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特許7126915アルミニウム合金押出材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/12 20060101AFI20220822BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20220822BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220822BHJP
【FI】
C22C21/12
C22F1/057
C22F1/00 606
C22F1/00 630A
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
C22F1/00 612
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018186375
(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公開番号】P2020056059
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 能昌
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 智史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅敏
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043802(JP,A)
【文献】特開2010-018854(JP,A)
【文献】特開2017-128789(JP,A)
【文献】特開2008-115413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00,1/04-1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.2質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなり、
塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織であり、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金押出材
【請求項2】
更に、Sc:0.05~0.3質量%を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金押出材
【請求項3】
Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.2質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金の鋳塊を、400~520℃の温度で1~20時間保持する均質化処理と、
該均質化処理を行い得られる均質化処理材を、300~500℃の温度で熱間加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程を行い得られる熱間加工材を、該熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で、0.5~5時間保持する一段目の溶体化処理と、該一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で、0.5~5時間保持する二段目の溶体化処理と、を続けて行った後、水冷して焼入れする二段溶体化処理と、
該二段溶体化処理を行い得られる二段溶体化処理材を、150~220℃の温度で、2~30時間保持する人工時効処理と、
を有するアルミニウム合金押出材の製造方法であり、
該アルミニウム合金押出材は、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織であり、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたアルミニウム合金、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2削減による地球環境に対する配慮や、省エネルギーの観点から、自動車や二輪車などの輸送機において、各種構造部材の軽量化及びコストダウンの要求が高まり、各種部材の材料を鉄鋼からアルミニウム合金へ切り替えるための開発が行われている。その中でも、エンジンなどに搭載される内燃機関用部品に用いられるアルミニウム合金には、室温環境だけではなく、高温環境下における高強度化が要求されている。
【0003】
エンジン部品用のアルミニウム合金には、AA規格のAA2618、AA2219合金が適用されている。これまで、200℃付近までの高温強度を確保するために、Cu、Mg及びNiを主要成分とするアルミニウム合金に、Agを添加して高強度化する試みが行われている(特許文献1)。また、アルミニウム合金の高強度化として、アルミニウム合金の溶融開始温度を基に、溶体化処理温度を設定することで、過飽和固溶量を増大させ、時効処理時の微細析出物の析出量の増加によりアルミニウム合金を高強度化する試みが行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-115413号公報
【文献】特開2008-202121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のAgを添加する手法には、Agの地金が高価なため、製造コストが増大するという問題がある。また、特許文献2では、アルミニウム合金の溶融開始温度近傍で溶体化処理を行うため、局所的に溶融開始温度まで加熱されて、アルミニウム合金が部分溶解し、また、高温加熱によりアルミニウム合金の組織が部分再結晶して、強度低下につながるおそれがある。
【0006】
従って、本発明の目的は、Al-Cu-Mg系アルミニウム合金であり、耐熱性に優れる高強度アルミニウム合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、合金成分と、加工及び処理と、内部組織等との関連を検討した結果、合金成分、特にCu、Mgの含有量を特定の範囲とすること、溶体化処理を二段処理とすること等により、アルミニウム合金を高強度化するとともに、再結晶粒の粗大化を抑え、平均アスペクト比が5以上の繊維状組織を形成させることができ、そのことにより、耐熱性に優れる高強度のアルミニウム合金が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明(1)は、Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.2質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなり、
塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織であり、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金押出材を提供するものである。
【0009】
また、本発明(2)は、更に、Sc:0.05~0.3質量%を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金押出材を提供するものである。
【0011】
また、本発明()は、Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.2質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金の鋳塊を、400~520℃の温度で1~20時間保持する均質化処理と、
該均質化処理を行い得られる均質化処理材を、300~500℃の温度で熱間加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程を行い得られる熱間加工材を、該熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で、0.5~5時間保持する一段目の溶体化処理と、該一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で、0.5~5時間保持する二段目の溶体化処理と、を続けて行った後、水冷して焼入れする二段溶体化処理と、
該二段溶体化処理を行い得られる二段溶体化処理材を、150~220℃の温度で、2~30時間保持する人工時効処理と、
を有するアルミニウム合金押出材の製造方法であり、
該アルミニウム合金押出材は、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織であり、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金押出材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Al-Cu-Mg系アルミニウム合金であり、耐熱性に優れる高強度アルミニウム合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】繊維組織の形態例の図である。
図2】再結晶組織の形態例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミニウム合金は、Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.3質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなり、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織であることを特徴とするアルミニウム合金である。
【0015】
本発明のアルミニウム合金は、Cu、Si、Fe、Mn、Mg、Ti、Ni、及びZrを、必須成分として含有し、残部不可避不純物及びアルミニウムからなる。また、本発明のアルミニウム合金は、必要に応じて、これらの成分に加えて、更に、Scを含有することができる。
【0016】
本発明のアルミニウム合金のCu含有量は、2.0~3.5質量%、好ましくは2.5~3.3質量%である。Cuは引張強さや疲労強度などの機械的性質の向上に寄与する元素である。アルミニウム合金のCu含有量が上記範囲にあることにより、引張強さが高くなる。一方、アルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲未満だと、強度向上の効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、融点が大幅に低くなるため、溶体化処理温度を低くしなければならず、そのため、溶体化処理後のマトリックス中の過飽和度が小さくなり、強度向上の効果が得られない。
【0017】
本発明のアルミニウム合金のSi含有量は、0.1~0.5質量%、好ましくは0.2~0.4質量%である。SiはMnとともにAl-Mn-Si系化合物の微細分散相を析出させ、転位のピンニング効果を高めて、溶体化処理中の再結晶粒の粗大化を防止する。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲にあることにより、高温強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲未満だと、強度向上の効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、粗大な化合物を形成するため、高温強度が低くなる。
【0018】
本発明のアルミニウム合金のFe含有量は、0.5~1.0質量%、好ましくは0.6~0.9質量%である。FeはNiとの化合物を形成し、耐熱性を向上させる。アルミニウム合金のFe含有量が上記範囲にあることにより、耐熱性が高くなる。一方、アルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲未満だと、耐熱性の向上効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、Al-Fe系、Al-Fe-Cu系などのFe系化合物がマトリックス中に分散するため、耐熱性の向上効果が小さくなる。
【0019】
本発明のアルミニウム合金のMn含有量は、0.3~0.8質量%、好ましくは0.4~0.7質量%である。Mnは機械的性質を向上させるとともに、Siとともに微細なAl-Mn-Si系化合物を析出し、分散することで、合金の溶体化処理中に生じる再結晶が抑制され、繊維状組織が形成され、強度を向上させる。アルミニウム合金のMn含有量が上記範囲にあることにより、強度及び耐熱性が高くなる。一方、アルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、強度及び耐熱性の向上効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が発生し易くなり、強度低下を招く。
【0020】
本発明のアルミニウム合金のMg含有量は、1.5~2.5質量%、好ましくは1.7~2.1質量%である。Mgは機械的性質を向上させる。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のMg含有量が、上記範囲未満だと、強度向上の効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、成形加工性が悪くなり、生産性が低くなる。
【0021】
本発明のアルミニウム合金のTi含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%である。Tiは微細な金属間化合物を形成し、微細結晶粒組織が安定して得られる。アルミニウム合金のTi含有量が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金の鋳塊に粗大な化合物が生じることが抑制されるため、高い成形性を維持できる。一方、アルミニウム合金のTi含有量が、上記範囲未満だと、上記効果が小さくなり、上記範囲を超えると、成形加工性が悪くなる。また、Tiは単独で添加するか、Bと組み合わせて複合添加して含有させてもよい。結晶粒微細化のためにはBを併せて含有することで、より大きな効果が得られる。
【0022】
本発明のアルミニウム合金のNi含有量は、0.5~2.0質量%、好ましくは0.8~1.3質量%である。NiはFeとの化合物を形成し、耐熱性を向上させる。アルミニウム合金のNi含有量が上記範囲にあることにより、耐熱性が高くなる。一方、アルミニウム合金のNi含有量が、上記範囲未満だと、耐熱性の向上効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、Al-Ni系、Al-Ni-Cu系などのNi系化合物がマトリックス中に分散するため、高温強度が低くなる。
【0023】
本発明のアルミニウム合金のZr含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%である。ZrはAl3Zr化合物の微細分散により、溶体化処理中に生じる再結晶粒の粗大化を抑制し、繊維状組織を形成させて、強度を高める。アルミニウム合金のZr含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のZr含有量が、上記範囲未満だと、強度向上の効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が発生し、成形性が悪くなる。
【0024】
本発明のアルミニウム合金がScを含有する場合、本発明のアルミニウム合金のSc含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%である。ScはAl3Sc化合物の微細分散により、溶体化処理中に生じる再結晶粒の粗大化を抑制するとともに、300℃付近で析出硬化に寄与するため、耐熱性が高くなる。アルミニウム合金のSc含有量が上記範囲にあることにより、耐熱性が高くなる。一方、アルミニウム合金のSc含有量が、上記範囲未満だと、耐熱性の向上効果が小さくなり、また、上記範囲を超えると、微細に析出せずに、粗大化合物を形成し強度が低くなる。
【0025】
本発明のアルミニウム合金は、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織である。アルミニウム合金が、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織(例えば、図1に示す組織)であることにより、耐熱性が高くなる。一方、アルミニウム合金の塑性加工方向に再結晶組織(例えば、図2に示す組織)を形成し、平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5未満だと、耐熱性が低くなる。なお、本発明において、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比は、以下の測定方法により求められる。各試験材の塑性加工方向に平行な断面を電解エッチングし結晶粒を現出させ、材料組織を偏光光学顕微鏡により、倍率25倍で撮影する。次いで、撮影写真上に観察される結晶粒から、任意に10個選択し、個々の結晶粒について、「(塑性加工方向の長さ)/(塑性加工方向に直行する方向の長さ)」の式により、アスペクト比を計算し、選択した10個の結晶粒の平均を求めて、平均アスペクト比とする。アスペクト比が十分に大きく、全ての結晶粒の塑性加工方向の長さが撮影視野を超え、アスペクト比が5以上と判断できる場合は、平均アスペクト比は5以上とする。
【0026】
本発明のアルミニウム合金は、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下である。エンジンなどに搭載される内燃機関用部品は、高温環境下で長時間用いられると、強度が低下するおそれがある。そして、本発明のアルミニウム合金は、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下であることにより、高強度であり、且つ、高温環境下での部品の強度低下を最小限度に抑え、製品寿命を延ばすことができる。なお、引張強さ(B)は、試験対象を、100℃/時間の昇温速度で、200℃まで加熱し、次いで、200℃で10時間保持し、次いで、空冷して、室温程度まで冷却した後、25℃で試験対象を測定したときの引張強さである。また、引張強さ(A)は、試験対象に上記のような加熱処理を施す前に、25℃で試験対象を測定したときの引張強さである。
【0027】
本発明のアルミニウム合金には、上記以外の元素が、不可避不純物元素として含有されていてもよい。本発明のアルミニウム合金中の不可避不純物元素の含有量は、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、特に制限されず、それぞれの不可避不純物元素の含有量が0.05質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明のアルミニウム合金は、例えば、以下に示す本発明のアルミニウム合金の製造方法により、製造される。
【0029】
本発明のアルミニウム合金の製造方法は、Cu:2.0~3.5質量%、Si:0.1~0.5質量%、Fe:0.5~1.0質量%、Mn:0.3~0.8質量%、Mg:1.5~2.5質量%、Ti:0.05~0.3質量%、Ni:0.5~2.0質量%、及びZr:0.05~0.3質量%を含有し、残部が不可避不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金の鋳塊を、400~520℃の温度で1~20時間保持する均質化処理と、
該均質化処理を行い得られる均質化処理材を、300~500℃の温度で熱間加工する熱間加工工程と、
該熱間加工工程を行い得られる熱間加工材を、該熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で、0.5~5時間保持する一段目の溶体化処理と、該一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で、0.5~5時間保持する二段目の溶体化処理と、を続けて行った後、水冷して焼入れする二段溶体化処理と、
該二段溶体化処理を行い得られる二段溶体化処理材を、150~220℃の温度で、2~30時間保持する人工時効処理と、
を有することを特徴とするアルミニウム合金の製造方法である。
【0030】
本発明のアルミニウム合金の製造方法では、先ず、所定の組成を有するアルミニウム合金を溶解し、DC鋳造により、所定の組成を有するアルミニウム合金からなるビレットを造塊する。ビレット中のCu含有量は、2.0~3.5質量%、好ましくは2.5~3.3質量%であり、Si含有量は、0.1~0.5質量%、好ましくは0.2~0.4質量%であり、Fe含有量は、0.5~1.0質量%、好ましくは0.6~0.9質量%であり、Mn含有量は、0.3~0.8質量%、好ましくは0.4~0.7質量%であり、Mg含有量は、1.5~2.5質量%、好ましくは1.7~2.1質量%であり、Ti含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%であり、Ni含有量は、0.5~2.0質量%、好ましくは0.8~1.3質量%であり、Zr含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%であり、必要に応じて、Scを含有する場合、Sc含有量は、0.05~0.3質量%、好ましくは0.1~0.2質量%である。
【0031】
本発明のアルミニウム合金の製造方法に係る均質化処理では、鋳造により得られるビレットを、400~520℃の温度で1~20時間保持することにより、均質化を行い、均質化処理材を得る。均質化温度が、400℃未満だと、十分な均質化が行われず、また、520℃を超えると、偏在するミクロ偏析が共晶融解を起こすため、疲労強度が低くなる。均質化時間が、1時間未満だと、十分な均質化が行われず、また、20時間を超えると、均質化処理のための熱処理炉の占有時間が長くなり過ぎるため、製造コストを増大させる。
【0032】
本発明のアルミニウム合金の製造方法に係る熱間加工工程では、均質化処理材を、300~500℃の温度で熱間加工することにより、熱間加工材を得る。熱間加工としては、押出加工、鍛造加工が好ましい。熱間加工工程では、1回以上熱間加工を行う。熱間加工を行わないと、鋳造組織のまま、ミクロ的な偏析が存在しているため、疲労強度が低くなる。熱間加工温度が300℃未満だと、加工ひずみが材料内部に蓄積されるため、溶体化処理の際に結晶粒の粗大化が生じて、強度が低くなり、また、500℃を超えると、加工変形中の加工発熱が加わり、部分的に共晶融解が発生して、疲労強度が低くなる。
【0033】
本発明のアルミニウム合金の製造方法に係る二段溶体化処理では、熱間加工材を、熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で、0.5~5時間保持する一段目の溶体化処理と、一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で、0.5~5時間保持する二段目の溶体化処理とを、続けて行った後、水冷して焼入れし、二段溶体化処理材を得る。
【0034】
一段目の溶体化処理では、熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で加熱することにより、熱間加工材の表面から内部にかけてミクロ偏析を熱的になくして均質化し、表層と内部の溶融開始温度差をなくすことで、二段目の溶体化処理を一段目の溶体化処理より高温で行うことが可能になる。溶体化処理の温度が高いほど、合金マトリックス中の過飽和固溶量が増大し、人工時効による微細析出物の析出量が多くなって、強度が高くなる。熱間加工材の溶融開始温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、10℃未満だと、ミクロ偏析が存在する場合には、共晶融解が生じ、靭性が低くなり、表面のふくれ発生の原因となり、また、熱間加工材の溶融開始温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、20℃を超えると、均質化が十分ではないために、二段目の溶体化処理において共晶融解が発生するおそれがある。また、一段目の溶体化処理時間が、0.5時間未満だと、均質化が十分ではないために、二段目の溶体化処理において共晶融解が発生するおそれがあり、また、一段目の溶体化処理時間が、5時間を超えると、熱処理炉の占有時間が長くなり過ぎるため、製造コストを増大させる。なお、一段目の溶体化処理において、熱間加工材の溶融開始温度より10~20℃低い温度域で加熱するとは、例えば、熱間加工後の熱間加工材の溶融開始温度が500℃であったとすると、一段目の溶体化処理では、480~490℃の温度域で加熱するということを指す。
【0035】
二段目の溶体化処理では、一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で加熱することより、高い温度で溶体化処理を行うことになるので、合金マトリックス中の過飽和固溶量が増大し、人工時効による微細析出物の析出量が多くなって、強度が高くなる。二段目の溶体化処理温度と、一段目の溶融開始温度との差が、10℃を超えると、部分的な再結晶組織の形成や共晶融解を招き、強度及びシャルピー衝撃値が低くなり、表面のふくれ発生の原因となり、また、二段目の溶体化処理温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、5℃未満だと、合金マトリックス中のCuやMgの過飽和固溶量が少なくなるため、強度が高くならない。また、二段目の溶体化処理時間が、0.5時間未満だと、合金マトリックス中のCuやMgの過飽和固溶量が少なくなるため、強度が高くならず、また、二段目の溶体化処理時間が、5時間を超えると、熱処理炉の占有時間が長くなり過ぎるため、製造コストを増大させる。なお、二段目の溶体化処理において、一段目の溶体化処理温度より5~10℃高い温度域で加熱するとは、例えば、一段目の溶体化処理で、485℃で加熱したとすると、二段目の溶体化処理では、490~495℃の温度域で加熱することを指す。
【0036】
本発明のアルミニウム合金の製造方法に係る人工時効処理では、二段溶体化処理材を、150~220℃の温度で、2~30時間保持する。人工時効処理温度が、150℃未満だと、析出量が少ないため、強度が低くなり、また、220℃を超えると、粗大な析出物が生じるため、強度が低くなる。また、人工時効処理温度が、2時間未満だと、析出量が少ないため、強度が低くなり、また、30時間を超えると、熱処理炉の占有時間が長くなり過ぎるため、製造コストを増大させる。
【0037】
本発明のアルミニウム合金の製造方法を行うことにより得られるアルミニウム合金は、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織である。そのため、本発明のアルミニウム合金の製造方法を行うことにより得られるアルミニウム合金は、25℃での引張強さ(A)が480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定したときの引張強さ(B)との差(A-B)が50MPa以下である。つまり、本発明のアルミニウム合金の製造方法を行うことにより得られるアルミニウム合金は、強度が高く且つ耐熱性が高い。
【0038】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0039】
(実施例1及び比較例1)
DC鋳造によって得た表1(実施例)及び表2(比較例)に示す組成のアルミニウム合金のビレット(直径90mm)を、470℃で20時間均質化処理した。なお、表1及び表2では、含有量は質量%であり、残部はアルミニウムである。次いで、400℃で熱間押出し、直径15mmの丸棒材形状の熱間押出材を得た。次いで、熱間押出材に、一段目の溶体化処理として、520℃の温度で2時間保持し、続けて、二段目の溶体化処理として、527℃の温度で2時間保持した後、水冷却による焼入れを行った。次いで、190℃で20時間の人工時効処理を行い、T6調質のアルミニウム合金を得た。
次いで、得られたアルミニウム合金の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0040】
<共晶融解開始温度の測定>
熱間押出材を示差走査熱量計で測定し、共晶融解開始温度を求めた。
【0041】
<引張強さの測定>
JIS Z 2241に準拠して、引張強さを測定した。
試験試料は、人工時効処理を行い得られたアルミニウム合金(試験試料1)と、人工時効処理を行い得られたアルミニウム合金を、100℃/時間の昇温速度で、200℃まで加熱し、次いで、200℃で10時間保持し、次いで、空冷して、室温程度まで冷却したアルミニウム合金(試験試料2)とした。
【0042】
<結晶粒の平均アスペクト比の測定>
アルミニウム合金の塑性加工方向に平行な断面を、電解エッチングにより結晶粒を現出させ、材料組織を偏光光学顕微鏡により、倍率25倍で撮影した。撮影写真上に観察される結晶粒から、任意に10個選択し、個々の結晶粒について、「(塑性加工方向の長さ)/(塑性加工方向に直行する方向の長さ)」の式により、アスペクト比を計算した。任意に選択した10個の結晶粒のアスペクト比を平均し、平均アスペクト比を求めた。なお、アスペクト比が十分に大きく、全ての結晶粒の塑性加工方向の長さが撮影視野を超え、アスペクト比が5以上と判断できる場合は、平均アスペクト比は5以上とした。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
比較例No.21~37は、本発明の範囲外であるため、材料の成形が良好ではないか、引張強さが良好なものが得られなかった。
比較例No.21は、Cu含有量が2.0質量%未満のため、強度が低かった。
比較例No.22は、Cu含有量が3.5質量%を超えているため、共晶融解開始温度が低くなり、再結晶が生じ、材料の引張強さが低かった。
比較例No.23は、Si含有量が0.1質量%未満のため、再結晶組織が形成され、引張強さと結晶粒の平均アスペクト比が低かった。
比較例No.24は、Si含有量が0.5質量%を超えているため、粗大化合物が形成され、200℃で10時間曝露保持後の強度が低下した。
比較例No.25は、Fe含有量が0.1質量%未満のため、強度が低かった。
比較例No.26は、Fe含有量が1.0質量%を超えているため、粗大化合物を形成し、200℃で10時間曝露保持後の強度が低下した。
比較例No.27は、Mn含有量が0.3質量%未満のため、再結晶組織が形成され、引張強さと結晶粒の平均アスペクト比が低くなった。
比較例No.28は、Mn含有量が0.8質量%を超えているため、粗大化合物を形成し、200℃で10時間曝露保持後の強度が低下した。
比較例No.29は、Mg含有量が1.5質量%未満のため、強度が低かった。
比較例No.30は、Mg含有量が2.5質量%を超えているため、成形加工性が悪く、押出加工時に割れが生じた。
比較例No.31は、Ti含有量が0.05質量%未満のため、再結晶組織が形成され、引張強さと結晶粒の平均アスペクト比が低くなった。
比較例No.32は、Ti含有量が0.27質量%であるため、鋳塊に粗大な化合物が生じ、押出加工時に割れが生じた。
比較例No.33は、Ni含有量が0.5質量%未満のため、高温強度が低かった。
比較例No.34は、Ni含有量が2.0質量%を超えているため、Ni系金属間化合物がマトリックス中に分散し、高温強度が低かった。
比較例No.35は、Zr含有量が0.05質量%未満のため、再結晶組織が形成され、引張強さと結晶粒の平均アスペクト比が低かった。
比較例No.36は、Zr含有量が0.3質量%を超えているため、鋳塊に粗大な化合物が生じ、押出加工時に割れが生じた。
比較例No.37は、Sc含有量が0.3質量%を超えているため、微細に析出せずに粗大化合物を形成したため、強度が低くなった。
それに対し、実施例No.1~20は、本発明の範囲内であるため、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織で、25℃で測定した引張強さが480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、25℃で測定した引張強さと、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定した引張強さとの差が、50MPa以下であった。
【0047】
(実施例2及び比較例2)
DC鋳造によって得た表4に示す組成のアルミニウム合金のビレット(直径90mm)を、470℃で20時間均質化処理した。なお、表4では、含有量は質量%であり、残部はアルミニウムである。次いで、400℃で熱間押出し、直径15mmの丸棒材形状の熱間押出材を得た。次いで、熱間押出材に、表5又は表6に示す条件で、一段目の溶体化処理を行い、続けて、二段目の溶体化処理を行った後、水冷却による焼入れを行った。次いで、190℃で20時間の人工時効処理を行い、T6調質のアルミニウム合金を得た。
次いで、得られたアルミニウム合金の評価を行った。その結果を表7に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
比較例No.42~45は、本発明の範囲外であるため、材料の成形が良好ではないか、引張強さが良好なものが得られなかった。
比較例No.42と比較例No.44は、熱間加工材の共晶融解開始温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、20℃を超え、二段目の溶体化処理温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、5℃未満であるため、溶体化処理による過飽和固溶量が少なく、人工時効処理で析出強化が不十分であったため、材料の強度向上効果が得られなかった。
比較例No.43と比較例No.45は、熱間加工材の共晶融解開始温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、10℃未満であり、二段目の溶体化処理温度と、一段目の溶体化処理温度との差が、10℃を超えているため、材料に再結晶が生じ、アスペクト比が低下した結果、25℃の強度及び200℃の温度で10時間曝露保持後の強度が低下した。
それに対し、実施例No.38~41は、本発明の範囲内であるため、塑性加工方向に平行な断面の結晶粒の平均アスペクト比が5以上の繊維組織で、25℃で測定した引張強さが480MPa以上であり、且つ、25℃での引張強さ(A)と、25℃で測定した引張強さと、200℃の温度で10時間暴露保持した後、25℃で測定した引張強さとの差が、50MPa以下であった。
図1
図2