(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】アレルゲン不活化剤の評価方法及びアレルゲン不活化剤の評価キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220822BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2021560688
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2021016529
(87)【国際公開番号】W WO2021235176
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020090066
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年9月17~20日WEB開催された第69回日本アレルギー学会学術大会で発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(73)【特許権者】
【識別番号】507161983
【氏名又は名称】ITEA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】内山 淳平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 愛美
(72)【発明者】
【氏名】水上 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 圭吾
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035790(JP,A)
【文献】特開2010-236997(JP,A)
【文献】特表平06-504776(JP,A)
【文献】特開2013-067901(JP,A)
【文献】特開2004-089673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0275095(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなるアレルゲン担持膜を準備する工程と、
前記アレルゲン担持膜を被検薬剤で処理する工程と、
前記被検薬剤で処理したアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理する工程と、
前記アレルゲンに対する特異抗体で処理したアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに結合した前記特異抗体を検出する工程と、
前記特異抗体の検出量に基づいて前記被検薬剤による前記アレルゲンの
前記特異抗体に対する結合能の不活化の程度を判定する工程と、
を備えたことを特徴とするアレルゲン不活化剤の評価方法。
【請求項2】
第1のアレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなる該膜を第1のアレルゲン担持膜として準備する工程と、
第2のアレルゲン担持用の膜に、前記第1のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する量の該アレルゲンを担持させてなる第2のアレルゲン担持膜を準備する工程と、
前記第1のアレルゲン担持膜を被検薬剤で処理する工程と、
前記被検薬剤で処理した第1のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理する工程と、
前記アレルゲンに対する特異抗体で処理した第1のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに結合した前記特異抗体を検出する工程と、
前記第2のアレルゲン担持膜を蛋白染色剤で処理する工程と、
前記蛋白染色剤で処理した第2のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記第2のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する前記蛋白染色剤による染色量を検出する工程と、
前記被検薬剤による前記アレルゲンの
前記特異抗体に対する結合能の不活化の程度を、前記染色量と、前記特異抗体の検出量との関係性に基づいて判定する工程と、
を備えたことを特徴とするアレルゲン不活化剤の評価方法。
【請求項3】
前記第2のアレルゲン担持膜を前記被検薬剤で処理する工程を更に備え、前記蛋白染色剤で処理する工程に供される該第2のアレルゲン担持膜は、前記被検薬剤で処理する工程を経た後に前記蛋白染色剤で処理する該工程に供される、請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記蛋白染色剤は、金染色剤又は高感度CBB染色剤である、請求項2又は3記載の評価方法。
【請求項5】
前記アレルゲン担持用の膜は、PVDF膜又はニトロセルロース膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記アレルゲン担持用の膜には、その1枚に、前記アレルゲンを、該アレルゲンの量を変えて複数個所にわたり担持させる、請求項1~5のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項7】
前記アレルゲン担持用の膜には、その1枚に、前記アレルゲンとして複数種類を複数個所にわたり担持させる、請求項1~6のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記アレルゲン担持用の膜は、プレート上に複数個所にわたり区画化されて形成され、前記アレルゲンを、該アレルゲンの量を変えて、前記プレート上に区画化された複数個所にわたり担持させる、請求項1~7のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項9】
前記アレルゲン担持用の膜は、プレート上に複数個所にわたり区画化されて形成され、前記アレルゲンとして複数種類を、前記プレート上に区画化された複数個所にわたり担持させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項10】
請求項2~4に記載のアレルゲン不活化剤の評価方法に用いられるアレルゲン不活化剤の評価キットであって、アレルゲン担持用の膜と、前記膜に担持させたアレルゲンに作用させるためのアレルゲン検出用の特異抗体と、前記膜に担持させたアレルゲンに作用させるための蛋白染色剤とを備えた、アレルゲン不活化剤の評価キット。
【請求項11】
前記蛋白染色剤は、金染色剤又は高感度CBB染色剤である、請求項10記載の評価キット。
【請求項12】
前記アレルゲン担持用の膜は、PVDF膜又はニトロセルロース膜である、請求10又は11記載の評価キット。
【請求項13】
前記アレルゲン担持用の膜は、マイクロプレートの各ウェルに形成されている、請求項10~12のいずれか1項に記載の評価キット。
【請求項14】
前記アレルゲン担持用の膜には、予めアレルゲンが担持されている、請求項10~13のいずれか1項に記載の評価キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン不活化剤の評価方法及びアレルゲン不活化剤の評価キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高気密・高断熱化や冷暖房設備の普及など、住環境の変化にともなってダニやハウスダストが発生し易くなり、それらに起因する喘息発作、アトピー性皮膚炎、鼻炎等のアレルギー症状に悩む人が増えている。また、大気中に飛散されるスギ花粉等に起因するアレルギー症状に悩む人も増えている。
【0003】
アレルギー疾患やその他のアレルギー症状への対策の1つとして、原因となるアレルゲンを不活化させる薬剤の開発が試みられている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、タンニン酸で環境を処理することを特徴とする環境からアレルゲンを除去する方法の発明が開示されている。そして、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)を含有する家の塵や、牧草オオアワガエリ(Phleum pratense)や雑草ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)などからの抽出物を、1%タンニン酸水溶液で処理すると、皮膚反応試験でのアレルゲン性を低減することができると記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、セルロース質からなる繊維を含む繊維又は繊維製品に、人体への安全性の高いタンニン酸を、架橋剤を介して結合させることにより、洗濯を繰り返してもタンニン酸によるアレルゲン不活化活性能の低下を防ぐことができると記載されている。
【0006】
一方、上記のタンニン酸以外にも、各種物質の有効性が示唆されている。例えば、下記特許文献3には、分子中に少なくとも1個のカチオン性基としてのグアニジノ基を有し、かつ界面活性能を有する化合物又はその塩の利用について記載されている。また、下記特許文献4には、水および親水性溶媒から選ばれる少なくとも一種からなる溶媒によるザクロの葉の抽出物の利用について記載されている。また、下記特許文献5には、銀、亜鉛等の抗アレルゲン性金属成分の利用について記載されている。また、下記特許文献6には、スチレンスルホン酸単位を有する高分子化合物の利用について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-44821号公報
【文献】特開2007-107149号公報
【文献】特開平9-157152号公報
【文献】特開2002-370996号公報
【文献】特開2006-241431号公報
【文献】特開2009-155453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、アレルゲン不活化剤の開発において、その不活化能が期待される薬剤を評価するには、アレルゲンと反応させてみて、反応後の溶液中のアレルゲン量を、アレルゲン特異的抗体を用いたサンドウィッチELISAなどで測定することが行われている。しかし、このような手法に内在する問題点としては、評価の対象となる被検薬剤やそれに付随する成分が、アレルゲン量の測定のためのELISA自体に影響を与えてしまうことが挙げられる。すなわち、アレルゲンがそれほど不活化されていないにもかかわらず、ELISAにより測定されるアレルゲン量としては、当該薬剤やそれに付随する成分の影響によって検出量が実体より低くなり、結果として不活化能を過大に評価してしまうケースが挙げられる。透析などの手法を用いてELISA測定に干渉する成分を除くことも考えられるが、数多くの候補物質をスクリーニングする目的などには、効率が悪く、汎用的でない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、評価の対象とする被検薬剤やそれに付随する成分の種類によらずに、精度や再現性のともなった評価を行うことを可能にする、アレルゲン不活化剤の評価方法及び評価キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、その第1の観点において、アレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなる該アレルゲン担持膜を準備する工程と、前記アレルゲン担持膜を被検薬剤で処理する工程と、前記被検薬剤で処理したアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理する工程と、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理したアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに結合した前記特異抗体を検出する工程と、前記特異抗体の検出量に基づいて前記被検薬剤による前記アレルゲンの不活化の程度を判定する工程と、を備えたことを特徴とするアレルゲン不活化剤の評価方法を提供するものである。
【0012】
本発明による、上記第1の観点におけるアレルゲン不活化剤の評価方法によれば、アレルゲン担持膜に担持されたアレルゲンに対して被検薬剤を処理して、洗浄処理後に、アレルゲンに対する特異抗体で検出するので、被検薬剤やそれに付随する成分の影響が避けられて、精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0013】
本発明は、その第2の観点において、第1のアレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなる該膜を第1のアレルゲン担持膜として準備する工程と、第2のアレルゲン担持用の膜に、前記第1のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する量の該アレルゲンを担持させてなる第2のアレルゲン担持膜を準備する工程と、前記第1のアレルゲン担持膜を被検薬剤で処理する工程と、前記被検薬剤で処理した第1のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理する工程と、前記アレルゲンに対する特異抗体で処理した第1のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記アレルゲンに結合した前記特異抗体を検出する工程と、前記第2のアレルゲン担持膜を蛋白染色剤で処理する工程と、前記蛋白染色剤で処理した第2のアレルゲン担持膜を洗浄後、前記第2のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する前記蛋白染色剤による染色量を検出する工程と、前記被検薬剤による前記アレルゲンの不活化の程度を、前記染色量と、前記特異抗体の検出量との関係性に基づいて判定する工程と、を備えたことを特徴とするアレルゲン不活化剤の評価方法を提供するものである。
【0014】
本発明による、上記第2の観点におけるアレルゲン不活化剤の評価方法によれば、アレルゲンを第1のアレルゲン担持用の膜に担持させてなる該第1のアレルゲン担持膜を準備し、その膜に担持されたアレルゲンに対して被検薬剤を処理して、洗浄処理後に、アレルゲンに対する特異抗体で検出するので、被検薬剤やそれに付随する成分の影響が避けられて、精度や再現性のともなった評価を行うことができる。また、第2のアレルゲン担持用の膜に、第1のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する量の該アレルゲンを担持させてなる第2のアレルゲン担持膜を準備し、その膜に担持されたアレルゲンを蛋白染色剤で検出するので、特異抗体での検出に供される膜に担持したアレルゲンの量に相当する量を、蛋白染色剤で直接に測定することができる。そして、蛋白染色剤での検出により得られた染色量と、特異抗体の検出量との関係性に基づいた評価を行うので、蛋白染色剤で直接に測定する膜上のアレルゲン量を基準にして、より精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0015】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第2の観点における、前記蛋白染色剤で処理する工程に供される該第2のアレルゲン担持膜は、前記被検薬剤で処理する工程を経た後に前記蛋白染色剤で処理する該工程に供されることが好ましい。これによれば、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を実施する際、第2のアレルゲン担持膜に担持されたアレルゲンを、被検薬剤での処理を行ったうえで蛋白染色剤によって検出するので、被検薬剤での処理の後に膜上に担持されているアレルゲン量を基準にして、更により精度や再現性のともなった評価を行うことができる。
【0016】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第2の観点における、前記蛋白染色剤は、金染色剤又は高感度CBB染色剤であることが好ましい。これによれば、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を実施する際、上記第2のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する染色量を、より高感度に検出することができる。
【0017】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第1の観点及び上記第2の観点における、前記アレルゲン担持用の膜は、PVDF系メンブレン又はニトロセルロース系メンブレンであることが好ましい。これによれば、アレルゲン担持用の膜にアレルゲンを確実に担持させることができ、また、該アレルゲン担持用の膜に担持させたアレルゲンを、特異抗体又は蛋白染色剤により、感度よく検出することができる。
【0018】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第1の観点及び上記第2の観点における、前記アレルゲン担持用の膜には、その1枚に、前記アレルゲンを、該アレルゲンの量を変えて複数個所にわたり担持させることが好ましい。これによれば、評価に最適なアレルゲン量の条件を検討したり、複数のアレルゲン量を一度に検討したりするのを、1枚の膜に対する操作で行うことができ、効率的である。
【0019】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第1の観点及び上記第2の観点における、前記アレルゲン担持用の膜には、その1枚に、前記アレルゲンとして複数種類を複数個所にわたり担持させることが好ましい。これによれば、複数種類のアレルゲンに対する不活化能の評価を1枚の膜に対する操作で行うことができ、効率的である。なお、前記アレルゲン担持用の膜の1枚に、前記複数種類のアレルゲンについて、該アレルゲンの量を変えて複数個所にわたり担持させるようにしてもよい。
【0020】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第1の観点及び上記第2の観点における、前記アレルゲン担持用の膜は、プレート上に複数個所にわたり区画化されて形成され、前記アレルゲンを、該アレルゲンの量を変えて、前記プレート上に区画化された複数個所にわたり担持させることが好ましい。これによれば、評価に最適なアレルゲン量の条件を検討したり、複数のアレルゲン量を一度に検討したりするのを、1のプレートに対する操作で行うことができ、効率的である。
【0021】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価方法においては、上記第1の観点及び上記第2の観点における、前記アレルゲン担持用の膜は、プレート上に複数個所にわたり区画化されて形成され、前記アレルゲンとして複数種類を、前記プレート上に区画化された複数個所にわたり担持させることが好ましい。これによれば、複数種類のアレルゲンに対する不活化能の評価を1のプレートに対する操作で行うことができ、効率的である。なお、前記プレート上に複数個所にわたり区画化され形成されたアレルゲン担持用の膜に、前記複数種類のアレルゲンについて、該アレルゲンの量を変えて複数個所にわたり担持させるようにしてもよい。
【0022】
一方、本発明は、その第3の観点において、アレルゲン担持用の膜と、アレルゲン検出用の特異抗体と、蛋白染色剤とを備えた、アレルゲン不活化剤の評価キットを提供するものである。
【0023】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価キットによれば、アレルゲン担持用の膜と、アレルゲン検出用の特異抗体と、蛋白染色剤とを備えたことにより、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法の実施が、より簡便となる。
【0024】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価キットにおいては、前記蛋白染色剤は、金染色剤又は高感度CBB染色剤であることが好ましい。これによれば、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を実施する際、上記第2のアレルゲン担持膜に担持させたアレルゲンの量に相当する染色量を、より高感度に検出することができる。
【0025】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価キットにおいては、前記アレルゲン担持用の膜は、PVDF系メンブレン又はニトロセルロース系メンブレンであることが好ましい。これによれば、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を実施する際、上記第1又は第2のアレルゲン担持用の膜にアレルゲンを確実に担持させることができ、また、該アレルゲン担持用の膜に担持させたアレルゲンを、特異抗体又は蛋白染色剤により、感度よく検出することができる。
【0026】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価キットにおいては、前記アレルゲン担持用の膜は、プレート上に複数区画化された各ウェルの底面に形成されていることが好ましい。これによれば、アレルゲン担持用の膜がプレート上に複数個所にわたり区画化されて形成されているので、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を実施する際、複数種類のアレルゲンに対する不活化能の評価を行ったり、評価に最適なアレルゲン量の条件を検討したり、複数のアレルゲン量を一度に検討したりするのを、1のプレートに対する操作で行うことができ、効率的である。
【0027】
本発明によるアレルゲン不活化剤の評価キットにおいては、前記アレルゲン担持用の膜には、予めアレルゲンが担持されていることが好ましい。これによれば、アレルゲン担持膜が準備されているので、上記した、本発明の第2の観点によるアレルゲン不活化剤の評価方法を、更に効率的に実施することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、評価の対象とする被検薬剤やそれに付随する成分の種類によらずに、精度や再現性のともなった評価を行うことを可能にする、アレルゲン不活化剤の評価方法及び評価キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に用いられるアレルゲン担持膜の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明に用いられるアレルゲン担持膜の他の実施形態を示す概略図である。
【
図3】
図2に示すマルチスクリーンプレート3の断面形状を示す概略図である。
【
図4】
図2に示すバキュームマニホールド20の断面形状を示す概略図である。
【
図5】試験例1~7における操作手順を説明する概略図である。
【
図6】試験例8,9における操作手順を説明する概略図である。
【
図7】試験例10における操作手順を説明する概略図である。
【
図8】試験例1において、精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図9】試験例2において、精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図10】試験例3において、精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図11】試験例4において、精製スギ花粉アレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図12】試験例5において、精製ダニアレルゲンをニトロセルロースメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図13】試験例6において、精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、高感度CBB染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図14】試験例7において、(1)精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果、並びに(2)精製ダニアレルゲン各被検薬剤と液中で混合した後、PVDFメンブレンにブロットして、金染色による蛋白染色、又は抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果、を示す図表である。
【
図15】試験例8において、精製スギ花粉アレルゲンをマルチスクリーンフィルタープレートの各ウェルのセルロース混合エステル(ニトロセルロースの類似物質)からなるフィルターメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図16】試験例9において、精製スギ花粉アレルゲンをマルチスクリーンフィルタープレートの各ウェルのPVDFからなるフィルターメンブレンに担持させ、各被検薬剤で処理した後、金染色による蛋白染色、又は抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【
図17】試験例10において、精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンをPVDFメンブレンに担持させ、空気中の水に高電圧を加えることで生成されるOHラジカルを含むナノサイズの帯電微粒子水で処理した後、金染色による蛋白染色、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色、又は抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、被検薬剤について、アレルゲン不活化能をどの程度に有するかを測る、評価方法及び評価キットを提供するものである。ここで「被検薬剤」とは、評価者が評価したい任意の物質であってよい。また、「アレルゲン」とは、ヒト又は動物にアレルギーを引き起こす物質であり、本発明においては、そのうち評価者が選択する任意のアレルゲンであってよい。
【0031】
本発明に使用するアレルゲン担持用の膜としては、アレルゲンを固相として担持することができ、その固相上でアレルゲンを検出できるようにすることができる膜であればよい。また、その担持様式としては、膜固有の性質によりアレルゲンを膜に直接に担持させる様式であってもよく、所定の架橋構造を介して膜に担持させる様式を採用してもよい。膜としては、特に好ましくは、メンブレンフィルター状のものが例示される。例えば、孔径0.2~1.2μm程度、厚さ80~200μm程度、空隙率60~90%程度のものを使用し得る。具体的には、特に限定されないが、例えば、PVDF(Polyvinylidene difluoride;ポリフッ化ビニリデン)を含む素材からなるPVDF系メンブレンや、ニトロセルロースを含む素材からなるニトロセルロース系メンブレン等が挙げられる。これらであれば、ペプチドや蛋白質で構成されるアレルゲンを、効率よく直接に膜に担持させることができる。
【0032】
上記膜上へのアレルゲンの担持量は、後述する特異抗体による検出の感度や蛋白染色による検出の感度に応じて、適宜設定すればよいが、典型的に、アレルゲンを含有する溶液をドット状に0.04~0.09cm2程度の範囲に担持させる場合、好ましくは2ng以上500ng以下であり、より好ましくは4ng以上100ng以下である。
【0033】
本発明においては、上記アレルゲンを担持させてなるアレルゲン担持膜を被検薬剤で処理した後、その処理後の膜上で、担持させたアレルゲンを該アレルゲンに対する特異抗体で検出する。このとき、アレルゲンの構造が変化する等して特異抗体に対する認識性が弱められると、アレルギー症状を引き起こす抗原抗体反応も弱められることになる。よって、被検薬剤で処理した後の膜上で、アレルゲンに結合して検出される特異抗体の検出量に基づいて、アレルゲンの不活化の程度を判定することができる。例えば、被検薬剤で処理しない対照と比べて同程度の検出量であれば、被検薬剤によって不活化が起こっておらず、一方、検出できなければ、被検薬剤によって不活化が起こっていると判定することができる。また、例えば、被検薬剤で処理しない対照と比べて30~70%の検出量である場合には、検出できない場合と比べて相対的に中程度に不活化が起こっていると判定することもできる。
【0034】
上記被検薬剤による処理における、薬剤濃度、溶媒、処理温度、処理時間等の条件は、評価者が任意に設定すればよい。例えば、その処理様式としては、被験薬剤を溶解又は分散させた溶液にアレルゲン担持膜を一定時間浸したり、該溶液をアレルゲン担持膜に噴霧して一定時間静置したり、被験薬剤を所定空間に気化又は微粒子化により分散させて、その空間内にアレルゲン担持膜を一定時間静置したりすることなどにより行うことができる。その際、被験物質の形態としても特に制限はなく、評価者が任意に選択した物質を含む溶液、その噴霧物、気化物、微粒子化物、イオン化物等の組成物であってよく、あるいは、例えば、空気中の水に高電圧を加えることで生成されるOHラジカルを含むナノサイズの帯電微粒子水、プラズマ放電により発生させた酸素・水分子の安定イオン化物、食塩水を電気分解することで生成させた次亜塩素酸水溶液の微粒子化物など、空間除菌や除ウイルス、除染、脱臭等に効果のある物質について、そのアレルゲン不活化能を評価す場合に適用されてもよい。
【0035】
ただし、上記被検薬剤による処理後には、被検薬剤やそれに付随する成分を膜から分離するためリン酸緩衝食塩水(PBS)等で洗浄する。その洗浄様式としては、被検薬剤やそれに付随する成分を膜から分離することができればよく、特に制限はないが、一例をあげると、PBS等の洗浄液を入れた容器に被験薬剤による処理の後のアレルゲン担持膜を入れて、その洗浄液中に浸し、一定時間静置又は震盪して、その後に洗浄液を除くなどの方法である。あるいは、後述する実施例で使用するマルチスクリーンフィルタープレートでは、プレート上に複数区画化された各ウェルの底面側に膜が形成されているので、そのウェルに洗浄液を溜めてからプレートごと洗浄液の回収用プレートを備えたバキュームマニホールドにセットして吸引することで、洗浄の処理を施すことができる。洗浄は、1度でもよいが、効果的な洗浄のためには、上記操作を2,3度繰り返すことが好ましい。
【0036】
本発明に使用する特異抗体としては、アレルゲンを特異的に認識する抗体であればよく、特に制限はない。ここで「アレルゲンを特異的に認識する」とは、特定のアレルゲンに対して選択的な結合性を備えていることであり、その意義は通常当業者であれば当然に理解される。例えば、抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、等の形態であり得る。その調製方法としては、当該分野で周知のいずれの技術をも用いることができる。例えば、アレルゲンを免疫動物に投与し、当該動物からの血液採取により、抗血清、IgG画分、ポリクローナル抗体等を調製することができる。また、ハイブリドーマ調製法により特定の抗体を産生する細胞を単離して、モノクローナル抗体を調製することができる。また、後述する実施例でも使用したように、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲンに対する特異抗体が市販されているので、そのような市販品を用いることもできる。
【0037】
本発明における、限定されない任意の態様においては、上記アレルゲンを担持させてなるアレルゲン担持膜は、2セット準備して、一方の膜を特異抗体による検出に供するとともに、他方の膜は蛋白染色剤による検出に供するようにしてもよい。これによれば、特異抗体による検出に供される膜上に担持されたアレルゲンの量に相当する量を、同じく膜上に担持させた状態で蛋白染色剤によって検出するので、被検薬剤によるアレルゲンの不活化の程度を、担持されたアレルゲン量を基準にして、より厳密に判定することができる。例えば、同種のアレルゲンであっても種類やバッチが変更になったり、使用する膜の種類やバッチが変更になったり、使用する特異抗体の種類やバッチが変更になったりした場合でも、膜状に担持されたアレルゲン量を基準にした状況を客観的に把握することができ、必要に応じて、例えば、蛋白染色剤による染色量により特異抗体による検出量を補正することができる。
【0038】
本発明における、限定されない任意の態様においては、上記アレルゲンを担持させてなるアレルゲン担持膜は、2セット準備して、一方の膜を特異抗体による検出に供するとともに、他方の膜は、上記の特異抗体による検出に供される膜と同様にして、被検薬剤との処理を行った後に、蛋白染色剤による検出に供するようにしてもよい。これによれば、特異抗体による検出に供される膜上に担持されたアレルゲンの量に相当する量を、同じく被検薬剤による処理後の膜上に担持させた状態で蛋白染色剤によって検出するので、被検薬剤によるアレルゲンの不活化の程度を、被検薬剤による処理後の膜上に担持されたアレルゲン量を基準にして、更により厳密に判定することができる。例えば、一旦担持させたアレルゲンが被検薬剤での処理により膜から剥がれ落ちてしまったりする場合に、その量等についての状態を把握することができ、必要に応じて、例えば、蛋白染色剤による染色量により特異抗体による検出量を補正することができる。
【0039】
上記特異抗体による検出は、当業者に周知の方法を利用することができる。例えば、アレルゲン担持膜を、特異抗体を含有する溶液に浸し、一定時間静置又は震盪後、PBS等の洗浄液で洗浄して膜上のアレルゲンに結合していない特異抗体を分離し、次いで、特異抗体に対する標識二次抗体を含有する溶液で同様に処理して、当該二次抗体の標識によって得られる像(特異抗体の検出量)を色検出したり、光学検出したりすることなどが挙げられる。なお、特異抗体や標識二次抗体による処理の後の洗浄は、上記した被検薬剤によるアレルゲン担持膜の処理の後の洗浄と同様にして行うことができる。標識としては、HRP(Horse Radish Peroxidase;西洋ワサビペルオキシダーゼ)、β-ガラクトシダーゼ、蛍光、ラジオアイソトープ等が挙げられる。
【0040】
上記蛋白染色剤による検出には、当業者に周知の方法を利用することができる。例えば、アレルゲン担持膜を、蛋白染色剤を含有する溶液に浸し、一定時間静置又震盪後、PBS等の洗浄液で洗浄して膜上のアレルゲンに結合していない蛋白染色剤を分離し、当該染色剤によって得られる像(蛋白染色剤による染色量)を色検出したり、光学検出したりすることなどが挙げられる。なお、蛋白染色剤による処理の後の洗浄は、上記した被検薬剤によるアレルゲン担持膜の処理の後の洗浄と同様にして行うことができる。蛋白染色剤としては、金染色、高感度CBB染色、銀染色、墨汁、反応染料、蛍光色素染色等が挙げられる。
【0041】
図1には、本発明においてアレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなる該アレルゲン担持膜を準備するための一実施形態が示される。
図1に示す実施形態では、短冊状にカットした膜1に、濃度を変えて調製したアレルゲン含有PBS溶液を所定量滴下し、その後自然乾燥させて、アレルゲン2が100ng、20ng、4ngの量でドット状に複数担持されてなるアレルゲン担持膜を調製している。また、アレルゲン非含有コントロールとしてPBSを滴下している。この場合、各複数のドット箇所には、アレルゲンの量を変えて担持してもよく、あるいはアレルゲンの種類を変えて担持してもよい。
【0042】
図2には、本発明においてアレルゲン担持用の膜にアレルゲンを担持させてなる該アレルゲン担持膜を準備するための他の実施形態が示される。
図2に示す実施形態では、マルチスクリーンフィルタープレート3を用いている。また、そのマルチスクリーンフィルタープレート3がセットされるバキュームマンニホールド20を用いている。
図3、4には、それぞれの断面形状を示している。マルチスクリーンフィルタープレート3には、の各ウェル4の底面側にウェル孔5があり、ウェル孔5を塞ぐようにアレルゲンを担持するための膜1aが形成されている。また、バキュームマニホールド20には、マルチスクリーンフィルタープレート3の端部3aがバキュームマニホールド20に空気を通さないよう密接した状態で載置することができるように、柔軟性を有するフランジ部20aが備わる。更に、載置したマルチスクリーンフィルタープレート3を隔てて下方側には空間21が備わり、吸引口管23に連結したコネクタ24を介して図示しない吸引ポンプに連結されている。そして、吸引ポンプによる吸引が空間21を陰圧にすると、マルチスクリーンフィルタープレート3の各ウェル4内に入れた溶液を、透水性を有している膜1aを通してのウェル孔5の下側に吸引除去することができるようにしている。また、空間21内には廃液回収容器22が配置され、マルチスクリーンフィルタープレート3から吸引除去した溶液を廃液として回収されるようにしている。
【0043】
図2に示す実施形態においては、マルチスクリーンフィルタープレート3の各ウェル4の底面側に形成された膜1aに、濃度を変えて調製したアレルゲン含有PBS溶液を所定量滴下し、その後自然乾燥又はバキュームマニホールド20にセットして濾過吸引させて、アレルゲン2が100ng、20ng、4ngの量でドット状に複数担持されてなるアレルゲン担持膜を調製している。また、アレルゲン非含有コントロールとしてPBSを滴下している。この場合、各複数のウェル4内の各複数の膜1aには、アレルゲンの量を変えて担持してもよく、あるいはアレルゲンの種類を変えて担持してもよい。また、このマルチスクリーンフィルタープレート3では、ウェル壁4aにより膜が1のプレート上に複数個所にわたり区画化されて形成されているので、それぞれの区画化された領域に対応する膜1aごとに、それぞれ異なる種類の溶液で処理することが可能である。複数の標的アレルゲンや標的不活化剤についての条件決めやスクリーニングも、1の操作で可能となる。また、バキュームマニホールド20にセットして各複数のウェル4内にPBS等の洗浄液を溜め、吸引することで、アレルゲン担持膜を洗浄することができる。更には、アレルゲン担持のための処理だけでなく、被検薬剤での処理、特異抗体や二次抗体での処理、あるいはそれらの処理の後の洗浄処理について、それらの処理のための所定溶液を用いて、上記したアレルゲンの膜1aへの担持のための処理と同様にして、マルチスクリーンフィルタープレート3上に複数個所にわたり区画化されて形成された各ウェル4内の底面側の膜1aに対して処理を行うことができる。
【0044】
本発明は、別の観点では、上記に説明したアレルゲン不活化剤の評価方法の実施に好適に用いられる、評価キットを提供するものである。すなわち、本評価キットは、上記に説明した評価方法に用いられる要素のうち、アレルゲン担持用の膜と、アレルゲン検出用の特異抗体と、蛋白染色剤とを備えている。ただし、これらを最小構成要素として、上記に説明した評価方法に用いられる要素のうち、他の要素を含んでいてもよい。例えば、膜を洗浄するための洗浄液や特異抗体検出のための標識二次抗体等が挙げられる。これら要素の好ましい態様については、上述したとおりである。また、本明細書に記載のない要素を含んでいても構わない。
【0045】
上記評価キットにおいては、アレルゲン担持用の膜には、予めアレルゲンが担持されていることが好ましい。これよれば、アレルゲン担持膜が準備されているので、アレルゲン不活化剤の評価方法を、更に効率的に実施することが可能である。
【0046】
上記評価キットにおいては、アレルゲン担持用の膜はプレート上に複数区画化された各ウェルの底面に形成されていることが好ましい。これによれば、アレルゲン担持用の膜がプレート上に複数個所にわたり区画化されて形成されているので、アレルゲン不活化剤の評価方法を、更に効率的に実施することが可能である。また、大量処可能なオートメーション化にも適用可能である。例えば、上記したマルチスクリーンフィルタープレートを利用して、そのような構成を実現できる。
【0047】
本発明が適用されるアレルゲンとしては、上述したとおり任意であるが、典型的に、例えば、ダニ、花粉、食物、ゴキブリ、カビ、動物等に由来のアレルゲンが挙げられる。例えば、ダニアレルギーの原因となる重要なダニはチリダニ科に属するヒョウヒダニ属であり、より具体的には、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等である。そして、コナビョウビダニとヤケビョウビダニから分離された主要アレルゲンとして、Der f1やDer p1等が知られている。また、スギ花粉から分離された主要アレルゲンとして、Cry j1やCry j2等が知られている。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
〔1.被検薬剤〕
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
(1-d)0.1w/v%SDS
(1-e)30v/v%過酸化水素水
(1-f)10mM塩酸(pH2)
(1-g)70v/v%2-プロパノール含有水
【0050】
〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕
(2-1.ダニ)
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
(2-2.スギ)
(2-c)精製スギ花粉アレルゲン:商品名「Cry j1」(ITEA株式会社製)(由来:スギ(Cryptomeria japonica))
(2-d)抗Cry j1モノクローナル抗体:KW-S131(ITEA社製)
【0051】
〔3.アレルゲン担持膜の調製〕
(3-1.PVDFメンブレン)
- PVDFメンブレン(孔径:0.45μm)をメタノールに浸して親水化した後、所定量のアレルゲンをドット状にブロットする(0~100ng/ドット)。
(3-2.ニトロセルロースメンブレン)
- ニトロセルロースメンブレン(孔径:0.45μm)に所定量のアレルゲンをドット状にブロットする(0~100ng/ドット)。
【0052】
〔4.被検薬剤による処理〕
- アレルゲン担持膜を、PBS(-)で3回洗う。
- 上記膜をプラスチック容器に入れ、被検薬剤を含有する溶液の5mLに浸す。
- 常温で2時間静置する。
- 被検薬剤の溶液を捨て、上記膜をPBS(-)で3回洗う。
- 蛋白染色又は免疫染色を行う。
【0053】
〔5.蛋白染色〕
(5-1.金染色)
金染色キット(商品名「Gold protein detection kit for membranes」、Cytodiagnostics社製)を使用した。
- アレルゲン担持膜(上記〔4.被検薬剤による処理〕の後)を、キットに含まれる「1X Wash buffer」に浸し、15分間震盪する。
- 「1X Wash buffer」を捨て、膜を蒸留水で3回洗う。
- キットに含まれる「Gold Solution」の2mLで膜を浸し、常温で1~2時間震盪する。
- 「Gold Solution」を捨て、キットに含まれる「1X Wash buffer」で2回洗う。
- 大量の蒸留水で膜を洗う。
- 膜を自然乾燥させる。
(5-2.高感度CBB染色)
高感度CBB染色キット(アプロサイエンス社製)を使用した。
- アレルゲン担持膜(上記〔4.被検薬剤による処理〕の後)を、PBS(-)で3回洗う。
- 膜を自然乾燥させる。
- 1mLの高感度CBB染色液(アプロサイエンス社)で膜を浸し、常温で5分間震盪する。
- 染色液を捨て、10%メタノール/10%酢酸含有水溶液でこまめに液を交換しながら30分間脱色する。
- 膜を蒸留水で洗い、自然乾燥させる。
【0054】
〔6.免疫染色〕
- アレルゲン担持膜(上記〔4.被検薬剤による処理〕の後)を1w/v%ゼラチン含有PBSに浸し、37℃で10分間、ブロッキングする。
- ブロッキング液を捨て、膜をPBS(-)で3回洗う。
- 1次抗体を1μg/mLになるように1w/v%BSA含有PBST(0.02v/v%Tween-20)で希釈し、その2mLを上記ブロッキングした膜に加えて、震盪しながら常温で30分間反応させる。
- 1次抗体反応液を捨て、膜をPBSTで3回洗う。
- HRP標識2次抗体(商品名「HRP-Goat anti-Mouse IgG」、Zymed社製)を3μg/mLになるように1w/v%BSA含有PBST(0.02v/v%Tween-20)で希釈し、その2mLを上記1次抗体と反応させた膜に加えて、震盪しながら常温で30分間反応させる。
- 2次抗体反応液を捨て、膜をPBSTで4回洗う。
- 発色試薬溶液(商品名「Ez West Blue」、ATTO社製)の1mLを、上記2次抗体と反応させた膜に加えて、10分間反応させる。
- 大量の蒸留水で洗い、反応を停止する。
- 膜を自然乾燥させる。
【0055】
<試験例1>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-a)、(1-b)、又は(1-c)を使用した。
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
【0056】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0057】
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、12.5、25、50、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0058】
【0059】
図8の蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製ダニアレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0060】
一方、
図8の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製ダニアレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。また、特異抗体による認識能が弱められる程度は、被検薬剤の種類によって異なり、特に、5ppmビージア水や5ppm次亜塩素酸ナトリウムによって、顕著に弱められていた。
【0061】
<試験例2>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-a)、(1-b)、(1-c)、又は(1-d)を使用した。
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
(1-d)0.1w/v%SDS
【0062】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0063】
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0064】
【0065】
図9の蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製ダニアレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0066】
一方、
図9の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製ダニアレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。また、特異抗体による認識能が弱められる程度は、被検薬剤の種類によって異なり、特に、5ppmビージア水や5ppm次亜塩素酸ナトリウムや0.1w/v%SDSによって、顕著に弱められていた。
【0067】
<試験例3>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-e)又は(1-f)を使用した。
(1-e)30v/v%過酸化水素水
(1-f)10mM塩酸(pH2)
【0068】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0069】
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0070】
【0071】
図10の蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製ダニアレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0072】
一方、
図10の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。すなわち、30v/v%過酸化水素水又は10mM塩酸(pH2)での処理により、膜上に担持された精製ダニアレルゲンの特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0073】
<試験例4>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-a)、(1-b)、(1-c)、(1-d)、又は(1-e)を使用した。
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
(1-d)0.1w/v%SDS
(1-e)30v/v%過酸化水素水
【0074】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-c)及び(2-d)を使用した。
(2-c)精製スギ花粉アレルゲン:商品名「Cry j1」(ITEA株式会社製)(由来:スギ(Cryptomeria japonica))
(2-d)抗Cry j1モノクローナル抗体:KW-S131(ITEA株式会社製)
【0075】
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製スギ花粉アレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0076】
【0077】
図11の蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製スギ花粉アレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0078】
一方、
図11の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製スギ花粉アレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Cry j1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0079】
<試験例5>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-a)、(1-b)、又は(1-c)を使用した。
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
【0080】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0081】
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のニトロセルロースメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0082】
【0083】
図12の蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製ダニアレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0084】
ただし、ニトロセルロースメンブレンを使用した本試験例では、PVDFメンブレンを使用した試験例1~4の結果と比較すると、使用したアレルゲン量に応じたシグナルが相対的に弱く、精製ダニアレルゲンに対する膜の担持性能がPVDFメンブレンに比べ弱いことが示唆された。
【0085】
一方、
図12の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製ダニアレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0086】
<試験例6>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-a)、(1-b)、又は(1-c)を使用した。
(1-a)5ppmビージア水(微酸性次亜塩素酸ナトリウム、pH5.5)
(1-b)5ppm次亜塩素酸ナトリウム(pH11~12)
(1-c)6Mグアニジン
【0087】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0088】
試験は、アレルゲン担持膜を3枚準備した以外は
図5に示す操作手順と同様にして行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、25、50、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを3枚用意し、まず、3枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後の他の一方の膜は、高感度CBB染色による蛋白染色に供し、処理後の更に他の一方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0089】
【0090】
図13の金染色及び高感度CBB染色による蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して、各被検薬剤間で染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。
【0091】
ただし、蛋白染色に高感度CBB染色を用いると、蛋白染色に金染色を用いた結果と比較すると、使用したアレルゲン量に応じた視覚的シグナルは相対的に弱く、精製ダニアレルゲンに対する検出性能が金染色に比べ弱いことが示唆された。
【0092】
一方、
図13の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製ダニアレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0093】
<試験例7>
上記の〔1.被検薬剤〕として、以下に示す(1-d)又は(1-g)を使用した。
(1-d)0.1w/v%SDS
(1-g)70v/v%2-プロパノール含有水
【0094】
上記の〔2.アレルゲン及びその特異抗体〕として、以下に示す(2-a)及び(2-b)を使用した。
(2-a)精製ダニアレルゲン:商品名「Der f1」(ITEA株式会社製)(由来:コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae))
(2-b)抗Der f1モノクローナル抗体:5F2.1.8(ITEA株式会社製)
【0095】
・膜上反応
アレルゲンに対する被検薬剤の処理を、試験例1~6と同様にして、アレルゲン担持膜上で行った。具体的には以下のとおり試験した。
試験は、
図5に示す操作手順で行った。具体的には、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜に対して同じ被検薬剤による処理を行い、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0096】
・液中反応
アレルゲンに対する被検薬剤の処理を、アレルゲンと被検薬剤とを混合してなる液中で行った。具体的には以下のとおり試験した。
- アレルゲン原液を被検薬剤で濃度調整したもの(50ng/μL)、それを被検薬剤で1/5希釈したもの(10ng/μL)、更にそれを被検薬剤で1/5希釈したもの(2ng/μL)をそれぞれ用意し、常温で2時間静置する。
- PVDFメンブレンをメタノールに浸して親水化した後、上記の各反応液又は被検薬剤の2μLを膜上にドット状にブロットする(0~100ng/ドット)。
- 金染色による蛋白染色又は抗Der f1モノクローナル抗による免疫染色を行う。
【0097】
図14には、膜上反応と液中反応のそれぞれについて、免疫染色像と蛋白染色像の結果をそれぞれ示す。
【0098】
図14の膜上反応についての蛋白染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して、各被検薬剤間で染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。
【0099】
これに対して、
図14の液中反応についての蛋白染色の結果にみられるように、アレルゲンに対する被検薬剤の処理を、アレルゲンと被検薬剤とを混合してなる液中で行うと、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、各被検薬剤を処理してから精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンに担持させようとしても、その被検薬剤の影響を受けてうまく担持させることができないことが分かる。
【0100】
一方、
図14の膜上反応についての免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、膜上に担持された精製ダニアレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Der f1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0101】
これに対して、
図14の液中反応についての免疫染色の結果にみられるように、液中反応では、各被検薬剤での処理により、精製ダニアレルゲンをPVDFメンブレンにうまく担持させることができないため、免疫染色のシグナルも得られなかった。すなわち、液中反応の方式では、各被検薬剤が、アレルゲンの膜への担持性に影響を与えるのか、抗体認識性に影響を与えるのか、区別して評価することができないことが明らかとなった。
【0102】
<試験例8>
アレルゲン担持用として各ウェルにセルロース混合エステル(ニトロセルロースの類似物質)からなるフィルターメンブレンを備えたマルチスクリーンフィルタープレート(MultiScreen HTS HA Sterile Plate、Millipore、#MSHAS4510)を使用して、アレルゲン不活化剤の評価試験を行った。具体的には、
図6にその操作手順の概略を示とおり、以下のプロトコルに従い試験を行った。
【0103】
(1.アレルゲン担持膜の調製と被検薬剤による処理)
- マルチスクリーンフィルタープレートの各ウェルに各希釈段階(50、10、2、0ng/μL)の精製スギ花粉アレルゲン:商品名「Cry j1」(ITEA株式会社製)(由来:スギ(Cryptomeria japonica))を2μL滴下し、自然乾燥させる。
- 200μLのPBSで3回濾過洗浄する。
- 200μLの被検薬剤(
図15に示す各種の被検薬剤と濃度。なおコントロールとしてPBS)を加えて常温で2時間静置する。
- 被検薬剤をピペッティングで除く。
- 200μLのPBSで3回濾過洗浄する。
- 免疫染色もしくは金染色へ
【0104】
(2.免疫染色)
- ブロッキングバッファーとして200μLの1w/v%ゼラチン含有PBSを加え、常温で15分間、ブロッキングする。
- ブロッキングバッファーを濾過で除く。
- 200μLのPBSで3回濾過洗浄する。
- 1次抗体として抗Cry j1モノクローナル抗体:S10(ITEA社製)を終濃度0.5μg/mLとなるよう1w/v%BSA含有PBST(0.02v/v%Tween-20)で希釈し、その200μLを添加し、常温で30分間反応させる。
- 1次抗体を濾過で除く。
- 200μLのPBSTで3回濾過洗浄する。
- 2次抗体としてHRP標識2次抗体(商品名「HRP-Goat anti-Mouse IgG」、Zymed社製)を0.75μg/mLになるように1w/v%BSA含有PBST(0.02v/v%Tween-20)で希釈し、その200μLを添加し、常温で30分間反応させる。
- 2次抗体を濾過で除く。
- 200μLのPBSTで4回濾過洗浄する。
- 発色試薬溶液(商品名「Ez West Blue」、ATTO社製)の35μLを添加して、常温で10分間反応させる。
- 発色試薬溶液を濾過で除く。
- 200μLの蒸留水で3回濾過洗浄後、メンブレンを自然乾燥する。
【0105】
(3.金染色)
金染色キット(商品名「Gold protein detection kit for membranes」、Cytodiagnostics社製)を使用した。
- キットに含まれる「1X Wash buffer」を200μL添加し、常温で15分間反応させる。
- 「1X Wash buffer」を濾過で除く。
- 200μLの蒸留水で2回濾過洗浄する。
- キットに含まれる「Gold Solution」の200μLを添加し、常温で1時間反応させる。
- 「Gold Solution」をピペッティングで除く。
- 200μLの「1X Wash buffer」で3回洗浄(ピペッティング)
- 200μLの蒸留水で3回濾過洗浄後、メンブレンを自然乾燥する。
【0106】
【0107】
図15の金染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製スギ花粉アレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0108】
一方、
図15の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、マルチスクリーンフィルターに備わる膜上に担持された精製スギ花粉アレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Cry j1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。また、特異抗体による認識能が弱められる程度は、被検薬剤の種類によって異なり、特に、5ppmNaClO(ビージア水)や6Mグアニジンによって、顕著に弱められていた。
【0109】
<試験例9>
アレルゲン担持用として各ウェルにPVDFからなるフィルターメンブレンを備えたマルチスクリーンフィルタープレート(MultiScreen HTS IP, 0.45 μm、Millipore、#MSIPS4510))を使用して、アレルゲン不活化剤の評価試験を行った。具体的には、
図6にその操作手順の概略を示とおり、以下のプロトコルに従い試験を行った。
【0110】
(1.アレルゲン担持膜の調製と被検薬剤による処理)
- マルチスクリーンフィルタープレートの各ウェルに10μLの35v/v%エタノール水を加えて親水化したのち、200μLのPBSで2回濾過洗浄する。
- 各希釈段階(50、10、2、0ng/μL)の精製スギ花粉アレルゲン:商品名「Cry j1」(ITEA株式会社製)(由来:スギ(Cryptomeria japonica))を2μL滴下し、濾過吸引する。
- 200μLのPBSで3回濾過洗浄する。
- 200μLの被検薬剤(
図16に示す各種の被検薬剤と濃度。なおコントロールとしてPBS)を加えて常温で2時間静置する。
- 被検薬剤をピペッティングで除く。
- 200μLのPBSで3回濾過洗浄する。
- 免疫染色もしくは金染色へ
【0111】
(2.免疫染色)
試験例8と同様にした。
【0112】
(3.金染色)
試験例8と同様にした。
【0113】
【0114】
図16の金染色の結果にみられるように、各被検薬剤で処理しても、PBS(-)による処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製スギ花粉アレルゲンが各被検薬剤によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0115】
一方、
図16の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を各被検薬剤で処理すると、PBS(-)での処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、マルチスクリーンフィルターに備わるPVDF膜上に担持された精製スギ花粉アレルゲンは、各被検薬剤での処理により、その特異抗体(抗Cry j1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。また、特異抗体による認識能が弱められる程度は、被検薬剤の種類によって異なり、特に、0.1%SDSや6Mグアニジンによって、顕著に弱められていた。
【0116】
<試験例10>
被検物質として所定空間内の気体中に分散させた帯電微粒子水を用いた以外、試験例1~7で行ったのと同様にして、アレルゲン不活化剤の評価試験を行った。具体的には、
図7にその操作手順の概略を示とおり、短冊状にカットした1枚のPVDFメンブレンに、精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンを0、4、20、又は100ngの量でドットブロットし、アレルゲン担持膜とした。アレルゲン担持膜は、各アレルゲンにつき同じものを2枚用意し、まず、2枚のアレルゲン担持膜を装置25により帯電微粒子水を発生させた密閉容器に2時間静置して、更にPBSによる洗浄処理を行い、処理後の一方の膜は、金染色による蛋白染色に供し、処理後のもう片方の膜は、抗Der f1モノクローナル抗体又は抗Cry j1モノクローナル抗体による免疫染色に供した。
【0117】
なお、本試験例で被検物質として用いた所定空間内の気体中に分散させた帯電微粒子水は、国際公報第2004105958号パンフレットの明細書に記載された方法に準じて発生させた。
【0118】
【0119】
図17の金染色の結果にみられるように、被検物質として所定空間内の気体中に分散させた帯電微粒子水で処理しても、未処理と比較して染色像の程度に遜色なく、精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られた。よって、精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンが当該帯電微粒子水での処理によって顕著に剥がれ落ちたりしていないことが分かる。
【0120】
一方、
図17の免疫染色の結果にみられるように、アレルゲン担持膜を被検物質として当該帯電微粒子水で処理すると、未処理と比較して総じて染色像の程度が弱く、精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンのドット量に応じた強度の染色像が得られなかった。よって、PVDFメンブレン上に担持された精製ダニアレルゲン又は精製スギ花粉アレルゲンは、当該帯電微粒子水での処理により、その特異抗体(抗Cry j1モノクローナル抗体)に対する認識性が弱められていることが分かる。
【0121】
よって、空気清浄装置等によって発生させてなる気体中に分散させた物質に対しても本発明の評価方法を適用できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0122】
1、1a…膜、2…ドット状に担持されたアレルゲン、3…マルチスクリーンフィルタープレート、3a…端部、4…ウェル、4a…ウェル壁、5…ウェル孔、20…バキュームマニホールド、20a…フランジ部、21…空間、22…廃液回収容器、23…吸引口管、24…コネクタ、25…帯電微粒子水発生装置