(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】抗体薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20220819BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220819BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220819BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220819BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K45/00
A61P35/00
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K39/395 E
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2019527467
(86)(22)【出願日】2017-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2017079869
(87)【国際公開番号】W WO2018095891
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-06
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フォンデンホフ ガストン フーベルトゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】トレンカー ステファン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-503585(JP,A)
【文献】Eur. J. Radiol., (2011), 80, [3], p.699-705
【文献】Mol. Pharm., (2010), 7, [6], p.1974-1984
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/68
A61K 39/395
C07K 16/00-16/46
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体と、該抗体に結合した少なくとも1つの第二鉄と、該第二鉄に結合した少なくとも1つの薬物分子とを含む、抗体-薬物コンジュゲート
であって、該第二鉄が、該第二鉄と結合する鉄錯体形成基を含む第1のリンカーを介して該抗体に結合されており、該薬物分子が、該第二鉄と結合する鉄錯体形成部分を含むか、または、該第二鉄と結合する鉄錯体形成部分に共有結合されている、該抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項2】
前記抗体-薬物コンジュゲートが血液中に存在する場合、前記薬物分子が該抗体-薬物コンジュゲートから放出されない、請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項3】
前記抗体-薬物コンジュゲートが細胞のエンドソーム区画内に存在する場合、前記薬物分子が該抗体-薬物コンジュゲートから放出される、請求項1または2に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項4】
少なくとも2つの薬物分子が、1つの第二鉄に結合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項5】
前記コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数が少なくとも10である、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項6】
前記薬物分子が抗がん剤である、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項7】
前記抗体が、腫瘍細胞上に発現した抗原に結合することが可能である、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項8】
前記鉄錯体形成部分が、ヒドロキサメート部分、カテコレート部分、およびカルボキシレート部分からなる群より選択される、請求項
1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項9】
以下の構造を有する、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート:
Ab[-L1-Me(-L2-D)
n]
m
式中、
Abは抗体であり、
L1は第1のリンカーであり、
Meは第二鉄であり、
L2は、第2のリンカーであるか、または存在せず、
Dは薬物分子であり、
mは1~10の範囲であり、かつ
nは1~3の範囲である。
【請求項10】
前記第二鉄が還元された場合、前記薬物分子が該第二鉄から放出される、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項11】
pH5未満で前記薬物分子が前記第二鉄から放出される、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項12】
pH8で安定である、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項13】
pH5で安定である、
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項14】
請求項1に記載の抗体-薬物コンジュゲートを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
治療における使用のための、請求項
1に記載の抗体-薬物コンジュゲートまたは請求項
14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
がんの治療における使用のための、請求項
1に記載の抗体-薬物コンジュゲートまたは請求項
14に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
従来のがん化学療法は、患者への全身毒性を伴う場合が多い。標的療法アプローチには、がん細胞の増殖にとって重要である分子標的および経路を特異的に妨害することが求められる。このような標的は、腫瘍細胞の細胞内または細胞表面のいずれかに優先的に発現する。したがって、標的療法は、腫瘍細胞に対する選択的な細胞傷害性と、宿主に対する低毒性とを兼ね備えることで、より大きな治療指数が得られる薬剤をもたらす可能性を提供する。ひとつのアプローチは、がん細胞において誤制御および/または過剰発現されるチロシンキナーゼの阻害剤の開発であった。別の標的療法アプローチは、腫瘍細胞の表面に選択的に結合して、細胞傷害性化合物を送達する小分子(例えば、葉酸-ビンカアルカロイドコンジュゲート)の使用である。
【0002】
がん細胞上の抗原に対するモノクローナル抗体は、腫瘍選択的な代替治療アプローチを提供する。しかしながら、多くのモノクローナル抗体は、それ自体で十分な治療活性が得られるほど強力ではない。抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は抗体を使用して、強力な細胞傷害性化合物を選択的に腫瘍細胞へ送達することで、化学療法剤の治療指数を向上させる。最も顕著な例が、承認薬アドトラスツズマブエムタンシン(Kadcyla(登録商標))とブレンツキシマブベドチン(Adcetris(登録商標))の2つである。
【0003】
しかしながら、現在のADCは、多くの場合、親遊離薬物と比較して、ADCの効力が不十分であるという難点がある。これは、ADCががん細胞によって取り込まれ、エンドソーム/リソソーム内で処理された後に、抗体から完全に切断されないことに起因し得る。現在のADCは、多くの場合、特殊なリンカーを用いて抗体に結合されている必要があるが、このリンカーが細胞内代謝の間に切断されないか、または部分的にしか切断されない可能性がある。
【0004】
ある種のADCには、血液中での安定性が低いという別の欠点がある。不安定なリンカーは薬物の放出が早すぎて、ADCの活性の損失と負の副作用の増加とをもたらす。他方で、安定性の高いリンカーは、ADCがエンドソームに達した後の効率的な放出を妨げる。
【0005】
加えて、がん細胞上の抗原の数は通常、105以下であるため、細胞傷害性化合物の細胞内濃度を十分に高くすることは一般に困難である。にもかかわらず、細胞傷害性化合物の細胞内濃度は、好ましくは105よりも著しく高くなければならない。
【0006】
WO 2013/103707 A1(特許文献1)は、白金カチオンを含む種々のADCを開示している。
【0007】
このように、既存の療法の1つまたは複数の欠点を克服する、改善された抗体薬物コンジュゲートが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
本出願の発明者らは、第二鉄を介して薬物が抗体に結合されたADCが、安定かつ選択的であり、多数の薬物分子を標的細胞に輸送できることを見出した。加えて、エンドソーム内でのみ鉄カチオンが還元されるため、活性薬剤の細胞内放出が改善される。それによって血流内での薬物の望ましくない放出が防止されるか、または少なくとも実質的に減少する。
[本発明1001]
抗体と、該抗体に結合した少なくとも1つの第二鉄と、該第二鉄に結合した少なくとも1つの薬物分子とを含む、抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1002]
前記抗体-薬物コンジュゲートが血液中に存在する場合、前記薬物分子が該抗体-薬物コンジュゲートから放出されない、本発明1001の抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1003]
前記抗体-薬物コンジュゲートが細胞のエンドソーム区画内に存在する場合、前記薬物分子が該抗体-薬物コンジュゲートから放出される、本発明1001または1002の抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1004]
少なくとも2つの薬物分子が、1つの第二鉄に結合されている、本発明1001~1003のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1005]
前記コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数が少なくとも10である、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1006]
前記薬物分子が抗がん剤である、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1007]
前記抗体が、腫瘍細胞上に発現した抗原に結合することが可能である、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1008]
前記薬物分子が、第二鉄と結合する鉄錯体形成部分を含む、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1009]
前記薬物分子が、第二鉄と結合する鉄錯体形成部分に結合されている、本発明1001~1007のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1010]
前記鉄錯体形成部分が、ヒドロキサメート部分、カテコレート部分、およびカルボキシレート部分からなる群より選択される、本発明1008または1009の抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1011]
以下の構造を有する、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート:
Ab[-L1-Me(-L2-D)
n
]
m
式中、
Abは抗体であり、
L1は第1のリンカーであり、
Meは第二鉄であり、
L2は、第2のリンカーであるか、または存在せず、
Dは薬物分子であり、
mは1~10の範囲であり、かつ
nは1~3の範囲である。
[本発明1012]
前記第二鉄が還元された場合、前記薬物分子が該第二鉄から放出される、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1013]
pH5未満で前記薬物分子が前記第二鉄から放出される、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1014]
pH8で安定である、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1015]
pH5で安定である、前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲート。
[本発明1016]
前記本発明のいずれかの抗体-薬物コンジュゲートを含む、薬学的組成物。
[本発明1017]
治療における使用のための、本発明1001~1015のいずれかの抗体-薬物コンジュゲートまたは本発明1016の薬学的組成物。
[本発明1018]
がんの治療における使用のための、本発明1001~1015のいずれかの抗体-薬物コンジュゲートまたは本発明1016の薬学的組成物。
[本発明1019]
血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減するための第二鉄の使用であって、該第二鉄は、抗体-薬物コンジュゲートを形成するために抗体および薬物分子と錯体を形成する、使用。
[本発明1020]
前記薬物分子が、細胞のエンドソーム区画内で前記抗体-薬物コンジュゲートから放出される、本発明1018の使用。
[本発明1021]
前記抗体-薬物コンジュゲートが、本発明1001~1015のいずれかに定義される抗体-薬物コンジュゲートである、本発明1019または1020の使用。
[本発明1022]
血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減するための、本発明1001~1015のいずれかの抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[本発明1023]
抗体-薬物コンジュゲートを形成するために第二鉄を抗体および薬物分子と錯体形成させることを含む、血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減する方法。
[本発明1024]
前記抗体-薬物コンジュゲートが、本発明1001~1015のいずれかに定義される抗体-薬物コンジュゲートである、本発明1023の方法。
【0010】
したがって、本発明は、限定されることなく、以下の[1]~[43]の項目に規定される態様に関する。
[1]抗体と、該抗体に結合した第二鉄と、該第二鉄に結合した少なくとも1つの薬物分子とを含む、抗体-薬物コンジュゲート。
[2]第二鉄が抗体および薬物分子と錯体を形成している、項目[1]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[3]第二鉄が、第1のリンカーを介して抗体に結合されている、項目[1]または[2]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[4]第1のリンカーが、第二鉄と結合することができる鉄錯体形成基を含む、項目[3]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[5]第1のリンカーが抗体に共有結合されている、項目[3]または[4]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[6]少なくとも2つの薬物分子が、第二鉄に結合されている、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[7]前記コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数が少なくとも5である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[8]前記コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数が少なくとも10である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[9]前記コンジュゲートにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数が少なくとも15である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[10]抗体-薬物コンジュゲートがヒト血液中に存在する場合、薬物分子が抗体-薬物コンジュゲートから放出されない、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[11]抗体-薬物コンジュゲートがヒト細胞のエンドソーム区画内に存在する場合、薬物分子が抗体-薬物コンジュゲートから放出される、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[12]薬物分子が、抗がん剤、抗炎症剤、および抗感染剤からなる群より選択される、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[13]薬物分子が抗がん剤である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[14]抗がん剤が、微小管構造形成阻害剤、減数分裂阻害剤、RNAポリメラーゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA挿入剤、DNAアルキル化剤、およびリボソーム阻害剤からなる群より選択される、項目[13]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[15]抗体が、腫瘍細胞上に発現した抗原に結合することが可能である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[16]薬物分子が、第二鉄と結合する鉄錯体形成基を含む、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[17]薬物分子が、第二鉄と結合する鉄錯体形成基に共有結合されている、項目[1]~[15]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[18]前記鉄錯体形成基が、ピリジン誘導体、ヒドロキサメート基、カテコレート基、カルボキシレート基、およびそれらの酸からなる群より選択される、項目[16]または[17]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[19]以下の構造を有する、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート:
Ab[-L1-Me(-L2-D)n]m
式中、
Abは抗体であり、
L1は第1のリンカーであり、
Meは第二鉄であり、
L2は、第2のリンカーであるか、または存在せず、
Dは薬物分子であり、
mは1~10の範囲の数であり、かつ
nは1~3の範囲の数である。
[20]mが2~6の範囲の数である、項目[19]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[21]mが3~5の範囲の数である、項目[19]に記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[22]nが2または3である、項目[19]~[21]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[23]第二鉄が還元された場合、薬物分子が第二鉄から放出される、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[24]pH5未満で薬物分子が第二鉄から放出される、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[25]pH8で安定である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[26]pH7で安定である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[27]pH6で安定である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[28]pH5で安定である、前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[29]前記項目のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲートを含む、薬学的組成物。
[30]薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、項目[29]に記載の薬学的組成物。
[31]治療薬としての使用のための、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[32]障害の治療における使用のための、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[33]がんの治療における使用のための、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲート。
[34]前記治療が、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲートおよび該抗体-薬物コンジュゲートとは異なる抗がん剤を患者に投与することを含む、項目[33]に記載の使用のための抗体-薬物コンジュゲート。
[35]血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減するための第二鉄の使用であって、該第二鉄は、抗体-薬物コンジュゲートを形成するために抗体および薬物分子と錯体を形成する、使用。
[36]薬物分子が、細胞のエンドソーム区画内で抗体-薬物コンジュゲートから放出される、項目[35]に記載の使用。
[37]抗体-薬物コンジュゲートが、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに定義される抗体-薬物コンジュゲートである、項目[35]または[36]に記載の使用。
[38]血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減するための、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに記載の抗体-薬物コンジュゲートの使用。
[39]抗体-薬物コンジュゲートを形成するために第二鉄を抗体および薬物分子と錯体形成させることを含む、血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減する方法。
[40]抗体-薬物コンジュゲートが、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに定義される抗体-薬物コンジュゲートである、項目[39]に記載の方法。
[41]抗体に薬物分子を連結するための、第二鉄の使用。
[42]前記連結によって抗体-薬物コンジュゲートが得られる、項目[41]に記載の使用。
[43]前記抗体-薬物コンジュゲートが、項目[1]~[28]のうちのいずれか1つに定義される抗体-薬物コンジュゲートである、項目[41]または[42]に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ADCの新規概念:pH/鉄レダクターゼに不安定なリンカーである鉄錯体。細胞傷害性化合物が、鉄と錯体を形成する配位子にコンジュゲートされている。さらに錯体は、がん細胞上の天然受容体を有する抗体にコンジュゲートされている。抗体-抗原結合後、エンドサイトーシスによってADC全体が取り込まれ、低pHおよび/または鉄レダクターゼ活性に起因してエンドソーム内部で錯体が分解し、薬物が放出される。活性要素を放出するには、さらに、例えばペプチダーゼの作用を必要とする場合がある。
【
図2】鉄は細胞毒性薬自体と錯体を形成してもよい。この例では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(例えばSAHA(ボリノスタット))が鉄錯体の形成に使用されている。これは、鉄ベースのADCの、痕跡を残さない薬物放出の一例である。ヒドロキサメート官能性により、何ら分子修飾がなくても、薬物自体による鉄錯体形成を可能にする。
【
図3】非常に強力な薬物であるドキソルビシンを使用して、何らかのアミン官能基の修飾後に鉄を錯体形成させることもできる。それ以降の作用機構は
図1に示されている。
【
図4】上段のグラフは、16時間にわたる、37℃、pH5.0での錯体Aの分析LCランを示している。下段のグラフは、16時間にわたる、37℃、pH8.0での錯体Aの分析LCランを示している(実施例1を参照)。
【
図5】錯体AおよびBに使用した配位子、その対応する鉄錯体、ならびに事前形成された錯体Aと遊離配位子Bとの追加試料についての分析HPLCクロマトグラムのオーバーレイ。中間錯体は示されていない(実施例2)。
【
図6】遊離配位子(ST116)、その対応する錯体、および錯体の水素還元により生じる、対応する遊離配位子についての分析HPLCクロマトグラムのオーバーレイ(実施例3)。
【
図7】鉄錯体形成部分とABとのコンジュゲーションにより、生成物AB-1を得て、続いて2つの補助配位子とともに鉄錯体を形成している(AB-2)(実施例4)。
【
図8】上段のグラフ:コンジュゲートされた/錯体形成されたAB-2およびコンジュゲートされていないABの蛍光測定。下段のグラフ:錯体形成されたコンジュゲートと錯体形成されていないコンジュゲートとの蛍光の差(実施例4)。
【
図9】AB-2の蛍光スペクトル(紫)およびその還元誘導体AB-1の蛍光スペクトル(緑色)。還元された錯体は、得られる蛍光が約20%低いことを示す(実施例4)。
【
図10】フルオレセインアミンに結合したN-ヒドロキサメートオルニチン(ST102)の蛍光は、Fe
3+によって消光されるが、Fe
3+からFe
2+に還元されると蛍光が回復する(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
第1の局面では、本発明は、抗体と、該抗体に結合した少なくとも1つの第二鉄と、該第二鉄に結合した少なくとも1つの薬物分子とを含む、抗体-薬物コンジュゲートに関する。
【0013】
抗体
本明細書で使用される場合、用語「抗体」とは、IgG、IgM、IgE、IgA、もしくはIgD(またはその任意のサブクラス)といったクラスに属するタンパク質として定義される免疫グロブリン(Ig)、またはその機能的断片を指す。本発明の文脈において、免疫グロブリンの「機能的断片」は、親免疫グロブリンの抗原結合断片または他の誘導体であり、そのような親免疫グロブリンの抗原結合活性を本質的に保持するものであると定義される。抗原に対する機能的断片の親和性が親免疫グロブリンの親和性より低い場合でも、機能的断片は本発明の意味では抗体である。本発明によれば、「機能的断片」には、F(ab')2断片、Fab断片、scFv、dsFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、およびFc融合タンパク質を含む。F(ab')2またはFabを操作して、CH1ドメインとCLドメインとの間で起こる分子間ジスルフィド相互作用を最小化するか、または完全に排除することができる。本発明の抗体は、二官能性または多官能性構築物の一部であってもよい。本発明の抗体として、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体が挙げられるが、それに限定されるわけではない。
【0014】
好ましくは、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。
【0015】
本発明のADCの抗体は、好ましくはがん細胞の表面に発現する抗原に特異的に結合する。
【0016】
薬物分子
本明細書で使用される場合、用語「薬物分子」または「ペイロード」とは、治療薬または診断薬を指す。好ましい薬物分子として、抗がん剤、抗炎症剤、および抗感染剤(例えば、抗真菌剤、抗細菌剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤)が挙げられる。
【0017】
好ましくは、本発明の薬物分子は抗がん剤である。好適な抗がん剤として、アルキル化剤、代謝拮抗物質、紡錘体毒植物アルカロイド、細胞傷害性/抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、光増感剤、およびキナーゼ阻害剤が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0018】
「抗がん剤」の定義には、(i)抗エストロゲンおよび選択的エストロゲン受容体モジュレーターのような、腫瘍へのホルモン作用を制御または阻害するように作用する抗ホルモン剤;(ii)副腎におけるエストロゲン産生を制御する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤;(iii)抗アンドロゲン剤;(iv)タンパク質キナーゼ阻害剤;(v)脂質キナーゼ阻害剤;(vi)アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関与するシグナル伝達経路での遺伝子の発現を阻害するもの;(vii)VEGF発現阻害剤およびHER2発現阻害剤のようなリボザイム;(viii)遺伝子治療ワクチンなどのワクチン;トポイソメラーゼ1阻害剤;(ix)抗血管新生剤;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、溶媒和物、および誘導体も含まれる。
【0019】
本発明において最も好ましい抗がん剤は、鉄-配位子錯体が分解すると、ほぼ痕跡を残さずに取り出され得るものである。これは、標的に対して高い結合親和性を有する化合物が、鉄と錯体を形成する目的で修飾をまったく必要としないか、またはわずかしか必要としないことを意味する。提示された例の中で最も注目すべきものは、HDAc阻害剤ST-3595のような化合物である(
図2を参照)。ただし、第二鉄と錯体を形成する一方で、鉄還元/配位子プロトン化の際に分解が可能である、別の化合物も非常に適している可能性がある。
【0020】
第二鉄
本明細書で使用される場合、用語「第二鉄」とは、鉄(III)、Fe(III)、またはFe3+とも呼ばれる酸化数+3の鉄カチオンを指す。
【0021】
一般に、他の化合物と錯体を形成することができる薬学的に許容される遷移金属カチオンとしては、例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛のカチオンが挙げられる。しかしながら、本発明のADCの遷移金属カチオンは第二鉄である。
【0022】
コンジュゲート
典型的には、第二鉄は第1のリンカーを介して抗体に間接的に結合される。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「リンカー」とは、化学物質、例えば抗体または薬物分子に、分子または原子を結合させる化学的部分を指す。典型的には、リンカーは、化学結合によって連結された原子の鎖を含む。
【0024】
第1のリンカーは、第二鉄を抗体に結合させる。
【0025】
第1のリンカーの一方の末端は、好ましくは、抗体に共有結合される。第1のリンカーの抗体反応末端は、典型的には、抗体上のシステインのチオール基またはリジンのアミン基を介して抗体へのコンジュゲーションが可能な部位であり、したがって、典型的には、(マレイミドにおけるような)二重結合などのチオール反応基、またはクロロ、ブロモ、もしくはヨードなどの脱離基、またはR-スルファニル基、またはカルボキシル基などのアミン反応基である。用語「リンカー」がコンジュゲート形態中のリンカーを示す際に使用される場合、リンカーと抗体との間に結合が形成されているため、一方の反応末端は存在しないか(チオール反応基の脱離基など)、または不完全になる(例えば、カルボン酸のカルボニルのみが存在する)と考えられる。様々なリンカーの種類が、McCombs et al. (2015) The AAPS Journal, Vol. 17, No. 2, pages 339-351、およびLu et al. (2016) Int. J. Mol. Sci. 17, 561 (doi:10.3390/ijms17040561)に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0026】
リンカーには、多様な化学基が含まれ得るが、それには、置換されていてもよい、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレンなどの2価のラジカル;-(CR2)nO(CR2)n-などの部分、すなわち、アルキルオキシ(例えば、ポリエチレンオキシ、PEG、ポリメチレンオキシ)およびアルキルアミノ(例えば、ポリエチレンアミノ)の繰り返し単位;ならびにスクシネート、スクシンアミド、ジグリコレート、マロネート、およびカプロアミドを含む二酸エステルおよびアミドが非限定的に含まれ、式中、各Rは独立して、H、C1~C18アルキル、C6~C20アリール、C3~C14複素環、保護基、またはプロドラッグ部分であり、nは1~10の整数である。
【0027】
特定の態様では、リンカーは、1つまたは複数のアミノ酸単位を含むペプチドであってよい。アミノ酸リンカーの例としては、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、またはペンタペプチドが挙げられる。アミノ酸リンカーの構成要素は、特定の酵素によって選択的に酵素切断されるように設計および最適化されていても、いなくてもよい。
【0028】
第1のリンカーの第2の末端は、好ましくは、ADCの第二鉄と結合することができる鉄錯体形成基を含むか、またはそれからなる。鉄錯体形成基は、好ましくはキレート基である。より好ましくは、鉄錯体形成基はシデロフォアのキレート基である。好ましい態様では、鉄錯体形成基は、以下の式(I)~(III)(式中、Rは第1の末端を含むリンカーの残部である)にそれぞれ示すような、カテコレート基、カルボキシレート基、またはヒドロキサメート基である。
【0029】
本明細書で使用される場合、カテコレート基、カルボキシレート基、ヒドロキサメート基という用語は、それぞれのその酸形態および脱プロトン化形態を含む。
【0030】
本発明のADCの好ましい第1のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0031】
本発明のADCの特定の第1のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0032】
本発明のADCの別の好ましい第1のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0033】
本発明のADCの別の特定の第1のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0034】
本発明のADCの好ましい第1のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0035】
本発明のADCの特定の第1のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0036】
本発明のADCの別の好ましい第1のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0037】
本発明のADCの別の特定の第1のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0038】
本発明のADCの好ましい第1のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0039】
本発明のADCの特定の第1のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0040】
本発明のADCの別の好ましい第1のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0041】
本発明のADCの別の特定の第1のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は抗体との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0042】
本発明の他の好ましい態様では、鉄錯体形成基は、本明細書で上に定義する第二鉄と錯体を形成することができるピリジン誘導体である。好適なピリジン誘導体は、例えば、"The Chemistry of Heterocyclic Compounds, Pyridine Metal Complexes", ed. Desmond J. Brown, John Wiley & Sons, 2009 (ISBN-13: 9780470239728)に記載されており、その開示内容全体は参照により本明細書に組み入れられる。式(I)、(II)、または(III)に関連して上述した態様は、必要な変更を加えた上で、この参考文献に記載される他のキレート剤に適用される。
【0043】
さらなる好適な鉄錯体形成基が、"Chelating Agents and Metal Chelates", ed. F Dwyer, 2012 (ISBN-13: 9780323146418)に記載されており、その開示内容全体は参照により本明細書に組み入れられる。式(I)、(II)、または(III)に関連して上述した態様は、必要な変更を加えた上で、この参考文献に記載される他のキレート剤に適用される。
【0044】
本発明のADCにおける1抗体あたりの第1のリンカーの平均数(すなわち、モルでの「第1のリンカー対抗体比」)は通常、少なくとも1、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも8、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは10超である。
【0045】
本発明のADCにおけるモルでの「第1のリンカー対抗体比」は通常、1~50、好ましくは2~40、より好ましくは5~35、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~20であり、例えば11~20、12~20、13~20、14~20、または15~20である。他の態様では、モルでの「第1のリンカー対抗体比」は、10~19、または11~18、または12~17、または13~16、例えば13、14、15、または16である。
【0046】
本発明のADCにおけるモルでの「第1のリンカー対抗体比」は、好ましくは10超である。
【0047】
本発明のADCは、1抗体分子あたり1つまたは複数の第二鉄を含み得る。第1のリンカーが第二鉄1つのみと錯体を形成できる場合には、1抗体分子あたりの第二鉄の数(すなわち、モルでの「第二鉄対抗体比」)は、好ましくは抗体にコンジュゲートされた第1のリンカーの数に等しい。化学的設計によっては、第1のリンカーは、複数の第二鉄と、例えば2つまたは3つのイオンと錯体を形成できる場合がある(以下の式を参照)。
【0048】
本発明のADCにおける1抗体あたりの薬物分子の平均数(すなわち、モルでの「薬物対抗体比」)は通常、抗体にコンジュゲートされる第1のリンカーの数の2倍である。したがって、通常は2~30、または4~20である。上記式の例では、1つの第1のリンカーによって、3つの第二鉄イオンと、2×3=6の付随する薬物分子との錯体形成がもたらされる。本発明のADCにおいて、薬物分子は、直接的または間接的に第二鉄に結合される。結合は、好ましくは、第1のリンカーについて上で定義したような鉄錯体形成基を介して行われる。
【0049】
薬物分子が第二鉄に直接結合される場合、薬物分子自体が第二鉄に結合可能である。本態様によれば、薬物分子は、好ましくは鉄錯体形成基を含む。鉄錯体形成基は、第1のリンカーについて上で定義したものと同じであっても同じでなくてもよい。第二鉄に結合可能である薬物分子の例としては、以下のHDAC阻害剤が挙げられる:
【0050】
式から分かるように、薬物分子は、第二鉄に結合可能であるヒドロキサメート基を含む。これは
図2にも示されている。
図3の左側には、第二鉄への結合を可能にするように薬物分子(ドキソルビシン)を修飾した態様も示されている。放出された修飾薬物分子は活性であるため、これもなお第二鉄への薬物分子の「直接結合」とみなされる。
【0051】
薬物分子が第二鉄に間接的に結合される場合、薬物分子は、第二鉄との結合が可能である化学基を含む第2のリンカーに結合される。第二鉄との結合が可能である化学基は通常、第二鉄との結合が可能である金属錯体形成基である。第1のリンカーに関連して上述した好ましい鉄錯体形成基は、第2のリンカーの好ましい鉄錯体形成基でもある。すなわち、第2のリンカーの一方の末端は、好ましくは、ヒドロキサメート基、カテコレート基、またはカルボキシレート基を含むか、またはそれからなる。第2のリンカーの他方の末端は、好ましくは、薬物分子に共有結合される。この態様は、
図1に示されており、薬物分子は「ペイロード」と記載されている。
図3の右側には、第二鉄への結合を可能にするように鉄錯体形成基を含むリンカーにドキソルビシンが結合された態様も示されている。
【0052】
本発明のADCの好ましい第2のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0053】
本発明のADCの特定の第2のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0054】
本発明のADCの別の好ましい第2のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0055】
本発明のADCの別の特定の第2のリンカーは、式(I)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0056】
本発明のADCの好ましい第2のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0057】
本発明のADCの特定の第2のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0058】
本発明のADCの別の好ましい第2のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0059】
本発明のADCの別の特定の第2のリンカーは、式(II)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0060】
本発明のADCの好ましい第2のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、ここで点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0061】
本発明のADCの特定の第2のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0062】
本発明のADCの別の好ましい第2のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NHR2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、R2はホルミル基、アセチル基、ペプチジル基、またはC1~C20炭化水素基であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0063】
本発明のADCの別の特定の第2のリンカーは、式(III)の化合物であり、式中、Rは、-C=O-NH-(CH2)p-CH(NH2)-(C=O)・・・・であり、pは0~6の整数であり、点線は薬物分子との結合部位を示す。好ましくは、pは2~5の整数であり、より好ましくは、pは3または4であり、最も好ましくは、pは3である。
【0064】
一態様では、本発明のADCの第2のリンカーは、切断不可能なリンカーである。切断不可能なリンカーの例としては、マレイミド-アルカンリンカー(例えば、マレイミド-カプロイルリンカー)およびマレイミド-シクロヘキサンリンカーである。
【0065】
別の態様では、本発明のADCの第2のリンカーは、切断可能なリンカーである。切断可能なリンカーには、化学的に不安定なリンカーおよび酵素切断可能なリンカーが含まれる。化学的に不安定なリンカーは、酸で切断可能なリンカーであっても、還元可能なリンカーであってもよい。酸で切断可能なリンカーは、ヒドラゾン基を含み得る。還元可能なリンカーは、ジスルフィド基を含み得る。酵素で切断可能なリンカーは通常、1つまたは複数のリソソーム酵素によって切断または分解することができる化学基を含む。好適な基として、バリン-シトルリンジペプチド基、フェニルアラニン-リジンジペプチド基、および(β-グルクロニダーゼによって切断できる)β-グルクロニド基が挙げられる。
【0066】
本発明の特定の態様では、第1のリンカーが切断不可能なリンカーであり、第2のリンカーが切断可能なリンカーである。本発明の別の特定の態様では、第1のリンカーが切断不可能なリンカーであり、第2のリンカーが切断不可能なリンカーである。本発明の別の特定の態様では、第1のリンカーが切断可能なリンカーであり、第2のリンカーが切断可能なリンカーである。本発明の別の特定の態様では、第1のリンカーが切断可能なリンカーであり、第2のリンカーが切断不可能なリンカーである。
【0067】
薬物分子は、標的細胞、好ましくはがん細胞がADCを内在化する際にADCから放出される。理論に束縛されるものではないが、放出は、低pHによって、および第二鉄の還元によって、例えば鉄レダクターゼ酵素によって増強されると考えられる。エンドソーム内部のより低いpH、および鉄レダクターゼの存在の増加に起因して、Fe3+ベースのADC錯体がエンドソーム内部で分解され、より小さな配位子の細胞内空間への放出または拡散が増強されるはずである。
【0068】
一態様では、ADCが、細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはヒト細胞のエンドソーム区画内に存在する場合に、薬物分子が本発明のADCから放出される。
【0069】
実施例3に記載のアッセイで測定されるように、薬物分子の、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも95%が、第二鉄から第一鉄への還元時にADCから放出される。
【0070】
別の態様では、実施例1に記載のアッセイで測定されるように、本発明のADCはpH8で安定である。別の態様では、実施例1に記載のアッセイで測定されるように、本発明のADCはpH7で安定である。別の態様では、実施例1に記載のアッセイで測定されるように、本発明のADCはpH6で安定である。別の態様では、実施例1に記載のアッセイで測定されるように、本発明のADCはpH5で安定である。このアッセイの意味において「安定」とは、実施例1の条件下(pH5およびpH8)で錯体をインキュベーションしても、
図4に記載のグラフで第2ピークとして見られる遊離配位子の放出に至らないことを意味する。
【0071】
好ましくは、抗体が血液中、好ましくはヒト血液中に存在する場合、薬物分子は本発明のADCから放出されない。他の態様では、抗体が血漿中、好ましくは脊椎動物由来の血漿中、より好ましくはヒト血漿中に存在する場合、薬物分子は本発明のADCから放出されない。
【0072】
さらに別の態様では、実施例2に記載のアッセイで測定されるように、本発明のADCでは実質的に配位子交換は見られない。
【0073】
本発明の別の局面は、以下の構造
Ab[-L1-Me(-L2-D)n]m
を有するADCであり、式中、
Abは抗体であり、
L1は第1のリンカーであり、
Meは第二鉄であり、
L2は、第2のリンカーであるか、または存在せず、
Dは薬物分子であり、
mは1~10であり、かつ
nは1~3である。
【0074】
上述の抗体、第1および第2のリンカー、第二鉄、ならびに薬物分子の好ましい態様は、必要な変更を加えた上で、本発明のこの局面にも適用される。パラメーターmは、好ましくは2~6、または3~5、例えば、3、4、または5である。パラメーターnは、好ましくは2または3、最も好ましくは2である。特定の態様では、mおよび/またはnは整数である。
【0075】
好ましい態様では、nは2であり、mは2である。
【0076】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは3である。
【0077】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは4である。
【0078】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは5である。
【0079】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは6である。
【0080】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは7である。
【0081】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは8である。
【0082】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは9である。
【0083】
別の好ましい態様では、nは2であり、mは10である。
【0084】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは2である。
【0085】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは4である。
【0086】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは5である。
【0087】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは6である。
【0088】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは7である。
【0089】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは8である。
【0090】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは9である。
【0091】
別の好ましい態様では、nは3であり、mは10である。
【0092】
ADCの調製
本発明の別の局面は、本発明のADCを調製するための方法である。リンカーは、それ自体、公知の工程を含む方法によって合成することができる。
【0093】
本発明のADCは、以下に記載されるように調製することができる。
【0094】
本発明では、実施例5に記載されるように、鉄錯体形成部分を、対象となる抗原認識構造(例えば、抗体)に共有結合させる。最も簡単な方法は、実施例5で用いたようにスクシンイミド活性化コンジュゲーションによる。しかしながら、多数のコンジュゲーション戦略が文献に記載されている(例えば、マレインイミド法およびクリックケミストリー法)。第1のリンカーのコンジュゲーションに続いて、結合された生成物を精製し、続いて、(a)2当量のペイロード(これは鉄錯体形成化合物であるか、または鉄錯体形成部分に連結されている任意の化合物である)および(b)1当量の鉄塩(実施例5の場合、これはFeCl3である)とそれぞれインキュベートする。さらに得られた生成物を、サイズ排除カラムを用いて再度精製する。
【0095】
治療
一態様では、本発明は、患者、好ましくはヒト患者に本発明のADCを投与することを含む、疾患を治療または予防する方法を提供する。ある特定の態様では、治療または予防される疾患はがんである。
【0096】
用語「がん」および「がん性」は、典型的には細胞増殖の非制御を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指すか、またはそれを示す。「腫瘍」は、1種または複数種のがん細胞を含む。がんの例として、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ性悪性腫瘍が挙げられるが、それに限定されるわけではない。このようながんのより具体的な例としては、扁平上皮細胞がん(例えば、上皮性扁平上皮細胞がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がんおよび肺の扁平上皮がんを含む肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がんを含む胃(gastric)がんまたは胃(stomach)がん、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんまたは子宮がん、唾液腺がん、腎臓がんまたは腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝がん、肛門がん、陰茎がん、ならびに頭頸部がんが挙げられる。
【0097】
疾患を予防または治療するための、ADCの適切な投与量は、上で定義したような治療される疾患の種類、疾患の重症度および経過、分子が予防または治療のいずれを目的として投与されるか、過去の療法、患者の病歴および抗体に対する応答、ならびに主治医の裁量に応じて異なる。分子は、好適には一度にまたは一連の治療にわたって患者に投与される。疾患の種類および重症度に応じて、例えば、1回の投与もしくは複数回の分割投与によるか、または連続注入によるかを問わず、約1μg/kg~15mg/kg(例えば、0.1~20mg/kg)の分子が、患者に投与される初回候補投与量である。通常の1日投与量は、上述した要因に応じて、約1μg/kg~100mg/kgまたはそれ以上の範囲である。患者に投与されるADCの例示的な投与量は、約0.1~約10mg/kg(患者体重)の範囲である。
【0098】
数日以上にわたる反復投与の場合、状況に応じて、疾患症状の望ましい抑制が起こるまで治療が継続される。例示的な投与レジメンは、約4mg/kgの初回負荷用量に続いて、週1回の維持用量である約2mg/kgのADCを投与することを含む。他の投与レジメンが有用な場合もある。この療法の進捗は、従来の技術およびアッセイによって容易にモニターされる。
【0099】
組み合わせ療法
薬学的組み合わせ製剤において、または組み合わせ療法としての投与レジメンにおいて、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を、抗がん特性を有する第2の化合物と組み合わせてもよい。薬学的組み合わせ製剤または投与レジメンの第2の化合物は、組み合わされるADCに対して、互いに悪影響を及ぼさないような補完的活性を有することが好ましい。
【0100】
第2の化合物は、化学療法剤、細胞傷害剤、サイトカイン、成長阻害剤、抗ホルモン剤、アロマターゼ阻害剤、プロテインキナーゼ阻害剤、脂質キナーゼ阻害剤、抗アンドロゲン、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、遺伝子治療ワクチン、抗血管新生剤、および/または心臓保護剤であり得る。そのような分子は、好適には、意図する目的にとって有効な量で組み合わされて存在する。ADCを含有する薬学的組成物はまた、治療有効量の化学療法剤、例えばチューブリン形成阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、またはDNA結合剤などを有してもよい。
【0101】
他の治療レジメンを、本発明に従って特定される抗がん剤の投与と組み合わせてもよい。組み合わせ療法は、同時レジメンまたは逐次レジメンとして投与することができる。逐次投与する場合、2回以上の投与で組み合わせを投与することができる。組み合わせ投与には、別々の製剤または単一の薬学的製剤を使用する同時投与、ならびに順序を問わない連続投与が含まれ、両方の(またはすべての)活性薬剤が同時に生物学的活性を発揮する期間がある。
【0102】
組み合わせ療法は、「相乗効果」を提供できる、および「相乗的である」と証明できるものである。すなわち、活性成分が一緒に使用されたときに達成される効果が、化合物を別々に使用することにより生じる効果の合計よりも大きい。相乗効果を達成できるのは、活性成分が、(1)複合単位剤形に合剤化して投与されるか、または同時に送達される;(2)別々の製剤として交互にまたは並行して送達される;あるいは(3)何らかの他のレジメンによる場合である。交互療法で送達される場合には、例えば、個別のシリンジでの別々の注射によって、化合物が逐次的に投与または送達される場合に相乗効果を達成することができる。一般に、交互療法の期間には、有効投与量の各活性成分が逐次的に、すなわち順次投与されるが、組み合わせ療法では、有効投与量の2つ以上の活性成分が一緒に投与される。
【0103】
本明細書に記載のADC化合物のインビボ代謝産物も、そのような産物が、先行技術よりも新規で非自明である限り、本発明の範囲内に入る。そのような産物は、例えば、投与される化合物の、酸化、還元、加水分解、アミド化、エステル化、酵素切断などから生じ得る。したがって、本発明は、本発明の化合物を、その代謝産物を得るのに十分な期間、哺乳動物と接触させることを含むプロセスによって産生される、新規で非自明な化合物を含む。
【0104】
代謝産物には、薬物部分を抗体と連結させている任意の結合の切断で起きる、ADCのインビボ切断の産物が含まれる。したがって、代謝切断の結果、裸の抗体、または抗体断片が生じ得る。抗体の代謝産物は、リンカーの一部または全体と結合されていてもよい。また、代謝切断の結果、薬物部分またはその一部が産生されてもよい。薬物部分の代謝産物は、リンカーの一部または全体と結合されていてもよい。
【0105】
抗体-薬物コンジュゲート薬学的製剤の投与
治療用ADCは、治療される病態に適した任意の経路によって投与することができる。ADCは通常、非経口的に、すなわち注入で、皮下に、筋肉内に、静脈内に、皮内に、髄腔内に、ボーラスで、腫瘍内注射で、または硬膜外に投与することになる(Shire et al (2004) J. Pharm. Sciences 93(6):1390-1402)。治療用抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の薬学的製剤は通常、薬学的に許容される非経口ビヒクルとともに、注射可能な単位剤形で非経口投与するように調製される。望ましい純度を有する抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、必要に応じて、薬学的に許容される希釈剤、担体、賦形剤、または安定剤と混合して、凍結乾燥製剤または水溶液の形態にされる(Remington's Pharmaceutical Sciences (1980) 16th edition, Osol, A. Ed.)。
【0106】
許容される非経口ビヒクル、希釈剤、担体、賦形剤、および安定剤は、用いられる投与量および濃度でレシピエントにとって非毒性であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストランを含む単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。例えば、凍結乾燥された抗ErbB2抗体製剤が、WO 97/0480に記載されている。
【0107】
治療用抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の薬学的製剤は、ADCの製造プロセスにおける、過剰な試薬、不純物、および副生成物の不完全な精製および分離;または、バルクADCもしくは製剤化されたADC組成物の保存時に加水分解または分解される時間/温度の結果として、一定量の、未反応の薬物部分(D)、抗体-リンカー中間体(Ab-L)、および/または薬物-リンカー中間体(D-L)を含有していてもよい。例えば、ADCの製剤は、検出可能な量の遊離薬物Dを含有していてもよい。その代わりに、またはそれに加えて、検出可能な量の薬物-リンカー中間体D-Lを含有していてもよい。その代わりに、またはそれに加えて、検出可能な量の抗体Abを含有していてもよい。例示的な製剤は、最大10%のモル当量の遊離薬物を含有していてもよい。
【0108】
活性薬学的成分はまた、例えば、コアセルベーション技術または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に、またはマクロエマルションに封入されていてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
【0109】
持続放出調製物を調製することができる。持続放出調製物の好適な例として、ADCを含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられる。マトリックスは成形物品、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続放出性マトリックスの例として、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)などの分解性乳酸-グリコール酸共重合体(乳酸-グリコール酸共重合体および酢酸ロイプロリドからなる注射用マイクロスフィア)、およびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0110】
インビボ投与に使用される製剤は、滅菌されている必要があり、これは滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に行われる。
【0111】
この製剤には、前述の投与経路に適したものを含む。製剤は単位剤形で提供すると好都合であり、薬学の分野で周知される方法のいずれによっても調製することができる。一般に技術および製剤化については、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co., Easton, Pa.)に記載されている。そのような方法は、1つまたは複数の補助成分を構成する担体と活性成分とを混合状態にする工程を含む。一般に、製剤は、液体担体もしくは微粉化固体担体、またはその両方と活性成分とを均一かつ緊密な混合状態にした後、必要に応じて、生成物を成形することにより調製する。
【0112】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適する賦形剤と混合された活性物質(ADC)を含有する。そのような賦形剤として、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、クロスカルメロース、ポビドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴムなどの懸濁剤、ならびに天然のホスファチド(例えば、レシチン)などの分散剤または湿潤剤、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。水性懸濁剤はまた、エチルまたはn-プロピル p-ヒドロキシベンゾエートなどの1種または複数種の保存剤、1種または複数種の着色剤、1種または複数種の香味料、およびスクロースまたはサッカリンなどの1種または複数種の甘味剤を含有してもよい。
【0113】
ADCの薬学的組成物は、滅菌注射用調製物の形態、例えば、水性または油性の滅菌注射用懸濁液であってよい。この懸濁液は、上で述べてきた好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して、公知の技術に従って製剤化することができる。滅菌注射用調製物はまた、1,3-ブタンジオール溶液などの非毒性の非経口に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射液または懸濁液であっても、または凍結乾燥粉末として調製されてもよい。使用可能な許容されるビヒクルおよび溶媒は、なかでも、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、従来から滅菌不揮発性油が溶媒または懸濁媒として使用される場合がある。この目的には、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、いずれかの無刺激性の不揮発性油を使用してもよい。加えて、オレイン酸などの脂肪酸も同様に注射液の調製に使用することができる。
【0114】
単回剤形を得るために担体材料と合剤化できる活性成分の量は、治療される宿主および特定の投与様式に応じて異なる。例えば、静脈内注射を意図する水溶液は、約30mL/時間の速度で適切な容量の注入が起こり得るように、溶液1ミリリットルあたり約3~500μgの活性成分を含有し得る。皮下(ボーラス)投与は、総容量の約1.5ml以下で、1mlあたり約100mgのADCという濃度で行うことができる。ADCの頻繁かつ慢性的な投与を必要とする場合、プレフィルドシリンジまたは自動注射装置技術などによって皮下経路を用いてもよい。
【0115】
一般的な提案として、用量あたりの投与されるADCの初回薬学的有効量は、1日あたり約0.01~100mg/kg(患者体重)の範囲内、すなわち約0.1~20mg/kg(患者体重)であり、使用される化合物の通常の初回範囲は0.3~15mg/kg/日であると考えられる。例えば、ヒト患者に、患者体重1kgあたり約1.5mgのADCを初回投与することができる。用量は、最大耐量(MTD)まで増加させることができる。投与スケジュールは、約3週間ごとであり得るが、診断された病態または反応に応じて、それよりも多いまたは少ない頻度のスケジュールであってもよい。さらに、約4回以上などの複数サイクルで安全に投与できるように、治療過程で用量をMTD以下に調整することができる。
【0116】
非経口投与に適した製剤として、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および対象レシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有し得る水性および非水性滅菌注射液、ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。
【0117】
タンパク質治療薬の経口投与は一般に、腸内の吸収、加水分解、もしくは変性が制限されることに起因してバイオアベイラビリティが不足するため好まれないが、経口投与に適したADCの製剤を、所定量のADCをそれぞれ含有するカプセル、カシェ剤、または錠剤などの個別の単位として調製することができる。
【0118】
製剤は、単位用量または複数回用量の容器、例えば密封アンプルおよびバイアル中にパッケージされていてもよく、使用直前に注射用の滅菌液体担体、例えば水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存されていてもよい。即時注射液および懸濁液は上述のような種類の滅菌散剤、顆粒剤、および錠剤から調製される。例示的な単位投与製剤は、活性成分の、1日用量または1日単位の分割用量、またはそれ以下の適切な量を含有する。
【0119】
さらに本発明は、上記で定義したような少なくとも1つの活性成分を、それに応じた獣医学用担体と一緒に含む獣医学的組成物を提供する。獣医学的担体は、組成物を投与する目的に有用な材料であり、また有用でなくても不活性または獣医学分野で許容され、活性成分と適合性である、固体状、液体状、または気体状の材料であってもよい。これらの獣医学的組成物は、非経口、経口、または任意の他の所望する経路によって投与することができる。
【0120】
本発明のさらなる局面は、血液または血漿中、好ましくはヒト血液または血漿中での、薬物分子のADCからの放出を防止または低減するための、本明細書に記載のADCの使用である。本発明の別の局面は、血液または血漿中、好ましくはヒト血液または血漿中での、抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減するための第二鉄の使用であって、該第二鉄は、抗体-薬物コンジュゲートを形成するために抗体および薬物分子と錯体を形成する。本発明の別の局面は、抗体-薬物コンジュゲートを形成するために第二鉄を抗体および薬物分子と錯体形成させることを含む、血液中での抗体-薬物コンジュゲートからの薬物分子の放出を防止または低減する方法である。本発明の使用および方法の好ましい態様は、本明細書で上に記載する本発明のADCのものに対応する。
【実施例】
【0121】
実施例1
本発明者らが上記のリンカーに使用することを意図した錯体の安定性を評価するために、いくつかの実験を実施した。この目的のために、2つのモデル配位子(GVFe35およびST088)を合成した(スキーム1を参照)。
スキーム1.2種類のヒドロキサメート、それぞれGVFe35およびST088の合成。
【0122】
これら2つの配位子を用いて、FeCl
3溶液を添加することにより以下の2つのモデル錯体を調製した。
【0123】
各式は、GVFe35(遊離炭酸、錯体A)およびST088(sec-ブチルアミン結合した錯体B)を用いて形成された鉄錯体の構造を示す。
【0124】
次に、異なるpHでの経時的な錯体の安定性を評価するが、錯体Aを37℃、pH5.0またはpH8.0でインキュベートした。錯体の最終的な分解を、規則的な時間間隔で、16時間後まで分析HPLCによりモニターした。このHPLCクロマトグラムを
図4に示す。図によれば、いずれの場合にも、16時間後にわずかな分解が観察され得るのみであり、これらの条件下で錯体が安定であることを示している。
【0125】
実施例2
配位子交換(すなわち、配位子の解離と新たな錯体形成)が起こるかどうかを調べるために、AとB両方の錯体を混合して、37℃、pH7.0で、16時間インキュベートすることにより、さらなる実験を実施した。解離に続いて錯体が形成される場合には、中間錯体が予測され、それによって、錯体Bの1つまたは2つの配位子が、錯体Aに由来する1つの配位子とともに鉄と錯体を形成するか、またはその逆も同様である。
【0126】
両方の錯体および混合物を分析HPLCによって調べた(
図5を参照)。錯体Bに使用したST088には、より非極性のsec-ブチルアミド官能基があるため、この錯体は、錯体Aよりも長い保持時間を有する。したがって、配位子が交換される場合には、2つの錯体のピーク間に中間体のピーク保持時間が出現し始めると予測された。中間体のピークが観察されなかったため、これは、調べた錯体には配位子交換が起こらず、高い安定性を示すことを示唆している。
【0127】
実施例3
さらにこの結果を確証し、鉄の酸化状態の影響を調べるために、さらなる実験を実施した。遊離配位子をFeCl
3と混合して錯体Aを得て、続いて水素添加により還元した:
【0128】
配位子、錯体A、および還元物質を分析LCで分析した(
図6を参照)。錯体Aは遊離配位子よりも長い保持時間を有することが示されている。ただし、還元後に、天然配位子と同じ保持時間をもつピークのみを示している。この図から、還元された錯体は不安定化され、錯体の分解に至り、その結果、錯体形成されていない第一鉄および遊離配位子が生じると結論づけられるはずである。補足実験は、遊離配位子および空気の存在下でのFe(II)の酸化に対応する結果を示した。
【0129】
実施例4
鉄錯体とコンジュゲートされる抗体についてさらに試験するために、蛍光(すなわち、ローダミン101)標識したリジンベースのヒドロキサメートの誘導体を合成した(スキーム2を参照)。
スキーム2.ローダミンと結合され、OSuで活性化したヒドロキサメートの合成。
【0130】
次に、この配位子をトラスツズマブとコンジュゲートして、ローダミン101とも結合されている非OSu活性化配位子とさらに錯体形成させた(
図7を参照)。
【0131】
このABコンジュゲート錯体をVivaspin管(カットオフ値30kDa未満)にて遠心分離し、このコンジュゲート錯体をクエン酸緩衝液(5mL)で2回洗浄することにより精製した。これに続いて、生成物を0.5mLに希釈し、蛍光測定した。
図8から、AB-2は、コンジュゲートされていないABよりも蛍光が高く、AB-1はAB-2よりも蛍光が低かったことがわかる。両化合物の蛍光に著しい差が観察されたことは、鉄および2つの補助配位子との錯体形成に成功したことを示す(
図8、下段パネルを参照)。
【0132】
第二鉄形態の錯体から第一鉄錯体への還元に起因する不安定化によって錯体が分解され得るかどうかを調べるために、AB-2を還元してAB-1を得た。この目的のために、AB-2を、水素雰囲気下で室温にて1時間還元し、Vivaspin遠心分離により精製し、5mLのクエン酸緩衝液で2回洗浄した。これに続いて、蛍光測定(
図9を参照)を行い、その結果から、(水素添加以外)同じ手順を行った対照ではまたも同様の結果(すなわち還元された生成物よりも蛍光が約20%高い)を観察することができた。これは、AB-2が還元されてAB-1が得られたことを示している。
【0133】
実施例5
第二鉄を介して抗体に結合されているペイロードを含む抗体コンジュゲートが、(a)適切な抗原を発現する細胞へと実際にエンドサイトーシスされるか、および(b)生理学的媒体内の細胞膜近傍で十分な安定性を保持するかどうかを評価するために、スキーム3に示すようなトラスツズマブのコンジュゲートを調製した。第1のリンカーとして、BODIPYにもコンジュゲートされたリジンベースのヒドロキサメートを使用した。この構造のヒドロキサメート部分は、第二鉄を2つの補助配位子と錯体形成させることが可能である。補助配位子として、同じくリジンベースのヒドロキサメートをこの場合はローダミン101にコンジュゲートして使用した。したがって、第二鉄と錯体を形成することができる共有結合されたBODIPYタグに加え、第二鉄錯体を介して抗体と非共有結合的にコンジュゲートされる2つの含ローダミン配位子を含んだ、トラスツズマブコンジュゲートを作製した。
【0134】
SK-BR3細胞を、ポリオルニチンコーティングしたカバースリップ上で一晩増殖させた。その後、この細胞を、最大30分または6時間GVFe66bとインキュベートし、PBS緩衝液で2回洗浄して固定した(PFA)。
【0135】
30分後および6時間後の蛍光顕微鏡では、BODIPYとローダミン両方のシグナルが、1時間後には細胞表面に、6時間後にはエンドソーム区画内に現れる。この観察から、内在化に至るまでにコンジュゲートが一定の安定性を保持すると結論づけられるはずである。
スキーム3.第二鉄リンカー概念を使用した、トラスツズマブコンジュゲートADCの調製。化合物GVFe49は、標準的な文献に基づく合成によって調製した。その後、GVFe49を市販のBODIPY-NHSにコンジュゲートし、化合物GVFe60を得て、次にこれを脱保護して、GVFe61を得て、OSuで活性化し、GVFe62を得た。次に、この化合物を使用して、抗体にコンジュゲートした。続いて、このコンジュゲートをFeCl
3および化合物GVFe54(これもまた、化合物GVFe49に関する記載と同じ方法により合成した)とインキュベートした。