(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】油圧キャンセル構造及び該油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 9/18 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
F16H9/18 B
(21)【出願番号】P 2018139998
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】早川 大樹
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-182791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向に摺動可能な可動体と、
該可動体に基端が取り付けられて前記軸方向に延びる筒状のシリンダ部材と、
該シリンダ部材の先端部内周面に嵌装され、前記シリンダ部材の先端開口を塞ぐカバー部材と、
前記シリンダ部材及び前記カバー部材により区画され、前記シリンダ部材内に形成された前記可動体に推力を与える油圧室に発生する遠心油圧を抑制する油圧キャンセル室と、
前記シリンダ部材の先端部内周面に形成された環状の溝部に嵌装され、前記カバー部材の前記シリンダ部材先端側への移動を規制する拡縮径可能なリング部材と、を備え、
前記溝部にシリンダ壁を貫通する貫通孔
が形成されており、
前記貫通孔は、前記溝部において前記リング部材が当接する底面及び/又は側面に形成され、前記リング部材によって閉鎖されることを特徴とする油圧キャンセル構造。
【請求項2】
前記貫通孔は、
作動油によって前記リング部材が縮径方向に加圧されると開口することを特徴とする請求項1に記載の油圧キャンセル構造。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記溝部の周方向に間隔をあけて複数形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の油圧キャンセル構造。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧キャンセル構造及び該油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置に関し、特に、油圧室に発生する遠心油圧を抑制する油圧キャンセル室を備えた油圧キャンセル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に適用される無段変速装置は、一般に、入力軸に装着されるプライマリプーリと、出力軸に装着されるセカンダリプーリを備えており、各プーリは、回転軸に固定された固定シーブと、回転軸の軸方向に摺動可能な可動シーブとを備える。可動シーブの背面(すなわち、固定シーブと非対向の面)には、可動シーブに推力を与える油圧室が形成され、さらに油圧室の背面側には油圧室に発生する遠心油圧を抑制する油圧キャンセル室が形成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、無段変速装置のセカンダリプーリにおいて、回転軸の軸方向に摺動可能な可動シーブと、可動シーブに推力を与える油圧室に発生する遠心油圧を抑制する油圧キャンセル室とを備えた構造が記載されている。油圧キャンセル室は、油圧室を介在して可動シーブの背面側に形成されており、基端が可動シーブに固定されたシリンダ部材と、シリンダ部材の先端開口を塞ぐカバー部材とによって区画されている。カバー部材は、外周縁部がシリンダ部材の先端部の内周面に形成された環状溝部に嵌装されており、さらに、この環状溝部に嵌装された縮径可能なリング部材によって、シリンダ部材先端側への移動が規制されている。
【0004】
このような油圧キャンセル室を有する無段変速装置では、油圧キャンセル室内の油圧が高くなった場合に、油圧キャンセル室を区画している各部材間の隙間から作動油を外部へ排出することで、油圧キャンセル室内の油圧を油圧室とバランスさせるのに適した油圧に保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、極低温環境下では作動油の粘性が高くなることから、油圧キャンセル室の隙間から作動油が外部へ排出され難くなる。
【0007】
特許文献1に記載の油圧キャンセル室を有する無段変速装置では、極低温環境下において回転軸の回転数を高くすると、油圧キャンセル室内の作動油がシリンダ部材とカバー部材との間の隙間からシリンダ部材の環状溝部内へ流れ込み、リング部材が高い油圧で縮径方向へ加圧されることで、リング部材が縮径して溝部から外れるおそれがあった。リング部材が外れると、カバー部材の移動規制効果が得られなくなり、カバー部材が適切に保持できないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、極低温環境下において、油圧キャンセル室を区画するカバー部材の移動を規制するリング部材の外れを防止することができる油圧キャンセル構造及び該油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態の油圧キャンセル構造は、回転軸の軸方向に摺動可能な可動体と、該可動体に基端が取り付けられて前記軸方向に延びる筒状のシリンダ部材と、該シリンダ部材の先端部内周面に嵌装され、前記シリンダ部材の先端開口を塞ぐカバー部材と、前記シリンダ部材及び前記カバー部材により区画され、前記シリンダ部材内に形成された前記可動体に推力を与える油圧室に発生する遠心油圧を抑制する油圧キャンセル室と、前記シリンダ部材の先端部内周面に形成された環状の溝部に嵌装され、前記カバー部材の前記シリンダ部材先端側への移動を規制する拡縮径可能なリング部材と、を備え、前記溝部にシリンダ壁を貫通する貫通孔が形成されており、前記貫通孔は、前記溝部において前記リング部材が当接する底面及び/又は側面に形成され、前記リング部材によって閉鎖されることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態は、前記油圧キャンセル構造において、前記貫通孔は、作動油によって前記リング部材が縮径方向に加圧されると開口することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、極低温環境下において回転軸の回転数が高くなり、油圧キャンセル室内の作動油がシリンダ部材とカバー部材との隙間からシリンダ部材の溝部に入り込んだ際に、作動油を貫通孔からシリンダ部材の外部へ排出することができる。これにより、溝部に入り込んだ作動油に押圧されてリング部材が縮径されることを防止することができ、その結果、リング部材の拡径状態を保持してリング部材の外れを防止することができる。
【0012】
この構成によれば、作動油の粘性が低くなる高温環境下等において、溝部に形成された貫通孔をリング部材で塞ぐことができるので、高温時に油圧キャンセル室内の作動油が貫通孔から排出されることを防止し、油量を適切に調節することができる。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、前記油圧キャンセル構造において、前記貫通孔は、前記溝部の周方向に間隔をあけて複数形成されたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、油圧キャンセル室の周方向において、作動油を均一的に外部へ排出することができる。
【0015】
また、本発明の一実施形態の無段変速装置は、前記油圧キャンセル構造を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、油圧キャンセル室を備えた無段変速装置において、極低温環境下において回転軸の回転数が高くなって、作動油が油圧キャンセル室を構成しているシリンダ部材の溝部に入り込んだ際に、溝部に形成された貫通孔から作動油をキャンセル室の外部へ排出することができる。これにより、溝部に入り込んだ作動油によってリング部材が縮径されることを防止することができるので、リング部材の拡径状態を保持してリング部材の外れを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る油圧キャンセル構造及び該油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置によれば、極低温環境下において回転軸の回転数を上げた際に、油圧キャンセル室を構成しているシリンダ部材の溝部に形成された貫通孔から作動油を外部へ排出し、溝部に嵌装されたリング部材の外れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態である油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置を示すスケルトン図。
【
図3】
図2のIIIで囲む領域の拡大断面図であり、(a)は貫通孔が閉鎖された状態、(b)は貫通孔が開放された状態を示す。
【
図5】シリンダ部材の先端部の変形例を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施の形態)
本発明の一実施の形態である油圧キャンセル構造を備えた無段変速装置を示すスケルトン図である。無段変速装置10は、エンジン11により駆動されるクランク軸12と、トルクコンバータ40及び前後進切換機構50を介してクランク軸12の動力が伝達される無段変速機構13とを備える。
【0020】
無段変速機構13は、前後進切換機構50に連結される入力側のプーリ軸であるプライマリ軸14と、プライマリ軸14と平行に配設された出力側のプーリ軸であるセカンダリ軸(回転軸)15とを備える。プライマリ軸14には、プライマリプーリ20が設けられ、セカンダリ軸15には、セカンダリプーリ30が設けられる。プライマリプーリ20とセカンダリプーリ30とには、動力伝達ベルト29が巻き掛けられている。セカンダリ軸15と駆動輪18との間には、減速機構16と、差動機構17とが設けられる。
【0021】
トルクコンバータ40は、クランク軸12にフロントカバー41を介して連結されるポンプインペラ42と、ポンプインペラ42に対向してタービン軸43連結されるタービンライナ44を備える。トルクコンバータ40内には作動油が供給されており、トルクコンバータ40は作動油を介してポンプインペラ42らタービンライナ44にエンジン動力を伝達する。また、トルクコンバータ40には、エンジン動力の伝達効率を向上させるため、クランク軸12とタービン軸43とを直結するロックアップクラッチ45が設けられている。
【0022】
前後進切換機構50は、ダブルピニオン式の遊星歯車列51と、前進用クラッチ52と、後退用ブレーキ53とを備え、前進用クラッチ52や後退用ブレーキ53を制御することでエンジン11の動力の伝達経路を切り換え可能に構成されている。具体的には、前進用クラッチ52及び後退用ブレーキ53を共に解放することで、タービン軸43とプライマリ軸14とを切り離すことが可能であり、後退用ブレーキ53を開放して前進用クラッチ52を締結することで、タービン軸43の回転をプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。また、前進用クラッチ52を開放して後退用ブレーキ53を締結することで、タービン軸43の回転を逆転してプライマリプーリ20に伝達することが可能となる。
【0023】
無段変速機構13のプライマリプーリ20は、プライマリ軸14に固定される固定シーブ21と、固定シーブ21と対向配置され、プライマリ軸14の軸方向に摺動可能な可動体である可動シーブ22とを備える。プライマリ軸14は、ケース70に設けられた軸受71,72を介して回転自在に支持されている。可動シーブ22の背面側、すなわち、固定シーブ21との非対向面側には、プライマリ軸14を囲み、基端が可動シーブ22に取付けられてプライマリ軸14の軸方向に延びる円筒状のシリンダ部材25が設けられている。なお、シリンダ部材25は、可動シーブ22と一体に形成することができる。
【0024】
また、プライマリ軸14には、シリンダ部材25の内部を区画するとともに、シリンダ部材25の内周面に摺動自在に接触する隔壁部材24が固定されている。この隔壁部材24と、シリンダ部材25と、可動シーブ22の背面とにより、油圧室P1が区画される。油圧室P1には、プライマリ軸14内を通る作動油路から作動油が供給され、油圧室P1内の作動油の状態を制御することで可動シーブ22に軸方向の推力が与えられ、可動シーブ22を軸方向に摺動させることができる。これにより、プライマリプーリ20の溝幅を変化することが可能となる。なお、油圧室P1及び後述するセカンダリプーリ30の油圧室S1に作動油を供給するためのオイルポンプ19は、エンジン11により駆動することができる。
【0025】
シリンダ部材25の先端部25aにはフランジ部が形成されており、この先端部25aの内周面にはシリンダ部材25の先端開口を塞ぐカバー部材26が嵌装されている。カバー部材26は、中央部に開口を有するディスク状であって、この中央部開口をプライマリ軸14が貫通している。カバー部材26の外周縁部は、シリンダ部材25の先端部25aの内周面に形成された環状の溝部に嵌装されており、この溝部に嵌装された縮拡径可能なリング部材によってシリンダ部材25の先端側への移動が規制されている。また、カバー部材26と、シリンダ部材25と、隔壁部材24とにより、油圧室P1に隣接して油圧キャンセル室P2が区画される。油圧キャンセル室P2には、プライマリ軸14内を通る作動油路から作動油が供給され、この作動油により、可動シーブ22が回転した際に油圧室P1に発生する遠心油圧を抑制するための遠心油圧を発生させる。
【0026】
図1及び
図2に示すように、無段変速機構13のセカンダリプーリ30は、セカンダリ軸15に固定される固定シーブ31と、固定シーブ31と対向配置され、セカンダリ軸15の軸方向に摺動可能な可動体である可動シーブ32とを備える。なお、
図2では、可動シーブ32の移動状態を理解しやすいように、セカンダリ軸15の上方側において、可動シーブ32が固定シーブ31から離れた状態、セカンダリ軸15の下方側において、可動シーブ32が固定シーブ31に接近した状態をそれぞれ示している。セカンダリ軸15は、ケース70に設けられた軸受73,74を介して回転自在に支持されている。可動シーブ32の背面側(固定シーブ31との非対向面側)には、セカンダリ軸15を囲み、基端35bが可動シーブ32に取付けられてセカンダリ軸15の軸方向に延びる円筒状のシリンダ部材35が設けられている。なお、本実施の形態のシリンダ部材35は、可動シーブ32と一体に形成されている。
【0027】
セカンダリ軸15には、シリンダ部材35の内部を区画するとともに、シリンダ部材35の内周面に摺動自在に接触する隔壁部材34が固定されている。この隔壁部材34と、シリンダ部材35と、可動シーブ32の背面とにより、油圧室S1が区画される。油圧室S1には、セカンダリ軸15内を通る作動油路75から作動油が供給され、油圧室S1内の作動油の状態を制御することで可動シーブ32に軸方向の推力が与えられ、可動シーブ32を軸方向に摺動させることができ、これにより、セカンダリプーリ30の溝幅を変化することが可能となる。また、上述のように、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ30の溝幅を変化させて、動力伝達ベルト29の巻き付け径を変化させることにより、無段変速機構13をロー(Low)からハイ(Hight)まで変速比を無段階に制御することが可能となる。
【0028】
シリンダ部材35の先端部35aにはフランジ部が形成されており、この先端部35aの内周面にはシリンダ部材35の先端開口を塞ぐカバー部材36が嵌装されている。カバー部材36は、中央部に開口を有するディスク状であって、この中央部開口をセカンダリ軸15が貫通している。また、カバー部材36と、シリンダ部材35と、隔壁部材34とにより、油圧室S1に隣接して油圧キャンセル室S2が区画される。油圧キャンセル室S2には、セカンダリ軸15内を通って油圧キャンセル室S2まで連通する作動油路76,77から作動油が供給され、この作動油により、可動シーブ32が回転した際に油圧室S1に発生する遠心油圧を抑制するための遠心油圧を発生させる。
【0029】
図2及び
図3(a)に示すように、カバー部材36の外周縁部は、シリンダ部材35の先端部35aの内周面に形成された径方向外側に凹となる環状の溝部39に嵌装されており、この溝部39に嵌装された縮拡径可能なリング部材37によって軸方向の移動、すなわち、シリンダ部材35の先端側への移動が規制されている。リング部材37としては、例えば、C型リングであるスナップリングを用いることができる。
【0030】
シリンダ部材35の溝部39には、シリンダ壁を貫通する貫通孔60が形成されている。貫通孔60は溝部39の底面に形成されており、本実施の形態では
図4(a)に示すように、略円形の開口を有し、溝部39の周方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、貫通孔60は溝部39に少なくとも一つ形成されていればよいが、溝部39の周方向に等間隔で複数形成されていることが好ましい。また、貫通孔60の開口形状は円形に限られず、例えば、
図4(b)に示すように周方向に長い楕円形状やスリット形状にすることができる。
【0031】
貫通孔60は、溝部39においてリング部材37の外周面が当接する底面に形成されることが好ましく、
図2に示すように、貫通孔60の幅W(すなわち、貫通孔60の円形開口の直径)はリング部材37の厚さtよりも小さく、拡径状態で溝部39に当接したリング部材37によって貫通孔60が閉鎖された状態であることが好ましい。
【0032】
次に、上述した油圧キャンセル構造において、油圧キャンセル室S2から排出される作動油の流れについて説明する。
【0033】
図3(a)に示すように、作動油の粘性が高くなる極低温環境下において、セカンダリ軸15の回転数が高くなると、作動油が油圧キャンセル室S2を構成しているシリンダ部材35とカバー部材36との間の隙間からの溝部39に入り込み、この作動油によってリング部材37が縮径方向に加圧される。リング部材37が僅かに縮径すると、
図3(b)に示すように、溝部39に形成した貫通孔60が開口状態となり、この貫通孔60からシリンダ部材35の外部へ作動油が排出される。このように、貫通孔60から作動油を積極的に外部へ排出することにより、溝部39内に作動油が留まることを防止し、その結果、リング部材37の縮径変形を抑止することができる。これにより、リング部材37は所要の拡径状態を保持することができ、溝部39から外れることが防止される。また、貫通孔60を周方向に間隔をあけて複数設けているので、油圧キャンセル室S2の周方向において、作動油を均一的に外部へ排出することができる。
【0034】
また、低温環境下よりも作動油の粘性が低くなる高温環境下では、作動油が油圧キャンセル室S2を区画する部材間の隙間から外部へ排出されやすくなる。本実施の形態では、貫通孔60を溝部39においてリング部材37が当接する面に形成しているので、高温環境下ではリング部材37によって貫通孔60を閉鎖して、例えば、カバー部材36とリング部材37との間の隙間等から作動油を排出させることができる。これにより、高温時に油圧キャンセル室S2内の作動油が貫通孔60から過剰に排出されることを防止して、油量を適切に調節することができる。
【0035】
なお、貫通孔60の形成位置は、溝部39の底面に限られない。例えば、
図3(b)に仮想線で示す貫通孔62のように、溝部39においてリング部材37が当接する側面に形成してもよい。かかる場合には、リング部材37が僅かに縮径した際に貫通孔62が開放状態となるように、溝部39の底面に近い側面に形成することが好ましい。さらに、仮想線で示す貫通孔63のように、溝部39の底面と側面との境界部分に形成してもよい。また、形成位置の異なる貫通孔60,62,63を組み合わせて採用してもよい。
【0036】
なお、上述の実施の形態では、セカンダリプーリ30において、シリンダ部材35の溝部39に貫通孔60を形成した油圧キャンセル構造について説明したが、このような貫通孔を有する油圧キャンセル構造をプライマリプーリ20のキャンセル油室P2を構成するシリンダ部材25、カバー部材26及びリング部材に適用してもよい。
【0037】
(変形例)
図5は、シリンダ部材35の先端部35aの変形例を示す要部拡大断面図である。本変形例では、シリンダ部材35の先端フランジ部において、カバー部材36が嵌装される環状溝部38とは別に、リング部材37用の環状の溝部39が形成されている。また、貫通孔60は、リング部材37用の溝部39の底面に形成されている。このように、カバー部材36とリング部材37とは個別の溝部38,39に嵌装されていてもよい。また、貫通孔の位置は溝部39の底面に限られず、仮想線で示す貫通孔64及び65のように、溝部39の側面や側面と底面との境界部分に形成されていてもよい。
【0038】
なお、本発明は上述した実施の形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0039】
例えば、本発明の無段変速装置は、動力伝達ベルト29が巻装されるプライマリプーリ20及びセカンダリプーリ30のうち、少なくとも一方のプーリに設けられる油圧キャンセル構造において、リング部材が嵌装されるシリンダ部材の溝部に貫通孔を形成したものであればよい。また、例えば、本発明の油圧キャンセル構造は、無段変速装置に適用されるものに限られず、その他の装置や機器に適用されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 無段変速装置
13 無段変速機構
14 プライマリ軸
15 セカンダリ軸
20 プライマリプーリ
30 セカンダリプーリ
21,31 固定シーブ
22,32 可動シーブ
25,35 シリンダ部材
26,36 カバー部材
37 リング部材
39 溝部
60,62,63,64,65 貫通孔
P1,S1 油圧室
P2,S2 油圧キャンセル室