(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20220822BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B60C11/03 E
B60C11/03 C
B60C11/12 B
B60C11/12 A
B60C11/03 Z
(21)【出願番号】P 2019037664
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大庭 裕史
(72)【発明者】
【氏名】槙岡 稔晃
(72)【発明者】
【氏名】宮里 彰
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141225(JP,A)
【文献】特開2007-99147(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073768(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107160948(CN,A)
【文献】特開2009-101743(JP,A)
【文献】特表2013-519563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成されたトレッド部を備える二輪車用タイヤにおいて、
ネガティブ比が9%以下であり、
前記トレッド部に、複数の主溝と複数のサイプとが設けられ、該複数のサイプのうち少なくとも一部が該主溝に対し連通しており、
前記サイプと連通しているサイプ付き主溝の、幅が2mm以上12mm以下であって、長さが15mm以上200mm以下であり、
前記サイプ付き主溝に対し連通している連通サイプの深さが2.0mm以上であって、かつ、該連通サイプのうち少なくとも一部が、車両直進時におけるタイヤ接地幅の1倍以上3倍以下の長さを有することを特徴とする二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記連通サイプの比率が、全てのサイプのうちの50%以上である請求項1記載の二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記サイプの本数が、前記主溝の本数の20%以上200%以下である請求項1または2記載の二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記連通サイプが屈曲部を有するものを含む請求項1~3のうちいずれか一項記載の二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤ踏面部に設けるトレッドパターンの改良に係る自動二輪車用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車用タイヤは、乗用車やトラック・バス等の四輪車とは異なり車体を傾けて旋回する二輪車の特性のために、タイヤクラウン部が四輪車用タイヤに比べて小さな曲率半径を有する、断面が丸いタイヤ形状を有している。すなわち、二輪車用空気入りタイヤにおいては、車両の直進走行時には主にトレッドの中央部が接地し、旋回時にはトレッドのショルダー部が接地する。
【0003】
このような二輪車用タイヤに関する先行技術として、例えば、特許文献1には、タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、サイドウォールは、半径方向外側に向かって、切り込みを備えたトレッドに合体しており、切り込みの長さは、接触パッチの表面の幅の1.2倍未満であり、少なくとも1つの切り込みは、トレッドに設けられ、幅が2.5mmを超え、長さが2.5~10mmの切れ目で終端した少なくとも1つの端を有する、電動二輪車用のタイヤが開示されている。この技術は、濡れた表面におけるグリップ特性の向上を目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、排水性の確保の点で十分ではなく、ドライ路面での走行性能を損なうことなく、ウェット路面での走行性能をより向上するための技術が求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、トレッドパターンの改良により排水性を向上することで、ドライ路面での走行性能を損なうことなく、ウェット路面での走行性能をより向上した二輪車用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、トレッド部に、所定寸法の主溝に対し連通する所定寸法のサイプを配置することで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の二輪車用タイヤは、環状に形成されたトレッド部を備える二輪車用タイヤにおいて、
ネガティブ比が9%以下であり、
前記トレッド部に、複数の主溝と複数のサイプとが設けられ、該複数のサイプのうち少なくとも一部が該主溝に対し連通しており、
前記サイプと連通しているサイプ付き主溝の、幅が2mm以上12mm以下であって、長さが15mm以上200mm以下であり、
前記サイプ付き主溝に対し連通している連通サイプの深さが2.0mm以上であって、かつ、該連通サイプのうち少なくとも一部が、車両直進時におけるタイヤ接地幅の1倍以上3倍以下の長さを有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、前記連通サイプの比率が、全てのサイプのうちの50%以上であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記サイプの本数が、前記主溝の本数の20%以上200%以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のタイヤにおいては、前記連通サイプが屈曲部を有するものを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、トレッドパターンの改良により排水性を向上することで、ドライ路面での走行性能を損なうことなく、ウェット路面での走行性能をより向上した二輪車用タイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の二輪車用タイヤの一例のフロントタイヤを示す部分展開図である。
【
図2】本発明の二輪車用タイヤの一例のフロントタイヤを示す幅方向断面図である。
【
図3】本発明の二輪車用タイヤの他の例のリアタイヤを示す部分展開図である。
【
図4】本発明の二輪車用タイヤの他の例のリアタイヤを示す幅方向断面図である。
【
図5】比較例1で使用したフロントタイヤを示す部分展開図である。
【
図6】比較例1で使用したリアタイヤを示す部分展開図である。
【
図7A】実施例1および比較例1についての、フロントタイヤにおけるCAが0°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【
図7B】実施例1および比較例1についての、フロントタイヤにおけるCAが15°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【
図7C】実施例1および比較例1についての、フロントタイヤにおけるCAが30°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【
図8A】実施例1および比較例1についての、リアタイヤにおけるCAが0°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【
図8B】実施例1および比較例1についての、リアタイヤにおけるCAが15°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【
図8C】実施例1および比較例1についての、リアタイヤにおけるCAが30°の場合のスリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の二輪車用タイヤの一例のフロントタイヤの部分展開図を示す。また、
図2に、本発明の二輪車用タイヤの一例のフロントタイヤの幅方向断面図を示す。
【0014】
図示するように、本発明の二輪車用タイヤ10は、環状に形成されたトレッド部11を備えており、トレッド部11には、複数の主溝21~23と複数のサイプ31~35とを含むトレッドパターンが形成されている。主溝21~23およびサイプ31~35は、いずれもタイヤ赤道面CLを横切ることなく、タイヤ踏面部の片側で両端が終端するよう配置され、図示するフロントタイヤにおいては、いずれもタイヤ回転方向に向かって、タイヤ幅方向内側から外側に延びるように傾斜して配置されている。図示するトレッドパターンは、車両装着時の回転方向が指定される、いわゆる方向性パターンである。図中の矢印は、タイヤの回転方向を示す。
【0015】
本発明の二輪車用タイヤ10においては、複数のサイプ31~35のうち少なくとも一部が、主溝21~23に対し連通しており、具体的には、図示する例では、サイプ31~34が主溝21~23に対し連通している。本発明においては、サイプが連通しているサイプ付き主溝21~23の幅および長さ、および、このサイプ付き主溝21~23に連通している連通サイプ31~34の深さおよび長さが、所定条件を満足する点が重要である。本発明によれば、一定以上の長さおよび容積を有しタイヤ踏面部の片側で両端が終端する主溝に対して、一定以上の深さおよび長さを有しタイヤ踏面部の片側で両端が終端するサイプを連通させることにより、主溝およびサイプが全体として接地面の内部から外部まで延在するので、排水性を向上することができ、ウェット路面での走行性能を向上することができる。その一方、本発明においては、溝を増やすのではなくサイプを設けることで排水性を向上しているので、ドライ路面での走行性能を損なうことがない。よって、ドライ路面での走行性能を損なうことなく、ウェット路面での走行性能をより向上した二輪車用タイヤを実現することが可能となった。
【0016】
本発明において、サイプ付き主溝21~23の幅は、2mm以上12mm以下であることが必要であり、3mm以上8mm以下であることが好ましい。また、サイプ付き主溝21~23の長さは、15mm以上200mm以下であることが必要であり、18mm以上150mm以下であることが好ましい。サイプ付き主溝21~23の幅または長さが、上記範囲よりも小さいと、十分な排水性能が得られず、ウェット路面での走行性能が不十分となる。その一方、上記範囲よりも大きいと、剛性が低下して、ドライ路面での走行性能が不十分となる。
【0017】
ここで、本発明において、サイプ付き主溝21~23の長さとは、各溝のタイヤ周方向端部同士を結んだ線分の長さを意味する。また、サイプ付き主溝21~23の幅とは、各溝の溝面積をその溝の長さで除した値を意味し、各溝の面積とは、各溝の開口部の表面積を意味する。
【0018】
また、本発明においては、連通サイプ31~34の深さが、2.0mm以上であることが必要であり、好適には2.5mm以上6.0mm以下である。連通サイプ31~34の深さを上記範囲とすることで、排水性能と、トレッド部の剛性とを、バランスよく確保することができる。ここで、サイプの深さとは、タイヤ表面に対し垂直な方向に測った、サイプの開口部からサイプの底までの最大深さを意味する。
【0019】
さらに、本発明においては、連通サイプ31~34のうち少なくとも一部が、車両直進時におけるタイヤ接地幅の1倍以上3倍以下の長さを有することが必要である。連通サイプ31~34の長さが、上記範囲よりも小さいと、十分な排水性能が得られず、ウェット路面での走行性能が不十分となる。その一方、上記範囲よりも大きいと、剛性が低下して、ドライ路面での走行性能が不十分となる。上記サイプの長さは、好適には1.3倍以上2.6倍以下である。ここで、サイプの長さとは、タイヤ表面においてサイプに沿って測ったサイプの両端間の長さを意味する。
【0020】
ここで、本発明において、車両直進時におけるタイヤ接地幅とは、タイヤを適用リムに装着して規定空気圧を充填し、最大負荷能力の60%に対応する負荷を加えたときのタイヤ接地面の最大幅を意味する。また、適用リムとは、下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または「Approved Rim」、「Recommended Rim」)を意味し、規定空気圧とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)に対する空気圧を意味する。規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められている規格であり、例えば、アメリカ合衆国では「The Tire and Rim Association Inc.の Year Book」であり、欧州では「The European Tyre and Rim Technical Organization の Standards Manual」であり、日本では日本自動車タイヤ協会の「JATMA Year Book」において規定されている。
【0021】
本発明においては、連通サイプ31~34のうち少なくとも一部が、上記所定の長さを有することが必要であり、具体的には、全ての連通サイプ31~34のうち、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上の本数の連通サイプが、上記所定の長さを有するものとする。上記所定の長さを有する連通サイプが少なすぎると、本発明の所期の効果が得られないおそれがある。
【0022】
本発明において、連通サイプ31~34としては、深さおよび長さが上記条件を満足するものであればよいが、好ましくは、以下のような構成とすることができる。
【0023】
連通サイプ31~34の幅は、好適には0.5mm以上2mm以下、より好適には0.7mm以上1.5mm以下である。連通サイプ31~34の幅を上記範囲とすることで、排水性能と、トレッド部の剛性とを、バランスよく確保することができ、好ましい。ここで、サイプの幅とは、サイプの延在方向に対し垂直な方向に、サイプ開口部において測った開口幅を意味する。
【0024】
連通サイプ31~34の形状としては、直線状であっても、屈曲部を有するものであってもよい。排水性を確保する観点からは直線状であることが好ましいが、屈曲部を有する形状、例えば、波形状やジグザグ形状のサイプとすることにより、剛性を補完することができる。例えば、図示する例では、連通サイプ31が屈曲部を有している。サイプが屈曲部を有する場合のその屈曲部の角度αとしては、好適には90°以上170°以下、より好適には100°以上160°以下である。ここで、サイプの屈曲部の角度αとは、屈曲部の両端点において引いた2つの接線の交点同士がなす角度を意味する。
【0025】
本発明において、連通サイプ31~34の比率は、主溝に連通していないサイプ(以下、「単独サイプ」とも称する)を含む全てのサイプのうちの50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。連通サイプ31~34の比率を上記範囲とすることで、排水性能をより高めることができるため、好ましい。
【0026】
また、本発明においては、全てのサイプ31~35の本数が、全ての主溝21~23の本数の20%以上200%以下であることが好ましく、40%以上180%以下であることがより好ましい。サイプの本数を上記範囲とすることで、排水性能とトレッド部の剛性とを確保することができるため、好ましい。
【0027】
本発明において、連通サイプの、サイプ付き主溝に対する連通形態としては、特に制限されるものではない。特には、連通サイプの延在方向とサイプ付き主溝の延在方向との角度のずれが40°以内であるような連通サイプを、サイプ付き主溝の本数の30%以上含むことが好ましい。例えば、図示する例では、連通サイプ31,32の延在方向とサイプ付き主溝21の延在方向、連通サイプ33の延在方向とサイプ付き主溝22の延在方向、連通サイプ34の延在方向とサイプ付き主溝23の延在方向は、それぞれ角度のずれが40°以内となっている。このような配置形態とすることで、連通サイプの配置による排水性の向上効果を、より確実に得ることができ、好ましい。
【0028】
ここで、本発明において、サイプ付き主溝の延在方向とは、各溝のタイヤ周方向端部同士を結んだ線分の延びる方向を意味し、連通サイプの延在方向とは、連通サイプの両端部同士を結んだ線分の延びる方向を意味する。
【0029】
具体的には、図示する例では、連通サイプ31は、サイプ付き主溝21に対し、その外輪郭線に沿って配置されて、タイヤ幅方向外側端部でサイプ付き主溝21と連通している。また、連通サイプ32は、実質的に、サイプ付き主溝21のタイヤ幅方向内側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝21に対し、そのタイヤ幅方向内側端部で連通している。さらに、連通サイプ33は、実質的に、サイプ付き主溝22のタイヤ幅方向外側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝22に対し、そのタイヤ幅方向外側端部で連通している。さらにまた、連通サイプ34は、実質的に、サイプ付き主溝23のタイヤ幅方向外側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝23に対し、そのタイヤ幅方向外側端部で連通している。
【0030】
本発明においては、連通サイプ付き31~34以外に、主溝と連通しない他のサイプを設けてもよい。この他のサイプの寸法等については、特に制限されるものではないが、連通サイプ等と同様に、タイヤ回転方向に向かって、タイヤ幅方向内側から外側に延びるように傾斜して配置することができる。
【0031】
本発明においては、サイプ付き主溝21~23については、幅および長さが上記条件を満足するものであればよいが、好ましくは、以下のような構成とすることができる。
【0032】
サイプ付き主溝21~23の深さとしては、2.5mm以上10mm以下であることが好ましく、2.5mm以上6mm以下であることがより好ましい。これにより、排水性能と、トレッド部の剛性とを、バランスよく確保することができ、好ましい。ここで、主溝の深さとは、タイヤ表面に対し垂直な方向に測った、溝の開口部から溝底までの最大深さを意味する。
【0033】
サイプ付き主溝21~23の形状としては、外輪郭線が、3つ以上の曲線および/または直線によって構成されるものとすることができる。連通サイプ31~34は、サイプ付き主溝21~23を構成する、これら曲線および/または直線が交差する角部から延びるように設けられていてもよい。また、図示するフロントタイヤにおいて、サイプ付き主溝21~23は、タイヤ回転方向に向かってタイヤ周方向に対する傾斜角度が大きくなるように延びるものとすることができる。
【0034】
本発明においては、サイプ付き主溝21~23以外に、サイプと連通しない他の主溝を設けてもよい。この他の主溝の寸法等については、特に制限されるものではないが、サイプ付き主溝等と同様に、タイヤ回転方向に向かって、タイヤ幅方向内側から外側に延びるように傾斜して配置することができる。
【0035】
本発明における主溝およびサイプは、タイヤ赤道面CLを軸として線対称に、タイヤ赤道面CLを挟むトレッド踏面部の一方側と他方側とで交互に、例えば、配置ピッチの1/2~1/3だけずらして、配置することができる。
【0036】
また、本発明のタイヤにおいては、ネガティブ比が、15%以下であることが好ましく、1%以上15%以下であることがより好ましく、1%以上9%以下であることがさらに好ましい。ネガティブ比を上記範囲とすることで、トレッド部の剛性を良好に確保することができ、好ましい。ここで、ネガティブ比とは、トレッド踏面部の面積に占める、サイプを除いた溝部の割合を意味する。本発明においては、ネガティブ比を低く抑えて剛性を確保しつつ、排水性能を向上できる点にメリットがある。
【0037】
本発明のタイヤにおいては、タイヤ踏面部におけるトレッドパターンについて上記条件を満足するのであればよく、それ以外のタイヤ構造や使用材料の詳細などについては特に制限されるものではないが、例えば、以下のように構成することができる。
【0038】
図2に示すように、例えば、本発明のタイヤ10において、環状に形成されたトレッド部11のタイヤ半径方向内側には、一対のサイドウォール部12およびビード部13が順次配設されている。また、本発明のタイヤ10は、少なくとも1枚のカーカスプライ1を骨格とし、カーカスプライ1のトレッド部11におけるタイヤ半径方向外側には、少なくとも1枚のベルト層2が配置されている。
【0039】
カーカスプライ1は、比較的高弾性のテキスタイルコードを互いに平行に配列させて形成される。カーカスプライ1の枚数は、1枚でも2枚でもよく、3枚以上でもかまわない。カーカスプライ1の両端部は、ビード部13において、ビード部13に埋設されたビードコア3の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止しても、両側からビードワイヤで挟み込んで係止してもよく、いずれの固定方法を用いてもよい。
【0040】
ベルト層2は、例えば、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたゴム被覆コードからなるスパイラルベルトとすることができる。また、コード方向が層間で互いに交錯するように配置された2層以上の傾斜ベルト層からなるものであってもよい。ベルト層を構成する補強材としては、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)、スチール等が挙げられる。中でも、芳香族ポリアミドやスチールは、高温時においても伸長せずにトレッド部分の膨張を抑制することができる補強材である。
【0041】
また、本発明のタイヤにおいて、ビードコア3のタイヤ半径方向外側にはビードフィラー4を配置することができ、タイヤの最内層には、図示しないインナーライナーを配置することができる。
【0042】
図3に、本発明の二輪車用タイヤの他の例のリアタイヤの部分展開図を示す。また、
図4に、本発明の二輪車用タイヤの他の例のリアタイヤの幅方向断面図を示す。図示する二輪車用タイヤ40においても、トレッド部41に、所定の幅および長さを有するサイプ付き主溝51~54と、これらに連通し所定の深さおよび長さ条件を満足する連通サイプ61~66とが設けられている点のみが重要であり、これにより本発明の所期の効果を得ることができ、それ以外の点については、特に制限されない。
【0043】
図示する本発明の二輪車用タイヤ40は、環状に形成されたトレッド部41を備えており、トレッド部41には、複数の主溝51~54と複数のサイプ61~67とを含むトレッドパターンが形成されている。主溝51~54およびサイプ61~67は、いずれもタイヤ赤道面CLを横切ることなく、タイヤ踏面部の片側で両端が終端するよう配置され、図示するリアタイヤにおいては、いずれもタイヤ回転方向の逆方向に向かって、タイヤ幅方向内側から外側に延びるように傾斜して配置されている。図示するトレッドパターンは、車両装着時の回転方向が指定される、いわゆる方向性パターンである。図中の矢印は、タイヤの回転方向を示す。
【0044】
本発明の二輪車用タイヤ40においては、複数のサイプ61~67のうち少なくとも一部、具体的には、連通サイプ61~66が、サイプ付き主溝51~54に対し連通している。この場合における、サイプ付き主溝51~54を含む主溝および連通サイプ61~66を含むサイプの構成および好適条件については、サイプ付き主溝21~23および連通サイプ31~34と同様とすることができるので、ここでは省略する。
【0045】
具体的には、図示する例では、連通サイプ61は、実質的に、サイプ付き主溝51のタイヤ幅方向内側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝51に対し、そのタイヤ幅方向内側端部で連通している。また、連通サイプ62は、サイプ付き主溝51に対し、その外輪郭線に沿って配置されて、タイヤ幅方向外側端部でサイプ付き主溝51と連通している。さらに、連通サイプ63は、実質的に、サイプ付き主溝52のタイヤ幅方向内側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝52に対し、そのタイヤ幅方向内側端部で連通している。さらにまた、連通サイプ64は、実質的に、サイプ付き主溝53のタイヤ幅方向内側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝53に対し、そのタイヤ幅方向内側端部で連通している。さらにまた、連通サイプ65は、実質的に、サイプ付き主溝54のタイヤ幅方向内側端部における延在方向の延長線上に設けられて、サイプ付き主溝54に対し、そのタイヤ幅方向内側端部で連通している。さらにまた、連通サイプ66は、サイプ付き主溝54に対し、その外輪郭線に沿って配置されて、タイヤ幅方向外側端部でサイプ付き主溝54と連通している。
【0046】
また、
図3に示すリアタイヤにおいて、他の主溝や他のサイプを設ける場合には、サイプ付き主溝や連通サイプ等と同様に、タイヤ回転方向の逆方向に向かって、タイヤ幅方向内側から外側に延びるように傾斜して配置することができる。
【0047】
図4に示すように、例えば、本発明のタイヤ40において、環状に形成されたトレッド部41のタイヤ半径方向内側には、一対のサイドウォール部42およびビード部43が順次配設されている。また、本発明のタイヤ40は、少なくとも1枚のカーカスプライ5を骨格とし、カーカスプライ5のトレッド部41におけるタイヤ半径方向外側には、少なくとも1枚のベルト層6が配置されている。これらカーカスプライ5やベルト層6等の構成および好適条件については、タイヤ10におけるのと同様とすることができるので、ここでは省略する。
【0048】
さらに、本発明のタイヤにおいて、ビード部43に埋設されたビードコア7のタイヤ半径方向外側にはビードフィラー8を配置することができ、タイヤの最内層には、図示しないインナーライナーを配置することができる。
【0049】
本発明のタイヤは、自動二輪車のフロントタイヤおよびリアタイヤのいずれにも適用可能であり、また、ラジアル構造およびバイアス構造のいずれのタイヤにも適用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0051】
(実施例1)
図1に示すようなトレッドパターンを有するタイヤサイズ120/70ZR17M/Cのフロントタイヤ、および、
図3に示すようなトレッドパターンを有するタイヤサイズ190/55ZR17M/Cのリアタイヤについて、評価を行った。
【0052】
実施例1のフロントタイヤについては、以下の条件を満足するものとした。
サイプ付き主溝21:幅4mm、長さ74mm、深さ3.5mm。
サイプ付き主溝22:幅4mm、長さ18mm、深さ3mm。
サイプ付き主溝23:幅3mm、長さ37mm、深さ4mm。
連通サイプ31:車両直進時におけるタイヤ接地幅の2.6倍の長さ、幅1mm、深さ3.5mm。
連通サイプ32:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.6倍の長さ、幅1mm、深さ3.5mm。
連通サイプ33:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.7倍の長さ、幅1mm、深さ3mm。
連通サイプ34:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.8倍の長さ、幅1mm、深さ4mm。
単独サイプ35:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.9倍の長さ、幅1mm、深さ2.5mm。
連通サイプの比率:80%。
サイプの本数:主溝の本数の167%。
ネガティブ比:5%。
【0053】
実施例1のリアタイヤについては、以下の条件を満足するものとした。
サイプ付き主溝51:幅5mm、長さ147mm、深さ5mm。
サイプ付き主溝52:幅4mm、長さ60mm、深さ4.5mm。
サイプ付き主溝53:幅5mm、長さ85mm、深さ6mm。
サイプ付き主溝54:幅4mm、長さ78mm、深さ4mm。
連通サイプ61:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.7倍の長さ、幅1mm、深さ5mm。
連通サイプ62:車両直進時におけるタイヤ接地幅の2.6倍の長さ、幅1mm、深さ5mm。
連通サイプ63:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.6倍の長さ、幅1mm、深さ4.5mm。
連通サイプ64:車両直進時におけるタイヤ接地幅の1.2倍の長さ、幅1mm、深さ6mm。
連通サイプ65:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.4倍の長さ、幅1mm、深さ4mm。
連通サイプ66:車両直進時におけるタイヤ接地幅の1.4倍の長さ、幅1mm、深さ4mm。
単独サイプ67:車両直進時におけるタイヤ接地幅の0.7倍の長さ、幅1mm、深さ3.5mm。
連通サイプの比率:86%。
サイプの本数:主溝の本数の175%。
ネガティブ比:5%。
【0054】
(比較例1)
比較例1のタイヤについては、
図5に示すようなトレッドパターンをトレッド部111に有するタイヤサイズ120/70ZR17M/Cのフロントタイヤ110、および、
図6に示すようなトレッドパターンをトレッド部141に有するタイヤサイズ190/55ZR17M/Cのリアタイヤ140を用いた。
【0055】
比較例1のフロントタイヤについては、以下の条件を満足するものとした。
主溝121:幅4mm、長さ74mm、深さ3.5mm。
主溝122:幅3mm、長さ33mm、深さ2.5mm。
主溝123:幅4mm、長さ46mm、深さ3mm。
主溝124:幅4mm、長さ71mm、深さ4mm。
連通サイプ131:車両直進時におけるタイヤ接地幅の2.7倍の長さ、幅1mm、深さ0.3mm。
連通サイプの比率:100%。
サイプの本数:主溝の本数の25%。
ネガティブ比:8%。
【0056】
比較例1のリアタイヤについては、以下の条件を満足するものとした。
主溝151:幅5mm、長さ151mm、深さ5mm。
主溝152:幅4mm、長さ105mm、深さ4.5mm。
主溝153:幅5mm、長さ170mm、深さ6mm。
主溝154:幅4mm、長さ77mm、深さ4mm。
主溝155:幅3mm、長さ42mm、深さ3.5mm。
連通サイプ161:車両直進時におけるタイヤ接地幅の3.0倍の長さ、幅1mm、深さ0.3mm。
連通サイプ162:車両直進時におけるタイヤ接地幅の1.6倍の長さ、幅1mm、深さ0.3mm。
連通サイプの比率:100%。
サイプの本数:主溝の本数の40%。
ネガティブ比:7%。
【0057】
これら実施例1および比較例1のフロントタイヤおよびリアタイヤを車両に装着した場合のドライ路面での乗り心地性能およびウェット路面におけるブレーキ性能について、テストドライバーによる官能評価を行った。結果は、比較例1を基準100とする指数で示し、値が大きいほど走行性能が良好であるものとした。その結果について、下記の表1中に示す。
【0058】
【0059】
上記表中に示すとおり、所定の幅および長さを有する主溝に対し所定の深さおよび長さ条件を満足するサイプが連通している実施例のタイヤにおいては、この条件を満足しない比較例のタイヤと比べて、ウェット路面における走行性能とドライ路面における走行性能とがバランス良く得られていることが明らかである。
【0060】
また、実施例1および比較例1のフロントタイヤ(内圧250kPa、荷重1.3kN)およびリアタイヤ(内圧290kPa、荷重2kN)について、室内試験により操縦性の評価を行った。具体的には、キャンバー角(CA)が0°、15°および30°の条件での、スリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさを測定した。その結果を、
図7A~
図8Cに示す。すなわち、
図7AはフロントタイヤにおけるCAが0°の場合の結果を示し、
図7BはフロントタイヤにおけるCAが15°の場合の結果を示し、
図7CはフロントタイヤにおけるCAが30°の場合の結果を示す。また、
図8AはリアタイヤにおけるCAが0°の場合の結果を示し、
図8BはリアタイヤにおけるCAが15°の場合の結果を示し、
図8CはリアタイヤにおけるCAが30°の場合の結果を示す。
【0061】
図7A~
図8Cの結果から、キャンバー角(CA)が0°、15°および30°の条件のいずれにおいても、スリップ角(SA)に対して生ずる横力(CF)の大きさは、比較例1よりも実施例1において向上していることが確かめられた。特に、キャンバー角が小さいときに、十分な横力を得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0062】
1,5 カーカスプライ
2,6 ベルト層
3,7 ビードコア
4,8 ビードフィラー
10,40,110,140 二輪車用タイヤ
11,41,111,141 トレッド部
12,42 サイドウォール部
13,43 ビード部
21~23,51~54 サイプ付き主溝
31~34,61~66 連通サイプ
35,67 単独サイプ
121~124,151~155 主溝
131,161~162 連通サイプ