(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】アレイアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/06 20060101AFI20220822BHJP
H01P 1/18 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
H01Q21/06
H01P1/18
(21)【出願番号】P 2018189647
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 庸平
(72)【発明者】
【氏名】山下 和郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 礼
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105303(WO,A1)
【文献】国際公開第01/045208(WO,A1)
【文献】特開昭51-046848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/18
H01Q 21/00- 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電点を有する給電線と、
前記給電線に直列に付加された複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の上流側に夫々設けた複数の1/4λ変成器とを備え、
複数の周波数に対して、前記複数のアンテナ素子における位相偏差が小さくなるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項2】
前記給電点から前記複数のアンテナ素子までの複数の給電線の経路における位相が同じになるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ。
【請求項3】
前記複数のアンテナ素子は基準周波数で励振され、
前記基準周波数と異なる前記複数の周波数に対して、前記複数のアンテナ素子における前記位相偏差が小さくなるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアレイアンテナ。
【請求項4】
前記複数の1/4λ変成器は、前記給電線における幅を変化させて構成される、ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のアレイアンテナ。
【請求項5】
前記複数の1/4λ変成器は、前記給電線を分岐させて構成させる、ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のアレイアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子(放射素子)が配設されたアレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、複数個の放射素子を直線状、平面状、あるいは曲面状などに配列し、その全部あるいは一部を励振し、励振電流(電圧)の振幅と位相を制御して所望の放射指向性(放射パターン)を得るアレイアンテナが知られている。
【0003】
アレイアンテナのなかでも、直列給電回路を用いた直列給電型アレイアンテナは、並列給電回路を用いた並列給電型アレイアンテナと比べて構造が簡単であるという利点を持つ。また、直列給電型アレイアンテナは、並列給電型アレイアンテナと比べて各放射素子までの平均的な給電線路長を短く、給電損失を小さく抑えることができる。また、直列給電型アレイアンテナは,給電点から各アンテナ素子までの物理的な線路長が等長でないため,アレイアンテナを含む面内の主ビームの方向をアンテナ素子間隔で任意に設計できる。
【0004】
直列給電回路の主線路の途中に位相器を組込み,位相の補正を行う技術が特許文献1の段落0011に開示されている。この技術では位相器は「(アンテナ素子の数)-1」個だけ必要となる。また、直列給電回路とアンテナ素子の間に位相器を組込み、位相の補正を行う技術が非特許文献1に開示されている。この技術では位相器はアンテナ素子の数だけ必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】電子情報通信学会編、「アンテナ工学ハンドブック(第2版)」、オーム社、平成20年7月25日発行、p422~p423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、直列給電型アレイアンテナには、放射される電磁波の主ビームの方向が周波数に応じて変化してしまうという技術的な問題があった。
【0008】
即ち、直列給電型アレイアンテナでは、給電線に直列に付加されたアンテナ素子の間隔に応じた特定の周波数(基準周波数)を有する高周波電流を入力したときに、各アンテナ素子から放射される電磁波が特定の方向で同位相になる。直列給電型アレイアンテナは、このときに放射される電磁波(各アンテナ素子から放射される電磁波を重ね合わせたもの)の主ビーム方向が所望の方向(例えば、アンテナ素子が形成された面に垂直な方向)に一致するように設計されている。ここで、入力される高周波電流の周波数が変化すると、各アンテナ素子から放射される電磁波の位相の関係が変化し、各アンテナ素子の位相偏差が大きくなり、その結果、放射される電磁波の主ビームの方向が変化する。このため、入力される高周波電流の周波数が上記特定の周波数から外れると、放射される電磁波の主ビーム方向が基準周波数での主ビームの方向である所望の方向から外れてしまい、所望の方向の利得が低下してしまう。このため直列給電型アレイアンテナの利得は狭帯域特性となってしまうという技術的な問題点が生じる。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、周波数が変化しても主ビームの方向が所望の方向から外れ難く、アンテナの利得が広帯域化された直列給電型アレイアンテナを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、給電点を有する給電線と、前記給電線に直列に付加された複数のアンテナ素子と、前記複数のアンテナ素子の上流側に夫々設けた複数の1/4λ変成器とを備え、複数の周波数に対して、前記複数のアンテナ素子における位相偏差が小さくなるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とするアレイアンテナである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアレイアンテナにおいて、前記給電点から前記複数のアンテナ素子までの複数の給電線の経路における位相が同じになるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のアレイアンテナにおいて、前記複数のアンテナ素子は基準周波数で励振され、前記基準周波数と異なる前記複数の周波数に対して、前記複数のアンテナ素子における前記位相偏差が小さくなるように、前記複数の1/4λ変成器のインピーダンスを変化させる、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のアレイアンテナにおいて、前記複数の1/4λ変成器は、前記給電線における幅を変化させて構成される、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のアレイアンテナにおいて、前記複数の1/4λ変成器は、前記給電線を分岐させて構成させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、複数の周波数に対して、複数のアンテナ素子における位相偏差が小さくなる。これにより、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の主ビームの方向は一定の方向に沿っている。これにより、周波数が変化しても、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の主ビームの方向の利得を高く維持することができる。以上の結果、直列給電型アレイアンテナの利得は周波数に依存しない広帯域特性を実現可能である。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、給電点から複数のアンテナ素子までの複数の給電線の経路における位相が同じになる。入力される高周波電流の周波数が変化しても、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の位相は同じである。これにより、入力される高周波電流の周波数が変化しても、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の主ビームの方向は一定の方向に沿っている。これにより、周波数が変化しても、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の主ビームの方向の利得を高く維持することができる。以上の結果、直列給電型アレイアンテナの利得は周波数に依存しない広帯域特性を実現可能である。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、基準周波数と異なる複数の周波数に対して、複数のアンテナ素子における位相偏差が小さくなる。これにより、入力される高周波電流の周波数が基準周波数から外れても、複数のアンテナ素子から夫々放射される電磁波の主ビームの方向は基準周波数における主ビームの方向である所望の方向に沿っている。これにより、入力される高周波電流の周波数が基準周波数から外れても、基準周波数における主ビームの方向である所望の方向の利得を高く維持することができる。これにより、直列給電型アレイアンテナにおいて、周波数が変化しても主ビームの方向が所望の方向から外れ難く、アンテナの利得を広帯域化させることを実現可能である。以上の結果、直列給電型アレイアンテナの利得は周波数に依存しない広帯域特性を実現可能である。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、簡便な構成で1/4λ変成器を実現可能である。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、簡便な構成で1/4λ変成器を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るアレイアンテナ1の構成を概念的に示す概念図である。
【
図2】本実施形態及び比較例に係るアレイアンテナ1の詳細構成を模式的に示す模式図(
図2(a)及び
図2(b))である。
【
図3】本実施形態及び比較例に係るアレイアンテナ1の一つのアンテナ素子の詳細構成を模式的に示す模式図(
図3(a)及び
図3(b))である。
【
図4】比較例及び本実施形態に係る周波数の変化に伴う位相偏差の変化を示したグラフ(
図4(a)及び
図4(b))である。
【
図5】比較例に係る周波数が増減した場合の位相及び位相偏差の変化を定量的に示した模式図(
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c))である。
【
図6】本実施形態に係る周波数が増減した場合の位相及び位相偏差の変化を定量的に示した模式図(
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c))である。
【
図7】本実施形態及び比較例に係る周波数の変化に伴う利得の変化を示したグラフである。
【
図8】第2の実施形態に係るアレイアンテナ1の一つのアンテナ素子の詳細構成を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪第1の実施形態≫
〔アレイアンテナ装置の構成〕
本発明の第1の実施形態に係るアレイアンテナ装置1について、
図1~
図3を参照して説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るアレイアンテナ装置1の構成を概念的に示す概念図である。
図2は、本実施形態及び比較例に係るアレイアンテナ装置1の詳細構成を模式的に示す模式図(
図2(a)及び
図2(b))である。
図3は、本実施形態に係るアレイアンテナ装置1の一つのアンテナ素子の詳細構成を模式的に示す模式図である。
【0023】
アレイアンテナ装置1は、
図1及び
図2(a)に示すように、18個のアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9と、18個の1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9と、給電線11と、送信源12を備えて構成されている。尚、アンテナ素子の数は18個に限定されない。
【0024】
アンテナ素子A1、A2、…、A9としてはダイポールアンテナなどの線状アンテナや、スロットアンテナ、マイクロストリップアンテナなどの低利得でビーム幅の広いアンテナが広く用いられる。
【0025】
給電線11には、アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9が直列に付加されている。アンテナ素子A1、A2、…、A9は、給電線11の給電点13の右側から数えて1番目、2番目、…、9番目の放射素子であり、アンテナ素子a1、a2、…、a9は、給電線11の給電点13の左側から数えて1番目、2番目、…、9番目の放射素子である。
【0026】
送信源12は、給電線11と共にアンテナ素子を基準周波数で励振する給電回路を構成する。即ち、送信源12は、直線状に配列された18個のアンテナ素子の全部を励振し、励振電流(電圧)の振幅と位相を制御して所望の放射指向性(放射パターン)を得る。
【0027】
給電線11の各アンテナ素子の上流側には、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9が設けられている。1/4λ変成器(transformer)は、計測、制御用または電子回路の直流分離やインピーダンス変換用などに用いられる電磁結合素子である。
【0028】
特に、本実施形態によれば、複数の周波数に対して全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の位相が揃うように1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9により給電線11全体のインピーダンスは調節されている。言い換えると、高周波電流の周波数fが基準周波数f0から離れても各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の位相偏差は小さくなるように1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9が給電線に設けられ給電線全体のインピーダンスは調節されている。
【0029】
具体的には、本実施形態では、給電回路のインピーダンスが変化するところ、例えば給電線の線路幅が変わるところや分岐するところにおいて、起こる反射によって位相が変化することを利用して、給電点13から各アンテナ素子までの線路長を電気的に等長に近付ける。即ち、給電点13から各アンテナ素子までの給電線11の長さが基準周波数f0に対応する実効波長λ0=c/f0の整数倍になるように定められている。ここで、cは、光速である。
【0030】
より具体的には、
図3(a)に加えて
図2に示すように、アンテナ素子A4の給電線11の上流側には1/4λ変成器H4が設けられる。1/4λ変成器H4は、λ/4の長さを持った所定の特性インピーダンスの伝送線路であり、太い伝送線路と細い伝送線路によって構成される。これにより、伝送線路内を電流がアンテナ素子A4の方向に流れる電流C1及び次のアンテナ素子の方向へ流れる電流C2に加えて、送信源12の方向へ戻って流れる、即ち反射して流れる電流C3が生じる。このアンテナ素子A4における電流の流れが、全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9について同様に生じる。これにより、簡便な構成で1/4λ変成器を実現可能である。
【0031】
このように、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9において起こる反射によって全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の位相が変化することを利用して、隣り合うアンテナ素子間の電気的な線路長を等長に近付ける。即ち、給電点13から各アンテナ素子までの給電線11の長さが基準周波数f0に対応する実効波長λ0=c/f0の整数倍になるように定められている。
【0032】
これにより、主ビームの方向が周波数によって変化しないようにすることができる。即ち、給電点13に近いアンテナ素子ほど多重反射を起こして位相を遅らせ、給電点13から遠いアンテナ素子との伝搬路長の差(言い換えると、位相偏差)を減少させる。
【0033】
一般的な直列給電回路(即ち、比較例に係る直列給電回路)は
図2(b)及び
図3(b)に示すように、各アンテナ素子B1、B2、…、B9、b1、b2、…、b9に夫々設けられた各分岐回路I1、I2、…、I9、i1、i2、…、i9で所望の分配比と反射量が得られるように設計する。言い換えると、基準周波数から離れて変化した位相を位相器I1、I2、…、I9、i1、i2、…、i9で補正して揃えるため、アンテナ素子B1、B2、…、B9、b1、b2、…、b9の数だけ位相器I1、I2、…、I9、i1、i2、…、i9を用意し、位相変動量に応じて補正量を制御する必要が生じてしまう。加えて、位相器I1、I2、…、I9、i1、i2、…、i9を全てのアンテナ素子B1、B2、…、B9、b1、b2、…、b9に対応した広範囲の調整範囲にわたり十分に整合させることが技術的に困難となってしまう。より具体的には、
図3(b)及び
図2(b)に示すように、比較例に係る直列給電回路は、一様な伝送線路によって構成され、伝送線路内をアンテナ素子B4の方向に流れる電流C1’及び次のアンテナ素子の方向へ流れる電流C2’が生じる。比較例では
図3(a)で示した本実施形態のように反射して流れる電流は生じない。このアンテナ素子B4における電流の流れが、全てのアンテナ素子B1、B2、…、B9、b1、b2、…、b9について同様に生じる。
【0034】
これに対し、本実施形態では、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9を各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の上流側に夫々設けることで、全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9を含めた給電回路全体でインピーダンスを最適化し、所望の分配比、反射量、位相が得られるように設計する。言い換えると、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9を各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の上流側に夫々設けることで、複数の周波数に対して全てのアンテナ素子の位相が揃うように給電線全体のインピーダンスは調節されているので、高周波電流の周波数fが基準周波数f0から離れても各アンテナ素子の位相偏差は小さくなるように給電線全体のインピーダンスは設定されている。このように本実施形態では位相器を必要としないため、コストやスペースにおいて利益を有する。
【0035】
また一般的な直列給電回路では出力に関して実現困難なために給電損失の大きな並列給電型を採用せざるを得なかった周波数帯域においても、必要な周波数帯域によっては本実施形態に置換えることができる。その際に、利得の向上を実現可能である。
【0036】
特に、本実施形態において、給電線11における各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の位置は、給電線11に入力される高周波電流の周波数fが基準周波数f0であるときに、各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9から放射される電磁波の位相φA1(f0)、位相φA2(f0)、…、位相φA9(f0)、位相φa1(f0)、位相φa2(f0)、…、位相φa9(f0)が0(ゼロ)に一致するように定められている。
【0037】
加えて、給電線11における各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9に夫々設けられた1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9のインピーダンスは、給電線11に入力される高周波電流の周波数fがf0+Δf>f0であるときに、各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9から放射される電磁波の位相φA1(f0+Δf)、位相φA2(f0+Δf)、…、位相φA9(f0+Δf)、位相φa1(f0+Δf)、位相φa2(f0+Δf)、…、位相φa9(f0+Δf)が例えば-45度に一致するように定められている。
【0038】
加えて、給電線11における各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9に夫々設けられた1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9のインピーダンスは、給電線11に入力される高周波電流の周波数fがf0-Δf<f0であるときに、各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9から放射される電磁波の位相φA1(f0-Δf)、位相φA2(f0-Δf)、…、位相φA9(f0-Δf)、位相φa1(f0-Δf)、位相φa2(f0-Δf)、…、位相φa9(f0-Δf)が例えば+45度に一致するように定められている。
【0039】
これにより、電磁波の位相φA1(f0+Δf)、位相φA2(f0+Δf)、…、位相φA9(f0+Δf)、位相φa1(f0+Δf)、位相φa2(f0+Δf)、…、位相φa9(f0+Δf)を、所定の周波数帯域において理論上一致させることができる。加えて、電磁波の位相φA1(f0-Δf)、位相φA2(f0-Δf)、…、位相φA9(f0-Δf)、位相φa1(f0-Δf)、位相φa2(f0-Δf)、…、位相φa9(f0-Δf)を、所定の周波数帯域において理論上一致させることができる。これにより、アレイアンテナ装置1の主ビーム方向を所望の方向(例えばアレイアンテナ装置1の放射表面に垂直な方向)に一致させることができる。
【0040】
〔作用効果の検討〕
次に、
図4乃至
図7を参照して、本実施形態に係る周波数の変化に伴う主ビームの利得の向上について、その作用効果と共に検討する。ここに、
図4は、比較例及び本実施形態に係る周波数の変化に伴う位相の変化を示したグラフ(
図4(a)及び
図4(b))である。横軸は周波数の比を示し、縦軸は位相[度]を示す。
図5は、比較例に係る周波数が増減した場合の位相及び位相偏差の変化を定量的に示した模式図(
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c))である。
図6は、本実施形態に係る周波数が増減した場合の位相及び位相偏差の変化を定量的に示した模式図(
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c))である。
図7は、本実施形態及び比較例に係る周波数の変化に伴う利得の変化を示したグラフである。横軸は周波数の比を示し、縦軸は利得[dBi]を示す。
【0041】
〔比較例においてf=f0の場合〕
比較例によれば、直列給電型アレイアンテナでは、給電線に直列に付加されたアンテナ素子の間隔に応じた基準周波数を有する高周波電流を入力したときに、各アンテナ素子から放射される電磁波が同位相になる。直列給電型アレイアンテナは、このときに放射される電磁波(各アンテナ素子から放射される電磁波を重ね合わせたもの)の主ビーム方向が所望の方向(例えば、アンテナ素子が形成された面に垂直な方向)に一致するように設計されている。
【0042】
具体的には、
図4(a)に示すように、高周波電流の周波数fが基準周波数f0と等しい場合、各アンテナ素子B1~B9の位相は0度(ゼロ度)となる。より具体的には
図5(a)に示すように高周波電流の周波数fが基準周波数f0と等しい場合、給電点13から近いアンテナ素子B1から遠いアンテナ素子B4になるに従って位相は360度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0に等しい場合、給電点13から最も近いアンテナ素子B1では位相が0度(位相偏差は0度)で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になっても、アンテナ素子B2では位相が-360度(位相偏差は0度)、アンテナ素子B3では位相が-720度(位相偏差は0度)、アンテナ素子B4では位相が-1080度(位相偏差は0度)となり、位相偏差はゼロのままである。
【0043】
〔比較例においてf=f0+Δfの場合〕
入力される高周波電流の周波数が基準周波数f0から増加側に変化すると、各アンテナ素子から放射される電磁波の位相の関係が変化し、給電点13から離れるに従ってアンテナ素子の位相偏差がマイナス側で大きくなる。そのため、放射される電磁波の主ビーム方向が変化する。このため、入力される高周波電流の周波数が上記基準周波数から増加側に外れると、放射される電磁波の主ビーム方向が所望の方向から外れてしまう。このため、基準周波数における主ビームの方向である所望の方向の利得が低下してしまう。
【0044】
具体的には、
図4(a)に示すように、高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から近いアンテナ素子から遠いアンテナ素子になるに従って位相は遅れる。より具体的には、
図4(a)のΔP’に示すように、周波数の比が1.02で約90度の位相偏差の誤差が生じる。より具体的には
図5(b)に示すように高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から近いアンテナ素子B1から遠いアンテナ素子B4になるに従って位相は380度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から最も近いアンテナ素子B1では位相が0度(位相偏差は0度)で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になるに従って、アンテナ素子B2では位相が-380度(位相偏差は-20度)、アンテナ素子B3では位相が-760度(位相偏差は-40度)、アンテナ素子B4では位相が-1140度(位相偏差は-60度)となり、位相偏差はマイナスで絶対値は大きくなる。
【0045】
これにより、等位相面は右に傾き主ビームの方向も右に傾き、基準周波数での主ビームの方向である所望の方向の利得が低下する。具体的には、
図7に示すように、周波数fが、基準周波数f0から増加側に離れるに従って、利得は例えばΔd1だけ減少してしまう。
【0046】
〔比較例においてf=f0-Δfの場合〕
入力される高周波電流の周波数が基準周波数f0から減少側に変化すると、各アンテナ素子から放射される電磁波の位相の関係が変化し、給電点13から離れるに従ってアンテナ素子の位相偏差がプラス側で大きくなる。そのため、放射される電磁波の主ビーム方向が変化する。このため、入力される高周波電流の周波数が上記特定の周波数から外れると、放射される電磁波の主ビーム方向が所望の方向から外れてしまう。このため、基準周波数における主ビームの方向である所望の方向の利得が低下してしまう。
【0047】
具体的には、
図4(a)に示すように、高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から近いアンテナ素子から遠いアンテナ素子になるに従って位相偏差はプラスで絶対値は大きくなる。より具体的には
図5(c)に示すように高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から近いアンテナ素子B1から遠いアンテナ素子B4になるに従って位相は340度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から最も近いアンテナ素子B1では位相が0度(位相偏差は0度)で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になるに従って、アンテナ素子B2では位相が-340度(位相偏差は+20度)、アンテナ素子B3では位相が-680度(位相偏差は+40度)、アンテナ素子B4では位相が-1020度(位相偏差は+60度)となり、位相偏差はプラスで絶対値は大きくなる。
【0048】
このため、等位相面は左に傾き主ビームの方向も左に傾き、基準周波数での主ビームの方向である所望の方向の利得が低下する。具体的には、
図7に示すように、周波数fが、基準周波数f0から減少側に離れるに従って、利得は例えばΔd2だけ減少してしまう。
このため、比較例に係る直列給電型アレイアンテナの利得はf=f0、即ち、周波数の比が1である点をピークとした狭帯域特性となってしまう。
【0049】
〔本実施形態における特徴〕
これに対して、本実施形態では、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9を各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の上流側に夫々設けることで、全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9を含めた給電回路全体でインピーダンスを最適化し、所望の分配比、反射量、位相が得られるように設計する。言い換えると、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9を各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の上流側に夫々設けることで、複数の周波数に対して全てのアンテナ素子の位相が揃うように給電線全体のインピーダンスは調節されており、高周波電流の周波数fが基準周波数f0から離れても各アンテナ素子の位相偏差は小さくなるように給電線全体のインピーダンスは設定されている。更に言い換えると、1/4λ変成器H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9を各アンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9の上流側に夫々設けることで、複数の周波数に対して、隣り合うアンテナ素子間の電気的な長さが同じになるように給電線全体のインピーダンスは調節されており、高周波電流の周波数fが基準周波数f0から離れても各アンテナ素子の位相偏差は小さくなるように給電線全体のインピーダンスは設定されている。
【0050】
〔本実施形態においてf=f0の場合〕
本実施形態によれば、直列給電型アレイアンテナでは、給電線に直列に付加されたアンテナ素子の間隔に応じた基準周波数f0を有する高周波電流を入力したときに、各アンテナ素子から放射される電磁波が同位相になるように設定される。即ち、給電点13から各アンテナ素子までの給電線11の長さが基準周波数f0に対応する実効波長λ0=c/f0の整数倍になるように定められている。ここで、cは、光速である。直列給電型アレイアンテナは、このときに放射される電磁波(各アンテナ素子から放射される電磁波を重ね合わせたもの)の主ビーム方向が所望の方向(例えば、アンテナ素子が形成された面に垂直な方向)に一致するように設計されている。
【0051】
具体的には、
図4(b)に示すように、高周波電流の周波数fが基準周波数f0と等しい場合、各アンテナ素子A1~A9の位相偏差は0度(ゼロ度)となる。より具体的には
図6(a)に示すように高周波電流の周波数fが基準周波数f0と等しい場合、給電点13から近いアンテナ素子A1から遠いアンテナ素子A4になるに従って位相は360度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0に等しい場合、給電点13から最も近いアンテナ素子A1では位相が-360度(位相偏差は0度)で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になっても、アンテナ素子A2では位相が-360度(位相偏差は0度)、アンテナ素子A3では位相が-720度(位相偏差は0度)、アンテナ素子A4では位相が-1080度(位相偏差は0度)となり、位相偏差はゼロのままである。
【0052】
〔本実施形態においてf=f0+Δfの場合〕
入力される高周波電流の周波数が基準周波数f0から増加側に変化しても、各アンテナ素子から放射される電磁波の位相の関係は殆ど又は完全に変化せず、給電点13から離れるに従ってもアンテナ素子の位相は概ね一定である。これにより、放射される電磁波の主ビーム方向は殆ど又は完全に変化しない。これにより、入力される高周波電流の周波数が上記基準周波数から増加側に外れても、放射される電磁波の主ビームの方向は基準周波数における主ビームの方向である所望の方向に沿っている。これにより、所望の方向の利得は高いままである。
【0053】
具体的には、
図4(b)に示すように、高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から近いアンテナ素子から遠いアンテナ素子になるに従っても位相偏差は小さいままである。より具体的には、
図4(b)のΔPに示すように、周波数の比が1.02で約20度の位相偏差の誤差が生じる。より具体的には
図6(b)に示すように高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から近いアンテナ素子A1から遠いアンテナ素子A4になるに従って位相は360度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0+Δfだけ大きくなると給電点13から最も近いアンテナ素子A1では位相が-45度で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になるに従って、アンテナ素子A2では位相が-405度、アンテナ素子A3では位相が-765度、アンテナ素子A4では位相が-1125度となり、各アンテナ素子A1、A2、A3、A4間の位相偏差の誤差は小さいままである。
【0054】
これにより、等位相面は傾かず主ビーム方向も所望の方向に沿っている。これにより、基準周波数での主ビームの方向である所望の方向の利得は高いままである。具体的には、
図7に示すように、周波数fが、基準周波数f0から増加側に離れるに従って、利得は比較例より向上する。より具体的には、
図7のΔd1に示すように、周波数の比が1.025において、本実施形態に係る利得は比較例よりも2[dBi]だけ向上する。
【0055】
〔本実施形態においてf=f0-Δfの場合〕
入力される高周波電流の周波数が基準周波数f0から減少側に変化しても、各アンテナ素子から放射される電磁波の位相の関係は殆ど又は完全に変化せず、給電点13から離れるに従ってもアンテナ素子の位相偏差は概ね一定である。これにより、放射される電磁波の主ビーム方向は殆ど又は完全に変化しない。これにより、入力される高周波電流の周波数が上記基準周波数から減少側に外れても、放射される電磁波の主ビーム方向は所望の方向に沿っている。これにより、基準周波数における主ビームの方向である所望の方向の利得は高いままである。
【0056】
具体的には、
図4(b)に示すように、高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から近いアンテナ素子から遠いアンテナ素子になるに従っても位相偏差は小さいままである。より具体的には
図6(c)に示すように高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から近いアンテナ素子A1から遠いアンテナ素子A4になるに従って位相は360度ずつマイナスに推移する。即ち、高周波電流の周波数fがf0-Δfだけ小さくなると給電点13から最も近いアンテナ素子A1では位相が45度で、給電点13から遠くなるアンテナ素子になるに従って、アンテナ素子A2では位相が-315度、アンテナ素子A3では位相が-675度、アンテナ素子A4では位相が-1035度となり、各アンテナ素子A1、A2、A3、A4間の位相偏差の誤差は小さいままである。
【0057】
これにより、等位相面は傾かず主ビーム方向も所望の方向に沿っている。これにより、基準周波数での主ビームの方向である所望の方向の利得は高いままである。具体的には、
図7に示すように、周波数fが、基準周波数f0から減少側に離れるに従って、利得は比較例より向上する。より具体的には、
図7のΔd2に示すように、周波数の比が0.975において、本実施形態に係る利得は比較例よりも6[dBi]以上向上している。
【0058】
以上の結果、本実施形態に係る直列給電型アレイアンテナの利得は周波数に依存しない広帯域特性を実現可能である。
【0059】
≪第2の実施形態≫
〔アレイアンテナ装置の構成〕
本発明の第2の実施形態に係るアレイアンテナ装置1について、
図8を参照して説明する。
図8は、第2の実施形態に係るアレイアンテナ装置1の一つのアンテナ素子の詳細構成を模式的に示す模式図である。
【0060】
図8に示すように、アンテナ素子A4の給電線11の上流側には1/4λ変成器H4’が設けられる。1/4λ変成器H4’は、λ/4の長さを持った所定の特性インピーダンスの伝送線路であり、水平な伝送線路と垂直な伝送線路によって構成される。これにより、伝送線路内を電流がアンテナ素子A4の方向に流れる電流C1及び次のアンテナ素子の方向へ流れる電流C2に加えて、送信源の方向へ戻って流れる電流C3が生じる。このアンテナ素子A4における電流の流れが、全てのアンテナ素子A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9について同様に流れる。これにより、簡便な構成で1/4λ変成器を実現可能である。
【0061】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 アレイアンテナ
11 給電線
12 送信源
13 給電点
A1、A2、…、A9、a1、a2、…、a9 アンテナ素子
H1、H2、…、H9、h1、h2、…、h9 1/4λ変成器
H4’ 1/4λ変成器