(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】膠原病判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2017153891
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】相良 明宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宣彦
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-511389(JP,A)
【文献】特開2016-148644(JP,A)
【文献】特表2007-537449(JP,A)
【文献】特開2012-127879(JP,A)
【文献】特開2008-100986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血液から得られた試料中からCD45
+C1q
+CCR8
+細胞を検出することを特徴とす る全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus; SLE)判定するための方法。
【請求項2】
前記被験者の血液から得られた試料中のCD45
+C1q
+CCR8
+細胞数の割合が、健常者の血液から得られた試料中のCD45
+C1q
+CCR8
+細胞数の割合と比較して、高い場合には、SLEである
ことを示すことを特徴とする請求項1に記載の判定するための方法。
【請求項3】
以下の抗体を含む全身性エリテマトーデス判定キット。
(1)抗CD45抗体
(2)抗C1q抗体
(3)抗CCR8抗体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膠原病判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(膠原病)
膠原病は、多彩な炎症性病変を特徴とする自己免疫性疾患である。代表的な疾患としてSLEやRAが挙げられる。SLEは厚生労働省が指定する難病の1つであり、わが国での総患者数は約10万人である。免疫複合体の組織沈着による多彩な炎症性病変を特徴とする自己免疫疾患である。しかしながら病因は十分に解明されておらず、治療抵抗性や種々の合併症が問題となる。わが国におけるRAの患者数は、一般的に約70~80万人といわれているが、年間発症数や罹患している患者数等に関する情報は、十分には把握されていない。
【0003】
(膠原病の検査方法)
膠原病は、厚生労働省が定めた診断基準に従い、診断される。具体的には、血液検査、尿検査、レントゲン等の画像検査、心電図等の生理学的機能検査、関節液の検査、病理組織学的検査、眼底検査等により総合的に診断される。しかし、症状が多様であり、再燃を繰り返すなど、早期発見と再燃の予防は喫緊の課題である。
【0004】
本発明者らは、これまでに、心腎連関モデルマウスおよび多重染色を用いたフローサイトメトリーを用いて、単核球の一分画としてのPrecursors of fibroblastic cell (preFC:CD45+C1q+CCR8+cell)を同定した。preFCは、心・腎線維化の増悪とともに、心、腎および血中にて増加した。さらに健常人の末梢血にても同定が可能であり、腎機能の増悪に伴ってpreFCが増加することも示した(特許文献1)。しかし、preFCによる膠原病の判定方法は、開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、新規な膠原病判定方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、腎機能が正常な被験者から得られた試料中からpreFC比が膠原病のマーカーになることを確認して、本発明の膠原病判定方法を完成した。
【0008】
本発明は、以下を含む。
1.被験者から得られた試料中から以下のいずれか1以上の細胞を検出することを特徴とする膠原病判定方法。
(1)CD45+C1q+CCR8+細胞
(2)CD45+C1q+細胞
(3)C1q+CCR8+細胞
(4)CD45+CCR8+細胞
2.以下の細胞を検出することを特徴とする前項1に記載の膠原病判定方法。
(1)CD45+C1q+CCR8+Sca1+細胞
(2)CD45+C1q+Sca1+細胞
(3)C1q+CCR8+Sca1+細胞
(4)CD45+CCR8+Sca1+細胞
(5)CD45+Sca1+細胞
3.前記被験者から得られた試料中の細胞数または該試料中のCD45+細胞に対する前記(1)~(5)の細胞の割合が、健常者から得られた試料中の細胞数または該試料中のCD45+細胞に対する前記(1)~(5)の細胞の割合と比較して、高い場合には、膠原病であると判定することを特徴とする前項1または2に記載の膠原病判定方法。
4.前記膠原病は、全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus;SLE)、関節リウマチ(Rheumatoidarthritis; RA)、全身性強皮症、皮膚筋炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎、強直性脊椎炎、成人スチル病または天疱瘡である前項1~3のいずれか1に記載の膠原病判定方法。
5.前記膠原病は、SLEである前項1~4のいずれか1に記載の膠原病判定方法。
6.前記膠原病は、RAである前項1~4のいずれか1に記載の膠原病判定方法。
7.以下のいずれか1以上の抗体を含む膠原病判定キット。
(1)抗CD45抗体
(2)抗C1q抗体
(3)抗CCR8抗体
(4)抗Sca1抗体
【発明の効果】
【0009】
本発明の膠原病判定方法は、膠原病を判定する高感度、迅速、および簡便な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SLE症例における陽性細胞の分類結果。SSC-Aは側方散乱光であり細胞の大きさを反映し、FSC-Aは前方散乱光であり細胞の形態および細胞内部構造に関する情報を反映する。CD45、C1qa、CCR8は、それらの検出強度を示す。上下段共に、左図の囲み線は血液試料中の単核細胞を含む細胞の選択を示し、中央図の囲み線は前記細胞中のCD45陽性(CD45
+)単核細胞の選択を示し、右図はCD45
+単核細胞中のC1qaおよびCCR8の検出強度を示す。右図において、四分割された領域のうち、右上の領域はpreFCの存在を示す。
【
図3】SLE症例およびRA症例と健常者とにおけるpreFC/CD45
+単核細胞の割合(preFC比)の比較。
【
図4】SLE症例およびRA症例以外の膠原病症例における陽性細胞の分類結果。縦軸はC1qaの検出強度、横軸はCCR8の検出強度を示す。各図中、四分割された領域のうち、右上の領域はpreFCの存在を示す。
【
図5】SLE症例におけるpreFC比と既存マーカーとの比較。
【
図6】RA症例におけるpreFC比と既存マーカーとの比較。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の膠原病判定方法)
本発明の膠原病判定方法(膠原病判定の補助方法、膠原病診断方法、膠原病診断方法の補助方法、膠原病の存在の検出方法も含む)は、被験者から得られた試料中から以下のいずれか1以上の細胞(各陽性細胞)を検出することを特徴とする。
(1)CD45+C1q+CCR8+細胞(細胞表面にCD45抗原、C1q抗原およびCCR8抗原が発現している細胞)
(2)CD45+C1q+細胞(細胞表面にCD45抗原およびC1q抗原が発現している細胞)
(3)C1q+CCR8+細胞(細胞表面にC1q抗原およびCCR8抗原が発現している細胞)
(4)CD45+CCR8+細胞(細胞表面にCD45抗原およびCCR8抗原が発現している細胞)
(5)CD45+C1q+CCR8+Sca1+細胞(細胞表面にCD45抗原、C1q抗原、CCR8抗原およびSca1抗原が発現している細胞)
(6)CD45+C1q+Sca1+細胞(細胞表面にCD45抗原、C1q抗原およびSca1抗原が発現している細胞)
(7)C1q+CCR8+Sca1+細胞(細胞表面にC1q抗原、CCR8抗原およびSca1抗原が発現している細胞)
(8)CD45+CCR8+Sca1+細胞(細胞表面にCD45抗原、CCR8抗原およびSca1抗原が発現している細胞)
(9)CD45+Sca1+細胞(細胞表面にCD45抗原およびSca1抗原が発現している細胞)
なお、CD45は、分子量約115kDの糖タンパク質である。Sca1は、グルコシルホスファチジールイノシトールに結合するLy(lymphocyteactivation protein)-6に属する細胞表面タンパク質である。C1qは、補体の一種である。C1qには、C1qa、C1qb、C1qcのサブクラスが存在するが、いずれのサブクラスでもよい。CCR8は、ケモカイン(C-C)レセプター8タンパク質を意味する。
上記した各種細胞の表面に発現している抗原は、各抗原に対する抗体(ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体のいずれでもよい)により、容易に検出することができる。なお、すべての抗原に対する抗体は、市販品の抗体が存在するので、当業者なら容易に入手可能である。
【0012】
(被験者)
本発明の被験者は、哺乳類であれば特に限定されないが、例えば、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ラット、ウサギ、フェレット、スンクス、ヒツジ、ロバ、ブタ等を例示することができ、特に腎機能が正常なヒト、マウス、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ラット、ウサギ、フェレット、スンクス、ヒツジ、ロバ、ブタ等である。
【0013】
(腎機能)
本発明において「腎機能が正常」(正常腎機能)とは、eGFR値(推算糸球体濾過量)が60ml/min/1.73m3以上をいう。
【0014】
(試料)
本発明の試料は、被験者から採取され、かつ、CD45+細胞、C1q+細胞およびCCR8+細胞のいずれか1以上、2以上または3つが存在していれば特に限定されないが、血液、リンパ液、髄液、骨髄液、唾液、尿、関節液、胸水、腹水、涙液、眼房水、硝子体液、鼻腔液、母乳、精液、前立腺液、膣液、膵液、胆汁、汗、膿、気管支洗浄液、生検サンプル(胃粘膜、大腸粘膜、気管支粘膜、皮膚、筋肉、腫瘍、リンパ節、子宮粘膜)、解剖検体(病理組織、法医学的組織)等を例示することができ、好ましくは、血液、リンパ液、髄液、唾液、気管支洗浄液、骨髄液、および生検サンプルである。
【0015】
(各陽性細胞の検出方法)
本発明の膠原病判定方法は、試料中の各陽性細胞を検出することができれば、特に限定されないが、好ましくはフローサイトメトリーで行うことができる。フローサイトメトリーを用いて各陽性細胞の蛍光発光を検出・測定する場合、各抗原を特異的に認識可能な各種抗体は、蛍光標識物質で標識した標識抗体として使用することが好ましい。本発明で用いる蛍光標識物質の種類は、フローサイトメトリーで検出できるものであれば特に限定されず、例えば、フィコエリスリン、FITC等を例示することができる。
【0016】
(指標)
本発明の「指標(Cut off(カットオフ)値)」とは、膠原病の患者と健常者を区別するための試料中の各陽性細胞数またはCD45+単核細胞中の各陽性細胞の割合(%)を意味する。例えば、被験者の試料中の各陽性細胞が、予め設定した試料中の各陽性細胞数以上の場合には、膠原病が発症している、進行している、重篤である、および/または今後の発症の可能性が高いと判定することができる。また、被験者の試料中のCD45+単核細胞中の各陽性細胞の割合(%)が、予め設定した試料中のCD45+単核細胞中の各陽性細胞の割合(%)以上の場合には、膠原病が発症している、進行している、重篤である、および/または今後の発症の可能性が高いと判定することができる。
Cut off値の設定方法としては、膠原病ではない被験者の試料中の各陽性細胞数の平均値から算出する。通常、予め決定した膠原病ではない被験者(健常者)の試料中の各陽性細胞数の平均値(または、CD45+単核細胞中の各陽性細胞の割合の平均値)の標準偏差の90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、最も好ましくは50%以下の範囲の細胞数を指標とする。
また、別の指標の設定方法として、被験者の試料中の各陽性細胞数が、膠原病ではない被験者の試料中の各陽性細胞数の平均値に対して、105%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、180%以上、200%以上、250%以上、300%以上、400%以上、 500%以上、600%以上、700%以上、800%以上、900%以上または1000%以上の場合には、膠原病が発症している、進行している、重篤である、および/または今後の発症の可能性が高いと判定することができる。
また、別の指標の設定方法として、被験者の試料中のCD45+単核陽性細胞中の各陽性細胞の割合が、0.1%以上、0.2%以上、0.21%-0.59%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1.0%以上、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上、1.6%以上、1.7%以上、1.8%以上、1.9%以上、2.0%以上、2.1%以上、2.2%以上、2.3%以上、2.4%以上、2.5%以上、2.6%以上、2.7%以上、2.8%以上、2.9%以上、3.0%以上、3.1%以上、3.2%以上、3.3%以上、3.4%以上、3.5%以上、3.6%以上、3.7%以上、3.9%以上、4.0%以上、4.5%以上、5.0%以上、5.5%以上、6.0%以上、6.5%以上、7.0%以上、7.5%以上、または、8.0%以上の場合には、膠原病が発症している、進行している、重篤である、および/または今後の発症の可能性が高いと判定することができる。なお。これらの数値の上限値は、特に限定されないが、1.0%、5.0%、10.0%、20.0%、30.0%、40.0%、50.0%、60.0%、70.0%、80.0%、90.0%または95.0%である。
さらに、別のcut off値の設定方法としては、予め膠原病であることを確認している患者および膠原病ではない被験者において、試料中の各陽性細胞数を測定して得られた値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度および特異度を求める。例えば、一次スクリーニング等の目的では感度が高い方を優先し、精査目的では特異度が高くなるようなcut off値を設定することが可能である。
【0017】
(膠原病の種類)
本発明の膠原病判定方法で判定可能な膠原病は、特に限定されないが、例えば、SLE、RA、全身性強皮症、皮膚筋炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎、強直性脊椎炎、成人スチル病および天疱瘡等である。
【0018】
(試料中の各陽性細胞の検出方法)
本発明の膠原病判定方法における試料中の各陽性細胞の検出方法の工程を下記に例示するが特に限定されない。
(1)被験者から血液(全血)を取得する。
(2)取得した血液を緩衝液で希釈する。
(3)希釈した血液を、市販の蛍光したCD45抗体(APC-Cy7)、C1q抗体(APC)およびCCR8抗体(PE){必要に応じてさらにSca1抗体(V450)}を用いてフローサイトメトリーにより各陽性細胞の蛍光発光を検出・測定する。APC-Cy7、APC、PE、V450などの蛍光色素は、解析方法としてその他のものと置き換えることができる。
(4)測定した各陽性細胞数またはCD45+単核細胞中の各陽性細胞の割合(%)を、cut off値と比較して、膠原病を判定する。
【0019】
(膠原病判定キット)
本発明の膠原病判定キットは、CD45+C1q+CCR8+細胞、CD45+C1q+細胞、C1q+CCR8+細胞、CD45+CCR8+細胞、CD45+C1q+CCR8+Sca1+細胞、CD45+C1q+Sca1+細胞、C1q+CCR8+Sca1+細胞、CD45+CCR8+Sca1+細胞、および/またはCD45+Sca1+細胞を被験者から得られた試料中から検出するために必要な構成を含む。
例えば、本発明の膠原病判定キットは、下記のようないずれか1以上の抗体を含む。
(1)抗CD45抗体
(2)抗C1qa抗体
(3)抗CCR8抗体
(4)抗Sca1抗体
なお、上記すべての抗体は、自体公知の市販品でもよりが、各抗原を標的として作製したモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体でもよい。
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、すべての実施例は、金沢大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会で承認済である。
【実施例1】
【0021】
(膠原病マーカーの確認)
各種膠原病症例においてpreFCが検出可能かを、フローサイトメトリー法(使用装置: FACSAriaTM Fusion、BectonDickinson社製)にて評価した。
使用した抗体は、抗CD45抗体(Affymetrix社製)、抗C1q(C1qa)抗体(Abcam社製)、抗CCR8抗体(BioLegend社製)である。
膠原病症例として、SLE症例、RA症例、全身性強皮症、皮膚筋炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎、強直性脊椎炎、成人スチル病および天疱瘡の男女を含む患者で評価した。また、対照として男女を含む健常者でも評価した。
【0022】
(SLE症例における膠原病マーカー評価)
腎機能が正常なSLE症例(n = 5)および対照健常者(n = 9)より得た血液試料を用いて、フローサイトメトリー法にて検討を行った。
preFCは、健常者と比較して、SLE症例で増加した(参照:
図1)。preFC比は、健常者では平均値 0.33% (上限値 0.59%、下限値 0.21%)であったのに対し、SLE症例では平均値 5.8% (上限値 9.7%、下限値 1.8%)であり、十分な有意差があり、preFC比が、膠原病、特にSLE症例のマーカーとなることを確認した(参照:
図3)。
【0023】
(RA症例における膠原病マーカー評価)
腎機能が正常なRA症例(n = 21)および対照健常者(n = 9)より得た血液試料を用いて、フローサイトメトリー法にて検討を行った。
preFCは、健常者と比較して、RA症例で増加した(参照:
図2)。preFC比は、健常者では平均値 0.33% (上限値 0.59%、下限値 0.21%)であったのに対し、RA症例では平均値 2.9% (上限値 7.0%、下限値 0.28%)であり、十分な有意差があり、preFC比が、膠原病、特にRA症例のマーカーとなることを確認した(参照:
図3)。
【0024】
(SLE症例およびRA症例以外での膠原病マーカー評価)
腎機能が正常な以下の膠原病症例および対照健常者より得た血液試料を用いて、フローサイトメトリー法にて検討を行った。
膠原病症例:全身性強皮症、皮膚筋炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎、強直性脊椎炎、成人スチル病および天疱瘡。
preFCは、健常者と比較して、上記全ての症例で増加した。preFC比は、健常者では平均値 0.33% (上限値 0.59%、下限値 0.21%)であったのに対し、上記全ての膠原病症例で上昇した。より詳しくは、全身性強皮症 2.9%、皮膚筋炎 1.9%、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 3.1%、多発血管炎性肉芽腫症 2.3%、高安動脈炎 4.3%、強直性脊椎炎 1.4%、成人スチル病 3.1%および天疱瘡 3.8%であった(参照:
図4)。よって、preFC比が、上記の膠原病症例のマーカーとなることを確認した。
【実施例2】
【0025】
(本発明の判定方法と既存のマーカーとの比較)
膠原病症例において、preFC比および既存のマーカーの測定結果を比較した。膠原病症例として、SLE症例およびRA症例の男性および女性の患者で評価した。
使用した既存のマーカーは、以下の通りである。
CRP:高炎症状態で高値を示す一般的な炎症マーカーである。基準値(0.3 mg/dL)未満は正常である。
ESR 1hr:高炎症状態で高値を示す一般的な炎症マーカーである。基準値(男性 10 mm、女性 15 mm)以下は正常である。
CH50:血清中のC1~C9までの全ての補体成分の総合的な活性を表す指標(補体価)である。疾患活動性の高い症例で低値を示し、SLEの活動性マーカーになる。SLEでは基準値(32 U/mL-47 U/mL)以下となる。
抗ds-DNA抗体:疾患活動性の高い症例で高値を示すSLEの活動性マーカーである。基準値(12 IU/mL)未満は正常である。
MMP3(マトリックスメタロプロテアーゼ):疾患活動性の高い症例で高値を示すRAの活動性マーカーである。RAでは基準値(男性 36.9 ng/mL-121 ng/mL、女性 17.3 ng/mL-59.7ng/mL)以上となる。
preFC比:実施例1で得た結果より、SLE、RAともに基準値(0.21%-0.59%)以上となる。
【0026】
(SLE症例における比較)
腎機能が正常なSLE症例の男女より得た血液試料を用いた。CRPではSLE検出率が0%(0/4)であり、ESR 1hrではSLE検出率が25%(1/4)であり、CH50ではSLE検出率が0%(0/4)であり、抗ds-DNA抗体ではSLE検出率が25%(1/4)であった(参照:
図5)。
一方、preFC比は全症例で基準値(0.21%-0.59%)を上回り、SLE陽性を示した。
すなわち、既存のマーカーでは、4症例中0または1症例で陽性と判定されたが、preFC比では、4症例中4症例で陽性と判定できた(参照:
図5)。
よって、preFC比は、既存のマーカーと比較してより高感度に膠原病、特にSLE症例を判定できることを確認した。
【0027】
(RA症例における比較)
腎機能が正常なRA症例の男女より得た血液試料を用いた。CRPではRA検出率が40%(6/15)であり、ESR 1hrではRA検出率が47%(7/15)であり、MMP3ではRA検出率が40%(6/15)であった(参照:
図6)。
一方、preFC比は15症例中10症例で基準値(0.21%-0.59%)を上回り、陽性を示した。
すなわち、既存のマーカーでは、15症例中6または7症例で陽性と判定されたが、preFC比では、15症例中10症例で陽性と判定できた。
よって、preFC比は、既存のマーカーと比較してより高感度に膠原病、特にRA症例を判定できることを確認した。
【0028】
(総論)
以上の実施例の結果により、以下の各陽性細胞を被験者の試料中から検出することにより、膠原病を判定することができる。また、本発明の膠原病判定方法は、既存のマーカーと比較してより高感度に膠原病を判定できる。
(1)CD45+C1q+CCR8+細胞
(2)CD45+C1q+細胞
(3)C1q+CCR8+細胞
(4)CD45+CCR8+細胞
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明では、新規な膠原病判定方法を提供できる。また、正常腎機能の膠原病症例において、膠原病患者と健常者との有意差を確認できたことから、膠原病の病勢や治療反応性を示す新たな血液補助診断となりうる。さらに治療薬の開発といった臨床応用に繋がる可能性があり、医学的なメリットは大きい。