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  • 特許-極低温部材用銅合金 図1
  • 特許-極低温部材用銅合金 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】極低温部材用銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20220822BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20220822BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20220822BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/10
C22F1/08 P
C22F1/00 602
C22F1/00 626
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 650B
C22F1/00 650E
C22F1/00 650F
C22F1/00 660B
C22F1/00 691B
C22F1/00 630J
C22F1/00 682
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018171837
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041207
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391005802
【氏名又は名称】三芳合金工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518328461
【氏名又は名称】アオイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】杉野 和子
(72)【発明者】
【氏名】猪亦 武夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 真人
(72)【発明者】
【氏名】新井 勇多
(72)【発明者】
【氏名】石島 睦己
(72)【発明者】
【氏名】江口 逸夫
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 義仁
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】萩野 源次郎
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲キ▼
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235557(JP,A)
【文献】特開2008-223069(JP,A)
【文献】特開2012-229465(JP,A)
【文献】特開平05-253625(JP,A)
【文献】特開2017-172813(JP,A)
【文献】特開平05-110146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
C22C 9/10
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:1.5~9.0%、Si:0.4~2.5%、Cr:0.2~1.5%を含有し、残部、Cu及び不可避的不純物とした成分組成を有し、
Ni/Si比を3.8~4.1として、Cu母相中にCrを固溶させ且つNi-Si系金属間化合物を析出させて、
室温における熱伝導度を100W/m・K以上とするとともに、液体窒素温度でのシャルピー試験(JIS Z 2242準拠)による衝撃値を15J/cm以上としたことを特徴とする極低温部材用銅合金。
【請求項2】
前記成分組成は、Sn:0.1~0.3%を更に含むとともに、衝撃値を50J/cm以上としたことを特徴とする請求項1記載の極低温部材用銅合金。
【請求項3】
前記不可避的不純物として、少なくとも、Mn及びZrを0.05%以下としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の極低温部材用銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ヘリウム温度のような極低温環境下であっても安定的に使用し得る極低温部材用銅合金に関し、特に、超伝導加速空洞や超伝導磁石において極低温・高磁場環境下で安定的に使用し得る極低温部材用銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導加速器や医療機器の計測機器などの各種装置において超伝導加速空洞や超伝導磁石が利用されている。これらの装置を冷却するための冷媒としては液体ヘリウムが用いられる。また最近の高温超伝導体材料の開発に伴い、高温超伝導磁石においては液体窒素などのより安価な冷媒に置き換えられることも期待される。かかる極低温環境下であって材料の強度、硬さ、低温脆性、熱収縮、高/低熱伝導性、非磁性などの観点から安定的に使用し得る極低温部材用の金属材料が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、MRI(核磁気共鳴)装置の超伝導コイルとして、円筒状部及び鍔状部を有する円筒状の非磁性ステンレス鋼製の巻枠に巻線を与え、該巻枠の円筒部の内周部に銅又はアルミニウム製の伝熱部材の一端部を密着させるとともに他端部を冷凍機に接続して、巻線の発生する熱を冷凍機に導くようにした超伝導コイルが開示されている。ステンレス鋼製の巻枠よりも熱伝導の高い銅又はアルミニウムを伝熱部材に用いることで、巻線の外周部を効率良く冷却できるとしている。
【0004】
特許文献2では、超伝導加速器の超伝導磁石構成部材用のオーステナイト系非磁性ステンレス鋼として、冷間加工と析出硬化によって機械強度を高め得るステンレス鋼を開示している。非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼は加工によりマルテンサイト変態しフェライトを部分的に生成して磁性を帯びることが知られているが、かかる合金は、オーステナイト相の安定性に優れるとしている。また、極低温での透磁率に優れるとともに、低い熱収縮率などの極低温での機械的性質にも優れるとしている。
【0005】
また、特許文献3では、超伝導加速空洞を用いて電子や陽子等の荷電粒子を加速する超伝導加速器において、超伝導材料のニオブからなる超伝導加速空洞にステンレス鋼からなる冷媒槽をボルトによって接合した場合、運転中にボルト接合のためシール性能が低下してリークを生じ易いことについて述べている。そこで、冷媒槽も超伝導加速空洞と同じニオブ系材料によって形成し溶接により接合し、又は、銅製の超伝導加速空洞の表面にニオブをスパッタしステンレス鋼からなる冷媒槽とロウ付けにより接合することなどを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-144940号公報
【文献】特開2007-262582号公報
【文献】特開2000-150197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、銅合金は元来、非磁性でかつ加工や溶接によっても磁化しない。また、極低温まで明確な低温脆化の遷移温度を示すことなく、非磁性ステンレス鋼などの代替材料としての利用が期待される。さらに、特許文献3で指摘されるよう、熱サイクルや極低温環境下での機械的性質に優れ、非磁性を維持したまま安定性を高めることも求められる。
【0008】
例えば、超伝導加速空洞クライオモジュール内にビーム収束用超伝導ソレノイドを挿入する場合、ソレノイドの運転中の漏れ磁場によって周囲の部材が磁化される場合がある。超伝導空洞を臨界温度以上に昇温した後に再冷却した場合(運転中のサーマルサイクル)、磁化された部材からの磁場が超伝導空洞にトラップされ、空洞の性能が著しく劣化する。この防止のため、ソレノイドの運転後に煩雑な消磁プロセスが必要となり、十分に消磁できない場合もある。また、ステンレス316Lのような、加工や溶接によって容易に磁化されてしまう材料の代替材料として、超伝導ソレノイドの運転でも磁化しない完全非磁性の材料からなる部材が要求される。
【0009】
本発明は、以上のような状況を鑑み、超伝導加速空洞や超伝導磁石のような極低温で且つ強磁場下でも安定的に使用し得る極低温部材用銅合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による極低温部材用銅合金は、質量%で、Ni:1.5~9.0%、Si:0.4~2.5%、Cr:0.2~1.5%を含有し、残部、Cu及び不可避的不純物とした成分組成を有し、Ni/Si比を3.8~4.1として、Cu母相中にCrを固溶させ且つNi-Si系金属間化合物を析出させて、室温における熱伝導度を100W/m・K以上とするとともに、液体窒素温度でのシャルピー試験(JIS Z 2242準拠)による衝撃値を15J/cm以上としたことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、Cu母相を強化することで熱サイクルや極低温環境下での機械的性質の安定性に高く、超伝導加速空洞や超伝導磁石のような極低温且つ高磁場中であっても機械的劣化を示さず、安定的に使用し得る。
【0012】
上記した発明において、前記成分組成は、Sn:0.1~0.3%を更に含むとともに、衝撃値を50J/cm以上としたことを特徴としてもよい。また、前記不可避的不純物として、少なくとも、Mn及びZrを0.05%以下としたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、母相強度をより高め得て、極低温且つ高磁場中であってもより安定的に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による実施例に用いた銅合金の成分組成を示す表である。
図2】実施例の各種試験の結果の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明による極低温部材用銅合金の1つの実施例について説明する。
【0015】
本実施例における極低温部材用銅合金は、質量%で、Ni:1.5~9.0%、Si:0.4~2.5%、Cr:0.2~1.5%を含有する銅合金である(図1参照)。さらに、質量比で、Ni/Siを3.8~4.1とすることで、Ni-Si系金属間化合物を析出させてSiを消費し、Cr-Si系金属間化合物の析出を抑制してCu母相中へのCrの固溶を維持させる。このとき、Crを十分に固溶させて固溶強化を図るとともに、Ni-Si系金属間化合物による析出硬化も図り、両強化機構の相乗効果を得てより高い機械強度を得ることを意図している。そして、室温における熱伝導度を100W/m・K以上とするとともに、液体窒素温度(77K)でのシャルピー試験(JIS Z 2242準拠)による衝撃値を15J/cm以上とするよう、熱処理によって均質性を調整するのである。
【0016】
このような銅合金は、Cu母相を上記したように強化することで熱サイクルや極低温環境下での機械的性質の安定性に高く、超伝導磁石の周辺の極低温且つ高磁場中であっても磁化せず、機械的劣化を示さず、安定的に使用することが可能なのである。
【0017】
また、このような銅合金は組成の調整により、極低温の熱伝導度をより高いものから非常に低いものまで調整でき、用いられる環境の温度変化による熱侵入量や熱応力の発生を抑制し、熱変動に対して高い耐性を有する。さらに、このような銅合金は、切削加工性にも優れる。超伝導加速空洞においては、本実施例の銅合金はニオブやニオブ合金などと相性がよく、空洞のフランジ締め付け用ネジ/ナットに使用した場合、フランジネジとのかじりが発生しない。また、超伝導空洞の組み立てにおいてはゴミによる空洞内部の汚染を極力避ける必要があるが、空洞組み立て時のネジの締め付け作業でゴミの発生が極めて少ない。
【0018】
すなわち、本実施例による極低温部材用銅合金は、超伝導加速器空洞のような清浄度の高い部材、ネジ切りされた部材などに好適である。
【0019】
なお、このような極低温部材用銅合金として、その成分組成において、さらに、Sn:0.1~0.3%を更に含んでもよい。このとき、上記した液体窒素温度(77K)でのシャルピー試験による衝撃値を50J/cm以上とし得て好ましい。
【0020】
また、不可避的不純物として、少なくとも、Mn及びZrを0.05%以下としてもよい。このとき、母相強度をより高め得て好ましい。
【0021】
なお、このような銅合金においては、例えば、保持温度を850~950℃とする溶体化処理を十分に行った後、所定の熱伝導度を得るよう450~550℃で保持する時効処理を行って、極低温環境下での機械物性に優れる銅合金を得るのである。
【0022】
次に、上記したような極低温部材用銅合金についての物性や機械的性質を調査する試験を行った結果について説明する。
【0023】
図1に示す成分組成の銅合金、すなわち、実施例1及び実施例2について試験を実施した。実施例1、実施例2ともに、950℃で保持の後、水冷する溶体化処理によってCrを十分に固溶させて、550℃での時効処理によってNi-Si系金属間化合物を析出させたものである。
【0024】
図2に各種試験の結果について示す。熱伝導度、熱膨張係数、引張試験、硬さ試験はいずれも室温環境下において実施し、衝撃試験については77K(液体窒素温度)で実施し、実施例2について4K(液体ヘリウム温度)でも衝撃試験を実施した。衝撃試験は、JIS Z 2242に準拠したシャルピー衝撃試験とした。
【0025】
同図に示すように、熱伝導度は実施例1及び実施例2ともに100W/m・K以上となり、熱膨張係数はいずれも17×10-6/Kであった。つまり、比較的高い熱伝導度を有するとともに、比較的小さな熱膨張係数を有する。これによって、温度変化によっても部材に大きな熱応力を与えることなく使用できる。例えば、リン青銅であれば、同等程度の熱膨張係数を有するものの、熱伝導度が実施例1及び実施例2に比べて小さく、温度変化に対して部材に比較的大きな熱応力を付与してしまう。
【0026】
また、絶対温度2Kの極低温下での熱伝導率を測定した結果、4W/mKと超伝導状態にあるニオブ材の熱伝度率(10W/mK)よりも小さい値が得られた。本実施例の銅合金を超伝導空洞用クライオスタット内のパイプ配管などに使用すれば、外部からの熱侵入を大きく減らすことが可能となる。
【0027】
また、実施例1及び実施例2ともに引張強さは650MPa以上、耐力は550MPa以上と十分に高い値を示し、伸びも13%以上で十分であった。例えば、リン青銅であれば、伸びは同等程度であるものの、引張強さ、耐力はこれより低い傾向にある。また、硬さについても実施例1及び実施例2ともに210Hv以上を得られたが、リン青銅ではこれより低い傾向にある。
【0028】
シャルピー衝撃試験については実施例1及び実施例2共に衝撃値を15J/cm以上と高い値を得た。特に、Snを0.1~0.3%の範囲で含む実施例2においては、50J/cm以上とさらに高い衝撃値を得ることができた。
【0029】
以上のように、本実施例においては、高い熱伝導度と小さな熱膨張係数、また極低温で非常に小さな熱伝導度を有し、熱サイクルや極低温環境下での機械的性質の安定性に優れ、極低温では熱侵入を阻止できる。また、極低温でのシャルピー試験による衝撃値も高かった。また、実施例1及び実施例2で示した銅合金は極低温においても非磁性を示す。つまり、超伝導磁石のような極低温且つ高磁場中であっても機械的劣化を示さず、安定的に使用し得る。
【0030】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
図1
図2