(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-18
(45)【発行日】2022-08-26
(54)【発明の名称】LDI-MSを用いた血液中の有機物の測定方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220819BHJP
【FI】
G01N27/62 F
(21)【出願番号】P 2021543450
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(86)【国際出願番号】 KR2019018683
(87)【国際公開番号】W WO2020159088
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0011493
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0098646
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512328201
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】イ テ ゴル
(72)【発明者】
【氏名】ナ ヒ-キュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョー スンホ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103592361(CN,A)
【文献】特表2008-513781(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00 - H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板層と、前記基板層上に積層される二硫化タングステン層と、を含むLDI-MS試料ロードアレイの二硫化タングステン層上に、血液を含む試料をロードする試料ロードステップ、および
前記LDI-MS試料ロードアレイ上にロードされた試料をLDI-MSで分析し、試料中のターゲット物質を検出する分析ステップを含む、LDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項2】
前記二硫化タングステン層は、前記基板層に接する複数の二硫化タングステンナノフレーク粒子を含む、請求項1に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項3】
前記分析ステップは、ターゲット物質の含量を計算する定量化ステップを含む、請求項1に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項4】
前記定量化ステップは、二硫化タングステン層に存在する二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度を得る第1定量化ステップを含み、
前記第1定量化ステップで得た二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度からターゲット物質の含量を決定する、請求項3に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項5】
前記試料ロードステップの前に、液状試料に内部標準物質を添加するステップを含み、
前記定量化ステップは、LDI-MSスペクトルにおいて、ターゲット物質に該当するピーク強度および内部標準物質に該当するピーク強度からターゲット物質の含量を決定する第2定量化ステップを含む、請求項3に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項6】
前記定量化ステップは、補正スペクトルを得るステップを含み、前記補正スペクトルにおいて決定係数(Coefficient of determination)が0.9以上である、請求項5に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項7】
検出限界(Limit of detection;LoD)が0.01pmol/μl(ターゲット物質/血液)以下である、請求項1に記載のLDI-MSを用いた血液中の試料分析方法。
【請求項8】
基板層と、前記基板層上に積層され、血液を含む試料がロードされるようにする二硫化タングステン層と、を含む、血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項9】
前記二硫化タングステン層は、前記基板層に接する複数の二硫化タングステンナノフレーク粒子を含む、請求項8に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項10】
前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、平均厚さが2~15nmである、請求項9に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項11】
前記二硫化タングステン層は、二硫化タングステンナノフレーク粒子が、単位面積当たり0.0001~100mg/cm
2で存在する、請求項9に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項12】
前記二硫化タングステン層は、二硫化タングステンナノフレーク粒子が分散された水分散溶液から前記基板層上にスポッティング(Spotting)された後、水が蒸発して製造されたものである、請求項9に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項13】
前記水分散溶液は、二硫化タングステンナノフレーク粒子を0.001~10重量%で含む、請求項12に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項14】
前記水分散溶液は、0.001~100μlの含量(25℃、1atm)で同一領域に2回以上スポッティングされる、請求項13に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項15】
前記二硫化タングステン層の平均厚さは0.001~500μmである、請求項8に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項16】
前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は下記式1を満たす、請求項9に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
式1:R
1/R
2≧1.3
(前記式1中、R
1は、二硫化タングステン層の任意選択された2×2μmの領域で測定されたラマンスペクトルにおいて340~380cm
-1範囲のピーク面積であり、R
2は、前記ラマンスペクトルにおいて400~440cm
-1範囲のピーク面積である。)
【請求項17】
前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、二硫化タングステンバルク粉末から、リチウムをインターカレートした化学的剥離方法により製造される、請求項9に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項18】
前記基板層は、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銀、およびシリコンの中から選択される何れか1つまたは2つ以上を含む、請求項8に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項19】
血液中に注入されるターゲット物質の定性または定量分析のための用途として用いられる、請求項8に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ。
【請求項20】
請求項8から19の何れか一項に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイを含むLDI-MS用の試料ロードキット。
【請求項21】
請求項8から19の何れか一項に記載の血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイを含むレーザ脱着イオン化質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の有機物の検出方法および血液中の有機物を検出するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬物モニタリング(Therapeutic drug monitoring、TDM)は、指定された時間間隔で、患者の血液中の薬物およびこれらの代謝物質の濃度を測定するものである。治療薬物モニタリングを通じて個人別に薬物の投与量が調節可能であり、よって、個人別に薬物を通じた治療効果を極大化させることができる。血液濃度と治療効果との間の関係を含む特徴を有する治療薬物モニタリングは非常に重要である。
【0003】
免疫抑制薬物などのような種々の薬物があり、一例として、心臓活性薬に関するものがある。治療薬物モニタリングを通じて、薬物動態学(Pharmacokinetics)、狭い治療窓(narrow therapeutic window)における個人間変動(Inter-individual variation)をモニタリングすることができる。
【0004】
免疫抑制薬物は、臓器移植後の患者に対する臓器拒否を予防するための免疫システムの抑制を誘導するために医師により処方可能である。薬物の効果を誘発しつつ副作用を防止するために、治療窓に適切な濃度で薬物を投与することが重要である。これらの狭い治療窓により、免疫抑制薬物が正確な濃度で注入される必要があり、具体的に、注入前1回または2回時に患者の血液において薬物を測定する必要がある。また、免疫抑制薬物は、薬物代謝(Drug metabolism)および薬物動態学(Pharmacokinetics)の個人間の差により、治療薬物モニタリングを必要とする。患者の血液から薬物を検出するための最も一般的に用いられる従来の方法は、液体クロマトグラフィ-質量分析法(Liquid chromatography-mass spectrometry、LC-MS)である。しかし、LC-MSは、複数の実験段階を必要とするため複雑であり、時間が多くかかるためリアルタイムで測定し難く、即時に測定データを収集することが容易ではない。よって、臨床サンプルから免疫抑制薬物の迅速な結果収集が求められており、正確性、センシティビティの向上はいうまでもなく、直接的且つ高い処理量の検出が可能な治療薬物モニタリングに対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】KR10-2018-0068280A(2018.06.21)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、測定時に複雑ではなく、多くの測定段階を経る必要がなく、迅速な分析によりリアルタイムで測定および結果収集が容易な、LDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法およびそのための装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、さらに低いサンプル濃度においても精密な分析が可能であるためセンシティビティおよび精密性に優れるとともに、種々の有機物を精密に検知可能であることはいうまでもなく、高い処理量を有し、マトリックスによる干渉なしに血液における代謝過程を経た有機物の構造分析およびその定量的分析が正確に行われる、LDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法およびそのための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るLDI-MSを用いた有機物の検出方法は、基板層と、前記基板層上に積層される二硫化タングステン層と、を含むLDI-MS試料ロードアレイの二硫化タングステン層上に、血液を含む試料をロードする試料ロードステップ、および前記LDI-MS試料ロードアレイ上にロードされた試料をLDI-MSで分析し、試料中のターゲット物質を検出する分析ステップを含む。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記分析ステップは、ターゲット物質の含量を計算する定量化ステップを含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記定量化ステップは、二硫化タングステン層に存在する二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度を得る第1定量化ステップを含んでもよく、前記第1定量化ステップで得た二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度からターゲット物質の含量を決定してもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係るLDI-MSを用いた試料分析方法は、前記試料ロードステップの前に、液状試料に内部標準物質を添加するステップを含んでもよく、前記定量化ステップは、LDI-MSスペクトルにおいて、ターゲット物質に該当するピーク強度および内部標準物質に該当するピーク強度からターゲット物質の含量を決定する第2定量化ステップを含んでもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記定量化ステップは、補正スペクトルを得るステップを含み、前記補正スペクトルにおいて決定係数(Coefficient of determination)が0.9以上であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係るLDI-MSを用いた試料分析方法は、検出限界(Limit of detection;LoD)が0.01pmol/μl(ターゲット物質/血液)以下であってもよい。
【0013】
本発明に係る血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイは、基板層と、前記基板層上に積層され、血液を含む試料がロードされるようにする二硫化タングステン層と、を含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステン層は、前記基板層に接する複数の二硫化タングステンナノフレーク粒子を含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、平均厚さが2~15nmであってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステン層は、二硫化タングステンナノフレーク粒子が、単位面積当たり0.0001~100mg/cm2で存在してもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステン層は、二硫化タングステンナノフレーク粒子が分散された水分散溶液から前記基板層上にスポッティング(Spotting)された後、水が蒸発して製造されたものであってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記水分散溶液は、二硫化タングステンナノフレーク粒子を0.001~10重量%で含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記水分散溶液は、0.001~100μlの含量(25℃、1atm)で、同一領域に2回以上スポッティングされてもよい。
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステン層の平均厚さは0.001~500μmであってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、下記式1を満たしてもよい。下記式1中、R1は、二硫化タングステン層の任意選択された2×2μmの領域で測定されたラマンスペクトルにおいて340~380cm-1範囲のピーク面積であり、R2は、前記ラマンスペクトルにおいて400~440cm-1範囲のピーク面積である。
式1:R1/R2≧1.3
【0019】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、二硫化タングステン(Tungsten disulfide;WS2)バルク粉末から、リチウムをインターカレートした(Lithium-intercalated)化学的剥離方法により製造されてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記基板層は、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銀、およびシリコン(SiO2)などから選択される何れか1つまたは2つ以上を含んでもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記試料ロードアレイは、血液中に注入されるターゲット物質の定性または定量分析のための用途として用いられてもよい。
本発明は、前記血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイを含むLDI-MS用の試料ロードキットを提供してもよい。
本発明は、前記血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイを含むレーザ脱着イオン化質量分析装置を提供してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るLDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法およびそのための装置は、測定時に複雑ではなく、多くの測定段階を経る必要がなく、迅速な分析によりリアルタイムで測定および結果収集が容易であるという効果がある。
【0023】
本発明に係るLDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法およびそのための装置は、さらに低いサンプル濃度においても精密な分析が可能であるためセンシティビティおよび精密性に優れるとともに、種々の有機物の検知が可能であることはいうまでもなく、高い処理量を有し、マトリックスによる干渉なしに血液における有機物の構造分析およびその定量的分析が正確に行われるという効果がある。
【0024】
本発明で明らかに言及していない効果であるとしても、本発明の技術的特徴により期待される明細書に記載された効果およびその内在的な効果は、本発明の明細書に記載されたものと同様に取り扱われる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】a)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子の透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope;TEM)イメージであり、b)およびc)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子の原子間力顕微鏡(Atomic force microscope;AFM)イメージであり、d)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子のUV-Visスペクトルである。
【
図2】a)は、ウェハ上の二硫化タングステン層に対するラマンマッピング(Raman mapping)結果を示したものであり、b)は、a)のラマンマッピングから選択された領域(2×2μm)から抽出されたラマンスペクトルであり、c)は、350cm
-1(red)および420cm
-1(green)の波長でのピークを有するラマンマッピング結果を示したものであり、d)は、ラマンマッピングからred領域(左側スペクトル)、green領域(中央スペクトル)、およびyellow領域(右側スペクトル)から抽出されたラマンスペクトルである。
【
図3】a)は、二硫化タングステン分散液のスポッティング数に応じたLDI-MS分析を用いたCsAの強度を示したものであり、b)は、LDI-MS分析を用いたCsAの強度とスポッティング数との間の関係を示したグラフである。
【
図4】a)は、CsAおよびその内部標準物質であるCsDの構造を示したものであり、b)は、CsA(30pmol/μl)およびCsD(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、CsAの多様な濃度に応じた全血抽出物からLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。
【
図5】a)は、TACおよびその内部標準物質であるASCの構造を示したものであり、b)は、TAC(30pmol/μl)およびASC(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、TACの多様な濃度に応じた全血抽出物からLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。
【
図6】a)は、SIRおよびEVRの構造を示したものであり、b)は、SIR(30pmol/μl)および内部標準物質(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、EVR(30pmol/μl)および内部標準物質(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、d)は、EVRの多様な濃度に応じた全血抽出物からLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。
【
図7】a)は、イオン化のためにα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid;CHCA)マトリックスを用いて、CsAの定量範囲(0.0075-30pmol/μl)に対する測定結果であり、b)は、前記マトリックスを用いて、TACに対する線形定量の範囲(0.0015-30pmol/μl)に対する測定結果であり、c)は、CHCA処理されたサンプルの低分子量領域MALDI-MSスペクトルであり、d)は、本発明に係る低質量領域LDI-MSスペクトルである。
【
図8】実験例3のLDI-MSの場合と従来のLC-MSとの相関関係を示したものであり、WS
2基盤LDI-MS分析(y-軸)およびHPLC-ESI-MS/MS(x-軸)による3種類の免疫抑制剤、CsA(a)、TAC(b)、およびEVR(c)の定量結果を比較分析したデータである。
【
図9】CsAおよびTACが注入された血液患者サンプル総80個をWS
2 LDI-MSで分析した測定値とLC-MS/MSで分析した測定値に対するPassing-Bablok regression analysesデータを示したものである。具体的に、a)は、CsAが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するPassing-Bablok regression analyses(dashed lines represent 95% confidence intervals)データであり、b)は、TACが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するPassing-Bablok regression analyses(dashed lines represent 95% confidence intervals)データである。また、c)は、CsAが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するBland-Altman plotsデータであり、d)は、TACが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するBland-Altman plotsデータである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照し、本発明に係るLDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法およびそのための装置について詳しく説明する。
本発明に記載されている図面は、当業者に本発明の思想が十分に伝達されるように例として提供されるものである。よって、本発明は、提示される図面に限定されず、他の形態に具体化されてもよく、前記図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して図示されてもよい。
【0027】
本発明で用いられる技術用語および科学用語において他の定義がなければ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明および添付図面において、本発明の要旨を不要に濁す恐れがある公知の機能および構成に関する説明は省略する。
本発明で用いられる用語の単数の形態は、特に指示しない限り、複数の形態も含むものと解釈されてもよい。
【0028】
本明細書で言及されるs1、s2、s3、…;a1、a2、a3、…;b1、b2、b3、…;a、b、c、…;などの各ステップを指す用語自体は、あるステップ、手段などを指すために用いられるものにすぎず、その用語が指す各対象の順序関係を意味するものと解釈されてはならない。
本明細書において、特に言及なしに用いられた%の単位は、他の定義がない限り、重量%を意味する。
【0029】
本明細書で言及される「層」または「膜」の用語は、各材料が連続体(continuum)をなし、幅と長さに比べて厚さが相対的に小さい寸法(dimension)を有することを意味する。このため、本明細書において、「層」または「膜」の用語により、2次元の扁平な平面に解釈されてはならない。
【0030】
本発明は、LDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法、血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイ、前記アレイを含むLDI-MS用の試料ロードキット、および前記アレイを含むレーザ脱着イオン化質量分析装置を提供する。本明細書において、LDI-MSは、レーザ脱着/イオン化質量分析法(Laser desorption/ionization mass spectrometry、LDI-MS)を意味する。
【0031】
本発明においては、均一に蒸着された二硫化タングステン(Tungsten disulfide、WS2)ナノフレーク(Nanoflake)粒子を用いて、チップ-基盤のLDI-MSアレイが製造可能となることにより、高い処理量分析のための簡単なプラットフォームを提供することができ、試料準備において部分的または完全な自動化が可能であるため分析時間を画期的に減らすことができる。また、質量分析法での正確度および精度を顕著に向上させることができる。よって、ステップが複雑でリアルタイム検出が実質的に難しいLC-MS/MSの場合とは異なり、本発明は、有機物のリアルタイム検出および分析が可能でありながらも、定性分析および定量分析の精密性にさらに優れるという効果がある。
【0032】
本発明に係るLDI-MSを用いた血液中の有機物の検出方法は、基板層と、前記基板層上に積層される二硫化タングステン層と、を含むLDI-MS試料ロードアレイの二硫化タングステン層上に、血液を含む試料をロードする試料ロードステップ、および前記LDI-MS試料ロードアレイ上にロードされた試料をLDI-MSで分析し、試料中のターゲット物質を検出する分析ステップを含む。
【0033】
本発明においては、二硫化タングステンがナノ粒子形態としてLDI-MS試料プレートの表面層に適用されることで、血液中の有機物の定性分析および定量分析に高い精度を有し、特に定量分析に高い正確度を有するため、分析しようとする有機物、すなわち、ターゲット分子の含量を正確に測定できるという効果がある。よって、高い精度および正確度の定性分析および定量分析が可能でありながらも、分析方法が簡単で、且つ、所要時間が非常に短いため、リアルタイムで血液中の有機物を定性および定量分析できるという効果がある。このような効果は、LDI-MS試料プレートの表面層にナノ粒子形態として二硫化タングステンが用いられることによるものであり、二硫化タングステン以外の金属化合物が用いられる場合、例えば、二硫化モリブデン(Molybdenum disulfide、MoS2)、二酸化タングステン(Tungsten dioxide、WO2)などの他の金属化合物が用いられる場合には実現し難い。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記分析ステップは、ターゲット物質の含量を計算する定量化ステップを含んでもよい。具体的に、二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度からターゲット物質の含量を分析する第1定量化ステップ、または内部標準物質による第2定量化ステップを例に挙げることができる。
【0035】
具体的な一例として、第1定量化ステップを説明すると、前記定量化ステップは、二硫化タングステン層に存在する二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度を得る第1定量化ステップを含んでもよく、前記第1定量化ステップで得た二硫化タングステンナノフレーク粒子の濃度からターゲット物質の含量を決定してもよい。
【0036】
具体的な一例として、第2定量化ステップを説明すると、本発明の一実施形態に係るLDI-MSを用いた試料分析方法は、前記試料ロードステップの前に、液状試料に内部標準物質を添加するステップを含んでもよく、前記定量化ステップは、LDI-MSスペクトルにおいて、ターゲット物質に該当するピーク強度および内部標準物質に該当するピーク強度からターゲット物質の含量を決定する第2定量化ステップを含んでもよい。前記内部標準物質は、分析ステップにおいてターゲット物質とは区別可能であるとともに、物理化学的特性(イオン化特性および溶解度)がターゲット物質と類似したものであればよい。かかる内部標準物質を用いて、分子量差によりターゲット物質の精密な定量分析が可能である。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記定量化ステップは、補正スペクトルを得るステップを含み、前記補正スペクトルにおいて決定係数(Coefficient of determination)が0.9以上、具体的には0.93以上、より具体的には0.95以上であってもよい。すなわち、本発明は、定量分析の精度に顕著に優れるという効果がある。この際、上限値は1以下であればよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係るLDI-MSを用いた試料分析方法は、検出限界(Limit of detection;LoD)が0.01pmol/μl(ターゲット物質/血液)以下であってもよい。すなわち、本発明は、極少量の血液を用いても精密な定量分析が可能であるという効果がある。
【0039】
本発明に係る血液中の有機物検出用のLDI-MS試料ロードアレイは、基板層と、前記基板層上に積層され、血液を含む試料がロードされるようにする二硫化タングステン層と、を含む。
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステン層は、前記基板層に接する複数の二硫化タングステンナノフレーク粒子を含んでもよい。
【0040】
前記二硫化タングステンナノフレークは、二硫化タングステンが、短幅、長幅、および厚さのうち少なくとも1つ以上がナノサイズであって、板状を有する。二硫化タングステンナノフレークは、多様な方法により製造されてもよく、一例として、化学的剥離方法、具体的には、二硫化タングステン(Tungsten disulfide;WS2)バルク粉末から、リチウムをインターカレートした(Lithium-intercalated)化学的剥離方法を製造する手段であってもよいが、この他にもナノサイズの板状二硫化タングステンが製造可能な手段であればよい。
【0041】
前記二硫化タングステンナノフレーク粒子を具体的にその規格について説明すると、次の例が挙げられるが、これは好ましい一例として説明されたものにすぎず、これに本発明が必ずしも制限されて解釈されるものではないことはいうまでもない。好ましい一例として、前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、平均厚さが1~50nm、具体的には2~15nmであってもよく、その平均長幅が1~5,000nmであってもよく、単位面積当たり0.0001~100mg/cm2で基板層上に存在してもよい。また、前記二硫化タングステン層は、その表面粗さ(Surface roughness)が1~500nmであってもよい。
【0042】
前記二硫化タングステン層は、二硫化タングステンナノフレーク粒子が分散された分散溶液から前記基板層上にスポッティング(Spotting)された後、分散溶液が蒸発して製造されたものであってもよい。この際、分散溶液は、水および通常の周知の有機溶媒などから選択される何れか1つ以上の分散媒を含んでもよく、好ましくは、分散媒が水として水分散溶液が好ましい。分散溶液を介して、スポッティングおよび乾燥により、基板層上に二硫化タングステンとしてナノフレーク粒子を含む二硫化タングステンの層を形成する場合、さらに安定した構造で規則的なパターンの分散ロードされた状態を維持することができ、さらに精密な定性分析および定量分析が可能であるという効果がある。
【0043】
前記分散溶液の組成比は、最終的に基板層上に二硫化タングステンナノフレーク粒子が分散され、適正量がロードされた状態で存在できるように調節可能であるため、大きく制限されるものではないが、例えば、前記分散溶液は、二硫化タングステンナノフレーク粒子を0.001~10重量%、および残量の分散媒を含んでもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、前記分散溶液は、0.001~100μlの含量(25℃、1atm)で、同一領域に2回以上、具体的には2~10回スポッティングされることが、さらに安定した構造で規則的なパターンの分散ロードされた状態を維持することができ、さらに精密な定性分析および定量分析が可能であるという効果がある。
【0045】
前記二硫化タングステン層の平均厚さは、二硫化タングステンナノフレーク粒子のロード量およびロード状態に応じて適宜制御されてもよく、例えば、0.001~500μmであってもよい。これを満たす場合、さらに安定的にロードされた状態を維持することができ、さらに精密な定性分析および定量分析が可能であるという効果がある。また、二硫化タングステン層の幅(横または縦)は、分析/測定規模に応じて適宜調節可能であるため、大きく制限されず、一例として、0.001~10mmであってもよい。
【0046】
本発明の一実施形態において、前記二硫化タングステンナノフレーク粒子は、下記式1を満たすことができる。下記式1中、R1は、二硫化タングステン層の任意選択された2×2μmの領域で測定されたラマンスペクトルにおいて340~380cm-1範囲のピーク面積であり、R2は、前記ラマンスペクトルにおいて400~440cm-1範囲のピーク面積である。
式1:R1/R2≧1.3
【0047】
前記基板層としては多様なものが用いられてもよく、一例として、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、クロム、銀などの導電性金属、およびシリコン(SiO2)などから選択される何れか1つまたは2つ以上を含んでもよい。しかし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、本発明がこれに必ずしも制限されて解釈されるものではない。
【0048】
前述したように、本発明に係るLDI-MSを用いた有機物の検出方法およびそのための装置は、血液中のターゲット物質または血液中に注入されるターゲット物質の定性または定量分析のための用途として用いられてもよい。
【0049】
本明細書で言及される「試料」は血液または血液を含むものを意味し、血液としては、血液自体が用いられてもよく、血液から分離した血漿が用いられてもよく、血液にいかなる処理をしたものが用いられてもよい。
【0050】
本明細書において、検出のための「有機物」は「ターゲット物質」を意味し得るし、ターゲット物質は、好ましくは、ターゲット分子であってもよい。前記ターゲット物質としては、血液中の検出しようとする有機物質であれば制限されず、一例として、免疫抑制剤、抗遊走剤、消炎剤、血管新生抑制剤、細胞増殖抑制剤、細胞毒性剤、抗再狭窄剤、抗悪性腫瘍剤、抗菌剤、および抗真菌剤などの多様なものが用いられてもよい。また、前記ターゲット物質は、モニタリングが必要な血液中に注入用途として用いられてもよい。
【0051】
非制限的な具体的な一例として、前記ターゲット物質は、シクロスポリンA、タクロリムス、シロリムス、エベロリムス、アブシキシマブ(abciximab)、アセメタシン、アセチルビスミオンB、アクラルビシン(aclarubicin)、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエシン(aescin)、アフロモソン、アカゲリン、アルデスロイキン、アミドロン、アミノグルテセミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アミノプテリン、抗真菌剤、抗血栓剤、アポシマリン、アルガトロバン、アリストラクタム-AII、アリストロキア酸(aristolochic acid)、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ(basiliximab)、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルベリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン、ブレオマイシン、ボムブレスタチン、ボスウェル酸およびその誘導体、ブルセアノレスA、BおよびC、ブリオフィリンA、ブスルファン、抗トロンビン、ビバリルジン、カドヘリン、カンプトテシン、カペシタビン、o-カルバモイル-フェノキシ-酢酸、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン(cicutoxin)、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン(colchicine)、コンカナマイシン、クマジン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボンA、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11-ジメトキシカンチン-6-オン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エポチロンAおよびB、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、フィルグラスチム、フルロブラスチン、フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン-5’-リン酸二水素、フルオロウラシル、ホリマイシン、ホスフェストロール、ゲムシタビン、ガラキノシド(ghalakinoside)、ギンコール(ginkgol)、ギンコール酸、グリコシド1a、4-ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキセート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテホシン、ペントスタチン、ペグアスパラガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、フォルメスタン、ミトキサントロン、ミコフェノール酸モフェチル、β-ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸2-エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM-CSF)、ペグインターフェロンα-2b、レノグラスチム(r-HuG-CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカイン拮抗剤)、サイトカイニン阻害剤、COX-2阻害剤、アンジオペプチン、筋細胞増殖を抑制するモノクローナル抗体、bFGF拮抗剤、プロブコール、プロスタグランジン、1-ヒドロキシ-11-メトキシカンチン-6-オン、スコポレチン、NOドナー、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノンイミン、S-ニトロソ誘導体、タモキシフェン、スタウロスポリン、β-エストラジオール、α-エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、シピオン酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カメバコーリン(kamebakaurin)および癌の治療療法に用いられるその他のテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チロホスチン)、パクリタキセルおよびその誘導体、6-α-ヒドロキシ-パクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、水酸化クロロキン、金チオリンゴ酸ナトリウム、オキサセプロール、β-シトステリン、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメントール、エリプチシン、D-24851(Calbiochem社)、コルセミド、サイトカラシンA-E、インダノシン、ノカダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体アンタゴニスト、アゼラスチン、金属プロテイナーゼ-1および-2のグアニジルシクラーゼ刺激因子組織阻害剤、遊離核酸、ウィルス伝達物質に組み込まれた核酸、DNAおよびRNA分節、プラスミノゲン・アクチベータ・インヒビター-1、プラスミノゲン・アクチベータ・インヒビター-2、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF-1、抗生物質のグループからアクチベータ、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張剤、ジピリダモール、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗剤、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ・インヒビター、プロスタシクリン、バピプロスト、インターフェロンα、βおよびγ、ヒスタミン拮抗剤、セロトニン遮断剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジピン、パラセタモール、デクスパンテノール、クロピドグレル、アセチルサルチル酸誘導体、ストレプトマイシン、ネオマイシン、フラマイセチン、パロモマイシン、リボスタマイシン、カナマイシン、アミカシン、アルベカシン、ベカナマイシン、ジベカシン、スペクチノマイシン、ハイグロマイシンb、パロモマイシンスルフェート、ネチルマイシン、シソマイシン、イセパマイシン、ベルダマイシン、アストロマイシン、アプラマイシン、ジェネティシン、アモキシシリン、アンピシリン、バカンピシリン、ピブメシリナム、フルクロキサシリン、メズロシリン、ピペラシリン、アズロシリン、テモシリン、チカルシリン、アモキシシリン、クラブラン酸、アンピシリン、スルバクタム、ピペラシリン、タゾバクタム、スルバクタム、セファマンドール、セフォチアム、セフロキシム、セフメノキシム、セフォジジム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフタジジム、セフスロジン、セフトリアキソン、セフェピム、セフピロム、セフォキシチン、セフォテタン、セファレキシン、セフロキシムアキセチル、セフィキシム、セフポドキシム、セフチブテン、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ドリペネム、アズトレオナム、スピラマイシン、アジスロマイシン、テリスロマイシン、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、クリンダマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、スルファメトロール、ニトロフラントイン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、フレロキサシン、レボフロキサシン、スパルフロキサシン、モキシフロキサシン、バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシン、リファンピシン、フシジン酸、ホスホマイシン、トロメタモール、クロラムフェニコール、メトロニダゾール、コリスチン、ムピロシン、バシトラシン、ネオマイシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、アムホテリシンb、5-フルシトシン、カスポファンギン、アニデュラファンギン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、お茶ポリフェノール(tea polyphenol)、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、エトポシド、ジクロキサシリン、テトラサイクリン、トリアムシノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フレカイニド、プロパフェノン、ソトロール(sotolol)、天然および合成的に得られたステロイド、イノトジオール(inotodiol)、マキロサイドA、ガラキノサイド、マンソニン、ストレブロシド、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非-ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、アンチプロゾール剤、クロロキン、メフロキン、キニン、天然テルペノイド、ヒポカエスクリン、バーリントゲノール-C21-angelat、14-デヒドロアグロスチスタチン、アグロスケリン、アグロスチスタチン、17-ヒドロキシアグロスチスタチン、オバトジオリド、4,7-オキシシクロアニソメル酸、バッカリノイドB1、B2、B3およびB7、ツベイモシド、ブルセアンチノシドC、ヤダンジオシドNおよびP、イソデオキシエレファントピン、トメンファントピンAおよびB、コロナリンA、B、CおよびD、ウルソール酸、ヒプタチン酸(hyptatic acid)A、イソ-イリドジャーマナル、メイテンフォリオール、エフサンチンA、エクスシサニンAおよびB、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン、ロイカメニンAおよびB、13,18-デヒドロ-6-アルファ-セネシオイルオキシチャパリン、タキサマイリンAおよびB、レジェニロール、トリプトリド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン、プロトアネモニン、塩化ケリブリン、シノコクリンAおよびB、ジヒドロニチジン、塩化ニチジン、12-ベータ-ヒドロキシプレグナジエン-3,20-ジオン、ヘレナリン、インジシン、インジシン-N-オキシド、ラシオカルピン、イノトジオール、ポドフィロトキシン、ジャスティシジンAおよびB、ラレアチン、マロテリン、マロトクロマノール、イソブチリルマロトクロマノール、マキロシドA、マルカンチンA、メイタンシン、リコリジシン、マルゲチン、パンクラチスタチン、リリオデニン(liriodenine)、ビスパルテノリジン、オキソウシンスニン(oxoushinsunine)、ペリプロコシドA、ウルソール酸、デオキシプソロスペルミン、サイコルビン(psycorubin)、リシンA、サンギナリン、マヌー小麦酸(manwuwheat acid)、メチルソルビホリン、スパテリアクロメン(sphatheliachromen)、スチゾフィリン(stizophyllin)、マンソニン、ストレブロシド(strebloside)、ジヒドロウサンバラエンシン(dihydrousambaraensine)、ヒドロキシウサンバリン、ストリキノペンタミン、ストリキノフィリン(strychnophylline)、ウサンバリン、ウサンバレンシン、リリオデニン(liriodenine)、オキソウシンスニン(oxoushinsunine)、ダフノレチン、ラリシレシノール(lariciresinol)、メトキシラリシレシノール、シリンガレシノール、ビオリムスA9、ミオリムス、ノボリムス(novolimus)、ピメクロリムス、リダホロリムス、デオキソラパマイシン、テムシロリムスおよびゾタロリムス、ソマトスタチン、タクロリムス、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン(troleandomycin)、シンバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロホスファミド、トレオスルファン、テモゾロミド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオンA、ビスミオンAおよびB、ゼ
オリン、および硫黄含有アミノ酸、例えば、シスチンはいうまでもなく、塩、水和物、溶媒和物、エナンチオマー、ラセミ体、エナンチオマー混合物、ジアステレオマー混合物などの多様な成分が挙げられる。しかし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、本発明が必ずしもこれに制限されて解釈されるものではない。
【0052】
前記免疫抑制剤は、生体の免疫体系の活性を防止または抑制する薬剤として免疫抑制治療に用いられる物質であって、本発明に係る検出方法または測定装置により検出可能な分子であってもよい。前記免疫抑制剤は、その種類が制限されるものではなく、理解を助けるために一例を挙げると、シクロスポリン(Cyclosporine)、タクロリムス(Tacrolimus)、アザチオプリン(Azathioprine)、ミコフェノール酸(Mycophenolic acid)、シロリムス(Sirolimus;Rapamycin)、エベロリムス(Everolimus)、テムシロリムス、デフォロリムス、リツキシマブ(Rituximab)、ステロイド(Steroid)、ミコフェノール酸モフェチル、抗CD3抗体、シクロホスファミド、イホスファミド、およびこれらの誘導体などから選択される何れか1つまたは2つ以上を含んでもよい。しかし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、本発明がこれに制限されて解釈されないことはいうまでもない。
【0053】
本発明に係る分析/測定方法および装置は、多様な分野に多様な形態で適用または応用されてもよい。一例として、本発明は、LDI-MS試料ロードアレイを含むLDI-MS用の試料ロードキットとして提供されてもよく、LDI-MS試料ロードアレイを含むレーザ脱着イオン化質量分析装置として提供されてもよい。
【0054】
以下、本発明を製造例および実施例により詳細に説明するが、これらは本発明をより詳細に説明するためのものであって、本発明の権利範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[製造例1]
<二硫化タングステンナノフレーク粒子の製造>
平均粒径が90nmの二硫化タングステン(Tungsten disulfide;WS2)粉末から、リチウムをインターカレートした(Lithium-intercalated)化学的剥離方法により、二硫化タングステンナノフレーク(Nanoflake)粒子を次のように合成した。
【0056】
塩化リチウムを含むヘキサン(1:1モル比)20mlに二硫化タングステンバルク粉末2.5gを分散し、120分間超音波処理し、リチウム-二硫化タングステン化合物(LixWS2)を含む分散液を製造した。前記分散液を4,000rpmで10分間遠心分離し、ヘキサンおよび未反応物を除去した。リチウム-二硫化タングステン化合物をジメチルホルムアミド(Dimethylformamide、DMF)に分散した後に遠心分離して洗浄し、溶媒和されたリチウム-二硫化タングステン化合物((Li-solvent)xWS2)を得た。前記溶媒和されたリチウム-二硫化タングステン化合物を、室温で、軽い超音波処理により、ジメチルホルムアミド500mlにおいて二硫化タングステンを剥離した。このように、分散溶媒の存在下で、インターカレートされたリチウムが溶媒和(solvated)され、物理的衝撃により剥離されることで、二硫化タングステンナノフレーク粒子が製造される。
【0057】
[実施例1]
<LDI-MSアレイの製造>
再現性および均一な分析プラットフォームのために、微液滴分配器を用いて、二硫化タングステンナノフレーク粒子を含む粉末5gが水50gに分散された二硫化タングステン分散液を製造した。次いで、前記二硫化タングステン分散液を用いて、チップ-基盤のLDI-MSアレイを準備した。具体的に、微液滴分配器を用いて、二硫化タングステン分散液を1mm厚さのステンレススチールウェハにスポッティング(Spotting)して十分に乾燥し、二硫化タングステンナノフレーク粒子がウェハに均一に蒸着されて形成された二硫化タングステン層を含むLDI-MSアレイを製造した。この際、各スポッティング当たりの二硫化タングステン分散液の体積は0.1μlに調節された。
【0058】
[実験例1]二硫化タングステンナノフレーク粒子の特性評価
図1において、a)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子の透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope;TEM)イメージであり、b)およびc)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子の原子間力顕微鏡(Atomic force microscope;AFM)イメージであり、d)は、二硫化タングステンナノフレーク粒子のUV-Visスペクトルである。
【0059】
図1に示されたように、約2~14nm範囲の薄片厚さを有する二硫化タングステンナノフレーク粒子を大きいスケールで水に分散させ、二硫化タングステン分散液を製造した。剥離された二硫化タングステンナノフレーク粒子のゼータ電位値は18.3(±0.5)eVであった。二硫化タングステン分散液のUV-Visスペクトル(Nd:YAG laser)は、350~450nmの波長において強い吸収を示した。
【0060】
図2において、a)は、ウェハ上の二硫化タングステン層に対するラマンマッピング(Raman mapping)結果を示したものであり、b)は、a)のラマンマッピングから選択された領域(2×2μm)から抽出されたラマンスペクトルであり、c)は、350cm
-1(red)および420cm
-1(green)の波長でのピークを有するラマンマッピング結果を示したものであり、d)は、ラマンマッピングからred領域(左側スペクトル)、green領域(中央スペクトル)、およびyellow領域(右側スペクトル)から抽出されたラマンスペクトルである。
【0061】
図2に示されたように、E
1
2gモードおよびA
1gモードに対応する350および420cm
-1波長でのピークとのマッピングから強さを比較することで、幾つかの階層化された二硫化タングステンナノフレーク粒子の存在を確認することができる。
【0062】
このように、
図1~
図3から、スポッティング後、基板上の二硫化タングステンナノフレーク粒子が規則的なパターンでアレイを形成することを確認することができる。
【0063】
[実験例2]二硫化タングステン層の厚さ分析
図3に示されたように、スポッティング回数を調節して二硫化タングステン層の最適厚さを確認した。この際、各スポッティング当たりの二硫化タングステン分散液の体積は0.1μlに調節し、層の個数と質量信号強度との関係は
図3に示された。
図3に示されたように、スポッティングが3回行われた場合のピーク強度が最も強いため、この条件を用いて、血液中の4個の免疫抑制剤の定量的分析を行った。
【0064】
[実験例3]LDI-MSアレイを用いたターゲット物質の定量分析の評価
分子の予測不可能なイオン化挙動により、薬物の濃度を直接決定することは難しいため、類似した脱着/イオン化特性を有する内部標準物質の追加が求められる。すなわち、臨床サンプルにおいてターゲット物質の含量を定量化するために、ターゲット分子と類似した物理化学的特性(イオン化特性および溶解度など)を有する内部標準物質を用いた。内部標準物質を用いて、分子量差によりターゲット物質の質量分析が可能である。
【0065】
臓器移植後の治療中の患者の血液中のターゲット物質濃度をモニタリングするために、二硫化タングステンナノフレーク粒子に対するセンシティビティ(Sensitivity)をLDI-MS用物質をもって確認した。前記ターゲット物質として一般的に用いられる免疫抑制剤である、シクロスポリンA(Cyclosporine A;CsA)、タクロリムス(Tacrolimus;TAC)、シロリムス(Sirolimus;SIR)、およびエベロリムス(Everolimus;EVR)が用いられた。
【0066】
<CsAの定量分析>
シクロスポリンA(Cyclosporine A;CsA)を免疫抑制剤にして血液中CsAの定量化のために、
図4に示されたように、CsAと類似した内部標準物質としてシクロスポリンD(Cyclosporine D;CsD)が用いられた。詳細には、30pmol/μl濃度のCsAが添加された全血抽出物0.5μlを、実施例1のLDI-MSアレイの二硫化タングステン層上にスポッティングした。そして、それをLDI-MSで測定し、その結果を
図4に示した。
【0067】
図4において、a)は、CsAおよびその内部標準物質であるCsDの構造を示したものであり、b)は、CsA(30pmol/μl)およびCsD(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、CsAの多様な濃度に応じた全血抽出物においてLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。
【0068】
図4のb)から、1240.81および1254.82m/zにおいて、ターゲット物質であるCsAおよび内部標準物質であるCsDに該当するピークが明確に区別可能であることを確認することができる。また、
図4のc)から、CsAに該当するピークとCsDに該当するピークに対する強度の相関関係として、0.983の決定係数(Coefficient of determination;R
2)を有する一定した較正曲線を示した。検出限界(Limit of detection;LoD)は、CsAを用いて免疫抑制治療を受ける患者の全血での治療濃度範囲(0.1~0.3pmol/μl)よりも遥かに低い0.0075pmol/μlに測定された。
【0069】
さらに、この結果から、免疫抑制剤の[M+K]+に対応する1240.805m/zでのピークの強さが、スポッティングされた層の個数によって影響を受けたことが分かる。
【0070】
<TACの定量分析>
タクロリムス(Tacrolimus;TAC)を免疫抑制剤にして血液中TACの定量化のために、
図5に示されたように、TACと類似した内部標準物質としてアスコマイシン(Ascomycin;ASC)が用いられており、定量分析方法は、前記CsAの定量分析と同様である。
【0071】
図5において、a)は、TACおよびその内部標準物質であるASCの構造を示したものであり、b)は、TAC(30pmol/μl)およびASC(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、TACの多様な濃度に応じた全血抽出物においてLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。TACおよびASCは、それぞれ842.45および830.45m/zにおいて検出され、2分子に対する[M+K]
+に相応する。標準化されたピーク強度とスパイク(Spike)されたTAC濃度との間の関係は、決定係数との線形相関(Linear correlation)が0.97であった。検出限界は0.0015pmol/μlに測定され、TAC治療患者の血液での治療範囲である0.006-0.025pmol/μlに比べて非常にセンシティブであることが分かる。特に、この結果は、低いイオン化特性だけでなく、難しい検出限界に対する問題を顕著に緩和可能であることが分かる。
【0072】
<SIRおよびEVRの定量分析>
図6a)に示されたシロリムス(Sirolimus;SIR)およびエベロリムス(Everolimus;EVR)をそれぞれ免疫抑制剤にして血液中SIRの定量化のために、同位元素で標識されたSIRおよびEVRがそれぞれ内部標準物質として用いられており、定量分析方法は、前記CsAの定量分析と同様である。
【0073】
図6において、a)は、SIRおよびEVRの構造を示したものであり、b)は、SIR(30pmol/μl)および内部標準物質(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、c)は、EVR(30pmol/μl)および内部標準物質(30pmol/μl)のLDI-MS分析結果を示したものであり、d)は、EVRの多様な濃度に応じた全血抽出物においてLDI-MS分析により得た補正曲線結果を示したものである。
【0074】
図6に示されたように、SIRおよび同位元素で標識されたSIR-d
3は、それぞれ[M+Na]
+に対応する936.56および939.57m/zにおいて検出され、補正曲線は、0015~30pmol/μlの濃度範囲で、内部標準物質とともにSIRの分析により得られた。検出限界は、全血での治療範囲である0.005-0.011pmol/μlよりも遥かに低い0.0015pmol/μlに決定された。
【0075】
EVRの場合、その内部標準物質は、[M+Na]+に該当する980.57および984.59m/zにおいて検出された。検出限界は、患者の全血においてEVRを定量する程度センシティブな0.0015pmol/μlに測定された。
【0076】
MADLI-MSは、生物学的試料から薬物および代謝産物を検出するのに普遍的な方法であって、迅速な分析には有利であるが、マトリックスによる干渉の問題が存在する。
図7に示されたように、血液サンプルからCsAを検出するためのマトリックスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid;CHCA)を用いて分析した結果、CHCA自体およびその断片に相応する190.09、172.07、および212.06m/z周辺の多重ピークが発見された([M]
+、[M
-OH]
+、および[M+Na]
+)。
【0077】
すなわち、MADLI-MSの場合、分析によって分子の断片化パターン程度は確認することができるが、マトリックスによる多様なピークの存在により精密な分析が難しい。また、マトリックスを用いて分析物とともに結晶化を必要とする従来のMADLI-MSでは、Sweet SpotおよびSilent Spotを形成して再現性および定量化が特に難しい。
【0078】
図7において、a)は、イオン化のためにα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid;CHCA)マトリックスを用いて、CsAの定量範囲(0.0075-30pmol/μl)に対する測定結果であり、b)は、前記マトリックスを用いて、TACに対する線形定量の範囲(0.0015-30pmol/μl)に対する測定結果であり、c)は、CHCA処理されたサンプルの低分子量領域MALDI-MSスペクトルであり、d)は、本発明に係る低質量領域LDI-MSスペクトルである。
【0079】
図7のa)およびb)において、CHCAを用いたCsAおよびTACのMALDI-MS分析結果は、低いR
2値(それぞれ0.88および0.84)として不良な補正曲線を示した。また、TAC分析結果によると、試料中の変動により変動係数の60%に示された。この結果から、本発明に係るLDI-MSプラットフォームは、MALDI-MS技術に比べて、高い感度を可能にする、向上した性能を示すことを確認することができる。また、CHCAマトリックスを用いたCsAおよびTACの分析において、検出限界は、それぞれ0.015および0.03pmol/μlに決定された。よって、本発明に係るLDI-MSを用いた血液中の有機物の測定は、容易な実験および分析を含み、マトリックスを用いる分析法に比べてセンシティブで且つ再現性に優れることが分かる。
【0080】
[実験例4]免疫抑制剤の定量分析に対する従来のLC-MSとの比較評価
図8は、実験例3のLDI-MSの場合と従来のLC-MSとの相関関係を示したものであり、WS
2基盤LDI-MS分析(y-軸)およびHPLC-ESI-MS/MS(x-軸)による3種類の免疫抑制剤、CsA(a)、TAC(b)、およびEVR(c)の定量結果を比較分析したデータである。具体的に、内部標準物質を用いた治療薬物の絶対定量化を基盤に、LDI-MS分析により血液中の有機物を定量化することができた。CsAが注入された血液においてCsAを定量化したLDI-MS結果(a)は、LC-MS結果と優れた相関関係を示し、TACの場合(b)およびEVRの場合(c)も、必要なLoDおよび治療濃度にもかかわらず、許容可能な相関関係を有する治療薬物の定量化を可能にした。
【0081】
また、シクロスポリンA(Cyclosporine A;CsA)が注入された血液患者サンプル40個、およびタクロリムス(Tacrolimus;TAC)が注入された血液患者サンプル40個を含む総80個の血液患者サンプルを、実験例3の方法のWS
2 LDI-MSで分析した測定値とLC-MS/MSで分析した測定値とを比較した後、Passing-Bablok regressionおよびBland-Altman plotにより2つの測定値間の一致度を評価し、それに対する結果を
図9に示した。
【0082】
Passing-Bablok regressionは、2つのデータセットのcorrelation plotから95%信頼区間(confidence interval)に該当する直線の傾きと切片値を計算する線形回帰分析法である。Lower 95% confidence interval直線とupper 95% confidence interval直線の傾きおよび切片値の間にそれぞれ1と0が含まれると、2つのデータセットの測定値は一致すると判断することができる。
【0083】
図9は、CsAおよびTACが注入された血液患者サンプル総80個を、WS
2 LDI-MSで分析した測定値とLC-MS/MSで分析した測定値に対するPassing-Bablok regression analysesデータを示したものである。具体的に、
図9において、a)は、CsAが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するPassing-Bablok regression analyses(dashed lines represent 95% confidence intervals)データであり、b)は、TACが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するPassing-Bablok regression analyses(dashed lines represent 95% confidence intervals)データである。また、c)は、CsAが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するBland-Altman plotsデータであり、d)は、TACが注入された血液患者サンプルのWS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの比較測定値に対するBland-Altman plotsデータである。
【0084】
図9において、CsA分析結果の場合(a)、lower 95% confidence interval直線とupper 95% confidence interval直線の傾きは、それぞれ0.9666と1.0317であるため、1がこの範囲内に含まれる。また、lower 95% confidence interval直線とupper 95% confidence interval直線の切片値は、それぞれ-1.1676と2.9968であるため、0がこの範囲内に含まれる。さらに、TAC分析結果の場合(b)も同様の結果を示した。Bland-Altman plotも2つの測定値間の一致度を評価する技法であって、95% confidence interval bias値に0が含まれる際、2つの測定値が一致すると見ることができる。CsAデータ分析結果の場合(c)、95% confidence interval bias値は-2.356と2.628(青色点線)であり、この値の間に0が含まれるため、WS
2 LDI-MSとLC-MS/MSの測定結果が互いに一致することが分かる。さらに、TAC分析結果の場合(d)も同様の結果を示した。よって、WS
2 LDI-MSにより得た測定値がLC-MS/MS測定値と統計的に一致することが分かる。
【0085】
この結果から、本発明に係るWS2 LDI-MS測定方法は、LC-MS/MSに比べて、分析が簡単で且つ製造工程が簡単なプラットフォームであって、費用および時間に非常に効率的であり、即時にリアルタイムで定量分析が可能な利点があることはいうまでもなく、LC-MS/MSと同様の精度またはそれを超過する精度で定性および定量分析が可能であるという効果があり、高効率および経済性の利点により、複雑で且つ効率が落ちるLC-MS/MSを代替可能であることが分かる。