(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】炭素被覆活性粒子およびその調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20220822BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220822BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220822BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220822BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01G23/00 B
(21)【出願番号】P 2018567918
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(86)【国際出願番号】 CA2017050797
(87)【国際公開番号】W WO2018000099
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-26
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ダイグル, ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】浅川 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】上坂 進一
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ, カリム
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0159331(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164081(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1986429(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102290567(CN,A)
【文献】国際公開第2015/117838(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0042622(KR,A)
【文献】国際公開第2007/094240(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02645455(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第103515589(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0172665(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素被覆粒子を生成するためのプロセスであって、該プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、および水性溶媒を混合することによってエマルジョンを形成する工程であって、該粒子は電気化学的活物質を含む、工程;
b.工程(a)の該混合物中の該アクリロニトリルモノマーを、乳化重合によって重合する工程;
c.工程(b)からの該粒子を乾燥させて、該粒子の表面においてポリ(アクリロニトリル)のナノ層を形成する工程;ならびに
d.工程(c)の該乾燥させた粒子を熱処理して、該炭素被覆粒子を形成する工程であって、該炭素は、炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物ならびに該粒子の該表面上の炭素繊維を含む炭素のナノ層にある工程
を包含するプロセス。
【請求項2】
工程(a)は、重合開始剤の添加をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(b)は、
-前記エマルジョンを脱気する工程;および
-該エマルジョンを、不活性雰囲気下で50℃~90℃の温度において5時間~15時間の範囲内の期間にわたって加熱する工程
をさらに包含する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エマルジョンは、超音波処理、高出力撹拌、または任意の高剪断撹拌技術を使用して形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記乾燥工程(c)は、前記粒子を噴霧乾燥する工程を包含する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記噴霧乾燥する工程は、前記溶媒の沸点を上回るチャンバ中の温度、例えば、少なくとも100℃のチャンバ中の温度において行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記噴霧乾燥する工程は、120℃から250℃の間の適用温度において行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記乾燥工程(c)は、いかなる事前の精製工程もなしに行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記熱処理工程(d)は、炭化工程である、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記炭化工程は、前記粒子を少なくとも500℃の温度において加熱する工程を包含する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記炭化工程は、少なくとも1つの温度勾配を含む、請求項9または10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記炭化工程は、
-前記表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する前記粒子を、室温に近い温度から少なくとも200℃までの温度勾配を使用して、3℃/分から10℃/分の間の上昇速度で徐々に加熱する工程;
-該温度を少なくとも200℃に30分~2時間の期間にわたって維持する工程;および
-該粒子を不活性雰囲気下で3℃/分から10℃/分の間の上昇速度で少なくとも500℃の最終温度までさらに加熱する工程
を包含する、請求項9~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記上昇速度は、5℃/分である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記最終温度は、少なくとも600℃である、請求項12または13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記不活性雰囲気は、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物から選択される、請求項12~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記不活性
雰囲気は、60:40から90:10の間のAr:CO
2比を有するアルゴンおよび二酸化炭素の混合物である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記不活性
雰囲気は、70:30から80:20の間のAr:CO
2比を有するアルゴンおよび二酸化炭素の混合物である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記不活性
雰囲気は、75:25のAr:CO
2比を有するアルゴンおよび二酸化炭素の混合物である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
炭素被覆LTO粒子を生成するためのプロセスであって、該プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、重合開始剤および水性溶媒を含むピッカリングエマルジョンを形成する工程であって、該粒子はLTOを電気化学的活物質として含む、工程;
b.該アクリロニトリルモノマーを乳化重合によって重合して、該粒子の表面上におよび孔の内側にポリ(アクリロニトリル)を形成する工程;
c.工程(b)の該重合した粒子を噴霧乾燥して、それらの表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する乾燥させた粒子を得る工程;および
d.工程(c)の該乾燥させた粒子を炭化して、炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物ならびに該粒子の該表面上の炭素繊維を含む炭素被覆を形成する工程
を包含するプロセス。
【請求項21】
炭素被覆粒子であって、ここで該粒子は、電気化学的活物質を含み、炭素繊維、ならびに炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物を含む炭素のナノ層で被覆される、炭素被覆粒子。
【請求項22】
前記炭素のナノ層は、20nm未満の平均厚を有する、請求項21に記載の炭素被覆粒子。
【請求項23】
前記炭素のナノ層は、10nm未満の平均厚を有する、請求項22に記載の炭素被覆粒子。
【請求項24】
前記炭素のナノ層は、5nm未満の平均厚を有する、請求項23に記載の炭素被覆粒子。
【請求項25】
前記炭素のナノ層は、2nm未満の平均厚を有する、請求項24に記載の炭素被覆粒子。
【請求項26】
前記炭素のナノ層は、4重量%~15重量%の窒素原子から構成され、残りは炭素原子である、請求項
21~25のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
【請求項27】
前記炭素のナノ層は、6重量%~11重量%の窒素原子から構成され、残りは炭素原子である、請求項26に記載の炭素被覆粒子。
【請求項28】
前記炭素被覆粒子は、2m
2/gから20m
2/gの間の表面積を有する、請求項
21~27のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
【請求項29】
前記炭素被覆粒子は、4m
2/gから15m
2/gの間の表面積を有する、請求項28に記載の炭素被覆粒子。
【請求項30】
前記炭素被覆粒子は、6m
2/gから10m
2/gの間の表面積を有する、請求項29に記載の炭素被覆粒子。
【請求項31】
前記表面積は、8m
2/gである、請求項30に記載の炭素被覆粒子。
【請求項32】
前記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む、請求項21~31のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
【請求項33】
前記電気化学的活物質は、TiO
2、Li
2TiO
3、Li
4Ti
5O
12、H
2Ti
5O
11およびH
2Ti
4O
9、またはこれらの組み合わせ、LiM’PO
4(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせである)、LiV
3O
8、V
2O
5、LiMn
2O
4、LiM’’O
2(ここでM’’は、Mn、Co、Ni、またはこれらの組み合わせである)、Li(NiM’’’)O
2(ここでM’’’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Ti、またはZrである)、およびこれらの組み合わせから選択される、請求項32に記載の炭素被覆粒子。
【請求項34】
請求項21~33のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子を結合剤と一緒に含む、電極材料。
【請求項35】
前記結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)、PAA(ポリ(アクリル酸))、PMAA(ポリ(メタクリル酸))、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択され、必要に応じて濃化剤を含む、請求項34に記載の電極材料。
【請求項36】
前記濃化剤が、カルボメトキシセルロース(CMC)である、請求項35に記載の電極材料。
【請求項37】
前記結合剤は、SBR、NBR、HNBR、CHR、ACM、およびこれらの組み合わせから選択される結合剤と組み合わせてPAAまたはPMAAを含む、請求項34または35に記載の電極材料。
【請求項38】
請求項34~37のいずれか1項に定義されるとおりの電極材料を集電体上に含む、電極。
【請求項39】
請求項38に定義されるとおりの電極、電解質および対電極を含む、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年6月30日に出願された米国特許出願第15/199,313号の優先権を主張し、この米国特許出願の内容は、その全体があらゆる目的で本明細書に参考として援用される。
【0002】
技術分野
本技術分野は、概して、炭素での無機物質粒子の被覆(例えば、リチウムイオンバッテリーにおいて使用される無機物質)のためのプロセス、ならびに前記プロセスによって得られる材料およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
活物質(例えば、LTO、TiO2など)の粒子の炭素での被覆は、活物質と電解質との間の接触を回避し、それによって、電解質の分解およびセルの内側でのガスの形成を防止する1つの方法である。上記炭素被覆は、物理的バリアを作り出し、物質の電子伝導性をも増強する。従って、炭素は、改善された安定性および/または電子伝導性が要求されるかまたは所望される任意の活物質に塗布され得る(He, Y.-B.ら, J. Power Sources, 2012, 202, 253-261(あらゆる目的で、その全体が参考として援用される)を参照のこと)。
【0004】
リチウムバッテリーのために炭素被覆を無機物質(LFP、LTO、TiO2など)に塗布する最も一般的方法のうちの1つとして、炭素源として糖または糖誘導体を使用することが挙げられる。上記糖は、活物質と(例えば、溶媒中で)混合され、高温で炭化される((a)Zaghib, K.ら, J. Power Sources, 2010, 195 (24), 8280-8288;(b)Zhu, G.-N.ら, J. Electrochem. Soc., 2011, 158 (2), A102-A109(ともにあらゆる目的で、それらの全体が参考として援用される)を参照のこと)。このプロセスは概して、一次粒子上へおよび/またはその粒子の孔の内側への、薄い被覆の形成を可能にしない。さらに、この方法によって生成される市販の炭素被覆材料の電子伝導性は、約10-6S/cmに制限される。従って、糖炭化法を使用する活性粒子上での炭素のナノ層の形成を達成することは、取るに足らないことではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】He, Y.-B.ら, J. Power Sources, 2012, 202, 253-261
【文献】Zaghib, K.ら, J. Power Sources, 2010, 195 (24), 8280-8288
【文献】Zhu, G.-N.ら, J. Electrochem. Soc., 2011, 158 (2), A102-A109
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
一局面によれば、本願は、炭素被覆粒子を生成するためのプロセスに関し、前記プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、および水性溶媒を混合することによってエマルジョンを形成する工程であって、前記粒子は電気化学的活物質を含む、工程;
b.前記工程(a)の混合物中のアクリロニトリルモノマーを、乳化重合によって重合する工程;
c.前記工程(b)からの粒子を乾燥させて、前記粒子の表面においてポリ(アクリロニトリル)のナノ層を形成する工程;ならびに
d.前記工程(c)の乾燥させた粒子を熱処理して、前記炭素被覆粒子を形成する工程であって、前記炭素は、前記粒子の表面上に繊維を含む炭素のナノ層にある工程
を包含する。
【0007】
一実施形態において、工程(a)は、重合開始剤の添加をさらに含む。別の実施形態において、工程(b)は、上記エマルジョンを脱気する工程および上記エマルジョンを、不活性雰囲気下で50℃~90℃の温度において5時間から15時間の間の期間にわたって加熱する工程をさらに包含する。別の実施形態において、上記エマルジョンは、超音波処理、高出力撹拌、または任意の高剪断撹拌技術を使用して、工程(a)において形成される。
【0008】
一実施形態によれば、上記乾燥工程(c)は、いかなる事前の精製工程もなしに行われる。別の実施形態において、本発明のプロセスの上記乾燥工程(c)は、上記粒子を噴霧乾燥する工程を包含する。例えば、噴霧乾燥する工程は、上記溶媒の沸点を上回るチャンバ中の温度、例えば、少なくとも100℃または100℃から120℃の間で行われる。あるいは、噴霧乾燥器における適用温度は、120℃から250℃の間である。
【0009】
さらなる実施形態において、本発明のプロセスの熱処理工程(d)は、炭化工程である。例えば、上記炭化工程は、上記粒子を少なくとも500℃の温度で加熱する工程を包含する。一例では、上記炭化工程は、少なくとも1つの温度勾配をさらに含む。例えば、上記炭化工程は、
-上記表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する上記粒子を、室温に近い温度から少なくとも200℃までの温度勾配を使用して、3℃/分から10℃/分の間、例えば、約5℃/分の上昇速度で徐々に加熱する工程;
-上記温度を少なくとも200℃に、30分~2時間の期間にわたって維持する工程;および
-上記粒子を不活性雰囲気下で3℃/分から10℃/分の間、例えば、約5℃/分の上昇速度で少なくとも500℃の最終温度(例えば、最終温度は、少なくとも600℃である)までさらに加熱する工程
を包含する。
【0010】
一例では、上記炭化の第2の加熱工程における不活性雰囲気は、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物から選択される。例えば、上記不活性ガスは、約60:40から約90:10の間、もしくは約70:30から約80:20の間、または約75:25のAr/CO2比を有するアルゴンおよび二酸化炭素の混合物である。
【0011】
一実施形態によれば、上記電気化学的活物質は、本明細書で定義されるとおりの物質、例えば、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物およびリチウムバナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む。
【0012】
別の実施形態によれば、上記電気化学的活物質は、本明細書で定義されるとおりの物質、例えば、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物およびリチウムバナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む。
【0013】
別の局面によれば、本願は、炭素被覆LTO粒子を生成するためのプロセスに関し、上記プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、重合開始剤および水性溶媒を含むピッカリングエマルジョンを形成する工程であって、前記粒子は電気化学的活物質としてLTOを含む、工程;
b.前記アクリロニトリルモノマーを乳化重合によって重合して、前記粒子の表面上におよび孔の内側にポリ(アクリロニトリル)を形成する工程;
c.前記工程(b)の重合した粒子を噴霧乾燥して、それらの表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する乾燥させた粒子を得る工程;および
d.前記工程(c)の乾燥させた粒子を炭化して、前記粒子の表面上に炭素繊維を含む炭素被覆を形成する工程
を包含する。
【0014】
本願はまた、例えば、本明細書で定義されるとおりのプロセスによって生成される炭素被覆粒子に関する。一実施形態において、上記生成された粒子は、炭素繊維ならびに炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物(polyaromatics)(すなわち、グラフェン様構造)を含む炭素のナノ層で被覆される。一実施形態において、上記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせ、好ましくはチタン酸リチウムまたはリチウム金属リン酸塩からなる群より選択される物質を含む。例えば、上記電気化学的活物質は、TiO2、Li2TiO3、Li4Ti5O12、H2Ti5O11およびH2Ti4O9、またはこれらの組み合わせ、LiM’PO4(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせである)、LiV3O8、V2O5、LiMn2O4、LiM’’O2(ここでM’’は、Mn、Co、Ni、またはこれらの組み合わせである)、Li(NiM’’’)O2(ここでM’’’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Ti、またはZrである)、およびこれらの組み合わせから選択される。一実施形態において、上記電気化学的活物質は、Li4Ti5O12である。別の実施形態において、上記電気化学的活物質は、LiM’PO4(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせであり、例えば、ここでM’は、Feを含む)である。別の実施形態において、上記粒子は、20nm未満、または10nm未満、または5nm未満、または2nm未満の平均厚を有する炭素のナノ層で被覆される。例えば、上記炭素のナノ層は、約4重量%~約15重量%、または約6重量%~約11重量%の窒素原子から構成され、残りは炭素原子である。別の実施形態において、上記炭素被覆粒子は、約2m2/gから約20m2/gの間、または約4m2/gから約15m2/gの間、または約6m2/gから約10m2/gの間の表面積を有する。例えば、上記炭素被覆粒子は、約8m2/gの表面積を有し得る。
【0015】
一局面によれば、本願は本明細書で定義されるとおりのまたは本発明のプロセスによって生成されるとおりの炭素被覆粒子を、結合剤と一緒に含む電極材料に関する。例えば、上記結合剤は、必要に応じてCMC(カルボメトキシセルロース)のような濃化剤を伴うSBR(スチレンブタジエンゴム)、PAA(ポリ(アクリル酸))、PMMA(ポリ(メタクリル酸))、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択される。例えば、前記結合剤は、PAA、および水性溶媒に可溶性の結合剤(例えば、SBR、NBR、HNBR、CHR、および/またはACM)を含む。
【0016】
本願はまた、本明細書で定義されるとおりのもしくは本発明のプロセスによって生成されるとおりの炭素被覆粒子、または本明細書で定義されるとおりの電極材料を、集電体上に含む電極にさらに関する。本明細書で定義されるとおりの電極、電解質および対電極を含む電気化学セルはまた、例えば、電気もしくはハイブリッド自動車、またはユビキタスITデバイスにおける、それらの使用と同様に企図される。
【0017】
本発明の技術の他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら、本明細書中の下記説明を読むことでよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施形態に従うモノマーの拡散を示す、乳化重合反応の模式図である。
【0019】
【
図2】
図2は、一実施形態に従いかつ1.5重量%(aおよびb)、および1.0重量%(cおよびd)の活性炭を含む炭素被覆活性粒子の4枚の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0020】
【
図3】
図3は、一実施形態に従いかつ1.5重量%の活性炭を含む炭素被覆活性粒子の2枚の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【0021】
【
図4】
図4は、一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(1.0重量% 活性炭)の4枚のTEM画像:炭素被覆しているLTO粒子の断面(A);大きな孔の内側の炭素の層(B);活性炭で満たされた小さな孔(C);小さな孔の画像拡大(D)を示す。
【0022】
【
図5】
図5は、(a)LTO参照電極;および(b)一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(1.0重量% C)を含むLTO電極を含む、リチウムハーフセルに関する第1および第2のサイクル後の充電および放電曲線を示す。
【0023】
【
図6】
図6は、(a)LTO参照電極;および(b)一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(1.0重量% C)を含むLTO電極を含む、LFP-LTOフルセルに関する第1および第2のサイクル後の充電および放電曲線を示す。
【0024】
【
図7】
図7は、一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(ここで炭素含有量は、1.0重量%)を含むLTO電極、ならびに(a)LFP-LTOフルセルおよび(b)LTOリチウムハーフセルの中に含まれる参照電極のナイキストプロットを示す。
【0025】
【
図8】
図8は、参照電極;市販の炭素被覆LTO電極;および一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(1.0重量% C)を含むC-LTO電極に関する、1C、2C、4Cおよび10Cでの(a)充電および(b)放電の容量維持率を示す。
【0026】
【
図9】
図9は、参照電極;市販の炭素被覆LTO電極;および一実施形態に従う炭素被覆活性粒子(1.0重量% C)を含むC-LTO電極に関する、充電および放電の直流内部抵抗(DCIR)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
本願は、電極活物質、より具体的には、炭素被覆した電気化学的に活性な無機粒子の調製のためのプロセスに関する。
【0028】
本発明の技術において、炭素被覆は、乳化重合によって達成される。このプロセスは、環境に配慮しており、さらに精製することなく噴霧乾燥において水分散物の直接使用を可能にする。例えば、その方法は、以下の3つの主要な工程:1)無機粒子上でポリ(アクリロニトリル)を乳化重合する、2)噴霧乾燥することによって揮発性成分を蒸発させて、乾燥したポリマー被覆粒子を得る、および3)前記ポリマーを炭化して、炭素繊維を含む炭素被覆を形成する、を包含する。例えば、上記炭化工程は、Rahaman, M. S. A.ら, Polymer Degradation and Stability, 2007, 92 (8), 1421-1432に記載されるとおりの熱処理によって達成される。
【0029】
本発明の方法を使用して被覆されるべき粒子は、電気化学的活物質の無機粒子(例えば、金属酸化物および複合酸化物)を含む。電気化学的活物質の例としては、チタネートおよびチタン酸リチウム(例えば、TiO2、Li2TiO3、Li4Ti5O12、H2Ti5O11、H2Ti4O9)、リン酸塩(例えば、LiM’PO4(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせである))、バナジウム酸化物(例えば、LiV3O8、V2O5など)、ならびに他のリチウムおよび金属酸化物(例えば、LiMn2O4、LiM’’O2(M’’は、Mn、Co、Ni、またはこれらの組み合わせである)、Li(NiM’’’)O2(M’’’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Ti、Zrなど、またはこれらの組み合わせである)、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。上記粒子は、新たに形成されるか、または市販の供給源から得られ、マイクロ粒子またはナノ粒子であり得る。
【0030】
本発明のプロセスにおける第1の工程は、乳化重合の使用である。本発明の方法において、無機粒子は、エマルジョンを安定化するための界面活性剤として働く。この方法は、「ピッカリングエマルジョン」として当該分野で一般に公知である。この段階では、モノマー(例えば、アクリロニトリル)およびラジカル開始剤の液滴は、溶媒(例えば、水および/またはアルコール、好ましくは水、または水およびアルコールの組み合わせ)中に分散させた無機粒子の表面におよび孔の内部に形成される。エマルジョンは、例えば、超音波処理、高出力撹拌または粒子の表面上に液滴を形成するための任意の他の方法によって得られ得る。次いで、重合が開始され、一次粒子の表面上でのポリマー形成をもたらし、ポリマー(例えば、ポリ(アクリロニトリル)(PANともいわれる))のナノ層を生成する(
図1を参照のこと)。
【0031】
前の工程から重合後に得られた分散物は、次いで、乾燥する(例えば、噴霧乾燥する)ために直接、すなわち、さらに精製せずに使用される。乾燥工程で使用される温度は、上記溶媒の沸点を上回り、揮発性物質が除去される。例えば、噴霧乾燥器チャンバの温度は、100℃を上回る、もしくは100℃から120℃の間であるか、または噴霧乾燥器ヘッドの温度は、120℃から250℃の間、もしくは150℃から200℃の間に調節される。このプロセスは、溶媒および残余の揮発性モノマーの蒸発を可能にする。この工程は、ポリ(アクリロニトリル)ポリマーのナノ層によって被覆される粒子をもたらす。
【0032】
乾燥した後に、得られた被覆粒子は、例えば熱処理(例えば、炭化)による、ポリマー分解に供される。例えば、このような熱処理は、高電子伝導性を達成するように最適化された温度およびガスの勾配を使用して達成される。例えば、上記勾配は、室温に近い温度で始まり、徐々に(例えば、3~10℃/分の速度で、好ましくは5℃/分の速度で)少なくとも200℃の温度まで上昇する。一例では、上記温度は、第1のプラトーに達し、30分~2時間(好ましくは約1時間)の期間にわたってこの温度で保持され、次いで、再び徐々に上昇して、少なくとも500℃、または少なくとも600℃の温度に達する。
【0033】
任意の不活性ガス(アルゴン、窒素など)が使用され得る。一例では、アルゴン/二酸化炭素混合物が、炭化中に使用され、高電子伝導性を達成した。例えば、上記ガスは、約60:40~約90:10、または約70:30~約80:20、または約75:25の体積比を有するAr/CO2混合物であり得る。
【0034】
ポリマーとしてのPANの使用は、活性炭層の形成を可能にする(Okada, K.ら, Chem. Comm., 2011, 47 (26), 7422-7424を参照のこと)。活性炭層の存在は、材料の電子伝導性(界面での電子移動)および界面安定性を改善する(Ding, Z.ら, Phys. Chem. & Chem. Phys., 2011, 13 (33), 15127-15133も参照のこと)。
【0035】
例えば、上記被覆粒子は、SEMによっておよび/または粉末の電子伝導性を測定することによって特徴づけられる。
図2は、本願の一実施形態に関するSEM画像を示し、本発明の方法によって調製されるLTO一次粒子上の被覆が均質であることを示す。上記粒子の表面上の炭素層はまた、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察され得る。上記粒子の表面上の炭素層の厚みは、20nm未満、または10nm未満、またはさらには5nm未満である。例えば、
図3は、およそ1.0~1.5nmの無定形炭素層の厚みを示す。
【0036】
活物質の孔を炭素で満たす方法の有効性を示すために、C被覆LTO粒子の断面のTEM画像(
図4)を得た。
図4aは、集束イオンビームエッチング(FIBE)によって作製した粒子の断面を示す。
図4aにおける活性炭の内部に位置したニッケルナノ粒子は、FIBE手順の結果である。画像上では、エネルギー分散型分光法(EDS)によって決定される場合、最小の孔(4cおよびd)が、炭素で満たされ(矢印)、最大の孔が、表面上に0.5~1.5nmの被覆を有する(4aおよびb)。炭素によって孔を満たすことで、電子伝導性が増強され、高サイクルレート(10Cおよびそれより高い)でのより効率的な充電および放電が可能になる。
【0037】
さらに、活性炭被覆の特徴のうちの1つは、窒素/炭素(N/C)比である。PANの炭化によって形成される活性炭被覆は、窒素原子および炭素原子を含む縮合芳香環(窒素含有多環芳香族化合物構造、すなわち、グラフェン様構造)から構成される。一実施形態において、上記被覆は、約4重量%~約15重量%、または約6重量%~約11重量%の窒素から構成され、残りは、炭素である。窒素含有量は、例えば、最終の炭化温度に依存する;より高い温度は、概して窒素の量がより低くなることと関係づけられる(Rahaman, M. S. A.らを参照のこと)。また、上記被覆粒子の表面積は、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)の表面積分析によって決定される場合、約2m2/gから約20m2/gの間、または約4m2/gから約15m2/gの間、または約6m2/gから約10m2/gの間である。上記表面積は、ポリ(アクリロニトリル)の分子量(Mn)に応じて調節され得る(ここでおよそ8m2/gの表面積をもたらすポリマーのMnが好ましい)。
【0038】
電子伝導性は、1.0重量%未満の有機物含有量に対して10-9S/cm程度の低さである。例示される実施形態において、伝導性は、圧縮粉末上で測定した。1.5重量%に等しいかまたはそれより高い有機物含有量に関しては、伝導性は、サンプル中の炭素の自由凝集物(free aggregation)の存在に起因して、さらに10-4S/cm超であり得る。上記凝集物は、粒子間の良好な接触を可能にするが、ある特定の場合には、リチウムの拡散を低減し得る。例えば、最適な全有機物含有量は、ヘリウム下での熱重量分析(TGA)によって決定される場合、約0.5重量%から約1.5重量%の間である可能性がある。
【0039】
本発明の方法によって生成される炭素は、ラマン分光法によって決定される場合、無定形であり、2から3.5の間のD/G比を示す。
【0040】
被覆粒子を含む電極を調製するために、実験分析のためにまたは電気化学セルの一部としてのいずれかで、上記炭素被覆活性粒子は、支持体、すなわち、集電体上にキャストされる。一例では、上記被覆活性粒子は、結合剤と混合され、集電体上に、例えば溶媒(これは、キャストされた後に乾燥される)も含むスラリーとして、被覆される。結合剤は、電気化学的活物質、集電体、電解質、および結合剤と接触状態にあり得る電気化学セルの他の部分と適合性であることを考慮して選択される。例えば、結合剤は、水溶性ポリマー結合剤または非水溶性ポリマー結合剤であり得る。
【0041】
結合剤の例としては、必要に応じてCMC(カルボメトキシセルロース)のような濃化剤を伴うSBR(スチレンブタジエンゴム)、PAA(ポリ(アクリル酸))、PMMA(ポリ(メタクリル酸))、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、他の公知のポリマー結合剤もまた挙げられる。ポリマー結合剤の例としてはまた、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素化ポリマーが挙げられ得る。結合剤の他の例としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)などのような水性ベース結合剤が挙げられる。これらは、CMCまたはPAAもしくはPMAAのような酸性ポリマーと組み合わされ得る。必要に応じて被覆されるべき混合物は、無機粒子、セラミック、塩(例えば、リチウム塩)、伝導性物質などのようなさらなる成分を含む。好ましい実施形態において、集電体上に被覆する前に、スラリーにさらなる炭素源は添加されない。
【0042】
本発明のプロセスによって生成される電極は、電解質および対電極をさらに含む電気化学セルの組み立てにおける使用のためのものである。対電極を構成する物質は、電極において使用される物質に応じて選択される。電解質は、液体、ゲルまたは固体のポリマー電解質であり得、ならびに、リチウム塩を含み、そして/またはリチウムイオンに対して伝導性を有する。
【実施例】
【0043】
以下の非限定的実施例は、例示的実施形態であり、本願の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。これらの実施例は、添付の図面を参照してよりよく理解される。
【0044】
実施例1:炭素被覆プロセス
【0045】
a)エマルジョン形成および重合
LTOを、本実施例において使用したが、任意の他の電気化学的活物質によって置き換えられ得る。20gのLTOを、250mL丸底フラスコの中に導入し、磁性式撹拌によって撹拌した。次いで、100mLのナノピュア水を、そのフラスコの中の活物質に添加した。得られたスラリーを、出力70%で6分間超音波処理した。超音波処理後、スラリーを氷浴中で冷却した。3gのアクリロニトリルおよび25mgのAIBNの溶液を、フラスコに添加した。得られたスラリー(13重量%のモノマー)を、さらに6分間、同じ出力で超音波処理した。次いで、スラリーを、窒素流を使用して30分間脱気した。次いで、スラリーを、窒素下で高速撹拌しながら、70℃に12時間加熱した。
【0046】
b)噴霧乾燥
工程(a)で得られたスラリーを、180℃に加熱した。加熱後、ポンプを25%で使用し、ブロワーを95~100%(装置の全出力に対する百分率)で使用する噴霧乾燥によってスラリーを乾燥させた。
【0047】
c)炭化
スラリーを、5℃/分の速度での25℃から240℃への温度勾配を使用して、空気下で炭化し、240℃において1時間さらに保持した。次いで、温度を、アルゴン:CO2(75:25)または窒素の雰囲気下で700℃に5℃/分の速度で上昇させた。
【0048】
実施例2:炭素被覆LTO(C-LTO)電極の生成
【0049】
実施例1のプロセスによって調製した炭素被覆LTO材料を、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)結合剤(48%水溶液)およびPAA(250000~500000g/mol)と混合して、スラリーを形成した。C-LTO/SBR/PAAの固体比は、96.0/2.5/1.5(被覆に由来する炭素の乾燥含有量が1.0重量%)であった。得られたスラリーを、15ミクロンの厚みを有するアルミニウムホイル上に被覆した。
【0050】
参照電極として、いかなる炭素被覆も有していないLTO材料を、伝導性炭素剤、SBR(48%水溶液)およびカルボキシメチルセルロース(CMC,1.5%水溶液)と、91.0/5.0/2.5/1.5のLTO/炭素/SBR/CMC固体重量比で混合した。得られたスラリーで、15ミクロンの厚みを有するアルミニウムホイル上を被覆した。
【0051】
比較目的で、市販の炭素被覆LTOを、伝導性炭素剤、SBR(48%水溶液)およびCMC(1.5%水溶液)と、91.0/5.0/2.5/1.5のLTO/炭素/SBR/CMC固体重量比で混合した。得られたスラリーを、15ミクロン厚のアルミニウムホイル上にキャストした。
【0052】
実施例3:リチウムC-LTOハーフセルおよびLFP-C-LTOフルセルの生成
【0053】
コインハーフセルおよびフルセルを、実施例2の3種の電極を使用して、それらの電気化学的特性を評価するために生成した。
【0054】
a)リチウムC-LTOハーフセル
リチウムハーフセルを、対電極としてのリチウム金属、ならびに作用電極としてのC-LTO電極および参照電極を使用して生成した。セルを、16ミクロンの厚みを有するポリエチレン(PE)セパレーターを使用して生成して、LTO電極およびリチウム金属電極を分離した。電解質を、1.3mol/kgのLiPF6、ならびに溶媒として炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、および炭酸エチルメチル(EMC)の混合物(PC/DMC/EMC比は4/3/3である)を用いて調製した。各セルに、150μLの得られた電解質を提供した。
【0055】
b)LFP-C-LTOフルセル
リン酸鉄リチウムLiFePO4(LFP)を、伝導性炭素剤およびポリビニリデンジフルオリド(PVdF、6%N-メチル-2-ピロリドン溶液)と、95.0/5.0/5.0のLFP/炭素/PVdF固体比で混合した。得られたスラリーで、15ミクロンの厚みを有するアルミニウムホイル上を被覆した。
【0056】
フルセルを、実施例2のLTO電極の各々に対して、カソードとしてLFP電極およびアノードとしてLTO電極を使用して生成した。リチウムC-LTOハーフセルの場合と同じPEセパレーターおよびLiPF6-PC/DMC/EMC電解質を、使用した。
【0057】
実施例4:電気化学的特性
【0058】
a)リチウムハーフセルの特徴づけ
C-LTOおよび参照電極の電気化学的容量を、リチウムハーフセルにおいて測定して、以下の表1に示される結果を得た。
【表1】
【0059】
Toyoバッテリー試験システム(TOSCAT-3100
TM)を使用して、充電/放電サイクル試験を行った。第1の充電/放電サイクルに関しては、0.3mA電流を印加した。充電を、定電流/定電圧(CC-CV)モードにおいて、最大電圧を1.0Vそしてカットオフ電流を0.03mAで行った。放電を、2.7Vに下げてCCモードで行った。第2のサイクルに関しては、0.6mAを、充電および放電の両方の工程で印加した。
図5は、C-LTOおよびリチウムハーフセル参照の両方に関する充電および放電曲線を表し、それらは、C-LTO電極が、参照電極で得られた結果と比較した場合、低減した電圧低下(またはIR低下)を表したことを示している。内部抵抗は、C-LTO電極の場合により低かったので、本発明の方法によって調製された炭素被覆は、粒子間の伝導性を増大して、C-LTO電極の場合に内部抵抗を低減する。
【0060】
b)LFP-LTOフルセルの充電/放電曲線
充電および放電試験を、LFP-LTOフルセルで行った。第1の充電/放電サイクルに関しては、0.3mA電流を印加した。充電を、定電流/定電圧(CC-CV)モードにおいて最大電圧を2.4Vで行い、カットオフ電流は0.03mAであった。放電を、0.5Vに下げてCCモードにおいて行った。第2のサイクルに関しては、0.6mAを、充電および放電の両方の工程で印加した。
【0061】
交流(AC)インピーダンスを測定して、LTO電極の抵抗を評価した。試験を、研究グレードのマルチチャネルポテンショスタット(Biologic VMP3(登録商標))を使用して、1MHzから10mHzの間の周波数および10mVのAC振幅を使用して行った。
【0062】
図6は、アノードとしてC-LTO電極または参照電極を使用するフルセルに関する充電および放電曲線を図示する。曲線は、C-LTO電極の充電および放電試験の終了時に起こる浸漬液変化を示す。これは、参照電極と比較して、C-LTO電極におけるリチウムイオン拡散の改善を確認する。
【0063】
c)リチウムハーフセルおよびLFP-LTOフルセルの電気化学的インピーダンス
C-LTO電極および参照電極の両方に関する電気化学的インピーダンスを、LFP-LTOフルセル(
図7a)およびリチウムハーフセル(
図7b)において試験した。
図7は、25℃において充電状態(SOC)=50%(容量のうちの50%が充電されたことを意味する)で測定したナイキストプロットを示す。
【0064】
図7によれば、C-LTO電極は、参照電極と比較した場合、充電および放電反応に対してより低い反応抵抗を示した。
【0065】
d)LFP-LTOフルセルの充電および放電の容量
参照電極、市販の炭素被覆電極およびC-LTO電極の電気化学的特性を、以下の表2に示されるように、LFP-LTOフルセルにおいて測定した。
【表2】
【0066】
負荷試験を、LFP-LTOフルセルに関する高速充電および放電の特性を分析するために行った。C-LTO電極、参照電極および市販の電極を有するフルセルを、1C、2C、4C、および10Cにて充電および放電した。
図8は、1C電流が、1時間でセルの全容量を充電または放電し得る一方で、2C、4Cおよび10Cの場合に時間はそれぞれ、30分、15分および6分であることを示す。
【0067】
充電負荷試験については、0.2Cでの満放電の後、LFP-LTOフルセルを、1Cにて充電し、次いで、0.2Cにて再び充電した。次いで、フルセルを、0.2Cにて放電し、2Cにて充電した。
【0068】
放電負荷試験については、0.2Cでの満充電の後に、LFP-LTOフルセルを1Cにて放電し、次いで、0.2Cにて再び放電した。次いで、フルセルを、0.2Cにて充電し、2Cにて放電した。
【0069】
xCでの容量維持率を、以下の式1を使用して計算した。
【数1】
【0070】
CC領域での容量を、充電負荷特性の計算のために使用した。
図8によれば、C-LTO電極は、充電試験(
図8a)および放電試験(
図8b)の両方に関して10Cにおいてより良好な容量維持率を示した。
【0071】
e)LFP-LTOフルセルの直流内部抵抗(DCIR)
DCIRを、以下の式2を使用して計算した。
【数2】
【0072】
式中、VSOC50%(xC)は、xCにて測定したSOC50%における電圧であり、VSOC50%(0.2C)は、0.2Cにて測定したSOC50%での電圧である。
【0073】
参照電極、市販の炭素被覆電極およびC-LTO電極に関するDCIRを計算した。結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0074】
図9は、2Cおよび4Cに関するDCIRの充電および放電平均値を示す。
図9によれば、C-LTO電極は、参照電極または市販の炭素被覆LTO電極より30~35%低い内部抵抗を示した。従って、上記の実施例に鑑みて、炭素被覆LTO電極(例えば、本明細書で記載されるもの)が、従来のLTO電極、またはさらに市販の炭素被覆LTO電極と比較して、改善された電気化学的性能を示すようである。薄い炭素被覆は、よりよい伝導性、増強されたリチウム拡散および高電流(10C)での改善された容量維持率を可能にするが、低い内部抵抗または充電/放電反応抵抗も提供する。
【0075】
多くの改変が、本発明の範囲から逸脱することなく、上記実施形態のうちのいずれかに対してなされ得る。本願において参照される任意の参考文献、特許または科学論文の文書は、あらゆる目的で、それらの全体が本明細書に参考として援用される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
炭素被覆粒子を生成するためのプロセスであって、該プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、および水性溶媒を混合することによってエマルジョンを形成する工程であって、該粒子は電気化学的活物質を含む、工程;
b.工程(a)の該混合物中の該アクリロニトリルモノマーを、乳化重合によって重合する工程;
c.工程(b)からの該粒子を乾燥させて、該粒子の表面においてポリ(アクリロニトリル)のナノ層を形成する工程;ならびに
d.工程(c)の該乾燥させた粒子を熱処理して、該炭素被覆粒子を形成する工程であって、該炭素は、該粒子の該表面上に繊維を含む炭素のナノ層にある工程
を包含するプロセス。
(項目2)
工程(a)は、重合開始剤の添加をさらに含む、項目1に記載のプロセス。
(項目3)
工程(b)は、
-前記エマルジョンを脱気する工程;および
-該エマルジョンを、不活性雰囲気下で50℃~90℃の温度において5時間~15時間の範囲内の期間にわたって加熱する工程
をさらに包含する、項目1に記載のプロセス。
(項目4)
前記エマルジョンは、超音波処理、高出力撹拌、または任意の高剪断撹拌技術を使用して形成される、項目1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目5)
前記乾燥工程(c)は、前記粒子を噴霧乾燥する工程を包含する、項目1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目6)
前記噴霧乾燥する工程は、前記溶媒の沸点を上回るチャンバ中の温度、例えば、少なくとも100℃のチャンバ中の温度において行われる、項目5に記載のプロセス。
(項目7)
前記噴霧乾燥する工程は、120℃から250℃の間の適用温度において行われる、項目5に記載のプロセス。
(項目8)
前記乾燥工程(c)は、いかなる事前の精製工程もなしに行われる、項目1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目9)
前記熱処理工程(d)は、炭化工程である、項目1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目10)
前記炭化工程は、前記粒子を少なくとも500℃の温度において加熱する工程を包含する、項目9に記載のプロセス。
(項目11)
前記炭化工程は、少なくとも1つの温度勾配を含む、項目9または10に記載のプロセス。
(項目12)
前記炭化工程は、
-前記表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する前記粒子を、室温に近い温度から少なくとも200℃までの温度勾配を使用して、3℃/分から10℃/分の間の上昇速度で徐々に加熱する工程;
-該温度を少なくとも200℃に30分~2時間の期間にわたって維持する工程;および
-該粒子を不活性雰囲気下で3℃/分から10℃/分の間の上昇速度で少なくとも500℃の最終温度までさらに加熱する工程
を包含する、項目9~11のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目13)
前記上昇速度は、約5℃/分である、項目12に記載のプロセス。
(項目14)
前記最終温度は、少なくとも600℃である、項目12または13に記載のプロセス。
(項目15)
前記不活性雰囲気は、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物から選択される、項目12~14のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目16)
前記不活性ガスは、約60:40から約90:10の間、もしくは約70:30から約80:20の間、または約75:25のAr:CO
2
比を有するアルゴンおよび二酸化炭素の混合物である、項目15に記載のプロセス。
(項目17)
前記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む、項目1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目18)
炭素被覆LTO粒子を生成するためのプロセスであって、該プロセスは、
a.粒子、アクリロニトリルモノマー、重合開始剤および水性溶媒を含むピッカリングエマルジョンを形成する工程であって、該粒子はLTOを電気化学的活物質として含む、工程;
b.該アクリロニトリルモノマーを乳化重合によって重合して、該粒子の表面上におよび孔の内側にポリ(アクリロニトリル)を形成する工程;
c.工程(b)の該重合した粒子を噴霧乾燥して、それらの表面にポリ(アクリロニトリル)のナノ層を有する乾燥させた粒子を得る工程;および
d.工程(c)の該乾燥させた粒子を炭化して、該粒子の該表面上に炭素繊維を含む炭素被覆を形成する工程
を包含するプロセス。
(項目19)
項目1~18のいずれか1項に記載のプロセスによって生成された、炭素被覆粒子。
(項目20)
前記粒子は、炭素繊維、ならびに炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物を含む炭素のナノ層で被覆される、項目19に記載の炭素被覆粒子。
(項目21)
炭素被覆粒子であって、ここで該粒子は、電気化学的活物質を含み、炭素繊維、ならびに炭素原子および窒素原子からなる多環芳香族化合物を含む炭素のナノ層で被覆される、炭素被覆粒子。
(項目22)
前記炭素のナノ層は、20nm未満、または10nm未満、または5nm未満、または2nm未満の平均厚を有する、項目19~21のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
(項目23)
前記炭素のナノ層は、約4重量%~約15重量%、または約6重量%~約11重量%の窒素原子から構成され、残りは炭素原子である、項目19~22のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
(項目24)
前記炭素被覆粒子は、約2m
2
/gから約20m
2
/gの間、または約4m
2
/gから約15m
2
/gの間、または約6m
2
/gから約10m
2
/gの間の表面積を有する、項目19~23のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
(項目25)
前記表面積は、約8m
2
/gである、項目24に記載の炭素被覆粒子。
(項目26)
前記電気化学的活物質は、チタネート、チタン酸リチウム、リチウム金属リン酸塩、バナジウム酸化物、リチウム金属酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物およびこれらの組み合わせからなる群より選択される物質を含む、項目21~25のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子。
(項目27)
前記電気化学的活物質は、TiO
2
、Li
2
TiO
3
、Li
4
Ti
5
O
12
、H
2
Ti
5
O
11
およびH
2
Ti
4
O
9
、またはこれらの組み合わせ、LiM’PO
4
(ここでM’は、Fe、Ni、Mn、Co、またはこれらの組み合わせである)、LiV
3
O
8
、V
2
O
5
、LiMn
2
O
4
、LiM’’O
2
(ここでM’’は、Mn、Co、Ni、またはこれらの組み合わせである)、Li(NiM’’’)O
2
(ここでM’’’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Ti、またはZrである)、およびこれらの組み合わせから選択される、項目26に記載の炭素被覆粒子。
(項目28)
項目19~27のいずれか1項に記載の炭素被覆粒子を結合剤と一緒に含む、電極材料。
(項目29)
前記結合剤は、SBR(スチレンブタジエンゴム)、PAA(ポリ(アクリル酸))、PMAA(ポリ(メタクリル酸))、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、NBR(ブタジエンアクリロニトリルゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)、およびこれらの組み合わせから選択され、必要に応じてカルボメトキシセルロース(CMC)のような濃化剤を含む、項目28に記載の電極材料。
(項目30)
前記結合剤は、SBR、NBR、HNBR、CHR、ACM、およびこれらの組み合わせから選択される結合剤と組み合わせてPAAまたはPMAAを含む、項目29に記載の電極材料。
(項目31)
項目28~30のいずれか1項に定義されるとおりの電極材料を集電体上に含む、電極。
(項目32)
項目31に定義されるとおりの電極、電解質および対電極を含む、電気化学セル。