(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】一対の眼鏡レンズの設計方法、製造方法、および一対の眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/02 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2018059280
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 寿明
(72)【発明者】
【氏名】加賀 唯之
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090729(JP,A)
【文献】特開2017-122941(JP,A)
【文献】特開2011-203705(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズの設計方法であって、
いずれの眼鏡レンズも、累進帯ではない非球面設計が行われた単焦点レンズであり、
装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差を補う度数
誤差(単位:ディオプター(D))が備わるように一対の眼鏡レンズを設計する設計工程を有し、
各眼の調節反応量(単位:ディオプター(D))は、装用者が、距離fにある物体を見るときに発揮される装用者の各眼の調節発現量AC
Fと、距離fより近い距離nにある物体を見るときに発揮される装用者の該各眼の調節発現量AC
Nとの差AC(=調節発現量AC
N-調節発現量AC
F)であ
り、
前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差と、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差との差を、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差に基づき設定することにより、前記一対の眼鏡レンズを設計する、一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
前記設計工程においては、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量のうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズよりも大きな度数
誤差が備わるようにする、請求項1に記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差と、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差との差が、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差に近づくように、前記一対の眼鏡レンズを設計する、請求項
1または2に記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PE
Rと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PE
Lとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量AC
Rと左眼の調節反応量AC
Lとの差ΔAC(但しΔAC>0)の80%以上120%以下である、請求項
1~3のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PE
Rと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PE
Lとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量AC
Rと左眼の調節反応量AC
Lとの差ΔAC(但しΔAC>0)に対して±0.25D以内である、請求項
1~
4のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
前記設計工程において、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値を0.15D以上とする、請求項
1~
5のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
前記設計工程において、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差を±0.10D以内とし、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差を0.15D以上とする、請求項
6に記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
装用者の右眼の調節反応量および左眼の調節反応量は、装用者の各眼に対して(調節発現量AC
N-調節発現量AC
F)を求める測定が行われた結果得られる実測値である、請求項
1~
7のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項9】
前記設計工程は、
各眼用の眼鏡レンズにおいて、処方に応じてベースカーブを選択するベースカーブ選択工程と、
選択されたベースカーブ側の面に対して非球面設計を行う非球面設計工程と、
前記非球面設計工程に基づいて得られた一対の眼鏡レンズ設計において、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量のうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値が、右眼の調節反応量AC
Rと左眼の調節反応量AC
Lとの差ΔAC(但しΔAC>0)の80%以上120%以下の範囲内であるか否かを判定する判定工程と、
を有し、
前記判定工程にて範囲内でないと判定された場合は、前記ベースカーブ選択工程にて選択されたベースカーブを変更した後に前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、または、前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、再び前記判定工程を行う、請求項
1~
8のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項10】
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズの製造方法であって、
いずれの眼鏡レンズも、累進帯ではない非球面設計が行われた単焦点レンズであり、
請求項1~
9のいずれかに記載の一対の眼鏡レンズの設計方法を用いて一対の眼鏡レンズを設計する設計工程と、
前記設計工程にて設計された内容に基づき一対の眼鏡レンズを製造する製造工程と、
を有する、一対の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項11】
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズであって、
いずれの眼鏡レンズも
、累進帯ではない非球面を有する単焦点レンズであり、
一方の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差(単位:ディオプター(D))と、もう一方の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差との差が0.15D以上である、一対の眼鏡レンズ。
【請求項12】
一方の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差が±0.10D以内あり、もう一方の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差が0.15D以上である、請求項
11に記載の一対の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の眼鏡レンズの設計方法、製造方法、および一対の眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼には、調節と呼ばれる、所定距離にある物体を見るために水晶体の厚さを変化させる機能が備わっている。装用者が有する調節能力を加味したうえで眼鏡レンズの設計を行う技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定距離にある物体を見る際に、左右の各眼において、装用者が有する調節能力の全てが使用されるとは限らず、条件に応じてその一部または全部が発揮される。
【0005】
無調節状態に対して、前記発揮された調節量すなわち調節反応量は、右眼と左眼との間で異なる場合がある。その一方、従来だと、左右眼各々のレンズ(以降、一対の眼鏡レンズとも称する。)は、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量とが等しい場合を前提に設計されていた。従来の一対の眼鏡レンズだと、調節反応量が右眼と左眼との間で異なる場合、両眼視の際に左右の像の質が異なる。特に、近方視においてはその傾向が顕著となる。一般的に左右の像の質が異なる場合に、融像しづらいことがわかっている。
【0006】
そこで本発明の一実施例は、装用者が一対の眼鏡レンズを使用する際の両眼視に適した技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズの設計方法であって、
装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差を補う度数差(単位:ディオプター(D))が備わるように一対の眼鏡レンズを設計する設計工程を有し、
各眼の調節反応量(単位:ディオプター(D))は、装用者が、距離fにある物体を見るときに発揮される装用者の各眼の調節発現量ACFと、距離fより近い距離nにある物体を見るときに発揮される装用者の該各眼の調節発現量ACNとの差AC(=調節発現量ACN-調節発現量ACF)である、一対の眼鏡レンズの設計方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記設計工程においては、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量のうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズよりも大きな度数差であって処方値とは別の度数差が備わるようにする。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の態様であって、
前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差と、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差との差を、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差に基づき設定することにより、前記一対の眼鏡レンズを設計する。
【0010】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の態様であって、
前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差と、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差との差が、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差に近づくように、前記一対の眼鏡レンズを設計する。
【0011】
本発明の第5の態様は、第3または第4の態様に記載の態様であって、
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔAC(但しΔAC>0)の80%以上120%以下である。
【0012】
本発明の第6の態様は、第3~第5のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔAC(但しΔAC>0)に対して±0.25D以内である。
【0013】
本発明の第7の態様は、第3~第6のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記設計工程において、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値を0.15D以上とする。
【0014】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の態様であって、
前記設計工程において、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差を±0.10D以内とし、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差を0.15D以上とする。
【0015】
本発明の第9の態様は、第3~第8のいずれかの態様に記載の態様であって、
装用者の右眼の調節反応量および左眼の調節反応量は、装用者の各眼に対して(調節発現量ACN-調節発現量ACF)を求める測定が行われた結果得られる実測値である。
【0016】
本発明の第10の態様は、第3~第9のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記設計工程は、
各眼用の眼鏡レンズにおいて、処方に応じてベースカーブを選択するベースカーブ選択工程と、
選択されたベースカーブ側の面に対して非球面設計を行う非球面設計工程と、
前記非球面設計工程に基づいて得られた一対の眼鏡レンズ設計において、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量のうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値が、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔAC(但しΔAC>0)の80%以上120%以下の範囲内であるか否かを判定する判定工程と、
を有し、
前記判定工程にて範囲内でないと判定された場合は、前記ベースカーブ選択工程にて選択されたベースカーブを変更した後に前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、または、前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、再び前記判定工程を行う。
【0017】
本発明の第11の態様は、
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズの製造方法であって、
第1~第10のいずれかの態様に記載の一対の眼鏡レンズの設計方法を用いて一対の眼鏡レンズを設計する設計工程と、
前記設計工程にて設計された内容に基づき一対の眼鏡レンズを製造する製造工程と、
を有する、一対の眼鏡レンズの製造方法である。
【0018】
本発明の第12の態様は、
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズであって、
いずれの眼鏡レンズも単焦点レンズであり、
一方の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差(単位:ディオプター(D))と、もう一方の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差との差が0.15D以上である、一対の眼鏡レンズである。
【0019】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の態様であって、
一方の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差が±0.10D以内であり、もう一方の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差が0.15D以上である。
【0020】
本発明の第14の態様は、
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズであって、
いずれの眼鏡レンズも累進屈折力レンズであり、
一方の眼鏡レンズでの近用度数測定位置T1での処方値とは別の度数差(単位:ディオプター(D))と、もう一方の眼鏡レンズでの近用度数測定位置T2での処方値とは別の度数差との差が0.15D以上である、一対の眼鏡レンズである。
【0021】
本発明の第15の態様は、第14の態様に記載の態様であって、
好ましくは、一方の眼鏡レンズでの前記位置T2での処方値とは別の度数差が±0.10D以内であり、もう一方の眼鏡レンズでの前記位置T1での処方値とは別の度数差が0.15D以上である。
【0022】
以下、本発明の別の態様を挙げる。例えば第12~第15の態様は、眼鏡レンズの設計方法および製造方法としても特徴がある。また、下記の態様に対し、前記の各態様を適宜組み合わせても構わない。
【0023】
本発明の別の態様だと、
前記設計工程においては、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLのうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、プラスの度数誤差が備わるようにする。
【0024】
本発明の別の態様だと、
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔAC(但しΔAC>0)の90%以上110%以下である。
【0025】
本発明の別の態様だと、
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(但しΔPE>0)は、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔAC(但しΔAC>0)の95%以上105%以下である。
【0026】
本発明の別の態様だと、前記設計工程における度数誤差は、回旋角α(20度≦α≦35度)の位置での値である。
【0027】
本発明の別の態様だと、前記設計工程における度数誤差は、回旋角30度の位置での値である。
【0028】
本発明の別の態様だと、
装用者の処方値を取得する工程と、
装用者が眼鏡レンズを装用した際の近方視の目標距離を取得する工程と、
各眼の調節反応量(ACR、ACL)を取得する工程と、
を有する。
【0029】
本発明の別の態様だと、
前記設計工程にて備わる度数差は、単焦点レンズの非球面設計によりもたらされる。
【0030】
本発明の別の態様だと、
前記設計工程にて備わる度数差は、累進屈折力レンズの加入度の設定によりもたらされる。
なお、一対の眼鏡レンズが共に累進屈折力レンズである場合、位置T1および位置T2を近用度数測定位置と設定し、前記度数誤差を、近用度数測定位置における度数から、遠用度数測定位置における度数を引いた値としてもよい。そのうえで、上記の各好適例を、一対の累進屈折力レンズの場合に適用してもよい。
【0031】
本発明の別の態様だと、
右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズであって、
一方の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数差であって処方値とは別の度数差(単位:ディオプター(D))と、もう一方の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数差であって処方値とは別の度数差との差が0.15D以上である、一対の眼鏡レンズである。
【0032】
本発明の別の態様だと、
一方の眼鏡レンズでの近用度数測定位置T1での処方値とは別の度数差(単位:ディオプター(D))と、もう一方の眼鏡レンズでの近用度数測定位置T2での処方値とは別の度数差との差が0.50D以下であり、好ましくは0.25D以下である。
【0033】
本発明の別の態様だと、
もう一方の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差は0.50D以下であり、好ましくは0.25D以下である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一実施例によれば、装用者が一対の眼鏡レンズを使用する際の両眼視に適した技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本実施形態における各工程を設けた場合の一対の眼鏡レンズの設計方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例1の右眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
【
図3】
図3は、実施例1の左眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
【
図4】
図4は、実施例2の右眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
【
図5】
図5は、実施例2の左眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
【
図6】
図6は、実施例3の右眼用の眼鏡レンズ(破線)および左眼用の眼鏡レンズ(実線)における度数変化を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は主子午線上のY座標(1目盛が5mm)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書において、マイナス符号が無い数値はプラスの数値を表す。
【0037】
(用語の説明)
以下、本明細書にて使用する用語を解説する。無調節状態で網膜中心窩に結像する外界の点を調節遠点(far point of accommodation)という。逆に、眼が最大調節した状態で網膜中心窩に結像する点を調節近点(near point of accommodation)という。
そして、調節遠点から調節近点までの範囲をディオプター(diopter)(D=1/距離)で表した眼の調節能力のことを調節力(amplitude of accommodation)という。
【0038】
所定距離の遠方指標から所定距離の近方指標を被検者に明視させる際に、被検者の眼にとって変化すべき調節量、すなわち遠方視の際の調節要求量と近方視の際の調節要求量の差のことを調節刺激量(stimulus of accommodation)(単位:D)という。調節刺激量は調節力を超えないように設定されるべきである。
【0039】
なお、調節刺激量全てに対し、被検者の眼が実際に調節するとは限らない。調節刺激量に対し、被検者の眼が実際に調節した量、すなわち所定距離に対する遠方視の際の調節発現量と、遠方視よりも近い距離に対する近方視の際の調節発現量の差のことを調節反応量(response of accommodation)(単位:D)という。
調節要求量とは、提示された視標から被検眼までの距離をディオプタ―で表したものである。調節発現量とは、調節要求量に対して、被検眼が実際に調節した量である。
【0040】
(本発明の一実施形態の設計方法のコンセプト)
「右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズの設計方法であって、
眼鏡レンズの装用者(以降、単に装用者とも称する。)の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差を補う度数差が備わるように一対の眼鏡レンズを設計する設計工程を有する、一対の眼鏡レンズの設計方法。」
【0041】
本実施形態で、補正しようとする度数差とは左眼の調節反応量ACLと右眼の調節反応量ACRとの間の差である。
【0042】
つまり、右眼の調節反応量とは、装用者が、距離fにある物体を見るときに発揮される装用者の右眼の調節発現量ACFRと、距離fより近い距離nにある物体を見るときに発揮される装用者の該右眼の調節発現量ACNRとの差ACRである。
また、左眼の調節反応量とは、装用者が、距離fにある物体を見るときに発揮される装用者の左眼の調節発現量ACFLと、距離fより近い距離nにある物体を見るときに発揮される装用者の該左眼の調節発現量ACNLとの差ACLである。
【0043】
そして、本実施形態においては、左右眼の調節反応量の差すなわちACRとACLとの差ΔACを、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PER(power error)(単位:D)と左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PEL(power error)(単位:D)との差ΔPEで補うことに大きな特徴がある。
【0044】
この“補う”とは、例えば左眼の調節反応量ACLが右眼の調節反応量ACRよりも小さい場合、左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELを右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERよりも大きくすることを意味する。本明細書においては、ΔACがプラスとなるように計算する(前記例だとACR-ACL)。そして、本明細書においては、左眼用の眼鏡レンズの度数誤差と右眼用の眼鏡レンズの度数誤差との差ΔPEがプラスとなるように計算する(前記例だとPEL-PER)。この度数誤差の差ΔPEが、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差を補う度数差に該当する。
【0045】
また、前記の度数誤差PEとは、眼鏡レンズ上の所定位置(装用者の眼球の回旋角αに対応した位置)における半径方向(メリジオナル(meridional)方向)の屈折力と周方向(サジタル(sagittal)方向)の屈折力との平均である平均度数と、レンズ中心(回旋角0度)における頂点屈折力との差である。なお、非点収差(astigmatism)とは、半径方向の屈折力と周方向の屈折力との差である。
【0046】
前記構成によれば、調節反応量が左眼と右眼との間で異なる場合であっても、両眼視に適した一対の眼鏡レンズを提供できる。その理由は以下の通りである。左眼に入射した光によって知覚される像の質と、右眼に入射した光によって知覚される像の質とが、左右眼の調節反応量の差が一因となって異なる。ところが、本実施形態の一対の眼鏡レンズを使用することにより、左右眼の調節反応量の差が補われ、左右眼の像の質が一致する方向に改善する。
【0047】
前記設計工程においては、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLのうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、プラスの度数誤差が備わるようにするのが好ましい。この構成によれば、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズの度数誤差をほぼゼロとすることが可能となる。そのうえで、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、プラスの度数誤差が備わるようにすればよい。
【0048】
但し、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズにマイナスの度数誤差を備えさせ、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズの度数誤差をほぼゼロとすることは妨げない。また、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズにある程度のマイナスの度数誤差を備えさせ、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズにある程度のプラスの度数誤差を備えさせることは妨げない。これらの場合であっても、一対の眼鏡レンズにおいて、装用者の右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔACを補う度数誤差ΔPEが備わることに変わりはない。その結果、調節反応量が左眼と右眼との間で異なる場合であっても、像の質を改善させられることに変わりはない。
【0049】
前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差PERと、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差PELとの差ΔPEを、装用者の右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔACに基づき設定することにより、前記一対の眼鏡レンズを設計するのが好ましい。この構成により、左右眼の調節反応量の差ΔACが正確に補われ、左右眼の像の質が一致する方向に改善する。
【0050】
また、前記設計工程は、右眼用の眼鏡レンズ上の所定回旋角度での位置における度数誤差PERと、左眼用の眼鏡レンズ上の当該所定回旋角度での位置における度数誤差PELとの差ΔPEを、装用者の右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差ΔACに近づくように、前記一対の眼鏡レンズを設計するのが好ましい。この構成により、左右眼の調節反応量の差ΔACが、更に正確に補われ、左右眼の像の質が一致する方向に改善する。
【0051】
前記設計工程において、右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(この場合ΔPE>0)は、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとの差(この場合ΔAC>0)の80%以上120%以下であるのが好ましい。この範囲ならば、調節反応量が左眼と右眼との間で異なる場合であっても、更に好適に像の質を改善させられる。なお、前記範囲は、90%以上110%以下であるのがより好ましく、95%以上105%以下であるのが非常に好ましい。
【0052】
また、前記設計工程にて備わるΔPEは、ΔACに対して許容差が±0.25D以内であるのが好ましく、±0.15D以内であるのがより好ましく、±0.12D以内であるのが更に好ましい。
【0053】
前記設計工程において、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(例えば15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値を0.15D以上とするのが好ましい。この範囲ならば、調節反応量が右眼と左眼との間で異なる場合であっても、更に好適に像の質を改善させられる。該値の上限値には特に限定は無い。ただ、一般的に度数誤差自体は小さい方が好ましい。そのため、該値を0.50D以下とするのが好ましく、0.25D以下とするのがより好ましい。
なお、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T1と、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2とでは、通常、同度数であれば、対応する位置関係は一致する。
【0054】
また、前記設計工程において備えさせる度数差は、本実施例においてはα=20度または30度にしたが、20度≦α≦35度の位置での値としても構わないし、これに限定されない。
【0055】
前記設計工程において、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差を±0.10D以内とし、調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差を0.15D以上としてもよい。なお、一般的に度数誤差自体は小さい方が好ましい。そのため、前記位置T1での度数誤差を0.50D以下とするのが好ましく、0.25D以下とするのがより好ましい。
【0056】
(本発明の実施形態の設計手順)
図1は、本実施形態における各工程を設けた場合の一対の眼鏡レンズの設計方法のフローチャートである。
<S1>は、装用者の処方値を取得する工程である。
引き続いて行われる<S2>は、装用者が眼鏡レンズを装用した際の近方視の目標距離を取得する工程である。
引き続いて行われる<S3>は、各眼の調節反応量AC
RとAC
Lとを取得する工程である。
<S4>~<S7>は設計工程である。<S1>~<S3>にて得られた情報に基づいて、眼鏡レンズの設計が行われる。
設計工程の中で、<S4>は、各眼用の眼鏡レンズにおいて、処方に応じてベースカーブ(base curve)を選択するベースカーブ選択工程である。
<S5>は、選択されたベースカーブに応じた非球面設計を行う非球面設計工程である。
<S6>は、非球面設計工程に基づいて得られた一対の眼鏡レンズ設計において、近方視における、装用者の右眼の調節反応量AC
Rと左眼の調節反応量AC
Lのうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値ΔPEを算出する工程である。
<S7>は、<S6>にて算出されたΔPEが、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差ΔACの80%以上120%以下の範囲内であるか否かを判定する工程である。度数差が許容範囲内であり、条件を満たせば眼鏡レンズの設計方法のフローを終了する。度数差が許容範囲外であり、条件を満たさなければ、最終的に<S7>にて度数差が許容範囲内となるまで、再度<S4>にてベースカーブの選択からやり直し、<S5>~<S7>を行う。
【0057】
前記設計工程の一具体例を以下に挙げる。
前記設計工程は、
各眼用の眼鏡レンズにおいて、処方に応じてベースカーブ(base curve)を選択するベースカーブ選択工程<S4>と、
選択されたベースカーブに応じた非球面設計を行う非球面設計工程<S5>と、
前記非球面設計工程に基づいて得られた一対の眼鏡レンズ設計において、装用者の右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLのうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差から、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差を引いた値ΔPEが、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差ΔACの80%以上120%以下の範囲内であるか否かを判定する判定工程<S7>と、
を有するのが好ましい。
そのうえで、前記判定工程にて範囲内でないと判定された場合は、以下のようにするのが好ましい。前記ベースカーブ選択工程にて選択されたベースカーブを変更した後に前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、再び前記判定工程を行うのが好ましい。または、前記非球面設計工程での非球面設計を変更したうえで、再び前記判定工程を行うのが好ましい。この構成により、調節反応量が左眼と右眼との間で異なる場合であっても、確実かつ非常に好適に、両眼視に適した一対の眼鏡レンズを提供できる。
【0058】
但し、ベースカーブ選択工程、非球面設計工程、判定工程を設けるのはあくまで好適例である。ベースカーブ選択工程では、処方に応じてベースカーブを選択するのではなく、処方にかかわらず予め決定しておいたベースカーブを使用しても構わない。非球面設計工程では、選択されたベースカーブ側の面に対して非球面設計を行ってもよいし、ベースカーブ側でない面に対して行ってもよいし、両方の面に行っても構わない。予め上記80%以上120%以下の範囲内という要件が満たされることが把握できているのならば判定工程は不要となる。なお、ベースカーブ選択工程、非球面設計工程、判定工程を全て採用したり全て採用しなかったりするのではなく、適宜組み合わせて採用しても構わない。
また、各眼鏡レンズでの度数誤差(PE
R、PE
L)の取得およびそれらの差ΔPEを取得する工程を前記判定工程に含めて表現したが、これらの工程<S6>を前記判定工程とは別に行っても構わない。
図1では近方視における度数誤差の差を算出したが、近方視よりも遠い距離を見る場合(例えば眼鏡レンズにて設定された中間視や遠方視)における度数誤差の差を算出することは妨げない。
【0059】
なお、前記設計工程を行うのに必要な情報は、前記設計工程の前に予め取得すればよい。例えば、前記設計工程の前に、装用者の処方値(Sph,Cyl,Ax等)を取得する工程<S1>を設けてもよい。また、装用者が眼鏡レンズを装用した際の近方視の目標距離を取得する工程<S2>を設けてもよい。
【0060】
また、各眼の調節反応量ACRとACLとを取得する工程<S3>を設けてもよい。各眼の調節反応量を求める際の遠方視の距離fおよび近方視の距離nは任意でも構わない。近方視の距離nは、眼鏡レンズにて設定される前記近方視の目標距離(例:40cm)としてもよい。遠方視の距離fには特に限定は無い。遠方視の距離fは、1m以上の距離(例:5m)であってもよいし、無限遠であってもよい。そのうえで、左右眼の調節反応量の差すなわちACRとACLとの差ΔACを取得する工程を設けてもよい。
【0061】
ΔACは予め定めた値を使用することもできる。その一方、装用者の右眼の調節反応量ACRおよび左眼の調節反応量ACLは、装用者に対してACRおよびACLを求める測定が行われた結果得られる実測値とするのが好ましい。各装用者の実際の各眼のACを使用することにより、調節反応量が左眼と右眼との間で異なる場合であっても、各装用者に対し、両眼視に適した一対の眼鏡レンズを提供できる。
【0062】
前記一対の眼鏡レンズは、一例としては単焦点レンズである。その場合、前記設計工程にて備わる度数誤差は、単焦点レンズの非球面設計によりもたらされてもよい。
【0063】
一対の眼鏡レンズの設計方法のみならず、製造方法に対しても本発明の技術的思想が反映されている。例えば、上記の一対の眼鏡レンズの設計方法を用いて一対の眼鏡レンズを設計する設計工程と、前記設計工程にて設計された内容に基づき一対の眼鏡レンズを製造する製造工程と、を有する、一対の眼鏡レンズの製造方法にも大きな技術的特徴がある。なお、製造工程の具体的な内容は公知の手法を採用すればよい。
【0064】
同様に、一対の眼鏡レンズに対しても本発明の技術的思想が反映されている。例えば、右眼用の眼鏡レンズと左眼用の眼鏡レンズとからなる一対の眼鏡レンズであって、一方の眼鏡レンズでの回旋角α(15度≦α≦40度)の位置T1での度数誤差と、もう一方の眼鏡レンズでの回旋角αの位置T2での度数誤差との差ΔPEが0.15D以上である、一対の眼鏡レンズにも大きな技術的特徴がある。ただ、一般的に度数誤差自体は小さい方が好ましい。そのため、該ΔPEを0.50D以下とするのが好ましく、0.25D以下とするのがより好ましい。
【0065】
その場合、一方の眼鏡レンズでの前記位置T2での度数誤差が±0.10D以内であり、もう一方の眼鏡レンズでの前記位置T1での度数誤差が0.15D以上であるのが好ましい。前記位置T1での度数誤差を0.50D以下とするのが好ましく、0.25D以下とするのがより好ましい。
【0066】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。例えば眼鏡レンズにおける非球面設計面は、物体側の面であってもよいし眼球側の面であってもよいし両面であってもよい。最終的に、一対の眼鏡レンズにおいて、装用者の右眼の調節反応量と左眼の調節反応量との差を補う度数誤差が備わり、両眼視に適した一対の眼鏡レンズを提供できれば、特に限定は無い。
【実施例】
【0067】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例は、
図1のフローチャートに従い行われる。なお、各実施例においては物体側の面を球面とし、眼球側の面を非球面に設計した。
【0068】
[実施例1]
(単焦点のマイナスレンズ)
まず、単焦点レンズであるところの一対の眼鏡レンズの装用者(その1)の処方値としてSph-3.00Dという値を取得した。次に、装用者にとっての一対の眼鏡レンズの目的距離(すなわち近方視の目的距離)として400mm(40cm)という値を取得した。
【0069】
上記の取得工程とは別に、本実施例においては装用者に対してACR、ACLの測定を行った。右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとを取得し、左右眼の調節反応量の差ΔACを取得した。
その際の各種条件および結果は以下の通りである。
距離f(遠見):5m
距離n(近見):40cm
調節刺激量:2.30D(=1/0.4-1/5)
右眼の調節反応量ACR:2.10D
左眼の調節反応量ACL:1.72D
左右眼の調節反応量の差ΔAC:0.38D
【0070】
以下、設計工程を行う。本実施例では、レンズ基材の屈折率を1.662、中心厚1.1mmで設計を行うこととした。また、近用位置を見るための回旋角αを20度と設定した。
【0071】
本実施例においてはベースカーブは、上記の眼鏡処方を基に1カーブ(BC1.0)を設定した。
【0072】
次に、非球面設計を行った。具体的には、まず、左眼に比べて調節反応量が大きかった右眼用の眼鏡レンズに対し、度数誤差がほぼゼロになるように(以降、度数誤差重視という。)非球面設計を行った。その結果を
図2に示す。
図2は、実施例1の右眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。なお、度数誤差をほぼゼロにしようとすると非点収差が大きくなる傾向がある。逆に、非点収差をほぼゼロにしようとすると度数誤差が大きくなる傾向がある。
眼の回旋角が20度のときの右眼用の眼鏡レンズの位置T1だと度数誤差PE
Lは0になった。
【0073】
そして、左眼用の眼鏡レンズに対し、非点収差がほぼゼロになるように(以降、非点収差重視という。)非球面設計を行った。その結果を
図3に示す。
図3は、実施例1の左眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
眼の回旋角が20度のときの左眼用の眼鏡レンズの位置T2だと度数誤差PE
Lは0.25Dになった。
【0074】
右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔPE(=PEL-PER=0.25D)を取得した。
【0075】
そして、左右眼の調節反応量の差ΔAC=0.38Dに対するΔPE=0.25Dの値が、好適な公差内(±0.15D以内)に収まっていた。その結果、上記の非球面設計により、装用者における左眼と右眼との間の調節反応量の差ΔACを、左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELと右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERとの差ΔPEで補うことができていると判断し、設計を完了した。
【0076】
[実施例2]
(単焦点のプラスレンズ)
まず、単焦点レンズであるところの一対の眼鏡レンズの装用者(その2)の処方値としてSph+2.00Dという値を取得した。次に、装用者にとっての一対の眼鏡レンズの目的距離(すなわち近方視の目的距離)として400mm(40cm)という値を取得した。
【0077】
上記の取得工程とは別に、本実施例においては装用者に対してACR、ACLの測定を行った。右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとを取得し、左右眼の調節反応量の差ΔACを取得した。
その際の各種条件および結果は以下の通りである。
距離f(遠見):5m
距離n(近見):40cm
調節刺激量:2.30D(=1/0.4-1/5)
右眼の調節反応量ACR:2.02D
左眼の調節反応量ACL:1.76D
左右眼の調節反応量の差ΔAC:0.26D
【0078】
以下、設計工程を行う。本実施例では、レンズ基材の屈折率を1.662、中心厚6.0mmで設計を行うこととした。また、近用位置を見るための回旋角αを30度と設定した。
【0079】
本実施例においてはベースカーブは、上記の眼鏡処方を基に6カーブ(BC6.0)を設定した。
【0080】
次に、非球面設計を行った。具体的には、まず、左眼に比べて調節反応量が大きかった右眼用の眼鏡レンズに対し、度数誤差がほぼゼロになるように(以降、度数誤差重視という。)非球面設計を行った。その結果を
図4に示す。
図4は、実施例2の右眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。なお、度数誤差をほぼゼロにしようとすると非点収差が大きくなる傾向がある。逆に、非点収差をほぼゼロにしようとすると度数誤差が大きくなる傾向がある。
眼の回旋角が30度のときの右眼用の眼鏡レンズの位置T1だと度数誤差PE
Lは0になった。
【0081】
そして、左眼用の眼鏡レンズに対し、非点収差がほぼゼロになるように(以降、非点収差重視という。)非球面設計を行った。その結果を
図5に示す。
図5は、実施例2の左眼用の眼鏡レンズにおける度数誤差および非点収差を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は回旋角(1目盛が5度)を表す。
眼の回旋角が30度のときの左眼用の眼鏡レンズの位置T2だと度数誤差PE
Lは0.25Dになった。
【0082】
右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERと左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELとの差ΔP(=PEL-PER=0.25D)を取得した。
【0083】
そして、左右眼の調節反応量の差ΔAC=0.26Dに対するΔPE=0.25Dの値が、好適な公差内(±0.15D以内)に収まっていた。その結果、上記の非球面設計により、装用者における左眼と右眼との間の調節反応量の差ΔACを、左眼用の眼鏡レンズの度数誤差PELと右眼用の眼鏡レンズの度数誤差PERとの差ΔPEで補うことができていると判断し、設計を完了した。
【0084】
[実施例3]
(累進屈折力レンズ)
まず、累進屈折力レンズ(累進多焦点レンズ)であるところの一対の眼鏡レンズの装用者(その3)の処方値としてSph0.00Dという値を取得した。また、遠用度数測定位置における度数から近用度数測定位置における度数までの増加分すなわち加入度として1.00Dという値を取得した。
【0085】
上記の取得工程とは別に、右眼の調節反応量ACRと左眼の調節反応量ACLとを取得し、左右眼の調節反応量の差ΔACを取得した。本例においては装用者に対してACR、ACLの測定を行った。その際の各種条件は実施例1と同様とした。本実施例の装用者(その3)は右眼の方が調節反応量が大きかった。左右眼の調節反応量の差ΔAC(=ACR-ACL)は0.19Dであった。
【0086】
以下、設計工程を行う。本実施例では、レンズ基材の屈折率を1.662、中心厚1.1mmで設計を行うこととした。
【0087】
本実施例においてはベースカーブは、上記の眼鏡処方を基に1カーブ(BC1.0)を設定した。
【0088】
次に、非球面設計を行った。本実施例においては累進設計が非球面設計に該当する。
【0089】
なお、主子午線における遠用度数測定位置を、レンズの幾何中心を原点としたときに(X=0,Y=8.0mm)の位置とした。このときの装用者の回旋角は0度である。
また、主子午線における近用度数測定位置を、レンズの幾何中心を原点としたときに(X=0,Y=-15mm)の位置とした。このときの装用者の回旋角は約30度である。
【0090】
具体的には、まず、左眼に比べて調節反応量が大きかった右眼用の眼鏡レンズに対し、加入度1.00Dを付加した。その結果、遠用度数測定位置にて設定された度数は0.00D、近用度数測定位置にて設定された度数は+1.00Dとなった。その結果を
図6に示す。
図6は、実施例3の右眼用の眼鏡レンズ(破線)および左眼用の眼鏡レンズ(実線)における度数変化を表すグラフであり、横軸はD(1目盛が0.25D)、縦軸は主子午線上のY座標(1目盛が5mm)を表す。
【0091】
そして、左眼用の眼鏡レンズに対し、左右眼の調節反応量の差ΔACを補うべく、加入度1.15Dを付加した。その結果、遠用度数測定位置にて設定された度数は0.00D、近用度数測定位置にて設定された度数は+1.15Dとなった。その結果を同じく
図6に示す。
【0092】
近用度数測定位置における、右眼用の眼鏡レンズの度数差PR(すなわち加入度、本実施例だと+1.00D-0.00D)と左眼用の眼鏡レンズの度数差PL(すなわち加入度、本実施例だと+1.15D-0.00D)との差ΔP(=1.15D-1.00D=0.15D)を取得した。
【0093】
そして、左右眼の調節反応量の差ΔAC=0.19Dに対するΔP=0.15Dの値が、好適な公差内(±0.15D以内)に収まっていた。その結果、上記の非球面設計(すなわち累進設計)により、装用者における左眼と右眼との間の調節反応量の差ΔACを、左眼用の眼鏡レンズの度数差PLと右眼用の眼鏡レンズの度数差PRとの差ΔPで補うことができていると判断し、設計を完了した。
【0094】
本明細書において“度数差”は、実施例1、2にて例示した単焦点レンズの度数誤差にみならず、実施例3にて例示した累進屈折力レンズの加入度の設定によりもたらされる度数変化を包含する。累進屈折力レンズに対して本発明の技術的思想を適用する場合、位置T1および位置T2を近用度数測定位置と設定し、且つ“度数誤差”を“度数変化(近用度数測定位置における度数から、遠用度数測定位置における度数を引いた値)”と言い換えても構わない。
例えば、実施例3のように、右眼の調節反応量と左眼の調節反応量のうち調節反応量が少ない方の眼用の眼鏡レンズに対し、調節反応量が多い方の眼用の眼鏡レンズよりも大きな度数変化が設定されてもよい。なお、この度数変化は、装用者に処方される加入度のような処方値とは別に設定された度数差である。本実施形態で例示した単焦点レンズにおける度数誤差も、処方値とは別に設定された度数差である。