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特許7126604熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20220819BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20220819BHJP
   C08L 61/00 20060101ALI20220819BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220819BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220819BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220819BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220819BHJP
   E04B 1/684 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L23/16
C08L61/00
C08L23/10
C08L91/00
C08K5/20
B32B27/32 103
E04B1/684 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021507344
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011501
(87)【国際公開番号】W WO2020189633
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019049728
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】柴田 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】依田 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】千蒲 翔
(72)【発明者】
【氏名】山本 昭広
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067818(JP,A)
【文献】特開2016-000485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
B32B 27/32
E04B 1/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(ただし、α-オレフィンの炭素数は3~20である。)のフェノール樹脂系架橋剤(E)による架橋体を含み、かつ
結晶性ポリオレフィン(B)を360~460質量部、
軟化剤(C)を70~140質量部、および
滑剤(D)を2~6質量部(ただし、前記共重合体(A)の量を100質量部とする。)含み、
前記結晶性ポリオレフィン(B)がプロピレン単独重合体またはプロピレンランダム共重合体である
熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項2】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)が、下記要件(a1)を充足する請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
要件(a1):エチレンに由来する構造単位(e)の、α-オレフィンに由来する構造単位(o)に対するモル比[(e)/(o)]が、50/50~85/15である。
【請求項3】
前記結晶性ポリオレフィン(B)の、示差走査熱量分析により測定される融点が150~170℃である請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項4】
前記結晶性ポリオレフィン(B)がプロピレン単独重合体である請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項5】
前記軟化剤(C)がパラフィンオイルである請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項6】
前記滑剤(D)がエルカ酸アミドである請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項7】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、前記結晶性ポリオレフィン(B)の少なくとも一部とを、前記フェノール樹脂系架橋剤(E)の存在下にて動的熱処理して得られたものである請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項8】
前記フェノール樹脂系架橋剤(E)の量が前記共重合体(A)100質量部に対し2~9質量部である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む成形体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層と軟質材料を含む層とが積層されてなる積層体。
【請求項11】
前記軟質材料の硬度(A硬度)が65~95である請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記軟質材料が熱可塑性エラストマーを含む請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記軟質材料が熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマー組成物(II)を含み、前記組成物(II)が軟化剤を含み、前記組成物(II)に占める前記軟化剤の質量分率(W2c)が30~50質量%である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
前記熱可塑性エラストマー組成物(I)に占める前記軟化剤(C)の質量分率(W1c)の、前記熱可塑性エラストマー組成物(II)に占める前記軟化剤の質量分率(W2c)に対する比(W1c/W2c)が0.60以下である、請求項13に記載の積層体。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか一項に記載の積層体を含む物品。
【請求項16】
窓枠シール、グラスランチャンネルまたは建材用ガスケットである請求項15に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成分、樹脂成分等を含む熱可塑性エラストマー材料からなる成形体としては、成形体を構成する基体の表面(たとえば、摺動性を要する部位)に摺動性を有する被覆体を形成した多層構造のものが知られている。このような多層構造の成形体の例としては、自動車のグラスランチャンネルが挙げられる。
【0003】
自動車のグラスランチャンネルの摺動性を有する被覆体に用いられる材料には、様々な特性をバランスよく有することが求められている。このような特性としては、特に、耐油性、高温下でのオイルブリードが少ないこと(以下「耐熱老化性」ともいう。)、硬度、機械強度などが挙げられる。
【0004】
この耐熱老化性については、軟化剤を含む材料からなる前記被覆体が軟化剤を含む材料からなる前記基体(グラスランチャンネル本体)に積層された際に、被覆体中の軟化剤の濃度と基体中の軟化剤の濃度との差が原因で軟化剤(オイル)が移行しブリード現象が発生する、という考え方がある。
【0005】
特許文献1には、積層体の構成を工夫することで、具体的には「表層材料(摺動材料)中の非晶成分量に対する油性軟化剤(オイル)の割合≧下層材料中の非晶成分量に対する油性軟化剤の割合」とすることで、耐熱老化性を改良しようという(高温に曝された際の表面のベタの発生を抑制しようという)試みがなされている。表層材料および下層材料を構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン樹脂10~60重量部、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体30~70重量部、および油性軟化剤5~50重量部(これらの合計を100重量部とする。)を架橋剤の存在下で動的に熱処理したものが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2に開示された基体の表面に被覆体が形成された多層構造エラストマー成形体においては、「被覆体中の軟化剤(オイル)の割合/基体中の軟化剤の割合を0.00以上0.30未満」としている。実施例の被覆体材料では、EPDM100phrに対し、ポリプロピレンが200phr配合されている。なおこの文献には、成形体の強度等は記載されていない。
【0007】
また、特許文献3には、完全または部分架橋された熱可塑性エラストマーに、ポリプロピレン、フィラー、脂肪酸アミド等が配合された表皮部材用ポリオレフィン樹脂組成物が開示されている。なおこの文献には、組成物から形成される成形体の硬度、機械強度等は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-138440号公報
【文献】特開2016-000485号公報
【文献】特開平9-176408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の摺動性熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体には、諸特性に更なる改善の余地があった。たとえば特許文献1の表層材料においては、油性軟化剤が多いと硬度を上げることが困難であった。
【0010】
本発明は、耐熱老化性に優れ、硬度および機械物性(引張り弾性率、引張り破断強度)にも優れ、かつ成形性にも優れた熱可塑性エラストマー組成物、およびそれを用いた成形体等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(ただし、α-オレフィンの炭素数は3~20である。)のフェノール樹脂系架橋剤(E)による架橋体を含み、かつ
結晶性ポリオレフィン(B)を360~460質量部、
軟化剤(C)を70~140質量部、および
滑剤(D)を2~6質量部(ただし、前記共重合体(A)の量を100質量部とする。)含む熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0012】
[2]
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)が、下記要件(a1)を充足する前記[1]の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
要件(a1):エチレンに由来する構造単位(e)の、α-オレフィンに由来する構造単位(o)に対するモル比[(e)/(o)]が、50/50~85/15である。
【0013】
[3]
前記結晶性ポリオレフィン(B)の、示差走査熱量分析により測定される融点が150~170℃である前記[1]または[2]の熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0014】
[4]
前記結晶性ポリオレフィン(B)がプロピレン系重合体である前記[1]~[3]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0015】
[5]
前記軟化剤(C)がパラフィンオイルである前記[1]~[4]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0016】
[6]
前記滑剤(D)がエルカ酸アミドである前記[1]~[5]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0017】
[7]
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)と、前記結晶性ポリオレフィン(B)の少なくとも一部とを、前記フェノール樹脂系架橋剤(E)の存在下にて動的熱処理して得られたものである前記[1]~[6]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0018】
[8]
前記フェノール樹脂系架橋剤(E)の量が前記共重合体(A)100質量部に対し2~9質量部である前記[1]~[7]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)。
【0019】
[9]
前記[1]~[8]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む成形体。
【0020】
[10]
前記[1]~[8]のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層と軟質材料を含む層とが積層されてなる積層体。
【0021】
[11]
前記軟質材料の硬度(A硬度)が65~95である前記[10]の積層体。
【0022】
[12]
前記軟質材料が熱可塑性エラストマーを含む前記[11]の積層体。
【0023】
[13]
前記軟質材料が熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマー組成物(II)を含み、前記組成物(II)が軟化剤を含み、前記組成物(II)に占める前記軟化剤の質量分率(W2c)が30~50質量%である前記[12]の積層体。
【0024】
[14]
前記熱可塑性エラストマー組成物(I)に占める前記軟化剤(C)の質量分率(W1c)の、前記熱可塑性エラストマー組成物(II)に占める前記軟化剤の質量分率(W2c)に対する比(W1c/W2c)が0.60以下である、前記[13]の積層体。
【0025】
[15]
前記[10]~[14]のいずれかの積層体を含む物品。
【0026】
[16]
窓枠シール、グラスランチャンネルまたは建材用ガスケットである前記[15]の物品。
【発明の効果】
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱老化性に優れ、硬度および機械物性(引張り弾性率、引張り断強度)にも優れ、かつ成形性にも優れている。
また、本発明の成形体および積層体は、耐熱老化性に優れ、硬度および機械物性(引張り弾性率、引張り破断強度)にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[熱可塑性エラストマー組成物(I)]
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)は、
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)または前記共重合体(A)を含有する混合物を、前記共重合体(A)を架橋可能なフェノール樹脂系架橋剤(E)の存在下で動的に熱処理して得られる熱処理物(前記共重合体(A)の前記架橋剤(E)による架橋体)を含み、かつ
結晶性ポリオレフィン(B)、軟化剤(C)、および滑剤(D)を含有することを特徴としている。
【0029】
<エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)>
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」とも記載する。)は、エチレン由来の構造単位、少なくとも1種の炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位、及び少なくとも一種の非共役ポリエンに由来する構造単位を含むエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体である。
【0030】
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン(炭素数3)、1-ブテン(炭素数4)、1-ノネン(炭素数9)、1-デセン(炭素数10)、1-ノナデセン(炭素数19)、1-エイコセン(炭素数20)等の側鎖の無い直鎖状のα-オレフィン;4-メチル-1-ペンテン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等の側鎖を有するα-オレフィンなどが挙げられる。これらα-オレフィンは1種単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、耐熱性の観点から、プロピレンが好ましい。
【0031】
非共役ポリエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン;シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン等の環状非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン、1,3,7-オクタトリエン、1,4,9-デカトリエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン等のトリエンなどが挙げられる。これら非共役ポリエンは、1種単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、1,4-ヘキサジエンなどの環状非共役ジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン及び5-ビニル-2-ノルボルネンの混合物が好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0032】
共重合体(A)としては、エチレン・プロピレン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ペンテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-へプテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-ノネン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・1-デセン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ペンテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ヘキセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-へプテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-ノネン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・1-デセン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン・5-エチリデン-2-ノルボルネン・5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体などが挙げられる。
【0033】
共重合体(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
共重合体(A)は、好ましくは下記要件(a1)を充足する。より好ましくはさらに要件(a2)を充足し、さらに好ましくは要件(a1)および(a2)とともにさらに要件(a3)を充足する。
【0034】
要件(a1):エチレンに由来する構造単位(e)の、α-オレフィンに由来する構造単位(o)に対するモル比[(e)/(o)]が、50/50~85/15であり、好ましくは60/40~80/20である。
要件(a2):共重合体(A)の全構成単位に占める非共役ポリエンに由来する構造単位の割合が0.5~6.0モル%である。
要件(a3):135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が1.0~10dL/gであり、好ましくは1.5~8dL/gである。
【0035】
(共重合体(A)の製造方法)
共重合体(A)は、例えば、国際公開第2018/181121号の[0028]-[0145]に記載の方法で製造することができる。
【0036】
<結晶性ポリオレフィン(B)>
結晶性ポリオレフィン(B)は、オレフィンから得られる結晶性の重合体であれば特に制限されないが、1種以上のモノオレフィンを、高圧法又は低圧法の何れかにより重合して得られる結晶性の高分子量固体生成物からなる重合体であることが好ましい。このような重合体としては、アイソタクチックモノオレフィン重合体、シンジオタクチックモノオレフィン重合体等が挙げられる。
【0037】
結晶性ポリオレフィン(B)は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品を用いてもよい。
結晶性ポリオレフィン(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
結晶性ポリオレフィン(B)の原料となるオレフィンの例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、2-メチル-1-プロペン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘキセン等の炭素数2~20のα-オレフィン(プロピレンを除く。)が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
結晶性ポリオレフィン(B)の中でも、耐熱性、耐油性の点からは、プロピレンを主とするオレフィンから得られるプロピレン単独重合体又はプロピレン共重合体であるプロピレン系(共)重合体が好ましく、引張破断強度の点からプロピレン単独重合体がより好ましい。なお、プロピレン共重合体の場合、プロピレン由来の構造単位の含有量は好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、プロピレン以外の単量体由来の構造単位となるオレフィンとしては、好ましくは炭素数2~20のα-オレフィン(プロピレンを除く。)、より好ましくはエチレン、ブテンである。
【0040】
重合様式はランダム型であってもブロック型であってもよい。
結晶性ポリオレフィン(B)のメルトフローレート(MFR)(ASTM D1238-65T、230℃、2.16kg荷重)は、通常0.01~100g/10分、好ましくは0.05~50g/10分であり、弾性率の観点からより好ましくは0.1~9.0g/10分であり、さらに好ましくは0.1~6.0g/10分である。
【0041】
結晶性ポリオレフィン(B)の、示差走査熱量分析(DSC)で得られる融点(Tm)が、通常100℃以上、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは150~170℃である。融点がこの範囲にあると、本発明の目的に適した物性(硬度、機械物性および成形性)を発現できる。この融点の値は、以下の条件で測定を行った場合のものである。
【0042】
<測定条件>
試料5mg程度を専用アルミパンに詰め、(株)パーキンエルマー社製DSCPyris1又はDSC7を用い、30℃から200℃までを320℃/分で昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から30℃までを10℃/分で降温し、30℃で更に5分間保持し、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より融点を求める。なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピーク温度を融点(Tm)と定義する。
【0043】
結晶性ポリオレフィン(B)は、熱可塑性エラストマー組成物の流動性及び耐熱性を向上させる役割を果たす。
結晶性ポリオレフィン(B)は、共重合体(A)100質量部に対して、通常360~460質量部、好ましくは370~440質量部、より好ましくは370~420質量部の割合で用いられる。一方、結晶性ポリオレフィン(B)の量が、上記範囲よりも過少であると、熱可塑性エラストマー組成物ないしその成形体の硬度が低く、上記範囲よりも過大であると、熱可塑性エラストマー組成物の成形性(押出加工性)が劣る。
【0044】
<軟化剤(C)>
軟化剤(C)としては、通常ゴムに使用される軟化剤を用いることができる。軟化剤(C)としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィンオイル、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤;コールタール、コールタールピッチなどのコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤;トール油;サブ(ファクチス);蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛等の脂肪酸又は脂肪酸塩;ナフテン酸;パイン油、ロジン又はその誘導体;テルペン樹脂、石油樹脂、アタクチックポリプロピレン、クマロンインデン樹脂等の合成高分子物質;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等のエステル系軟化剤;マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、液状チオコール、炭化水素系合成潤滑油などが挙げられる。
【0045】
これらの中でも石油系軟化剤が好ましく、パラフィンオイルが特に好ましい。
軟化剤(C)は、共重合体(A)100質量部に対して、通常70~140質量部、好ましくは80~120質量部、より好ましくは90~110質量部の割合で用いられる。軟化剤(C)をこのような量で用いると、組成物の調製時及び成形時の流動性に優れ、得られる成形体の機械的物性を低下させ難く、また、得られる成形体は、耐熱性、耐熱老化性に優れる。
【0046】
<滑剤(D)>
滑剤(D)としては、一般的に広く認識されているプラスチックに配合されている公知のものを用いることができる。例えば化学便覧応用編、改訂2版(日本化学会編、1973年、丸善株式会社発行)の1037~1038頁に記載のものを使用できる。その具体例としては、オルガノポリシロキサン、フッ素系ポリマー、脂肪酸アミド、金属セッケン、エステル類、炭酸カルシウム、シリケートが挙げられる。
【0047】
前記脂肪酸アミドの具体例としては、
ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド(別名:エルカ酸アミド)、ラウリルアミド、パルミチルアミドおよびベヘンアミド等の高級脂肪酸のモノアミド;
メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、エチレンビスオレイルアミドおよびエチレンビスラウリルアミド等の高級脂肪酸のアミド;
ステアリルオレイルアミド、N-ステアリルエルクアミドおよびN-オレイルパルミトアミド等の複合型アミド;ならびに
プラストロジンおよびプラストロジンSの商品名(藤沢薬品工業(株))として市販されている特殊脂肪酸アミドが挙げられる。
【0048】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記エステル類は、脂肪族アルコールと、ジカルボン酸または脂肪酸とのエステルである。このようなエステル類の具体例としては、セチルアルコールと酢酸とのエステル、セチルアルコールとプロピオン酸とのエステル、セチルアルコールと酪酸とのエステル、牛脂アルコールと酢酸とのエステル、牛脂アルコールとプロピオン酸とのエステル、牛脂アルコールと酪酸とのエステル、ステアリルアルコールと酢酸とのエステル、ステアリルアルコールとプロピオン酸とのエステル、ステアリルアルコールと酪酸とのエステル、ジステアリルアルコールとフタル酸とのエステル、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、12-水酸化ステアレート、グリセリントリステアレート、トリメチロールプロパントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ブチルステアレート、イソブチルステアレート、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、ベヘン酸エステル、カルシウムソープ含有エステル、イソトリデシルステアレート、セチルパルミテート、セチルステアレート、ステアリールステアレート、ベヘニルベヘネート、モンタン酸エチレングリコールエステル、モンタン酸グリセリンエステル、モンタン酸ペンタエリスリトールエステル、カルシウム含有モンタン酸エステルが挙げられる。
【0049】
これらの中では、ジステアリルアルコールとフタル酸とのエステル、グリセリンモノオレート、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸エステル、モンタン酸グリセリンエステルが好ましく、特にジステアリルアルコールとフタル酸とのエステル、グリセリンモノステアレート、モンタン酸グリセリンエステルが好ましい。
【0050】
前記シリケートとしては、式M2O・mSiO2・nH2O(式中、Mはアルカリ金属原子、mおよびnはそれぞれM2Oの1モルあたりのSiO2またはH2Oのモル数を示す。)で表される化合物が例示され、具体例としては、ナトリウムシリケート、カリウムシリケート、リチウムシリケートが挙げられる。
【0051】
これらの中でも脂肪酸アミドが好ましく、高級脂肪酸のモノアミドがより好ましく、エルカ酸アミドが特に好ましい。
滑剤(D)は、共重合体(A)100質量部に対して、通常2~6質量部、好ましくは3~5質量部の割合で用いられる。滑剤(D)をこのような量で用いると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の機械物性や成型加工性が良好である。
【0052】
<フェノール樹脂系架橋剤(E)>
フェノール樹脂系架橋剤(E)(本発明において「架橋剤(E)」とも称す。)としては、レゾール樹脂でありアルキル置換フェノール又は非置換フェノールのアルカリ媒体中のアルデヒドでの縮合、好ましくはホルムアルデヒドでの縮合、又は二官能性フェノールジアルコール類の縮合により製造されることも好ましい。アルキル置換フェノールは1~10の炭素原子のアルキル基置換体が好ましい。更にはパラ位において1~10の炭素原子を有するアルキル基で置換されたジメチロールフェノール類又はフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂系硬化樹脂は、典型的には、熱架橋性樹脂であり、フェノール樹脂系架橋剤又はフェノール樹脂とも呼ばれる。架橋剤(E)は、通常、共重合体(A)を架橋する働きをするものである。
【0053】
フェノール樹脂系硬化樹脂(フェノール樹脂系架橋剤)の例としては、下記一般式[E1]で表されるものを挙げることができる。
【0054】
【化1】
(式中、Qは、-CH2-及び-CH2-O-CH2-からなる群から選ばれる二価の基であり、mは0又は1~20の正の整数であり、R’は有機基である。
【0055】
好ましくは、Qは、二価基-CH2-O-CH2-であり、mは0又は1~10の正の整数であり、R’は20未満の炭素原子を有する有機基である。より好ましくは、mは0又は1~5の正の整数であり、R’は4~12の炭素原子を有する有機基である。)
具体的にはアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、メチロール化アルキルフェノール樹脂、ハロゲン化アルキルフェノール樹脂等が挙げられ、好ましくはハロゲン化アルキルフェノール樹脂であり、更に好ましくは、末端の水酸基を臭素化したものである。フェノール樹脂系硬化樹脂において、末端が臭素化されたものの一例を下記一般式[E2]で表す。
【0056】
【化2】
(式中、nは0~10の整数、Rは炭素数1~15の飽和炭化水素基である。)
【0057】
前記フェノール樹脂系硬化樹脂の製品例としては、タッキロール(登録商標)201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、タッキロール(登録商標)250-I(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、タッキロール(登録商標)250-III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)社製)、PR-4507(群栄化学工業(株)社製)、Vulkaresat510E(Hoechst社製)、Vulkaresat532E(Hoechst社製)、Vulkaresen E(Hoechst社製)、Vulkaresen105E(Hoechst社製)、Vulkaresen130E(Hoechst社製)、Vulkaresol315E(Hoechst社製)、Amberol ST 137X(Rohm&Haas社製)、スミライトレジン(登録商標)PR-22193(住友デュレズ(株)社製)、Symphorm-C-100(Anchor Chem.社製)、Symphorm-C-1001(Anchor Chem.社製)、タマノル(登録商標)531(荒川化学(株)社製)、Schenectady SP1059(Schenectady Chem.社製)、Schenectady SP1045(Schenectady Chem.社製)、CRR-0803(U.C.C社製)、Schenectady SP1055F(Schenectady Chem.社製、臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、Schenectady SP1056(Schenectady Chem.社製)、CRM-0803(昭和ユニオン合成(株)社製)、Vulkadur A(Bayer社製)が挙げられる。その中でも、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤が好ましく、タッキロール(登録商標)250-I、タッキロール(登録商標)250-III、Schenectady SP1055Fなどの臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂がより好ましく使用できる。
【0058】
また、熱可塑性加硫ゴムのフェノール樹脂による架橋の具体的な例としては、米国特許第4,311,628号、米国特許第2,972,600号及び米国特許第3,287,440号に記載され、これらの技術も本発明で用いることができる。
【0059】
米国特許第4,311,628号には、フェノール系硬化性樹脂(phenolic curing resin)及び加硫活性剤(cure activator)からなるフェノール系加硫剤系(phenolic curative system)が開示されている。該系の基本成分は、アルカリ媒体中における置換フェノール(例えば、ハロゲン置換フェノール、C1-C2アルキル置換フェノール)又は非置換フェノールとアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドとの縮合によるか、あるいは二官能性フェノールジアルコール類(好ましくは、パラ位がC5-C10アルキル基で置換されたジメチロールフェノール類)の縮合により製造されるフェノール樹脂系架橋剤である。アルキル置換フェノール樹脂系架橋剤のハロゲン化により製造されるハロゲン化されたアルキル置換フェノール樹脂系架橋剤が、特に適している。メチロールフェノール硬化性樹脂、ハロゲン供与体及び金属化合物からなるフェノール樹脂系架橋剤が特に推奨でき、その詳細は米国特許第3,287,440号及び同第3,709,840号各明細書に記載されている。非ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤は、ハロゲン供与体と同時に、好ましくはハロゲン化水素スカベンジャーとともに使用される。通常、ハロゲン化フェノール樹脂系架橋剤、好ましくは、2~10質量%の臭素を含有している臭素化フェノール樹脂系架橋剤はハロゲン供与体を必要としないが、例えば酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛、好ましくは酸化亜鉛のような金属酸化物のごときハロゲン化水素スカベンジャーと同時に使用される。これら酸化亜鉛などのハロゲン化水素スカベンジャーは、フェノール樹脂系架橋剤100質量部に対して、通常1~20質量部用いられる。このようなスカベンジャーの存在はフェノール樹脂系架橋剤の架橋作用を促進するが、前記共重合体(A)がフェノール樹脂系架橋剤(E)で容易に架橋されない場合には、ハロゲン供与体及び酸化亜鉛を共用することが望ましい。ハロゲン化フェノール系硬化性樹脂の製法及び酸化亜鉛を使用する加硫剤系におけるこれらの利用は米国特許第2,972,600号及び同第3,093,613号各明細書に記載されており、その開示は前記米国特許第3,287,440号及び同第3,709,840号明細書の開示とともに参考として本明細書にとり入れるものとする。適当なハロゲン供与体の例としては、例えば、塩化第一錫、塩化第二鉄、又は塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン及びポリクロロブタジエン(ネオプレンゴム)のようなハロゲン供与性重合体が挙げられる。適当なフェノール樹脂系架橋剤及び臭素化フェノール樹脂系架橋剤は商業的に入手することができ、例えばかかる架橋剤はSchenectady Chemicals, Inc.から商品名「SP-1045」、「CRJ-352」、「SP-1055F」及び「SP-1056」として購入され得る。同様の作用上等価のフェノール樹脂系架橋剤は、また他の供給者から得ることができる。
【0060】
フェノール樹脂系架橋剤(E)は、分解物の発生が少ないため、フォギング防止の観点から好適な架橋剤である。
本発明においては、架橋剤(E)の存在下での熱処理に際し、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N,4-ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン-N,N’-m-フェニレンジマレイミドのようなペルオキシ架橋助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートなどの多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルステアレートなどの多官能性ビニルモノマー等の助剤を配合することができる。
【0061】
また、架橋剤(E)の分解を促進するために、分散促進剤を用いてもよい。分解促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、2,4,6-トリ(ジメチルアミノ)フェノールなどの三級アミン;アルミニウム、コバルト、バナジウム、銅、カルシウム、ジルコニウム、マンガン、マグネシウム、鉛、水銀等、ナフテン酸と種々の金属(例えば、Pb、Co、Mn、Ca、Cu、Ni、Fe、Zn、希土類)とのナフテン酸塩等が挙げられる。
【0062】
架橋剤(E)は、共重合体(A)100質量部に対して、通常2~9質量部、好ましくは2.5~8.5質量部の割合で用いられる。架橋剤(E)をこのような量で用いると、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の機械物性や成型加工性が良好である。また本発明における、共重合体(A)の架橋の程度は特に制限はないが、架橋剤(E)の量を本発明の範囲内で変えることで調整可能である。
【0063】
<任意の添加剤>
本発明の組成物には、上述した成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において添加剤が配合されていてもよい。
前記添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、無機充填剤、補強剤、老化防止剤(安定剤)、加工助剤、活性剤、吸湿剤、発泡剤、発泡助剤、上述の架橋助剤、上述の分解促進剤などが挙げられる。
これら添加剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
任意の添加剤が配合される場合、安定剤(酸化防止剤、老化防止剤)、加工助剤などの添加剤の配合量はそれぞれ、前記共重合体(A)100質量部に対して、たとえば0.01~0.80質量部、好ましくは0.10~0.50質量部程度である。着色剤、無機充填剤、補強剤、活性剤、吸湿剤、発泡剤、発泡助剤、上述の架橋助剤、上述の分解促進剤などは、配合量に特に制限はないが配合される場合、それぞれの添加剤は前記共重合体(A)100質量部に対して、通常は0.01~10質量部、好ましくは1~8質量部配合される。
【0065】
(熱可塑性エラストマー組成物(I)およびその製造方法)
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)は、
フェノール樹脂系架橋剤(E)により架橋された前記共重合体(A)を含有し、かつ、
前記結晶性ポリオレフィン(B)を360~460質量部、
前記軟化剤(C)を70~140質量部、および
前記滑剤(D)を2~6質量部(ただし、前記共重合体(A)の量を100質量部とする。)含有することを特徴としている。
【0066】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)は、
前記共重合体(A)と、フェノール樹脂系架橋剤(E)と、前記結晶性ポリオレフィン(B)のうちの少なくとも一部とを動的熱処理することにより得ることができる。
【0067】
動的な熱処理は、非開放型の装置中で行うことが好ましく、また窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理の温度は、通常、共重合体(A)の融点から300℃の範囲であり、好ましくは150~280℃、より好ましくは170~270℃である。混練時間は、通常1~20分間、好ましくは1~10分間である。
【0068】
前記混合物の動的な熱処理は、従来公知の混錬装置を使用して行うことができる。前記混錬装置としては、たとえばミキシングロール、インテンシブミキサー(たとえばバンバリーミキサー、加圧ニーダー)、一軸または二軸押出機が挙げられ、非開放型の紺練装置が好ましく、二軸押出機が特に好ましい。
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(I)は、上述した共重合体(A)と、架橋剤(E)とを原料としているため、これらを含む原料を動的に熱処理して得られる熱処理物の中においては、通常、共重合体(A)が架橋されている。
【0070】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)を製造する際には、前記共重合体(A)、および前記架橋剤(E)と、前記結晶性ポリオレフィン(B)のうちの少なくとも一部とを動的熱処理すればよいが、前記結晶性ポリオレフィン(B)は全量を当該動的熱処理に供してもよく、また前記軟化剤(C)、前記滑剤(D)および任意の添加剤は、それぞれ前記共重合体(A)、前記架橋剤(E)、および前記結晶性ポリオレフィン(B)のうちの少なくとも一部と共に動的に熱処理してもよく、前記熱処理物と混合してもよく、これらの両者(すなわち、一部を動的に熱処理し、残りを前記熱処理物と混合する。)であってもよい。
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)としては、前記軟化剤(C)としてパラフィンオイルを含む組成物が好ましい。
【0071】
[成形体]
本発明に係る成形体は、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)を含むことを特徴としている。
本発明に係る成形体は、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)から形成することができる。成形方法としては、従来公知の成形方法を適用することができる。
本発明に係る成形体は、摺動性能、加工性に優れている。
【0072】
[積層体およびその用途]
本発明に係る積層体は、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層(すなわち、本発明に係る成形体である層。)と、軟質材料を含む層とが積層されてなることを特徴としている。
【0073】
前記軟質材料としては、硬度(A硬度)が65~95、好ましくは65~85である軟質材料が挙げられる。
前記軟質材料としては、例えば熱可塑性エラストマー(以下「熱可塑性エラストマー組成物(II)」とも記載する。)を挙げることができる。
【0074】
前記熱可塑性エラストマー組成物(II)としては、好ましくは、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)においてフェノール樹脂系架橋剤(E)を他の架橋剤に置き換えたもの、およびこれらの熱可塑性エラストマー組成物において原料の配合割合を変更したものが挙げられる。熱可塑性エラストマー組成物(II)としては、架橋剤がフェノール樹脂系架橋剤(E)であるものがより好ましい。
【0075】
前記熱可塑性エラストマー組成物(II)としては、さらに好ましくは、ポリオレフィン樹脂(X)10~60質量部と、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体ゴム(又はこれにポリイソブチレン、ブチルゴム、プロピレン・エチレン共重合体等の他のゴムを加えたゴム成分)(Y)30~70質量部と、油性軟化剤(Z)5~50質量部[(X)、(Y)及び(Z)の合計は100質量部である。]とを架橋剤の存在下に動的に熱処理することにより製造されるものが挙げられる。ここで(X)、(Y)および(Z)成分は、それぞれ本発明の熱可塑性エラストマー組成物(I)に用いられる(B)、(A)および(C)成分とそれぞれ同じものを意味する。
【0076】
本発明で用いられる熱可塑性エラストマー組成物における軟化剤の質量分率(Wc)は以下のとおり定義される。すなわち、本発明で用いられる熱可塑性エラストマーにおける、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)、結晶性ポリオレフィン(B)、軟化剤(C)および架橋剤(E’)(架橋剤(E’)とはフェノール樹脂系架橋剤(E)も包含する概念である。)の質量の合計量に対する軟化剤(C)の質量割合を百分率で表した値をWcとする。さらに、熱可塑性エラストマー組成物(I)におけるWcをW1c、熱可塑性エラストマー組成物(II)におけるWcをW2cと表すこととする。
【0077】
前記熱可塑性エラストマー組成物(II)における軟化剤(C)の質量分率(W2c)は、好ましくは30~50質量%、より好ましくは33~45質量%である。
この積層体において、前記熱可塑性エラストマー組成物(I)に占める前記軟化剤(C)の質量分率(W1c)の、前記熱可塑性エラストマー組成物(II)に占める前記軟化剤の質量分率(W2c)に対する比(W1c/W2c)は、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下である。前記比(W1c/W2c)が前記範囲にあると、熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層から軟質材料(熱可塑性エラストマー組成物(II))を含む層への軟化剤(オイル)の移行が少なく、かつ熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層の摺動性能が阻害されない。なおW1c/W2cの下限値は、特に制限はないが、好ましくは0.30、より好ましくは0.40である。
【0078】
本発明の積層体は、前記の2つの層以外の層をさらに有していてもよい。
積層体の用途にも依存するが、熱可塑性エラストマー組成物(I)を含む層の厚さは、たとえば30μm~1000μmであり、軟質材料(熱可塑性エラストマー組成物(II))を含む層の厚さは、たとえば0.1mm~3.0mmである。
【0079】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物(I)およびその成形体は、耐熱老化性に優れ、適度な硬度を有し、また機械強度にも優れているため、これを用いた本発明に係る積層体は、自動車用シール部材(グラスランチャンネル)に特に有用であり、グラスランチャンネルが底面部でガラスと強く接触した際の低級音(キュー音、キー音、ガタガタ音(creaking noise、rattling noise))を低減することも可能と考えられる。
本発明の積層体は、グラスランチャンネルの他、窓枠シール、建材用ガスケット等の物品にも好ましく適用することができる。
【実施例
【0080】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[測定ないし評価方法]
<原料>
以下の方法により、原料の物性を測定した。
(エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体中の各構成単位の割合)
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体に含まれるエチレンに由来する構造単位の割合、α-オレフィンに由来する構造単位の割合、および非共役ポリエンに由来する構造単位の割合は、13C-NMRによって測定した。
【0081】
<熱可塑性エラストマー組成物>
以下の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を測定ないし評価した。
(MFR)
メルトインデックサ((株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K7112に準拠し、230℃、10kg荷重での熱可塑性エラストマー組成物のペレットのメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0082】
(A硬度)
100t電熱自動プレス(ショージ社製)を用いて、得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを230℃で6分間プレス成形し、その後、室温で5分間冷却プレスして厚さ2mmのプレスシートを作製した。該シートを用いて、ISO7619に準拠して、A型測定器を用い、押針接触後直ちに目盛りを読み取った。
【0083】
(D硬度)
熱可塑性エラストマー組成物のペレットから50tプレス機を用いて調整した20cm×20cm×2mmのシートサンプルを被験試料とし、JIS K 6252-3に準拠し、デュロメーターD硬度計により硬度を測定した。
【0084】
(引張特性)
熱可塑性エラストマー組成物のペレットから50tプレス機を用いて調整した20cm×20cm×2mmのシートサンプルを被験試料とし、JIS 6251に準拠して、温度25℃、引張速度500mm/分の条件で引張試験を行い、M100(100%伸び時の応力)、TB(引張破断強度)、およびEB(引張破断点伸び)を測定した。
【0085】
(ゲル分率)
熱可塑性エラストマー組成物のペレットから50tプレス機を用いて調整した20cm×20cm×2mmのシートサンプルを被験試料とし、325メッシュの金属カゴに被験試料を入れ、140℃のパラキシレン溶媒に24時間浸漬し、金属カゴに残存したものの重量を測定し、下式により残存ゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(残存物の重量[g]/被験試料の重量[g])×100
【0086】
(膨潤率)
熱可塑性エラストマー組成物のペレットから50tプレス機を用いて調整した20cm×20cm×2mmのシートサンプルを被験試料とし、125℃のパラフィンオイルに72時間浸漬した。浸漬の前後の重量を測定し、下式により膨潤率を算出した。
膨潤率(%)=(浸漬後の重量[g])/(浸漬前の重量[g])×100
【0087】
(耐熱老化性)
実施例等で製造した積層体を、空気中、80℃で72時間放置してその積層体のうち、摺動層(熱可塑性エラストマー組成物(I))側の表面状態を目視および指触により確認し、放置前の表面状態と比較した。表1中の符号の意味は以下のとおりである。
〇:表面状態に変化なし
△:表面に光沢が生じたが、ベタツキは生じなかった
×:表面に光沢が生じ、かつベタツキが生じた
【0088】
(押出加工性)
熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、200℃に設定したL/D=30のキャピラリーレオメーターにより測定した、せん断速度24s-1でのダイスウェル値、およびせん断速度2400s-1でのダイスウェル値から、下式によりスウェル比を算出した。
スウェル比=[せん断速度2400s-1でのダイスウェル値]/[せん断速度24s-1でのダイスウェル値]
このスウェル比が大きいことは、低せん断域と高せん断域とでダイスウェル値の差が大きく押出加工性が劣ることを表す。
【0089】
[原料]
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体として、重合触媒にメタロセン触媒を用いて公知の技術により製造された、エチレンに由来する構造単位(e)のα-オレフィンに由来する構造単位(o)に対するモル比[(e)/(o)]が64/36、全構成単位に占める非共役ポリエンに由来する構造単位の割合が5.4モル%、135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が2.5dL/gであるエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、以下「EPDM-1」と記載する。)を使用した。
【0090】
結晶性ポリオレフィン(B)として、公知の技術により製造された以下のプロピレン単独重合体であるh-PP1~h-PP3を使用した。
・h-PP1:MFR(230℃、2.16kg荷重)=0.5g/10分、融点160℃のプロピレン単独重合体
・h-PP2:MFR(230℃、2.16kg荷重)=2.0g/10分、融点160℃のプロピレン単独重合体
・h-PP3:MFR(230℃、2.16kg荷重)=9.0g/10分、融点160℃のプロピレン単独重合体
さらに、以下の原料を使用した。
・軟化剤:PW90(商品名、出光興産(株)製)(パラフィンオイル)
・滑剤:エルカ酸アミド
・架橋剤:臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(商品名、SP-1055F、schenectady社製)
・着色剤:カーボンブラックマスターバッチ(DIC(株)製、F23287MM)
・酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(Irganox 1010(BASFジャパン(株)製))、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(Tinuvin 326(BASFジャパン(株)製)、およびヒンダードアミン(HALS)系耐候安定剤(Tinuvin 770(BASFジャパン(株)製)の混合物
【0091】
[実施例1]
(熱可塑性エラストマー組成物-1の製造)
EPDM-1、h-PP1、軟化剤、滑剤、架橋剤、着色剤および酸化防止剤を、表1に記載した割合で二軸押出機((株)神戸製鋼所製、HYPER KTX 46)に導入し、これらをシリンダー温度:50~250℃(すなわち前述した「熱可塑性エラストマー組成物(I)およびその製造方法」の個所で述べた動的な熱処理の温度は250℃である)、ダイス温度:200℃、スクリュー回転数:550pm、かつ押出量:40kg/時の条件で溶融混練し、熱可塑性エラストマー組成物(以下「熱可塑性エラストマー組成物-1」とも記載する。)のペレットを得た。評価結果を表1に示す。
【0092】
(積層体の製造)
軟質材料(熱可塑性エラストマー組成物(II))を含む層の材料として、軟化剤の質量分率(W2c)が33質量%、または42質量%の熱可塑性エラストマー組成物を準備した。
【0093】
具体的には、ポリオレフィン樹脂(前記h-PP1)24質量部と、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(前記EPDM-1)37質量部と、軟化剤33質量部とを、6質量部の架橋剤(前記臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)の存在下、上述した熱可塑性エラストマー組成物-1の製造時と同様の条件で動的に熱処理することにより、熱可塑性エラストマー組成物(以下「TPV-1」と記載する。)を製造した。また、ポリオレフィン樹脂(前記h-PP1)19質量部と、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(前記EPDM-1)33質量部と、軟化剤42質量部とを、6質量部の架橋剤(前記臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)の存在下、上述した熱可塑性エラストマー組成物-1の製造時と同様の条件で動的に熱処理することにより、熱可塑性エラストマー組成物(以下「TPV-2」と記載する。)を製造した。
【0094】
共押出装置を用いて、軟質材料(前記TPV-1または前記TPV-2)を含む層と熱可塑性エラストマー組成物-1を含む摺動層とが積層された積層体(摺動層厚さ200~250μm、積層体総厚2mm)を作製した。
この積層体を被験試料とした耐熱老化性の評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例2~10、比較例1~3]
原料の種類または量を表1に記載のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得て、さらに積層体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、各種物性にバランス良く優れていた。
一方、結晶性ポリオレフィン(B)の量が過少である比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は、硬度が低かった。
また、結晶性ポリオレフィン(B)の量が過大である比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、押出加工性に劣っていた。
軟化剤(C)の量が過大であり、かつ架橋剤(D)が用いられなかった比較例3の熱可塑性エラストマー組成物は、オイルブリードが発生し、かつ硬度の点で劣っていた。