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特許7126666カーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、および、導電性樹脂組成物
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  • 特許-カーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、および、導電性樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】カーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、および、導電性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20220822BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20220822BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220822BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20220822BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220822BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220822BHJP
   C08L 29/00 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L71/00
C08L101/00
C08L1/00
C08K3/04
C01B32/168
C08L29/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022014386
(22)【出願日】2022-02-01
【審査請求日】2022-02-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075186
【氏名又は名称】株式会社DR.GOO
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久 英之
(72)【発明者】
【氏名】作田 憲崇
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼宮 竜介
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201006(JP,A)
【文献】特開2009-176721(JP,A)
【文献】特開2016-108524(JP,A)
【文献】特開2020-176186(JP,A)
【文献】特開2014-122264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO13320に定められているレーザー回析・散乱法で求めた 粒径D50250μm以下であるカーボンブラックと、ISO13320に定められているレーザー回析・散乱法で求めた粒径D5050μm以下であるカーボンナノチューブと、前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブに添着した溶媒可溶性ポリマーと、を含有し、
前記溶媒可溶性ポリマーが、エーテル系ポリマー、ビニル系ポリマー、アミン系ポリマー、セルロース系ポリマーおよび澱粉系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記溶媒可溶性ポリマーの配合量が、前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブの合計配合量100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下である、
カーボン材料造粒物。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボン材料造粒物において、
10mmHgから10-2mmHgの範囲に減圧した後、1500℃で30分間加熱し、ガスクロマトグラフィーによって定量した前記カーボンブラックの脱離水素量が、2mg/g以下である、
カーボン材料造粒物。
【請求項3】
カーボンブラック粒状物とカーボンナノチューブ粒状物とを、カーボンブラックのISO13320に定められているレーザー回析・散乱法で求めた粒径D50250μm以下となり、かつカーボンナノチューブのISO13320に定められているレーザー回析・散乱法で求めた粒径D5050μm以下となるように、乾式粉砕し、混合して混合物を得る工程と、
溶媒可溶性ポリマーを溶媒に溶解させて、バインダー溶液を調製する工程と、
前記混合物に、前記バインダー溶液を添加しながら混合し、造粒して、カーボン材料造粒物を得る工程と、を備え
前記溶媒可溶性ポリマーが、エーテル系ポリマー、ビニル系ポリマー、アミン系ポリマー、セルロース系ポリマーおよび澱粉系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブに添着した溶媒可溶性ポリマーの配合量が、前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブの合計配合量100質量部に対して、1質量部以上15質量部以下である、
カーボン材料造粒物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のカーボン材料造粒物と、樹脂とを含有し、
前記樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリハロゲン化オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂、ポリウレア樹脂、およびポリエーテルスルフォン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つである、
導電性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、および、導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物への導電性または帯電防止能の付与について、近年様々な検討がなされている。例えば、ICまたはLSIを用いた電子機器部材品の包装材として、熱可塑性樹脂を成形したトレイまたはキャリアテープなどが知られている。しかしながら、通常の樹脂成型品には導電性が無く、表面抵抗値および体積抵抗値が高い。そのため、帯電による電子部品の絶縁破壊、またはゴミの付着による機能低下などの問題を引き起こすことがある。これを防ぐため、様々な種類の材料を添加することで、解決することが行われている。中でも、カーボンブラック(以下CBと記すことがある)、またはカーボンナノチューブ(以下CNTと記すことがある)などを配合することで、帯電防止能または静電気拡散能を付与することが多数検討されてきた。導電性を付与するためのカーボンブラックとしては、一般的にケッチェンブラック、アセチレンブラック、またはファーネスブラックといった、導電性カーボンブラックと呼ばれるものを配合することが多い。これらの中においてもケッチェンブラックは、最も少量添加で高い導電性を実現できるため、多く使われてきた。
【0003】
しかしながら、ケッチェンブラックも他のカーボンブラックと同様に配合量を増すと、溶融粘度が高くなり、射出成型などでの成型加工が困難となる。また、それだけでなく、衝撃強度などの機械的物性も劣った成型品になるという問題がある。また、より高い導電性を得ようとしても、カーボンブラックの配合量に物理的上限があり、得られる体積抵抗率(以下VRと記すことがある)に制限があるといった難点が現れる場合がある。カーボンブラックは、炭化水素を不完全燃焼するか、熱分解することにより製造される。また、カーボンブラックの製法は、原料である炭化水素の種類により、サーマル法、アセチレン分解法、コンタクト法、またはファーネス法に細分されている。カーボンブラックの基本的性質は、粒子径と、粒子の繋がり状態であるストラクチャーと、粒子表面の物理化学的性質であり、これを3大特性と呼んでいる。一般的に、導電性カーボンブラックとして望まれる品質は、粒子径が小さく(すなわち比表面積が大)、また、ストラクチャーが大で、更に表面の物理化学的物質が少ない物であると言われている。
【0004】
一方、カーボンナノチューブは、直径が1nm~200nm程度、長さが0.1μm~2000μm程度の六角網目状であるグラファイトシートが円筒状をなした構造を有している。この円筒状のグラファイトシートが単層の場合には、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層の場合は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と呼ばれている。カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ繊維同士が一次凝集して、絡み合ったり、バンドル状の一次凝集体を形成することもあるが、一次凝集体が凝集して二次凝集体を形成していることが殆どである。
【0005】
比表面積が約150m/g以上のカーボンナノチューブを樹脂などに配合すると、ケッチェンブラック以上に少ない配合量で所望の導電性が得られ、衝撃強度などの機械的物性もカーボンブラック配合品よりは優れたコンパウンドとなるが、下記(1)~(3)などの難点を有している。
(1)カーボンブラックより分散性が悪い。
(2)混練時などでの飛散性が大で、安全性面での不安がある。
(3)価格が一般導電性カーボンブラックの5倍から10倍と高い。
【0006】
CB、または、その他カーボン材料を熱可塑性樹脂に分散させた例としては、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレート樹脂に、CBまたはCNTである導電性炭素材料を添加した導電性樹脂組成物(特許文献1)がある。カーボンブラック、カーボンナノチューブをそれぞれ分散剤として水溶性キシラン水溶液、溶媒としてアセトンを使用して分散液としたものを混合後、ろ過により分離、乾燥、弱い粉砕をしたものを添加した導電性シート(特許文献2)がある。CNTに水溶性ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体を添加し、凝集物を得る方法(特許文献3)がある。HDPE樹脂に様々なカーボン材料を添加し、体積抵抗率を測定し、それぞれのカーボン材料を評価したもの(非特許文献1)がある。また、非特許文献2には、図17に比表面積が50m/gから1500m/gまでの間の6種類のCBをPVC樹脂に配合した時の体積固有抵抗率が示されているが、比表面積の大きいCBがより高い導電性を与えることを示している。
さらに、CBおよびCNTの混合物を造粒した例としては、粒径が100nm以下のCNTを水に分散させるCNT分散工程と、分散機中のCB粉体にCNT分散工程で得られたCNT分散液を混合し造粒する造粒工程と、造粒工程で得られたカーボンの造粒物を乾燥する乾燥工程と、を備えるカーボンの造粒物の製造方法(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-202751号公報
【文献】国際公開第2015/064708号
【文献】特許第6714134号公報
【文献】特開2017-201006号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】導電性カーボンブラック「ケッチェンブラックEC」の構造と特徴炭素、2006年、2006巻222号、p.140~146
【文献】カーボンブラック並びに機能性カーボンブラック、日本ゴム協会誌、第73号第7号(2000年7月、p.362~370)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、導電性炭素材料として、CBおよびCNTを使用している。しかしながら、特許文献1では、樹脂組成物の強度向上のためにガラス成分またはガラス繊維を添加している点で、本発明における目的とする効果または課題そのものとは全く異なるものである。特許文献1におけるCBとCNTの混合方法に関しては、特許文献1の段落[0055]に「ドライブレンド後、必要に応じて押し出し造粒機やブリケッチングマシンなどにより造粒を行い、その後二軸押し出し機などで溶融混練しペレット化する。」との記載もあるが、実施例および比較例は全て、ドライブレンドした後、二軸混練機で溶融混練後ペレットを得ている。また、特許文献1では、ドライブレンド工程に、粉砕をする工程は無く、また、CBとCNT混合物に水溶性ポリマーを添着する処理も行われていない。
【0010】
特許文献2では、キシラン水溶液に分散させたCNTとアセトンに分散させたCBとの複合ペーストを乾燥し複合フィラーとし、これを樹脂やゴムに配合することで、分散性に優れた導電材を得ることが記載されている。しかしながら、特許文献2には、CBとCNTを粉砕混合後に水バインダーを用い造粒しその後乾燥することは記載されていない。また、造粒時に水溶性ポリマーを添着することも記載されていない。
【0011】
特許文献3は、CNTに水溶性ポリマーを添加することによる凝集体の製造に関するものであり、特許文献3には、CB添加に関する内容記載はない。その中で敢えてCBを組み合わせることが容易想到ではないことを見出したのが本発明の特徴である。
【0012】
非特許文献1の図3には、各種カーボンブラックをHDPE樹脂に添加した際の添加量と体積抵抗率の関係が示されている。そして、ケッチェンブラックは、アセチレンブラック、またはファーネス系の導電性カーボンブラックより少ない配合量で導電性が発現することが分かる。さらに、同じ添加量であるときの導電性は、ケッチェンブラックがファーネスブラックより大きく、かつファーネスブラックがアセチレンブラックより大きい、といった関係にあることが確認される。しかしながら、カーボンブラックの配合量の増加は、樹脂の溶融粘度増につながり、射出成型などでの成型加工が困難となるだけでなく、衝撃強度などの機械的物性の低下につながる。また、より高い導電性を得ようとしても、カーボンブラックの配合量に物理的上限があり、得られる体積抵抗率には限界がある。同時に、非特許文献1には、CBとCNTとの組み合わせによる知見はない。
また、非特許文献2にも、CBとCNTとの組み合わせによる知見はない。
【0013】
特許文献4には、飛散し易く、取り扱い難いCB粉体やCNT粉体を直接混合し造粒するのではなく、CB粉体より疎水性であり、嵩密度も小さく飛散しやすいCNT粉体を予め水に分散させたCNT分散液を調整し、ついでCB粉体に造粒バインダーとして添加することで、CBとCNTが均一に混合した、緻密な造粒物を得ることを特徴としている。また、特許文献4には、CNTを分散する水に水溶性有機溶媒が30%以下添加されており、さらに、分散剤として界面活性剤や水溶性高分子を用いることも記載されている。しかしながら、特許文献4にあるCNT粉体の水分散は、メディア型分散機や超音波分散機を用い、ミクロンオーダー以下まで微細化した物を用いている。実施例にある分散では、プレミックスを1次と2次の2回行い、その後、ビーズミルにより最終分散液を得ている。すなわち、CNT粉末の分散に数時間から数十時間を要していることになり、極めて生産性の悪い方法で製造されている。これに対し、本発明は、CB粉体とCNT粉体の混合状態を均一にするため、CB粉体とCNT粉体を、そのまま同時に、或いは、事前に粉体混合機を用い、CBとCNTを混合した後、乾式粉砕工程を行っている。乾式粉砕工程とは、CBとCNTの混合物を、ジェットミルやジェットナノマイザーなどの超微粉砕機を通すことでミクロンオーダーからナノオーダーまでに粉砕された形での均一混合品を得る工程である。さらに、造粒前の超微粉砕処理のもう一つの目的は、市販されているCBやCNTの通常形態である粒状品(造粒品)を粉状にすることにもある。最近特にCBとCNTは、輸送時の経費低減や末端ユーザーでの取り扱い易さ、更には安全性向上のために、殆どの銘柄が造粒した粒状形態になっており、分散性の観点では、粉状品より悪くなっている。更に市販品としてはわずかに残っている粉状品であっても、製造ラインで形成された粒状品が数パーセント混在するので、分散性の観点からは、この粒状品も粉砕しておくのが好ましく、前述の乾式粉砕工程は、これの処理としても好適である。
【0014】
本発明は、飛散性を低減でき、かつ、導電性および機械的物性を向上できるカーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、並びに、導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下に示すカーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、並びに、導電性樹脂組成物が提供される。
[1]粒径D50が500μm以下であるカーボンブラックと、粒径D50が100μm以下であるカーボンナノチューブと、前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブに添着した溶媒可溶性ポリマーと、を含有する、カーボン材料造粒物。
[2]前記[1]に記載のカーボン材料造粒物において、10mmHgから10-2mmHgの範囲に減圧した後、1500℃で30分間加熱し、ガスクロマトグラフィーによって定量した前記カーボンブラックの脱離水素量が、2mg/g以下である、カーボン材料造粒物。
[3]カーボンブラック粒状物とカーボンナノチューブ粒状物とを、カーボンブラックの粒径D50が500μm以下となり、かつカーボンナノチューブの粒径D50が100μm以下となるように、乾式粉砕し、混合して混合物を得る工程と、溶媒可溶性ポリマーを溶媒に溶解させて、バインダー溶液を調製する工程と、前記混合物に、前記バインダー溶液を少量ずつ添加しながら混合し、造粒して、カーボン材料造粒物を得る工程と、を備える、カーボン材料造粒物の製造方法。
[4]前記[1]または前記[2]に記載のカーボン材料造粒物と、樹脂とを含有する、導電性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、飛散性を低減でき、かつ、導電性および機械的物性を向上できるカーボン材料造粒物、カーボン材料造粒物の製造方法、並びに、導電性樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例1で得られたCBとCNTの粉砕前後の樹脂組成物の分散性を示す写真などである。
図2】試験例3で得られたCBとCNTの混合比率を変更した場合の樹脂組成物における分散性を示す写真である。
図3】試験例4で得られた溶媒溶解性ポリマーを変更した場合の樹脂組成物における分散性写真である。
図4】試験例6で得られたCBを変更したカーボン材料造粒物を配合した樹脂組成物の配合量と抵抗の関係を示したグラフである。
図5】試験例7で得られたカーボン材料造粒物における1.5%配合時の体積抵抗値とCBを1500℃で加熱した際の水素量との関係を示したグラフである。
図6】非特許文献1の図3から100Ω・cmの樹脂組成物を得るのに必要なCB配合量を算出し、これとCBを1500℃で加熱した際の水素量との関係を示すグラフである。
図7】カーボンブラックおよびカーボンナノチューブを混ぜ合わせた状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。以下、カーボン材料造粒物を、単に「造粒物」とも記す場合がある。
【0019】
<カーボン材料造粒物>
まず、本実施形態に係るカーボン材料造粒物について説明する。
本実施形態に係る造粒物は、特定の粒径以下のCBと、特定の粒径以下のCNTと、前記CBおよび前記CNTに添着した溶媒可溶性ポリマーと、を含有するものである。
本実施形態により、飛散性を低減でき、かつ、導電性および機械的物性を向上できるカーボン材料造粒物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0020】
まず、飛散性を低減できる理由は、以下のとおりと推察する。すわわち、CBおよびCNTがいずれも粉体か乾式造粒品であると、飛散しやすいが、本実施形態においては、CBおよびCNTに、溶媒可溶性ポリマーが添着し、カーボン材料造粒物の表面などを被覆している。そして、CBとCNTとが、それぞれ粉体として分離しないようになっている。そのため、カーボン材料造粒物を樹脂などに混合する場合にも、飛散性を低減でき、安全性低下または作業性低下といった問題を防止できる。
【0021】
また、CBおよびCNTのうち、特にCNTは、樹脂などに混合する場合に分散性が悪いという問題もある。そのため、カーボン材料造粒物により、導電性および機械的物性を十分に向上できないという問題が生じる可能性がある。これに対し、本実施形態においては、CBおよびCNTの各粒子径が特定の大きさ以下に調整されているので、均一混合物となっている。このようなCBおよびCNTに、溶媒可溶性ポリマーが添着するようにすれば、樹脂などに混合する場合に分散性は良好になる。そのため、カーボン材料造粒物により、導電性および機械的物性を十分に向上できる。
【0022】
また、導電性カーボンブラックとして樹脂などへ配合した際に、配合量当たりの抵抗が最も低下するCB、すなわち導電性が最も優れるのは、ケッチェンブラックである。しかし、ケッチェンブラックを低VRとなるまで高濃度に配合すると、機械的物性、特に衝撃強度がかなり低下する。導電性を確保し、更に機械的物性を向上できるのは、CNTが最適な材料の一つと考える。しかし、CNTは、樹脂などに配合する際の分散性が困難である課題がある。また、嵩比重がCBより低いため、取り扱い時の飛散が多い。このため、安全性面でも課題が有ると言われている。さらに、コスト面にも課題があるという欠点を抱えている。
【0023】
本発明者らは、これらを改善するための手段として、CBとCNTの混合を試みた。これにより、まず、機械的物性を向上できる。また、本実施形態においては、CBおよびCNTに、溶媒可溶性ポリマーが添着している。そして、CBと、CNTとが、それぞれ粉体として分離しないようになっている。そのため、カーボン材料造粒物を樹脂などに混合する場合にも、飛散性を低減でき、安全性低下または作業性低下といった問題を防止できる。
【0024】
導電性を向上できる理由は、以下のとおりと推察する。すわわち、CB配合時の導電性発現メカニズムは、パーコレーション現象やトンネル現象(π電子がジャンプすることによる「トンネル」効果)で説明するのが一般的である。これらの説に従うと、導電回路を効率的に形成させるポイントは、次の(1)~(5)である。
(1)粒子径が小さい。
(2)表面積が大きい。
(3)ストラクチャーが高度に発達している。
(4)結晶構造が発達していること
(5)π電子を補足する不純物が少ないこと。
【0025】
本実施形態に係る混合物は、特に(3)、(4)、(5)が関係していると考えられるが、導電性メカニズムを論じる前に重要なことは、CBそのものを如何に導電体にするかということである。CBは、粒子表面の結晶子面をπ電子が移動することにより電気的に導体となっている素材で有るため、結晶子の発達は、π電子が移動しやすくなることに繋がり、導電体としては、好ましい方向である。また、結晶子を発達させる処理は、粒子内部や表面の不純物まで減少できるので、この面でも好ましい。導電性CBのジャンルで不純物と呼んでいるのは、粒子表面の官能基を形成している水素や酸素或いは硫黄、未分解原料炭化水素(PAH)などであるが、最も導電性に影響を及ぼすのは、水素と酸素である。これらは、カルボキシル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、フエノール性水酸基それにベンゼン環末端などの水素の形で存在し、中でも導電性に大きな影響を及ぼすのは、カルボキシル基と水素である。
また、本実施形態においてカーボンブラックと混合したカーボンナノチューブは、3nm~50nmの繊維径であり、繊維長は0.1μm~2000μmのオーダーであると共に、結晶構造が発達しており更に繊維表面に官能基も少なく導電体として、好ましい表面をしている。また、カーボンナノチューブは、カーボンブラックのストラクチャーの長さに比べると、数倍から数百倍長い繊維を有している。CBとブレンドした混合体において予想以上の導電性を示すのは、お互い単独の時よりも立体構造的ネットワークが拡大したこと、並びに、ネットワークの末端形成する繊維からのπ電子のジャンプ(トンネル効果)が増大したからではないかと、本発明者らは推察している。
【0026】
(カーボン材料)
本実施形態に用いるカーボン材料は、粒径D50が500μm以下CBと、粒径D50が100μm以下であるCNTである。
ここで、CBとCNTの粒径D50は、後に詳述するレーザー回析・散乱法により測定できる。
CBとしては、適宜公知の物を用いることができるが、CB粒子表面の水素量が少ないCBほど、導電性的に優れていることが分った。
水素量の測定は、真空熱分解法と呼ばれている方法で、Bartonらの研究に基づいている。具体的には、乾燥したCB約0.5gを精秤した後、耐熱性試験管に入れ、中真空(10Pa~10-2Pa)以下まで減圧後、電気炉に装入し、1500℃で30分間加熱し、脱離したCB表面の水素ガスをガスクロマトグラフィーにて定量する方法である。
この方式で得た水素量は、2mg/g以下であることが好ましく、1,5mg/g以下であることがより好ましく、1mg/g以下であることがさらに好ましい。
1500℃水素量が前記上限以下であれば、カーボン材料造粒物の導電性をさらに向上できる理由に関しては、本発明者らは以下のように推察する。
【0027】
すなわち、CBを含めたカーボン材料単独の導電性メカニズムをパーコレーション理論で説明する際、カーボンブラック表面のカルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基、または水素などの官能基などが存在する。カーボンナノチューブの官能基は、水素量主体であるが、その量はわずかであるため、CBとCNTの混合物の官能基は、殆どカーボンブラック由来の官能基であると考えてよい。水素はπ電子が移動する時のバリヤーとなる。そのため、導電性CBとしては、可能な限り水素は少ない方が好ましいと言われている。しかしながら、CB単独で樹脂に添加した場合、導電性と水素量には相関がみられない。また、CBとCNTの混合系において、官能基中の水素が影響するのか否かに関する研究は皆無であった。
【0028】
CB単独で樹脂に配合した場合、非特許文献1の図3より、CBの種類による体積抵抗率の有効性が明確に順位付けされているものの、CB固有の水素量との相関は見られない。これに対し、CNTとCBを混合した系では、CB単独で樹脂に配合した際の体積抵抗率と同様の傾向がみられないこと、すなわち、CB単独での導電性から混合物の導電性は想定できないことを、本発明者らは見出した。したがって、前述した一般に言われている導電性CBとして好ましい特性(粒子径が小さい、ストラクチャーが長いなど)よりも、1500℃で加熱して求めたCB表面の水素量が大きく関与していることがわかり、1500℃水素量が僅かに異なることで、樹脂に配合した場合の体積抵抗率は約6桁異なるということが分かった。比表面積またはストラクチャーの形成のみではなく、選択されるCB固有の水素量が低いほど、CNTとの混合後における体積抵抗値が小さくなる。この知見から、期待される導電性を得るためのCBの選択によって、求められるより優れた導電性能が得られるものと本発明者らは推察する。
【0029】
次に、導電性素材として好ましいCNTについて、説明する。好ましいCNTのポイントは、次の(1)~(5)である。
(1)繊維径が細い。
(2)比表面積が大である。
(3)繊維長が適当な長さである(一説では、数μm~数十μmとある)。
(4)結晶子が発達し官能基が少ない。
(5)触媒などの不純物が少ない。
好ましいCNTのポイントは、以上のような特性や性質を保有した物であるが、一般に入手できるCNTは限られるため、現在においては、如何に使いこなすかが、技術である。(4)に記載した通り、CNTにおいても官能基量特に水素量は導電性に影響するが、CNTは、結晶構造が発達しているため水素量はわずかである。したがって、CBとCNTの混合物の官能基は、殆どCB由来の水素官能基であると考えてよい。水素はπ電子が移動する時のバリヤーとなる。そのため、導電性カーボンブラックとしては、可能な限り少ない方が好ましいと言われている。
しかしながら、後述するように、CBを単独で樹脂に添加した場合、導電性と水素量には相関がみられない。また、CBとCNTの混合系において、官能基中の水素が影響するのか否かに関する研究は皆無であった。
【0030】
CBとしては、サーマル法またはアセチレン分解法などの熱分解法、オイルファーネス法など不完全燃焼法で得られるもの、および、テキサス法、ファーザー法、またはシェル法など重質油のガス化プロセスで得られるものなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
具体的には、例えば、東海カーボン社製の#4000及び#5000シリーズ、三菱ケミカル社製の#3000シリーズ、デンカ社製のFX、HS、デンカブラックなど、ビルラカーボン社製のConductexシリーズ、キャボット社製のVulcanシリーズやLITXシリーズ、イメリス・ジーシー社製のENSACOシリーズ、および、SuperP-Liシリーズ、オリオン・エンジニアカーボンズ社製のプリンテックスLなどが挙げられる。
【0031】
CNTとしては、繊維径は、現代の技術で製造可能な0.3nmであるが、0.3nmより細くてもよい。また、繊維径が50nmよりも大きくなるにつれ電気的、機械的物性が低下する傾向があり、100nmよりも大きくなるとCBやカーボンナノファイバーなどとの優位性がなくなる傾向がある。
また、本実施形態に係る造粒物中において、CNTが立体構造的ネットワークを効率的に形成するという観点から、CNTの繊維径は、3nm以上50nm以下であることがより好ましく、5nm以上40nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上30nm以下であることが特に好ましい。
CNTの繊維長は、導電性、機械的物性、または分散性に関係する。CNTの繊維長は、0.1μm以上2000μm以下であることが好ましく、1μm以上1000μm以下であることがより好ましい。繊維長が小さくなるにつれ、導電性または機械的物性が発現し難くなる傾向がみられる、繊維長が大きくなるにつれ、繊維の絡み合いが強くなるため分散不良塊が多くなるだけでなく混練分散時に繊維の切断が多くなり好ましくない傾向がみられる。
CNTのアスペクト比としては、10~10000程度である。また、CNTとしては、六角網目状のグラファイトシートが円筒状をなした構造物が好適に用いられる。CNTは、単層のCNT、多層のCNTいずれでもよく、最終の目的に応じて選択できる。また、CNTの製造方法に関しても制限されるものではない。CNTの製造方法としては、炭素含有ガスを触媒と接触させる熱分解法、炭素棒間にてアーク放電を発生させるアーク放電法、カーボンターゲットにレーザーを照射するレーザー蒸発法、金属微粒子の存在下で炭素源のガスを高温で反応させるCVD法、および、一酸化炭素を高圧下で分解するHiPco法などが挙げられる。また、CNTに、金属原子をドープしてもよい。
【0032】
本実施形態に係る造粒物において、CNTの配合量は、CBおよびCNTの合計配合量100質量%に対して、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。
CNTの配合量が前記上限以下であれば、CNTの分散性を向上できる。CNTの配合量が前記下限以上であれば、導電性をさらに向上できる。
本発明では、CBとCNTを混合後、溶媒可溶性ポリマーを添着し造粒する一連の工程の前にCBとCNTを粉砕することを必須の工程としている。最近、入手可能なCNTは、飛散性防止や輸送コストの低減化、加工時の作業性改善などを目的とし殆どの商品が粒状物の形態をとっている。そのため、粉末状でも分散困難であったCNTが更に難分散となってきている。また、ファーネス系CBのうち、導電性CBと呼ばれているCBも、ほぼ100%が造粒物で提供されており、粉状品に比べると明らかに分散困難なCBになっている。この分散性を改善する方法を種々検討した結果、粉砕処理を施すことで分散性が向上することを発見した。粉砕法は、エネルギーが「圧縮」「衝撃」「摩擦」「せん断」などの力として、材料に加えられ材料中に応力を生じさせて、これを変形し破壊することで微細化する方法である。粉砕方法としては、乾式方式と湿式方式があるが、本発明では、乾式方法で処理したものを用いることが好ましい。
【0033】
(溶媒可溶性ポリマー)
本実施形態に用いる溶媒可溶性ポリマーは、CBおよびCNTに添着されている。
カーボンナノチューブは、嵩密度が低いことによる作業性の悪さ、また飛散性による環境汚染が発生するため、安全性面でも問題があると言われている。この問題を解決するため、本実施形態においては、溶媒可溶性ポリマーをCNTとCBに添着させている。
【0034】
溶媒可溶性ポリマーとしては、水、有機溶剤、およびそれらの混合物である溶媒に溶解するものであれば使用できる。溶媒可溶性ポリマーとしては、ポリマー系の界面活性剤、および高分子ポリマーなどが挙げられる。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
高分子ポリマーとしては、エーテル系ポリマー(ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、およびポリプロピレングリコールなど)、ビニル系ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、およびポリビニルピロリドンなど)、アクリルアミド系ポリマー(ポリアクリルアミドなど)、アミン系ポリマー(ポリエチレンイミン、およびポリブチレンイミンなど)、セルロース系ポリマー(メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)および澱粉系ポリマー(酸化澱粉、およびゼラチンなど)などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、飛散性の低減、または分散性向上の観点から、グリコール系ポリマーを使用することがさらに好ましく、ポリエチレンオキシドを使用することが特に好ましい。
【0035】
本実施形態に係る造粒物において、溶媒可溶性ポリマーの配合量は、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブの合計配合量100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
(カーボン材料造粒物)
本実施形態に係る造粒物は、CB、CNT、および溶媒可溶性ポリマーとの混合物からなる造粒物である。造粒物の形状は、球状であることが好ましい。
造粒物の粒径は、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上3mm以下であることが好ましい。造粒物の粒径が0.3mmよりも小さくなるにつれ、ホッパーなどからの流動性が低下し、使用環境においてCNTなどの飛散量が多くなるという傾向がある。他方、造粒物の粒径が3mmよりも大きくなるにつれ、合成樹脂などとの混練時または分散時に造粒物の微粒子化または破砕が困難になり、分散不良になりやすいという傾向があるので好ましくない。特に、造粒物の粒径が0.1mmよりも小さくなるか、粒径が5mmよりも大きくなるとこの傾向が著しいので好ましくない。造粒物の粒径は、造粒物をメジャーと共に置き、それを光学顕微鏡で観察することで行うことができる。
【0037】
造粒物の硬さは、5g/粒以上20g/粒以下であることが好ましく、10g/粒以上15g/粒以下であることがより好ましい。硬さが15g/粒を超えるにつれ、合成樹脂またはゴム、水、溶剤、ビヒクルに配合し、分散する際、初期分散性のみでなく最終分散性も悪くなるという傾向がある。他方、硬さが10g/粒よりも小さくなるにつれ、包装時、輸送時、在庫時、配合混練時などに粉化が起き、環境汚染を起し易いという傾向があるので好ましくない。特に、硬さが5g/粒よりも小さくなるか、硬さが20g/粒よりも大きくなるとこの傾向が著しいので好ましくない。造粒物の硬さは、JIS K6219-3に準拠して測定できる。
造粒物の硬さは、例えば、溶媒可溶性ポリマーの種類を変更することにより調整できる。造粒物の硬さを上記の範囲内に調整するという観点から、溶媒可溶性ポリマーとしては、グリコール系ポリマーを使用することが好ましく、ポリエチレンオキシドを使用することが特に好ましい。
【0038】
<カーボン材料造粒物の製造方法>
次に、本実施形態に係る造粒物の製造方法について説明する。
本実施形態に係る造粒物の製造方法は、具体的な実施方法としてはやや異なる事項もあるが、基本的には、CNT粒状物とCB粒状物を不活性雰囲気下、乾式方式で微粉砕して、混合する工程(粉砕混合工程)と、溶媒可溶性ポリマーを溶媒に溶解させて、バインダー溶液を調製する工程(溶液調製工程)と、CBおよびCNTの混合物に、前記バインダー溶液を少量ずつ添加しながら混合して、カーボン材料造粒物を得る工程(造粒物調製工程)と、を備える方法である。
本実施形態に係る造粒物の製造方法により、前述の本実施形態に係る造粒物を作製できる。ただし、前述の本実施形態に係る造粒物の製造方法は、本実施形態に係る造粒物の製造方法に限定されない。例えば、粉砕混合工程では、CNT粒状物とCB粒状物を用いて、これらに粉砕処理を行うが、粉砕処理後の同等のCNTまたはCBを用い、粉砕処理を省略してもよい。
【0039】
(粉砕混合工程)
粉砕混合工程においては、CB粒状物およびCNT粒状物を、それぞれ特定の粒径以下に乾式粉砕すると共に、これらを混合して、混合物を得る。ここで、乾式粉砕と混合の順序は、特に限定されない。(1)CB粒状物およびCNT粒状物をそれぞれ乾式粉砕し、その後、混合してもよく、(2)CB粒状物およびCNT粒状物を混合し、その後、乾式粉砕してもよい。
粉砕方法としては、乾式粉砕と湿式粉砕が有りその目的に応じ使い分けている。本発明では、乾式粉砕を用いるが、乾式の場合、目的とする粒度や粒度分布などにより用いる粉砕機が異なる。例えば、(1)中粉砕(10mm以下)を目的とした場合は、インペラーミル、ピンミル、またはローラーミルなどが使用され、(2)微粉砕(数十μm以下)を目的とした場合は、ジェットミル、ボールミル、振動ボールミル、または遊星ミルなどが使用される。
一般に乾式粉砕処理は、大気中で行われるため処理品は、酸化されることが多い。例えば、内容積約2リッターのスチールボールミルにCNTを容積の約6割入れ48時間処理した後の物性は、粉体抵抗(CNTその物の抵抗)が8.2×10-2Ω・cmから5.1×10-1Ω・cmに向上し、また、pHは、8.5から6.9に低下していた。これは、CNTの繊維が切断され、そこに反応活性点が生成したためであり、いわゆる空気酸化が起きたためと考えている。そこで、本発明では、素材の酸化を避けるため、ジェットミルや振動ボールミルなどを用いる微粉砕や超微粉砕処理においては不活性雰囲気下で実施することとした。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、または炭酸ガスなどが用いられるが、本実施形態では、アルゴンガスを用いた。
粉砕機のメーカーのうち、ジェットミルタイプの粉砕機のメーカーとしては、(株)セイシン企業、(株)アイシンナノテクノロジーズ、または(株)アーステクニカなどがある。また、ピンミルのメーカーとしては、槙野産業(株)、(株)西村機械製作所、またはホソカワミクロン(株)などがある。また、インペラーミルのメーカーとしては、(株)セイシン企業、または(株)アーステクニカなどがある。
【0040】
(粉砕品の粒径測定)
CNTおよびCBの粒度分布の測定は、ISO13320に定められているレーザー回析・散乱法で求める。測定器としては、レーザーマイクロンサイザーLMS-3000(セイシン企業社製)を用い行った。この装置の測定可能範囲は、0.01~3500μmである。水分散媒は、純水50mLに界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製の商品名エマルゲン705)を0.05g添加して作製した。測定は、内容積20mLのバイアル瓶にCBやCNTを10mg秤量し、水分散媒10mLを入れた後、超音波分散機で約10分間分散させた。測定器の光学モデルをCBとCNTは1.520と、また、水は1.333と、それぞれの屈折率に設定して測定した。
粉砕後の好適粒径は、メデイアン径D50で見た場合、CBの場合1μm以上500μm以下、好ましくは、10μm以上250μm以下である。500μmより大きくなると凝集塊が多くなり分散性が悪くなる。また、1μmより細かくする処理は、工業的規模の生産になると容易では無く、処理できたとしても処理に長時間を要し現実的でない。一方、CNTの好適粒径D50は、10μm以上100μm以下であり、好ましくは、10μm以上50μm以下である。50μmよりも大きくなるとCBの場合と同様に凝集塊が多く存在し分散性が悪くなる。また、10μmよりも細かくする処理はCNTの繊維が切断する処理でもあり、導電性が悪くなるので好ましくない。更に、CBとCNTをブレンドした後で粉砕する場合の粒径は、CNTと同じにするのが好ましい。
【0041】
(溶液調製工程)
溶液調製工程においては、溶媒可溶性ポリマーを溶媒に溶解させて、バインダー溶液を調製する。
溶媒可溶性ポリマーは、前述のとおりである。
溶媒としては、水、有機溶剤、およびそれらの混合物であるが、中でも最も好ましいのは水である。
バインダー溶媒中の溶媒可溶性ポリマーの濃度は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
溶媒可溶性ポリマーの濃度が前記下限以上であれば、溶媒可溶性ポリマーをカーボン材料のより効率よく、添着ざせることができる。他方、溶媒可溶性ポリマーの濃度が前記上限を超える場合には、カーボン材料に対して充分に浸透せず、導電性能に弊害となる表面または孔に存在する空気を追い出す効果が低下し、結果として導電性の低下を招いてしまう傾向がある。
溶媒可溶性ポリマーは、可能な限り薄い濃度で添加することにより、カーボン材料の空隙に溶媒可溶性ポリマーがより浸透しやすくなり、カーボン材料全体に均一コーティングが可能となる。また、バインダー溶液に界面活性剤を添加することにより、カーボン材料にバインダー溶液を浸透し易くすることができる。
【0042】
(造粒物調製工程)
造粒物調製工程においては、CBおよびCNTの混合物に、バインダー溶液を少量ずつ添加しながら混合して、カーボン材料造粒物を得る。
ここで用いる混合装置としては、バッチ式と連続式に大別できる。バッチ式の代表としては、ヘンシェル型撹拌混合機やバッチ式レーディゲミキサーなどが挙げられる。また、連続式としては、二軸スクリューの回転により混合する二軸ピン式混合機が挙げられる。
【0043】
ヘンシェル型としては、アーステクニカ社製「ハイスピードミキサー」シリーズ、テクノパウダル社製「SPG」シリーズ、日本コークス工業社製「FMミキサー」、カワタ社製「SMB」または「SM」シリーズ、および、パウレックス社製の「VG」シリーズなどが挙げられる。レーディゲミキサーは、(株)マツボー社が販売しているM20からM8000Dまで、色々の型式の物がある。
二軸ピン式としては、新日南社製「ダウ・ペレタイザー」などが挙げられる。
【0044】
造粒物調製工程において、連続式の混合を行う場合、ピン型混合機を例にとると、次のような工程となる。すなわち、回転体が作動している装置に、100μm以下に粉砕したカーボンナノチューブと500μm以下に粉砕したカーボンブラックの粉体の混合物を投入口から定量装入し、投入口後段にある注入口からバインダー溶液を添加して混合し、排出口から造粒物を取り出し、後述する乾燥工程で乾燥させる。混合性能は、装置内での滞留時間で調整される。滞留時間を長くするほど、球状に近い混合物が得られる。所望の造粒物が得られない場合は、ピン型混合機を直列2段に増やして造粒する場合もある。回転体の回転速度は、500rpm以上3000rpm以下であることが好ましく、1000rpm以上2000rpm以下であることがより好ましい。
【0045】
一方、造粒物調製工程において、バッチ式の混合を行う場合、ヘンシェル型混合機を例にとると、次のような工程となる。すなわち、連続式の場合と同様に粉砕したカーボンナノチューブとカーボンブラックの粉体を混合機に所定量投入した後、回転翼で撹拌し、そこにバインダー溶液を少量ずつ添加し、混合状態を確認しながら溶媒を追加していき、所望の造粒物粒度になったところを見計らい、造粒物を取り出し、後述する乾燥工程で乾燥させる。回転翼の回転速度は、300rpm以上2500rpm以下であることが好ましく、500rpm以上2000rpm以下であることがより好ましい。
【0046】
造粒物調製工程の後に、カーボン材料造粒物を乾燥する工程(乾燥工程)を行う。乾燥には、真空乾燥および熱風乾燥などが用いられる。熱風乾燥器としては、振動/流動乾燥器、流動乾燥器、箱型乾燥器、およびドライヤー式乾燥器などが使用できる。一方、真空(減圧)乾燥器としては、真空棚段式乾燥器、減圧アウターミキサー型乾燥器、および箱型乾燥器などが使用できる。
【0047】
乾燥温度としては、溶媒可溶性ポリマーが劣化しない温度が好ましいことから、溶媒可溶性ポリマーの種類により最適温度または最高温度が存在するが、一般的には、40℃以上200℃以下であることが好ましく、50℃以上150℃以下であることがより好ましく、60℃以上100℃以下であることが特に好ましい。また、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常、1時間以上20時間以下であり、2時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0048】
<導電性樹脂組成物>
次に、本実施形態に係る導電性樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係る導電性樹脂組成物は、前述のカーボン材料造粒物と、樹脂とを含有するものである。
本実施形態に係る造粒物によれば、導電性および機械的物性を向上できるので、本実施形態に係る造粒物を用いて、極めて広い導電性樹脂組成物を作製できる。
【0049】
樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリハロゲン化オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂、ポリウレア樹脂、およびポリエーテルスルフォン樹脂などが挙げられる。
【0050】
<製品>
上述の本実施形態に係るカーボン材料造粒物は、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブを含むカーボン材料が粗大な凝集物を実質的に生ずることなく良好に分散しており、帯電防止および強度に優れたものである。このため、このような特性を生かし、以下に示す製品を提供することができる。すなわち、前述のカーボン材料造粒物を含有する、塗料、インキ、コーティング剤、樹脂成形品材料、導電性材料、熱伝導性材料、および帯電防止材料である製品を提供することができる。また、前述のカーボン材料造粒物を分散液とし、これにより形成された皮膜を備える、電池材料および機械部品である製品を提供することができる。
【0051】
塗料またはインキを調製する方法としては、例えば、塗料組成またはインキ組成となるように、溶剤、樹脂、および各種添加物などに、前述のカーボン材料造粒物を添加する方法、或いは、市販の塗料またはインキに、前述のカーボン材料造粒物を添加する方法などがある。カーボンブラックおよびカーボンナノチューブを含むカーボン材料が分散した樹脂成形品を製造する方法としては、例えば、溶融状態の樹脂材料に、前述のカーボン材料造粒物を混合する方法などがある。使用するカーボン材料造粒物の量については、30質量%以下であることが望ましい。30質量%を超えると、引張強度または衝撃強度などの各種機械特性が低下してしまう可能性がある。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例などの中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0053】
<材料の用意>
以下に示すカーボン材料および溶媒可溶性ポリマーを用意した。
【0054】
(カーボン材料)
[カーボンナノチューブ(CNT)]
CNTとしては、商品名「NC7000」、「BT-1001M」および「CP-1001M」の3点を用いた。これらは、全て多層CNTであり、製造会社名と物性は、表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
[カーボンブラック(CB)]
CBとしては、「ケッチェンブラックEC600JD」、「Li400」、「Li435」、「Vulcan XC72」、「DC-3501」、「♯3030B」、「♯3050B」および「♯3230Bジェットミル粉砕品」の8点を用いた。製造会社名と物性は、表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
(溶媒可溶性ポリマー)
・PVP(ポリビニルピロリドン):分子量10000、商品名「ピッツコールK-30」、第一工業社製、固形分95%以上
・PEO(ポリエチレンオキサイド):分子量10万~20万、商品名「アルコックスR-150」、明成化学社製
・PVA(ポリビニルアルコール):商品名「ゴーセノール GL-05」、三菱ケミカル社製、ケン化度(mol%)86.5~89.0
【0059】
(溶剤)
・水:イオン交換水
【0060】
[試験例1]
(粉砕処理と分散性の検討)
CNT(LGケミカル社製のBT1001M。タブレットマシンによる約5mm径の造粒品)をセイシン企業社製のジェットミルFS-4を用い、アルゴンガス雰囲気下、0.8kg/hスピードで粉砕処理を行った。得られたCNTの平均粒径は、21μmであった。
一方、CB(OCI社のDC-3501、約1mm径の造粒品)は、セイシン企業社製のピンミルDD-2-3.7を用い、アルゴンガス雰囲気下、1kg/hのスピードで粉砕処理を行った。得られたCBの平均粒径は、35μmであった。
粉砕前後のCBとCNTは、各々2%をポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製J229E)に配合し、プラストミルを用い210℃、4分間混練することで樹脂組成物を作成した。
分散性の評価は、樹脂組成物を溶融プレスして薄片を作製し、この薄片を、顕微鏡(拡大倍率は50倍および200倍)の透過光を用いて観察することで評価した。得られた結果を図1に示す。
図1に示す結果から、CBとCNTを共に粉砕することで、分散性は、良くなっていることが分かった。特に、CNTの分散性向上が確認された。
【0061】
[試験例2]
(粉砕時の酸化有無の検討)
CBとして三菱ケミカル社の♯3030Bと#3050Bを、セイシン企業社製のSKジェット・オー・ミルJOM-0101を用い、CBを1kg/hのスピードで投入し、粉砕処理した。圧縮流体としては、空気とアルゴンガスを用い、1m/min流した。処理後の平均粉砕粒径は、15~30μmであった。また、粉砕前後のpH値は、表3に示した通りであり、空気雰囲気では、pHが低下し弱い酸化が起きていることが確認された。一方、アルゴンガス中では、pHの変化は無かった。
【0062】
【表3】
【0063】
[試験例3]
(CBとCNTの混合比率の検討)
CBとCNTの混合比率についての評価を行った。プラストミルを用い、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製のJ229E)に、CB(#3230Bのジェットミル粉砕品)と、CNT(NC-7000)の比率を、100/0、80/20、70/30、60/40、および、0/100として混合した5点を、210℃、100rpmで4分間混練し、樹脂組成物を作製した。なお、樹脂組成物中における、CBおよびCNTの合計の配合量は、2%であり、CNT100%品のみ1%配合とした。
樹脂組成物を溶融プレスして薄片を作製した。そして、この薄片を、顕微鏡(拡大倍率は50倍および200倍)の透過光を用いて観察することで、分散性を評価した。また、樹脂組成物の体積抵抗率を測定した。得られた結果を図2に示す。
図2に示す結果から、カーボン材料中のカーボンナノチューブの比率が大きくなるほど、分散性が低下していくことが確認された。また、カーボンブラックとカーボンナノチューブとを混合することで、体積抵抗率を大幅に低くできること(導電性良好)が確認できた。
【0064】
[試験例4]
(溶媒溶解ポリマーの検討)
本試験例でのCNTは、NC7000を用い、CBは、DC-3501を用いた。試験例4-1は、型式N20LのレーディゲミキサーにCBとCNTを6対4(全数量1.2kg)で投入後、羽根260rpm、チョッパー6000rpmの回転数で撹拌混合しながら水を入れ、15~20分で造粒した後、70℃設定の真空乾燥器で乾燥した物である。試験例4-2~試験例4-5は、レーディゲミキサーにCBとCNTを6対4で投入後、撹拌混合しながらバインダー溶液を入れ造粒、乾燥した物である。溶媒可溶性ポリマーなどの配合割合は、表4に示した通りである。
【0065】
【表4】
【0066】
次に、ラボプラストミルを用い、ポリカーボネート樹脂(帝人社製、パンライトL-1225WP)に、表4に示した造粒品などを1%配合し混合したものを、210℃、150rpmで4分間混練し、樹脂組成物を作製した。そして、樹脂組成物を溶融プレスして薄片を作製した。この薄片を、顕微鏡(拡大倍率は50倍および200倍)の透過光を用いて観察することで、分散性を評価した。得られた結果を図3に示す。
図3に示す結果から、溶媒可溶性ポリマーの種類により、分散性に違いが出ることが分かり、溶媒可溶性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシドなどのグリコール系ポリマーを使用することが好ましいことが分かった。
【0067】
[試験例5]
(飛散性の検討)
まず、下記表5に示すカーボン材料、およびバインダー溶液の材料を準備した。なお、試験例5-2~試験例5-5においては、レーディゲミキサー(レーディゲ社製)を用い、CNT(NC7000)を投入後、撹拌混合しながらバインダー溶液を入れ混合した。乾燥は、70℃設定の真空乾燥器で行った。また、試験例5-6においては、レーディゲミキサー(レーディゲ社製)を用い、CNTを投入後、撹拌混合しながら水を入れ混合し、乾燥させて、CNT単独の造粒物とした。
【0068】
【表5】
【0069】
次に、飛散性の評価は、175℃に加熱した2本ロール(以下2RMと記す)にABS樹脂95gを巻き付かせ、そこに上部からカーボン材料造粒物またはカーボンナノチューブ5gを少量ずつ落としていき、カーボンナノチューブ単独またはカーボンナノチューブと溶媒可溶性ポリマーの造粒物が完全に樹脂に配合された時点で停止した。飛散率は、周辺に飛散したカーボンナノチューブ単独またはカーボンナノチューブと溶媒可溶性ポリマーの混合物をすべて回収し、飛散量/投入量の値から算出した。造粒物の硬さは、JIS K6219-3に準拠して求めた。具体的には、粒径1mmの粒子20個を測定し、それの平均値で示した。得られた結果を表6に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
表6に示す結果から、カーボンナノチューブに溶媒可溶性ポリマーが添着されていることで、飛散性が著しく低減できることが確認された。また、溶媒可溶性ポリマーの種類により、飛散性および造粒物の硬さが異なるということが分かった。溶媒可溶性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシドなどのグリコール系ポリマーを使用することが好ましいことが分かった。
【0072】
[試験例6]
(カーボン材料造粒物の体積固有抵抗の検討)
CBとCNTに、溶媒可溶性ポリマー(ここでは、ポリエチレンオキシド(PEO)を使用)を加えた造粒物を作り、体積固有抵抗(VR)を検討した。
CNTとしては、BT1001Mをジェットミルで、15μmまで粉砕した物を用いた。また、CBは、セイシン企業社製のピンミルDD-2-3.7を用い、アルゴンガス雰囲気下、1kg/hのスピードで投入し、粉砕処理した。処理後の平均粉砕粒径は、40μmであった。CB銘柄としては、♯3030B、DC-3501、VulcanXC-72(以上はファーネス系CB)とアセチレンブラックであるLi400とLi435の5点である(基本的物性は、表2を参照)。配合は、CBとCNTを7対3とし溶媒可溶性ポリマーは、CBとCNTの合計量に対し、3%(混合造粒品が飛散しない程度の量)とした。
造粒は、レーディゲミキサーを用い、CBを投入撹拌しているところにCNTを投入し、混合しながら水に溶解したPEOを少量ずつ添加していき造粒した。乾燥は、70℃設定の真空乾燥器で行った。
次に、ラボプラストミルを用い、ポリカーボネート(以下PCと記すことがある)樹脂(帝人社製、パンライトL-1225WP)に、カーボン材料の配合量を、1.0%、1.5%、1.7%、および、2%として混合した4点を、280℃、100rpmで4分間混練し、樹脂組成物を作製した。そして、樹脂組成物の体積抵抗率を測定した。得られた結果を表7および図4に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
非特許文献1の図3によると、前述の通り、所望の抵抗を得るに必要な配合量は、ケッチェンブラックEC600JDが圧倒的に少なく、導電性に優れるとの結果であり、Li435などのアセチレンブラックが、最も悪い部類に位置していた。
これに対し、図4の結果によると、CBとCNTに溶媒可溶性ポリマーを添着したカーボン造粒物の形態においては、Li435とLi400のアセチレンブラックが最も優れており、単独配合のケッチェンブラックEC600JDは、Li435より相当悪い結果となっている。
CB単独の場合に比し、CBとCNT混合造粒品の導電位置が異なる理由は、前述した「導電性に影響を及ぼす品位」では、的確な説明ができないことが分かった。
【0075】
[試験例7]
(CBを1500℃で加熱した際の水素量と体積抵抗値との関係)
CB中の水素量の測定は、Surface studies of carbon: Acidic oxides on spheron 6(Carbon Volume 11, Issue 6, December 1973, Pages 649-654)を参考にして行った。具体的には、乾燥させたCB約0.5gを精量した後、耐熱性試験管(アルミナ管)に入れ、中真空(10Pa~10-2Pa)まで減圧後、減圧系を閉じ、電気炉により1500℃で30分間保持加熱し、CBに存在する酸素化合物または水素化合物を分解させ、揮発させる。揮発成分は定量吸引ポンプを通じて、一定容量のガス捕集管に採取する。圧力と温度からガス量を求めると共に、脱離したCB表面の水素ガスをガスクロマトグラフィーにて定量した。この実験では、CB1g当たりの水素量に換算した値を使用した。得られた結果を表7に併記した。また、カーボンブラックの1500℃水素量と、表7に示した1.5%配合時の体積抵抗率との関係を図5に示す。
【0076】
図5に示す結果から、カーボンブラックの1500℃水素量が少ないほど、体積抵抗率を低くできることが確認された。この結果から、以下のことが言える。すなわち、導電性CB単独で樹脂に配合した場合は、ケッチェンブラックの導電性が優れ、次いでファーネスブラック、アセチレンブラックとなる。しかしながら、導電性カーボンブラックとカーボンナノチューブを混合し造粒時にポリマーを添着した混合造粒品の場合には、ファーネスブラックとアセチレンブラックの方が、ケッチェンブラックを単独で使用した樹脂よりも、導電性が優れていることを見出した。
以上のことをより明確にするために、カーボンブラック単独で樹脂に配合した場合の代表例として、非特許文献1の図3において100Ω・cmを得るに必要なCB配合量を算出し、各CBの1500℃水素量との関係を示したのが、図6である。この図6からは、非特許文献1の図3に記載のCBは、水素量が多くなる程導電に優れる傾向に有ると言う結果となっている。
これに対し、CNTとCBを混合し、溶媒可溶性ポリマーを添着した本発明の系では、CB単独で樹脂に配合した際の体積抵抗率と同様の傾向がみられないこと、また、水素量との関係も真逆に近い結果が出ていること、すなわち、CB単独での導電性からCNTとCBを混合した場合の導電性は想定できないことを、本発明者らは見出した。
また、CNTとCBの混合系にポリマーを添着した造粒物においては、前述した一般に言われている導電性カーボンブラックとして好ましい特性(粒子径が小さい、ストラクチャーが長いなど)よりも、1500℃で加熱して求めたCB表面の水素量が大きく関与することが分かった。1500℃水素量が僅かに異なることで、樹脂に配合した場合の体積抵抗率は約6桁異なる場合もあるということも分かった。逆の言い方をすると、CNTとCBの混合系にポリマーを添着した造粒物における導電性には、比表面積やストラクチャー、繊維径や長さなどの特性よりも水素量の大小が大きく関わっていることが分かった。
【0077】
[実施例1~4および比較例1~5]
(カーボン材料造粒物の製造)
実施例1~4および比較例1~5では、まず、下記表8および下記表9に示すカーボン材料、およびバインダー溶液の材料を準備した。バインダー溶液の製造は、具体的には、水3480gに溶媒可溶性ポリマー120gを投入し、高速ホモミキサー(中央理科社製、LZB14-HM-1)を用い、3000rpmで5分間混合し、バインダー溶液を得た。
実施例1~4では、次に、下記表8および下記表9に示す組成にて、カーボン材料造粒物の製造を行った。具体的には、レーディゲミキサー(レーディゲ社製、型式M20、容積20L)に、セイシン企業社製のピンミル(DD-2-3.7)で粉砕(粉砕後粒径40μm)したカーボンブラックを840gおよびセイシン企業製のジェットミル(FS-4)で微粉砕(粉砕後粒径15μm)したカーボンナノチューブを360g投入し、250rpmで撹拌しながら、上部投入孔から3600gのポリマー水溶液を噴霧し15分間混合した後、水溶液の噴霧を止め15分間撹拌させ整粒を行い、湿潤状態のカーボン材料造粒物を得た。その後、熱風乾燥機にて乾燥を行い、カーボン材料造粒物を得た。
【0078】
比較例1~5では、下記表8および下記表9に示す組成にて、上記実施例1~4と同様にして、カーボン材料造粒物の製造を行った。
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
(カーボン材料造粒物を用いた導電性樹脂組成物の製造および評価)
表8および表9に示す組成のカーボン材料造粒物を用いて、導電性樹脂組成物の製造を行った。具体的には、ポリカーボネート樹脂(帝人社製、パンライトL-1225WP)樹脂と、カーボン材料造粒物をミキサー(カワタ社製、スーパーミキサー)に投入し、25℃で3分間混合することにより、樹脂とカーボン材料とを含む樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、280℃に設定した二軸押出機(日本製鋼所社製、TEXシリーズ)に投入し、溶融混練後ペレタイザー(いすず化工機社製、SCF-100)を用いて、ペレット状の導電性樹脂組成物を得た。なお、実施例1~4、および比較例1、3~5においては、ポリカーボネート樹脂95%に対し、カーボン材料造粒物またはカーボン材料を5%配合した。また、比較例2においては、ポリカーボネート樹脂97%に対し、カーボンナノチュープを3%配合した。
また、機械的物性を評価するために、射出成型機(日本製鋼所社製、J100E-D)を使用し、シリンダー温度320℃、金型温度120℃の条件にて射出を行い、評価サンプルを得た。
そして、導電性樹脂組成物について、表面抵抗率、体積抵抗率、流動性(以下MFRと記すことがある)、引張強度、引張伸び、曲げ強度、曲げ弾性率、および衝撃強度の評価を行った。得られた結果を表10および表11に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
【表11】
【0084】
上記の評価結果により、ケッチェンブラック単独で樹脂組成物としたものに対し、アセチレンブラックとCNTの混合物は、MFRと衝撃強度、および引張伸びが向上していることが分かった。また、ファーネスブラックとCNTの混合物は、衝撃強度と引張伸びが向上していた。ケッチェンブラック単独とCNT単独の樹脂組成物の物性を比較すると、衝撃強度においてCNTが約2倍の値を示し、繊維状炭素であるCNTの特徴が発現した結果となっている。一方、アセチレンブラックまたはファーネスブラックに30%のCNTを混合した本願のサンプルの衝撃強度は、大略CNT並みであること、また、引張伸びは、CNTを凌駕していることが分かった。すなわち、特定のCBにCNTを30%並びにポリマーを約10%混合した造粒体にすることで、ケッチェンブラック単独で樹脂組成物としたものの欠点であった、衝撃強度や引張伸びは、大幅に向上し、CNTに勝るレベルになることが分かった。
【0085】
さらに、実施例3と4から溶媒可溶性ポリマーを添着することでVRとMFRが向上していることが分かる。特にVRに関して、上記の評価結果では、樹脂95%にカーボン材料造粒物5%を配合した際の結果である。ということは、カーボン材料造粒物のポリマーを除いたカーボン材料配合量は、4.5%ということであり、溶媒可溶性ポリマー無添加よりも、カーボン量は0.5%少ない。それにも拘わらず同等以上のVRを示していることから、溶媒可溶性ポリマーの添着は、CBとCNTの混合物の導電性向上に大きく寄与することが分かる。VRとMFRが向上した理由としては、CB構造体をCNT繊維がネットを被せたみたいに覆っており(図7参照)、CBとCNT構造体には、多くの空隙が有ることも分かる。CBおよびCNT、特にCNTの表面は、結晶化度が進んでいる。純水を用いたCNTの接触角は、98°であり、一般の黒鉛材料の50°~65°より高く疎水性材料であるといえる。このため、一般に基体樹脂とは、なじみが悪い。一方、溶媒に溶解した溶媒可溶性ポリマーは、先ずCB表面に添着すると共にCBとほぼ一体化しているCNT表面にも添着していると考えられる。更に、ポリマーは、界面だけでは無く、CBおよびCNTの骨格が織りなす多くの空隙(ポアー)に侵入し、そこに存在していた空気を追い出す働きをしていると考えている。CBおよびCNTの分散系から絶縁体である空気が減少すると、導電性は向上することは言うまでもない。また、MFRが向上した理由としては、ポリマーを添着したことによる基体樹脂との親和性の向上も考えられるが、主因は、同じVRを少ない配合量で達成できたからである。すなわち、カーボン配合量が1割少ない組成物であるためと、本発明者らは考えている。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のカーボン材料造粒物は、高導電性および高熱伝導性などの特性を示す塗料、インキ、および樹脂成形品などの構成材料として有用であるとともに、電池材料、電子部品トレイ、ICチップ用カバー、電磁波シールド、自動車用部材、およびロボット用部品などの様々な用途に好適である。
【要約】
【課題】飛散性を低減でき、かつ、導電性および機械的物性を向上できるカーボン材料造粒物を提供すること。
【解決手段】粒径D50が500μm以下であるカーボンブラックと、粒径D50が100μm以下であるカーボンナノチューブと、前記カーボンブラックおよび前記カーボンナノチューブに添着した溶媒可溶性ポリマーと、を含有する、カーボン材料造粒物。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7