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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-19
(45)【発行日】2022-08-29
(54)【発明の名称】ラジアスエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019191268
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021065949
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】清水 和也
(72)【発明者】
【氏名】古塩 純一
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 英樹
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02562165(GB,A)
【文献】欧州特許出願公開第2848342(EP,A1)
【文献】特開2003-285218(JP,A)
【文献】特開2003-275918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底刃と、この底刃の外周側に連設形成されるコーナR刃と、このコーナR刃に連設形成される外周刃とを備えるラジアスエンドミルであって、前記コーナR刃に沿って該コーナR刃が切削した切削面に摺接するコーナR摺接面が連設され、さらに、前記底刃に沿って該底刃が切削した切削面に摺接する底摺接面が連設され、この底摺接面は、前記コーナR摺接面に連設され、さらに、底刃直角方向の面幅の最大寸法が0.02mm未満で、且つ、前記コーナR摺接面との境界位置から工具中心側端部までの長さが前記底刃の全長の4%以上に設定され、また、前記コーナR摺接面は外周側から工具中心側に向かって面幅が狭くなっていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項2】
請求項1記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底摺接面はコーナR刃側から工具中心側に向かって面幅が狭くなっていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項3】
請求項2記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底摺接面は平面視略三角形状に形成されていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記コーナR摺接面のコーナR刃直角方向の面幅は0.004mm以上、且つ、工具外径の25%以下に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項5】
請求項1~いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周刃に沿って該外周刃が切削した切削面に摺接する外周摺接面が連設されていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項6】
請求項記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周摺接面の面幅は前記底摺接面の面幅に比して幅広に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項7】
請求項5,6いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周摺接面の外周刃直角方向の面幅は0.02mm以上で工具外径の25%以下に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【請求項8】
請求項1~いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底刃はすかし角αの第一すかし角領域部及びすかし角β(α<β)の第二すかし角領域部を有し、前記底摺接面は前記第一すかし角領域部に設けられていることを特徴とするラジアスエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアスエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジアスエンドミルは、底刃と外周刃との境界角部に円弧状のコーナR刃を備え、このコーナR刃を用いてボールエンドミルのように曲面加工や傾斜面加工を行うことができ、しかも、底刃・外周刃による平面・側面加工も行えることから、荒取り、中仕上げ、最終仕上げなど多様な加工に用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-216609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように最終仕上げ加工で用いられるものであっても、切削加工後は、切削面に切削痕(カッターマーク)が生じてしまう。そのため、ラジアスエンドミルを用いた切削加工後でも、研磨加工による切削痕の除去が必要となる場合があり、この研磨加工分の工数が余計にかかっているのが現状である。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、切削加工後に切削痕の目立たない、光沢のある加工面を得られ、研磨加工の工数を低減できるラジアスエンドミルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
底刃1と、この底刃1の外周側に連設形成されるコーナR刃2と、このコーナR刃2に連設形成される外周刃3とを備えるラジアスエンドミルであって、前記コーナR刃2に沿って該コーナR刃2が切削した切削面に摺接するコーナR摺接面5が連設され、さらに、前記底刃1に沿って該底刃1が切削した切削面に摺接する底摺接面4が連設され、この底摺接面4は、前記コーナR摺接面5に連設され、さらに、底刃直角方向の面幅の最大寸法が0.02mm未満で、且つ、前記コーナR摺接面5との境界位置から工具中心側端部までの長さが前記底刃1の全長の4%以上に設定され、また、前記コーナR摺接面5は外周側から工具中心側に向かって面幅が狭くなっていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0008】
また、請求項1記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底摺接面4はコーナR刃側から工具中心側に向かって面幅が狭くなっていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0009】
また、請求項2記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底摺接面4は平面視略三角形状に形成されていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0010】
また、請求項1~3いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記コーナR摺接面5のコーナR刃直角方向の面幅は0.004mm以上、且つ、工具外径の25%以下に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0011】
また、請求項1~いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周刃3に沿って該外周刃3が切削した切削面に摺接する外周摺接面6が連設されていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0012】
また、請求項記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周摺接面6の面幅は前記底摺接面4の面幅に比して幅広に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0013】
また、請求項5,6いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記外周摺接面6の外周刃直角方向の面幅は0.02mm以上で工具外径の25%以下に設定されていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【0014】
また、請求項1~いずれか1項に記載のラジアスエンドミルにおいて、前記底刃1はすかし角αの第一すかし角領域部7及びすかし角β(α<β)の第二すかし角領域部8を有し、前記底摺接面4は前記第一すかし角領域部7に設けられていることを特徴とするラジアスエンドミルに係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、コーナR刃により切削された加工面の表面粗さが小さく、切削痕が目立たない光沢のある加工面を得ることができ、したがって、研磨加工の工数が低減され、生産性が向上する実用的なラジアスエンドミルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施例の刃部を示す概略説明斜視図である。
図2】本実施例の刃部を示す概略説明図(平面図、左側面図及び正面図)である。
図3】本実施例と従来品の底刃による加工面の表面状態を比較した結果を示す写真である。
図4】本実施例と従来品の底刃による加工面の表面粗さを比較した結果を示すグラフである。
図5】本実施例と従来品の底刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表である。
図6】本実施例と従来仕様の底刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す写真である。
図7】本実施例と従来仕様の底刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表である。
図8】本実施例と従来品の外周刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表及び写真である。
図9】本実施例と従来品の外周刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表である。
図10】コーナR刃で傾斜面を加工する場合のコーナR刃における加工位置の説明図である。
図11】本実施例と従来品のコーナR刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表及び写真である。
図12】本実施例と従来品のコーナR刃による加工面の表面状態を比較した実験結果を示す表である。
図13】本実施例と従来品のコーナR刃による加工面(15°傾斜面)の表面粗さを比較した結果を示すグラフである。
図14】各刃及び各摺接面で加工される加工面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0018】
本発明は、コーナR刃2の工具回転方向後方に、このコーナR刃2に沿ってコーナR摺接面5が設けられているから、コーナR刃2が切削した切削面(コーナR刃切削面)にコーナR摺接面5が摺接する(切削面をコーナR摺接面5が擦る。)。このコーナR摺接面5の摺接作用(擦り作用)によりコーナR刃切削面の表面粗さが小さく切削痕が目立たない光沢のある加工面を得ることができる。
【0019】
このように、本発明は、コーナR摺接面5の摺接作用によりコーナR刃切削面に切削痕が目立たず、光沢のある加工面を得られるため、研磨加工に掛かる工数を低減することができ生産性が向上する実用的なラジアスエンドミルとなる。
【実施例
【0020】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施例は、底刃1と、この底刃1の外周側に連設形成されるコーナR刃2と、このコーナR刃2に連設形成される外周刃3とを備えるラジアスエンドミルであって、コーナR刃2に沿ってこのコーナR刃2が切削した直後の切削面に摺接するコーナR摺接面5が連設されているものである。
【0022】
また、本実施例は、さらに底刃1に沿ってこの底刃1が切削した直後の切削面に摺接する底摺接面4が連設され、外周刃3に沿ってこの外周刃3が切削した直後の切削面に摺接する外周摺接面6が連設されているものである。
【0023】
具体的には、コーナR刃2、底刃1、及び外周刃3の各刃の工具回転方向後方に夫々対応する、コーナR摺接面5、底摺接面4、及び外周摺接面6が連設されているものである。
【0024】
すなわち、本実施例は、底刃1と、この底刃1の外周側に連設形成されるコーナR刃2と、このコーナR刃2に連設形成される外周刃3とを備え、底刃1に沿ってこの底刃1が切削した直後の切削面に摺接する底摺接面4が連設され、コーナR刃2に沿ってこのコーナR刃2が切削した直後の切削面に摺接するコーナR摺接面5が連設され、外周刃3に沿ってこの外周刃3が切削した直後の切削面に摺接する外周摺接面6が連設され、各刃が切削した切削面を夫々の刃に連設されている摺接面の摺接作用によるバニシング効果で切削加工時の切削痕の発生が抑えられ、光沢のある加工面が得られるように構成されているラジアスエンドミルである。
【0025】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0026】
本実施例は、超硬合金素材で形成されるシャンク部(図示省略)の先端に首部(図示省略)を介して刃部10が設けられた構成であり、刃部10は高硬度素材加工に適したcBN(立方晶窒化ホウ素)素材で形成されている。
【0027】
図1図2に基づいて具体的に説明すると、刃部10は、図示するように、切れ刃9が一枚設けられた一枚刃に構成され、切れ刃9は、底刃1と、この底刃1の外周側に連設形成されるコーナR刃2と、工具回転軸Cに平行にしてコーナR刃2に連設形成される外周刃3とにより形成されている。
【0028】
すなわち、外周刃3は、直刃の構成とされていて、且つこの外周刃3の回転軌跡が円筒状となるストレート刃の構成とされている。
【0029】
なお、刃部10の素材は本実施例に示すcBNに限らず他の素材、例えばシャンク部と同様の超硬合金製としても良く、また、刃部10の構成は本実施例に示す一枚刃に限らず、二枚刃、四枚刃など複数の切れ刃を有する構成としても良い。また、外周刃3は直刃ではなく工具回転軸周りに螺旋状に形成されるねじれ刃であっても良いし、外周刃3の回転軌跡が円筒状となるストレート刃ではなく、テーパ状(円錐状)となるテーパ刃の構成としても良い。
【0030】
また、従来のラジアスエンドミルの切れ刃は、すくい面と逃げ面により形成されているが、本実施例の切れ刃9、すなわち、後述する第一すかし角領域部7及び第二すかし角領域部8からなる底刃1、コーナR刃2及び外周刃3は、夫々、図示するように、すくい面11とこのすくい面11と逃げ面12との間に設けられる摺接面により形成されている。
【0031】
具体的には、底刃1はすくい面11と底摺接面4及び逃げ面12により形成され、コーナR刃2はすくい面11とコーナR摺接面5により形成され、外周刃3はすくい面11と外周摺接面6により形成されている。したがって、本実施例においては、逃げ面12は、図示するように、各摺接面の工具回転方向後方に連設形成されており、底刃1にして第二すかし角領域部8においては、底摺接面4を設けずにすくい面11と逃げ面12とを交差させている。図中、工具回転方向を符号Tを添えた矢印で示している。なお、本実施例では、底刃1(第二すかし角領域部8、底摺接面4)、コーナR刃2(コーナR摺接面5)及び外周刃3(外周摺接面6)に夫々対応する逃げ面をまとめて「逃げ面12」と称しているが、これら逃げ面をつなぎ目なく平面と曲面を含む一面で形成しても良いし、夫々に対応する逃げ面を別個に設けても良い。具体的には、底刃1の第二すかし角領域部8に対応する逃げ面と底摺接面4に対応する逃げ面を夫々設けて多面状にし、底摺接面4に対応する逃げ面に連設するようにコーナR刃2(コーナR摺接面5)に対応する逃げ面を設け、コーナR刃2(コーナR摺接面5)に対応する逃げ面に連設するように外周刃3(外周摺接面6)に対応する逃げ面を設けても良い。
【0032】
また、底刃1は、第二すかし角領域部8を設けず、第一すかし角領域部7に設けられる底摺接面4とすくい面11とにより形成される構成としても良い。
【0033】
本実施例は、図示するように、すくい面11が工具軸直角方向に対して直交する垂直面に形成されているが、例えばすくい面の上部側にチャンファー面を設け、すくい角が負角となるすくい面に形成しても良いし、正角となるすくい面に形成しても良く、適宜に設定できる。
【0034】
本実施例の摺接面について具体的に説明すると、底刃1を形成する底摺接面4は、面幅t1が0.02mm未満に設定され、工具回転方向後方に向かって傾斜しない、所謂逃げ角が0°となるように形成されている。
【0035】
すなわち、底摺接面4は、底刃1にして底摺接面4とすくい面11とが交差する交差稜線の工具回転軸周りの回転軌跡に沿った平面に形成されている(面幅t1が0.02mm以上になると切削抵抗及び切削熱・摩擦熱が過大となり、切削痕の発生や工具への溶着の発生により底刃切削面の光沢性が損なわれるため。)。
【0036】
また、底摺接面4は、後述するコーナR摺接面5と連設形成され、平面視での底刃1に沿った方向において、このコーナR摺接面5との境界位置から底摺接面4の工具中心側端部までの長さが、底刃1(=第一すかし角領域部7+第二すかし角領域部8)の長さ(底刃全長)の4%以上の長さに設定されている(4%未満では底摺接面4による摺接作用が十分に発揮されない。)。
【0037】
具体的には、本実施例の底刃1は、工具中心側に向かって工具基端側へ下り傾斜するすかし角αの第一すかし角領域部7(コーナR刃側)と該すかし角αよりも大きい角度であるすかし角β(α<β)の第二すかし角領域部8(工具中心側)とを有し、底摺接面4はコーナR刃側に位置する第一すかし角領域部7にのみ形成されている。
【0038】
また、本実施例の底摺接面4は、コーナR摺接面5側から工具中心側に向かって徐々に面幅が狭くなっており、図示するように、平面視形状が略三角形を呈する形状になっている。
【0039】
この底摺接面4の平面視形状は、底刃1の工具回転方向後方に一部、底摺接面4に連設して形成される逃げ面12の設け方によって適宜設定できるものである。
【0040】
すなわち、本実施例の底摺接面4は、コーナR摺接面5との境界位置において面幅t1が最大寸法(0.02mm未満)に設定され、そこから工具中心側に向かって徐々に面幅が狭まり、第一すかし角領域部7と第二すかし角領域部8との境界位置において面幅が最小値になり、第二すかし角領域部8においては存在しない(形成されていない)構成になるように逃げ面12が設けられている。したがって、本実施例の底刃1は、第一すかし角領域部7においては底摺接面4が設けられてすくい面11と交差することにより形成され、第二すかし角領域部8においては、従来のラジアスエンドミルと同様、すくい面11と逃げ面12により形成されている。
【0041】
なお、底摺接面4の形状は上記実施例の略三角形状ではなく、底刃1に沿ってコーナR摺接面5側から工具中心側に向かって面幅が変わらない、平面視形状が略四角形を呈する形状(帯形状)であっても良い。このような場合は、具体的には、すかし角αをなす底摺接面4が、コーナR摺接面5との境界位置において面幅t1が最大寸法(0.02mm未満)に設定され、そこから工具中心側に向かって面幅が変わらないように、底刃1の第一すかし角領域部7に対応する(底摺接面4の工具回転方向後方に連設する)逃げ面を所望の逃げ角で形成し、第二すかし角領域部8に対応する逃げ面を、すかし角β(α<β)且つ所望の逃げ角ですくい面11と交差するように設けることで、平面視形状が略四角形を呈する形状(帯形状)の底摺接面4を形成することができる。このため、底刃1に対応する逃げ面は、第一すかし角領域部7に対応する逃げ面と第二すかし角領域部8に対応する逃げ面との境界部に、これら逃げ面同士の交差稜線が形成される2面形状となる。
【0042】
底摺接面4を上記のように構成すること、すなわち、底摺接面4の摺接領域(摺接面積)を小さくすることで、底摺接面4が底刃1の切削加工面を摺接する際に生じる切削抵抗や切削熱・摩擦熱が低減され、底刃1による切削加工面において切削痕の発生が抑えられ、光沢のある加工面を得ることができる。更に、底摺接面4がコーナR摺接面5側から工具中心側に向かって徐々に面幅が狭くなる平面視形状が略三角形を呈する形状においては、一層良好な加工面を得ることができる。これは、切削加工時に所定の回転数で工具を回転させた際、切削速度(周速)は工具外周側より工具中心側の方が低速となり、工具外周側と比較して十分な切削性が得られず、そのうえで工具中心側の底摺接面4の面幅を工具外周側(コーナR摺接面側)の面幅と同等にすると、切削抵抗を高める要因となって良好な加工面を得られないからである。このため底摺接面4は、コーナR摺接面5側から工具中心側に向かって徐々に面幅が狭くなる平面視形状が略三角形を呈する形状としたり、底摺接面4の長さを適宜の長さに設定するなど、適宜に設定することが望ましい。
【0043】
なお、底摺接面4は、前述のとおり長さは底刃1の長さに依存し適宜な長さに設定することが可能であるが、面幅については工具外径に依存せず、常に0.02mm未満に設定されるものとする。
【0044】
一般的な3軸マシニングセンターでラジアスエンドミルを使用する場合、底刃で底面、コーナR刃で傾斜面・隅R面・曲面、外周刃で側面(立壁面)の加工を行うことになる。工具が回転していることでコーナR刃、外周刃は被削材に対して断続的な接触となるが、底刃で加工する場合は工具が回転しても底刃と被削材が常時接触しており、切削熱・摩擦熱及び切削抵抗による負荷が刃先に作用し続け、溶着や刃先損傷を引き起こして加工面が荒れやすい。
【0045】
摺接面を設ける場合も断続接触となるコーナR刃、外周刃は刃先が被削材から離れてクーラントによる冷却がなされるために摺接面の幅に広がりを持たせることが出来るが、常時接触の底刃は摺接面の幅を広くすると溶着・刃先損傷のリスクが高まるため、微小面幅とする必要がある。
【0046】
なお、コーナR刃や外周刃が被削材に接触している時間は工具外径と回転数の組み合わせで決まる周速や、切込み量によって変化させることが出来るが、底刃の接触時間は工具外径によって変化することはなく、底摺接面幅も工具外径によらず微小面幅の0.02mm未満が望ましい。
【0047】
また、外周刃3を形成する外周摺接面6は、前述した底刃1よりも面幅が幅広に設定され、外周刃3の工具回転軸周りの回転軌跡に沿った円筒面に形成されている。
【0048】
具体的には、外周摺接面6は、外周刃直角方向(外周刃3の刃直角方向)の面幅t2が0.02mm以上、工具外径の25%以下に設定され、図示するように、帯形状に形成されている。面幅t2が0.02mm未満では外周摺接面による摺接効果が十分に発揮されず、工具外径の25%を超えると加工面のむしれや工具への切りくず溶着につながり光沢のある加工面を得られない。
【0049】
すなわち、前述した底刃1の底摺接面4は、切削加工時に被削材と常時接触するため、摺接面積が大きいと切削抵抗及び切削熱・摩擦熱が過大になり切削面が荒れたり溶着が生じたりするおそれがあることから摺接面積を小さくすべく前述のような構成とされるのに対し、外周摺接面6や後述するコーナR摺接面5は、被削材に断続的に接触することとなるため、上記のような不具合は生じず、ゆえに底摺接面4よりも面幅を幅広に設定し摺接面積を大きくし、一回の接触における切削面(加工面)への摺接作用を十分に確保して(接触時間を長くし)、バニシング効果が良好に発揮されるように構成されている。
【0050】
また、コーナR刃2を形成するコーナR摺接面5は、前述した底摺接面4と外周摺接面6との間に、一端が底摺接面4と接し他端が外周摺接面6と接するようにしてコーナR刃2の工具回転軸周りの回転軌跡に沿った曲面に形成されている。
【0051】
具体的には、本実施例のコーナR摺接面5は、図示するように、外周側から工具中心側に向かってコーナR刃直角方向(コーナR刃2の刃直角方向)の面幅が狭くなっている。言い換えると、外周摺接面6との境界位置における面幅が最も幅広(外周摺接面6の面幅t2と同幅、すなわち、0.02mm以上で工具外径の25%以下)に設定され、そこから底摺接面4側に向かうに連れて面幅が狭まり、底摺接面4との境界位置における面幅が最も幅狭(底摺接面4のコーナR摺接面側端部(境界位置)における面幅t1と同幅、すなわち、0.02mm未満)に設定され、底摺接面4及び外周摺接面6と連続した摺接面を形成するように構成されている。なお、前記コーナR摺接面5の面幅は、底摺接面4のコーナR摺接面側端部(境界位置)における底摺接面4の面幅t1以上であり、且つ外周摺接面6との境界位置における外周摺接面6の面幅t2以下であれば良く、例えば、外周側から工具中心側に向かって等幅に形成されていても良いし、面幅が広くなっていても良い。すなわち、コーナR摺接面5の面幅は、前記所定の面幅寸法を満たしていれば、外周側から工具中心側に向かって幅広・幅狭を繰り返す仕様に形成されていても良い。
【0052】
本実施例は上述のように構成したから、切削加工において、底刃1、コーナR刃2及び外周刃3が切削した切削面(加工面)が夫々底摺接面4、コーナR摺接面5及び外周摺接面6により擦られ、この各摺接面が切削面を擦ることで切削面の表面粗さが小さく、切削痕が目立たない光沢のある加工面を得ることができる。
【0053】
しかも、本実施例は、底摺接面4の面積(面幅)を小さく(狭く)すると共に、工具中心側に向かうに連れて幅狭となる平面視略三角形状に形成したから、この底摺接面4の面幅を等幅にしたものよりも底刃1の切削加工における切削抵抗及び切削熱・摩擦熱が低減され、より表面粗さが小さく切削痕の発生がより確実に防止されると共により光沢のある加工面をより確実に得ることができるものとなる。
【0054】
したがって、本実施例は、切削後の加工面に切削痕が目立たず、光沢のある加工面に仕上げることができる実用的なラジアスエンドミルとなる。
【0055】
次に、本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0056】
図3は、摺接面がない従来のラジアスエンドミル(以下、従来品という。)と本実施例(底摺接面4の面幅:0.015mm)と本実施例よりも底摺接面の面幅が幅広(0.02mm)に設定された比較例との底刃による加工面の表面状態(主に切削痕の有無)を比較した実験結果を示すものであり、図4は、本実験の従来品と本実施例の表面状態を表面粗さ(算術平均粗さRa)で数値的に比較した結果を示すものである。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。ここで、φは工具外径を表し、RはコーナR刃のRの大きさ(円弧の半径)を表す。以下同様である。
【0057】
[加工条件]
工具サイズ:φ2×R0.1(mm)
加工方法:底面加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:375(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0058】
本実験により、図4に示すように、本実施例は従来品に比べ表面粗さが約1/3に改善され、図3に示すように、従来品で見られる切削痕(カッターマーク)は本実施例では見られず表面状態の改善が明確に成されていることを確認できた。
【0059】
また、図5は、底摺接面4のコーナR摺接面5との境界位置における面幅t1に対する底刃1による加工面の表面状態(主に切削痕の有無)を比較した実験結果を示すものである。なお、本実験では以下に示す加工条件に記載のとおり工具サイズ(工具外径)が異なる3種類のラジアスエンドミルを用い、工具外径の依存性についての実験も併せて行った。また、表面状態の確認は目視にて行い、判定は、底摺接面のない従来品によるものと比較して、光沢があり切削痕が殆ど見られないものを○、光沢はあるが切削痕が見られるものを△、底摺接面のない従来品によるものと同等に光沢がなく切削痕が見られるものを×とした。
【0060】
[加工条件]
工具サイズ:φ0.4×R0.05/φ1×R0.1/φ2×R0.1(mm)
加工方法:底面加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:100/187.5/375(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0061】
図5に示すように、摺接面なしのもの(従来品)と、工具外径φ0.4及びφ1(mm)のものは、コーナR摺接面5との境界位置における底刃直角方向(底刃1の刃直角方向)の面幅(最大面幅)t1が0.02mm以上のものにおいて切削痕の発生がみられ、0.007mm~0.019mmのものは工具外径によらず、切削痕が殆ど見られず良好な表面状態の加工面が得られることが確認できた。
【0062】
以上、図3図5に示される二つの実験結果より、底摺接面4のコーナR摺接面5との境界位置における面幅t1は、工具外径によらず0.02mm未満に設定することが好ましいことが確認できた。
【0063】
また、図6及び図7は、底摺接面4のコーナR摺接面5との境界位置における面幅t1を0.02mm未満に設定した工具を用いて、底刃1に沿う方向の底摺接面4の長さ(底摺接面長)に対する加工面の表面状態(光沢性)及び底摺接面4の面幅の変化の有無に対する底刃1による加工面の表面状態(光沢性)、言い換えると底摺接面4の平面視形状に対する底刃1による加工面の表面状態(光沢性)を比較した実験結果を示すものである。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。また、表面状態(光沢性)の確認は目視にて行い、判定は底摺接面のない従来仕様によるものと比較して、光沢があり切削痕が見られないものを◎、光沢があり切削痕はほぼ見られないが一部見られる箇所があるものを○、光沢はあるが全体に切削痕が見られるものを△、底摺接面のない従来仕様によるものと同等に光沢がなく切削痕が見られるものを×とした。
【0064】
[加工条件]
工具サイズ:φ0.4×R0.05(mm)
加工方法:底面加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:100(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0065】
図6及び図7に示すように、底摺接面4のコーナR摺接面5との境界位置における面幅t1が0.02mm未満であれば、底刃1に沿う方向の底摺接面4の長さ(底摺接面長)が底刃1の全長(底刃全長)の4%以上である場合、略三角形状及び帯形状ともに良好な光沢性を有する加工面が得られることを確認できた。また、略三角形状と帯形状との比較では、略三角形状がより優れている。具体的には、底摺接面4を面幅が一定な帯形状としても底摺接面がない場合に比べて加工表面が改善され十分に光沢のある加工面を得ることができるが、底刃1に沿う方向の底摺接面4の長さ(底摺接面長)が長い場合、すなわち、本実施例においては底刃1の全長(底刃全長)の90.9%以上になる場合は、加工面に切削痕が一部見られる箇所が出現し、底摺接面4の面幅を工具中心側に向かうに連れ幅狭に変化させて平面視略三角形状にすることでより一層良好な光沢のある加工面を得られることを確認できた。なお、図6において、左側の写真は従来品の結果を示すものであり、中央の写真は図7における底刃全長に対する底摺接面長の割合を100%にすると共に底摺接面4の形状を三角形状にしたものの結果を示すものであり、右側の写真は図7における底刃全長に対する底摺接面長の割合を100%にすると共に底摺接面4の形状を帯形状にしたものの結果を示すものである。
【0066】
以上の結果より、底摺接面4は、一定の面幅にするよりも、コーナR摺接面5との境界位置における面幅t1を最大面幅とし、そこから面幅を工具中心側に向かうに連れて幅狭に変化させ、平面視形状が工具中心側に向かって先細る三角形状に形成することが好ましいことが確認できた。
【0067】
また、図8及び図9は、外周摺接面6の面幅t2に対する外周刃による加工面の表面状態(光沢性)を比較した実験結果を示すものである。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。また、表面状態(光沢性)の確認は目視にて行い、判定は光沢が良好なものを○、光沢が見られるものの光沢にムラが見られるものを△、光沢が殆どないものを×とした。
【0068】
[加工条件]
工具サイズ:φ0.4×R0.05/φ2×R0.02(mm)
加工方法:側面加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:100/375(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0069】
図8及び図9に示すように、外周摺接面6の面幅t2は、工具外径によらず0.02mm以上で工具外径の25%以下である場合に光沢のある良好な加工面が得られることを確認できた。
【0070】
図10図13は、コーナR刃2による加工面の表面状態を比較した実験結果を示すものである。コーナR刃2で傾斜面を加工する場合、その傾斜角度によってコーナR刃2における加工位置が異なる。図10は、前記傾斜面の工具軸直角方向に対する傾斜角度を15°(15°傾斜面)と45°(45°傾斜面)とした場合のコーナR刃における加工位置を示すものである。この15°傾斜面と45°傾斜面についてコーナR刃2による加工面の表面状態(切削痕の有無と光沢性)を比較した実験結果を図11に示す。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。また、表面状態(主に切削痕の有無と光沢性)の確認は走査電子顕微鏡画像観察及び目視にて行った。
【0071】
[加工条件]
工具サイズ:φ1×R0.1(mm)
加工方法:等高線加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:187.5(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0072】
図11に示すように、コーナR摺接面がある工具では光沢があり切削痕が見られない良好な加工面が得られることが確認できた。
【0073】
なお、この実施例に用いた工具のコーナR摺接面5は、外周側から工具中心側に向かってコーナR刃直角方向の面幅が狭くなる仕様(面幅が0.010mm(底摺接面4との境界位置の面幅t1)~0.020mm(外周摺接面6との境界位置の面幅t2)に連続的に変化したもの(図11の中央)と面幅が0.019mm(底摺接面4との境界位置の面幅t1)~0.109mm(外周摺接面6との境界位置の面幅t2)に連続的に変化したもの(図11の右側)の二種類)であるが、以下に示す図12に記載の実験結果と併せ、コーナR摺接面5の面幅は、底摺接面4のコーナR摺接面側端部(境界位置)における底摺接面4の面幅t1以上であり、且つ外周摺接面6との境界位置における外周摺接面6の面幅t2以下であれば、光沢があり切削痕が見られない良好な加工面が得られることが確認できた。
【0074】
さらに、コーナR刃2(コーナR摺接面)で加工される隅R面について、図14に示して説明する。図11図11の中央及び右側)で説明した仕様のように、コーナR摺接面5は、外周摺接面6との境界位置の面幅を外周摺接面6の面幅t2に一致させ、底摺接面4との境界位置の面幅を底摺接面4の面幅t1に一致させることで、各摺接面のつなぎ目が滑らかになって、摺接面同士の境界位置による加工面(隅R面の底面側境界位置と側面側境界位置)が一層光沢性が向上することを確認している。更に、外周側から工具中心側に向かってコーナR刃直角方向の面幅が徐々に狭くなるように連続的に変化させることで、コーナR刃2(コーナR摺接面5)で加工された隅R面全域が、切削痕が目立たない一層光沢のある良好な加工面となることを確認している。
【0075】
図12は、コーナR刃2にて15°傾斜面を加工する際の、被削材と接触する位置でのコーナR摺接面幅と加工面の状態について評価した結果である。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。また、表面状態(切削痕の有無と光沢性)の確認は目視にて行い、判定は、コーナR摺接面のない従来品によるものと比較して、光沢があり切削痕が見られないものを○、光沢はあるが切削痕が見られるものを△、コーナR摺接面のない従来品によるものと同等に光沢がなく切削痕が見られるものを×とした。
【0076】
[加工条件]
工具サイズ:φ0.4×R0.05/φ2×R0.1(mm)
加工方法:等高線加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:100/375(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0077】
図12に示すように、僅かでもコーナR摺接面が存在すれば(本実施例ではφ0.4における0.004mm)殆ど切削痕が見られない良好な加工面が得られることが確認できた。また、外周摺接面と同様にコーナR摺接面幅が工具外径の25%を超えると加工面の状態は悪化することが確認できた。
【0078】
図13は、コーナR刃にて加工した15°傾斜面の算術平均粗さRaについて、本実施例とコーナR摺接面がない従来品とを比較した実験結果を示すものである。本実施例では底摺接面4とコーナR摺接面5との境界での面幅t1が0.018mm、コーナR摺接面5と外周摺接面6との境界での面幅t2が0.048mm、15゜傾斜面加工位置での摺接面幅が0.023mmとなっている。なお、本実験における加工条件は以下のとおりである。
【0079】
[加工条件]
工具サイズ:φ2×R0.1(mm)
加工方法:等高線加工
回転速度:30,000(回転/min)
送り速度:375(mm/min)
被削材:焼入れ鋼(59HRC)
【0080】
図13に示すように、従来品に対して本実施例において表面粗さが小さくなっていることが確認できた。
【0081】
なお、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0082】
1 底刃
2 コーナR刃
3 外周刃
4 底摺接面
5 コーナR摺接面
6 外周摺接面
7 第一すかし角領域部
8 第二すかし角領域部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14