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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】固定装置、固定方法および構造体
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/03 20060101AFI20220819BHJP
【FI】
B21D39/03 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019567960
(86)(22)【出願日】2019-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2019000298
(87)【国際公開番号】W WO2019146400
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018009431
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512158446
【氏名又は名称】本郷 武延
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】本郷 武延
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-315021(JP,A)
【文献】特開2015-050066(JP,A)
【文献】特表平9-506153(JP,A)
【文献】登録実用新案第3104553(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/03
B21F 15/00 - 99/00
B21J 15/00
A43D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
前記第三の固定部は、前記第二の固定部の形状に沿って前記他方の面側に突出する、
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材(例えば金属部材)を塑性変形により固定する部材の固定装置、固定方法および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
形状の異なる複数の部材、例えば、金属線と金属板などを固定する方法としては、例えば、ネジ止め、溶接、接着などの方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-283154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各種部品の小型化により金属部材同士が微小になるとその固定は困難となる。例えば、金属板の表面に金属線を固定する場合を考えると、金属線の長手方向に垂直な断面形状の幅(当該断面形状が略円形状の丸線の場合にはその直径)がネジの直径より細いと、直接金属線にネジを貫通させるネジ止めはできない。
【0005】
この場合例えば、固定用部材と金属板との間に金属線を挟み、固定用部材と金属板とをネジ止めする方法もあるが、金属線を挟持する固定用部材や金属板が微小化すると、ネジ止めする領域を確保できず、確実な固定が困難となる。
【0006】
また、溶接や接着などによって固定する方法も、金属線と金属板との接触面積が微小になると、固定強度が不足する問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、微小な部材(例えば、金属部材)であっても容易に高い固定強度を得ることができる部材の固定装置、固定方法および構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対向して配置したダイとパンチとの間に、複数の部材を積層して配置し、前記ダイと前記パンチとが接近するよう移動させて前記複数の部材を押圧して固定する部材の固定装置であって、前記複数の部材には、第一の固定部を有する第一の部材と、該第一の固定部よりも小さい第二の固定部を有する第二の部材と、該第二の固定部よりも大きい第三の固定部を有する第三の部材とが含まれるものであり、前記ダイは、前記パンチの方向に突出する凸部を有し、前記パンチは、前記第二の固定部の形状に沿って陥没する退避部を有し、前記ダイと前記パンチとが接近するように相対的に移動させて前記第一の固定部と前記第三の固定部とを押圧して押出部を形成するとともに厚み方向において凹凸の嵌め合い構造を形成し、前記第二の固定部を前記第一の固定部および前記第三の固定部で挟み込んで固定する、ことを特徴とする部材の固定装置である。
【0009】
また、本発明は、複数の部材を重ねて固定する部材の固定方法であって、第一の固定部を有する第一の部材と、該第一の固定部よりも小さい第二の固定部を有する第二の部材と、該第二の固定部よりも大きい第三の固定部を有する第三の部材とを準備する工程と、対向して配置したダイとパンチとの間に、前記第一の固定部、前記第二の固定部および第三の固定部を重ねて配置する工程と、前記ダイと前記パンチとが接近するように相対的に移動させて前記第一の固定部と前記第三の固定部とを押圧し押出部を形成するとともに厚み方向において凹凸の嵌め合い構造を形成し、前記第二の固定部を前記第一の固定部および前記第三の固定部で挟み込んで固定する、ことを特徴とする部材の固定方法である。
【0010】
また、本発明は、複数の部材を積層して一体的に固定した構造体であって、少なくとも第一の固定部を有する第一の部材と、該第一の固定部よりも小さい第二の固定部を有する第二の部材と、該第二の固定部よりも大きい第三の固定部を有する第三の部材とが含まれ、前記第一の固定部、前記第二の固定部および前記第三の固定部を重ね合わせ、重ね合わせ方向に押出された押出部を有し、前記押出部において前記第一の固定部と前記第三の固定部による凹凸の嵌め合い構造が設けられ、前記第二の固定部が前記第一の固定部および前記第三の固定部で挟み込んで固定されている、ことを特徴とする構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小な部材(例えば、金属部材)であっても容易に高い固定強度を得ることができる部材の固定装置、固定方法および構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る固定装置の主要部を示す図であり(A)側断面図、(B)上面図、(C)パンチの上面図、(D)ダイの上面図である。
図2】本発明の実施形態に係る固定装置によって形成した構造体を示す概要図であり(A)側面図、(B)上面図である。
図3】本発明の実施形態に係る固定装置による固定方法を説明する側断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る固定装置による固定方法を説明する側断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る固定装置によって形成した構造体を示す側面概要図である。
図6】本発明の実施形態に係る固定装置によって形成した構造体を示す上面図である。
図7】本発明の実施形態に係る固定装置によって形成した構造体を示す(A)側面図、(B)上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る部材の固定装置10の主要部を示す図であり、同図(A)が側断面図、同図(B)が同図(A)の上面図、同図(C)が同図(B)のパンチ12の上面図、同図(D)が同図(B)のダイ11の上面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の固定装置10は、対向して配置され、互いに近接・離間するように相対的に移動可能なダイ11とパンチ12とを有する。そして固定装置10は、ダイ11とパンチ12の間に複数の部材13を積層して配置し、接近するように相対移動させたダイ11とパンチ12とで押圧することによって複数の部材13を固定するものである。
【0016】
ダイ11は、例えば、穴部を有する円筒状の外枠(ステージ)11Aと、穴部に挿入される内部材11Bを備え、内部材11Bの上端を外枠11Aよりも下方に位置させることで凹部11Cを創出させた構成である。内部材11Bは例えば、外周面が外枠11Aの内周面に当接する円柱状の基部11Dと、基部11Dの凹部11C側の一端面中央部に設けられて外枠11Aの軸方向に沿ってパンチ12側に突出する凸部11Eを有する。凹部11Cの外枠11Aに対する深さは、例えば、凸部11Eが設けられた中心部が浅く、その外縁部(基部11D)が略ドーナツ状に深くなるようにする。
【0017】
凸部11Eは、例えば、先端(頭部11H)側よりも基部11D側の方が広く、基部11Dと、凸部11Eの頭部11Hのそれぞれの表面(パンチ12の方向に対向する面)は略平坦状に構成される。この「略平坦状」とは、厳密な平坦性を有していることに限らず、押圧時に何らかの作用を働かせるために意図的に形成された凹凸の形状を有していないことを意味する。
【0018】
また、同図(B)および同図(D)に示すように凸部11Eは例えば、上面視において略円形状のベース部11EAとベース部11EAの外周の2箇所を中心から外側方向に突出させた突出部11EBを有している。より詳細には、突出部11EBは、ベース部11Eの一の直径(同図(B)および同図(D)では上下に延びる直径)の延長線上に位置するように、ベース部11EAの略円周上の2箇所に対向配置される。
【0019】
このように、外枠11Aと内部材11Bとを組み合わせて凹部状のダイ11を構成することにより、内部材11Bの外枠11Aに対する挿入位置を変化させることができる。これにより、凹部11Cの深さを細かく調整することが可能となる。また、凸部11Eの大きさが異なる内部材11Bと入れ替えることもでき、それにより、凹部11Cの形状を細かく調整することが可能となる。
【0020】
パンチ12は、例えば、直径W1が凹部11Cの内径W2よりも小さい円柱状であり、固定される金属線(例えば図2に示す丸線状の第2部材132)の形状に沿って、ダイ11(内部材11B)から離れる方向に陥没する退避部12Aと、その両側の押圧部12Bとを有する。この例では、退避部12Aは、同図(B)および同図(D)に示すように円柱状のパンチの直径方向に延びるトンネル形状を呈する。ここで、退避部12Aのトンネル形状とは、その曲面(アーチ面)の周方向の距離(円弧)が半円柱状の場合のそれよりも短い部分円弧で構成される形状である。具体的には、退避部12Aの水平方向における最大部(最広部)の幅W3は(半)当該退避部12Aが含まれる円柱の直径(トンネル状の曲面(アーチ面)の曲率半径の2倍)よりも小さく、垂直(鉛直)方向の高さH1は、曲面(アーチ面)の曲率半径よりも小さい。
【0021】
また、ダイ11の凸部11Eは、同図(A)、同図(D)に示すように、内部材11Bの軸方向に直交する水平方向においてはベース部11EAの直径(幅)W4が最も幅広である。そして、同図(B)~同図(D)に示すように、退避部12Aの幅W3はベース部11EAの直径(幅)W4より小さい。
【0022】
またパンチ12の押圧部12Bの外周の大きさ(パンチ12の直径W1)は、凸部11Eの幅広部の幅(頭部11Hの直径(幅))W4より大きい。そして押圧部12Bは、凸部11Eの頭部11Hと同様に略平坦状である。押圧部12Bは凸部11Eの頭部11Hと対向して配置され、両者が部材13を直接的に押圧する押圧面となる。
【0023】
図2は、本実施形態に係る固定装置10によって固定された構造体20の概要図であり、同図(A)が側面図、同図(B)が上面図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の構造体20は、複数の部材13を積層して一体的に固定したものであり、複数の部材13は、この例では第1部材131と第2部材132と第3部材133である。一例として、第1部材131、第2部材132および第3部材133はいずれも金属材であり、第1部材131と第2部材132が本来固定すべき部材(例えばある部品に必須な構成要素)であり、第3部材133は第1部材131と第2部材132とを固定するための補助部材(固定用部材)である。
【0025】
同図(B)に示すように、第1部材131は、第1固定部131Aを有し、第2部材132は第1固定部131Aよりも小さい第2固定部132A(同図(B)において二点鎖線で示す)を有し、第3部材133は第2固定部132Aよりも大きい第3固定部133Aを有している。
【0026】
そして、本実施形態の固定装置10によれば、第1固定部131A,第2固定部132Aおよび第3の固定部133Aが一体的に固定される。より詳細には、第1固定部131Aおよび第3固定部133Aを押圧して押し出した押出部22を形成する。そして、当該押出部22において部材13の厚み方向において凹凸の嵌め合い構造を形成するとともに、第2固定部132Aが第1固定部131Aおよび第3固定部133Aで挟み込んで固定されている。
【0027】
本実施形態の第1固定部131Aおよび第3固定部133Aは例えば、平板状の部位であり、第2固定部132Aは、第1固定部131Aよりも小さい線状の部位である。本実施形態の複数の部材13は、ダイ11とパンチ12によって押圧される第1固定部131A~第3固定部133Aがそれぞれ上記形状を有していれば、他の部位(押圧される部位以外の部位)の形状は任意である。
【0028】
ここでは一例として、第1部材131は微小な平板矩形状部材であり、第2部材132は、長手方向(同図(B)の上下方向)に垂直な断面形状が略円形状の線状の部材であり、第3部材133は、平板状矩形部材である場合について説明する。すなわち、この例の固定装置10は例えば、微小な平板矩形状部材(例えば、短手方向(図2では左右方向)の長さ(幅)W5が1cm以下、より好適には7mm以下など)である第1部材131の表面(上面)に、その直径W6が第1部材131の幅W5よりも小さい(例えば、直径W6が0.5mm以下、より好適には0.3mm以下、更に好適には0.1mm以下など)細い丸線状の第2部材132を、平板状の第3部材133を用いて固定するものである。また、第3部材133は、少なくとも第3固定部133Aが第2固定部132Aを覆うとともに、第1固定部131Aの一部に重畳可能な平板状部材である。
【0029】
第1固定部131Aの板厚D1は、例えば0.5mm以下、より好適には0.3mm以下であり、第3固定部133Aの板厚D2も例えば0.5mm以下、より好適には0.3mm以下である。
【0030】
第3部材133は、変形することによって第2部材132を第1部材131に固定できる形状であればよく、ここでは第3部材133の全体が第3固定部133Aとなる場合を例に説明する。また、この例では、第3部材133は第1部材131よりも面積が小さい平板矩形状部材である場合を示しているが、第1部材131と同等以上の面積を有するものであってもよいし、変形することによって第2部材132を第1部材131に固定できる形状であれば円形状や他の形状であってもよい。
【0031】
第1部材131はこの例では下層に配置されてダイ11に当接する部材であり、第2部材132は第1部材131の上面に載置されてダイ11およびパンチ12のいずれとも当接しない部材であり、第3部材133は第2部材132の第2固定部132Aの上層に配置されてパンチ12に当接する部材である。
【0032】
第1部材131の第1固定部131A、第2部材132の第2固定部132Aおよび第3部材133の第3固定部133Aはこの順で積層されて重ね合わせされ、重ね合わせ方向(部材13の厚み方向)の一方(この例では下方)に押出されて押出部22を有する。
【0033】
詳細には、構造体20としての第二の面S2(例えば、上面)側から第一の面S1(例えば、下面)側に部材13を押し出して押出部22を形成する。
【0034】
そして、押出部22においては、部材13の厚み方向において第1固定部131Aと第3固定部133Aによる凹凸の嵌め合い構造が形成されている。
【0035】
また、第3固定部133Aは、押出部22の底部において第2固定部132Aの形状に沿って他方の面(同図(B)では第二の面(上側の面)側に突出する。より詳細には、第3部材133は、第2部材132と重畳してこれを挟む領域(固定領域SP)と、固定領域SPの両側で第1部材131の第1固定部131Aと重畳してこれと接合する領域(接合領域CP)を有している。
【0036】
第3部材133(第3固定部133A)は、固定領域SPにおいては第1固定部131Aとは接合されず、その両側の接合領域CPにおいて第1固定部131Aと接合される。第2部材132は、略変形することなく(大幅な変形や切断などの劣化が生じることなく)下層の第1部材131と上層の第3部材133に挟み込まれることによって固定されている。
【0037】
図3および図4は、図1の固定装置10による固定方法を時系列で示す概略側断面図である。
【0038】
まず、図3(A)に示すように、凸部11Eの上方に第1固定部131A、第2固定部132Aおよび第3固定部133Aが位置するように、ダイ11の上、詳細には円筒状の外枠11Aの上に第1部材131、その上に第2部材132、更にその上に第3部材133をこの順で積層する。
【0039】
次いで、図3(B)に示すように、例えばパンチ12をダイ11に向かって押すことにより、ダイ11とパンチ12とが接近するように相対的に移動させて、パンチ12の押圧部12Bを第3固定部133Aに当接させてこれを押圧する。
【0040】
これにより、図4(A)に示すように第1固定部131Aと第3固定部133Aが押圧され、その押圧領域よびその周辺において、両固定部の部材13の内部で塑性変形が生じる。
【0041】
固定装置10の退避部12Aの内側領域のサイズは、例えば、高さH1が当該退避部12Aの曲率半径より小さく、水平方向の最大部の幅W3は退避部12Aの曲面(アーチ)の曲率半径の2倍より小さい。
【0042】
そしてパンチ12は、押圧部12Bにおいて第3固定部133Aと当接してこれを押圧するが、退避部12Aにおける第3固定部133Aの押圧力は、押圧部12Bの押圧力に比べて大幅に(極端に)小さいものである。つまり押圧部12Bと当接する第3固定部133Aは押圧によって大きく変形するが、退避部12A直下の第3固定部133Aは、その変形量が大幅に小さい。このため、パンチ12で押圧された場合であっても、第2固定部132Aの変形はほとんど生じない。あるいは、第2固定部132Aに変形が生じたとしても第2部材(金属細線)132としての機能に影響を及ぼさない程度の変形に留まり、第2部材132としての機能が発揮できなくなるほどの変形や切断などの劣化が生じることはない。
【0043】
なお、同図(A)の例では、説明の便宜上、退避部12Aと第3固定部133Aとが当接していない場合を例示しているが、両者は当接していてもよい。また、両者が当接している場合であっても、退避部12Aの押圧力は、押圧部12Bの押圧力に比べて大幅に小さい(退避部12Aの押圧力は第3固定部133Aをほとんど押圧しない程度)ものである。
【0044】
そして、同図(B)に示すように第1固定部131Aと第3固定部133Aの重ね合わせ方向(部材13の厚み方向)の一方(この例では下方)に押出された押出部22が形成されるとともに、部材13(構造体20)の厚み方向において第1部材131と第3部材133との凹凸の嵌め合い構造EGが形成される。
【0045】
また、パンチ12の退避部12Aでは第3部材133がトンネル状に塑性変形し、第2固定部132Aは、側方から上方にかけてトンネル状に塑性変形した第3固定部133Aによって覆われる。第2固定部132Aは、嵌めあい構造EGによって接合された第1固定部131Aと第3固定部133Aに挟み込まれた状態となり、これにより第1固定部131Aに離脱不能あるいは離脱が大変困難な状態で固定される。一方で、第2部材は退避部12Aによって劣化することとなく(切断や大きな変形をすることなく)、第1固定部131Aに固定される。
【0046】
図5を参照して構造体20について更に説明する。図5は、構造体20の側面概要図である。
【0047】
本実施形態では、第1固定部131Aと第3固定部133Aは、ダイ11の凸部11Eとパンチ12の押圧部12Bによって押圧された一部の領域(押圧領域)およびその周辺において、両固定部の部材13の内部で塑性変形が生じて第1固定部131A(第1部材131)と第3固定部133A(第3部材133)とが剥離(離脱)不可あるいは相当困難な状態となっている。
【0048】
このように、部材13の内部で塑性変形が生じて第1部材131と第3部材133とが剥離(離脱)不可あるいは相当困難な状態となっている領域を、接合領域CPといい、接合領域CPの近傍において、第1部材131と第3部材133の塑性変形が生じていない領域、および第1部材131と第3部材133が非接触の領域(例えば、第2固定部132Aの周囲)を非接合領域NCPという。ただし、非接合領域NCPにおいても、第1部材131と第3部材133とが固定(接合)されていないだけであって、接合領域CPによって剥離不可(困難)となっているため、両者は離脱不可に略密着した状態となっている。
【0049】
なお、同図では便宜上接合領域CPと非接合領域NCPを図示しているがこれらの境界は厳密には特定できない。本実施形態では少なくとも第1部材131と第3部材133の塑性変形が生じていない領域、および第1部材131と第3部材133が非接触である領域は非接合領域NCPであり、それ以外の領域が接合領域CPであるといえる。
【0050】
接合領域CPでは、構造体20(部材13)の第二の面S2(例えば、上面)側から第一の面S1(例えば、下面)側に向かって押出される(陥没する)押出部22が形成される。つまり押出部22はダイ11とパンチ12の押圧領域に対応して形成される。そして、押出部22の第1部材131と第3部材133が接触する接合領域CPでは、その厚みD3も薄肉化している。すなわち、押出部22の第1部材131と第3部材133が接触する接合領域CPの厚みD3は、押出部22周囲の非接合領域NCPにおける第1部材131と第3部材133の合計板厚み(D1+D2)よりも薄くなっている。
【0051】
なお、同図では、押出部22として第3部材133(第3固定部133A)はその板厚D2よりも下方に押出され、第1部材131(第1固定部131A)もその板厚D1よりも下方に押出されている場合を例示しているが、第1部材131、第3部材133の板厚D1,D2および外枠11Aと内部材11Bの位置関係によっては、図示のような押出し状態とは限らない。
【0052】
例えば、第1部材131の板厚が十分に厚い場合は、第3部材133のみがその板厚D2より下方に押出され、第1部材131は、上面側(第二の面S2側)においては下方に押出されるものの、下面側(第一の面S1側)は平坦であってもよい。
【0053】
また、押圧領域、すなわち、押出部22の周囲において、第1部材131と第3部材133がそれぞれ、パンチ12とダイ11の押圧によって外側に押出されるように塑性変形し、構造体20の厚み方向において第1部材131と第3部材133との凹凸の嵌め合い構造EG(破線で示す)が形成されている。この厚み方向(同図の上下方向)において凹凸となる嵌め合い構造EGによって、第1部材131と第3部材133とを確実に固定(接合)することができる。
【0054】
一方、押出部22の略中央は第1部材131と、丸線状の第2部材132、第3部材133の積層構造となり、第2固定部132Aの固定領域SPとなる。パンチ12には既述のとおり第2部材132の形状に沿う退避部12Aが設けられているため、パンチ12で押圧した場合に退避部12Aの直下の押圧力は、押圧部12B直下の押圧力に比べて極端に小さく、押圧領域の下方に位置する第3部材133がトンネル状に塑性変形する。固定領域SPにおいて第2部材132(第2固定部132A)は、側方から上方にかけてトンネル状に塑性変形した第3固定部133Aとで覆われ、また下方は第1固定部131Aによって覆われて、第1部材131からの離脱が規制される。
【0055】
なお、固定領域SPにおいて第1固定部131Aと第3固定部133Aとが非接触な領域は、非接合領域NCPではあるが、その外周に接合領域CPが設けられているため、第2固定部132Aは、第1固定部131Aに固定される。
【0056】
このような構成によれば、ネジ止めや接着などによらず、第1部材131と第2部材132とを固定できる。とくに、第1部材131が微小な平板状の部材で第2部材132が金属細線の場合、特にこれらが微小な場合には固定強度を高めた固定が困難であるが、本実施形態によれば、厚み方向において凹凸となる嵌め合い構造EGによって強力に接合された第1部材131と第3部材133とによって第2部材132を挟んで固定することができるので、微小な部材であっても確実に固定し、また、固定強度を高めることができる。
【0057】
さらに、第1部材131と第3部材133の押圧によって第2部材132を固定する方法であっても、挟まれた第2部材132は、退避部12Aに退避することで押し潰し(大きな変形)や切断を回避できる。切断しないまでも、第1部材131と第3部材133に挟まれた部分において第2部材132が大きく変形した場合、当該挟まれた部分(構造体20)以外の領域において第2部材132に張力や押圧力など大きな負荷が(繰り返し)掛かると、時間経過に伴って第2部材132の変形した部分が切断する恐れもある。本実施形態では、第2部材132の変形を回避して固定することができるので、構造体20以外の領域で第2部材132に負荷が掛かる構成であっても、構造体20付近における第2部材132の切断を防ぐことができる。
【実施例1】
【0058】
第1部材131が微小な角柱状の金属部材であり、第2部材132が金属細線である場合について、本実施形態の固定装置10による固定を行い、構造体20を形成した。
【0059】
図6は、構造体20を含む部品50の一部上面図である。また、同図のX-X線断面は、図5に対応している。第1部材131は、板厚D1が0.2mmの板状部材であり、第2部材132は、直径W6が0.072mmの丸線(金属細線)である。また、第3部材133は、板厚D2が0.2mmの平板部材である。
【0060】
この部品50は、例えば、第1部材131の表面にテンションローラ51が複数配置され、第2部材132が各テンテンションローラ51に掛け渡されて共振体を構成する。第2部材(金属細線)132はテンションローラ51に掛け渡された部分ではテンションローラ51および第1部材131のいずれにも固定されていないが、第1部材131の長手方向の両端の破線丸印の領域において、上述した本実施形態の固定方法によって第1部材131と固定されている。換言すると、破線丸印で示す第1部材131の長手方向の両端は、上述した本実施形態の構造体20が構成されている。
【0061】
固定装置10(図1参照)は、パンチ12の直径W1が0.8mm、退避部12Aは円柱(直径0.3mm)の一部からなるトンネル状でアーチ(曲面)の曲率半径が0.15mmであり、内側領域の最大部の幅W3が0.3mm未満で高さH1より大きく、高さH1は0.05mmである。また、ダイ11の凹部11Cの内径(直径)W2が1mm、頭部11Hの直径(最も幅広部の幅)W4は0.6mm、基部11Dから頭部11Hまでの高さH2は0.1mm、頭部11Hから外枠11Aまでの高さH3は0.12mmである。
【0062】
そして当該固定装置10によって、ダイ11とパンチ12とが接近するように相対的に移動させて第1固定部131Aと第3固定部133Aとを押圧した。
【0063】
この結果、押出部22が形成されるとともに、構造体20の厚み方向において第1部材131と第3部材133との凹凸の嵌め合い構造EGが形成された。また、押出部22の接合領域CPの板厚D3(第1部材131と第3部材133の合計厚み、図5参照)は、0.15mmであり、押出部22周囲の非接合領域NCPにおける第1部材131と第3部材133の合計厚み(D1+D2)0.4mmより薄く塑性変形した。このような第1部材131と第3部材133の接合によって、第2部材(金属細線)132を挟み込み、当該第2部材132を劣化させることなく(切断や大きな変形をさせることなく)第1部材131に固定することができた。
【実施例2】
【0064】
図7は、構造体20を含む他の部品50´を示す図であり、同図(A)が側面図、同図(B)が上面図である。また、同図(B)のX-X線断面は、図5に対応している。この部品50´は、例えば、筐体135の内部にテンションローラ51が複数配置され、第2部材132が各テンテンションローラ51に掛け渡されて共振体を構成する。筐体135の長手方向の両端には、第1部材131が設けられている。第2部材(金属細線)132はテンションローラ51に掛け渡された部分ではテンションローラ51に固定されていないが、筐体135の長手方向の両端の破線丸印の領域において、上述した本実施形態の固定方法によって第1部材131と大3部材とによって固定されている。換言すると、筐体135の長手方向の両端(破線丸印で示す部分)は、上述した本実施形態の構造体20が構成されている。
【0065】
第1部材131は、板厚D1が0.2mmの板状部材であり、第2部材132は、直径W6が0.072mmの丸線(金属細線)である。また、第3部材133は、板厚D2が0.2mmの平板部材である。
【0066】
固定装置10(図1参照)は、パンチ12の直径W1が0.8mm、退避部12Aは円柱(直径0.3mm)の一部からなるトンネル状でアーチ(曲面)の曲率半径が0.15mmであり、内側領域の最大部の幅W3が0.3mm未満で高さH1より大きく、高さH1は0.05mmである。また、ダイ11の凹部11Cの内径(直径)W2が1mm、頭部11Hの直径(最も幅広部の幅)W4は0.6mm、基部11Dから頭部11Hまでの高さH2は0.1mm、頭部11Hから外枠11Aまでの高さH3は0.12mmである。
【0067】
そして当該固定装置10によって、ダイ11とパンチ12とが接近するように相対的に移動させて第1固定部131Aと第3固定部133Aとを押圧した。
【0068】
この結果、押出部22が形成されるとともに、構造体20の厚み方向において第1部材131と第3部材133との凹凸の嵌め合い構造EGが形成された。また、押出部22の接合領域CPの板厚D3(第1部材131と第3部材133の合計厚み、図5参照)は、0.15mmであり、押出部22周囲の非接合領域NCPにおける第1部材131と第3部材133の合計厚み(D1+D2)0.4mmより薄く塑性変形した。このように、第2部材(金属細線)132を劣化させることなく(切断や大きな変形をさせることなく)第1部材131と第3部材133によって挟み込んで固定することができた。
【0069】
図7に示す部品50´は、同図(A)の上方から第2部材(金属細線)132およびテンションローラ51に、繰り返し押圧力が与えられ、複数のテンションローラ51に掛け渡された第2部材132は、上下方向に振動する。一方で、第2部材132の直径W6は微小(例えば、0.072mm)であるため、一般的にはその固定部(構造体20の部分)近傍に非常に大きな外部的負荷がかかる構成である。このような場合、固定部分(構造体20部分)において第2部材132が押し潰されるなど大きな変形が生じていると、時間経過に伴って変形部分が断裂する恐れがある。しかしながら、本実施形態によれば、押し潰しなど大きな変形をさせることなく第2部材132を固定できるので、時間経過に伴う固定部分(構造体20部分)における第2部材132の切断、劣化等を防止することができ、部品50´の長寿命化が図れる。
【0070】
本実施形態の固定装置および固定方法は、ダイ11とパンチ12を用いた押圧による固定であって、特に極小の金属平板に極細の金属細線(ワイヤ)を固定する場合に用いて好適である。すなわち、上記の実施例に限らず、例えば、(極小の)センサ、ワイヤーハーネス、半導体素子のワイヤーボンダーなど、多用途に利用可能である。
【0071】
また、上述した数値は一例であり、図5に示すような固定状態、すなわち押出部22が形成されるとともに厚み方向において凹凸の嵌め合い構造を形成し、第2部材132を劣化させることなく第1部材131および第3部材133で挟み込んで固定できるように、第1部材131、第2部材132および第3部材133の形状、厚み、材質等に応じて、適宜選択可能である。
【0072】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、金属部材の固定に用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
10 固定装置
11 ダイ
11A 外枠
11B 内部材
11C 凹部
11D 基部
11E 凸部
11H 頭部
12 パンチ
12A 退避部
12B 押圧部
13 部材
20 構造体
22 押出部
131 第1部材
131A 第1固定部
132 第2部材
132A 第2固定部
133 第3部材
133A 第3固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7