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特許7126514アミノピリジン誘導体化合物の塩、その結晶形態、及びその調製プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】アミノピリジン誘導体化合物の塩、その結晶形態、及びその調製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/04 20060101AFI20220819BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20220819BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220819BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C07D403/04 CSP
A61K31/5377
A61P43/00 111
A61P35/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019556610
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 KR2018004473
(87)【国際公開番号】W WO2018194356
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0051687
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516006530
【氏名又は名称】ユハン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】YUHAN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】オ,サン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン ギュン
(72)【発明者】
【氏名】オ,セ-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,タエ ドン
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ソ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー,セオン ラン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン バエ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヨン サン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ウォ ソブ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジョン キ
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン キュン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060443(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 403/04
A61K 31/5377
A61P 43/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩。
【化1】
【請求項2】
結晶形態である、請求項1に記載のメシラート塩。
【請求項3】
前記結晶形態が、PXRD(粉末X線回折)グラフにおいて、5.614±0.2、12.394±0.2、14.086±0.2、17.143±0.2、18.020±0.2、19.104±0.2、21.585±0.2、22.131±0.2、及び22.487±0.2度の2θ(シータ)角度で存在する回折ピークを有する結晶形態(I)である、請求項2に記載のメシラート塩。
【請求項4】
前記結晶形態が、PXRDグラフにおいて、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487度の2θ角度で存在する回折ピークを有する、請求項2に記載のメシラート塩。
【請求項5】
前記結晶形態が、DSC(示差走査熱量測定)グラフにおいて210~230℃に吸熱転移ピーク値を有する、請求項2に記載のメシラート塩。
【請求項6】
前記結晶形態が、DSCグラフにおいて217±2℃に吸熱転移ピーク値を有する、請求項2に記載のメシラート塩。
【請求項7】
下記式1で表される、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の調製プロセスであって、
(1)下記式2で表される化合物と、単一の有機溶媒又は混合溶媒とを混合し、次いでメタンスルホン酸を添加して、前記式1で表されるメシラート塩の混合物を調製することと、
(2)前記混合物に有機溶媒を添加して、前記式1で表されるメシラート塩を結晶化させること(ここで前記工程(2)で使用される前記有機溶媒がアセトンである)と
を含む、プロセス。
【化2】
【請求項8】
前記工程(1)で使用される前記単一の有機溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択されるものである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記工程(1)で使用される前記混合溶媒が、水と、アセトン及びメチルエチルケトンから選択される少なくとも1種の有機溶媒との混合溶媒である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
水と前記有機溶媒との混合比が、体積で1:1~1:10である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記工程(1)が、20~70℃の温度で実施される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項12】
前記工程(1)が、45~60℃の温度で実施される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項13】
前記工程(2)において、前記有機溶媒が、前記式2で表される化合物1gを基準として3mL~20mLの範囲の体積で添加される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩と、医薬的に許容される添加物と、を含む、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩と、医薬的に許容される添加物と、を含む、野生型上皮成長因子受容体(EGFR)と比較して少なくとも1つの変異を有するEGFRの活性を阻害するための医薬組成物。
【請求項16】
前記プロテインキナーゼ媒介疾患が癌である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記癌が、非小細胞肺癌又は脳転移性非小細胞肺癌である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための薬剤の製造のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の使用。
【請求項19】
野生型上皮成長因子受容体(EGFR)と比較して少なくとも1つの変異を有するEGFRの活性を阻害するための薬剤の製造のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式2で表される遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物のメシラート(メタンスルホネート)塩、その結晶形態、及びその調製プロセスに関する。より具体的には、本発明は、安定性、溶解性、及び生物学的利用能に優れ、高純度を有する、下記式2で表される化合物のメシラート塩、その結晶形態、並びにその調製プロセスに関する。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
世界的に、肺癌は、癌死の原因の約3分の1を占め、非小細胞肺癌は、肺癌全体の約80%を占めている。非小細胞肺癌に罹患している患者のうちのごく一部は、手術による治癒が期待されるが、大多数の患者は、局所進行癌又は転移癌を有すると診断される。進行性非小細胞肺癌の治療は、特定の変異の分子マーカーの有無に左右される。上皮成長因子受容体(EGFR)変異が陽性である場合、第一選択治療はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。これらの変異を有する患者は、EGFR TKIの影響を受けやすい。しかしながら、EGFR TKI(例えば、エルロチニブ及びゲフィチニブ)に応答する大多数の患者は、最終的にそれらに対して耐性になり、進行性肺癌へと悪化する。これらの原因の中で、チロシンキナーゼ(TK)ドメインのゲートキーパー残基における点変異であるT790Mは、獲得耐性の約50~60%を占める。したがって、この変異に対する分子標的治療薬が開発中である。更に、EGFR変異を有する非小細胞肺癌の患者の約50%は、診断から3年以内に脳転移を発症するが、現在までに開発されたEGFR TKIは脳内での透過性が低く、したがって脳転移病変の治療は限定される。
【0004】
上記のような遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物は、野生型EGFRにほとんど影響を与えず、T790Mの単一変異及び二重変異(EGFRm)に対して強い阻害活性を有する高度に選択的かつ不可逆的なEGFR TKIであることが知られている。この化合物は、原発癌としての進行性非小細胞肺癌及び脳転移を伴う進行性非小細胞肺癌の患者の治療において、治療に効果的な有効性を有すると期待される。
【0005】
この点に関して、国際公開第2016-060443号は、上記の式2で表される化合物及びその調製プロセスを開示しており、この化合物は、プロテインキナーゼ媒介疾患、特に野生型EGFRと比較して1つ又は2つ以上の変異を有するEGFRの活性を阻害するための薬物として使用することができる。したがって、この化合物は、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬の開発候補として可能性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬物として開発される化合物の可能性を決定するとき、高い薬理活性及び良好な薬理学的プロファイルだけが考慮すべき要因ではない。良好な薬物候補は、不純物を少量しか有しておらず、物理的及び化学的に安定であり、許容可能なレベルの生物学的利用能を示す必要がある。遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物は、水に対する溶解性が低いだけでなく、酸性環境での溶解性も低いため、この化合物は、薬物として使用するとき、その溶解性及び生物学的利用能が優れていないという欠点を有する。したがって、遊離塩基形態と比較して溶解性及び生物学的利用能に優れた、この化合物の製剤を調製することが課題になっている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、遊離塩基形態の化合物の溶解性及び生物学的利用能を高めるために、溶解性及び吸湿性などの様々な物理化学的問題が改善された、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物の医薬的に許容される塩を提供することである。すなわち、溶解性が低い遊離塩基形態の化合物の動物試験の結果として、薬物の吸収率が低く、個体間で吸収率にばらつきが観察されるという問題があった。したがって、この問題を解決するために、本発明の目的は、溶解性及び生物学的利用能が改善された、遊離塩基形態の化合物の医薬的に許容される塩及びその結晶形態を提供することである。
【0008】
その一方で、プロテインキナーゼ媒介疾患に罹患している患者の大部分は、逆流性食道炎、消化不良、及び胃炎などの胃腸疾患を伴う。このような場合、胃酸刺激を予防するために、薬物、例えば、エソメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤又はシメチジンなどのH2受容体拮抗薬が、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬と組み合わせて処方されることが多い。
【0009】
しかしながら、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬が胃酸刺激予防薬と組み合わせて投与される場合、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬の吸収率は、薬物間の相互作用によって変化し得るという問題がある。
【0010】
具体的には、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬が胃酸刺激予防薬と組み合わせて投与される場合、プロテインキナーゼ媒介疾患治療薬の血漿中濃度が減少し、その血漿中濃度がその有効治療域より低くなるという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の別の目的は、臨床診療においてプロテインキナーゼ媒介疾患治療薬と組み合わせて投与される可能性が高い、胃酸刺激を予防する薬物(例えば、プロトンポンプ阻害剤又はH2受容体拮抗薬)と共に投与される場合であっても、生物学的利用能に優れた、遊離塩基形態の化合物の医薬的に許容される塩及びその結晶形態を提供することである。
【0012】
上記の目的を達成することにより、臨床診療において問題となり得る、患者が摂取する食物又は制酸薬の薬物吸収への影響を低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様により、下記式1で表される、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩が提供される。
【0014】
【化2】
【0015】
また、本発明の別の態様により、下記式1で表されるメシラート塩の調製プロセスが提供され、このプロセスは、(1)下記式2で表される化合物と、単一の有機溶媒又は混合溶媒とを混合し、次いでメタンスルホン酸を添加して、式1で表されるメシラート塩の混合物を調製することと、
(2)混合物に有機溶媒を添加して、式1で表されるメシラート塩を結晶化させることと、を含む。
【0016】
【化3】
【0017】
本発明の別の態様により、メシラート塩及び医薬的に許容される添加物を含む、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための医薬組成物が提供される。
【0018】
更に、本発明の別の態様により、メシラート塩及び医薬的に許容される添加物を含む、野生型EGFRと比較して1つ又は2つ以上の変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を阻害するための医薬組成物が提供される。
【0019】
(発明の有利な効果)
本発明により提供されるメシラート塩化合物及びその結晶形態は、他の医薬的に許容される塩と比較して安定性、溶解性、及び生物学的利用能に優れ、高純度を有し、単独だけでなく制酸薬と組み合わせて投与されても上記のように優れた生物学的利用能をもたらすという利点を有する。また、本発明により提供される調製プロセスは、上記の利点を有するメシラート塩化合物を大量に製造することができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1で調製した化合物の粉末X線回折(PXRD)グラフである。
図2】本発明の実施例1で調製した化合物の示差走査熱量測定(DSC)グラフである。
図3】比較例1で調製した化合物(左)及び実施例1で調製した化合物(右)の溶解性試験の結果を示すグラフである(FaSSGF:人工胃液、FaSSIF:人工腸液)。
図4】実施例1で調製した化合物のストレス条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、2週間:2週間後、4週間:4週間後)。
図5】比較例2で調製した化合物のストレス条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、2週間:2週間後、4週間:4週間後)。
図6】比較例3で調製した化合物のストレス条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、2週間:2週間後、4週間:4週間後)。
図7】比較例4で調製した化合物のストレス条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、2週間:2週間後、4週間:4週間後)。
図8】実施例1で調製した化合物の促進条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、1ヶ月:1ヶ月後、3ヶ月:3ヶ月後、6ヶ月:6ヶ月後)。
図9】比較例2で調製した化合物の促進条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、1ヶ月:1ヶ月後、3ヶ月:3ヶ月後、6ヶ月:6ヶ月後)。
図10】比較例3で調製した化合物の促進条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、1ヶ月:1ヶ月後、3ヶ月:3ヶ月後、6ヶ月:6ヶ月後)。
図11】比較例4で調製した化合物の促進条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、1ヶ月:1ヶ月後、3ヶ月:3ヶ月後、6ヶ月:6ヶ月後)。
図12】試験例4において正常ラットで実施した薬物動態比較試験の結果を示すグラフである。
図13】試験例4においてエソメプラゾールで処理したラットで実施した薬物動態比較試験の結果を示すグラフである。
図14】試験例5においてビーグル犬で実施した薬物動態比較試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
用語の説明
特に明記又は定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味を有する。
【0022】
特に明記しない限り、全ての百分率、部、及び比率は重量による。
【0023】
本明細書において、ある部分が要素を「含む」と記載される場合、特に明記しない限り、その部分は他の要素を除外するのではなく、他の要素も含み得ることを理解されたい。
【0024】
本明細書で使用される成分、特性、例えば、分子量、反応条件などに関連して量を表す全ての数字は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されると理解されたい。
【0025】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明は、下記式1で表される、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩に関する。
【0027】
【化4】
【0028】
本発明者らは、遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物と比較して溶解性及び生物学的利用能に優れ、化合物の他の医薬的に許容される塩と比較して安定性、溶解性、及び生物学的利用能に優れ、高純度を有する、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド化合物のメシラート塩を新たに合成し、それによって本発明を完成させた。
【0029】
一般に、塩酸塩は、FDAにより承認された市販化合物の塩の最大割合を占める。次いで、硫酸塩、臭化物、亜塩素酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、及びリンゴ酸塩が、それらの順で大きな割合を占める。メシラート塩は、約2%のみを占める。すなわち、特定の化合物のメシラート塩は、一般的に選択可能な塩ではない。しかし、本発明者らは、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩が、他の医薬的に許容される塩と比較して安定性、溶解性、及び生物学的利用能に優れ、高純度を有することを、繰り返しの研究により見出した。また、本発明者らは、この化合物を大量に調製するために多くの研究を実施した。これにより、本発明者らは本発明を完成させた。
【0030】
本発明の一態様では、上記の式1で表されるメシラート塩は、結晶形態であることを特徴とし、結晶形態は本発明の範囲内にある。医薬化合物の結晶形態は、好適な製剤の開発において重要であり得る。特定の結晶形態は、溶解性、安定性、及び生物学的利用能において改善され、他の結晶形態と比較して高い純度を有し得る。したがって、それらを良好な薬物候補として選択することができる。特定の結晶形態は、熱力学的安定性が改善されるという利点を有する。
【0031】
本発明の一態様では、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態は、結晶形態(I)であってもよい。PXRDグラフにおける回折ピークは、5.614±0.2、12.394±0.2、14.086±0.2、17.143±0.2、18.020±0.2、19.104±0.2、21.585±0.2、22.131±0.2、及び22.487±0.2度の2θ(シータ)角度で存在することが好ましく、PXRDグラフにおける回折ピークは、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487度の2θ角度で存在することがより好ましい。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0032】
本発明の別の態様では、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)は、DSC(示差走査熱量測定)グラフにおいて、210~230℃、好ましくは217±2℃に吸熱転移ピーク値を有してもよく、開始は214±2℃であることが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0033】
更に、本発明は、下記式1で表されるメシラート塩の調製プロセスにも関し、このプロセスは、(1)下記式2で表される化合物と、単一の有機溶媒又は混合溶媒とを混合し、次いでメタンスルホン酸を添加して、式1で表されるメシラート塩の混合物を調製することと、
(2)混合物に有機溶媒を添加して、式1で表されるメシラート塩を結晶化させることと、を含む。
【0034】
【化5】
【0035】
上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)は、この調製プロセスによって調製され得る。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0036】
本発明の一態様では、工程(1)の単一の有機溶媒は、本発明に好適なものであれば特に制限されない。この有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択されるものが好ましい。この単一の有機溶媒を使用すると、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)を安定して製造できるという点で有利である。
【0037】
本発明の別の態様では、工程(1)の混合溶媒は、水と少なくとも1種の好適な有機溶媒との混合溶媒であってもよい。具体的には、水と、アセトン及びメチルエチルケトンから選択される少なくとも1種の有機溶媒との混合溶媒であることが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されない。この混合溶媒を使用すると、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)を安定して製造できるという点で有利である。
【0038】
本発明の別の態様では、水と有機溶媒との混合比は、体積で1:1~1:10、具体的には1:4~1:6であってもよい。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0039】
本発明の一態様では、工程(1)は、20~70℃の温度、好ましくは45~60℃の温度で実施され得る。上記の温度範囲内では、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶質形態(I)の品質が向上するという点で有利である。
【0040】
一方、工程(2)は、これらの混合物に有機溶媒を添加することにより、式1で表されるメシラート塩を結晶化させる工程である。具体的には、工程(2)において、これらの混合物に有機溶媒を添加し、得られた混合物を撹拌し、混合物を冷却及び濾過し、得られた固体を乾燥させることにより、式1で表されるメシラート塩を結晶化することができる。
【0041】
本発明の一態様では、工程(2)で使用される有機溶媒は、工程(1)で使用される単一の有機溶媒と同じでも異なっていてもよい。具体的には、工程(2)で使用される有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0042】
また、工程(2)では、有機溶媒は、式2で表される化合物1gを基準として3mL~20mLの範囲の体積で添加され得る。具体的には、工程(2)では、式2で表される化合物1gを基準として5mL~20mLの範囲の体積で、より具体的には5mL~10mLの範囲の体積で添加され得る。しかし、本発明はこれに限定されない。有機溶媒を上記の体積で添加すると、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)の収率の低下を最小限に抑えることができるという点で有利である。
【0043】
本発明の別の態様では、混合物は、工程(2)において0~30℃の温度、好ましくは0~10℃の温度まで冷却され得る。混合物を上記の温度範囲まで冷却すると、上記の式1で表されるメシラート塩の結晶形態(I)の収率の低下を最小限に抑えることができるという点で有利である。
【0044】
本発明の別の態様では、残留混合物は、工程(2)において冷却後、30~70℃の温度で乾燥され得る。残留混合物を上記の温度範囲で乾燥させると、溶媒残渣を効果的に除去することができるという点で有利である。
【0045】
また、本発明は、上記の式1で表されるメシラート塩と、医薬的に許容される添加物とを含む、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【0046】
更に、本発明は、上記の式1で表されるメシラート塩と、医薬的に許容される添加物とを含む、野生型EGFRと比較して1つ又は2つ以上の変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害するための医薬組成物を提供する。
【0047】
本発明の一態様では、変異は、Del E746-A750、L858R、又はT790Mであってもよく、Del E746-A750/T790M又はL858R/T790Mから選択される二重変異であってもよい。
【0048】
本発明の一態様では、医薬組成物は、同種移植片拒絶、移植片対宿主病、糖尿病性網膜症、加齢による脈絡膜血管新生、加齢性黄斑変性症、乾癬、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、関節炎における滑膜パンヌス形成、多発性硬化症、重症筋無力症、真性糖尿病、糖尿病性血管障害、未熟児の網膜症、乳幼児血管腫、非小細胞肺癌、膀胱癌、頭頸部癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、胃癌、膵臓癌、線維症、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、自己免疫疾患、アレルギー、呼吸器疾患、ぜんそく、移植拒絶、炎症、血栓症、網膜血管増生、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、骨疾患、移植片又は骨髄移植拒絶、狼瘡、慢性膵炎、悪液質、敗血性ショック、線維増殖性及び分化皮膚疾患又は障害、中枢神経系障害、神経変性障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳若しくは脊髄損傷又はエクソン変性後の神経損傷に関連した障害又は状態、急性又は慢性癌、眼疾患、ウイルス感染、心疾患、肺疾患、又は腎疾患、及び気管支炎の予防又は治療に使用され得る。好ましくは、医薬組成物は、急性又は慢性癌、より好ましくは肺癌、最も好ましくは非小細胞肺癌又は脳転移性非小細胞肺癌の予防又は治療に使用され得るが、これらに限定されない。
【0049】
本発明の一態様では、医薬組成物は、野生型EGFRと比較して少なくとも1つの変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害することができ、したがって、疾患の予防又は治療に使用することができる。
【0050】
本発明の化合物は、単独で、又は医薬組成物の一部として治療有効量で投与されてもよく、医薬組成物は、化合物の生物への投与を容易にする。更に、化合物及び組成物は、単独で、又は1つ若しくは2つ以上の追加の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。化合物及び組成物を投与するために様々な技術が存在しており、これには、静脈内投与、吸入、経口投与、直腸投与、非経口、硝子体内投与、皮下投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、経皮投与、局所投与、眼内投与、口腔内投与、気管投与、気管支投与、舌下投与、又は視神経投与が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で提供される化合物は、例えば、経口投与用の錠剤、カプセル、又はエリキシル剤、直腸投与用の座薬、非経口又は筋肉内投与用の無菌溶液又は懸濁液、局所投与用のローション、ゲル、軟膏、又はクリームなどの、公知の医薬剤形として投与される。
【0051】
本発明の医薬組成物に含有される式(1)で表されるメシラート塩の好ましい用量は、患者の状態及び体重、疾患の程度、薬物の種類、投与経路及び持続時間によって異なるが、当業者には適宜選択することができる。一般に、式(I)で表されるメシラート塩の好ましい用量は、約10mg/日~約1000mg/日の範囲であり得る。
【0052】
本発明の医薬組成物に使用される医薬的に許容される添加物としては、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、結合剤、界面活性剤などのように一般的に使用される少なくとも1つの希釈剤又は賦形剤が使用され得る。
【0053】
医薬的に許容される添加物としては、Kollidon、セラック、アラビアガム、タルク、酸化チタン、糖(例えば、サトウキビ)、ゼラチン、水、ラクトース又はグルコースなどの多糖類、パラフィン(例えば、石油留分)、植物油(例えば、ピーナッツ油又はゴマ油)、及び医薬的に許容される有機溶媒、例えば、アルコール(例えば、エタノール又はグリセロール)、天然鉱物粉末(例えば、カオリン、クレイ、タルク、及びチョーク)、合成鉱物粉末(例えば、高分散ケイ酸及びケイ酸塩)、乳化剤(例えば、リグニン、亜硫酸塩液、メチルセルロース、デンプン、及びポリビニルピロリドン)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0054】
本発明は、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための薬剤の製造のために、上記の式1で表されるメシラート塩の使用を提供する。
【0055】
また、本発明は、野生型EGFRと比較して少なくとも1つの変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を阻害するための薬剤の製造のために、上記の式1で表されるメシラート塩の使用を提供する。
【0056】
本発明は、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための方法を提供し、この方法は、上記の式1で表されるメシラート塩を対象に投与する工程を含む。
【0057】
また、本発明は、野生型EGFRと比較して少なくとも1つの変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)の活性を阻害するための方法を提供し、この方法は、上記の式1で表されるメシラート塩を対象に投与する工程を含む。
【0058】
(発明の形態)
以下に、本発明を理解しやすくするために、本発明の好ましい実施例を提供する。ただし、これらの実施例は、単に本発明を説明するものであり、様々な変更及び修正が本発明の範囲内及びその技術的思想内で行われてもよく、そのような変形及び修正が添付の特許請求の範囲内であることは、当業者には明らかであろう。
【実施例
【0059】
実施例1:N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩の調製
【0060】
反応器に、国際公開第2016-060443号に開示されているのと同じプロセスで調製したN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(1,100.0g、1,983.2mmol)、アセトン(4.4L)、及び精製水(1.1L)を投入し、これを45~55℃に加熱しながら撹拌した。メタンスルホン酸(186.8g、1,943.6mmol)を精製水(0.55L)で希釈し、これを45℃以上に維持しながら滴下した。次いで、混合物を30分以上撹拌して、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩の混合物を調製した。
【0061】
その後、混合物中のメシラート塩を結晶化させるために、アセトン(8.8L)を40~50℃で滴下し、30分以上攪拌し、0~5℃に冷却し、3時間以上撹拌した。アセトン(8.8L)を40~50℃に維持しながら滴下し、混合物を30分以上撹拌し、0~5℃に冷却し、3時間以上撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、次いでウェットケーキをアセトン(5.5L)で洗浄した。このようにして得られた固体を55℃で真空乾燥して、1,095.8gの標題化合物を得た(収率:84.9%)。
【0062】
H-NMR(400MHz、DMSO-d)による表題化合物の測定結果は、以下のとおりである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ 9.79(s,1H)、9.35(s,1H)、9.21(s,1H)、8.78(s,1H)、8.59(d,1H)、8.33(s,1H)、7.77(d,2H)、7.55(m,3H)、7.34(d,1H)、6.94(s,1H)、6.71~6.76(q,1H)、6.28~6.31(d,1H)、5.81~5.83(d,1H)、4.48(s,2H)、3.90(s,3H)、3.81~3.83(t,4H)、2.86~2.88(t,4H)、2.66(s,6H)、2.35(s,3H)。
【0063】
示差走査熱量測定(DSC)により標題化合物を測定した。結果として、DSCグラフは、約217℃に吸熱転移ピークを有した。DSC測定は、Mettler Toledo DSC 1 STAR(試料容器:99%窒素及び10℃/分の速度で30℃~300℃の温度上昇の条件下における密封アルミニウムパン)を用いて行った。
【0064】
PXRDにより標題化合物を測定した結果、PXRDグラフにおける回析ピークが、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487度の2θ角度で存在することが示された(図1参照)。化合物のPXRDスペクトルは、Bruker D8 advance(X線源:CuKα、管電圧:40kV/管電流:40mA、発散スリット:0.3、散乱スリット:0.3)を用いて得た。
【0065】
比較例1:遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドの調製
【0066】
遊離塩基の形態のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドを、国際公開第2016-060443号に開示されているのと同じプロセスによって調製した。
【0067】
比較例2:N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドの塩酸塩の調製
【0068】
反応器に、国際公開第2016-060443号に開示されているのと同じプロセスで調製したN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(50.00g、90.1mmol)、アセトン(450mL)、及び精製水(50mL)を投入し、これを0~5℃に冷却した。塩酸(9.39g、90.1mmol)をアセトン(50mL)で希釈し、これを0~5℃に維持しながら滴下した。次いで、混合物を20~25℃に調整し、2時間以上撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、このようにして得られた固体を真空乾燥して、49.91gの標題化合物を得た(収率:93.7%)。
【0069】
実施例1と同じ条件下で標題化合物を測定した。H-NMR(400MHz、DMSO-d)による測定結果は、以下のとおりである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ 10.82(s,1H)、9.36(s,1H)、9.26(s,1H)、8.69(s,1H)、8.57(d,1H)、8.39(s,1H)、7.77(d,2H)、7.49~7.57(m,3H)、7.33(d,1H)、6.94(s,1H)、6.69~6.76(q,1H)、6.28(d,1H)、5.78(d,1H)、4.42(d,2H)、3.89(s,3H)、3.81(s,4H)、2.88(s,4H)、2.58(d,6H)
【0070】
比較例3:N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのクエン酸塩の調製
【0071】
反応器に、国際公開第2016-060443号に開示されているのと同じプロセスで調製したN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(15.00g、27.0mmol)及び酢酸エチル(600mL)を投入し、これを還流下で撹拌して反応混合物を溶解した。クエン酸(5.68g、29.6mmol)をアセトン(25mL)に溶解し、これを50~70℃で滴下した。次いで、反応混合物を20~30℃に冷却し、2時間以上撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、次いでウェットケーキを酢酸エチル(300mL)で洗浄した。このようにして得られた固体を真空乾燥して、粗化合物として20.15gのN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート塩を得た(収率:99.8%)。
【0072】
反応器に、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート塩の粗化合物(18.70g)及び精製水(187mL)を投入し、これを20~30℃で2時間以上撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、このようにして得られた固体を真空乾燥して、15.67gの標題化合物を得た(収率:83.8%)。
【0073】
実施例1と同じ条件下で標題化合物を測定した。H-NMR(400MHz、DMSO-d)による測定結果は、以下のとおりである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ 9.22(s,1H)、9.17(s,1H)、8.97(s,1H)、8.54(d,1H)、8.24(s,1H)、7.93(d,2H)、7.43~7.53(m,3H)、7.33(d,1H)、6.95(s,1H)、6.71~6.78(q,1H)、6.36(d,1H)、5.82(d,1H)、3.90(s,3H)、3.82(s,6H)、2.86(s,4H)、2.50~2.71(d,4H)、2.37(s,6H)
【0074】
比較例4:N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのエシラート塩の調製
【0075】
反応器に、国際公開第2016-060443号に開示されているのと同じプロセスで調製したN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(15.00g、27.0mmol)及びテトラヒドロフラン(300mL)を投入し、これを撹拌した。エタンスルホン酸(2.98g、27.1mmol)をテトラヒドロフラン(45mL)で希釈し、これを20~25℃に維持しながら滴下した。次いで、反応混合物を室温で11時間以上攪拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、このようにして得られた固体を真空乾燥して、標題化合物として16.20gのN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのエシラート塩を得た(収率:90.1%)。
【0076】
表題化合物のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドエシラートを、実施例1と同じ条件下で測定した。H-NMR(400MHz、DMSO-d)による測定結果は、以下のとおりである。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ 9.69(s,1H)、9.34(s,1H)、9.22(s,1H)、8.75(s,1H)、8.58(d,1H)、8.36(s,1H)、7.77(d,2H)、7.52~7.58(q,3H)、7.33(d,1H)、6.94(s,1H)、6.69~6.76(q,1H)、6.26(d,1H)、5.80(d,1H)、4.46(s,2H)、3.89(s,3H)、3.82(s,4H)、2.87(s,4H)、2.65(s,6H)、2.34~2.39(q,2H)、1.03~1.06(t,3H)
【0077】
試験例
試験例1:溶解性試験
実施例1及び比較例1で調製した化合物を、pHによる溶解性について試験し、人工胃液、人工腸液、水、及びエタノールに対する溶解性を比較した。
【0078】
実施例1で調製した化合物120mg(式2の化合物として100mgに相当)を、以下の表1に記載する各pHを有する緩衝液、人工胃液、人工腸液、水、又はエタノールの5mLに添加し、これを37℃の水浴中で50rpmの条件下で12時間撹拌した。また、比較例1で調製した化合物100mgを上記と同じ条件で試験した。撹拌後、式2で表される溶解化合物の濃度を測定し、実施例1及び比較例1で調製した化合物の溶解性を相対的に比較した。結果を図3及び以下の表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
図3及び上記の表1に示すように、実施例1で調製したメシラート塩形態の化合物は、比較例1で調製した遊離塩基形態の化合物よりも、水に対する溶解性が少なくとも20,000倍高く、人工胃液(FaSSGF)に対する溶解性が約10倍高く、人工腸液(FaSSIF)に対する溶解性が約25倍高かった。
【0081】
試験例2及び3:安定性試験
実施例1及び比較例2~4で調製した化合物を、それぞれ安定性について試験した。5つの化合物を、ストレス条件下及び促進条件下における安定性について試験した。2つの条件を具体的に以下の表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
試験例2:実施例1及び比較例2~4で調製した化合物のストレス条件下における安定性試験
実施例1及び比較例2~4で調製した化合物を、上記の表2に示すようなストレス条件下で安定性についてそれぞれ試験した。結果を図4図7並びに以下の表3及び表4に示す。PXRD及びDSC測定の条件は、実施例1に記載したものと同じである。
【0084】
【表3】
【0085】
また、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)測定の結果を以下の表4に示し、測定条件は以下のとおりである。
移動相緩衝液:250mM酢酸アンモニウム水溶液(移動相A:緩衝液/水/アセトニトリル、移動相B:アセトニトリル、カラム:Xbridge BEH C18 XP)。
【0086】
【表4】
【0087】
試験例3:実施例1及び比較例2~4で調製した化合物の促進条件下における安定性試験
実施例1及び比較例2~4で調製した化合物を、上記の表2に示すような促進条件下で安定性についてそれぞれ試験した。結果を図8図11並びに以下の表5及び表6に示す。PXRD及びDSC測定の条件は、実施例1に記載したものと同じである。
【0088】
【表5】
W:白色、Y:黄色、LY:淡黄色、V:紫色、LV:淡紫色
【0089】
また、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)測定の結果を以下の表6に示し、測定条件は試験例2に記載したとおりである。
【0090】
【表6】
【0091】
上記の安定性試験の結果から、実施例1で調製した化合物は、安定性試験の開始時及び終了時に純度及び含水量の変化がほとんどなく、PXRDパターンに変化がなく、色について観察した外観の変化がないことが示されため、安定性に優れていた。対照的に、比較例2~4の化合物は、実施例1で調製した化合物よりも純度及び含水量の変化が大きいことが示され、PXRDパターン及び外観に一部変化が観察されたため、安定性が劣っていた。
【0092】
試験例4:実施例1及び比較例1で調製した化合物の、正常ラット及びエソメプラゾールで処置したラットにおける薬物動態比較試験
実施例1及び比較例1で調製した化合物を、正常ラット及びプロトンポンプ阻害剤であるエソメプラゾールで処置したラットにおける薬物動態についてそれぞれ試験した。具体的には、正常ラット及びエソメプラゾールで処置したラットにおける最大血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度曲線下面積(AUClast)を比較して、実際の動物における薬物の吸収を評価した。
【0093】
薬物動態パラメータを比較するために、体重約250gの8週齢の雄ラット(SDラット)を試験動物として使用した。また、実施例1及び比較例1で調製した化合物をそれぞれ0.5%メチルセルロース中に懸濁させ、30mg/5mL/kgの投与量で正常ラットに経口投与した。
【0094】
一方、エソメプラゾール(エソメプラゾールマグネシウム二水和物、Sigma-Aldrich)を体重約250gの8週齢の雄ラットに5mg/2mL/kgの投与量で3日間静脈内投与し、このラットに実施例1及び比較例1で調製した化合物を、正常ラットに投与したのと同じ投与量(すなわち、30mg/5mL/kg)でそれぞれ経口投与した。これらから計算した薬物動態パラメータ(すなわち、最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積)の比較を表7並びに図12及び図13に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
上記の結果に示すように、正常ラットにおける遊離塩基形態の化合物(比較例1)の最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積は、メシラート塩形態の化合物(実施例1)のものよりもそれぞれ11.0%及び10.4%低かった。エソメプラゾールで処理したラットにおける前者の最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積は、後者のものよりもそれぞれ47.8%及び49.4%低かった。すなわち、比較例1で調製した化合物は、実施例1で調製した化合物よりもラットへの曝露が低いことが確認された。
【0097】
また、実施例1で調製した化合物の最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積は、エソメプラゾール処理ラットでは正常ラットと比較してそれぞれ47.6%及び36.0%低下した。対照的に、比較例1で調製した化合物の最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積は、エソメプラゾール処理ラットでは正常ラットと比較してそれぞれ69.3%及び63.8%低下した。これらの結果から、実施例1で調製した化合物は、比較例1で調製した化合物よりもエソメプラゾール投与による薬物動態の変化が少ないことが確認され、したがって前者はラットにおいて高い血漿中濃度を維持する。
【0098】
試験例5:実施例1及び比較例1で調製した化合物のビーグル犬における薬物動態比較試験
薬物動態パラメータを比較するために、体重約10kgの15~17ヶ月齢の雄ビーグル犬を試験動物として使用し、実施例1及び比較例1で調製した化合物をそれぞれ0.5%メチルセルロース中に懸濁させ、5mg/2mL/kgの投与量でビーグル犬に経口投与した。これらから計算した薬物動態パラメータ(すなわち、最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積)の比較を表8及び図14に示す。
【0099】
【表8】
【0100】
上記の結果に示すように、ビーグル犬における遊離塩基形態の化合物(比較例1)の最大血漿中濃度及び血漿中濃度曲線下面積は、メシラート塩形態の化合物(実施例1)のものよりもそれぞれ40.1%及び50.4%低かった。これらの結果から、実施例1で調製した化合物は、比較例1で調製した化合物よりもビーグル犬において高い曝露を示したことが確認された。
【0101】
上記のように、本発明によるN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩化合物は、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドの遊離塩基化合物と比較して溶解性及び生物学的利用能に優れ、他のその医薬的に許容される塩と比較して安定性、溶解性、及び生物学的利用能が改善されており、高純度を有するという点において、優れた効果をもたらす。
【0102】
以上において、本発明を好ましい実施例に基づいて説明してきた。しかしながら、構成要素を追加、修正、及び削除することによって、特許請求の範囲に記載される本発明の技術的思想から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができ、そのような変形及び修正が本発明の範囲内であることは、当業者には明らかであろう。
本発明は次の実施態様を含む。
[請求項1]
下記式1で表される、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシラート塩。
【化1】
[請求項2]
結晶形態である、請求項1に記載のメシラート塩。
[請求項3]
前記結晶形態が、PXRD(粉末X線回折)グラフにおいて、5.614±0.2、12.394±0.2、14.086±0.2、17.143±0.2、18.020±0.2、19.104±0.2、21.585±0.2、22.131±0.2、及び22.487±0.2度の2θ(シータ)角度で存在する回折ピークを有する結晶形態(I)である、請求項2に記載のメシラート塩。
[請求項4]
前記結晶形態が、PXRDグラフにおいて、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487度の2θ角度で存在する回折ピークを有する、請求項2に記載のメシラート塩。
[請求項5]
前記結晶形態が、DSC(示差走査熱量測定)グラフにおいて210~230℃に吸熱転移ピーク値を有する、請求項2に記載のメシラート塩。
[請求項6]
前記結晶形態が、DSCグラフにおいて217±2℃に吸熱転移ピーク値を有する、請求項2に記載のメシラート塩。
[請求項7]
下記式1で表される、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の調製プロセスであって、
(1)下記式2で表される化合物と、単一の有機溶媒又は混合溶媒とを混合し、次いでメタンスルホン酸を添加して、前記式1で表されるメシラート塩の混合物を調製することと、
(2)前記混合物に有機溶媒を添加して、前記式1で表されるメシラート塩を結晶化させることと、を含む、プロセス。
【化2】
[請求項8]
前記工程(1)で使用される前記単一の有機溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択されるものである、請求項7に記載のプロセス。
[請求項9]
前記工程(1)で使用される前記混合溶媒が、水と、アセトン及びメチルエチルケトンから選択される少なくとも1種の有機溶媒との混合溶媒である、請求項7に記載のプロセス。
[請求項10]
水と前記有機溶媒との混合比が、体積で1:1~1:10である、請求項9に記載のプロセス。
[請求項11]
前記工程(1)が、20~70℃の温度で実施される、請求項7に記載のプロセス。
[請求項12]
前記工程(1)が、45~60℃の温度で実施される、請求項7に記載のプロセス。
[請求項13]
前記工程(2)で使用される前記有機溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のプロセス。
[請求項14]
前記工程(2)において、前記有機溶媒が、前記式2で表される化合物1gを基準として3mL~20mLの範囲の体積で添加される、請求項7に記載のプロセス。
[請求項15]
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩と、医薬的に許容される添加物と、を含む、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための医薬組成物。
[請求項16]
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩と、医薬的に許容される添加物と、を含む、野生型上皮成長因子受容体(EGFR)と比較して少なくとも1つの変異を有するEGFRの活性を阻害するための医薬組成物。
[請求項17]
前記プロテインキナーゼ媒介疾患が癌である、請求項15に記載の医薬組成物。
[請求項18]
前記癌が、非小細胞肺癌又は脳転移性非小細胞肺癌である、請求項17に記載の医薬組成物。
[請求項19]
プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための薬剤の製造のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の使用。
[請求項20]
野生型上皮成長因子受容体(EGFR)と比較して少なくとも1つの変異を有するEGFRの活性を阻害するための薬剤の製造のための、請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩の使用。
[請求項21]
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩を対象に投与する工程を含む、プロテインキナーゼ媒介疾患を治療するための方法。
[請求項22]
請求項1~6のいずれか一項に記載のメシラート塩を対象に投与する工程を含む、野生型上皮成長因子受容体(EGFR)と比較して少なくとも1つの変異を有するEGFRの活性を阻害するための方法。
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