IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

<>
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図1
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図2
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図3
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図4
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図5
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図6
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図7
  • 特許-ガラスフィラー含有メタルボンド砥石 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】ガラスフィラー含有メタルボンド砥石
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/02 20060101AFI20220822BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20220822BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B24D3/02 310A
B24D3/02 310C
B24D3/00 320B
B24D3/06 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019034355
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020138260
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】中尾 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】高山 祥一
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 勇児
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-115867(JP,A)
【文献】特開2008-229794(JP,A)
【文献】ソ連国特許発明第01066791(SU,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/02
B24D 3/00
B24D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、メタルボンドと、ガラスフィラーとを含有するメタルボンド層を有する砥石であって、
前記砥粒が、ダイヤモンドおよび/または立方晶窒化ホウ素であり、
前記メタルボンドが、Cuを含有する金属であり、
前記ガラスフィラーが、Zn、Sn、ZrおよびNiからなる群から選択される1種類以上の元素を含有し、Pbを含有せず、
前記メタルボンドの体積に対する前記ガラスフィラーの体積の割合が0.025以上1.0以下であり、
前記メタルボンドと前記ガラスフィラーとが相互拡散していることを特徴とするガラスフィラー含有メタルボンド砥石。
【請求項2】
前記ガラスフィラーの平均粒径が、1μm以上3μm未満を特徴とする請求項1に記載のガラスフィラー含有メタルボンド砥石。
【請求項3】
前記砥粒の平均粒径が、35μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスフィラー含有メタルボンド砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィラー含有メタルボンド砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
研削加工の砥石に求められる主要な性能は、安定した研削能率と砥石の長寿命化である。一般的に、メタルボンド砥石の研削能率は、研削中に砥石に加わる研削抵抗の増加や発生する切り屑によって、砥粒を固定するボンドが後退し、砥粒が適度に自生する自生作用によって維持される。また、切り屑をうまく排出させて砥石の目詰まりを抑制することで、安定した研削能率が得られる。自生作用を促進させ、目詰まりを抑制する方法として、固体潤滑剤やガラスなどのフィラーを砥石の構成成分として含有させる方法が一般的に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ダイヤモンド又は立方晶窒化硼素からなる超砥粒を、セラミックス又はガラス製の中空球とともにメタルボンドにより結合したことを特徴とするメタルボンド砥石が開示されている。このメタルボンド砥石は、中空球による密度低下効果によって回転バランスが良くなり、中空球が研削面において容易に割れてチップポケットとして働くので目詰まりの防止を図ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、金属質粒子とガラス質粒子を含有する焼結性メタルボンドに、超砥粒および硫酸バリウムを含む軟質砥粒を分散させて焼結により一体化してなる超砥粒メタルボンド砥石が開示されている。この超砥粒メタルボンド砥石は、金属性結合剤による耐磨耗性を獲得すると同時にガラス質成分によるボンドエロージョン(浸食破壊)性が、硫酸バリウムによる微細な切り屑の排出性によって適当な速度で確実に現れる。これによってホーニングや超仕上げ加工などの精密な切削・研磨加工に用いても砥石の長寿命性と安定した高切削性が奏される超砥粒メタルボンド砥石となる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平5-9859号公報
【文献】特開2008-229794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2のメタルボンド砥石は、砥石の結合度が低下し自生が促され、かつ、研削加工中に、固体潤滑剤やガラスなどのフィラーが崩壊することでチップポケットが形成される。このチップポケットが切り屑の排出の促進などをすることより、目詰まりが抑制され、安定した研削能率を維持することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のメタルボンド砥石は、メタルボンド砥石内に気孔を含むことから、摩耗しやすく、砥石の長寿命化が難しかった。また、添加される中空球(フィラー)は砥粒やメタルボンドとの結合力が弱く、目こぼれが発生し、切れ味が低下しやすいという問題もあった。
【0008】
特許文献2に記載の超砥粒メタルボンド砥石も、ガラス質粒子と軟質砥粒を含有するものであり、耐摩耗性に優れたボンド材(金属質粒子)の割合が制限されるため、更なる長寿命化には限界があった。
【0009】
特に、粒径の小さい砥粒を用いる微細領域の加工では、加工時に発生する切り屑が小さく、切り屑がボンドを削り取る能力が小さい。そのため、微細領域の加工に用いられる砥石は、砥粒を自生させて研削能率を維持するために、ボンドの結合強度を低下させる必要があり、高寿命化が難しかった。このような事情から、特に、微細領域の加工において、高寿命かつ安定した研削能率とすることが可能な砥石が求められていた。
【0010】
また、微細領域の加工では、安定した研削能率とするためには、砥粒の突き出し量を十分に確保できるように、砥石の弾性率を高くすることが好ましい。
さらに、近年では、エンジンシリンダボアは、車両や船舶などのエンジンシリンダボアの材質として高硬度化が求められる市場もある。そのため、エンジンシリンダボアなどの円筒状のワークの内面に、砥石を往復回転運動させながら、ワークの内面を研磨し仕上げる加工であるホーニング加工の砥石に高研削性を付与させることも求められている。高研削性を付与するためにも砥石の弾性率を高くすることが好ましい。
しかしながら、特許文献2のメタルボンド砥石では、超砥粒と軟質砥粒を含むため、砥石としての弾性率を高くするには限界があった。
【0011】
かかる状況下、本発明が解決しようとする課題は、優れた研削能率を有し、長期間にわたって、安定して研削することができる砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石は、砥粒と、メタルボンドと、ガラスフィラーとを含有するメタルボンド層を有する砥石であって、前記砥粒が、ダイヤモンドおよび/または立方晶窒化ホウ素であり、前記メタルボンドは、Cuを含有する金属であり、前記メタルボンドの体積に対する前記ガラスフィラーの体積の割合が0.025以上1.0以下であり、前記メタルボンドと前記ガラスフィラーとが相互拡散していることを特徴とする。
【0013】
このように、メタルボンドとガラスフィラーとが相互に拡散していることで、メタルボンドとガラスフィラーの結合強度が向上する。研削加工中の砥石が作用する研削表面において、ガラスフィラーは、メタルボンドを構成するCuの拡散が進行していない部分から徐々に摩耗するため、チップポケットが得られる。また、砥石強度は大きく損なわれないため、目こぼれによる切味の低下が抑制される。
【0014】
また、メタルボンドの体積に対する前記ガラスフィラーの体積の割合が0.025以上1.0以下とすることで、砥石の極端な摩耗や目詰まりを抑えることができる。なお、メタルボンドに対してガラスフィラーが多すぎると、砥石の摩耗が大きくなり、砥石が短寿命となる。また、メタルボンドに対してフィラーが少なすぎると、目詰まり等に起因して研削性能が低下しやすく、安定した研削性能を維持することが困難となる。
【0015】
また、ガラスフィラーの平均粒径が1μm以上3μm未満であることが好ましい。このような粒径のガラスフィラーを用いることで、研削性能がばらつきにくく、より安定した研削加工が可能な砥石とすることができる。ガラスフィラーの平均粒径が小さすぎると、チップポケットの形成が不十分となり、切り屑を排出しにくくなる。また、ガラスフィラーの平均粒径が大きすぎると、形成されるチップポケットが大きくなりすぎて、研削性能がばらつきやすくなる。
【0016】
また、ガラスフィラーは、Zn、Sn、ZrおよびNiからなる群から選択される1種以上の元素を含有し、Pbを含有しないことが好ましい。Zn、Sn、ZrおよびNiは、メタルボンドの成分であるCuと固溶反応しやすく、これらの元素はCuと相互拡散しやすいため、ガラスフィラーがメタルボンドとより強固に結合することができる。また、Pbは、Cuと相互拡散するが、毒性が高く環境負荷が大きいため好ましくない。
【0017】
また、前記砥粒の平均粒径は、35μm以下であることが好ましい。このような構成とすれば、研削加工対象物の表面形状をより高品位な状態に仕上げることができ、かつ、高寿命な砥石とできる。また、砥粒の平均粒径が大きすぎると、砥石の寿命の観点で不利になる傾向にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた研削能率を有し、長期間にわたって、安定して研削することができる砥石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石の断面模式図である。(b)本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石を用いた研削加工時のメタルボンド層の状況を示す模式図である。
図2】メタルボンド層における、メタルボンドの体積に対するガラスフィラーの体積の割合の好適な範囲を、砥粒の粒度に対してプロットした図である。
図3】メタルボンド層における、メタルボンドとガラスフィラーとの合計体積に対する砥石の体積の割合の好適な範囲を、砥粒の粒度に対してプロットした図である。
図4】メタルボンド層において、メタルボンドとガラスフィラーとの相互拡散の様子を示す模式図である。
図5】(a)従来のメタルボンド砥石の断面模式図である。(b)従来のメタルボンド砥石を用いた研削加工時のメタルボンド層の状況を示す模式図である。
図6】ホーニング加工装置の模式断面図である。
図7】実施例1のメタルボンド砥石の破断面のSEM画像および、ガラスフィラーとメタルボンドとの界面領域近傍の4点のZrおよびCuの元素の存在割合の測定結果である。
図8】実施例1および比較例1、2のメタルボンド砥石を用いた耐摩耗試験における、投射粒子重量に対する摩耗量をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0021】
図1(a)は、本発明に係るガラスフィラー含有メタルボンド砥石の模式断面図である。図1(a)に示すように、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、砥粒11と、メタルボンド12と、ガラスフィラー13とを含有するメタルボンド層14からなる。メタルボンド層14において、砥粒11とガラスフィラー13は、メタルボンド12によって結合されている。
【0022】
また、メタルボンド層14において、メタルボンド12とガラスフィラー13とは相互拡散している。すなわち、メタルボンド層14において、ガラスフィラー13を構成する少なくとも1つの元素(例えば、Zr)が、ガラスフィラー領域からメタルボンド領域にかけて、徐々に減少しながら存在し、メタルボンド12を構成するCuが、メタルボンド領域からガラスフィラー領域にかけて、徐々に減少しながら存在している。
【0023】
砥粒11は、ダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素である。
また、砥粒11が小さいほど、研削加工対象物の表面を高品位に仕上げることができ、求められる研削加工対象物の表面の品位に応じて、砥粒11の大きさは適宜選択される。一方、砥粒11が大きすぎると、耐摩耗性が低下する傾向にあったり、仕上げ加工に用いるのにも不向きとなる。ホーニング加工のような仕上げ加工に用いることができ、かつ、高寿命な砥石とするためには、砥粒11の好適な平均粒径は、35μm以下であることが好ましい。また、上記のように、砥粒11の平均粒径の下限は、目的に応じて選択すればよく、特に限定されない。例えば、砥粒11の平均粒径の下限は、0.2μm以上や1μm以上であってもよい。
【0024】
なお、「平均粒径」とは、メジアン径を意味し、レーザ-回折・散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒径をいう。
【0025】
ガラスフィラー13は、Cuと相互拡散できる元素(特に、金属元素)を有するものであれば、その主骨格等は特に限定されず、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウ素塩ガラス、リン酸塩ガラスなどのいずれの骨格であってもよい。
【0026】
ガラスフィラー13は、Cuと相互拡散しやすいことから、Zn、Sn、ZrおよびNiからなる群から選択される1種以上の元素を含有するガラスフィラーが好適である。
【0027】
また、ガラスフィラー13は、環境面からはPbを含有しないガラスフィラーが好適である。
なお、「Pbを含有しない」とは、Pbを実質的に含まないことを意味し、Pbを不純物レベルの混入を排除するものではない。具体的には、ガラスフィラーにおけるPbの含有量が1000ppm未満を指す。
【0028】
Cuとの相互拡散性や環境面を考慮して、Zn、Sn、ZrおよびNiからなる群から選択される1種以上の元素を含有し、Pbを含有しないガラスフィラーがより好適である。
【0029】
ガラスフィラー13の好適な平均粒径は、その下限が1μm以上であり、その上限は3μm未満である。なお、ガラスフィラー13の大きさは、砥粒11の大きさや、メタルボンド12とガラスフィラー13との割合などに応じて、この範囲の中でもより好適な平均粒径となるように適宜選択できる。
【0030】
メタルボンド12は、Cuを含有する金属である。Cuを主成分として含有することが好ましく、メタルボンドは、2~5元系合金であってもよい。なお、Cuを主成分して含有するとは、メタルボンドを構成する成分の中で最も含有量(質量%)が高い成分としてCuを含有することを意味する。例えば、Cu-Sn系合金、Cu-Sn-Co系合金、Cu-Sn-Co-Fe系合金、Cu-Sn-Ni系合金などとすることができる。
【0031】
メタルボンド層14において、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合(ガラスフィラー13の体積/メタルボンド12の体積)は、0.025~1.0である。なお、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合は、目的や研削条件などを考慮して、砥粒11の粒度(平均粒径)や集中度などに応じて調整することが好ましい。
【0032】
例えば、砥粒11の粒度#500~#800(砥粒11の平均粒径20~35μm程度)では、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合は、0.025~0.5であることがより好ましい。
砥粒11の粒度#1000~#2000(砥粒11の平均粒径8~15μm程度)では、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合は、0.05~0.7であることがより好ましい。
砥粒11の粒度#2500~#4000(砥粒11の平均粒径3~6μm程度)では、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合は、0.1~0.9であることがより好ましい。
砥粒11の粒度#6000以上(砥粒11の平均粒径0.2~2μm程度)では、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合は、0.2~1であることがより好ましい。
【0033】
砥粒11の各粒度での、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合の好適な範囲について、より具体的な例を図2に示す。
【0034】
このように、砥粒11の粒度が細かいほど(砥粒11の粒度の数値が大きいほど)、メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合が大きくなるように調整することで、砥石に異常摩耗が発生せずに継続して安定した加工が可能な砥石とすることができる。
【0035】
メタルボンド12の体積に対するガラスフィラー13の体積の割合と同様に、メタルボンド層14における、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合(砥粒11の体積/メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積)は、目的や研削条件などを考慮して、砥粒11の粒度(平均粒径)や集中度などに応じて調整できる。
【0036】
例えば、砥粒11の粒度#500~#800(砥粒11の平均粒径20~35μm程度)では、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合は、0.025~0.33であることがより好ましい。
砥粒11の粒度#1000~#3000(砥粒11の平均粒径5~15μm程度)では、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合は、0.125~0.23であることがより好ましい。
砥粒11の粒度#4000以上(砥粒11の平均粒径0.2~3μm程度)では、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合は、0.0025~0.15であることがより好ましい。
【0037】
砥粒11の各粒度での、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合の好適な範囲について、より具体的な例を図3に示す。
【0038】
このように、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合が、0.0025~0.33の範囲で、砥粒11の粒度が細かいほど(砥粒11の粒度の数値が大きいほど)、メタルボンド12とガラスフィラー13との合計体積に対する砥粒11の体積の割合が小さくなるように調整することで、砥石に異常摩耗が発生せずに継続して安定した加工が可能な砥石とすることができる。
【0039】
また、図4は、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10のメタルボンド層14における、メタルボンド12とガラスフィラー13との相互拡散の様子を示すものである。図4に示すように、メタルボンド12とガラスフィラー13との界面部分に形成された相互拡散領域100は、ガラスフィラー13を構成する少なくとも1つの元素が拡散したガラス成分拡散領域100aと、メタルボンド12のCuが拡散したCu拡散領域100bとからなる。ガラスフィラー13は、Cuが拡散していない未拡散領域101と、未拡散領域101を覆うCu拡散領域100bとからなる。このような構成とすることで、研削加工中のガラスフィラー13の崩壊のしやすさが、Cu拡散領域と未拡散領域とで異なるため、チップポケットを生成することによる安定な研削が可能であると同時に、砥石強度の低下を抑制することができる。
【0040】
特に、メタルボンド層14は、メタルボンド12とガラスフィラー13との界面部分に、ガラスフィラー13に含有されるZn、Sn、ZrおよびNiからなる群から選択される1種以上の元素が拡散したガラス成分拡散領域100aと、メタルボンド12に含有されるCuが拡散したCu拡散領域100bとからなる相互拡散領域100を有し、ガラスフィラー13の内部に未拡散領域101を有することが好適である。
【0041】
Cuの拡散深さD(Cu拡散領域100bの厚さ)は、ガラスフィラー13の平均半径の5%以上である。また、Cuの拡散深さDの上限は、ガラスフィラー13の内部に未拡散領域101が存在する範囲であればよい。一方で、Cuの拡散が少ないと、砥石の強度が低下し短寿命となる傾向にあるため、Cuの拡散深さDは、ガラスフィラー13の平均半径の10%以上が好適である。また、Cuの拡散が多すぎると、ガラスフィラー13が崩壊しにくくなり、チップポケットの効果を十分に得ることが難しく、所望の研削性能を発揮しにくくなる傾向にある。そのため、Cuの拡散深さDは、ガラスフィラー13の平均半径の60%以下が好適である。
また、ガラスフィラー13を構成する成分の拡散深さ(ガラス成分拡散領域100aの厚さ)は、例えば、Cuの拡散深さと同程度(Cuの拡散深さDの0.8~1.2倍)である。
【0042】
なお、本明細書において「平均半径」とは、平均粒径を2で割った値をいう。
また、メタルボンド12とガラスフィラー13との相互拡散の有無や拡散深さは、EDS元素分析により、メタルボンド12とガラスフィラー13との界面領域近傍の構成元素を分析することで確認することができる。
【0043】
ここで、研削加工時の本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10の状態を説明する。
ワーク30の研削加工を始めると、図1(b)に示すように、研削表面において、ガラスフィラー13が選択的に摩耗してチップポケット15が形成される。チップポケット15は、切り屑を効率的に排出して目詰まりが抑制する役割をする。
このとき、ガラスフィラー13は、メタルボンド12のCuが拡散している部分に対して、Cuが拡散していない部分の方が脆く、Cuの拡散が進行していない部分から崩壊するため、砥石強度は大きく損なわれない。
また、メタルボンド12とガラスフィラー13とが相互拡散していることで、ガラスフィラー13の砥粒11の保持力が向上するため目こぼれも抑制される。さらに、砥石10の弾性率を高くすることができ、砥粒11の沈み込みも抑制され、十分な突き出し量を確保できるため切味を維持できる。
【0044】
研削加工を続けると、徐々に砥粒11先端が摩耗するとともに、切り屑によってメタルボンド12およびガラスフィラー13が徐々に削られて後退し、砥粒11が自生する。
結果として、長期間にわたって、高い研削能率を維持して安定的に研削加工ができる。
【0045】
一方、図5(a)に従来のメタルボンド砥石の断面模式図を示す。従来のメタルボンド砥石20は、砥粒21と、メタルボンド22とグラファイト(固体潤滑剤)23とからなるメタルボンド層24を有するものである。従来のメタルボンド砥石20では、図5(b)に示すように、ワーク30の研削加工を始めると、グラファイト23が脱落してチップポケット25が形成される。グラファイト23は、砥粒21やメタルボンド23との結合力が低く、全体が脱落するため、砥石20の強度が低下する。また、グラファイト23は砥粒21の保持力が弱く、目こぼれや砥粒の沈み込みによる切味の低下が起こりやすい。
【0046】
本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10の好適な用途は、仕上げ加工に用いられる砥石であり、高品位が求められる微細領域の研削加工に用いられるための砥石である。また、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、上記の通り、安定した研削能率を有し、かつ、長寿命の砥石であり、長期にわたって、連続研削を安定して行うことができる。そのため、ノードレスでの使用に特に好適である。
具体的には、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、ホーニング加工に用いるためのホーニング砥石として好適である。特に、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、長期間にわたって安定した高い研削能率を維持することができるため、ノードレス切削加工用のホーニング砥石として好適である。
【0047】
ホーニング加工を行うための装置としては、例えば、図6に示すように、本体外周の円周方向複数箇所に取り付けられたホーニング砥石41と、本体内部に上下動可能に挿入されたテーパコーン42と、テーパコーン42の下降によってホーニング砥石41をシリンダーボア内面に向けて押圧するシュー43とを備えたホーニングヘッド44と、このホーニングヘッド44を回転および軸方向に移動させる駆動機構(図示せず)を有するホーニング加工装置40を用いることができる。本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、このようなホーニング加工装置40に取り付けられるホーニング砥石41とすることができる。
【0048】
次に、本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10の製造方法の一例を説明する。
本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石10は、砥粒11と、ガラスフィラー13と、Cuを含有する金属粉とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を成形金型に充填する充填工程と、前記混合物が充填された成形金型を加圧加熱し、ガラスフィラー13と前記金属粉とを相互拡散反応させながらメタルボンド層14を形成させる成形工程とを有する製造方法により製造することができる。
【0049】
混合工程は、砥粒11と、ガラスフィラー13と、Cuを含有する金属粉とを混合して混合物を得る工程である。
この工程で用いられる原料となるCuを含有する金属粉は、メタルボンド12の構成に応じた組成の合金粉や混合粉を用いることができる。砥粒11およびガラスフィラー13は、上記の通りである。
【0050】
原料の体積配合比率は、Cuを含有する金属粉:ガラスフィラー=1:1~40:1の範囲で調整することができる。また、体積配合比率で、Cuを含有する金属粉:砥粒=1:1~85:1や、8:1~80:1の範囲で調整することができる。
また、体積配合比率は、用いる砥粒の粒度(平均粒径)等に応じて調整することが好ましい。
【0051】
充填工程は、混合工程で得られた混合物を成形金型に充填する工程である。成形金型は、目的とする砥石の形状に応じて任意に選択できる。
【0052】
成形工程は、充填工程後の、混合物が充填された成形金型を加圧加熱し、ガラスフィラー13と前記金属粉とを相互拡散反応させながらメタルボンド層14を形成させる工程である。
【0053】
成形工程における成形温度や成形圧力、成形時間などの成形条件は、Cuを含有する金属粉やガラスフィラーの種類に応じて、ガラスフィラーと金属粉とが相互拡散反応する範囲で適宜調整することができる。
【0054】
また、ガラスフィラー13の内部に未拡散領域が残存するように、ガラスフィラー13と前記金属紛との相互拡散反応は進行させればよいが、上記の通り、相互拡散が少なすぎると、得られる砥石は研削加工中に強度低下しやすくなる。一方で、相互拡散が多すぎると、得られる砥石の研削能率は低下する傾向にある。そのため、成形工程では、ガラスフィラー13と前記金属粉とを相互拡散反応によりガラスフィラーの平均半径の5%以上の領域までCuが拡散するように、成形温度や成形圧力、成形時間を調整してメタルボンド層14を形成させることが好ましく、ガラスフィラーの平均半径の10%以上の領域までCuが拡散するようにすることがより好ましい。また、ガラスフィラー13と前記金属粉とを相互拡散反応によるCuの拡散は、例えば、ガラスフィラーの平均半径の60%以下の領域までとなるように成形温度や成形圧力、成形時間を調整することができる
【0055】
例えば、相互拡散反応が進行しやすいことから、成形温度は、350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。また、成形温度は高すぎると相互拡散反応が進行しすぎるため、600℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。
また、成形圧力は、50kg/cm2以上が好ましく、100kg/cm2以上がより好ましい。また、500kg/cm2以下が好ましく、300kg/cm2以下がより好ましい。
【実施例
【0056】
[実施例1]
Cu及びSnの混合粉、ダイヤモンド砥粒(平均粒径25μm、#700)、Zr含有リン酸塩ガラス(平均粒径2.5μm)を、67.5:5:27.5(体積比)で混合した混合物を成形金型に充填した。次いで、窒素雰囲気、450℃、150kg/cm2の条件で成形加工し、メタルボンド層からなるメタルボンド砥石(1)を得た。
【0057】
[実施例2]
Cu及びSnの混合粉、ダイヤモンド砥粒(平均粒径25μm、#700)、Zr含有リン酸塩ガラス(平均粒径2.5μm)を、85:5:10(体積比)で混合した混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、メタルボンド砥石(2)を得た。
【0058】
[比較例1]
リン酸塩ガラスを使用せずに、Cu及びSnの混合粉、ダイヤモンド砥粒(平均粒径25μm、#700)を、95:5(体積比)で混合した混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、メタルボンド砥石(3)を得た。
【0059】
[比較例2]
リン酸塩ガラスに代えて、ケイ酸ガラス(平均粒径2.5μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、メタルボンド砥石(4)を得た。
なお、比較例2に用いたケイ酸ガラスのZr、Sn、ZnおよびNiの含有量は検出限界以下であった。
【0060】
[比較例3]
リン酸塩ガラスに代えて、グラファイト(平均粒径2.5μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、メタルボンド砥石(5)を得た。
【0061】
[砥石の評価]
得られたメタルボンド砥石を3点曲げして破断させ、その破断面を評価した。
メタルボンド砥石(1)の破断面のガラスフィラーをEDS元素分析にて評価したところ、ガラスフィラー内部はCuが拡散していない未拡散領域が存在していた。
【0062】
また、メタルボンド砥石(1)の破断面のガラスフィラーとメタルボンドとの界面領域近傍についてもEDS元素分析にて評価した。メタルボンド砥石(1)の破断面のガラスフィラーとメタルボンドとの界面領域近傍の4点のZrおよびCuの元素の存在割合(質量%)をEDS元素分析で測定して算出した結果を図7に示す。
【0063】
図7に示すように、メタルボンド砥石(1)は、使用した混合粉はZrを含有しないにもかかわらず、メタルボンド領域においてもガラスフィラーとの界面付近ではZrの存在が確認された。さらに、Zrの存在割合は、ガラスフィラーとの界面からメタルボンド領域の内部にかけて減少することが確認された。また、使用したガラスフィラーはCuを含有しないにもかかわらず、ガラスフィラー領域においてもメタルボンドとの界面付近ではCuの存在が確認され、Cuの存在割合は、メタルボンドとの界面からガラスフィラー領域の内部にかけて減少することが確認された。この結果から、メタルボンド砥石(1)では、メタルボンドを構成するCuとガラスフィラーを構成するZrとが少なくとも相互拡散しているといえる。
【0064】
また、メタルボンド砥石(1)の破断面の砥粒表面の元素をEDS元素分析で測定した結果、C、Cu、ZrおよびSnが検出された。
【0065】
メタルボンド砥石(2)についても同様に破断面を評価した結果、ガラスフィラーの内部には未拡散領域が存在し、また、ガラスフィラーとメタルボンドとの界面領域近傍ではCuとZrの相互拡散が確認された。
【0066】
比較例2のメタルボンド砥石(4)についても同様に破断面を評価した結果、メタルボンド砥石(4)では、メタルボンドとガラスフィラーとの相互拡散は確認されなかった。
【0067】
[耐摩耗試験]
メタルボンド砥石(1)(実施例1)、メタルボンド砥石(3)(比較例1)およびメタルボンド砥石(4)(比較例2)について、砥石に硬質粒子を一定の投射速度にて所定の重量投射させた際の摩耗量(凹み深さ)を求めた。投射させた硬質粒子の重量(投射粒子重量(g))を横軸に、各投射粒子重量における摩耗量(μm)を縦軸にプロットした結果を図8に示す。
図8に示すように、メタルボンド砥石(1)は、メタルボンド砥石(4)に比べて、砥石の摩耗量が大きく低減し、メタルボンド砥石(3)と同等であった。つまり、メタルボンド砥石(1)はガラスフィラーを含有するにもかかわらず、砥石の強度を大きく損なわい構造を有することが確認できた。
【0068】
[砥石を用いた研削試験]
メタルボンド砥石(2)(実施例2)を、接着剤を用いて台金に接着しホーニング砥石とした。これをホーニング加工装置(メカ拡張ホーニング盤)にセットし、下記条件で研削試験を行った。
・ホーニング砥石の配置本数:6本
・砥石周速度:95m/min
・往復速度:25m/min
・研削液:水溶性研削液
・加工物:鋳鉄FC250相当、内径φ84mm×高さ135mm
・加工時間:15sec
また、メタルボンド砥石(5)(比較例3)についても同様に研削試験を行った。
【0069】
試験後のメタルボンド砥石(2)の表面をSEM観察した。その結果、メタルボンド砥石(2)では、メタルボンドに対して選択的にガラスフィラーが摩耗してチップポケットを形成していた。
また、EDSマッピングの結果より、凹部には、Zrの存在が確認された。この結果より、メタルボンド砥石(2)において、ガラスフィラーが徐々に崩壊していると推察される。
【0070】
メタルボンド砥石(2)による加工物の研削量を基準(研削性指数100%)とし、メタルボンド砥石(2)とメタルボンド砥石(5)との研削性指数(%)を比較した。メタルボンド砥石(5)の研削性指数(%)を、メタルボンド砥石(2)の相対値(メタルボンド砥石(5)による加工物の研削量を、メタルボンド砥石(2)による加工物の研削量で除し、100を乗じた値)として算出したところ、メタルボンド砥石(5)の研削性指数(%)は96%であった。
また、メタルボンド砥石(2)の摩耗量の逆数を基準(耐摩耗性指数100%)とし、メタルボンド砥石(2)とメタルボンド砥石(5)との耐摩耗性指数(%)を比較した。メタルボンド砥石(5)の耐摩耗性指数(%)を、メタルボンド砥石(2)の相対値(メタルボンド砥石(5)の摩耗量の逆数を、メタルボンド砥石(2)の摩耗量の逆数で除し、100を乗じた値)として算出したところ、メタルボンド砥石(5)の耐摩耗指数(%)は65%であった。
この結果より、メタルボンド砥石(2)は、メタルボンド砥石(5)(従来の砥石)と比較して、同等以上の研削能率を有し、かつ、砥石の寿命が大幅に向上していることがわかる。
また、研削試験中、メタルボンド砥石(2)の研削能率も安定していた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のガラスフィラー含有メタルボンド砥石は、高品位が求められる微細領域の研削加工で利用でき、特に、ノードレス使用環境下においても利用することができる。例えば、自動車用エンジンのシリンダ内面などのホーニング加工において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 ガラスフィラー含有メタルボンド砥石
11、21 砥粒
12、22 メタルボンド
13 ガラスフィラー
14、24 メタルボンド層
15、25 チップポケット
20 従来のメタルボンド砥石
23 グラファイト
30 ワーク
40 ホーニング加工装置
41 ホーニング砥石
42 テーパコーン
43 シュー
44 ホーニングヘッド
100 相互拡散領域
100a ガラス成分拡散領域
100b Cu拡散領域
101 未拡散領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8