(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】付加製造プロセスにおいて使用するための粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20220819BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220819BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20220819BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220819BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220819BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 R
B22F1/00 S
B22F3/105
B33Y10/00
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2019534924
(86)(22)【出願日】2018-01-03
(86)【国際出願番号】 EP2018050130
(87)【国際公開番号】W WO2018145824
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-07-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-06
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】プロッツマン ティム
(72)【発明者】
【氏名】クンツ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エルゼン アレクサンダー
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-270130(JP,A)
【文献】特開2016-172904(JP,A)
【文献】特開平4-154902(JP,A)
【文献】特開2012-214826(JP,A)
【文献】特開2004-076040(JP,A)
【文献】Joon-Phil Choi et al.,Powder Technology,2017年 1月 7日,Vol.310,pp.60-66
【文献】Y.Y.Sun et al.,Journal of Metals,2015年 2月 4日,Vol.67, No.3,pp.564-572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/05,33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造プロセス用粉末であって、
焼結および/または溶融することができる材料から、付加製造プロセスに適した粉末の選択基準としての下記a)~c)を満足することによって選択された粉末。
a)10μm以上のd
2値、
b)200μm以下のd
90値、および
c)0.8kJ/(kg×μm)以下のE
Law/d
50比
(c)式中、E
Lawはアバランシェエネルギーであり、d
50は平均粒径である。)
【請求項2】
前記粉末が0.65kJ/(kg×μm)以下のE
Law/d
50値を有することを特徴とする請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
材料が金属であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粉末。
【請求項4】
前記金属が貴金属および卑金属からなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の粉末。
【請求項5】
前記金属が合金であることを特徴とす
る請求項
3に記載の粉末。
【請求項6】
前記合金が、チタン-アルミニウム合金、銅-スズ合金、アルミニウム合金、合金鋼およびニッケル基合金からなる群から選択されることを特徴とす
る請求項
5に記載の粉末。
【請求項7】
前記
合金が非晶質
合金である
ことを特徴とする請求項
5に記載の粉末。
【請求項8】
前記非晶質
合金が、ジルコニウム基非晶質
合金、銅基非晶質
合金および鉄基非晶質
合金から選択される
ことを特徴とする請求項7に記載の粉末。
【請求項9】
粒子の少なくとも80%が下記条件を満たすこと特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の粉末。
0.8≦d
min/d
max≦1.0
式中、d
minは粒子の最小直径であり、d
maxは粒子の最大直径である。
【請求項10】
付加製造のための粉末床方式のプロセスにおける請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の粉末の使用。
【請求項11】
前記付加製造のためのプロセスが、選択的レーザー溶融、選択的レーザー焼結および
選択的電子ビーム溶融から選択される請求項10に記載の使用。
【請求項12】
付加製造によるコンポーネントの製造方法であって、
a)焼結および/または溶融することができる粉末を準備し、付加製造プロセスに適した前記粉末の選択基準としての、10μm以上のd
2値、200μm以下のd
90値、および0.80kJ/(kg×μm)以下のE
Law/d
50比(E
Lawはアバランシェエネルギーであり、d
50は平均粒径である)を満足する前記粉末を選択する工程、ならびに
b)前記粉末から前記コンポーネントを付加製造する工程
を備える方法。
【請求項13】
工程a)が下記下位工程を備える請求項12に記載の方法。
a1)粉末を準備する工程、
a2)前記粉末を、粒径分布がd
2≧10μmおよびd
90≦200μmという条件を満たすように分粒する工程、
a3)0.80kJ/(kg×μm)以下のE
Law/d
50比を有する粉末を選択する工程。
【請求項14】
工程b)が下記下位工程を備える請求項12または請求項13に記載の方法。
b1)前記粉末の層を適用する工程、
b2)前記粉末の少なくとも一部をレーザー光線またはβ線によって焼結温度および/または融点まで加熱し、その後、加熱された前記粉末を冷却する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造法用の粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造プロセスは、既存の生産プロセスを大きく変革しつつある。付加製造プロセスは、複雑な三次元形状を有するコンポーネント(部品)を直接製造するために使用することができる。付加製造は、デジタルの三次元構築データに基づいて材料(物質)を一層ずつ堆積していくことによってコンポーネントが作り上げられるプロセスを表すために用いられる用語である。
【0003】
粉末床方式のプロセスは付加製造プロセスの一形態である。始めに、粉末の薄層が上記の粉末床方式の付加製造プロセスにおける造形プラットフォームに適用(塗工または堆積)される。高エネルギー放射線の形態の十分に高いエネルギー供給によって、例えばレーザー光線またはβ線によって、その粉末は、コンピューターによって生成された構築データによって予め定められた部位で、少なくとも部分的に、溶融されまたは焼結される。次いで、その粉末層の選択的に照射された部位は冷えて、硬化する。その後、造形プラットフォームは下げられて、粉末の別の適用が続く。この次の粉末層も、少なくとも部分的に、溶融されるか、または焼結温度を超えて加熱されて、選択的に加熱された部位でこの次の層の下にある層につながる。最終の形のコンポーネントが得られるまで、これらの工程が非常に多くの連続層に対して繰り返される。
【0004】
ここ数年では、とりわけ付加製造によって加工することができる材料の数に関して大きな進歩が成し遂げられている。従って、今ではプラスチック材料だけではなく、例えば金属またはセラミック等の高融点の材料もプリントすることが可能である。
【0005】
公知の減法プロセス(subtraktiven Verfahren)(例えばCNCフライス加工)を用いて得ることができるコンポーネントと同等かまたはより良好な材料特性を備える、複雑な形状を有するコンポーネントを生産することが、とりわけ、付加製造プロセスの目的である。従って、例えばコンポーネントの引張強さは、多孔性に直接関係する。材料を緻密にプリントできるほど、仕上がったコンポーネントの引張強さがより高くなる。仕上がったコンポーネントの他の関係ある特性としては、例えば、エッジの鋭さが高いことおよびできるだけ低い表面粗さが挙げられる。
【0006】
できるだけ高い力学的安定性を特徴とするコンポーネントを得るために、高密度の粉末床を持つことが望ましい。これを実現するために、粉末層のかさ密度が少なくとも50%、特に少なくとも60%であることが好ましい。他方、粉末の動的特性、例えば流動性を、粉末がドクターブレードによって適用できるように適切に調整することが粉末床方式のプロセスにとって好都合である。
【0007】
実際には、粉末適用のためおよび現実の製造工程のために同時に粉末特性を最適化することは非常に困難であるということは明らかである。通常、とある特性(例えば流動性)の改善は、別の特性(例えば、仕上がったコンポーネントの密度)を犠牲にして成し遂げられる。しかしながら、粉末を低多孔性の高密度のコンポーネントへと加工できるか否かを、測定値を用いて予測することはこれまでのところ不可能である。むしろ、プリントされたコンポーネントの材料特性を後で評価するために、それぞれの好適である可能性がある粉末を用いて大がかりなプリント実験を実施することが、これまでのところ必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の1つは、高い相対密度(すなわち低い多孔性)の複雑なコンポーネントを付加製造によって製造することができる粉末を提供することである。任意に、当該粉末から生産することができるコンポーネントは、できるだけ高いエッジの鋭さおよび/またはできるだけ低い表面粗さをも有することになろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は独立請求項1によって満たされる。
【0010】
粉末が下記特徴を備える場合に、その粉末が、連続する粉末層の選択的な溶融および/または焼結による付加製造に特によく適しているということが、驚くべきことに明らかになった。
10μm以上のd2値、200μm以下のd90値、および0.8kJ/(kg×μm)以下の比Q。ここでQはアバランシェエネルギーELawを平均粒径d50で除した比(Q=ELaw/d50)である。
【0011】
本発明に係る粉末のパラメータに関する本明細書によって、付加製造プロセスにおいて使用するための粉末の適合性に関して信頼性の高い詳述を発表することが可能になる。大がかりなプリントテストおよびその後に続く力学的試験は省かれる可能性があり、これは非常に大きい軽減である。
【0012】
本発明の粉末は、好ましくは、焼結および/または溶融することができる材料から選択される。本発明の範囲では、焼結および/または溶融することができる材料は、付加製造プロセスで採用される条件ではその付加製造プロセスにおいて熱分解しない材料であると理解されるものとする。本発明によれば、当該粉末は個々の粒子からなる。当該粉末は粒径分布を有する。
【0013】
当該粉末の粒子は、好ましくは、室温および大気圧で固体である材料からなる。好ましい実施形態では、この材料は、分解温度よりも低い融点を有する。任意に、この材料はガラス転移温度を有してもよい。上記材料が融点および/またはガラス転移温度を有する場合には、その融点および/またはガラス転移温度は、好ましくは、100℃よりも高く、特に300℃よりも高い。このガラス転移温度は、例えば、動的機械分析によってまたは動的示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。
【0014】
本発明に係る粉末は、多数の材料を含むことができる。当該粉末は、金属、セラミック、ガラスおよびガラスセラミックからなる群から選択される少なくとも1種の材料を含むことができる。好ましい実施形態では、当該粉末は、上で特定した材料のうちの1種からなる。好ましい実施形態では、当該粉末は、異なる材料の粉末の混合物であることが適当である場合もある。
【0015】
本明細書では、「金属」は、純金属および金属合金の両方を意味すると理解されるものとする。
【0016】
本発明に係る粉末は、金属として、純金属、複数種の純金属、一種の金属合金、複数種の金属合金またはこれらの混合物を含有することができる。
【0017】
本発明の範囲では、用語「純金属」は、元素形態で存在する化学元素であって、元素の周期律表で、ホウ素と同じ周期にあるがホウ素よりも左側にあるもの、ケイ素と同じ周期にあるがケイ素よりも左側にあるもの、ゲルマニウムと同じ周期にあるがゲルマニウムよりも左側にあるもの、およびアンチモンと同じ周期にあるがアンチモンよりも左側にあるもの、ならびに原子番号が55より大きい全ての元素を指すものとする。
【0018】
用語「純金属」は、金属が不純物を含むことを排除しない。好ましくは、不純物の全量は、純金属の全量に対して1重量%以下、特に0.1重量%以下、さらにより好ましくは0.01重量%以下である。特に好ましい実施形態では、純金属は意図的に添加された元素を含有しない。
【0019】
好ましい実施形態では、上記純金属は貴金属であってもよい。特に好ましい実施形態では、この貴金属は白金金属、金または銀である。この白金金属は、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウムおよびオスミウムからなる群から選択することができる。
【0020】
別の好ましい実施形態では、上記純金属は耐熱金属(高融点金属)であってもよい。この耐熱金属は、4族の元素(例えばチタン、ジルコニウムおよびハフニウム)、5族の元素(例えばバナジウム、ニオブおよびタンタル)、ならびに6族の元素(例えばクロム、モリブデンおよびタングステン)から選択することができる。
【0021】
別の好ましい実施形態では、上記純金属は非鉄金属または鉄であってもよい。この非鉄金属は、カドミウム、コバルト、銅、ニッケル、鉛、スズおよび亜鉛からなる群から選択することができる。
【0022】
一実施形態によれば、上記金属は金属合金であってもよい。本発明によれば、金属合金は、少なくとも2つの元素の金属性混合物であって、この少なくとも2つの元素のうちの少なくとも1つが金属であるものであると理解されるものとする。これに関して、「金属性」は、関与する元素間に金属結合が存在することを意味すると理解されるものとする。
【0023】
好ましい実施形態では、上記金属合金は貴金属合金であってもよい。特に好ましい実施形態では、この貴金属合金は、白金金属、金および銀からなる群から選択される元素を含有する。
【0024】
上記貴金属合金における好ましい白金金属は、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、ロジウムおよびオスミウムからなる群から選択することができる。さらに好ましい実施形態では、この貴金属合金は、上述の白金金属のうちの少なくとも2種の合金(例えば白金-イリジウム合金または白金-ロジウム合金)であってもよい。
【0025】
好ましくは、上記金属合金は、耐熱金属、非鉄金属、鉄およびこれらの金属のうちの少なくとも2種の組み合わせから選択される元素を含有することができる。
【0026】
特に好ましい金属合金は、アルミニウム合金、ニッケル基合金、コバルト基合金、チタン-アルミニウム合金、銅-スズ合金、ステンレス鋼合金、工具鋼合金および高温用途向け超合金から選択することもできる。
【0027】
特に好ましい実施形態では、上記金属合金は非晶質金属であってもよい。非晶質金属は、金属結合性を有し、かつ非晶質の相すなわち非結晶質の相を有する合金であると理解されるものとする。非晶質金属は、非常に硬いことが多いが塑性変形可能で(延性があり)かつ高弾性でもありうるため、非晶質金属は特別の特性を有しうる。この非晶質金属は、チタン基合金、ジルコニウム基合金、鉄基合金、ニッケル基合金、コバルト基合金、パラジウム基合金、白金基合金、銅基合金、金基合金、マグネシウム基合金、カルシウム基合金およびアルミニウム基合金からなる群から選択することができる。これに関して、「基」は、それぞれの元素が合金の重量に対して最大の割合を占めることを意味すると理解されるものとする。非晶質金属を形成する合金の特に好ましい例は、NiNbSn、CoFeTaB、CaMgAgCu、CoFeBSiNb、FeGa(Cr,Mo)(P,C,B)、TiNiCuSn、FeCoLnB、Co(Al,Ga)(P,B,Si)、FeBSiNbおよびNi(Nb,Ta)ZrTiからなる群から選択される。特に、非晶質金属はZrCuAlNb合金であってもよい。好ましくは、上述のZrCuAlNb合金は、ジルコニウムに加えて、23.5-24.5重量%の銅、3.5-4.0重量%のアルミニウムおよび1.5-2.0重量%のニオブを含む(ヘレウスドイツ社(Heraeus Deutschland GmbH)からAMZ4(登録商標)の商品名で市販されている)。
【0028】
原則として、金属粉末の生産に好適なプロセスは当業者に公知である。好ましくは、金属粒子からの当該粉末の生産は、微粒子化法プロセス、特にプラズマ微粒子化法、遠心微粒子化法またはるつぼを用いない微粒子化法によって行われる。
【0029】
一実施形態では、本発明に係る粉末の材料はセラミック材料であってもよい。本発明に関しては、セラミックは、金属特性を有しない結晶質の無機材料であると理解されるものとする。好ましい実施形態では、このセラミック材料は天然ミネラルを含んでもよい。このセラミック材料は、酸化物セラミック、窒化物セラミックス、炭化物セラミックおよびこれらのセラミックのうちの少なくとも2種の混合形態からなる群から選択することができる。
【0030】
上記酸化物セラミックは、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムおよび亜鉛からなる群から選択される元素の酸化物を含むことができる。この酸化物セラミック材料は、純元素(単一元素)酸化物または混合酸化物を含むことができる。好ましい実施形態では、上記純元素酸化物は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛からなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、上記混合酸化物は、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムおよび亜鉛からなる群から選択される元素のうち少なくとも2種を含有する。任意に、この混合酸化物は、元素の周期表の主族3-6の元素からなる群から選択される付加的な元素を含有することができる。異なる形状およびサイズのセラミック粉末は、当業者に公知のプロセスによって、例えば研削によって生産することができる。
【0031】
一実施形態では、本発明に係る粉末の材料はガラスであってもよい。本発明の範囲では、ガラスは、金属結合性を有しない無機の非晶質材料であると理解されるものとする。このガラスは酸化物ガラスであってもよい。酸化物ガラスは、ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスからなる群から選択することができる。上述の好ましい酸化物ガラスの名称は、いずれも、重量に関して最も大きい成分がどれであるかを示す。例えば、ケイ酸塩(SiO4
4-)は、ケイ酸塩ガラスの最も一般的な成分である。上記特定種類のガラスの各々は、付加的な元素を酸化物の形態で含有することができる。ここで上述の付加的な元素は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、ホウ素、鉛、亜鉛およびチタンから選択することができる。
【0032】
このガラス粉末は、当業者に公知のプロセスに従って、例えば研削または化学合成(例えば沈殿、ゾルゲル法)によって生産することができる。
【0033】
一実施形態では、当該粉末はガラスセラミック材料を含有することができる。ガラスセラミックは、金属特性を有さず非晶質の相および結晶質の相の両方を有する無機材料である。
【0034】
好ましくは、上記粒子の少なくとも80%が下記条件を満たす。
0.8≦dmin/dmax≦1.0
式中、dminは粒子の最小直径であり、dmaxは粒子の最大直径である。
【0035】
本発明に係る粉末に関してパラメータ、d2、d50およびd90に言及する限りにおいて、これらのパラメータは以下のとおりに決定することができる。測定は、乾式分散物としての対応する粉末に対してISO 13320:2009に従ってレーザー回折による粒径分析によって行うことができ、体積累積分布曲線は測定されたデータから決定することができる。ISO 9276-2:2014によると、d2、d50およびd90の値は体積分布曲線から算出することができる。これに関して、例えば、「d2」は粒子の2体積%がこの値未満の直径を有することを意味する。
【0036】
本発明に係る粉末は、10μm以上、特に20μm以上、特に好ましくは30μm以上のd2値を有する。さらに、本発明に係る粉末は、200μm以下、好ましくは150μm以下、特に100μm以下、特に好ましくは65μm以下のd90値を有する。典型的な粉末は、例えば、10-32μm、10-45μm、20-63μm、45-100μm、45-150μmの範囲の粒径分布を有する。これに関して、ハイフンの前の値はいずれもd2値を指し、ハイフンの後の値がd90値を指す。
【0037】
さらに、本発明に係る粉末は0.8kJ/(kg×μm)以下の比Qを有する。ここで、Qは、アバランシェエネルギーELawおよび平均粒径d50の比(Q=ELaw/d50)である。好ましい実施形態では、比Qは、0.65kJ×μm/kg以下の値、特に0.5kJ×μm/kg以下の値をとる。本発明の範囲では、アバランシェエネルギーELawは、回転式(回転ドラム式)式粉末分析によって決定することができる。回転式粉末分析の手順は「測定方法」の稿に記載されている。
【0038】
本発明の粉末は、下記順序の工程を特徴とするプロセスを用いて見出すことができる。
a)溶融および/または焼結することができる材料から作製された粉末を準備する工程、
b)上記粉末を、粒径分布がd2≧10μmおよびd90≦200μmという条件を満たすように分粒する工程、
c)回転式粉末分析によって流動性を決定し、ISO 13320:2009に従うレーザー回折分析によってd50値を決定する工程、
d)ELaw/d50比を算出する工程、
e)0.80kJ/(kg×μm)以下のELaw/d50比を有する粉末を選択する工程。
【0039】
上述のプロセスを用いることによって、付加製造プロセス、特に、例えば選択的レーザー溶融等の粉末床方式のプロセスで使用することができる粉末を特定することが可能である。
【0040】
工程b)では、上記粉末は少なくとも1回の分粒プロセスにかけられる。篩がけおよび選別(Sichten)が好ましい分粒プロセスである。篩がけは、例えばタンブル篩(Taumelsieb)、回転篩または振動篩によって行うことができる。通常、ステンレス鋼製の一般的な篩網が篩がけに用いられる。粉末についての選別プロセスは、当業者に一般に公知である。選別は、例えば風力選別(Windsichten)によって行うことができる。
【0041】
また、できるだけ精密に調整された粒径分布を成し遂げるために、上述の分粒プロセスのうちの2以上を連続的に実施してもよい。例えば、始めに1回以上の篩がけプロセスを実施し、その後1回以上の選別プロセスを実施してもよい。これによって、上記粉末を、10μm未満の粒径を有する粒子をほぼ含まず(すなわちd2≧10μm)かつおよび200μm超の粒径を有する粒子をほぼ含まない(すなわちd90≦200μm)ものとすることができる。
【0042】
選別後、アバランシェエネルギー(ELaw)を回転式粉末分析によって決定し、d50値をレーザー回折分析によって決定することができる。この目的のために用いられる測定方法は、以下に記載されている。
【0043】
このようにして決定された値を用いて、アバランシェエネルギー(ELaw)および平均粒径d50の比Qを決定することができる(Q=ELaw/d50)。
【0044】
次いで、工程e)で、0.80kJ/(kg×μm)以下の比Qを有する粉末を選択することができる。好ましい実施形態では、Qは0.65kJ×μm/kg以下、特に0.5kJ×μm/kg以下である。粉末が要求された値を満たさない場合、その粉末は、ELaw/d50値を満たすためにさらに処理されてもよいし、その粉末を廃棄および/または再利用してもよい。
【0045】
比Qは粉末の流動性の尺度である。当業者は、生産プロセス後に粉末の流動性にどのようにさらに影響するかを基本的に認識している。粉末の流動性は、例えば、その粉末の生産のあいだに、後処理によってまたは両者の組み合わせによって影響を受けうる。球形粒子は、生産プロセスの際のより良好な流動性にとって好ましい。流動性は、例えばその粉末の水分含量を調整することによって変わりうる。例えば温度処理または研削によって粒子表面を変性することにより、その粉末の生産後に流動性を変性することも実行可能である。1つの可能な実施形態では、上記の尺度は、Qについての条件を満たさない粉末の流動性を変えるために使用することができる。
【0046】
さらに、本発明は、付加製造によるコンポーネントの製造方法に関する。この方法は、下記工程を備える。
a)10μm以上のd2値、200μm以下のd90値、および0.80kJ/(kg×μm)以下のELaw/d50を有する粉末を準備する工程、ならびに
b)工程a)の粉末を用いてコンポーネントを付加製造する工程。
【0047】
工程a)で準備された粉末が、工程b)でコンポーネントの付加製造に使用される。本発明の範囲では、付加製造プロセスは、少なくとも1つの粉末層が選択的に焼結温度および/または融点まで加熱されるプロセスであると理解されるものとする。上述の付加製造プロセスは粉末床方式のプロセスとも呼ばれる。加熱された層は、例えば冷却によって固化層へと変換されてもよい。好ましい実施形態では、少なくとも2つの固化層がそれぞれ粉末床(すなわち粉末層)から重ねて生成される。上述の付加製造プロセスは、原則としては当業者に公知である。
【0048】
例示する目的で、ここでは選択的レーザー焼結(SLS)、選択的レーザー溶融(SLM)および選択的電子ビーム溶融(EBM)について言及することにする。好ましい実施形態では、当該付加製造プロセスを機械加工プロセスと組み合わせることが可能である。
【0049】
本発明に係る方法の工程b)に係る付加製造の好ましい手順は、下記下位工程を備えることができる。
b1)本発明に係る粉末の層を、例えば建築用パネルに適用する工程、
b2)第1層の上記粉末の少なくとも一部をレーザー光線またはβ線によって焼結温度および/または融点まで加熱し、その後、加熱された上記粉末を冷却する工程。
【0050】
任意に、上記方法は、下記工程をさらに含む。
b3)本発明に係る粉末の別の層をすでに生成された層に適用する工程、
b4)上記さらなる層の上記粉末の少なくとも一部をレーザー光線またはβ線によって焼結温度および/または融点まで加熱し、その後、加熱された粉末を冷却する工程。
【0051】
工程b3)およびb4)と同様に、仕上がったコンポーネントが得られるまで、b4)の後に任意の数のさらなる層が互いに適用されてもよい。
【0052】
上記工程の順序が維持される限りは、任意に、さらなる工程が各々工程b1)-b4)の間に行われてもよい。
【0053】
工程b1)では、本発明に係る粉末の第1層が造形用パネルに適用される。好ましくは、この建築用パネルは平らであり高熱伝導率を有する。好ましくは、この建築用パネルは金属製である。好ましくは、上記粉末層はドクターブレードを用いて適用することができる。この第1層の適用は、閉鎖系の組み立て空間の中で行われることが好ましい。必要に応じて、この組み立て空間は、工程b1)の前に排気されるかまたは不活性ガス(例えば窒素または希ガス)で満たされる。
【0054】
工程b2)では、上記第1層の粉末の少なくとも一部が、レーザー光線またはβ線によって焼結温度および/または融点まで加熱される。この加熱は、当該粉末の粒子の焼結温度および/または融点を超えるように、適宜行われる。焼結温度は、ある粒子の原子が隣接する粒子の接触部位まで、例えば粒子表面に沿った表面拡散によって拡散することが可能になり始める温度であると理解されるものとする。
【0055】
高エネルギー放射線が作用して上記粉末の層を加熱する領域の制御は、好ましくはコンピューター制御によってなされる。製造するべきコンポーネントの三次元モデルは多数の仮想部分に分割されており、これをこの目的のために用いることができる。このとき、上記三次元モデルの上述の仮想部分の各々は、加熱されるべき適用済みの粉末層の領域のための鋳型としての役割を果たすことができる。
【0056】
加熱後、加熱された領域は溶融温度および/または焼結温度よりも低い温度に冷却される。この過程では、すでに加熱された粉末層は硬化および/または固化する。
【0057】
工程b3)では、本発明に係る粉末のさらなる層が、すでに生成された層に適用される。
【0058】
工程b4)では、上記さらなる層の粉末の少なくとも一部が、これまでのように、当該粉末粒子の焼結温度または融点まで加熱される。粒子が焼結温度または融点を超えて加熱されることで、粒子の材料は、同じ層の隣接する粒子の材料とも、すでに生成された層の隣接する粒子の材料ともつながることができる。
【0059】
コンポーネントの製造が完了すると、焼結されずおよび/または溶融せず遊離した粉末は除去されてもよい。この除去は、例えばサンドブラストまたは吸引によって行うことができる。
【0060】
任意に、このコンポーネントは、付加プロセス後に後処理にかけられてもよい。この後処理は、削磨処理(例えば、研削、研磨、フライス加工、穿孔、エッチング、レーザーアブレーションまたはプラズマアブレーション等)、積層処理(例えば、コーティング、塗装、スパッタリング、溶接、はんだ付け等)、熱処理(例えば加熱および冷却)、電気的処理(電気溶接、電気めっき、腐食)、圧力変化(圧力上昇、圧力低下)、機械的変形(プレス加工、圧延、延伸、成形)、およびこれらのうちの少なくとも2つの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。
【0061】
付加製造プロセスにおける本発明に係る粉末の使用によって、高相対密度(すなわち非常に低い多孔性)のコンポーネントを製造することができる。高相対密度は、特に、力学的に安定なコンポーネントを得るためには重要である。なぜなら孔または空隙は潜在的な破壊部位となりうるからである。さらに、断熱性ガスの内包も熱伝導率を低下させる可能性がある。特に、コンポーネントが高熱伝導率を有することが要求される場合には、材料内の上述の断熱性の領域は不都合となりうる。
【0062】
さらに、本発明に係る方法によって、90%超、好ましくは95%超の相対密度を有するコンポーネントが得られるようになる。
【0063】
製造されたコンポーネントは、例えば冷却素子、トポロジー最適化軽量コンポーネント、医療装置または個別化インプラントであってもよい。
【0064】
本発明に係る粉末の使用によって、複雑または精巧な構造を有するコンポーネントを製造することが可能になる。本発明に係る方法は、複雑な形状が原因で、例えばフライス加工等の従来の減法プロセスによっては製造できないコンポーネントの製造に特に適している。
【0065】
測定方法
明細書中で標準が特定されている場合に限っては、これらの参照は、常に、出願日に有効であった版を指す。
【0066】
粒径分布
粒径分布は、「Helos BR/R3」装置(Sympatec GmbH(シンパテック社)、ドイツ)を用いて、ISO 13320:2009に従うレーザー回折によって決定することができる。粉末に存在する粒径に応じて、本願での測定範囲は0.9-875μmである。
【0067】
粉末粒子を分散させるために、振動供給部VIBRI(ベンチュリノズル付き)を備えた乾式分散システムRODODS/M(Sympatec GmbH、ドイツ)を使用することができる。これに関して試料量は5gである。この過程で使用するレーザー光線の波長は632.8nmである。分析はミー理論(Mie-Theorie)に基づいて行うことができる。粒径は体積分布の形で得られる。すなわち本発明の範囲では、粒径分布は体積分布積算曲線の形で決定される。
【0068】
d2値、d50値およびd90値は、ISO 9276-2:2014に記載されているとおり、レーザー回折によって測定される粒径分布(体積分布)から算出することができる。
【0069】
アバランシェエネルギー
本発明に係る粉末のアバランシェエネルギー(ELaw)を決定するために、当該粉末は、本願明細書に記載される回転式粉末分析によって特性解析されてもよい。例えばRevolution Version 6.06ソフトウェアを実行するRevolution Powder Analyzer Model Rev2015(米国Newton(ニュートン)のMercury Scientific Inc.(マーキュリー・サイエンティフィック社)製)を使用してアバランシェエネルギーを求めることができる。本発明の範囲では、下記手順を用いてアバランシェエネルギーが測定される。
【0070】
かさ重量およびかさ容積を用いて当該粉末のかさ密度が決定される。円筒形の測定用ドラムが100mLの粉末で満たされる。この測定用ドラムは直径が100mmであり、深さが35mmである。この測定用ドラムは、水平に配向した円筒軸のまわりに毎分0.3回転の一定速度で回転する。この円筒の2つの前面で、上記円筒形の測定用ドラムに充填された粉末を囲んでいるが、これらの2つの前面のうちの1つは透明である。測定を開始する前に、この測定用ドラムは60秒間回転される。実際の測定については、カメラを使用して、回転のあいだ、測定用ドラムの回転軸にそって毎秒10画像の撮影速度で上記粉末が撮影される。これに関して、カメラのパラメータは、当該粉末-空気の界面においてできるだけ高いコントラストが得られるように適宜選択される。測定用ドラムの回転のあいだ、粉末は重力に逆らって所定の高さまで引きずられ、そのあとドラムの下部へと流れて戻る。この流れ戻ることは、通常、ぎくしゃくした動き(不連続的)として起こり、なだれ(アバランシェ)とも呼ばれる。150回のなだれという滑りが記録された時に測定が完了する。
【0071】
その後、測定された粉末の画像がデジタル画像解析によって解析される。その画像は等サイズの画素に細かく分割される。画素の面積および数は、使用されるカメラによって異なる。暗い画素は上記粉末に割り当てられ、明るい画素はその粉末の上方の空気部分に割り当てられる。粉末に割り当てられた各画素について、対応する容積(画素の面積×ドラムの深さ)および粉末の密度を使用して、その画素の質量が算出される。
【0072】
さらに、各画像の中の各画素について、ベースラインまでの距離hが決定される。このベースラインは、測定用ドラムの外周の下の水平方向の接線として、測定された粉末の外側に位置している。
【0073】
このデータを方程式:「Epot画素」=m×g×hで使用して、各画素の位置エネルギーを算出することができる(m=質量[kg]、g=重力加速度[m×s-2]、h=ベースラインから上方の高さ[m])。1画素あたりのすべての算出された「Epot画素」の総和を使用して、記録時の粉末全体の位置エネルギー(「Epot粉末」)を算出することができる。この粉末の比位置エネルギー「EpotS粉末」は、このようにして得られた「Epot粉末」を、使用した粉末の質量で除することにより算出される。各画像の時のこの粉末の比位置エネルギーが記録される。ドラムの回転のあいだ粉末が引きずられると、位置エネルギーは最大値まで増加し、次いでなだれという滑りのあと最小値まで減少する。上述の周期的ななだれという滑りによって、「EpotS粉末」は、測定中、所定の範囲内で変化する。
【0074】
各「EpotS粉末」ピークとその後の「EpotS粉末」底値との差が算出され、これによって、それぞれの個々のなだれの位置エネルギーELaw_singleが決定される。アバランシェエネルギーELawの平均は、アバランシェエネルギーの個々に決定された値ELaw_singleのすべてから算出される。
【0075】
多孔性
多孔性は、下記方程式:
多孔性P(%)=(1-(ρgeo/ρth))×100%
によって記述される。式中、
ρgeoはコンポーネントの形状密度であり、ρthはコンポーネントの理論密度である。
【0076】
形状密度は、例えば流体静力学的天秤を用いて、アルキメデスの原理に従って決定することができる。コンポーネントの理論密度は、そのコンポーネントを構成する材料の理論密度に対応する。相対密度Drel(%)は(ρgeo/ρth)×100%による。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】粉末8および粉末9から作製されたプリントされたコンポーネントの光学顕微鏡写真である。
【実施例】
【0078】
溶融および/または焼結することができる種々の材料から作製した粉末を篩がけによって分粒した(表1)。ドイツのRetsch GmbH(レッチェ社)製のAS 200ユニットを篩がけのために使用した。目開き10μm、20μm、45μm、63μmおよび140μmのステンレス鋼製篩を使用し、およそ100gの粉末を異なる振幅で2-5分間分級した。
【0079】
分粒後の粉末のd2値およびd90値を決定した。篩がけ後にこれらの値が上記条件、すなわちd2値≧10μmおよびd90値≦200μm、を満たさなかった場合には、粒径分布が上記の範囲内に入るまで、さらなる分粒工程を行った。当業者は、上で規定した範囲外にある粉末から粒子を除くために、上記種々の篩の目開きをどのように適宜選択するかを理解している。
【0080】
上記粉末が上記条件、すなわちd2値≧10μmおよびd90値≦200μm、を満たした場合、その粉末のd50値およびアバランシェエネルギーも測定し、(ELaw/d50)比を算出した。
【0081】
測定にかけられるすべての粉末を用い、ドイツのConceptLaser GmbH(コンセプトレーザー社)の施設、型式MLabを用いて、「選択的レーザー溶融」(SLM)によって一辺の長さが10mmの立方体を生産した。全体にわたって同じプロセスパラメータを用いた(レーザー出力:95W、レーザー速度:150mm/s、ライン距離:0.09mm)。
【0082】
得られたコンポーネントの形状密度および相対密度を、上記のとおりに決定した。
【0083】
当該粉末およびこの粉末から製造したコンポーネントについての結果を表1にまとめる。
【0084】
【0085】
平均粒径d50だけでは好適な粒子についての好適な選択基準とはいえないということは、表1から明らかである。これは、特に、表1中の実験3、8および13の粒径の比較によって明らかである。これらの実験からは、仕上がったコンポーネントの品質に関して傾向を認識することができない。
【0086】
図1は、粉末8および9から作製したプリントしたコンポーネントの光学顕微鏡写真を実例として示す。明らかに、粉末9は、粉末8よりも明確な低多孔性を有する。