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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】偏光子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020554779
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019032974
(87)【国際公開番号】W WO2020090197
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018206896
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】三田 聡司
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/095815(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163224(WO,A1)
【文献】特開2010-054869(JP,A)
【文献】特開2016-153884(JP,A)
【文献】特開2005-062458(JP,A)
【文献】特公昭49-014856(JP,B1)
【文献】特開2006-276236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも延伸および染色することを含む、偏光子の製造方法であって、
該染色の後に、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにクエン酸と、水酸化リチウムと、を含む処理液を塗布または噴霧することを含み、
該処理液のpHが2.5~6.0の範囲であり、かつ、該処理液が該pHの範囲において緩衝作用を有し、
該染色がヨウ素による染色である、偏光子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を基材に塗布することにより形成されたポリビニルアルコール系樹脂層であり、該基材と該ポリビニルアルコール系樹脂層との積層体が、延伸および染色に供される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された保護フィルムと、該偏光子の他方の側に配置された粘着剤層とを有する粘着剤層付偏光板の製造方法であって、
請求項1に記載の方法により偏光子を製造すること、
該製造方法で得られた偏光子の一方の側に保護フィルムを貼り合わせること、および、
該偏光子の他方の側にリチウム塩を含有する粘着剤層を形成することを含む、粘着剤層付偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光子(実質的には、偏光子を含む偏光板)が配置されている。偏光子は、代表的には、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性物質で染色することにより製造される(例えば、特許文献1および2)。近年、画像表示装置の薄型化の要望が高まっている。そのため、偏光子についても、さらなる薄型化が求められている。しかし、偏光子が薄くなるほど、高温高湿環境下において信頼性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5048120号公報
【文献】特開2013-156391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高温環境下においた場合であっても信頼性の高い偏光子を簡便かつ安価に製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも延伸および染色することを含み、該染色の後に、該ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにクエン酸と、水酸化リチウムと、を含む処理液を塗布または噴霧することを含む。この処理液のpHは2.5~6.0の範囲であり、かつ、該pHの範囲において緩衝作用を有する。
1つの実施形態においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を基材に塗布することにより形成されたポリビニルアルコール系樹脂層であり、該基材と該ポリビニルアルコール系樹脂層との積層体が、延伸および染色に供される。
本発明の別の局面においては、粘着剤層付偏光板の製造方法が提供される。この製造方法は、偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された保護フィルムと、該偏光子の他方の側に配置された粘着剤層とを有する粘着剤層付偏光板の製造方法であって、上記の方法により偏光子を製造すること、該製造方法で得られた偏光子の一方の側に保護フィルムを貼り合わせること、および、該偏光子の他方の側にリチウム塩を含有する粘着剤層を形成することを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、薄型であっても高温高湿環境下における信頼性の高い偏光子を提供することができる。本発明の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂を染色した後、クエン酸と、水酸化リチウムと、を含む処理液をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに塗布または噴霧する。その結果、高温環境下における信頼性の高い偏光子を得ることができる。しかも、この製造方法は、特別な装置も複雑な操作も必要としないので、上記のような偏光子を簡便かつ安価に製造することができる。
【0007】
また、導電剤としてリチウム塩を含む粘着剤層を有する粘着剤層付偏光板では、粘着剤層の所望の導電性能が損なわれるという問題が起こり得る。具体的には、偏光子に含まれる他のカチオン(例えば、カリウムイオン)に比べて粘着剤層に含まれるリチウムイオンはヨウ素錯体をより安定させることができると考えられる。粘着剤層中のリチウムイオンと偏光子に含まれる他のカチオン(例えば、カリウムイオン)との交換反応が起こることで、粘着剤層に含まれるリチウムイオンが減少し、経時的に粘着剤層の所望の導電性能が損なわれる場合がある。本発明では、クエン酸と、水酸化リチウムと、を含む処理液を用いた処理が施された偏光子を用いて偏光板を作製する。これにより、処理液に含まれるリチウムイオンがまず偏光子に取り込まれるため、粘着剤層に含まれるリチウムイオンと偏光子に含まれる他のカチオンとの過剰な交換反応が抑制され、粘着剤層の所望の特性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光子の製造方法
A-1.偏光子の製造方法の概略
本発明の実施形態による偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムを、少なくとも延伸および染色することを含む。代表的には、当該製造方法は、PVA系樹脂フィルムを準備する工程、延伸工程、膨潤工程、染色工程、架橋工程、洗浄工程、および、乾燥工程を含む。PVA系樹脂フィルムが供される各工程は、任意の適切な順序およびタイミングで行われ得る。したがって、各工程を上記の順序で行ってもよく、上記とは異なる順序で行ってもよい。必要に応じて、1つの工程を複数回行ってもよい。さらに、上記以外の工程(例えば、不溶化工程)を任意の適切なタイミングで行ってもよく、染色工程以外の工程が省略されていてもよい。
【0010】
A-1-2.PVA系樹脂フィルム
PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%以上100モル%未満であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0011】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0012】
PVA系樹脂フィルムの厚みは、特に制限はなく、所望の偏光子の厚みに応じて設定され得る。PVA系樹脂フィルムの厚みは、例えば、10μm~200μmである。
【0013】
1つの実施形態においては、PVA系樹脂フィルムは、基材上に形成されたPVA系樹脂層であってもよい。基材とPVA系樹脂層との積層体は、例えば、上記PVA系樹脂を含む塗布液を基材に塗布する方法、基材にPVA系樹脂フィルムを積層する方法等により得ることができる。これらの場合、基材とPVA系樹脂層との積層体が、延伸工程、膨潤工程、染色工程、架橋工程および洗浄工程等に供される。
【0014】
以下、各工程について説明するが、上記のとおり各工程は任意の適切な順序で行われ得、記載順序に限定されるものではない。
【0015】
A-2.処理液の塗布または噴霧
本発明の製造方法は、染色の後に、PVA系樹脂フィルムにクエン酸と、水酸化リチウムと、を含む処理液を塗布または噴霧することを含む。処理液の塗布または噴霧は、染色の後であればよく、任意の適切なタイミングで行えばよい。処理液の塗布または噴霧は、具体的には、架橋工程の前に行ってもよく、後に行ってもよく、洗浄工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。延伸工程が染色工程の後に行われる場合には、処理液の塗布または噴霧は、延伸工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。膨潤工程が染色工程の後に行われる場合には、処理液の塗布または噴霧は、膨潤工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。不溶化工程が染色工程の後に行われる場合には、処理液の塗布または噴霧は、不溶化工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。代表的には、処理液の塗布または噴霧は、洗浄工程の後かつ乾燥工程の前、あるいは、2段階で乾燥工程を行う際の第1乾燥工程と第2乾燥工程との間に行われ得る。
【0016】
本発明で用いる処理液は、クエン酸と、水酸化リチウムと、を含む水溶液である。クエン酸を含む処理液は、例えば、他の緩衝作用を有する材料に比べて、より幅広いpH領域で緩衝作用を有し、結果として、高温環境下においてより優れた変色防止効果を有し得る。また、水酸化リチウムを含むことにより処理液のpHを所望の範囲に調整することができる。処理液は、pHが2.5~6.0の範囲であり、かつ、処理液はこの範囲において緩衝作用を有する。処理液のpHは、好ましくは3.0~5.7であり、より好ましくは3.5~4.8である。
【0017】
処理液におけるクエン酸の濃度は、好ましくは0.05重量%~5重量%であり、より好ましくは0.1重量%~0.5重量%である。
【0018】
本発明の製造方法は、このような処理液をPVA系樹脂フィルムに塗布または噴霧することにより、偏光子の高温環境下における変色を顕著に抑制することができる。これは、処理液の所定のpH領域における緩衝作用によりPVA系樹脂中のプロトンの発生を抑制することができ、結果として、高温環境下におけるPVA系樹脂中の多数の二重結合の発生(ポリエン化)を抑制し、変色を抑えることができたためであると考えられる。製造効率を考慮すると、このような処理液との接触は、通常、PVA系樹脂フィルムを処理液に浸漬することにより行われ得る。しかし、処理液への浸漬を含む製造方法により得られた偏光子は、浸漬時にPVA系樹脂フィルムが膨潤するので、当該PVA系樹脂フィルムにおけるヨウ素錯体の状態が変化しやすく、浸漬前後で偏光子の吸収スペクトルが変化しやすいという問題がある。一方、PVA系樹脂フィルムに処理液を塗布または噴霧することにより、浸漬における浸漬前後の偏光子の吸収スペクトル変化という不具合を防止し、結果としてPVAのポリエン化をさらに良好に防止することができる。
【0019】
処理液は、任意の適切な方法によってPVA系樹脂フィルムに塗布または噴霧される。塗布手段としては、例えば、リバースコーター、グラビアコーター(ダイレクト,リバースやオフセット)、バーリバースコーター、ロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ロッドコーターが挙げられる。噴霧手段としては、任意の適切な噴霧装置(例えば、加圧ノズル式、回転ディスク式)が挙げられる。
【0020】
A-3.延伸工程
延伸工程において、PVA系樹脂フィルムは、代表的には3倍~7倍に一軸延伸または二軸延伸される。延伸方向は、フィルムの長手方向(MD方向)であってもよく、フィルムの幅方向(TD方向)であってもよく、長手方向と幅方向の両方であってもよい。延伸方法は、乾式延伸であってもよく、湿式延伸であってもよく、これらを組み合せてもよい。また、架橋工程、膨潤工程、染色工程等を行う際にPVA系樹脂フィルムを延伸してもよい。なお、延伸方向は、得られる偏光子の吸収軸方向に対応し得る。
【0021】
A-4.膨潤工程
膨潤工程は、通常、染色工程の前に行われる。膨潤工程は、例えば、PVA系樹脂フィルムを膨潤浴に浸漬することにより行われる。膨潤浴としては、通常、蒸留水、純水等の水が用いられる。膨潤浴は、水以外の任意の適切な他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、アルコール等の溶媒、界面活性剤等の添加剤、ヨウ化物等が挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。好ましくは、ヨウ化カリウムが用いられる。膨潤浴の温度は、例えば、20℃~45℃である。また、浸漬時間は、例えば、10秒~300秒である。
【0022】
A-5.染色工程
染色工程は、PVA系樹脂フィルムを二色性物質で染色する工程である。好ましくは二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法、PVA系樹脂フィルムに当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。
【0023】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料が挙げられる。好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色液としては、ヨウ素水溶液が好ましく用いられる。ヨウ素水溶液のヨウ素の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.04重量部~5.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましく用いられる。ヨウ化物の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~15重量部である。
【0024】
染色液の染色時の液温は、任意の適切な値に設定することができ、例えば、20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる場合、浸漬時間は、例えば、5秒~5分である。
【0025】
A-6.架橋工程
架橋工程においては、通常、架橋剤としてホウ素化合物が用いられる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられる。好ましくは、ホウ酸である。架橋工程においては、ホウ素化合物は、通常、水溶液の形態で用いられる。
【0026】
ホウ酸水溶液を用いる場合、ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、例えば、1重量%~15重量%であり、好ましくは1重量%~10重量%である。ホウ酸水溶液には、ヨウ化カリウム等のヨウ化物、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛化合物をさらに含有させてもよい。
【0027】
架橋工程は、任意の適切な方法により行うことができる。例えば、ホウ素化合物を含む水溶液にPVA系樹脂フィルムを浸漬する方法、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに塗布する方法、または、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法が挙げられる。ホウ素化合物を含む水溶液に浸漬することが好ましい。
【0028】
架橋に用いる溶液の温度は、例えば、25℃以上であり、好ましくは30℃~85℃、さらに好ましくは40℃~70℃である。浸漬時間は、例えば、5秒~800秒であり、好ましくは8秒~500秒である。
【0029】
A-7.洗浄工程
洗浄工程は、代表的には、架橋工程以降に行われ得る。洗浄工程は、代表的には、PVA系樹脂フィルムを洗浄液に浸漬させることにより行われる。洗浄液の代表例としては、純水が挙げられる。純水にヨウ化カリウムを添加してもよい。
【0030】
洗浄液の温度は、例えば5℃~50℃である。浸漬時間は、例えば1秒~300秒である。
【0031】
A-8.乾燥工程
乾燥工程は、任意の適切な方法により行うことができる。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。加熱乾燥が好ましく用いられる。加熱乾燥を行う場合、加熱温度は、例えば、30℃~100℃である。また、乾燥時間は、例えば、20秒~10分間である。
【0032】
B.偏光子
本発明の製造方法により得られる偏光子は、その厚みが、1つの実施形態においては好ましくは80μm以下であり、別の実施形態においては好ましくは20μm以下であり、さらに別の実施形態においては好ましくは10μm以下であり、さらに別の実施形態においては好ましくは5μm以下であり、さらに別の実施形態においては好ましくは3μm以下であり、さらに別の実施形態においては好ましくは2μm以下である。また、偏光子の厚みは、1つの実施形態においては好ましくは0.5μm以上であり、別の実施形態においては好ましくは0.6μm以上であり、さらに別の実施形態においては好ましくは0.8μm以上である。本発明の製造方法によれば、厚みが薄い偏光子であっても後述のような所望の単体透過率を実現することができ、さらに、高温環境下における単体透過率変化量を顕著に抑制することができる。
【0033】
本発明の製造方法により得られる偏光子はリチウムを含有し得る。偏光子のリチウム含有量(LiPOL)は、好ましくは0.3重量%以上であり、より好ましくは0.35重量%以上である。リチウム含有量(LiPOL)がこのような範囲であることにより、後述する粘着剤層付偏光板の製造方法に好適に用いることができる。具体的には、このようなリチウム含有量の偏光子を用いることにより、導電剤としてリチウム塩を含む粘着剤層を形成した偏光板とした場合であっても、粘着剤層が所望の特性を好適に維持することができる。偏光子のリチウム含有量(LiPOL)は、例えば、10重量%以下である。偏光子のリチウム含有量は、ICP-MSにより測定することができる。
【0034】
本発明の製造方法により得られる偏光子のヨウ素含有量は、十分な偏光性能と最適な透過率とを付与する観点から、偏光子の厚みに応じて適切に設定され得る。例えば、偏光子の厚みが5μmを超えて10μm以下である場合には、ヨウ素含有量は好ましくは3.5重量%~8.0重量%であり;偏光子の厚みが3μmを超えて5μm以下である場合には、ヨウ素含有量は好ましくは5.0重量%~13.0重量%であり;偏光子の厚みが3μm以下である場合には、ヨウ素含有量は好ましくは10.0重量%~25.0重量%である。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I)、ヨウ素分子(I)、ポリヨウ素イオン(I 、I )等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA-ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I )は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0035】
本発明の製造方法により得られる偏光子の単体透過率(Ts)は、好ましくは30.0%~43.0%であり、より好ましくは35.0%~41.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.9%以上であり、より好ましくは99.95%以上であり、さらに好ましくは99.98%以上である。単体透過率を低く設定し偏光度を高くすることにより、コントラストを高くすることができ、黒表示をより黒く表示できるので、優れた画質の画像表示装置を実現することができる。なお、単体透過率は、積分球付き分光光度計で測定した値である。単体透過率は、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V7100)を用いて測定することができる。
【0036】
本発明の製造方法により得られる偏光子は、85℃の環境下に500時間置いた後の単体透過率変化量ΔTsaの絶対値が好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは3.0%以下である。本発明の製造方法により得られる偏光子は、上記所望の単体透過率および偏光度を実現しつつ、高温環境下における単体透過率変化量が顕著に抑制されている。したがって、高温環境下における変色が抑制された偏光子を実現することができる。その結果、耐熱性が要求される用途にも偏光子を好適に用いることができる。このような優れた効果は、上記のように偏光子の製造方法における染色後の工程において所定のpHおよび緩衝作用を有する処理液をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに塗布または噴霧することにより、得られる偏光子の高温環境下でのポリエン化が防止されることで実現されると考えられる。これは、従来は作製すら困難であった非常に薄い(例えば、厚み7μm以下の)偏光子を実際に作製したことによって新たに見出された課題を解決するものであり、予期せぬ優れた効果である。また、単体透過率変化量ΔTsaは、好ましくは負(すなわち、0.0%より小さい)である。なお、単体透過率変化量ΔTsaは、下記式で表される:
ΔTsa(%)=Tsa500-Ts
ここで、Tsは加熱試験前の単体透過率であり、Tsa500は85℃の環境下に500時間置いた後の単体透過率である。また、本明細書において単体透過率に関して単にTsと記載する場合は、加熱前の単体透過率Tsを意味する。
【0037】
本発明の製造方法により得られる偏光子は、60℃、90%RHの環境下に500時間置いた後の単体透過率変化量ΔTsbの絶対値が好ましくは3.5%以下であり、より好ましくは3.0%以下である。本発明の製造方法により得られる偏光子は、上記所望の単体透過率および偏光度を実現しつつ、高湿環境下においても単体透過率変化量が顕著に抑制されている。したがって、高湿環境下においても変色が抑制された偏光子を実現することができる。さらに、単体透過率変化量ΔTsbは、好ましくは正(すなわち、0.0%より大きい)である。なお、単体透過率変化量ΔTsbは、下記式で表される:
ΔTsb(%)=Tsb500-Ts
ここで、Tsは上記のとおり加熱試験前の単体透過率であり、Tsb500は60℃、90%RHの環境下に500時間置いた後の単体透過率である。
【0038】
C.粘着剤層付偏光板の製造方法
本発明の1つの実施形態においては、粘着剤層付偏光板の製造方法が提供される。本発明の粘着剤層付偏光板の製造方法は、偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された保護フィルムと、該偏光子の他方の側に配置された粘着剤層とを有する偏光板の製造方法である。この製造方法は、上記A項に記載の方法により偏光子を製造することと、該製造方法で得られた偏光子の一方の側に保護フィルムを貼り合わせることと、該偏光子の他方の側にリチウム塩を含有する粘着剤層を形成することとを含む。
【0039】
C-1.偏光子の作製
偏光子は上記A項に記載の方法により作製することができる。上記の通り、A項に記載の方法により作製した偏光子は、リチウムを含有し得る。このような偏光子に、リチウム塩を含有する粘着剤層を形成することにより、粘着剤層の特性の経時変化を小さくすることができる。その結果、優れた耐湿性を実現することができる。
【0040】
C-2.保護フィルムの貼り合わせ
次いで、偏光子の一方の側に保護フィルムが貼り合わせられる。保護フィルムとしては、任意の適切な樹脂フィルムが用いられる。樹脂フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0041】
1つの実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が用いられる。グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂(以下、グルタルイミド樹脂とも称する)は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報、特開2009-161744号公報、特開2010-284840号公報に記載されている。これらの記載は、本明細書に参考として援用される。
【0042】
保護フィルムは任意の適切な粘着剤層を介して、偏光子に貼り合わせられる。
【0043】
なお、基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光子を製造する場合には、基材を剥離せずにそのまま保護フィルムとして用いてもよい。また、目的に応じて、任意の適切な光学機能フィルムを保護フィルム(および、存在する場合には別の保護フィルム)として用いてもよい。光学機能フィルムとしては、例えば、位相差フィルム、反射型偏光子(輝度向上フィルム)が挙げられる。
【0044】
C-3.粘着剤層の形成
粘着剤層を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。形成方法の代表例としては、粘着剤組成物を剥離処理したセパレーターなどに塗布し、重合溶剤などを乾燥除去して粘着剤層を形成した後に偏光子に転写する方法、あるいは、偏光子に上記粘着剤組成物を塗布し、重合溶剤などを乾燥除去して粘着剤層を偏光子に形成する方法が挙げられる。なお、粘着剤の塗布にあたっては、必要に応じて、重合溶剤以外の一種以上の溶剤を新たに加えてもよい。
【0045】
C-3-1.粘着剤組成物
粘着剤層を構成する粘着剤組成物は、ベースポリマーとリチウム塩とを含む。
【0046】
C-3-2.ベースポリマー
ベースポリマーの代表例としては、(メタ)アクリル系ポリマー((メタ)アクリル系樹脂)が挙げられる。(メタ)アクリル系ポリマーは、代表的には、アルキル(メタ)アクリレート由来のモノマー単位を主成分として含有する。アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルである。アルキルエステルを形成するアルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、イソミリスチル基、ラウリル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。(メタ)アクリル系ポリマーに含まれるアルキル基の平均炭素数は、好ましくは3~9である。
【0047】
ベースポリマーは、目的に応じて任意の適切な共重合成分由来のモノマー単位を含んでいてもよい。共重合成分としては、例えば、ヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、(N-置換)アミド系モノマー、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル系モノマー、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー、スクシンイミド系モノマー、マレイミド系モノマー、イタコンイミド系モノマー、ビニル系モノマー、シアノ(メタ)アクリレート系モノマー、エポキシ基含有(メタ)アクリル系モノマー、グリコール系(メタ)アクリルエステルモノマー、シラン系モノマー、多官能性モノマーが挙げられる。共重合成分の種類、数、組み合わせ、共重合比(重量比)を調整することにより、所望の特性を有するベースポリマー(最終的に、粘着剤層)を得ることができる。全モノマー成分における共重合成分の割合は、全モノマー成分100重量%に対して好ましくは0重量%~20重量%、より好ましくは0.1重量%~15重量%、さらに好ましくは0.1重量%~10重量%である。
【0048】
ベースポリマーの重量平均分子量は、代表的には50万~300万であり、好ましくは70万~270万であり、より好ましくは80万~250万である。重量平均分子量が小さすぎると、耐熱性が不十分となる場合がある。重量平均分子量が大きすぎると、取扱性が悪くなる場合がある。また、塗工のために粘度調整に多量の希釈溶剤が必要となりコストが増大する場合がある。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレン換算により算出された値をいう。
【0049】
C-3-3.リチウム塩
粘着剤組成物はリチウム塩(リチウム-アニオン塩)を含む。上記の通り、リチウム塩は導電剤として機能し得る。アニオン部を構成するアニオンとしては、例えば、Cl、Br、I、AlCl 、AlCl 、BF 、PF 、ClO 、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、(CN)、CSO 、CCOO、(CFSO)(CFCO)NS(CFSO 、および、下記一般式(1)~(4)
(1):(C2n+1SO (nは1~10の整数)、
(2):CF(C2mSO (mは1~10の整数)、
(3):S(CFSO (lは1~10の整数)、
(4):(C2p+1SO)N(C2q+1SO)、(p、qは1~10の整数)、
で表わされるアニオンが挙げられる。アニオンとしては、フッ素含有アニオンが好ましく、フッ素含有イミドアニオンがより好ましい。
【0050】
フッ素含有イミドアニオンとしては、例えば、ペルフルオロアルキル基を有するイミドアニオンが挙げられる。具体例としては、上記の(CFSO)(CFCO)N、ならびに、一般式(1)、(2)および(4)
(1):(C2n+1SO (nは1~10の整数)、
(2):CF(C2mSO (mは1~10の整数)、
(4):(C2p+1SO)N(C2q+1SO)、(p、qは1~10の整数)、
で表わされるアニオンが挙げられる。好ましくは(CFSO、(CSO等の一般式(1)で表わされる(ペルフルオロアルキルスルホニル)イミドであり、より好ましくは(CFSOで表わされるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。したがって、本発明の実施形態において用いられ得る好ましいリチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。
【0051】
粘着剤組成物(結果として、粘着剤層)におけるリチウム塩の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して好ましくは0.01重量部~5重量部であり、より好ましくは0.5重量部~3重量部であり、さらに好ましくは0.7重量部~1.5重量部である。リチウム塩の含有量がこのような範囲であれば、薄型でヨウ素含有量が高い偏光子(結果として、そのような偏光子を含む偏光板)の耐湿性を顕著に改善することができる。
【0052】
C-3-4.有機カチオン塩
粘着剤組成物は、必要に応じて有機カチオン塩をさらに含んでいてもよい。リチウム塩と有機カチオン塩とを組み合わせて用いることにより、リチウム塩をブリードアウトさせることなく、表面抵抗値をさらに下げることができる。
【0053】
有機カチオン塩は、具体的には、有機カチオン-アニオン塩である。有機カチオン塩のカチオン部を構成するカチオンとしては、代表的には、有機基による置換によってオニウムイオンを形成した有機オニウムが挙げられる。有機オニウムにおけるオニウムとしては、例えば、含窒素オニウム、含硫黄オニウム、含リンオニウムが挙げられる。好ましくは、含窒素オニウム、含硫黄オニウムである。含窒素オニウムとしては、アンモニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリン骨格を有するカチオン、ピロール骨格を有するカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピラゾリニウムカチオンが挙げられる。好ましくは、アンモニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオンであり、より好ましくは、ピロリジニウムカチオンである。含硫黄オニウムとしては、例えばスルホニウムカチオンが挙げられる。含リンオニウムとしては、例えばホスホニウムカチオンが挙げられる。有機オニウムにおける有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基が挙げられる。好ましい有機オニウムの具体例としては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、アルキルピペリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオンが挙げられる。より好ましくは、エチルメチルピロリジニウムカチオンである。有機カチオン塩のアニオン部を構成するアニオンは、リチウム塩のアニオン部を構成するアニオンに関して説明したとおりである。したがって、本発明の実施形態において用いられ得る好ましい有機カチオン塩は、ピロリジニウム塩であり、より好ましくはエチルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。
【0054】
粘着剤組成物(結果として、粘着剤層)における有機カチオン塩の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して好ましくは0.1重量部~10重量部であり、より好ましくは0.3重量部~3重量部であり、さらに好ましくは0.5重量部~1.5重量部である。有機カチオン塩の含有量がこのような範囲であれば、上記の有機カチオン塩とリチウム塩との組み合わせの効果が顕著となる。
【0055】
C-3-5.シランカップリング剤
粘着剤組成物は、シランカップリング剤をさらに含んでいてもよい。シランカップリング剤を用いることにより、耐久性を向上させることができる。シランカップリング剤としては、任意の適切な官能基を有するものを用いることができる。具体的には、官能基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、(メタ)アクリロキシ基、アセトアセチル基、イソシアネート基、スチリル基、ポリスルフィド基等が挙げられる。具体的には、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤;γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤;p-スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基含有シランカップリング剤;γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシランなどの(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基含有シランカップリング剤;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィド基含有シランカップリング剤などが挙げられる。
【0056】
C-3-6.その他
粘着剤組成物(結果として、粘着剤層)は、任意の適切な添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、架橋剤、シランカップリング剤、リワーク向上剤、酸化防止剤、帯電防止剤、架橋遅延剤、乳化剤、着色剤、顔料などの粉体、染料、界面活性剤、可塑剤、粘着性付与剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、無機充填剤、有機充填剤、金属粉、粒子状、箔状物が挙げられる。添加剤の数、種類、添加量および組み合わせ等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0057】
粘着剤層を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。形成方法の代表例としては、上記粘着剤組成物を剥離処理したセパレーターなどに塗布し、重合溶剤などを乾燥除去して粘着剤層を形成した後に偏光子に転写する方法、あるいは、偏光子に上記粘着剤組成物を塗布し、重合溶剤などを乾燥除去して粘着剤層を偏光子に形成する方法が挙げられる。なお、粘着剤の塗布にあたっては、必要に応じて、重合溶剤以外の一種以上の溶剤を新たに加えてもよい。
【0058】
粘着剤組成物の詳細については、例えば、特開2014-48497号公報に記載されている。当該公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【実施例
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0060】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、テンター延伸機を用いて、140℃で積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍空中延伸した(延伸処理)。
次いで、積層体を液温25℃の染色浴(ヨウ素濃度1.4重量%およびヨウ化カリウム濃度9.8重量%の水溶液)に12秒間浸漬させ、染色した(染色処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(純水)に6秒間浸漬させた(第1洗浄処理)。
次いで、液温60℃の架橋浴(ホウ素濃度1重量%およびヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に16秒間浸漬させた(架橋処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(ヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に3秒間浸漬させた(第2洗浄処理)。
次いで、積層体を60℃のオーブンで21秒間乾燥させた(第1乾燥処理)。
次いで、積層体のPVA系樹脂層にバーコーターを用いて処理液(水50重量部にクエン酸0.15重量部、および、水酸化リチウム0.01重量部を添加して、10分間撹拌し、pHを測定し、次いで、エタノール50重量部を加えて調製した処理液。pH=2.9)を膜厚が7μm(ウェット状態)となるよう塗布した。
最後に、積層体を60℃のオーブンで60秒間乾燥させ、厚み1.2μmのPVA系樹脂層(偏光子)を有する積層体を得た。
【0061】
[実施例2]
処理液として、水酸化リチウムの添加量を0.04重量部としたこと以外は実施例1と同様にして得られた処理液(pH=4.2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。
【0062】
[実施例3]
処理液として、水酸化リチウムの添加量を0.08重量部としたこと以外は実施例1と同様にして得られた処理液(pH=5.8)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。
【0063】
(比較例1)
処理液として、水酸化リチウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして得られた処理液(pH=2.0)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。
【0064】
(比較例2)
処理液として、クエン酸を添加しなかったこと、および、水酸化リチウムの添加量を0.2重量部としたこと以外は実施例1と同様にして得られた処理液(pH=13.0)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。
【0065】
(比較例3)
処理液として、水酸化リチウムの添加量を0.2重量部としたこと以外は実施例1と同様にして得られた処理液(pH=11.0)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、偏光子を有する積層体を得た。
【0066】
以下の方法で得られた粘着剤組成物をシリコーン系剥離剤で処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレーター)の表面にファウンテンコーターで均一に塗工し、155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し、セパレーター表面に厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層を各実施例および比較例で得られた積層体の偏光子表面に転写し、粘着剤層付偏光板を得た。得られた粘着剤層付偏光板を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。

(粘着剤組成物のベースポリマーの調製)
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート99部およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル1部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、上記モノマー混合物(固形分)100部に対して、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチルと共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を60℃付近に保って7時間重合反応を行った。その後、得られた反応液に、酢酸エチルを加えて固形分濃度を30%に調整した。このようにして、重量平均分子量140万のアクリル系ポリマー(A-1)(ベースポリマー)の溶液を調製した。

(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(A-1)溶液の固形分100部に対して、導電剤としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(三菱マテリアル電子化成社製)1.0部およびエチルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業製)0.7部、架橋剤としてトリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート(三井化学社製:タケネートD110N)0.095部およびジベンゾイルパーオキサイド0.3部、シランカップリング剤としてオルガノシラン(綜研化学社製:A100)0.2部およびチオール基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製:X41-1810)0.2部、リワーク向上剤(カネカ社製、サイリルSAT10)0.03部、ならびに、酸化防止剤(BASF社製、Irganox1010)0.3部を配合して、粘着剤組成物(溶液)を調製した。
【0067】
(1)加熱信頼性試験
各実施例および比較例により得られた粘着剤層付き偏光板を、厚み1.3mmの無アルカリガラスに貼り合せ、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「V7100」)を用いて、薄型偏光膜の単体透過率(Ts)を測定した。その後、サンプルを85℃のオーブンに500時間投入した。取り出したサンプルを用いて、同様に紫外可視分光光度計で単体透過率(Tsa500)を測定し、下記式によりΔTsaを求めた。
ΔTsa(%)=Tsa500-Ts
また、実施例および比較例を以下の基準で評価した。
○:ΔTsaの絶対値が3.0%以内
△:ΔTsaの絶対値が5.0%以内
×:ΔTsaの絶対値が5.0%を超える
(2)加湿信頼性評価
各実施例および比較例により得られた粘着剤層付き偏光板を、厚み1.3mmの無アルカリガラスに貼り合せた。その後、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、製品名「V7100」)を用いて、薄型偏光膜の単体透過率(Ts)を測定した。その後、サンプルを60℃90%Rhの恒温恒湿槽に500時間投入した。取り出したサンプルを用いて、同様に紫外可視分光光度計で単体透過率(Tsb500)を測定し、下記式によりΔTsbを求めた。
ΔTsb(%)=Tsb500-Ts
また、実施例および比較例を以下の基準で評価した。
○:ΔTsbの絶対値が3.0%以内
△:ΔTsbの絶対値が3.5%以内
×:ΔTsbの絶対値が3.5%を超える
(3)偏光子の外観
各実施例および比較例により得られた粘着剤層付き偏光板を、厚み1.3mmの無アルカリガラスに貼り合せた。その後、20℃98%RHの恒温恒湿槽に120時間投入し、外観を評価した。投入前と投入後の偏光板を目視により比較観察し、以下の基準で評価した。
○:外観の変化は認められなかった
△:外観に変化がわずかに認められたが、室温で6時間放置すると外観の変化が回復した
×:外観の変化(変色、ムラ)が顕著であった。室温で6時間放置しても外観の変化が完全には回復しなかった
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなように、本発明の実施例の製造方法により得られる偏光子は、導電剤を含む粘着剤層を有する粘着剤層付偏光板とした場合であっても、優れた加熱加湿信頼性を有していた。さらに、加湿環境下に置いた後であっても外観に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法は、高温環境下における変色が抑制された偏光子を簡便かつ安価に製造することができる。本発明の製造方法により得られた偏光子は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネルに幅広く適用させることができる。