率、および弱い機械的強度をもたらす。
図4(A)に示されるように、2,800℃もの高い熱処理温度でも、GOプレートリット紙は、GOゲル由来単位グラフェン実体の>1,700W/mKよりもずっと低い、1,000W/mK未満の熱伝導率を示す。
【0141】
比較のために、ポリイミドフィルムを不活性雰囲気中で500℃で1時間および1,000℃で3時間炭化させ、次にフィルムを2,500~3,000℃の範囲の温度で1~5時間の間黒鉛化して、従来の熱分解黒鉛(PG)フィルムを形成した。
図4(B)は、3時間の間熱処理されたGO由来薄フィルムおよびCVD炭素フィルム由来PGの熱伝導率の値を示し、全てが最終黒鉛化または再黒鉛化温度の関数としてプロットされる。これらのデータは、ポリイミド(PI)を炭化して次に炭化されたPIを黒鉛化することによって製造される従来のPGは、熱処理時間の同じ長さについて同じHTTが与えられたとすると、GOゲル由来GO薄フィルムだけと比較して一貫して低めの熱伝導率を示す。例えば、PIからのPGは、1時間の間2,000℃での黒鉛化処理の後に820W/mKの熱伝導率を示し、3時間の間2,000℃では1,242W/mKを示す。これらの観察は、配向された黒鉛結晶を製造する従来のPG方法に対して金属箔上に接合されたGOの薄フィルムを製造するGOゲル方法を使用する明らかで著しい利点を実証した。実際のところ、PGについて黒鉛化時間がどんなに長くても、熱伝導率は、GOゲル由来GOフィルムの熱伝導率よりも常に低い。換言すれば、金属箔上に接合されたGOの薄フィルムは、化学組成、結晶および欠陥構造、結晶配向、モルフォロジー、製造プロセス、および性質に関して可撓性黒鉛(FG)箔、グラフェン/GO/RGO紙/膜、および熱分解黒鉛(PG)とは根本的に異なっており明らかに区別できる。
【0142】
上記の結論は、
図4(C)のデータによってさらに裏付けを与えられ、GO由来GOフィルムの電気導電率の値は、調査される最終HTTの全範囲にわたってRGOプレートリットおよびFG箔からのGO紙の電気導電率の値よりもはるかに優れていることを示す。
【0143】
実施例5:様々な酸化グラフェンゲル由来薄フィルムの電気導電率および熱伝導率の測定
4点プローブ試験をGO層だけの薄フィルム(金属箔表面上にコートされて次に剥離され、熱処理された)、GO/RGO紙、およびFG箔だけについて実施して、それらの面内電気導電率を測定した。それらの面内熱伝導率をレーザーフラッシュ方法(Netzsch熱拡散デバイス)を使用して測定した。
【0144】
様々なフィルムの面内熱伝導率および電気導電率および引張特性を調査した。約75μmの厚さに関して、FG箔が700℃以上で熱処理されない場合、可撓性黒鉛箔だけの熱伝導率は、237W/mK未満である。(各々の場合において黒鉛化処理の1時間の間)再圧縮後の熱処理温度が700℃から2,800℃に上昇するとき、FG箔の熱伝導率は237~582W/mKに増加し、熱処理によって引き起こされる黒鉛構造物の若干の限られた再組織化を示す。それと対照して、GOゲル由来薄グラフェン層だけの熱伝導率は、983~1,807W/mKに増加する。この薄フィルムは、GOゲルの層をCu箔表面上で剪断および堆積させる工程と、1時間の間真空中で液体をGO層から除去する工程と、乾燥させた固体GO層を熱処理する工程とによって得られる。これは、熱処理によって引き起こされる黒鉛構造物の著しいまたは劇的な再組織化を示し、全てのGO分子は十分におよび規則正しく接合されたグラフェン面の統合されたグラフェン体として縁間および面間で連結または同化される。
【0145】
また、相当する可撓性黒鉛箔(剥離黒鉛ワームをロール加圧することによって作製されたFG)および膨張黒鉛フレークの箔またはマット(実施例1に記載されるように黒鉛ワームを黒鉛フレークに破断し、次にそれらを薄い箔/マットに充填およびロール加圧することによって作製される)の熱伝導率データが得られた。膨張黒鉛箔によって達成可能な最も高い熱伝導率値は<800W/mKであり、FGによって達成可能な値は<600W/mKであり、両方とも、単位グラフェン母材およびグラフェン母材複合物の両方の値よりも劇的に低い。
【0146】
実施例6:様々な酸化グラフェン由来単位グラフェン母材複合物の引張強さ
一連のGOゲル由来薄フィルムグラフェン層、GOプレートリット紙、およびFG箔を作製した。万能材料試験機を使用して、これらの材料の引張強さを測定した。酸化グラフェンの薄フィルム、GOプレートリット紙、およびFG紙の引張強さ値を再黒鉛化温度の関数としてプロットする、
図7(A)。可撓性黒鉛箔の引張強さが比較的一定のままであること(全て<20MPa)および熱処理温度が700~2,800℃に増加する時にGO紙の引張強さが(22MPaから43Mpaに)わずかに増加することをこれらのデータは実証した。対照的に、GO由来単位グラフェン層の引張強さは、熱処理温度の同じ範囲にわたって32~>100Mpaに劇的に増加する。この結果は非常に印象的であり、GOゲル由来GO層は熱処理中に高ライブ分子および活性分子を含有し、他方、従来のGO紙中のグラフェンプレートリットおよびFG箔中の黒鉛フレークは本質的に死分子であるという考えをさらに反映する。GO由来単位グラフェン実体は、材料の種類それ自体である。
【0147】
引掻試験は、いわゆるFord Lab試験法(FLTM)BN108-13を使用して行われた。この装置は、長さ250mmを有する5つのビームに接続された可動プラットホームからなる。スクラッチピンは各々のビームの一方の端部に取り付けられる。高度に磨かれた焼入鋼球(直径1.0±0.1mm)を各々のピンの先端上に置く。各々のピンに7N、6N、3N、2N、および0.6Nそれぞれの力を加える重りを負荷する。圧縮空気によって動かされて、ビームは試験片の表面の端から端までピンを引き、引掻きを生じる。引掻きは約100mm/sの滑り速度で実施される。全ての試験は、室温で行われた。試験方法は粒状表面が評価されることを必要とするが、試料の平滑面だけがこの研究において試験された。
【0148】
試料プラックを引掻いた後、キセノン光源を組み込む反射光偏光顕微鏡を使用してそれらを評価した。画像分析ソフトウェアを有する画像分析器を使用して、物体の全グレースケール値である「グレースケール質量」を測定した。カメラの対物レンズを引掻きから90°の角度に配置した。そして次に、対物レンズは、長さ約1mmの引掻きの部分を記録する。次に、各々の引掻き線のための電子信号を積分して記録する。物体の光学的質量Mは、物体の全てのピクセルのグレーレベル値、GLの合計である。単独グレーレベル値は、0~255の範囲(0=黒色および255=白色)の単位ステップにおいて画像分析プログラムによって割り当てられる。光学的質量Mは、M=ΣGL
i(iからnまでの総和)(nはピクセル数である)から計算することができる。物体の輝度、BはB=M/A(Aは物体の面積を表わす)である。引掻きとバックグラウンドとの間の輝度の変化百分率は引掻きの可視度ΔBであり、ΔB=[(B
scratch - B
background)/(B
background)]×100%によって与えられる。引掻きの深さは、干渉計を使用して測定された。倍率は5倍に設定された。深さの測定は、走査された面積の深さのヒストグラムから行われた。引掻試験結果は
図7(B)に示される。また、引掻きは、走査電子顕微鏡(SEM)を使用して検査された。
【0149】
実施例7:アノード側およびカソード側の酸化グラフェン接合金属箔集電体を含有するLi-Sセル
3つの(3)Li-Sセルを作製して試験したが、各々、アノードとしてリチウム箔活物質、カソード活物質として硫黄/膨張黒鉛複合物(75/25重量比)、電解質としてDOL中の1MのLiN(CF3SO2)2、およびセパレーターとしてCelgard2400を有する。第1のセル(比較のための基準セル)は、アノード集電体として厚さ10μmのCu箔およびカソード集電体として厚さ20μmのAl箔を含有する。第2のセル(比較のための別の基準セル)は、アノード集電体として厚さ10μmのGO-樹脂層およびカソード集電体として14μmのRGOでコートされたAl箔のシートを有する。第3のセルは、アノード集電体として本発明のGO接合Cu箔(全厚さ12μm)およびカソード集電体として厚さ20μmの、GOでコートされたAl箔のシートを有する。
【0150】
電荷蓄積容量をサイクル数の関数として定期的に測定して記録した。本明細書で言及される比放電容量は、カソード複合体の単位質量当たり(カソード活物質、導電性添加剤または支持体、および結合剤の重量を計数するが、集電体を除外する)、放電する間にカソードに入れられる全電荷である。この節に示される比エネルギーおよび比出力値は、全セル重量(アノードおよびカソード、セパレーターおよび電解質、集電体、およびパッキング材料を含める)に基づいている。所望の数の繰り返される充電および再充電サイクルの後の選択された試料の形態的またはミクロ構造変化が、透過型電子顕微鏡検査(TEM)および走査電子顕微鏡検査(SEM)の両方を使用して観察された。
【0151】
図9(A)は、充電/放電サイクル数の関数として3つのセルそれぞれの放電容量値を示す。それぞれのセルは、比較を容易にするために100mAhの初期セル容量を有するように設計された。アノード側およびカソード側の両方の本発明のGO接合集電体を特徴とするLi-Sセルが最も安定なサイクル挙動を示し、50サイクル後に6%の容量損失を受けることは明らかである。GO/樹脂でコートされたCuとGOでコートされたAl集電体とを備えるセルは、50サイクル後に23%の容量の減少を起こす。Cu箔アノード集電体とAl箔カソード集電体とを備えるセルは、50サイクル後に26%の容量の減少を起こす。セルのサイクル経過後の検査は、全ての先行技術の電極内のAl箔はひどい腐食問題の難点があることを示す。対照的に、本発明の酸化グラフェン接合Al集電体は無傷のままである。
【0152】
図9(B)は、3つのセルのラゴーンプロット(質量出力密度対質量エネルギー密度)を示す。我々のGO接合金属箔集電体は驚くべきことに、アノード側の先行技術のグラフェン/樹脂でコートされた集電体(カソード側にGOでコートされたAl箔を使用)、およびCu/Al集電体と比較して、Li-Sセルに対してより高いエネルギー密度およびより高い出力出力密度の両方を与えることに留意されたい。これは、Cu箔がグラフェンフィルムの電気導電率よりも1桁超高い電気導電率を有することは全く予想外である。エネルギー密度と出力密度値の差は、アノード側のCu箔とグラフェンフィルムとの間の物理的密度の差だけ算定値を超えている。
【0153】
実施例8:アノード側およびカソード側のグラフェンによって可能にされる集電体を含有するマグネシウムイオンセル
カソード活物質(ケイ酸マンガンマグネシウム、Mg1.03Mn0.97SiO4)の調製のために、試薬銘柄KCl(融点=780℃)は、真空下で150℃で3時間の間乾燥させた後に融剤として使用された。出発原料は、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マンガン(II)(MnCO3)および二酸化ケイ素(SiO2、15~20nm)粉末であった。前駆体化合物の理論量は、Mg:Mn:Siについて1.03:0.97:1のモル比で制御された。混合物(融剤/反応体モル比=4)を10分間の間乳鉢内で乳棒によって手作業で微粉砕し、次にコランダムるつぼ内に流し込んだ。次いで、粉末混合物を真空中で5時間の間120℃で乾燥させて、混合物中の含水量を最小にした。その後、混合物を管状炉に直ちに移し、2時間の間350℃の還元雰囲気(Ar+5wt%H2)内で加熱して、カーボネート基を除去した。この後に、6時間の間2℃/分の速度で様々な温度で最終焼成を行ない、次に自然に室温に冷却した。最後に、生成物(ケイ酸マンガンマグネシウム、Mg1.03Mn0.97SiO4)を3回脱イオン水で洗浄して一切の残りの塩を溶解し、遠心分離によって分離し、2時間の間100℃の真空下で乾燥させた。
【0154】
電極(アノードまたはカソードのどちらか)は典型的に、85wt%の電極活物質(例えばMg1.03Mn0.97SiO4粒子、7wt%のアセチレンブラック(Super-P)、および8wt%のポリフッ化ビニリデン結合剤(N-メチル-2-ピロリドン(pyrrolidinoe)(NMP)中に溶解させたPVDF、5wt%の固形分)を混合してスラリー状混合物を形成することによって作製された。所期の集電体上にスラリーをコートした後、得られた電極を2時間の間真空中で120℃で乾燥させて、加圧する前に溶媒を除去した。異なった集電体を有する3つのセルを調査した:アノード集電体およびカソード集電体としてGO接合Cu箔およびGO接合Al箔をそれぞれ有する第1のセル;アノード集電体およびカソード集電体としてGO/樹脂でコートされたCu箔およびGOでコートされたAl箔(予備エッチングなし)をそれぞれ有する第2のセル(先行技術のセル);Cu箔アノード集電体およびAl箔カソード集電体を有する第3のセル(先行技術のセル)。
【0155】
その後、カソードとして用いるために電極を円板(直径=12mm)に切り分けた。マグネシウム箔の薄いシートをアノード集電体表面に付着させ、そして次に、1枚の多孔性セパレーター(例えば、Celgard2400膜)をマグネシウム箔の上に積み重ねた。カソード集電体上にコートされた1枚のカソード円板をカソードとして使用し、セパレーター層の上に積み重ねて、CR2032コイン型セルを形成した。使用された電解質は、THF中の1MのMg(AlCl2EtBu)2であった。セルの組立は、アルゴン充填グローブボックス内で行われた。CV測定は、1mV/sの走査速度でCHI-6電気化学ワークステーションを使用して実施された。また、セルの電気化学的性能は、Arbinおよび/またはLAND電気化学ワークステーションを使用して、50mA/g~10A/g(いくつかのセルについては100A/gまで)の電流密度で定電流充電/放電サイクル経過によって評価された。
【0156】
図10は、充電/放電サイクル数の関数として3つのセルそれぞれのセル放電比容量値を示す。アノード側およびカソード側の両方の本発明の集電体を特徴とするMgイオンセルは、最も安定なサイクル挙動を示し、25サイクル後に2.5%の容量損失を受けることは明らかである。GO/樹脂でコートされたCu箔集電体とGOでコートされたAl箔集電体とを備えるセルは、25サイクル後に17%の容量の減少を起こす。Cu箔アノード集電体とAl箔カソード集電体とを備えるセルは、25サイクル後に30%の容量の減少を起こす。セルのサイクル経過後の検査は、GO/樹脂でコートされたCu箔集電体およびGOでコートされたAl箔集電体が膨張しており、カソード層からの若干の離層を示し、そしてAl箔はひどい腐食問題の難点があることを示す。対照的に、本発明のGO接合金属箔集電体は無傷のままである。
【0157】
実施例9:様々な所期のバッテリーまたはスーパーキャパシタのための様々な集電体の化学的および機械的適合性試験
上の実施例8および9において実証されたように、バッテリーまたはスーパーキャパシタの電解質に対して集電体の長時間安定度は主な問題である。様々な集電体の化学安定性を理解するために、いくつかの代表的な電解質中に集電体を暴露する主作業を始めた。長時間(例えば30日間)の後、集電体を電解質溶液から取り出し、光学および走査電子顕微鏡検査(SEM)を使用して観察した。結果の一覧が以下の表3に記載され、それらは、本発明のGO接合金属箔集電体が、バッテリーおよびスーパーキャパシタにおいて一般的に使用される全ての種類の液体電解質と非常に適合していることを一貫して実証する。本発明の材料は、一切の化学的攻撃に耐性がある。これらのGO保護集電体は、Li/Li+に対して0-5.5ボルトの電圧範囲にわたって本質的に電気化学的に不活性であり、ほぼどんなバッテリー/キャパシタ電解質とも共に使用するために適している。
【0158】
各々の集電体は、タブに接続され、そして次に、外部回路線に接続されなければならないことを指摘しておいてもよいだろう。集電体は、タブと機械的に適合していなければならず、すぐにまたは容易に固定されるかまたはそれに接合されなければならない。CVDグラフェンフィルムをタブに機械的にただ固定する時は常に容易に破断または破裂することを我々は発見した。接着剤の補助によっても、CVDフィルムは、タブまたはバッテリーセルのパッケージングに接続する手順の間に容易に破裂される。
【0159】
結論において、絶対に新しい、新規な、予想外の、明らかに区別できるクラスの高導電性材料:金属箔上に接合されたGOの酸化グラフェンゲル由来薄フィルムを首尾よく開発した。この新しいクラスの材料の化学組成、構造(結晶完成、結晶粒径、欠陥群等々)、結晶配向、モルホロジー、製造法、および性質は、可撓性黒鉛箔、ポリマー由来熱分解黒鉛、CVD由来PG(HOPGなど)の他、自立しているかまたは金属箔上にコートされる触媒CVDグラフェン薄フィルムとは根本的に異なっており且つ明らかに区別される。本発明の材料によって示される熱伝導率、電気導電率、耐引掻性、表面硬度、および引張強さは、先行技術の可撓性黒鉛シート、離散グラフェン/GO/RGOプレートリットの紙、または他の黒鉛フィルムがおそらく達成することができるものよりももっと高い。これらのGOゲル由来薄フィルム構造物は、すぐれた電気導電率、熱伝導率、機械的強度、表面耐引掻性、硬度、および剥がれ落ちる傾向がないことの最も良い組合せを有する。