(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】花粉供給方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20220822BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220822BHJP
B64D 1/16 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
A01H1/02 Z
B64C39/02
B64D1/16
(21)【出願番号】P 2020558313
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2019044444
(87)【国際公開番号】W WO2020105518
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018216647
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【氏名又は名称】宮本 一浩
(72)【発明者】
【氏名】都 英次郎
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107306787(CN,A)
【文献】特表2003-525884(JP,A)
【文献】特開2006-246702(JP,A)
【文献】特開2009-178083(JP,A)
【文献】特開2018-014929(JP,A)
【文献】Soil Science and Plant Nutrition (1990) Vol.36, No.1, pp.145-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
B64C 39/00
B64D 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のめしべに花粉を供給する花粉供給方法であって、
表面に前記花粉が付着した気泡を生成する気泡生成工程と、
生成された前記気泡を空中に放出して前記めしべに付着させる気泡付着工程と、
を含
み、
前記気泡生成工程では、前記気泡付着工程によって前記気泡を放出するときに表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成し、
前記花粉は、前記気泡の表面に付着されるまで粉末状態で保存されている、
花粉供給方法。
【請求項2】
前記気泡は、直径が任意の長さの球体である、
請求項1に記載の花粉供給方法。
【請求項3】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、界面活性剤を含む、
請求項2に記載の花粉供給方法。
【請求項4】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、粘度を上昇させる増粘剤を含む、
請求項1乃至3のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【請求項5】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、前記花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化させる物質を含む、
請求項1乃至4のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【請求項6】
前記水溶液には、少なくともスクロース、ホウ酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム及びゼラチンが添加されている、
請求項4又は5に記載の花粉供給方法。
【請求項7】
前記気泡生成工程では、表面に前記花粉が付着していない気泡に前記花粉を接触させることで表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成する、
請求項
1乃至6のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【請求項8】
前記気泡生成工程では、表面に前記花粉が付着していない気泡を前記花粉に接触させることで表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成する、
請求項
1乃至6のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【請求項9】
前記気泡は、前記めしべから与えられる水によって破裂する、
請求項1乃至
8のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【請求項10】
前記気泡付着工程では、無人飛行体によって前記気泡を放出する、
請求項1乃至
9のうちの何れか1項に記載の花粉供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のめしべに花粉を供給する花粉供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹栽培や園芸などにおいて植物のめしべに花粉を供給する花粉供給方法として、例えば、ミツバチなどの昆虫に授粉を媒介させる方法が知られている。しかしながら、この方法では、昆虫の管理が必要となるだけでなく、屋外で行うときには昆虫を特定の植物の授粉に振り向けさせるコントロールが難しい。このため、花粉の供給を人間又は機械が行う方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、花粉を特定の液剤に分散させた分散液を人間がスプレーで散布する人工授粉方法が開示されている。分散液は、花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めるスクロースやソルビトールなどとともに、花粉の分散性を高めるエーテル系薬剤を混合して更にモモ樹脂を添加して粘度調整しており、粘度調整することでめしべの柱頭への分散液の付着性を高めている。
【0004】
特許文献2には、噴射ノズルを設けた回転翼型無人飛行体から植物の授粉部分に花粉又は花粉の懸濁液を射出する方法が開示されている。この方法では、屋内で栽培する植物の周囲に無人飛行体の送風機構による旋回気流を発生させることで、花粉又は懸濁液の飛散を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-275252号公報
【文献】特開2017-12137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された方法は、花粉を分散させた分散液を植物に向けて正確に噴射するために噴射圧を高くする必要がある。特に、特許文献2のように回転翼型無人飛行体で分散液を噴射する場合、飛行のため発生した気流で植物を傷めないように植物から一定の距離を空けて無人飛行体を飛行させる必要があり、気流を通過して植物に届くようにするためには噴射圧を高くする必要がある。このため、特許文献1、2に開示された方法は、高い噴射圧で噴射された分散液によって、花を落下させたり、めしべを傷めてしまったりする問題がある。この結果、特許文献1、2に開示された方法では、授粉が不完全となる場合があり、授粉が完成であっても結実した果実が奇形になる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ドローンのような無人飛行体を用いた場合にあっても、植物のめしべに花粉を効率的に供給できる花粉供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る花粉供給方法は、
植物のめしべに花粉を供給する花粉供給方法であって、
表面に前記花粉が付着した気泡を生成する気泡生成工程と、
生成された前記気泡を空中に放出して前記めしべに付着させる気泡付着工程と、
を含み、
前記気泡生成工程では、前記気泡付着工程によって前記気泡を放出するときに表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成し、
前記花粉は、前記気泡の表面に付着されるまで粉末状態で保存されている。
【0009】
前記気泡は、直径が任意の長さの球体であってもよい。
【0010】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、界面活性剤を含んでもよい。
【0011】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、粘度を上昇させる増粘剤を含んでもよい。
【0012】
前記気泡の生成に用いられる水溶液は、前記花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化させる物質を含んでもよい。
【0013】
前記水溶液には、少なくともスクロース、ホウ酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム及びゼラチンが添加されていてもよい。
【0015】
前記気泡生成工程では、表面に前記花粉が付着していない気泡に前記花粉を接触させることで表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成してもよい。
【0016】
前記気泡生成工程では、表面に前記花粉が付着していない気泡を前記花粉に接触させることで表面に前記花粉が付着した前記気泡を生成してもよい。
【0017】
前記気泡は、前記めしべから与えられる水によって破裂してもよい。
【0018】
前記気泡付着工程では、無人飛行体によって前記気泡を放出してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、空中に放出した気泡がめしべに接触することで、花粉を分散させた水溶液を噴射するよりも少量の花粉で授粉が可能となるとともに、めしべを傷つけることなく花粉を供給できる。この結果、ドローンのような無人飛行体を用いた場合にあっても、植物のめしべに花粉を効率的に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る花粉供給方法における気泡をガラス基板上に載せた状態を示す図である。
【
図2】気泡の圧縮試験機による圧縮応力の測定結果を示すグラフである。
【
図3】光学顕微鏡を用いて気泡に分散する花粉を見たときの図である。
【
図4A】ツツジのめしべに付着した気泡が破裂するまでを示す図である。
【
図4B】カンパニュラのめしべに付着した気泡が破裂するまでを示す図である。
【
図5A】実験例1、2及び比較例1の花粉の発芽率を示す図である。
【
図5B】実験例1、2及び比較例1の花粉管の長さを示す図である。
【
図6】ドローンを用いて気泡を散布する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。実施の形態に係る花粉供給方法は、まず、授粉させようとする植物の花粉と界面活性剤とを水に加えて、花粉を分散させた水溶液を生成してから水溶液の気泡を生成する。すなわち、気泡の表面には、花粉が付着している。そして、花粉供給方法は、生成した気泡を空中に放出して授粉させようとする植物のめしべに付着させる。例えば、花粉が分散した水溶液をしゃぼん玉にしてめしべに付着させるように空中に散布する。なお、気泡の生成と散布には、例えば、市販されているしゃぼん玉製造機を用いることができる。
【0022】
実施の形態に係る花粉供給方法では、気泡を生成するための水溶液は、増粘剤を含んでおり、粘度が向上している。なお、増粘剤は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:PolyVinyl Alcohol)であってもよく、自然由来の砂糖、ハチミツ、ゼラチン、片栗粉のいずれかであってもよい。気泡は、花粉を水溶液に分散させることで破裂し易くなるが、増粘剤によって気泡の強度が向上するため、花粉を水溶液に分散させても破裂し難くなる。この結果、気泡は、破裂までの時間が長くなり、めしべに接触する確率が高くなる。
【0023】
具体的には、気泡は、破裂せずに空中を浮遊している時間が長くなると浮遊距離が長くなり、めしべや花弁への接触機会が増加する。また、花弁に接触した気泡は、花弁上を移動してめしべに接触する可能性があるため、破裂までの時間が長くなるとめしべへの接触機会が増加する。また、花粉は、めしべに気泡が接触していれば気泡が破裂しなくても気泡上を移動して柱頭に接触し、授粉を完了する可能性がある。このように、実施の形態に係る花粉供給方法は、増粘剤を用いることで、めしべへの気泡の接触確率、ひいては授粉の確率を高めることができ、結果として使用する花粉の量を減らすことができる。
【0024】
ここで、増粘剤を含む水溶液によって生成した気泡の強度を測定する試験を行ったところ、
図1及び
図2に示すように、気泡は、ガラス基板上に載せただけでは破裂せず、圧縮試験機により圧縮応力を測定することができる程度に強固であった。なお、圧縮応力は、株式会社UBE科学分析センターに依頼し、精密万能試験機(株式会社島津製作所製;AG-100kNX)を用い、5mm/minの速度による一軸圧縮試験により測定し、解析することで得られた。
【0025】
測定試験では、気泡を形成する水溶液を生成するために、まず、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(5mL、エマールE-27C;花王株式会社製)、増粘剤としてポリビニルアルコール(19g)(平均重合度:約1500、富士フイルム和光純薬株式会社製)をそれぞれ蒸留水(150mL)に加え、スターラーを用いて室温で5時間攪拌した後、一晩静置することで微小な泡を除去してしゃぼん玉溶液を生成した。
【0026】
花粉は、ユリの花から葯とともに取り出して25℃に調整した恒温器で一晩乾燥させた後、アセトンで攪拌して葯から分離させ、葯を取り去った後に1000rpmで5分間の遠心分離によるアセトン洗浄を3回行いペレットとして取得した。得られた50mgのペレットを1mLの蒸留水に分散させ、上記したしゃぼん玉溶液4mLに混合させることで花粉を分散させた水溶液を生成した。
【0027】
図2に示すように、このようにして生成した水溶液によって形成された気泡は、最大で約13mmの一軸圧縮をすることができるものがあり、最大で約0.04Nの圧縮応力を測定できた。
【0028】
また、
図3に示すように、このようにして生成した水溶液によって形成された気泡は、ガラス基板に載せて光学顕微鏡で観察すると、水溶液内で花粉が分散している様子が観察できた。
【0029】
また、気泡がめしべに接触したとき、めしべは柱頭から水分を分泌しているので、接触した気泡を形成する水溶液には水分が与えられる。このため、めしべに接触した気泡の水溶液は、水分を増加させて粘度が低下することになる。その結果、気泡は、破裂し易くなり、めしべから水分が与えられ続けることで破裂して花粉が分散している水溶液をめしべの至近距離で散布することになる。この結果、実施の形態に係る花粉供給方法は、めしべの直近で水溶液を散布できる。このとき、めしべに接触した気泡のうちのめしべに直接接触していない部分の水溶液も授粉に寄与し得る。例えば、柱頭に接触している部分に引き寄せられるように気泡が破裂すれば、気泡を形成している水溶液の殆どが柱頭に接触し、気泡に含まれる花粉の殆どが柱頭への接触機会を得ることになる。
【0030】
ここで、めしべに付着した気泡が実際に破裂する様子を確認したところ、
図4Aに示すように、ツツジのめしべに付着した気泡は、約1分後に破裂した一方、
図4Bに示すように、カンパニュラのめしべに付着した気泡は、約5分後に破裂した。ツツジのめしべに付着した気泡のほうが早く破裂したのは、ツツジのほうがカンパニュラよりもめしべの柱頭が大きく水分量が多いため、より多くの水分を気泡に与えたことが原因であると考えられる。また、ツツジよりも更に柱頭の大きなユリの場合、付着から破裂まで10秒程度であることも確認された。これらの結果、水分量の多い柱頭のほうが気泡をより早く破裂させることが判明した。
【0031】
また、授粉後のめしべの状態を確認するために、このようにして花粉を分散させた水溶液によるしゃぼん玉を柱頭に命中させたユリの花のめしべを一晩静置して、その柱頭を観察した。観察にあたっては、まず、柱頭を60℃の1N水酸化ナトリウム水溶液(1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液)で1時間加熱し、アニリンブルー水溶液で染色し、切片を2枚のカバーガラスに挟んで観察用プレパラートを準備した。これを60倍の対物レンズ(オリンパス株式会社製;UPLFLN60X)を搭載した蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社製;IX73)で観察した。なお、観察に用いた花のおしべは、予め除去しておき、自家受粉の影響をなくすようにした。観察した結果、花粉管の形成が確認された。この結果、気泡の表面に付着させた花粉であっても、稔性を有することが確認された。
【0032】
なお、実施の形態に係る花粉供給方法においては、気泡を生成するための水溶液に花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化する活性化物質を添加することも可能である。
【0033】
[実験例]
ここで、気泡を生成するための水溶液に活性化物質を添加することで花粉の発芽及び花粉管の伸長が活性化したか否かを確認する実験を行った。
【0034】
[実験例1]
実験例1では、まず、10%のスクロース、5ppm(=0.0005%)のホウ酸(H3BO3)、0.1mM(mmol/l)の硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O)、1.0mMの塩化カルシウム(CaCl2)、1.0mMの塩化カリウム(KCl)、0.8%のゼラチン、4mg/mlの中国梨(Pyrus bretschneideri)由来の純花粉が添加された水溶液を生成し、泡スプレー容器に充填した。
【0035】
また、実験例1では、水溶液が充填された状態の5本の泡スプレー容器を0時間、12時間、24時間、48時間、72時間に亘って25℃でそれぞれ保管した。また、実験例1では、10%のスクロース及び1%のアガロースで構成された寒天培地を5つ用意し、0時間保管した泡スプレー容器から微小な気泡を1つ目の寒天培地に射出した。また、実験例1では、12時間保管した泡スプレー容器から微小な気泡を2つ目の寒天培地に射出し、24時間保管した泡スプレー容器から微小な気泡を3つ目の寒天培地に射出した。また、実験例1では、48時間保管した泡スプレー容器から微小な気泡を4つ目の寒天培地に射出し、72時間保管した泡スプレー容器から微小な気泡を5つ目の寒天培地に射出した。そして、実験例1では、5つの寒天培地を12時間に亘って25℃に保ちながら気泡の表面に付着している花粉を培養(インキュベート)し、蛍光顕微鏡を用いて花粉の発芽率及び花粉管の長さを観察及び測定した。
【0036】
なお、水溶液に添加されたスクロース、ホウ酸、硫酸マグネシウム七水和物、塩化カルシウム、塩化カリウム及びゼラチンは、富士フイルム和光純薬株式会社製のものを使用した。また、寒天培地を構成するスクロース及びアガロースも、富士フイルム和光純薬株式会社製のものを使用した。また、中国梨由来の純花粉は、小林製袋産業株式会社製のものを使用した。また、泡スプレー容器は、株式会社セリア製のものを使用した。さらに、蛍光顕微鏡は、オリンパス株式会社製のIX73を使用した。
【0037】
[実験例2]
また、実験例2では、まず、10%のスクロース、5ppmのホウ酸、0.1mMの硫酸マグネシウム七水和物、1.0mMの塩化カルシウム、1.0mMの塩化カリウム、0.8%のゼラチンが添加された水溶液を生成し、泡スプレー容器に充填した。また、実験例2では、中国梨由来の純花粉を粉末スプレー容器に充填した。
【0038】
また、実験例2では、中国梨由来の純花粉が充填された状態の5本の粉末スプレー容器を0時間、12時間、24時間、48時間、72時間に亘って25℃でそれぞれ保管した。また、実験例2では、実験例1と同一の寒天培地を5つ用意し、泡スプレー容器から各寒天培地に微小な気泡を射出した。また、実験例2では、0時間保管した粉末スプレー容器から花粉を1つ目の寒天培地の気泡に射出し、12時間保管した粉末スプレー容器から花粉を2つ目の寒天培地の気泡に射出した。また、実験例2では、24時間保管した粉末スプレー容器から花粉を3つ目の寒天培地の気泡に射出し、48時間保管した粉末スプレー容器から花粉を4つ目の寒天培地の気泡に射出し、72時間保管した粉末スプレー容器から花粉を5つ目の寒天培地の気泡に射出した。そして、実験例2では、実験例1と同様に、5つの寒天培地を12時間に亘って25℃に保ちながら気泡の表面に付着している花粉を培養し、蛍光顕微鏡を用いて花粉の発芽率及び花粉管の長さを観察及び測定した。
【0039】
なお、水溶液に添加されたスクロース、ホウ酸、硫酸マグネシウム七水和物、塩化カルシウム、塩化カリウム及びゼラチン、寒天培地を構成するスクロース及びアガロース、中国梨由来の純花粉、泡スプレー容器は、実験例1と同一のものである。また、粉末スプレー容器は、アマゾンジャパン合同会社から購入した市販のものを使用した。
【0040】
[比較例1]
比較例1では、まず、中国梨由来の純花粉を粉末の状態で0時間、12時間、24時間、48時間、72時間に亘って25℃でそれぞれ保管した。また、比較例1では、実験例1、2と同一の寒天培地を5つ用意し、0時間保管した花粉を梵天で1つ目の寒天培地に塗布し、12時間保管した花粉を梵天で2つ目の寒天培地に塗布した。また、比較例1では、24時間保管した花粉を梵天で3つ目の寒天培地に塗布し、48時間保管した花粉を梵天で4つ目の寒天培地に塗布し、72時間保管した花粉を梵天で5つ目の寒天培地に塗布した。そして、比較例1では、実験例1、2と同様に、5つの寒天培地を12時間に亘って25℃に保ちながら花粉を培養し、蛍光顕微鏡を用いて花粉の発芽率及び花粉管の長さを観察及び測定した。
【0041】
なお、寒天培地を構成するスクロース及びアガロース、中国梨由来の純花粉は、実験例1と同一のものである。また、梵天は、アマゾンジャパン合同会社から購入した市販のものを使用した。
【0042】
[実験結果]
実験の結果、
図5A、
図5Bに示すように、比較例1では、花粉の発芽率及び花粉管の長さは、花粉の保管時間に関わらず一定の値を示した。具体的には、花粉の発芽率は、約30%、花粉管の長さは、1000~1300μmであった。
【0043】
一方、
図5A、
図5Bに示すように、実験例1では、花粉の発芽率及び花粉管の長さは、花粉の保管時間が0時間であれば比較例1よりも高い値を示した。具体的には、花粉の保管時間が0時間の場合、花粉の発芽率は、約55%、花粉管の長さは、約1400μmであった。しかしながら、実験例1では、花粉の発芽率及び花粉管の長さは、花粉の保管時間が12時間を超えると比較例1よりも低い値を示した。具体的には、花粉の発芽率は、花粉の保管時間が12時間の場合、約20%まで低下し、花粉の保管時間が24時間、48時間、72時間の場合、10%未満まで更に低下した。また、花粉管の長さは、花粉の保管時間が12時間、24時間、48時間、72時間の場合、300μm未満まで低下した。
【0044】
これに対して、
図5A、
図5Bに示すように、実験例2では、花粉の発芽率及び花粉管の長さは、花粉の保管時間に関わらず比較例1よりも常に高い値を示した。具体的には、花粉の発芽率は、約35%、花粉管の長さは、1200~1500μmであり、それぞれ比較例1よりも10%程度高い値を示した。
これらの結果、実験例1、2において用いられた水溶液は、花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化するものであることが確認された。一方、実験例1、2において用いられた水溶液であっても、少なくとも12時間を超えて花粉を浸潰すると花粉の発芽率が低くなり、発芽しても花粉管の長さが短いことが確認された。
【0045】
なお、実験例1において、花粉の保管時間が12時間を超えると花粉の発芽率が低くなり、発芽しても花粉管の長さが短かったのは、水溶液の浸透圧によって花粉粒子に大きな負荷がかかり、花粉粒子が損傷したり破裂したりしたことが原因であると考えられる。
【0046】
なお、実験例1、2では、水溶液に10%のスクロースを添加したが、これに限定されず、スクロースは任意の割合で添加可能である。但し、増粘剤及び活性化物質としての効果を発揮するために、スクロースは、5~30%の範囲で添加されることが好ましい。
【0047】
なお、実験例1、2では、水溶液に5ppmのホウ酸を添加したが、これに限定されず、ホウ酸は任意の割合で添加可能である。但し、活性化物質としての効果を発揮するために、ホウ酸は、1~60ppmの範囲で添加されることが好ましい。
【0048】
なお、実験例1、2では、水溶液に0.1mMの硫酸マグネシウム七水和物を添加したが、これに限定されず、硫酸マグネシウム七水和物は任意の割合で添加可能である。但し、活性化物質としての効果を発揮するために、硫酸マグネシウム七水和物は、0.1~2.0mMの範囲で添加されることが好ましい。
【0049】
なお、実験例1、2では、水溶液に1.0mMの塩化カルシウムを添加したが、これに限定されず、塩化カルシウムは任意の割合で添加可能である。但し、活性化物質としての効果を発揮するために、塩化カルシウムは0.1~2.0mMの範囲で添加されることが好ましい。
【0050】
なお、実験例1、2では、水溶液に1.0mMの塩化カリウムを添加したが、これに限定されず、塩化カリウムは任意の割合で添加可能である。但し、活性化物質としての効果を発揮するために、塩化カリウムは0.1~2.0mMの範囲で添加されることが好ましい。
【0051】
なお、実験例1、2では、水溶液に0.8%のゼラチンを添加したが、これに限定されず、ゼラチンは任意の割合で添加可能である。但し、増粘剤及び活性化物質としての効果を発揮するために、ゼラチンは0.2~2.0%の範囲で添加されることが好ましい。
【0052】
また、実施の形態に係る花粉供給方法においては、ドローンのような無人飛行体によって気泡を放出することも可能である。この場合、無人飛行体による気泡の放出の仕方によって、気泡の半径、増粘剤の種類及び濃度などを調整することが好ましい。
【0053】
ここで、無人飛行体によって気泡を放出して実際に気泡がめしべに付着するか否かの確認を行った。具体的には、
図6に示すように、ドローン(株式会社自律制御システム研究所製;ACSL-PF1)に市販のしゃぼん玉製造機(super bubble machine; Toysrus, Wayne, NJ, USA)を取り付けて、整列させた12輪のユリの造花の上空を一定の速度で飛行させ、造花へのしゃぼん玉の命中率を測定した。なお、しゃぼん玉製造機は、1分間に直径が2cm程度となるしゃぼん玉を5000個生成できる仕様である。また、ドローンは、GPS(Global Positioning System)を利用した自律飛行が可能であり、飛行高度2m、速度2m/sで自律飛行して造花の上を1回通過させた。なお、ドローンによる気泡の放出は、株式会社自律制御システム研究所により、無風下で行われた。測定した結果、造花へのしゃぼん玉の命中率は、約83%(10/12=0.8333…)であった。
【0054】
以上説明したように、実施の形態に係る花粉供給方法は、表面に花粉が付着した気泡を生成し、生成した気泡を空中に放出してめしべに付着させる。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、花粉を分散させた水溶液を噴射するよりも少量の花粉で授粉が可能となるとともに、めしべを傷つけることなく花粉を供給できる。この結果、実施の形態に係る花粉供給方法は、ドローンのような無人飛行体を用いた場合にあっても、植物のめしべに花粉を効率的に供給できる。また、実施の形態に係る花粉供給方法は、アレルゲンとなり得る花粉の飛散を抑制できる。
【0055】
また、実施の形態に係る花粉供給方法は、柔軟で軽い気泡によって花粉を供給することで、めしべに接触する際に柱頭を傷つける可能性が低く、授粉を確実に行うとともに奇形の果実が発生することを抑制できる。また、実施の形態に係る花粉供給方法は、複数の柱頭に授粉しなければ果実の形状がいびつになってしまうリンゴやナシのような植物であっても、球形の気泡が各柱頭に同じように接触できるため、複数の柱頭での同時の授粉もし易くなっている。
【0056】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、気泡の直径は、表面に花粉を付着させた水溶液を花の大きさに合わせて任意の長さとすることができる。
このようにすることで、花粉を分散させた水滴よりも表面積を拡大した状態で空中を漂わせることができる。この結果、気泡がめしべに接触する確率が高くなり、花粉が分散された水溶液がめしべに接触する確率が高くなるので、少量の花粉で授粉が可能となる。
【0057】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、気泡の生成に用いられる水溶液は、界面活性剤を含んでいる。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、花の大きさに合わせて直径が任意の長さのシャボン玉を生成することができる。
なお、界面活性剤については、上述したポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムに限定されず、その他の物質であってもよい。
【0058】
なお、実施の形態では花の大きさに合わせた直径のシャボン玉としたが、実験例1、2のように複数の微小な泡であってもよい。この場合、例えば、複数の微小な泡をめしべに吹き付けることで、気泡をめしべに接触させてもよい。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、花粉を分散させた水溶液を噴射するよりもめしべを傷つけることなく花粉を供給できる。また、このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、水溶液に界面活性剤が加えられなくても微小な泡を生成できる。この結果、実施の形態に係る花粉供給方法は、気泡の生成に用いられる水溶液に界面活性剤が加えられるか否かに関わらず、上述した作用効果を奏することができる。
【0059】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、気泡の生成に用いられる水溶液は、粘度を上昇させる増粘剤を含んでいる。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、気泡の破裂までの時間が長くなるので、気泡がめしべに接触する確率が高くなり、花粉が分散された水溶液がめしべに接触する確率が高くなるので、少量の花粉で授粉が可能となる。
なお、増粘剤については、上述したポリビニルアルコール、砂糖、ハチミツ、ゼラチン、片栗粉及びスクロースに限定されず、その他の物質であってもよい。
また、気泡の破裂までの時間を長くするために、気泡の生成に用いられる水溶液には増粘剤が含まれていることが好ましいが、気泡の生成に用いられる水溶液には増粘剤が含まれていなくてもよい。
【0060】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、水溶液には、上述した活性化物質を添加することも可能である。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、授粉した後の花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化することができる。
なお、活性化物質については、上述したスクロース、ホウ酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム及びゼラチンに限定されず、その他の物質であってもよい。
また、授粉した後の花粉の発芽及び花粉管の伸長を活性化するために、気泡の生成に用いられる水溶液には活性化物質が添加されていることが好ましいが、気泡の生成に用いられる水溶液には活性化物質が添加されていなくてもよい。
【0061】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、上述した実験例2に示すように、気泡を放出するときに表面に花粉が付着した気泡を生成しており、花粉は、気泡の表面に付着されるまで粉末状態で保存されている。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、花粉が水溶液に長時間に亘って浸漬されることを防止できる。この結果、授粉した後の花粉の発芽率が低下したり、発芽後の花粉管の成長が遅くなったりすることを防止できる。
なお、花粉が水溶液に長時間に亘って浸漬されることを防止するために、花粉が気泡の表面に付着されるまで粉末状態で保存されていることが好ましいが、花粉が水溶液に分散している状態で気泡を生成してもよい。
【0062】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、上述した実験例2に示すように、予め生成した気泡に花粉を吹き付けて付着することが可能である。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、気泡をめしべに接触させる直前に気泡の表面に花粉を付着させることができ、花粉が水溶液に長時間に亘って浸漬されることを防止できる。
【0063】
なお、上述した実験例2では、表面に花粉が付着していない気泡に花粉を接触させることで表面に花粉が付着した気泡を生成しているが、表面に花粉が付着していない気泡を花粉に接触させることで表面に花粉が付着した気泡を生成してもよい。例えば、予め所定の位置に設けられた花粉に生成した気泡を吹き付けることで気泡の表面に花粉を付着させてもよい。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、気泡をめしべに接触させる直前に気泡の表面に花粉を付着させることができ、花粉が水溶液に長時間に亘って浸漬されることを防止できる。
【0064】
また、実施の形態に係る花粉供給方法によれば、めしべに付着した気泡は、めしべから与えられる水によって破裂する。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、めしべの至近距離で花粉が分散された水溶液を散布でき、めしべに直接接触していない部分の水溶液も授粉に寄与するので、少量の花粉で授粉が可能となる。
なお、めしべの至近距離で花粉が分散された水溶液を散布するために、めしべに付着した気泡がめしべから与えられる水によって破裂することが好ましいが、仮にめしべに付着した気泡がめしべから与えられる水によって破裂しなくても気泡とめしべとの接触部分からめしべに花粉を供給することができる。
【0065】
また、実施の形態に係る花粉供給方法は、無人飛行体によって気泡を放出することが可能である。
このようにすることで、実施の形態に係る花粉供給方法は、めしべへの花粉の供給を広範囲において確実に且つ簡便に行うことが可能となる。
なお、めしべへの花粉の供給を広範囲において確実に且つ簡便に行うために、無人飛行体によって気泡を放出することが好ましいが、これに限定されず、例えば、人間がめしべに向かって気泡を放出することも可能である。
【0066】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0067】
本出願は、2018年11月19日に出願された、日本国特許出願特願2018-216647号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2018-216647号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る花粉供給方法は、ドローンのような無人飛行体を用いた場合にあっても、植物のめしべに花粉を効率的に供給できるため、例えば、果樹栽培や園芸などにおいて有用である。