(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】微小管含有集合体形成方法および微小管含有集合体形成キット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220822BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20220822BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/68
(21)【出願番号】P 2018107494
(22)【出願日】2018-06-05
【審査請求日】2021-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/次世代人工知能・ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)生体分子ロボット/分子人工筋肉の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】▲葛▼谷 明紀
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-204241(JP,A)
【文献】特開2007-111004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)前記第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とを液中で接触させて、前記微小管を含む第1集合体を形成する、微小管含有集合体形成方法。
【請求項2】
前記微小管を含む第1集合体に(c)モータータンパク質を接触させて、前記微小管を含む第2集合体を形成し、
前記第2集合体は、第1集合体の集合形態とは異なる集合形態を有する
請求項1に記載の微小管含有集合体形成方法。
【請求項3】
(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)前記第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体と、(c)モータータンパク質とを液体中で接触させて、前記微小管を含む集合体を形成する、微小管含有集合体形成方法。
【請求項4】
(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、
(b)前記第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体と
を備える、微小管含有集合体形成キット。
【請求項5】
(c)モータータンパク質をさらに備える
請求項
4に記載の微小管含有集合体形成キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小管を含有する集合体を形成する方法に関する。また、本発明は、そのような集合体を形成するためのキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAの一本鎖を結合した微小管を、キネシンが塗布された基板上で移動させる分子モータシステムが種々提案されている(例えば、特開2006-204241号公報、特開2006-271323号公報、特開2006-288336号公報、特開2008-206480号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-204241号公報
【文献】特開2006-271323号公報
【文献】特開2006-288336号公報
【文献】特開2008-206480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近、上述のような分子モータシステムを人工筋肉等に応用することが試みられている。そして、この試みを具現化させるためには、多数の微小管を固定する技術が必要となる。
【0005】
本発明の課題は、多数の微小管を固定する方法を提供することにある。また、本発明は、そのような方法を実現するためのキットを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る微小管含有集合体形成方法では、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とが液中で接触させられて、微小管を含む第1集合体が形成される。なお、ここで、デオキシリボ核酸集合体は例えばDNAオリガミ等であって、二次元的な構造を有していてもよいし、三次元的な構造を有していてもよい。
【0007】
本願発明者らの鋭意検討の結果、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とを液中で接触させると、微小管を含む第1集合体が形成されることが明らかとなった。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成方法は、本発明の課題を解決することができる。
【0008】
本発明の第2局面に係る微小管含有集合体形成方法は第1局面に係る微小管含有集合体形成方法であって、この微小管含有集合体形成方法では、微小管を含む第1集合体に(c)モータータンパク質が接触させられて、微小管を含む第2集合体が形成される。なお、ここで、第2集合体は、第1集合体の集合形態とは異なる集合形態を有する。また、ここで、「モータータンパク質」とは、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解によって生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質のことであって、例えば、アクチン上を動くミオシンや、微小管上を動くキネシンやダイニンが挙げられる。
【0009】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の「微小管を含む第1集合体」に(c)モータータンパク質を接触させると、微小管を含む第2集合体が形成されることが明らかとなった。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成方法は、本発明の課題を解決することができる。なお、第2集合体は、上述の第1集合体の集合体であって、第1集合体よりも大きなものとなることも明らかとなっている。
【0010】
本発明の第3局面に係る微小管含有集合体形成方法では、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体と、(c)モータータンパク質とが液体中で接触させられて、微小管を含む集合体が形成される。
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体と、(c)モータータンパク質とを液中で接触させると、微小管を含む集合体(上述の第2集合体に相当するもの)が形成されることが明らかとなった。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成方法は、本発明の課題を解決することができる。
【0012】
本発明の第4局面に係る微小管含有集合体形成方法では、(a)微小管と、(b)デオキシリボ核酸集合体とを含む液中に(c)モータータンパク質が添加されて、微小管を含む集合体が形成される。
【0013】
本願発明者らの鋭意検討の結果、(a)未修飾の微小管と、(b)デオキシリボ核酸集合体とを含む液中に(c)モータータンパク質を添加すると、微小管を含む集合体が形成されることが明らかとなった。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成方法は、本発明の課題を解決することができる。
【0014】
本発明の第5局面に係る微小管含有集合体形成キットは、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とを備える。なお、ここで、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管および(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体は、それぞれ容器詰めされてもよい。
【0015】
上述の通り、本発明に係る微小管含有集合体形成キットの構成要素であるa)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とを液中で接触させると、微小管を含む第1集合体が形成される。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成キットは、本発明の課題を解決することができる。
【0016】
本発明の第6局面に係る微小管含有集合体形成キットは、第5局面に係る微小管含有集合体形成キットであって、(c)モータータンパク質をさらに備える。なお、ここで、(c)モータータンパク質も単独で容器詰めされていてもよい。
【0017】
上述の通り、「微小管を含む第1集合体」に(c)モータータンパク質を接触させると、微小管を含む第2集合体が形成される。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成キットは、本発明の課題を解決することができる。
【0018】
本発明の第7局面に係る微小管含有集合体形成キットは、(a)微小管、(b)デオキシリボ核酸集合体および(c)モータータンパク質を備える。
【0019】
上述の通り、本発明に係る微小管含有集合体形成キットの構成要素である(a)未修飾の微小管と、(b)デオキシリボ核酸集合体とを含む液中に(c)モータータンパク質を添加すると、微小管を含む集合体が形成される。このため、本発明に係る微小管含有集合体形成キットは、本発明の課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1に係るDNA修飾微小管の吸光度チャートである。なお、サンプルの解重合後のDNAの最大吸収波長は260.0nmであり、微小管の最大吸収波長は280nmである。
【
図2】実施例1に係るDNAオリガミチューブの模式図である。
【
図3】実施例1に係るDNAオリガミチューブの原子間力顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1に係るDNAオリガミチューブの高さ測定結果を示すチャート図である。
【
図5】実施例1に係るDNAオリガミチューブの長さ測定結果を示すチャート図である。
【
図6】実施例1においてDNA修飾微小管にDNAオリガミチューブを添加した際の様子を観察した写真図である。
【
図7】実施例1において異なる長さを有するDNA修飾微小管を用いた際の集合体の様子を示す写真図である。
【
図8】実施例1においてDNA修飾微小管とDNAオリガミチューブとで構成される集合体に、キネシンを添加した際の様子を示す写真図である。
【
図9】実施例2においてDNA未修飾の微小管およびDNAオリガミチューブに、キネシンを添加した際の様子を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
-第1実施形態-
本発明の第1実施形態に係る微小管含有集合体形成方法では、(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体とを液中で接触させて、微小管を含む第1集合体を形成させる。
【0022】
また、上述の「微小管を含む第1集合体」に(c)モータータンパク質を接触させると、微小管を含む第2集合体が形成される。
【0023】
さらに、a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管と、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体と、(c)モータータンパク質とを液中で接触させて、微小管を含む第2集合体を形成させることもできるものと思われる。
【0024】
以下、上述の方法に供される(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管、(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体、(c)モータータンパク質について詳述する。なお、これらの構成成分は、それぞれ容器詰めされて微小管含有集合体形成キットとされてもよい。
【0025】
(a)表面に第1デオキシリボ核酸を修飾した微小管
微小管は、直径24nm程度の細胞骨格線維であって、GTP結合チューブリンタンパク質サブユニットからなる会合体である。微小管の各サブユニットは、α-チューブリンおよびβ-チューブリンのヘテロ二量体である。α,βチューブリンからなるヘテロ二量体が繊維状につながったものをプロトフィラメントと呼び、これが螺旋の形で11-16本程度集まって管状の構造を取ったものが微小管となる。なお、チューブリンは2つのGTP分子に2つの異なる部位で結合する。3つのチューブリンは、不変のグリシンリッチ領域を共有し、その領域はヌクレオチド結合部位の1つへのアクセスの制御に関与していると考えられている。
【0026】
なお、微小管の表面に第1デオキシリボ核酸の一本鎖を修飾する手法については後ほど、実施例を示しながら詳述する。
【0027】
(b)第1デオキシリボ核酸と相補的関係を有する第2デオキシリボ核酸を表面上に有するデオキシリボ核酸集合体
デオキシリボ核酸集合体は、例えば、DNAオリガミ等であって、二次元的な形状(例えば、円形、正方形、長方形、星形、三角形等の形状)を有していてもよいし、三次元的な形状(例えば、立方体等の形状)を有していてもよい。なお、このDNAオリガミは、非常に長い一本鎖DNA(足場鎖と呼ばれる)を織物の横糸のように使い、二重らせん形成の相手となる200本以上の多数の短いDNA(ステープル鎖と呼ばれる)を縦糸として横糸を橋掛けしながら織り込んでいくことで形成することができ、その形状はDNAの塩基配列を変化させることより自在に変化させることができる。なお、このDNAオリガミについては、Paul W.K., Rothemund. Nature 2006, 440, 297や日本ロボット学会誌Vol.28,No. 10, pp.1155~1157, 2010等に詳しい。
【0028】
デオキシリボ核酸集合体の表面に第2デオキシリボ核酸の一本鎖を修飾する手法については後ほど、実施例を示しながら詳述する。
【0029】
(c)モータータンパク質
モータータンパク質は、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解によって生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質のことであって、例えば、アクチン上を動くミオシンや、微小管上を動くキネシンやダイニンが挙げられる。
【0030】
-第2実施形態-
本発明の第2実施形態に係る微小管含有集合体形成方法では、(a)微小管と、(b)デオキシリボ核酸集合体とを含む液中に(c)モータータンパク質を添加して、微小管を含む集合体を形成させる。
【0031】
以下、上述の方法に供される(a)微小管、(b)デオキシリボ核酸集合体、(c)モータータンパク質について詳述する。なお、これらの構成成分は、それぞれ容器詰めされて微小管含有集合体形成キットとされてもよい。
【0032】
(a)微小管
第2実施形態に係る微小管は、未修飾の微小管であって、第1デオキシリボ核酸の一本鎖が表面に修飾されていることはない。微小管については、第1実施形態で説明した通りであるため、ここでは省略する。
【0033】
(b)デオキシリボ核酸集合体
第2実施形態に係るデオキシリボ核酸集合体は、第1実施形態に係るデオキシリボ核酸集合体と同様のものである。デオキシリボ核酸集合体の表面にデオキシリボ核酸の一本鎖を修飾する手法については後ほど、実施例を示しながら詳述する。
【0034】
(c)モータータンパク質
第2実施形態に係るモータータンパク質は、第1実施形態に係るモータータンパク質と同様であるため、以下説明を省略する。
【0035】
<実施例>
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0036】
1.要素成分の調製
(1)DNA修飾微小管の調製
銅フリークリック反応により、微小管にDNA一本鎖を修飾した。その後、DNA修飾微小管を観察する目的でDNAを蛍光染料で標識処理した。具体的には、以下の通りである。
【0037】
(1-1)チューブリンの精製
高濃度のPIPES緩衝液(1M PIPES,20mM EGTAおよび10mM MgCl2の混合液であって、KOHでpHが6.8に調整されている。)を用いてブタ脳からチューブリンを精製した。
【0038】
(1-2)アジド基修飾チューブリンの調製
N3-NHS-PEGエステルを用いてアジド基標識チューブリンを調製した。このように、N3-NHS-PEGエステルがチューブリンのアミノ基(-NH2)と反応すると、安定なアミド結合が形成され、N3-チューブリンが調製される。なお、このとき、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)が遊離する。
【0039】
(1-3)標識方法
200μLのチューブリン、38.8μLの2倍脳再結合緩衝液(BRB80)、5.6μLの200mM MgCl2および5.6mLの100mM GTPを小型の遠沈管に投入して溶液を調製した(なお、ここでは、標識処理および測定は、200μLのチューブリンを用いて行われた。)。なお、2倍BRB80は、160mM PIPES,2.0mM MgCl2および2.0mM EGTAの混合液であって、KOHでpHが6.8に調整されている。そして、その溶液は、氷上で5分間インキュベートされた。その後、その溶液は、2℃の温度下、35,000rpmの速度で遠心分離処理された。なお、遠心分離処理開始前に、ローターおよび遠心分離機の内部の温度を2℃に保った。遠心分離処理完了後、固形のペレットを捨てて、液部分を採取した。そして、その液部分に27.6μLの乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(100%DMSO)を加え、次いで、それらを37℃の温度の水槽中で混ぜてから15分間インキュベートした。さらに、320μLの20.0mM N3-NHS-PEGエステル溶液(乾燥DMSO中)をチューブリンに添加し、37℃の温度の水槽中で混ぜてから40分間インキュベートした。なお、このインキュベーション中、10分おきに(すなわち3回)撹拌を行った。そして、その溶液を37℃の温度下、54,000rpmで5分間、遠心分離処理した。上澄み(液部分)を捨てて、ペレットの体積を以下の通りに測定した。溶液(上澄みとペレット)の総体積は309.6μL(250.0μL+27.6μL+32.0μL)であった。すなわち、ペレットの体積=総体積-上澄みの体積であった。その体積のペレットに1倍のBRB80(80mM PIPES,1.0mM MgCl2および1.0mM EGTAの混合液であって、KOHでpHが6.8に調整されている。)を加えて2倍にし、マイクロピペットで溶液を調製した。なお、ペレットを溶解させる際、泡が立たないように注意した。そして、氷上で1時間、その溶液をインキュベートした。その後、その溶液を4℃の温度下、35,000rpmで5分間、遠心分離処理した。遠心分離処理完了後、固形のペレットを捨てて液部分を採取した。この段階で、チューブリン溶液(チューブリン)の体積は、36.0μLであった。その後、そのチューブリン溶液に、36.0μLのチューブリン、7.0μLの2倍BRB80、1.0μLの200mM MgCl2、1.0μLの100mM GTPおよび5.0μLの乾燥DMSOを加えた。次いで、それらを37℃の温度の水槽中で15分間インキュベートした。そして、その溶液を37℃の温度下、54,000rpmで5分間、遠心分離処理した。上澄み(液部分)を捨てて、ペレットの体積を以下の通りに測定した。上澄みを捨てる前に、上澄みの体積を測定した。そして、その溶液(上澄みとペレット)の総体積は139.1μLであった。すなわち、ペレットの体積=総体積-上澄みの体積であった。その体積のペレットに同体積の1倍BRB80を加えて、マイクロピペットでペレットを溶解させた。そして、氷上で1時間、その溶液をインキュベートした。その後、その溶液を4℃の温度下、35,000rpmで5分間、遠心分離処理した。遠心分離処理完了後、固形のペレットを捨てて液部分を採取した。この液部分が、目的のアジド基標識チューブリンである。
【0040】
(1-4)アジド基標識チューブリンの確認
紫外線分光光度計(Nanodrop2000c)を用いてアジド基標識チューブリンの濃度を測定した。アジド基標識チューブリンが吸光を示す280.0nm波長で吸光度を測定した。その結果、アジド基標識チューブリンの濃度の濃度は506.73μMであった。
【0041】
(1-5)クリック反応によるDNA修飾微小管の調製
DNA修飾微小管を調製する目的で、先ず、重合試薬GTP(グアノシン-5'-三リン酸)またはGMPCPP(グアノシン-5’[(a,b)-メチレノ]三リン酸)のプレミックスを用いてチューブリンを重合し、アジド基標識微小管を調製した。なお、GTPのプレミックスは10.0μLの2倍BRB80、2.0μLの純水、1.0μLの100.0mM GTP、2.0μLの200.0mM MgCl2および5.0μLのDMSOを混ぜ合わせて調製し、GMPCPPのプレミックスは5.0μLの2倍BRB80、3.0μLの純水、1.0μLの100.0mM GMPCPPおよび1.0μLの200.0mM MgCl2を混ぜ合わせて調製した。具体的には、4.0μLのアジド基標識チューブリンに1.0μLのプレミックスを添加して37℃の温度下、30分間インキュベートしてアジド基標識微小管を調製した。
【0042】
重合完了後、0.5μLの1.0mM taxolおよび1.0μLの4倍BRB80をその溶液に加え、微小管の安定性を向上させた。クリック反応を開始させるために、染料ジベンゾシクロオクチン(DBCO)共役DNA(DNA塩基配列:TTGTTGTTGTTGTTG(TTG単位の5回繰り返し))をその溶液に添加して、アジド-アルキン環化反応を行った。DNA修飾微小管5(6)-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)または5’,6-カルボキシフルオレセイン(FAM)標識DNAが微小管の修飾に用いられた。なお、クリック反応は、37℃の温度下で6時間インキュベートすることにより行われた(以下の化学反応式参照)。
【0043】
【0044】
100.0μLのクッション緩衝液(80mM PIPES、1.0mM MgCl2、1.0mM EGTAおよび0.5mg/mLのカゼインの混合液である。)を用いて、37℃の温度下、54,000rpmで1時間、遠心分離処理することにより、残存する一本鎖DBCO-DNAの相とDNA修飾微小管とを分離した。遠心分離処理完了後、直ぐに上澄みを取り除き、DNA修飾微小管のペレットを洗浄して、15.0μLのBRB80P(500.0μLの2倍BRB80,490.0μLの純水および10.0μLの1.0mM Taxolの混合液である。)で静かに懸濁させた。
【0045】
(1-6)DNA修飾微小管の確認
DNA修飾微小管の存在を確認する目的で、DNA修飾微小管の吸光度を測定した。その措定結果を
図1に示す。なお、サンプルの解重合後のDNAの最大吸収波長は260.0nmであり、微小管の最大吸収波長は280nmであった。微小管に対するDNAの濃度および標識比は、ピークの逆重畳処理およびガウス分布関数を用いることによって見積もられた。なお、標識比は、~90%-100%のBeer-lambert法から決定されたDNAおよび微小管の濃度から計算された。そして、調製されたDNA修飾微小管は、暗所に保管された。このDNA修飾微小管は、1週間の間使用することができる。
【0046】
(2)DNA修飾DNAオリガミチューブの調製
足場鎖としてのM13 mp18 Single Strand DNA(タカラバイオ株式会社製,製品コード3518,鎖長7,249,参考文献:Yanish-Perron, C.,Vieira,J., and Messing, J.Gene. (1985) 33: 103-119),5nM~10nM、ステープル鎖としての各1本鎖DNA(16~67塩基長の化学合成1本鎖DNA(塩基配列:[配列表]の記載参照。表面に露出させるCAACAACAACAACAA(CAA単位の5回繰り返し)ユニットを含む)、計177本) 5等量~100等量、液量 50μL~100μLを濃度条件内に収まるよう全て混合した。
【0047】
また、その混合DNAに10倍のTAE/Mg2+緩衝液(400mM Tris base(pH8.0)、200mM 酢酸、20mM EDTAおよび125mM 酢酸マグネシウムの混合液である。)を加えて、DNAの1倍TAE/Mg2+緩衝溶液を調製した。これをPCR用のサーマルサイクラーを用いて-1℃/分で90℃から25℃まで徐冷することによって、アニーリングを行った。なお、例えば、M13 mp18 Single Strand DNAに対して各1本鎖DNAを10等量用いて、濃度5nM、形成量50μLのDNAオリガミチューブ(6HB)を形成する場合、5nM M13mp18 Single Strand DNA、50nMの各1本鎖DNA(267本)、5μLの10倍TAE/Mg2+緩衝液および減菌水(50μL以下)を混ぜ合わせる。
【0048】
そして、最終濃度が上述の数値になるよう、各構成要素のストック溶液を所定量PCRチューブの中で混合し、それを、PCRサーマルサイクラーを用いて90℃から25℃まで-1℃/分の速度で徐冷する。最後に、lustra MicroSpin S-400HR Columns(GEヘルスケア)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより、過剰の1本鎖DNAを除去した。構造の形成は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、マイカ基板上、1倍のTAE/Mg
2+緩衝液による液中観察で確認した。なお、本実施例に係るDNAオリガミチューブでは、
図2に示されるように、二重螺旋体が6本集まって管状体を形成している。そして、
図2に示されるように、理論的にはその高さは6nmであって、長さは391nmである。
図3には、本実施例に係るDNAオリガミチューブの原子間力顕微鏡写真を示した。この写真から、長さの異なる細長い構造体が多数形成されていることが明らかとなった。なお、長い構造体は塩基同士がスタッキングにより二量化したものであると思われる。
図4には、DNAオリガミチューブの高さ測定時のチャート図が示されている。このチャート図から本実施例に係るDNAオリガミチューブの高さは3~4nmであることが明らかとなった。理論値よりは僅かに低い値であるが、測定時に圧縮されたことが原因であると考えられる。また、
図5には、DNAオリガミチューブの長さ測定時のチャート図が示されている。このチャート図から本実施例に係るDNAオリガミチューブの長さは350nm程度であり、理論値に近い値が示されていることが明らかとなった。以上より、目的のDNAオリガミチューブが形成されているものと思われた。
【0049】
2.微小管を含む集合体の形成
20nM、200nMおよび2,000nMの各DNA修飾微小管に4nMのDNA修飾DNAオリガミチューブを添加したところ、24時間後に十数μmサイズの放射状の集合体が形成された(
図6および
図7参照。)。また、この集合体中にキネシンを添加したところ、更に大きなサイズの集合体が形成された(
図8参照)。このため、本実施例において、DNAオリガミチューブに対して多数の微小管を固定することが明らかとなった。
【実施例2】
【0050】
DNA未修飾の微小管に、実施例1で調整したDNA修飾DNAオリガミチューブを添加したところ、24時間後でも変化は見られなかったが(
図9の上段の二図を参照。)、そこにキネシンを添加すると、数十μmの線状の集合体が形成された(
図9の下段の二図を参照。)。このため、本実施例において、DNAオリガミチューブに対して多数の微小管を固定することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る微小管含有集合体形成方法は、多数の微小管を固定することができるという特徴を有し、人工筋肉や表示素子等への応用が期待される。
【配列表】