(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】機械装置の劣化診断装置、劣化診断装置において実行される機械装置の劣化診断方法、及び、機械装置の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220819BHJP
G01M 13/021 20190101ALI20220819BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M13/021
(21)【出願番号】P 2019555361
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043161
(87)【国際公開番号】W WO2019103091
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017224611
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018055295
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108866
【氏名又は名称】大坂 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】田口 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】山中 恵一
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】山下 龍
(72)【発明者】
【氏名】久松 治
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172306(WO,A1)
【文献】特開2007-146674(JP,A)
【文献】特開2008-249549(JP,A)
【文献】特開2013-238427(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/013892(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置の劣化診断装置であって、
前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率が変化する変化傾向を、予め記憶しておく記憶部と、
前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する判定部と、を備える、機械装置の劣化診断装置。
【請求項2】
前記添加剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項1に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項3】
前記添加剤の消費率は、前記動力伝達機構の出力に関する指令値及び測定値のうち少なくとも一方の関数で表現され、
前記指令値及び測定値のうち少なくとも一方に関する時系列データを取得するデータ取得部を更に備え、
前記判定部は、取得された時系列データに基づいて、前記関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、請求項1又は2に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項4】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記指令値が、前記モータの電流指令値である、請求項3に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項5】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転角を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記測定値が、前記エンコーダの検出値である、請求項3に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項6】
前記添加剤は、極圧剤を含み、
前記極圧剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項7】
前記機械装置が、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転角を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記添加剤の消費率が、前記モータの電流指令値、及び、前記モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、前記潤滑剤の温度の関数である第2の関数との和である第3の関数で表現され、
前記データ取得部が、前記モータの電流指令値、前記エンコーダの検出値、及び、前記潤滑剤の温度に関する時系列データを取得し、
前記判定部は、取得された時系列データに基づいて、前記第3の関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、
請求項3に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項8】
前記第2の関数は、前記潤滑剤の温度と、単位時間当たりの添加剤の残存率との関数である、請求項7に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項9】
前記機械装置は、前記エンコーダに設けられた温度センサを更に備え、
前記データ取得部には、前記温度センサで検出された温度データが入力され、
前記データ取得部は、前記温度センサで検出された前記エンコーダの温度の値から線形的な相関関係に基づいて、前記潤滑剤の温度に関する時系列データを取得する、請求項7又は8に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項10】
前記判定部による判定結果を出力する出力部を更に備える、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断装置。
【請求項11】
記憶部と、判定部と、を備えた劣化診断装置において実行される機械装置の劣化診断方法であって、
前記機械装置は、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられ、
前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率が変化する変化傾向を、予め前記記憶部に記憶しておくステップと、
前記判定部により、前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定するステップと、を含む、機械装置の劣化診断方法。
【請求項12】
前記添加剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項11に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項13】
前記添加剤の消費率は、前記動力伝達機構の出力に関する指令値及び測定値のうち少なくとも一方の関数で表現され、
データ取得部により、前記指令値及び測定値のうち少なくとも一方に関する時系列データを取得するステップを更に含み、
前記判定部により判定するステップでは、取得した時系列データに基づいて、前記関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、請求項11又は12に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項14】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記指令値が、前記モータの電流指令値である、請求項13に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項15】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転角を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記測定値が、前記エンコーダの検出値である、請求項13に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項16】
前記添加剤は、極圧剤を含み、
前記極圧剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項11乃至15のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項17】
前記機械装置が、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記添加剤の消費率が、前記モータの電流指令値、及び、前記モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、前記潤滑剤の温度の関数である第2の関数との和である第3の関数で表現され、
前記データ取得ステップでは、前記データ取得部により、前記モータの電流指令値、前記エンコーダの検出値、及び、前記潤滑剤の温度に関する時系列データを取得するステップを更に含み、
前記判定ステップでは、前記判定部により、取得した時系列データに基づいて、前記第3関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、請求項13に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項18】
前記第2の関数は、前記潤滑剤の温度と、単位時間当たりの添加剤の残存率との関数である、請求項17に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項19】
前記機械装置は、前記エンコーダに設けられた温度センサを更に備え、
前記データ取得ステップでは、前記データ取得部に前記温度センサで検出された温度データが入力され、当該データ取得部により、前記温度センサで検出された前記エンコーダの温度から線形的な相関関係に基づいて、潤滑剤の温度に関する時系列データを取得するステップを更に含む、請求項17又は18に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項20】
出力部により、前記判定部による前記判定結果を出力するステップを更に含む、請求項11乃至19のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項21】
ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置の劣化診断方法であって、
前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率を測定するステップと、
前記添加剤の消費率の測定値に基づいて、添加剤の消費率の変化傾向を導出するステップと、
前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を、判定するステップを含む、機械装置の劣化診断方法。
【請求項22】
前記添加剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項21に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項23】
前記添加剤の消費率は、前記動力伝達機構の出力に関する指令値及び測定値のうち少なくとも一方の関数で表現され、
前記指令値及び測定値のうち少なくとも一方に関する時系列データを取得するステップを更に含み、
前記判定ステップでは、取得した時系列データに基づいて、前記関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、請求項21又は22に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項24】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記指令値が、前記モータの電流指令値である、請求項23に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項25】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転角を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記測定値が、前記エンコーダの検出値である、請求項23に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項26】
前記添加剤は、極圧剤を含み、
前記極圧剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向である、請求項21乃至25のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項27】
前記機械装置が、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、
前記添加剤の消費率が、前記モータの電流指令値、及び、前記モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、前記潤滑剤の温度の関数である第2の関数との和である第3の関数で表現され、
前記データ取得ステップでは、前記モータの電流指令値、前記エンコーダの検出値、及び、前記潤滑剤の温度に関する時系列データを取得するステップを更に含み、
前記判定ステップでは、取得した時系列データに基づいて、前記第3の関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する、請求項23に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項28】
前記第2の関数は、前記潤滑剤の温度と、単位時間当たりの添加剤の残存率との関数である、請求項27に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項29】
前記機械装置は、前記エンコーダに設けられた温度センサを更に備え、
前記データ取得ステップでは、前記温度センサで検出された温度データを取得し、前記温度センサで検出された前記エンコーダの温度から線形的な相関関係に基づいて、潤滑剤の温度に関する時系列データを取得するステップを更に含む、請求項27又は28に記載の機械装置の劣化診断方法。
【請求項30】
前記判定結果を出力部に出力するステップを更に含む、請求項21乃至29のいずれか一項に記載の機械装置の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置の劣化診断装置、劣化診断装置において実行される機械装置の劣化診断方法、及び、作業者により実行される機械装置の劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車産業などの流れ作業による生産ラインには大量のロボットが使用されている。ロボットには、転がり軸受や減速機が大量に用いられており、これらの部品が故障するとロボットが動かなくなり、生産ラインに大きな影響を与える。こうした重大な損害を防ぐため、故障しそうな部品を見つけ出して故障する前に補修する予防保全を行うことが望まれる。軸受や減速機の異常は振動やこれらに連結された電動機の電流の異常によりオンラインで検知することができる。しかし、振動や電流に異常が発生したときには既に減速機等は故障直前であることが多く、予防保全に用いる指標としては十分でない。
【0003】
転がり軸受や減速機は、運転時間にしたがって転動部などが摩耗し潤滑用のグリースに混ざるようになる。これら部品は異常摩耗による故障が多く、異常摩耗が生じるとグリース中により大量の鉄粉が混ざるようになることから、グリース中の鉄粉量を測定して異常を予知する方法が開発されている。例えば、特許文献1には、転がり軸受や減速機に内蔵したセンサによりグリース鉄粉含有量を検知し、故障予知するオンライン用の故障予知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術では、グリース中の鉄粉量は摩耗の進行にしたがって徐々に増加し、減速機などが故障状態になる直前に鉄粉の異常増加として検知される。このため、異常摩耗の発生段階よりも前の段階では故障に至るまでの劣化の傾向をとらえることができず、故障の予測精度には限界があった。このことは軸受や減速機が設けられたロボットに限らず、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置全般に共通する課題である。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、機械装置の残余寿命を精度良く予測可能な劣化診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のある形態に係る機械装置の劣化診断装置は、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置の劣化診断装置であって、前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率が変化する変化傾向を、予め記憶しておく記憶部と、前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する判定部と、を備える。ここで添加剤の消費率とは、製品出荷時の添加剤の含有量に対する析出された添加剤の量の割合である。潤滑剤は、潤滑用のグリースや油を含む。
【0008】
上記構成によれば、機械装置の稼働に伴う添加剤の消費率の変化傾向を予め記憶しておくことにより、異常摩耗が発生するより前の段階で故障に至るまでの劣化の傾向を捉えることができるので、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、機械装置の劣化を診断することができる。添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定することにより、機械装置の残余寿命を精度良く予測することができる。
【0009】
尚、前記添加剤の消費率の変化傾向は、線形的な増加傾向である。上記構成によれば、添加剤の消費率の変化傾向を直線で近似することができるので、添加剤の消費率が予め設定された値に到達するまでの期間を判定しやすい。予測精度が向上する。尚、添加剤の消費率の変化傾向は測定結果から見出すことができる。また、添加剤の消費率の変化傾向が線形的な増加傾向であるとは、厳密な意味での線形増加に限定されない。例えば、測定値が増加した後、一旦僅かに減少し、その後、ほぼ線形的に増加するような場合も含まれる。
【0010】
前記添加剤の消費率は、前記動力伝達機構の出力に関する指令値及び測定値のうち少なくとも一方の関数で表現され、上記劣化診断装置は、前記指令値及び測定値のうち少なくとも一方に関する時系列データを取得するデータ取得部を更に備え、前記判定部は、取得した時系列データに基づいて、前記関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定するようにしてもよい。
【0011】
上記構成によれば、出力は負荷に応じて変動するため、添加剤の消費率は、出力に関する指令値及び測定値のうち少なくとも一方の関数で表現することができる。これらの値を常時監視して、上記関数の時間積分値を算出することにより、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定することができる。予測精度が向上する。
【0012】
前記機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、前記指令値が、前記モータの電流指令値であってもよい。
【0013】
上記構成によれば、例えばモータと減速機(動力伝達機構)を備えたロボットにおいて、添加剤の消費率は、モータの電流指令値の関数(例えば二次関数)で表現することができるので、電流指令値を常時監視して、上記関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。
【0014】
また、機械装置は、動作部を駆動するモータと、前記モータの回転動力を減速して動作部に伝達するよう設けられた減速機と、前記モータの回転角を検出するエンコーダと、前記モータに供給する電流を制御してモータの回転を制御するモータ制御部を備え、前記測定値が、前記エンコーダの検出値であってもよい。
【0015】
上記構成によれば、例えばモータと減速機(動力伝達機構)を備えたロボットにおいて、添加剤の消費率は、エンコーダの検出値(測定値)から得られるモータ回転角の角速度の関数(例えば二次関数)で表現することができるので、エンコーダの検出値を常時監視して、上記関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。また、添加剤の消費率を、モータの電流指令値と、エンコーダの検出値(測定値)から得られるモータ回転角の角速度の関数で表現し、電流指令値とエンコーダの検出値の双方を監視することにより、上記関数の時間積分値を算出してもよい。
【0016】
前記添加剤は、極圧剤を含み、前記極圧剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向であってもよい。上記構成によれば、添加剤に含まれる極圧剤の消費率の変化傾向が、線形的な増加傾向であるので、予測精度が向上する。尚、極圧剤には、耐摩耗剤を含んでもよい。
【0017】
また、前記添加剤の消費率が、前記モータの電流指令値、及び、前記モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、前記添加剤の温度の測定値の関数である第2の関数との和である第3の関数で表現され、前記データ取得部が、前記モータの電流指令値、前記エンコーダの検出値、及び、前記潤滑剤の温度に関する時系列データを取得し、前記判定部が、取得された時系列データに基づいて、前記第3の関数の時間積分値を算出することにより、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定してもよい。
上記構成によれば、前記添加剤の消費率を、前記モータの電流指令値、及び、前記モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、前記潤滑剤の温度の関数である第2の関数の和で表現することができるので、モータの電流指令値及びエンコーダの検出値とともに、潤滑剤の温度を常時監視して、上記第3の関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。ここで第2の関数は、前記潤滑剤の温度と、単位時間当たりの添加剤の残存率との関数であってもよい。
また、前記機械装置が、前記エンコーダに設けられた温度センサを更に備えていてもよい。前記データ取得部に前記温度センサで検出された温度データが入力され、前記データ取得部が前記温度センサで検出された前記エンコーダの温度から線形的な相関関係に基づいて、潤滑剤の温度に関する時系列データを取得してもよい。上記構成により、産業用ロボットにおいて新たなセンサを追加することなく、エンコーダ温度の検出値からグリースの温度を推算することができる。
上記劣化診断装置は、前記判定部による判定結果を出力する出力部を更に備えていてもよい。
【0018】
本発明のその他の形態に係る機械装置の劣化診断方法は、記憶部と、判定部と、を備えた劣化診断装置において実行される機械装置の劣化診断方法であって、前記機械装置は、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられ、前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率が変化する変化傾向を、予め前記記憶部に記憶しておくステップと、前記判定部により、前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定するステップと、を含む。
また、本発明のその他の形態に係る機械装置の劣化診断方法は、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置の劣化診断方法であって、前記機械装置の稼働に従って、前記ギアに使用される潤滑剤に配合された添加剤の消費率を測定するステップと、前記添加剤の消費率の測定値に基づいて、添加剤の消費率の変化傾向を導出するステップと、前記添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、前記添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を、判定するステップを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上に説明した構成を有し、減速機等の動力伝達機構が設けられた機械装置の残余寿命を精度良く予測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る機械装置の劣化診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の劣化診断装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図1の劣化診断装置において使用される添加剤消費率の変化傾向を示すグラフである。
【
図4】
図4は、耐久試験におけるグリースの鉄粉濃度の時間変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、耐久試験における添加剤消費率の時間変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、耐久試験における鉄粉濃度と添加剤消費率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、条件を変更した場合の耐久試験における添加剤消費率と鉄粉濃度との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係る機械装置の劣化診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8の劣化診断装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、
図8の劣化診断装置において算出される電流指令値の関数の時間積分値を示すグラフである。
【
図12】
図12は、異なる負荷で複数回実施した耐久試験における電流指令値と添加剤消費率の時間変化を示すグラフである。
【
図13】
図13は、
図12の耐久試験における電流指令値と添加剤消費速度との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明の第3実施形態に係る機械装置の劣化診断装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図16】
図16は、エンコーダの温度と、グリースの温度の測定結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、グリースの熱劣化試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本発明の基礎となった知見(1))
本発明者等は、減速機が設けられた産業用ロボットの残余寿命を精度良く予測することを可能にすべく鋭意検討した。産業用ロボットに使用される減速機は、運転時間にしたがって転動部などが摩耗し潤滑用のグリースに混ざるようになる。これら部品は異常摩耗による故障が多く、異常摩耗が生じるとグリース中により大量の鉄粉が混ざるようになる。グリース中の鉄粉量(摩耗量)は、減速機の稼働による摩耗の進行にしたがって、徐々に増加し、故障状態になる前に異常摩耗により鉄粉が急激に増加することが知られている。従来から、このような鉄粉含有量の変化傾向に基づいて、センサにより摩耗量(グリース鉄粉含有量)を検知し、故障予知する故障予知方法があった。しかし、従来の方法では、異常摩耗による鉄粉の異常増加を検知することにより、故障を予知するため、異常摩耗の発生段階よりも前の段階では故障に至るまでの劣化の傾向をとらえることができず、故障の予測精度には限界があった。
【0022】
ところで、グリース中には添加剤が一定量溶解されているが、機械装置の稼働と共に徐々に固体化していき、その結果、グリースの性能が劣化する。そこで、本発明者等は、グリースの劣化に着目し、産業用ロボットの減速機の耐久試験を実施した。産業用ロボットとして、6軸多関節ロボットが用いられた。耐久試験は、ロボットに、第2関節の減速機及びモータに大きな負荷がかかる姿勢を取らせて行われた。即ち、ロボットアームをほぼ水平状態に伸ばした姿勢で行われた。そして、耐久試験の過程において、第2関節の減速機の摩耗状態が確認された。摩耗状態の確認は、定期的に減速機のグリースからその鉄粉濃度を確認することによって行われた。また、摩耗状態の確認に合わせてグリースに含まれる添加剤の消費率を測定した。ここで添加剤の消費率とは、製品出荷時の添加剤の含有量に対する析出された添加剤の量の割合である。尚、添加剤には、摩擦調整剤(MoDTP:Mo系)や極圧剤(ZnDTP:Zn系)、耐摩耗剤等が含まれるが、ここでは、分析対象を元素Pとし、蛍光X線分析法を用いて、本来、溶解されているべき添加剤(P成分)がスラッジとして析出された量を測定した。測定結果に基づいて添加剤の消費率を算出した。
【0023】
図4~
図6は、耐久試験の測定結果を示すグラフである。
図4~
図6において、X軸はロボット(マシン名:BX200)の第2関節(JT2)の減速機の稼働日数を表している。
図4は、耐久試験におけるグリース中に含まれる鉄粉濃度(%)の時間変化を示すグラフである。
図4に示すように、グリース中の鉄粉量(摩耗量)は、減速機の稼働による摩耗の進行にしたがって、徐々に増加し、故障状態になる前に異常摩耗により鉄粉が急激に増加する。
図5は、耐久試験における添加剤消費率(%)の時間変化を示すグラフである。
図5に示すように、添加剤(P成分)の消費率(%)は、試験開始から100日を経過するまでに線形的に増加しており、直線で近似することができる。つまり、添加剤の消費率の変化傾向は、添加剤の消費率の測定結果から見出すことができる。本実施形態では、発明者等は、添加剤の消費率の変化傾向は線形的な増加傾向であることを見出した。
【0024】
図6は、鉄粉濃度と添加剤消費率との関係を示すグラフである。
図6において、白丸は
図4の鉄粉濃度(%)の測定結果を示し、黒丸は
図5の添加剤消費率(%)の測定結果を示している。
図6に示すように、鉄粉濃度は、減速機の稼働による摩耗の進行にしたがって、徐々に増加し、故障状態になる前に異常摩耗により鉄粉が急激に増加する。一方、添加剤の消費率は、線形的に増加する。つまり、添加剤は、故障直前の摩耗量(鉄粉濃度)の急激な増加に先立って、線形的に消費し、添加剤の完全消費(消費率100%)によって故障(異常摩耗)が生じている。
【0025】
本発明者等は、上記耐久試験の結果の有効性を確認すべく、条件を変更して追加の試験を実施した。具体的には、ロボットの種類や、関節、ロボットの設置場所、実施時期を変更して実施した。
図7は、条件を変更した場合の耐久試験における添加剤消費率と鉄粉濃度との関係も示すグラフである。
図7に示すように、同じ関節(JT2)の減速機であってもロボットの種類(マシン名:BX300)が異なれば添加剤消費率の数値が異なる。また、同じ種類のロボット(マシン名:BX200)であっても異なる関節(JT3)の減速機であれば添加剤消費率の測定値が異なる。発明者等は、測定結果から、ロボットの種類や減速機が異なる場合でも、いずれの添加剤消費率も線形的に増加する変化傾向であることを見出した。尚、添加剤の消費率の変化傾向が線形的な増加傾向であるとは、厳密な意味での線形増加に限定されない。
図7の測定結果は、測定値が増加した後、一旦僅かに減少し、その後、線形的に増加するような場合も含んでいる。このような場合でも1又は2以上の直線で近似することが可能であるので線形的な増加傾向に含まれる。これらの耐久試験の結果から、本発明者等は、添加剤は、故障直前の減速機の摩耗量(鉄粉濃度)の急激な増加に先立って、線形的に消費するという変化傾向と、添加剤の完全消費(消費率100%)により故障(異常摩耗)が生じることを発見した。
【0026】
これらの知見によれば、添加剤の消費率の線形的な変化傾向を予め記憶しておくことにより、異常摩耗が発生するより前の段階で故障に至るまでの劣化の傾向を捉えることができるので、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、機械装置の劣化を診断することができる。
【0027】
なお、以上の知見を、軸受や減速機が設けられたロボットに限らず、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置(例えば油圧ポンプ)の劣化診断にも適用することができることは明らかである。
【0028】
本発明者等は、以上の知見に基づいて本発明を想到した。以下、本発明を具体化した実施形態を、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0029】
(第1実施形態)
[構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る機械装置の劣化診断装置の構成を示す機能ブロック図である。まず、劣化診断装置1の対象である減速機12及び当該減速機12を備える機械装置10について説明する。
【0030】
機械装置10は、動作部11と、動作部11を駆動するモータ13と、モータ13の回転動力を減速して動作部11に伝達する減速機12と、モータ13の回転位置を検出するエンコーダ15と、モータ13に供給する電力(ここでは電流)を制御して、モータ13の回転を制御するモータ制御部14と、を含む。
【0031】
機械装置10は、動作部11を含むものであればよい。機械装置10として、典型的には産業用ロボットが挙げられる。機械装置10として、これ以外に、工作機械等が例示される。
【0032】
減速機12は、モータ13の回転動力を減速して動作部11に伝達するものであればよい。減速機12は、例えば、入力軸の回転動力を減速機構(図示せず)によって減速し、減速した回転動力を、出力軸12aに出力する。入力軸として、
図1には、モータ13の回転軸13aが例示されているが、例えば、他の動作部の出力軸であってもよい。また、減速機構として、典型的には歯車減速機構が例示されるが、それ以外の減速機構であってもよい。本実施形態では、減速機12のギアには潤滑剤としてグリースが使用されるが、潤滑用の油でもよい。
【0033】
モータ13はサーボモータであり、ブラシレスモータ、直流モータでもよい。しかし、誘導電動機等の他のモータであってもよい。サーボモータが用いられる場合は、エンコーダ15を併用して、動作部11の位置制御が行われる。モータ13の設置場所は、機械装置10の静止部でも、動作部でもよい。産業用ロボットの場合、モータ13は、第1関節を除いて、各関節において各関節より先のアーム部材を駆動するために設けられるので、第1関節以外の関節ではモータ13は動作部に設けられる。第1関節では静止部に設けられる。
【0034】
エンコーダ15は、モータ13の回転軸13aに設けられる。エンコーダ15は、モータ13の回転角(回転位置)21を検出するものであればよい。なお、モータ13が、誘導電動機等によって構成され、動作部11の位置制御が行われない場合は、例えば、エンコーダ15に代えて回転数検知器が用いられる。
【0035】
モータ制御部14は、モータ13に、電圧又は電流が制御される(
図1では電流が制御される)電力を供給して、モータ13を駆動する。モータ制御部14は、周知であるので、その具体的な説明を省略する。
図1では、モータ制御部14が電流センサ(図示せず)を備えていて、モータ13に供給する電流(モータ13の負荷電流)を検知し、その検知した電流22をコントローラ20に出力する。電流センサは、モータ制御部14の外部に設けられてもよい。
【0036】
コントローラ20は、エンコーダ15から入力されるモータ13の回転角21とモータ制御部14の電流センサから入力されるモータ電流22に基づいて、電流指令値23を生成し、それをモータ制御部14に出力する。典型的にはコントローラ20は、ロボットコントローラが挙げられる。モータ制御部14は、電流指令値23に従った電流の電力をモータ13に出力する。かくして、コントローラ20は、モータ13の回転角及びトルクをフィードバック制御する。
【0037】
次に、劣化診断装置1を説明する。劣化診断装置1は、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、機械装置10の劣化を診断する。本実施形態では、劣化診断装置1は、演算装置で構成される。演算装置としては、例えば、パーソナルコンピュータ、マイクロコントローラ等のプログラム(ソフトウェア)に従って動作するものの他、論理回路、電子回路等のハードウエアが例示される。劣化診断装置1は、ここでは、プログラムに従って動作する演算器で構成される。劣化診断装置1(演算器)は、演算部と記憶部とを有し、演算部が記憶部に格納された所定のプログラム読み出して実行することにより、所定の動作を行う。劣化診断装置1は、記憶部2と、判定部3と、出力部4と、を含む。尚、判定部3は、上述の所定のプログラムが実行されることによって実現される機能部であり、実際には上記演算器が判定部3として動作する。また、劣化診断装置1は本実施形態ではコントローラ20と通信可能に接続され、機械装置10の稼働状況に関するデータを受信可能に構成される。
【0038】
記憶部2は、減速機12の稼働に従って、ギアに使用されるグリースに配合された添加剤の消費率が変化する変化傾向に関するデータを、予め記憶しておくように構成される。記憶部2に記憶されるデータは、後述する劣化診断に用いられる。
【0039】
判定部3は、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する。本実施形態では、判定部3は、コントローラ20から機械装置10の稼働状況に関するデータを取得し、記憶部2に記憶された添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、現在の添加剤の消費率を算出する。そして、現在の添加剤消費率が、予め設定された閾値に到達するまでの期間を算出し、使用の残時間(又はグリース余寿命)を判定する。
【0040】
出力部4は、判定部3による判定結果(使用の残時間又はグリース余寿命)を出力する。出力部4は、例えば判定結果を表示する表示器又は警報器、判定結果を外部に送信する送信器、判定結果を印刷する印刷器等で構成される。
【0041】
[動作]
次に、以上のように構成された劣化診断装置1の動作を説明する。なお、劣化診断装置1の動作は、本実施形態に係る劣化診断方法でもある。
図2は、
図1の劣化診断装置1の動作を示すフローチャートである。尚、動作に先立って、劣化診断装置1の記憶部2には、減速機12の稼働に従って、ギアに使用されるグリースに配合された添加剤の消費率の変化傾向が、予め記憶されている。
【0042】
まず、機械装置10であるロボットが動作される。この状態において、劣化診断装置1は、コントローラ20から機械装置10(ロボット)の稼働状況に関するデータ(サイクル数)を取得する(
図2のステップS11)。
【0043】
次に、劣化診断装置1は、記憶部2に予め記憶された添加剤消費率の変化傾向に関するデータを読み出す(
図2のステップS12)。
図3は、添加剤消費率の変化傾向に関するデータの一例を示すグラフである。尚、
図3のデータは、上記耐久試験の結果(
図6参照)に基づいて作成されたものである。
図3において、X軸はロボット(マシン名:BX200)の第2関節(JT2)の減速機12の稼働(サイクル数)を表し、Y軸は減速機12に使用されるグリースに含まれる鉄粉濃度(%)とともに添加剤(P成分)の消費率(%)を表す。
図3に示すように、添加剤の消費率の変化傾向は、線形的な増加傾向であり、直線で近似されている。
【0044】
次に、劣化診断装置1は、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、機械装置10の劣化を診断する。具体的には、判定部3は、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する(
図2のステップS13)。判定部3は、コントローラ20から機械装置10(ロボット)の稼働状況に関するデータを取得し、記憶部2から読み出された添加剤の消費率の変化傾向(
図3の直線)に基づいて、現在の添加剤の消費率(
図3では30%)を算出する。そして、現在の添加剤消費率(
図3では30%)が、予め設定された閾値(
図3では添加剤消費率90%)に到達するまでの期間を算出し、使用の残時間(又はグリース余寿命)を判定する。尚、本実施形態では、閾値は添加剤消費率90%に設定したが、グリースの種類や減速機の構成部品等のその他の要因によって適宜変更されてもよい。
【0045】
最後に、劣化診断装置1は、判定結果を出力する(
図2のステップS14)。具体的には、出力部4は、判定部3による判定結果(使用の残時間又はグリース余寿命)を出力する。
尚、本実施形態に係る劣化診断方法(
図2参照)は、劣化診断装置1(
図1参照)において実行される劣化診断装置1の動作であったが、本実施形態の劣化診断方法は作業者によって実行されてもよい。例えば
図2のステップS11~S14の全ての動作を作業者が行ってもよいし、一部の動作(例えばステップS12及びS13)を作業者が行ってもよい。また、作業者によって劣化診断方法が実行される場合は、上述した添加剤の消費率を測定するステップ、および、添加剤の消費率の測定値に基づいて添加剤の消費率の変化傾向を導出するステップを含んでもよい。
【0046】
[作用効果]
以上に説明したように、本実施形態によれば、機械装置10の稼働に伴う添加剤の消費率の変化傾向を予め記憶しておくことにより、異常摩耗が発生するより前の段階で故障に至るまでの劣化の傾向を捉えることができるので、添加剤の消費率の変化傾向に基づいて、機械装置の劣化を診断することができる。添加剤の消費率が、予め設定された閾値に到達するまでの期間を判定することにより、機械装置10の残余寿命を精度良く予測することができる。
【0047】
また、添加剤の消費率の変化傾向は、線形的な増加傾向であるので、添加剤の消費率の変化傾向を直線で近似することができる(
図3参照)。これにより、添加剤の消費率が予め設定された閾値に到達するまでの期間を判定しやすくなる。
【0048】
(本発明の基礎となった知見(2))
本発明者等は、ロボットの残余寿命の予測精度を更に向上すべく鋭意検討した。一般に産業用ロボットが多種類の動作を行う場合、出力は負荷に応じて変動する。そこで、本発明者等は、産業用ロボットの減速機の耐久試験を、減速機及びモータに異なる負荷をかけながら複数回実施した。
図12は、異なる負荷で複数回実施した耐久試験における電流指令値と添加剤消費率との関係を示すグラフである。上段のグラフは、耐久試験における電流指令値I2(A)の時間変化を表す。下段のグラフは、電流指令値I
2(A)に応じた添加剤消費率(%)の測定値の時間変化を示す。尚、I2電流指令値I2は実効値であるが、ピーク値でもよいし、実電流(実測値)でもよい。
【0049】
図12のグラフに示すように、電流指令値I2(A)が30~36(A)の範囲に在る場合は、添加剤はほぼ線形的に消費された結果、添加剤消費率(%)が100日前後の稼働で完全に消費している。電流指令値I2(A)が24~26(A)の範囲に在る場合は、添加剤はほぼ線形的に消費された結果、添加剤消費率(%)は250日を超える稼働で完全に消費している。電流指令値I2(A)が22~24(A)の範囲に在る場合は、添加剤はほぼ線形的に消費された結果、添加剤消費率(%)は350日を超える稼働で完全に消費している。電流指令値I2(A)が20~22(A)の範囲に在る場合は、添加剤はほぼ線形的に消費された結果、添加剤消費率(%)は400日を超える稼働で完全に消費している。電流指令値I2(A)が18~20(A)の範囲に在る場合は、添加剤はほぼ線形的に消費された結果、添加剤消費率(%)は500日を超える稼働で完全に消費している。
【0050】
また、本発明者等は、添加剤に含まれる成分のうち極圧剤と摩擦調整剤のそれぞれの消費率について試験を実施し、有効性について確認を行った。その結果、極圧剤の消費率の線形性、及び、電流指令値との相関性について確認できた。一方で、摩擦調整剤の消費率は、電流指令値I2(A)と共に急激に減少したため、摩擦調整剤と電流指令値との相関性については確認することができなかった。従って、本発明者等は、添加剤の成分のうち、極圧剤(消費率)が劣化診断への寄与率が高いと結論付けた。従って、以下では、添加剤の消費率とは、厳密には、極圧剤の消費率を意味する。尚、極圧剤には、耐摩耗剤を含んでもよい。
【0051】
以上のように、添加剤は、電流指令値I2(A)に応じてほぼ線形的に消費されるが、電流指令値I2(A)が大きい場合は負荷(出力)も大きいため、添加剤の消費速度は速くなるが、電流指令値I2(A)が小さくなるに従って添加剤の消費速度は遅くなっている。
図13は、
図12の耐久試験における電流指令値I2(A)と添加剤消費率(%)の測定値に基づいた添加剤の消費速度(%/日)との関係を示したグラフである。
図13において、グラフ中の丸は測定値を表し、破線は回帰分析により導き出した関係式を表す。ここでは最小二乗法により電流指令値I2(A)と添加剤の消費速度(%/日)が当てはまるような関係式(1)を導出した。
【0052】
添加剤の消費速度(%/日)=R × (I2)2・・・(1)
ここでRは係数で表し、I2は電流指令値の平均値を表す。式(1)より、添加剤の消費速度(%/日)は、電流指令値I2(A)の二次関数(放物線)で表現することができる。尚、添加剤の消費速度(%/日)は、添加剤消費率(%)の測定値に基づいているため、添加剤の消費速度(%/日)と電流指令値I2(A)との関係は、厳密な意味での二次関数(放物線)で表現される場合に限定されず、一定の相関関係で表現することができればよい。本発明者等は、耐久試験の結果から、電流指令値I2(A)と添加剤消費率(%)には相関関係が認められることを見出した。
【0053】
これらの知見によれば、産業用ロボットにおいて、添加剤の消費率は、モータの電流指令値の関数で表現することができるので、電流指令値を常時監視して、上記関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。
【0054】
なお、以上の知見を、軸受や減速機が設けられたロボットに限らず、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置(例えば油圧ポンプ)にも適用することができることは明らかである。
【0055】
本発明者等は、以上の知見に基づいて本発明を想到した。以下、本発明を具体化した実施形態を、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態の劣化診断装置の基本的な構成は、第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0057】
図8は、本発明の第2実施形態に係る劣化診断装置1Aの構成を示す機能ブロック図である。
図8に示すように、本実施形態では、第1実施形態(
図1)と比較すると、劣化診断装置1Aが電流指令値の時系列データを取得する電流指令値取得部5を更に備える点が異なる。
【0058】
電流指令値取得部5は、ここでは、コントローラ20から入力される電流指令値23を取得する(そして、一時的に保存する)。なお、電流指令値は、モータの負荷電流に対する測定値の偏差に応じた指令信号であり、モータの負荷電流と遜色ない結果が得られる。
【0059】
判定部3Aは、電流指令値取得部5により取得した電流指令値の時系列データに基づいて、関数の時間積分値を算出することにより、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する。
【0060】
[動作]
次に、以上のように構成された劣化診断装置1Aの動作を説明する。なお、劣化診断装置1Aの動作は、本実施形態に係る劣化診断方法でもある。
図9は、
図8の劣化診断装置1Aの動作を示すフローチャートである。
【0061】
まず、機械装置10であるロボットが動作される。この状態において、劣化診断装置1Aは、コントローラ20から電流指令値23の時系列データを取得する(
図9のステップS21)。
【0062】
次に、劣化診断装置1Aは、電流指令値取得部5により取得した電流指令値の時系列データに基づいて、添加剤の消費率を表す関数の時間積分値を算出する(
図9のステップS22)。尚、添加剤の消費率は、上述したように、電流指令値の二次関数(式(1)参照)で表現される。
【0063】
次に、劣化診断装置1Aは、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する(
図9のステップS23)。
図10は、劣化診断装置1Aにおいて算出される電流指令値I2の関数の時間積分値を示すグラフである。
図10において、実線は添加剤消費率を表し、破線はグリース余寿命を表し、ハッチングは関数の積分値を表す。
図10に示すように、判定部3Aは、電流指令値取得部5により取得した電流指令値I2の時系列データに基づいて、関数の時間積分値を算出することにより、添加剤の消費率が、予め設定された閾値(添加剤消費率の70%)に到達するまでの期間を算出し、使用の残時間(又はグリース余寿命)を判定する。尚、本実施形態では、閾値は添加剤消費率70%に設定したが、グリースの種類や減速機の構成部品等のその他の要因によって適宜変更されてもよい。
【0064】
最後に、劣化診断装置1Aは、判定結果を出力する(
図9のステップS24)。具体的には、出力部4は、判定部3による判定結果(使用の残時間又はグリース余寿命)を出力する。
図11は、劣化診断結果の表示画面の一例である。
図11に示すように、X軸は稼働日数が表示され、Y軸は電流指令値の実効値が表示されている。画面に下側には、現在のグリース余寿命(10%)、及び、使用残り時間(16日)が表示されている。
尚、本実施形態に係る劣化診断方法(
図9参照)は、劣化診断装置1A(
図8参照)において実行される劣化診断装置1Aの動作であったが、本実施形態の劣化診断方法は作業者によって実行されてもよい。例えば
図9のステップS21~S24の全ての動作を作業者が行ってもよいし、一部の動作(例えばステップS22及びS23)を作業者が行ってもよい。また、作業者によって劣化診断方法が実行される場合は、電流指令値I2(A)と添加剤消費率(%)との間の一定の相関関係を導出するステップも含んでもよい。
【0065】
[作用効果]
以上に説明したように、本実施形態によれば、添加剤の消費率を、モータの電流指令値の二次関数(式(1)参照)で表現することができるので、電流指令値を常時監視して、関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。
【0066】
尚、本実施形態では、最小二乗法により添加剤消費率と電流指令値との関係式を導出したが、その他の回帰分析手法で関係式を導出してもよい。また、添加剤消費率は、電流指令値の二次関数に限らず、3次以上の関数で表現してもよい。
【0067】
尚、本実施形態では、添加剤の消費率は、電流指令値の関数(電流指令値の二乗の関数)で表現したが、減速機の出力は負荷に応じて変動するため、電流指令値の関数に限られない。換言すれば、添加剤の消費率は、出力に関する指令値及び測定値の少なくとも一方の関数で表現してもよい。具体的には、添加剤の消費率は、モータ電流22の関数(例えばモータ電流22の測定値の二乗の関数)として表現してもよいし、エンコーダ15から入力されるモータ13の回転角に基づいて算出される角速度の関数(例えば角速度の二乗の関数)として表現してもよい。また、電流指令値と回転角の角速度の双方の関数(例えば電流×角速度の関数)で表現してもよい。これにより、これらの値を常時監視して、関数の時間積分値を算出することにより、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定することができる。
【0068】
(本発明の基礎となった知見(3))
本発明者等は、ロボットの残余寿命の予測精度を更に向上すべく、添加剤の消費率に影響するその他の要因としてグリース(潤滑剤)の温度に着目した。産業用ロボットでは、モータの回転位置を検出するエンコーダに温度監視用の温度センサが設けられる。そこで、本発明者等は、まず、エンコーダの温度センサで検出された温度と、そのときのグリースの温度とを測定し、両者の関係について調査した。
図16は、エンコーダの温度と、グリースの温度の測定結果を示すグラフである。ここでは縦軸がグリースの温度を示し、横軸がエンコーダの温度を示している。ここではロボットに一定の動作を繰り返し行わせることにより耐久試験を実施した。グラフは、ロボットに異なる動作を繰り返し行わせた場合の2つの試験結果(菱形のプロット及び四角形のプロット)を示している。エンコーダの温度上昇に比例して、減速機内のグリースの温度も上昇している。つまり、温度センサで検出されたエンコーダの温度と、グリースの温度とは線形的な相関関係があることがわかった。これにより、両者の線形的な相関関係から、産業用ロボットにおいて新たなセンサを追加することなく、エンコーダ温度の検出値からグリースの温度を推算することができる。
【0069】
次に、発明者等は、グリースの温度が、グリースに含まれる添加剤の消費率にどのように影響するかを調べた。具体的には、グリースの熱劣化試験を実施し、グリースを一定時間加熱したときの添加剤の消費率の変化を確認した。ここではグリースの温度が60℃、80℃、グリースの温度が120℃の状態から、一定時間グリースを加熱しながら測定を行った。
図17は、その結果を示すグラフである。縦軸は添加剤の消費率を示し、横軸は加熱時間を示している。添加剤の消費率は、グリースの温度が60℃(グラフ中の四角形のプロット)と80℃(グラフ中の三角形のプロット)では長時間加熱しても低いままである。これに対し、グリースの温度が120℃(グラフ中の丸形のプロット)では加熱することにより急激に上昇している。添加剤の消費率は、グリースの温度が70℃以下であれば加熱の影響は無視できるが、グリースの温度が70℃を超えると加熱の影響が顕著になる。これらの試験結果から、グリースの温度が60℃から120℃の範囲において、公知の手法であるアレニウスの式を用いて、添加剤の反応速度を推定することができる。添加剤の消費率のうち、グリースの温度に依存する関数を、潤滑剤の温度における反応の速度定数と、単位時間当たりの添加剤の残存率との積で表現することができる。
【0070】
これにより、添加剤の消費率は、グリースの温度に依存する関数と、グリースの温度に依存しない関数に分けることができる。ここで添加剤の消費率は、減速機の仕事(トルクと減速機の軸の角速度との積)に比例すると考えることができるので、添加剤の消費率のうち、グリースの温度に依存しない関数は、モータの電流指令値、及び、減速機の軸の角速度の関数で表現することができる。尚、減速機の軸の角速度は、モータの回転角の角速度から算出することができるので、グリースの温度に依存しない関数は、モータの電流指令値、及び、モータの回転角の角速度の関数で表現することができる。
【0071】
従って、以上の知見によれば、産業用ロボットにおいて、添加剤の消費率は、モータの電流指令値、及び、モータの回転角の角速度の関数である第1の関数と、潤滑剤の温度の測定値の関数である第2の関数の和で表現することができるので、モータの電流指令値、エンコーダの検出値とともに、潤滑剤の温度を常時監視して、この関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。
【0072】
なお、以上の知見を、軸受や減速機が設けられたロボットに限らず、ギアを介して動力を伝達する動力伝達機構が設けられた機械装置(例えば油圧ポンプ)にも適用することができることは明らかである。
【0073】
本発明者等は、以上の知見に基づいて本発明を想到した。以下、本発明を具体化した実施形態を、添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0074】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態の劣化診断装置の基本的な構成は、第2実施形態と同様である。以下では、第2実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0075】
図14は、本発明の第3実施形態に係る劣化診断装置1Bの構成を示す機能ブロック図である。
図14に示すように、本実施形態では、第2実施形態(
図8)と比較すると、劣化診断装置1Bが、グリースの温度に関する時系列データを取得する温度データ取得部6を更に備える点が異なる。
【0076】
また、エンコーダ15には温度監視用の温度センサ16が設けられ、コントローラ20は、温度センサ16で検出されたエンコーダ15の温度データを取得する(そして、一時的に保存する)。コントローラ20は、エンコーダ15の温度の値が所定の温度(例えば90℃)以上になるとロボットの動作を停止する安全機能を備えている。本実施形態では、コントローラ20は、温度センサ16で検出されたエンコーダ15の温度の値から線形的な相関関係に基づいて、グリースの温度を推算し、グリース温度の推算値24を温度データ取得部6に出力するようになっている。
【0077】
温度データ取得部6は、コントローラ20から入力されるグリース温度の推算値24を取得し、グリース温度の推算値24に関する時系列データを判定部3Bに出力する。
【0078】
また、本実施形態では、劣化診断装置1Bが、減速機12の軸の角速度を取得する角速度取得部7を更に備えている。コントローラ20は、モータ13の回転角21から減速機12の軸の角速度25を算出し、これを角速度取得部7に出力するようになっている。
【0079】
角速度取得部7は、減速機12の軸の角速度25を取得し、減速機12の軸の角速度25に関する時系列データを判定部3Bに出力する。
【0080】
判定部3Bは、入力された時系列データに基づいて、関数(第1の関数と第2の関数との和)の時間積分値を算出することにより、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する。
【0081】
[動作]
次に、以上のように構成された劣化診断装置1Bの動作を説明する。なお、劣化診断装置1Bの動作は、本実施形態に係る劣化診断方法でもある。
図15は、
図14の劣化診断装置1Bの動作を示すフローチャートである。
【0082】
まず、機械装置10であるロボットが動作される。この状態において、劣化診断装置1Bは、コントローラ20から電流指令値23、及び、減速機12の軸の角速度25の時系列データを取得する(
図15のステップS21-1)。一方で、劣化診断装置1Bは、コントローラ20からグリースの温度の推算値24の時系列データを取得する(
図15のステップS21-2)
【0083】
次に、劣化診断装置1Bは、モータの電流指令値23、及び、減速機12の軸の角速度25の関数である関数と、グリース温度の推算値24の関数である関数との和で表現される関数の時間積分値を算出する(
図15のステップS22-1)。
【0084】
次に、劣化診断装置1Bは、添加剤の消費率が、予め設定された値に到達するまでの期間を判定する(
図15のステップS23)。
【0085】
最後に、劣化診断装置1Bは、判定結果を出力する(
図15のステップS24)。具体的には、出力部4は、判定部3Bによる判定結果(使用の残時間又はグリース余寿命)を出力する。
【0086】
尚、本実施形態に係る劣化診断方法(
図15参照)は、劣化診断装置1B(
図14参照)において実行される劣化診断装置1Bの動作であったが、本実施形態の劣化診断方法は作業者によって実行されてもよい。例えば
図15のステップS21-1~S24の全ての動作を作業者が行ってもよいし、一部の動作(例えばステップS21-1及びS21-2)を作業者が行ってもよい。
【0087】
[作用効果]
以上に説明したように、本実施形態によれば、添加剤の消費率を、モータの電流指令値23、及び、減速機12の軸の角速度25の関数である第1の関数と、グリース温度の推算値24の関数である第2の関数の和で表現することができるので、モータの電流指令値、エンコーダの検出値とともに、グリースの温度を常時監視して、この関数の時間積分値を算出することにより、ロボットの残余寿命を精度良く予測することができる。
【0088】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、減速機などの動力伝達機構が設けられた機械装置の劣化診断に有用である。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1B 劣化診断装置
2 記憶部
3,3A,3B 判定部
4 出力部
5 電流指令値取得部
6 温度データ取得部
7 角速度取得部
10 機械装置
11 動作部
12 減速機
12a 出力軸
13 モータ
13a 回転軸
14 モータ制御部
15 エンコーダ
16 温度センサ
20 コントローラ
21 回転角
22 電流
23 電流指令値
24 グリースの温度
25 減速機の軸の角速度