(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】センサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20220822BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20220822BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/41 325G
G01N27/41 325J
G01N27/419 327G
G01N27/419 327J
(21)【出願番号】P 2019077538
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 聡史
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 愛
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-049115(JP,A)
【文献】特開2004-323306(JP,A)
【文献】特開2017-211186(JP,A)
【文献】特開2010-286473(JP,A)
【文献】特開2015-007610(JP,A)
【文献】特開2010-261727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406 - 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延び、1対の電極と、前記軸線方向に延びて大気導入孔となる空隙を有するセラミック層と、該セラミック層の両面に前記空隙を覆うようにそれぞれ積層される第1層及び第2層と、を有し、前記電極の一方が前記空隙に連通する、板状のセンサ素子の製造方法であって、
焼成後に前記セラミック層となり、前記空隙に対応する部位に未焼成空隙を有する未焼成セラミックシートと、前記未焼成セラミックシートの面方向に見て前記未焼成空隙より小さい寸法で、前記未焼成セラミックシートと厚みが異なり、かつ前記軸線方向と直交する面において前記未焼成空隙の断面積と略同一の断面積を有する焼失材シートと、を準備する準備工程と、
前記未焼成セラミックシートの前記未焼成空隙に前記焼失材シートを配置する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記未焼成セラミックシートと前記焼失材シートとを同一厚みにプレスするプレス工程と、
前記プレス工程の後に、前記未焼成セラミックシートと前記焼失材シートとを焼成し、前記焼失材シートを焼失させると共に、前記未焼成セラミックシートを前記セラミック層として前記空隙を形成する焼成工程と、
を有するセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成空隙の周囲は、前記未焼成セラミックシートで閉塞されている請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記未焼成空隙は、前記軸線方向の先端又は後端が開口しており、
前記プレス工程にて、前記開口に向く前記焼失材シートの端部を閉塞する請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記プレス工程の後、前記軸線方向と直交する面において、前記未焼成空隙の断面積と前記焼失材シートの断面積とが略同一である請求項1~3のいずれか一項に記載のセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられ、大気導入孔となる空隙を有するセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素等)の濃度を検出するためのガスセンサが用いられている。このガスセンサとして、センサ素子を有し、センサ素子が複数のセラミック層を積層した板状であると共に、固体電解質体に配置された一対の電極を有し、そのうち基準電極が素子内部の空隙をなす大気導入孔に臨む構成が知られている(特許文献1参照)。
ところで、センサ素子内部の空隙である大気導入孔は、
図10に示すようにして形成することができる。まず、ベースとなる未焼成絶縁層1020x上に、センサ素子の軸線O方向の一端に開口するコ字状に切り欠かれた空隙を有する未焼成セラミックシート1010xを積層する。そして、未焼成セラミックシート1010の空隙に焼失性ペースト1100xを印刷して充填した後、未焼成セラミックシート1010x上に他の未焼成層1030xを積層し、全体を焼成する。これにより、焼失性ペースト1100xが焼失し、セラミックシート1010の空隙が大気導入孔となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-344351号公報(、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、焼失性ペースト1100xを一度に印刷できる厚みには限界があり、未焼成セラミックシート1010xの空隙に焼失性ペースト1100xを十分に充填することが困難である。又、焼失性ペースト1100xを重ね塗りすることは、印刷位置がずれる等の問題がある。このため、未焼成セラミックシート1010xの空隙の厚みに比べ、焼失性ペースト1100xの厚みが小さくなる。
この場合、
図11に示すように、各層1020、1010、1030の積層時や焼成時に、層1010の空隙をなす大気導入孔1010hの上の層1020が焼失性ペースト1100xで支持されずに厚み方向に変形し、大気導入孔1010hの断面を狭めてしまうことがある。そして、大気導入孔1010hの断面積が変化すると、基準電極に供給される酸素量も変化するので、センサの特性が安定しなくなってしまう。
このように、大気導入孔の断面積は、センサの特性に影響を及ぼすため、正確の所望の断面積の大気導入孔を形成する手法が要求されている。
【0005】
そこで、本発明は、センサ素子の電極が臨む空隙の形状を一定に保ち、センサの特性を安定化させることができるセンサ素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ素子の製造方法は、軸線方向に延び、1対の電極と、前記軸線方向に延びて大気導入孔となる空隙を有するセラミック層と、該セラミック層の両面に前記空隙を覆うようにそれぞれ積層される第1層及び第2層と、を有し、前記電極の一方が前記空隙に連通する、板状のセンサ素子の製造方法であって、焼成後に前記セラミック層となり、前記空隙に対応する部位に未焼成空隙を有する未焼成セラミックシートと、前記未焼成セラミックシートの面方向に見て前記未焼成空隙より小さい寸法で、前記未焼成セラミックシートと厚みが異なり、かつ前記軸線方向と直交する面において前記未焼成空隙の断面積と略同一の断面積を有する焼失材シートと、を準備する準備工程と、前記未焼成セラミックシートの前記未焼成空隙に前記焼失材シートを配置する配置工程と、前記配置工程の後に、前記未焼成セラミックシートと前記焼失材シートとを同一厚みにプレスするプレス工程と、前記プレス工程の後に、前記未焼成セラミックシートと前記焼失材シートとを焼成し、前記焼失材シートを焼失させると共に、前記未焼成セラミックシートを前記セラミック層として前記空隙を形成する焼成工程と、を有する。
【0007】
このセンサ素子の製造方法によれば、焼失材シートの断面積が未焼成空隙の断面積と略同一(両者の断面積の差が±25%以内)であるから、プレス工程で厚みが同一になった時点で未焼成空隙に焼失材シートが隙間なくぴったりと充填される。その結果、その後の焼成時に焼失材シートの上下の層が厚み方向に潰れて大気導入孔を狭めてしまうことを抑制でき、大気導入孔の形状を一定に保ってセンサの特性を安定化させることができる。
又、未焼成空隙に焼失材シートが隙間なくぴったりと充填されるから、プレス工程後の未焼成セラミックシートから焼失材シートが脱落することを抑制し、未焼成セラミックシート(及び焼失材シート)を他の層と積層して焼成する際のハンドリング性にも優れる。
さらに、未焼成空隙に焼失材ペーストを充填する場合、仮に未焼成空隙と同じ高さに焼失材ペーストを充填できたとしても、未焼成空隙の四隅まで焼失材ペーストが隙間なく充填されているかを確認する方法がなく、焼失材を安定して充填することは困難である。これに対し、本実施形態では、上述のように未焼成空隙と断面積を揃えた焼失材シートを配置してプレスすることで、未焼成空隙の四隅まで焼失材を確実に充填でき、確実に所望の断面積の大気導入孔を得ることができる。
【0008】
本発明のセンサ素子の製造方法において、前記未焼成空隙の周囲は、前記未焼成セラミックシートで閉塞されていてもよい。
このセンサ素子の製造方法によれば、未焼成空隙の周囲が未焼成セラミックシートで閉塞され、開口を持たないので、プレス工程で押さえ型等で開口を押さえなくとも、焼失材シートの材料が外側に流れることがない。
【0009】
本発明のセンサ素子の製造方法において、前記未焼成空隙は、前記軸線方向の先端又は後端が開口しており、前記プレス工程にて、前記開口に向く前記焼失材シートの端部を閉塞してもよい。
このセンサ素子の製造方法によれば、大気導入孔となる空隙に開口を通じて容易に基準大気を流入させることができる。
そして、押さえ型等で焼失材シートを閉塞しながらプレスするので、プレス圧でこの開口から焼失材シートの材料が外側に流れてしまうことを抑制し、未焼成空隙に焼失材シートをさらに隙間なくぴったりと充填することができる。
【0010】
本発明のセンサ素子の製造方法において、前記プレス工程の後、前記軸線方向と直交する面において、前記未焼成空隙の断面積と前記焼失材シートの断面積とが略同一であってもよい。
本発明のセンサ素子の製造方法では、上述のように焼失材シートの断面積が未焼成空隙の断面積と略同一(両者の断面積の差が±25%以内)であるから、プレス工程後も、両者の断面積が略同一(両者の断面積の差が±5%以内)となる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、センサ素子の電極が臨む空隙の形状を一定に保ち、センサの特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るセンサ素子の製造方法によって製造されたセンサ素子を備えたガスセンサ(酸素センサ)の軸線方向に沿う断面図である。
【
図4】プレス工程及び焼成工程を示す工程図である。
【
図5】プレス工程での未焼成セラミックシートと焼失材シートの厚み変化を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るセンサ素子の製造方法によって製造されたセンサ素子の模式分解斜視図である。
【
図7】第2の実施形態における準備工程及び配置工程を示す工程図である。
【
図8】第1の実施形態に係る実際のセンサ素子の軸線方向に垂直な面で切断した断面の顕微鏡像を示す図である。
【
図9】プレス工程にて、未焼成セラミックシートの上側が焼失材シートの上方に少し流入する場合を示す図である。
【
図10】従来のセンサ素子における大気導入孔の形成方法を示す図である。
【
図11】従来のセンサ素子においえ大気導入孔の断面が狭くなった状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るセンサ素子の製造方法によって製造されたセンサ素子10を備えたガスセンサ(酸素センサ)1の軸線O方向に沿う断面図、
図2はセンサ素子10の模式分解斜視図である。
【0014】
ガスセンサ1は、センサ素子10と主体金具20とを主に備える。センサ素子10は長尺板状の素子であり、被測定ガスである排ガス中の酸素濃度を測定するためのセンサセルを有している。センサ素子10は、センサセルが配置されている先端部10sと、リード線78、79と電気的に接続されるセンサ側電極パッド部14、15(15のみ図示)が配置されている後端部10kとを有する。センサ素子10は、先端部10sが主体金具20の先端側より突出し、後端部10kが主体金具20の後端側よりも突出した形態で、主体金具20によって保持されている。
【0015】
主体金具20は、センサ素子10を内部に保持する筒状をなし、主体金具20の先端側には金属製筒状の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が配置され、センサ素子10の先端部10sを覆っている。外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32は複数のガス導入孔31h、32hを有し、ガス導入孔31h、32hを通じて被測定ガスをセンサ素子10の先端部10sの周囲に導入する。
【0016】
主体金具20の内部には、センサ素子10の外周を取り囲む環状のセラミックホルダ21と、粉末充填層(以下、滑石リングともいう)22,23と、セラミックスリーブ24とが、この順に先端側から配置されている。セラミックホルダ21及び滑石リング22の外周には、金属ホルダ25が配置され、セラミックスリーブ24の後端側には加締めパッキン26が配置されている。そして、主体金具20の後端部27は、加締めパッキン26を介してセラミックスリーブ24を先端側に押圧するように加締められている。
【0017】
主体金具20の後端側には、センサ素子10の後端部10kを取り囲むように筒状の外筒51が配置されている。さらに、外筒51の内側には、セパレータ60が配置されている。セパレータ60は、センサ素子10の後端部10kを取り囲むと共に、4本のリード線78,79(
図1では2本のみ表示)を互いに離間して保持する。
セパレータ60は軸線O方向に貫通する挿入孔62を有し、挿入孔62にセンサ素子10の後端部10kが挿入されている。又、挿入孔62には4個の端子部材75,76が互いに離間して配置されており、それぞれセンサ素子10のセンサ側電極パッド部14、15及び図示しない2個のヒータ側電極パッド部16,17(17のみ図示)に電気的に接続されている。
一方、外筒51の後端側には、外筒51の後端開口部を閉塞するグロメット73が嵌合され、4本のリード線78,79がグロメット73の挿通孔を貫通して外部に引き出されている。なお、センサ素子10の後端部10kと外部の大気とは、図示しない連通路によって連通している。
【0018】
次に、
図2を参照してセンサ素子10の構成について説明する。
センサ素子10は厚さ方向(積層方向)に、
図2の上方から順に、第1セラミック層110、第2セラミック層120、第3セラミック層130、及びヒータ層140を積層してなる。各層110~140は、アルミナ等の絶縁性セラミックからなり、外形寸法(少なくとも幅及び長さ)の等しい矩形板状をなしている。
【0019】
第1セラミック層110は、保護層110aと、測定室層110bとを積層してなり、測定室層110bの先端側(
図2の左側)には測定室111が矩形状に開口している。又、測定室層110bの長辺側の両側面には、測定室111を外部と区画する多孔質拡散層113が配置されている。一方、測定室111の先端側と後端側には、測定室111の側壁をなすセラミック絶縁層115が配置されている。
測定室111は多孔質拡散層113を介して外部と連通しており、多孔質拡散層113は外部と測定室111との間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する。これにより、センサ素子10は限界電流式センサ素子を構成する。又、各多孔質拡散層113はセンサ素子10の長手方向(軸線O方向)に沿う両側壁を構成して外部に臨むようになっている。
【0020】
第2セラミック層120は、矩形板状の固体電解質体122を備えたセル層121と、固体電解質体122の表裏面にそれぞれ設けられた基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125とを備えている。セル層121の先端側(
図2の左側)には矩形状に開口する貫通部121hが設けられ、貫通部121hに埋め込まれるように固体電解質体122が配置されている。なお、基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125から後端側へ向かってリード部123L,125Lがそれぞれ伸びている。
固体電解質体122,基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125は、被測定ガス中の酸素濃度の検出セルを構成し、被測定ガス側電極125は測定室111に臨み、基準ガス側電極123は後述する大気導入孔(空隙)131に臨んで(連通して)いる。
【0021】
リード部123Lは、セル層121、測定室層110b及び保護層110aに設けられたスルーホールを介してセンサ側電極パッド部14と電気的に接続されている。又、リード部125Lは、測定室層110b及び保護層110aに設けられたスルーホールを介してセンサ側電極パッド部15と電気的に接続されている。
そして、基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125の検出信号が、センサ側電極パッド部14,15から2本のリード線79を介して外部に出力され、酸素濃度が検出される。
【0022】
第3セラミック層130は、先端側(
図2の左側)から後端側へ向かって大気導入孔131が平面視コの状に開口する枠体をなしている。従って、大気導入孔131は後端側の面(
図2の右側の面)に開口して外部と連通している。
【0023】
ヒータ層140は、第1層140a、第2層140b、及び第1層140aと第2層140bの間に配置される発熱体141を備えている。第1層140aは第3セラミック層130と対向している。発熱体141は、蛇行状のパターンを有する発熱部141m、及び発熱部141mの両端から後端側に延びる2つのリード部141Lを備えている。
各リード部141Lは、第2層140bに設けられたスルーホールを介してヒータ側電極パッド部16,17と電気的に接続されている。そして、2本のリード線78を介してヒータ側電極パッド部16,17から発熱体141に通電することで、発熱体141が発熱し、固体電解質体122を活性化する。
【0024】
固体電解質体122は、例えばジルコニア(ZrO2)に安定化剤としてイットリア(Y2O3)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成することができる。
【0025】
基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125、発熱体141、センサ側電極パッド部14,15、ヒータ側電極パッド部16,17は、白金族元素で形成することができる。これらを形成する好適な白金族元素としては、Pt、Rh、Pd等を挙げることができ、これらはその一種を単独で使用することもできるし、又二種以上を併用することもできる。
【0026】
ここで、第3セラミック層130が特許請求の範囲の「セラミック層」に相当する。第2セラミック層120、ヒータ層140がそれぞれ特許請求の範囲の「第1層」、「第2層」に相当する。基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125が特許請求の範囲の「1対の電極」に相当し、そのうち基準ガス側電極123が特許請求の範囲の「電極の一方」に相当する。
なお、「セラミック層」とは、層の構成成分のうち、セラミックの合計割合が50質量%を超えることをいう。
【0027】
次に、
図3~
図5を参照し、本発明の第1の実施形態に係るセンサ素子の製造方法について説明する。
図3は、準備工程及び配置工程を示す工程図、
図4は、プレス工程及び焼成工程を示す工程図、
図5は、プレス工程での未焼成セラミックシートと焼失材シートの厚み変化を示す図である。
まず、
図3(a)に示すように、焼成後に第3セラミック層130となり、大気導入孔(空隙)131に対応する部位が取り除かれて未焼成空隙131xを形成する未焼成セラミックシート130xと、焼失材シート135xと、を準備する(準備工程)。焼失材シート135xは例えば焼失性のカーボンペースト(カーボン粒子と、有機樹脂のペースト剤)等から形成することができる。
未焼成セラミックシート130xは、先端側(
図3の左側)から後端側へ向かって未焼成空隙131xが平面視コの状に開口する枠体をなしている。
焼失材シート135xは、未焼成セラミックシート130xの面方向に見て未焼成空隙131xより小さい寸法であり、未焼成空隙131xの内部に焼失材シート135xを収容可能になっている。又、焼失材シート135xは未焼成セラミックシート130xと厚みが異なり、かつ軸線O方向と直交する面において、焼失材シート135xの断面積S2が未焼成空隙131xの断面積S1と略同一(両者の断面積の差が±25%以内)である。
【0028】
次に、
図3(b)に示すように、例えば基台502上で、未焼成セラミックシート130xの未焼成空隙131xに焼失材シート135xを収容(配置)する(配置工程)。
次に、
図4(c)に示すように、例えば上型504を未焼成セラミックシート130xと焼失材シート135xの上から基台502に向かって押圧し、未焼成セラミックシート130xと焼失材シート135xとを同一厚みにプレスする(プレス工程)。
その後、
図4(d)に示すように、プレス後の焼失材シート135yが配置された未焼成セラミックシート130yを基台502から取り出して他の層120x、140x(それぞれ
図2の第2セラミック層120、ヒータ層140の未焼成シート)と積層し、積層体全体を焼成し、焼失材シート135xを焼失させると共に、未焼成セラミックシート130xを第3セラミック層130にさせて大気導入孔(空隙)131を形成する(焼成工程)。
なお、未焼成セラミックシート、未焼成空隙、焼失材シートの符号をそれぞれプレス前後でx、yとして区別する。
【0029】
ここで、
図5(a)に示すように、プレス前の焼失材シート135xの厚みt2は未焼成セラミックシート130xの厚みt1より厚く、
図5(b)に示すプレス工程で焼失材シート135yと未焼成セラミックシート130yの厚みが同一となる。
このとき、プレス前の焼失材シート135xの断面積S2が未焼成空隙131xの断面積S1と略同一であるから、厚みが同一になった時点で未焼成空隙131yに焼失材シート135yが隙間なくぴったりと充填される。その結果、その後の焼成時に焼失材シート135yの上下の層が厚み方向に潰れて大気導入孔131を狭めてしまうことを抑制でき、大気導入孔131の形状を一定に保ってセンサの特性を安定化させることができ、確実に所望の断面積の大気導入孔を得ることができる。
【0030】
又、未焼成空隙131yに焼失材シート135yが隙間なくぴったりと充填されるから、プレス工程後の未焼成セラミックシート130yから焼失材シート135yが脱落することを抑制し、
図4(d)に示すように、未焼成セラミックシート130y(及び焼失材シート135y)を他の層120x、140xと積層して焼成する際のハンドリング性にも優れる。
さらに、従来のように未焼成空隙131xに焼失材ペーストを充填する場合、仮に未焼成空隙131xと同じ高さに焼失材ペーストを充填できたとしても、未焼成空隙131xの四隅まで焼失材ペーストが隙間なく充填されているかを確認する方法がなく、焼失材を安定して充填することは困難である。これに対し、本実施形態では、上述のように未焼成空隙131xと断面積を揃えた焼失材シート135xを配置してプレスすることで、未焼成空隙131yの四隅まで焼失材を確実に充填できる。
【0031】
そして、上述のようにプレス前の焼失材シート135xの断面積S2が未焼成空隙131xの断面積S1と略同一(両者の断面積の差が±25%以内)であるから、プレス工程後も、両者の断面積が略同一(両者の断面積の差が±5%以内)となり、未焼成空隙131yに焼失材シート135yが隙間なくぴったりと充填されることになる。
なお、仮にS2とS1が略同一でなく、S2>S1の場合、焼失材シート135xの厚みが未焼成セラミックシート130の厚みに比べて過度に厚いことになる。そうすると、プレス工程時、焼失材シート135xの材料が、未焼成空隙131xを埋めるに要する材料に比べて余り過ぎ、未焼成セラミックシート130xの上下面にはみ出す等の不具合が生じる。
逆に、S1<S2の場合、プレス工程時、未焼成セラミックシート130xの材料が余り過ぎ、焼失材シート135xの上下面にはみ出す等の不具合が生じる。
【0032】
なお、
図4(c)のプレス工程において、未焼成空隙131xの開口(
図4(c)の右側)に向く焼失材シート135xの端部を、押さえ型506等で閉塞しながら(押さえながら)プレスすると、プレス圧でこの開口から焼失材シート135yの材料が外側に流れてしまうことを抑制し、未焼成空隙131yに焼失材シート135yをさらに隙間なくぴったりと充填することができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施形態に係るセンサ素子の製造方法について説明する。まず、本発明の第2の実施形態に係るセンサ素子の製造方法によって製造されたセンサ素子10Bの構成について、
図6を参照して説明する。
図6はセンサ素子10Bの模式分解斜視図である。なお、
図6において、第1の実施形態に係るセンサ素子10と同一の構成部分は
図2と同一符号を付して説明を省略する。ここで、例えば
図2の被測定ガス側電極125と、
図6の被測定ガス側電極125とは形状が若干異なるが、機能としては同一であるので、同一とみなす。
【0034】
図6のセンサ素子10Bにおいては、第3セラミック層230は、大気導入孔231が軸線O方向に延びているが、周囲を第3セラミック層230で閉塞され、開口を有しない。又、大気導入孔231の先端側(
図6の左側)は、基準ガス側電極123に対向し、基準ガス側電極123よりわずかに小さい寸法の矩形部232として大気導入孔231よりも広幅になっている。
矩形部232は大気導入孔231と連通しており、本発明では空隙として大気導入孔231と連通していれば、大気導入孔231の一部とみなす。
又、センサ素子10Bにおいては、第2セラミック層120を構成する固体電解質体122は
図2の素子のようにセル層121への埋め込みタイプではなく、素子10Bと平面視同一寸法の単一層となっている。
又、センサ素子10Bにおいては、
図2の素子10のような測定室111を持たず、被測定ガス側電極125のうち固体電解質体122と反対側の面が多孔質保護層152で覆われ、多孔質保護層152を介して外部の被測定ガスが被測定ガス側電極125へ流れるようになっている。なお、保護層152は矩形孔を有する絶縁層150に埋め込まれており、絶縁層150は第2セラミック層120を覆っている。
【0035】
ここで、センサ素子10Bにおいては、大気導入孔231(及び矩形部232)は、周囲を第3セラミック層230で閉塞されている。そして、大気導入孔231の後端部(
図6の右側)と積層方向に重なる固体電解質体122及び絶縁層150にはそれぞれスルーホール122h、150hが形成されている。従って、大気導入孔231はスルーホール122h、150hに連通し、スルーホール122h、150hを介して積層方向から基準大気が大気導入孔231に流れるようになっている。
【0036】
次に、
図7を参照し、本発明の第2の実施形態に係るセンサ素子の製造方法について説明する。
図7は、準備工程及び配置工程を示す工程図である。
【0037】
まず、
図7(a)に示すように、焼成後に第3セラミック層230となり、大気導入孔(空隙)231、232に対応する部位が取り除かれて未焼成空隙231x,232xを形成する未焼成セラミックシート230xと、焼失材シート235xと、を準備する(準備工程)。
未焼成セラミックシート230xは、先端側(
図3の左側)から後端側へ向かって矩形の未焼成空隙232xと、未焼成空隙232xより狭幅で短冊状の未焼成空隙131xとが一体に形成され、周囲が未焼成セラミックシート230xで閉塞される枠体をなしている。
焼失材シート235xは、未焼成セラミックシート230xの面方向に見て未焼成空隙231x,232xより小さい寸法であり、未焼成空隙231x,232xの内部に焼失材シート235xを収容可能になっている。又、焼失材シート235xは未焼成セラミックシート130xと厚みが異なり、かつ軸線O方向と直交する面において、焼失材シート235xの後端側の断面積S2が未焼成空隙231xの断面積S1と略同一であると共に、焼失材シート235xの先端側の断面積S4が未焼成空隙232xの断面積S3と略同一である。
なお、「略同一」とは、第1の実施形態と同様、断面積S1とS2の差が±25%以内、かつ断面積S3とS4の差が±25%以内であることをいう。
【0038】
図7(b)に示すように、基台502上で、未焼成セラミックシート230xの未焼成空隙231xに、焼失材シート235xを配置し、そして、図示を省略するが、
図4、
図5と同様に第2の実施形態においても、プレス工程を経ることで焼失材シート235xと未焼成セラミックシート230xの厚みが同一となるが、焼失材シート235xの断面積S2が未焼成空隙231xの断面積S1と略同一で、焼失材シート235xの断面積S4が未焼成空隙232xの断面積S3と略同一であるから、未焼成空隙231x,232xに焼失材シート235xが隙間なくぴったりと充填され、大気導入孔231(232)の形状を一定に保ってセンサの特性を安定化させることができる。
その後、第1の実施形態と同様にして焼成工程を行えばよい。
なお、第2の実施形態においては、未焼成空隙231x、232xの周囲が未焼成セラミックシート230xで閉塞され、開口を持たないので、プレス工程で
図4(c)のような押さえ型506で押さなくとも、焼失材シート235xの材料が外側に流れることがない。
また、プレス工程の後に「略同一」とは、第1の実施形態と同様、プレス後の断面積S1とS2の差が±5%以内、かつ断面積S3とS4の差が±5%以内であることをいう。
【0039】
図8は、
図2の第1の実施形態に係る実際のセンサ素子10の軸線O方向に垂直な面で切断した断面の顕微鏡像を示す図である。大気導入孔131が潰れずに形状を一定に保っていることがわかる。
なお、
図8の大気導入孔131の下側に、大気導入孔131から外側に向かって広がる凹部131rが両側面に形成されているが、これは、
図5(b)に示すように、プレス工程にて、焼失材シート135xが未焼成セラミックシート130xの下側に少し流入したためと考えられる。
ただし、凹部131rの断面積は、大気導入孔131の断面積に比べて無視できるほど小さいので、大気導入孔131の断面積(形状)に影響を与えるほどではない。
又、
図9に示すように、プレス工程にて、未焼成セラミックシート130yの上側が焼失材シート135yの上方に少し流入する場合もある。この場合は、大気導入孔131の上側に、大気導入孔131の内側に向かって出っ張る突部130pが両側面に形成されることになる。この突部130pの断面積も、大気導入孔131の断面積に比べて無視できるほど小さい。
【0040】
本発明は上記実施形態に限定されず、大気導入孔を有するあらゆるガスセンサ(センサ素子)に適用可能であり、本実施の形態の酸素センサ(酸素センサ素子)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、被測定ガス中のNOx濃度を検出するNOxセンサ(NOxセンサ素子)や、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。
また、大気導入孔の形状や寸法も限定されない。但し、大気導入孔が開口を持つ場合、その開口は未焼成セラミックシートの1か所のみとする。これは、開口が未焼成セラミックシートの2か所に存在すると、シートが2つ以上にバラバラに分割されてしまうからである。
【0041】
未焼成セラミックシートと焼失材シートの厚みの大小も制限はなく、焼失材シートの方が薄くてもよい。この場合、プレスにより、未焼成セラミックシートの厚みが減じられ、その未焼成空隙の内寸が焼失材シートに向かって縮められ、焼失材シートがぴったりと未焼成空隙に嵌まることになる。
【符号の説明】
【0042】
10、10B センサ素子
120 第1層
123、125 1対の電極
123 電極の一方
130,230 セラミック層
131、231、232 大気導入孔(空隙)
130x,230x 未焼成セラミックシート
131x、231x、232x 未焼成空隙
135x、235x 焼失材シート
140 第2層
O 軸線