(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/14 20060101AFI20220819BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220819BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220819BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220819BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220819BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20220819BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C08L23/14
C08K7/14
C08L23/26
C08L53/02
C08L23/08
C08K5/13
C08K5/36
(21)【出願番号】P 2020116630
(22)【出願日】2020-07-06
(62)【分割の表示】P 2018517039の分割
【原出願日】2017-05-09
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2016094511
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-185121(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046086(WO,A1)
【文献】特開2013-067789(JP,A)
【文献】特開2005-060678(JP,A)
【文献】特開2004-130528(JP,A)
【文献】特開2009-196236(JP,A)
【文献】特開2014-132073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)を含んでなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなるシボ面を有する成形体であって、
プロピレン系重合体(A)はプロピレン単独重合体を含み、
且つ、メソペンタッド分率(M)が90%以上99.9%以下である高立体規則性プロピレン系重合体(A1)を含むブレンド体であり、
プロピレン系重合体(A)中のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量をE(質量%)とし(プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計を100質量%とする)、プロピレン系重合体(A)の
13C-NMRで測定されるメソペンタッド分率をM(%)とした場合、下記式(1)および式(2)を満たし、
85 ≦ M ≦ 99 ・・・(1)
76 ≦ M-12E ≦ 86.0 ・・・(2)
強化繊維(B)の量G(質量部)が下記式(3)を満たし、且つ強化繊維(B)の量Gが25質量部以上であることを特徴とする成形体。
(1/200)[3100+95×(100-M)+590×E]≦G≦60 ・・・(3)
【請求項2】
強化繊維(B)がガラス繊維である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計100質量部に対して、変性ポリプロピレン(C)、耐衝撃改良剤(D)、並びに、フェノール系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤(F')からなる群より選ばれる一種以上の成分を合計0.01~40質量部含む請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
自動車内外装部品又は家電部品用の成形体である請求項1に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および機械的特性に優れ、成形体表面の外観(特にシボ面の外観)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂成形体は軽量で剛性および耐熱性に優れているので、電気機器、自動車、住宅設備、医療器具等の様々な分野で利用されている。
【0003】
繊維強化樹脂成形体としては、例えば、ガラス繊維等の強化繊維と、ポリアミド、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いた成形体が知られている。このような繊維強化樹脂成形体は、自動車分野において、エンジンルーム内のファンシュラウドやプロペラファン等の高剛性および耐熱性が要求される部材に利用されている。しかし、ガラス繊維等の強化繊維を用いた繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形した場合、得られる成形体表面には強化繊維の浮きによる凹凸が発生し外観が悪くなる。したがって、例えば自動車インストメンタルパネルのような意匠性が求められる自動車内装材、特に、艶消しによる高級感を出す為に表面に微小凹凸面(シボ面)が形成された自動車内装材には利用し難い。
【0004】
繊維強化ポリプロピレン系樹脂成形体の外観を改良する為に、特定の構造を有するポリプロピレン樹脂を添加することが提案されている(特許文献1~3)。しかし、このようなポリプロピレン樹脂を添加しても表面外観の改良効果はわずかであり、しかも機械強度が低下する傾向にある。
【0005】
また、特殊な成形法により繊維強化ポリプロピレン系樹脂成形体の外観を改良することも提案されている(特許文献4、5)。しかし、この成形法を用いても、繊維含有量が30質量%を超える場合は外観改良効果が十分ではない。しかも、この成形法は工程および製造設備が煩雑且つ高コストなので、ポリプロピレン樹脂のコスト的な優位性が損なわれてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-60678号公報
【文献】特開2013-67789号公報
【文献】特開2014-132073号公報
【文献】特開2004-130528号公報
【文献】特開2009-196236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性および機械的特性に優れ、成形体表面の外観(特にシボ面の外観)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物、並びにこの組成物から得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体中のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量と立体規則性(mmmm)の関係が特定範囲内になるように調整し、且つ強化繊維(B)の含有量を特定範囲内に設定することにより、成形体の耐熱性、機械的特性および成形体表面外観をバランス良く向上できることを見出し、発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)を含んでなる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
プロピレン系重合体(A)中のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量をE(質量%)とし(プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計を100質量%とする)、プロピレン系重合体(A)の13C-NMRで測定されるメソペンタッド分率をM(%)とした場合、下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
85 ≦ M ≦ 99 ・・・(1)
74 ≦ M-12E ≦90 ・・・(2)
【0011】
[2]強化繊維(B)の量G(質量部)が下記式(3)を満たす[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
(1/200)[3100+95×(100-M)+590×E]≦G≦60 ・・・ (3)
【0012】
[3]強化繊維(B)がガラス繊維である[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0013】
[4]プロピレン系重合体(A)が、メソペンタッド分率(M)が90%以上99.9%以下である高立体規則性プロピレン系重合体(A1)と、メソペンタッド分率(M)が50%以上90%未満である低立体規則性プロピレン系重合体(A2)を含むブレンド体である[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0014】
[5]プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計100質量部に対して、変性ポリプロピレン(C)、耐衝撃改良剤(D)、並びに、フェノール系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤(F')からなる群より選ばれる一種以上の成分を合計0.01~40質量部含む[1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【0015】
[6][1]に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【0016】
[7]繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる[6]に記載の成形体。
【0017】
[8]シボ面を有する[6]に記載の成形体。
【0018】
[9]自動車内外装部品又は家電部品用の成形体である[6]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性および機械的特性に優れ、成形体表面の外観(特にシボ面の外観)に優れた成形体を製造しうる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物、並びにこの組成物から得られる成形体を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例及び比較例で用いた成分(A)のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位含有量(E)とメソペンタッド分率(M)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明において、プロピレン系重合体(A)は、プロピレン由来構造単位を主たる構造単位として含む重合体である。プロピレン単独重合体でも良いし、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとからなる共重合体でも良い。特に、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体が好ましい。プロピレン系重合体(A)中のプロピレン由来構造単位の含有量は好ましくは97.9モル%以上、より好ましくは98.2モル%以上である。
【0022】
プロピレン系重合体(A)の、ASTM D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートは、好ましくは5~300g/10分、より好ましくは10~250g/10分、特に好ましくは20~200g/10分である。メルトフローレートが5g/10分以上であれば、例えばインパネやドアトリム等の大型成形体を成形した際に金型細部まで樹脂が充填されない等の樹脂流動性に起因する問題が生じ難くなる。また、メルトフローレートが300g/10分以下であれば、成形体の耐衝撃性等の特性が向上する傾向にある。
【0023】
プロピレン系重合体(A)中のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)は、0質量%ではないことが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。さらに、含有量(E)は通常0.2~2.1質量%、好ましくは0.2~2.0質量%、より好ましくは0.2~1.8質量%、特に好ましくは0.5~1.5質量%、最も好ましくは0.8~1.2質量%である。ここでは、プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計を100質量%とする。この含有量(E)は、赤外分光分析法およびNMRにて測定できる。この含有量(E)が0質量%でない場合は成形体表面外観が向上する傾向にある。しかも含有量(E)とメソペンタッド分率(M)の双方を調整することによって、成形体の耐熱性、機械的特性および成形体表面外観をバランス良く向上できる。この含有量(E)が2.1質量%以下であれば、成形体の機械強度低下が抑制される傾向にある。
【0024】
プロピレン系重合体(A)は、13C-NMRで測定されるメソペンタッド分率(M)(%)に関して下記式(1)を満たし、好ましくは下記式(1')、より好ましくは下記式(1'')を満たす。
85 ≦ M ≦ 99 ・・・(1)
87 ≦ M ≦ 98 ・・・(1')
90 ≦ M ≦ 96 ・・・(1'')
【0025】
メソペンタッド分率(M)はプロピレン系重合体(A)の立体規則性(mmmm)を表す指標であり、この値が大きいほど立体規則性(mmmm)が高いことを意味する。メソペンタッド分率(M)の測定方法は、後述する実施例にて説明する。
【0026】
プロピレン系重合体(A)は、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)(質量%)およびメソペンタッド分率(M)(%)に関し下記式(2)を満たし、好ましくは下記式(2')を満たす。
74 ≦ M-12E ≦90 ・・・(2)
76 ≦ M-12E ≦88 ・・・(2')
【0027】
プロピレン系重合体(A)が上記各式を満たすことによって、特定量の強化繊維(B)で補強された本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、機械的特性と耐熱性と外観のバランスに優れるという効果を発現する。各式を満たすと、結晶化速度が適度に制御され、剛性は保持しつつ金型転写性は向上して繊維が表面に浮き出ないので外観が優れると推定している。
【0028】
プロピレン系重合体(A)の種類は特に限定されないが、アイソタクチックプロピレン系重合体及び/又はアタクチックプロピレン系重合体であることが好ましい。プロピレン系重合体(A)は一種の重合体であっても良いし、複数種の重合体のブレンド体であってもよい。複数種の重合体のブレンド体である場合、プロピレン系重合体(A)は、メソペンタッド分率(M)が50%以上のポリプロピレン系重合体を83質量%以上含む(プロピレン系重合体(A)全体を100質量%とする)ことが好ましい。
【0029】
プロピレン系重合体(A)は、上記各式を満たすように、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)(質量%)とメソペンタッド分率(M)(%)を調整し易い、すなわち品質調整の自由度が高いという点から、高立体規則性プロピレン系重合体(A1)と低立体規則性プロピレン系重合体(A2)を含むブレンド体を用いることが好ましい。高立体規則性プロピレン系重合体(A1)のメソペンタッド分率(M)は、通常90%以上99.9%以下、好ましくは95%以上99.5%以下である。低立体規則性プロピレン系重合体(A2)のメソペンタッド分率(M)は、通常50%以上90%未満、好ましくは60%以上80%以下である。
【0030】
高立体規則性プロピレン系重合体(A1)と低立体規則性プロピレン系重合体(A2)のうちの少なくとも一方、好ましくは高立体規則性プロピレン系重合体(A1)は、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位を含むことが好ましい。例えば、高立体規則性プロピレン系重合体(A1)がエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位を含む場合、その構造単位の含有量は、好ましくは0.2~8質量%、より好ましくは0.2~6質量%である(高立体規則性プロピレン系重合体(A1)全体を100質量%とする)。低立体規則性プロピレン系重合体(A2)がその構造単位を含む場合の好ましい含有量も同様である。複数種の高立体規則性プロピレン系重合体(A1)および/または複数種の低立体規則性プロピレン系重合体(A2)を含むブレンド体を用いても良い。
【0031】
高立体規則性プロピレン系重合体(A1)としては、市販のプロピレン単独重合体をそのまま使用しても良いし、例えば特開平7-196734号公報、特開平11-71431号公報、特開2002-249624号公報、国際公開第2005/019283号に記載されたチタン触媒またはメタロセン触媒を用いた方法で得られるプロピレン系重合体を使用しても良い。さらに高立体規則性プロピレン系重合体(A1)は、有機過酸化物を用いて処理することにより流動性が調整されていても良い。
【0032】
低立体規則性ポリプロピレン系重合体(A2)としては、市販品をそのまま使用しても良いし、特定のアルコキシ含有化合物の共存下でチタン触媒を用いた方法(例えば特開平10-101866号公報の実施例1)や、特定のメタロセン化合物を用いた方法(例えば国際公開第2003/91289号)で得られるプロピレン系重合体を使用しても良い。さらに低立体規則性ポリプロピレン系重合体(A2)は、有機過酸化物を用いて処理することにより流動性が調整されていても良い。
【0033】
プロピレン系重合体(A)の製造方法は特に限定されない。例えば、高立体規則性プロピレン系重合体(A1)と低立体規則性プロピレン系重合体(A2)を適宜ブレンドすることにより、プロピレン系重合体(A)全体の、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)(質量%)とメソペンタッド分率(M)(%)を調整し、上記各式を満たすブレンド体としてのプロピレン系重合体(A)が得られる。
【0034】
<強化繊維(B)>
本発明において、強化繊維(B)としては、例えば、カーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、金属繊維、綿、セルロース類、絹、羊毛および麻等の天然繊維、レーヨンおよびキュプラ等の再生繊維、アセテートおよびプロミックス等の半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミドおよびポリオレフィン等の合成繊維、さらにはそれらの表面および末端を化学修飾した変性繊維が挙げられる。剛性は、繊維量の他に、プロピレン系樹脂(A)の、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量E(質量%)および立体規則性を示すメソペンタッド分率M(%)に依存することから、高い剛性を得るためには、強化繊維(B)の量G(質量部)が下記式(3)を満たすことが好ましい。また、外観に優れる成形体を得るには60質量部以下であることが好ましい。より好ましくは20≦G≦60であり、特に好ましくは25≦G≦60である。(プロピレン系樹脂(A)と強化繊維(B)の合計100質量部を基準)
(1/200)[3100+95×(100-M)+590×E]≦G≦60 ・・・(3)
【0035】
以上の各繊維のなかで、ナノセルロース、TEMPO酸化ナノセルロース等のセルロース類;ガラス繊維;カーボンファイバー;シングルウオールカーボンナノチューブ、マルチウオールカーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブが、樹脂組成物および成形体における成形外観、物性バランス、寸法安定性(線膨張係数の低減化等)等の様々な性能の向上効果が大きい点から好ましい。特に、ガラス繊維、カーボンファイバー、セルロースは、汎用性があり、入手性が容易で、価格も安価である点からより好ましい。特に、ガラス繊維が最も好ましい。
【0036】
強化繊維(B)の形態としては、チョップドストランドが好ましい。チョップドストランドは、通常長さが1~10mm、繊維径が5~20μmであり、好ましくは長さが1.5~6mm、繊維径が8~14μmである。その他の形態として、連続状繊維束を用いることもできる。連続状繊維束は、例えばロービングとして市販されている。その繊維径は通常5~30μm、好ましくは13~20μmである。
【0037】
強化繊維(B)は、プロピレン系重合体(A)との接着性あるいは樹脂組成物中での分散性を向上させる為に、有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等の処理剤で表面処理されていても良い。また、表面を熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂成分で処理されていても良い。
【0038】
強化繊維(B)としては、一種の強化繊維のみを使用しても良いし、2種以上の強化繊維を併用してもよい。
【0039】
<変性ポリプロピレン(C)>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、さらに変性ポリプロピレン(C)を含んでいても良い。変性ポリプロピレン(C)は、ポリプロピレンを酸変性することにより得られる。その変性方法としては、例えば、グラフト変性や共重合化がある。
【0040】
変性に用いる変性剤としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体がある。不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、フタル酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩がある。その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエチルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムが挙げられる。中でも、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体が好ましく、無水マレイン酸および無水フタル酸がより好ましい。
【0041】
溶融混練過程で酸変性する場合は、例えば、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体を、有機過酸化物と共に押出機中で混練することにより、不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト共重合し変性する。
【0042】
その有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドが挙げられる。
【0043】
変性ポリプロピレン(C)としては、強化繊維(B)とプロピレン系重合体(A)との親和性を改良し強度や耐熱性を向上する点から、無水脂肪酸変性ポリプロピレンが好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレンがより好ましい。
【0044】
変性ポリプロピレン(C)として無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用する場合、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの使用量は、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物100質量部に対して好ましくは0.5~5.0質量部、より好ましくは0.8~3.0質量部である。使用量がこの範囲より低い場合は、成形体の機械的特性の向上効果が認めらない場合がある。一方、使用量がこの範囲より高い場合は、成形体の機械的特性における衝撃強度が低下する場合がある。
【0045】
変性ポリプロピレン(C)のベースとなるポリプロピレンの135℃デカリン中で測定される固有粘度[η]は、通常0.2~2.0dl/g、好ましくは0.4~1.0dl/gである。
【0046】
無水マレイン酸変性ポリプロピレンとしては、具体的に、三井化学社製アドマー(登録商標)、三洋化成社製ユーメックス(登録商標)、デュポン社製MZシリーズ、Exxon社製Exxelor(登録商標)、アディバントジャパン株式会社製、商品名ポリボンド3200等の市販品を使用することができる。
【0047】
<耐衝撃改良剤(D)>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、必要に応じて耐衝撃改良剤(D)を含んでいても良い。耐衝撃改良剤(D)の種類は特に限定されないが、エチレン系重合体、スチレン系ブロック共重合体が好ましい。
【0048】
エチレン系重合体としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体を用いることができる。エチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンから選ばれる1種以上のα-オレフィンとを共重合して得られる。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンが好ましい。α-オレフィンは1種単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用してもよい。
【0049】
エチレン系重合体のASTM D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートは、好ましくは0.1~40g/10分、より好ましくは1~20g/10分、特に好ましくは1~10g/10分である。メルトフローレートが0.1g/10分以上であれば、樹脂流動性の低下や混練時の分散不良が起こりにくく、成形体の耐衝撃性等の物性が低下しにくい。一方、40g/10分以下であれば、成形体に十分な耐衝撃性が得られる傾向にある。
【0050】
エチレン・α-オレフィン共重合体における共重合体中の全構造単位に対するα-オレフィン由来構造単位の含有比率は、好ましくは5~60mol%、より好ましくは7~50mol%、特に好ましくは10~45mol%である。エチレン・α-オレフィン共重合体としては、特に、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体が好ましい。
【0051】
スチレン系ブロック共重合体としては、例えば、スチレン-共役ジエン型ジブロック共重合体、スチレン-共役ジエン-スチレントリブロック共重合体を用いることができる。その他、流動性を向上させる為に共役ジエンのビニル結合量を低下させたブロックY'を用いたX-Y-Y'型トリブロック共重合体を用いることもできる。ブロック共重合体の水素添加物としては、特にX-Y-X型トリブロック型共重合体が好ましい。
【0052】
スチレン系ブロック共重合体において、スチレン含有量は好ましくは10~25質量%であり、MFR(ASTM D-1238、190℃、2.16kg荷重)は好ましくは0.5~15g/10分、より好ましくは1~10g/10分である。
【0053】
スチレン系ブロック共重合体の具体例としては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0054】
<その他の成分(F)>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、銅害防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、顔料、発泡剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合できる。添加剤の混合順序は任意であり、同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合する多段階の混合方法を用いることもできる。中でも、フェノール系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤(F')を配合することが好ましい。
【0055】
<繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)を必須成分として含有する組成物である。プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計を100質量%としたとき、強化繊維(B)の量G(質量部)は下記式(3)を満たすことが好ましい。
(1/200)[3100+95×(100-M)+590×E]≦G≦60 ・・・(3)
【0056】
強化繊維(B)の量Gが(1/200)[3100+95×(100-M)+590×E]未満であると、成形体の機械強度や荷重撓み温度が効果的に発現しない場合がある。またこの量Gが60質量部を超えると、繊維が成形体表面に浮き出る外観不良が発生する場合がある。より好ましくは20≦G≦60であり、特に好ましくは25≦G≦60である。
【0057】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物がプロピレン系重合体(A)および強化繊維(B)以外の成分を含む場合は、プロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計100質量部に対して、変性ポリプロピレン(C)、耐衝撃改良剤(D)、並びに、フェノール系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤(F')からなる群より選ばれる一種以上の成分を合計0.01~40質量部含むことが好ましく、0.1~35質量部含むことがより好ましい。変性ポリプロピレン(C)の量は、好ましくは0.1~3質量部である。耐衝撃改良剤(D)の量は、好ましくは0.1~30質量部である。フェノール系酸化防止剤および/またはイオウ系酸化防止剤(F')の量は、好ましくは0.01~3質量部である。
【0058】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、以上説明した成分(A)および成分(B)、並びに必要に応じて成分(C)、成分(D)および成分(F)を配合することにより製造できる。各成分の配合の順序は任意である。例えば、各成分を混合装置により混合または溶融混練することにより繊維強化プロピレン系樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0059】
繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットとしては、短繊維ペレットと長繊維ペレットがある。短繊維ペレットは、例えば、単軸または二軸押出機に上記各成分の一部または全部を溶融混練する等の公知の方法で製造できる。長繊維ペレットは、引き抜き法等の公知の方法で製造できる。成分の一部を別途溶融混練した後、他の成分とブレンドして使用しても良い。
【0060】
長繊維ペレットは、組成物中の繊維の長さが長いので、組成物の強度や耐熱性が高くなる傾向にあり、より顕著な効果が得られる。長繊維ペレットのペレット長は、通常2~50mmである。ペレット長が適度に長ければ、剛性、耐熱性および強度が向上する傾向にある。ただし、ペレット長が長過ぎると、成形が困難になる場合がある。ペレット長は、好ましくは3~25mm、より好ましくは6~12mmである。
【0061】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用いて成形体を製造する場合、そのペレット単独を用いて成形しても良いし、そのペレットと希釈材(例えばポリプロピレン等の本発明の樹脂組成物以外の組成からなる材料)とのブレンドを用いて成形しても良い。このブレンドは、ドライブレンド方式で得たものでも構わない。むしろ、組成物中の繊維長を保持し、より高い剛性、耐熱性、強度を発現させる為には、ドライブレンド後は押出機を通さず、そのブレンドを直接射出成形等の成形機に供するほうが好ましい。希釈材は、先に説明したポリプロピレン樹脂(A)や耐衝撃改良剤(D)からなるものでも良い。顔料、添加剤、発泡剤等の成分を含む樹脂のマスターバッチを、本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットとブレンドして用いても良い。
【0062】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は公知の成形法に用いることができ、特に射出成形に好適に用いられる。本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる成形体は、熱性および機械的特性に優れ、成形体表面の外観に優れている。特にシボ面を有する成形体を射出成形する場合は、シボ面の外観に優れ、艶消しによる高級感を有する成形体が得られる。したがって、意匠性が求められる用途においては、本発明の成形体は特に有用である。
【0063】
このような本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車内外装部品、家電部品等の様々な分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例および比較例において使用した重合体成分に関する測定方法、並びに、成形体の評価方法は、以下の通りである。
【0066】
(1)メルトフローレート(MFR)の測定:
ASTM D1238に準拠し、特に断りのない限りは2.16kg荷重下、230℃の条件でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0067】
(2)エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)の測定:
フーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)により[より詳しくはNMRによるエチレン含量およびFT-IRによるエチレン含量の検量線からの算出により]、プロピレン系重合体(A)中のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)を測定した。特に、プロピレン系重合体(A)として二種以上のプロピレン系重合体のブレンド体を用いた場合は、各々のプロピレン系重合体について測定した、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)に加成性が成り立つものとして計算した。すなわち、ブレンド体が合計n種類のプロピレン系重合体から構成され、i個目の重合体がブレンド体全量に占める質量比率をwi、そのエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量をEi(質量%)とした場合、ブレンド体のエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(質量%)は下記式で求めた。なお、NMR測定は常法に従い、例えば特開2014-132073に記載の方法に準拠して測定した。そして、このブレンド体であるプロピレン系重合体(A)と強化繊維(B)の合計を100質量%として換算し、これをその構造単位の含有量E(質量%)とした。
【0068】
【0069】
(3)メソペンタッド分率(M)の測定:
NMR測定により、プロピレン系重合体(A)の13C-NMRスペクトルを得、これによりメソペンタッド分率(M)を算出した。具体的には、o-ジクロロベンゼンと重水素原子化ベンゼンとの4/1混合溶媒(o-ジクロロベンゼン/重水素原子化ベンゼン、体積比)0.6ml中、サンプル50mgを溶解し、日本電子製A500型核磁気共鳴装置を用いて、120℃、45°パルス、繰返し時間5.5秒、積算回数16000回の条件で13C-NMRスペクトルを測定した。ケミカルシフトの基準値は、メチル基のmmmm由来シグナル21.59ppmとした。そして、2,1-結合量:F(2,1)×100(モル%)、1,3-結合量:F(1,3)×100(モル%)、メソペンタッド分率(M):F(mmmm)×100(%)を、それぞれ下記式より算出した。なお、0.01%未満を検出限界以下とした。
【0070】
【0071】
上記各式中の記号の意味は次のとおりである。I(X)は、Xに帰属される19~22ppmのメチル基由来ピーク面積を示す。I(CH3)は、19~22ppmのメチル基由来全ピーク面積を示す。R1、R2は、2,1-挿入に帰属される以下の構造(R)のピークを表す。なお、以下の帰属はerythro体であるが、threo体の場合も同様に計算することができる。S1、S2は、1,3-挿入に帰属される以下の構造(S)のピークを表す。A1、A3、C1、C2、C3は、ポリマー末端の以下の構造(A、C)に帰属されるピークを表す。
【0072】
【0073】
その他のピークはA. Zambelli, D. E. Dorman, A. I. Richard Brewster and F. A. Bovey, Macromolecules, Vol. 6, No.6, 925 (1973)を参考に帰属した。
【0074】
特に、プロピレン系重合体(A)として二種以上のプロピレン系重合体のブレンド体を用いた場合は、各々のプロピレン系重合体について測定したメソペンタッド分率(M)に加成性が成り立つものとして計算した。すなわち、ブレンド体が合計n種類のプロピレン系重合体から構成され、i個目の重合体がブレンド体全量に占める質量比率をwi、その立体規則性(mmmm)すなわちメソペンタッド分率をMi(%)とした場合、ブレンド体のメソペンタッド分率(M)(%)は下記式で求めた。
【0075】
【0076】
(4)引張破壊応力の測定:
ISO 527に準拠し、引張速度5mm/minの条件で引張破壊応力を測定した。
【0077】
(5)曲げ弾性率の測定:
ISO 178に準拠し、曲げ弾性率を測定した。
【0078】
(6)荷重撓み温度の測定:
ISO75に準拠し、1.8MPa荷重下で、荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。
【0079】
(7)外観の評価:
120mm×130mm×2mmのサイズのシボ面付きの自動車内装用試験片を射出成形した。具体的には、実施例および比較例の組成物100質量部に対し、カーボンブラック30%マスターバッチ(トーヨーカラー社製、商品名PPM-01143)2質量部をドライブレンドし、射出成形することにより黒色の試験片を得た。このように黒色に着色したのは、試験片の表面のガラス繊維の浮きを目立ち易くする為である。そして目視にて、試験片表面のガラス繊維の浮き状況を以下の基準で判定した。
「◎」:シボ面上にガラス繊維が全く目立たない。
「〇」:シボ面上にガラス繊維がほとんど目立たない。
「△」:シボ面上にガラス繊維がわずかに目立つ。
「×」:シボ面上にガラス繊維がはっきりと目立つ。
【0080】
実施例および比較例において使用した各成分は、以下の通りである。
【0081】
<プロピレン系重合体(A)>
プライムポリマー社が保有する以下の3種類のプロピレン系重合体PP-1、PP-2及びPP-3を用いた。
「PP-1」:プロピレン単独重合体、MFR=60g/10min、メソペンタッド分率(M)=98%(高立体規則性)
「PP-2」:プロピレン-エチレンランダム共重合体、MFR=60g/10min、メソペンタッド分率(M)=98%(高立体規則性)、エチレン由来構造単位の含有量=2.7質量%
「PP-3」:プロピレン単独重合体、MFR=60g/10min、メソペンタッド分率(M)=70%(低立体規則性)
【0082】
<強化繊維(B)>
「T-480」:日本電気硝子(株)製のガラス繊維(商品名T-480)
【0083】
<変性ポリプロピレン(C)>
「Polybond3200」:アディバントジャパン社製の無水マレイン酸変性ポリプロピレン、商品名ポリボンド3200、MFR(190℃、2.16kg)=115g/10分
【0084】
<その他の成分(F')>
「Irg1010」:BASF社製のフェノール系酸化防止剤、イルガノックス(登録商標)1010
「DMTP」:三菱化学社製のイオウ系酸化防止剤
【0085】
[実施例1~10、比較例1~5、参考例1]
3種類のプロピレン系重合体PP-1、PP-2およびPP-3のうちの1種を単独で使用する、あるいは2種以上を様々な比率で混合することにより、表1および表2に示すメソペンタッド分率(M)及びエチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)を有する単体またはブレンド体としての成分(A)を調製した。そして、表1および表2に示す成分(A)、成分(C)及び成分(F')をタンブラーミキサーで均一に混合し、その混合物を同方向二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX(登録商標)30α)に供給し、またガラス繊維(成分(B))は二軸押出機途中からサイドフィードし、220℃で加熱混練して、繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0086】
各ペレットを用いて、射出成形機にて成形温度195℃、金型温度40℃でISO 1号ダンベル等の試験片を成形し、これを用いて引張破壊応力、曲げ弾性率、荷重撓み温度を測定した。また、成形温度220℃、金型温度40℃で120mm×130mm×2mmのサイズのシボ面付きの試験片を成形し、この成形体の外観を評価した。結果を表1および2に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1および表2から明らかなように、実施例1~10の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物から得た成形体は、ガラス繊維の浮きの無い優れたシボ面外観を有し、しかも機械強度と荷重撓み温度がバランス良く発現した。
【0090】
一方、比較例1~2及び4~5の成形体は、成分(A)の(M-12E)の計算値が90を超えるのでシボ面上にガラス繊維の浮きが目立ち外観が劣るものであった。比較例3の成形体は優れたシボ外観を有していたが、成分(A)の(M-12E)の計算値が74未満なので機械強度と荷重撓み温度のバランスが劣るものであった。参考例1の成形体は優れたシボ面外観を有していたが、強化繊維の含有量が少ないので機械強度と荷重撓み温度のバランスが若干劣るものであった。
【0091】
図1は、実施例及び比較例で用いた成分(A)の、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位含有量(E)とメソペンタッド分率(M)の関係を示すグラフである。グラフ中には、本発明の下記式(1)および式(2)の双方を満たす範囲を破線で囲ってある。
85 ≦ M ≦ 99 ・・・(1)
74 ≦ M-12E ≦90 ・・・(2)
【0092】
このグラフに示す通り、本発明の実施例1~10で使用した成分(A)は式(1)および式(2)の双方を満たす範囲内のものであり、それ故に本発明の効果が得られる。一方、比較例1~5で使用した成分(A)は式(1)および式(2)の双方を満たす範囲から外れるものであり、本発明の効果は得られない。なお、参考例1で使用した成分(A)はその範囲内のものであるが、先に述べた通り強化繊維の含有量が少ないので機械強度と荷重撓み温度のバランスが若干劣る。本発明においては、成分(A)の、エチレンおよび炭素数4~8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィン由来構造単位の含有量(E)とメソペンタッド分率(M)の関係が特定範囲内になるように調整することによって、耐熱性および機械的特性に優れ、しかも成形体表面のシボ面外観に優れるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、インパネ、コンソールボックス等の自動車内外装部品、家電部品等、種々の分野のシボ模様付き成形体の材料として好適に用いることができる。