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特許7126722光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
G01H9/00 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020563341
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050799
(87)【国際公開番号】W WO2020138154
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】201811635297.3
(32)【優先日】2018-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】303021609
【氏名又は名称】ニューブレクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100155848
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 東成
(72)【発明者】
【氏名】謝 峰
(72)【発明者】
【氏名】叢 洪亮
(72)【発明者】
【氏名】李 貴東
(72)【発明者】
【氏名】胡 孝暉
(72)【発明者】
【氏名】徐 龍海
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108509850(CN,A)
【文献】特表2018-533096(JP,A)
【文献】特開2016-91378(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105973449(CN,A)
【文献】国際公開第2018/085893(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得するステップ1と、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出するステップ2と、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得するステップ3と、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得するステップ4と、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力するステップ5と
を備え
前記ステップ2が、
番号cの振動カテゴリに対して、下記式1で表されるトレーニングサンプルセットを収集するサブステップ21と、
振動カテゴリ毎に、下記式2で表されるクラスタの中心、下記式3で表されるクラスタ内の分散、下記式4で表されるクラスタ内の分散の和、下記式5で表される全データの中心及び下記式6で表されるクラスタ間の分散を算出するサブステップ22と、
下記式7で表される行列の特徴値を算出して分解し、Q個の最大特徴値及び対応する特徴ベクトルを取得し、前記特徴ベクトルの列で前記次元削減行列を構成するサブステップ23と
を備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法。
【数1】
【請求項2】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得するステップ1と、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出するステップ2と、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得するステップ3と、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得するステップ4と、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力するステップ5と
を備え、
前記ステップ2において、独立成分分析によって前記次元削減行列を取得する、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法。
【請求項3】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得するステップ1と、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出するステップ2と、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得するステップ3と、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得するステップ4と、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力するステップ5と
を備え、
前記ステップ5が、
下記式8で表される前記一次分類結果を下記式9で表される論理変数に変換するサブステップ51と、
論理ルールベース内のB個の全論理式{J(L),J(L),・・・,J(L)}に対して、下記式10で表される算出式に基づいて振動カテゴリ毎にスコアを算出するサブステップ52と、
二次分類器の出力として、下記式11で表される最高スコアに対応する振動カテゴリを出力するサブステップ53と
を備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法。
【数2】
【請求項4】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットと
を備え
前記次元削減行列算出ユニットは、
番号cの振動カテゴリに対して、下記式1で表されるトレーニングサンプルセットを収集し、
振動カテゴリ毎に、下記式2で表されるクラスタの中心、下記式3で表されるクラスタ内の分散、下記式4で表されるクラスタ内の分散の和、下記式5で表される全データの中心及び下記式6で表されるクラスタ間の分散を算出し、
下記式7で表される行列の特徴値を算出して分解し、Q個の最大特徴値及び対応する特徴ベクトルを取得し、前記特徴ベクトルの列で前記次元削減行列を構成する、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステム。
【数3】
【請求項5】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットと
を備え、
前記次元削減行列算出ユニットは、独立成分分析によって前記次元削減行列を取得する、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステム。
【請求項6】
分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、
前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、
前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、
パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、
前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットと
を備え、
前記二次分類ユニットは、
下記式8で表される前記一次分類結果を下記式9で表される論理変数に変換し、
論理ルールベース内のB個の全論理式{J (L),J (L),・・・,J (L)}に対して、下記式10で表される算出式に基づいて振動カテゴリ毎にスコアを算出し、
下記式11で表される最高スコアに対応する振動カテゴリを出力する、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステム。
【数4】
【請求項7】
前記パラメータデータベースは、前記次元削減行列、分類器パラメータ及び論理ルールベースの少なくとも1つの蓄積に用いられる、請求項4~6のいずれか1項に記載の光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ信号処理の分野に属し、具体的には、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
分布型光ファイバセンサを用いて振動を検知するシステムは、設置が容易であり、検知領域が広く、且つ検知感度に優れることから、設備監視、エリアセキュリティ、環境測定等の分野で採用されている。しかし、分布型光ファイバセンサの物理特性に起因して、当該分布型光ファイバセンサが取得する信号波形と、当該分布型光ファイバセンサが受ける機械的振動とを、簡単な方程式で関連付けることは難しい。又、分布型光ファイバセンサを用いて振動を検知した場合には、分布型光ファイバセンサの信号に各種の干渉及びノイズが存在することから、振動のカテゴリを正確に検知及び識別して当該振動の時空間を特定することは困難である。
【0003】
分布型光ファイバセンサを用いた従来の振動検知手段は、主として、所定の時間窓内における分布型光ファイバセンサ信号の変動幅から振動を検知し、時間及び空間位置を大まかに特定している。しかし、当該振動検知手段は、検知エラー率が高く、カテゴリの異なる振動に対する識別能力に劣り、且つ振動の時間及び空間位置を特定する能力が低いため、日々増大する適用要求を満足させることができない。
【0004】
又、光ファイバ信号から振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する従来のアルゴリズムは、主に所定の時間窓及び周波数範囲に基づいて分布型光ファイバセンサ信号の変動幅を検知している。当該アルゴリズムは、信号の変動幅を所定の閾値と比較することにより、振動の発生有無を判定している。しかし、当該閾値は、測定者の経験に頼って設定されているため、単純な閾値に基づき複雑な振動をカテゴリ毎に区別するには限界があり、且つ誤検知率と検知漏れ率のバランスを取ることも難しい。このような問題点があるため、高い信頼性及び精度が求められる分野に光ファイバセンサを用いて振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する上記アルゴリズムを適用させるには限界がある。
【0005】
光ファイバ信号から振動を検知及び識別する他の方法として、分布型光ファイバセンサが取得する信号波形と当該分布型光ファイバセンサが受ける機械的振動との間の理論モデルに基づいて方程式を構築し、振動の検知のために抽出を要する信号特徴及び参照閾値を取得する方法がある。しかし、機械的振動から光ファイバセンサ信号に至るまでの過程では複数の非線形変換がなされることから、所定の単純な振動に対してのみ理論分析が可能である。さらに、上記理論モデルは、大量の近似を用いることから、実際に光ファイバセンサ信号に至るまでの過程で生じる様々な信号特徴の歪みを無視している。そのため、上記理論モデルは誤差が大きく、検知及び識別の効果に劣る。
【発明の概要】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、振動に対する検知及び識別の精度を向上させることができる、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一局面は、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得するステップ1と、前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出するステップ2と、前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得するステップ3と、パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得するステップ4と、前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力するステップ5とを備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法である。
【0008】
本発明の他の一局面は、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットとを備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステムである。
【0009】
本発明の目的、特徴、局面及び利点は、以下の詳細な説明及び図面によって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る方法のフローチャート図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るシステムのブロック図である。
図3図3は、実施例においてフェンスによじ登った場合に発生した振動信号を表した図である。
図4図4は、実施例においてフェンスを殴打した場合に発生した振動信号を表した図である。
図5図5は、実施例において光ファイバを侵犯した場合に発生した振動信号を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載された全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本明細書で別途定義されていない限り、当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。又、汎用された辞書にて定義された用語は、従来技術にて用いられるのと同じ意味を有し、本明細書で特に定義されていない限り、理想化された意味或いは過度に正式な意味で解釈されるべきではない。
【0012】
本発明は、光ファイバ信号から振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する従来のアルゴリズムが有する問題点を解消させ得る、新たな構造のアルゴリズムを提供する。当該構造は、トレーニング部と検知・識別部を有する。トレーニング部は、実験により収集した光ファイバ初期信号に対して統計分析を行い、振動を検知及び識別する特徴を取得してアルゴリズムパラメータを抽出する。検知・識別部は、トレーニング部が取得したパラメータに基づき、所定の信号処理手順に従って振動を検知して当該振動のカテゴリを識別するとともに、当該振動の時空間特定を完了させる。
【0013】
本発明で提供されるアルゴリズムは、実験で収集した光ファイバ信号データの統計パラメータに基づいて行われる。これにより、当該アルゴリズムは、振動を検知及び識別する際に遭遇する干渉及び/又はノイズを正確に処理することができ、且つ、理論モデルに基づいて振動を検知及び識別する方法において生じるモデル誤差の問題を回避することができる。
【0014】
本発明にて検知及び識別される振動として、例えば、歩行者、自動車、列車、風、雨、雪等に起因した環境振動が挙げられる。そして、本発明が適用される分野として、例えば、石油・ガスパイプラインにおける掘削防止、盗難防止及び/又は漏れ防止;石油・ガス井戸における漏れ防止、水流外乱検出及び/又は物理探査;鉄道、空港や博物館等の公共施設における侵入防止;市役所、刑務所や軍事基地等の政府・国家建造物におけるセキュリティ防御やセキュリティ対策;国境における侵入防止や違法越境の防止が挙げられる。
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る方法のフローチャート図である。図1に示すように、当該方法は、ステップ1(特徴拡張ステップ)と、ステップ2(次元削減行列算出ステップ)と、ステップ3(線形次元削減ステップ)と、ステップ4(一次分類ステップ)と、ステップ5(二次分類ステップ)とを有する。
【0017】
[ステップ1(特徴拡張ステップ)]
ステップ1では、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張して、拡張特徴関数ベクトルを取得する。分布型光ファイバセンサが取得する入力データである振動信号は、時間tと空間位置dの二次関数f(t,d)とみなされる。当該ステップでは、この入力データである振動信号f(t,d)を非線形変換によって複数の拡張特徴関数に変換する。拡張特徴関数の具体例として、次の(1)~(8)が挙げられる。
【0018】
【数1】
【0019】
上記(1)~(8)の拡張特徴関数のうち、例えばg(t,d)又はg(t,d)によって、非線形性を初期データに導入することができ、他方、例えばg(t,d)、g(t,d)、g(t,d)、g(t,d)又はg(t,d)によって、所定の時間及び空間窓内のデータを関連付けることができる。その結果、振動の検知及び識別の精度が向上する。尚、上記(1)~(8)はいずれも拡張特徴関数の例に過ぎない。そして、ステップ1では、拡張特徴関数を組合せることにより、拡張特徴関数ベクトルg(t,d)を形成する。
【0020】
[ステップ2(次元削減行列算出ステップ)]
ステップ1の次のステップでは、拡張特徴関数ベクトルの次元を削減するために、次元削減行列を算出する必要がある。そこで、ステップ2では、拡張特徴関数ベクトルg(t,d)に基づいて特徴統計分析を行い、次元削減行列Wを算出する。算出方法は、線形の次元削減アルゴリズムであるフィッシャー線形判別に従って行う。具体例であるサブステップ21~23を次に示す。
【0021】
(サブステップ21)
まず、分類しようとするカテゴリCの振動(振動無しを含む)に対して、振動モードc毎にK個の下記式で表されるトレーニングサンプルセットを収集する。振動カテゴリcに対応する時間tと空間位置dの拡張特徴関数ベクトルg(t,d)の値から得られる。
【0022】
【数2】
【0023】
(サブステップ22)
次に、振動カテゴリ毎に、以下の統計量を算出する。
【0024】
【数3】
【0025】
(サブステップ23)
そして、下記式で表される行列の特徴値を算出して分解する。そして、Q個の最大特徴値に対応する特徴ベクトルを取得する。次元削減行列Wの列は特徴ベクトルから構成される。
【0026】
【数4】
【0027】
上記アルゴリズムは、線形の次元削減行列を実現させる一例である。本発明の実施形態に係る方法では、上記アルゴリズムに代えて、例えば主成分分析(PCA)や独立成分分析(ICA)といったその他の線形の次元削減アルゴリズムを用いてもよい。
【0028】
[ステップ3(線形次元削減ステップ)]
ステップ3では、振動信号の初期データと、先に取得した拡張特徴関数{f(t,d),g(t,d),g(t,d),g(t,d),・・・,gP-1(t,d)}を線形に組合せて圧縮し、次元を削減した所定数の特徴関数{h(t,d),h(t,d),h(t,d),・・・,h(t,d)}を取得する。次元削減結果は、下記式で表される行列方程式から得られる。
【0029】
【数5】
【0030】
[ステップ4(一次分類ステップ)]
ステップ4では、次元削減後の特徴ベクトルh(t,d)を、トレーニングを経た制御パラメータを有する分類器(以下、一次分類器ともいう)に入力し、振動カテゴリcを出力する。振動カテゴリcの値は、c=1,2,・・・,Cとすることができ、カテゴリc=1は振動無しを意味する。前記分類器として決定木分類器を用いることができるが、ニューラルネットワーク或いはサポートベクトルマシン(SVM)を含んでなる分類器を用いてもよい。各種トレーナーについては機械学習理論で提示されているため、ここではこれ以上詳述しない。前記分類器の制御パラメータは、トレーニングによって得られる。前記パラメータのトレーニング方法では、分類しようとするカテゴリCの振動のトレーニングサンプルセット{(h,c),(h,c),(h,c),・・・}が入力される。ここで、(h,c)は振動カテゴリがcのトレーニングサンプルを表し、hは当該カテゴリの振動発生時刻tと空間位置dに対応して次元を削減した特徴関数ベクトルh(t,d)の値である。具体的なアルゴリズム構成は一次分類器に対応しており、例えば定木トレーナー、ニューラルネットワークトレーナー及びサポートベクトルマシントレーナーを挙げることができる。
【0031】
当該ステップ4は一次分類を実現するためのものであり、ステップ4での出力には一定のエラーが存在するものの、次ステップでの二次分類によって是正される。
【0032】
[ステップ5(二次分類ステップ)]
ステップ5では、ステップ4にて得られた一次分類結果e(t,d)に対して修正を行う。当該修正には、誤検出された振動の削除及び/又は誤分類された振動の補正が含まれる。実際の過程では、カテゴリの違いによって、振動の持続時間及び/又は関連する空間範囲が大きく、前記特徴拡張関数がカバーする範囲を超えることがある。そのため、より高い次元から、より広い時空間範囲の分類結果を用いて二次分析する必要がある。具体例であるサブステップ51~53を次に示す。
【0033】
(サブステップ51)
まず、ステップ4にて得られた一次分類結果e(t,d)を下記式で表される論理変数に変換する。当該論理変数は、0と1の値からなる一系列の変数である。
【0034】
【数6】
【0035】
(サブステップ52)
次に、論理ルールベース内の論理ルールに基づいて、振動カテゴリ毎にスコアを算出する。
【0036】
ここで、各論理ルールは次の(a)と(b)を含む。
【0037】
【数7】
【0038】
(サブステップ53)
そして、下記式で表される、最高スコアに対応する振動カテゴリを出力する。
【0039】
【数8】
上記論理式の具体的形式を説明するために、ここでは2つの具体例であるJ(L)及びJ(L)を示す。
【0040】
【数9】
【0041】
(L)は、現在の時刻と、1つ前の時刻或いはさらに1つ前の時刻とにおいて、一次分類器によってカテゴリ1の振動が検出された場合の論理イベントを表す。
【0042】
(L)は、現在の位置と、その前と後にて隣り合う2つの位置とにおいて、一次分類器によってカテゴリ5の振動が検出された場合の論理イベントを表す。
【0043】
図2は本発明の実施形態に係るシステムのブロック図(機能モジュールの模式図)である。当該システムは、上記実施形態にて説明した方法に対応している。具体的には、本発明の実施形態に係るシステムは、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステムであり、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットとを有する。
【0044】
前記システムは、前記パラメータデータベースをさらに有してもよい。前記パラメータデータベースは、前記次元削減行列、分類器パラメータ及び論理ルールベースの少なくとも1つの蓄積に用いることができる。
【0045】
上述したように、本発明の一局面は、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得するステップ1(特徴拡張ステップ)と、前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出するステップ2(次元削減行列算出ステップ)と、前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得するステップ3(線形次元削減ステップ)と、パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得するステップ4(一次分類ステップ)と、前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力するステップ5(二次分類ステップ)とを備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定する方法である。
【0046】
上記の方法において、前記ステップ2が、番号cの振動カテゴリに対して、下記式1で表されるトレーニングサンプルセットを収集するサブステップ21と、振動カテゴリ毎に、下記式2で表されるクラスタの中心、下記式3で表されるクラスタ内の分散、下記式4で表されるクラスタ内の分散の和、下記式5で表される全データの中心及び下記式6で表されるクラスタ間の分散を算出するサブステップ22と、下記式7で表される行列の特徴値を算出して分解し、Q個の最大特徴値及び対応する特徴ベクトルを取得し、前記特徴ベクトルの列で前記次元削減行列を構成するサブステップ23とを備えることが好ましい。
【0047】
【数10】
【0048】
上記の方法において、前記ステップ2では主成分分析又は独立成分分析によって前記次元削減行列を取得することが好ましい。
【0049】
上記の方法において、前記ステップ5が、下記式8で表される前記一次分類結果を下記式9で表される論理変数に変換するサブステップ51と、論理ルールベース内のB個の全論理式{J(L),J(L),・・・,J(L)}に対して、下記式10で表される算出式に基づいて振動カテゴリ毎にスコアを算出するサブステップ52と、二次分類器の出力として、下記式11で表される最高スコアに対応する振動カテゴリを出力するサブステップ53とを備えることが好ましい。
【0050】
【数11】
【0051】
本発明の他の一局面は、分布型光ファイバセンサからの振動信号の初期データに対して特徴を拡張し、拡張特徴関数ベクトル及びC個の振動カテゴリを取得する特徴拡張ユニットと、前記拡張特徴関数ベクトルに基づいて、次元削減行列を算出する次元削減行列算出ユニットと、前記次元削減行列を前記初期データ及び前記拡張特徴関数ベクトルに作用させて、次元を削減した特徴関数を取得する線形次元削減ユニットと、パラメータデータベースから一次分類パラメータを取得して分類し、前記振動信号の一次分類結果を取得する一次分類ユニットと、前記一次分類結果に対して誤検出結果の削除及び誤分類の修正を行い、前記振動信号の二次分類結果を取得して出力する二次分類ユニットとを備える、光ファイバ信号の特徴に基づき振動を検知及び識別し且つ時空間を特定するシステムである。
【0052】
上記のシステムにおいて、前記パラメータデータベースは前記次元削減行列、分類器パラメータ及び論理ルールベースの少なくとも1つの蓄積に用いられることが好ましい。
【0053】
本発明は以下の技術的効果を奏する。
【0054】
本発明は、時間、空間及び周波数帯域における特徴を非線形に拡張することで非線形性を初期データに導入し、所定の時間及び空間窓内のデータを関連付ける。これにより、後続する処理において、1つの時空間領域内の振動信号は分類器によって単独点として分析されるのではなく、組合せて分析及び分類されることが可能となる。その結果、本発明では特徴の上記拡張によって振動を検知する精度が向上する。
【0055】
又、本発明は、振動カテゴリを識別する際、2段階で識別を行う方式を採用している。第1段階では、拡張した特徴データを用いて振動カテゴリを一次分類する。第2段階では、論理ルールに従って一次分類結果を修正する。具体的には、所定の論理ルールに従って相対的に大きな時空間範囲内の振動検知結果を関連付けて、偶発的な干渉及び誤識別に起因した識別エラーを除去する。これにより、本発明では振動を識別する精度が向上する。
【0056】
さらに、本発明は、上記2段階の識別分類方式において、統計分類技術と、光ファイバ信号検知分野における分類経験とを効果的に組合せている。これにより、本発明では識別アルゴリズムの精度が確保される。
【0057】
本発明によれば、例えば、鉄道における環境振動を4層の決定木分類器を用いて検知及び識別した場合には、空間識別率:±10m、振動に対する応答:3秒以下、1週間における誤検知:1回/日以下、1週間における検知漏れ:0回という信頼性及び精度を実現することができる。これに対して、人工知能(AI)で当該鉄道における環境振動を検知及び識別した場合には、1週間における誤検知:12回/日以上という信頼性及び精度であった。このように、本発明は、AIと比べて、相対的に少ないトレーニングデータを用いるものの、相対的に速く且つ正確に振動を検知及び識別し且つ時空間を特定することができる。
【0058】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は当該実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0059】
本発明をエリアセキュリティシステムに適用して、当該エリアセキュリティシステムにおける3種類の侵入行為(即ち、フェンスのよじ登り、フェンス殴打、光ファイバ侵犯)に起因した振動の区別を行った。上記3種類の侵入行為における検知信号を図3~5に示す。より具体的には、図3は実施例においてフェンスによじ登った場合に発生した振動信号を表した図であり、図4は実施例においてフェンスを殴打した場合に発生した振動信号を表した図であり、図5は実施例において光ファイバを侵犯した場合に発生した振動信号を表した図である。これら図において、X Axisは光ファイバの位置を表し、Y Axisは振動周波数を表し、Z Axisは振動強度を表す。
【0060】
図3~5に示すように、侵入行為の違いによって、当該侵入行為の動作に対応した特徴ベクトルにはかなり顕著な差が現れた。具体的には、フェンスによじ登った場合のエネルギー分布は周波数帯域のうち主に低周波数帯域に集中していたが、フェンスを殴打した場合のエネルギー分布はフェンスによじ登った場合と比べて相対的に高周波数側に偏移していた。そして、光ケーブルを侵犯した場合のエネルギー分布は主に高周波数域にあった。上記3種類の侵入行為の動作に対応した特徴ベクトルはこのような大きな違いを有していたため、これらは特徴ベクトルの有効なトレーニングとして利用可能であった。
【0061】
そこで、上記3種類の侵入行為に対する大量の実験を行い、収集した光ファイバセンシングデータをトレーニングデータとした。具体的には、順に配列された19991個のcsvデータ(100列)を時間毎に収集し、19991行×100列のcsvファイルに合成することで、当該イベントの初期特徴データファイルfeature.csvを得た。そして、前記feature.csvと同じ行列数のcsvファイルtarget.csvを構築した。前記target.csvの全データには最初に0が付与されており、実験記録及びデータ比較に基づいて、12番目のチャンネルを実験イベント発生チャンネルとした。前記target.csvにおける12列目にイベントのデータを付与した。具体的には、イベントのデータとして、フェンスによじ登った場合には1を、フェンスを殴打した場合には2を、光ファイバを侵犯した場合には3をそれぞれ付与した。特徴に基づいて結果を抽出する際には、下記の特徴拡張式を使用した。
【0062】
【数12】
【0063】
アルゴリズムプログラムを実行した後、生成された定木をエリアセキュリティシステムに適用し、大量の検知試験を実施した。その結果を次に示す。
【0064】
まず、2000回のフェンスのよじ登りに対する検知試験では、検知漏れが11回、誤検知が21回発生した。当該誤検知のうち、フェンス殴打行為が6回、光ファイバ侵犯行為が15回であった。
【0065】
次に、2000回のフェンス殴打に対する検知試験では、検知漏れが5回、誤検知が13回発生した。当該誤検知のうち、フェンスよじ登り行為が3回、光ファイバ侵犯行為が10回であった。
【0066】
そして、2000回の光ファイバ侵犯に対する検知試験では、検知漏れが3回、誤検知が31回発生した。当該誤検知のうち、フェンスよじ登り行為が26回、フェンス殴打行為が5回であった。
【0067】
全体のエラー率は((11+21)+(5+13)+(3+31))/(2000+2000+2000)×100=1.4%であり、エリアセキュリティシステムで要求される3種類の侵入行為のカテゴリ分類が実現された。
【0068】
この出願は、2018年12月29日に出願された中華人民共和国発明専利出願201811635297.3号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0069】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。従って、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を逸脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
図1
図2
図3
図4
図5